以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当部分には同一の符号を付し、説明は繰り返さない。
以下の実施の形態では、車のシート、あるいはベッドの内部など、生体が接触する部分に内蔵して磁気センサを設けた生体情報検出センサを開示する。このセンサは、生体の神経活動に伴う電流が周囲に発生する磁場、いわゆる生体磁場を検出することによって、生体の存在、寸法、位置、神経活動の様子を検出するので、磁性体や導体を持った人体であっても容易に検出することができる。
[実施の形態1]
生体では、神経を流れる電流によって情報の伝達を行っている。このような電流が生体の周囲に発生する磁界は、生体磁気といわれる。生体磁気は、神経が延びる方向に、微弱な電流が流れることで発生する磁界である。神経の延びる方向に流れる電流に対しては、右ねじの法則に示されるように、神経を囲むような同心円状の磁界が発生する。本実施の形態では、この生体磁気を、車両の座席のバックシート、または、ベッドの内部に取り付けた生体情報検出センサ(感磁ユニット)で測定する生体情報検出装置について説明する。このような生体磁気を検出するための高感度の磁気センサとしては、トンネル型磁気抵抗効果(Tunnel Magneto Resistance Effect)素子(TMR素子)が好ましい。
図1は、TMR素子を構成する磁性薄膜構造の一例を示す断面図である。TMR素子は、自由層4(上部電極)と固定層8(下部電極)とトンネル絶縁層6とを含む。自由層4と固定層8と称する強磁性層をトンネル絶縁層6を介して積層し、この積層膜を写真製版等によって加工する。これにより、図1に示すように、トンネル絶縁層6を挟んで上部に位置する自由層4と下部に位置する固定層8を形成してなるTMR素子が得られる。
固定層8の磁化方向は、たとえば、後に図2に示すように、反強磁性層10との交換結合磁界により1方向に固定されている。あるいは、固定層8の磁化方向は、保磁力の大きい磁性材料によって一方向に保持される。
一方、自由層4は、磁化方向が外部磁界Hexによって自由に回転するスピンバルブ構造をもつ。このようなスピンバルブ構造を有したTMR素子の抵抗は、固定層8の磁化方向と自由層4の磁化方向とのなす角度に応じて変化する。つまり、外部磁界に影響されて自由層4の磁化方向が変化することによってTMR素子の抵抗が変化する。このため、外部磁界による自由層4の磁化方向の変化を素子の抵抗の形で検知することが可能である。
固定層8は、薄い非磁性層を介して積層され、互いに反強磁性結合をする2層の強磁性薄膜からなるいわゆるSAF(Synthetic AntiFerromagnetic)構造を含んでよい。自由層4は、単一の磁性層でもよいが、2種類以上の磁性層を積層してなる構造でもよい。図1の積層膜の構造のように、反強磁性層10が上部電極に含まれるように構成してもよいし、下部電極に含まれるように構成してもよい。
例えば、反強磁性層10としてIrMn、固定層8としてCoFe、トンネル絶縁層6としてAl2O3、自由層4としてNiFeを用いることによって、TMR素子を構成することができる。このほか、反強磁性層10としては、FeMn、IrMn、PtMn、強磁性体を構成する材料としては、例えばCo、Fe、CoFe合金、CoNi合金、CoFeNi合金、などのCo、Ni、Feを主成分として含む金属や、NiMnSb、Co2MnGeなどのホイスラ合金など、TMR素子に所望の性能が得られる材料であれば特段の制約はない。また、トンネル絶縁層6である非磁性層は、絶縁体であればよく、例えばTa2O5、SiO2、MgO等の金属の酸化物やそれらの混合物でもよい。弗化物であってもよい。
上記のそれぞれの膜は、例えばDCマグネトロンスパッタリングにより形成される。また、例えば分子線エピタキシー(MBE)法、各種スパッタ法、化学気相成長(CVD)法、蒸着法によって形成されてもよい。
また、TMR素子は、例えばそれぞれの膜をフォトリソグラフィーと反応性イオンエッチングによりパターン加工して作製される。その場合、たとえば、まず自由層4、トンネル絶縁層6および固定層8の膜をそれぞれ形成後、フォトレジストによる所望の素子パターンを形成する。その後、イオンミリングもしくは反応性イオンエッチングにより素子の形状を得る。また、素子パターンの形成は電子線リソグラフィー、集束イオンビームであってもよい。
このようなTMR素子は、外部磁界Hexが印加されていないときに自由層4の磁化方向と固定層8の磁化方向が直交するように構成することで、外部磁界Hexに対して線形に抵抗が変化するようにできる。例えば反強磁性膜を用いて固定層8を構成する場合、所望の方向に十分に強い磁界(たとえば1テスラ以上)を印加しつつ、反強磁性膜のブロッキング温度以上に素子を加熱し冷却することで、固定層8の磁化方向を所望の方向とすることができる。
図2は、TMR素子の形状の一例を示す(A)上面図および(B)断面図である。
自由層4の磁化方向は、前述のように外部磁界Hexに応じて変化する。ここで、外部磁界Hexが印加されていないときの自由層4の磁化方向は、図2(A)に示すように、素子形成面の上面からみた素子のパターンを横長形状にすることで、規定することができる。
図3はTMR素子の磁気抵抗特性の一例を示した特性図である。図2に示した形状に形成されたTMR素子に、固定層8の磁化方向と平行な方向に磁界を印加すると、自由層4の磁化方向は外部磁界により変化し、図3に示すような抵抗の変化が現れる。このとき、自由層4の磁化方向と固定層8の磁化方向とが平行または反平行となり抵抗が外部磁界に依存しない飽和領域と、外部磁界に対して線形な依存性を持つ線形領域とがあらわれる。なお、TMR素子では一般に自由層4の磁化方向と固定層8の磁化方向とが平行の場合に抵抗は最小値、自由層4の磁化方向と固定層8の磁化方向とが反平行の場合に抵抗は最大値となる。
このようなTMR素子を用いて微小な磁界を検出するセンサを構成する場合、TMR素子に飽和領域に対応する磁界が印加されると、磁界の検出ができないという課題があることが分かった。
TMR素子に特段の磁場遮蔽をしていない場合、地磁気、車両外部からの磁気、車両内の磁化した磁性体の磁化の影響により、1e−6〜1e−5Tの磁界(以後、単に静磁界と呼ぶ)がかかっている。一方、生体磁気に関わる磁界(以後、生体磁界とよぶ)としては、1e−10Tの磁界を検出しなければならない。静磁界の大きさは、例えば地磁気の時間的な変化や、車両の方向の変化、車両外部の磁性体の配置の変化等によって、生体磁界よりも低い周波数で変化することを想定しなければならない。例えば、車両の進行方向が変化すると、車両に印加される磁界の相対的な向きも変化し、結果としてシートに取り付けたセンサに印加される静磁界も変化する。さらに、TMR素子の磁界−抵抗特性には、図3に示すように飽和領域と線形領域がある。飽和領域に対応する静磁界が印加されると、生体磁気に関わる磁界の変化が生じても抵抗変化を示さなくなるので、磁界検出ができない。
この課題を解決するため、線形領域の磁界範囲が十分に広いTMR素子を使用し、TMR素子が検出対象とする磁界の範囲は、TMR素子特性の線形領域内とすることが好ましい。TMR素子は、図2(A)に示すように横長形状となるようにアスペクト比を大きくし、自由層4の形状磁気異方性を大きくすることによって、線形領域の幅を広くすることができるので、このような用途に好適である。さらに、TMR素子の配置を工夫することによって静電界の影響を低減させることができる。
図4は、実施の形態1に係る生体情報検出センサを内蔵したシートを示す斜視図である。図5は、生体情報検出センサを内蔵したシートの上面図である。図6は、図5の生体情報検出センサ24の拡大図である。
図4〜図6に示される生体情報検出装置20は、シート22と、生体情報検出センサ24とを含む。シート22は、生体に密着する部分を有する構造物の一例である。支持板50は、そのような構造物の内部に配置される。
生体情報検出センサ24は、第1の面(上面)と第2の面(裏面)を有する支持板50と、磁界検出チップ31,32とを含む。磁界検出チップ31,32は、第1の面内の第1の方向(X方向)に互いに離間するように、支持板50の第1の面に配置される。磁界検出チップ31,32の各々は、第1の方向(X方向)に対して第1の面内で直交する第2の方向(Y方向)の磁界の変化に対して感度が最大となるように構成される。磁界検出チップ31,32の各々は、直列接続された多数のTMR素子が集積されたチップである。支持板50は、磁界検出チップ31,32が離間する第1の方向(図6のX方向)がシート22の背もたれ面に平行な方向(図4のX方向)と一致するように配置される。
上記のように、静磁界の大きさがほぼ等しくかつ生体磁界の大きさが異なる2か所に、各々の特性の揃ったTMR素子を含む磁界検出チップ31,32を配置し、2か所の磁界の差を増幅するように検出回路を構成することで、静磁界の影響をキャンセルすることができる。
背骨に平行して延びる神経を伝達する電流28が形成する磁界30は、背骨付近を中心とした同心円上に発生する。ここで、図4に示した座標軸のように、人体26の鉛直方向(たとえば背骨の軸)をZ軸として、車両の略前方をY軸とし、Z軸およびY軸と直交する軸をX軸とする直交座標系を規定する。静磁界の大きさがほぼ等しく生体磁界の大きさが異なる2か所としては、例えば、図4〜図6の生体情報検出センサ24の配置に示すように、Y方向、Z方向の配置がほぼ等しく、背骨位置を基準として、X方向にほぼ等距離で背骨からみて正反対方向の位置である。
図6によって、生体情報検出センサ24上の素子位置における磁界30の方向が示される。静磁界の大きさがほぼ等しく生体磁界の大きさが異なる2か所は、例えば、位置PAと位置PBである。生体情報検出センサ24は、位置PAと位置PBにそれぞれ配置された磁界検出チップ31および磁界検出チップ32を含む。
頭から足先に向けて背骨中を延びる神経を伝達する電流28が位置PAに発生させる磁界30は、X成分HxとY成分Hyとを有する。また、この電流28が位置PBに発生させる磁界30は、X成分Hx’とY成分Hy’とを有する。この例では、X成分HxとHx’は大きさも方向もほぼ等しいが、Y成分HyとY成分Hy’は大きさがほぼ等しく方向が正反対となっている。一方、静磁界のY方向成分は、どちらの位置でもほぼ同じ大きさである。結果として、位置PAと位置PBのTMR素子の抵抗は、生体磁界の大きさに比例した差が生じる。これを適切な検出回路を用いて出力とする。
ここで、位置PAと位置PBに、XY平面内に形成され、Y方向に高感度なTMR素子を多数集積した磁界検出チップ31,32を配置する。磁界検出チップ31,32としては、固定層の向きがY方向のプラス方向であり、かつX方向に長い素子形状の単位TMR素子を例えば1600個直列接続したものを使用することができる。
図7は、生体情報検出センサに用いるTMR素子の一部を拡大して示す上面図である。図8は、図7のVIII−VIIIにおける断面図である。
TMR素子1の横長の島状部分である上部電極46は、磁性膜の積層構造がすべてそろっている。2つの上部電極46を囲む島状部分である下部電極48は、磁性膜の積層構造のうち絶縁層よりも上方の部分をイオンミリング等の手法で部分的に削り、最下層の導電層を残して接続部とすることによって形成される。さらに、上部電極46は隣り合う別の下部電極48に囲まれた上部電極46と、コンタクト孔42を介してアルミ配線44で接続されている。同じ下部電極48で囲まれる2つの上部電極46は、下部電極48を介して互いに電気的に接続されている。
このようにして、複数の単位TMR素子が、アルミ配線44−上部電極46−下部電極48−上部電極46−アルミ配線44…と直列接続された磁気センサが構成される。固定層(下部電極48)の磁化方向は、すべてのTMR素子で等しく、紙面上下方向(Y方向)である。これと直交する紙面左右方向(X方向)に、上部電極46の長軸方向が揃えられている。
このようにして、以下のような構成が実現されている。すなわち、図6の磁界検出チップ31,32の各々は、複数のTMR素子1を含む。複数のTMR素子1の各々は、図2に示したように固定層8の磁化の向きと垂直方向に延伸した横長形状を有する。複数のTMR素子1は、図7に示すように、固定層の磁化の向きの方向(Y方向)に並んで配置され、固定層の磁化の向きの方向(Y方向)に延びる素子間配線(アルミ配線44と、下部電極48)によって直列接続して構成される。複数のTMR素子1の各々と素子間配線のコンタクト孔42は、複数個設けられる。
このようにして、各TMR素子は、X方向に自由層の異方性が高く、Y方向に固定層の磁化が固定されるように構成される。これにより、複数のTMR素子が直列接続された磁界検出チップ31,32の各々は、Y方向の磁界に対して感度が高い磁気センサとなる。図6の例では、無磁界のときのTMR素子の抵抗値を基準として、位置PAに配置した磁界検出チップ31に搭載されるTMR素子の抵抗が高く、位置PBに配置した磁界検出チップ32に搭載されるTMR素子の抵抗が低くなる。なお、X方向とY方向の感度差を設けるため、TMR素子の上部電極部のアスペクト比は、好ましくは10:1以上、さらに好ましくは100:1以上とすると良い。
生体情報検出センサ24を構成する支持板は、樹脂のような非磁性材料で形成された矩形の平板であって、位置PAと位置PBに設けられた磁界検出チップ31,32の位置関係が変わらないように保持することが好ましい。
図9は、支持板の形状の構成例を示す斜視図である。支持板は、矩形の平板でも良いが、変形によって位置PAと位置PBの位置関係が変わらないように、支持板50の長辺側に、図9に示すような突起部52を設けて剛性を高めてもよい。
支持板50は、例えば四隅に穴56があけられ、穴56挿入された略円筒形のゴム等の保持機構54を介してシートの構造材に取り付けられている。ゴム製の保持機構54を介することで、車両からの振動等のノイズを軽減できる。
図10は、検出回路の一例を示す回路図である。生体情報検出センサ24は、位置PAに配置した磁界検出チップ31と、位置PBに配置した磁界検出チップ32とを含む。電源Vccと接地GNDとの間に磁界検出チップ31と磁界検出チップ32とをこの順に直列接続する。差動増幅回路64の一方の入力端子は、磁界検出チップ31と磁界検出チップ32の接続ノードの電位を受ける。差動増幅回路64の他方の入力端子には、適切な参照電圧が与えられる。例えば、電源Vccと接地GNDとの間に、抵抗61と可変抵抗63とを直列接続した回路が、磁界検出チップ31および磁界検出チップ32に並列に接続される。差動増幅回路64の出力が飽和しないように、可変抵抗62の抵抗値が調整され、生体磁気の入力がないときの出力電圧の原点が設定される。
静磁界に生体磁気が重畳すると、位置PAと位置PBに印加される磁界に差が生じる。これに応じて磁界検出チップ31と磁界検出チップ32のTMR素子の抵抗値の変化量が異なるので、差動増幅回路64の一方端子への入力電圧が変化する。結果として、生体磁気の大きさに応じた出力が得られる。差動増幅回路64は、例えば計装アンプを用いることができる。差動増幅回路64の出力は、A/Dコンバータ66によってデジタル信号に変換される。このデジタル信号は、コンピュータを内蔵したコントローラ等で生体の検出情報として使用される。
図11は、検出回路の第1の変形例を示す回路図である。検出回路は、図11に示すようなホイートストンブリッジ回路でも良い。この変形例の検出回路では、位置PAにTMR素子71とTMR素子72とが集積された磁界検出チップが配置され、位置PBにTMR素子73とTMR素子74とが集積された磁界検出チップが配置される。
ホイートストンブリッジを構成する1つ目のブランチには、電源Vccと接地GNDとの間に、TMR素子71とTMR素子74がこの順に直列接続される。第2のブランチには、電源Vccと接地GNDとの間に、TMR素子73とTMR素子72とがこの順に直列接続される。差動増幅回路64の一方の入力端子は、TMR素子71とTMR素子74の接続ノードの電位を受ける。差動増幅回路64の他方の入力端子は、TMR素子73とTMR素子72の接続ノードの電位を受ける。
TMR素子71〜74がすべて同じ特性であれば、印加される磁界が同じであるときにTMR素子71〜74の抵抗値はすべて同じとなる。したがって、差動増幅回路64の一方の入力端子および他方の入力端子の電圧は、いずれもVcc/2となる。
生体磁気が静磁界に重畳すると、位置PAと位置PBに印加される磁界に差が生じるので、TMR素子71とTMR素子72、TMR素子73とTMR素子74の抵抗がそれぞれ異なる大きさで変化する。このため、差動増幅回路64の一方の入力端子と他方の入力端子の電圧に差が生じ、生体磁気の大きさに応じた出力が得られる。
このとき、位置PAや位置PBでは、単位TMR素子の配置を工夫することによって、検出精度を向上させることができる。ここで、TMR素子71とTMR素子72の配置を同一位置とできない理由について説明する。
複数のTMR素子を同一チップに形成する場合、同一面に形成された磁性薄膜を部分的に除去して複数のTMR素子とする。この関係上、TMR素子71とTMR素子72を形成する位置が全く同じにはできない。したがって、TMR素子71とTMR素子72の位置には、差が生じる。
図7に記載されたTMR素子は、すべて電気的に直列接続されている。したがって、この位置には例えば図11のTMR素子71のみが形成される。このときTMR素子72は、チップ上のここから離れた位置(図7には図示されていない)に形成される。このため、TMR素子71とTMR素子72は、図7の配置を採用する限りは、TMR素子71自体の大きさよりも近くに配置することはできない。特に生体用の面内サイズの大きな素子では、この影響が無視できない。
図12は、TMR素子の配置の変形例を示す上面図である。好ましくは、例えば図12のように、入れ子状にTMR素子を配置した磁界検出チップを用いることで、TMR素子71とTMR素子72の2つの素子の配置位置の違いの影響を低減するように構成する。
図12では、直列接続されたTMR素子の列が2列、入れ子状に同一チップ上に形成されている。これらを、例えば図11における、TMR素子71、TMR素子72の位置に接続する。TMR素子71ないしTMR素子72の感じる磁界は、直列接続されているTMR素子の位置の平均で記述できる。このため、図12の配置を採用する場合には、TMR素子71,72の間の位置の差は素子の面内サイズ以下にすることができる。
図13は、検出回路の第2の変形例を示す回路図である。この検出回路は、直列接続されたTMR素子81,82と、直列接続された抵抗83,84と、差動増幅回路85と時間積分回路87と、A/Dコンバータ86とを含む。検出回路は、図13に示すように、磁気センサの出力を時間平均した値との差分を出力するように構成しても良い。この構成では、差動増幅回路85の出力を時間積分回路87で積分した出力に応じて、抵抗84に電流が流れる。抵抗84の電流量が増加し、抵抗83と抵抗84の接続ノードの電位が上昇する。このため、抵抗83と抵抗84の接続ノードの電位と、TMR素子81とTMR素子82の接続ノードの電位との差が減少する。このようにして、抵抗83と抵抗84の接続ノードの電位が、時間平均したTMR素子81とTMR素子82の中間電位の時間平均値に近づく。
このように、静磁界が等しく生体磁気が異なる位置に配置した2か所に配置したTMR素子と、静磁界の影響をキャンセルする回路とを備えることで、高感度に生体磁気を検出することが可能である。
なお、図11に示すようなホイートストンブリッジや、図13のような時間平均を取得してブリッジの片側の入力とする回路は、「静磁界の影響をキャンセルする回路」に相当する。
TMR素子の飽和がなく、磁界とTMR素子特性がほぼ比例する場合には、差動増幅器を利用すれば、入力として図11に示すようなホイートストンブリッジであっても、図13のような時間平均を取得する回路であっても、静磁界の影響をキャンセルすることが可能である。
[実施の形態2]
実施の形態1では、1つの生体情報検出センサを構造体内部に配置する例を説明したが、実施の形態2では、複数の生体情報検出センサを使用することによって、さらに細かい生体情報を得る。
図14は、実施の形態2に係る生体情報検出センサを内蔵したシートを示す斜視図である。図14に示される生体情報検出装置120は、シート122と、複数の生体情報検出センサ131〜135とを含む。生体情報検出センサ131〜135の各々は、図6で示したように支持板上に配置された磁界検出チップ31,32を含む。図6と同様に、静磁界の大きさがほぼ等しくかつ生体磁界の大きさが異なる2か所に、特性の揃った磁界検出チップ31,32を配置し、2か所の磁界の差を増幅するように検出回路を構成することで、静磁界の影響をキャンセルすることができる。
図15は、複数の生体情報検出センサの信号から所望の信号を選択する解析例を示すグラフである。図15には、図14に示すシートの複数の生体情報検出センサ131〜135からの出力の経過時間変化が示される。生体内の神経の情報伝達の速度は、電気や磁気の伝達速度に比べると十分に遅い。さらに、情報伝達に関わる神経の種類によって、伝達速度が異なる。このため、生体情報検出装置120に複数の生体情報検出センサ131〜135を配置し、複数の生体情報検出センサ131〜135から得られる磁気信号を互いに比較する。
検出対象の信号か否かを見分ける方法は、種々考えられるが、例えば各生体情報検出センサで検出された信号のピークを検出し、各信号間でピークのインターバルを演算することによって得られる伝達速度を得る方法を用いることができる。
各生体情報検出センサからの出力を微分し、その値が0になるところをピーク位置とする。各生体情報検出センサ間でピーク位置の時間的な差を比較し、時間的な差が神経の伝達速度に相当する値となっている場合には、検出対象信号と判断し、ずれている場合には検出対象でない信号と判断する。
これらの判定に用いる演算はアナログ的に実現することもできるが、コンピュータのプログラムで実現する方法が最も理解しやすい。
例えば、すべてのユニットの出力を定期的に順番に取得するデータ取得ループを回す。第1番目の生体情報検出センサ131で直前出力値との差が正から負になった時をピーク位置と判断してフラグをたてる。生体情報検出センサ131の検出波形がピーク位置に達したフラグをたててから、第2番目の生体情報検出センサ132のフラグがたつまで、データ取得ループが回った回数をカウントする。このカウント値が、予め定めた予測値とずれていなければ生体情報検出センサ132と生体情報検出センサ133の間の時間を計測するプロセスに進む。カウント値が、予測値とずれていれば、生体情報検出センサ131のフラグをリセットし、もとのデータ取得ループの処理に戻る。以上のように生体情報検出センサ131と生体情報検出センサ132との間で行なった処理を、生体情報検出センサ132−133間、133−134間、134−135間についても行ない、これらについてすべてカウント値が予測値と一致していた場合に、検出された信号を検出対象信号と判定する。
このようにして神経信号の伝達速度を検出することができる。複数の生体情報検出センサが検出した磁気信号のピーク位置の生体情報検出センサ間の差異Δt1が、あらかじめ設定した伝達速度と一致していた場合に所望の信号とし、図15の生体情報検出センサ間の差異Δt12のように設定した伝達速度とのずれが大きい場合にはノイズとして処理する。このようにすれば、検出対象でない信号を取り除くことができる。実施の形態2に係る生体情報検出装置によれば、例えば、手足を動かすための信号と、心臓を動かす信号を区別することができる。
[実施の形態3]
実施の形態1,2のような磁気センサつきシートでは、複数の磁界検出チップ31,32を離間して配置するので、基準電圧の補正を行なっている。
この補正は、TMR素子の抵抗や、TMR素子と他の回路部品をつなぐための配線の抵抗などのばらつきが無視できないことに起因する誤差の補正である。例えば図10の回路において磁界検出チップ31、磁界検出チップ32の特性が一致しないので、抵抗61と可変抵抗62の抵抗は理想的なVcc/2にはならない。図10においては、可変抵抗62の抵抗値を、磁界検出チップ31、磁界検出チップ32の抵抗差に応じた量だけ抵抗61の抵抗値とずらすことで補正できる。また、図13の回路でも時間積分回路87によって補正が可能である。図13の回路では、差動増幅回路85の出力の時間平均が0になるように抵抗84に電流を流して抵抗83と抵抗84の間の接続ノードの電位を変化させる。多少寄生抵抗の影響があったとしても、TMR素子81,82にかかる磁界が時間積分回路87の積分時間に対して十分長い間一定であれば、ブリッジの電位差が0になるように時間積分回路の出力が設定されるので、寄生抵抗の影響はキャンセルされる。
実施の形態3では、他の補正について説明する。この補正は、離間して設けられた2つの磁界検出チップ間で感度が異なると、ある静磁界でセンサ出力の原点を正しく調整したとしても、静磁界が変化すると、センサ出力の原点がずれてしまうという課題に対応するための補正である。この課題を、図16、図17で説明する。
図16は、生体情報検出センサを構成する磁界検出チップの感度ばらつきの影響を説明するためのグラフである。図16には、磁界検出チップ181と磁界検出チップ182で、ある静磁界の値において、磁界検出チップ181と磁界検出チップ182の抵抗に生じる差が、グラフG1とG2の傾きの差で示されている。磁界検出チップ181と磁界検出チップ182は、たとえば図10の構成では、磁界検出チップ31と磁界検出チップ32にそれぞれ対応するチップである。
静磁界が一定であれば、抵抗差に応じたオフセットを回路的にキャンセルすることで補正が可能である。しかし、生体磁界の検出においては、静磁界には時間変動があり、かつ静磁界の変化幅は生体磁界の大きさよりも大きい。このため、静磁界が変動すると、磁界検出チップ181と磁界検出チップ182の抵抗の差も変動するので、生体磁界が一定でも磁気センサの出力が変動する。
このため、複数の磁界検出チップ上におかれたTMR素子について、逐次感度を調節して厳密に一致させる機構を備えることが重要である。
このような感度のずれは、例えば、2つの磁界検出チップの取り付け方向に少しずれが生じた場合、静磁界の方向に対する固定層の磁化の方向が2つの磁界検出チップで異なることによって生じる。また、装置が設置された場所によっては2つのセンサ間で温度に差が生じることによって、TMR素子の温度特性に関わる感度差が生じる。また、室内に磁性体が持ち込まれた場合や磁性体の位置が変化した場合、磁性体によって静磁界の分布が変わることによっても、感度差が生じる。
図17は、TMR素子の感度補正を行うための回路図である。図17の回路図は、二つの磁界検出チップ31,32の感度の差を補正するために、図10の回路構成に加えて、プリアンプ64A,64Bを含む。プリアンプ64A,64Bのゲインを調整することによって、生体磁気を印加しないときの出力が基準電圧となるようにゲインを調整する。しかし、この回路構成では、センサ間の温度差などの時間変化する要因に応じて生じるTMR素子の感度変化に対応することは困難である。
そこで、実施の形態3の生体情報検出装置では、補正用コイルや環状電流路を設けてバイアス磁界を印加することによって補正を行なう。
図18は、補正用コイルを組み込んだシートの斜視図である。図19は、環状電流路を備えた生体情報検出センサの上面図である。図18の斜視図に示すように、実施の形態3の生体情報検出装置170は、シート172と、シート172の背面に設けられた補正用コイル190と、生体情報検出センサ175とを含む。図19に示すように、生体情報検出センサ175は、支持板183と、磁界検出チップ181,182と、信号処理回路184,185と、差動増幅器186と、アンプ187と、環状電流路188とを含む。支持板183と、磁界検出チップ181,182と、差動増幅器186については、実施の形態1の構成に相当する構成である。信号処理回路184,185は、低域通過フィルタなどを含み高周波ノイズを除去する信号処理を行なう。
生体情報検出センサ175は、支持板183の上に、電流による磁界を磁界検出チップ182に印加するための環状電流路188とアンプ187とを設けている点が、実施の形態1の生体情報検出センサ24と異なる。アンプ187の出力電流値は、事前のキャリブレーションによって決定される。
TMR素子の固定層の磁化の向きと平行方向に磁界を印加することで、TMR素子の感度が減少することが知られている。
そこで、図19に示すように、生体情報検出装置170に搭載される生体情報検出センサ175は、支持板183の第1の面(上面)または第1の面に平行な支持板の第2の面(裏面)に配置された環状電流路188をさらに備える。磁界検出チップ181に比べて磁界検出チップ182の感度が高い場合、環状電流路188に所定の電流を流して磁界検出チップ182のTMR素子の感度を減少させ、磁界検出チップ181と磁界検出チップ182のTMR素子の感度を揃えることで、センサの感度ずれに起因したオフセットのドリフトの差を小さくすることができる。
環状電流路188は、支持板183の片側の面に形成されていてもよい。また、支持板183の両面に形成された2つの環状電流路が直列に接続されており、一方の面からみたときの電流の向きが正反対になっていてもよい。例えば、上面の環状電流路は右巻き、裏面の環状電流路は左巻とする。この場合、磁界検出チップ182は上面と裏面の環状電流路からの距離が異なる。したがって、上面の環状電流路から発生する磁界と、裏面の環状電流路から発生する逆向きの磁界の大きさが異なる。このため磁界検出チップ182には、距離の割合で異なる差磁界が印加される。一方、外部から大きい磁界が印加されても、一般的に外部からの磁界発生源は生体磁界に比べて発生源が遠方にあるため、上面の環状電流路と下面の環状電流路に誘起する電流はほぼ等しい。したがって、支持板183の両面に環状電流路を設けた場合には、環状電流路がノイズ発生源とならない効果がある。
上記の回路に遠方から磁界が印加されると、表面側の環状電流路と裏面側の環状電流路に鎖交する磁界はほとんど同じなので、2つの環状電流路に生じる起電力が互いに打ち消し合い、電磁誘導による電流が流れないと考えられる。一方、ごく近くから磁界が印加されると、表面側の環状電流路と裏面側の環状電流路に鎖交する磁界に差が生じるので、それぞれの環状電流路に誘起される電圧に差が生じて、電磁誘導による電流が流れる。
ここで、「遠方」、「ごく近く」の違いは、表面側の環状電流路と裏面側の環状電流路の間の距離(すなわち支持板の厚さ)とくらべたときの、磁界発生源からの距離に依存する。たとえば、地磁気や他の車からの磁界は、「遠方」から印加される磁界に相当し、生体からの磁界が「ごく近く」から印加される磁界に相当する。
図20は、生体情報検出センサを構成するTMR素子の感度ばらつきの補正後の特性を説明するためのグラフである。環状電流路に適切な電流を流すことによって、図16の磁界検出チップ182の特性が変化し、図20ではグラフG2はグラフG1とほぼ特性が揃っている。
図21は、補正用コイルと環状電流路を使用して行なう補正処理の内容を説明するためのフローチャートである。図12を参照して、生体情報検出装置の補正方法は、補正用コイル190によって磁界検出チップ181,182に均一な静磁界を印加するステップS2と、磁界検出チップ181,182の出力を取得するステップS3と、ステップS3において取得した出力に応じて環状電流路188に流す電流を制御するステップS4と、環状電流路188に流す電流量を記憶するステップS6とを備える。
図21の処理のポイントは、補正用コイルで静磁界を印加する点である。すなわち、零磁界の出力が2つの磁界検出チップで等しくなり、かつ補正用コイルで外部磁界Hexを印加した場合の2つの磁界検出チップの出力が等しくなるように、環状電流路に電流を流して感度を調整する。環状電流路に流した電流とセンサの感度の関係が既知であれば、1回のステップで補正できるはずであるが、実際にはセンサの感度が未知なので環状電流路に流した電流とセンサの感度の関係も未知となり、複数ステップで感度を合わせていくようにしている。
以下、各ステップについてより詳細に説明を行なう。生体情報検出装置170は、例えばマイクロコンピュータのようなコントローラに接続されている。ステップS1において、コントローラは、補正用コイル190に電流を流さない状態で生体情報検出センサ175の出力を取得し、記憶する。
ステップS2では、コントローラは、補正用コイル190に所望の電流を流して生体情報検出センサ175上の2つの磁界検出チップに対して均一な磁界を発生する。なお、均一な磁界とは、大きさが等しいことが好ましいが、たとえば、補正用コイル190は、磁界検出チップ181,182の出力に同じ向きの変化を与える磁界を磁界検出チップ181,182に印加するように構成されるものであっても良い。
このとき、補正用コイル190が発生する磁界は、各チップのTMR素子の飽和磁界よりも低くなければならない。コントローラは、補正用コイル190に流れる電流が安定するまで待ってからステップS3に処理を進める。
ステップS3では、コントローラは、生体情報検出センサ175の2つの磁界検出チップ181,182の出力差を取得し、記憶する。このとき、磁界検出チップ182のTMR素子の感度が磁界検出チップ181の感度よりも高いと、ステップS1とステップS2で出力差が異なる。
ステップS4では、ステップS1とステップS2で得られた出力差の差分に応じた電流を環状電流路に流す。コントローラは、環状電流路188に流れる電流が安定するまで待ってからステップS5に処理を進める。環状電流路188に電流を流すと、磁界検出チップ181よりも磁界検出チップ182に強い磁界が印加される。すなわち、環状電流路188は、磁界検出チップ181よりも磁界検出チップ182に不均一な磁界を発生させるように構成される。
そしてステップS5において、補正用コイル190に電流を流して静磁界を印加している時の2つの磁界検出チップの出力差が、ステップS1における補正用コイル190の電流が0の場合の出力差(オフセット)と等しいか否かを判断する。コントローラは、ステップS1で得た値(オフセット)とステップS3で得た値(静磁界印加時の出力差)とが異なる場合には(S5でNO)、ステップS4に処理を戻す。上記の値が等しい場合には(S5でYES)、コントローラは、ステップS6に処理を進め、環状電流路188に流す電流値を記憶する処理を行なう。その後ステップS7において、コントローラは、補正用コイル190の電流を元に戻し、生体情報検出センサ175の補正を完了する。
以降、生体磁気を検出する際には、ステップS6において記憶された電流値の電流を環状電流路188に流しつつ測定を行なう。
以上のように、補正用コイルと環状電流路を備えることにより、実施の形態3の生体情報検出装置は、生体情報検出センサに配置した2つの磁界検出チップに特性のバラツキが生じた場合にも、特性を補正することが可能である。
[種々の変形例]
図22は、生体情報検出センサを内蔵したシートの変形例を示す斜視図である。図22を参照して、この変形例の生体情報検出装置220は、シート222と、補正用コイル240と複数の生体情報検出センサ231〜236とを含む。図4、図14、図18では、位置PA、位置PBを、シートの背もたれ面に平行な方向(X方向)に離間させて2つの磁界検出チップを配置した例を示したが、図22に示すように、シートの背もたれ面に交差する方向(Y方向)に離間して2つの磁界検出チップが配置される向きに生体情報検出センサ231〜236を配置し、X方向の磁界差を検出するようにしてもよい。
また、実施の形態1〜3では、構造物がシートである場合を示したが、生体が密着する面を有する構造物がベッドであっても良い。図23は、生体情報検出センサを内蔵したベッドの一例を示す斜視図である。図24は、図23に示した生体情報検出センサを内蔵したベッドの素子配置を示す断面図である。生体情報検出装置270は、ベッド272と、各々がX方向に2つの磁界検出チップが離間するように配置された複数の生体情報検出センサ281〜286とを含む。図22、図24に示すように、生体情報検出センサをベッドに内蔵し、ベッドに横たわる人体が発する生体磁気を検出してもよい。図6の支持板50は、2つの磁界検出チップが離間する方向(図6のX方向)がベッドの生体密着面に平行な方向(図23のX方向)に一致するように配置される。
図25は、生体情報検出センサを内蔵したベッドの素子配置の変形例を示す断面図である。生体情報検出装置270Aは、ベッド272と、各々がY方向に2つの磁界検出チップが離間するように配置された複数の生体情報検出センサ281A〜286Aとを含む。図23、図24に示すように位置PA、位置PBについて、ベッドの生体密着面に平行な方向(X方向)に離間してもよいし、図25のようにベッドの生体密着面に交差する方向(Y方向)に離間してもよい。
図26は、生体情報検出センサの変形例を示す図である。図26を参照して、生体情報検出センサ175Aは、支持板183と、磁界検出チップ181,182と、差動増幅器186と、アンプ187,187Aと、環状電流路188,188Aとを含む。支持板183と、磁界検出チップ181,182と、差動増幅器186については、実施の形態1の構成に相当する構成である。
生体情報検出センサ175Aは、支持板183の上に電流による磁界を磁界検出チップ182に印加するための環状電流路188Aとアンプ187Aとを設けている点が実施の形態3の生体情報検出センサ175と異なる。
実施の形態3の図19では、説明のために磁界検出チップ182のTMR素子の方が高感度な場合について説明したが、実際には磁界検出チップ181の方が高感度となる場合もある。そこで、生体情報検出センサ175Aは、図26に示すように2つの環状電流路188および188Aを備えることによって、どちらの磁界検出チップの感度が高い場合でも対応できる。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。