本発明に係る車両用制御システムの実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する実施形態では、車両の走行駆動源として、エンジンと電動モータ(モータジェネレータ)とを有するハイブリッド車両に搭載される各種の車載機器に対して、本発明による車両用制御システムを適用した例について説明する。しかしながら、本発明による車両用制御システムは、ハイブリッド車両における車載機器の制御に適用されるばかりでなく、エンジンのみを有する通常の車両や、電動モータのみを有する電動車両の各種の車載機器の制御に適用されても良い。また、ドメイン分けに関して説明しているが、このドメイン分けは制御システムの制御構造に密接に関係するため、必ずしも以下に説明する例と同一のドメイン分けを行う必要なく、適宜、最適なドメイン分けを行えば良い。
図1は、上述したハイブリッド車両における各種の車載機器のための車両用制御システム100の全体構成の一例をブロック図として表したものである。本実施形態に係る車両用制御システム100は、制御対象とする複数の車載機器の機能(役割)に応じて、複数のドメインに区分けされ、それら複数のドメインにおいて、それぞれ、車載機器を制御するための機器制御部14,15,16,24,25,26,34,35,36,44,45,46,54,55,56,64,65,66と、それら機器制御部による制御を統括するドメイン制御部10,20,30,40,50,60とに階層化されている。そして、各ドメイン制御部10,20,30,40,50,60は相互に通信可能に接続されている。
なお、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56,64〜66と、ドメイン制御部10,20,30,40,50,60とは、プログラムやデータベースとして、CPU、ROM、RAM等を備えた電子制御装置(ECU)に実装することにより具現化される。この際、後述するエリア単位で、複数の機器制御部やドメイン制御部を共通の電子制御装置に実装するようにしても良い。
具体的には、図1に示す例において、車両用制御システム100は、パワートレイン(PT)、エレクトリカル(EL)、ボデー(BD)、シャシ(CS)、周囲環境(EVI)、HMIの6個のドメインに区分けされている。このように定めたドメインにより、ハイブリッド車両に搭載された多数の車載機器は、機能面で類似、関連するもの同士がグループ化される。
例えば、エンジン及びモータジェネレータ(MG)は、車両を加速させたり、減速させたり、あるいは速度を一定に保つための動力を車両に作用させる役割を担うため、パワートレインドメインに属する。さらに、トランスミッションは、エンジン及び/又はMGが発生したトルクを車両の走行状態に適するように変換して駆動軸に伝達する役割を担い、駆動力配分機構は、エンジン及び/又はMGが発生したトルク(駆動力)を4輪各輪に配分する役割を担うため、これらの車載機器もパワートレインドメインに属する。その他にも、MGに駆動電力を供給したり、MGが発電した電力を蓄電したりする役割を担う高圧バッテリ、低電圧バッテリの充電のために高圧バッテリが発生する高電圧を降圧して低電圧バッテリに供給するDCDCコンバータ、外部充電設備により高圧バッテリを充電するための充電器インターフェース(IF)などの車載機器も、パワートレインドメインに属するものとされる。
パワートレインドメインには、上述した車載機器を制御するための機器制御部14,15、16が設けられている。これらの機器制御部14,15,16は、原則として、パワートレインドメインに属する車載機器に対応して個別に設けられる。例えば、パワートレインドメインには、機器制御部14,15,16として、エンジン制御部、MG制御部、トランスミッション制御部、駆動力配分機構制御部、高圧バッテリ制御部、DCDCコンバータ制御部、充電器IF制御部などが設けられる。さらに、パワートレインドメインには、これらの機器制御部14,15,16の制御を統括するドメイン制御部として、パワートレイン(PT)ドメイン制御部10が設けられている。このPTドメイン制御部10は、機器制御部14,15,16に対して制御目標値を与える。機器制御部14,15,16は、共通のPTドメイン制御部10から与えられた制御目標値に従って、対応する車載機器を制御する。
PTドメイン制御部10は、マスタドメイン制御部としてのマスタパワートレイン(MPT)制御部11と、ローカルドメイン制御部としてのローカルパワートレイン(LPT)制御部12,13とから構成されている。MPT制御部11及びLPT制御部12,13は、後述するように、車両を3つのエリアに区画した際、3つのエリアに分かれて配置される。MPT制御部11は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えたものである。すなわち、MPT制御部11は、マスタドメイン制御部として、車両の状態や、運転者の操作状態に応じてパワートレインドメイン全体の制御目標を定め、さらに、ドメイン全体の制御目標に基づき、各エリアが実現すべきエリア制御目標値を定める。MPT制御部11によって定められたエリア制御目標値は、LPT制御部12,13に与えられる。LPT制御部12,13は、与えられたエリア制御目標値に基づき、機器制御部15,16を制御するための制御目標値を算出して、機器制御部15,16に出力する。この際、MPT制御部11も、ローカルドメイン制御部として、自身が属するエリアにおけるエリア制御目標値に基づき、機器制御部14を制御するための制御目標値を算出し、機器制御部14に出力する。
エレクトリカルドメインに属する車載機器としては、例えば、低圧バッテリや、この低圧バッテリから各種の車載機器への給電のオン、オフを切り換えるジャンクションボックス(JB)などが挙げられる。本実施形態では、低圧バッテリは、車両のエンジンルーム内に設置される主低圧バッテリ、車両のラゲッジスペース(又はトランクルーム)の床下などに設置される副低圧バッテリなど複数のバッテリを含む。また、ジャンクションボックスは、エンジンルール内及びその付近に搭載された車載機器への給電のオン、オフを切り換えるためのフロントジャンクションボックスと、主として車室内及びその付近に搭載された車載機器への給電のオン、オフを切り換えるセンタージャンクションボックスと、ラゲッジスペース内又はその付近に搭載された車載機器への給電のオン、オフを切り換えるリアジャンクションボックスとを含む。これらのジャンクションボックスは、いずれも、各車載機器へ給電するための電源として、主低圧バッテリと副低圧バッテリとのいずれかを選択することができるように構成されている。
エレクトリカルドメインには、上述した車載機器を制御するための機器制御部24,25、26が設けられている。すなわち、エレクトリカルドメインには、機器制御部24,25、26として、主低圧バッテリ制御部、副低圧バッテリ制御部、フロントJB制御部、センターJB制御部、リアJB制御部などが設けられている。さらに、エレクトリカルドメインには、これらの機器制御部24,25,26の制御を統括するドメイン制御部として、エレクトリカル(EL)ドメイン制御部20が設けられている。ELドメイン制御部20は、マスタドメイン制御部としてのマスタエレクトリカル(MEL)制御部21と、ローカルドメイン制御部としてのローカルエレクトリカル(LEL)制御部22,23とから構成されている。MEL制御部21は、PTドメイン制御部10のMPT制御部11の場合と同様に、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。
ボデードメインに属する車載機器として、例えば、ヘッドライトやポジションランプなどの前方灯火、歩行者等を保護するためにボンネットに設けられた外部エアバッグ、ドアのロック、アンロックを切り換えるモータや窓を開閉するモータ、シートポジションを調節するモータ、車室内の空調を行うエアコン、車両の乗員を保護するための乗員エアバッグ、リアゲートを自動開閉するためのモータ、ブレーキランプなどの後方灯火などがある。従って、このボデードメインには、機器制御部34,35,36として、前方灯火制御部、外部エアバッグ制御部、ドア制御部、シート制御部、エアコン制御部、乗員エアバッグ制御部、リアゲート制御部、後方灯火制御部などが設けられる。
さらに、ボデードメインには、これらの機器制御部34,35,36の制御を統括するドメイン制御部として、ボデー(BD)ドメイン制御部30が設けられている。BDドメイン制御部30は、マスタドメイン制御部としてのマスタボデー(MBD)制御部31と、ローカルドメイン制御部としてのローカルボデー(LBD)制御部32,33とから構成されている。MBD制御部31は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。
シャシドメインに属する車載機器としては、例えば、各車輪に設けられた油圧ブレーキを作動させるため、油圧ポンプや電磁バルブなどの油圧ブレーキ装置の構成部品を駆動するブレーキアクチュエータ、各車輪に設けられた減衰力調整可能なダンパ、各車輪のタイヤに設けられ、空気圧の検知信号を無線通信する空気圧センサ、電動パワーステアリング(EPS)、運転者によるブレーキペダルの踏力を増幅してマスタシリンダに伝えるための負圧を発生する負圧ポンプ(VP)などがある。従って、このシャシドメインには、機器制御部44,45,46として、ブレーキアクチュエータ制御部、ダンパ制御部、空気圧検知制御部、EPS制御部、VP制御部などが設けられる。なお、油圧ブレーキ装置は、前輪側と後輪側とで、それぞれ独立して、油圧を調整できるように構成されており、ブレーキアクチュエータは、左右前輪のブレーキ油圧を個別に調節可能な前輪側ブレーキアクチュエータと、左右後輪のブレーキ油圧を個別に調節可能な後輪側ブレーキアクチュエータとに分けられている。
さらに、シャシドメインには、これらの機器制御部44、45,46の制御を統括するドメイン制御部として、シャシ(CS)ドメイン制御部40が設けられている。CSドメイン制御部40は、マスタドメイン制御部としてのマスタシャシ(MCS)制御部41と、ローカルドメイン制御部としてのローカルシャシ(LCS)制御部42,43とから構成されている。MCS制御部41は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。
周囲環境ドメインに属する車載機器としては、例えば、車両前方の障害物を検出するためにフロントグリルやフロントバンパに設置されるレーザレーダ及びミリ波レーダ、車両前方の映像を撮影するためにフロントガラスの室内側に設置されるフロントカメラ、車両後方の映像を撮影するためにリアガラスの室内側に設置されるリアカメラ、車両後方の障害物を検出するためにリアバンパなどに設置されるミリ波レーダなどがある。従って、周囲環境ドメインには、機器制御部54,55,56として、レーザレーダ制御部、フロントミリ波レーダ制御部、フロントカメラ制御部、リアカメラ制御部、リアミリ波レーダ制御部などが設けられる。
さらに、周囲環境ドメインには、これらの機器制御部54,55,56の制御を統括するドメイン制御部として、周囲環境(EVI)ドメイン制御部50が設けられている。EVIドメイン制御部50は、マスタドメイン制御部としてのマスタ周囲環境(MEVI)制御部51と、ローカルドメイン制御部としてのローカル周囲環境(LEVI)制御部52,53とから構成されている。MEVI制御部51は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。
HMIドメインに属する車載機器としては、例えば、ボンネットの状態を検知するための検知機構、車室内に設けられたディスプレイや各種スイッチ、リアゲートの状態を検知するための検知機構などがある。従って、HMIドメインには、機器制御部64,65,66として、ボンネット状態検知制御部、ディスプレイ制御部、スイッチ制御部、リアゲート状態検知制御部などが設けられる。さらに、HMIドメインには、これらの機器制御部64,65,66の制御を統括するドメイン制御部として、HMIドメイン制御部60が設けられている。HMIドメイン制御部60は、マスタドメイン制御部としてのマスタHMI(MHMI)制御部61と、ローカルドメイン制御部としてのローカルHMI(LHMI)制御部42,43とから構成されている。MHMI制御部61は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。
次に、上述した車載機器、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56,64〜66及びドメイン制御部10,20,30,40,50,60の車両への配置について説明する。
まず、上述した各種の複数の車載機器は、各車載機器に求められる役割や搭載上のスペースの関係から、車両の各部に配置される。このため、上述したドメイン制御部10,20,30,40,50,60を、車両の所定の場所に集中的に配置すると、全体として、各車載機器までの通信配線の長さが長くなってしまい、車両内における取り回しが煩雑になってしまうことが懸念される。
そこで、本実施形態による車両用制御システム100では、図2に示すように、車両を少なくとも2つのエリアに分割する。図2には、車両を、フロントエリア70、ミドルエリア80、及びリアエリア90の3つのエリアに分割した例を示している。ただし、分割数は、図2の例のように3つに限定される訳ではない。例えば、車両を前方エリアと後方エリアのように2つのエリアに分割しても良い。また、前方右側エリア、前方左側エリア、後方右側エリア、後方左側エリアのように、4つのエリアに分割しても良い。4つのエリアに分割する場合、図2に示す分割例において、フロントエリアをさらに左右2つのエリアに分割しても良い。さらに、車両のサイズに応じて、5つのエリアや6つのエリアに分割しても良い。
このようにして、車両を少なくとも2つのエリアに分割することにより、複数の車載機器は、その配置場所に応じて、分割されたいずれかのエリアに振り分けられる。その車載機器の振り分けに応じて、該当する車載機器を制御する機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56,64〜66も同じエリアに属するように分散して配置する。さらに、各ドメイン制御部10,20,30,40,50,60の構成要素である、MPT制御部11、LPT制御部12,13、MEL制御部21、LEL制御部22,23、MBD制御部31、LBD制御部32、33、MCS制御部41、LCS制御部42,43、MEVI制御部51,LEVI制御部52、53、MHMI制御部61、LHMI制御部62,63も、制御目標値を出力すべき対応する機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56,64〜66と同じエリアに属するように分散して配置する。
この結果、関連するドメイン制御部10,20,30,40,50,60の構成要素であるローカルドメイン制御部(ローカルドメイン制御部の機能を備えたマスタドメイン制御部含む)と、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56,64〜66と、車載機器とを同じエリアに配置することができる。従って、それらを接続するための通信配線の長さの短縮化を図ることができる。その結果、車両における通信配線の取り回しの煩雑さを軽減することができる。
図3に、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56,64〜66、及び各ドメイン制御部10,20,30,40,50,60の各構成要素の各エリア70,80,90への配置例を示す。
図3に示す例では、パワートレインドメインにおいて、フロントエリア70に、機器制御部14として、エンジン制御部、MG制御部、トランスミッション制御部が配置されている。そして、フロントエリア70には、これらエンジン制御部、MG制御部、トランスミッション制御部による制御を統括するローカルドメイン制御部として、MPT制御部11が配置されている。すなわち、パワートレインドメインにおいては、フロントエリアに配置されるローカルドメイン制御部が、マスタ制御部としての機能も備えたものとなっている。
パワートレインドメインのミドルエリア80には、機器制御部15として、駆動力配分機構制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LPT制御部12が配置されている。また、パワートレインドメインのリアエリア90には、機器制御部16として、高圧バッテリ制御部、DCDCコンバータ制御部、充電器IF制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LPT制御部13が配置されている。
エレクトリカルドメインでは、フロントエリア70に、機器制御部24として、主低圧バッテリ制御部、フロントJB制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MEL制御部21が配置されている。このように、エレクトリカルドメインの場合も、マスタドメイン制御部が、フロントエリア70に配置されている。
エレクトリカルドメインのミドルエリア80には、機器制御部25として、センターJB制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LEL制御部22が配置されている。また、エレクトリカルドメインのリアエリア90には、機器制御部26として、副低圧バッテリ制御部、リアJB制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LEL制御部23が配置されている。
ボデードメインでは、フロントエリア70に、機器制御部35として、前方灯火制御部、外部エアバッグ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LBD制御部32が配置されている。ボデードメインのミドルエリア80には、機器制御部34として、ドア制御部、シート制御部、エアコン制御部、乗員エアバッグ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MBD制御部31が配置されている。このように、ボデードメインの場合、マスタドメイン制御部が、ミドルエリア80に配置されている。また、ボデードメインのリアエリア90には、機器制御部36として、リアゲート制御部、後方灯火制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LBD制御部33が配置されている。
シャシドメインでは、フロントエリア70に、機器制御部45として、前輪側ブレーキアクチュエータ制御部、左右前輪のダンパの減衰力を制御する前輪ダンパ制御部、左右前輪の空気圧の検知を制御する前輪空気圧検知制御部、EPS制御部が配置されている。また、フロントエリアには、これらの機器制御部45を統括して制御するためのローカルドメイン制御部として、LCS制御部42が配置されている。
シャシドメインのミドルエリア80には、機器制御部44として、VP制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MCS制御部41が配置されている。このように、シャシドメインにおいても、マスタドメイン制御部が、ミドルエリア80に配置されている。また、シャシドメインのリアエリア90には、機器制御部46として、後輪側ブレーキアクチュエータ制御部、後輪ダンパ制御部、後輪空気圧検知制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LCS制御部43が配置されている。
周囲環境ドメインでは、フロントエリア70に、機器制御部55として、レーザレーダ制御部、フロントミリ波レーダ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LEVI制御部52が配置されている。周囲環境ドメインのミドルエリア80には、機器制御部54として、フロントカメラ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MEVI制御部51が配置されている。このように、周囲環境ドメインの場合も、マスタドメイン制御部が、ミドルエリア80に配置されている。周囲環境ドメインのリアエリア90には、機器制御部56として、リアカメラ制御部、リアミリ波レーダ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LEVI制御部53が配置されている。
HMIドメインでは、フロントエリア70に、機器制御部65として、ボンネット状態検知制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LHMI制御部62が配置されている。HMIドメインのミドルエリア80には、機器制御部64として、ディスプレイ制御部、スイッチ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MHMI制御部61が配置されている。このように、HMIドメインの場合も、マスタドメイン制御部が、ミドルエリア80に配置されている。HMIドメインのリアエリア90には、機器制御部66として、リアゲート状態検知制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LHMI制御部63が配置されている。
次に、図4及び図5のフローチャートに基づき、各ドメインにおける、ローカルドメイン制御部の制御処理と、マスタドメイン制御部の制御処理とについて説明する。まず、図4のフローチャートを参照しつつ、ローカルドメイン制御部の制御処理について説明する。なお、図4及び図5のフローチャートに示す処理は、所定時間毎に繰り返し実行される。
図4のフローチャートのステップS100において、ローカルドメイン制御部は、マスタドメイン制御部からエリア制御目標値を受信したか否かを判定する。この判定処理において、未受信と判定した場合には、このステップS100の処理を繰り返すことにより、エリア制御目標値を受信するまで待機する。エリア制御目標値を受信したと判定した場合には、ステップS110の処理に進む。
ステップS110では、受信したエリア制御目標値に基づいて、機器制御部14〜16、24〜26、34〜36、44〜46、54〜56、64〜66に対する制御目標値を算出し、出力する。例えば、パワートレインドメインのフロントエリア70に配置されたMPT制御部11は、フロントエリアのエリア制御目標値として、車両として必要なトルクを算出する。MPT制御部11は、この必要トルクを最も効率良く実現できるように、エンジンとMGとの分担割合を定める。そして、この定めた分担割合に応じた目標エンジ
ントルク及び目標MGトルクを、制御目標値として、エンジン制御部及びMG制御部に出
力する。また、MPT制御部11は、エンジン及びMGにより出力されるトルクを車両の走行状態に適するように変換するための目標変速比を定め、制御目標値として、トランスミッション制御部に出力する。
続く、ステップS120では、制御目標値に従い、機器制御部14〜16、24〜26、34〜36、44〜46、54〜56、64〜66が制御を行った結果に応じた物理量を検出する。例えば、パワートレインドメインのフロントエリア70に配置されたMPT制御部11は、エンジン回転数、モータ回転数、トランスミッションの入出力軸の回転数を適切なセンサを用いて検出する。そして、ステップS130において、これらの制御結果に応じた物理量に基づいて、制御目標値通りの制御が行われたか否か、換言すれば、制御目標値通りの制御結果が得られず、なんらかの異常が発生したとみなせるか否かを判定する。ステップS130において、異常が発生したとの判定がなされた場合、ステップS140の処理に進み、一方、異常は発生していないとの判定がなされた場合、ステップS160の処理に進む。
ステップS140では、異常の態様に応じた異常仮処置を実行する。例えば、目標エンジントルクを発生するようにエンジンを制御した結果、エンジンの回転数が規定範囲を超えてオーバーラン(OR)した場合には、異常仮処置として、エンジンの回転数が規定範囲の上限値を超えないように制限する。また、MGに関しても同様に、目標MGトルクを発生するようにMGを制御した結果、MGの回転数がオーバーランした場合にも、MGの回転数を制限する。続くステップS150では、このような異常の態様と、その仮処置の内容をマスタドメイン制御部へ通知する。これにより、マスタドメイン制御部にて、異常本処置として、各エリアにおけるエリア制御目標値を適切に変更することが可能となる。
一方、ステップS160では、マスタドメイン制御部に対し、正常である旨を通知し、図4のフローチャートに示す処理を一旦終了する。
次に、図5のフローチャートを参照しつつ、マスタドメイン制御部の制御処理について説明する。
まずステップS200において、各種のセンサを用いて、車両の状態、乗員(運転者)による各種の操作機器や操作スイッチの操作状態を検出する。続くステップS210において、ステップS200での検出結果に基づいて、ドメイン全体の制御目標を算出する。
ステップS220では、後述するステップS260の処理が実行されており、異常本処置が実行中であるか否かを判定する。この判定処理において、異常本処置が実行中でないと判定された場合、ステップS230の処理に進み、異常本処置が実行中であると判定された場合、ステップS260の処理に進む。
ステップS230では、ステップS210で算出したドメイン全体の制御目標に基づき、各エリアで実行すべき制御を示すエリア制御目標値を算出して、各ローカルドメイン制御部に送信する。これにより、各エリアにローカルドメイン制御部を分散配置した場合であっても、各エリアにおける制御の全体的な整合を図ることが可能になる。
この際、マスタドメイン制御部は、必要に応じて、他のマスタドメイン制御部へも、制御目標値を送信する。例えば、車両の運転者がブレーキペダルを操作した場合、パワートレインドメインのマスタドメイン制御部であるMPT制御部11は、ブレーキペダル操作に応じた制動トルクを発生させるべく、高圧バッテリでの充電可能量を考慮しつつ、油圧ブレーキと回生ブレーキとのそれぞれの目標ブレーキトルクを算出する。そして、MPT制御部11は、算出した油圧ブレーキの目標ブレーキトルクをシャシドメインのMCS制御部41へ送信する。
続くステップS240では、ローカルドメイン制御部から異常発生の通知を受信したか否かを判定する。異常発生の通知を受信していないと判定した場合には、一旦、図5のフローチャートに示す処理を終了する。一方、異常発生通知を受信したと判定した場合には、ステップS250の処理に進む。
ステップS250では、受信した異常の態様及び異常仮処置の内容に基づき、その異常に対して、異常本処置として、どのように対応するかを決定する。この際、異常本処置は、異常の態様に応じて、異常が生じたエリアだけで行う場合と、異常及び正常なエリアの両方で行うことが必要な場合があり得る。この点については、後にいくつかの具体例を示して説明する。続くステップS260では、決定された異常本処置に応じて、エリア制御目標値の変更値を算出し、該当するエリアのローカルドメイン制御部へ送信する。
本実施形態による車両用制御システムでは、上述したように、関連するローカルドメイン制御部(ローカルドメイン制御部の機能を備えたマスタドメイン制御部)と、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56,64〜66と、車載機器とが同じエリアに分散配置される。この場合、エリア単位で個別に異常が発生する可能性が生じる。このような問題に対して、上述したように、ローカルドメイン制御部にて異常の発生を判定し、異常発生時には異常仮処置を行うようにした。さらに、マスタドメイン制御部が、異常本処置として、ローカルドメイン制御部に与えるエリア制御目標値を変更するようにした。これにより、発生した異常の影響を軽減して、極力、制御を継続することが可能になる。
ここで、各エリアのローカルドメイン制御部が、異常発生とみなすいくつかの態様と、その際の異常仮処置及び異常本処置とについて、図6を参照して説明する。
例えば、パワートレインドメインのフロントエリアでは、ローカルドメイン制御部は、上述したようにエンジンのオーバーランやMGのオーバーランを異常発生とみなし、異常仮処置として、OR防止のため、回転数に制限を課す。そして、異常本処置として、マスタドメイン制御部は、エンジンとMGとのトルク配分を変更する。エンジンとMGとのトルク配分の変更は、フロントエリアのローカルドメイン制御部にて行われるので、この場合には、異常が生じたエリアだけで異常本処置が行われることになる。
パワートレインドメインのミドルエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、実際の駆動力配分が制御目標値と異なっている場合に異常発生とみなし、異常仮処置として、2輪駆動に切り替える。そして、この場合の異常本処置として、マスタドメイン制御部は、異常が発生したミドルエリアのLPT制御部12に対して、エリア制御目標値として2輪駆動を指示するとともに、正常なフロントエリアのMPT制御部11において、2輪駆動を前提としつつ、車両挙動の安定性が確保できる駆動力が発生されるように、フロントエリアのエリア制御目標値を定める。従って、この場合には、異常及び正常なエリアの両方で異常本処置が行われることになる。
パワートレインドメインのリアエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、高圧バッテリの充放電が制御目標値通りに行われず、高圧バッテリの過充電、過放電が生じた場合や、高圧バッテリからの漏電が生じている場合を異常発生とみなし、異常仮処置として、リレースイッチをオフすることにより、高圧バッテリを遮断する。この場合の異常本処置として、マスタドメイン制御部は、エンジンのみで車両を駆動するようにする。この際、エンジンの出力を抑えて、リンプホーム走行のみ許可するようにしても良い。
エレクトリカルドメインのフロントエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、主低圧バッテリ及びフロントJBを介しての各車載機器や制御部への配電が正常に行われない場合を異常発生とみなし、異常仮処置として、主低圧バッテリを遮断する。この場合の異常本処置として、マスタドメイン制御部は、配電の供給元を、主低圧バッテリから副低圧バッテリへ切り換える。
エレクトリカルドメインのミドルエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、センターJBによって配電が正常に行われない場合を異常発生とみなし、センター配電を受けての車載機器の機能を一時的に停止させる。その後、異常本処置として、マスタドメイン制御部は、センターJBを介しての配電供給元が主低圧バッテリとなっていた場合には、その配電分担を副低圧バッテリに変更する。配電経路を変更することにより、配電が正常に行われる可能性が高くなるためである。
エレクトリカルドメインのリアエリアでは、ローカルドメイン制御は、例えば、副低圧バッテリ及びリアJBを介しての各車載機器や制御部への配電が正常に行われない場合を異常発生とみなし、異常仮処置として、副低圧バッテリを遮断する。この場合の異常本処置として、マスタドメイン制御部は、配電の供給元を、副低圧バッテリから主低圧バッテリへ切り換える。
シャシドメインのフロントエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、前輪空気圧センサからの検知信号を正常に受信できない場合などを異常発生とみなし、異常仮処置として、空気圧センサを用いた空気圧検知を中止する。この場合の異常本処置として、マスタドメイン制御部は、例えば、タイヤの空気圧に応じてタイヤの外径が変化し、結果として、車輪回転数も変化することを利用し、車輪速度センサからの信号を用いた空気圧の推定に切り替える。
シャシドメインのミドルエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、負圧ポンプにより発生されるブレーキ負圧が不足した場合を異常発生とみなし、異常仮処置として、ブレーキ負圧不足を補うために負圧ポンプが過剰に駆動されないように駆動制限をかける。さらに異常本処置として、マスタドメイン制御部は、運転者がブレーキペダルを操作したときの踏込不足が予想されるため、ブレーキペダルの踏込に対する制動トルクを高めたり、油圧ブレーキと回生ブレーキとのバランスを変更したりする。
シャシドメインのリアエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、後輪ダンパの減衰力の調整が目標値通りに行われない場合を異常発生とみなし、異常仮処理として、ダンパの減衰力を固定する。そして、異常本処置として、マスタドメイン制御部は、異常ダンパの減衰力に合わせて4輪のダンパバランスが確保されるように、例えば、残り3つのダンパの減衰力も、異常ダンパの減衰力と同じ値に固定する。
周囲環境ドメインのフロントエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、レーザレーダ又はミリ波レーダにより障害物を正常に検知できない場合を異常発生とみなし、異常仮処置として、異常レーダの使用を中止する。この場合の異常本処置として、マスタドメイン制御部は、例えば、障害物を回避するための制御が、より早期に回避されるように、制御開始基準を変更する。
周囲環境ドメインのミドルエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、カメラによる車両周囲の撮影や、その撮影画像の画像処理が正常に行われない場合を異常発生とみなし、異常仮処置として、カメラの使用を中止する。この場合の異常本処置として、マスタドメイン制御部は、例えば、上記のレーダ異常のケースと同様に、制御開始基準を変更する。
周囲環境ドメインのリアエリアでは、ローカルドメイン制御部は、例えば、フロントエリアの場合と同様に、ミリ波レーダにより障害物を正常に検知できない場合を異常発生とみなし、異常仮処置として、異常レーダの使用を中止する。この場合の異常本処置として、マスタドメイン制御部は、制御開始基準を変更する。
HMIドメインのフロントエリアでは、ローカルドメイン制御部は、ボンネット状態を正常に検知できない場合を異常発生とみなし、異常仮処理として、ボンネット状態の検知を中止する。この場合、マスタドメイン制御部は、他の検知手段(カメラや、乗員が携帯している通信機の通信位置履歴等)を用いて乗員動作を推定し、その推定結果に基づいて、乗員がボンネットを完全に締めていない可能性があるかどうかを判定する。そして、乗員がボンネットを開けていない可能性が高い場合には、車両の起動を許可する判定を行い、一方、ボンネットを完全に締めていない可能性がある場合には、車両の起動を禁止したまま、例えば、ボンネットが完全に閉じられているか否かを乗員に問い合わせる。この際、乗員からボンネットは閉じられている旨の回答が得られたら、車両の起動を許可する。
HMIドメインのリアエリアでは、ローカルドメイン制御部は、リアゲート(又はトランク)の状態を正常に検知できない場合を異常発生とみなし、異常仮処理として、リアゲート状態の検知を中止する。この場合、マスタドメイン制御部は、他の検知手段(カメラや、乗員が携帯している通信機の通信位置履歴等)を用いて乗員動作を推定し、その推定結果に基づいて、乗員がリアゲートを完全に締めていない可能性があるかどうかを判定する。そして、乗員がリアゲートを開けていない可能性が高い場合には、車両の起動を許可する判定を行い、一方、リアゲートを完全に締めていない可能性がある場合には、車両の起動を禁止したまま、例えば、リアゲートが完全に閉じられているか否かを乗員に問い合わせる。この際、乗員からリアゲートは閉じられている旨の回答が得られたら、車両の起動を許可する。
このように、いずれかのエリアにおいて異常が発生すると、まず、そのエリアのローカルドメイン制御部が、異常仮処置を行い、その後、マスタドメイン制御部が、異常本処置を実行する。そのため、異常が発生した場合、各エリアで遅滞なく異常に対する安全処置(異常仮処置)を実施し、その後、車両全体で、その安全処置との整合をはかりつつ、適切な処置(異常本処置)を施すことが可能になる。
ただし、いずれかのエリアで異常が発生した場合、ローカルドメイン制御部は、異常仮処置を実施することなく、その異常の態様をマスタドメイン制御部に通知し、マスタドメイン制御部から、ローカルドメイン制御に対して、取るべき安全処置を指示するようにしても良い。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々、変形して実施することが可能である。
例えば、上述した実施形態では、車両の前後方向において、車両を3つのエリア(フロントエリア、ミドルエリア、リアエリア)に分割した。しかしながら、左右方向において、車両を2つのエリアに分割した場合、異常本処置として、左右で機能を補完するようにしても良い。
例えば、前方灯火において、片側に異常が発生した場合、その片側の異常灯火による影響を抑えるために、正常灯火の光軸を調節するようにしても良い。例えば、光量不足が生じている場合には、正常灯火の光軸をハイビーム側に調節する。また、光軸の制御不良が生じている場合には、車両旋回時の視界確保のために、正常灯火の光軸を左右方向に調節する。また、例えば、EPS制御部と、前輪ブレーキアクチュエータ制御部とを左右の異なるエリアに配置し、EPS制御において、アシストトルクが不足する異常が生じた場合に、旋回内側の前輪ブレーキを作動させ、車両の旋回力を補助するようにしても良い。
また、上述した実施形態では、いずれかのローカルドメイン制御部が、マスタドメイン制御部としての機能を兼ね備える例について説明した。しかしながら、マスタドメイン制御部は、各エリアに設けられるローカルドメイン制御部とは別個に設けても良い。また、マスタドメイン制御部は、例えば、複数設けて、メインのマスタドメイン制御部が故障した場合には、別のマスタドメイン制御部がドメイン全体の制御を引き継ぐようにしても良い。
さらに、上述した実施形態では、各マスタドメイン制御部が、最上位の制御部として、車両の状態や、運転者の操作状態に応じて、対応するドメイン全体の制御目標を定めたり、他のドメイン制御部との協調制御を実行したりする例について説明した。
しかしながら、各マスタドメイン制御部の上位に位置付けられる上位制御部をさらに設けても良い。上位制御部は、例えば、車両の状態、運転者の操作状態、外部環境の状態などに基づき、各ドメインの制御目標を定めて通知するようにしても良い。この場合、各ドメイン制御部は、上位制御部から通知されたドメインの制御目標を達成するように、エリア制御目標を定めて各ローカルドメインに通知する。あるいは、上位制御部は、車両全体の制御モードを設定し(例えば、手動運転モードと自動運転モードとのいずれかの設定や、走行優先モード、燃費優先モード、快適性優先モードのいずれかの設定など)、その設定した制御モードを各ドメイン制御部に通知するようにしても良い。制御モードが通知された場合、各ドメイン制御部は、その通知された制御モードに応じて、制御内容を切り替えるように構成される。さらに、上位制御部は、各ドメイン制御部において定められたドメイン制御目標を調停するものであっても良い。例えば、上位制御部は、それぞれのドメイン制御部において設定されたドメイン制御目標がマッチングしているかどうかを判定し、マッチングしていない場合には、少なくとも1つのドメイン制御部に対し、ドメイン制御目標の変更を指示するものであっても良い。一例として、各ドメインにおける制御目標が、消費電力の大きい制御を指示するものであった場合に、消費電力の平準化のために、上位制御部は、各ドメインにおける制御に優先度を設定し、優先度の低い制御に対応するドメイン制御目標を、一端保留させたり、消費電力の低い制御に対応するドメイン制御目標に変更させたりしても良い。
また、この上位制御部もプログラムやデータベースとして、CPU、ROM、RAM等を備えた電子制御装置(ECU)に実装することにより具現化される。この上位制御部は、マスタドメイン制御部11,21,31,41,51,61とは独立して設けても良いし、例えば、エリア制御に依存しないマスタドメイン制御部11,21,31,41,51,61をドメイン制御部10,20,30,40,50,60から少なくとも1つ分離し、その分離したマスタドメイン制御部と共通の電子制御装置に実装しても良い。