以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本願明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
《蓄電デバイス用セパレータの製造方法》
〈ドクターブレードとグラビアロールとの位置関係〉
図1は、本実施形態におけるドクターブレード及びグラビアロールの位置関係を説明するための、グラビアロールの回転軸に対して垂直な断面を示す模式図である。図2は、図1におけるドクターブレードとグラビアロールとの接触部分の拡大図である。本実施形態の蓄電デバイス用セパレータの製造方法は、ポリオレフィン微多孔膜基材の少なくとも片面に、無機粒子及びバインダを含む塗工液を塗工し、乾燥させて、少なくとも一層の塗工層を形成することを含む。塗工は、ドクターブレード(10)及びグラビアロール(30)を有するグラビアコーター(100)により行われる。図1及び2に模式的に示すように、ドクターブレードの下面(12)とグラビアロールとの接触部(13)のうち最下点をAとし、グラビアロールの中心点をBとし、Bを通る水平線とドクターブレードの下面との交点をCとする。ドクターブレードは、ブレードフォルダ(20)等によって把持されていてもよく、その場合、Bを通る水平線と、ドクターブレードの下面の延長線との交点をCとする。このとき想定される角度∠BACをα、∠ABCをβとすると、90°<α≦140°、及び20°≦β≦80°を満たす。
グラビアコーターによる塗工方法は、典型的には、回転方向(31)に回転するグラビアロール上に、無機粒子及びバインダを含む塗工液を塗布し、塗布された塗工液をドクターブレードによって掻き落とすことによって、グラビアロール上に塗工液の被膜を形成することと;塗工液の被膜を有するグラビアロールに、ポリオレフィン微多孔膜基材を接触させて、ポリオレフィン微多孔膜基材上に塗工液を転写することとを含む。したがって、実際の塗工では、通常、ドクターブレードとグラビアロールとの間に塗工液が介在する。本願明細書に記載のドクターブレードとグラビアロールとの位置関係は、塗工液を介在させる前のグラビアコーターの条件を示す。
本実施形態の蓄電デバイス用セパレータの製造方法は、角度α及びβが上記範囲内であることによって、ブレードとグラビアロールとのフィティングが良好であり、塗工液をドクターブレードで掻き落とす際に発生することがあるストリークを抑制することができ、表面平滑性が高い塗工層の形成につながる。また、ブレードの摩耗を抑制することができるため、長い製造時間に渡って塗布目付を安定させることができ、製造効率の向上につながる。これらの本発明による利点は、特にグラビアロールの回転速度が速い場合により顕著になる。
角度αの下限値は、好ましくは95°以上、より好ましくは100°以上、更に好ましくは105°以上である。角度αの上限値は、好ましくは135°以下、より好ましくは130°以下、更に好ましくは125°以下、より更に好ましくは120°以下、より更に好ましくは115°以下である。角度αの範囲は、好ましくは95°≦α≦120°、より好ましくは95°≦α≦115°、更に好ましくは100°≦α≦115°である。
角度βの下限値は、好ましくは25°以上、より好ましくは30°以上、更に好ましくは35°以上、より更に好ましくは40°以上、より更に好ましくは45°以上、より更に好ましくは50°以上である。角度βの上限値は、好ましくは65°以下、より好ましくは60°以下である。角度βの範囲は、好ましくは25°≦β≦65°、より好ましくは35°≦β≦60°、更に好ましくは40°≦β≦60°である。
角度αの範囲と角度βの範囲との組合せとしては、好ましくは95°≦α≦120°かつ25°≦β≦65°、より好ましくは95°≦α≦115°かつ35°≦β≦60°、更に好ましくは100°≦α≦115°かつ40°≦β≦60°である。角度α及びβが上記範囲内であることにより、ブレードとグラビアロールとのフィティングがより良好となり、ストリーク発生及びブレード摩耗を更に抑制することができ、より高い表面平滑性及びより安定した塗布目付を有する塗工層を形成することができる。
本実施形態の蓄電デバイス用セパレータの製造方法は、図1及び2に模式的に示すように、グラビアロールの回転軸に対して垂直な断面において、グラビアロールの半径をr、AC間の距離をL、∠ACBをθとし、また、上記ドクターブレードの下面と上記グラビアロールとの接触部のうち最上点をA’とし、上記グラビアロールに沿ったAA’の長さをL’とすると、0°<θ≦45°、及び0.30<(L+L’)×tanθ/r<1.00を満たすことが好ましい。
「tanθ/r」は、図1に模式的に示すように、直線ACに平行で、かつグラビアロールに接する直線DEを仮定したときの、DEの長さを表す。0.30<(L+L’)×tanθ/r<1.00を満たすことは、すなわち、ACの長さとAA’の長さの合計(L+L’)が、DEの長さの0.30倍よりも長く、かつDEの長さよりも短いことを意味する。角度θ、半径r、ACの長さL、及びAA’の長さL’が上記関係を満たすことにより、ストリーク発生及びブレード摩耗を更に抑制することができ、より高い表面平滑性及びより安定した塗布目付を有する塗工層を形成することができる。
(L+L’)×tanθ/rの下限値は、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.50以上、更に好ましくは0.60以上である。L×tanθ/rの上限値は、好ましくは0.90以下、更に好ましくは0.80以下である。L×tanθ/rの範囲は、好ましくは0.40≦L×tanθ/r≦0.90、より好ましくは0.50≦L×tanθ/r≦0.80である。
ドクターブレードの下面とグラビアロールとの接触部は、一又は複数の線状(グラビアロールの回転軸に対して垂直な断面において、一又は複数の点)であるよりも、図2に模式的に示すように、グラビアロールの周方向に沿った幅L’を有する領域(AA’)であることが好ましい。(L+L’)×tanθ/rが上記いずれかの範囲を満たし、かつドクターブレードの下面とグラビアロールとが、グラビアロールの周方向に沿った幅L’を有する面で接触していることにより、フィティング性がより良好になり、ストリークの発生をより効果的に抑制することができ、より高い表面平滑性を有する塗工層を形成することができる。また、接触部においてドクターブレードとロール又は塗布液との摩擦が分散されるため、ブレード摩耗をより効果的に抑制することができ、したがって、より長い製造時間に渡って塗布目付を安定させることができる。
〈ポリオレフィン微多孔膜基材〉
本願明細書において、「ポリオレフィン微多孔膜基材」とは、ポリオレフィン樹脂を主成分とする微多孔膜基材を意味する。ポリオレフィン樹脂を「主成分とする」とは、ポリオレフィン微多孔膜基材を構成する樹脂成分のうち、50質量%以上100質量%以下がポリオレフィン樹脂であることを意味する。シャットダウン性能等を向上させる観点から、ポリオレフィン微多孔膜基材を構成する樹脂成分のうち、ポリオレフィン樹脂が占める割合は、好ましくは60質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下である。また、ポリオレフィン微多孔膜基材の全質量のうち、ポリオレフィン樹脂が占める割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下である。
ポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のホモ重合体、共重合体又は多段重合体等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。ポリオレフィン樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、ポリブテン、及びエチレンプロピレンラバー等が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂としては、低融点であり、かつ高強度の要求性能を満たす観点から、高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂組成物を用いることがより好ましい。
ポリオレフィン樹脂としては、耐熱性を向上させる観点から、ポリプロピレンと、ポリプロピレン以外のポリオレフィンとを含む樹脂組成物を用いることもまた好ましい。
ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレンを使用する場合、ポリプロピレンの立体構造としては、限定されないが、例えば、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、及びアタクティックポリプロピレン等が挙げられ、いずれの構造であってもよい。
ポリオレフィン樹脂組成物中のポリオレフィン樹脂の合計質量に対するポリプロピレンの割合は、耐熱性と良好なシャットダウン機能とを両立させる観点から、好ましくは1〜35質量%、より好ましくは3〜20質量%、更に好ましくは4〜10質量%である。ポリプロピレン以外に含まれるポリオレフィン樹脂としては、限定されないが、例えば、エチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のオレフィン炭化水素の単独重合体又は共重合体が挙げられる。より具体的には、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリブテン、及びエチレン−プロピレンランダム共重合体等が挙げられる。
ポリオレフィン微多孔膜基材を電池用セパレータとして使用する場合など、シャットダウン性能が要求される用途においては、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂として、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及び/又は超高分子量ポリエチレン等のポリエチレンを用いることが好ましい。これらの中でも、強度を向上させる観点から、JIS K 7112に準拠して測定される密度が0.93g/cm3以上であるポリエチレンを使用することがより好ましい。
ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは3万以上1200万以下、より好ましくは5万以上200万未満、さらに好ましくは10万以上100万未満である。ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量が3万以上であると、溶融成形の際のメルトテンションが大きくなり成形性が良好になると共に、重合体同士の絡み合いにより強度の高い基材が得られる傾向にあるため好ましい。ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量が1200万以下であると、均一に溶融混練をすることが容易となり、シートの成形性、特に厚み安定性に優れた基材が得られる傾向にあるため好ましい。また、ポリオレフィン微多孔膜基材を電池用セパレータとして使用する場合、ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量が100万未満であると、温度上昇時に孔が閉塞され易く良好なシャットダウン機能が得られる傾向にあるため好ましい。粘度平均分子量100万未満のポリオレフィンを単独で使用する代わりに、例えば、粘度平均分子量が約200万のポリオレフィンと粘度平均分子量が約27万のポリオレフィンとの混合物であって、混合物全体としての粘度平均分子量が100万未満であるポリオレフィン混合物を用いてもよい。
ポリオレフィン樹脂組成物は、任意の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、ポリオレフィン以外の重合体;無機フィラー;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
ポリオレフィン微多孔膜基材を製造する方法としては限定されず、公知の製造方法を採用することができる。例えば、(1)ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、必要に応じて延伸した後、可塑剤を抽出することにより多孔化させる方法、(2)ポリオレフィン樹脂組成物を溶融混練して高ドロー比で押出した後、熱処理と延伸によってポリオレフィン結晶界面を剥離させることにより多孔化させる方法、(3)ポリオレフィン樹脂組成物と無機充填材とを溶融混練してシート上に成形した後、延伸によってポリオレフィンと無機充填材との界面を剥離させることにより多孔化させる方法、(4)ポリオレフィン樹脂組成物を溶解後、ポリオレフィンに対する貧溶媒に浸漬させてポリオレフィンを凝固させると同時に溶剤を除去することにより多孔化させる方法等が挙げられる。
以下、ポリオレフィン微多孔膜基材を製造する方法の一例として、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練してシート状に成形後、可塑剤を抽出する方法について説明する。
まず、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とを溶融混練する。溶融混練方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂及び必要によりその他の添加剤を、押出機、ニーダー、ラボプラストミル、混練ロール、バンバリーミキサー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂成分を加熱溶融させながら任意の比率で可塑剤を導入して混練する方法が挙げられる。この際、ポリオレフィン樹脂、その他の添加剤及び可塑剤を樹脂混練装置に投入する前に、予めヘンシェルミキサー等を用いて所定の割合で事前混練しておくことが好ましい。より好ましくは、事前混練において可塑剤の一部のみを投入し、残りの可塑剤を樹脂混練装置にサイドフィードしながら混練する。このような混練方法を用いることにより、可塑剤の分散性が高まり、後の工程で樹脂組成物と可塑剤の溶融混練物のシート状成形体を延伸する際に、破膜することなく高倍率で延伸することができる傾向にある。
可塑剤としては、限定されないが、ポリオレフィンの融点以上において均一な溶液を形成しうる不揮発性溶媒を用いることが好ましい。このような不揮発性溶媒の具体例としては、例えば、流動パラフィン、及びパラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジブチル等のエステル類;並びにオレイルアルコール、及びステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。
これらの中でも、流動パラフィンは、ポリエチレンやポリプロピレンとの相溶性が高く、溶融混練物を延伸しても樹脂と可塑剤との界面剥離が起こりにくく、より均一に延伸し易い傾向にあるため好ましい。
ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤との比率は、これらを均一に溶融混練して、シート状に成形できる範囲であれば限定されない。例えば、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤とからなる組成物中に占める可塑剤の質量分率は、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜70質量%である。可塑剤の質量分率が80質量%以下であると、溶融成形時のメルトテンションが不足しにくく成形性が向上する傾向にある。可塑剤の質量分率が30質量%以上であると、ポリオレフィン樹脂組成物と可塑剤の混合物を高倍率で延伸した場合でもポリオレフィン鎖の切断が起こりにくく、より均一かつ微細な孔構造を形成し易く、高い強度を有する基材が得られる傾向にある。
次に、溶融混練物をシート状に成形して、シート状成形体を得る。シート状成形体を製造する方法としては、例えば、溶融混練物を、Tダイ等を介してシート状に押出し、熱伝導体に接触させて樹脂成分の結晶化温度より充分に低い温度まで冷却して固化する方法が挙げられる。冷却固化に用いられる熱伝導体としては、金属、水、空気、及び可塑剤自身等が挙げられるが、熱伝導の効率が高いため、金属製のロールを用いることが好ましい。押し出した混練物を金属製のロールに接触させる際に、ロール間で挟み込むと、熱伝導の効率がさらに高まると共に、シートが配向して膜強度が増し、シートの表面平滑性も向上する傾向にあるためより好ましい。溶融混練物をTダイからシート状に押し出す際のダイリップ間隔は、好ましくは400μm以上3000μm以下、より好ましくは500μm以上2500μm以下である。ダイリップ間隔が400μm以上であると、メヤニ等が低減され、スジや欠点など膜品位への影響が少なく、その後の延伸工程において膜破断などのリスクを低減することができる。ダイリップ間隔が3000μm以下であると、冷却速度が速く冷却ムラを防げると共に、シートの厚み安定性を維持できる。
次いで、得られたシート状成形体を延伸することが好ましい。延伸処理としては、一軸延伸又は二軸延伸のいずれも好適に用いることができ、得られる微多孔膜基材の強度等を向上させる観点から二軸延伸が好ましい。シート状成形体を二軸方向に高倍率延伸すると、分子が面方向に配向し、最終的に得られる基材が裂けにくくなり、高い突刺強度を有する基材が得られる傾向にある。延伸方法としては、例えば、同時二軸延伸、逐次二軸延、多段延伸、多数回延伸等の方法を挙げることができ、突刺強度の向上、延伸の均一性、及びシャットダウン性の観点から、同時二軸延伸が好ましい。
同時二軸延伸とは、MD方向(微多孔膜の機械方向)の延伸とTD方向(微多孔膜のMDを90°の角度で横切る方向)の延伸が同時に施される延伸方法をいう。各方向の延伸倍率は異なっていてもよい。逐次二軸延伸とは、MD方向又はTD方向の延伸が独立して施される延伸方法をいい、MD方向又はTD方向に延伸がなされているときは、他方向は非拘束状態又は定長に固定されている。
延伸倍率は、面倍率で20倍以上100倍以下の範囲であることが好ましく、25倍以上50倍以下の範囲であることがより好ましい。各軸方向の延伸倍率は、MD方向に4倍以上10倍以下、TD方向に4倍以上10倍以下の範囲であることが好ましく、MD方向に5倍以上8倍以下、TD方向に5倍以上8倍以下の範囲であることがより好ましい。総面積倍率が20倍以上であると、得られる微多孔膜基材の強度がより高くなる傾向にある。総面積倍率が100倍以下であると、延伸工程における膜破断を防ぎ、高い生産性が得られる傾向にある。
シート状成形体を圧延してもよい。圧延は、例えば、ダブルベルトプレス機等を使用したプレス法にて実施することができる。圧延を施すことにより、特に表層部分の配向を増すことができる。圧延面倍率は1倍を超えて3倍以下であることが好ましく、1倍を超えて2倍以下であることがより好ましい。圧延倍率が1倍を超えると、面配向が増加し最終的に得られる微多孔膜基材の膜強度が増加する傾向にある。一方、圧延倍率が3倍以下であると、表層部分と中心内部の配向差が小さく、膜の厚さ方向に均一な多孔構造を形成することができる傾向にある。
次いで、シート状成形体から可塑剤を除去して微多孔膜基材を得る。可塑剤を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤にシート状成形体を浸漬して可塑剤を抽出し、充分に乾燥させる方法が挙げられる。可塑剤を抽出する方法はバッチ式、連続式のいずれであってもよい。微多孔膜基材の収縮を抑えるために、浸漬及び乾燥の一連の工程中にシート状成形体の端部を拘束することが好ましい。微多孔膜基材中の可塑剤残存量は、微多孔膜基材全体の質量に対して1質量%未満にすることが好ましい。
可塑剤を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、及びシクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、及び1,1,1−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、及びハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、及びイソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;並びにアセトン、及びメチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
微多孔膜基材の収縮を抑制するために、延伸工程後、又は、微多孔膜基材形成後に熱固定や熱緩和等の熱処理を行うこともできる。微多孔膜基材に、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理等の後処理を行ってもよい。
微多孔膜基材には、収縮を抑制する観点から熱固定を施すことが好ましい。熱固定の方法としては、所定の温度雰囲気及び所定の緩和率で緩和操作を行うことが挙げられ、テンターやロール延伸機を用いて行うことができる。緩和操作とは、微多孔膜のMD及び/又はTD方向への縮小操作を意味する。緩和率とは、MD方向においては、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値を意味し、TD方向においては、緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値を意味し、MD及びTDの両方向を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値を意味する。緩和率は、1.0以下であることが好ましく、0.97以下であることがより好ましく、0.95以下であることがさらに好ましい。
緩和操作は、MD及びTDの両方向で行ってもよいが、MD又はTDのいずれか一方のみ行ってもよい。この緩和操作の前に、MD方向及び/又はTD方向に1.8倍以上、より好ましくは2.0倍以上の延伸を施すことによって、高強度かつ高気孔率な微多孔膜基材が得られ易い。この可塑剤抽出後の延伸及び緩和操作は、好ましくはTD方向に行う。緩和操作及び緩和操作前の延伸工程における温度は、ポリオレフィン樹脂の融点(Tm)より低いことが好ましく、好ましくは、Tmより5℃低い温度(Tm−5℃)からTmより25℃低い温度(Tm−25℃)、より好ましくは、Tm−7℃からTm−23℃、更に好ましくは、Tm−8℃からTm−21℃である。緩和操作及び緩和操作前の延伸工程における温度が上記範囲であると、小孔径、低曲路率であり、かつ孔数が多くて高気孔率な微多孔膜基材が得られ易い。
〈塗工液及び塗工層〉
塗工液は、無機粒子及びバインダを含み、典型的には、無機粒子及びバインダが溶媒中に分散した分散体(スラリー)である。
剪断速度60,000s−1の条件下で測定される、塗工液の剪断粘度η(mPa・s)は、好ましくは1.0≦η≦60、より好ましくは1.0≦η≦30、更に好ましくは1.0≦η≦20、より更に好ましくは3.0≦η≦15である。剪断粘度ηが1.0mPa・s以上であると、ブレードの押付圧力を調整することで塗工量を制御し易く、塗工層の表面平滑性がより向上する。剪断粘度ηが60mPa・s以下であると、ブレード直下で塗工液に高剪断がかかることによるストリークの発生をより効果的に抑制でき、塗工層の表面平滑性がより向上する。塗工液の剪断粘度η(mPa・s)は、例えば、無機粒子の粉砕、造粒、及び表面処理;塗工液中の無機粒子、樹脂バインダ、及び媒体の割合;塗工液中の無機粒子及び樹脂バインダの分散等を制御すること;並びにレオロジー調整剤として水溶性または非水溶性の増粘剤、湿潤剤等の添加剤を併用することにより、調整することができる。
塗工液の溶媒としては、無機粒子及びバインダを均一かつ安定に分散できるものが好ましく、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、及びヘキサン等が挙げられる。
無機粒子とバインダとを、塗工液の溶媒に分散させる方法については、塗工工程に必要な塗工液の分散特性を実現できれば特に限定されない。分散方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、及び撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。
塗工液は、分散安定化や塗工性の向上のために、界面活性剤等の分散剤;増粘剤;湿潤剤;消泡剤;及び酸、アルカリを含むpH調製剤等の各種添加剤を含んでもよい。これらの添加剤は、溶媒除去の際に除去できるものであることが好ましく、リチウムイオン二次電池の使用範囲において、電気化学的に安定で、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定であれば、塗工層内に残存してもよい。
塗工後に塗工膜から溶媒を除去する方法としては、微多孔膜基材に悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定はなく、例えば、微多孔膜基材を固定しながらその融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。微多孔膜基材のMD方向の収縮応力を制御する観点から、乾燥温度、巻取り張力等の乾燥条件を適宜調整することが好ましい。
塗工層は、無機粒子及びバインダを含む塗工液を塗工し、乾燥させることにより形成することができる。塗工層は、ポリオレフィン微多孔膜基材の少なくとも片面に塗工すればよく、両面に形成してもよい。また、塗工層は、ポリオレフィン微多孔膜基材の片面又は両面の一部に形成してもよく、片面又は両面の全体に形成してもよい。
塗工層は、典型的には多孔層である。無機粒子としては、特に限定されないが、200℃以上の融点をもち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であることが好ましい。
無機粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。無機粒子は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
電気化学的安定性及び微多孔膜基材の耐熱特性を向上させる観点から、無機粒子としては、アルミナなどの酸化アルミニウム化合物、及び水酸化酸化アルミニウム;並びにカオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、及びパイロフィライトなどのイオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物等が好ましい。無機粒子は、水酸化酸化アルミニウム及び/又は酸化アルミニウムを含むことがより好ましい。イオン交換能を持たないケイ酸アルミニウム化合物としては、安価で入手も容易なため、カオリン鉱物で主に構成されているカオリンがより好ましい。カオリンには湿式カオリン及びこれを焼成処理した焼成カオリンがあるが、焼成カオリンは焼成処理の際に結晶水が放出されるのに加え、不純物が除去されるので、電気化学的安定性の点で特に好ましい。
無機粒子のメディアン径D50及びD90は、0.1μm≦D50≦3.0μm、及び1.0<D90/D50≦4.0を満たすことが好ましい。D50は、より好ましくは0.2μm≦D50≦2μm、更に好ましくは0.5μm≦D50≦1.5μmである。D90とD50との比(D90/D50)は、より好ましくは1.0<D90/D50≦2.0、更に好ましくは1.5<D90/D50≦2.0である。
無機粒子の平均粒径は、0.1μmを超えて4.0μm以下であることが好ましく、0.2μmを超えて3.5μm以下であることがより好ましく、0.4μmを超えて3.0μm以下であることが更に好ましい。無機粒子の平均粒径を上記範囲に調整することは、塗工層の厚さが薄い場合(例えば、7μm以下)であっても、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。
無機粒子において、0.2μmを超えて1.4μm以下の粒径を有する粒子が無機粒子全体に占める割合としては、好ましくは2体積%以上、より好ましくは3体積%以上、更に好ましくは5体積%以上であり、上限としては、好ましくは90体積%以下、より好ましくは80体積%以下である。
無機粒子において、0.2μmを超えて1.0μm以下の粒径を有する粒子が無機粒子全体に占める割合としては、好ましくは1体積%以上、より好ましくは2体積%以上であり、上限としては、好ましくは80体積%以下、より好ましくは70体積%以下である。
無機粒子において、0.5μmを超えて2.0μm以下の粒径を有する粒子が無機粒子全体に占める割合としては、好ましくは8体積%以上、より好ましくは10体積以上であり、上限としては、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。
無機粒子において、0.6μmを超えて1.4μm以下の粒径を有する粒子が無機粒子全体に占める割合としては、好ましくは1体積%以上、より好ましくは3体積%以上であり、上限としては、好ましくは40体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。
無機粒子の粒度分布を上記範囲に調整することは、塗工層の厚さが薄い場合(例えば、7μm以下)であっても、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。なお、無機粒子の粒径の割合を調整する方法としては、例えば、ボールミル・ビーズミル・ジェットミル等を用いて無機粒子を粉砕し、粒径を小さくする方法等を挙げることができる。
無機粒子の形状としては、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、及び塊状等が挙げられ、上記形状を有する無機粒子を複数種組み合わせて用いてもよい。無機粒子の形状としては、透過性向上の観点から、複数の面からなる多面体状、柱状、及び紡錘状が好ましい。
無機粒子が塗工層中に占める割合としては、無機粒子の結着性、微多孔膜基材の透過性及び耐熱性等の観点から適宜決定することができ、好ましくは50質量%以上100質量%未満、より好ましくは70質量%以上99.99質量%以下、更に好ましくは80質量%以上99.9質量%以下、より更に好ましくは90質量%以上99質量%以下である。
バインダは、典型的には樹脂バインダである。樹脂バインダとしては、限定されないが、微多孔膜基材をリチウムイオン二次電池用セパレータとして使用する場合には、リチウムイオン二次電池の電解液に対して不溶であり、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定なものを用いることが好ましい。
樹脂バインダとしては、例えば、ポリエチレン、及びポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、及びポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体及びその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、及びポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル等の、融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂等が挙げられる。
樹脂バインダとしてポリビニルアルコールを使用する場合、そのケン化度は、好ましくは85%以上100%以下、より好ましくは90%以上100%以下、更に好ましくは95%以上100%以下、より更に好ましくは99%以上100%以下である。ケン化度が85%以上であると、微多孔膜基材を電池用セパレータとして使用した際に、短絡する温度(ショート温度)が向上し、より良好な安全性能が得られる傾向にあるため好ましい。
ポリビニルアルコールの重合度は、好ましくは200以上5000以下、より好ましくは300以上4000以下、さらに好ましくは500以上3500以下である。重合度が200以上であると、少量のポリビニルアルコールで焼成カオリン等の無機粒子を微多孔膜基材に強固に結着でき、塗工層の力学的強度を維持しながら塗工層形成による微多孔膜基材の透気度増加を抑えることができる傾向にあるため好ましい。重合度が5000以下であると、塗工液を調製する際のゲル化等を防止できる傾向にあるため好ましい。
樹脂バインダとしては、樹脂製ラテックスバインダが好ましい。樹脂製ラテックスバインダを用いた場合、無機粒子とバインダとを含む塗工層をポリオレフィン微多孔膜基材の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下しにくく高出力特性が得られやすい。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られやすい。樹脂バインダの一部又は全てを溶媒に溶解させた後に、得られた溶液をポリオレフィン微多孔膜基材の少なくとも片面に積層し、貧溶媒への浸漬や乾燥による溶媒除去等により樹脂バインダを微多孔膜基材に結着させた場合は、高出力特性が得られにくいばかりか、円滑なシャットダウン特性を示しにくく安全性に劣る傾向にある。
樹脂製ラテックスバインダとしては、電気化学的安定性及び結着性を向上させる観点から、脂肪族共役ジエン系単量体及び不飽和カルボン酸単量体、並びにこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られるものが好ましい。乳化重合の方法は限定されず、従来公知の方法を用いることができる。単量体及びその他の成分の添加方法としては、限定されず、一括添加方法、分割添加方法、及び連続添加方法が挙げられ、いずれも使用することができる。重合方法としては、限定されず、一段重合、二段重合、及び多段階重合等が挙げられ、いずれも使用することができる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、特に限定されず、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、並びに置換及び側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられる。脂肪族共役ジエン系単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエンが好ましい。
不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、及びイタコン酸などの、モノ又はジカルボン酸(無水物)等が挙げられる。不飽和カルボン酸単量体は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、及びメタクリル酸が好ましい。
脂肪族共役ジエン系単量体及び不飽和カルボン酸単量体共と重合可能な他の単量体としては、限定されないが、例えば、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、及び不飽和カルボン酸アミド単量体等が挙げられる。他の単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。他の単量体としては、特に不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、及び2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルメタクリレートが好ましい。
上記の単量体に加えて様々な品質及び物性を改良するために、上記以外の単量体成分をさらに使用することもできる。いずれにしても、樹脂バインダを構成する官能基含有単量体の量が、樹脂バインダを構成する全単量体100質量部に対し、2〜10質量部であることが好ましく、3〜9質量部であることがより好ましい。
樹脂バインダの平均粒径は、好ましくは50〜500nm、より好ましくは60〜460nm、更に好ましくは80〜250nmである。樹脂バインダの平均粒径が50nm以上である場合、無機粒子とバインダとを含む塗工層をポリオレフィン微多孔膜基材の少なくとも片面に積層した際、イオン透過性が低下しにくく高出力特性が得られやすい。加えて異常発熱時の温度上昇が速い場合においても、円滑なシャットダウン特性を示し、高い安全性が得られやすい。樹脂バインダの平均粒径が500nm以下である場合、良好な結着性を発現し、微多孔膜基材とした場合に熱収縮が良好となり安全性に優れる傾向にある。
樹脂バインダの平均粒径は、重合時間、重合温度、原料組成比、原料投入順序、及びpHなどを調整することで制御することが可能である。
樹脂バインダの配合量は、電解液中でのセパレータの安定性という観点から、塗工液の全固形分に対し、1〜10質量%であることが好ましく、2〜9質量%であることがより好ましい。
塗工層の厚みは、耐熱性及び絶縁性を向上させる観点から1μm以上であることが好ましく、電池の高容量化と透過性を向上させる観点から10μm以下であることが好ましい。塗工層の厚みは、より好ましくは1.5μm以上10μm以下、さらに好ましくは2μm以上10μm以下、さらにより好ましくは3μm以上10μm以下、特に好ましくは3μm以上7μm以下である。
塗工層の層密度は、0.5〜2.0g/cm3であることが好ましく、0.7〜1.5cm3であることがより好ましい。塗工層の層密度が0.5g/cm3以上であると、高温での熱収縮率が良好となる傾向にあり、2.0g/cm3以下であると、透気度が低下する傾向にある。
〈ドクターブレード〉
ドクターブレードの材質としては、樹脂製ブレード、ステンレス製ブレード、セラミック製ブレード等が挙げられる。塗工液の成分は、一般的には顔料比率が高く、ブレード直下の塗工液に高シェアがかかると、局所的に急激に固形分が上昇して、多孔層表面にストリークが発生し易い。したがって、高剛性であるステンレス製又はセラミック製ブレードよりも弾力性のある樹脂製ブレードを用いることにより、ブレード直下の塗工液に高シェアがかかり難く、急激な固形分の上昇を抑制でき、塗工層表面のストリークの発生をより効果的に抑制することができる。
樹脂製ドクターブレードの材質としては、ポリエチレン(PE)、強化ポリエチレン、例えばガラス繊維強化PE、ポリエステル、強化ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ガラス繊維強化PET、ポリメチルペンテン、ガラス繊維強化ポリメチルペンテン、及びポリアセタール等が挙げられる。樹脂製ドクターブレードの材質としては、ポリエチレン、強化ポリエチレン、ポリエステル、強化ポリエステル、又はポリアセタールであることが好ましい。
ドクターブレードの厚みは、好ましくは0.1〜3mm、より好ましくは0.2〜2mm、さらに好ましくは0.3〜1.5mmである。一般に、グラビア印刷の分野では、ドクターブレードは、刃先と、段付部と、被保持部とを有する。本願明細書において、ドクターブレードの厚みとは、ロール又は塗工液と接触するドクターブレード段付部の断面方向における厚みをいう。この厚みが0.1mm以上であれば、塗工時にブレードのたわみが大きくなり過ぎず、塗工層の表面平滑性が向上し、この厚みが3mm以下であれば、塗工時にブレードのたわみが小さくなり過ぎず、ブレード直下の塗工液に高シェアがかかることによるストリークの発生をより効果的に抑制することができる。
ドクターブレードの最表層の表面粗さは、最大高さで10μm以下であることが好ましく、2〜10μmであることがより好ましい。この表面粗さが最大高さで10μm以下である場合、ドクターブレードの表面粗さが塗工層に転写されにくく、塗工層の表面平滑性がより良好になる。この表面粗さは、ドクターブレードのロール又は塗工液との接触部の最表層ついて測定される。
樹脂製ドクターブレードを備えるグラビアコーターとしては、グラビア印刷機の分野で知られるコーターを利用してよい。グラビアロールの回転方向は、ポリオレフィン微多孔膜基材の進行方向と同方向(正転)であっても逆方向(逆転)でも良い。逆方向の方が基材とグラビアロール間の塗工液に適度なせん断が生じ転写後の平滑性に優れるために好ましい。
蓄電デバイス用セパレータは、本実施形態の蓄電デバイス用セパレータの製造方法に従って、任意に既知の製造方法をさらに組み合わせることにより製造することができる。例えば、国際公開第2013/147071号に記載のセパレータの製造方法により製造されることができ、その内容は引用により本願明細書中に取り入れられる。
例えば、塗工液を塗工する前に、微多孔膜基材の表面に表面処理を施すと、塗工液を塗工し易くなると共に、塗工後の無機粒子含有塗工層と微多孔膜基材の表面との接着性が向上するため好ましい。表面処理の方法としては、微多孔膜基材の多孔質構造を著しく損なわない方法であれば特に限定されず、例えば、コロナ放電処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、及び紫外線酸化法等が挙げられる。
以下、実施例及び比較例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
[測定及び評価方法]
実施例中の物性は以下の方法により測定した。なお、測定雰囲気が明示されていないものは、23℃、1気圧の大気中にて測定した。
(1)無機粒子の粒度分布(D50及びD90)の測定
無機フィラーを蒸留水に加え、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を少量添加してから超音波ホモジナイザーで1分間分散させた後、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて粒径分布を測定し、小粒径側より体積累積頻度が50%となる粒径をD50(μm)、90%となる粒径をD90(μm)とした。
(2)剪断粘度η(mPa・s)の測定
三井精機製のハイシェア回転粘度計(HVS−31)を用いて塗工液の剪断粘度の測定を行った。回転加速時における剪断速度60,000(1/s)時の剪断粘度を測定した。
(3)塗工膜の平滑性の評価
塗工膜の平滑性は、JIS−B−0601に準じて測定した。
塗工面側を測定し、JIS−B−0601に記載の中心線平均粗さをRaとした。測定装置は非接触3次元表面粗さ計 New View 5032 ザイゴ社製を使用した。垂直方向に0.14mm、水平方向に0.18mmの範囲(面積0.0252mm2)で、垂直分解能が0.1nm、水平分解能が0.64μm測定条件で膜の表面粗さ(Ra)を測定した。
(4)塗工膜の塗布減少率(塗布目付の安定性)の評価
塗工開始時の塗工層目付(乾燥重量)と5000m(±100m)連続塗工後の塗工目付け(乾燥重量)とを測定した。開始時及び5000m後の、それぞれの塗工部近傍の未塗工基材の重量と塗工膜の重量との差分により、それぞれの塗工層の目付を算出した。以下の式により、塗布減少率(%)を算出した。
塗布減少率(%)=(開始時の塗布目付−5000m後の塗布目付)/開始時の塗布目付×100
[実施例1]
粘度平均分子量(Mv)が70万のポリエチレンを47質量部と、Mvが30万のポリエチレンを46質量部と、Mvが40万のポリプロピレンを7質量部とを、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。得られた純ポリマー混合物99質量部に酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより混合物を得た。得られた混合物を、窒素で置換を行った後に、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10−5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
混合物を溶融混練し、押し出される全混合物中に占める流動パラフィン量比が65質量部となるように、フィーダー及びポンプを調整して、溶融混練物を得た。溶融混練条件は、設定温度200℃であり、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hで行った。
得られた溶融混練物を、T−ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、厚み1600μmのゲルシートを得た。
得られたゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行い、二軸延伸シートを得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率7.0倍、設定温度125℃であった。
得られた二軸延伸シートを塩化メチレン槽に導き、塩化メチレン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後塩化メチレンを乾燥除去した。
塩化メチレンを乾燥除去した二軸延伸シートを、TDテンターに導いて熱固定を行い、ポリオレフィン微多孔膜基材を得た。熱固定時の延伸温度及び倍率は、それぞれ128℃、及び2.0倍であり、その後の緩和時の温度及び緩和率は、133℃、及び0.80であった。
得られたポリオレフィン微多孔膜基材の表面に、コロナ放電処理(放電量50W)を実施した。
95.0質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.05μm、D90/D50=1.7に調整した。粒度分布を調整した分散液に、4.0質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下)と、0.6重量部のCMC(ダイセル製1220)とを添加することによって、剪断速度60,000s−1における剪断粘度ηを8mPa・sに調整したA塗料を作成した。
ポリオレフィン微多孔膜基材のコロナ放電処理された表面上に、上記A塗料を、グラビアリバースコーターを用いて塗工した。角度αは115°、角度βは45°、角度θは20°であり、(L+L’)×tanθ/rは0.62であった。ドクターブレードの材質はポリエチレン(PE)製であり、ドクターブレードの表面粗さの最大高さは7μmであった。塗工後、60℃で乾燥させて水を除去し、塗工層の厚み4μm、塗布目付6.1g/m2の多孔層(塗工層)を有する、総厚12μmの蓄電デバイス用セパレータを得た。引き続き連続して5000m塗工を行った。
[実施例2〜8]
角度α、β、θを表1に示すように変更したこと以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。
[実施例9]
塗工液として下記「B塗料」を用い、ドクターブレードとして、ガラス強化繊維ポリエチレンテレフタレート(PET)製、表面粗さの最大高さ7μmのブレードを使用し、角度α、β、θを表2に示すように変更したこと以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。
95.0質量部のα−アルミナ(平均粒径0.7μm)と、0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径3mm、充填量60%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=0.6μm、D90/D50=4.3に調整した。粒度分布を調整した分散液に、4.0質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下)と、0.6重量部のポリビニルピロリドン(アシュランド製K−90)とを添加することによって、剪断速度60,000s−1における剪断粘度ηを10mPa・sに調整したB塗料を作成した。
[実施例10〜12]
塗工液として、それぞれ、下記「C塗料」、「D塗料」、又は「E塗料」を用い、ブレード材質、及び角度α、β、θを表2に示すように変更したこと以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。
94.7質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.8μm)と、0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=0.9μm、D90/D50=1.8に調整した。粒度分布を調整した分散液に、4.0質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下)と、0.6重量部のCMC(ダイセル製1220)と、0.3重量部のポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王製エマルゲン707)とを添加することによって、剪断速度60,000s−1における剪断粘度ηを16mPa・sに調整したC塗料を作成した。
94.3質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.8μm)をと、0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液に、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=0.9μm、D90/D50=1.8に調整した。粒度分布を調整した分散液に、4.0質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下)と、1.0重量部のCMC(ダイセル製1220)と、0.3重量部のポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王製エマルゲン707)とを添加することによって、剪断速度60,000s−1における剪断粘度ηを55mPa・sに調整したD塗料を作成した。
94.0質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.8μm)と、0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=0.9μm、D90/D50=1.8に調整した。粒度分布を調整した分散液に、4.0質量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、最低成膜温度0℃以下)と、1.3重量部のCMC(ダイセル製1220)と、0.3重量部のポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王製エマルゲン707)とを添加することによって、剪断速度60,000s−1における剪断粘度ηを90mPa・sに調整したE塗料を作成した。
[比較例1〜3]
塗工液として、それぞれ、表2に示す塗工液を用い、角度α、β、θを表2に示すように変更したこと以外は、実施例1の方法に準じてセパレータを得た。
表1及び2に示すように、90°<α≦140°及び20°≦β≦80°を満たす本発明の方法は、ストリーク発生を抑え、かつ安定した塗布目付で、表面平滑性の高い塗工層を形成することができた。また、0°<θ≦45°及び0.30<(L+L’)×tanθ/r<1.00を更に満たす本発明の好ましい本実施形態における方法は、更にストリーク発生を抑え、より安定した塗布目付で、表面平滑性により優れる塗工層を形成することができた。