(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る車両用制御システムを、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する第1実施形態では、車両の走行駆動源として、エンジンと電動モータ(モータジェネレータ)とを有し、さらに、エンジンによって駆動され、電動モータを駆動するための電力を発電する発電機(ジェネレータ)を有するハイブリッド車両に対して、本発明による車両用制御システムを適用した例について説明する。しかしながら、本発明による車両用制御システムは、例えば、エンジンのみを有する通常の車両や、電動モータのみを有する電動車両に適用されても良い。
また、以下にドメイン分けに関して説明するが、このドメイン分けは車両用制御システムの制御構造に密接に関係するため、必ずしも以下に説明する例と同一のドメイン分けを行う必要なく、適宜、最適なドメイン分けを行えば良い。
図1は、上述したハイブリッド車両における各種の車載装置のための車両用制御システム100の全体構成の一例をブロック図として表したものである。車両用制御システム100は、複数の機能ブロックのそれぞれが担う制御機能に応じて、換言すれば、制御対象とする複数の車載装置のそれぞれの機能(役割)に応じて、複数のドメインが予め設定され、複数の機能ブロックは、複数のドメインのいずれかに分類されている。さらに、複数のドメインにおいて、複数の機能ブロックは、車載装置を制御するための機器制御部15〜18、25〜28、35〜38と、それら機器制御部15〜18、25〜28、35〜38による制御を統括するドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34とに階層化されている。
本実施形態に係る車両用制御システム100では、詳しくは後述するが、ドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34は、ドメイン全体の制御目標を算出するとともに、そのドメイン全体の制御目標を達成するための各エリアのエリア制御目標を算出するマスタドメイン制御部11〜14と、与えられたエリア制御目標を達成するように、対応する機器制御部15〜18、25〜28、35〜38の制御目標を算出する、各エリアに配置されたローカルドメイン制御部21〜24、31〜34とを有している。これらの各ドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34は、相互に通信可能に接続されている。さらに、本実施形態の車両用制御システム100では、複数のマスタドメイン制御部11〜14にて協調制御を行わせたり、各マスタドメイン制御部11〜14による制御が競合する場合に、競合する制御を調停したり、さらに、制御システム全体の管理を担う管理制御部としての役割も果たす統合制御部1も設けられている。
統合制御部1は、管理制御部としての役割を果たすための構成として、車両における種々の情報を収集して、収集した情報に基づいて車両の状態を特定する車両状態特定部2、特定した車両状態を各機能ブロック、すなわち、機器制御部15〜18、25〜28、35〜38及びドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34へ通知する通知部3、及び、複数の機能ブロックから返送されるエリア情報及びドメイン情報を集約して、動作すべき機能ブロックが含まれるエリア及びドメインを決定する決定部4を備えている。なお、エリア情報及びドメイン情報については、後に詳しく説明する。
具体的なドメイン分けの例として、図1に示す例では、車両用制御システム100は、シャシ(CS)ドメイン、パワートレイン(PT)ドメイン、ボデー(BD)ドメイン、環境(EVI)ドメインの4つのドメインに区分けされている。このように定めたドメインにより、ハイブリッド車両に搭載された多数の車載装置は、機能面で類似、関連するもの同士がグループ化される。
例えば、シャシドメインには、各車輪に設けられた油圧ブレーキを作動させるため、油圧ポンプや電磁バルブなどの油圧ブレーキ装置の構成部品を駆動するブレーキアクチュエータ、各車輪に設けられた減衰力調整可能なダンパ、各車輪のタイヤに設けられ、空気圧の検知信号を無線通信する空気圧センサ、電動パワーステアリング、エンジンや電動モータの回転を適切な変速比で変速して駆動軸に伝えるトランスミッション、運転者によるブレーキペダルの踏力を増幅してマスタシリンダに伝えるための負圧を発生する負圧ポンプなどの車載装置が属する。
そして、シャシドメインには、図1に示すように、上述した車載装置を制御するためのCS機器制御部15、25、35が設けられている。例えば、シャシドメインには、CS機器制御部15、25、35として、ブレーキアクチュエータ制御部、ダンパ制御部、空気圧検知制御部、電動パワーステアリング制御部、トランスミッション制御部、負圧ポンプ制御部などが設けられる。なお、油圧ブレーキ装置は、前輪側と後輪側とで、それぞれ独立して、油圧を調整できるように構成されており、ブレーキアクチュエータは、左右前輪のブレーキ油圧を個別に調節可能な前輪側ブレーキアクチュエータと、左右後輪のブレーキ油圧を個別に調節可能な後輪側ブレーキアクチュエータとに分けられている。このため、ブレーキアクチュエータ制御部としても、前輪側ブレーキアクチュエータ制御部と、後輪側ブレーキアクチュエータ制御部とが設けられる。
これらのCS機器制御部15、25、35は、原則として、シャシドメインに属する車載装置に対応して個別に設けられるが、複数の車載装置に対して共通のCS機器制御部を設けることも可能である。さらに、CS機器制御部15、25、35は、それぞれ電子制御装置(ECU)によって構成される。その際、それぞれのCS機器制御部15、25、35を、個別のECUによって構成しても良いし、複数のCS機器制御部15、25、35を共通のECUによって構成しても良い。さらに、シャシドメインのCS機器制御部15、25、35を構成するECUを、他のドメインの機器制御部26〜28を構成するECUと共用しても良い。
そして、CS機器制御部15、25、35は、対応するシャシドメイン制御部11、21、31から与えられた制御目標に従って、対応する車載装置を制御する。
シャシドメイン制御部11、21、31は、図1に示すように、マスタドメイン制御部としてのマスタCS制御部11と、ローカルドメイン制御部としてのローカルCS制御部21、31とから構成されている。マスタCS制御部11及びローカルCS制御部21、31は、後述するように、車両を3つのエリアに区画した際、3つのエリアに分散して配置される。マスタCS制御部11は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えたものである。
マスタCS制御部11は、マスタドメイン制御部として、車両の状態や、運転者の操作状態に応じてシャシドメイン全体の制御目標を定め、さらに、シャシドメイン全体の制御目標に基づき、各エリアにおいて実現すべきエリア制御目標を定める。マスタCS制御部11によって定められたエリア制御目標は、ローカルCS制御部21、31に与えられる。ローカルCS制御部21、31は、与えられたエリア制御目標に基づき、CS機器制御部25、35を制御するための制御目標を算出して、CS機器制御部25、35に出力する。この際、マスタCS制御部11も、ローカルドメイン制御部として、自身が属するエリアにおけるエリア制御目標に基づき、CS機器制御部15を制御するための制御目標を算出し、CS機器制御部15に出力する。
パワートレインドメインには、例えば、車両を加速させたり、減速させたり、あるいは速度を一定に保つための動力を車両に作用させる役割を担うエンジン及びモータジェネレータ(MG)、エンジン及び/又はMGが発生したトルク(駆動力)を4輪各輪に配分する役割を担う駆動力配分機構、MGに駆動電力を供給したり、MGが発電した電力を蓄電したりする役割を担う高圧バッテリ、MGや他の車両装備の駆動電力を発生する発電機、低電圧バッテリの充電のために高圧バッテリが発生する高電圧を降圧して低電圧バッテリに供給するDCDCコンバータ、外部充電設備により高圧バッテリを充電するための充電器インターフェース(IF)などの車載装置が属する。さらに、パワートレインドメインには、低圧バッテリや、この低圧バッテリから各種の車載装置への給電のオン、オフを切り換えるジャンクションボックス(JB)などの車載装置が属しても良い。
なお、低圧バッテリは、車両のエンジンルーム内に設置される主低圧バッテリ、車両のラゲッジスペース(又はトランクルーム)の床下などに設置される副低圧バッテリなど複数のバッテリを含む。また、ジャンクションボックスは、エンジンルール内及びその付近に搭載された車載装置への給電のオン、オフを切り換えるためのフロントジャンクションボックス(JB)と、主として車室内及びその付近に搭載された車載装置への給電のオン、オフを切り換えるセンターJBと、ラゲッジスペース内又はその付近に搭載された車載装置への給電のオン、オフを切り換えるリヤJBとを含む。これらのジャンクションボックスは、いずれも、各車載装置やECUへ給電するための電源として、主低圧バッテリと副低圧バッテリとのいずれかを選択することができるように構成されている。
パワートレインドメインには、図1に示すように、上述した車載装置を制御するためのPT機器制御部16、26、36が設けられている。例えば、パワートレインドメインには、パワートレイン機器制御部16、26、36として、エンジン制御部、MG制御部、駆動力配分機構制御部、発電機制御部、高圧バッテリ制御部、DCDCコンバータ制御部、充電器IF制御部、主低圧バッテリ制御部、副低圧バッテリ制御部、フロントJB制御部、センターJB制御部、リヤJB制御部などが設けられる。そして、パワートレイン機器制御部16、26、36は、対応するパワートレインドメイン制御部12、22、32から与えられた制御目標に従って、対応する車載装置を制御する。
パワートレインドメイン制御部12、22、32は、図1に示すように、マスタドメイン制御部としてのマスタPT制御部12と、ローカルドメイン制御部としてのローカルPT制御部22、32とから構成されている。マスタPT制御部12及びローカルPT制御部22、32は、車両を3つのエリアに区画した際、3つのエリアに分散して配置される。マスタPT制御部12は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。マスタPT制御部12は、マスタドメイン制御部として、パワートレインドメイン全体の制御目標を定め、さらに、パワートレインドメイン全体の制御目標に基づき、各エリアにおいて実現すべきエリア制御目標を定める。マスタPT制御部12によって定められたエリア制御目標は、各ローカルPT制御部22、32に与えられる。
ボデードメインには、例えば、ヘッドライトやポジションランプなどの前方灯火、歩行者等を保護するためにボンネットに設けられた外部エアバッグ、フロントウインドウに付着した雨滴を払拭するためのワイパ、ドアのロック、アンロックを切り換えるモータや窓を開閉するモータ、シートポジションを調節するモータ、車室内の空調を行うエアコン、車両の乗員を保護するための乗員エアバッグ、リヤゲートを自動開閉するためのモータ、ブレーキランプなどの後方灯火などの車載装置が属する。従って、このボデードメインには、図1に示すBD機器制御部17、27、37として、前方灯火制御部、外部エアバッグ制御部、ワイパ制御部、ドア制御部、窓制御部、シート制御部、エアコン制御部、乗員エアバッグ制御部、リヤゲート制御部、後方灯火制御部などが設けられる。そして、BD機器制御部17、27、37は、対応するボデードメイン制御部13、23、33から与えられた制御目標に従って、対応する車載装置を制御する。
ボデードメイン制御部13、23、33は、図1に示すように、マスタドメイン制御部としてのマスタBD制御部13と、ローカルドメイン制御部としてのローカルBD制御部23、33とから構成されている。マスタBD制御部13及びローカルBD制御部23、33は、車両を3つのエリアに区画した際、3つのエリアに分散して配置される。マスタBD制御部13は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。マスタBD制御部13は、マスタドメイン制御部として、ボデードメイン全体の制御目標を定め、さらに、ボデードメイン全体の制御目標に基づき、各エリアにおいて実現すべきエリア制御目標を定める。マスタBD制御部13によって定められたエリア制御目標は、各ローカルBD制御部23、33に与えられる。
環境ドメインには、例えば、車両前方の障害物を検出するためにフロントグリルやフロントバンパに設置されるレーザレーダ及び/又はミリ波レーダ、外気温度を検出する外気温度センサ、車両の前方の映像を撮影するためにフロントガラスの室内側に設置される前方カメラ、車両後方の映像を撮影するためにリアガラスの室内側に設置されるリヤカメラ、車両後方の障害物を検出するためにリヤバンパなどに設置されるミリ波レーダなどの車載装置が属する。従って、環境ドメインには、図1に示すEVI機器制御部18、28、38として、レーザレーダ制御部、フロントミリ波レーダ制御部、温度センサ制御部、前方カメラ制御部、リヤカメラ制御部、リヤミリ波レーダ制御部などが設けられる。そして、EVI機器制御部18、28、38は、対応する環境ドメイン制御部14、24、34から与えられた制御目標に従って、対応する車載装置を制御する。
環境ドメイン制御部14、24、34は、図1に示すように、マスタドメイン制御部としてのマスタEVI制御部14と、ローカルドメイン制御部としてのローカルEVI制御部24、34とから構成されている。マスタEVI制御部14及びローカルEVI制御部24、34は、車両を3つのエリアに区画した際、3つのエリアに分散して配置される。マスタEVI制御部14は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。マスタEVI制御部14は、マスタドメイン制御部として、環境ドメイン全体の制御目標を定め、さらに、環境ドメイン全体の制御目標に基づき、各エリアが実現すべきエリア制御目標を定める。マスタEVI制御部14によって定められたエリア制御目標は、各ローカルEVI制御部24、34に与えられる。
次に、上述した車載装置、機器制御部15〜18、25〜28、35〜38及びドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34の車両への配置の一例について説明する。
上述した各種の車載装置は、各車載装置に求められる役割や搭載上のスペースの関係から、車両の前部、中央部、後部などの各部に配置される。このため、ドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34を車両の所定の場所に集中的に配置すると、全体として、各車載装置までの通信配線の長さが長くなってしまい、車両内における取り回しが煩雑になってしまうことが懸念される。
そこで、本実施形態による車両用制御システム100では、車両を少なくとも2つのエリアに分割する。例えば、図2には、車両を、フロントエリア41、ミドルエリア42、及びリヤエリア43の3つのエリアに分割した例を示している。ただし、分割数は、図2の例のように3つに限定される訳ではない。例えば、車両を前方エリアと後方エリアのように2つのエリアに分割しても良い。また、前方右側エリア、前方左側エリア、後方右側エリア、後方左側エリアのように、4つのエリアに分割しても良い。4つのエリアに分割する場合、図2に示す分割例において、フロントエリア41をさらに左右2つのエリアに分割したり、ミドルエリア42を左右2つのエリアに分割したりしても良い。さらに、車両のサイズに応じて、5つのエリアや6つのエリアに分割しても良い。
このようにして、車両を少なくとも2つのエリアに分割することにより、複数の車載装置は、その配置場所に応じて、分割されたいずれかのエリアに振り分けられる。その車載装置の振り分けに応じて、該当する車載装置を制御する機器制御部15〜18、25〜28、35〜38も同じエリアに属するように分散して配置される。さらに、各ドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34の構成要素である、マスタドメイン制御部11〜14、及びローカルドメイン制御部21〜24、31〜34も、制御目標を出力すべき対応する機器制御部15〜18、25〜28、35〜38と同じエリアに属するように分散して配置される。
この結果、関連するローカルドメイン制御部(ローカルドメイン制御部の機能を備えたマスタドメイン制御部含む)11〜14、21〜24、31〜34と、機器制御部15〜18、25〜28、35〜38と、車載装置とを同じエリアに配置することができる。従って、例えば、配線数の多いローカルドメイン制御部−機器制御部−車載装置を接続する通信配線の長さを短縮することが可能となる。その結果、車両における通信配線の取り回しの煩雑さを軽減することができる。
図1に示す例では、各ドメインのマスタドメイン制御部11〜14は、車両のミドルエリア42に配置され、相互に通信が可能に構成されている。また、各ドメインのローカルドメイン制御部21〜24は、車両のフロントエリア41に配置され、相互に通信が可能に構成されている。同様に、各ドメインのローカルドメイン制御部31〜34は、車両のリヤエリア43に配置され、相互に通信が可能に構成されている。なお、各ドメインのマスタドメイン制御部11〜14は、適宜、フロントエリア41に配置されたり、リヤエリア43に配置されたりしても良い。
図3に、機器制御部15〜18、25〜28、35〜38の各エリア41、42、43への配置例を示す。
図3に示す例では、シャシドメインにおいて、フロントエリア41に、CS機器制御部25として、前輪側ブレーキアクチュエータ制御部、左右前輪のダンパの減衰力を制御する前輪ダンパ制御部、左右前輪の空気圧の検知を制御する前輪空気圧検知制御部、電動パワーステアリング制御部、トランスミッション制御部などが配置されている。
シャシドメインのミドルエリア42には、CS機器制御部15として、負圧ポンプ制御部が配置されている。また、シャシドメインのリヤエリア43には、CS機器制御部35として、後輪側ブレーキアクチュエータ制御部、後輪ダンパ制御部、後輪空気圧検知制御部が配置されている。
パワートレインドメインにおいては、フロントエリア41に、PT機器制御部26として、エンジン制御部、MG制御部、発電機制御部、主低圧バッテリ制御部、及びフロントJB制御部が配置されている。ミドルエリア42には、PT機器制御部16として、駆動力配分機構制御部及びセンターJB制御部が配置されている。また、リヤエリア43には、PT機器制御部36として、高圧バッテリ制御部、DCDCコンバータ制御部、充電器IF制御部、副低圧バッテリ制御部、及びリヤJB制御部が配置されている。
ボデードメインでは、フロントエリア41に、BD機器制御部27として、前方灯火制御部、前方外部エアバッグ制御部、及びワイパ制御部が配置されている。ミドルエリア42には、BD機器制御部17として、ドア制御部、窓制御部、シート制御部、エアコン制御部、乗員エアバッグ制御部が配置されている。また、リヤエリア43には、BD機器制御部37として、リヤゲート制御部、後方灯火制御部が配置されている。
環境ドメインでは、フロントエリア41に、EVI機器制御部28として、レーザレーダ制御部、フロントミリ波レーダ制御部が配置されている。ミドルエリア42には、EVI機器制御部18として、前方カメラ制御部、温度センサ制御部が配置されている。リヤエリア43には、EVI機器制御部38として、リヤカメラ制御部、リヤミリ波レーダ制御部が配置されている。
ここで、車両用制御システム100を構成する機能ブロックである、機器制御部15〜18、25〜28、35〜38及びドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34は、図1に示すように、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aを記憶している。この管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aには、少なくとも各々の制御部11〜18、21〜28、31〜38自身が動作すべき車両状態の情報、配置されたエリアを示すエリア情報(例えば、エリアID)、及び分類されたドメインを示すドメイン情報(例えば、ドメインID)が含まれている。
各制御部11〜18、21〜28、31〜38が動作すべき車両状態としては、例えば、図4に示すような各種の状態を設定することができる。すなわち、図4に示す例では、車両状態として、「駐車」、「停車」、「走行」、「衝突」が設定され、「走行」に関しては、さらに、「前進」と「後進」に分類され、それぞれの状態が設定されている。なお、「前進」に関しては、「前車追従」との状態を設定しても良い。
上述したように、統合制御部1は、車両状態特定部2、通知部3、及び決定部4を備えている。車両状態特定部2は、車両の車両状態を特定する。通知部3は、特定された車両状態が遷移したとき、遷移後の車両状態を各制御部11〜18、21〜28、31〜38へ通知する。
通知部3から車両状態の通知を受けると、各制御部11〜18、21〜28、31〜38は、それぞれ、記憶している管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aを参照して、通知された車両状態が、記憶している管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aに含まれる自身が動作すべき車両状態の情報に該当しているかどうかを判定する。この判定の結果、通知された車両状態が、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aに含まれる動作すべき車両状態の情報に該当すると判定すると、各制御部11〜18、21〜28、31〜38は、その動作すべき車両状態とともに記憶されている、エリア情報及びドメイン情報を統合制御部1へ返送する。決定部4は、各制御部11〜18、21〜28、31〜38から返送されたエリア情報及びドメイン情報を集約して、動作すべき制御部11〜18、21〜28、31〜38が含まれるエリア及びドメインを決定する。
図5は、各ドメイン及び各エリアがどのような車両状態で、動作すべき制御部11〜18、21〜28、31〜38を含むエリア及びドメインとして決定されるかに関する一例を示している。
例えば、シャシドメインのフロントエリアは、車両の状態が「走行」及び「停車」の場合に、動作環境が提供される。従って、車両の状態が「走行」である場合には、シャシドメインのフロントエリアに属するCS機器制御部25が、前輪ブレーキ、前輪ダンパ、電動パワーステアリング、及びトランスミッションの制御を実行し、また、前輪の空気圧検知を実行することが可能になる。さらに、車両の状態が「停車」の場合にも、CS機器制御部25である電動パワーステアリング制御部及びトランスミッション制御部が、電動パワーステアリングやトランスミッションの制御を行うことが可能となる。
また、例えば、パワートレインドメインのリヤエリアは、車両の状態が「走行」、「停車」、「駐車」の場合に、動作環境が提供される。従って、車両状態が「走行」である場合に、パワートレインドメインのリヤエリアに属するPT機器制御部36である高圧バッテリ制御部が、高圧バッテリの充電状態に応じて、高圧バッテリの充電や放電を制御することができる。また、車両状態が「停車」である場合には、例えば、PT機器制御部36であるDCDCコンバータ制御部が、DC−DCコンバータを駆動して低圧バッテリを充電したりすることも可能となる。さらに、車両状態が「駐車」である場合にも動作環境が提供されるので、高圧バッテリの充電状態を把握可能であるとともに、PT機器制御部36である充電器IF制御部が、充電器IFを作動させることができ、外部充電設備から高圧バッテリへの充電を行うことが可能となる。
また、例えば、ボデードメインのフロントエリアは、車両状態が「走行」、「停車」、「衝突」の場合に、動作環境が提供される。従って、車両状態が「走行」及び「停車」であるときに、ボデードメインのフロントエリアに属するBD機器制御部27である前方灯火制御部やワイパ制御部が、前方灯火やワイパを駆動制御することが可能となる。また、車両状態が「衝突」であるとき、BD機器制御部27である外部エアバッグ制御部が、前方外部エアバッグを作動させることが可能となる。
さらに、例えば、環境ドメインのフロントエリアは、車両の状態が「前進(前車追従)」である場合に、動作環境が提供される。これにより、車両が前進走行しているときに、環境ドメインのフロントエリアに属するEVI機器制御部28であるレーザレーダ制御部、フロントミリ波レーダ制御部が、レーザレーダやミリ波レーダを作動させて、前方障害物との衝突の危険を検知したり、前方を走行している車両への自動追従走行を行ったりすることが可能になる。
統合制御部1は、動作すべき制御部11〜18、21〜28、31〜38が含まれるエリア及びドメインを決定すると、決定したドメインのマスタドメイン制御部11〜14、及び/又は、決定したエリアのローカルドメイン制御部21〜24、31〜34に、動作すべき制御部11〜18、21〜28、31〜38が動作できる環境を提供するよう指示する。このようにして、統合制御部1は、各制御部11〜18、21〜28、31〜38が動作できる環境を整える。
従って、車両用制御システムに含まれる各制御部11〜18、21〜28、31〜38は、それぞれ、動作すべき車両状態となったときに、動作環境が提供され、各々の制御機能を発揮することが可能になる。換言すれば、いずれかの制御部11〜18、21〜28、31〜38が追加、削除、変更等されたり、各制御部11〜18、21〜28、31〜38が分類されるドメインや、配置されるエリアが変更されたりして、車両構成が変更されても、その変更による影響をほぼ受けることなく、各制御部11〜18、21〜28、31〜38を必要なときに動作させることが可能となる。
なお、各制御部11〜18、21〜28、31〜38は、動作環境が提供されていなくとも、統合制御部1との通信機能は確保され、統合制御部1から車両状態が送信されると、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aにおける動作すべき車両状態と照合し、照合結果が一致した場合に、エリア情報及びドメイン情報を送信可能に構成されている。例えば、各制御部11〜18、21〜28、31〜38の通信回路及び制御回路は、統合制御部1から車両状態を受信するとバックアップ電源を用いてウエイクアップするように構成されても良い。あるいは、統合制御部1との通信機能だけは常時作動可能なように、バックアップ電源による部分的な給電を行うように構成しても良い。
また、統合制御部1が動作できる環境を提供するよう指示する指示先として、マスタドメイン制御部11〜14が動作する場合には、当該マスタドメイン制御部11〜14に対して、各制御部15〜18、21〜28、31〜38が動作できる環境を提供するよう指示しても良い。この場合、マスタドメイン制御部11〜14が、自ドメインの動作すべき制御部15〜18、21〜28、31〜38が含まれる各エリア41〜43への動作環境の提供責任を負う。例えば、マスタドメイン制御部11〜14自ら、動作すべき制御部15〜18、21〜28、31〜38が含まれる各エリア41〜43への動作環境の提供を管理したり、該当するエリア41〜43のローカルドメイン制御部21〜24、31〜34に対して動作環境の提供を指示したりする。
一方、マスタドメイン制御部11〜14が動作しない場合には、統合制御部1は、動作すべき制御部を含むいずれかのエリアのローカルドメイン制御部21〜24、31〜34を、動作できる環境の提供責任を負う制御部として決定しても良い。この場合、環境提供責任を負う制御部として決定されたローカルドメイン制御部21〜24、31〜34は、動作すべき制御部15〜18、21〜28、31〜38が含まれる各エリア41〜43への動作環境の提供を管理したり、他のエリア41〜43のローカルドメイン制御部21〜24、31〜34に対して動作環境の提供を指示したりする。
あるいは、統合制御部1は、動作すべき制御部15〜18、21〜28、31〜38が含まれるドメイン及びエリアのマスタドメイン制御部11〜14及びローカルドメイン制御部21〜24、31〜34のそれぞれに対し、各制御部15〜18、21〜28、31〜38が動作できる環境を提供するよう指示しても良い。この場合、統合制御部1が、動作できる環境の提供責任を負うことになる。
マスタドメイン制御部11〜14及び/又はローカルドメイン制御部21〜24、31〜34は、各制御部11〜18、21〜28、31〜38が動作できる環境として、動作電源、他の制御部との通信手段、各制御部が動作する際の安全処置の少なくとも1つを提供することが好ましい。マスタドメイン制御部11〜14及び/又はローカルドメイン制御部21〜24、31〜34が、動作電源の提供を管理することにより、必要なドメイン及びエリアにのみ電源供給を行うことが可能となり、省エネルギーを達成することができる。
また、マスタドメイン制御部11〜14及び/又はローカルドメイン制御部21〜24、31〜34が、他の制御部との通信手段の提供を管理することにより、例えば、各制御部11〜18、21〜28、31〜38での通信データの重要性や即時性を考慮して、複数の通信経路を提供したり、通信経路の優先使用を許可したりすることができる。
さらに、マスタドメイン制御部11〜14及び/又はローカルドメイン制御部21〜24、31〜34が、各制御部11〜18、21〜28、31〜38が動作する際の安全処置を管理することにより、例えば、演算処理負荷や必要な演算速度を考慮して、ECUにおける複数の演算コアの使用を許可したり、複数の制御部にて演算コアを共用する場合に、優先順位を設定したりすることが可能となる。
次に、本実施形態に係る車両用制御システム100において実行される制御処理に関して、図6〜図8のフローチャートを参照しつつ説明する。図6のフローチャートは、車両用制御システム100において、例えば所定時間毎に繰り返し実行される処理を示している。
最初のステップS100において、統合制御部1が、車両における種々の情報を収集して、収集した情報に基づいて車両の状態を特定する。続くステップS110では、統合制御部1が、特定した車両状態が、以前の車両状態とは異なる車両状態へ遷移したものであるかどうかを判定する。車両状態の遷移が生じていない場合には、ステップS100の処理に戻る。一方、車両状態の遷移が生じている場合には、ステップS120の処理に進む。
ステップS120において、統合制御部1は、特定された遷移後の車両状態を各制御部11〜18、21〜28、31〜38へ通知する。この車両状態の通知を受けると、ステップS130において、各制御部11〜18、21〜28、31〜38は、それぞれ、記憶している管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aを参照して、通知された遷移後の車両状態が、記憶している動作すべき車両状態の情報に一致するかどうかを判定する。この判定の結果、通知された遷移後の車両状態が、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aとして記憶された動作すべき車両状態の情報に一致すると判定すると、ステップS140において、各制御部11〜18、21〜28、31〜38は、その動作すべき車両状態とともに記憶されている、エリア情報及びドメイン情報を統合制御部1へ回答する。
ステップS150において、統合制御部1は、各制御部11〜18、21〜28、31〜38から回答されたエリア情報及びドメイン情報を集約して、動作すべき制御部11〜18、21〜28、31〜38が含まれるエリア及びドメインを決定する。そして、ステップS160において、統合制御部1は、決定したエリア及びドメインへ動作環境の提供を行うよう指示する指示先制御部を決定する決定処理を実行する。
図7のフローチャートは、この指示先制御部決定処理の一例を示している。最初のステップS200では、統合制御部1は、決定されたエリア及びドメインにマスタドメイン制御部11〜14が含まれるかどうかを判定する。この判定処理において、決定されたエリア及びドメインにマスタドメイン制御部11〜14が含まれると判定すると、ステップS210の処理に進み、マスタドメイン制御部11〜14を、動作環境提供責任を負う制御部に設定する。
一方、ステップS200の判定処理において、決定されたエリア及びドメインにマスタドメイン制御部11〜14が含まれないと判定すると、ステップS220の処理に進み、決定されたいずれかのエリアに含まれるローカルドメイン制御部21〜24、31〜34を、動作環境提供責任を負う制御部に設定する。なお、決定されたエリアが複数であって、複数のローカルドメイン制御部21〜24、31〜34が動作する場合、予めいずれのローカルドメイン制御部21〜24、31〜34を動作環境提供責任を負う制御部に設定するかの優先順位を定めておき、最も優先順位の高いローカルドメイン制御部を選択すれば良い。優先順位は、例えば機能安全レベルが高い、起動タイミングが早いなどの観点から設定される。
ステップS230では、ステップS210又はステップS220にて設定された環境提供責任を負う制御部を指示先制御部として決定する。
再び、図6のフローチャートに戻り、説明を続ける。ステップS160の指示先制御部決定処理によって指示先制御部が決定されると、次に、ステップS170において、以前に動作環境が提供されていたエリア及びドメインに対して、今回、動作環境の提供範囲として決定されたエリア及びドメインが、エリアとドメインとの少なくとも一方に関して変更があるか否かを判定する。この判定処理において、変更があると判定されると、ステップS180に進み、動作環境提供範囲の移行処理を実行する。一方、ステップS170の判定処理において、変更がないと判定されると、ステップS190に進み、現在の動作環境提供範囲に対する動作環境の提供を継続するよう、ステップS160にて決定した指示先制御部に指示する。
図8のフローチャートは、動作環境提供範囲の移行処理の一例を示すものである。移行処理が開始されると、最初のステップS300において、変更後のエリア及びドメインに対して動作環境を提供するよう、指示先制御部へ指示する。これにより、変更後のエリア及びドメインに含まれる制御部は制御動作を開始することが可能になる。
続くステップS310では、変更前の動作環境提供範囲に含まれる制御部(変更前制御部)と、変更後の動作環境提供範囲に含まれる制御部(変更後制御部)とで関連する制御機能が実行され、そのため、変更前制御部から変更後制御部へと制御情報の受渡しが必要であるか否かを判定する。
なお、変更前制御部と変更後制御部とで関連する制御機能が実行されるか否かは、例えば、車両状態の遷移の種類ごとに、関連する制御機能を実行する制御部を予め定め、その関連制御実行情報(遷移前車両状態、遷移後車両状態、変更前制御部、変更後制御部を示す情報)を、該当する制御部11〜18、21〜28、31〜38の管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aに含ませるようにしておけば良い。統合制御部1は、その関連制御実行情報に基づき、上述した判定を行うことができる。あるいは、車両状態の遷移の種類ごとの関連制御実行情報は、統合制御部1に予め格納しておいても良い。
関連する制御機能の具体例としては、例えば、エンジンルームへの外気導入孔を開閉するシャッターに関して、走行中は、パワートレインドメインのPT機器制御部26であるエンジン制御部が、エンジンの暖気や冷却状態に応じて、シャッターの開度や開閉状態を制御し、停車時には、ボデードメインのBD機器制御部17であるエアコン制御部が、換気や外気導入のため、シャッターの開度や開閉状態を制御するケースが該当する。
また、追従走行する前方車両を検知するために、その前方車両との距離が所定の距離閾値よりも長い場合には、環境ドメインのフロントエリア41のレーザレーダなどによって検知を行うが、所定の距離閾値よりも短い場合には、環境ドメインのミドルエリア42の前方カメラによって検知を行うケースなども該当する。この場合、制御目標値は、前方車両の検知距離や検知方位となる。さらに、車両に乗車する乗員の検知に関して、駐車時は、ボデードメインのドア制御部が、ドアの開閉などの検出信号に基づいて行い、停車時や走行時には、ボデードメインのエアコン制御部が着座センサ信号に基づいて行い、衝突時には、ボデードメインの乗員エアバッグ制御部が着座センサ信号などに基づいて行うケースなども該当する。この場合、制御目標値としては、乗員の乗車位置となる。
ステップS310において、関連する制御機能が実行されず、制御情報の受渡しの必要がないと判定した場合には、処理はステップS360に進む。一方、ステップS310において、関連する制御機能が実行され、制御情報の受渡しが必要と判断した場合には、処理はステップS320に進む。
ステップS320では、制御情報の受渡元の制御部及び受渡先の制御部で、それぞれ、制御目標値の算出を行う。続くステップS330では、算出された制御目標値に乖離があるかどうかを判定する。制御目標値に乖離があるか否かは、例えば、算出された制御目標値同士の差分が許容範囲外であるかどうかにより判定することができる。さらに、制御目標値の差分の変化の大きさが許容範囲外であるかどうかなどを考慮して判定しても良い。
ステップS320において、制御目標値に乖離があると判定した場合、ステップS320に戻り、制御情報の受渡元の制御部と受渡先の制御部での制御目標値の算出を継続する。すなわち、車両状態が遷移して、動作する制御部が変更されるとき、制御情報の受渡元の制御部(変更前制御部)と、受渡先の制御部(変更後制御部)とはそれぞれの制御機能を重複して実行する重複期間が設定される。ただし、制御情報の受渡元の制御部による制御目標値と受渡先の制御部による制御目標値とに乖離がある場合、重複期間において、受渡元の制御部による制御目標値に従って制御が行なわれる。
ステップS330において、上述した重複期間の経過などにより、制御目標値の乖離がないと判定した場合、処理はステップS340に進む。ステップS340では、制御情報の受渡元の制御部による制御を終了させるとともに、制御情報の受渡先の制御部による制御を開始する。このような制御情報の受渡処理を行うことにより、関連する制御機能を実行する制御部が切り替えられることに伴い、例えば制御目標値がステップ的に変化し、制御対象がハンチング動作を起こしたりすることを防止することができる。
なお、制御情報の受渡処理として、例えば、最新の制御目標値を受渡元の制御部から受渡先の制御部へ提供し、受渡先の制御部は、提供された最新の制御目標値を初期値として制御を開始するようにしても良い。
続くステップS350では、関連する制御機能を実行するすべての制御部間で、制御情報の受渡処理が完了したか否かを判定する。この判定処理において、まだすべての制御部間で制御情報の受渡処理が完了していないと判定すると、ステップS320からの処理を繰り返す。一方、すべての制御部間で制御情報の受渡処理が完了したと判定すると、処理はステップS360に進む。ステップS360では、変更前のエリア及びドメインに対して動作環境の提供を終了するよう、変更前の指示先制御部へ指示する。
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態に係る車両用制御システムについて説明する。なお、本実施形態に係る車両用制御システムの構成は、第1実施形態に係る車両用制御システムの構成とほぼ共通するため、説明を省略する。
上述した第1実施形態では、各制御部11〜18、21〜28、31〜38が記憶している管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aを利用して、車両の状態に応じて、動作すべき制御部11〜18、21〜28、31〜38が含まれるエリア及びドメインを決定し、当該エリア及びドメインに対して動作環境を提供するものであった。
ここで、動作環境が提供されるエリア及び/又はドメインが変更される場合に、変更後のエリア及びドメインに属する制御部11〜18、21〜28、31〜38による制御と、変更前のエリア及びドメインに属する制御部11〜18、21〜28、31〜38や、その制御部11〜18、21〜28、31〜38によって制御される車載装置が関連性を有する場合がある。
例えば、エアコン装置が、エンジンの冷却水を加熱源として車室内の暖房を行う場合、エンジンが停止されて冷却水の温度が低下してしまうと、エアコン装置は車室内の暖房を適切に行うことができなくなってしまう。この場合、冷却水の温度が低下した後も、エアコン装置が暖房を継続するためには、例えば、ヒートポンプなどの別の熱源を用いる必要が生じる。
しかし、パワートレインドメインのフロントエリアへの動作環境の提供が停止されると同時に、上述した熱源の切り替えを実行すると、却って制御性能の低下や、無駄なエレルギーの消費を招いてしまう可能性がある。つまり、ヒートポンプの稼働を開始しても、暖房のための熱源として利用可能となるまでには、ある程度の時間を要する。従って、ヒートポンプが暖房のための熱源として利用可能となるまでの間は、エアコンの暖房能力が低下してしまうことになる。また、エンジンの冷却水は、エンジンの停止に伴って即座に温度を低下させる訳ではなく、エンジンの停止後も、冷却水温度が高い間は、暖房のための熱源として利用することが可能である。従って、エンジン停止後も、エンジンの冷却水を利用して暖房を行うことで、エネルギーの消費を抑制できる可能性がある。
従って、例えば車両の状態が走行から停車へ変化し、エンジンが停止されても、パワートレインドメインのフロントエリアへの動作環境の提供を即座に停止するのではなく、その動作環境の提供を継続し、例えば、エンジン制御部が冷却水温度を検出して、ボデードメインのエアコン制御部へ通知できるようにすることが好ましい。このようにすれば、エンジンの冷却水を暖房のための熱源として有効利用できるとともに、エアコン制御部は、冷却水温度の変化から熱源の切り替えタイミングを推測して、ヒートポンプの稼働の開始を指示することができ、暖房能力の低下も回避することが可能となる。
このように、動作環境が提供されるエリア及び/又はドメインが変更される場合に、その変更後において動作環境が提供されるエリア及びドメインに属する制御部11〜18、21〜28、31〜38による制御と関連性がある制御部11〜18、21〜28、31〜38などが属するエリア及びドメインに対しては、動作環境提供範囲の変更により、動作環境の提供が停止されることになっていたとしても、動作環境の提供を継続することが望ましい場合がある。
そこで、本実施形態に係る車両用制御システムでは、特定の制御部11〜18、21〜28、31〜38による制御と関連性を持つ制御部11〜18、21〜28、31〜38に、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aの一部として、動作の停止に対しての制約を課す停止制約情報を含ませる。上述した例では、エンジン制御部は、車両が停止し、エンジンが停止しても、エアコン装置が作動している場合には、冷却水温度が所定温度に低下するまで作動を停止しないとの作動停止制約情報を持つ。
そして、車両状態の遷移により、動作環境が提供されるエリア及び/又はドメインが変更される際に、作動停止制約情報を有する制御部11〜18、21〜28、31〜38が属するエリア&ドメインが動作環境を提供されない予定となっても、統合制御部1は、作動停止制約情報に基づき、特定の制御部11〜18、21〜28、31〜38が動作予定である場合には、作動停止制約が有効であるとして、作動停止制約情報を有する制御部11〜18、21〜28、31〜38が属するエリア&ドメインへの動作環境の提供することを決定する。この動作環境の提供は、作動停止制約情報に含まれる作動停止制約を終了する条件が成立するまで継続される。これにより、制御性能の低下や、エネルギーの浪費を防止することが可能となる。
以下、図9のフローチャートを参照して、第2実施形態に係る車両用制御システムにおいて実行される制御の一例について説明する。なお、図9のフローチャートに示す処理は、第1実施形態に係る車両制御システムにおいて実行される図6のフローチャートに対して、追加的に実行されるものである。また、作動停止制約情報を持つ制御部11〜18、21〜28、31〜38は、動作環境が提供されていた状態から、動作環境の提供が停止される状態へと、車両状態が変化したときに、統合制御部1からの通知に対して、作動停止制約情報、エリアID、及びドメインIDを返送する。
ステップS400では、統合制御部1は、いずれかの制御部11〜18、21〜28、31〜38から作動停止制約情報を受信したか否かを判定する。この判定処理において、作動停止制約情報を受信したと判定すると、ステップS410の処理に進み、受信していないと判定すると、図9のフローチャートに示す処理を終了する。
ステップS410では、統合制御部1は、受信した作動停止制約が有効であるか否かを判定する。上述した例で言えば、エアコン装置が作動している場合、作動停止制約は有効であり、エアコン装置が作動していない場合、作動停止制約は無効であると判定される。この判定処理において、作動停止制約は有効であると判定するとステップS420の処理に進み、無効であると判定すると、図9のフローチャートに示す処理を終了する。
ステップS420では、作動停止制約情報を送信した制御部11〜18、21〜28、31〜38が属するエリア及びドメインを、動作環境の提供範囲に追加し、動作環境の提供を継続する。これにより、作動停止制約情報を送信した制御部は継続して動作可能となる。
続くステップS430では、作動停止制約の終了条件が成立し、作動停止制約が解消されたか否かを判定する。上述した例で言えば、エアコン装置の作動が停止されたか、又はエンジンの冷却水温度が所定温度まで低下した場合、作動停止制約の終了条件が成立し、作動停止制約が解消されたと判定される。この判定処理において、作動停止制約は解消されていないと判定されると、ステップS420の処理に戻り、動作環境の提供を継続する。一方、作動停止制約が解消されたと判定されると、作動停止制約情報を送信した制御部11〜18、21〜28、31〜38が属するエリア及びドメインの動作環境提供範囲への追加を取消して、動作環境の提供を停止させる。
このように、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aの一部として、作動停止制約情報を用いることで、異なるエリアやドメインに属する制御部11〜18、21〜28、31〜38同士が関連性を持つ場合であっても、その関連性を効果的に活かすことが可能になる。
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態に係る車両用制御システムについて説明する。なお、本実施形態に係る車両用制御システムの構成は、第1実施形態に係る車両用制御システムの構成とほぼ共通するため、説明を省略する。
上述した第2実施形態に係る車両用制御システムでは、異なるエリアやドメインに属する制御部11〜18、21〜28、31〜38同士が関連性を持つ場合に、その関連性を効果的に活かすべく作動停止制約情報を利用した。
それに対して、本実施形態に係る車両用制御システムでは、例えば車種やグレードの違いに応じて、基本となる制御システムの制御構造に対し、新たな機能(制御)が追加されたり、削除されたりした場合に、その基本となる制御システムにおける制御内容を全面的に見直さなくとも、機能の追加や削除に柔軟に対応することができるように、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aの一部として、機能変更情報を利用することを特徴とするものである。
以下、具体例について説明する。例えば、基本となる制御システムは、エンジン及びモータジェネレータを備える車両構成を前提に構築され、エンジン制御部と、MG制御部とをともに有している構成であったとする。
この基本となる制御システムでは、例えば、マスタPT制御部12が、運転者によるアクセルの踏込度合をアクセル開度センサによって検出し、その検出されたアクセル開度に応じて、必要車軸トルクを算出する。算出した必要車軸トルクは、フロントエリア41のローカルPT制御部22に出力される。ローカルPT制御部22は、受信した必要車軸トルクをエンジンとモータジェネレータとに分担させるべく、高圧バッテリの充電量などを考慮して、目標エンジントルクと目標モータトルクとを算出する。算出された、目標エンジントルク及び目標モータトルクは、それぞれ、PT機器制御部26であるエンジン制御部及びMG制御部へ出力される。エンジン制御部は、エンジンが目標エンジントルクを発生するように、エンジンの運転状態を制御する。同様に、MG制御部は、モータジェネレータが目標モータトルクを発生するように、モータジェネレータの駆動電流などを制御する。
上述した基本となる制御システムを、エンジンのみを備える場合にも適用する場合、ローカルPT制御部22では、必要車軸トルクをエンジンとモータジェネレータとに分担させる必要はないので、目標エンジントルクと目標モータトルクとの算出処理を省略し、必要車軸トルクをそのまま目標エンジントルクとして出力すれば良い。また、MG制御部では、モータジェネレータを制御する必要がないので、その制御動作そのものを停止させれば良い。このように、モータジェネレータの有無に応じて、ローカルPT制御部22及びMG制御部における処理内容を変更することができれば、機能の追加や削除に柔軟に対応することができるようになる。そのため、本実施形態に係る車両用制御システムでは、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aの一部として、機能変更情報を利用する。
機能変更情報の利用形態としては、以下の2つの形態が考えられる。すなわち、第1の利用形態は、例えば上述した例において、ローカルPT制御部22及びMG制御部が自身の管理情報22a、26aを参照したとき、その管理情報22a、26aに、モータジェネレータの制御機能が削除された旨の機能変更情報(機能削除情報)が含まれていれば、ローカルPT制御部22及びMG制御部は、モータジェネレータを制御するための処理を実行しないようにするものである。
一方、第2の利用形態は、上述した例において、ローカルPT制御部22及びMG制御部が自身の管理情報22a、26aを参照したとき、その管理情報22a、26aに、モータジェネレータの制御機能が追加された旨の機能変更情報(機能追加情報)が含まれていれば、ローカルPT制御部22及びMG制御部は、モータジェネレータを制御するための処理を実行するようにするものである。
いずれの利用形態であっても、基本となる制御システムの制御内容の全面的な見直しを行うことなく、各制御部11〜18、21〜28、31〜38において、機能の追加や削除に応じた制御処理を行わせることができる。
以下、図10のフローチャートを参照して、第3実施形態に係る車両用制御システムの各制御部11〜18、21〜28、31〜38において実行される制御の一例について説明する。なお、図10のフローチャートに示す処理は、上述した第1の利用形態を採用した場合の処理である。また、図10のフローチャートに示す処理は、第1実施形態に係る車両制御システムにおいて実行される図6のフローチャートにより、動作環境が提供されたエリア及びドメインに属する制御部11〜18、21〜28、31〜38において実行されるものである。
まず、ステップS500では、自身の管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aを参照し、その管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aに機能削除情報が含まれているか否かを判定する。この判定処理において、機能削除情報が含まれていると判定すると、ステップS510の処理に進む。一方、機能削除情報が含まれていないと判定すると、ステップS520の処理に進む。
ステップS510では、機能削除情報が示す削除機能に対応する処理の実行の中止を決定する。従って、この場合、制御部11〜18、21〜28、31〜38は、実行の中止を決定した処理以外の処理を実行する。実行の中止を決定した処理以外に、実行すべき処理が無い場合には、制御部11〜18、21〜28、31〜38はなんら処理を実行しない。逆に、ステップS520では、制御部11〜18、21〜28、31〜38は、プログラムされた全ての処理を実行することを決定して、その全ての処理の実行を開始する。
このように、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aの一部として、機能変更情報を用いることで、基本となる制御システムの制御構造に対し、新たな機能(制御)が追加されたり、削除されたりする場合であっても、その基本となる制御システムにおける制御内容を全面的に見直さずとも、機能の追加や削除に柔軟に対応することができる。
以上、本発明に係る車両用制御システムの好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
例えば、上述した実施形態では、統合制御部1から遷移後の車両状態の通知を受けたことに応じて、管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aに、該当する車両状態を記憶している制御部11〜18、21〜28、31〜38は、エリア情報及びドメイン情報を返送するものであった。このとき、さらに、制御部11〜18、21〜28、31〜38を特定する情報(例えば、制御部IDなど)を併せて返送するようにしても良い。そして、統合制御部1は、集約したエリア情報とドメイン情報とに基づいて動作環境を提供するエリア及びドメインを決定するとともに、制御部特定情報に基づき、それらのエリア及びドメインに属する制御部11〜18、21〜28、31〜38の中で、動作環境を提供すべき制御部11〜18、21〜28、31〜38も特定するようにしても良い。例えば、各マスタドメイン制御部11〜14が、動作環境提供責任を負う場合、統合制御部1は、各マスタドメイン制御部11〜14に対して、動作環境を提供するエリア及びドメインを指示することに加え、動作環境を提供する制御部11〜18、21〜28、31〜38も指示する。これにより、動作する制御部11〜18、21〜28、31〜38をより絞り込むことが可能となるため、一層の省エネルギーを図ることができる。
また、上述した実施形態では、統合制御部1が、各制御部11〜18、21〜28、31〜38に車両状態を通知し、各制御部11〜18、21〜28、31〜38からエリア情報及びドメイン情報の返送を受ける例について説明した。
しかしながら、そのような通知及び返送は、統合制御部1と特定の制御部間で行われるものであっても良い。例えば、マスタドメイン制御部11〜14が、自身のドメインに属する各制御部15〜18、21〜28、31〜38から事前に管理情報15a〜18a、21a〜28a、31a〜38aを収集して記憶しておく。そして、統合制御部1は、車両状態が遷移するとき、遷移後の車両状態を、各マスタドメイン制御部11〜14に通知する。各マスタドメイン制御部11〜14は、統合制御部1から通知された遷移後の車両状態が、記憶しているそれぞれの管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aに含まれる動作すべき車両状態の情報と一致しているかどうかを判定し、一致しているとき、その車両状態に対応するエリア情報及びドメイン情報を抽出して統合制御部1へ返送する。
あるいは、ローカルドメイン制御部(ローカルドメイン制御部を兼ねるマスタドメイン制御部を含む)11〜14、21〜24、31〜34が、自身のエリア内において自身のドメインに属する制御部15〜18、25〜28、35〜38から事前に管理情報15a〜18a、25a〜28a、35a〜38aを収集して記憶するものであっても良い。この場合、統合制御部1は、車両状態が遷移すると、遷移後の車両状態を、各ローカルドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34へ通知する。各ローカルドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34は、統合制御部1から通知された遷移後の車両状態が、記憶しているそれぞれの管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aに含まれる動作すべき車両状態の情報と一致しているかどうかを判定し、一致しているとき、その車両状態に対応するエリア情報及びドメイン情報を抽出して統合制御部1へ返送する。
このように、事前にマスタドメイン制御部11〜14やローカルドメイン制御部11〜14、21〜24、31〜34に管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aを集約しておくことにより、統合制御部1と各制御部11〜18、21〜28、31〜38間の通信時間の短縮などを通じて、動作環境を提供すべきエリア及びドメインの決定をより早く行うことができる。
さらに、統合制御部1が、各制御部11〜18、21〜28、31〜38から事前に管理情報を収集して記憶するようにしても良い。この場合、統合制御部1は、車両状態が遷移すると、記憶しているすべての管理情報11a〜18a、21a〜28a、31a〜38aを参照して、遷移後の車両状態に一致する、動作すべき車両状態の情報に対応するエリア情報及びドメイン情報をすべて抽出する。そして、統合制御部1は、抽出したエリア情報及びドメイン情報に基づき、動作すべき制御部11〜18、21〜28、31〜38が含まれるエリア及びドメインを決定することができる。
また、上述した実施形態では、各マスタドメイン制御部11〜14とは別個に統合制御部1を設けた例について説明したが、統合制御部1の機能は、いずれかのマスタドメイン制御部11〜14が兼ねるように構成しても良い。
また、上述した実施形態において、同じエリア内に配置される制御部については、ドメインの枠を超えて、共通のECUに混載実装されても良い。例えば図1に示した各制御部は、機能の括りを表したものであり、この括りが独立している限り、実装されるECUが独立したものであるか、他の機能にも共用されるものであるかは問題とならないためである。