以下、本発明の有機被膜の製造方法、導電性基板の製造方法、有機被膜製造装置の一実施形態について説明する。
(有機被膜の製造方法)
まず、本実施形態の有機被膜の製造方法の一構成例について説明する。
本実施形態の有機被膜の製造方法は、以下の工程を有することができる。
銅含有金属層が形成された基材を、浴槽に入れた窒素系有機物の溶液に浸漬して、銅含有金属層の上面に有機被膜を形成する有機被膜形成工程。
有機被膜形成工程では、浴槽内の窒素系有機物の溶液の銅濃度を15ppm以下にする。
銅含有金属層上に有機被膜を形成する場合、例えば、樹脂フィルム等の基材にスパッタリング法等の乾式法(以下、乾式めっき法という場合がある)、または無電解めっき法により銅含有金属薄膜層を形成する。その後、湿式法によって、該銅含有金属薄膜層上に銅めっきを行い、基材上に銅含有金属層を形成する。なお、樹脂フィルム等の基材と該銅含有金属薄膜層との間に、乾式法、または無電解めっき法により、密着層を形成しても良い。
その後、この銅含有金属層が形成された基材を、有機物の溶液を入れた浴槽に浸漬して、銅含有金属層が形成された基材上に有機被膜を形成する。
本発明の発明者らの検討によれば、残留した銅めっき液が有機物の溶液を入れた浴槽内に持ち込まれると、浴槽内の銅イオン濃度が徐々に上昇する。また、有機物の溶液を入れた浴槽内で、基材上に形成された銅含有金属層から銅成分が溶け出すことにより、浴槽内の銅イオン濃度が徐々に上昇するおそれもある。この場合、浴槽中の銅イオン濃度が高くなるほど、有機物の反応性が高くなるため、有機被膜の厚さが厚くなっていることを見出し、本発明を完成させた。
以下、本実施形態の有機被膜の製造方法の各工程について説明する。
有機被膜形成工程では、銅含有金属層が形成された基材が、浴槽内の窒素系有機物の溶液に浸漬される。これにより、基材に形成された銅含有金属層に有機被膜が形成される。
基材の種類は、特に限定されるものではなく、銅含有金属層が少なくとも一方の面上に形成された基材を用いることができる。例えば、長尺状基材、シート状基材、透明基材等を用いることができる。
また、銅含有金属層は、銅含有金属層を構成する材料は銅を含むものであれば特に限定されず、用途にあった電気伝導率を有する材料を選択することできる。例えば、銅含有金属層を構成する材料は、Cuと、Zn,Ni,Mo,Sn,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Mn,Co,Wから選ばれる少なくとも1種以上の金属との銅合金、または銅を含む材料であることが好ましい。また、銅含有金属層は銅から構成される銅層とすることもできる。
また、上記窒素系有機物としては特に限定されるものではなく、窒素を含有する有機化合物から任意に選択して用いることができる。このような窒素系有機物は、例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾール、またはその誘導体を含むことが好ましい。有機被膜に用いる窒素系有機物としては、具体的には例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾールや、5−メチル−1Hベンゾトリアゾール等を挙げることができる。
上記窒素系有機物の溶液としては、例えば銅用の防錆処理剤が挙げられ、市販されている薬品としては例えばOPCディフェンサー(商品名、奥野製薬工業株式会社)等を好ましく用いることができる。
形成する有機被膜の窒素系有機物の含有量の上限値は特に限定されるものではない。ただし、有機被膜の窒素系有機物の含有量を増加させるためには、有機被膜を形成する際に用いる窒素系有機物を含有する有機溶液の濃度を高めたり、窒素系有機物を含有する有機溶液に浸漬する時間を長くしたり等を行うこととなる。このため、有機被膜の窒素系有機物の含有量を過度に多くしようとすると、窒素系有機物を含有する溶液の取扱い性が低下したり、有機被膜を形成するために要する時間が長くなったり、生産性が低下するおそれがある。
そこで、有機被膜の窒素系有機物の含有量は、例えば10μg/cm2以下とすることが好ましく、また、含有量が低い方が黒化層の密着性が良好なため、1μg/cm2以下とすることがより好ましく、0.5μg/cm2以下とすることがさらに好ましい。
窒素系有機物の溶液中の窒素系有機物の濃度は特に限定されるものではなく、目標とする有機被膜中の窒素系有機物の含有量等を考慮して任意に選択することができる。例えば有機溶液中の窒素系有機物の濃度の下限値は、0.08g/L以上であることが好ましく、0.32g/L以上であることがより好ましい。また、上限値は、0.64g/L以下であることが好ましい。
基材を有機溶液に浸漬して銅含有金属層表面に有機被膜を形成する際の有機溶液の温度は特に限定されるものではなく、該溶液の粘度や操作性、反応性等を考慮して任意に選択することができる。例えば10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。ただし、温度が高くなると有機溶液が他の物質と反応するおそれがあることから、40℃以下とすることが好ましい。
窒素系有機物の溶液のpHは特に限定されるものではなく、例えば用いる有機溶液の種類や該溶液の反応性等を考慮して選択することができる。例えば有機溶液のpHは2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。ただし、pHが高くなると、例えば被膜中の窒素系有機物の含有量が低下することから、有機溶液のpHは4以下であることが好ましい。
銅含有金属層表面に有機被膜を形成する際に、基材を有機溶液に浸漬する時間(浸漬時間)の長さは特に限定されるものではなく、用いる有機溶液の種類や、形成する有機被膜の厚さ等に応じて任意に選択することができる。例えば浸漬時間は3秒以上であることが好ましく、4秒以上であることがより好ましい。ただし、浸漬時間を長くしすぎると、生産性が低下するおそれがあることから10秒以下であることが好ましい。なお、既述の有機被膜の製造方法においては、基材の搬送速度等を調整することにより、浸漬時間を所望の時間とすることができる。
有機被膜形成工程では、浴槽内の窒素系有機物の溶液の銅濃度は、15ppm以下に調整され、好ましくは8ppm以下に調整される。これにより、銅含有金属層を形成した際に基材上に残留した銅めっき液が浴槽に持ち込まれたり、形成された銅含有金属層から銅成分が浴槽内で溶け出したりした場合でも、浴槽内の溶液の銅濃度が高くなるのを防ぐことができる。そのため、有機被膜の厚さが過度に厚くなるのを抑制することができる。
また、有機被膜形成工程では、浴槽内の窒素系有機物の溶液の銅濃度が15ppm以下になるように浴槽に窒素系有機物の溶液を補給することができる。この場合、浴槽内の溶液の銅濃度を15ppm以下の低い濃度に調整することが容易である。そのため、基材上に残留しためっき液が浴槽に持ち込まれたり、形成された銅含有金属層から銅成分が浴槽内で溶け出したりした場合でも、浴槽内の溶液の銅濃度が高くなるのを確実に防ぐことができる。そのため、有機被膜の厚さが過度に厚くなるのを高い精度で防ぐことができる。
なお、有機被膜が形成された基材は、さらに、水洗して、乾燥した後、保管してもよい。このように保管された基材は、例えば導電性基板用の基材として用いることができる。
また、本実施形態の有機被膜の製造方法では、有機被膜形成工程の前に銅含有金属形成工程が含まれていても良い。このような銅含有金属層形成工程は、基材の少なくとも一方の面上に銅含有金属層が形成される。
銅含有金属層形成工程では、例えば、湿式めっき法の一種である電気めっき法により基材上に銅含有金属めっき層を形成することができる。このように形成された銅含有金属めっき層によって、基材上に形成された銅含有金属層を構成することができる。
また、上述の銅含有金属層形成工程を行う前には、予めスパッタリング等の乾式法もしくは無電解めっき法により基材上に銅含有金属の薄膜層(以下、銅含有金属薄膜層という)を形成する。この銅含有金属薄膜層を給電層として銅含有金属層形成工程で湿式法による銅めっきを行うことにより、銅含有金属薄膜層上に銅含有金属めっき層を形成することができる。このように形成された銅含有金属薄膜層と銅含有金属めっき層は、基材上に形成された銅含有金属層を構成することができる。銅含有金属薄膜層の形成前に、スパッタリング等の乾式法もしくは無電解めっき法により、密着層を形成しても良い。
なお、銅含有金属層形成工程を経て銅含有金属層が形成された基材は、その後、有機被膜形成工程で有機被膜を形成する前に、水洗して、基材に付着した水分の液切りを行ってもよい。このような水洗および液切を行うことにより、有機被膜形成工程に銅成分が持ち込まれるのを抑制することができるため、浴槽内の窒素系有機物の溶液の銅濃度の制御が容易になる。
以上に説明した本実施形態の有機被膜の製造方法によれば、浴槽に入れた窒素系有機物の溶液の銅濃度が高くなるのを防ぎ、有機被膜の厚さが過度に厚くなることを防ぐことができる。
(有機被膜製造装置)
次に、本実施形態の有機被膜製造装置の一構成例について説明する。
なお、本実施形態の有機被膜製造装置は、既述の有機被膜の製造方法に好適に用いることができるため、有機被膜の製造方法において、すでに説明した事項については、説明を省略する。
本実施形態の有機被膜製造装置は、以下の構成を有することができる。
銅含有金属層が形成された基材を、浴槽に入れた窒素系有機物の溶液に浸漬して、銅含有金属層の上面に有機被膜を形成する有機被膜形成手段。
有機被膜形成手段に設けられて、浴槽内の窒素系有機物の溶液の銅濃度を15ppm以下に調整する調整手段。
図1は、本発明に係る有機被膜製造装置の一例を示す図である。図1において、符号10は、有機被膜製造装置の一例である。有機被膜製造装置10は、銅含有金属層形成手段11、有機被膜形成手段12、及び調整手段13を備える。
銅含有金属層形成手段11は、基材14の少なくとも一方の面上に湿式法により銅含有金属層を形成することができる。なお、図1の有機被膜製造装置10では、銅含有金属層形成手段11が設けられているが、銅含有金属層形成手段を設けることは任意である。すなわち、有機被膜形成装置において、銅含有金属層形成手段を設けずに、銅含有金属層が形成された基材を予め準備しておき、有機被膜形成手段12により該基材に有機被膜を形成してもよい。
基材14は、長尺のシート状基材である。このシート状基材14は、巻出ローラ15に巻かれた状態からブロック矢印1の方向に搬送され、銅含有金属層形成手段11、有機被膜形成手段12を経由して巻取ローラ16に巻き取られる。なお、図1は、搬送される基材14の搬送方向と直交する水平方向に、シート状基材14を見た図を示している。
基材14は、図1中に示したブロック矢印1が示す方向に搬送される際に、幅方向が搬送方向と直交する方向となる状態で保持されて搬送される。図1では、Y軸方向(紙面に垂直な方向)が基材14の幅方向となり、X軸方向が基材14の搬送方向となる。
なお、図1では長尺のシート状基材を用いた例を示しているが、係る形態に限定されるものではない。ただし、連続的に生産することができるため、長尺のシートであることが好ましい。
銅含有金属層形成手段11は、図示しない電極が内部に配置されためっき浴11aと、めっき浴11aに入れためっき液11b(硫酸銅溶液)と搬送ローラ11c〜11eを備える。銅含有金属層形成手段11では、基材14が、銅含有金属層形成手段11に搬送され、基材14の少なくとも一方の面上に銅含有金属層が形成される。
具体的には、巻出ローラ15から巻き出された基材14は、搬送ローラ11c〜11eにより、めっき浴11a内を通過し、その際めっき浴11a内で湿式法による銅めっきが行われ、基材14に銅含有金属層が形成される。
また、銅含有金属層形成手段11で湿式法による銅めっきを行う前に、予めスパッタリング等の乾式法により基材14上に銅含有金属薄膜層を形成してもよい。この銅含有金属薄膜層を給電層として銅含有金属層形成手段11で湿式法による銅めっきを行うことにより、銅含有金属薄膜層上に銅含有金属めっき層を形成することができる。このように形成された銅含有金属薄膜層と銅含有金属めっき層は、基材上に形成された銅含有金属層を構成することができる。
なお、図1の銅含有金属層形成手段11では、基材14の幅方向がY軸方向に沿うように基材14がめっき浴11a内を通過する水平型のメッキ装置が用いられているが、本例のように銅含有金属形成手段を用いる場合、メッキ装置の構成は限定されない。例えば、銅含有金属層形成手段で用いるメッキ装置として、基材14の幅方向がZ軸方向に沿うように懸垂された基材14がめっき浴11a内を通過する懸垂型のメッキ装置を用いてもよい。
また、銅含有金属層形成手段11で銅含有金属層が形成された基材14は、次に有機被膜形成手段12で有機被膜が形成されるが、有機被膜形成手段12で有機被膜を形成する前に、図1に示されるように水洗手段17およびエアーナイフ18を通過させてもよい。水洗手段17では、銅含有金属層が形成された基材14を水洗することができる。また、エアーナイフ18は、基材14に付着した水分の液切りを行うことができる。水洗手段17とエアーナイフ18を通過した基材14は、有機被膜形成手段12に搬送される。このような水洗および液切を行うことにより、有機被膜形成手段12に銅成分が持ち込まれるのを抑制することができる。
有機被膜形成手段12は、例えば、浴槽12aと、浴槽12aに入れた窒素系有機物の溶液12bと、搬送ローラ12c〜12eとを備える。有機被膜形成手段12では、銅含有金属層が形成された基材14が、搬送ローラ12c〜12eにより、浴槽12a内を通過し、浴槽12a内の溶液12bに浸漬される。これにより、基材14に形成された銅含有金属層に有機被膜が形成される。
このように形成された有機被膜は、窒素系有機物を含有することができる。有機被膜が導電性基板に用いられ銅含有金属層と黒化層との間に配置された場合、黒化層と、黒化層の下層である銅含有金属層及び有機被膜との密着性を特に高めることができ、銅含有金属層と黒化層の密着性が安定した導電性基板が得られる。その結果、黒化層の剥離を抑制できるため、黒化層のエッチング性を高められる。また、有機被膜が窒素系有機物を含有することで、導電性基板の反射率を低減することができる。
有機被膜形成手段12では、浴槽12a内の窒素系有機物の溶液12bの銅濃度が、15ppm以下に調整され、好ましくは8ppm以下に調整される。これにより、基材14上に残留しためっき液が浴槽12aに持ち込まれても、浴槽12a内の溶液12bの銅濃度が高くなるのを防ぐことができる。そのため、有機被膜の厚さが過度に厚くなるの防ぐことができる。
有機被膜形成手段12には、浴槽12a内の溶液12bの銅濃度を調整する調整手段13が設けられている。調整手段13は、タンク13aと、タンク13aに貯蔵された窒素系有機物の溶液13b(以下、補充溶液という)と、補充溶液13bを浴槽12aに補給するための補給管13cとを備える。
なお、調整手段13は、上記の構成に限定されるものでなく、浴槽12a内の溶液12bの銅濃度を調整することができる構成であればどのような構成にしてもよい。例えば、調整手段13には、浴槽12a内の銅濃度を測定する図示しないセンサと、該センサにより測定された銅濃度に基づいて浴槽12a内の銅濃度を制御するように補充溶液13bを補給する図示しない制御手段とを、さらに設けても良い。
この調整手段13により、浴槽12a内の溶液12bの銅濃度が15ppm以下になるように浴槽12aに補充溶液13bを補給することができる。特に、浴槽12a内の溶液12bの銅濃度を15ppm以下の低い濃度に調整することができる。そのため、基材14上に残留しためっき液が浴槽12aに持ち込まれる等しても、浴槽12a内の溶液12bの銅濃度が高くなるのを確実に防ぐことができる。そのため、有機被膜の厚さが過度に厚くなるのを高い精度で防ぐことができる。
なお、図1の有機被膜形成手段12では、基材14の幅方向がY軸方向に沿うように基材14が浴槽12a内を通過する水平型の浸漬装置が用いられているが、本例のように有機被膜形成手段で浸漬装置を用いる場合、その構成は限定されない。例えば、有機被膜形成手段で用いる浸漬装置として、基材14の幅方向がZ軸方向に沿うように基材14が浴槽12a内を通過する懸垂型の浸漬装置を用いてもよい。
また、有機被膜形成手段12で有機被膜が形成された基材14は、その後、水洗手段19を通過して水洗し、さらに図示しない乾燥手段を通過して乾燥してもよい。このように水洗および乾燥された基材14は、さらに巻取ローラ16に巻き取ってもよい。このように巻き取られた基材14は、後述の導電性基板に用いることができる。
以上説明した本実施形態の有機被膜製造装置によれば、浴槽に入れた窒素系有機物の溶液の銅濃度が高くなるのを防ぐことができる。その結果、有機被膜の厚さが過度に厚くなるの防ぐことができる。
(導電性基板の製造方法)
次に、本実施形態の導電性基板の製造方法の一構成例について説明する。
なお、本実施形態の導電性基板の製造方法は、既述の有機被膜の製造方法や有機被膜製造装置を好適に用いて実施することができるため、導電性基板の製造方法において、すでに説明した事項については、説明を省略する。
本実施形態の導電性基板の製造方法では、銅含有金属層と黒化層との間に有機被膜を形成することができる。そして、本実施形態の導電性基板の製造方法は、以下の工程を有することができる。
透明基材の少なくとも一方の面上に湿式法により銅含有金属層を形成する銅含有金属層形成工程。
銅含有金属層が形成された透明基材を、浴槽に入れた窒素系有機物の溶液に浸漬して、銅含有金属層の上面に有機被膜を形成する有機被膜形成工程。
有機被膜の上面に黒化層を形成する黒化層形成工程。
有機被膜形成工程では、浴槽内の窒素系有機物の溶液の銅濃度を15ppm以下にする。
ここでまず、本実施形態の導電性基板の製造方法により得られる導電性基板の構成例について説明する。
導電性基板は、透明基材と、透明基材の少なくとも一方の面上に形成された銅含有金属層と、銅含有金属層上に形成された有機被膜と、有機被膜上に形成された黒化層と、を有することができる。
なお、本実施形態における導電性基板とは、銅含有金属層等をパターン化する前の、透明基材の表面に銅含有金属層、有機被膜、及び黒化層を有する基板と、銅含有金属層等をパターン化した基板、すなわち、配線基板と、を含む。
ここでまず、導電性基板に含まれる各部材について以下に説明する。
透明基材としては特に限定されるものではなく、可視光を透過する樹脂基板(樹脂フィルム)や、ガラス基板等の透明基材を好ましく用いることができる。
可視光を透過する樹脂基板の材料としては例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の樹脂を好ましく用いることができる。特に、可視光を透過する樹脂基板の材料として、PET(ポリエチレンテレフタレート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート等をより好ましく用いることができる。
透明基材の厚さについては特に限定されず、導電性基板とした場合に要求される強度や静電容量、光の透過率等に応じて任意に選択することができる。透明基材の厚さとしては例えば10μm以上200μm以下とすることができる。特にタッチパネルの用途に用いる場合、透明基材の厚さは20μm以上120μm以下とすることが好ましく、20μm以上100μm以下とすることがより好ましい。タッチパネルの用途に用いる場合で、例えば特にディスプレイ全体の厚さを薄くすることが求められる用途においては、透明基材の厚さは20μm以上50μm以下であることが好ましい。
透明基材の全光線透過率は高い方が好ましく、例えば全光線透過率は30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。透明基材の全光線透過率が上記範囲であることにより、例えばタッチパネルの用途に用いた場合にディスプレイの視認性を十分に確保することができる。
なお透明基材の全光線透過率はJIS K 7361−1に規定される方法により評価することができる。
次に、銅含有金属層について説明する。
銅含有金属層を構成する材料は特に限定されず、用途にあった電気伝導率を有する材料を選択できるが、例えば、銅含有金属層を構成する材料は、Cuと、Zn,Ni,Mo,Sn,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Mn,Co,Wから選ばれる少なくとも1種の以上の金属との銅合金、または銅を含む材料であることが好ましい。また、銅含有金属層は銅から構成される銅層とすることもできる。
透明基材上に銅含有金属層を形成する方法は特に限定されないが、光の透過率を低減させないため、透明基材と銅含有金属層との間に接着剤を配置しないことが好ましい。すなわち銅含有金属層は、透明基材の少なくとも一方の面上に直接形成されていることが好ましい。なお、後述のように透明基材と銅含有金属層との間に密着層を配置する場合には、銅含有金属層は密着層の上面に直接形成されていることが好ましい。
透明基材の上面に銅含有金属層を形成する場合は、上述のように、スパッタリング等の乾式法もしくは無電解めっき法により、銅含有金属薄膜層を形成する。次いで、該銅含有金属薄膜層上に、湿式めっき法により銅含有金属めっき層を形成して銅含有金属層を構成する。これにより、透明基材上に接着剤を介さずに直接銅含有金属層を形成できる。
なお、乾式めっき法としては後で詳述するが、例えばスパッタリング法や蒸着法、イオンプレーティング法等を好ましく用いることができる。
また、銅含有金属薄膜層と銅含有金属めっき層とから銅含有金属層を構成することにより、銅含有金属層の膜厚を厚くすることができる。なお、銅含有金属層の厚さは特に限定されるものではなく、銅含有金属層を配線として用いた場合に、該配線に供給する電流の大きさや配線幅等に応じて任意に選択することができる。
ただし、銅含有金属層が厚くなると、配線パターンを形成するためにエッチングを行う際にエッチングに時間を要するためサイドエッチが生じ易くなり、細線が形成しにくくなる等の問題を生じる場合がある。このため、銅含有金属層の厚さは5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。
また、特に導電性基板の抵抗値を低くし、十分に電流を供給できるようにする観点から、例えば銅含有金属層は厚さが50nm以上であることが好ましく、60nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。
なお、銅含有金属層が上述のように銅含有金属薄膜層と銅含有金属めっき層とを有する場合には、銅含有金属薄膜層の厚さと、銅含有金属めっき層の厚さとの合計が上記範囲であることが好ましい。
銅含有金属層が銅含有金属薄膜層と銅含有金属めっき層とを有する場合、銅含有金属薄膜層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば50nm以上500nm以下とすることが好ましい。
銅含有金属層は後述するように例えば所望の配線パターンにパターニングすることにより配線として用いることができる。そして、銅含有金属層は従来透明導電膜として用いられていたITOよりも電気抵抗値を低くすることができるから、銅含有金属層を設けることにより導電性基板の電気抵抗値を小さくできる。
次に有機被膜について説明する。
有機被膜は銅含有金属層の後述する黒化層と対向する面に形成することができる。従って、導電性基板とした場合に、銅含有金属層と黒化層との間に配置することができる。有機被膜は、窒素系有機物を含有することができる。これは有機被膜が窒素系有機物を含有することで、黒化層と、黒化層の下層である銅含有金属層及び有機被膜との密着性を特に高めることができる。そのため、銅含有金属層と黒化層の密着性が安定した導電性基板が得られる。このような導電性基板では、黒化層の剥離を抑制できるため、黒化層のエッチング性を高められる。また、有機被膜が窒素系有機物を含有することで、導電性基板の反射率を低減することができる。
有機被膜に用いる窒素系有機物としては特に限定されるものではなく、窒素を含有する有機化合物から任意に選択して用いることができる。有機被膜に用いる窒素系有機物は、例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾール、またはその誘導体を含むことが好ましい。有機被膜に用いる窒素系有機物としては、具体的には例えば、1,2,3−ベンゾトリアゾールや、5−メチル−1Hベンゾトリアゾール等を挙げることができる。
有機被膜に好適的に用いることができる窒素系有機物を含有する有機溶液としては、例えば銅用の防錆処理剤が挙げられ、市販されている薬品としては例えばOPCディフェンサー(商品名、奥野製薬工業株式会社)等を好ましく用いることができる。
有機被膜の窒素系有機物の含有量は0.2μg/cm2以上であることが好ましく、0.3μg/cm2以上であることがより好ましい。これは、本発明の発明者らの検討によれば、有機被膜の窒素系有機物の含有量を0.2μg/cm2以上とすることで、導電性基板の反射率を大幅に抑制することができるからである。また、有機被膜の窒素系有機物の含有量が増加すると、黒化層の色をCIE(L*a*b*)表色系に換算した際のa*値、b*値を下げることができ、特に導電性基板の配線を目立たなくすることができるため好ましいからである。
有機被膜の窒素系有機物の含有量の上限値は特に限定されるものではない。ただし、有機被膜の窒素系有機物の含有量を増加させるためには、有機被膜を形成する際に用いる窒素系有機物を含有する有機溶液の濃度を高めたり、窒素系有機物を含有する有機溶液に浸漬する時間を長くしたり等を行うこととなる。このため、有機被膜の窒素系有機物の含有量を過度に多くしようとすると、窒素系有機物を含有する溶液の取扱い性が低下したり、有機被膜を形成するために要する時間が長くなったり、生産性が低下するおそれがある。
そこで、有機被膜の窒素系有機物の含有量は、例えば10μg/cm2以下とすることが好ましく、また、含有量が低い方が黒化層の密着性が良好なため、1μg/cm2以下とすることがより好ましく、0.5μg/cm2以下とすることがさらに好ましい。
有機被膜を形成する際に用いる有機溶液中の窒素系有機物の濃度は特に限定されるものではなく、目標とする有機被膜中の窒素系有機物の含有量等を考慮して任意に選択することができる。例えば有機溶液中の窒素系有機物の濃度の下限値は、0.08g/L以上であることが好ましく、0.32g/L以上であることがより好ましい。また、上限値は、0.64g/L以下であることが好ましい。
基材を有機溶液に浸漬して銅含有金属層表面に有機被膜を形成する際の有機溶液の温度は特に限定されるものではなく、該溶液の粘度や操作性、反応性等を考慮して任意に選択することができる。例えば10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。ただし、温度が高くなると有機溶液が他の物質と反応するおそれがあることから、40℃以下とすることが好ましい。
有機溶液のpHは特に限定されるものではなく、例えば用いる有機溶液の種類や該溶液の反応性等を考慮して選択することができる。例えば有機溶液のpHは2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。ただし、pHが高くなると、例えば被膜中の窒素系有機物の含有量が低下することから、有機溶液のpHは4以下であることが好ましい。
銅含有金属層表面に有機被膜を形成する際に、基材を有機溶液に浸漬する時間(浸漬時間)の長さは特に限定されるものではなく、用いる有機溶液の種類や、形成する有機被膜の厚さ等に応じて任意に選択することができる。例えば浸漬時間は3秒以上であることが好ましく、4秒以上であることがより好ましい。ただし、浸漬時間を長くしすぎると、生産性が低下するおそれがあることから10秒以下であることが好ましい。なお、既述の有機被膜の製造方法においては、基材の搬送速度等を調整することにより、浸漬時間を所望の時間とすることができる。
次に黒化層について説明する。
黒化層は、有機被膜の上面に形成することができる。
黒化層の材料は特に限定されるものではなく、銅含有金属層表面における光の反射を抑制できる材料であれば好適に用いることができる。
黒化層は、例えば、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも1種以上の金属を含むことが好ましい。また、黒化層は、炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素をさらに含むこともできる。
なお、黒化層は、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金を含むこともできる。この場合についても、黒化層は炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素をさらに含むこともできる。この際、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金としては、Cu−Ti−Fe合金や、Cu−Ni−Fe合金、Ni−Cu合金、Ni−Zn合金、Ni−Ti合金、Ni−W合金、Ni−Cr合金、Ni−Cu−Cr合金を好ましく用いることができる。特にNi−Cu合金をより好ましく用いることができる。
黒化層の成膜方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により成膜することができ、例えば乾式法、または湿式法により成膜することができる。
黒化層を乾式法により成膜する場合、その具体的な方法は特に限定されるものではないが、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等の乾式めっき法を好ましく用いることができる。黒化層を乾式法により成膜する場合、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。なお、黒化層には上述のように炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を添加することもでき、この場合は反応性スパッタリング法をさらに好ましく用いることができる。
反応性スパッタリング法により黒化層を成膜する場合、ターゲットとしては、黒化層を構成する金属種を含むターゲットを用いることができる。黒化層が合金を含む場合には、黒化層に含まれる金属種毎にターゲットを用い、基材等の被成膜体の表面で合金を形成してもよく、予め黒化層に含まれる金属を合金化したターゲットを用いることもできる。
また、黒化層に炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素が含まれる場合、これらは黒化層を成膜する際の雰囲気中に添加しておくことにより、黒化層中に添加することができる。例えば、黒化層に炭素を添加する場合には一酸化炭素ガスおよび/または二酸化炭素ガスを、酸素を添加する場合には酸素ガスを、水素を添加する場合には水素ガスおよび/または水を、窒素を添加する場合には窒素ガスを、スパッタリングを行う際の雰囲気中に添加しておくことができる。黒化層を成膜する際の不活性ガス中にこれらのガスを添加することにより、炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を黒化層中に添加することができる。なお、不活性ガスとしてはアルゴンを好ましく用いることができる。
黒化層を湿式法により成膜する場合には、黒化層の材料に応じためっき液を用い、例えば電気めっき法により成膜することができる。
上述のように黒化層は、乾式法、湿式法のいずれの方法でも形成することができるが、黒化層を形成する際に、有機被膜を構成する材料が、めっき液中に溶け出し、黒化層中に取り込まれることで、黒化層の色調や他の特性に影響を及ぼすおそれがあるため、乾式法により成膜することが好ましい。
黒化層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば15nm以上であることが好ましく、25nm以上であることがより好ましい。これは、黒化層の厚さが薄い場合には、銅含有金属層表面における光の反射を十分に抑制できない場合があるため、上述のように黒化層の厚さを15nm以上とすることにより銅含有金属層表面における光の反射を特に抑制できるように構成することが好ましいためである。
黒化層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、必要以上に厚くしても成膜に要する時間や、配線を形成する際のエッチングに要する時間が長くなり、コストの上昇を招くことになる。このため、黒化層の厚さは70nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましい。
また、導電性基板は上述の透明基材、銅含有金属層、有機被膜、黒化層以外に任意の層を設けることもできる。例えば密着層を設けることができる。
密着層の構成例について説明する。
上述のように銅含有金属層は透明基材上に形成することができるが、透明基材上に銅含有金属層を直接形成した場合に、透明基材と銅含有金属層との密着性は十分ではない場合がある。このため、透明基材の上面に直接銅含有金属層を形成した場合、製造過程、または、使用時に透明基材から銅含有金属層が剥離する場合がある。
そこで、本実施形態の導電性基板においては、透明基材と銅含有金属層との密着性を高めるため、透明基材上に密着層を配置することができる。
透明基材と銅含有金属層との間に密着層を配置することにより、透明基材と銅含有金属層との密着性を高め、透明基材から銅含有金属層が剥離することを抑制できる。
また、密着層は黒化層としても機能させることができる。このため、銅含有金属層の下面側、すなわち透明基材側からの光による銅含有金属層の光の反射も抑制することが可能になる。
密着層を構成する材料は特に限定されるものではなく、透明基材及び銅含有金属層との密着力や、要求される銅含有金属層表面での光の反射の抑制の程度、また、導電性基板を使用する環境(例えば湿度や、温度)に対する安定性の程度等に応じて任意に選択することができる。
密着層は、例えば、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも1種以上の金属を含むことが好ましい。また、密着層は、炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素をさらに含むこともできる。
なお、密着層は、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金を含むこともできる。この場合についても、密着層は炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素をさらに含むこともできる。この際、Ni,Zn,Mo,Ta,Ti,V,Cr,Fe,Co,W,Cu,Sn,Mnから選ばれる少なくとも2種以上の金属を含む金属合金としては、Cu−Ti−Fe合金や、Cu−Ni−Fe合金、Ni−Cu合金、Ni−Zn合金、Ni−Ti合金、Ni−W合金、Ni−Cr合金、Ni−Cu−Cr合金を好ましく用いることができる。特にNi−Cu合金をより好ましく用いることができる。
密着層の成膜方法は特に限定されるものではないが、乾式めっき法により成膜することが好ましい。乾式めっき法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等を好ましく用いることができる。密着層を乾式法により成膜する場合、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。なお、密着層には上述のように炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を添加することもでき、この場合は反応性スパッタリング法をさらに好ましく用いることができる。
密着層が炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を含む場合には、密着層を成膜する際の雰囲気中に炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を含有するガスを添加しておくことにより、密着層中に添加することができる。例えば、密着層に炭素を添加する場合には一酸化炭素ガスおよび/または二酸化炭素ガスを、酸素を添加する場合には酸素ガスを、水素を添加する場合には水素ガスおよび/または水を、窒素を添加する場合には窒素ガスを、乾式めっきを行う際の雰囲気中に添加しておくことができる。
炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を含有するガスは、不活性ガスに添加し、乾式めっきの際の雰囲気ガスとすることが好ましい。不活性ガスとしては特に限定されないが、例えばアルゴンを好ましく用いることができる。
密着層を上述のように乾式めっき法により成膜することにより、透明基材と密着層との密着性を高めることができる。そして、密着層は例えば金属を主成分として含むことができるため銅含有金属層との密着性も高い。このため、透明基材と銅含有金属層との間に密着層を配置することにより、銅含有金属層の剥離を抑制することができる。
密着層の厚さは特に限定されるものではないが、例えば3nm以上50nm以下とすることが好ましく、3nm以上35nm以下とすることがより好ましく、3nm以上33nm以下とすることがさらに好ましい。
密着層についても黒化層として機能させる場合、すなわち銅含有金属層における光の反射を抑制する場合、密着層の厚さを上述のように3nm以上とすることが好ましい。
密着層の厚さの上限値は特に限定されるものではないが、必要以上に厚くしても成膜に要する時間や、配線を形成する際のエッチングに要する時間が長くなり、コストの上昇を招くことになる。このため、密着層の厚さは上述のように50nm以下とすることが好ましく、35nm以下とすることがより好ましく、33nm以下とすることがさらに好ましい。
次に、導電性基板の構成例について説明する。
上述のように、本実施形態の導電性基板は透明基材と、銅含有金属層と、有機被膜と、黒化層と、を有することができる。また、任意に密着層等の層を設けることもできる。
具体的な構成例について、図2を用いて以下に説明する。図2は、本実施形態の導電性基板の、透明基材、銅含有金属層、有機被膜、黒化層の積層方向と平行な面における断面図の例を示している。
本実施形態の導電性基板は、例えば透明基材の少なくとも一方の面上に、透明基材側から銅含有金属層と、有機被膜と、黒化層とがその順に積層された構造を有することができる。
具体的には例えば、図2(a)に示した導電性基板20Aのように、透明基材21の一方の面21a側に銅含有金属層22と、有機被膜23と、黒化層24と、を一層ずつその順に積層することができる。また、図2(b)に示した導電性基板20Bのように、透明基材21の一方の面21a側と、もう一方の面(他方の面)21b側と、にそれぞれ銅含有金属層22A、22Bと、有機被膜23A、23Bと、黒化層24A、24Bと、を一層ずつその順に積層することができる。
また、さらに任意の層として、例えば密着層を設けた構成とすることもできる。この場合例えば、透明基材の少なくとも一方の面上に、透明基材側から密着層と、銅含有金属層と、有機被膜と、黒化層とがその順に形成された構造とすることができる。
具体的には、例えば図3(a)に示した導電性基板30Aのように、透明基材21の一方の面21a側に、密着層25と、銅含有金属層22と、有機被膜23と、黒化層24と、をその順に積層することができる。
この場合も透明基材21の両面に密着層、銅含有金属層、有機被膜、黒化層を積層した構成とすることもできる。具体的には図3(b)に示した導電性基板30Bのように、透明基材21の一方の面21a側と、他方の面21b側と、にそれぞれ密着層25A、25Bと、銅含有金属層22A、22Bと、有機被膜23A、23Bと、黒化層24A、24Bとをその順に積層できる。
なお、図2(b)、図3(b)において、透明基材の両面に銅含有金属層、有機被膜、黒化層等を積層した場合に、透明基材21を対称面として透明基材21の上下に積層した層が対称になるように配置した例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば、図3(b)において、透明基材21の一方の面21a側の構成を図2(b)の構成と同様に、密着層25Aを設けずに銅含有金属層22Aと、有機被膜23Aと、黒化層24Aとをその順に積層した形態とし、透明基材21の上下に積層した層を非対称な構成としてもよい。
本実施形態の導電性基板においては、透明基材上に銅含有金属層と、有機被膜と、黒化層とを設けることで、銅含有金属層による光の反射を抑制し、導電性基板の反射率を抑制することができる。
本実施形態の導電性基板の反射率の程度については特に限定されるものではないが、例えばタッチパネル用の導電性基板として用いた場合のディスプレイの視認性を高めるためには、反射率は低い方が良い。例えば、波長400nm以上700nm以下の光の平均反射率が20%以下であることが好ましく、17%以下であることがより好ましく、15%以下であることが特に好ましい。
反射率の測定は、導電性基板の黒化層に光を照射するようにして行うことができる。具体的には、例えば図2(a)のように透明基材21の一方の面21a側に銅含有金属層22、有機被膜23、黒化層24の順に積層した場合、黒化層24に光を照射するように黒化層24の表面Aに対して光を照射し、測定できる。測定に当たっては波長400nm以上700nm以下の光を例えば波長1nm間隔で上述のように導電性基板の黒化層24に対して照射し、測定した値の平均値を該導電性基板の反射率とすることができる。
本実施形態の導電性基板はタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。この場合導電性基板はメッシュ状の配線を備えた構成とすることができる。
メッシュ状の配線を備えた導電性基板は、ここまで説明した本実施形態の導電性基板の銅含有金属層、有機被膜、及び黒化層をエッチングすることにより得ることができる。
例えば、二層の配線によりメッシュ状の配線とすることができる。具体的な構成例を図4に示す。図4はメッシュ状の配線を備えた導電性基板40を銅含有金属層等の積層方向の上面側から見た図を示しており、配線パターンが分かり易いように、透明基材21、及び銅含有金属層をパターニングして形成した配線41A、41B以外の層は記載を省略している。また、透明基材21を透過して見える配線41Bも示している。
図4に示した導電性基板40は、透明基材21と、図中Y軸方向に平行な複数の配線41Aと、X軸方向に平行な配線41Bとを有している。なお、配線41A、41Bは銅含有金属層をエッチングして形成されており、該配線41A、41Bの上面および/または下面には図示しない有機被膜、及び黒化層が形成されている。また、有機被膜、及び黒化層は、透明基材の配線等を形成した面(透明基材の主表面ともいう)と平行な面における断面が配線41A、41Bと同じ形状にエッチングされている。
透明基材21と配線41A、41Bとの配置は特に限定されない。透明基材21と配線との配置の構成例を図5(a)、(b)に示す。図5(a)、(b)は図4のA−A´線での断面図に当たる。
まず、図5(a)に示したように、透明基材21の上下面にそれぞれ配線41A、41Bが配置されていてもよい。なお、図5(a)では配線41Aの上面、及び41Bの下面には、配線と同じ形状にエッチングされた有機被膜42A、42B、黒化層43A、43Bが配置されている。
また、図5(b)に示したように、1組の透明基材21を用い、一方の透明基材21を挟んで上下面に配線41A、41Bを配置し、かつ、一方の配線41Bは透明基材21間に配置されてもよい。この場合も、配線41A、41Bの上面には配線と同じ形状にエッチングされた有機被膜42A、42B、黒化層43A、43Bが配置されている。なお、既述のように、銅含有金属層、有機被膜、黒化層以外に密着層を設けることもできる。このため、図5(a)、(b)いずれの場合でも、例えば配線41Aおよび/または配線41Bと透明基材21との間に密着層を設けることもできる。密着層を設ける場合、密着層も配線41A、41Bと同じ形状にエッチングされていることが好ましい。
図4及び図5(a)に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は例えば、図2(b)のように透明基材21の両面に銅含有金属層22A、22Bと、有機被膜23A、23Bと、黒化層24A、24Bを備えた導電性基板から形成することができる。
図2(b)の導電性基板を用いて形成した場合を例に説明すると、まず、透明基材21の一方の面21a側の銅含有金属層22A、有機被膜23A、及び黒化層24Aを、図2(b)中Y軸方向に平行な複数の線状のパターンがX軸方向に沿って所定の間隔をあけて配置されるようにエッチングを行う。なお、図2(b)中のX軸方向は、各層の幅方向と平行な方向を意味している。また、図2(b)中のY軸方向とは、図2(b)中の紙面と垂直な方向を意味している。
そして、透明基材21の他方の面21b側の銅含有金属層22B、有機被膜23B、及び黒化層24Bを図2(b)中X軸方向と平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけてY軸方向に沿って配置されるようにエッチングを行う。
以上の操作により図4、図5(a)に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板を形成することができる。なお、透明基材21の両面のエッチングは同時に行うこともできる。すなわち、銅含有金属層22A、22B、有機被膜23A、23B、黒化層24A、24Bのエッチングは同時に行ってもよい。また、図5(a)において、配線41A、41Bと、透明基材21との間にさらに配線41A、41Bと同じ形状にパターニングされた密着層を有する導電性基板は、図3(b)に示した導電性基板を用いて同様にエッチングを行うことで作製できる。
図4に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板は、図2(a)または図3(a)に示した導電性基板を2枚用いることにより形成することもできる。図2(a)の導電性基板を2枚用いて形成した場合を例に説明すると、図2(a)に示した導電性基板2枚についてそれぞれ、銅含有金属層22、有機被膜23、及び黒化層24を、X軸方向と平行な複数の線状のパターンが所定の間隔をあけてY軸方向に沿って配置されるようにエッチングを行う。そして、上記エッチング処理により各導電性基板に形成した線状のパターンが互いに交差するように向きをあわせて2枚の導電性基板を貼り合せることによりメッシュ状の配線を備えた導電性基板とすることができる。2枚の導電性基板を貼り合せる際に貼り合せる面は特に限定されるものではない。例えば、銅含有金属層22等が積層された図2(a)における表面Aと、銅含有金属層22等が積層されていない図2(a)における他方の面21bとを貼り合せて、図5(b)に示した構造となるようにすることもできる。
また、例えば透明基材21の銅含有金属層22等が積層されていない図2(a)における他方の面21b同士を貼り合せて断面が図5(a)に示した構造となるようにすることもできる。
なお、図5(a)、図5(b)において、配線41A、41Bと、透明基材21との間にさらに配線41A、41Bと同じ形状にパターニングされた密着層を有する導電性基板は、図2(a)に示した導電性基板に代えて図3(a)に示した導電性基板を用いることで作製できる。
図4、図5に示したメッシュ状の配線を有する導電性基板における配線の幅や、配線間の距離は特に限定されるものではなく、例えば、配線に流す電流量等に応じて選択することができる。
また、図4、図5においては、直線形状の配線を組み合わせてメッシュ状の配線(配線パターン)を形成した例を示しているが、係る形態に限定されるものではなく、配線パターンを構成する配線は任意の形状とすることができる。例えばディスプレイの画像との間でモアレ(干渉縞)が発生しないようメッシュ状の配線パターンを構成する配線の形状をそれぞれ、ぎざぎざに屈曲した線(ジグザグ直線)等の各種形状にすることもできる。
このように2層の配線から構成されるメッシュ状の配線を有する導電性基板は、例えば投影型静電容量方式のタッチパネル用の導電性基板として好ましく用いることができる。
導電性基板の製造方法に含まれる各工程のうち、銅含有金属層形成工程では、図2に示すように透明基材21の少なくとも一方の面21a上に湿式法により銅含有金属層22が形成される。なお、銅含有金属層形成工程に供する透明基材21は、予め準備しておくことができる。用いる透明基材の種類は特に限定されるものではないが、既述のように可視光を透過する樹脂基板(樹脂フィルム)や、ガラス基板等の透明基材を好ましく用いることができる。透明基材は必要に応じて予め任意のサイズに切断等行っておくこともできる。
そして、銅含有金属層は既述のように、銅含有金属めっき層を有することができる。また、銅含有金属層は銅含有金属薄膜層と銅含有金属めっき層とを有することもできる。このため、銅含有金属層形成工程の前に、例えば湿式めっき法により銅含有金属めっき層を形成する工程を有することができる。また、銅含有金属層形成工程は、予め乾式めっき法もしくは無電解めっき法により銅含有金属薄膜層を形成する工程の後に行うことができる。そして、該銅含有金属薄膜層を給電層として、湿式めっき法の一種である電気めっき法により銅含有金属めっき層を形成する工程とすることができる。
なお、銅含有金属薄膜層を形成する工程で用いる乾式めっき法としては、特に限定されるものではなく、例えば、蒸着法、スパッタリング法、又はイオンプレーティング法等を用いることができる。なお、蒸着法としては真空蒸着法を好ましく用いることができる。銅含有金属薄膜層を形成する工程で用いる乾式めっき法としては、特に膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。
次に銅含有金属めっき層を形成する工程について説明する。なお、銅含有金属めっき層を形成する工程は、銅含有金属層形成工程に含まれている。湿式めっき法により銅含有金属めっき層を形成する工程における条件、すなわち、電気めっき処理の条件は、特に限定されるものではなく、常法による諸条件を採用すればよい。例えば、金属めっき液を入れためっき槽に銅含有金属薄膜層を形成した基材を供給し、電流密度や、基材の搬送速度を制御することによって、銅含有金属めっき層を形成できる。
銅含有金属層に好適に用いることができる材料や、銅含有金属層の好適な厚さ等については既述のため、ここでは説明を省略する。
次に、有機被膜形成工程について説明する。
有機被膜形成工程では、銅含有金属層22が形成された透明基材21が、浴槽内の窒素系有機物の溶液に浸漬されることにより、透明基材21に形成された銅含有金属層22に有機被膜が形成される。なお、この有機被膜形成工程は、既述の有機被膜の製造方法に含まれる有機被膜形成工程または有機被膜製造装置に含まれる有機被膜製造手段を用いることができる。
また、有機被膜形成工程では、浴槽内の窒素系有機物の溶液の銅濃度が、15ppm以下に調整され、好ましくは8ppm以下に調整される。これにより、透明基材21上に残留しためっき液が浴槽に持ち込まれても、浴槽内の溶液の銅濃度が高くなるのを防ぐことができる。そのため、有機被膜の厚さが過度に厚くなるの防ぐことができる。
有機被膜形成工程では、浴槽内の溶液の銅濃度が15ppm以下になるように浴槽に補充溶液を補給することができる。この場合、浴槽内の溶液の銅濃度を15ppm以下の低い濃度に調整することが容易である。そのため、透明基材21上に残留しためっき液が浴槽に持ち込まれても、浴槽内の溶液の銅濃度が高くなるのを確実に防ぐことができる。そのため、有機被膜の厚さが過度に厚くなるのを高い精度で防ぐことができる。
既述のように、銅含有金属層と黒化層との間に有機被膜を設けることで、有機被膜の厚さが過度に厚くなるのを抑制することができる。そのため、導電性基板の反射率を抑制しながら、黒化層の密着性が向上し、エッチング性を高めることができる。
有機被膜は既述の有機被膜の製造方法により形成することができる。また、有機被膜を形成する際に用いる有機溶液等については既述のため、ここでは説明を省略する。
次に、黒化層形成工程について説明する。
黒化層形成工程では、有機被膜の上面に黒化層を形成することができる。黒化層形成工程において、黒化層を形成する方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により形成することができる。
黒化層形成工程において黒化層を成膜する方法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等の乾式めっき法を好ましく用いることができる。特に、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。なお、黒化層には既述のように炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を添加することもでき、この場合は反応性スパッタリング法をさらに好ましく用いることができる。
また、既述のように黒化層は電気めっき法等の湿式法により成膜することもできる。
ただし、黒化層を形成する際に、有機被膜を構成する材料が、めっき液中に溶け出し、黒化層中に取り込まれることで、黒化層の色調や他の特性に影響を及ぼすおそれがあるため、乾式法により成膜することが好ましい。
黒化層に好適に用いることができる材料や、黒化層の好適な厚さ等については既述のため、ここでは説明を省略する。
本実施形態の導電性基板の製造方法においては、上述の工程に加えてさらに任意の工程を実施することもできる。
例えば透明基材と銅含有金属層との間に密着層を形成する場合、透明基材の銅含有金属層を形成する面上に密着層を形成する密着層形成工程を実施することができる。密着層形成工程を実施する場合、銅含有金属層形成工程は、密着層形成工程の後に実施することができ、銅含有金属層形成工程では、本工程で透明基材上に密着層を形成した基材に銅含有金属薄膜層を形成できる。
密着層形成工程において、密着層の成膜方法は特に限定されるものではないが、乾式めっき法により成膜することが好ましい。乾式めっき法としては例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法や蒸着法等を好ましく用いることができる。密着層を乾式法により成膜する場合、膜厚の制御が容易であることから、スパッタリング法を用いることがより好ましい。なお、密着層には既述のように炭素、酸素、水素、窒素から選ばれる1種以上の元素を添加することもでき、この場合は反応性スパッタリング法をさらに好ましく用いることができる。
密着層に好適に用いることができる材料や、密着層の好適な厚さ等については既述のため、ここでは説明を省略する。
本実施形態の導電性基板の製造方法で得られる導電性基板は例えばタッチパネル等の各種用途に用いることができる。そして、各種用途に用いる場合には、本実施形態の導電性基板に含まれる銅含有金属層、有機被膜、及び黒化層がパターン化されていることが好ましい。なお、密着層を設ける場合は、密着層についてもパターン化されていることが好ましい。銅含有金属層、有機被膜、及び黒化層、場合によってはさらに密着層は、例えば所望の配線パターンにあわせてパターン化することができ、銅含有金属層、有機被膜、及び黒化層、場合によってはさらに密着層は同じ形状にパターン化されていることが好ましい。
このため、本実施形態の導電性基板の製造方法は、銅含有金属層、有機被膜及び黒化層をパターニングするパターニング工程を有することができる。なお、密着層を形成した場合には、パターニング工程は、密着層、銅含有金属層、有機被膜、及び黒化層をパターニングする工程とすることができる。
パターニング工程の具体的手順は特に限定されるものではなく、任意の手順により実施することができる。例えば図2(a)のように透明基材21上に銅含有金属層22、有機被膜23、黒化層24が積層された導電性基板20Aの場合、まず黒化層24上の表面Aに所望のパターンを有するマスクを配置するマスク配置ステップを実施することができる。次いで、黒化層24の上の表面A、すなわち、マスクを配置した面側にエッチング液を供給するエッチングステップを実施できる。
エッチングステップにおいて用いるエッチング液は特に限定されるものではなく、エッチングを行う層を構成する材料に応じて任意に選択することができる。例えば、層毎にエッチング液を変えることもでき、また、同じエッチング液により同時に銅含有金属層、有機被膜、及び黒化層、場合によってはさらに密着層をエッチングすることもできる。
また、図2(b)のように透明基材21の一方の面21a、他方の面21bに銅含有金属層22A、22B、有機被膜23A、23B、黒化層24A、24Bを積層した導電性基板20Bについてもパターニングするパターニング工程を実施できる。この場合、例えば黒化層24A、24B上の表面A、及び表面Bに所望のパターンを有するマスクを配置するマスク配置ステップを実施できる。次いで、黒化層24A、24B上の表面A、及び表面B、すなわち、マスクを配置した面側にエッチング液を供給するエッチングステップを実施できる。
エッチングステップで形成するパターンについては特に限定されるものではなく、任意の形状とすることができる。例えば図2(a)に示した導電性基板20Aの場合、既述のように銅含有金属層22、有機被膜23、及び黒化層24を複数の直線や、ぎざぎざに屈曲した線(ジグザグ直線)を含むようにパターンを形成することができる。
また、図2(b)に示した導電性基板20Bの場合、銅含有金属層22Aと、銅含有金属層22Bとでメッシュ状の配線となるようにパターンを形成することができる。この場合、有機被膜23A、及び黒化層24Aは、銅含有金属層22Aと同様の形状に、有機被膜23B、及び黒化層24Bは銅含有金属層22Bと同様の形状になるようにそれぞれパターニングを行うことが好ましい。
また、例えばパターニング工程で上述の導電性基板20Aについて銅含有金属層22等をパターン化した後、パターン化した2枚以上の導電性基板を積層する積層工程を実施することもできる。積層する際、例えば各導電性基板の銅含有金属層のパターンが交差するように積層することにより、メッシュ状の配線を備えた積層導電性基板を得ることもできる。
積層した2枚以上の導電性基板を固定する方法は特に限定されるものではないが、例えば接着剤等により固定することができる。
以上の本実施形態の導電性基板の製造方法により得られる導電性基板は、透明基材の少なくとも一方の面上に形成された銅含有金属層上に、有機被膜と、黒化層と、を積層した構造を有している。また、有機被膜を既述の有機被膜の製造方法により製造しているため、均一な膜とすることができる。
このため、黒化層と、黒化層の下層である銅含有金属層及び有機被膜との密着性を特に高めることができ、黒化層の剥離を抑制できるため、黒化層のエッチング性を高めることができる。すなわち、黒化層と銅含有金属層との間にこのような有機被膜を形成することにより、有機被膜の厚さが過度に厚くなるのを抑制することができる。その結果、黒化層の密着性を高めることができ、エッチング性を向上させることができる。
さらには、銅含有金属層や黒化層等について微細配線加工を容易に行うことができるため、銅含有金属層表面における光の反射を抑制し、反射率を抑制した導電性基板とすることができる。そのため、このような導電性基板を、例えばタッチパネル等の用途に用いた場合に、ディスプレイの視認性を高めることができる。
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、得られた導電性基板の黒化層の密着性の評価方法について説明する。
図6に示すように、黒化層まで形成した導電性基板の黒化層に対して、切込み工具(Precision Gate&Tool Company社製 Cross Cut Kit 1.0MM)を用いて、長さ20mmの縦切り込み線61aを1.0mm間隔で互いに平行になるように11本形成する。
次いで同じ切込み工具を用いて、先に形成した縦切込み線61aと直交するように、長さ20mmの横切り込み線61bを1.0mm間隔で互いに平行になるように11本形成する。
以上の工程により、図6に示すように黒化層に縦方向、横方向それぞれ11本の切込み線により、格子状の切込みが形成される。
次いで、格子状の切込みを覆うように密着度評価用テープ(エルコメーター社製 Elcometer99テープ)を貼り付けた後、十分に擦り付ける。
密着度評価用テープを貼り付けてから30秒経過後に測定面に対して可能な限り180°の方向に素早く密着度評価用テープを剥がす。
密着度評価用テープを剥がした後、格子状の縦切込み線61a、及び横切込み線61bとで囲まれた、図6中の評価領域62内で黒化層の下に形成した銅含有金属層(有機物層)が露出した面積により密着性の評価を行った。
評価領域内の銅含有金属層の露出面積が0%の場合を5B、0%より多く5%未満の場合を4B、5%以上15%未満の場合を3B、15%以上35%未満の場合を2B、35%以上65%未満の場合を1B、65%以上の場合を0Bと評価した。係る評価について0Bが最も黒化層の密着性が低く、5Bが黒化層の密着性が最も高くなる。
密着性試験の結果、4B、5Bの場合について黒化層の密着性が十分であると評価できる。すなわち、有機被膜の厚さが、黒化層が剥離しない程度の所望の厚さとなるように、有機被膜が形成されていることを示している。
(試料の作製条件)
実施例、比較例として、以下に説明する条件で導電性基板を作製し、上述の評価方法により評価を行った。
[実施例1]
(密着層形成工程)
幅570mm、厚さ50μmの長尺シートであるポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)製の透明基材の一方の面上に密着層を成膜した。なお、透明基材として用いたポリエチレンテレフタレート樹脂製の透明基材について、全光線透過率をJIS K 7361−1に規定された方法により評価を行ったところ97%であった。
密着層形成工程では、Ni−17重量%Cu合金のターゲットを装着したロール・トゥ・ロールスパッタリング装置により、密着層として酸素を含有するNi−Cu合金層を成膜した。以下に密着層の成膜手順について説明する。
予め60℃まで加熱して水分を除去した上述の透明基材を、スパッタリング装置のチャンバー内に設置した。
次に、チャンバー内を1×10−3Paまで排気した後、アルゴンガスと酸素ガスとを導入し、チャンバー内の圧力を1.3Paとした。なお、この際チャンバー内の雰囲気は体積比で30%が酸素、残部がアルゴンとしている。
そして係る雰囲気下でターゲットに電力を供給し、透明基材を搬送しつつ、透明基材の一方の面上に密着層を厚さが20nmになるように成膜した。
(銅含有金属層形成工程)
銅含有金属層形成工程では、銅含有金属めっき層形成工程を実施した。
なお、銅含有金属層形成工程の前に銅含有金属薄膜層形成工程を実施した。
まず、銅含有金属薄膜層形成工程について説明する。
銅含有金属薄膜層形成工程では、基材として密着層形成工程で透明基材上に密着層を成膜したものを用い、密着層上に銅含有金属薄膜層として銅薄膜層を形成した。
銅含有金属薄膜層は、銅のターゲットを用いた点と、基材をセットしたチャンバー内を排気した後、アルゴンガスを供給してアルゴン雰囲気とした点以外は、密着層の場合と同様にしてロール・トゥ・ロールスパッタリング装置により成膜した。
銅含有金属薄膜層である銅薄膜層は膜厚が150nmとなるように成膜した。銅含有金属薄膜層が形成された基材は、ロール・トゥ・ロール方式の搬送手段を備えた有機被膜製造装置の巻出ローラに巻き取る。そして、図1に示すように、巻出ローラ15に巻き取られた基材14は、巻出ローラ15から3.5m/minの搬送速度で後述のめっき浴11aに搬送され銅含有金属層形成工程が行われる。
銅含有金属層形成工程では、上述の銅含有金属薄膜層形成工程で予めスパッタリングにより形成した銅含有金属薄膜層に、湿式めっき法により銅含有金属めっき層を形成することにより銅含有金属層を形成した。具体的には、図1の有機被膜製造装置を用いて、銅含有金属薄膜層を形成した基材14を、めっき液11b(硫酸銅溶液)を入れためっき浴11aを通過させて、電気めっき法により銅含有金属めっき層の厚さが0.5μmになるように銅含有金属めっき層を成膜した。
その後、銅含有金属層が形成された基材14は、めっき浴11aの下流側に設けられた水洗手段17およびエアーナイフ18により、基材14の有機被膜を形成する面である一方の面について銅含有金属層を洗浄し、液切を行った。洗浄および液切が行われた基材14は、後述の防錆処理剤を入れた浴槽12aに搬送され、有機被膜形成工程が行われる。
(有機被膜形成工程)
有機被膜形成工程では、透明基材上に、密着層と、銅含有金属層とが形成された基材の銅含有金属層上に、有機被膜を形成した。なお、有機被膜形成工程では、図1の有機被膜製造装置の一例を用いて有機被膜を形成した。
有機被膜形成工程では、有機溶液として、窒素系有機物である1,2,3−ベンゾトリアゾールを含有する防錆処理剤(OPCディフューザー、奥野製薬工業株式会社製)の水溶液(溶液12b)を浴槽12aに入れ、この浴槽中に上述の基材14を7秒間浸漬した。なお、有機溶液は、防錆処理剤の濃度が1.6ml/L、容量120L、浴温23℃、pH3となるように予め調整して用いた。
また、浴槽12aには、防錆処理剤6.5ml/Lの水溶液を1時間あたり5L定量補充し、7時間連続で操業した後の銅濃度が6ppm以下となるように調整した。防錆処理剤の補充は、補給用の防錆処理剤の水溶液(補充溶液13b)が貯蔵されたタンク13aから補給管13cを介して補充溶液13bが浴槽12aに補給されることにより行った。
有機被膜形成工程を経て有機被膜が形成された基材14は、その後、さらに基材14の搬送方向(ブロック矢印1の方向)下流側に設けた水洗手段19により、基材14の表面に付着した有機溶液を水洗して除去した後、図示しない乾燥手段により乾燥し、図示しない巻き取りロールにより、有機被膜を形成した基材を巻き取った。
(黒化層形成工程)
黒化層形成工程では、有機被膜形成工程で基材14に形成した有機被膜上に、スパッタリング法により黒化層としてNi−Cu層を形成した。
黒化層形成工程では、Ni−35重量%Cu合金のターゲットを装着したロール・トゥ・ロールスパッタリング装置により、黒化層としてNi−Cu合金層を成膜した。以下に黒化層の成膜手順について説明する。
まず、透明基材上に、密着層と、銅含有金属層と、有機被膜と、を積層した積層体をスパッタリング装置のチャンバー内にセットした。
次にチャンバー内を1×10−3Paまで排気した後、アルゴンガスを導入し、チャンバー内の圧力を1.3Paとした。
そして係る雰囲気下でターゲットに電力を供給し、基材を搬送しつつ、有機被膜上に厚さ30nmになるように黒化層を成膜した。
以上の工程により、銅含有金属層の上面、すなわち、銅含有金属層の密着層と対向する面と反対側の面に有機被膜を介して黒化層を形成し、透明基材上に、密着層、銅含有金属層、有機被膜、黒化層がその順で積層された導電性基板が得られた。
得られた導電性基板について、密着性試験を実施したところ5Bであった。
[実施例2]
有機被膜形成工程において、上記の有機被膜製造装置を用い、浴槽に防錆処理剤の水溶液の補充は行わず、7時間連続で操業し、銅濃度が10ppmとなるように調整した以外は、実施例1と同様にして導電性基板を作製した。
得られた導電性基板について、密着性試験を実施したところ4Bであった。
[比較例1]
有機被膜形成工程において、上述の有機被膜製造装置を用い、浴槽に防錆処理剤の水溶液の定量補充は行わず、14時間連続で操業し、銅濃度が18ppmとなるように調整した以外は、以外は実施例1と同様にして導電性基板を作製した。
得られた導電性基板について、密着性試験を実施したところ3Bであった。
実施例1、実施例2、比較例1の結果から、浴槽中の防錆処理剤の水溶液の銅濃度を15ppm以下に調整することにより、密着性試験の結果は4B以上となり、黒化層の密着性を高めることができることが確認された。この結果は、有機被膜の厚さが適正な厚さに制御されたことを示している。
また、実施例1、実施例2、比較例1の結果から、浴槽中に防錆処理剤の水溶液を補充しながら、浴槽中の防錆処理剤の水溶液の銅濃度を8ppm以下に調整することにより、密着性試験の結果は5Bとなり、黒化層の密着性をさらに高めることができることが確認された。この結果は、有機被膜の厚さが特に適正な厚さに制御されたことを示している。