JP6665714B2 - 固体高分子型燃料電池 - Google Patents

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Description

本発明は、固体高分子型燃料電池に関し、さらに詳しくは、車載用動力源、定置型小型発電器、コジェネレーションシステム等として好適な固体高分子型燃料電池に関する。
一般に、燃料電池の空気極の触媒として、Pt等の白金族元素が用いられている。白金族元素は、燃料電池の運転中に触媒層から溶出し、電解質膜内部で析出したり、あるいは、触媒層内で再析出して触媒粒子を粒成長させることが知られている。このようなPtの溶出や粒成長は、電池性能を低下させる一因となっている。また、燃料極では、一般にPt−Ru合金が用いられるが、Pt−Ru合金においてもPtやRuの溶出あるいは触媒粒子の粒成長により、電池性能が低下すると言われている。さらに、これらの電極の白金族元素の劣化は、運転電位の変動で促進されることが知られている。
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、白金とニッケルやコバルトなどの金属との白金合金触媒を酸処理し、白金と合金化していない金属を溶解抽出する方法が開示されている。
同文献には、
(a)白金合金触媒では、白金と合金化していない金属(ニッケルやコバルト)が長期の使用中における電圧低下の原因となっている点、及び、
(b)酸処理により白金合金触媒から白金と合金化していない金属を溶解抽出することにより、長時間安定した電位を保つことが可能となる点
が記載されている。
特許文献2には、白金系貴金属触媒を空気中50〜90℃の温度でアニール処理する方法が開示されている。
同文献には、
(a)アニール処理により、白金系貴金属触媒表面に酸素が化学吸着する点、及び、
(b)アニール処理された触媒は、長期にわたって劣化の少ない安定した性能を示す点
が記載されている。
特許文献3には、白金とコバルトの合金よりなり、白金の割合が原子比で67%以上75%以下であるリン酸型燃料電池用カソード触媒が開示されている。
同文献には、触媒として白金とコバルトとの合金を用いることにより、従来に比べて耐久性が向上する点が記載されている。
特許文献4には、2,2−ビピリジンのようなキレート官能基を有する含窒素有機化合物(白金イオン捕捉剤)を含む固体高分子型燃料電池用電極触媒層が開示されている。
同文献には、電極触媒層に白金イオン捕捉剤を添加することによって、電極触媒層からの経時的な白金の流出が防止され、触媒活性の低下が抑制される点が記載されている。
特許文献5、6には、白金系触媒の劣化の抑制を目的とするものではないが、バイオ燃料電池において、微生物の体内で生産された電子を取り出し、アノードまで運ぶメディエータ(電荷伝達体)として、フェロシアン化カリウム又はフェリシアン化カリウムを用いる点が記載されている。
特許文献7には、白金系触媒の劣化の抑制を目的とするものではないが、イオン交換基を持たないフッ素系高分子と、陽イオン交換性を有する微粉状無機化合物(例えば、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム、シアン化錯体など)との複合体からなる燃料電池用隔膜が開示されている。
同文献には、微粉状無機化合物の粒径を15μm以下にすると、複合体のプロトン伝導性が向上する点が記載されている。
さらに、特許文献8には、白金系触媒の劣化の抑制を目的とするものではないが、
(a)フェノール樹脂と鉄フタロシアニンの混合物を窒素流通化で600℃において5時間熱処理して炭化物を生成させ、濃塩酸により炭化物表面の鉄を溶解除去することにより酸素還元活物質を合成し、
(b)得られた酸素還元活物質をガラス状炭素からなる回転電極上に塗布し、
(c)さらに、プルシアンブルー(Fe(III)4[Fe(II)(CN)6]3)を回転電極に電気化学的に担持させる
ことにより得られる酸素還元触媒が開示されている。
同文献には、このような酸素還元触媒を用いると過酸化水素発生率が低下する点が記載されている。
特許文献1〜4には、触媒金属の溶出や触媒粒子の粒成長を抑制するための種々の方法が開示されている。しかしながら、従来の方法では、まだ満足するレベルの電池性能寿命は得られていない。また、その原因についても明らかにされていない。さらに、燃料電池においては、電極反応により副成する過酸化水素によって電解質や炭素材料が酸化劣化することが知られている。しかしながら、白金族元素等の触媒金属の溶出の抑制及び過酸化水素による酸化劣化の抑制の双方を可能とする添加剤が提案された例は、従来にはない。
一方、特許文献8には、プルシアンブルー型金属錯体(Ax1[M2(CN)6]y・zH2O)と、酸素還元活物質とを含有する酸素還元触媒が開示されている。しかし、同文献において、プルシアンブルー型金属錯体は、酸素還元側の触媒層にのみ添加されており、電解質膜あるいは拡散層への添加を意図したものではない。また、プルシアンブルー型金属錯体の添加によって、過酸化水素の発生が抑制されるとの記述は見られるものの、実際に電解質膜及び触媒層内電解質の劣化が抑制されたことを示す記述は見られない。
さらに、同文献には、M1として、鉄以外の金属イオンを含むプルシアンブルー型錯体(Ax1[M2(CN)6]y)が、鉄のみを含むプルシアンブルー錯体(AxFe[M2(CN)6]y)よりも優れている理由及びその具体的な記述は見られない。
特開平6−246160号公報 特開2004−349113号公報 特開2001−345107号公報 特開2006−147345号公報 特開2006−190502号公報 特開平10−233226号公報 特開2003−077492号公報 特開2014−200718号公報
本発明が解決しようとする課題は、耐久性に優れた固体高分子型燃料電池を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、固体高分子型燃料電池において、過酸化水素に起因する電池性能の低下を抑制することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、白金系触媒を含む固体高分子型燃料電池において、白金族元素等の触媒金属の溶出や触媒粒子の粒成長に起因する電池性能の低下を抑制することにある。
上記課題を解決するために、本発明に係る固体高分子型燃料電池は、
電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体と、
前記電解質膜及び/又は前記電極に添加された難溶性鉄シアノ錯体と
を備え、
前記難溶性鉄シアノ錯体は、対カチオンとして、周期律表第3族〜第15族に属する少なくとも1つの金属イオンを含む(但し、前記対カチオンとして、鉄イオンのみを含むもの、及び銅イオンのみを含むものを除く)ことを要旨とする。
固体高分子型燃料電池の電解質膜及び/又は電極に、対カチオンとして特定の金属イオンを含む難溶性鉄シアノ錯体を添加すると、燃料電池の耐久性が向上する。これは、
(a)特定の金属イオンを含む難溶性鉄シアノ錯体が、燃料電池内で副生する過酸化水素をイオン的(非ラジカル的)に分解するため、及び、
(b)触媒として白金系触媒を用いる場合において、触媒層内における難溶性鉄シアノ錯体の酸化還元反応が白金族元素の溶解を抑えるように働くため、
と考えられる。
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 固体高分子型燃料電池]
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、
電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体と、
前記電解質膜及び/又は前記電極に添加された難溶性鉄シアノ錯体と
を備え、
前記難溶性鉄シアノ錯体は、対カチオンとして、周期律表第3族〜第15族に属する少なくとも1つの金属イオンを含む(但し、前記対カチオンとして、鉄イオンのみを含むもの、及び銅イオンのみを含むものを除く)ことを要旨とする。
[1.1. 膜電極接合体]
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を備えている。固体高分子型燃料電池は、通常、このようなMEAの両面を、ガス流路を備えたセパレータ(集電体)で挟持して単セルとし、単セルを複数個積層したものからなる。
[1.1.1. 電解質膜]
本発明において、電解質膜を構成する固体高分子電解質の組成は、特に限定されない。電解質膜は、固体高分子電解質のみからなるものでも良く、あるいは、固体高分子電解質と補強材(多孔質材料、長繊維材料、短繊維材料等)との複合体であっても良い。
電解質膜を構成する固体高分子電解質としては、例えば、
(a)高分子鎖内にC−H結合を含み、かつC−F結合を含まない炭化水素系電解質、
(b)高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の双方を含むフッ素系電解質(部分フッ素系電解質)、あるいは、
(c)高分子鎖内にC−F結合を含み、かつC−H結合を含まないフッ素系電解質(パーフルオロ系電解質)
などがある。
これらの中でも、フッ素系電解質(特に、パーフルオロ系電解質)は、耐酸化性に優れているので、電解質膜を構成する材料として好適である。
[1.1.2. 電極]
MEAを構成する電極は、通常、触媒層と拡散層の二層構造を取るが、触媒層のみによって構成される場合もある。電極が触媒層と拡散層の二層構造を取る場合、電極は、触媒層を介して電解質膜に接合される。
触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、触媒又は触媒を担持した担体と、その周囲を被覆する触媒層内電解質とを備えている。一般に、触媒には、MEAの使用目的、使用条件等に応じて最適なものが用いられる。固体高分子型燃料電池の場合、触媒には、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム等、又はこれらの合金が用いられる。触媒層に含まれる触媒の量は、MEAの用途、使用条件等に応じて最適な量が選択される。
触媒担体は、微粒の触媒を担持すると同時に、触媒層における電子の授受を行うためのものである。触媒担体には、一般に、カーボン、活性炭、フラーレン、カーボンナノフォン、カーボンナノチューブ等が用いられる。触媒担体表面への触媒の担持量は、触媒及び触媒担体の材質、MEAの用途、使用条件等に応じて最適な担持量が選択される。
触媒層内電解質は、固体高分子電解質膜と電極との間でプロトンの授受を行うためのものである。触媒層内電解質には、通常、電解質膜を構成する材料と同一の材料が用いられるが、異なる材料を用いても良い。触媒層内電解質の量は、MEAの用途、使用条件等に応じて最適な量が選択される。
拡散層は、触媒層との間で電子の授受を行うと同時に、反応ガスを触媒層に供給するためのものである。拡散層には、一般に、カーボンペーパ、カーボンクロス等が用いられる。また、撥水性を高めるために、カーボンペーパ等の表面に、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性高分子の粉末とカーボンの粉末との混合物(撥水層)をコーティングしたものを拡散層として用いても良い。
[1.2. 難溶性鉄シアノ錯体]
本発明において、電解質膜及び/又は電極には、難溶性鉄シアノ錯体が添加される。難溶性鉄シアノ錯体は、電解質膜又は電極のいずれか一方に添加されていても良く,あるいは、双方に添加されていても良い。また、難溶性鉄シアノ錯体が電極に添加される場合、難溶性鉄シアノ錯体は、触媒層又は拡散層のいずれか一方に添加されていても良く、あるいは、双方に添加されていても良い。
[1.2.1. 定義]
「鉄シアノ錯体」とは、対カチオンをZ1(n価)とした場合に、
(a)錯イオン内にある鉄イオンの酸化状態がII価であるフェロシアン錯体:(Z1)m[Fe(CN)6]k・rH2O(但し、n×m=4×k、r=0〜14)、又は、
(b)錯イオン内にある鉄イオンの酸化状態がIII価であるフェリシアン錯体:(Z1)p[Fe(CN)6]q・rH2O(但し、n×p=3×q、r=0〜14)
をいう。
「難溶性」とは、室温での水への溶解度が10g/L以下であることをいう。
対カチオンZ1は、1種類のイオンであっても良く、あるいは、2種以上のイオンであっても良い。但し、対カチオンZ1が2種以上のイオンからなる場合、対カチオンZ1と、アニオン(フェロシアンイオン(Fe(II);[Fe(CN)6]4-)又はフェリシアンイオン(Fe(III);[Fe(CN)6]3-))との間で電気的中性が保たれている必要がある。
さらに、対カチオンZ1として2種以上のイオンを含む場合、これらのイオンは必ずしも整数比の塩を形成するとは限らず、アニオンとの間で電気的中性が保たれる限りにおいて、任意の組成の固溶体を形成する場合もある。
また、対カチオンZ1は、金属イオンであっても良く、あるいは、金属イオン以外のイオンであっても良い。金属イオン以外のイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン(NH4 +)、四級アンモニウムイオン(例えば、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン等)、ホスホニウムイオン(テトラブチルホスホニウムイオン、トリブチルメチルホスホニウムイオン等)などがある。
但し、本発明において「難溶性鉄シアノ錯体」という時は、対カチオンZ1として、周期律表第3族〜第15族に属する少なくとも1つの金属イオンを含むものをいう。
また、本発明において「難溶性鉄シアノ錯体」という時は、対カチオンZ1として、鉄イオンのみを含むもの、及び銅イオンのみを含むもの、を含まない。
[1.2.2. 対カチオン]
[A. 鉄シアノ錯体の溶解度に及ぼす対カチオンの影響]
鉄シアノ錯体に含まれる対カチオンZ1の種類は、鉄シアノ錯体の溶解度に影響を及ぼす。対カチオンZ1のすべてがある種のイオンからなる鉄シアノ錯体は、溶解度が相対的に大きい。このような易溶性鉄シアノ錯体を電解質膜又は電極に添加すると、燃料電池の運転中に鉄シアノ錯体が溶出しやすい。鉄シアノ錯体が溶出すると、電極を被毒したり、あるいは、電解質の酸基がこれらのイオンで交換され、電池性能が低下する場合がある。
鉄シアノ錯体を易溶性にする対カチオンZ1としては、例えば、
(a)アルカリ金属イオン(Li+、Na+、K+、Cs+)、
(b)アンモニウムイオン(NH4 +)、四級アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、
(c)アルカリ土類金属イオン(Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+)、
(d)Alイオン(Al3+)、Gaイオン(Ga3+)、
などがある。
以下、鉄シアノ錯体を易溶性にする対カチオンZ1を総称して、「アルカリ金属イオン類」という。
一方、易溶性鉄シアノ錯体に含まれるアルカリ金属イオン類の少なくとも一部を、ある種の金属イオン(具体的には、第3族〜第15族の金属イオン)で置換すると、難溶性鉄シアノ錯体が得られる場合がある。高い難溶性を得るためには、金属イオンは、特に、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Zr、Ag、In、Sn、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素のイオンが好ましい。
例えば、Na4[Fe(CN)6]は、溶解度が大きく(水100gに対する無水物の溶解度は、20℃で17.9g)、MEAへの添加剤として不適当である。一方、Na2Ni[Fe(CN)6]、及びNa2Co[Fe(CN)6]は、いずれも室温での溶解度が10g/L以下の難溶性である。そのため、これらをMEAに添加しても電極を被毒したり、あるいは、電池性能を低下させることもない。
鉄シアノ錯体中にアルカリ金属イオン類が含まれる場合、難溶性の観点から、アルカリ金属イオン類の含有量は、少ないほど良い。具体的には、アルカリ金属イオン類の原子数割合(=鉄シアノ錯体に含まれる対カチオンZ1の総原子(分子)数に対するアルカリ金属イオン類の原子(分子)数の割合)は、70%以下が好ましく、さらに好ましくは、50%未満である。
[B. 燃料電池の耐久性に及ぼす対カチオンの影響]
対カチオンZ1として、鉄イオンのみを含むプルシアンブルー型錯体(プルシアンブルー、ベルリンブルー、プルシアンホワイト):Fe4[Fe(CN)6]3、及び銅イオンのみを含むプルシアンブルー型錯体:Cu2[Fe(CN)6]は、いずれも難溶性鉄シアノ錯体である。しかし、これらをMEAに添加すると、かえって電解質の劣化が促進される。これは、プルシアンブルー型錯体から、対カチオンである鉄イオン(Fe2+、Fe3+)又は銅イオン(Cu+、Cu2+)が遊離するためと考えられる。遊離した鉄イオン及び銅イオンは、いずれもフェントン活性が大きく、電解質を劣化させる原因となる。
そのため、本願にいう「難溶性鉄シアノ錯体」には、鉄イオンのみを含む難溶性鉄シアノ錯体、及び銅イオンのみを含む難溶性鉄シアノ錯体は含まれない。
一方、対カチオンZ1として、鉄イオン又は銅イオンに加えて又はこれらに代えて、これら以外の金属イオン(周期律表第3族〜第15族のイオン)を含む難溶性鉄シアノ錯体は、電解質の劣化を促進させることがない。これは、
(a)これらの難溶性鉄シアノ錯体自身のラジカル不活性作用が大きいため、
(b)難溶性鉄シアノ錯体中に錯体形成しなかった未反応の鉄イオン又は銅イオンが含まれていた場合であっても、フェントン活性を抑制できるため、及び、
(c)難溶性鉄シアノ錯体の一部がラジカル攻撃により分解して遊離の鉄イオン又は銅イオンが放出された場合であっても、フェントン活性を抑制できるため、
と考えられる。
電解質の劣化を抑制するためには、鉄シアノ錯体中の遊離の鉄イオン及び銅イオンの含有量は、少ないほど良い。具体的には、鉄シアノ錯体中の遊離の鉄イオン及び銅イオンの含有量は、1wt%以下が好ましく、さらに好ましくは、0.1wt%以下である。また、遊離の鉄イオン及び銅イオンの含有量は、電解質重量に対して100ppm以下が好ましく、さらに好ましくは、10ppm以下である。
[1.2.3. 難溶性鉄シアノ錯体の具体例]
周期律表第3族〜第15族に属する金属イオンは、フェロシアンイオン又はフェリシアンイオンと難溶性の塩を形成する場合がある。このような難溶性塩は、過酸化水素分解触媒として働き、またPt溶解の抑制作用を示す。このような難溶性塩としては、具体的には、以下のようなものがある。
(1)Tiイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Ti[Fe(CN)6]・2H2Oなどがある。
(2)Vイオンを含む難溶性塩としては、例えば、V1.5[Fe(CN)6]などがある。
(3)Crイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Cr[Fe(CN)6]、K2Cr[Fe(CN)6]、Cr2[Fe(CN)6]などがある。
(4)Mnイオンを含む難溶性塩としては、例えば、KMn[Fe(CN)6]2・2H2O、Mn2[Fe(CN)6]、Mn2[Fe(CN)6]・0.5H2O、Mn2[Fe(CN)6]・4H2O、Cs2Mn2[Fe(CN)6]、Cs2Mn2[Fe(CN)6]・4H2O、Cs4Mn4[Fe(CN)6]3などがある。
(5)Coイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Cs2Co[Fe(CN)6]2、Cs4Co4[Fe(CN)6]6、Co2[Fe(CN)6]、Co3[Fe(CN)6]2・3H2O、Co3[Fe(CN)6]2・10H2O、Co2[Fe(CN)6]・2H2O、Co2[Fe(CN)6]・10H2O、(Co,Na)2[Fe(CN)6]・3H2O、(Co,Na)Zn[Fe(CN)6]・3H2O、Na2Co[Fe(CN)6]、K2Co[Fe(CN)6]などがある。
(6)Niイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Ni3[Fe(CN)6]2・10H2O、KNi[Fe(CN)6]、Na2Ni[Fe(CN)6]、Na2Ni[Fe(CN)6]・3H2Oなどがある。
(7)Znイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Zn3[Fe(CN)6]2、Zn2[Fe(CN)6]、Zn3[Fe(CN)6]2・xH2O、Cs2Zn3[Fe(CN)6]2・6H2Oなどがある。
(8)Zrイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Zr[Fe(CN)6]、Zr[Fe(CN)6]・2H2Oなどがある。
(9)Agイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Ag4[Fe(CN)6]、K2Ag2[Fe(CN)6]・2H2O、Cu3AgxFey[Fe(CN)6]2(x+y=1)、(NH4)2Ag2[Fe(CN)6]・2.5H2O、Ag3Co[Fe(CN)6]などがある。
(10)Inイオンを含む難溶性塩としては、例えば、In4[Fe(CN)6]3・10H2O、CsIn[Fe(CN)6]3・2H2Oなどがある。
(11)Snイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Sn2[Fe(CN)6]・3.33H2Oなどがある。
(12)Biイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Bi4[Fe(CN)6]3、BiK[Fe(CN)6]などがある。
(13)Laイオンを含む難溶性塩としては、例えば、La[Fe(CN)6]・5H2O、CsLa[Fe(CN)6]・H2Oなどがある。
(14)Ceイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Ce[Fe(CN)6]、Ce4[Fe(CN)6]3、CsCe[Fe(CN)6]、CsCe[Fe(CN)6]・H2O、Ce4[Fe(CN)6]3・14H2Oなどがある。
(15)Prイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Pr4[Fe(CN)6]3、Pr[Fe(CN)6]、Pr4[Fe(CN)6]3・10H2O、CsPr[Fe(CN)6]・5H2Oなどがある。
(16)Ndイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Nd[Fe(CN)6]、Nd[Fe(CN)6]・4H2O、Nd4[Fe(CN)6]3、CsNd[Fe(CN)6]・5H2O、KNd[Fe(CN)6]などがある。
(17)Smイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Sm[Fe(CN)6]・4H2O、CsSm[Fe(CN)6]・5H2Oなどがある。
(18)Euイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Eu4[Fe(CN)6]3、Eu[Fe(CN)6]などがある。
(19)Gdイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Gd4[Fe(CN)6]3、Gd[Fe(CN)6]、CsGd[Fe(CN)6]・4H2O、KGd[Fe(CN)6]・4H2Oなどがある。
(20)Tbイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Tb4[Fe(CN)6]3、Tb[Fe(CN)6]などがある。
(21)Dyイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Dy4[Fe(CN)6]3、Dy[Fe(CN)6]などがある。
(22)Hoイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Ho4[Fe(CN)6]3、Ho[Fe(CN)6]などがある。
(23)Erイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Er4[Fe(CN)6]3、Er[Fe(CN)6]、Er[Fe(CN)6]・10H2Oなどがある。
(24)Tmイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Tm4[Fe(CN)6]3、Tm[Fe(CN)6]などがある。
(25)Ybイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Yb4[Fe(CN)6]3、Yb[Fe(CN)6]などがある。
(26)Luイオンを含む難溶性塩としては、例えば、Lu4[Fe(CN)6]3、Lu[Fe(CN)6]などがある。
[1.2.4. 難溶性鉄シアノ錯体の含有量]
[A. 電解質膜に添加する場合]
電解質膜に難溶性鉄シアノ錯体を添加する場合において、難溶性鉄シアノ錯体の含有量が少なすぎると、十分な耐久性の向上効果(電解質のラジカル劣化の抑制効果、あるいは、白金族元素の溶出の抑制効果)が得られない。従って、難溶性鉄シアノ錯体の含有量は、電解質膜に含まれる固体高分子電解質の乾燥重量に対して0.001wt%以上が好ましく、さらに好ましくは、0.1wt%以上である。
一方、難溶性鉄シアノ錯体の含有量が過剰になると、電解質膜の機械的強度が低下したり、あるいは、プロトン伝導性の低下を引き起こす。従って、難溶性鉄シアノ錯体の含有量は、電解質膜に含まれる固体高分子電解質の乾燥重量に対して40wt%以下が好ましく、さらに好ましくは、1wt%以下である。
[B. 電極に添加する場合]
電極に難溶性鉄シアノ錯体を添加する場合において、難溶性鉄シアノ錯体の含有量が少なすぎると、十分な耐久性の向上効果が得られない。従って、難溶性鉄シアノ錯体の含有量は、電極に含まれる触媒の総重量に対して0.001wt%以上が好ましく、さらに好ましくは、0.01wt%以上である。
一方、難溶性鉄シアノ錯体の含有量が過剰になると、触媒を被毒し、性能低下が著しくなる場合がある。従って、難溶性鉄シアノ錯体の含有量は、触媒の総重量に対して40wt%以下が好ましく、さらに好ましくは、4wt%以下である。
なお、電極に難溶性鉄シアノ錯体を添加する場合、難溶性鉄シアノ錯体は、触媒層に添加しても良く、あるいは、拡散層に添加しても良い。しかし、触媒層には触媒層内電解質が含まれており、強酸性であるため、触媒層に鉄シアノ錯体を添加すると、鉄シアノ錯体が溶出しやすい。そのため、触媒層に鉄シアノ錯体を添加する場合には、拡散層に添加する場合に比べて、より難溶性の高い鉄シアノ錯体を用いるのが好ましい。
[1.2.5. 難溶性鉄シアノ錯体の粒径]
一般に、難溶性鉄シアノ錯体の粒径が小さくなるほど、電解質膜又は電極に均一に分散させることができるため、少量の添加で高い効果が得られる。しかしながら、難溶性鉄シアノ錯体の粒径が小さくなるほど、単位重量当たりの表面積が大きくなるため、溶解しやすくなる。従って、難溶性シアノ錯体の平均粒径は、0.01μm以上が好ましく、さらに好ましくは、0.05μm以上である。
一方、難溶性鉄シアノ錯体の粒径が大きくなりすぎると、電解質膜又は電極への均一分散が困難となる。従って、難溶性鉄シアノ錯体の平均粒径は、10μm以下が好ましく、さらに好ましくは、1μm以下である。
ここで、「平均粒径」とは、顕微鏡観察下において、無作為に選んだ10個以上の粒子の最小外接円の直径の平均値をいう。
[1.2.6. 難溶性鉄シアノ錯体の添加方法]
難溶性鉄シアノ錯体を電解質膜又は電極に添加する方法としては、
(a)難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を電解質膜又は電極に直接添加する方法、
(b)沈殿反応を用いて電解質膜又は電極内に難溶性鉄シアノ錯体を析出させる方法
などがある。
特に、沈殿反応を用いる方法は、微細な難溶性鉄シアノ錯体を均一に分散させることができるので、難溶性鉄シアノ錯体の添加方法として好適である。添加方法の詳細については、後述する。
[1.2.7. フッ化物イオン濃度]
電解質膜がフッ素系電解質を含む場合において、電解質膜に本発明に係る難溶性鉄シアノ錯体を添加した時には、フッ化物イオンの溶出を抑制することができる。具体的には、所定量の難溶性鉄シアノ錯体を含む電解質膜に対してフッ化物溶出試験を行った場合、電解質膜から溶出するフッ化物イオン濃度は、0.1ppm以下となる。
ここで、「フッ化物イオン溶出試験」とは、前記フッ素系電解質の重量に対して2800ppmのII価鉄イオンをイオン交換処理により添加した前記電解質膜であって、0.05g相当の前記フッ素系電解質を含むものを、50gの3wt%過酸化水素中で100℃×5hr浸漬する試験をいう。
[2. 固体高分子型燃料電池の製造方法]
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、難溶性鉄シアノ錯体が含まれる点を除いて、周知の方法を用いて製造することができる。難溶性鉄シアノ錯体の添加方法としては、具体的には、以下のような方法がある。
[2.1. 難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を添加する方法]
第1の方法は、難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を、直接、電解質膜又は電極に添加する方法である。
[2.1.1. 拡散層への添加]
拡散層には、一般に電子伝導性に優れた炭素材料が使われ、触媒層と接する側には更に撥水性を高めるために撥水層が形成されるのが一般的である。この撥水層には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粒子と、炭素粉あるいは炭素繊維とを含み、場合によっては過酸化水素分解剤としての無機微粒子(CeO2、CePO4、Ce3(PO4)4等)が更に含まれる。
この撥水層に、従来の無機微粒子に代えて又はこれに加えて、さらに難溶性鉄シアノ錯体を添加することができる。本発明に係る難溶性鉄シアノ錯体は、従来の無機微粒子に比べ、少量の添加でも過酸化水素分解活性が大きい。そのため、電池性能を低下させることなく、MEAの耐久性を向上できる。
難溶性鉄シアノ錯体を含む拡散層は、例えば、PTFE微粒子等に溶剤を加えて粘度を調整した撥水層ペーストに難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を添加し、これをカーボンペーパー等の炭素材料の表面に塗布することにより形成することができる。
[2.1.2. 触媒層への添加]
触媒層には、一般に、触媒層内電解質と、触媒又は触媒を担持した担体とが含まれる。この触媒層に、さらに難溶性鉄シアノ錯体を添加することができる。
難溶性鉄シアノ錯体を含む触媒層は、例えば、触媒等に溶剤を加えて粘度を調整した触媒ペーストに難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を添加し、これを基材表面に塗布することにより形成することができる。
[2.1.3. 電解質膜への添加]
難溶性鉄シアノ錯体を含む電解質膜は、例えば、
(a)電解質を溶解させた溶液に難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を添加して分散液とし、この分散液を基材表面に塗布する方法(キャスト法)、
(b)有機溶媒に難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を分散させて分散液とし、この分散液に電解質膜を浸漬し、電解質膜を膨潤させて微粒子を電解質膜内部に導入する方法、
などにより製造することができる。
また、電解質膜は、固体高分子電解質と補強材との複合体であっても良い。この場合、難溶性鉄シアノ錯体を含む複合膜は、例えば、
(a)電解質を溶解させた溶液に難溶性鉄シアノ錯体の微粒子及び補強材を分散させて分散液とし、この分散液を基材表面に塗布する方法、
(b)電解質を溶解させた溶液に難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を分散させて分散液とし、電解質支持体(例えば、PTFE、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)等からなる多孔質基材)の表面に塗布する方法、
などにより製造することができる。
[2.2. 沈殿反応を用いて難溶性鉄シアノ錯体を添加する方法]
第2の方法は、難溶性鉄シアノ錯体の微粒子を直接添加するのではなく、沈殿反応を用いて所定の部位に難溶性鉄シアノ錯体を析出させる方法である。沈殿反応を用いた方法は、微粒子を直接添加する方法に比べて、より微細な難溶性鉄シアノ錯体をより均一に分散させることができる。
[2.2.1. イオン交換法]
イオン交換法は、イオン交換により難溶性鉄シアノ錯体を析出させる方法である。具体的には、まず、前記金属イオンを含む処理溶液(A)を用いて、前記電解質膜、前記電極、又は前記膜電極接合体に含まれる固体高分子電解質の酸基のプロトンの一部を前記金属イオンと交換する。次いで、前記電解質膜、前記電極、又は前記膜電極接合体と、フェロシアンイオン及び/又はフェリシアンイオンを含む処理溶液(B)とを接触させ、沈殿反応により前記難溶性鉄シアノ錯体を析出させる。
処理溶液(A)は、少なくとも金属イオンを含んでいるものであれば良い。処理溶液(A)中の金属イオン濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。
同様に、処理溶液(B)は、少なくともフェロシアンイオン及び/又はフェリシアンイオンを含んでいるものであれば良い。処理溶液(B)中の錯イオン濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。
電解質膜、電極、又はMEAと、処理溶液(A)又は処理溶液(B)とを接触させる方法としては、例えば、浸漬、スプレー塗布等の方法がある。
イオン交換に要する時間は、処理溶液(A)又は処理溶液(B)の温度に依存する。例えば、処理溶液(A)の温度が室温である場合、プロトンが金属イオンにほぼ100%交換されるためには、8時間以上を必要とする。一方、処理溶液(A)の温度が40℃以上である場合、2〜4時間程度でイオン交換が進行する。従って、イオン交換処理は、加温して行うのが好ましい。
微量の金属イオンを交換する場合は、処理溶液(A)に含まれる対アニオンは微量であるため、電池性能を阻害することはない。そのため、イオン交換処理後に、特に水洗を必要としない。
一方、電解質のプロトンの1%以上をイオン交換する場合には、対アニオンの電極被毒が無視できないことや、凝縮水のイオン電導度が増加し、配管等が腐食するおそれがある。このような高濃度のイオン交換を行う場合には、処理溶液(A)との接触後、十分に洗浄して余剰のアニオンを除去することが好ましい。
例えば、Ce3+と電解質とを接触させると、次の(1)式に示すように、Ce3+とスルホン酸基R−SO3Hのプロトンとがイオン交換する。次に、イオン交換された電解質とフェロシアンイオン[Fe(CN)6]4-とを接触させると、次の(2)式に示すように、フェロシアン化セリウムの難溶性錯体が形成される。
Ce3++3R−SO3H → (R−SO3)3Ce+3H+ ・・・(1)
4(R−SO3)3Ce+12H++3[Fe(CN)6]4-
12R−SO3H+Ce4[Fe(CN)6]3↓ ・・・(2)
同様に、Ag+をスルホン酸基のプロトンとイオン交換し、その後フェロシアンイオン[Fe(CN)6]4-と接触させると、Ag4[Fe(CN)6]が形成される。
即ち、最初に高分子電解質とイオン交換した金属イオンをZ1(n価)とし、高分子電解質とフェロシアンイオン[Fe(CN)6]4-とを接触させると、(Z1)m[Fe(CN)6]k(但し、n×m=4×k)で表されるフェロシアン錯体を形成することができる。
また、最初に高分子電解質とイオン交換した金属イオンをZ1(n価)とし、高分子電解質とフェリシアンイオン[Fe(CN)6]3-とを接触させると、(Z1)p[Fe(CN)6]q(但し、n×p=3×q)で表されるフェリシアン錯体を形成することができる。
なお、上記の例では、1種類の金属イオンでイオン交換した例を示したが、2種以上の金属イオンでイオン交換すると、例えば、CsCe[Fe(CN)6]、Cs2Co[Fe(CN)6]、K3Ag[Fe(CN)6]のような二種以上の金属イオンを含む錯体を形成することができる。また、イオン交換法により、Co3[Fe(CN)6]2・3H2O、Co2[Fe(CN)6]・2H2Oのような結晶水を含んだ錯体が形成される場合もある。
さらに、2種以上の金属イオンの置換においては、金属イオンの比率が整数比とならない固溶体が形成される場合がある。例えば、Ce3+、Ag+、及び[Fe(CN)6]4-を反応させる場合、CexAgy[Fe(CN)6]z(但し、3x+y=4z)で表される錯体を形成することができる。
[2.2.2. アノード分極法]
例えば、Pt−Co合金からなる触媒には、合金化されずに残留したCoイオンが存在することがある。酸洗浄やCoイオンのキレート剤を用いた洗浄を行ったとしても、残留Coイオンを完全に除去するのは困難である。
これに対し、Pt−Co合金触媒とフェロシアンイオン又はフェリシアンイオンとを接触させると、残留しているCoイオンをCo3[Fe(CN)6]2の形で難溶化することができる。その結果、Pt−Co合金で問題となる、残留したフリーのCoイオンによるフェントン反応の進行を防止することができる。また、触媒層からのCoイオンの溶出による電池性能の低下を抑制することができる。
触媒に含まれる金属を用いて難溶性鉄シアノ錯体を形成する場合、積極的に触媒層の金属の一部をアノード分極し、金属イオンを溶かし出すことも有効である。積極的にアノード分極させる方法としては、具体的には、酸処理法、電解法などがある。
[A. 酸処理法]
酸処理法は、酸を用いて触媒から金属イオンを溶出させ、溶出した金属イオンを難溶性鉄シアノ錯体として析出させる方法である。具体的には、まず、前記電極、又は前記膜電極接合体を、酸を含む処理溶液(C)中に浸漬し、前記処理溶液(C)中に前記電極内の触媒金属に含まれる金属イオンを溶出させる。次いで前記処理溶液(C)中に前記フェロシアンイオン及び/又は前記フェリシアンイオンを添加し、沈殿反応により前記難溶性鉄シアノ錯体を析出させる。
処理溶液(C)は、少なくとも酸を含んでいるものであれば良い。処理溶液(C)中の酸の濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な濃度を選択することができる。金属イオンの溶出を促進するためには、処理溶液(C)は、酸性であるだけでなく、酸化剤を含んでいるのが好ましい。酸化剤としては、例えば、過酸化水素などがある。
例えば、Pt−Co合金と処理溶液(C)とを接触させると、次の(3)式に示すように、Coイオンが優先的に溶出する。次いで、処理溶液(C)中にフェロシアンイオン及び/又はフェリシアンイオンを添加すると、次の(4)式に示すように、難溶性錯体が形成される。
Co → Co2++2e- ・・・(3)
4Co2++[Fe(CN)6]4- → Co4[Fe(CN)6]3↓ ・・・(4)
[B. 電解法]
電解法は、電解により触媒から金属イオンを溶出させ、溶出した金属イオンを難溶性鉄シアノ錯体として析出させる方法である。具体的には、前記電極、又は前記膜電極接合体を、前記フェロシアンイオン及び/又は前記フェリシアンイオンを含む前記処理溶液(D)中で電解処理を行い、前記電極内の前記触媒金属に含まれる金属イオンを溶出させると同時に、溶出した前記金属イオンと前記フェロシアンイオン及び/又は前記フェリシアンイオンとを反応させ、沈殿反応により前記難溶性鉄シアノ錯体を析出させる。
例えば、MEAの両面あるいは片面を不溶性アノード材料(例えば、Ptメッシュ、Tiメッシュ、PtめっきされたTiメッシュ等)で挟んでリードを取る。次いで、MEAをフェロシアンイオン又はフェリシアンイオンを含む処理溶液(D)中で電解する。これにより、触媒層中に含まれる金属の一部がイオンとして処理溶液(D)中に溶出し、さらに溶出した金属イオンとフェロシアンイオン又はフェリシアンイオンとが反応することで難溶性鉄シアノ錯体が析出する。
また、電極を電解する場合には、触媒層(転写シート)や触媒層付き拡散層を不溶性アノード材料で挟んで電解を行えば良い。
アノード分極操作は、定電位電解又は定電圧電解ではなく、電位走査を往復して複数回繰り返すか、あるいはPR電解(極性反転操作)を行うことが好ましい。この電位走査中(カソード分極時)に電極表面が水素によってクリーニングされ、アノード分極時に難溶性鉄シアノ錯体を均一に形成することができる。
電解に用いられる処理溶液(D)は、可溶性のフェロシアン塩又はフェリシアン塩を溶解させた溶液であり、Na塩又はK塩を0.01M〜0.1Mの濃度で含むものが好ましい。電解時の浴温度は室温〜60℃、走査速度は1mV/s〜100mV/s、走査電位範囲は水素発生電位〜+0.8Vが好ましい。処理時間は、数分で十分である。定電流電解を行う場合の電流密度は、1〜100mA/cm2が好ましい。
過剰の電解は、触媒金属の担持量を減らし、電子導電性の乏しい鉄シアノ錯体が厚く形成されるため、触媒活性を低下させる原因となる。従って、鉄シアノ錯体の厚さが0.1μm以下となるように、電解を行うのが好ましい。
3電極方式の電解を行う場合の参照極は、水素電極又はAg/AgCl電極を用いるのが好ましい。あるいは、予めPt線又はPt板と水素電極又はAg/AgCl電極との電位差を処理溶液で求めておき、Pt線又はPt板を参照極として用いても良い。この方法は、Clイオンによる汚染を防げるので効果的である。
電極を兼ねた被処理物を2枚用意して対向させ、一方を対極とし、他方を作用極として電解すれば、極性を数回反転させるだけで一度に2枚の被処理物の電解処理ができる。また、Ptやカーボン板のような不溶性電極を対極に使用しても良い。さらに、電解処理後に不要なカチオンを除去するために、硫酸、過塩素酸、硝酸、又はリン酸水溶液中で酸洗し、引き続き水洗するのが好ましい。
[2.2.3. 処理溶液中のハロゲン]
処理溶液を用いて沈殿反応を行わせる場合、前記処理溶液(A)〜(D)は、それぞれ、ハロゲンイオンを含まないのが好ましい。
処理溶液にハロゲンイオン、特に塩化物イオン(Cl-)が含まれていると、塩化物イオンが電極を被毒したり、PtをPtCl4 2-、PtCl6 2-のように錯イオン化させ、電池性能を低下させる。そのため、沈殿反応に用いられる処理液(A)〜(D)は、ハロゲンイオン(特に、塩化物イオン)を含まないのが好ましい。
例えば、Ce3+、Ce4+を含む処理溶液を作製する際には、塩化セリウム:CeCl3より硫酸セリウム(III):Ce2(SO4)3、硫酸セリウム(IV):Ce(SO4)2、又は硝酸セリウム:Ce(NO3)3を用いるのが好ましい。水和物を用いる場合も同様である。
また、処理後には水洗を十分に行い、場合によっては脱塩化物イオン処理(アニオン交換樹脂と共に水洗)を行ったり、あるいは特定のカチオン(Ag+、Cs+、BiO+、YbO+)を含む水溶液で洗浄し、塩化物イオンを難溶性塩化物として固定することが好ましい。水に可溶性の遊離塩化物イオンの濃度は、鉄シアノ錯体の重量に対して100ppm以下、及び/又は、電解質重量に対して10ppm以下とするのが好ましい。
[2.2.4. 不可能・非実際的事情]
沈殿反応により難溶性鉄シアノ錯体をMEA中に分散させる方法は、難溶性鉄シアノ錯体の微粒子をMEAに直接添加する方法に比べて、高い特性が得られる。これは、前者の方法を用いると、MEA内において難溶性鉄シアノ錯体が、より均一かつ微細に分散するためと考えられる。しかしながら、本願出願時において、難溶性鉄シアノ錯体の履歴に由来する分散状態の相違、粒径や粒度分布の相違等を評価する手段は存在しない。
[3. 作用]
[3.1. 従来技術の問題点]
特許文献1〜4には、触媒に起因する電池性能の低下を防止する方法が記載されている。しかしながら、従来の方法では、未だ満足するレベルの電池性能寿命は得られていない。その原因について我々が調査したところ、以下の知見を得た。
(a)Ptの溶解速度は、Ptイオン(Pt2+、Pt4+)の拡散速度に依存し、高温の電解質内部では意外と大きい。
(b)溶出したPtイオンは、再析出速度が小さいと触媒層沖合(膜内部方向)まで拡散し、時には電解質内部や対極まで拡散して再析出する。
(c)2,2−ビピリジンのようなキレート官能基を有する含窒素有機化合物は、過酸化水素に対する安定性が不十分なため、MEAに留まることができない。
ところで、電解質酸基の一部をFeイオン(例えば、Fe2+)で置換すると、電圧変動運転下での白金触媒粒子の溶解が抑えられ、耐久過程での電圧低下が小さくなることが認められている。また、Pt−Fe合金触媒は、電圧変動運転下での電圧低下が、耐久初期においては純Pt触媒よりも小さい。これらの理由は不明であるが、以下のような仮説が考えられる。
(d)以下の(5)式及び(6)式に示すように、電解質中に存在するFe2+には還元作用があり、溶出したPt2+を直ちに還元再析出させる。
Fe2+ → Fe3++e-0=0.73V ・・・(5)
Pt2++2e- → Pt E0=0.94V ・・・(6)
(e)Fe2+の一部が酸化されて生じたFe(OH)3がPt析出の核となる。そのため、Pt2+はFe2+が無い場合に比べて再析出しやすくなる。また、Fe(OH)3がPtイオン拡散パスの障壁となり、Ptイオンの拡散速度が低下する。
(f)Pt−Fe合金触媒においては、Fe2+が触媒層から徐々に触媒層内電解質に溶出する。その結果、触媒層内電解質の酸基の一部を予めFe2+で置換した場合と同様に、上記の(d)、(e)の効果が発現する。
ここで、効果的なことは、Feイオンを特定の配位子を伴う錯イオンとし、遊離のFeイオン(Fe2+、Fe3+)に存在するいわゆるフェントン活性を喪失させることである。これにより、Feイオンによる電解質のラジカルによる劣化が抑えられると考えられる。そこで、我々は、Fe錯体としてフェロシアン錯体又はフェリシアン錯体(鉄シアノ錯体)をMEAの電解質に存在させれば、電解質の耐久性を満足しつつ、触媒からの白金族元素の溶解を抑えることが可能になると考え、検討を進めた。
[3.2. 触媒金属の溶出の抑制、及びフェントン反応の抑制]
フェロシアンイオン(Fe(II);Fe(CN)6 4-)、及びフェリシアンイオン(Fe(III);Fe(CN)6 3-)は、Fe2+/Fe3+の電子移行速度が速く、電圧変動運転下での白金触媒粒子の溶解を抑える作用がある。
また、これらの錯イオンは、特定の金属イオンと結合すると難溶性鉄シアノ錯体となり、過酸化水素をラジカル分解(フェントン反応)する速度よりもイオン的に分解する速度が大きくなる。それゆえ、これらのFe錯イオンは、高分子電解質や炭素材料の過酸化物ラジカル(・OH、・OOH)による酸化劣化を引き起こすことがない。従って、これらの特定の金属イオンと結合した難溶性鉄シアノ錯体をMEAに添加すれば、触媒の劣化が抑制できるのみならず、高分子材料、炭素材料の劣化も抑制できる。
なお、特許文献5〜7には、本願とは別の目的で鉄シアノ錯体を燃料電池に用いる例が記載されている。しかし、本願の難溶性鉄シアノ錯体を、イオン交換基を持つ固体高分子電解質に添加した例、及びPtの溶出抑制やフェントン反応抑制によるMEAの劣化抑制については記載されていない。また、これらの文献に記載されているシアノ錯体は水溶性である。そのため、MEAにこれを添加しても、カチオンの原子数として50%を占めるNa+、K+等が電解質のプロトンと置換されるのみである。アニオンとしてのフェロシアンイオン又はフェリシアンイオンは、MEA内部に短時間しか存在できず、早期に系外に溶出し、耐久性向上効果は限定的である。
また、我々の検討によると、鉄シアノ錯体がフェントン反応を抑制する金属イオンを含まない場合、そのような鉄シアノ錯体は、電解質のラジカル劣化を抑制する効果がほとんど無い。場合によっては、鉄シアノ錯体がラジカルで分解し、遊離の鉄イオン(Fe2+、Fe3+)を放ち、かえって電解質の酸化劣化を促進する場合があることが判明した。従って、電解質の酸化劣化を促進しない安定な難溶性鉄シアノ錯体をMEA、特に触媒層内電解質及び/又は電解質膜に固定する必要がある。
難溶性鉄シアノ錯体の効果としては、Ptの溶解を抑える働きの他に、電解質のラジカル耐性を向上する働きが挙げられる。このメカニズムは、フェロシアン錯体(Fecocyano)及びフェリシアン錯体(Fericyano)が過酸化水素分解触媒(接触分解触媒)として可逆的に働くためである。この反応は、次の(7)〜(10)式で表すことができる。
2Ferocyano → 2Fericyano + 2e- ・・・(7)
22 + 2H+ +2e- → 2H2O ・・・(8)
2Fericyano + 2e- → 2Ferocyano ・・・(9)
22 → O2 + 2H+ + 2e- ・・・(10)
(7)〜(10)式より、次の(11)式が導かれる。
2H22 → 2H2O + O2 ・・・(11)
この(11)式に示す過酸化水素の非ラジカル的分解反応は、配位子のない遊離のFeイオンでは非常に遅く、むしろ過酸化水素がラジカル的に分解する反応(フェントン反応)が優先して起きる。一方、CN-のような配位子と特定の金属イオンとがFeイオンの周りに存在すると、上記(7)〜(10)式に示す過酸化水素の非ラジカル的分解反応の速度が高まる。その結果、ラジカル的分解反応の速度が低下すると考えられる。
それゆえ、MEAの触媒層以外の場所に特定の金属イオンを含む鉄シアノ錯体が存在している場合であっても、これらの錯体上で過酸化水素を無害化する働きが期待できる。例えば、拡散層内に特定の金属イオンを含む難溶性鉄シアノ錯体が存在する場合には、過酸化水素及び・OHラジカルによる拡散層材料の酸化を抑えることができ、撥水性の低下による電池性能の低下を抑制することができる。
電解質膜内部に特定の金属イオンを含む難溶性鉄シアノ錯体が存在している場合には、過酸化水素及び・OHラジカルによる高分子電解質材料の酸化劣化を防ぐことができる。例えば、フッ素系高分子材料からのF排出や、電解質膜の重量減(薄膜化)、分子量低下による機械的強度の低下及びこれによるクロスリークの増加や穴あきを防止できる。触媒層内電解質に特定の金属イオンを含む難溶性鉄シアノ錯体が存在している場合には、Ptの溶出を抑制すると共に、過酸化水素の無害化による触媒層内電解質の保護が期待できる。
(実施例1、比較例1〜4: フェロシアン錯体のフェントン活性(1))
[1. 試料の作製]
[1.1. フェロシアン錯体の作製]
フェロシアン化カリウム:0.5mMを純水:10gに溶解し、フェロシアン化カリウム水溶液を得た。また、所定量のセリウム(III)硝酸塩(実施例1)、鉄(III)硝酸塩(比較例3)、又は銅(II)硝酸塩(比較例4)を純水に溶解し、硝酸塩水溶液:10gを得た。硝酸塩水溶液中の硝酸塩の量は、フェロシアン化カリウム水溶液と反応させた時に、フェロシアン錯体が化学量論比で沈殿生成する量とした。例えば、銅(II)硝酸塩の場合は、0.5×2=1mMとした。
フェロシアン化カリウム水溶液と硝酸塩水溶液とをマグネチックスターラーで、室温において30分間撹拌混合した。次いで、80℃の恒温槽で1hr熟成し、沈殿を得た。得られた沈殿をろ過して純水で十分に洗い、80℃で1hr乾燥し、重量を求めた。なお、鉄(III)硝酸塩から得られたフェロシアン錯体は、粒子が非常に細かく、ろ紙をすり抜ける割合が高いため、遠心分離と純水によるデカンテーションを行い、固形物を得た。
化学量論比で無水のフェロシアン錯体が生成すると仮定した理論重量に対する収率は、セリウム(III)硝酸塩で87.8%、鉄(III)硝酸塩で56.2%、銅(II)硝酸塩で93.4%であった。
[1.2. 電解質膜へのフェロシアン錯体の添加]
フェロシアン錯体:0.1gをブチルカルビトール:10gに超音波分散させ、濃度:1wt%の分散液を得た。この分散液:5gを硝子製シャーレ内に入れ、分散液とフッ素系電解質膜(大きさ:2.5cm×2.0cm、厚さ:50μm、重量:0.05g)とを室温で5分間接触させることで、膨潤及びフェロシアン錯体の含浸を行った。
次に、紙ウェスで膜表面に付着した分散液とフェロシアン錯体とを十分にぬぐい取り、風乾し、さらに80℃×2hrの真空乾燥を行った。真空乾燥後にフェロシアン錯体の含浸重量を測定したところ、含浸重量は、膜乾燥重量に対して15%前後であった。
なお、比較として、フェロシアン錯体未添加の膜(比較例1)も試験に供した。また、Waldeck GmbH製の鉄シアノ錯体であるベルリンブルー(Fe4[Fe(CN)6]3)についても実施例1と同様にして、フェロシアン錯体添加膜(比較例2)を作製した。
[2. 試験方法]
膜を50gの3wt%過酸化水素水溶液が入っている蓋付きPTFE容器に入れ、100℃に設定した恒温槽に5hr静置した。その後、膜を取り出し、過酸化水素水溶液中に溶出したフッ化物イオン濃度をオリオンリサーチ社製イオンメーターで測定した。
[3. 結果]
表1に結果を示す。実施例1は、比較例1〜4に比べF排出量が少なかった。一方、鉄イオンのみを対カチオンとする鉄シアノ錯体添加膜(比較例2、3)、及び銅イオンのみを対カチオンとする鉄シアノ錯体添加膜(比較例4)は、いずれも未添加膜(比較例1)よりもフッ化物イオン濃度が高く、電解質の酸化劣化を引き起こすフェントン活性が大きかった。
Figure 0006665714
(実施例2〜14、比較例5〜7: フェロシアン錯体のフェントン活性(2))
[1. 試料の作製]
実施例1と同様にして、各種硝酸塩(但し、Snのみ塩化物)を用いて、各種難溶性フェロシアン錯体を合成し、難溶性フェロシアン錯体を添加した電解質膜を作製した。
次に、電解質膜乾燥重量に対し、2800ppm(電解質膜乾燥重量0.05gに対して0.14mg)のFe2+を含む硫酸第一鉄水溶液:100mLを用いて80℃×2hrイオン交換した。その後、80℃×2hrの乾燥処理を行い、難溶性フェロシアン錯体とFe2+とを含む膜を用意した(実施例2〜14)。
比較として、
(a)難溶性フェロシアン錯体を添加せず、Fe2+イオン交換処理のみを行った膜(比較例5)、並びに
(b)フェロシアン化鉄(合成プルシアンブルー、比較例6)又はフェロシアン化銅(比較例7)の添加、及びFe2+イオン交換処理を行った膜、
も試験に供した。
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同様にして、過酸化水素水浸漬試験を行い、溶出したフッ化物イオン濃度を求めた。表2に結果を示す。
実施例2〜14は、Fe2+イオン交換のみを行った場合(比較例5)より大幅にフッ化物イオン濃度が低下した。
一方、フェロシアン化鉄又はフェロシアン化銅を添加した場合(比較例6、7)は、かえってFe2+イオン交換のみを行った場合(比較例5)よりもフッ化物イオン濃度が増大した。これらの錯塩は、Fe2+共存下でもフェントン活性が大きく、膜劣化を促進することがわかった。
Figure 0006665714
(実施例15〜16、比較例8: フェロシアン錯体のフェントン活性(3))
[1. 試料の作製]
実施例1と同様にして、難溶性のフェロシアン化銀(実施例15)、又はフェロシアン化プラセオジウム(実施例16)を添加した膜を用意した。次に、得られた膜を100mLの純水に80℃×2hr浸漬する純水溶解試験を行った。その後、実施例2と同様にして、Fe2+イオン交換処理を行った。
また、比較として、可溶性のフェロシアン化カリウムを用いた以外は、実施例15と同様にして、フェロシアン化カリウムの膨潤・含浸、純水溶解試験、及びFe2+イオン交換処理を行った(比較例8)。
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同様にして、過酸化水素水浸漬試験を行った。表3に結果を示す。
実施例15、16は、純水溶解試験を行っていない場合(実施例8、12)よりも若干F濃度が増加したものの、Fe2+イオン交換のみの膜(比較例5)よりも大幅にフッ化物イオン濃度が低下した。
一方、可溶性フェロシアン錯体であるフェロシアン化カリウム(溶解度:213g/L(12℃))を添加した膜(比較例8)は、フッ化物イオン濃度が高く、比較例5よりもむしろフッ化物イオン濃度が増大した。
Figure 0006665714
(実施例17〜20: フェロシアン錯体の添加量)
[1. 試料の作製]
フェロシアン化プラセオジウムをブチルカルビトールに分散させた分散液を用意した。分散液中のフェロシアン化プラセオジウムの濃度は、0.1wt%(実施例17)、0.01wt%(実施例18)、0.001wt%(実施例19)、又は0.0001wt%(実施例20)とした。以下、実施例1と同様にして、フェロシアン化プラセオジウムを添加した膜を作製した。さらに、得られた膜に対し、実施例2と同様にして、Fe2+イオン交換を行った。
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同様にして、過酸化水素水浸漬試験を行った。表4に結果を示す。なお、表4には、フェロシアン化プラセオジウムの膜添加量、並びに、実施例12及び比較例5の結果も併せて示した。
フェロシアン化プラセオジウムの添加量が極微量(実施例20)であっても、未添加(比較例5)に比べてフッ化物イオン濃度が低下した。また、フェロシアン化プラセオジムの膜添加量が多くなるほど、フッ化物イオン濃度が低下した。特に、膜添加量が0.01wt%以上では、フッ化物イオン濃度が未添加(比較例5)よりも大幅に低下した。
Figure 0006665714
(実施例21〜22: フェリシアン錯体のフェントン活性)
[1. 試料の作製]
錯イオン供給源としてフェリシアン化カリウムを用い、対カチオン供給源として硝酸セリウムアンモニウム(Ce4+;実施例21)又は硝酸銀(Ag+;実施例22)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフェリシアン錯体を添加した膜を作製した。さらに、実施例2と同様にして、Fe2+イオン交換処理を行った。
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同様にして、過酸化水素水浸漬試験を行った。フッ化物イオン濃度は、それぞれ、0.10ppm(実施例21)、及び0.05ppm(実施例22)であり、フェリシアン錯体未添加(比較例5)より大幅にフッ化物イオン濃度が減少した。
(実施例23〜24、比較例9: イオン交換法によるフェロシアン錯体の添加)
[1. 試料の作製]
フッ素系電解質膜(厚さ:50μm、大きさ:14×36mm)を硝酸セリウム水溶液又は硝酸銀水溶液に80℃×4hr浸漬し、イオン交換を行った。水溶液中のCe3+濃度及びAg+濃度は、それぞれ、電解質のプロトンの10%をイオン交換することが可能な濃度とした。イオン交換後、十分に水洗した。
次に、イオン交換処理した膜を、100mLの0.01Mフェロシアン化ナトリウム溶液に浸漬し80℃×4hr熟成して、難溶性のフェロシアン化セリウム(実施例23)又はフェロシアン化銀(実施例24)を膜に固定した。その後、十分に洗浄した。
[2. 試験方法及び結果]
得られた膜を、硫酸第一鉄(Feとして5ppm)を含む水溶液:50mLに80℃×8hr浸漬し、Fe2+を膜内に導入した。Fe2+によるイオン交換量は、電解質のプロトンの10%とした。その後、上記水溶液に30wt%過酸化水素水を適量加えて過酸化水素濃度が0.3wt%となるように調整し、100℃×4hrの耐久試験を行った。比較として、Fe2+を導入しただけの膜(比較例9)についても同様の耐久試験を行った。
試験後の溶液中のFイオン濃度をオリオン社製のイオンメーターで測定し、単位時間、単位面積当たりのF排出速度を求めた。その結果、フェロシアン化セリウム添加膜(実施例23)では0.07μg/cm2/hr、フェロシアン化銀添加膜(実施例24)では0.04μg/cm2/hrであった。一方、Fe2+導入膜(比較例9)では13μg/cm2/hrであった。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る固体高分子型燃料電池は、車載用動力源、定置型小型発電器、コジェネレーションシステム等に適用することができる。
また、難溶性鉄シアノ錯体が固定された固体高分子電解質の用途は、固体高分子型燃料電池の電解質膜あるいは触媒層内電解質に限定されるものではなく、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜、電極材料等としても用いることができる。

Claims (7)

  1. 電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体と、
    前記電解質膜及び/又は前記電極に添加された難溶性鉄シアノ錯体と
    を備え、
    前記難溶性鉄シアノ錯体は、対カチオンとして、周期律表第3族〜第15族に属する少なくとも1つの金属イオンを含む(但し、前記対カチオンとして、鉄イオンのみを含むもの、及び銅イオンのみを含むものを除く)固体高分子型燃料電池。
  2. 前記難溶性シアノ錯体は、前記電解質膜に添加されており、
    前記難溶性鉄シアノ錯体の含有量は、前記電解質膜に含まれる固体高分子電解質の乾燥重量に対して、0.001wt%以上40wt%以下である
    請求項1に記載の固体高分子型燃料電池。
  3. 前記難溶性鉄シアノ錯体の平均粒径は、0.01μm以上10μm以下である請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池。
  4. 前記難溶性鉄シアノ錯体は、以下のいずれかの方法により得られたものからなる請求項1から3までのいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
    (a)前記金属イオンを含む処理溶液(A)を用いて、前記電解質膜、前記電極、又は前記膜電極接合体に含まれる固体高分子電解質の酸基のプロトンの一部を前記金属イオンと交換し、次いで、前記電解質膜、前記電極、又は前記膜電極接合体と、フェロシアンイオン及び/又はフェリシアンイオンを含む処理溶液(B)とを接触させ、沈殿反応により前記難溶性鉄シアノ錯体を析出させる方法。
    (b)前記電極、又は前記膜電極接合体を、酸を含む処理溶液(C)中に浸漬し、前記処理溶液(C)中に前記電極内の触媒金属に含まれる金属イオンを溶出させ、次いで前記処理溶液(C)中に前記フェロシアンイオン及び/又は前記フェリシアンイオンを添加し、沈殿反応により前記難溶性鉄シアノ錯体を析出させる方法。
    (c)前記電極、又は前記膜電極接合体を、前記フェロシアンイオン及び/又は前記フェリシアンイオンを含む前記処理溶液(D)中で電解処理を行い、前記電極内の前記触媒金属に含まれる金属イオンを溶出させると同時に、溶出した前記金属イオンと前記フェロシアンイオン及び/又は前記フェリシアンイオンとを反応させ、沈殿反応により前記難溶性鉄シアノ錯体を析出させる方法。
  5. 前記処理溶液(A)〜(D)は、それぞれ、ハロゲンイオンを含まない請求項4に記載の固体高分子型燃料電池。
  6. 前記金属イオンは、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Zr、Ag、In、Sn、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuからなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素のイオンである
    請求項1から5までのいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
  7. 前記電解質膜は、フッ素系電解質を含み、
    前記電解質膜は、フッ化物イオン溶出試験を行った時に、前記電解質膜から溶出するフッ化物イオン濃度が0.1ppm以下であるものからなる
    請求項1から6までのいずれか1項に記載の固体高分子型燃料電池。
    但し、「フッ化物イオン溶出試験」とは、前記フッ素系電解質の重量に対して2800ppmのII価鉄イオンをイオン交換処理により添加した前記電解質膜であって、0.05g相当の前記フッ素系電解質を含むものを、50gの3wt%過酸化水素中で100℃×5hr浸漬する試験をいう。
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