JP6805026B2 - スマ養殖魚、スマ養殖魚の可食部、スマ養殖魚の非加熱食品及びスマ養殖魚の加熱食品 - Google Patents

スマ養殖魚、スマ養殖魚の可食部、スマ養殖魚の非加熱食品及びスマ養殖魚の加熱食品 Download PDF

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Description

本発明は、マグロ類養殖魚及びその用途、並びにマグロ類養殖魚の飼育方法に関する。
魚類の養殖では、栄養面、安定供給、環境汚染面、永続的な養殖等の観点から、生餌から配合飼料への転換が図られており、種々の配合飼料が開発されている。特に、魚食性の高い魚種についても配合飼料への転換が進むように、魚種の嗜好性に合わせた配合飼料が提案されている。
例えば、特許文献1及び特許文献2には、外層及び内層を有する養魚用飼料が開示されている。特許文献1及び特許文献2、これらの養魚用飼料は、マグロ類のような嗜好性が高い養殖魚に対して用いられ、摂餌性及び飼料効率がよいと記載されている。特許文献3には、外皮と、タンパク質原料及び液状油を含有する内包からなる二重構造の飼料が開示されており、この飼料は、摂餌性が高く、且つ油漏れが抑制されると記載されている。
国際公開第2010/110326号パンフレット 特開2012−65565号公報 特開2014−45750号公報
一方、ビタミンEには、抗酸化作用等があることが知られており、生体においてビタミンEは、組織ごとに特有の機能を発揮する。このため、養殖魚においても、各組織におけるビタミンEの生理作用が高いことが求められている。
従って、本発明は、ビタミンEが富化されたマグロ類養殖魚及びその用途、並びにその飼育方法を提供することを目的とする。
本発明は以下のとおりである。
[1] 筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくとも1つが100gあたり2mg以上のビタミンEを含む、マグロ類養殖魚。
[2] 配合飼料を含む餌料で飼育管理されることにより得られた、[1]記載のマグロ類養殖魚。
[3] 比幽門垂重量が、2%以上である[1]又は[2]記載のマグロ類養殖魚。
[4] 100gあたり2mg以上のビタミンEを含む幽門垂を有する[1]〜[3]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[5] 総魚体重が20kg以上である[1]〜[4]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[6] 尾叉長が90cm以上である[1]〜[5]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[7] 肥満度が20以上である[1]〜[6]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[8] マグロ属、ソウダガツオ属、スマ属、又はカツオ属のマグロ類である[1]〜[7]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[9] ビンナガ、クロマグロ、ミナミマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマである[1]〜[8]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[10] 北半球を生息域とする魚類を主食とするマグロ類である[1]〜[8]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[11] ビンナガ、クロマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマである[10]記載のマグロ類養殖魚。
[12] 鰓、内臓、尾部及び頭部からなる群より選択される部位の少なくともひとつが除去されている[1]〜[11]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[13] 鰓及び内臓が除去された形態である[1]〜[12]のいずれか1に記載のマグロ類養殖魚。
[14] 全重量が17kg以上である[13]記載のマグロ類養殖魚。
[15] 100gあたり2mg以上のビタミンEを含む、マグロ類養殖魚の可食部。
[16] 魚肉、内臓、眼球、皮又は脳の少なくとも一部である[15]記載のマグロ類養殖魚の可食部。
[17] 赤身又は脂身である[15]記載のマグロ類養殖魚の可食部。
[18] 肝臓、幽門垂、胃、食道、腸管、精巣、卵巣、脾臓、心臓及び浮き袋からなる群より選択される少なくとも1つである[15]記載のマグロ類養殖魚の可食部。
[19] 100gあたり2mg以上のビタミンEを含むマグロ類養殖魚の可食部の非加熱品と、可食部の非加熱品を収容する容器と、を含む、マグロ類養殖魚の非加熱食品。
[20] 100gあたり2mg以上のビタミンEを含むマグロ類養殖魚の可食部の加熱品と、可食部の加熱品を収容する容器と、を含む、マグロ類養殖魚の加熱食品。
[21] 魚粉及び油脂を含む内包と、内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの加熱ゲルである外皮と、を含み、内包におけるビタミンE含有量が飼料全体に対して500ppm以上である配合飼料を、少なくとも60日間継続して給餌することを含む、マグロ類養殖魚の飼育方法。
本発明によれば、ビタミンEが富化されたマグロ類養殖魚及びその用途、並びにその飼育方法を提供することができる。
図1は、実施例における魚肉の採取場所を示す魚体断面の模式図である。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
本明細書において、パーセントに関して「以下」又は「未満」との用語は、下限値を特に記載しない限り、0%即ち「含有しない」場合を含み、又は、現状の手段では検出不可の値を含む範囲を意味する。本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
<マグロ類養殖魚>
本発明の一実施形態におけるマグロ類養殖魚は、筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくとも1つが100gあたり2mg以上のビタミンEを含む。本明細書では、このマグロ類養殖魚を、「ビタミンE富化養殖魚」と称する場合がある。
一般に魚食性の養殖魚におけるビタミンEの含有量は、日本食品標準成分表、2010年によれば、例えば、ぶりでは、可食部100gあたり1mg〜2mg程度、はまち(養殖)では可食部100gあたり約4mg、めかじきでは可食部100gあたり約3mgのビタミンEを含むことが知られている。一方、まぐろ(脂身)では、これらの魚種よりも低く、ビタミンE量は、100gあたり1.5mgと知られている。
これらに対して、本マグロ類養殖魚は、筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくとも1つが100gあたり2mg以上のビタミンEを含むものである。このように高いビタミンE含有量の組織を有するマグロ類養殖魚は、これまでに確認されていなかった。
従って、本発明におけるマグロ類養殖魚は、従来のマグロ類よりも遥かに高い濃度でビタミンEを含有するので、各組織において、組織特有のビタミンEの高い生理作用が発揮できる。また、本発明におけるマグロ類養殖魚は、従来のマグロ類養殖魚よりも遥かに高い濃度で各組織にビタミンEが蓄積されているので、飼育環境下において、ビタミンEの免疫賦活作用により、又は抗酸化作用による過酸化脂質の生成の抑制により、給餌制限に強く、また、生残率が高く、加えて、ストレスに強く、病気になりにくいことが期待できる。このようなマグロ類養殖魚の可食部を食品として用いる場合には、ビタミンEの抗酸化力により、いわゆるヤケ肉になりにくいことが推測でき、更には、少ない量でより多くの量のビタミンEを摂取できるので、効率よいビタミンEの効能の発揮が期待できる。
ビタミンE富化養殖魚であるマグロ類は、一般にドコサヘキサエン酸(DHA)等の機能性の不飽和脂肪酸を比較的多く含むことが知られている。ビタミンE富化養殖魚はビタミンEを多く含むので、機能性の不飽和脂肪酸の酸化が抑制され得る。
マグロ類としては、マグロ族及びハガツオ族を挙げることができる。マグロ族としては、マグロ属、ソウダガツオ属、スマ属、カツオ属等を挙げることができ、ハガツオ族としては、イソマグロ属、ハガツオ属等を挙げることができる。マグロ類としては、例えば、マグロ属のビンナガ、クロマグロ、ミナミマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ等、カツオ属のカツオ、ソウダガツオ属のヒラソウダ及びマルソウダ、スマ属のスマ等、ハガツオ属のハガツオを挙げることができ、あるいは、ビンナガ、クロマグロ、ミナミマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマとすることができる。
ビタミンE富化養殖魚は、天然では北半球を生息域とする魚類を主食とすることができるマグロ類であることが好ましい。このような天然では北半球を生息域とする魚類を主食とすることができるマグロ類としては、ビンナガ、クロマグロ、タイセイヨウマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダ、メバチ、コシナガ、ハガツオ又はスマであることができる。
ビタミンE富化養殖魚は、どのような方法で得られたものであってもよく、配合飼料を含む飼料で飼育管理されることにより得られたものであることが好ましい。
「配合飼料」とは、魚類の成育に必要なタンパク質、ビタミン、ミネラル等の栄養素を満たすように素材を組み合わせた飼料を意味する。「飼育管理」とは、特定の目的を達成するために選択された餌料を用いて飼育されていることを意味する。
ビタミンE富化養殖魚では、筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくともひとつが、100gあたり2mg以上のビタミンEを含み、好ましくは、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、20mg以上、30mg以上、50mg以上、80mg以上、100mg以上、又は150mg以上のビタミンEを含む。ビタミンE富化養殖魚としては、筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくともひとつであって、且つその一部分において、100gあたり2mg以上のビタミンEが含有されていればよい。ビタミンE富化養殖魚の筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくともひとつの組織におけるビタミンEの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば1000mg以下とすることができる。
筋肉としては、背側筋、腹側筋、背側竜骨筋、腹側竜骨筋、血合筋等が挙げられる。背側筋、腹側筋、背側竜骨筋及び腹側竜骨筋は、魚体の比較的深部にあり、ミオグロビン含有量がより多く赤味を呈している赤身と、魚体の比較的浅部にあり、ミオグロビン含有量がより少なく赤味がより薄い脂身とに分けることができる。脂身は通称、「トロ」とも称される場合があり、脂の量に応じて「大トロ」、「中トロ」などと呼ばれる。血合筋とは、背側部及び腹側部側筋の接合部付近の赤褐色の筋肉をいう。
ビタミンEの含有量の測定は、以下のようにして行う。筋肉の場合、筋肉の一部、例えば5cm角の程度の大きさに切り出し、試験片とする。肝臓の場合には、肝臓の一部、例えば中央部分を5cm×5cmの大きさに切り出し、試験片とする。眼球の場合には、眼球と視神経と共に取り出し、細かく刻み、試験片とする。
試験片中のビタミンE量は、アルカリけん化により不けん化物を取り出し、これを試料として高速液体クロマトグラフ(HPLC)法(蛍光分光光度計)にて定量する。すなわち、塩化ナトリウム溶液、ピロガロール−エタノール溶液及び水酸化カリウム溶液を用いてアルカリけん化し、塩化ナトリウム溶液とヘキサン及び酢酸エチルの混液とを用いて振盪抽出を行い、上層を分取し、溶媒を留去した後、ヘキサンに添加して測定用試料とし、HPLCにおけるピーク比に基づき定量する。
ビタミンEとしては、トコフェロール及びトコトリエノールを挙げることができ、具体的には、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノールなどが挙げられる。ビタミンE富化養殖魚は、これらのビタミンEを単独で又は2種以上を組み合わせて含むことができる。
好ましくは、ビタミンE富化養殖魚は、ビタミンEを、筋肉、肝臓及び眼球のうち、いずれか2つ、即ち、筋肉と眼球、筋肉と肝臓、肝臓と眼球において、より好ましくは、筋肉、肝臓及び眼球のいずれにおいても、100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、又は15mg以上含むことができる。このようなビタミンE富化養殖魚は、複数の組織において高いビタミンE含有量を有していると推測できる。ビタミンE富化養殖魚のビタミンEの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば、1000mg以下、300mg以下とすることができる。
ビタミンE富化養殖魚は、ビタミンEを、筋肉100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、又は10mg以上含むことができる。ビタミンE富化養殖魚の筋肉におけるビタミンEの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば、1000mg以下、300mg以下、100mg以下、又は50mg以下とすることができる。このようなビタミンE含有量が高い筋肉を有するビタミンE富化養殖魚は、例えば、疲れにくく長時間運動することができ、また、いわゆるヤケ肉の発生を抑制できる。
ビタミンE富化養殖魚は、ビタミンEを、肝臓100gあたり、2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、20mg以上、30mg以上、50mg以上、80mg以上、100mg以上、又は150mg以上、含むことができる。ビタミンE富化養殖魚の肝臓におけるビタミンEの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば、1000mg以下、又は300mg以下とすることができる。このようなビタミンE含有量が高い肝臓を有するビタミンE富化養殖魚は、例えば、マグロ類養殖魚の消化能力をより長期間にわたって維持することができ、より持続的な栄養吸収によって、より長期間にわたって健康を維持することができる。
ビタミンE富化養殖魚は、ビタミンEを、眼球100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、又は20mg以上、含むことができる。ビタミンE富化養殖魚の眼球におけるビタミンEの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば、1000mg以下、300mg以下、100mg以下、又は50mg以下とすることができる。このようなビタミンE含有量が高い眼球を有するビタミンE富化養殖魚は、例えば、末梢循環障害改善作用、過酸化脂質の増加防止作用、網膜の代謝異常改善作用等により、疲れ目になりにくく、また、給餌能力を向上することができ、又は、養殖魚の視力の改善等によって障害物への衝突を回避しやすくすることができる。
好ましくは、ビタミンE富化養殖魚は、α−トコフェロールを、筋肉、肝臓及び眼球のうち、いずれか2つ、即ち、筋肉と眼球、筋肉と肝臓、肝臓と眼球において、より好ましくは筋肉、肝臓及び眼球のいずれにおいても、100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、又は15mg以上含むことができる。このようなビタミンE富化養殖魚は、魚体全体として高いビタミンE含有量を有していると推測できる。ビタミンE富化養殖魚のα−トコフェロールの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば、1000mg以下、又は300mg以下とすることができる。
ビタミンE富化養殖魚は、α−トコフェロールを、筋肉100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、又は10mg以上含むことができる。ビタミンE富化養殖魚の筋肉におけるα−トコフェロールの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば、1000mg以下、300mg以下、100mg以下、又は50mg以下とすることができる。このようなα−トコフェロール含有量が高い筋肉を有するビタミンE富化養殖魚は、例えば、疲れにくく長時間運動することができ、また、いわゆるヤケ肉の発生を抑制できる。
ビタミンE富化養殖魚は、α−トコフェロールを、肝臓100gあたり、2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、20mg以上、30mg以上、50mg以上、80mg以上、100mg以上、又は150mg以上、含むことができる。ビタミンE富化養殖魚の肝臓におけるα−トコフェロールの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば、1000mg以下、又は300mg以下とすることができる。このようなα−トコフェロール含有量が高い肝臓を有するビタミンE富化養殖魚は、例えば、マグロ類養殖魚の消化能力をより長期間にわたって維持することができ、より持続的な栄養吸収によって、より長期間にわたって健康を維持することができる。
ビタミンE富化養殖魚は、α−トコフェロールを、眼球100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、又は20mg以上、含むことができる。ビタミンE富化養殖魚の眼球におけるα−トコフェロールの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば、1000mg以下、300mg以下、100mg以下、又は50mg以下とすることができる。このようなα−トコフェロール含有量が高い眼球を有するビタミンE富化養殖魚は、例えば、末梢循環障害改善作用、過酸化脂質の増加防止作用、網膜の代謝異常改善作用等により、疲れ目になりにくく、また、給餌能力を向上することができ、又は、養殖魚の視力の改善等によって障害物への衝突を回避しやすくすることができる。
ビタミンE富化養殖魚は、好ましくは20以上、より好ましくは21以上、更に好ましくは22以上の肥満度を有することができる。肥満度が20以上のビタミンE富化養殖魚は、天然魚と比較して、いわゆる脂がのっているということができ、ビタミンEが富化された可食部をより多く提供することができる。
肥満度は、一般に、以下の式[1]に基づいて評価することができる。
肥満度=
重量(g)/[尾叉長(cm)×尾叉長(cm)×尾叉長(cm)]×1000
・・・[1]
ビタミンE富化養殖魚は、90cm以上、100cm以上、120cm以上、150cm以上、又は200cm以上の尾叉長を有することができる。90cm以上の尾叉長を有するビタミンE富化養殖魚は、天然魚と比較して魚体が大きく、ビタミンEが富化された可食部をより多く提供することができる。尾叉長とは、魚の頭部先端部からヒレ中央の端部までの距離をいい、当業者には周知の外部形態の指標である。尾叉長の測定は、魚の頭部先端部からヒレ中央の端部までの平面視直線距離を測定する。ビタミンE富化養殖魚の尾叉長の上限値については、特に制限はなく、例えば2000cm以下とすることができる。
魚個体のビタミンE富化養殖魚の場合、ビタミンE富化養殖魚の魚全体の重量、すなわち総魚体重は、20kg以上であることが好ましく、25kg以上であることがより好ましく、30kg以上であることが更に好ましく、35kg以上であることが更により好ましく、40kg以上であることが特に好ましい。総魚体重がより重いビタミンE富化養殖魚は、ビタミンEが富化された可食部をより多く得ることができる利点、脂身が多く入ることにより脂身の部分と赤身の部分との差がより顕著となり、ビタミンEの抗酸化力により酸化されにくい脂身をより多く得ることができる利点などを得ることができる。
ビタミンE富化養殖魚の魚全体の重量の上限値については、特に制限はなく、例えば500kg以下とすることができる。
ビタミンE富化養殖魚は、ビタミンEが富化されていない養殖魚と比較した場合、ビタミンEの含有量が多い部位を有することができる。ビタミンE富化養殖魚において、ビタミンE含有量の多い部位は、富化されたビタミンEにより、過酸化脂質等の生成が抑制されて良好な機能を発揮することができる。
ビタミンE富化養殖魚は、ビタミンEが富化されていない魚と比較して、大きい幽門垂を有することができる。例えば、ビタミンE富化養殖魚では、比幽門垂重量が、2%以上であることができる。魚類において幽門垂は、栄養吸収器官であるため、幽門垂の大きさが大きい場合には、栄養吸収が比較的大きいことが期待される。ビタミンE富化養殖魚が配合飼料を用いて飼育されている場合には、ビタミンE富化養殖魚以外の養殖魚と比較して、比幽門垂重量が大きくなる傾向がある。ビタミンE富化養殖魚における幽門垂の重量の総魚体重量に対する比、即ち、比幽門垂重量は、2%以上、2.5%以上、3%以上、又は3.5%以上であってもよい。ビタミンE富化養殖魚の比幽門垂重量の上限値については、特に制限はなく、例えば10%以下とすることができる。
比幽門垂重量が高いビタミンE富化養殖魚は、比較的栄養吸収が良好であるため、可食部などに蓄積可能な1又は複数の他の栄養成分を配合飼料に含有させた場合には、これらの他の栄養成分が高度に蓄積することが期待できる。幽門垂の重量は、魚体から抜き取られた内臓から切り離すことにより幽門垂を得て、測定することができる。
ビタミンE富化養殖魚の幽門垂は、ビタミンEを、100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、20mg以上、30mg以上、50mg以上、又は、80mg以上、含むことができる。幽門垂におけるビタミンE含有量が多い場合には、ビタミンEの抗酸化力に基づいて、幽門垂の機能が効果的に発揮されることが期待される。ビタミンE富化養殖魚の幽門垂のビタミンE含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば500mg以下とすることができる。
ビタミンE富化養殖魚は、上述したほかにもビタミンE含有量が2mg以上の組織又は器官を有することができる。ビタミンE富化養殖魚が有し得るビタミンE含有量が多い組織又は器官としては、胃、食道、腸管、精巣、卵巣、脾臓、心臓及び血液を挙げることができる。
ビタミンE富化養殖魚の形態としては、頭部から尾部までのいずれの部位も備えた形態、即ち、「魚個体」と、魚個体の魚体の一部が除去された「加工形態」とを挙げることができる。
加工形態のビタミンE富化養殖魚としては、鰓、内蔵、尾部及び頭部からなる群より選択される部位の少なくともひとつが除去されたものを挙げることができる。内蔵としては、食道、胃、腸管、肝臓、幽門垂、精巣、卵巣、膵臓、心臓、浮き袋等を挙げることができる。加工形態は、例えば流通の便宜に応じて適宜選択され、例えば、鰓及び内蔵が除去された形態を挙げることができる。鰓及び内蔵が除去された形態のマグロ類は、一般に、GGマグロと称されている。換言すれば、「GGマグロ」は、鰓と、内蔵、具体的には、食道、胃、腸管,肝臓、幽門垂、生殖腺(精巣又は卵巣)、脾臓、心臓、及び浮き袋とが除去された形態を指す。
GGマグロの重量は、総魚体重の85〜89%程度に相当することが知られている。本発明の一実施形態におけるGGマグロの重量は、17kg以上であることが好ましく、21kg以上であることがより好ましく、26kg以上であることが更に好ましく、34kg以上であることが更により好ましい。重量が重くなるほど、ビタミンEが富化された可食部をより多く得ることができる利点、脂身が多く入ることにより脂身の部分との赤身の部分との差がより顕著となり、ビタミンEの抗酸化力により酸化されにくい脂身をより多く得ることができる利点などを得ることができる。GGマグロの長さは、上述したビタミンE富化養殖魚の尾叉長とほぼ同一であり、即ち、GGマグロは、90cm以上、100cm以上、又は120cm以上の長さを有することができる。90cm以上の長さを有するGGマグロは、天然魚と比較して魚体が大きく、ビタミンEが富化された可食部をより多く提供することができる。
他の加工形態としては、例えば、GGマグロから更に頭部及び尾部が除去された、いわゆるヘッドレス形態と、ヘッドレス形態を、ヘッドレス形態を左右及び背側と腹側に分けて、四つ割り状態にした、いわゆるロイン形態とを挙げることができる。
鰓、内臓及び頭部からなる群より選択される部位の少なくともひとつが除去されている加工形態のビタミンE富化養殖魚は、筋肉、眼球、又は筋肉及び眼球の双方を有することができる。加工形態のビタミンE富化養殖魚の筋肉は、魚個体の場合と同様に、100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、又は10mg以上のビタミンEを含むことができる。加工形態のビタミンE富化養殖魚の眼球は、魚個体の場合と同様に、100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、又は20mg以上のビタミンEを含むことができる。
本発明の一実施形態にかかるビタミンE富化養殖魚としては、例えば、以下のものが挙げられる:
(1)筋肉100gあたり5mg、8mg又は10mg以上のビタミンEを含み、肥満度が21以上、総魚体重が25kg以上、尾叉長が90cm以上のビタミンE富化養殖魚;
(2)筋肉100gあたり5mg、8mg又は10mg以上のビタミンEを含み、肥満度が20以上、総魚体重が20kg以上、尾叉長が100cm以上のビタミンE富化養殖魚;
(3)筋肉100gあたり5mg、8mg又は10mg以上のビタミンEを含み、肥満度が21以上、総魚体重が21kg以上、尾叉長が90cm以上のGGマグロであるビタミンE富化養殖魚;及び、
(4)筋肉100gあたり5mg、8mg又は10mg以上のビタミンEを含み、肥満度が20以上、総魚体重が17kg以上、尾叉長が100cm以上のGGマグロであるビタミンE富化養殖魚:
(5)肝臓100gあたり50mg、80mg又は100mg以上のビタミンEを含み、肥満度が21以上、総魚体重が25kg以上、尾叉長が90cm以上のビタミンE富化養殖魚;
(6)肝臓100gあたり50mg、80mg又は100mg以上のビタミンEを含み、肥満度が20以上、総魚体重が20kg以上、尾叉長が100cm以上のビタミンE富化養殖魚;
(7)肝臓100gあたり50mg、80mg又は100mg以上のビタミンEを含み、肥満度が21以上、総魚体重が21kg以上、尾叉長が90cm以上のGGマグロであるビタミンE富化養殖魚;及び、
(8)肝臓100gあたり50mg、80mg又は100mg以上のビタミンEを含み、肥満度が20以上、総魚体重が17kg以上、尾叉長が100cm以上のGGマグロであるビタミンE富化養殖魚:
(9)眼球100gあたり10mg、15mg又は20mg以上のビタミンEを含み、肥満度が21以上、総魚体重が25kg以上、尾叉長が90cm以上のビタミンE富化養殖魚;
(10)眼球100gあたり10mg、15mg又は20mg以上のビタミンEを含み、肥満度が20以上、総魚体重が20kg以上、尾叉長が100cm以上のビタミンE富化養殖魚;
(11)眼球100gあたり10mg、15mg又は20mg以上のビタミンEを含み、肥満度が21以上、総魚体重が21kg以上、尾叉長が90cm以上のGGマグロであるビタミンE富化養殖魚;及び、
(12)眼球100gあたり10mg、15mg又は20mg以上のビタミンEを含み、肥満度が20以上、総魚体重が17kg以上、尾叉長が100cm以上のGGマグロであるビタミンE富化養殖魚。
(1)〜(12)のビタミンE富化養殖魚は、より病気になりにくく、食品として用いた場合でも、ビタミンEが富化されており、より良好な性質を示すことができる。
筋肉に関する(1)〜(4)の形態と、肝臓に関する(5)〜(8)の形態と、眼球に関する(9)〜(12)の形態とは、可能な範囲において、それぞれ独立して互いに組み合わせたものであってもよい。
上記(1)、(2)、(5)、(6)、(9)及び(10)のビタミンE富化養殖魚では、比幽門垂重量が、2%以上、2.5%以上、3%以上、又は3.5%以上であってもよい。上記(1)、(2)、(5)、(6)、(9)及び(10)のビタミンE富化養殖魚では、幽門垂が100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、20mg以上、30mg以上、50mg以上、又は80mg以上であってもよい。更に、上記(1)、(2)、(5)、(6)、(9)及び(10)のビタミンE富化養殖魚では、上述した比幽門垂重量とビタミンE含有量とを組み合わせたものであってもよい。
<可食部及び食品>
本発明の一実施形態は、100gあたり2mg以上のビタミンEを含むマグロ類の可食部である、マグロ類養殖魚の可食部を含む。換言すれば、本マグロ類養殖魚の可食部は、上述したビタミンE富化養殖魚の可食部であり得る。ビタミンE富化養殖魚の可食部は、従来公知のマグロ類の可食部よりも遥かに高い濃度でビタミンEを含有するので、食として供与された場合に、経済的価値が高く、ビタミンEの効能の発揮が期待できる。
「可食部」とは、食に供与可能な魚体の一部位であればよく、例えば、魚肉、内蔵、眼球、皮、脳、血液等を挙げることができ、組織又は臓器の場合には、組織又は臓器の全体であってもよく更にその一部であってもよい。例えば、肝臓の場合には、肝臓全体であってもよく、その一部であってもよい。
可食部としては、魚肉であってもよく、内臓又は眼球であってもよい。
可食部としての魚肉は、筋肉であって、一般に非加熱(ナマ)又は加熱して食する部分である。魚肉には、上述した赤身、脂身、血合筋等を挙げることができ、赤身又は脂身であることが好ましい。
可食部としての内臓は、肝臓、幽門垂、胃、食道、腸管、生殖腺(精巣又は卵巣)、脾臓、心臓、浮き袋等を挙げることができる。これらの内臓は、一般に加熱して食すことができる。可食部としての眼球には、周辺の筋肉が付着していてもよい。
上述したように、本発明の一実施形態におけるマグロ類養殖魚の可食部は、ビタミンE富化養殖魚の可食部であるので、可食部としての魚肉、肝臓、幽門垂、及び眼球におけるビタミンE含有量については、ビタミンE富化養殖魚に関して既述した事項がそのまま適用される。可食部としての他の部位についても、ビタミンE富化養殖魚に関して既述した事項が、可能な範囲内でそのまま適用される。例えば、可食部としての他の部位におけるビタミンE含有量は、100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、20mg以上、30mg以上、50mg以上、80mg以上、100mg以上、又は150mg以上とすることができる。
マグロ類養殖魚の可食部には、魚肉、内臓又は眼球の周囲の部位が付着していてもよい。例えば、粗(アラ)も、本発明の「可食部」に含まれる。粗は、一般に、魚をおろして身を取った後に残る頭部、骨、鰓、ヒレ又はこれらのふたつ以上の組み合わせと、これらに付着した肉及び皮を意味する。粗の場合には、粗に含まれる骨を取り除いた残りの部分に、100gあたり2mg以上、5mg以上、8mg以上、10mg以上、15mg以上、又は20mg以上の含有量となるビタミンEが含まれていればよい。
マグロ類養殖魚の可食部は、食品、例えば以下の加熱食品及び非加熱食品として好ましく用いられるほか、動物用飼料としても適用できる。一実施形態にかかる食品及び動物用飼料は、マグロ類養殖魚の可食部を含むことができる。本発明によれば、ビタミンEの抗酸化力により変性に強く、酸化臭が抑えられた食品及び動物用飼料を提供することができる。一実施形態にかかる食品及び動物用飼料は、従来公知のマグロ類の可食部よりも遥かに高い濃度でビタミンEを含有するので、食として供与された場合に、経済的価値が高く、ビタミンEの効能の発揮が期待できる。動物用飼料としては、キャットフード、ドッグフード、養殖魚用飼料などを挙げることができる。動物用飼料は、後述する容器に収容されたものであってもよい。食品としては、非加熱食品、加熱食品などを挙げることができる。
本発明の一実施形態は、ビタミンE富化養殖魚の可食部の非加熱食品と、可食部を収容する容器を含む非加熱食品を含む。非加熱品とは、加熱調理に付していない可食部を意味し、すり身、さしみ、さく、ブロック及び切り身、並びに、これらの冷凍品、チルド品、フリーズドライ品、干物、漬けなどを挙げることができる。加熱調理に付していないことは、可食部表面の色調で判断することができる。本明細書において「加熱」とは、視認できる程度にアクトミオシンが変性する状態にまで、熱が付与されることを意味する。養殖魚の可食部に対して加熱処理を行うと、アクトミオシンの変性によって可食部が変色するため、可食部の変色に基づいて判断することができる。
本発明の一実施形態は、ビタミンE富化養殖魚の可食部の加熱品と、加熱品を収容する容器を含む加熱食品を含む。加熱品とは、加熱調理に付された可食部を意味し、煮物、焼き物、蒸し物、揚げ物、練り製品などを挙げることができる。
加熱品及び非加熱品の形状は特に制限はなく、可食部の部位特有の形状を有していてもよく、細断されて得られる不定形のものであってもよく、更に特定の形状の成形されたものであってもよい。
加熱食品及び非加熱食品には、必要に応じて、他の食品、食品素材、及び付属品からなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。他の食品としては、米、つま(だいこん、海藻類等)、しょうが(がり)などを挙げることができる。食品素材としては、ねぎとろ用ねぎなどを挙げることができる。付属品としては、例えば、バラン、表示(ラベル)、保冷剤、冷却剤、氷、ドライアイス、シャーベットアイスなどを挙げることができる。付属品は、可食部と共に容器内に収容されていてもよく、容器の外側に配置されていてもよく、また、容器と一体不可分であってもよく、脱着自在に添付されていてもよい。他の食品、食品素材及び付属品はそれぞれ、1つ又は2つ以上の組み合わせであってもよい。
容器は、可食部を収容するために用いられるものであればよく、発泡スチロール、紙、ビニール、軟質プラスチック、硬質プラスチック、金属、ガラスなどの材質のものが例示できる。容器の形状は、可食部を収容できるものであればよく、包装用シート、蓋付き又は蓋なしのトレー、袋、缶などを例示できる。
上述したビタミンE富化養殖魚、上述したビタミンE富化養殖魚の可食部、並びに可食部の非加熱製品及び加熱製品のためのビタミンE富化養殖魚は、如何なる方法で得たものであってもよい。ビタミンE富化養殖魚は、以下の飼育方法により製造されたビタミンE富化養殖魚であることが好ましい。
<飼育方法>
本発明の一実施形態における飼育方法は、魚粉、油脂を含む内包と、内包を包み、且つ、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの加熱ゲルである外皮と、を含み、内包におけるビタミンE含有量が飼料全体に対して500ppm以上である配合飼料を、養殖魚としてのマグロ類に対して、少なくとも60日間継続して給餌することを含み、必要に応じて、他の工程を含むことができる。
本飼育方法では、ビタミンEを含む特定の内包と特定の外皮とを備えた二重構造の配合飼料を、少なくとも60日間継続してマグロ類に給餌するので、ビタミンEが富化された本発明の実施形態におけるビタミンE富化養殖魚を効率よく得ることができる。この観点から、本明細書において「ビタミンE富化養殖魚の飼育方法」は、「ビタミンE富化養殖魚の製造方法」とは同義であり、互いに読み替えることができる。
本形態の飼育方法に用いられる配合飼料は、外皮とビタミンEを含有する内包とを含む二重構造を有する。本明細書では、本形態の飼育方法に用いられるこの配合飼料を、ビタミンE富化養殖魚育成飼料と称する場合がある。
ビタミンE富化養殖魚育成飼料の内包は、魚粉と油脂を主成分とし、ビタミンEを所定量含有し、更に、養魚用の栄養成分として知られているビタミンE以外のその他の栄養成分を添加してもよい。その他の栄養成分としては、ミネラル、ビタミンC等のビタミンを挙げることができる。
内包に含まれるビタミンEとしては、トコフェロール及びトコトリエノール、並びにこれらの誘導体を挙げることができる。トコフェロール及びその誘導体としては、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、及びこれらのカルボン酸エステル、例えば、酢酸α−トコフェロール、ニコチン酸−α−トコフェロール、リノール酸−α−トコフェロール、コハク酸−α−トコフェロールが挙げられる。トコフェロールとして、これらの混合物、即ち、ミックストコフェロールを使用することができる。トコトリエノール及びその誘導体としては、例えば、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール、及びこれらの酢酸エステルを挙げることができる。
ビタミンEの含有量は、配合飼料の全重量の500ppm以上であることが好ましく、550ppm以上であることがより好ましく、600ppm以上であることが更に好ましい。ビタミンEの含有量の上限値については、特に制限はないが、例えば配合飼料の全重量の20重量%以下とすることができる。
内包には、多糖類、硬化油等を配合し、乳化して、安定化させることもできる。これにより、魚粉又は液状である油脂の漏れ出しを抑制することができる。配合飼料を機械で製造する場合、内包の物性は、機械適性のある流動性又は物性であることが好ましい。油脂吸着剤としては、オイルQ(日澱化学社製)、硬化油としてはユニショートK(不二製油社製)、乳化剤としてはニューフジプロSEH(不二製油社製)等がそれぞれ例示される。
内包には、従来の養殖魚用配合飼料に用いられている原材料を添加することができる。例えば、生魚類、イカミール、オキアミミール、大豆油かす、コーングルテンミール等のタンパク質、オキアミ油、鯨油、大豆油、コーン油、菜種油、硬化油等の油脂、澱粉、小麦粉、米粉、タピオカ粉、トウモロコシ粉等のデンプン質、アルギン酸及びその塩類、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、グァガム、デキストリン、キトサン、カードラン、ペクチン、カラギーナン、マンナン、ジェランガム、アラビアガム、可食性水溶性セルロース等の多糖類、ビタミン、ミネラル類が挙げられる。
内包は、油脂含有量を、内包の全重量の20〜70重量%、特に大型養殖魚に給餌する場合、油脂含有量を好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、最も好ましくは45重量%以上となるように配合することができる。多量の油脂含有量は、養殖魚の成長及び成長効率に優れた効果を奏することができ、70重量%以下であればその他の好ましい成分を選択して配合することが容易になる。魚油及びその他植物性油脂は、そのまま用いることができ、又は、好ましくは、ビタセル(Vitacel (登録商標、以下、同じ))WF200、ビタセルWF600又はビタセルWF600/30(レッテンマイヤー社製)、オイルQ No.50又はオイルQ−S(日澱化学社製)、パインフロー(松谷化学工業社製)等のデキストランをはじめとする吸油性多糖類、発酵大豆、イソフラボンなどの吸油性タンパク又はダイズ油、ナタネ油又はパーム油などの油脂に水素付加した硬化油を用いて、流動性を低下させて用いることができる。魚油は、乳化により流動性を低下させて用いることもできる。これらの流動性を低下させるような成分は、魚の消化性の観点から、好ましくは内包の全重量の10重量%以下、より好ましくは5重量%以下とすることが望ましい。油脂としては、魚油がもっとも好ましい。魚油は、他の植物性油脂などで一部代替することも可能である。
内包の必須成分である魚粉としては、養魚用飼料原料として通常用いられている各種魚粉、オキアミなどの甲殻類の粉末などが利用できる。魚粉含有量は、内包全体の重量の30〜70重量%、好ましくは30重量%以上、より好ましくは35重量%以上、最も好ましくは45重量%以上とすることができる。内包には、形状を維持する観点から、結着性のある多糖類、硬化油、乳化剤などの賦形剤を添加しておくのが好ましい。
ビタミンE富化養殖魚育成飼料の外皮は、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つの原料から得られる加熱ゲルである。加熱によりゲルを形成するタンパク質原料及び/又は多糖類原料を含有する原料(以下、外皮用組成物と称する)を用いる。外皮用組成物が加熱によりゲル化し、一定の弾力性、伸展性、粘着性を示す。このような加熱ゲルを用いることにより、内包が確実に包被される。
加熱によるゲルとは、タンパク質及び多糖類からなる群より選択される少なくとも1つである原料を60℃以上に加熱する、若しくは、60℃以上に加熱後冷却することによりできるゲルと、澱粉等の多糖類に水分を加えて60℃以上に加熱することにより糊化してできるゲルとを意味する。
外皮は、内包を包みこめるものであれば特に制限はない。外皮に適用されるタンパク質としては、例えば、魚肉、すり身、オキアミ、グルテン、コラーゲン、大豆たん白、酵素分解大豆たん白、ゼラチン、卵白等のタンパク質の単体又はこれらの2種以上の混合物などのゲル形成能を有するタンパク質が好ましい。タンパク質には、アルギン酸及びその塩も含む。多糖類としては、澱粉、アルギン酸及びその塩類、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、グァガム、デキストリン、キトサン、カードラン、ペクチン、カラギーナン、マンナン、ジェランガム、アラビアガム、可食性水溶性セルロース等を挙げることができる。
外皮に適用される澱粉としては、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びそれらの加工澱粉が好ましい。これらタンパク質及び/又は澱粉を多く含む食品素材を用いることもできる。これらタンパク質及び/又は多糖類を含む組成の外皮は加熱することによりゲルが固定され、柔軟性を持ち、且つ、内層組成物の保持力もあり、一定の強度を有する。なかでも、タンパク質を加熱してできるゲル又は澱粉を加熱してできるゲルであることが、その柔軟性、伸展性などの物性の点で好ましい。
例えば、魚肉すり身を原料として用いる場合、一般的なかまぼこなどの練製品の製造方法を用いて製造することができる。具体的には、2重量%以上の食塩を加え10℃以上、好ましくは30℃〜40℃で10分以上置いてから、80〜90℃で10分以上加熱する。卵白を用いる場合、例えば、卵白:澱粉:魚粉:水を1:1:2:6の重量比率で混合し、加熱することにより、望ましい物性の組成物を得ることができる。
外皮用組成物には、ゲル形成に影響を与えない範囲で各種副原料を添加することができる。
外皮のゲル化に影響を与えない範囲で、外皮用組成物にも魚粉又は油脂を添加してもよい。用いるゲルの種類にもよるが、魚粉の場合、外皮は魚粉を60重量%程度まで含むことが可能であり、油脂の場合、外皮は油脂を外皮用組成物の全重量の30重量%まで含むことが可能である。魚粉及び油脂を双方含む場合、外皮は魚粉を外皮用組成物の全重量の20〜30重量%及び油脂を5〜10重量%程度含むことが好ましい。
外皮のゲルの品質をよりよくするために、魚肉練製品などの品質改良剤として用いられている添加物を外皮用組成物に添加することができる。添加物としては、澱粉、増粘多糖類、分離大豆蛋白、重曹、重合リン酸塩、卵白、トランスグルタミナーゼ、各種プロテアーゼインヒビターなどを挙げることができる。特に、外皮は、ゲル強度を強化するために、寒天、ジェランガム、プルラン、澱粉、マンナン、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カードラン、ペクチン、アルギン酸及びその塩類、アラビアガム、キトサン、デキストリン、可食性水溶性セルロースなどの増粘剤を適宜含むことができる。
外皮として好ましい別の態様として、澱粉を主成分とする加熱ゲルが、その弾力性、柔軟性の点で優れる。澱粉に水を加えて混練し、加熱したゲルは、良好な弾力、柔軟性及び伸展性を示すことができる。特に種々の加工澱粉にはそれぞれに特徴があり、2種以上を組み合わせることで、より良好な弾力性、柔軟性、伸展性などの性質をもった外皮を得ることができる。例えば、エーテル化澱粉とリン酸架橋澱粉の組み合わせのように異なるタイプの加工澱粉を組み合わせるのがよい。
澱粉にグルテン、大豆タンパクなどのタンパク質を加えることによりさらに強いゲルを得ることができる。グルテンの代わりにグルテンを含有する小麦粉などを使用することもできる。その他の副原料としては、小麦粉等の穀粉;大豆タンパク、グルテン、卵白等のタンパク質;砂糖、水あめ等の糖又は糖アルコール類;カラギーナン、寒天、ジェランガム、プルラン、マンナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カードラン、ペクチン、アルギン酸及びその塩類、アラビアガム、キトサン、デキストリン、可食性水溶性セルロース等の増粘剤;リン酸塩等の塩類を添加してもよい。例えば、澱粉に小麦粉を加えることによって、外皮に強度を与えることができる。また、一定量のタンパク質を加えることで加熱後の表面のべたつきを押さえることができる。
外皮における澱粉には、特に制限はないが、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉などが利用でき、特にこれらのエーテル化、アセチル化、アセチル架橋、エーテル架橋、リン酸架橋、α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋などの加工澱粉が好ましい。なかでも、ビタミンE富化養殖魚育成飼料の外皮は、酢酸タピオカ澱粉と、エーテル化タピオカ澱粉との組み合わせを含む。このようなビタミンE富化養殖魚育成飼料の場合には、表面のべたつき抑制と飼料の食べやすさの観点から好ましい。酢酸タピオカ澱粉とエーテル化タピオカ澱粉との組み合わせは、例えば、重量比で1:1〜1:20とすることができ、1:2〜1:15であることが好ましく、1:8〜1:12であることがより好ましい。
ビタミンE富化養殖魚育成飼料は、外皮の原料となる澱粉にタンパク質など他の副原料を加えた外皮用組成物に、水を加えて混合し混練し、包餡機などで、内包を包んだ後、加熱することによって、製造することができる。
好ましくは、外皮用組成物と内包をそれぞれ二重ノズルのエクストルーダに供給し、外皮用組成物を混合、加熱処理しながら、外皮で内包を包み込む形で押し出し成形することを含み、必要に応じて他の工程を含む方法により製造できる。
例えば、二重ノズルを備えたエクストルーダを用い、エクストルージョンクッキングによる外皮用組成物の加熱処理と外皮による内包の被覆を同時に行うこと、例えば柱状に押し出されてくる成形物を、押し出されてくるスピードに合わせて上下するシャッター機構で一定の長さに切断して、切断面を外皮で包被して、二重構造の配合飼料を得ることにより、製造することができる。
二重ノズルを備え、このような二重構造の配合飼料を得るために好適な装置は、一軸でも二軸でもよく、押し出し機構と加熱機構を有するものであればよい。二重構造の配合飼料を得るために好適な装置は、同方向回転噛み合い型二軸タイプの装置であることが好ましい。このような装置を用いた場合には、短時間で充分に混練することができるなどの利点を得ることができる。このような装置としては、Buhler社製のものを挙げることができ、例えば、国際公開第2013/061892号に開示されている。
この装置では、外皮用組成物供給装置が連結された加熱機能付きエクストルーダが備えられ、エクストルーダの吐出口付近に、内包を外皮用組成物の中心に送り込むノズルが配置されている。このノズルには、内包供給装置が連結されている。エクストルーダには、コンベアが隣接されており、コンベアの搬送路の先には、シャッター機構が配置されている。外皮用組成物供給装置は、外皮用組成物を混合し、ポンプでエクストルーダに送り込む。内包供給装置は、別途混合、製造した内包をポンプでノズルからエクストルーダの吐出口に送り込む。外皮用組成物はエクストルーダ内で混練された後、加熱され加熱ゲルとなる。吐出口において外皮は筒状に押し出され、その内部はノズルから挿入される内包で満たされ、二重構造の柱状で排出される。排出された二重構造の柱状物はコンベアで搬送され、シャッター機構に垂直下向き方向に挿入する。シャッター機構で一定の長さで包被切断され、二重構造の成形物ができあがる。
エクストルーダでの混合は、スクリュー回転数300〜800rpm、好ましくは350〜700rpmとすることができる。加熱温度は、澱粉、添加したタンパク質等がゲル化する温度以上であればよく、品温が60〜110℃、好ましくは、70〜100℃、さらに好ましくは、80〜95℃程度になればよい。吐出温度は、80〜110℃、好ましくは85〜105℃とすることができる。出口圧力は、2MPa〜10MPa、好ましくは4MPAa〜8MPaとすることができる。
内包と外皮用組成物の組み合わせ比は、重量比で、4:6〜9:1であることができ、5:5〜8:2であることが好ましい。このような重量比で組み合わせることにより、得られるビタミンE富化養殖魚育成飼料の弾力性、外皮の強度等の観点から好ましい。
配合飼料の保存性を考慮して、水分活性を調節してもよい。この水分活性の調整は、内包及び/外皮の組成により調整することができる。例えば、添加する水分量の調整により、内包の水分活性を低くすることができる。塩類(食塩、リンゴ酸ソーダ、乳酸ソーダ等)、糖類(砂糖、乳糖、マルトース、ソルビット等)、糖アルコール類、アミノ酸、核酸関連物質、有機酸類、アルコール類、プロピレングリコース、グリセリン、澱粉類、蛋白類などの水分活性調整剤の添加により、組成物の水分活性を調整してもよい。
外皮用組成物に対する水の添加量は、包餡機又はエクストルーダに対応できる量であればよく、30〜50重量%程度が適当である。例えば、澱粉の加熱ゲルで内包を包んでできあがる外皮の水分量は25〜50重量%程度とすることができる。ビタミンE富化養殖魚育成飼料は、冷蔵又は冷凍保存することにより、長期保存が可能となる。この飼料を更に乾燥させて水分量を10〜20重量%にすることができる。この場合、保存性をより高めることができる。外皮を乾燥させることと外皮用組成物に添加物を加えて水分活性を低下させることを併用することにより、室温で長期に保存できる飼料を製造することができる。配合飼料の外皮は、長期保存の観点から水分量10〜20重量%、水分活性0.8以下、特に0.75%以下、又は0.7%以下が好ましい。本発明において水分量は、常温加熱乾燥法により測定した値を使用し、水分活性は、水分活性測定装置により測定した値を使用する。
ビタミンE富化養殖魚育成飼料において、例えば、澱粉を含有する外皮用組成物の配合には、種々のパターンが考えられる。飼料の場合、魚種又は魚の成長段階によって、飼料に要求される栄養素、カロリーは異なる。魚粉及び魚油を多く入れるほど、外皮の配合を厳密に調整する必要があるが、魚粉及び魚油が少なめの場合は、外皮の配合にはかなりの自由度がある。少なくとも乾物換算で澱粉を外皮全重量の20〜80重量%含有させることが好ましい。魚粉を25〜50重量%(乾物換算)含む外皮とする場合、乾物換算で、澱粉20〜65重量%、小麦粉5〜20重量%、タンパク質、油脂、増粘剤、塩類等を合計5〜15重量%程度添加するのが好ましい。魚油を含む外皮とする場合には、魚油は1〜5重量%、リン酸塩は1〜2重量%、タンパク質は1〜5重量%、増粘剤は1〜5重量%程度添加するのが好ましい。
副原料として用いる場合、小麦粉はグルテン含有量の多い強力粉が好ましいが、薄力粉でもよい。外皮の品質をよりよくするために、澱粉食品の品質改良剤として用いられている添加物を添加することができる。
配合飼料の製造方法は、シャッター機構により切断されて得られた二重構造の配合飼料を乾燥すること、即ち、乾燥工程を含むことができる。
乾燥手段としては配合飼料を乾燥できるものであれば特に制限はない。乾燥は、飼料外皮水分を上述した水分含有量が達成される条件を設定すればよい。
乾燥条件としては、好ましくは、穏やかに、外皮の水分量10〜20重量%が達成し得る条件とすることができる。穏やかな乾燥条件を用いた場合には、乾燥処理中に外皮の水分量が低下する一方で、内包の水分量が、外皮からの水分の移行によって、切断処理直後の水分量よりも高くなる傾向がある。これにより、養殖魚の嗜好性に合った良好な物性のビタミンE富化養殖魚育成飼料を得ることができる。穏やかな乾燥条件としては、例えば、20℃〜45℃の温度且つ6時間〜48時間の範囲、相対湿度20%〜50%の範囲内で、相対湿度に基づいて、適宜設定できる。使用可能な乾燥手段としては、このような穏やかな乾燥条件を達成できるものであればよく、例えば、メッシュ状のコンベア、メッシュ状の容器又はシートに載置して、乾させることなどを挙げることができる。
本発明の一実施形態にかかるマグロ類養殖魚の飼育方法は、上述のビタミンE富化養殖魚育成飼料を、少なくとも60日間継続してマグロ類に対して給餌することを含む。ビタミンE富化養殖魚育成飼料による飼育を少なくとも60日継続することにより、飼育対象であるマグロ類に、ビタミンEが良好に魚体に蓄積することができ、また、蓄積されたビタミンEの作用により飼育期間にわたって健康な状態を維持することができる。飼育管理された養殖魚であることは、飼育期間に給餌されたビタミンE富化養殖魚育成飼料の成分のうち、生餌には含まれていない成分であって魚体に残留可能な特徴的な成分、例えば植物油等を確認することにより、確認することができる。
ビタミンE富化養殖魚育成飼料による飼育期間は、より長期の期間とすることができ、例えば、3ヶ月以上、6ヶ月以上、又は1年以上とすることができる。この場合、ビタミンEを安定して蓄積することができ、且つ、良好な身体的特徴を有するビタミンE富化養殖魚を確実に作ることができる。また、ビタミンE富化養殖魚育成飼料を用いてより長期の期間にわたって飼育することによって、より長期に良好な健康状態を維持することができる。
飼育条件としては、一般にマグロ類の飼育として通常適用されている条件をそのまま用いることができる。例えば、育成期間の水温は10℃〜32℃とし、給餌は、通常時期については1日1回の飽食給餌、冬季については2日1回の飽食給餌とすることができる。
飼育期間では、少なくとも60日継続してビタミンE富化養殖魚育成飼料による給餌が行われていれば、他の飼料の給餌を行う期間があってもよい。他の飼料としては、生餌(アジ、サバ等)、モイストペレット等を挙げることができる。
飼育は、例えば、200gの総魚体重の魚個体から開始することができ、500g、1kg、又は10kgの総魚体重の魚個体から開始することができる。このような時期から飼育を開始することにより、目的とする時期まで、成長に合わせて健康な状態を維持することができ、また、このような期間の飼育により魚個体の要求に合致したビタミンEを供給することができる。
飼育時期は、飼育を開始してから、出荷、産卵などの目的の最終時期までのいずれの時期であってよい。例えば、飼育時期は、出荷直前の時期とすることができる。この場合には、ビタミンEが安定して蓄積したビタミンE富化養殖魚及びその可食部を供給することができる。
ビタミンE富化養殖魚は、本明細書に記載の特徴を備えたものであれば、上述した飼育方法以外の方法によって製造されたものであってよく、例えば、ビタミンEを富化した魚を利用した餌を与えることによって製造されたものであってよい。
<可食部の製造方法>
本発明の一実施形態にかかる可食部の製造方法は、上述した一実施形態における飼育方法により飼育されたマグロ類用養殖魚を用意すること、用意されたマグロ類養殖魚から、可食部を採取すること、を含み、必要に応じて、他の工程を含むことができる。
本可食部の製造方法では、上述した一実施形態における飼育方法により飼育されたマグロ類養殖魚から、可食部を採取するので、従来のマグロ類可食部よりも多くのビタミンEを含む可食部を効率よく得ることができる。
マグロ類養殖魚は、魚個体であってもよく、上述した加工形態の魚であってもよい。可食部の採取方法については、特に制限はなく、当業者であれば、目的とする可食部を魚個体又はその一部から切り出すために通常用いられる用具を用いて、通常行う方法により採取することができる。
<用途>
ビタミンE富化養殖魚及びその可食部は、ビタミンEが高濃度に蓄積されているので、ビタミンEが富化された食品として好ましい。ビタミンE富化養殖魚の可食部を含む加熱食品及び非加熱食品は、ビタミンEが富化されたマグロ魚類の可食部の加熱品又は非加熱品を含むので、ビタミンEが富化された食品として好ましく、またビタミンEの抗酸化力により、所謂、ヤケ肉の少ない良質な食品であると推測される。
ビタミンE富化養殖魚及びその可食部は、ビタミンEが富化されているので、ウシ、ブタ、トリ等の家畜類、他の養殖魚等の飼料、ペットフードなどの動物用飼料としても用いることができる。
ビタミンE富化養殖魚は、ビタミンEを含有するビタミンE富化養殖魚育成飼料を一定期間用いて育成されるので、育成期間にわたって、ビタミンEの抗酸化作用により、ストレスに強く、病気になりにくいなどの良好な健康状態を有することができると推測される。これにより、ビタミンE富化養殖魚は、良好な成長性を示す養殖魚であることが期待される。
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
[実施例1]
(1)ビタミンE富化養殖魚育成飼料の作製
魚粉35〜40重量%、澱粉(エーテル化タピオカ澱粉:ヒドロキシプロピル澱粉、日澱化学社、G-800)17〜23重量%、小麦粉7重量%、澱粉(酢酸タピオカ澱粉:日澱化学社、Z-300)2重量%、魚油2重量%、食塩3重量%、砂糖2.5重量%、グルテン1重量%、水残部を、エクストルーダにより、スクリュー回転数450rpm、吐出温度90℃、出口圧力50bar(5MPa)の条件で混合し、外皮用組成物とした。
魚粉59重量%、魚油36重量%、硬化油1.965重量%、ビタミン類2重量%、ミネラル1重量%、α−トコフェロール0.035重量%を、エクストルーダを用い60℃で混合し、内包とした。ビタミン類としては、α−トコフェロール換算で3.03重量%のビタミンEを含むものを用いた。
外皮用組成物と内包とを組み合わせてビタミンE富化養殖魚育成飼料を作製するために、先端部に二重ノズルを有し、吐出能力1t/hの同方向回転完全噛み合い型2軸タイプのエクストルーダ(Buhler社製)を使用した。
外皮用組成物と、内包との双方を、エクストルーダ先端の二重ノズルから造粒し、シャッター装置により、内包が外皮で包皮されたビタミンE富化養殖魚育成飼料を得た。内包:外皮の重量比は65:35であった。ビタミンE富化養殖魚育成飼料中のα−トコフェロール含有量は、621ppmであった。
その後、成形直後の配合飼料を搬送コンベアに配置して、30℃〜40℃、相対湿度20%〜50%の環境下にて、自然乾燥による乾燥処理を24時間、行った。この処理により、ひび割れ等がほとんど確認されない良好な配合飼料が得られた。
得られたビタミンE富化養殖魚育成飼料の外皮の水分量は12〜17%であり、水分活性は0.8未満であった。内包の水分含有量は、成形直後は約4.7%と推定される。なお、水分量は、Drying Oven DX300(ヤマト科学株式会社製)により測定し、水分活性は、アクアラブCX-3(マイルストーンゼネラル株式会社製)により測定した。
(2)育成
作製されたビタミンE富化養殖魚育成飼料を用いて、クロマグロを育成した。
直径70mの海面楕円形生簀に、体重約16kg及び体長約50cmのマグロを約3000尾収容して、飼育を開始した。育成期間中の水温は13℃から29℃であった。飼料には、作製したビタミンE富化養殖魚育成飼料を使用し、通常1日1回飽食給餌、冬季2日1回飽食給餌とした。試験期間を通じ、飼料の摂餌量は生餌の30〜50重量%であった。飼育は、3月に開始して1年以上行い、所定期間後に各部位のα−トコフェロール量、重量、比幽門垂重量及び肥満度を測定又は算出した。なお、肝臓のビタミンE量は、15ヶ月と17ヶ月後の測定値であり、他の組織のビタミンE量は、飼育期間15ヶ月の魚体における測定値である。結果を表1及び表2に示す。
α−トコフェロール量及び総トコフェロール量は、アルカリけん化処理を行った後に、HPLC法にて測定した。総トコフェロール量とは、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール及びδ−トコフェロールの総量を意味する。
マグロの測定部位には、中央背側深部(赤身)、中央背側浅部(中トロ)、中央背側竜骨筋、血合筋、眼球、肝臓及び幽門垂を用いた。それぞれの試験片の採取及び調製は以下の通りに行った。
図1に、中央背側深部(図1、部位A)、中央背側浅部(図1、部位B)、中央背側竜骨筋(図1、部位C)及び血合筋(図1、部位D)の採取部を示す。なお、図1においてEは、腹腔を示す。
背筋カミ普通筋の体表付近「皮ぎし」とし、背側ロインを第一背びれ後方末端部から中骨に向けて対して垂直に切断し、頭部側と尾部側に分けたときの頭部側の切断表面から、中央背側深部(赤身)、中央背側浅部(中トロ)、中央背側竜骨筋、及び血合筋の各試料片を採取した。
眼球については、左右の眼球(ガラス体)と視神経とを取り出し、細かく切り刻みし、試験片とした。
肝臓のついては、取上げの際に内臓として抜き出された肝臓を全量細かく切り刻みし、試験片とした。
幽門垂については、取り上げの際に抜き出された内臓から、幽門垂のみを取り出し、その全量を細かく切り刻みし、試験片とした。
Figure 0006805026
Figure 0006805026
表1に示されるように、ビタミンE富化養殖魚育成飼料で飼育されたマグロでは、試験開始時には約16kgであった総魚体重は、約15カ月後には約60kgにまで増えることが確認できた。魚体重及び肥満度は、生餌を用いて育成したマグロとほぼ同等であった。比幽門垂重量は、一般に、天然のマグロで1.4%程度であるところ、ビタミンE富化養殖魚育成飼料で飼育されたマグロでは、いずれも天然マグロでの比幽門垂重量を大きく上回っていた。このことから、ビタミンE富化養殖魚育成飼料で飼育されたマグロは、栄養吸収にも有利であることが示された。
一方、表2に示されるように、ビタミンE富化養殖魚育成飼料を用いて育成したマグロでは、魚肉、眼球、肝臓及び幽門垂のいずれの組織においても、100gあたり2mgを超えるビタミンE含有量であり、ビタミンEが高濃度に蓄積されていることがわかった。このように、飼料中に富化されたビタミンEを用いて飼育することにより、マグロの各組織に100gあたり2mg以上という高い蓄積量を示すことは、予想外であり、他の脂溶性ビタミン、例えばレチノールでは認められなかった。
表2に示されるように、ビタミンE富化養殖魚育成飼料を用いて育成したマグロ、即ち、ビタミンE富化養殖魚におけるビタミンEの蓄積量は、組織ごとに異なっていた。魚肉においては、中トロ、血合筋及び中央腹側竜骨筋に多く、また、魚肉と比較すると、眼球、肝臓及び幽門垂において、比較的ビタミンEの蓄積量が多いことが分かった。ビタミンEの蓄積の傾向は、脂質量と必ずしも相関していなかった。このように、ビタミンE富化養殖魚において、組織ごとにビタミンEの蓄積量が異なること、眼球、肝臓及び幽門垂の方が筋肉よりも比較的蓄積が多いことも、また、予想外であった。ビタミンEは、過酸化脂質の増加防止作用、網膜の代謝異常改善作用、末梢血管の血液循環促進作用を有することから、眼球におけるビタミンEの高い蓄積により、疲れ目になりにくく、また、給餌能力が高くなり、更には、飼育環境下でのマグロの衝突死抑制が期待できる。
育成開始14ヶ月目で筋肉(中トロ)中19.8mg/100gであったビタミンE含有量は、生餌に30日間切り替え後に2.2mg/100gとなったが、2.0mg/100g以下にはならなかった。飼育期間内に30日間だけ生餌を与えた場合には、α−トコフェロール量の高い蓄積が認められなかったので、ある程度長期にわたってビタミンE富化養殖魚育成飼料による飼育を行うことが、ビタミンEの蓄積に必要であることが分かった。
測定で用いられた赤身と脂身(中トロ)とをさしみにして食したところ、おいしかった。
これらのことから、ビタミンE富化養殖魚育成飼料を用いることによって、生餌と同程度の成長が見込めるものであり、比幽門垂重量が高く、栄養吸収が高いことが示唆された。更に、このマグロでは、ビタミンEが各組織において高濃度に蓄積されており、特に眼球での蓄積が確認できたことから、免疫活性が高く、良好な視力を備えていることが期待される。
このようなビタミンE富化養殖魚からは、ビタミンE含有量が高い魚肉、肝臓等の内臓、眼球などを可食部として採取可能であり、加熱又は非加熱製品として提供可能である。ビタミンE富化養殖魚の可食部は、ビタミンEの作用により、保存性がよく、栄養価の高いおいしい食品として経済的価値が高い。
[実施例2]
(1)ビタミンE富化養殖魚育成飼料の作製
魚粉24重量%、澱粉(エーテル化タピオカ澱粉:ヒドロキシプロピル澱粉、日澱化学社、G-800)16重量%、小麦粉2重量%、澱粉(ワキシーコーンスターチ:日澱化学社、デリカSE)2重量%、澱粉(タピオカリン酸架橋α化澱粉:松谷化学工業株式会社、パインゴールドVE)2重量%、カルボキシメチルセルロール2重量%、蛋白質(粉末大豆タン白:不二製油株式会社、ニューフジプロSEH)3重量%、魚油2重量%、食塩3重量%、水飴3重量%、グルテン2重量%、リン酸塩0.5重量%、水残部を、実施例1と同様の条件で、混合し、外皮用組成物とした。
内包には、それぞれ以下の各成分を、実施例1と同様の条件で混合して、内包2−1と、内包2−2とした。なお、ビタミン類としては、α−トコフェロール換算で3.03重量%のビタミンEを含むものを用いた。
内包2−1:
魚粉56.211重量%、魚油38重量%、ビタミン類2.7重量%、硬化油1重量%、ミネラル2重量%、α−トコフェロール0.05重量%、CoQ10 0.015重量%、無水ヨウ素酸カルシウム0.024重量%。
内包2−2:
魚粉56.25重量%、魚油38重量%、ビタミン類2.7重量%、硬化油1重量%、ミネラル2重量%、α−トコフェロール0.05重量%。
上記の外皮用組成物と、内包2−1又は内包2−2とを組み合わせて、実施例1と同様の条件で、それぞれ、内包が外皮で包皮されたビタミンE富化養殖魚育成飼料2−1又は2−2を得た。内包:外皮の重量比は65:35であった。ビタミンE富化養殖魚育成飼料中のα−トコフェロール含有量は、ビタミンE富化養殖魚育成飼料2−1では830ppm、ビタミンE富化養殖魚育成飼料2−2では920ppmであった。
その後、成形直後の配合飼料を搬送コンベアに配置して、実施例1と同様の条件、即ち、30℃〜40℃、相対湿度20%〜50%の環境下にて、自然乾燥による乾燥処理を24時間、行った。この処理により、ひび割れ等がほとんど確認されない良好な配合飼料が得られた。
得られたビタミンE富化養殖魚育成飼料の外皮の水分量は12〜17%であり、水分活性は0.8未満であった。内包の水分含有量は、成形直後は約4.7%と推定される。なお、水分量は、Drying Oven DX300(ヤマト科学株式会社製)により測定し、水分活性は、アクアラブCX-3(マイルストーンゼネラル株式会社製)により測定した。
(2)育成
作製されたビタミンE富化養殖魚育成飼料2−1及び2−2を用いて、クロマグロを育成した。
直径15mの海面楕円形生簀に、体重約15kg及び尾叉長約90cmのマグロを約200尾収容して、飼育を開始した。育成期間中の水温は13℃から29℃であった。飼料には、作製したビタミンE富化養殖魚育成飼料2−1及び2−2を使用し、通常1日1回飽食給餌、冬季2日1回飽食給餌とした。試験期間を通じ、飼料の摂餌量は生餌の30〜50重量%であった。飼育は、5月に開始し、1年以上行った。所定期間後に、中央背側普通筋浅部(中トロ)のα−トコフェロール量、重量、及び肥満度を測定又は算出した。α−トコフェロール量は、実施例1と同一の方法により測定した。試験片の採取及び調製は実施例1と同一の方法により行った。
中央背側普通筋浅部(中トロ)中のタンパク質量はケルダール法により、脂質量はソックスレー抽出法により、それぞれ測定した。
結果を表3及び表4に示す。
Figure 0006805026
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表3及び表4に示されるように、ビタミンE富化養殖魚育成飼料2−1及び2−2を用いて育成した他のビタミンE富化養殖魚の背側普通筋浅部(中トロ)におけるビタミンEの蓄積量は、6ヶ月育成及び8ヶ月育成の双方とも、100gあたり2mgを超えていた。
本実施例では、飼育開始から6ヶ月までの期間には台風及び赤潮等、6ヶ月目から8ヶ月目までの期間に18℃以下の低水温等がそれぞれ発生したことにより給餌制限(3〜4日に1回)を行ったが、ビタミンE蓄積量の高いマグロを得ることができた。このマグロの生残率は95%以上だった。

Claims (12)

  1. 筋肉、肝臓及び眼球からなる群より選択される少なくとも1つが100gあたり2mg以上のビタミンEを含む、スマ養殖魚。
  2. 配合飼料を含む餌料で飼育管理されることにより得られた、請求項1記載のスマ養殖魚。
  3. 比幽門垂重量が、2%以上である請求項1又は請求項2記載のスマ養殖魚。
  4. 100gあたり2mg以上のビタミンEを含む幽門垂を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のスマ養殖魚。
  5. 肥満度が20以上である請求項1〜請求項4のいずれか1項記載のスマ養殖魚。
  6. 鰓、内臓、尾部及び頭部からなる群より選択される部位の少なくともひとつが除去されている請求項1〜請求項のいずれか1項記載のスマ養殖魚。
  7. 鰓及び内臓が除去された形態である請求項1〜請求項のいずれか1項記載のスマ養殖魚。
  8. 100gあたり2mg以上のビタミンEを含む、スマ養殖魚の可食部。
  9. 魚肉、内臓、眼球、皮又は脳の少なくとも一部である請求項記載のスマ養殖魚の可食部。
  10. 肝臓、幽門垂、胃、食道、腸管、精巣、卵巣、脾臓、心臓及び浮き袋からなる群より選択される少なくとも1つである請求項記載のスマ養殖魚の可食部。
  11. 100gあたり2mg以上のビタミンEを含むスマ養殖魚の可食部の非加熱品と、可食部の非加熱品を収容する容器と、を含む、スマ養殖魚の非加熱食品。
  12. 100gあたり2mg以上のビタミンEを含むスマ養殖魚の可食部の加熱品と、可食部の加熱品を収容する容器と、を含む、スマ養殖魚の加熱食品。
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