JP6683642B2 - ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定方法、判定試薬及び判定キットに関する。
肉用牛の育種改良において、食味や香りに影響を与える肉質形質は重要な改良形質となっている。しかしながら、肉質形質は、生体では測定ができず、屠畜し熟成後に理化学分析を行うことで得られる形質であるため、容易に測定することができない。
イノシン酸(inosine 5'-monophosphate)は、グルタミン酸やアスパラギン酸との相乗効果により強いうま味を示すことからうま味成分として考えられており、味や香りに貢献する重要な肉質形質として知られている。また、黒毛和種集団において、屠畜後の肉中グルタミン酸含量やアスパラギン酸含量の遺伝的寄与は低いが、イノシン酸含量の遺伝的寄与は比較的高いことを本願発明者らが報告している(非特許文献1)。しかしながら、屠畜後の肉中イノシン酸含量の差を屠畜前のウシ生体で予測することができなかったため、枝肉中のイノシン酸含量が高いことが予測される個体を選抜することは困難であった。
Sakuma et al., Estimates of genetic parameters for chemical traits of meat quality in Japanese Black cattle. Animal Science Journal. (2017) 88: 203-212.
ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量に差をもたらす遺伝子の変異を検出する遺伝子診断法を確立すれば、肉中イノシン酸含量の高いウシ個体を生体の状態で迅速に検出できる。本発明は、肉中イノシン酸含量の高いウシ個体の迅速な検出に貢献できる新たな指標を提供することを目的とする。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量と密接に関連する遺伝子として新規にNT5E(ecto-5'-nucleotidase)遺伝子(Gene ID: 281363)を同定することに成功し、本願発明を完成した。
すなわち、本発明は、ウシ個体から分離された核酸試料について、NT5E遺伝子領域における変異の有無を検出することを含む、屠畜後の肉中イノシン酸含量を判定する方法であって、下記の少なくともいずれか1つがヘテロ又はホモで検出された場合、屠畜後の肉中イノシン酸含量が高いと判定される、方法を提供する。
(1) 配列番号1における1028番目(配列番号4では149番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
(2) 配列番号1における2773番目(配列番号7では158番目)の塩基がチミンからアデニンになる変異
(3) 配列番号1における2824番目(配列番号7では209番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
(4) 配列番号1における7793番目(配列番号10では82番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
(5) 配列番号1における7831番目(配列番号10では120番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
また、本発明は、ウシゲノム上のNT5E遺伝子領域内の少なくとも1つの変異部位を含む領域を増幅する少なくとも1組のプライマーセットを含む、屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定試薬であって、前記少なくとも1つの変異部位は、配列番号1における1028番目(配列番号4では149番目)の塩基、配列番号1における2773番目(配列番号7では158番目)の塩基、配列番号1における2824番目(配列番号7では209番目)の塩基、配列番号1における7793番目(配列番号10では82番目)の塩基、及び配列番号1における7831番目(配列番号10では120番目)の塩基から選択される少なくとも1つである、試薬を提供する。
さらに、本発明は、上記本発明の試薬を含む、屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定キットを提供する。
さらに、本発明は、ウシ個体から分離された核酸試料について、NT5E遺伝子領域における変異の有無を検出することを含む、屠畜後の肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量を判定する方法であって、下記の少なくともいずれか1つがヘテロ又はホモで検出された場合、屠畜後の肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量が低いと判定される、方法を提供する。
(1) 配列番号1における1028番目(配列番号4では149番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
(2) 配列番号1における2773番目(配列番号7では158番目)の塩基がチミンからアデニンになる変異
(3) 配列番号1における2824番目(配列番号7では209番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
(4) 配列番号1における7793番目(配列番号10では82番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
(5) 配列番号1における7831番目(配列番号10では120番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
本発明により、屠畜後の肉中イノシン酸含量の高いウシ個体を迅速に検出できる新たな方法が提供される。NT5E遺伝子又はこれにコードされるNT5Eタンパク質の機能の低下をもたらすNT5E遺伝子変異は、屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定指標となる。そのため、当該遺伝子変異を調べることで、肉用牛における肉質形質の遺伝的改良のための選抜を生体のままで迅速に進めることができる。
実施例で同定されたNT5E遺伝子の5つの一塩基置換変異について、Haploviewプログラムを用いてハプロタイプブロック構造を解析した結果である。 実施例で同定されたNT5E遺伝子の5つの変異部分のうち1つの一塩基置換変異が含まれる領域を示す図である。四角は、変異部分を検出するためのPCRプライマーNT5E-1F及びNT5E-1Rの該当する位置、矢印の向きはプライマーの5'から3'への方向を示す。下線太字は一塩基置換変異部分の位置を示す。 実施例で同定されたNT5E遺伝子の5つの変異部分のうち2つの一塩基置換変異が含まれる領域を示す図である。四角は、変異部分を検出するためのPCRプライマーNT5E-2F及びNT5E-2Rの該当する位置、矢印の向きはプライマーの5'から3'への方向を示す。下線太字は一塩基置換変異部分の位置を示す。 実施例で同定されたNT5E遺伝子の5つの変異部分のうち2つの一塩基置換変異が含まれる領域を示す図である。四角は、変異部分を検出するためのPCRプライマーNT5E-3F及びNT5E-3Rの該当する位置、矢印の向きはプライマーの5'から3'への方向を示す。下線太字は一塩基置換変異部分の位置を示す。 実施例で同定されたNT5E遺伝子の変異部位付近の塩基配列の波形データである。図2に示した領域のPCR増幅断片の塩基配列を決定すると、高肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では149番目の塩基がチミンであり、低肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では149番目の塩基にシトシンがみられる。 実施例で同定されたNT5E遺伝子の変異部位付近の塩基配列の波形データである。図3に示した領域のPCR増幅断片の塩基配列を決定すると、高肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では158番目の塩基がアデニンであり、低肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では158番目の塩基にチミンがみられる。 実施例で同定されたNT5E遺伝子の変異部位付近の塩基配列の波形データである。図3に示した領域のPCR増幅断片の塩基配列を決定すると、高肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では209番目の塩基がグアニンであり、低肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では209番目の塩基にアデニンがみられる。 実施例で同定されたNT5E遺伝子の変異部位付近の塩基配列の波形データである。図4に示した領域のPCR増幅断片の塩基配列を決定すると、高肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では82番目の塩基がチミンであり、低肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では82番目の塩基にシトシンがみられる。 実施例で同定されたNT5E遺伝子の変異部位付近の塩基配列の波形データである。図4に示した領域のPCR増幅断片の塩基配列を決定すると、高肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では120番目の塩基がグアニンであり、低肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAを鋳型とした増幅断片では120番目の塩基にアデニンがみられる。
本発明では、生体のウシ個体から分離された核酸試料を用いてNT5E遺伝子領域の変異を調べることにより、当該ウシ個体の屠畜後の肉中イノシン酸含量、すなわち当該ウシ個体に由来する枝肉中のイノシン酸含量を判定ないしは予測する。
本発明において、「遺伝子領域」とは、タンパク質をコードする領域と、イントロン領域と、プロモーター領域、3'-及び5'-UTR等の当該遺伝子の発現の制御に関与し得る領域とを含む、ゲノム上の連続した領域をいう。具体的には、「NT5E遺伝子領域」とは、配列番号1に示した配列を含むゲノム上の領域である。配列番号1に示す塩基配列は、ウシゲノム配列であるBtau4.6におけるアクセスナンバーNC_007307に基づいている。以下、本明細書において、NT5E遺伝子領域内の部位に言及する場合、基本的には配列番号1に示す塩基配列における位置で表すものとする。
NT5E(ecto-5'-nucleotidase)遺伝子は、細胞外にてイノシン酸からイノシンへと分解する酵素NT5E(ecto-5'-nucleotidase)をコードする遺伝子である。本発明におけるNT5E遺伝子領域の変異とは、ウシ個体において屠畜後の肉中イノシン酸分解能の低下をもたらす変異、言い換えると、NT5E遺伝子又はこれにコードされるNT5Eタンパク質の機能の低下をもたらす変異である。そのような変異には、ウシ体内でのNT5E遺伝子の発現量の低下、NT5Eタンパク質の蓄積量の低下、NT5Eタンパク質のイノシン酸分解酵素としての酵素活性の低下が包含される。
NT5E遺伝子領域に存在する任意の変異がNT5Eタンパク質の機能の低下をもたらすかどうかは、変異の位置から判断することができる。例えば、変異がNT5Eタンパク質をコードする領域に存在しアミノ酸置換を伴う一塩基置換変異の場合、その変異は、NT5Eタンパク質の構造に影響を与える変異であると推定することができる。また、NT5E遺伝子領域における変異によりNT5E遺伝子の発現が低下するかどうかについても、変異の位置から判断することができる。例えば、変異がプロモーター領域、3'-及び5'-UTR等の当該遺伝子の発現の制御に関与し得る領域に存在する一塩基置換変異の場合、その塩基は、遺伝子発現の制御に関与している変異であると推定することができる。
本発明におけるNT5E遺伝子領域の変異の具体例として、以下の5つの一塩基置換変異を挙げることができる。これら5つの一塩基置換は、後述する通り、非常に強い連鎖の関係にあることが確認されている。
(1) 配列番号1における1028番目(配列番号4では149番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
(2) 配列番号1における2773番目(配列番号7では158番目)の塩基がチミンからアデニンになる変異
(3) 配列番号1における2824番目(配列番号7では209番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
(4) 配列番号1における7793番目(配列番号10では82番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
(5) 配列番号1における7831番目(配列番号10では120番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
もっとも、本発明で指標とし得るNT5E遺伝子の変異はこれらに限定されず、ウシ個体において屠畜後の肉中イノシン酸分解能の低下(NT5E遺伝子又はこれにコードされるNT5Eタンパク質の機能の低下)をもたらす種々のNT5E遺伝子変異が包含される。
ウシ個体のゲノム上で、NT5E遺伝子の少なくとも一方のアリルに上記定義の通りの変異が少なくとも1つ検出された場合、その個体は屠畜後の肉中イノシン酸含量が高いと判定することができる。ある1つの変異に着目した場合、変異を有しない個体は肉中イノシン酸含量が低く、変異をヘテロで有する個体は肉中イノシン酸含量が中程度に高く、変異をホモで有する個体は肉中イノシン酸含量がより高いと判定することができる。複数の変異部位を調べた場合には、少なくともいずれか1箇所でホモ又はヘテロの変異が検出されれば、該個体は肉中イノシン酸含量が高いと判定してよい。
核酸試料は特に限定されず、ゲノムDNA試料、RNA試料(全RNA若しくはmRNA)、又はcDNA試料を用いることができる。ウシ個体から採取した血液等の試料より常法に従い核酸試料を調製すればよい。cDNA試料は、ウシ個体由来試料からRNAを分離し、これを鋳型とした逆転写反応により調製することができる。核酸試料としては、作業工程の簡便さから、ゲノムDNA試料を好ましく用いることができる。
核酸試料を用いて遺伝子領域上の変異を調べる具体的な方法としては、例えば、核酸試料をPCR等の核酸増幅反応に付し、増幅断片の塩基配列に基づいて変異の有無を調べる方法が挙げられる。変異により2つの遺伝子型配列との間で制限酵素の認識部位に相違が生じる場合には、増幅断片の制限酵素断片長多型を解析することにより(すなわち周知のPCR-RFLP法により)変異の有無を調べることができる。また、変異の有無を別々の蛍光物質を標識して蛍光検出器で変異検出する方法などによっても調べることができる。一般には、増幅断片の塩基配列を決定して変異の有無を調べる方法がより好ましい。
NT5E遺伝子領域の変異として、上記した(1)〜(5)の一塩基置換変異の有無を検出する場合であれば、当該変異部位を含むNT5E遺伝子領域の一部(50bp〜1000bp程度の領域を増幅すれば十分である)をゲノムDNA試料から核酸増幅法により増幅し、増幅断片の塩基配列を決定し、一塩基置換があるか否かを確認すればよい。そのような、NT5E遺伝子領域内の任意の変異部位を含む領域を増幅するためのプライマーセットは、ウシのNT5E遺伝子領域のゲノム配列情報(配列番号1など)に基づいて設計できる。
配列番号2に示す塩基配列のプライマーと配列番号3に示す塩基配列のプライマーとのセットは、配列番号1における1028番目の塩基を含むウシゲノム上の領域を増幅するプライマーセットの一例である。このプライマーセットを用いてPCRを行えば、NT5E遺伝子領域のうちで図2(配列番号4)に示した領域が増幅される。この増幅断片における149番目(配列番号1においては1028番目)の塩基を比較すると、一塩基置換がない場合はシトシンであり(低肉中イノシン酸含量型)、一塩基置換がある場合はチミンである(高肉中イノシン酸含量型)。
配列番号5に示す塩基配列のプライマーと配列番号6に示す塩基配列のプライマーとのセットは、配列番号1における2773番目及び2824番目の塩基を含むウシゲノム上の領域を増幅するプライマーセットの一例である。このプライマーセットを用いてPCRを行えば、NT5E遺伝子領域のうちで図3(配列番号7)に示した領域が増幅される。この増幅断片における158番目(配列番号1においては2773番目)の塩基を比較すると、一塩基置換がない場合はチミンであり(低肉中イノシン酸含量型)、一塩基置換がある場合はアデニンである(高肉中イノシン酸含量型)。また、この増幅断片における209番目(配列番号1においては2824番目)の塩基を比較すると、一塩基置換がない場合はアデニンであり(低肉中イノシン酸含量型)、一塩基置換がある場合はグアニンである(高肉中イノシン酸含量型)。
配列番号8に示す塩基配列のプライマーと配列番号9に示す塩基配列のプライマーとのセットは、配列番号1における7793番目及び7831番目の塩基を含むウシゲノム上の領域を増幅するプライマーセットの一例である。このプライマーセットを用いてPCRを行えば、NT5E遺伝子領域のうちで図4(配列番号10)に示した領域が増幅される。この増幅断片における82番目(配列番号1においては7793番目)の塩基を比較すると、一塩基置換がない場合はシトシンであり(低肉中イノシン酸含量型)、一塩基置換がある場合はチミンである(高肉中イノシン酸含量型)。また、この増幅断片における120番目(配列番号1においては7831番目)の塩基を比較すると、一塩基置換がない場合はアデニンであり(低肉中イノシン酸含量型)、一塩基置換がある場合はグアニンである(高肉中イノシン酸含量型)。
従って、これらの一塩基置換変異の有無は、簡便には、配列番号1における1028番目(配列番号4においては149番目)、2773番目(配列番号7においては158番目)、2824番目(配列番号7においては209番目)、7793番目(配列番号10においては82番目)、あるいは7831番目(配列番号10においては120番目)が何であるかを確認することによって検出することができる。
上記に例示した5つの一塩基置換変異は高い連鎖の関係を示している。すなわち、配列番号1における1028番目がチミン、2773番目がアデニン、2824番目がグアニン、7793番目がチミン、及び7831番目がグアニンの5つのアリル(高肉中イノシン酸含量型アリル)は強い連鎖の関係にあり、また配列番号1における1028番目がシトシン、2773番目がチミン、2824番目がアデニン、7793番目がシトシン、及び7831番目がアデニンの5つのアリル(低肉中イノシン酸含量型アリル)についても同様に強い連鎖の関係にある。前者をハプロタイプQ、後者をハプロタイプqとすると、ウシ個体は多くの場合、ハプロタイプQ/Qのホモ接合か、ハプロタイプQとqのヘテロ接合か、ハプロタイプq/qのホモ接合のいずれかに分類できる。Q/Qホモ接合のウシ個体は肉中イノシン酸含量が多く、Q/qヘテロ接合のウシ個体は肉中イノシン酸含量が中程度であり、q/qホモ接合のウシ個体は肉中イノシン酸含量が少ないと判定することができる。本発明の方法により屠畜後の肉中イノシン酸含量が多いウシを選抜したい場合には、生体のウシ個体についてハプロタイプQを多く持つ個体を選抜して交配(人工授精も含む)させればよい。
もっとも、配列番号1における1028番目、2773番目、2824番目、7793番目、及び7831番目の5つの一塩基置換変異間の連鎖関係の程度は、対象となるウシ集団間で異なり得るため、NT5E遺伝子の一方のアリルで必ず高肉中イノシン酸含量型アリル又は低肉中イノシン酸型アリルが揃うとは限らない。従って、本発明では、ハプロタイプQを構成するアリルを少なくとも1つでも持つ場合、肉中イノシン酸含量が多いと判定してよい。すなわち、上記した(1)〜(5)の一塩基置換のうちの少なくともいずれか1つがヘテロ又はホモで検出された場合には、そのウシ個体は屠畜後の肉中イノシン酸含量が高いと判定してよい。
イノシン酸の分解産物としてイノシン及びヒポキサンチンが挙げられる。下記実施例で示したように、NT5E遺伝子変異の遺伝子型は、ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量だけでなく、ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量とも高い関連性を示す。すなわち、ハプロタイプq/qホモ接合のウシ個体は肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量が多く、ハプロタイプQ/qヘテロ接合のウシ個体は肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量がやや少なく、ハプロタイプQ/Qホモ接合のウシ個体は肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量がより少ないと判定することができる。よって、NT5E遺伝子領域の一塩基置換変異により、ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量だけでなく、肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量についてもその多寡を判定することができる。
NT5E遺伝子における上記定義の通りの変異は、屠畜後の肉中イノシン酸含量の指標となるので、ウシゲノム上のNT5E遺伝子領域内の少なくとも1つの変異部位を含む領域を増幅する少なくとも1組のプライマーセットは、屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定試薬として提供することができる。このプライマーセットは、上述した通り、屠畜後の肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量の判定試薬としても活用できる。なお、このプライマーセットは、変異を有しない配列のウシ由来の核酸試料を鋳型としたPCRに用いれば、当然ながら、変異部位に対応する部位を含む変異のない配列の増幅断片が得られる。
上記プライマーセットが対象とする少なくとも1つの変異部位の具体例としては、上記した5つの部位、すなわち、配列番号1における1028番目(配列番号4では149番目)の塩基、配列番号1における2773番目(配列番号7では158番目)の塩基、配列番号1における2824番目(配列番号7では209番目)の塩基、配列番号1における7793番目(配列番号10では82番目)の塩基、及び配列番号1における7831番目(配列番号10では120番目)の塩基から選択される少なくとも1つを挙げることができる。
1028番目の塩基を増幅するためのプライマーセットは、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第1027番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするフォワード側プライマーと、第1029番〜第9000番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするリバース側プライマーとのセットであり得る。下記実施例で用いられている、配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号3に示す塩基配列からなるプライマーとのセットは、このようなプライマーセットの一例である。
2773番目の塩基を増幅するためのプライマーセットは、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第2772番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするフォワード側プライマーと、第2774番〜第9000番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするリバース側プライマーとのセットであり得る。
2824番目の塩基を増幅するためのプライマーセットは、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第2823番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするフォワード側プライマーと、第2825番〜第9000番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするリバース側プライマーとのセットであり得る。
7793番目の塩基を増幅するためのプライマーセットは、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第7792番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするフォワード側プライマーと、第7794番〜第9000番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするリバース側プライマーとのセットであり得る。
7831番目の塩基を増幅するためのプライマーセットは、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第7830番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするフォワード側プライマーと、第7832番〜第9000番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするリバース側プライマーとのセットであり得る。
なお、2773番目の塩基と2824番目の塩基は近接しているため、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第2772番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするフォワード側プライマーと、第2825番〜第9000番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするリバース側プライマーとのセットを用いてこれら2つの部位を含む領域を増幅してもよい。下記実施例で用いられている、配列番号5に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとのセットは、このようなプライマーセットの一例である。
同様に、7793番目の塩基と7831番目の塩基も近接しているため、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第7792番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするフォワード側プライマーと、第7832番〜第9000番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするリバース側プライマーとのセットを用いてこれら2つの部位を含む領域を増幅してもよい。下記実施例で用いられている、配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号9に示す塩基配列からなるプライマーとのセットは、このようなプライマーセットの一例である。
なお、「フォワード側プライマー」とは、配列表に実際に示されている塩基配列の相補鎖にハイブリダイズするプライマーであり、「リバース側プライマー」とは、配列表に実際に示されている塩基配列にハイブリダイズするプライマーである。
「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイズの条件下において、対象とする領域にのみハイブリダイズし、その他の領域には実質的にハイブリダイズしないという意味である。「通常のハイブリダイズの条件下」とは、通常のPCRのアニーリングやプローブによる検出に用いられる条件下のことをいい、例えば、Taqポリメラーゼを用いたPCRの場合には、50mM KCl、10mM Tris-HCl(pH 8.3〜9.0)、1.5mM MgCl2といった一般的な緩衝液を用いて、54℃〜60℃程度の適当なアニーリング温度で反応を行なうことをいう。ただし、適当なアニーリング温度及びハイブリダイゼーション温度は、上記例示に限定されず、プライマー又はプローブのTm値及び実験者の経験則に基づいて定められ、当業者であれば容易に定めることができる。「実質的にハイブリダイズしない」とは、全くハイブリダイズしないか、するとしても対象とする領域にハイブリダイズする量よりも大幅に少なく、相対的に無視できる程度の微量しかハイブリダイズしないという意味である。
そのような条件下で特異的にハイブリダイズするプライマーとしては、ハイブリダイズする部分領域と完全に相補的な塩基配列を有するプライマーが好ましいが、通常、10%以下の塩基が置換した配列を有するプライマーを用いても、対象とする部分領域にハイブリダイズして増幅が起きる場合がある(ただし、「10%以下の塩基が置換した塩基配列」は、もとの塩基配列のうち3'末端の塩基以外の塩基が置換されていることが好ましい)。また、この分野で周知の通り、プライマーの5'末端側に例えば制限酵素認識配列等の任意の配列を付加しても、対象とする部分領域に特異的にハイブリダイズし、目的の領域を増幅することができる。
従って、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第1027番塩基、第1番〜第2772番塩基、第1番〜第2823番塩基、第1番〜第7792番塩基、及び第1番〜第7830番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするフォワード側プライマーには、対象領域内の連続する15塩基以上、好ましくは18塩基以上の塩基配列からなるプライマー、及び該塩基配列のうち10%以下の塩基が置換した塩基配列からなるプライマー、並びにこれらのプライマーの5'末端側に付加配列を有するプライマーが包含される。すなわち、該フォワード側プライマーは、配列番号1に示す塩基配列中の第1番〜第1027番塩基、第1番〜第2772番塩基、第1番〜第2823番塩基、第1番〜第7792番塩基、及び第1番〜第7830番塩基の領域内の連続する15塩基以上の塩基配列又は該塩基配列のうち10%以下の塩基が置換した塩基配列をその3'末端側に含むプライマーであり得る。
同様に、配列番号1に示す塩基配列中の第1029番〜第9000番塩基、第2774番〜第9000番塩基、第2825番〜第9000番塩基、第7794番〜第9000番塩基、及び第7832番〜第9000番塩基の領域内の部分領域に特異的にハイブリダイズするリバース側プライマーには、対象領域内の連続する15塩基以上、好ましくは18塩基以上の塩基配列と相補的な配列からなるプライマー、及び該相補的な配列のうち10%以下の塩基が置換した塩基配列からなるプライマー、ならびにこれらのプライマーの5'末端側に付加配列を有するプライマーが包含される。すなわち、該リバース側プライマーは、配列番号1に示す塩基配列中の第1029番〜第9000番塩基、第2774番〜第9000番塩基、第2825番〜第9000番塩基、第7794番〜第9000番塩基、及び第7832番〜第9000番塩基の領域内の連続する15塩基以上からなる塩基配列と相補的な配列又は該相補的な配列のうち10%以下の塩基が置換した塩基配列をその3'末端側に含むプライマーであり得る。
下記実施例で用いられている、配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号3に示す塩基配列からなるプライマーとのセット、配列番号5に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとのセット、及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号9に示す塩基配列からなるプライマーとのセットは、実施例で同定されたNT5E遺伝子領域における一塩基置換変異を検出するための好ましいプライマーセットの一例であるが、ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定試薬に使用可能なNT5E遺伝子領域を増幅するプライマーセットはこれらに限定されない。
ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定試薬は、上記したプライマーセットの少なくともいずれか1つのみからなるものであってもよいし、プライマーを緩衝液等に溶解させた形態であってもよく、また、乾燥させたプライマーと緩衝液等とをセットにした形態であってもよい。さらに、該試薬は、プライマーの分解防止等に有用な各種添加剤等を含んでいてもよい。
上記したウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定試薬は、他の試薬類と適宜に組み合わせて、ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定キットとして提供することができる。PCR等の核酸増幅法に必要なプライマー以外の他の試薬類は周知である。例えば、該判定キットには、上記したウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定試薬のほか、核酸増幅反応の反応液を調製するための緩衝液や、耐熱性ポリメラーゼ等がさらに含まれ得る。
以下、本発明についての実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。以下の記載では、特に説明がない場合には、J. Sambrook & D. W. Russell (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001) に記載の方法、あるいはそれを適宜修飾又は改変した方法により行なった。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールの指示に従って行なった。
1.ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量に関連する遺伝子の同定
(1) ウシNT5E遺伝子の塩基配列の決定
まず、肉中イノシン酸含量に関連するウシ染色体領域を同定すべく、屠畜後の牛肉中イノシン酸の測定値が得られている黒毛和種集団(571頭)について、全常染色体をカバーする40,657個のSNPを用いて解析を行なった結果、第9番染色体上に肉中イノシン酸含量と強い関連を示す領域(肉中イノシン酸含量制御領域)が同定された。この肉中イノシン酸含量制御領域内に存在する遺伝子について、タンパク質コード領域、プロモーター領域、各遺伝子の発現制御に関与し得る3'-及び5'-UTRの領域の塩基配列を解読し、肉中イノシン酸含量と変異との関連性を調査したところ、NT5E遺伝子領域中に特に肉中イノシン酸含量の差を生じる特異的な一塩基置換変異を5カ所見出した(表1)。これら5カ所の一塩基置換変異は、配列番号1における1028番目、2773番目、2824番目、7793番目、及び7831番目の塩基であり、NCBIのdbSNPに登録されている一塩基置換変異であった。
屠畜後の牛肉中イノシン酸含量の測定は、佐久間弘典ら、Estimates of genetic parameters for chemical traits of meat quality in Japanese Black cattle. Animal Science Journal. (2017) 88: 203-212.の手法に従い、以下の通りに実施した。
山形県内で飼養された黒毛和種について、屠畜後16〜19日に冷凍した第7胸椎部位のロース肉を山形県内の市場にて購入した。このロース肉のうち胸最長筋について、筋線維方向と垂直に約15g切り出した試料をミンチし、そのうち0.10gをイノシン酸測定試料として用いた。試料に超純水、N-ヘキサン、内部標準としてシチジン溶液を混合し、ホモジナイズ後、上清のヘキサン層を除去し、下層を得た。その後アセトニトリルでタンパク質を除去後、上清を0.45μmマイクロフィルターで漉し、濾過液20μlに180μlの超純水を混合した試料を高速液体クロマトグラフィーで測定し、肉中イノシン酸含量を求めた。
肉中イノシン酸含量と一塩基置換変異との関連性の調査は、以下の通りに実施した。まず、環境効果である性、屠畜年、屠畜月、熟成日、飼養場、及び屠畜月齢を補正した補正済み表型値を用いて、40,657個のSNPを用いて構成したゲノム関係行列を変量効果として混合モデルによるWald検定を実施した。
検出された5カ所の一塩基置換変異のうち、配列番号1における1028番目、2773番目、及び2824番目の変異は、NT5E遺伝子のタンパク質をコードする領域に位置付けられており、すべてアミノ酸置換を伴う一塩基置換変異であった。また、配列番号1における7793番目及び7831番目の変異は、NT5E遺伝子の3'-UTRの当該遺伝子の発現の制御に関与し得る領域に位置付けられていた。これらのことから、配列番号1における1028番目、2773番目、2824番目、7793番目、及び7831番目の一塩基置換変異は、屠畜後の肉中イノシン酸含量の差を生じる変異であることが示唆された。
(2) ウシNT5E遺伝子領域内の一塩基置換変異の連鎖の程度
検出された5カ所の一塩基置換変異について、一塩基置換変異間の連鎖の程度を示す連鎖不平衡係数r2値(%)(値は0〜100の範囲であり、100に近いほど連鎖の程度が高い)を求めたところ、一塩基置換変異間のr2値の範囲は80〜100と高い連鎖の関係を示していた(図1)。配列番号1における1028番目ではチミン、2773番目ではアデニン、2824番目ではグアニン、7793番目ではチミン、及び7831番目ではグアニンの5つのアリルは非常に高い連鎖の関係にあった。また、配列番号1における1028番目ではシトシン、2773番目ではチミン、2824番目ではアデニン、7793番目ではシトシン、及び7831番目ではアデニンの5つのアリルについても同様に非常に高い連鎖の関係にあった。
図1は、Haploviewプログラム(Barrett et al.. Haploview: analysis and visualization of LD and haplotype maps. Bioinformatics. (2005) 21: 263-265)により作成した。
(3) NT5E遺伝子変異が牛肉中イノシン酸含量、イノシン含量、及びヒポキサンチン含量に及ぼす影響
NT5E遺伝子変異の遺伝子型と牛肉中イノシン酸含量との関係を調べるため、上記で示した黒毛和種571頭の肉中イノシン酸含量と、高い連鎖の関係にある5カ所の一塩基置換のうちの第1028番の一塩基置換変異の遺伝子型との関係を比較した。その結果、表2に示す通り、当該第1028番塩基がホモでチミンであるウシ個体が最も肉中イノシン酸含量が高く、ホモでシトシンのウシ個体が最も肉中イノシン酸含量が低く、チミン/シトシンヘテロ型のウシ個体では肉中イノシン酸含量が中等度に高いことがわかった。すなわち、配列番号1における第1028番の一塩基置換変異のアリルであるチミンをゲノム上に多く有するウシ個体はシトシンを多く有するウシ個体に比べて屠畜後の肉中イノシン酸含量が有意に高いことがわかった。
同ウシ個体について、NT5E遺伝子変異の遺伝子型と牛肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量との関係についても同様に調べた。牛肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量は、牛肉中イノシン酸含量と同様の方法で測定した。その結果、配列番号1における第1028番の一塩基置換変異のアリルであるチミンを多く有するウシ個体はシトシンを多く有するウシ個体に比べて屠畜後の肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量が有意に低かった(表2)。このことから、NT5E遺伝子変異の遺伝子型は、牛肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量とも有意な関連性を示すことがわかった。
2.ウシのゲノムDNA上のNT5E遺伝子の変異の有無の確認
ウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量に関連する変異部位を含むDNA断片を増幅するためのプライマーNT5E-1F、NT5E-1R、NT5E-2F、NT5E-2R、NT5E-3F、及びNT5E-3Rを合成した。配列表の配列番号2、3、5、6、8、及び9にそれぞれプライマーNT5E-1F、NT5E-1R、NT5E-2F、NT5E-2R、NT5E-3F、及びNT5E-3Rの塩基配列を示す。
ウシ個体の肉片からフェノール・クロロホルム法によりゲノムDNAを抽出した。第1028番チミンをホモに持ち肉中イノシン酸含量が高いウシ個体群に由来するゲノムDNAを高肉中イノシン酸含量型のゲノムDNA、第1028番シトシンをホモに持ち肉中イノシン酸含量が低いウシ個体群に由来するゲノムDNAを低肉中イノシン酸含量型のゲノムDNAとした。これらのゲノムDNAを鋳型とし、プライマーNT5E-1F及びNT5E-1R、NT5E-2F及びNT5E-2R、並びにNT5E-3F及びNT5E-3Rを用いたPCR(98℃で10秒、55℃で30秒、68℃で40秒間からなる工程を1サイクルとした30サイクル反応)を行い、3130蛍光DNAシークエンサー(アプライドバイオシステム社製)を用いてPCR生成物の塩基配列を決定し、高肉中イノシン酸含量型DNAと低肉中イノシン酸含量型DNAとの間で各塩基置換部位の塩基を比較した。
図2に示した配列番号1における880〜1179番塩基の領域(配列番号4)のPCR増幅断片の配列を比較すると、上記で確認された通り、高肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片では149番目(配列番号1における1028番目)の塩基がチミン(T)であったが、低肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片ではシトシン(C)であった(図5)。
図3に示した配列番号1における2616〜2903番塩基の領域(配列番号7)のPCR増幅断片の配列を比較すると、高肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片では158番目(配列番号1における2773番目)の塩基がアデニン(A)であったが、低肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片ではチミン(T)であった(図6)。また、209番目(配列番号1における2824番目)の塩基は、高肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片ではグアニン(G)であったが、低肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片ではアデニン(A)であった(図7)。連鎖解析結果の通り、1028番チミンに非常に強く連鎖しているアレルが高肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片で、また1028番シトシンに非常に強く連鎖しているアレルが低肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片で、それぞれ確認された。
図4に示した配列番号1における7712〜8306番塩基の領域(配列番号10)のPCR増幅断片の配列を比較すると、高肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片では82番目(配列番号1における7793番目)の塩基がチミン(T)であったが、低肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片ではシトシン(C)であった(図8)。また、120番目(配列番号1における7831番目)の塩基は、高肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片ではグアニン(G)であったが、低肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片ではアデニン(A)であった(図9)。連鎖解析結果の通り、1028番チミンに非常に強く連鎖しているアレルが高肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片で、また1028番シトシンに非常に強く連鎖しているアレルが低肉中イノシン酸含量型由来の増幅断片で、それぞれ確認された。
以上より、非常に強い連鎖関係にある1028番目がチミン、2773番目がアデニン、2824番目がグアニン、7793番目がチミン、及び7831番目がグアニンの5つのアリルは全て高イノシン酸含量の指標となることが確認された。図5〜9に示すように、当該部位における塩基を調べることにより、NT5E遺伝子の高イノシン酸含量型と低イノシン酸含量型を簡便に見分けることができることが確認された。
本発明により、NT5E遺伝子はウシ個体における屠畜後の肉中イノシン酸含量に関わる遺伝子であり、ここで述べるDNA診断法で確実にNT5E遺伝子における変異の有無を判定し、ウシ個体における肉中イノシン酸含量の差を判別可能であることが明らかとなった。

Claims (7)

  1. ウシ個体から分離された核酸試料について、NT5E遺伝子領域における変異の有無を検出することを含む、屠畜後の肉中イノシン酸含量を判定する方法であって、下記の少なくともいずれか1つがヘテロ又はホモで検出された場合、屠畜後の肉中イノシン酸含量が高いと判定される、方法。
    (1) 配列番号1における1028番目(配列番号4では149番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
    (2) 配列番号1における2773番目(配列番号7では158番目)の塩基がチミンからアデニンになる変異
    (3) 配列番号1における2824番目(配列番号7では209番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
    (4) 配列番号1における7793番目(配列番号10では82番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
    (5) 配列番号1における7831番目(配列番号10では120番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
  2. 核酸試料がゲノムDNA試料である、請求項1記載の方法。
  3. ウシゲノム上のNT5E遺伝子領域内の少なくとも1つの変異部位を含む領域を増幅する少なくとも1組のプライマーセットを含む、屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定試薬であって、前記少なくとも1つの変異部位は、配列番号1における1028番目(配列番号4では149番目)の塩基、配列番号1における2773番目(配列番号7では158番目)の塩基、配列番号1における2824番目(配列番号7では209番目)の塩基、配列番号1における7793番目(配列番号10では82番目)の塩基、及び配列番号1における7831番目(配列番号10では120番目)の塩基から選択される少なくとも1つである、試薬
  4. 少なくとも1組のプライマーセットは、配列番号1における1028番目の塩基を含むウシゲノム上の領域を増幅するプライマーセット、配列番号1における2773番目の塩基及び/又は2824番目の塩基を含むウシゲノム上の領域を増幅するプライマーセット、配列番号1における7793番目の塩基及び/又は7831番目の塩基を含むウシゲノム上の領域を増幅するプライマーセットから選択される少なくとも1組のプライマーセットを含む、請求項記載の試薬。
  5. 少なくとも1組のプライマーセットは、配列番号2に示す塩基配列のプライマーと配列番号3に示す塩基配列のプライマーとのセット、配列番号5に示す塩基配列のプライマーと配列番号6に示す塩基配列のプライマーとのセット、及び配列番号8に示す塩基配列のプライマーと配列番号9に示す塩基配列のプライマーとのセットから選択される少なくとも1組のセットを含む、請求項記載の試薬。
  6. 請求項のいずれか1項に記載の試薬を含む、屠畜後の肉中イノシン酸含量の判定キット。
  7. ウシ個体から分離された核酸試料について、NT5E遺伝子領域における変異の有無を検出することを含む、屠畜後の肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量を判定する方法であって、下記の少なくともいずれか1つがヘテロ又はホモで検出された場合、屠畜後の肉中イノシン含量及びヒポキサンチン含量が低いと判定される、方法。
    (1) 配列番号1における1028番目(配列番号4では149番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
    (2) 配列番号1における2773番目(配列番号7では158番目)の塩基がチミンからアデニンになる変異
    (3) 配列番号1における2824番目(配列番号7では209番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
    (4) 配列番号1における7793番目(配列番号10では82番目)の塩基がシトシンからチミンになる変異
    (5) 配列番号1における7831番目(配列番号10では120番目)の塩基がアデニンからグアニンになる変異
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