以下、本発明のパワーステアリング装置の一実施例を図面に基づき説明する。
[第1の実施例]
(パワーステアリング装置の構成)
図1は、車両の前方側から見たパワーステアリング装置1の概略図である。
図1に示すように、パワーステアリング装置1は、運転者からの操舵力を伝達する操舵機構2と、運転者の操舵操作を補助する操舵アシスト機構3と、を備えている。
操舵機構2は、車両の運転室内に配置されたステアリングホイール4と、車両の前輪である2つの転舵輪5,5と、を機械的に連結している。操舵機構2は、ステアリングホイール4からの回転力が伝達される入力軸6と、図示せぬトーションバーを介して入力軸6に接続された出力軸7と、を有した操舵軸8、およびこの操舵軸8の回転を転舵輪5,5に伝達する伝達機構9を備えている。伝達機構9は、出力軸7の外周に設けられたピニオン10と、ラックバー11の外周に設けられたラック12と、からなるラック&ピニオン機構(ラック&ピニオン・ギヤ)により構成されている。ラックバー11の両端は、タイロッド13,13および図示せぬ2つのナックルアームを介して対応する転舵輪5,5にそれぞれ連結されている。
操舵アシスト機構3は、操舵機構2に操舵アシスト力を付与する電動モータであるモータ14と、このモータ14を駆動制御する制御装置15と、モータ14の回転を減速する減速機(伝達機構)であるウォームギヤ16と、を備えている。
モータ14は、3相交流電力によって駆動される3相ブラシレスモータである。
制御装置15は、マイクロコンピュータ等の電子部品を備えて構成されており、トルクセンサ17からの操舵トルク(操舵トルク信号)Trおよびモータ回転角センサ18(図2参照)からのモータ回転角(モータ回転角信号)θmに基づいて演算されたモータ指令電流Ioにより、モータ14を駆動制御する。また、制御装置15には、車速センサ19からのパルス状の信号である車速(車速信号)Vsおよび舵角センサ20(図2参照)からの転舵輪5,5の転舵角の信号である舵角(舵角信号)θaが入力される。
なお、舵角θaは、舵角センサ20による検出ではなく、他の手段、例えば演算等によって算出されても良い。
ウォームギヤ16は、モータ14が出力した操舵アシスト力(回転力)を減速しつつ出力軸7に伝達する。ウォームギヤ16は、外周に歯部21aを有し、モータ14の駆動軸に取り付けられたウォームシャフト21と、歯部21aと噛み合う歯部22aを外周に有し、出力軸7と一体に回転するウォームホイール22と、から構成されている。
かかるパワーステアリング装置1の構成から、運転者がステアリングホイール4を回転操作すると、入力軸6が回転してトーションバーが捩られ、これにより生じるトーションバーの弾性力によって、出力軸7が回転する。そして、出力軸7の回転運動が上記ラック&ピニオン機構によりラックバー11の軸方向に沿う直線運動に変換され、タイロッド13,13を介して図示せぬナックルアームが車幅方向へと押し引きされることによって、対応した転舵輪5,5の向きが変更される。
(制御装置の制御ブロック図)
図2は、制御装置15の制御構成の詳細を示す制御ブロック図である。
制御装置15は、基本アシスト指令信号演算部23と、加算器24と、モータ駆動信号演算部25と、舵角戻し制御部26と、を備えている。
基本アシスト指令信号演算部23は、トルクセンサ17が検出した操舵トルクTrと、車速センサ19が検出した車速Vsとに基づいて、モータ14を駆動させる基本アシスト電流(基本アシスト指令信号)TRrを演算する。トルクセンサ17は、該トルクセンサ17からの操舵トルクTrを受信する、制御装置15に設けられた操舵トルク信号受信部27に電気的に接続されている。車速センサ19は、該車速センサ19からの車速Vsを受信する、制御装置15に設けられた車速信号受信部28に電気的に接続されている。基本アシスト電流TRrは、ステアリングホイール4の回転方向と一致する方向へ操舵機構2に操舵力を付与する指令信号である。
加算器24は、基本アシスト指令信号演算部23の下流に設けられており、基本アシスト指令信号演算部23からの基本アシスト電流TRrと、後述する戻し制御量(舵角戻しトルク指令信号)RetOutとを加算してモータ駆動信号演算部25に出力する。
モータ駆動信号演算部25は、加算器24の下流に設けられており、基本アシスト電流TRrおよび戻し制御量RetOutに基づいてモータ指令電流Ioを演算する。また、モータ駆動信号演算部25には、モータ14とモータ駆動信号演算部25との間に介在したモータ回転角センサ18により検出したモータ回転角(モータ回転角信号)θmがフィードバックされ、このモータ回転角θmに基づいて、モータ指令電流Ioが調整される。
舵角戻し制御部26は、舵角戻しトルク目標値設定部29と、舵角戻しトルク指令信号演算部30と、車速変化判定部31と、を備えている。
舵角戻しトルク目標値設定部29は、車速センサ19からの車速Vsと、舵角センサ20からの舵角θaとに基づいて、ステアリングホイール4の戻し制御量目標値(舵角戻しトルク目標値)MapOutを設定する。舵角戻しトルク目標値設定部29は、例えば、後述するマップを参照することにより、戻し制御量目標値MapOutを設定する。舵角センサ20は、該舵角センサ20からの舵角θaを受信する、制御装置15に設けられた舵角信号受信部32に電気的に接続されている。戻し制御量目標値MapOutは、転舵輪5,5が中立位置を向く方向へ操舵機構2に操舵アシスト力を付与する目標値である。
また、舵角戻しトルク目標値設定部29は、舵角センサ20からの舵角θaに基づいて、ステアリングホイール4の第1の戻し制御量目標値MapOut−θaを設定することができる。舵角戻しトルク目標値設定部29は、例えば舵角θaと第1の戻し制御量目標値MapOut−θaとの相関関係を示す図示せぬマップを参照することにより、第1の戻し制御量目標値MapOut−θaを設定する。
さらに、舵角戻しトルク目標値設定部29は、車速センサ19からの車速Vsに基づいて、ステアリングホイール4の第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsを設定することができる。舵角戻しトルク目標値設定部29は、例えば車速Vsと第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsとの相関関係を示す図示せぬマップを参照することにより、第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsを設定する。
車速Vsの変化に対する第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの変化量は、舵角θaの変化に対する第1の戻し制御量目標値MapOut−θaの変化量よりも大きくなっている。
なお、上記舵角θaおよび車速Vsは、特許請求の範囲に記載の「運転状態パラメータ信号」に相当し、さらに、上記舵角信号受信部32および車速信号受信部28は、特許請求の範囲に記載の「運転状態パラメータ信号受信部」に相当する。
また、上記第1の戻し制御量目標値MapOut−θaおよび第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsは、特許請求の範囲に記載の「第1の舵角戻しトルク目標値」および「第2の舵角戻しトルク目標値」にそれぞれ相当する。
舵角戻しトルク指令信号演算部30は、舵角戻しトルク目標値設定部29の下流に設けられており、車速Vsの変化つまり後述する車速変化信号Vscをトリガとして、戻し制御量目標値MapOutに基づいて戻し制御量(舵角戻しトルク指令信号)RetOutを演算する。戻し制御量RetOutは、舵角戻しトルク目標値設定部29によって設定された後述する目標今回値MapOut−n(図4参照)に徐々に近づくように演算される指令信号である。つまり、戻し制御量RetOutは、後述する目標前回値MapOut−b(図4参照)と目標今回値MapOut−nとの差が漸減するように演算される指令信号である。
また、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、単位時間当たりにおける目標前回値MapOut−bと目標今回値MapOut−nとの差が漸減するように戻し制御量RetOutを演算することができる。
さらに、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、舵角θaや車速Vsの変化に対する戻し制御量RetOutの変化量が大きい所定領域において、目標今回値MapOut−nに徐々に近づくように戻し制御量RetOutを演算することもできる。ここで、この所定領域は、例えば車速Vsが0km/h〜5km/hの範囲で変化したときの制御量RetOutの変化量が大きい領域である。
また、第1の戻し制御量目標値MapOut−θaおよび第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの双方を設定する場合には、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsに基づいて、第2の戻し制御量RetOut−Vsを演算する。第2の戻し制御量RetOut−Vsは、第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの目標今回値に徐々に近づくように演算される。
車速変化判定部31は、車速Vsから車速Vsの変化に関する車速変化信号Vscを判定し、この車速変化信号Vscを舵角戻しトルク指令信号演算部30に出力する。
図3は、舵角θaならびに車速Vsと戻し制御量目標値MapOutとの相関関係を示すマップである。
図3には、車速Vsが0km/hのときの戻し制御量目標値MapOutを破線で示し、車速Vsが1km/hのときの戻し制御量目標値MapOutを実線で示し、さらに、車速Vsが5km/hのときの戻し制御量目標値MapOutを一点鎖線で示してある。
停車つまり車速Vsが0km/hでは、ステアリングホイール4を戻す必要がないので、戻し制御量目標値MapOutがゼロとなっている。
一方、セルフアライニングトルクが小さくなる低車速域、例えば1km/h〜5km/hである車速Vsが比較的小さい領域では、セルフアライニングトルクの不足を補い、ステアリングホイール4の戻りの悪さを抑制するため、戻し制御量目標値MapOutが大きくなっている。
例えば、車両の発車時に車速Vsが0km/hから1km/hに増加するときに、戻し制御量目標値MapOutがゼロから急激に大きな値に設定される。そして、この急激な戻し制御量目標値MapOutの変化に基づいた戻し制御量RetOutによって戻し制御が行われることにより、ステアリングホイール4が急に戻され、操舵力が急増する操舵の違和感が生じる虞がある。
また、例えば、車両の停車時に車速Vsが1km/hから0km/hまで減少するときに、戻し制御量目標値MapOutが急にゼロとなる。そして、この急激な戻し制御量目標値MapOutの変化に基づいた戻し制御量RetOutによって戻し制御が行われることにより、操舵力が抜け、停車と同時にステアリングホイール4が切れ込む操舵の違和感が生じる虞がある。
本実施例では、発車時および停車時の戻し制御量RetOutの急変を緩和し、運転者の操舵の違和感を抑制すべく、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、戻し制御量目標値MapOutに徐々に近づくように戻し制御量RetOutを演算する。
具体的には、発車時には、戻し制御量RetOutの急激な増加を緩和するために、戻し制御量RetOutを徐々に増加させ、一方、停車時には、戻し制御量RetOutの急激な減少を緩和するために、戻し制御量RetOutを徐々に減少させる。
図4は、第1の実施例の戻し制御量RetOutの演算方法を説明するためのグラフである。
図4に示すように、図4の上段のグラフは、時間tに対する戻し制御量RetOutの変化を示しており、一方、図4の下段のグラフは、時間tに対する後述する漸減量Daの変化を示している。
図4の上段のグラフには、車速変化前の戻し制御量目標値である戻し制御量目標前回値(以下、「目標前回値」と呼ぶ)MapOut−bを一点鎖線で示してあり、車速変化後の戻し制御量目標値である戻し制御量目標今回値(以下、「目標今回値」と呼ぶ)MapOut−nを二点鎖線で示してある。また、時間txにおいて戻し制御量目標値MapOutが更新されたときの目標次回値MapOut−aを破線で示してある。図4の上段のグラフに示すように、目標前回値MapOut−bと目標今回値MapOut−nとが重複する部分は、目標前回値MapOut−bである一点鎖線で示されている。上記重複部分以外は、目標今回値MapOut−nの方が、目標前回値MapOut−bよりも高い値となっている。さらに、目標前回値MapOut−bおよび目標今回値MapOut−nに基づいて演算される戻し制御量RetOutを実線で示してある。目標前回値MapOut−bおよび目標今回値MapOut−nは、例えば図3に示すマップを参照することにより取得される。
なお、上記目標前回値MapOut−bおよび目標今回値MapOut−nは、特許請求の範囲に記載の「前回値」および「今回値」にそれぞれ相当する。
図4の上段のグラフに示すように、車速Vsの変化時である時間t1において目標今回値MapOut−nから目標前回値MapOut−bを減算することにより求められる差分を、図4の上段のグラフに太線で示す「初期差分D」とする。
次に、図4の下段のグラフの時間t1に、図4の上段のグラフで求めた初期差分Dを設定する。そして、図4の下段のグラフにおいて、初期差分Dを時間t1から時間t2にかけて徐々に減少、即ち漸減させ、ゼロ(0)にすることで、漸減量Daを算出する。
なお、図4の上段のグラフの戻し制御量RetOutと、初期差分Dおよび目標今回値MapOut−nによって囲まれる面積は、図4の下段のグラフの初期差分D、横軸および線形的に減少する漸減量Daによって囲まれる面積と等しくなっている。
最後に、図4の上段のグラフにおいて、時間t1から時間t2までの間(単位時間)で、目標今回値MapOut−nから漸減量Daを減算する。これにより、図4の上段のグラフに実線で示す戻し制御量RetOutが、目標今回値MapOut−nに徐々に近づく、つまり漸近するように演算される。
なお、時間t1における車速Vsの変化後に、新たに車速Vsの変化が生じたときには、戻し制御量目標値MapOutが、図4の上段のグラフに破線で示す目標次回値MapOut−aに更新される。例えば、戻し制御量RetOutの漸近処理中において、目標前回値MapOut−bと目標今回値MapOut−nとの差Daxがゼロになる前に、車速Vsの変化が再び生じ、戻し制御量目標値MapOutが目標次回値MapOut−aに更新された場合には、時間txにおける目標前回値MapOut−bと目標今回値MapOut−nとの差Daxに目標次回値MapOut−aと目標今回値MapOut−nとの差MapOut−axを加算してなる値Dxが漸減するように、戻し制御量RetOutが演算される。ここで、上記値Dxは、目標次回値MapOut−aから目標前回値MapOut−bを減算した値に実質的に等しくなるが、戻し制御量目標値MapOutの更新時には、目標前回値MapOut−bが更新されて無くなるため、上記のように差Daxに差MapOut−axを加算することで値Dxを算出している。
図5は、第1の実施例の戻し制御量RetOutの演算方法を示すフローチャートである。
ステップS1において、車速センサ19からの車速Vsおよび舵角センサ20からの舵角θaを読み込む。
そして、ステップS2において、戻し制御量目標値である目標前回値MapOut−bおよび目標今回値MapOut−nを設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば図3に示すマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS3において、車速変化判定部31によって、車速Vsが所定の移行判断車速Vd以下であるか否かを判定する。この移行判断車速Vdは、戻し制御量RetOutを漸近処理するための基準となる車速であり、セルフアライニングトルクが小さくなる低車速、例えば5km/hである。
車速Vsが移行判断車速Vdよりも大きい場合には、戻し制御量RetOutの演算を行わずに、フローを終了する。
また、車速Vsが移行判断車速Vd以下の場合には、ステップS4に移行し、車速変化判定部31によって、車速今回値Vsnが車速前回値Vsbと等しいか否かを判定する。
車速今回値Vsnが車速前回値Vsbと等しくない場合には、車速Vsの変化があった、即ち車速変化信号Vscが舵角戻しトルク指令信号演算部30に出力されたものとして、ステップS5に移行し、初期差分Dを算出する。この初期差分Dの算出は、上述したように、時間t1において目標今回値MapOut−nから目標前回値MapOut−bを減算することにより行われる(図4参照)。
そして、ステップS6において、単位時間(図4に示す時間t1からt2までの時間)における漸減量Daを算出する。この漸減量Daの算出は、上述したように時間t1から時間t2にかけて初期差分Dを徐々に減少させてゼロにすることで行われる(図4参照)。
次に、ステップS7において、戻し制御量RetOutを漸近処理する。この漸近処理は、上述したように時間t1から時間t2までの間で、目標今回値MapOut−nから漸減量Daを減算することで戻し制御量RetOutを目標今回値MapOut−nに徐々に近づける、つまり漸近させるものである(図4参照)。
また、ステップS4において、車速今回値が車速前回値と等しい場合には、車速Vsの変化が無かったものとして、ステップS6に移行し、更新前の初期差分により漸減量Daを算出する。
図6は、第1の実施例の戻し制御量RetOutの演算において、車速Vsに基づいた第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsを用いた場合のフローチャートである。
ステップS1Aにおいて、舵角センサ20からの舵角θaを読み込む。
そして、ステップS1Bにおいて、舵角センサ20からの舵角θaに基づいて第1の戻し制御量目標値MapOut−θaに関する第1の目標前回値MapOut−θab1および第1の目標今回値MapOut−θan1を設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば舵角θaと第1の戻し制御量目標値MapOut−θa1との相関関係を示す図示せぬマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS1Cにおいて、車速センサ19からの車速Vsを読み込む。
そして、ステップS1Dにおいて、車速センサ19からの車速Vsに基づいて第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsに関する第2の目標前回値MapOut−Vsb2および第2の目標今回値MapOut−Vsn2を設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば車速Vsと第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsとの相関関係を示す図示せぬマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS3において、車速変化判定部31によって、車速Vsが所定の移行判断車速Vd以下であるか否かを判定する。この移行判断車速Vdは、第2の戻し制御量RetOut−Vsを漸近処理するための基準となる車速であり、セルフアライニングトルクが小さくなる低車速、例えば5km/hである。
車速Vsが移行判断車速Vdよりも大きい場合には、第2の戻し制御量RetOut−Vsの演算を行わずに、フローを終了する。
また、車速Vsが移行判断車速Vd以下の場合には、ステップS4に移行し、車速変化判定部31によって、車速今回値Vsnが車速前回値Vsbと等しいか否かを判定する。
車速今回値Vsnが車速前回値Vsbと等しくない場合には、車速Vsの変化があった、即ち車速変化信号Vscが舵角戻しトルク指令信号演算部30に出力されたものとして、ステップS5Aに移行し、初期差分Dを算出する。この初期差分Dの算出は、時間t1において第2の目標今回値MapOut−Vsn2から第2の目標前回値MapOut−Vsb2を減算することにより行われる。
そして、ステップS6Aにおいて、単位時間(図4に示す時間t1からt2までの時間)における漸減量Daを算出する。この漸減量Daの算出は、時間t1から時間t2にかけて初期差分Dを徐々に減少させてゼロにすることで行われる。
次に、ステップS7Aにおいて、第2の戻し制御量RetOut−Vsを漸近処理する。この漸近処理は、上述したように時間t1から時間t2までの間で、第2の目標今回値MapOut−Vsn2から漸減量Daを減算することで第2の戻し制御量RetOut−Vsを第2の目標今回値MapOut−Vsn2に徐々に近づける、つまり漸近させるものである。
また、ステップS4において、車速今回値が車速前回値と等しい場合には、車速Vsの変化が無かったものとして、ステップS6Aに移行し、更新前の初期差分により漸減量Daを算出する。
車速Vsに基づいた第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの変化量は、図3に示した舵角θaおよび車速Vsに基づいた戻し制御量目標値MapOutの変化量よりも大きい。従って、本実施例では、このような大きい第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの変化量に起因した操舵のより大きな違和感を抑制すべく、第2の戻し制御量RetOut−Vsを漸近処理している。
[第1の実施例の効果]
特許文献1のパワーステアリング装置では、低車速域から停車までの間の戻し制御量の急変について何ら考慮されていないので、この急変する戻し制御量に基づいてステアリングホイール4の戻し制御を行うことで、車両の発車時にステアリングホイール4が急に戻され、操舵力が急増する操舵の違和感が生じる虞があった。また、車両の停車時には、操舵力が抜け、ステアリングホイール4が切れ込む操舵の違和感が生じる虞があった。
これに対し、第1の実施例では、パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール4の回転を転舵輪5,5に伝達する操舵機構2と、操舵機構2に操舵力を付与するモータ14と、モータ14を駆動制御する制御装置15と、制御装置15に設けられ、操舵機構2に生じる操舵トルクTrの信号である操舵トルク信号を受信する操舵トルク信号受信部27と、制御装置15に設けられ、操舵トルク信号に基づき基本アシスト電流TRrを演算する基本アシスト指令信号演算部23であって、基本アシスト電流TRrはステアリングホイール4の回転方向と一致する方向に操舵機構2に操舵力を付与する指令信号である基本アシスト指令信号演算部23と、制御装置15に設けられ、車両の運転状態のパラメータに関するパルス状の信号である運転状態パラメータ信号を受信する運転状態パラメータ信号受信部と、制御装置15に設けられ、運転状態パラメータ信号に基づき戻し制御量目標値MapOutを設定する舵角戻しトルク目標値設定部29であって、戻し制御量目標値MapOutは転舵輪5,5が中立位置を向く方向に操舵機構2に操舵力を付与する目標値である舵角戻しトルク目標値設定部29と、制御装置15に設けられ、戻し制御量目標値MapOutに基づき戻し制御量RetOutを演算する舵角戻しトルク指令信号演算部30であって、戻し制御量RetOutは、舵角戻しトルク目標値設定部29によって設定された目標今回値MapOut−nに徐々に近づくように演算される指令信号である舵角戻しトルク指令信号演算部30と、制御装置15に設けられ、基本アシスト電流TRrと戻し制御量RetOutに基づきモータ14を駆動制御する指令信号を演算するモータ駆動信号演算部25と、を有している。
このように、目標今回値MapOut−nに徐々に近づくように戻し制御量RetOutの変化量を減少させることで、急激な操舵力の変化が抑制される。つまり、車両の発車時には操舵力の急増が抑制される一方、車両の停車時には操舵力の抜けが抑制される。これにより、車両の発車時および停車時において、運転者の操舵の違和感を緩和することができる。
特に、車速Vsはパルス状の信号であり、分解能が低いので、車速Vsの変化に対する戻し制御量目標値MapOutの変化量も大きくなり、操舵のより大きな違和感が生じる虞がある。
従って、第1の実施例のような戻し制御量RetOutの演算は、車速Vsに基づいて戻し制御量目標値MapOutが設定される場合に、より効果的である。
また、第1の実施例では、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、戻し制御量目標値MapOutの目標前回値MapOut−bと目標今回値MapOut−nの差が漸減するように戻し制御量RetOutを演算する。
このように、モータ14へ出力される戻し制御量RetOutが目標前回値MapOut−bから目標今回値MapOut−nへ徐々に変化することで、急激な操舵力の変化が抑制され、運転者の操舵の違和感を抑制することができる。
さらに、第1の実施例では、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、戻し制御量目標値MapOutの目標前回値MapOut−bと目標今回値MapOut−nの差が0になる前に戻し制御量目標値MapOutが更新された場合、戻し制御量目標値MapOutが目標次回値MapOut−aに更新されたときの戻し制御量目標値MapOutの目標前回値MapOut−bと目標今回値MapOut−nの差に目標次回値MapOut−aと目標今回値MapOut−nとの差を加算してなる値が漸減するように戻し制御量RetOutを演算する。
従って、戻し制御量RetOutが目標今回値MapOut−nまで到達する途中に戻し制御量目標値MapOutが更新された場合であっても、急激な操舵力の変化が抑制され、運転者の操舵の違和感を抑制することができる。
また、第1の実施例では、車速信号受信部28および舵角信号受信部32は、舵角θaと車速Vsを受信し、舵角戻しトルク目標値設定部29は、舵角θaに対する戻し制御量目標値MapOutである第1の戻し制御量目標値MapOut−θaを設定すると共に、車速Vsに対する戻し制御量目標値MapOutである第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsであって、車速Vsの変化に対する戻し制御量目標値MapOutの変化量が舵角θaの変化に対する第1の戻し制御量目標値MapOut−θaの変化量よりも大きい第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsを設定し、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsに基づき第2の戻し制御量RetOut−Vsを演算し、第2の戻し制御量RetOut−Vsは、第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsに徐々に近づくように演算される。
このような大きい変化量を有する第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsについて第2の戻し制御量RetOut−Vsを演算することで、第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsよりも小さい変化量を有する第1の戻し制御量目標値MapOut−θaについて演算を行う必要がない。従って、演算負荷を抑制しながら、運転者の操舵の違和感をより効率的に抑制することができる。
さらに、第1の実施例では、車速信号受信部28および舵角信号受信部32は、運転状態パラメータ信号であって、転舵輪5,5の転舵角の信号である舵角θaと、車速Vsを受信し、舵角戻しトルク目標値設定部29は、舵角θaと車速Vsの両方に基づき戻し制御量目標値MapOutを設定し、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、舵角戻しトルク目標値設定部29によって設定された目標今回値MapOut−nに徐々に近づくように戻し制御量RetOutを演算する。
従って、車速Vsの変化と舵角θaの変化の両方に基づいた戻し制御量RetOutを付与し、戻し制御量RetOutの演算のバリエーションを増やすことができる。
また、第1の実施例では、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、単位時間当たりにおける戻し制御量目標値MapOutの目標前回値MapOut−bと目標今回値MapOut−nの差が漸減するように戻し制御量RetOutを演算する。
このように、単位時間当たりの戻し制御量RetOutを演算することで、単位時間で戻し制御量RetOutを制限するだけの比較的簡易な構成でもって、戻し制御量RetOutの急激な変化をより効率的に抑制することができる。
さらに、第1の実施例では、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、運転状態パラメータ信号の変化に対する戻し制御量目標値MapOutの変化量が大きい所定領域において、目標今回値MapOut−nに徐々に近づくように戻し制御量RetOutを演算する。
一般的に、例えば1km/h〜5km/hの車速Vsを含む低車速域では、セルフアライニングトルクの不足を補うために戻し制御量目標値MapOutが比較的大きな値に設定されている。一方、車速Vsが0km/hのときは、ステアリングホイール4を戻す必要がないので、戻し制御量目標値MapOutがゼロに設定されることが多い。従って、車速Vsが0km/h〜5km/hにあるときには、戻し制御量目標値MapOutの変化量が大きくなる。このような戻し制御量目標値MapOutの変化量が大きくなる車速域で戻し制御量RetOutの漸近処理を行うことで、演算負荷を軽減しつつ、より効果的に操舵の違和感を抑制することができる。
[第2の実施例]
図7は、第2の実施例の戻し制御量RetOutの演算方法を示すフローチャートである。
ステップS11において、車速センサ19からの車速Vsおよび舵角センサ20からの舵角θaを読み込む。
そして、ステップS12において、戻し制御量目標値である目標前回値MapOut−bおよび目標今回値MapOut−nを設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば図3に示すマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS13において、車速変化判定部31によって、車速Vsが所定の移行判断車速Vd以下であるか否かを判定する。この移行判断車速Vdは、戻し制御量RetOutを漸近処理するための基準となる車速であり、セルフアライニングトルクが小さくなる低車速、例えば5km/hである。
車速Vsが移行判断車速Vdよりも大きい場合には、戻し制御量RetOutの演算を行わずに、フローを終了する。
また、車速Vsが移行判断車速Vd以下の場合には、ステップS14に移行し、車速変化判定部31によって、車速今回値Vsnが車速前回値Vsbと等しいか否かを判定する。
車速今回値Vsnが車速前回値Vsbと等しくない場合には、車速Vsの変化があった、即ち車速変化信号Vscが舵角戻しトルク指令信号演算部30に出力されたものとして、ステップS15に移行し、初期差分Dを算出する。この初期差分Dの算出は、上述したように、時間t1において目標今回値MapOut−nから目標前回値MapOut−bを減算することにより行われる(図4参照)。
ステップS16において、車速Vsの変化率Rsを算出する。この車速Vsの変化率Rsは、例えば以下の式によって算出される。
変化率Rs=(車速今回値Vsn−車速変化前の車速値Vsd)/車速変化前の車速値Vsd
ここで、車速変化前の車速値Vsdは、時間t1(図4参照)において車速の変化が生じる前の車速である。
なお、ステップS16において、車速Vsの変化率Rsの代わりに、舵角θaの変化率を算出するようにしても良い。舵角θaの変化率は、車速Vsの変化率Rsを算出する上記の式と同様の式によって算出される。
次に、ステップS17において、車速Vsの変化率Rsに応じて、戻し制御量RetOutを漸近処理する時間である制御時間Tcを算出する。制御時間Tcは、例えば、車速Vsの変化率Rsが大きいときに制御時間Tcを短くするように算出される。
そして、ステップS18において、制御時間Tcにおける漸減量Daを算出する。この漸減量Daの算出は、制御時間Tcにおいて初期差分Dを徐々に減少、即ち漸減させ、ゼロにすることで行われる。
次に、ステップS19において、戻し制御量RetOutを漸近処理する。この漸近処理は、制御時間Tc内で目標今回値MapOut−nから漸減量Daを減算することにより行われる。
図8は、第2の実施例の戻し制御量RetOutの演算において、車速Vsに基づいた第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsを用いた場合のフローチャートである。
ステップS11Aにおいて、舵角センサ20からの舵角θaを読み込む。
そして、ステップS11Bにおいて、舵角センサ20からの舵角θaに基づいて第1の戻し制御量目標値MapOut−θaに関する第1の目標前回値MapOut−θab1および第1の目標今回値MapOut−θan1を設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば舵角θaと第1の戻し制御量目標値MapOut−θa1との相関関係を示す図示せぬマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS11Cにおいて、車速センサ19からの車速Vsを読み込む。
そして、ステップS11Dにおいて、車速センサ19からの車速Vsに基づいて第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsに関する第2の目標前回値MapOut−Vsb2および第2の目標今回値MapOut−Vsn2を設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば車速Vsと第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsとの相関関係を示す図示せぬマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS13において、車速変化判定部31によって、車速Vsが所定の移行判断車速Vd以下であるか否かを判定する。この移行判断車速Vdは、第2の戻し制御量RetOut−Vsを漸近処理するための基準となる車速であり、セルフアライニングトルクが小さくなる低車速、例えば5km/hである。
車速Vsが移行判断車速Vdよりも大きい場合には、第2の戻し制御量RetOut−Vsの演算を行わずに、フローを終了する。
また、車速Vsが移行判断車速Vd以下の場合には、ステップS14に移行し、車速変化判定部31によって、車速今回値Vsnが車速前回値Vsbと等しいか否かを判定する。
車速今回値Vsnが車速前回値Vsbと等しくない場合には、車速Vsの変化があった、即ち車速変化信号Vscが舵角戻しトルク指令信号演算部30に出力されたものとして、ステップS15Aに移行し、初期差分Dを算出する。この初期差分Dの算出は、時間t1において第2の目標今回値MapOut−Vsn2から第2の目標前回値MapOut−Vsb2を減算することにより行われる。
ステップS16Aにおいて、車速Vsの変化率Rsを算出する。この車速Vsの変化率Rsは、例えば以下の式によって算出される。
変化率Rs=(車速今回値Vsn−車速変化前の車速値Vsd)/車速変化前の車速値Vsd
ここで、車速変化前の車速値Vsdは、時間t1(図4参照)において車速の変化が生じる前の車速である。
なお、ステップS16Aにおいて、車速Vsの変化率Rsの代わりに、舵角θaの変化率を算出するようにしても良い。舵角θaの変化率は、車速Vsの変化率Rsを算出する上記の式と同様の式によって算出される。
次に、ステップS17Aにおいて、車速Vsの変化率Rsに応じて、戻し制御量RetOutを漸近処理する時間である制御時間Tcを算出する。制御時間Tcは、例えば、車速Vsの変化率Rsが大きいときに制御時間Tcを短くするように算出される。
そして、ステップS18Aにおいて、制御時間Tcにおける漸減量Daを算出する。この漸減量Daの算出は、制御時間Tcにおいて初期差分Dを徐々に減少、即ち漸減させ、ゼロにすることで行われる。
次に、ステップS19Aにおいて、第2の戻し制御量RetOut−Vsを漸近処理する。この漸近処理は、制御時間Tc内で第2の目標今回値MapOut−Vsn2から漸減量Daを減算することにより行われる。
車速Vsに基づいた第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの変化量は、図3に示した舵角θaおよび車速Vsに基づいた戻し制御量目標値MapOutの変化量よりも大きい。従って、本実施例では、このような大きい第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの変化量に起因した操舵のより大きな違和感を抑制すべく、第2の戻し制御量RetOut−Vsを漸近処理している。
[第2の実施例の効果]
第2の実施例では、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、車速Vsの変化率Rsに応じて変化する制御時間Tc内において目標今回値MapOut−nに徐々に近づくように戻し制御量RetOutを演算する。
このように、車速Vsの変化率Rsに応じて制御時間Tcを設定することで、車速Vsの急激な変化に戻し制御量RetOutが追従するように戻し制御量RetOutを柔軟に調整することができる。
[第3の実施例]
図9は、第3の実施例の戻し制御量RetOutの演算方法を示すフローチャートである。
第3の実施例では、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、単位時間当たりの戻し制御量RetOutの変化量を制御する図示せぬレートリミッタを備えている。
ステップS21において、車速センサ19からの車速Vsおよび舵角センサ20からの舵角θaを読み込む。
そして、ステップS22において、戻し制御量目標値である目標前回値MapOut−bおよび目標今回値MapOut−nを設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば図3に示すマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS23において、車速変化判定部31によって、車速Vsが所定の移行判断車速Vd以下であるか否かを判定する。この移行判断車速Vdは、戻し制御量RetOutを漸近処理するための基準となる車速であり、セルフアライニングトルクが小さくなる低車速、例えば5km/hである。
車速Vsが移行判断車速Vdよりも大きい場合には、戻し制御量RetOutの演算を行わずに、フローを終了する。
ステップS24において、戻し制御量RetOutの変化量を制限するリミット値Aが所定の閾値Bよりも小さいか否かを判定する。リミット値Aが所定の閾値Bよりも小さい場合には、ステップS25において、リミット値Aを戻し制御量RetOutとし、レートリミッタにより、単位時間当たりの戻し制御量RetOutの変化量を制限する。
一方、リミット値Aが所定の閾値B以上の場合には、ステップS26において、所定の閾値Bを戻し制御量RetOutとし、レートリミッタ処理を終了する。
図10は、第3の実施例において、車速Vsに基づいた第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsを用いた場合のフローチャートである。
ステップS21Aにおいて、舵角センサ20からの舵角θaを読み込む。
そして、ステップS21Bにおいて、舵角センサ20からの舵角θaに基づいて第1の戻し制御量目標値MapOut−θaに関する第1の目標前回値MapOut−θab1および第1の目標今回値MapOut−θan1を設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば舵角θaと第1の戻し制御量目標値MapOut−θa1との相関関係を示す図示せぬマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS21Cにおいて、車速センサ19からの車速Vsを読み込む。
そして、ステップS21Dにおいて、車速センサ19からの車速Vsに基づいて第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsに関する第2の目標前回値MapOut−Vsb2および第2の目標今回値MapOut−Vsn2を設定する。この設定は、舵角戻しトルク目標値設定部29が例えば車速Vsと第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsとの相関関係を示す図示せぬマップを参照することにより行われる。
次に、ステップS23において、車速変化判定部31によって、車速Vsが所定の移行判断車速Vd以下であるか否かを判定する。この移行判断車速Vdは、第2の戻し制御量RetOut−Vsを漸近処理するための基準となる車速であり、セルフアライニングトルクが小さくなる低車速、例えば5km/hである。
車速Vsが移行判断車速Vdよりも大きい場合には、第2の戻し制御量RetOut−Vsの演算を行わずに、フローを終了する。
ステップS24Aにおいて、第2の戻し制御量RetOut−Vsの変化量を制限するリミット値Aが所定の閾値Bよりも小さいか否かを判定する。リミット値Aが所定の閾値Bよりも小さい場合には、ステップS25Aにおいて、リミット値Aを第2の戻し制御量RetOut−Vsとし、レートリミッタにより、単位時間当たりの第2の戻し制御量RetOut−Vsの変化量を制限する。
一方、リミット値Aが所定の閾値B以上の場合には、ステップS26Aにおいて、所定の閾値Bを第2の戻し制御量RetOut−Vsとし、レートリミッタ処理を終了する。
車速Vsに基づいた第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの変化量は、図3に示した舵角θaおよび車速Vsに基づいた戻し制御量目標値MapOutの変化量よりも大きい。従って、本実施例では、このような大きい第2の戻し制御量目標値MapOut−Vsの変化量に起因した操舵のより大きな違和感を抑制すべく、第2の戻し制御量RetOut−Vsを漸近処理している。
[第3の実施例の効果]
第3の実施例では、舵角戻しトルク指令信号演算部30は、単位時間当たりの戻し制御量RetOutの変化量を制御するレートリミッタである。
このように、レートリミッタにより単位時間当たりの戻し制御量RetOutの変化量を制限することで、比較的簡易な構成でもって急激な戻し制御量RetOutの変化がより効率的に抑制され、これにより、操舵の違和感を抑制することができる。
以上説明した実施例に基づくパワーステアリング装置としては、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
パワーステアリング装置は、その一つの態様において、ステアリングホイールの回転を転舵輪に伝達する操舵機構と、前記操舵機構に操舵力を付与する電動モータと、前記電動モータを駆動制御する制御装置と、前記制御装置に設けられ、前記操舵機構に生じる操舵トルクの信号である操舵トルク信号を受信する操舵トルク信号受信部と、前記制御装置に設けられ、前記操舵トルク信号に基づき基本アシスト指令信号を演算する基本アシスト指令信号演算部であって、前記基本アシスト指令信号は前記ステアリングホイールの回転方向と一致する方向に前記操舵機構に操舵力を付与する指令信号である基本アシスト指令信号演算部と、前記制御装置に設けられ、車両の運転状態のパラメータに関するパルス状の信号である運転状態パラメータ信号を受信する運転状態パラメータ信号受信部と、前記制御装置に設けられ、前記運転状態パラメータ信号に基づき舵角戻しトルク目標値を設定する舵角戻しトルク目標値設定部であって、前記舵角戻しトルク目標値は前記転舵輪が中立位置を向く方向に前記操舵機構に操舵力を付与する目標値である舵角戻しトルク目標値設定部と、前記制御装置に設けられ、前記舵角戻しトルク目標値に基づき舵角戻しトルク指令信号を演算する舵角戻しトルク指令信号演算部であって、前記舵角戻しトルク指令信号は、前記舵角戻しトルク目標値設定部によって設定された前記舵角戻しトルク目標値に徐々に近づくように演算される指令信号である舵角戻しトルク指令信号演算部と、前記制御装置に設けられ、前記基本アシスト指令信号と前記舵角戻しトルク指令信号に基づき前記電動モータを駆動制御する指令信号を演算するモータ駆動信号演算部と、を有している。
前記パワーステアリング装置の好ましい態様において、前記舵角戻しトルク指令信号演算部は、前記舵角戻しトルク目標値の前回値と今回値の差が漸減するように前記舵角戻しトルク指令信号を演算する。
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記舵角戻しトルク指令信号演算部は、前記舵角戻しトルク目標値の前回値と今回値の差が0になる前に前記舵角戻しトルク目標値が更新された場合、前記舵角戻しトルク目標値が次回値に更新されたときの前記舵角戻しトルク目標値の前記前回値と前記今回値の差に前記次回値と前記今回値との差を加算してなる値が漸減するように前記舵角戻しトルク指令信号を演算する。
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記運転状態パラメータ信号受信部は、第1の運転状態パラメータ信号と第2の運転状態パラメータ信号を受信し、前記舵角戻しトルク目標値設定部は、前記第1の運転状態パラメータ信号に対する前記舵角戻しトルク目標値である第1の舵角戻しトルク目標値を設定すると共に、前記第2の運転状態パラメータ信号に対する前記舵角戻しトルク目標値である第2の舵角戻しトルク目標値であって、前記第2の運転状態パラメータ信号の変化に対する前記舵角戻しトルク目標値の変化量が前記第1の運転状態パラメータ信号の変化に対する前記第1の舵角戻しトルク目標値の変化量よりも大きい第2の舵角戻しトルク目標値を設定し、前記舵角戻しトルク指令信号演算部は、前記第2の舵角戻しトルク目標値に基づき第2の舵角戻しトルク指令信号を演算し、前記第2の舵角戻しトルク指令信号は、前記第2の舵角戻しトルク目標値に徐々に近づくように演算される。
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記運転状態パラメータ信号受信部は、前記運転状態パラメータ信号であって、前記転舵輪の転舵角の信号である舵角信号と、車速信号を受信し、前記舵角戻しトルク目標値設定部は、前記舵角信号と前記車速信号の両方に基づき前記舵角戻しトルク目標値を設定し、前記舵角戻しトルク指令信号演算部は、前記舵角戻しトルク目標値設定部によって設定された前記舵角戻しトルク目標値に徐々に近づくように前記舵角ン戻しトルク指令信号を演算する。
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記舵角戻しトルク指令信号演算部は、単位時間当たりの前記舵角戻しトルク指令信号の変化量を制御するレートリミッタである。
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記舵角戻しトルク指令信号演算部は、単位時間当たりにおける前記舵角戻しトルク目標値の前回値と今回値の差が漸減するように前記舵角戻しトルク指令信号を演算する。
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記舵角戻しトルク指令信号演算部は、前記運転状態パラメータ信号の変化率に応じて変化する制御時間内において前記舵角戻しトルク目標値に徐々に近づくように前記舵角戻しトルク指令信号を演算する。
別の好ましい態様では、前記パワーステアリング装置の態様のいずれかにおいて、前記舵角戻しトルク指令信号演算部は、前記運転状態パラメータ信号の変化に対する前記舵角戻しトルク目標値の変化量が大きい所定領域において、前記舵角戻しトルク目標値に徐々に近づくように前記舵角戻しトルク指令信号を演算する。