以下、実施形態によるサスペンション制御装置について、当該サスペンション制御装置を4輪自動車に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。なお、図5に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。
図1において、車体1は、車両のボディを構成している。車体1の下側には、車体1と共に車両を構成する車輪、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪2という)が設けられている。車輪2は、タイヤ3を含んで構成され、タイヤ3は、路面の細かい凹凸を吸収するばねとして作用する。
サスペンション装置4は、車両の相対移動する2部材間となる車体1と車輪2との間に設けられている。サスペンション装置4は、懸架ばね5(以下、ばね5という)と、該ばね5と並列になって2部材間である車体1と車輪2との間に設けられた緩衝器6とにより構成されている。なお、図1中では、1組のサスペンション装置4を車体1と車輪2との間に設けた場合を例示している。しかし、サスペンション装置4は、例えば4輪の車輪2と車体1との間に個別に独立して合計4組設けられる(車体1の四隅に設けられる)もので、このうちの1組のみを図1では模式的に示している。
サスペンション装置4の緩衝器6は、車輪2の上下動を減衰させるものである。緩衝器6は、内部に封入する作動油(作動流体)として電気粘性流体(ERF:Electro Rheological Fluid)を用いた減衰力調整式緩衝器(セミアクティブダンパ)、即ち、電気粘性流体ダンパ(ERF Damper)として構成されている。この場合、緩衝器6(以下、電気粘性ダンパ6という)は、後述のバッテリ17からの電力(電圧)の供給(印加)により減衰力を調整する。
図2に示すように、電気粘性ダンパ6は、電気粘性流体7(以下、ERF7という)が封入されたシリンダとしての内筒8および外筒9と、内筒8内に摺動可能に挿入されたピストン10と、ピストン10に連結されて内筒8および外筒9の外部に延出するピストンロッド11と、内筒8内のピストン10の摺動によってERF7の流れが生じる部分に設けられERF7に電界をかける電極としての電極筒12とを含んで構成されている。電極筒12には、後述の電極ピン23を介して制御電圧(高電圧)が印加される。なお、図2では、封入されているERF7を無色透明で表している。
ERF7は、電界(電圧)により性状が変化する機能性流体である。ERF7は、例えば、シリコンオイル等からなる基油(ベースオイル)と、基油に混ぜ込まれ(分散され)電界の変化に応じて粘性を可変にする粒子(微粒子)とにより構成されている。これにより、ERF7は、印加される電圧に応じて粘度が変化し、流通抵抗(減衰力)が変化する。即ち、電気粘性ダンパ6は、ERF7の流れが生じる部分に設けられた電極筒12に印加する電圧に応じて、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハード(Hard)な特性(硬特性)からソフト(Soft)な特性(軟特性)に連続的に調整することができる。なお、電気粘性ダンパ6は、減衰力特性を連続的でなくとも、2段階または複数段階に調整可能なものであってもよい。
ここで、図2に示す電気粘性ダンパ6は、ユニフロー構造となっている。このため、内筒8内のERF7は、ピストンロッド11の縮み行程と伸び行程との両行程で、内筒8の油穴8Aから電極通路13に向けて常に一方向(即ち、図2中に二点鎖線で示す矢印Fの方向)に流通する。即ち、中間筒としての電極筒12は、内筒8の外周側を全周にわたって取囲むことにより、電極筒12の内周側と内筒8の外周側との間に環状の電極通路13を形成している。電極通路13は、ERF7が流通する通路であり、ピストン10の摺動によってERF7の流れが生じる。
電極通路13内のERF7は、ピストンロッド11が内筒8内を進退動するとき(即ち、縮み行程と伸び行程を繰返す間)に、この進退動により電極通路13の軸方向の上端側から下端側に向けて流動する。このとき、電極通路13内には、電極筒12に印加される電圧に応じた電位差が発生し、ERF7の粘度が変化する。即ち、電気粘性ダンパ6は、内筒8と電極筒12との間の電極通路13内に電位差を発生させ、電極通路13を通過するERF7の粘度を制御することで、発生減衰力を制御(調整)することができる。
図1に示すように、車両の車体1側には、ばね上加速度センサ14が設けられている。ばね上加速度センサ14は、例えば電気粘性ダンパ6の近傍となる位置で車体1に取付けられる。ばね上加速度センサ14は、所謂ばね上側となる車体1側で上下方向の振動加速度を検出し、その検出信号(即ち、ばね上加速度)をメインコントローラ16に出力する。
一方、車両の車輪2側には、ばね下加速度センサ15が設けられている。ばね下加速度センサ15は、所謂ばね下側となる車輪2側で上下方向の振動加速度を検出し、その検出信号(即ち、ばね下加速度)をメインコントローラ16に出力する。このとき、ばね上加速度センサ14およびばね下加速度センサ15は、車両の挙動(より具体的には、車両の上下方向の運動に関する状態量)を検出する車両挙動検出手段(より具体的には、上下運動検出手段)を構成している。
なお、車両挙動検出手段は、電気粘性ダンパ6の近傍に設けたばね上加速度センサ14およびばね下加速度センサ15に限らず、例えば、ばね上加速度センサ14のみでもよく、また、車高センサ(図示せず)でもよい。さらには、車輪2の回転速度を検出する車輪速センサ(図示せず)等、加速度センサ14,15、車高センサ以外の車両の挙動(状態量)を検出する車両挙動検出センサでもよい。この場合に、例えば、1個のばね上加速度センサ14の情報(加速度)と車輪速センサの情報(車輪速)から各車輪2毎の上下運動を推定することで、車両の上下運動を検出する構成としてもよい。
メインコントローラ16は、車体1に設けられている。メインコントローラ16は、減衰力可変ダンパである電気粘性ダンパ6を制御するためのメインのコントローラ、即ち、サスペンション装置用のECU(Electronic Control Unit)である。メインコントローラ16は、メインECU(Main ECU)とも呼ばれ、例えば、マイクロコンピュータを含んで構成されている。この場合、メインコントローラ16は、フラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなるメモリおよび演算回路(CPU)を有している。メモリには、電気粘性ダンパ6の制御処理に用いるプログラム(例えば、電気粘性ダンパ6に印加する高電圧の算出に用いる処理プログラム等)が格納されている。
メインコントローラ16は、加速度センサ14,15および高電圧ドライバ18(のサブコントローラ25)と接続されている。メインコントローラ16には、加速度センサ14,15から出力される信号、即ち、加速度センサ14,15の検出値に対応する加速度信号が入力される。また、メインコントローラ16には、高電圧ドライバ18(のサブコントローラ25)から出力される信号、例えば、高電圧ドライバ18(のサブコントローラ25)で推定(演算)されたERF温度情報(ERF温度信号)が入力される。
メインコントローラ16は、ばね上加速度センサ14およびばね下加速度センサ15の検出値に基づいて、必要な減衰力を演算して制御信号を出力する。即ち、メインコントローラ16は、加速度センサ14,15より得られた情報から、高電圧ドライバ18(のサブコントローラ25)に出力する指令となる高電圧指令を演算(算出)する。より具体的には、メインコントローラ16は、車両の挙動情報(車両挙動信号)となる加速度信号(加速度)に基づき、電気粘性ダンパ6で出力すべき力(減衰力)に対応する高電圧指令を演算する。
メインコントローラ16は、演算した高電圧指令に対応する制御信号(高電圧指令信号)を、高電圧ドライバ18(のサブコントローラ25)に出力する。高電圧ドライバ18は、メインコントローラ16からの制御信号(高電圧指令)に基づき、その信号(指令)に応じた高電圧を電気粘性ダンパ6の電極筒12に出力する。高電圧が入力された電気粘性ダンパ6は、その電圧値(電極筒12と内筒8との間の電位差)の変化に応じてERF7の粘性が変化し、電気粘性ダンパ6の減衰力特性を切換える(調整する)ことができる。
バッテリ17は、電気粘性ダンパ6の電極筒12に印加するための電源となるものである。また、バッテリ17は、メインコントローラ16および高電圧ドライバ18のサブコントローラ25の電源となるものである。バッテリ17(即ち、電源)は、例えば、車両の補機用バッテリとなる12Vの車載バッテリ(および、必要に応じて車載バッテリの充電を行うオルタネータ)により構成されている。
バッテリ17は、高電圧ボックス(HV-Box)とも呼ばれる高電圧ドライバ18を介して電気粘性ダンパ6(電極筒12およびダンパシェルとなる外筒9)に接続されている。なお、電気粘性ダンパ6の電源(バッテリ17)は、例えば、走行用の電動モータ(駆動モータ)が搭載されたハイブリッド自動車や電気自動車の場合、車両駆動用の大容量バッテリ(図示せず)を用いることもできる。
高電圧ドライバ18は、電気粘性ダンパ6と同数(例えば、電気粘性ダンパ6が4個であれば4個)設けられている。即ち、高電圧ドライバ18は、車体1に設けられた電気粘性ダンパ6毎に設けられている。この場合、高電圧ドライバ18は、例えば、電気粘性ダンパ6(の外筒9)に装着されている。高電圧ドライバ18は、電気粘性ダンパ6のERF7に印加する高電圧を発生する。
このために、高電圧ドライバ18は、(低電圧)直流電力線を構成するバッテリ線(batt線)19およびグランド線(GND線)20を介して電源となるバッテリ17に接続されている。これと共に、高電圧ドライバ18は、(高電圧)直流電力線を構成する高電圧出力線21およびグランド線(GND線)22を介して電気粘性ダンパ6(電極筒12およびダンパシェルとなる外筒9)に接続されている。この場合、図2に示すように、高電圧ドライバ18は、電極ピン23を介して電気粘性ダンパ6の電極筒12に接続されている。電極ピン23は、電気粘性ダンパ6の減衰力を切換えるアクチュエータとなるものである。即ち、電気粘性ダンパ6は、高電圧ドライバ18の電極ピン23に供給される制御電圧に基づいて減衰力が切換えられる(調整される)。
高電圧ドライバ18は、後述するように、サブコントローラ25、昇圧回路26等を含んで構成されている。高電圧ドライバ18のサブコントローラ25は、メインコントローラ16から出力される制御信号(高電圧指令)に基づいて、バッテリ17から出力される直流電圧を昇圧回路26で昇圧する。高電圧ドライバ18は、その昇圧した高電圧を、電極ピン23を介して電気粘性ダンパ6に供給(出力)する。
サブコントローラ25は、高電圧ドライバ18のECU(Electronic Control Unit)であり、例えばマイクロコンピュータを含んで構成されている。この場合、サブコントローラ25は、フラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなるメモリおよび演算回路(CPU)を有しており、メモリには、後述の図5に示す処理フローを実行するための処理プログラム(温度推定の処理に用いる処理プログラム)、図6の下側に示す温度算出用マップ25A1が格納されている。
サブコントローラ25は、サテライトコントローラまたはサテライトECU(Satellite ECU)とも呼ばれており、車両データバス24を介してメインコントローラ16と接続されている。車両データバス24は、例えば、L−CAN(Local CAN)と呼ばれる通信が可能な車載の通信線である。即ち、車両データバス24は、データ通信に必要な回線網であるシリアル通信部としてのCAN(Controller Area Network)を構成している。この場合、車両データバス24は、メインコントローラ16とサブコントローラ25との間を接続している。
車両データバス24は、メインコントローラ16からサブコントローラ25に、制御信号(即ち、電気粘性ダンパ6で出力すべき減衰力に対応する高電圧指令)を伝送(送信)する。サブコントローラ25は、メインコントローラ16からの制御信号(高電圧指令)に応答して電極ピン23に制御電圧を供給して電気粘性ダンパ6の減衰力を制御する。また、メインコントローラ16は、サブコントローラ25に車両データバス24を介して電気粘性ダンパ6のピストン速度を出力する。一方、サブコントローラ25は、メインコントローラ16に車両データバス24を介して電気粘性ダンパ6のERF7の温度となるERF温度(ERF温度信号)を出力する。
なお、図1では、加速度センサ14,15からの信号(加速度信号)をメインコントローラ16に直接入力する構成としている。しかし、これに限らず、メインコントローラ16は、車両データバス24とは別の車両データバス(図示せず)、例えば、車両に搭載された操舵系ECU、制動系ECU等の各種のECUと通信が可能なV−CAN(Vehicle CAN)と呼ばれる車載の通信線(別の車両データバス)を介して車両の挙動情報(加速度信号)を取得する構成としてもよい。また、図1では、高電圧指令の入出力とピストン速度の入出力とERF温度の入出力とをそれぞれ別々の線で表している。これは、入力側と出力側とを分かり易くするためであり、それぞれのデータ(信号)を別々の通信線で伝送することを意味するものではない。これらのデータ(信号)は、いずれも車両データバス24(一組の通信線)で伝送(送受信)することができる。
ところで、電気粘性ダンパ6は、ERF7の温度に依存するという特徴がある。即ち、電気粘性ダンパ6は、反応時間、振幅、基本的な粘性等の特性が、ERF7の温度に応じて変化する。例えば、低温では、ERF7が高粘性となり(減衰力が高くなり)、高温では、ERF7が低粘性となる(減衰力が低下する)。このような特徴は、電気粘性ダンパ6の性能に影響するため、例えば、ソフトウエアによって補正することが好ましい。しかし、このような補正は、ERF7の温度が分かるときにのみ可能である。
ここで、電気粘性ダンパ6が車両に取付けられている場合、ERF7の温度測定は容易ではない。そして、ERF7の温度が分からず、ERF7の温度に応じた補正ができないことは、サスペンションシステムの性能の低下に繋がる可能性がある。一方、従来の解決方法として、例えば、特許文献1には、電極間の静電容量を測定して電気粘性流体の温度を推定する技術が記載されている。しかし、このような従来技術は、コスト、信頼性の面から、電気粘性ダンパ6の大量生産と両立することが難しい。
これに対して、実施形態では、電気粘性ダンパ6の電流測定に基づいてERF7の温度を推定する。即ち、電気粘性ダンパ6を流れる電流は、ERF7の温度に応じて変化する(温度と電流との間に相関関係がある)。実施形態では、高電圧ボックスとも呼ばれる高電圧ドライバ18で電流を測定し、その測定した電流を、ソフトウエアによるERF7の温度推定に用いる。この場合、電気粘性ダンパ6の電流は、温度だけに依存するものではない。
例えば、電気粘性ダンパ6の電流は、電気粘性ダンパ6の変位速度、変位値、高電圧指令の程度等、電流消費に影響するパラメータによっても変化する。そこで、実施形態では、このようなパラメータを排除する。即ち、実施形態では、ERF7の温度を推定し、かつ、ERF7の特性に依存する温度をソフトウエアにより補正し、ERF7に印加する高電圧を変更する。これにより、安価な構成でERF7の温度を推定することができ、大量生産の制限と両立することができる。
具体的には、実施形態では、電気粘性ダンパ6に所定の電圧を印加したときのERF7の温度と電流値との関係を予め求めておく。例えば、製品開発の間に、図6に示すように、電気粘性ダンパ6に所定の電圧(一定の電圧)となるV1を印加し、それぞれの温度T0,T1,・・・Tnでの電気粘性ダンパ6を流れる安定状態の電流を測定する。測定された電流値I0,I1,・・・Inは、対応する温度T0,T1,・・・Tnと共に一覧表とする。この一覧表は、電流値と温度とのマップ(温度算出用マップ25A1)として、車両の電気粘性ダンパ6を制御する高電圧ドライバ18のマイクロコントローラ(サブコントローラ25)に格納する。
一方、電気粘性ダンパ6の温度を車両で推定するためには、電気粘性ダンパ6の電流が、開発のときと同じテスト条件で測定されなければならない。この場合、マイクロコントローラは、図6に示す電圧と同じ電圧を、t0からt1の同じ時間、生成しなければならない。電気粘性ダンパ6は、高電圧ドライバ18の電子ハードウエアによる印加に伴って電流が流れる。マイクロコントローラは、測定およびフィルタ処理された電気粘性ダンパ6の電流を読み込み、この電流に対応する温度を、格納されたマップ(一覧表)から読込む。得られた温度は、実際のERF7の温度による補正の効果を得るために、サスペンションを制御するソフトウエアで用いられる。
ここで、電気粘性ダンパ6の変位速度(伸長速度・縮小速度)は、電流消費に影響する。このため、予め求めた電流値と温度との関係を用いる場合、「その関係を求めたときの電気粘性ダンパ6の変位速度」と「車両で温度を演算するときの電気粘性ダンパ6の変位速度」とが、同じである必要がある。そこで、実施形態では、ダンパ速度となるピストン速度が0[m/s]のときの電流値とERF7の温度との関係を求める。そして、車両で温度を演算するときは、電気粘性ダンパ6が上下動しなくなったとき、即ち、ダンパ速度となるピストン速度が0[m/s]、または、0[m/s]を含む0[m/s]付近のときに、ERF7の温度を推定する。
より具体的に説明すると、高電圧ドライバ18(のサブコントローラ25)には、温度算出用マップ25A1(電流−ERF温度マップ)が格納(記憶)されている。この場合、温度算出用マップ25A1は、次のように作成する。即ち、ピストン速度が0[m/s]の状態の電気粘性ダンパ6に所定の電圧V1(=温度算出用電圧V1)を印加し、ERF7の温度T0,T1,・・・Tn毎に電流値I0,I1,・・・Inを測定する。温度T0,T1,・・・Tnは、互いに異なる複数の温度である。所定の電圧V1は、例えば、ERF7の温度T0,T1,・・・Tnの相違が電流値I0,I1,・・・Inの相違として検出できるような電圧(例えば、ミディアムの指令に対応する電圧、または、ハードの指令に対応する電圧)とすることができる。そして、測定結果は、ピストン速度が0[m/s]で、かつ、所定の電圧V1を印加したときにおける、温度T0,T1,・・・Tnと電流値I0,I1,・・・Inとの関係となる。この関係が、温度算出用マップ25A1(電流−ERF温度マップ)として、高電圧ドライバ18(のサブコントローラ25)に格納される。
このような温度算出用マップ25A1が格納された高電圧ドライバ18は、次のようにERF7の温度を推定(算出)する。即ち、高電圧ドライバ18は、ピストン速度が所定の範囲、具体的には、ピストン速度が0[m/s]またはその付近のときに、所定の電圧V1と同じ電圧値である温度算出用電圧V1を電気粘性ダンパ6に印加する。この印加は、ERF7の温度推定用の電流値を検出するための短時間の印加とすることができる。そして、高電圧ドライバ18は、温度算出用電圧V1が電気粘性ダンパ6に印加されているときの電流値を検出し、この電流値と温度算出用マップ25A1とから、ERF7の温度を算出する。より詳しくは、高電圧ドライバ18は、ピストン速度(の絶対値)が所定速度以下、例えば、オリフィス領域と呼ばれる極微低速以下(−0.02[m/s]≦ピストン速度≦0.02[m/s])のときに、温度算出用電圧V1(=所定の電圧V1)を電気粘性ダンパ6に印加し、かつ、この電圧V1を印加したときの電流値と温度算出用マップ25A1とからERF7の温度を算出する。
なお、ERF7の温度の算出、即ち、温度算出用電圧V1の印加は、ピストン速度が0[m/s]またはその付近であることに加えて、メインコントローラ16からの高電圧指令が0[V]のときに行うことが好ましい。また、ERF7の温度の算出は、ピストン速度が0[m/s]またはその付近であり、かつ、高電圧指令が0[V]であれば、常に行うようにすることが考えられる。しかし、この場合は、ERF7の温度が変化しないにも拘わらず、温度算出用電圧V1の印加が常に行われる可能性がある。
そこで、ERF7の温度の算出は、例えば、予め設定した間隔で行う(所定時間経過毎に行う)ようにしてもよい。また、例えば、電気粘性ダンパ6の伸長、縮小が短時間で繰り返し行われたとき等、ERF7の温度が変化したと考えられるときに行うようにしてもよい。さらに、ピストン速度が0[m/s]またはその付近であることは、車両の速度から判定してもよい。例えば、車速が0[km/h]のときは、ピストン速度が0[m/s]またはその付近であると判定してもよい。車速は、例えば、図示しない通信線(V−CAN)、メインコントローラ16および車両データバス24を介して取得することができる。
次に、電気粘性ダンパ6の制御処理を行うメインコントローラ16について、図1および図2に加え、図3も参照しつつ説明する。
メインコントローラ16は、電気粘性ダンパ6に印加する電圧を制御するコントローラである。即ち、メインコントローラ16は、電気粘性ダンパ6に印加する電圧を制御する高電圧指令を高電圧ドライバ18のサブコントローラ25に出力するコントローラである。図3に示すように、メインコントローラ16は、乗り心地・操縦安定性制御部16Aと、相対速度算出部16Bとを含んで構成されている。メインコントローラ16は、例えば、演算装置(CPU)に加え、フラッシュメモリ、ROM、RAM、EEPROM等からなるメモリ(いずれも図示せず)を有している。メモリには、例えば、電気粘性ダンパ6で出力すべき減衰力(電気粘性ダンパ6に印加すべき目標電圧値)を演算するための処理プログラム、電気粘性ダンパ6のピストン速度(相対速度)を演算するための処理プログラム等が格納されている。
乗り心地・操縦安定性制御部16Aの入力側は、ばね上加速度センサ14およびばね下加速度センサ15と接続されている。また、乗り心地・操縦安定性制御部16Aの入力側は、高電圧ドライバ18(サブコントローラ25)の温度算出部25Aと接続されている。一方、乗り心地・操縦安定性制御部16Aの出力側は、高電圧ドライバ18のサブコントローラ25(の出力部25B)と接続されている。乗り心地・操縦安定性制御部16Aには、ばね上加速度センサ14からのばね上加速度と、ばね下加速度センサ15からのばね下加速度と、サブコントローラ25の温度算出部25AからのERF温度とが入力される。乗り心地・操縦安定性制御部16Aは、ばね上加速度およびばね下加速度を用いて車両挙動を算出する。乗り心地・操縦安定性制御部16Aは、乗り心地と操縦安定性能の向上を図るべく、例えば、スカイフック制御則を用いて目標減衰力を演算し、目標減衰力が発生するように目標電圧値を算出する。
このとき、乗り心地・操縦安定性制御部16Aでは、サブコントローラ25(の温度算出部25A)から出力されたERF温度を用いて目標電圧値を補正する。例えば、乗り心地・操縦安定性制御部16Aは、ERF7により実際に発生する減衰力がERF7の基準温度(例えば標準温度)において発生する基準減衰力に近付くように、そのとき(現在)のERF温度に応じて目標電圧値を補正する。乗り心地・操縦安定性制御部16Aは、算出した目標電圧値、即ち、ERF温度を用いて補正された目標電圧値を、高電圧指令(高電圧指令信号)としてサブコントローラ25(の出力部25B)に出力する。
このように、乗り心地・操縦安定性制御部16Aは、ERF7の温度変化に伴う減衰力特性の変化(電気粘性ダンパ6の特性変化)を考慮した目標電圧を、高電圧指令として高電圧ドライバ18(サブコントローラ25)に出力することができる。なお、目標減衰力を算出する制御則としては、スカイフック制御に限らず、例えば、最適制御、H∞制御等のフィードバック制御を用いることができる。また、制御指令として目標減衰力を用いているが、目標減衰係数を用いる構成としてもよい。
また、実施形態では、ERF7の温度変化に伴って変化する電気粘性ダンパ6の特性として、減衰力を例に挙げている。即ち、メインコントローラ16(の乗り心地・操縦安定性制御部16A)は、ERF7の温度に応じて減衰力を補正する場合を例に挙げている。しかし、これに限らず、メインコントローラ16は、減衰力以外にも、例えば、応答速度等、ERF7の温度変化に伴って変化する特性(温度依存特性)を、ERF7の温度に応じて補正するようにしてもよい。
相対速度算出部16Bの入力側は、ばね上加速度センサ14、および、ばね下加速度センサ15と接続されている。相対速度算出部16Bの出力側は、サブコントローラ25(の温度算出部25A)と接続されている。相対速度算出部16Bには、ばね上加速度センサ14からのばね上加速度と、ばね下加速度センサ15からのばね下加速度が入力される。
相対速度算出部16Bは、ばね下加速度とばね上加速度との差分から車体1と車輪2との間の上下方向の相対加速度を算出する。相対速度算出部16Bは、相対加速度を積分することで、車体1と車輪2との間の上下方向の相対速度、即ち、電気粘性ダンパ6のピストン速度を算出する。相対速度算出部16Bは、算出したピストン速度(ピストン速度信号)を高電圧ドライバ18(サブコントローラ25)に出力する。
なお、実施形態では、ばね上とばね下とにそれぞれ加速度センサ14,15を設置すると共に、ばね上加速度とばね下加速度との差を積分することにより、ピストン速度を算出する構成としている。しかし、ピストン速度の算出は、これに限るものではない。例えば、車両に車高センサを設置すると共に、車高センサから得られる車高を微分することにより、ピストン速度を算出する構成としてもよい。
次に、高電圧を発生させる高電圧ドライバ18について、図1ないし図3に加え、図4も参照しつつ説明する。
高電圧ドライバ18は、サブコントローラ25の制御指令に応じて、昇圧回路26で電圧を昇圧し、昇圧した電圧を電気粘性ダンパ6(の電極筒12)に出力する。即ち、高電圧ドライバ18は、サブコントローラ25の制御指令に応じて、電気粘性ダンパ6(の電極筒12)に印加する高電圧を生成する。図4に示すように、高電圧ドライバ18は、サブコントローラ25と、昇圧回路26と、電流検出手段(電流センサ)としての電流検出回路27と、フィルタ&アンプ28とを含んで構成されている。
昇圧回路26は、バッテリ17の直流電圧を昇圧して電気粘性ダンパ6に出力する。昇圧回路26は、バッテリ線19およびグランド線20を介してバッテリ17に接続されており、高電圧出力線21およびグランド線22を介して電気粘性ダンパ6(電極筒12およびダンパシェルとなる外筒9)に接続されている。昇圧回路26には、サブコントローラ25から出力された制御指令が入力される。即ち、昇圧回路26には、電気粘性ダンパ6の電極筒12に印加すべき高電圧に対応する制御指令が、サブコントローラ25の出力部25Bを介して入力される。昇圧回路26は、バッテリ17の直流電圧を制御指令に応じた高電圧に昇圧し、電極ピン23を介して電極筒12に印加する。
電流検出回路27は、昇圧回路26と電気粘性ダンパ6との間(グランド線22側)に設けられている。電流検出回路27は、電気粘性ダンパ6に電圧が印加されているときの電流(電流値)を検出する。検出された電流(生電流)は、フィルタ&アンプ28を介してサブコントローラ25(の温度算出部25A)に高電圧電流モニタ値として入力される。フィルタ&アンプ28は、電流検出回路27で検出された電流を増幅し、かつ、必要な周波数帯域の電流を通過させる。
サブコントローラ25は、電気粘性ダンパ6に印加する電圧を制御する。即ち、サブコントローラ25も、メインコントローラ16と同様に、電気粘性ダンパ6を制御する。この場合、サブコントローラ25は、メインコントローラ16からの高電圧指令に基づいて、電気粘性ダンパ6に印加する電圧を制御する。サブコントローラ25は、前述したように、マイクロコンピュータを含んで構成されている。サブコントローラ25のメモリには、後述の図5に示す処理フローを実行するための処理プログラム(温度推定の処理に用いる処理プログラム)、図6の下側に示す温度算出用マップ25A1が格納されている。
サブコントローラ25は、温度算出部25Aと、出力部25Bとを含んで構成されている。温度算出部25Aには、高電圧モニタ値と高電圧電流モニタ値とピストン速度とが入力される。即ち、高電圧ドライバ18は、電気粘性ダンパ6に供給される高電圧(昇圧回路26で昇圧された後の電圧)をモニタ(監視)している。高電圧のモニタ信号(高電圧モニタ信号)は、高電圧モニタ値(高電圧値)として温度算出部25Aに入力される。また、高電圧ドライバ18は、電気粘性ダンパ6の電流をモニタ(監視)している。即ち、高電圧ドライバ18は、電流検出回路27とフィルタ&アンプ28とを用いて電気粘性ダンパ6の電流を検出している。電流のモニタ信号(高電圧電流モニタ信号)は、高電圧電流モニタ値(高電圧電流値)として温度算出部25Aに入力される。
温度算出部25Aは、高電圧電流モニタ値(電流値)に基づいて、ERF7の温度を算出(推定)する。このために、温度算出部25Aは、温度算出用マップ25A1を有している。温度算出用マップ25A1は、サブコントローラ25のメモリに記憶された温度と電流値との関係に対応するデータである。温度算出部25Aは、電流検出回路27とフィルタ&アンプ28とを介して入力された高電圧電流モニタ値と温度算出用マップ25A1とを用いて、ERF7の温度を算出する。温度算出部25Aは、算出したERF温度(ERF温度信号)をメインコントローラ16(乗り心地・操縦安定性制御部16A)に出力する。
ここで、温度算出用マップ25A1は、前述したように、ピストン速度が0[m/s]で、かつ、所定の電圧V1を印加したときにおける、温度T0,T1,・・・Tnと電流値I0,I1,・・・Inとの関係である。このため、温度算出部25Aは、ピストン速度が0[m/s]で、かつ、所定の電圧V1が印加されているときの電流値から、ERF7の温度を算出することが好ましい。例えば、電気粘性ダンパ6が伸長または縮小しているときの電流値、および/または、メインコントローラ16からの高電圧指令に基づいて所定の電圧V1以外の高電圧が印加されているときの電流値は、温度算出用マップ25A1の温度と電流値との関係とずれる可能性がある。
このため、温度算出部25Aは、メインコントローラ16(の相対速度算出部16B)と接続されており、温度算出部25Aには、メインコントローラ16(の相対速度算出部16B)からピストン速度が入力される。温度算出部25Aは、ピストン速度が所定の範囲、例えば、ピストン速度(の絶対値)がオリフィス領域と呼ばれる極微低速以下のときに、電気粘性ダンパ6に温度算出用電圧V1(=所定の電圧V1)を印加する指令(温度算出用高電圧指令)を出力部25Bに出力する。温度算出部25Aは、その指令に基づいて電気粘性ダンパ6に温度算出用電圧V1が印加されているときの電流値と、温度算出用マップ25A1の電流値と温度との関係とから、ERF7の温度を算出する。電気粘性ダンパ6に電圧V1が印加されているか否かは、温度算出部25Aに入力される高電圧モニタ値から判定することができる。
出力部25Bは、メインコントローラ16(乗り心地・操縦安定性制御部16A)から出力された高電圧指令、または、温度算出部25Aから出力された温度算出用高電圧指令に基づいて、昇圧回路26に制御指令を出力する。即ち、出力部25Bは、メインコントローラ16(乗り心地・操縦安定性制御部16A)から高電圧指令が入力されているときは、高電圧指令に応じた高電圧に昇圧する指令(制御指令)を、昇圧回路26に出力する。また、出力部25Bは、温度算出部25Aからの温度算出用高電圧指令が入力されているときは、所定の高電圧V1(温度算出用電圧V1)に昇圧する指令(制御指令)を、昇圧回路26に出力する。
また、出力部25Bは、メインコントローラ16(乗り心地・操縦安定性制御部16A)からの高電圧指令と温度算出部25Aからの温度算出用高電圧指令との両方の指令が入力されたときは、メインコントローラ16(乗り心地・操縦安定性制御部16A)からの高電圧指令を出力する。即ち、出力部25Bは、電気粘性ダンパ6の減衰力を制御するための高電圧指令(即ち、乗り心地および操縦安定性を向上するための高電圧指令)を優先する。
次に、サブコントローラ25(の温度算出部25A)で行われる制御処理、即ち、ERF7の温度算出の処理フローについて、図5を参照しつつ説明する。図5の制御処理は、例えば、サブコントローラ25に通電している間、所定の制御周期で繰り返し実行される。
図5に示す制御処理が開始されると、S1では、ピストン速度が所定の範囲(0[m/s]またはその付近)であるか否かを判定する。例えば、S1では、ピストン速度が所定速度以下である極微低速以下(−0.02[m/s]≦ピストン速度≦0.02[m/s])であるか否かを判定する。所定の範囲は、実際の温度と温度算出用マップ25A1を用いて算出される温度との誤差を許容できる範囲で設定することができる。
S1で「NO」、即ち、ピストン速度が所定の範囲でない(例えば、ピストン速度<−0.02[m/s]、0.02[m/s]<ピストン速度)と判定された場合は、S10に進む。この場合は、温度算出(温度推定)を行わない。一方、S1で「YES」、即ち、ピストン速度が所定の範囲である(例えば、−0.02[m/s]≦ピストン速度≦0.02[m/s])と判定された場合は、S2に進む。S2では、温度算出用高電圧指令を出力する。即ち、温度算出部25Aは、出力部25Bに、温度算出用電圧V1を印加する指令(温度算出用高電圧指令)を出力する。温度算出用電圧V1は、温度算出用マップ25A1を作成したときの所定の電圧V1と同じ電圧値V1である。
S2に続くS3では、モニタ電圧が温度算出用電圧V1であるか否かを判定する。S3で「NO」、即ち、モニタ電圧が温度算出用電圧V1でないと判定された場合は、S4に進む。S4では、S1と同様に、ピストン速度が所定の範囲(0[m/s]またはその付近)であるか否かを判定する。S4で「YES」、即ち、ピストン速度が所定の範囲である(例えば、−0.02[m/s]≦ピストン速度≦0.02[m/s])と判定された場合は、S3の前に戻り、S3以降の処理を繰り返す。
S3で「YES」、即ち、モニタ電圧が温度算出用電圧V1であると判定された場合は、S5に進む。S5では、モニタ電流値を読込む。即ち、S5では、電流検出回路27で検出されフィルタ&アンプ28で増幅された高電圧電流モニタ値を読込む。この高電圧電流モニタ値は、ピストン速度が所定の範囲であり、かつ、温度算出用電圧V1が印加されているときの電流値に対応する。S5で電流値を読込んだら、S6に進む。S6では、温度算出用高電圧指令の出力を終了(停止)し、S7に進む。S7では、S5で読込んだ電流値と温度算出用マップ25A1とからERF7の温度を算出し、S8に進む。S8では、S7で算出したERF7の温度を出力する。即ち、温度算出部25Aは、算出したERF7の温度を、メインコントローラ16(乗り心地・操縦安定性制御部16A)に出力する。S8でERF7の温度を出力したら、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。
一方、S4で「NO」、即ち、ピストン速度が所定の範囲でない(例えば、ピストン速度<−0.02[m/s]、0.02[m/s]<ピストン速度)と判定された場合は、S9に進み、S9で温度算出用高電圧指令の出力を終了(停止)してから、S10に進む。S9からS10に進む場合、および、S1で「YES」と判定されてS10に進む場合は、今回の制御周期でERF7の温度の算出が行われない。このため、S10では、前回の制御周期で算出したERF7の温度を出力する。即ち、S10では、前回の制御周期で算出したERF7の温度を、メインコントローラ16(乗り心地・操縦安定性制御部16A)に出力する。S10でERF7の温度を出力したら、リターンを介してスタートに戻り、S1以降の処理を繰り返す。
なお、実施形態では、ピストン速度の所定速度を±0.02[m/s](絶対値で0.02[m/s])としている。即ち、実施形態では、サブコントローラ25(温度算出部25A)は、オリフィス領域と呼ばれる極微低速以下のときの電流値を用いる(極微低速以下のときの電流値に基づいて算出されるERF温度を用いる)構成としている。しかし、これに限らず、ピストン速度の所定速度を、例えば、±0.05[m/s](絶対値で0.05[m/s])としてもよい。即ち、バルブが開いてバルブ特性領域となる微低速領域と呼ばれる微低速以下のときの電流値を用いる構成としてもよい。ピストン速度の所定速度は、ERF流体の特性、車両の種類、仕様等に応じて、温度推定の誤差を許容できる範囲の速度(できるだけ0[m/s]に近い速度)に設定することができる。
以上のように、実施形態では、サブコントローラ25は、温度算出用マップと、温度算出用電圧指令出力部と、温度算出部とを有している。温度算出用マップは、電気粘性ダンパ6に所定の電圧V1(図6の一定電圧値V1)を印加したときのERF7の温度と電流値との関係であり、サブコントローラ25のメモリに記憶されている。温度算出用マップは、図4および図6の温度算出用マップ25A1に対応する。
温度算出用電圧指令出力部は、電気粘性ダンパ6のピストン速度が所定の範囲(0[m/s]またはその付近)のときに、所定の電圧V1(=温度検出用電圧V1)を電気粘性ダンパ6に印加する指令を出力する。温度算出部は、温度算出用電圧指令出力部の指令により電気粘性ダンパ6に所定の電圧V1(=温度検出用電圧V1)が印加されているときに、電流検出回路27により検出された電流値と温度算出用マップ25A1とからERF7の温度を算出する。
温度算出用電圧指令出力部および温度算出部は、図4の温度算出部25Aに対応する。より具体的には、温度算出用電圧指令出力部は、図5のS2の処理に対応し、温度算出部は、図5のS7の処理に対応する。また、温度算出用電圧指令出力部は、例えば、電気粘性ダンパ6が装着された車両が停止しているとき(例えば、車両の電源をONにしたとき、エンジンを始動したとき、信号で停止したとき等)に、電気粘性ダンパ6のピストン速度が所定の範囲であると判定し、所定の電圧(=温度検出用電圧V1)を電気粘性ダンパ6に印加する指令を出力するようにしてもよい。
実施形態によるサスペンション制御装置は、上述のような構成を有するもので、次に、メインコントローラ16および高電圧ドライバ18を用いて電気粘性ダンパ6の減衰力特性を可変に制御する処理について説明する。
メインコントローラ16には、車両の走行時にばね上加速度センサ14からばね上加速度に対応する検出信号が入力されると共に、ばね下加速度センサ15からばね下加速度に対応する検出信号が入力される。このとき、メインコントローラ16の乗り心地・操縦安定性制御部16Aでは、ばね上加速度とばね下加速度とからスカイフック制御則等を用いて目標減衰力を演算し、目標減衰力を発生させるために必要な目標電圧を算出する。このとき、乗り心地・操縦安定性制御部16Aは、サブコントローラ25(温度算出部25A)で算出されたERF温度を用いて目標減衰力(目標電圧)を補正(変更、調整)する。そして、メインコントローラ16は、目標減衰力(目標電圧)を高電圧指令として高電圧ドライバ18のサブコントローラ25に出力する。
高電圧ドライバ18のサブコントローラ25は、メインコントローラ16からの高電圧指令に基づいて、バッテリ17から出力される直流電圧を昇圧回路26で昇圧する。これにより、高電圧指令に応じた電圧(高電圧)がERF7に印加(電気粘性ダンパ6の電極筒12に出力)され、ERF7の粘性を制御することができる。このとき、電気粘性ダンパ6の減衰力特性は、ハードな特性(硬特性)とソフトな特性(軟特性)との間で可変となって連続的に制御される。
ここで、実施形態では、サブコントローラ25は、電気粘性ダンパ6のピストン速度が所定の範囲(0[m/s]またはその付近)であり、かつ、電気粘性ダンパ6に温度算出用電圧V1(=所定の電圧V1)が印加されているときの電流値から、温度算出用マップ25A1を用いてERF7の温度を算出する。この場合、図6に示すように、温度算出用マップ25A1は、電気粘性ダンパ6のピストン速度が所定の範囲(0[m/s])で、かつ、電気粘性ダンパ6に所定の電圧V1(=温度算出用電圧V1)を印加したときのERF7の温度と電流値との関係である。このため、安価な構成でERF7の温度を精度よく算出(推定)することができる。
なお、実施形態では、高電圧ドライバ18のサブコントローラ25が、温度算出部25A(温度算出用マップ、温度算出用電圧指令出力部、温度算出部)を有する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、メインコントローラ16が、温度算出用マップ、温度算出用電圧指令出力部、温度算出部を有する構成としてもよい。
実施形態では、高電圧ドライバ18が昇圧する電圧を直流電圧とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、高電圧ドライバ18が昇圧する電圧を交流電圧としてもよい。
実施形態では、サスペンション装置4の電気粘性ダンパ6を縦置き状態で自動車等の車両に取付ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、緩衝器を横置き状態で鉄道車両等の車両に取付ける構成としてもよい。電気粘性ダンパ6は、例えば、エアレーションを起こさない範囲で傾けて配置する等、取付対象に応じて所望の方向に配置することができる。
以上説明した実施形態に基づくサスペンション制御装置として、例えば、下記に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、電界により性状が変化する電気粘性流体が封入され、電圧の印加により減衰力を調整する電気粘性ダンパと、前記電気粘性ダンパに印加する電圧を制御するコントローラと、前記電気粘性ダンパに電圧が印加されているときの電流値を検出する電流検出手段と、を備え、前記コントローラは、前記電気粘性ダンパに所定の電圧を印加したときの前記電気粘性流体の温度と電流値との関係である温度算出用マップと、前記電気粘性ダンパのピストン速度が所定の範囲のときに、前記所定の電圧を前記電気粘性ダンパに印加する指令を出力する温度算出用電圧指令出力部と、前記温度算出用電圧指令出力部の指令により前記電気粘性ダンパに前記所定の電圧が印加されているときに、前記電流検出手段により検出された電流値と前記温度算出用マップとから前記電気粘性流体の温度を算出する温度算出部とを有する。
この第1の態様によれば、コントローラは、電気粘性ダンパのピストン速度が所定の範囲であり、かつ、電気粘性ダンパに所定の電圧が印加されているときの電流値から温度算出用マップを用いて電気粘性流体の温度を算出する。この場合、温度算出用マップは、電気粘性ダンパのピストン速度が所定の範囲で、かつ、電気粘性ダンパに所定の電圧を印加したときの電気粘性流体の温度と電流値との関係である。このため、安価な構成で電気粘性流体の温度を精度よく算出(推定)することができる。
第2の態様としては、第1の態様において、前記温度算出用電圧指令出力部は、前記電気粘性ダンパが装着された車両が停止しているときに、前記所定の電圧を前記電気粘性ダンパに印加する指令を出力する。
この第2の態様によれば、車両が停止しているときに、電気粘性流体の温度を精度よく算出(推定)することができる。