本発明に係る車両用制御システムの実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する実施形態では、車両の走行駆動源として、エンジンと電動モータ(モータジェネレータ)とを有するハイブリッド車両に搭載される各種の車載機器に対して、本発明による車両用制御システムを適用した例について説明する。しかしながら、本発明による車両用制御システムは、ハイブリッド車両における車載機器の制御に適用されるばかりでなく、エンジンのみを有する通常の車両や、電動モータのみを有する電動車両の各種の車載機器の制御に適用されても良い。また、ドメイン分けに関して説明しているが、このドメイン分けは制御システムの制御構造に密接に関係するため、必ずしも以下に説明する例と同一のドメイン分けを行う必要なく、適宜、最適なドメイン分けを行えば良い。
図1は、上述したハイブリッド車両における各種の車載機器のための車両用制御システム100の全体構成の一例をブロック図として表したものである。本実施形態に係る車両用制御システム100は、制御対象とする複数の車載機器の機能(役割)に応じて、複数のドメインに区分けされ、それら複数のドメインにおいて、それぞれ、車載機器を制御するための機器制御部14,15,16,24,25,26,34,35,36,44,45,46,54,55,56と、それら機器制御部による制御を統括するドメイン制御部10,20,30,40,50とに階層化されている。そして、各ドメイン制御部10,20,30,40,50は相互に通信可能に接続されている。
なお、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56と、ドメイン制御部10,20,30,40,50とは、プログラムやデータベースとして、CPU、ROM、RAM等を備えた電子制御装置(ECU)に実装することにより具現化される。この際、後述するエリア単位で、複数の機器制御部やドメイン制御部を共通の電子制御装置に実装するようにしても良い。
具体的には、図1に示す例において、車両用制御システム100は、シャシ(CS)、パワートレイン(PT)、ボデー(BD)、周囲環境(EVI)、HMIの5個のドメインに区分けされている。このように定めたドメインにより、ハイブリッド車両に搭載された多数の車載機器は、機能面で類似、関連するもの同士がグループ化される。
例えば、シャシドメインには、各車輪に設けられた油圧ブレーキを作動させるため、油圧ポンプや電磁バルブなどの油圧ブレーキ装置の構成部品を駆動するブレーキアクチュエータ、各車輪に設けられた減衰力調整可能なダンパ、各車輪のタイヤに設けられ、空気圧の検知信号を無線通信する空気圧センサ、電動パワーステアリング(EPS)、エンジンや電動モータの回転を適切な変速比で変速して駆動軸に伝えるトランスミッション(TM)、運転者によるブレーキペダルの踏力を増幅してマスタシリンダに伝えるための負圧を発生する負圧ポンプ(VP)などの車載機器が属する。
そして、シャシドメインには、上述した車載機器を制御するための機器制御部14,15,16が設けられている。これらの機器制御部14,15,16は、原則として、シャシドメインに属する車載機器に対応して個別に設けられる。例えば、シャシドメインには、機器制御部14,15,16として、ブレーキアクチュエータ制御部、ダンパ制御部、空気圧検知制御部、EPS制御部、TM制御部、VP制御部などが設けられる。なお、油圧ブレーキ装置は、前輪側と後輪側とで、それぞれ独立して、油圧を調整できるように構成されており、ブレーキアクチュエータは、左右前輪のブレーキ油圧を個別に調節可能な前輪側ブレーキアクチュエータと、左右後輪のブレーキ油圧を個別に調節可能な後輪側ブレーキアクチュエータとに分けられている。このため、ブレーキアクチュエータ制御部としても、前輪側ブレーキアクチュエータ制御部と、後輪側ブレーキアクチュエータ制御部とが設けられる。
さらに、シャシドメインには、これらの機器制御部14,15,16の制御を統括するドメイン制御部として、シャシ(CS)ドメイン制御部10が設けられている。このCSドメイン制御部10は、機器制御部14,15,16に対して制御目標値を与える。機器制御部14,15,16は、共通のCSドメイン制御部10から与えられた制御目標値に従って、対応する車載機器を制御する。
CSドメイン制御部10は、マスタドメイン制御部としてのマスタシャシ(MCS)制御部11と、ローカルドメイン制御部としてのローカルシャシ(LCS)制御部12,13とから構成されている。MCS制御部11及びLCS制御部12,13は、後述するように、車両を3つのエリアに区画した際、3つのエリアに分散して配置される。MCS制御部11は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えたものである。すなわち、MCS制御部11は、マスタドメイン制御部として、車両の状態や、運転者の操作状態に応じてシャシドメイン全体の制御目標を定め、さらに、ドメイン全体の制御目標に基づき、各エリアが実現すべきエリア制御目標値を定める。MCS制御部11によって定められたエリア制御目標値は、LCS制御部12,13に与えられる。LCS制御部12,13は、与えられたエリア制御目標値に基づき、機器制御部15,16を制御するための制御目標値を算出して、機器制御部15,16に出力する。この際、MCS制御部11も、ローカルドメイン制御部として、自身が属するエリアにおけるエリア制御目標値に基づき、機器制御部14を制御するための制御目標値を算出し、機器制御部14に出力する。
パワートレインドメインには、例えば、車両を加速させたり、減速させたり、あるいは速度を一定に保つための動力を車両に作用させる役割を担うエンジン及びモータジェネレータ(MG)、エンジン及び/又はMGが発生したトルク(駆動力)を4輪各輪に配分する役割を担う駆動力配分機構、MGに駆動電力を供給したり、MGが発電した電力を蓄電したりする役割を担う高圧バッテリ、低電圧バッテリの充電のために高圧バッテリが発生する高電圧を降圧して低電圧バッテリに供給するDCDCコンバータ、外部充電設備により高圧バッテリを充電するための充電器インターフェース(IF)などの車載機器が属する。さらに、パワートレインドメインには、低圧バッテリや、この低圧バッテリから各種の車載機器への給電のオン、オフを切り換えるジャンクションボックス(JB)などの車載機器が属していても良い。
なお、低圧バッテリは、車両のエンジンルーム内に設置される主低圧バッテリ、車両のラゲッジスペース(又はトランクルーム)の床下などに設置される副低圧バッテリなど複数のバッテリを含む。また、ジャンクションボックスは、エンジンルール内及びその付近に搭載された車載機器への給電のオン、オフを切り換えるためのフロントジャンクションボックス(JB)と、主として車室内及びその付近に搭載された車載機器への給電のオン、オフを切り換えるセンタージャンクションボックスと、ラゲッジスペース内又はその付近に搭載された車載機器への給電のオン、オフを切り換えるリアジャンクションボックスとを含む。これらのジャンクションボックスは、いずれも、各車載機器へ給電するための電源として、主低圧バッテリと副低圧バッテリとのいずれかを選択することができるように構成されている。
パワートレインドメインには、上述した車載機器を制御するための機器制御部24,25、26が設けられている。すなわち、パワートレインドメインには、機器制御部24,25,26として、エンジン制御部、MG制御部、駆動力配分機構制御部、高圧バッテリ制御部、DCDCコンバータ制御部、充電器IF制御部、主低圧バッテリ制御部、副低圧バッテリ制御部、フロントJB制御部、センターJB制御部、リアJB制御部などが設けられる。さらに、パワートレインドメインには、これらの機器制御部24,25,26の制御を統括するドメイン制御部として、パワートレイン(PT)ドメイン制御部20が設けられている。このPTドメイン制御部20は、マスタドメイン制御部としてのマスタパワートレイン(MPT)制御部21と、ローカルドメイン制御部としてのローカルパワートレイン(LPT)制御部22,23とから構成されている。MPT制御部21は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。すなわち、MPT制御部21は、マスタドメイン制御部として、パワートレインドメイン全体の制御目標を定め、さらに、ドメイン全体の制御目標に基づき、各エリアが実現すべきエリア制御目標値を定める。MPT制御部21によって定められたエリア制御目標値は、LPT制御部22,23に与えられる。
ボデードメインには、例えば、ヘッドライトやポジションランプなどの前方灯火、歩行者等を保護するためにボンネットに設けられた外部エアバッグ、エンジンルームへの外気導入孔を開閉するシャッター、ドアのロック、アンロックを切り換えるモータや窓を開閉するモータ、シートポジションを調節するモータ、車室内の空調を行うエアコン、車両の乗員を保護するための乗員エアバッグ、リアゲートを自動開閉するためのモータ、ブレーキランプなどの後方灯火などの車載機器が属する。従って、このボデードメインには、機器制御部34,35,36として、前方灯火制御部、外部エアバッグ制御部、シャッター制御部、ドア制御部、シート制御部、エアコン制御部、乗員エアバッグ制御部、リアゲート制御部、後方灯火制御部などが設けられる。
さらに、ボデードメインには、これらの機器制御部34,35,36の制御を統括するドメイン制御部として、ボデー(BD)ドメイン制御部30が設けられている。BDドメイン制御部30は、マスタドメイン制御部としてのマスタボデー(MBD)制御部31と、ローカルドメイン制御部としてのローカルボデー(LBD)制御部32,33とから構成されている。MBD制御部31は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。
周囲環境ドメインには、例えば、車両前方の障害物を検出するためにフロントグリルやフロントバンパに設置されるレーザレーダ及びミリ波レーダ、車両前方の映像を撮影するためにフロントガラスの室内側に設置されるフロントカメラ、外気温度を検出する外気温度センサ、車両後方の映像を撮影するためにリアガラスの室内側に設置されるリアカメラ、車両後方の障害物を検出するためにリアバンパなどに設置されるミリ波レーダ、乗員が保持する携帯型キーが正規のものであるか否かを認証するために、携帯型キーと通信する通信装置などの車載機器が属する。従って、周囲環境ドメインには、機器制御部44,45,46として、レーザレーダ制御部、フロントミリ波レーダ制御部、フロントカメラ制御部、温度センサ制御部、リアカメラ制御部、リアミリ波レーダ制御部、通信装置制御部(認証装置)などが設けられる。
さらに、周囲環境ドメインには、これらの機器制御部44,45,46の制御を統括するドメイン制御部として、周囲環境(EVI)ドメイン制御部40が設けられている。EVIドメイン制御部40は、マスタドメイン制御部としてのマスタ周囲環境(MEVI)制御部41と、ローカルドメイン制御部としてのローカル周囲環境(LEVI)制御部42,43とから構成されている。MEVI制御部41は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。
HMIドメインには、例えば、ボンネットの状態を検知するための検知機構、車室内に設けられたディスプレイや各種スイッチ、リアゲートの状態を検知するための検知機構などの車載機器が属する。従って、HMIドメインには、機器制御部54,55,56として、ボンネット状態検知制御部、ディスプレイ制御部、スイッチ制御部、リアゲート状態検知制御部などが設けられる。さらに、HMIドメインには、これらの機器制御部54,55,56の制御を統括するドメイン制御部として、HMIドメイン制御部50が設けられている。HMIドメイン制御部50は、マスタドメイン制御部としてのマスタHMI(MHMI)制御部51と、ローカルドメイン制御部としてのローカルHMI(LHMI)制御部52,53とから構成されている。MHMI制御部51は、マスタドメイン制御部としての機能と、ローカルドメイン制御部としての機能とを兼ね備えている。
次に、上述した車載機器、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56及びドメイン制御部10,20,30,40,50の車両への配置について説明する。
まず、上述した各種の複数の車載機器は、各車載機器に求められる役割や搭載上のスペースの関係から、車両の各部に配置される。このため、上述したドメイン制御部10,20,30,40,50を、車両の所定の場所に集中的に配置すると、全体として、各車載機器までの通信配線の長さが長くなってしまい、車両内における取り回しが煩雑になってしまうことが懸念される。
そこで、本実施形態による車両用制御システム100では、図2に示すように、車両を少なくとも2つのエリアに分割する。図2には、車両を、フロントエリア70、ミドルエリア80、及びリアエリア90の3つのエリアに分割した例を示している。ただし、分割数は、図2の例のように3つに限定される訳ではない。例えば、車両を前方エリアと後方エリアのように2つのエリアに分割しても良い。また、前方右側エリア、前方左側エリア、後方右側エリア、後方左側エリアのように、4つのエリアに分割しても良い。4つのエリアに分割する場合、図2に示す分割例において、フロントエリアをさらに左右2つのエリアに分割しても良い。さらに、車両のサイズに応じて、5つのエリアや6つのエリアに分割しても良い。
このようにして、車両を少なくとも2つのエリアに分割することにより、複数の車載機器は、その配置場所に応じて、分割されたいずれかのエリアに振り分けられる。その車載機器の振り分けに応じて、該当する車載機器を制御する機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56も同じエリアに属するように分散して配置する。さらに、各ドメイン制御部10,20,30,40,50の構成要素である、MCS制御部11、LCS制御部12,13、MPT制御部21、LPT制御部22,23、MBD制御部31、LBD制御部32、33、MEVI制御部41、LEVI制御部42,43、MHMI制御部51、LHMI制御部52,53も、制御目標値を出力すべき対応する機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56と同じエリアに属するように分散して配置する。
この結果、関連するドメイン制御部10,20,30,40,50の構成要素であるローカルドメイン制御部(ローカルドメイン制御部の機能を備えたマスタドメイン制御部含む)と、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56と、車載機器とを同じエリアに配置することができる。従って、配線数の多いローカルドメイン制御部−機器制御部−車載機器を接続する通信配線の長さを短縮することが可能となるその結果、車両における通信配線の取り回しの煩雑さを軽減することができる。なお、同じエリア内に配置された、異なるドメインのローカルドメイン制御部は、相互に通信可能となるように通信配線によって接続される。
図3に、機器制御部14〜16,24〜26,34〜36,44〜46,54〜56,及び各ドメイン制御部10,20,30,40,50の各構成要素の各エリア70,80,90への配置例を示す。
図3に示す例では、シャシドメインにおいて、フロントエリア70に、機器制御部15として、前輪側ブレーキアクチュエータ制御部、左右前輪のダンパの減衰力を制御する前輪ダンパ制御部、左右前輪の空気圧の検知を制御する前輪空気圧検知制御部、EPS制御部、TM制御部が配置されている。また、フロントエリア70には、これらの機器制御部15を統括して制御するためのローカルドメイン制御部として、LCS制御部12が配置されている。
シャシドメインのミドルエリア80には、機器制御部14として、VP制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MCS制御部11が配置されている。すなわち、シャシドメインにおいては、ミドルエリア80に配置されるローカルドメイン制御部が、マスタ制御部としての機能も備えたMCS制御部11となっている。また、シャシドメインのリアエリア90には、機器制御部16として、後輪側ブレーキアクチュエータ制御部、後輪ダンパ制御部、後輪空気圧検知制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LCS制御部13が配置されている。
パワートレインドメインにおいては、フロントエリア70に、機器制御部24として、エンジン制御部、MG制御部、主低圧バッテリ制御部、及びフロントJB制御部が配置されている。そして、フロントエリア70には、これらエンジン制御部、MG制御部、主低圧バッテリ制御部、及びフロントJB制御部による制御を統括するローカルドメイン制御部として、MPT制御部21が配置されている。このように、パワートレインドメインにおいては、フロントエリア70に配置されるローカルドメイン制御部が、マスタ制御部としての機能も備えたものとなっている。
パワートレインドメインのミドルエリア80には、機器制御部25として、駆動力配分機構制御部及びセンターJB制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LPT制御部22が配置されている。また、パワートレインドメインのリアエリア90には、機器制御部26として、高圧バッテリ制御部、DCDCコンバータ制御部、充電器IF制御部、副低圧バッテリ制御部、及びリアJB制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LPT制御部23が配置されている。
ボデードメインでは、フロントエリア70に、機器制御部35として、前方灯火制御部、前方外部エアバッグ制御部、及びシャッター制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LBD制御部32が配置されている。ボデードメインのミドルエリア80には、機器制御部34として、ドア制御部、シート制御部、エアコン制御部、乗員エアバッグ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MBD制御部31が配置されている。このように、ボデードメインの場合、マスタドメイン制御部が、ミドルエリア80に配置されている。また、ボデードメインのリアエリア90には、機器制御部36として、リアゲート制御部、後方灯火制御部、後方外部エアバッグ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LBD制御部33が配置されている。
周囲環境ドメインでは、フロントエリア70に、機器制御部45として、レーザレーダ制御部、フロントミリ波レーダ制御部、フロントカメラ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LEVI制御部42が配置されている。周囲環境ドメインのミドルエリア80には、機器制御部44として、超音波センサ制御部及び温度センサ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MEVI制御部41が配置されている。このように、周囲環境ドメインの場合も、マスタドメイン制御部が、ミドルエリア80に配置されている。周囲環境ドメインのリアエリア90には、機器制御部46として、リアカメラ制御部、リアミリ波レーダ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LEVI制御部43が配置されている。
HMIドメインでは、フロントエリア70に、機器制御部55として、ボンネット状態検知制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LHMI制御部52が配置されている。HMIドメインのミドルエリア80には、機器制御部54として、ディスプレイ制御部、スイッチ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、MHMI制御部51が配置されている。このように、HMIドメインの場合も、マスタドメイン制御部が、ミドルエリア80に配置されている。HMIドメインのリアエリア90には、機器制御部56として、リアゲート状態検知制御部及びリアゲートスイッチ制御部が配置され、ローカルドメイン制御部として、LHMI制御部53が配置されている。
ここで、上述したように、ドメインによる区分けとエリア分割とを併用するために、ドメイン制御部10,20,30,40,50をマスタドメイン制御部とローカルドメイン制御部とに分けると、「発明が解決しようとする課題」の欄に記載したように、所定の事象の発生に応じて、別のドメインに属する車載機器を協調制御する場合に、マスタドメイン制御部とローカルドメイン制御部との通信負荷の増加や、協調制御の遅延を招いてしまう虞がある。
そのため、本実施形態による車両用制御システム100では、ローカルドメイン制御部が、他のドメインに属する車載機器が協調して制御されるべき所定の事象が発生したか否かを判定する。そして、所定の事象が発生したと判定した場合に、協調制御されるべき車載機器が属するドメインの、同じエリア内のローカルドメイン制御部に対し、直接、所定の事象に対応した制御を行うことを依頼する。
なお、各ローカルドメイン制御部はメモリ11a,12a,13a,21a,22a,23a,31a,32a,33a,41a,42a,43a,51a,52a,53aを備えている。このメモリには、所定の事象が発生したと判定したときに、他のドメインに属する車載機器であって、協調制御されるべき車載機器、その車載機器が属するドメイン、及びその車載機器の協調制御の内容などが記憶されている。所定の事象の発生を判定したローカルドメイン制御部は、メモリを参照して、協調制御が必要な車載機器が属するドメインの、同じエリア内のローカルドメイン制御部に対して協調制御の実行を依頼する。
従って、本実施形態に係る車両用制御システム100によれば、協調制御を実行するために、ローカルドメイン制御部とマスタドメイン制御部との通信負荷が増加することを抑制することができる。また、協調制御の依頼を受けたローカルドメイン制御部は、その依頼により車載機器を協調制御する場合に、マスタドメイン制御部からのエリア制御目標値に基づく制御に優先して実行する。従って、協調制御を開始するまでの時間も、マスタドメイン制御部からの指令に基づいて協調制御を実行する場合に比較して短縮することができる。
以下、図4及び図5のフローチャートに基づき、各ドメインにおける、ローカルドメイン制御部の制御処理と、マスタドメイン制御部の制御処理とについて説明する。まず、図4のフローチャートを参照しつつ、ローカルドメイン制御部の制御処理について説明する。なお、図4及び図5のフローチャートに示す処理は、所定時間毎に繰り返し実行されるものである。
図4のフローチャートのステップS100において、ローカルドメイン制御部は、マスタドメイン制御部からエリア制御目標値を受信する。続くステップS110では、ローカルドメイン制御部は、他のドメインに属する車載機器を協調して制御すべき所定の特定事象が発生したか否かを判定する。この判定処理において、所定の特定事象が発生したと判定した場合には、ステップS120の処理に進む。一方、所定の特定事象が発生していないと判定した場合には、ステップS160の処理に進む。
ステップS120では、ローカルドメイン制御部は、自身の下層に位置付けられ、自身が制御指示を与えるべき機器制御部に対して、特定事象に応じた制御指示を与える。すなわち、この場合、マスタドメイン制御部からのエリア制御目標値に係わらず、特定事象に対応した制御指示が機器制御部に与えられる。なお、ローカルドメイン制御部の下層に、所定の特定事象の発生に対応した制御を行うべき車載機器の機器制御部がない場合には、ローカルドメイン制御部は、ステップS100にて受信したエリア制御目標値に応じた制御指示を機器制御部へ与える。
続くステップS130では、所定の特定事象の発生に応じて、協調制御されるべき車載機器、その車載機器が属するドメイン、及び協調制御の内容を、メモリ11a,12a,13a,21a,22a,23a,31a,32a,33a,41a,42a,43a,51a,52a,53aから抽出する。なお、ローカルドメイン制御部が、所定の事象として、複数の事象の発生を判定するものである場合には、上述したメモリには、複数の事象ごとに、協調制御されるべき車載機器、その車載機器が属するドメイン、及び協調制御の内容が記憶されている。
ステップS140では、ローカルドメイン制御部は、メモリ11a,12a,13a,21a,22a,23a,31a,32a,33a,41a,42a,43a,51a,52a,53aから抽出した協調制御に関する情報に基づいて、同じエリア内の、他のドメインのローカルドメイン制御部に対して、協調制御対象の車載機器及びその制御内容を通知し、協調制御を実行するよう依頼する。続くステップS150では、ローカルドメイン制御部は、自身のマスタドメイン制御部に、所定の特定事象が発生したことや、同じエリア内の他のローカルドメイン制御部へ協調制御を依頼したことなどを報告する。そして、図4のフローチャートに示す処理は一旦終了する。
一方、ステップS110にて所定の特定事象は発生していないと判定したときに実行されるステップS160では、同じエリア内の他のローカルドメイン制御部から協調制御の依頼を受信したか否かを判定する。この判定処理において、協調制御の依頼を受信したと判定した場合には、ステップS170の処理に進む。一方、協調制御の依頼を受信していないを判定した場合には、ステップS190の処理に進む。
ステップS170では、ローカルドメイン制御部は、依頼された協調制御を実施する。すなわち、協調制御の依頼が、自身の下層に位置づけられる機器制御部へ制御指示を与えるべきものである場合には、該当する機器制御部へ制御指示を与える。この場合も、マスタドメイン制御部からのエリア制御目標値に基づく制御指示に優先して、特定事象に対応した協調制御を行うための制御指示が機器制御部に与えられる。ただし、協調制御の依頼が、他のエリアにおける車載機器の制御に関するものである場合には、ローカルドメイン制御部は、ステップS100にて受信したエリア制御目標値に応じた制御指示を機器制御部へ与える。
続くステップS180では、ローカルドメイン制御部は、自身のマスタドメイン制御部に、他のローカルドメイン制御部から協調制御依頼があったこと、その協調制御依頼の内容、協調制御依頼に基づき車載機器を協調制御したことなどを報告する。
一方、ステップS190では、所定の特定事象は発生しておらず、他のローカルドメイン制御部からの協調制御依頼も受信していないので、ローカルドメイン制御部は、ステップS100にて受信したエリア制御目標値に応じた制御指示を機器制御部へ与える。
例えば、パワートレインドメインのフロントエリア70に配置されたMPT制御部21は、マスタドメイン制御部として、車両として必要な目標トルクを算出し、この目標トルクを含むフロントエリア70のエリア制御目標値を作成する。すると、MPT制御部21は、ローカルドメイン制御部として、エリア制御目標値に含まれる目標トルクを最も効率良く実現できるように、エンジンとMGとの分担割合を定める。そして、この定めた分担割合に応じた目標エンジントルク及び目標MGトルクを、制御指示として、エンジン制御部及びMG制御部に出力する。同時期に、シャシドメインのMCS制御部11は、MPT制御部21との通信により、エンジン及びMGにより出力されるトルクを車両の走行状態に適するように変換するための目標変速比を定め、その目標変速比を含むエリア制御目標値をLCS制御部12へ与える。LCS制御部12は、そのエリア制御目標値に含まれる目標変速比を、制御指示として、トランスミッション制御部に出力する。
次に、図5のフローチャートを参照しつつ、マスタドメイン制御部の制御処理について説明する。
まず、ステップS200では、マスタドメイン制御部は、各種のセンサを用いて、車両の状態、乗員(運転者)による各種の操作機器や操作スイッチの操作状態、車載機器の動作状態などを検出し、その検出結果に基づいて、ドメイン全体の制御目標を算出する。
ステップS210では、ローカルドメイン制御部から、所定の特定事象が発生したこと、他のローカルドメイン制御部へ協調制御を依頼したこと、他のローカルドメイン制御部から協調制御の依頼を受けたことなどの報告を受信したか否かを判定する。なお、マスタドメイン制御部への報告は、他のエリアにおける車載機器の協調制御の依頼を含むものであっても良い。この判定処理において、ローカルドメイン制御部からの報告を受信したと判定した場合には、ステップS220の処理に進み、ローカルドメイン制御部からの報告を受信していないと判定した場合には、ステップS240の処理に進む。
ステップS220では、マスタドメイン制御部は、ローカルドメイン制御部からの報告内容に基づき、所定の特定事象に対応した協調制御を依頼したローカルドメイン制御部が属するエリア以外の他のエリアにおいて、所定の事象の発生に応じた協調制御が必要であるか否かを判定する。この判定処理において、他のエリアで協調制御が必要であると判定した場合、ステップS230の処理に進む。一方、他のエリアでの協調制御は必要ではないと判定した場合、ステップS240の処理に進む。
ステップS230では、所定の特定事象に応じて、もしくは、協調制御の依頼に基づき、他のエリアにおいて必要な協調制御が行われるように、ステップS200において算出したエリア制御目標値を修正する。そして、ステップS240において、修正したエリア制御目標値を、各ローカルドメイン制御部へ送信する。なお、ステップS210もしくはS220において「No」と判定された場合には、ステップS240において、ステップS200で算出されたエリア制御目標値が、そのまま各ローカルドメイン制御部に送信される。
この結果、所定の特定事象の発生を判定したローカルドメイン制御部が属するドメインの他のエリアのみならず、その所定の特定事象の発生を判定したローカルドメイン制御部からの協調制御の依頼を受けたローカルドメイン制御部が属するドメインの他のエリアにおいても、必要に応じて、所定の特定事象の発生に応じた車載機器の協調制御を実施することが可能となる。
ここで、所定の特定事象の発生に応じた協調制御のいくつかの事例について、図6を参照して説明する。
例えば、図6の最上段に記載した事例では、ボデードメインのフロントエリア70のLBD制御部32が、所定の特定事象として、フロントバンバーなどに配置されたセンサ(加速度センサや圧力センサなど)からの信号に基づき、自車両の前方で歩行者と衝突したか否かを判定する。歩行者と衝突したと判定した場合、LBD制御部32は、歩行者保護のため、前方外部エアバッグを展開するよう前方外部エアバッグ制御部に指示する。この際、前方外部エアバッグの展開に代えて、もしくは加えて、ボンネットフードを所定距離だけ跳ね上げるよう指示しても良い。このようにして、所定の事象の発生を判定したローカルドメイン制御部であるLBD制御部32は、自身の下層に位置付けられる機器制御部である前方外部エアバッグ制御装置に、所定の事象の発生(歩行者との衝突)に応じた制御指示を与える。
また、LBD制御部32は、即座に車両を停止させるべく、シャシドメインのフロントエリア70のLCS制御部12に対して、クラッチを切断してトランスミッションを開放すること、及び前輪及び後輪ブレーキを作動させることを依頼する。同時に、LBD制御部32は、パワートレインドメインのフロントエリア70のMPT制御部21に対して、エンジンを停止すること、及びモータジェネレータへの電源供給を停止するため、高圧バッテリによる電源供給を停止することを依頼する。さらに、LBD制御部32は、周囲環境ドメインのフロントエリア70のLEVI制御部42に対して、衝突前後の画像や車両の走行状態を示すセンサ信号を保存するよう依頼する。このようにして、所定の特定事象の発生を判定したローカルドメイン制御部は、同じエリア内の、他のドメインのローカルドメイン制御部に対して、協調制御対象の車載機器及びその制御内容などを通知し、協調制御を実行するよう依頼する。
そして、LBD制御部32は、自身のマスタドメイン制御部であるMBD制御部31に対して、歩行者との衝突が発生したこと、及び他のローカルドメイン制御部へ協調制御依頼を行ったことなどを報告する。すると、MBD制御部31は、LBD制御部32からの報告内容に基づき、ボデードメインの他のエリアであるミドルエリア80においても乗員エアバッグを展開する協調制御が必要と判断し、乗員エアバッグを展開するよう、乗員エアバッグ制御部へ制御指示を行う。これにより、所定の特定事象の発生を判定したローカルドメイン制御部が属するドメインの他のエリアにおいても、所定の特定事象に対応した協調制御が実行される。なお、LBD制御部32からMBD制御部31への報告に、乗員エアバックを展開して乗員保護を行う依頼が含まれていても良い。また、図6では、各事例において、ローカルドメイン制御部からマスタドメイン制御部への報告に、他のエリアに属する車載機器の協調制御の依頼を含む場合、その協調制御依頼を括弧書きで示している。
シャシドメインのLCS制御部12は、LBD制御部32からの協調制御の依頼に基づいて、自身の下層に位置付けられる機器制御部であるトランスミッション制御部へクラッチを切断してトランスミッションを開放するよう指示する。また、LCS制御部12は、前輪側ブレーキアクチュエータ制御部へ前輪ブレーキを作動させるよう指示する。これにより、協調制御の依頼を行ったローカルドメイン制御部が属するエリア内において、他のドメインに属する車載機器の協調制御が実行される。
さらに、LCS制御部12は、LBD制御部32から協調制御の依頼を受けた旨を、自身のマスタドメイン制御部であるMCS制御部11に報告する。その協調制御依頼には、後輪ブレーキの作動依頼も含まれている。このため、MCS制御部11は、リアエリア90のエリア制御目標値を、リアブレーキが作動されるように修正する。この修正されたエリア制御目標値を受けたLCS制御部13は、後輪側ブレーキアクチュエータ制御部に対して、後輪ブレーキを作動させるように指示する。これにより、協調制御の依頼を受けたローカルドメイン制御部が属するドメインの他のエリアにおいても、所定の特定事象の発生に応じた車載機器の協調制御が実施される。
シャシドメインの場合と同様に、パワートレインドメインのMPT制御部21は、LBD制御部32からの協調制御の依頼に基づいて、エンジンを停止するようエンジン制御部へ指示する。また、MPT制御部21は、協調制御の依頼報告を受けたマスタドメイン制御部として、リアエリア90のエリア制御目標値を、高圧バッテリによる電源供給が停止されるように修正する。この修正されたエリア制御目標値を受けたLPT制御部23は、高圧バッテリの電源供給経路に設けられたリレーをオフするよう高圧バッテリ制御部へ指示する。
また、周囲環境ドメインのLEVI制御部42は、協調制御依頼として、画像やセンサ信号の保存依頼を受けた場合、自身が管理する車載機器に保存機能は無いため、自身の下層に位置付けられる機器制御部45への協調制御の指示を行わず、マスタドメイン制御部であるMEVI制御部41へ協調制御依頼を報告する。すると、MEVI制御部41は、自身で、画像やセンサ信号の保存機能を備えた車載機器(メモリ等)の制御の管理を行っているため、その車載機器の機器制御部へ画像やセンサ信号を保存するよう指示する。なお、画像やセンサ信号の保存機能を備えた車載機器は、画像やセンサ信号を常時記録しており、その機器制御部は、MEVI制御部41からの保存指令を受けると、その保存指令の前後の所定時間における画像及びセンサ信号を保存する。
図6の上から2番目に記載した事例では、周囲環境ドメインのフロントエリア70のLEVI制御部42が、所定の特定事象として、自車両の発進時に、前方に先行車両、歩行者、自転車、塀などの障害物が存在するか否かを判定する。自車両の前方に障害物が存在すると判定した場合、LEVI制御部42は、シャシドメインのフロントエリア70のLCS制御部12に対して、前輪及び後輪ブレーキを作動させることを依頼する。同時に、LEVI制御部42は、パワートレインドメインのフロントエリア70のMPT制御部21に対して、エンジン及びMGの始動を禁止することを依頼する。なお、この場合、特定事象の発生(前方障害物の存在)を判定したローカルドメイン制御部であるLEVI制御部42は、その特定事象に対応した制御を行う車載機器を有しないため、特定事象の発生に応じた、自身の下層に位置付けられる機器制御部への制御指示は行わない。
シャシドメインのLCS制御部12は、LEVI制御部42からの協調制御の依頼に基づいて、自身の下層に位置付けられる機器制御部である前輪側ブレーキアクチュエータ制御部へ前輪ブレーキを作動させるよう指示する。さらに、LCS制御部12は、LEVI制御部42から協調制御の依頼を受けた旨を、自身のマスタドメイン制御部であるMCS制御部11に報告する。その協調制御依頼には、後輪ブレーキの作動依頼も含まれている。このため、MCS制御部11は、リアエリア90のエリア制御目標値を、リアブレーキが作動されるように修正する。この修正されたエリア制御目標値を受けたLCS制御部13は、後輪側ブレーキアクチュエータ制御部に対して、後輪ブレーキを作動させるように指示する。
また、パワートレインドメインのMPT制御部21は、LEVI制御部42からの協調制御の依頼に基づいて、エンジンの始動を禁止するようエンジン制御部へ指示するとともに、モータジェネレータの始動を禁止するようMG制御部へ指示する。
図6の上から3番目に記載した事例では、シャシドメインのフロントエリア70のLCS制御部12が、操舵角センサのセンサ信号に基づき、所定の特定事象として、運転者がステアリングホイールを操舵したか否かを判定する。ステアリングホイールを操舵したと判定した場合には、操舵角に応じたアシストトルクの発生をEPS制御部に指示する。さらに、LCS制御部12は、ボデードメインのフロントエリア70のLBD制御部32に対して、ヘッドライトの左右光軸の調整を依頼する。この依頼には、操舵角の情報が含まれる。この依頼を受けたLBD制御部32は、操舵角に応じて、ヘッドライトの左右光軸の調整を実施する。これにより、自車両の旋回時に、進行方向を照らすようにヘッドライドの光軸を変化させることができる。
図6の上から4番目、5番目に記載した事例も、協調制御として、ヘッドライトの制御を行うものである。すなわち、4番目の事例は、EVIドメインのフロントエリア70のLEVI制御部42において、所定の特定事象として周囲の照度変化を検出すると、ボデードメインのLBD制御部32に、ヘッドライトの点灯又は消灯を依頼する。また、5番目の事例は、EVIドメインのLEVI制御部42において、所定の特定事象として対向車(及び先行車)が存在するか否かを判定し、ボデードメインのLBD制御部32に、対向車が存在する場合にはヘッドライトのLoビームへの切換を依頼し、対向車が存在しない場合にはHiビームへの切換を依頼する。
図6の上から6番目に記載した事例では、パワートレインドメインのフロントエリア70のMPT制御部21が、所定の特定事象として、エンジンの冷却水の温度を検出する温度センサからのセンサ信号に基づき、エンジンの温度が所定の下限以下であるか、もしくは所定の上限以上であるかを判定する。エンジンの温度が所定の下限以下である場合、MPT制御部21は、ボデードメインのLBD制御部32に対して、シャッターによりエンジンルームへの外気導入孔を閉じるよう依頼する。エンジンの温度が所定の上限以上である場合には、MPT制御部21は、エンジン冷却ファンを駆動するよう冷却ファン制御部へ指示するとともに、ボデードメインのLBD制御部32に対して、シャッターがエンジンルームへの外気導入孔を開けるよう依頼する。これにより、エンジン温度を適正な温度範囲に制御することができる。
図6の上から7番目に記載した事例では、周囲環境ドメインのミドルエリア80のMEVI制御部41が、所定の特定事象として、通信装置を介した携帯型キーとの通信により、乗員が保持する携帯型キーが正規のものであるか否かを認証する。正規の携帯型キーであるとの認証がなされると、MEVI制御部41は、HMIドメインのMHMI制御部51に対して、乗員が自車両のドアのロック解除のため、ドアに設けられたアンロックスイッチを操作したことを検出するよう依頼する。また、MEVI制御部41は、MHMI制御部51により乗員によるアンロックスイッチの操作が検出されたときに、ドアロックを解除するようボデードメインのMBD制御部31へ依頼する。さらに、MEVI制御部41は、携帯型キーの認証により、その携帯型キーを保持する乗員を特定できる場合、乗員の車両への乗車時に、シート位置を乗員に適合するようMBD制御部31へ依頼する。
すると、MHMI制御部51は、アンロックスイッチへの通電を行い、アンロックスイッチに対する乗員の操作を検知可能な状態とする。MHMI制御部51は、アンロックスイッチに対する乗員の操作を検知すると、ボデードメインのMBD制御部31に、乗員によるアンロックスイッチの操作を検出したことを通知する。すると、MBD制御部31は、ドア制御部へドアロックの解除を指示する。これにより、ドアロックが解除されるので、乗員は、車両への乗車が可能となる。さらに、MBD制御部31は、その乗員に適合するシート位置への調整をシート制御部に指示する。
図6の上から8番目に記載した事例では、HMIドメインのミドルエリア80のMHMI制御部51が、所定の特定事象として、乗員の降車のための操作を検出したか否かを判定する。例えば、MHMI制御部51は、乗員がエンジンスイッチをオフし、ドアを開くためにドアレバーを操作した場合に、乗員の降車のための操作を検出したと判定する。降車のための操作を検出した場合、MHMI制御部51は、乗員が開こうとしているドアの周囲に障害物がないか確認するよう周囲環境ドメインのMEVI制御部41へ依頼する。また、MHMI制御部51は、MEVI制御部41により障害物が検知されたときに、その障害物に接触しない範囲にドア開度を制限するようボデードメインのMBD制御部31へ依頼する。
すると、MEVI制御部41は、ドアの近傍に障害物がないかを確認し、障害物を検出すると、障害物の位置や障害物までの距離を含む検出結果をボデードメインのMBD制御部31に通知する。MBD制御部31は、この検出結果に基づき、ドアが障害物に接触しない範囲にドアの開度を制限するよう、ドア制御部へ指示する。
図6の上から9番目に記載した事例は、所定の特定事象として、周囲環境ドメインのミドルエリア80のMEVI制御部41により検出される外気温度の変化、もしくは、HMIドメインのMHMI制御部51により検出される設定温度の変化に応じて、ボデードメインのMBD制御部31へエアコンやシートヒータによる車室内環境の制御状態の変更を依頼するものである。
図6の上から10番目に記載した事例は、所定の特定事象として、ボデードメインのミドルエリア80のMBD制御部31により側方衝突が検出された場合に、MBD制御部31により、サイドエアバックの展開を乗員エアバッグ制御部に指示するとともに、周囲環境ドメインのMEVI制御部41へ衝突前後の画像や車両の走行状態を示すセンサ信号を保存するよう依頼するものである。この場合、上述した1番目のケースと同様に、MBD制御部31は、シャシドメインのMCS制御部11に対して、クラッチを切断してトランスミッションを開放すること、及びパワートレインドメインのLPT制御部22に対して、エンジンを停止することなどを依頼する。
図6の上から11番目に記載した事例は、所定の特定事象として、HMIドメインのリアエリア90のLHMI制御部53が、乗員によるリアゲートに設けられた開放スイッチによる開放操作、もしくは閉成スイッチによる閉成操作を検出すると、ボデードメインのLBD制御部33にリアゲートの開放もしくは閉成を依頼するものである。
図6の上から12番目に記載した事例は、所定の特定事象として、ボデードメインのリアエリア90のLBD制御部33により後方衝突が検出された場合に、LBD制御部33により、後方外部エアバックの展開を後方外部エアバッグ制御部に指示する。さらに、LBD制御部33は、マスタドメイン制御部であるMBD制御部31に乗員エアバッグの展開を依頼し、周囲環境ドメインのLEVI制御部43へ衝突前後の画像や車両の走行状態を示すセンサ信号を保存するよう依頼し、シャシドメインのLCS制御部13にトランスミッションの開放を依頼し、パワートレインドメインのLPT制御部23に、高圧電源の供給の遮断及びエンジンの停止を依頼する。
図6の上から13番目に記載した事例は、所定の特定事象として、周囲環境ドメインのリアエリア90のLEVI制御部43が、後方から自車両に接近する車両を検知した場合に、ボデードメインのLBD制御部33に、接近車両への警告のために、バックライトの点灯を依頼するものである。
上述した図6に示した事例は、単なる例示に過ぎない。図6に示した事例以外にも、あるローカルドメイン制御部が所定の特定事象の発生を検知、判定したときに、他のドメインのローカルドメイン制御部へ協調制御の依頼を行うことは種々のケースで考えられる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々、変形して実施することが可能である。
例えば、上述した実施形態では、いずれかのローカルドメイン制御部が、マスタドメイン制御部としての機能を兼ね備える例について説明した。しかしながら、マスタドメイン制御部は、各エリアに設けられるローカルドメイン制御部とは別個に設けても良い。また、マスタドメイン制御部は、例えば、複数設けて、メインのマスタドメイン制御部が故障した場合には、別のマスタドメイン制御部がドメイン全体の制御を引き継ぐようにしても良い。
さらに、上述した実施形態では、各マスタドメイン制御部が、最上位の制御部として、車両の状態や、運転者の操作状態に応じて、対応するドメイン全体の制御目標を定めたり、他のドメイン制御部との協調制御を実行したりする例について説明した。
しかしながら、各マスタドメイン制御部の上位に位置付けられる上位制御部をさらに設けても良い。上位制御部は、例えば、車両の状態、運転者の操作状態、外部環境の状態などに基づき、各ドメインの制御目標を定めて通知するようにしても良い。この場合、各ドメイン制御部は、上位制御部から通知されたドメインの制御目標を達成するように、エリア制御目標を定めて各ローカルドメインに通知する。あるいは、上位制御部は、車両全体の制御モードを設定し(例えば、手動運転モードと自動運転モードとのいずれかの設定や、走行優先モード、燃費優先モード、快適性優先モードのいずれかの設定など)、その設定した制御モードを各ドメイン制御部に通知するようにしても良い。制御モードが通知された場合、各ドメイン制御部は、その通知された制御モードに応じて、制御内容を切り替えるように構成される。さらに、上位制御部は、各ドメイン制御部において定められたドメイン制御目標を調停するものであっても良い。例えば、上位制御部は、それぞれのドメイン制御部において設定されたドメイン制御目標がマッチングしているかどうかを判定し、マッチングしていない場合には、少なくとも1つのドメイン制御部に対し、ドメイン制御目標の変更を指示するものであっても良い。一例として、各ドメインにおける制御目標が、消費電力の大きい制御を指示するものであった場合に、消費電力の平準化のために、上位制御部は、各ドメインにおける制御に優先度を設定し、優先度の低い制御に対応するドメイン制御目標を、一端保留させたり、消費電力の低い制御に対応するドメイン制御目標に変更させたりしても良い。
また、この上位制御部もプログラムやデータベースとして、CPU、ROM、RAM等を備えた電子制御装置(ECU)に実装することにより具現化される。この上位制御部は、マスタドメイン制御部11,21,31,41,51とは独立して設けても良いし、例えば、エリア制御に依存しないマスタドメイン制御部11,21,31,41,51をドメイン制御部10,20,30,40,50から少なくとも1つ分離し、その分離したマスタドメイン制御部と共通の電子制御装置に実装しても良い。