以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
積層セラミック電子部品の全体構成
本発明に係る積層セラミック電子部品の全体構成について、その実施形態の非制限的な例として、積層セラミックコンデンサを例にとり説明する。
図1に示すように、積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体4と、第1端子電極6と第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、内側誘電体層10と、内部電極層12とを有し、内側誘電体層10の間に、内部電極層12が交互に積層してある。内側誘電体層10と、内部電極層12とが交互に積層される部分が内装領域13である。
コンデンサ素体4は、その積層方向Z(Z軸)の両端面に、外装領域11を有する。外装領域11は、内装領域13を構成する内側誘電体層10よりも厚い誘電体層を複数積層して形成してある。
交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4のY軸方向第1端部の外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある引出部12Aを有する。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4のY軸方向第2端部の外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある引出部12Bを有する。
内装領域13は、容量領域14と引出領域15A,15Bとを有する。容量領域14は、積層方向に沿って内部電極層12が内側誘電体層10を挟んで積層する領域である。引出領域15Aは、外部電極6に接続する内部電極層12の引出部12Aの間に位置する領域である。引出領域15Bは、外部電極8に接続する内部電極層12の引出部12Bの間に位置する領域である。
図2は図1に示すII−II線に沿う断面図である。図2に示すように、コンデンサ素体4のX軸方向の両端部には、側面保護領域16が形成してある。側面保護領域16は、内側誘電体層10および/または外装領域11の誘電体層を構成する誘電体材質と同じ、または異なる誘電体材質で構成してある。また、引出領域15Aおよび15Bは、内側誘電体層10を構成する誘電体材質と同じ、または異なる誘電体材質で構成してある。
内側誘電体層10および外装領域11を構成する誘電体層の材質は、同じでも異なっていても良く、特に限定されず、たとえばABO3 などのペロブスカイト構造の誘電体材料で構成される。ABO3 において、Aは、たとえばCa、Ba、Srなどの少なくとも一種、Bは、Ti,Zrなどの少なくとも一種である。A/Bのモル比は、特に限定されず、0.980〜1.020である。
内部電極層12の材質は、特に限定されないが、たとえばNi、Cu、Ag、Pd、Alなどの金属、またはそれらの合金を用いることができる。
端子電極6および8の材質も特に限定されないが、通常、Ni,Pd,Ag,Au,Cu,Pt,Rh,Ru,Ir等の少なくとも1種、またはそれらの合金を用いることができる。通常は、Cu,Cu合金、NiまたはNi合金等や、Ag,Ag−Pd合金、In−Ga合金等が使用される。
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦寸法L0(図1参照)は、0.2〜5.7mmであるが、本実施形態では、好ましくは0.2〜2.0mm、さらに好ましくは0.2〜1.0mmである。
なお、図1では、積層セラミックコンデンサ2の縦寸法L0を、コンデンサ素体4のY軸方向長さとして描いてあるが、端子電極6および8を含めた積層セラミックコンデンサ2のY軸方向長さと略同一である。図面では、図示の容易化のために、端子電極6および8の厚みを、実際よりも厚めに描いてあるが、実際には、それぞれ10〜50μm程度であり、縦寸法L0に比較してきわめて薄い。また、図面において、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に垂直であり、Z軸が、内側誘電体層10および内部電極層12の積層方向に一致し、Y軸が、引出領域15Aおよび15B(引出部12Aおよび12B)が形成される方向に一致する。
図2に示すように、積層セラミックコンデンサ2の高さ寸法H0は、内側誘電体層10および内部電極層12の積層数などにより変化するが、一般的には、0.1〜5.0mmであるが、本実施形態では、好ましくは0.1〜1.2mm、さらに好ましくは0.1〜0.5mmである。なお、積層セラミックコンデンサ2の高さ寸法H0は、図2では、コンデンサ素体4のZ軸方向の厚みとして描いてあるが、図1に示す端子電極6および8の厚みが十分に薄いため、これらを含んだ厚みと略同一である。
積層セラミックコンデンサ2の幅寸法W0は、一般的には、0.1〜5.0mmであり、好ましくは0.10〜1.20mm、さらに好ましくは0.10〜0.50mmである。誘電体層の厚みが0.5μm以下の場合には、幅寸法W0が大きくなりすぎると、製造後のコンデンサ素体にクラックが生じやすくなる。
各内側誘電体層10の厚みtd(図2参照)は、数μm〜数十μmのものが一般的であるが、本実施形態では、0.5μm以下、好ましくは0.5〜0.1μm、さらに好ましくは0.5〜0.3μmである。内部電極層12の厚みte(図2参照)は、内側誘電体層10の厚みと同程度であることが好ましいが、さらに好ましくはte/tdが1.25未満となるように決定され、特に好ましくは、te/tdが0.95〜1.05となるように決定される。このように構成することで、クラック抑制効果が向上する。
また、本実施形態では、図2に示す各側面保護領域16のX軸方向の幅Wgapは、セラミック素体4の幅方向(X軸方向)に沿って、セラミック素体4の外面(X軸方向の端面)から内部電極層12の端部までの隙間寸法に一致する。この幅Wgapは、好ましくは0.010〜0.025mm、さらに好ましくは0.015〜0.025mmである。この幅Wgapが小さすぎるとクラックが発生しやすくなり、この幅Wgapが大きすぎると、静電容量の低下が大きくなる傾向にある。
この幅Wgapは、コンデンサ2の幅寸法W0との関係で決定され、本実施形態では、それらの比率Wgap/W0は、好ましくは0.025以上であり、この比率が小さすぎると、クラックが発生しやすくなる傾向にある。なお、コンデンサ素体4のX軸方向の両側に形成される各側面保護領域16のX軸方向の幅Wgapのそれぞれは同一の幅であってもよく、互いに異なる幅であっても良い。
また、外装領域11の厚みt0(図1参照)は、特に限定されないが、好ましくは、15〜200μm、さらに好ましくは15〜80μmの範囲である。このような厚みt0に設定することで、クラックを抑制しつつ、内部電極層12や内側誘電体層10の保護を図り、しかもサイズの小型化に寄与する。コンデンサ素体4のZ軸方向の両側に形成される外装領域11の厚みt0のそれぞれは同一の厚みであってもよく、互いに異なる厚みであっても良い。
各層を構成する誘電体粒子の粒径
第1の実施形態では、内部電極層12の間(容量領域14)に位置する内側誘電体層10を構成する第1誘電体粒子の平均粒径をDiとし、外装領域11に位置する第2誘電体粒子の平均粒径をDgとした場合に、Dg/Di≧1、好ましくはDg/Di≧1.05、さらに好ましくはDg/Di≧1.15の関係にある。このように構成することで、誘電体層が薄層化しても、比誘電率の低下が抑制され、静電容量が高いコンデンサ部品が得られる。一般的には、誘電体層が薄くなるにつれて、比誘電率が低下することが報告されている。しかしながら、本発明者等は、特定領域の誘電体粒子の粒径をコントロールすることで、誘電体層を薄くしても比誘電率の低下を抑制することができることを見出した。
Dg/Di値の上限は特に限定はされないが、製造条件などの制約から、一般的には2.0以下、好ましくは1.7以下である。
また第2の実施形態では、容量領域14を構成する第1誘電体粒子の平均粒径をDiとし、引出領域15Aおよび15Bを構成する第3誘電体粒子の平均粒径をDhとした場合に、Dh/Di≧1、好ましくはDh/Di≧1.1、さらに好ましくはDh/Di≧1.2の関係にある。このように構成することで、誘電体層が薄層化しても、比誘電率の低下が抑制され、静電容量が高いコンデンサ部品が得られる。一般的には、誘電体層が薄くなるにつれて、比誘電率が低下することが報告されている。しかしながら、本発明者等は、特定領域の誘電体粒子の粒径をコントロールすることで、誘電体層を薄くしても比誘電率の低下を抑制することができることを見出した。
Dh/Di値の上限は特に限定はされないが、製造条件などの制約から、一般的には2.0以下、好ましくは1.9以下である。
さらに、第3の実施形態では、第1誘電体粒子の平均粒径と第2誘電体粒子の平均粒径が上記の関係を満たし、かつ第1誘電体粒子の平均粒径と第3誘電体粒子の平均粒径とも上記の関係を満たす。
誘電体層を薄くしても比誘電率の低下を抑制することができる理由としては、何ら理論的に拘束されるものではないが、次のように考えられる。すなわち、外装領域11または引出領域15Aおよび15Bを構成する誘電体粒子の平均粒径を、容量領域14における誘電体粒子の平均粒径よりも大きくすることで、容量領域14の誘電体に圧縮応力を与えることになると考えられる。一般に積層セラミックコンデンサにおいては、圧力を印加した状態で容量測定を行うと、圧力を印加していない状態よりも高い容量を示す。これは、圧力印加により誘電体層を取り巻く状態が変化したためと考えられる。容量領域を比較的粒径の小さな誘電体粒子で構成し、その周辺領域(外装領域、引出領域)を比較的粒径の大きな誘電体粒子で構成することで、焼成工程において周辺領域での粒成長に起因する応力が内部方向に対して圧縮応力として作用すると考えられる。そのために、上記構成とすることで、容量領域に定常的に圧縮応力が作用し、比誘電率が向上すると考えられる。積層セラミックコンデンサ2の容量領域14の誘電体は多結晶体であるため、圧縮方向は限定されないが、特に外装領域11または引出領域15Aおよび15Bの誘電体の結晶粒径を大きくすることが、比誘電率の向上に寄与すると考えられる。
特に、誘電体層10の厚みが極薄化し、0.5μm以下で上記の効果が顕著に発現することが確認された。0.5μmより厚い誘電体層を有する場合においては、積層セラミックコンデンサの容量領域の誘電体に圧縮応力を与えなくても(粒径比率を制御しなくても)、比誘電率は高い。これに対し、誘電体層10の厚みが0.5μm以下の場合に、上記のとおり粒径比率を制御することで、比誘電率の低下を抑制して、逆に比誘電率を向上させることができる。
引出領域15Aおよび15Bと同様な誘電体粒子で構成されることが可能な側面保護領域16における誘電体粒子に関しても、同様なことが言える。すなわち、第4の実施形態では、容量領域14を構成する第1誘電体粒子の平均粒径をDiとし、側面保護領域16を構成する第4誘電体粒子の平均粒径をDh’とした場合に、好ましくはDh’/Di≧1、さらに好ましくはDh’/Di≧1.1、特に好ましくはDh’/Di≧1.2の関係にある。
Dh’/Di値の上限は特に限定はされないが、製造条件などの制約から、一般的には2.0以下、好ましくは1.7以下である。
さらに、第5の実施形態では、第1誘電体粒子の平均粒径と、第2、第3および第4の誘電体粒子の平均粒径とが、上記した関係を満足する。
なお、本明細書における積層セラミック電子部品を構成する各領域における誘電体粒子の平均粒径は、コンデンサ試料の側面を研磨して内部電極層を露出させ、電子顕微鏡を2万倍にして容量領域14、外装領域11、引出領域15A,15Bの誘電体粒子の観察を行い、画像処理ソフトを使用して各500個の粒子の断面面積から円相当径を算出し平均粒径とする。
各層を構成する誘電体粒子の平均粒径は、上記の規定を満足する限り特に限定はされないが、容量領域14を構成する第1誘電体粒子の平均粒径(Di)は、好ましくは0.10〜0.50μmである。また、外装領域11に位置する第2誘電体粒子の平均粒径(Dg)は、好ましくは0.10〜1.00μm、である。また、引出領域15Aおよび15Bを構成する第3誘電体粒子の平均粒径(Dh)は、好ましくは0.10〜1.00μmである。さらに、側面保護領域16を構成する第4誘電体粒子の平均粒径(Dh’)は、好ましくは0.10〜1.00μmである。
第6の実施形態は、上記第1〜第5の実施形態において、さらに前記第1誘電体粒子の総数の10%以上、好ましくは10〜80%が、誘電体層上下の内部電極層の両方に接している態様である。
第1誘電体粒子は、容量領域14において、上下が内部電極層12に挟持されている内側誘電体層10を構成する。本実施形態では、内側誘電体層10が比較的大きな誘電体粒子で構成されている。具体的には内側誘電体層10を構成する第1誘電体粒子の多くは、その粒径が内側誘電体層10の層厚とほぼ等しいことが好ましい。内側誘電体層10の層厚とほぼ等しい粒径を有する第1誘電体粒子は、各粒子が上下の内部電極層12に接する。第6の実施形態では、容量領域14に存在する第1誘電体粒子の全個数のうち、10%以上、好ましくは10〜80%以上、が上下の内部電極層12に接する。なお、100%の第1誘電体粒子が上下の内部電極層12に接する状態では、内側誘電体層10の層厚とほぼ等しい粒径の誘電体粒子が、内部電極層間に挟持された状態となる。
このように、容量領域14を構成する第1誘電体粒子を比較的大きな粒径とすることで、誘電体層の厚みを薄くし、0.5μm以下にしても、比誘電率の低下が抑制され、高容量のコンデンサが得られやすくなり、また信頼性も向上する。
なお、第1誘電体粒子が上下の内部電極層12に接している割合は、次のように評価する。コンデンサ試料の側面を研磨して内部電極層を露出させ、上下の内部電極層を結ぶ線分をZ軸に平行に引き、その線分と接する粒子(線分と交差する粒子)の個数を数える。線分内に1つの粒子のみが存在する場合(線分が1つの粒子のみと交差する場合)に、粒子が上下の内部電極層に接していると判定する。100本以上の線分について上記判定を行い、第1誘電体粒子が上下の内部電極層に接している割合を算出する。
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本発明の一実施形態としての積層セラミックコンデンサ2の製造方法について説明する。まず、典型的な積層セラミックコンデンサの製造方法を説明する。
焼成後に図1に示す内側誘電体層10を構成することになる内側グリーンシート10aおよび外装領域11の外側誘電体層を構成することとなる外側グリーンシート11aを製造するために、内側グリーンシート用ペーストおよび外側グリーンシート用ペーストを準備する。
内側グリーンシート用ペーストおよび外側グリーンシート用ペーストは、通常、セラミック粉体原料として、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物からなる主成分と、Mg,Ca,Ba,Si、希土類などの酸化物の副成分とを、有機ビヒクルを分散媒として混練して得られた有機溶剤系ペースト、または水系ペーストで構成される。
主成分であるペロブスカイト型結晶構造を有する化合物は、一般式ABO3 で表される。式中、Aサイトは、Ba、Ca、SrおよびMgから選択される1種以上の元素であり、Bサイトは、Ti、ZrおよびHfから選択される1種以上の元素である。本実施形態では、主成分となる誘電体酸化物としては、特に、主としてAサイトをBaで、BサイトをTiで構成されたBaTiO3、AサイトがBaおよびCaであり、BサイトがTiおよびZrで構成された(Ba,Ca)(Ti,Zr)O3などが好ましい。
また、Aサイトを構成する元素のモル数[A]と、Bサイトを構成する元素のモル数[B]との比、[A]/[B]は、0.980≦[A]/[B]<1.020を満たし、さらに好ましくは0.990≦[A]/[B]≦1.010を満たし、特に好ましくは0.995≦[A]/[B]≦1.010を満たす。
[A]/[B]が小さすぎても、大きすぎても、焼結性が低下し、緻密化が困難になる傾向にある。[A]/[B]の測定は、ガラスビード法、蛍光X線分析法、ICP法などにより行うことができる。ICP(誘導結合プラズマ)法としては、ICP発光分光分析装置を用いたICP発光分光分析法や、ICP質量分析装置を用いたICP質量分析法が例示される。
副成分は、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。
セラミック粉体の原料は、本実施形態では、平均粒径が0.20μm以下、程度の粉体として用いられる。なお、所望のDg/Di比、Dh/Di比、Dh’/Di比を達成するため、容量領域を形成するためのセラミック粉体原料と、その他の領域(外装領域、引出領域、側面保護領域)を形成するためのセラミック粉体原料とを、それぞれ異なる平均粒径となるように選択したり、あるいは粒成長速度が異なるようにセラミック紛体原料や副成分の組成を選択することができる。これらについては後述する。
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。
また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、ターピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
グリーンシート用ペースト中には、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されていてもよい。
可塑剤としては、フタル酸ジオクチルやフタル酸ベンジルブチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。
次いで、図1に示す内部電極層12を形成するための内部電極パターン層用ペーストを準備する。内部電極パターン層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。なお、内部電極パターン層用ペーストには、必要に応じて、共材としてセラミック粉末が含まれていても良い。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。
上記にて調製した内側グリーンシート用ペーストおよび内部電極パターン層用ペーストを使用して、図3に示すように、焼成後に内側誘電体層10となる内側グリーンシート10aと、焼成後に内部電極層12となる内部電極パターン層12aと、を交互に積層し、焼成後に内装領域13となる内部積層体13aを製造する。そして、内部積層体13aを製造した後に、または、その前に、外側グリーンシート用ペーストを使用して、焼成後に外装領域11の外側誘電体層となる外側グリーンシート11aを形成する。
具体的には、まず、ドクターブレード法などにより、支持体としてのキャリアシート(たとえばPETフィルム)上に、内側グリーンシート10aを形成する。内側グリーンシート10aは、キャリアシート上に形成された後に乾燥される。
次いで、上記にて形成した内側グリーンシート10aの表面に、内部電極パターン層用ペーストを用いて、内部電極パターン層12aを形成し、内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを得る。そして、得られた内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを交互に積層し、内部積層体13aを得る。なお、内部電極パターン層12aの形成方法としては、特に限定されないが、印刷法、転写法などが例示される。なお、接着層を介して内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを積層してもよい。
外側グリーンシート11aは、内側グリーンシート10aと同様に、支持体としてのキャリアシート上に形成される。外側グリーンシート11aは、キャリアシート上に形成された後に乾燥される。なお、外側グリーンシート11aの厚みは、内側グリーンシート10aよりも十分に厚い。
図4は図3に示すIV-IV線に沿う内部電極層のパターンの一部を示す平面図である。図4に示すように、内側グリーンシート10aの表面には、内部電極パターン層12aが形成され、それらの相互間には、内部電極パターン層12aの長手方向Yに沿う隙間30と、内部電極パターン層12aの短手方向Xに沿う隙間32とが形成され、これらは、平面から見て格子状のパターンとなる。これらの格子状のパターンの隙間30および32には、図3に示す段差吸収層20を形成しても良い。なお、図3では、隙間32のみが図示してある。
これらの隙間30および隙間32に段差吸収層20を形成することで、グリーンシート10aの表面で内部電極パターン層12aによる段差がなくなり、最終的に得られるコンデンサ素体4の変形防止にも寄与する。隙間30に形成された段差吸収層20は、その後の焼成により側面保護領域を形成し、隙間32に形成された段差吸収層20は、その後の焼成により引出領域を形成する。段差吸収層20は、たとえば内部電極パターン層12aと同様にして、印刷法などで形成される。段差吸収層20は、グリーンシート10aと同様にセラミック粉末と有機ビヒクルとを含むが、グリーンシート11aと異なり、印刷により形成されるために、印刷しやすいように調整してある。印刷法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷などが例示され、特に限定されないが、好ましくはスクリーン印刷である。
段差吸収層20を形成するための印刷ペーストにおける有機結合材成分(高分子樹脂+可塑剤)と、各種添加物は、グリーンシート用スラリーに用いられるものと同様なものが用いられる。ただし、これらは、必ずしも、グリーンシート用スラリーに用いられるものと全く同じものである必要はなく、異なっていても良い。段差吸収層20の厚みは、特に限定されないが、内部電極パターン層12aの厚みに対して、好ましくは50〜100%の厚みである。
なお、外側グリーンシート11aに内部積層体13aを積層するかわりに、外側グリーンシート11aに直接内側グリーンシート10aと内部電極パターン層12aとを交互に所定数積層してもよい。また、複数枚の内側グリーンシート10aと複数枚の内部電極パターン層12aとを交互に積層した積層体ユニットを予め作製しておき、それらを外側グリーンシート11aに所定数積層してもよい。
図5Aおよび図5Bに示すように、得られたグリーン積層体4aは、たとえば切断線Cに沿って所定の寸法に切断され、グリーンチップとする。グリーンチップは、固化乾燥により可塑剤が除去され固化される。固化乾燥後のグリーンチップは、メディアおよび研磨液とともに、バレル容器内に投入され、水平遠心バレル機などにより、バレル研磨される。バレル研磨後のグリーンチップは、水で洗浄され、乾燥される。乾燥後のグリーンチップに対して、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を行うことにより、図1に示すコンデンサ素体4が得られる。なお、図5Aおよび図5Bは、あくまで概略断面図であり、積層数や寸法関係などは、実際のものとは異なる。
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、バレル研磨等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極6,8が形成される。そして、必要に応じ、端子電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した内部電極パターン層用ペーストと同様にして調製すればよい。
製造された積層セラミックコンデンサ2は、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
積層セラミックコンデンサ2の非制限的な具体例では、誘電体層10の厚みは0.5μm以下であり、幅寸法W0は好ましくは0.59mm以下であり、隙間寸法Wgapは好ましくは0.010〜0.025mmであり、隙間寸法と幅寸法との比率Wgap/W0寸法は好ましくは0.025以上である。このため、誘電体層の厚みを薄くした場合においても、クラック発生を抑制することができ、しかも静電容量の低下が少ない。
通常の積層セラミックコンデンサの製造では、図1および図2に示す内側誘電体層10、外装領域11、引出領域15Aおよび15B、また側面保護領域16を構成する各誘電体粒子を形成するための原料として誘電体ペーストに含まれる誘電体粒子の粒径が略同一である。そのため、得られる積層セラミックコンデンサ2において、内部電極層12で挟まれている誘電体層10の厚みを0.5μm以下に薄くすると、内部電極層12で挟まれている誘電体層10の誘電体粒子の方が、内部電極層で挟まれていない外装領域11、引出領域15Aおよび15Bの誘電体粒子に比較して平均粒径が大きくなる傾向がある。
何ら理論的に拘束されるものではないが、その原因は以下のように考えられる。内部電極層12に使用しているNiやCuなどの金属粒子は、焼成工程において、誘電体原料粒子よりも早く収縮し、緻密化する。そのため、内部電極層12で挟まれている誘電体層10には、焼成工程において、電極層の圧縮による応力が加わる。この結果、電極層近傍の誘電体層は、他の領域よりも緻密化が促進され、粒成長を起しやすいと考えられる。この傾向は、誘電体層10が薄層化し、誘電体原料粒子と上下の電極層との距離が近づくことでさらに促進される。このため、誘電体層を薄層化すると、内部電極層12で挟まれている誘電体層10の誘電体粒子は粒成長が進みやすくなる。
すなわち、通常の積層セラミックコンデンサの製造法では、誘電体層を薄層化すると、Dg/Di、Dh/Di、Dh’/Diはいずれも1未満になりやすい。
そこで、本発明の積層セラミック電子部品を得るための好ましい製造方法では、内側誘電体層10を構成するための誘電体ペースト原料としての誘電体粒子の平均粒径(di)を、外装領域11および/または引出領域15A,15Bあるいは側面保護領域16を構成する各誘電体粒子を形成するための誘電体ペースト原料に含まれる誘電体粒子の平均粒径(dg、dh、dh’)に比較して大きくする。言い換えると、容量領域(内側誘電体層10)を構成するための誘電体ペースト原料としての誘電体粒子の平均粒径(di)に比較して、外周領域(外装領域11および/または引出領域15A,15Bあるいは側面保護領域16)を構成する各誘電体粒子を形成するための誘電体ペースト原料に含まれる誘電体粒子の平均粒径(dg、dh、dh’)を小さくする。原料粒子の粒径が小さい程、焼結時に熱に対し活性化し、粒成長を起しやすい。一方、粒径の大きな原料粒子では、焼結時の粒成長は抑制される。このため、焼結工程後には、容量領域の誘電体粒子の粒径と、外周領域の誘電体粒子の粒径との大小関係が逆転し、外周領域の誘電体粒子が大径化し、Dg、Dh、Dh’がDi以上になる。
また、副成分としても用いられるMgO、CaO、BaO、SiO2および希土類酸化物等の粒径は特に限定はされないが、上記した原料誘電体粒子の粒径と同様の指針に沿って、それぞれの領域に使用する副成分の粒径を決定することが好ましい。
なお、本明細書における原料として使用される誘電体粒子および副成分の平均粒径は、焼成後の粒径と同様の手法で円相当径として算出した。
原料として使用される誘電体粒子の粒径を上記のように制御することで、焼成後のコンデンサ素体4において、Dg/Di≧1、またはDh/Di≧1、またはDh’/Di≧1の関係、これらを組み合わせた関係、あるいはそれらの全ての関係を満足させることができる。
一般的には、誘電体層10が薄くなるにつれて、比誘電率が低下することが報告されている。しかしながら、本発明者等は、上記のとおり特定領域の誘電体粒子の粒径をコントロールすることで、誘電体層10を薄くしても比誘電率の低下を抑制することができることを見出した。
さらに、本発明では、誘電体ペースト原料の誘電体粒子の平均粒径を変えること以外の方法で、焼成後のコンデンサ素体4において、上述した関係を満足させても良い。たとえば内側誘電体層10を構成するための誘電体ペースト原料としての誘電体粒子の組成に比較して、外装領域11および/または引出領域15A,15Bを構成する各誘電体粒子を形成するための誘電体ペースト原料に含まれる誘電体粒子の組成を異ならせても良い。たとえば外装領域11および/または引出領域15A,15Bを構成する各誘電体粒子を形成するための誘電体ペースト原料に含まれる誘電体粒子の組成を、より粒成長しやすい組成にしてもよい。
あるいは、外装領域11に、端子電極6,8には接続されないダミー電極を外側誘電体グリーンシートの間に介在させることなどでも、焼成後の誘電体粒子の粒径を制御することは可能である。電極層近傍では、上述したように誘電体粒子の粒成長が促進されるため、外装領域11にダミー電極を用いると、外装領域での誘電体粒子の粒成長が促進され、Dg値が大きくなる傾向がある。
また、本発明の好ましい態様では、容量領域14に存在する第1誘電体粒子の全個数うち、10%以上が上下の内部電極層12に接する。つまり、本発明では、比較的大きな誘電体粒子によって、容量領域14が形成される。このような上下電極層に接する誘電体粒子の割合は、たとえば、焼成時の温度を上げることで粒成長を促進し、誘電体の粒子径を大きくすることによって、電極に接する誘電体粒子の割合を増やすことが可能となる。また、ほかにも内部電極パターン層用ペーストに含まれる共材の誘電体粒子の粒径をより小さくすることにより同様の効果を得る事ができる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、本発明の積層セラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサに限らず、その他の積層型セラミック電子部品に適用することが可能である。その他の積層型セラミック電子部品としては、誘電体層が内部電極を介して積層される全ての電子部品であり、たとえばバンドパスフィルタ、インダクタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタなどが例示される。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実験例1
主原料の原料紛体として平均粒径が100nmの{(Ba1−x−yCaxSry)O}u(Ti1−zZrz)vO3粉末(x=0.05、y=0、Z=0.05、u/v=1.004)を準備し、次にMgCO3、MnCO3、Y2O3、SiO2を副成分として準備した。なお、副成分はあらかじめ予備解砕を行い、40nm程度に加工した。
次に上記で準備した各原料粉末を主原料100モルに対して、MgCO3粉末を0.5モル、MnCO3粉末を0.3モル、Y2O3粉末を0.2モルおよびSiO2粉末を2モル秤量した。これら各粉末をボールミルで20時間湿式混合、乾燥して、容量領域を形成するための誘電体原料を得た。このとき添加したBaCO3、MnCO3は、焼成後にはそれぞれBaO、MnOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
次いで、得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、容量領域14の誘電体層用ペーストを得た。
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、ペースト化して内部電極層用ペーストを作製した。
さらに、外装領域11の誘電体原料として、平均粒径が、容量領域14の誘電体粒子と同じ100nmの主原料粉末および、容量領域14の誘電体粒子よりも小さな平均粒径60nmの主原料粉末を準備した。容量領域14の誘電体原料と同様の手法で、それぞれの主原料粉末と、副成分とをボールミルで20−60時間湿式混合し、ペースト化を行い、外装領域の誘電体層用ペーストを得た。
なお、容量領域14および外装領域11の誘電体層用ペーストの作成時には、ボールミルで20〜60時間湿式混合を行い、ペースト化する。ボールミルでの湿式粉砕時間により、後の焼成工程において粒成長する程度を調製することができる。具体的には、粉砕時間を長くすることで、粒成長しやすいペーストが得られる。
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。このとき、容量領域を形成するグリーンシートの厚みは、表1に記載の焼成後の誘電体層の厚みが得られるように調整を行った。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した。所定パターンの電極層の厚みは、焼成後の内部電極層の厚みが0.45μmとなるように調整を行った。
さらに電極が印刷されていない部分の段差を埋めるために、容量領域14の誘電体用ペーストと同じものを使用してパターン印刷を行うことで、段差吸収層20を形成し、内部電極パターン層12aと段差吸収層20とを有するグリーンシート10aを作製した。
次いで、外装領域11を形成するための誘電体ペーストを用いて、PETフィルム上にグリーンシートを形成した。外装領域11を形成するためのグリーンシートの厚みは10μmとした。このとき、試料番号1〜5については100nmの誘電体原料を使用したグリーンシートを用い、試料番号6〜15については60nmの誘電体原料を使用したグリーンシートを用い、外装領域11を形成するためのグリーンシートを形成した。なお、試料番号7〜11は、湿式粉砕の時間が異なり、試料番号が増加するほど、粉砕時間を長くした。試料番号12、13も同様である。
内部電極層を有する内装領域13のためのグリーンシートと、外装領域11のためのグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
脱バインダ処理条件は、昇温速度25℃/時間、保持温度:235℃、保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
焼成条件は、昇温速度600〜1000℃/時間、保持温度1100〜1150℃とし、保持時間を1時間とした。降温速度は200℃/時間とした。なお、雰囲気ガスは、加湿したN2+H2混合ガスとし、酸素分圧が10−12 MPaとなるようにした。
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度1050℃、保持時間:3時間、降温速度:200℃/時間、雰囲気ガス:加湿したN2ガス(酸素分圧:10−7 MPa)とした。
なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを使用した。
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をバレル研磨した後、外部電極としてCuペーストを塗布し、還元雰囲気にて焼き付け処理を行い、表1に示す試料番号1〜15の積層セラミックコンデンサ試料(以下、単に「コンデンサ試料」と表記する場合がある)を得た。
得られたコンデンサ試料のサイズは1.0mm×0.5mm×1.0mmであり、容量領域の誘電体層の厚みは表1の通りであった。また内部電極層の厚みは0.45μmであり、誘電体層の数は300層とした。
得られたコンデンサ試料について比誘電率、各領域の誘電体平均粒径を下記に示す方法で確認した。
(比誘電率)
比誘電率は、コンデンサ試料に対し、基準温度25℃においてデジタルLCRメーターにて、周波数1.0kHz、入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件化で測定した。コンデンサ試料に対し、150℃にて1時間熱処理を行い、24時間後の静電容量値、誘電体厚み、内部電極どうしの重なり面積から比誘電率を算出した(単位なし)。比誘電率は高いほうが好ましい。本実験例では、誘電体層の厚みが等しい比較例よりも比誘電率が10%高いものを良好(B判定)とし、20%以上高いものを優良(A判定)とした。また比誘電率の向上率が10%に満たないものはC判定とした。
(誘電体平均粒径)
試料番号1〜15のコンデンサ試料を積層方向が上側になるように垂直に立て、直径25mm、縦20mmのテフロン(登録商標)製の容器を用いて試料の周辺を硬化樹脂で埋めた。ついでサンドペーパーと微細加工研磨機を使用して試料の長手方向の断面が出るように研磨を行った後、表面のダメージを取り除くために、アルゴンイオンを使用したミリングを行った。加工を行った試料の研磨面について、電子顕微鏡を2万倍にして各領域の誘電体粒子の観察を行い、画像処理ソフトを使用して500個の粒子の断面面積から円相当径の算出を行った。
なお、試料番号1〜15では、引出領域および側面保護領域を形成する段差吸収用ペーストには、平均粒径100nmの誘電体粒子を使用した。したがって、試料番号1〜15におけるDh/DiおよびDh’/Diは1未満となる。
試料番号1〜5は、Dg/Diが1.0未満であり、試料番号5、6は誘電体層の厚みが0.65μmであり、いずれも第1実施形態の要件を満足しない。試料番号1と試料番号7〜11との対比、試料番号2と試料番号12,13との対比、試料番号3と試料番号14との対比および試料番号4と試料番号15との対比から、誘電体層の厚みが同じであってもDg/Diを1.0以上とすることで、比誘電率が10%以上向上することがわかる。一方、試料番号5と試料番号6との対比から、誘電体層の厚みが0.65μmの場合には、Dg/Diを1.0以上としても比誘電率の向上効果が低いことがわかる。
実験例2
引出領域を形成する段差吸収用ペーストに、下記表2に示す平均粒径の誘電体粒子を使用し、容量領域を形成するグリーンシートの厚みは、表1に記載の焼成後の誘電体層の厚みが得られるように調整を行った他は、試料番号1と同様にして、試料番号16〜25に示すコンデンサ試料を作成した。なお、試料番号17〜20は、湿式粉砕の時間が異なり、試料番号が増加するほど、粉砕時間を長くした。
なお、試料番号16〜25では、同じ段差吸収用ペーストを用いて引出領域および側面保護領域を形成したため、Dh’/DiはDh/Diとほぼ同じ値となる。また、外装領域11を形成するための誘電体ペーストは試料番号1と同様であるため、試料番号16〜25のコンデンサ試料において、Dg/Diは1未満となる。
試料番号16、21、23は、Dh/Diが1.0未満であり、試料番号25は誘電体層の厚みが0.65μmであり、いずれも第2実施形態の要件を満足しない。試料番号16と試料番号17〜20との対比、試料番号21と試料番号22との対比、試料番号23と試料番号24との対比から、誘電体層の厚みが同じであってもDh/Diを1.0以上とすることで、比誘電率が10%以上向上することがわかる。一方、試料番号25と試料番号5との対比から、誘電体層の厚みが0.65μmの場合には、Dh/Diを1.0以上としても比誘電率の向上効果が低いことがわかる。
実験例3
主原料の原料紛体として平均粒径が100nmの{(Ba1−x−yCaxSry)O}u(Ti1−zZrz)vO3粉末(x=y=z=0、u/v=1.004)を準備し、次にMgCO3、MnCO3、Y2O3、SiO2を副成分として準備した。なお、副成分はあらかじめ予備解砕を行い、40nm程度に加工した。
次に上記で準備した各原料粉末を主原料100モルに対して、MgCO3粉末を0.3モル、MnCO3粉末を0.2モル、Y2O3粉末を0.6モルおよびSiO2粉末を2モル秤量した。これら各粉末をボールミルで20時間湿式混合、乾燥して、容量領域を形成するための誘電体原料を得た。
また、実験例1と同様に、外装領域11、引出領域および側面保護領域を形成する誘電体原料として、平均粒径が、100nmの主原料粉末および、平均粒径60nmの主原料粉末を準備した。内装領域13の誘電体原料と同様の手法で、それぞれの主原料粉末と、副成分とを湿式混合し、ペースト化を行い、外装領域、引出領域および側面保護領域の誘電体用ペーストを得た。
試料番号26では、外装領域を形成する誘電体ペーストならびに、引出領域および側面保護領域の誘電体用ペーストの両方に、平均粒径が100nmの主原料粉末を用いた。
試料番号27,28では、外装領域を形成する誘電体ペーストに平均粒径60nmの主原料粉末を用い、引出領域および側面保護領域の誘電体用ペーストに、平均粒径が100nmの主原料粉末を用いた。なお、試料番号27と28とでは、外装領域を形成する誘電体ペーストを調製する際の湿式粉砕の時間が異なり、試料番号が増加するほど、粉砕時間を長くした。
試料番号29,30では、外装領域を形成する誘電体ペーストに平均粒径100nmの主原料粉末を用い、引出領域および側面保護領域の誘電体用ペーストに、平均粒径が60nmの主原料粉末を用いた。なお、試料番号29と30とでは、引出領域および側面保護領域を形成する誘電体ペーストを調製する際の湿式粉砕の時間が異なり、試料番号が増加するほど、粉砕時間を長くした。
実験例4
主原料の原料紛体として平均粒径が100nmの{(Ba1−x−yCaxSry)O}u(Ti1−zZrz)vO3粉末(x=y=z=0、u/v=1.004)を準備し、次にMgCO3、MnCO3、Y2O3、SiO2を副成分として準備した。なお、副成分はあらかじめ予備解砕を行い、40nm程度に加工した。
次に上記で準備した各原料粉末を主原料100モルに対して、MgCO3粉末を1.5モル、MnCO3粉末を0.2モル、Y2O3粉末を0.8モルおよびSiO2粉末を2モル秤量した。これら各粉末をボールミルで20時間湿式混合、乾燥して、容量領域を形成するための誘電体原料を得た。
また、実験例1と同様に、外装領域11、引出領域および側面保護領域を形成する誘電体原料として、平均粒径が、100nmの主原料粉末および、平均粒径60nmの主原料粉末を準備した。内装領域13の誘電体原料と同様の手法で、それぞれの主原料粉末と、副成分とを湿式混合し、ペースト化を行い、外装領域、引出領域および側面保護領域の誘電体用ペーストを得た。
試料番号31では、外装領域を形成する誘電体ペーストならびに、引出領域および側面保護領域の誘電体用ペーストの両方に、平均粒径が100nmの主原料粉末を用いた。
試料番号32,33では、外装領域を形成する誘電体ペーストに平均粒径60nmの主原料粉末を用い、引出領域および側面保護領域の誘電体用ペーストに、平均粒径が100nmの主原料粉末を用いた。なお、試料番号32と33とでは、外装領域を形成する誘電体ペーストを調製する際の湿式粉砕の時間が異なり、試料番号が増加するほど、粉砕時間を長くした。
試料番号34,35では、外装領域を形成する誘電体ペーストに平均粒径100nmの主原料粉末を用い、引出領域および側面保護領域の誘電体用ペーストに、平均粒径が60nmの主原料粉末を用いた。なお、試料番号34と35とでは、引出領域および側面保護領域を形成する誘電体ペーストを調製する際の湿式粉砕の時間が異なり、試料番号が増加するほど、粉砕時間を長くした。
なお、試料番号26〜35では、同じ段差吸収用ペーストを用いて引出領域および側面保護領域を形成したため、Dh’/Diはそれぞれの試料におけるDh/Diとほぼ同じ値となる。
試料番号26および31は、Dg/DiおよびDh/Diが1.0未満であり、第1および第2実施形態の要件を満足しない。試料番号27、28、32、33はDg/Diが1以上であり、第1の実施態様の要件を具備し、試料番号29、30、34、35はDh/Diが1以上であり、第2の実施形態の要件を具備する。試料番号26と試料番号27、28との対比、試料番号31と試料番号32、33との対比から、誘電体層の厚みが同じであってもDg/Diを1.0以上とすることで、比誘電率が10%以上向上することがわかる。試料番号26と試料番号29,30との対比、試料番号31と試料番号34、35との対比から、誘電体層の厚みが同じであってもDh/Diを1.0以上とすることで、比誘電率が10%以上向上することがわかる。
実験例5
試料番号36〜38では、焼成条件を昇温速度600℃/時間、保持温度1080℃(試料番号36)、1115℃(試料番号37)および1135℃(試料番号38)とし、保持時間を1時間とした他は、試料番号9と同様にしてコンデンサ試料を作製した。
得られたコンデンサ試料について、容量領域に存在する第1誘電体粒子の全個数のうち、上下の内部電極層に接する誘電体粒子の割合を下記の方法で算出した。また、得られたコンデンサ試料の信頼性を下記の方法で評価した。
(上下の内部電極層に接する誘電体粒子の割合の算出)
得られたコンデンサ試料をサンドペーパーと研磨機を用いて内部電極に垂直な面を出した後、アルゴンイオンを使用したミリングを行った。粒界を見やすくするために、1000℃程度で3分間熱処理を行った。次に、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により切断面の電子像を撮影する。電子像の写真の枚数、観察面積、倍率に特に制限は無いが、誘電体粒子が合計で約500個以上含まれるように撮影する(複数回)ことが好ましい。また、倍率は20000倍前後とすることが好ましい。得られた電子像について、上下の内部電極層を結ぶ線分を積層方向(Z軸)に平行に引き、その線分と接する粒子(線分と交差する粒子)の個数を数える。線分内に1つの粒子のみが存在する場合(線分が1つの粒子のみと交差する場合)に、粒子が上下の内部電極層に接していると判定する。100本以上の線分について上記判定を行い、第1誘電体粒子が上下の内部電極層に接している割合を算出する。
(高温負荷寿命:コンデンサの信頼性について)
コンデンサ試料に対し、170℃にて6Vの電界下で直流電圧の印加状態を保持し、コンデンサ試料の絶縁劣化時間を測定することにより、高温負荷寿命を評価した。本実施例においては、電圧印加開始から絶縁抵抗が1桁落ちるまでの時間を寿命とし定義した。また、本実施例では、上記の評価を20個のコンデンサ試料について行い、これをワイブル解析することにより算出した平均故障時間(MTTF)をそのサンプルの平均寿命と定義した。本実施例では1時間以上を良好とした。なお、表4では、MTTF1時間以上をA、MTTF1時間未満をBと評価している。
試料番号36は、Dg/DiおよびDh/Diが第1、第2実施態様の要件を満足する。これらを満足しない試料番号1に比べて比誘電率は小幅ながら改善された。しかし、焼成温度が低いため、容量領域の第1誘電体粒子が小さく、上下電極に接する粒電体粒子の割合が少ない。このため、信頼性評価が十分ではなかった。試料番号9、37、38から、焼成温度が上がり、容量領域の第1誘電体粒子が粒成長するにつれ、比誘電率が向上することがわかる。また、容量領域の第1誘電体粒子が粒成長するにつれ、上下電極に接する誘電体粒子の割合も増大し、信頼性が向上することがわかる。