以下、添付図面を参照して本願の開示する作業車両の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
<作業車両(トラクタ)の全体構成>
まず、図1を参照して作業車両1の全体構成について説明する。図1は、作業車両1の概略左側面図である。なお、以下では、作業車両1としてトラクタを例に説明する。また、作業車両であるトラクタ1は、自走しながら圃場などで作業を行う農用トラクタである。
また、以下において、前後方向とは、トラクタ1の直進時における進行方向であり、進行方向前方側を「前」、後方側を「後」と規定する。なお、トラクタ1の進行方向とは、トラクタ1の直進時において、操縦席7からステアリングホイール8へ向かう方向である(図1参照)。
左右方向とは、前後方向に対して水平に直交する方向である。以下では、「前」側へ向けて左右を規定する。すなわち、操縦者(作業者ともいう)が操縦席7に着席して前方を向いた状態で、左手側が「左」、右手側が「右」である。上下方向とは、鉛直方向である。したがって、前後方向、左右方向および上下方向は、互いに3次元で直交する。
図1に示すように、トラクタ1は、前輪3と、後輪4と、駆動源であるエンジンEとを備えている。前輪3は、左右一対で設けられ、主に操舵用の車輪、すなわち操舵輪として設けられている。後輪4は、左右一対で設けられ、主に駆動用の車輪、すなわち駆動輪として設けられている。
トラクタ1は、機体2前部のボンネット内に搭載されたエンジンEから出力される回転動力を、ミッションケース5内の変速装置20(図2参照)で適宜減速する。後輪4には、このように変速装置20で減速された回転動力が伝達される。
また、トラクタ1は、機体2後部にキャビン6を備えている。キャビン6内には、後部に操縦席7が設けられ、操縦席7の前方に、前輪3を操舵するステアリングホイール8が設けられている。ステアリングホイール8の前方には、各種情報を表示する表示部(メータパネル)9が設けられている。
また、トラクタ1は、機体2後部にロータリ作業機202などの作業機200(図15参照)が連結される。作業機200は、ミッションケース5から後方へ突出しているPTO(Power Take-off)出力軸50の回転動力によって駆動される。なお、PTO出力軸50の他、機体2後部には、機体2に作業機200を連結するリフトアームなどが設けられている。
キャビン6内には、たとえば、操縦席7の前方において、ステアリングホイール8の左側方に前後進切換レバー13、ステアリングホイール8の右側方にアクセルレバー14(図5参照)が設けられている。また、キャビン6内には、たとえば、操縦席7の右側方に、変速操作具として、主変速操作部15、副変速レバー16(いずれも、図7参照)などが設けられている。
また、キャビン6内には、たとえば、ステアリングホイール8の下方において、左方にクラッチペダル10、右方にブレーキペダル11やアクセルペダル12などの各種操作ペダルが設けられている。ブレーキペダル11は、左右一対(左側ブレーキペダル11L、右側ブレーキペダル11R)で構成されている。なお、キャビン6内において操縦席7の周りに設けられた各種操作機器については、図5〜図7を用いて後述する。
<作業車両(トラクタ)の動力伝達>
次に、図2を参照してトラクタ1の動力伝達について説明する。図2は、作業車両(トラクタ)1の動力伝達模式説明図である。図2に示すように、トラクタ1は、ミッションケース5内に、変速装置(トランスミッション)20を備えている。変速装置20は、エンジンEから後輪4などへ回転動力を伝達する動力伝達装置21を備えている。動力伝達装置21は、エンジンEから出力される回転動力を、前輪3、後輪4および、機体2に連結された作業機200(図15参照)へ伝達し、前輪3、後輪4および作業機200を駆動する。
動力伝達装置21は、前後進切換部22と、主変速部23と、副変速部24と、前輪変速部25とを備えている。動力伝達装置21は、エンジンEからの回転動力を、たとえば、入力軸26、前後進切換部22、主変速部23、副変速部24を順に介して後輪4,4へ伝達する。
また、動力伝達装置21は、エンジンEからの回転動力を、たとえば、入力軸26、前後進切換部22、主変速部23、副変速部24、前輪変速部25を順に介して前輪3,3へ伝達する。また、動力伝達装置21は、エンジンEからの回転動力を、たとえば、入力軸26、PTO駆動部を順に介して作業機200へ伝達する。
図2に示すように、入力軸26は、エンジンEの出力軸に設けられ、エンジンEからの回転動力が伝達(入力)される。なお、以下では、動力伝達の方向について、エンジンE側を動力伝達上流側と規定し、最終的な出力先である前輪3,3、後輪4,4および作業機200側をそれぞれ動力伝達下流側と規定する。
前後進切換部(以下、前後進クラッチ部という)22は、エンジンEから伝達される回転動力を、前進方向の回転または後進方向の回転に切り換える。前後進クラッチ部22は、前進側油圧多板クラッチ(前進クラッチ)36a、後進側油圧多板クラッチ(後進クラッチ)36b、前進ギヤ37a、後進ギヤ37b(いずれも、図3参照)などを備えている。なお、前進クラッチ36aと後進クラッチ36bとは、「前後進クラッチ22a(図3参照)」を形成する。
前後進クラッチ22aは、メイン軸27の正逆転によって、トラクタ1の前進と後進とを切り換える。前後進クラッチ22aは、たとえば、操縦席7において前後進切換レバー13(図5参照)が操作されることで、油圧制御によって、前進と後進とを切り換える。また、前後進クラッチ22aは、クラッチペダル10(図1参照)が踏み込み操作されることで、前進クラッチ36aと後進クラッチ36bとが接続解除状態(ニュートラル状態)となる。
主変速部23は、主変速装置と、高低(Hi−Lo)変速装置とを備えている。主変速装置は、エンジンEからの回転動力を、複数の変速段のいずれかで変速する。主変速装置は、第1主変速クラッチと、第2主変速クラッチとを備え、複数の変速段として、たとえば1速ギヤ〜4速ギヤを備えている。
第1主変速クラッチは、油圧多板式の1速クラッチと、油圧多板式の3速クラッチとを備え、1速クラッチ側に1速ギヤが設けられ、3速クラッチ側に3速ギヤが設けられている。第2主変速クラッチは、油圧多板式の2速クラッチと、油圧多板式の4速クラッチとを備え、2速クラッチ側に2速ギヤが設けられ、4速クラッチ側に4速ギヤが設けられている。なお、第1主変速クラッチと第2主変速クラッチとは、「主変速クラッチ」を形成する。
主変速クラッチは、第1主変速クラッチおよび第2主変速クラッチの接続状態に応じて、エンジンEからの回転動力を1速ギヤ〜4速ギヤのいずれかの変速比で変速して後段、すなわち動力伝達下流側へ伝達する。主変速クラッチは、たとえば、操縦席7において主変速操作部15(図7参照)が操作されることで、1速ギヤ〜4速ギヤのうちの1つを選択する。
高低(Hi−Lo)変速装置は、エンジンEからの回転動力を、高速段または低速段で変速する。高低(Hi−Lo)変速装置は、高速(Hi)側油圧多板クラッチ(Hiクラッチ)と、低速(Lo)側油圧多板クラッチ(Loクラッチ)と、高速(Hi)ギヤと、低速(Lo)ギヤとを備えている。なお、HiクラッチとLoクラッチとは、「Hi−Loクラッチ」を形成する。
Hi−Loクラッチは、主変速クラッチによって変速された回転動力を、高速(Hi)ギヤの変速比または低速(Lo)ギヤの変速比で変速して後段、すなわち動力伝達下流側へ伝達する。Hi−Loクラッチは、たとえば、操縦席7において主変速操作部15が4速〜5速の間で操作されることで、油圧制御によって、自動的に高速(Hi)側または低速(Lo)側に切り換える。Hi−Loクラッチは、たとえば、高速(Hi)側4段、低速(Lo)側4段の8段変速となる。
副変速部24は、副変速装置を備え、エンジンEから、たとえば、前後進クラッチ部22、主変速部23(主変速装置、高低変速装置)を順に介して伝達される回転動力を複数の変速段のいずれかに変速可能である。副変速装置は、第1副変速機(第1変速シフタ)と、第2副変速機(第2変速シフタ)とを備えている。なお、第1変速シフタと第2変速シフタとは、「副変速機」を形成する。
副変速機は、変速軸28に伝達された回転動力を、第1変速シフタ、第2変速シフタ、複数のギヤを介して変速して変速軸29へ伝達する。副変速機は、エンジンEから伝達されさらに主変速装置などで変速された回転動力を、たとえば4段変速して後輪4,4側へ伝達する。
すなわち、メイン軸27の回転は、たとえば4段変速する主変速クラッチと、高低2段に変速するHi−Loクラッチと、機械式にたとえば4段変速する副変速機とによって変速され、最終的に変速軸29へ伝達される。
動力伝達装置21は、変速軸29に伝達される回転動力を、後輪差動ギヤ(後輪デフ)30、車軸(ドライブシャフト)31、遊星ギヤ機構などを介して後輪4,4へ伝達する。この結果、トラクタ1は、エンジンEからの回転動力によって、後輪4,4が駆動輪として回転駆動する。
前輪変速部(4WDクラッチ部)25は、前輪変速装置を備え、入力軸26に伝達される回転動力を前輪3,3側へ伝達する。前輪変速装置は、前輪増速クラッチと、前輪等速クラッチとを備えている。なお、前輪増速クラッチと前輪等速クラッチとは、「前輪変速クラッチ(4WDクラッチ)」を形成する。
4WDクラッチは、第1前輪駆動軸32に設けられ、前輪等速クラッチが接続されている場合に、第1前輪駆動軸32の回転を等速で第2前輪駆動軸33へ伝達する。また、4WDクラッチは、前輪増速クラッチが接続されている場合に、複数のギヤを介して、第1前輪駆動軸32の回転を増速して第2前輪駆動軸33へ伝達する。
4WDクラッチは、第2前輪駆動軸33に伝達された回転動力を、前輪差動ギヤ(前輪デフ)34、車軸(ドライブシャフト)35、遊星ギヤ機構などを介して前輪3,3へ伝達する。この結果、トラクタ1は、左右の前輪3,3および左右の後輪4,4の四輪駆動(4WD)で走行可能となる。
トラクタ1は、前輪3,3側に、パワーステアリング装置を構成するステアリングシリンダ55を備えている。また、トラクタ1は、後輪4,4側に、制動装置を構成する左右のブレーキ56L,56Rを備えている。また、トラクタ1は、機体2の走行に関する制御を行う制御部100(走行制御部100a)を備えている。
また、図示しないが、動力伝達装置21は、PTO駆動装置をさらに備えている。PTO駆動装置は、エンジンEからの回転動力を変速して機体2後部のPTO出力軸50(図1参照)から作業機200(図15参照)に出力することで、エンジンEからの動力によって作業機200を駆動する。
PTO駆動装置は、PTOクラッチ装置と、PTO変速装置と、PTO出力軸50とを備えている。PTO駆動装置は、機体2後部の作業機200を駆動する駆動状態と、作業機200の駆動を停止した非駆動状態とを切り換える。
<油圧クラッチ(前後進クラッチ)の構造>
ここで、図3および図4を参照して、前後進クラッチ22aを例として、油圧クラッチの構造について説明する。図3は、前後進クラッチ22aの概略平断面図である。図4は、前後進クラッチ22aの油圧回路図である。前後進クラッチ22aは、正逆転クラッチであり、入力軸26(図2参照)の回転動力を正転または逆転させてメイン軸27へと伝達する。
図3に示すように、前後進クラッチ22a(前進クラッチ36a、後進クラッチ36b)は、前進ギヤ37aに設けられたクラッチ軸38aを備えている。クラッチ軸38aは、軸受39aおよび軸受39bによってメイン軸27に回動自在に支持されている。クラッチ軸38aの後方には複数の内側クラッチ板38bが配置されている。
また、クラッチ軸38aは、後部がクラッチケース38dで覆われており、クラッチケース38dの前部内側に設けられた押え板38eが複数の内側クラッチ板38bの前端よりも動力伝達下流側に配置されている。
クラッチケース38d内には、複数の外側クラッチ板38cが、隣り合う内側クラッチ板38bの間に挟まれるように交互に配置されている。内側クラッチ板38bは、内側に複数の歯を有しており、クラッチ軸38aと一体となって回転する。外側クラッチ板38cは、外側に複数の歯を有しており、クラッチケース38dと一体となって回転する。
クラッチケース38d内には、クラッチ軸38aの後方にバネ38gによって動力伝達上流側へ付勢されたクラッチピストン38fが設けられている。クラッチピストン38fの後部には、作動油が供給されるシリンダ部38hの配置空間が形成されている。
このため、前後進クラッチ22aは、シリンダ部38hに作動油が供給され、供給された作動油の圧力がバネ38gの弾性力を上回るとクラッチピストン38fが前進し、内側クラッチ板38bと外側クラッチ板38cとを、押え板38eとの間で圧着させる。
圧着された内側クラッチ板38bおよび外側クラッチ板38cは、摩擦によって互いに動力を伝達するようになり、前進ギヤ37aから伝達されてきた回転動力がクラッチケース38dへ伝達され、クラッチケース38dに対してスプライン嵌合しているメイン軸27が回転する。
シリンダ部38hに作動油(圧油)が供給されていない状態、すなわち、圧力が付与されていない状態では、クラッチピストン38fがバネ38gの弾性力によって後退するため、内側クラッチ板38bと外側クラッチ板38cとは圧着されない。このような場合、内側クラッチ板38bおよび外側クラッチ板38cが互いに動力を伝達しないので、PTOクラッチが動力伝達を遮断した状態となり、前進ギヤ37aが回転してもメイン軸27は回転しない。
クラッチケース38dを挟んで、メイン軸27とは反対側には後進ギヤ37bが設けられている。後進ギヤ37bは、前進ギヤ37aと同様に、後進側の動力が伝達(および遮断)される。なお、油圧クラッチであるHi−Loクラッチや4WDクラッチにおいても、上記構成と同様の構成のものが用いられる。また、PTOクラッチにおいては、上記構成の片側半分の構成のものが用いられる。
また、図4に示すように、トラクタ1(図2参照)においては、エンジンE(図2参照)から出力される回転動力によって作動するポンプPOが、サクションフィルタなどを介してミッションケース5(図2参照)内の潤滑油を吸い上げ、前後進クラッチ部22の油圧回路を含む油圧回路内に作動油として圧油が供給される。
図4に示すように、前後進クラッチ部22(前後進クラッチ22a)では、アクチュエータ40が前進切換ソレノイド42を介して供給された油圧によって前進クラッチ36aを駆動するとともに、アクチュエータ41が後進切換ソレノイド43を介して供給された油圧によって後進クラッチ36bを駆動する。
なお、前後進クラッチ22aにおいて、前進クラッチ36aおよび後進クラッチ36bに供給される作動油の流量は、前後進切換レバー13(図5参照)の切り換え操作に応じてリリーフ圧が変化する可変リリーフバルブ48を介して前後進昇圧ソレノイド44またはクラッチペダルソレノイド45によって調節可能である。
また、各アクチュエータ40,41によって駆動される各クラッチ(前進クラッチ36a、後進クラッチ36b)の圧着状態は、各ソレノイド(前進切換ソレノイド42、後進切換ソレノイド43)と各アクチュエータ40,41との間に設けられた各圧力センサ(前進クラッチ圧力センサ46、後進クラッチ圧力センサ47)によってそれぞれ測定される。これにより、各クラッチ(前進クラッチ36a、後進クラッチ36b)の圧着(接続圧力、すなわちクラッチ接続圧)を調節することができる。
トラクタ1は、キャビン6内における操縦席7の周りに、ステアリングホイール8、表示部(メータパネル)9、クラッチペダル10、ブレーキペダル11、アクセルペダル12などの各種操作ペダルや、前後進切換レバー13、主変速操作部15、副変速レバー16などの各種操作レバーや操作ボタンなどを備えている。また、操縦席7の周りには各種操作機器が設けられている。
<各種操作機器>
次に、図5、図6および図7を参照して、操縦席7の周りに設けられた各種操作機器について説明する。図5は、操縦席7前方の概略斜視図である。図6は、前後進切換レバー13の動作説明図である。図7は、操縦席7右側方の概略斜視図である。なお、各図に示す各種操作機器は一例であり、操作機器の種類や配置など、これに限定されるものではない。
図5に示すように、操縦席7の前方には、ステアリングホイール8が設けられている。ステアリングホイール8が取り付けられたハンドルポスト60の下部左方にはクラッチペダル10が設けられ、ハンドルポスト60の下部右方にはブレーキペダル11およびアクセルペダル12が設けられている。ブレーキペダル11は、左側ブレーキペダル11Lと、右側ブレーキペダル11Rとを備えている。
ハンドルポスト60の上部左方には前後進切換レバー13が設けられ、ハンドルポスト60の上部右方には主変速操作部のアクセルレバー15が設けられている。なお、ハンドルポスト60には、前後進切換レバー13およびアクセルレバー15の他、ウィンカーレバー、PTO出力軸50(図1参照)の回転を接続するPTO変速レバー、作業機連結用のリフトアームをポジションレバー17(図7参照)の操作位置または最上位置へワンタッチで移動させるように操作するワンタッチ昇降レバーなどが設けられている。
図5に示すように、ステアリングホイール8の前方にはダッシュボードカバー61が設けられている。ダッシュボードカバー61には、操縦席7に着席した操縦者(作業者)から見えるように、表示部であるメータパネル9が設けられている。
メータパネル9には表示画面(たとえば、液晶モニタ)やエンジン回転計(タコメータ)などが設けられている。表示画面には、たとえば、現在選択されている変速段を表示する変速段表示、燃料消費率および走行速度などが表示される。なお、このうち、燃料消費率表示と走行速度表示とは一定時間ごとに切り換わるように表示されてもよい。
また、たとえば、メータパネル9には省エネモニタランプが設けられてもよい。省エネモニタランプは、エンジンモード選択スイッチで低燃費のエンジン出力カーブを選択している場合に点灯する。ダッシュボードカバー61の左部には、各種操作機器の増減調節の入力スイッチ71が設けられている。入力スイッチ71は、一方を増加調節用、他方を減少調節用として、たとえば、油圧クラッチである前後進クラッチ22a(図3参照)接続時のクラッチ接続圧の昇圧パターンを設定する場合などに操作される。
また、たとえば、ダッシュボードカバー61の右部には、走行/作業切換スイッチやエンジンモード選択スイッチなどが設けられている。なお、エンジンモード選択スイッチが押されると、エンジンE(図2参照)が低燃費のエンジン出力カーブで制御される。
なお、ここで、図6を用いて、前後進切換レバー13の構成例および動作について説明する。なお、図6には、図中、上部に前後進切換レバー13が「前進位置」に操作された状態、中央部に前後進切換レバー13が「中立位置」に操作された状態、下部に前後進切換レバー13が「後進位置」に操作された状態を示している。
また、「中立位置」は、トラクタ1が前進も後進もしない位置、すなわち、ニュートラル位置である。前後進切換レバー13は、「中立位置」を経由して、トラクタ1の前進および後進を切り換える場合に操作される。
図6に示すように、前後進切換レバー13の操作端部とは反対側の端部(回動端部)には、前後進切換レバー13の切り換え操作と共に回動する回動カム65が設けられている。また、回動カム65の周りには、前後進切換レバー13の位置を検出するセンサとして、2つのセンサ66a,66bが互いに異なる位置に設けられている。2つのセンサ66a,66bのうち、一方は前進センサ(センサ66a)、他方は後進センサ(センサ66b)として設定されている。
また、たとえば、前進センサ66aは、板状の回動カム65の後方側に配置され、後進センサ66bは、回動カム65の前方側に配置されている。前進センサ66aおよび後進センサ66bは共に、アーム部67と、感知部68とを備えている。また、回動カム65は、後部に設けられた一方のカム面(後部カム面)65aと、前部に設けられた他方のカム面(前部カム面)65bとを備えている。
図6(上部)に示すように、前後進切換レバー13が図中に二点破線で示す「中立位置」から「前進位置」に操作されると、すなわち、前後進切換レバー13が前方へ傾倒すると、回動カム65が右まわり(矢印方向)に回動する。回動カム65が右まわりに回動すると、後部カム面65aが前進センサ66aのアーム部67の凸部67aに当接して、アーム部67を介して後部カム面65aによって感知部68が押圧される。これにより、前後進切換レバー13の「前進位置」が検出され、トラクタ1が前進に切り換わる。
また、図6(中央部)に示すように、前後進切換レバー13が「中立位置」に操作されると、すなわち、前後進切換レバー13が「中立位置」へ戻ると、後部カム面65aおよび前部カム面65bは共に、前進センサ66aおよび後進センサ66bの各アーム部67の凸部67aから外れる。各感知部68が共に押圧されないことで前後進切換レバー13の「中立位置」が検出され、トラクタ1が前後いずれにも進行しないニュートラル状態に切り換わる。
また、図6(下部)に示すように、前後進切換レバー13が図中に二点破線で示す「中立位置」から「後進位置」に操作されると、すなわち、前後進切換レバー13が後方へ傾倒すると、回動カム65が左まわり(矢印方向)に回動する。回動カム65が左まわりに回動すると、前部カム面65bが後進センサ66bのアーム部67の凸部67aに当接して、アーム部67を介して前部カム面65bによって感知部68が押圧される。これにより、前後進切換レバー13の「後進位置」が検出され、トラクタ1が後進に切り換わる。
図7に示すように、操縦席7の右側方には、主変速操作部15(主変速増速ボタン15a、主変速減速ボタン15b)、副変速レバー16、ポジションレバー17、昇圧パターン変更部70、操作パネル収納部62などが設けられている。このうち、ポジションレバー17は、リフトアームを昇降する場合に操作される。
また、操縦席7の右側方には、PTO自動/手動切換スイッチ、PTO入切スイッチ、エンジン回転指示部、回転数増加調節スイッチ、回転数減少調節スイッチなどの各種操作スイッチ類が設けられている。なお、操作パネル収納部62には、上記以外の他の操作スイッチ類が設けられた操作パネル63(図8参照)が収納される。
昇圧パターン変更部70は、油圧クラッチである前後進クラッチの接続圧力を調節して作成された昇圧パターンを変更する場合に操作されるダイヤルスイッチである。昇圧パターン変更部70は、操縦者によるトラクタ1の発進感度の調節に使用される。以下、昇圧パターン変更部70を発進感度ダイヤルという。なお、発進感度ダイヤル70については、図11Aを用いて後述する。
<作業車両(トラクタ)の制御系>
次に、図8を参照してトラクタ1の制御系について説明する。図8は、作業車両(トラクタ)1の制御系のブロック図である。なお、以下では、トラクタ1の発進および変速に関する制御系について説明する。
図8に示すように、トラクタ1の制御系(制御部100)は、エンジンE(図2参照)の出力が伝達される駆動輪(たとえば、後輪4)の回転を制御して走行速度を制御する走行制御部(走行系ECU(Electronic Control Unit)ともいう)100aと、エンジンEを制御するエンジン制御部(エンジンECUともいう)100bと、作業機200(図15参照)の昇降を制御する作業機昇降制御部(作業機昇降系ECUともいう)100cとを備えている。
走行制御部100aには、前進センサ66aからの前進検出信号、後進センサ66bからの後進検出信号、副変速レバー16(図7参照)の操作位置を検出する副変速レバー操作位置センサ110からの操作位置検出信号、主変速増速ボタン15aおよび主変速減速ボタン15bからの各ボタン操作量検出信号、クラッチペダル10(図5参照)の踏み込み操作量を検出するクラッチペダルセンサ111からの踏み込み操作量検出信号、前後進クラッチ22aの圧着状態を検出する前進クラッチ圧力センサ46および後進クラッチ圧力センサ47からの各圧力検出信号が入力される。
また、走行制御部100aには、前後進クラッチ22a接続時における接続圧力(クラッチ接続圧)の昇圧パターンを設定する発進感度ダイヤル70の指示ダイヤル値(昇圧指示値)が入力される。
一方、走行制御部100aからは、前進切換ソレノイド42および後進切換ソレノイド43のそれぞれへ向けて切り換え指示信号が出力される。また、走行制御部100aからは、前後進昇圧ソレノイド44へ向けて昇圧指示信号が出力される。また、走行制御部100aからは、クラッチペダルソレノイド45へ向けても昇圧指示信号が出力される。
このように、制御部100(走行制御部100a)は、走行制御部100aからの各指示信号に基づいて駆動される前進切換ソレノイド42、後進切換ソレノイド43、前後進昇圧ソレノイド44およびクラッチペダルソレノイド45によって、前後進クラッチ22aを駆動する。
また、走行制御部100aからは、主変速部23を駆動するための各ソレノイドのそれぞれへ向けて指示信号が出力される。このように、制御部100のうち走行制御部100aは、走行制御部100aからの指示信号に基づいて駆動される各ソレノイドなどによって、主変速部23、すなわち、主変速クラッチおよびHi−Loクラッチなどを駆動する。
また、走行制御部100aには、コネクタ112を介して、マイコンチェッカー113が接続されている。マイコンチェッカー113は、前後進クラッチ22a接続時におけるクラッチ接続圧を異なる昇圧パターンで設定する場合に、昇圧パターンを変更可能に構成する。このように、マイコンチェッカー113によって昇圧パターンを変更可能に構成することで、作業者ごと、作業内容ごとに最適な昇圧パターンを設定することができる。
また、走行制御部100a、エンジン制御部100b、作業機昇降制御部100cから出力される各種情報は、キャビン6内において表示部であるメータパネル9に表示される。メータパネル9には、発進感度ダイヤル70や入力スイッチ71、操作パネル63からの各指示信号が入力される。なお、走行制御部100a、エンジン制御部100b、作業機昇降制御部100cは、たとえば、CAN(Controller Area Network)通信などによって制御信号の交信を行う。
なお、上記した制御系において、たとえば、走行制御部100a、エンジン制御部100b、作業機昇降制御部100cの間に通信ユニットを設け、タブレットPCやスマートフォンなどのモバイル端末とも交信可能に構成されてもよい。
<油圧クラッチ(前後進クラッチ)接続制御>
次に、図9および図10を参照してトラクタ1の発進時における油圧クラッチ(前後進クラッチ22a)の接続制御について説明する。図9は、前後進クラッチ22aの接続タイミングチャートである。図10は、昇圧時間Tbおよび、昇圧パターン変更部である発進感度ダイヤル70による昇圧指示値(目標圧力値ともいう)Iaの関係を示すグラフである。
図9に示すように、前後進切換レバー13(図6参照)が操作され、前進センサ66a(図6参照)がOFFからONに切り換わると、所定のイニシャル時間Taが経過した後、制御部100の走行制御部100a(図8参照)に予め記憶されている昇圧パターンP(昇圧カーブともいう)を形成して、昇圧指示値Ia(図10参照)へ向けて走行制御部100aによる前後進クラッチ22aの前進側クラッチ接続圧の昇圧制御が開始される。
この場合、走行制御部100aに予め記憶された昇圧パターンPに基づいて、前後進クラッチ22aのクラッチ接続圧が上昇して前後進クラッチ22aが接続されてトラクタ1の車速が上昇する。すなわち、トラクタ1が発進(前進)する。これにより、昇圧パターンPに応じて好適な発進感度を得られるようになる。
なお、イニシャル時間Taは、前進切換ソレノイド42(図4参照)を全開にして前後進クラッチ22aの油室に作動油が充填される時間である。また、イニシャル時間Taが経過した後、前後進クラッチ22aのクラッチ接続圧が所定の昇圧指示値ISに到達するまでにかかる時間、すなわち、昇圧に要する時間(時間T0〜TS)を昇圧時間Tbという。
また、図10に示すように、昇圧パターンPには、昇圧時間Tbにおいて複数の基準時間T0〜TSが設定されている。また、昇圧パターンPには、複数の基準時間T0〜TSについてそれぞれ昇圧指示値I0〜ISが設定されている。なお、このような設定処理は、走行制御部100a(図8参照)によって行われる。
これまで、トラクタなどの作業車両では、前後進クラッチ接続時の昇圧パターンをたとえば昇圧時間の増減調節だけで変更することから発進感度の変化量が小さいものであった。このため、良好な発進感度が得られない場合があった。そこで、本実施形態に係るトラクタ1では、前後進クラッチ22a接続時の昇圧パターンPを、昇圧パターン変更部70の操作によってクラッチ接続圧を変更する場合に昇圧時間Tbおよび昇圧指示値(目標圧力値)Iaの双方の増減調節で変更して、良好な発進感度を得られるようにした。
<昇圧パターン変更処理>
次に、図11A、図11B、図11Cを参照して油圧クラッチ(前後進クラッチ22a)のクラッチ接続圧を変更する場合の処理について説明する。図11Aは、昇圧パターン変更部(発進感度ダイヤル)70の概略平面図である。図11Bは、昇圧パターン変更部(発進感度ダイヤル)70の昇圧指示値(目標圧力値Ia)および昇圧時間乗算値の関係を示すグラフである。図11Cは、昇圧パターン変更部(発進感度ダイヤル)70の昇圧指示値(目標圧力値Ia)および昇圧指示加算値の関係を示すグラフである。
昇圧パターン変更部である発進感度ダイヤル70は、上記したように、たとえば、操縦席7(図7参照)の右側方に設けられる。発進感度ダイヤル70は、油圧クラッチである前後進クラッチ22a(図3参照)の接続圧力を調節して作成された昇圧パターンPを変更する場合に操作されるダイヤルスイッチである。
図11Aに示すように、発進感度ダイヤル70は、時計まわりに回せば指示ダイヤル値、すなわち昇圧指示値(または、目標圧力値ともいう)が「高」くなり、反時計まわりに回せば指示ダイヤル値、すなわち昇圧指示値が「低」くなるように設定されている。なお、発進感度ダイヤル70は、昇圧指示値を指針(マーク)70aによって指し示す。また、昇圧指示値は、「0(最小)〜1023(最大)」に変更可能に設定されている。
図11Bに示すように、昇圧時間Tbについては、たとえば、図11Aに示す発進感度ダイヤル70を「0(最小)」に回している場合に、昇圧時間Tbに対して乗算する乗算値が「1」となるように設定されている。乗算値「1」とは、昇圧時間Tbを1倍する値、すなわち、制御部100の走行制御部100a(図8参照)に予め記憶されている昇圧パターンPを形成する昇圧時間Tbとなる値である。
また、昇圧時間Tbの乗算値は、発進感度ダイヤル70を「低」から「高」側に回していくと、所定値(たとえば、「0.5」)になるように、所定の傾きを有してリニアに変化(比例変化)するように設定されている。
図11Cに示すように、発進感度ダイヤル70の指示ダイヤル値、すなわち昇圧指示値Iaについては、たとえば、図11Aに示す発進感度ダイヤル70を「低」から「高」側に回していくと、「0」から最大加算値である「AMAX」の間で、所定の傾きを有してリニアに変化(比例変化)するような加算値Aが加算されるように設定されている。
すなわち、発進感度ダイヤル70を、「低」から「高」側に回していくと、たとえば、昇圧時間Tbは1倍から0.5倍まで変化していき、昇圧指示値Iaは「0」から「AMAX」までの加算値Aが加算されていく。なお、上記したように、このような各種設定などの処理は、制御部100の走行制御部100a(図8参照)によって行われる。
たとえば、トラクタ1の走行負荷(作業負荷ともいう)が大きい場合には、発進感度ダイヤル70によって、昇圧パターンPを、昇圧時間Tbが短くなるように、かつ、昇圧指示値Iaが高くなるように調節(変更)することができる。また、たとえば、トラクタ1の走行負荷が小さい場合には、発進感度ダイヤル70によって、昇圧パターンPを、昇圧時間Tbが長くなるように、かつ、昇圧指示値Iaが低くなるように調節(変更)することができる。これにより、幅広い作業に対応する、適切な発進感度を得ることができる。
次に、図12Aおよび図12Bを参照して、昇圧パターン変更部(発進感度ダイヤル)70を回して昇圧パターンPを調節(変更)する場合の処理の一例について説明する。図12Aは、加算値設定処理の一例の説明図である。図12Bは、昇圧パターン変更処理の一例の説明図である。なお、図12Aは、加算値を設定する場合における昇圧時間Tbおよび加算値の関係を示すグラフである。図12Bは、昇圧パターンPを変更する場合における昇圧時間Tbおよび昇圧指示値Iaの関係を示すグラフである。
図12Bに示すように、発進感度ダイヤル70(図11A参照)を、たとえば「低」から「高」側に回すと、走行制御部100a(図8参照)に予め記憶されている昇圧パターン(以下、基本昇圧パターンともいう)Pについて、昇圧時間Tbが、時間TSから時間TS´の間で、発進感度ダイヤル70の指示ダイヤル値、すなわち昇圧指示値Iaに応じて変更される。
また、発進感度ダイヤル70(図11A参照)を、たとえば「低」から「高」側に回すと、昇圧時間Tbが変更されると共に、昇圧指示値Iaについても変更される。基本昇圧パターンPに設定されている複数の基準時間T1´〜TS´のそれぞれに対して加算値A1´〜Aが加算され、昇圧指示値I1´〜IS´が設定される。
この場合、制御部100の走行制御部100aは、発進感度ダイヤル70によって昇圧パターンPの変更操作がなされると、かかる変更操作に応じて、昇圧指示値Iaおよび昇圧時間Tbをそれぞれ増減して昇圧パターンP(P2)に変更する。走行制御部100aは、昇圧パターンP(P2)について、昇圧時間Tbにおいて複数の基準時間T1´〜TS´を設定する。また、走行制御部100aは、昇圧パターンP(P2)について、複数の基準時間T1´〜TS´に対してそれぞれ加算する加算値A1´〜Aを設定する。
また、この場合、加算値A1´〜Aは、昇圧時間Tbにおける複数の基準時間T1´〜TS´が経過するにつれて、すなわち、昇圧開始からの時間が経過するにつれて、加算値A1´〜Aは大きくなるように設定される。すなわち、加算値A1´〜Aは、「A1´<A2´<A3´<A4´<A」という関係となる。
このような構成によれば、油圧クラッチである前後進クラッチ22aの接続時の昇圧パターンPを変更する場合に、昇圧開始から目標圧力値である昇圧指示値Iaに到達するまでにかかる時間(昇圧時間)Tb、および昇圧指示値Iaの双方を増減調節するため、いずれか一方だけを調節する場合に比べて発進感度を幅広く変化させることができる。これにより、昇圧パターンP(P2)の設定自由度が広がり、より良好な発進感度を得ることができる。
また、昇圧時間Tbについて設定した複数の基準時間T1´〜TS´におけるそれぞれの昇圧指示値I1´〜IS´に対する加算値A1´〜Aを予め設定することで、発進感度をさらに幅広く変化させることができる。これにより、発進感度をさらに良好にすることができる。
また、図13Aおよび図13Bを参照して、昇圧パターン変更部(発進感度ダイヤル)70を回して昇圧パターンPを調節(変更)する場合の処理の他の例について説明する。図13Aは、加算値設定処理の他の例の説明図である。図13Bは、昇圧パターン変更処理の他の例の説明図である。なお、図13Aは、加算値を設定する場合の昇圧時間Tbおよび加算値の関係を示すグラフである。図13Bは、昇圧パターンPを変更する場合の昇圧時間Tbおよび昇圧指示値Iaの関係を示すグラフである。
図13Aに示すように、昇圧パターンPに設定されている複数の基準時間T1´〜TS´における複数の基準時間T1´〜TS´のそれぞれに、加算値A1´´〜Aが加算され、昇圧指示値I1´〜IS´(図13B参照)が設定される。
図13Aに示すように、加算値A1´´〜Aを、昇圧時間Tbにおける複数の基準時間T1´〜TS´のそれぞれに対して加算する。複数の基準時間T1´〜TS´の加算値A1´´〜Aは、所定の算出式に基づいて算出される。基本昇圧パターンPについて、昇圧終了時間TS´が設定される。
複数の基準時間T1´〜TS´のそれぞれを昇圧終了時間TS´で除算し、除算した各値を加算値Aに乗算して加算値(調整加算値ともいう)A1´´〜Aを算出する。調整加算値A1´´〜Aを昇圧指示値I1〜ISに加算することにより、昇圧指示値I1´´〜IS´´が設定される。なお、制御部100の走行制御部100aによって、このような各種処理が行われる。
また、この場合においても、加算値A1´´〜Aは、昇圧時間Tbにおける複数の基準時間T1´〜TS´が経過するにつれて、すなわち、昇圧開始からの時間が経過するにつれて、加算値A1´´〜Aは大きくなるように設定される。すなわち、加算値A1´´〜Aは、「A1´´<A2´´<A3´´<A4´´<A」という関係となる。
このような構成によれば、油圧クラッチである前後進クラッチ22aの接続時の昇圧パターンPを変更する場合に、昇圧開始から目標圧力値である昇圧指示値Iaに到達するまでにかかる時間(昇圧時間)Tb、および昇圧指示値Iaの双方を増減調節するため、いずれか一方だけを調節する場合に比べて発進感度を幅広く変化させることができる。これにより、昇圧パターンP(P3)の設定自由度が広がり、より良好な発進感度を得ることができる。
また、昇圧時間Tbにおいて設定された複数の基準時間T1´〜TS´におけるそれぞれの昇圧指示値I1´´〜IS´に対する加算値A1´´〜Aを予め設定することで、発進感度をさらに幅広く変化させることができる。これにより、発進感度をさらに良好にすることができる。
また、複数の基準時間T1´〜TS´のそれぞれを昇圧終了時間TS´で除算した値を加算値Aに乗算することで、加算値A1´´〜Aを、たとえば、昇圧開始直後には小さくし、昇圧終了前には大きくすることができる。これにより、昇圧開始直後は緩勾配となり昇圧終了前は急勾配となるように昇圧パターンP3を作成することができる。このような昇圧パターンP3とした場合には発進時のショックをより確実に抑えることができる。
なお、図12Aおよび図13Aに示すように、加算値A1´〜Aおよび加算値A1´´〜Aは、複数の基準時間T1´〜TS´のうち、経過時間が短いところでは小さく、経過時間が長いところでは大きくなるように設定されている。加算値A1´〜Aおよび加算値A1´´〜Aにより、昇圧パターンP2,P3を、昇圧開始直後は緩やかとして、時間の経過と共に急にしていくことで、重負荷作業時においても、機体2の発進時のショックを抑制することが可能となり、発進感度を向上させることができる。
また、図12Aに示すように、加算値A1´〜Aを、昇圧時間Tbにおける複数の基準時間T1´〜TS´のそれぞれに対して加算する。複数の基準時間T1´〜TS´の加算値A1´〜Aは、所定の傾きを有してリニアに変化(比例変化)するように設定されている。これにより、重負荷の場合は短い時間で高い昇圧指示を行い、軽負荷の場合は長い時間で低い昇圧指示を行うことができ、幅広い作業において適切な発進感度を得ることができる。
また、複数の基準時間T1´〜TS´のそれぞれに対する加算値Aを、個別に任意の値に設定するようにしてもよい。作業内容ごとに必要となる昇圧パターンPは異なる。このように、加算値Aを個別に任意の値に設定することで、必要な作業にあわせた昇圧パターンを設定することができ、作業に応じて最適な発進感度を得ることができる。
また、発進感度ダイヤル70を回して基本昇圧パターンPを変更する場合、昇圧時間Tbにおいて設定された複数の基準時間T1´〜TS´の変化量の上限は、図12Bおよび図13Bに示す例では、たとえば0.5倍に設定されているが、複数の基準時間T1´〜TS´の変化量の上限をたとえば2倍、3倍というように長くなるように設定可能としてもよい。このように、基準時間T1´〜TS´の変化量の上限を任意に設定可能とすることで、作業者が実際に作業を行う機体2の状態にあわせた発進感度で作業することができる。
図14は、昇圧パターン変更処理手順の一例を示すフローチャートである。図14に示すように、昇圧パターン変更部である発進感度ダイヤル70が操作されると(ステップS101,Yes)、制御部100の走行制御部100aは、昇圧時間Tbを変更する処理を行うとともに(ステップS102)、指示ダイヤル値、すなわち昇圧指示値Iaを変更する処理を行い(ステップS103)、昇圧パターンP2,P3を設定する処理を行う(ステップS104)。
また、ステップS101の処理において、発進感度ダイヤル70が操作されなければ、走行制御部100aは、記憶部などに予め記憶されている昇圧パターンPが設定する処理を行う。なお、ステップS102およびステップS103の処理については、実質的に同時に行うことになるが、どちらの処理を先に行ってもよい。
図15は、加算値設定手順の一例を示すフローチャートである。たとえば、加算値A1´´〜A(図13A参照)を設定する場合、図15に示すように、昇圧パターン変更部である発進感度ダイヤル70が操作されると、制御部100の走行制御部100aは、記憶部などから加算値Aを読み出す処理を行う(ステップS201)。
次に、走行制御部100aは、記憶部などから読み出した加算値Aを昇圧終了時間TS´(図13B参照)で除算する処理を行う(ステップS202)。次に、走行制御部100aは、記憶部などから読み出した加算値Aに、除算した値を乗算する処理を行う(ステップ203)。そして、かかる加算値を調整加算値として設定する処理を行う(ステップS204)。
なお、昇圧時間Tbにおける複数の基準時間T1´〜TS´ごとの加算値Aを、昇圧時間Tbや昇圧指示値Iaによって変化させるようにしてもよい。たとえば、加算値A1´〜Aまたは加算値A1´´〜Aを適用した場合でもまだ機体2の動き出しにショック(発進ショック)が感じられる場合、昇圧パターンPの勾配をさらに時間により抑えることで、発進ショックを解消するとともに、発進感度を向上させることができる。
また、制御部100の走行制御部100aは、昇圧時間Tbにおける複数の基準時間T1´〜TS´の変化量および加算値Aを、たとえば、副変速部24(図2参照)による変速(副変速)ごとに切り換えるようにしてもよい。トラクタ1では、同じ作業内容でも車速帯によって負荷の大きさが異なる場合があるが、このように、副変速ごとに昇圧パターンP1,P2の変化量を切り換えることで、作業内容に応じて最適な発進感度を得ることができる。
また、制御部100の走行制御部100aは、昇圧時間Tbにおける複数の基準時間T1´〜TS´をリニアに変化させる設定を、表示部であるメータパネル9(図5参照)からの入力操作に基づいて、処理するようにしてもよい。また、走行制御部100aは、加算値Aを、複数の基準時間T1´〜TS´のうち、経過時間が短いところでは小さく、経過時間が長いところでは大きくなるような設定を、メータパネル9からの入力操作に基づいて、処理するようにしてもよい。
作業ごとに適切な昇圧パターンPは異なる。昇圧パターンP1,P2における昇圧時間Tbや加算値Aをメータパネル9からの入力操作によって単体で変更可能とすることで、作業ごとに必要な理想の昇圧パターンを設定することができる。
また、制御部100の走行制御部100aは、アクセルメモリごとに設定された加算値Aを用いて、アクセルメモリ機能がONの場合に読み出して行うようにしてもよい。この場合、たとえば、アクセルメモリ機能のON時に、アクセルメモリ調整のための増加スイッチおよび減少スイッチを同時に長押した場合などに昇圧パターンP1,P2を記憶部などに記憶する、または記憶リセットするなどして使用することができる。
このように、アクセルメモリごとに決まった加算値Aを設定しておくことで、過去と同じ作業を行う場合、発進感度ダイヤル70から調節(変更)する必要がなくなり、省力化を図ることができる。
また、制御部100の走行制御部100aは、アクセルメモリによる加算値Aの設定機能のON/OFFを切り換えるようにしてもよい。これにより、たとえば、同等のエンジン回転数で異なる作業を行う場合はアクセルメモリによる昇圧パターンPの変更機能をOFFに切り換え、同じ作業を行う場合はONに切り換えるなど、作業適応性を向上させることができる。
また、図16は、作業車両(トラクタ)1Aの他の例の概略側面図である。なお、作業車両の他の例としてのトラクタ1Aは、上記したトラクタ1(図1参照)に各種の作業機200が装着されたものである。図16に示すように、トラクタ1Aは、たとえば、機体2前部に作業機200の一種であるローダ201が連結され、機体2後部に作業機200の一種であるロータリ作業機202が装着されている。
また、トラクタ1Aは、ローダ201の連結部に、ローダ201が機体2に装着されているか否かを検出するローダ検出センサ203を備えている。なお、ローダ検出センサ203による検出結果は、制御部100の走行制御部100aへ向けて出力される。また、かかるトラクタ1Aにおいても、前後進切換レバー13による前後進の切り換え操作が行われる。
ここで、制御部100の走行制御部100aは、ローダ201が未装着であることが検出され、かつ、副変速部24(図2参照)における変速(副変速)が「高速」であることが検出されている場合に、発進感度ダイヤル70(図11A参照)を回しても、すなわち、昇圧パターンPの変更操作を行っても、昇圧パターンPの変更に加算値Aを適用しない。たとえば、クラッチ接続圧が高くなるような昇圧パターンPの場合に軽負荷作業を行うと大きなショックが発生する場合がある。このような場合、加算値Aを適用せずに、副変速が「高速」時にクラッチ接続圧を増加させないことで、上記危険を回避することができる。
また、制御部100の走行制御部100aは、ローダ検出センサ203による検出結果に基づいて、昇圧時間Tbおよび加算値Aの変化量を切り換える。すなわち、ローダ201装着時とローダ201未装着時とで昇圧時間Tbおよび加算値Aを異なる昇圧パターンPとする。作業機200の種類によって発進時に最適な昇圧パターンは異なる。ローダ201の有無によって昇圧パターンPを変えることで、ローダ201装着時とローダ201未装着時とで共に最適な発進感度を得ることができる。
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。