JP6652161B2 - 梁接合構造及び梁接合構造の回転剛性算出方法 - Google Patents
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剛接合の接合部では、例えば、小梁のフランジは大梁に溶接又はボルトを用いて接合(以下、ボルト接合と呼ぶ)されるとともに、小梁のウェブは大梁に設けたシアプレートにボルト接合される。一方で、ピン接合の接合部では、例えば、小梁のウェブは大梁に設けたシアプレートにボルト接合されるが、小梁のフランジは大梁に接合されない。
たわみの図に示すように、梁101のヤング係数をE、梁101の断面二次モーメントをIとする。この場合、梁101の中央におけるたわみδ0は、{5wl4/(384EI)}の式による値になる。
また、合成梁の端部の損傷を評価する際に、合成梁の端における回転剛性を算出することが有効である。しかしながら、合成梁の端の回転剛性を精度良く算出することは容易ではない。
(1) 本発明の梁接合構造は、シアプレートが設けられた支持部材と;ウェブとフランジとを有し、前記シアプレートから延びるように配置された梁と;前記梁の前記ウェブの端部と前記シアプレートとを摩擦接合するボルトと;前記梁の前記フランジに設けられ、前記梁に作用する曲げモーメントを前記支持部材に伝達する伝達部材と;を備える梁接合構造において、前記梁の材軸方向の端に発生する曲げモーメントの絶対値と前記梁の前記材軸方向の中央に発生する曲げモーメントの絶対値とが同等になる梁接合構造を第1基準構造としたときに、前記梁接合構造の前記梁の端の回転剛性は、前記第1基準構造の前記梁の端の回転剛性である回転剛性上限値以下であり、前記梁の長さをl(mm)、前記梁の正曲げ剛性をEI s (Nmm 2 )、及び、前記梁の負曲げ剛性をEI h (Nmm 2 )としたときに、前記回転剛性上限値K u,lim (Nmm/rad)は(1)式を満たすことを特徴としている。
また、梁の正曲げ剛性及び負曲げ剛性を考慮して梁の端部の損傷を定量的に評価し、一般的に梁の中央よりも耐力の小さい梁の端部が損傷するのを抑制することができる。
この発明によれば、梁の端部における支持部材との接合部に一定以上の回転剛性を付与することで、梁の中央のたわみを抑制することができる。
この発明によれば、伝達部材の圧縮耐力を大きくすることができる。
梁接合構造に用いられる合成梁の端の回転剛性を精度良く算出することができる。
以下、本発明に係る梁接合構造の一実施形態を、図1から図15を参照しながら説明する。図1に示す建築物1には、本実施形態の梁接合構造2が用いられている。この建築物1は、上下方向に沿って延び、第1シアプレート14が設けられた複数本の柱11と、柱11間に掛け渡され、第2シアプレート(シアプレート)25が設けられた大梁(支持部材)21と、大梁21間に掛け渡された小梁(梁)31と、小梁31の小ウェブ(ウェブ)32の端部と第2シアプレート25とを摩擦接合する高力ボルト(ボルト)41と、小梁31の小フランジ(フランジ)33に接合された床スラブ(伝達部材)51と、を備えている。
なお、図1では、柱11が1本のみ、及び後述する複数本の縦鉄筋53のうちの一部のみが示されるとともに、床スラブ51において複数本の縦鉄筋53以外が透過されて示されている。
梁接合構造2において、小梁31及び床スラブ51は、合成梁61を構成する。
以下では、建築物1が備える複数本の大梁21のうちの1本の大梁21と、この1本の大梁21に高力ボルト41により端部が接合された小梁31と、小梁31に接合された床スラブ51に着目して説明する。これら大梁21、小梁31、高力ボルト41、及び床スラブ51は、梁接合構造2を構成する。
なお、大梁21を挟んでこの小梁31に対向するように配置された小梁31を、小梁31Aとも呼ぶ。
なお、図3中には、一部を拡大した図も示す。
大梁21の端部は、柱11の第1シアプレート14に、符号を省略したボルトや溶接等により接合されている。
小梁31は、小ウェブ32の上方、下方に小フランジ33、小フランジ34がそれぞれ位置するとともに、第2方向Xに沿って延びるように配置されている。小梁31は、第2シアプレート25から水平面に沿って延びるように配置されている。なお、小梁31及び第2シアプレート25は、第2方向Xに沿って延びるように配置されていなく、第2方向Xに対して傾いていてもよい。
高力ボルト41は、第2シアプレート25のプレート貫通孔25a、及び小ウェブ32のウェブ貫通孔32aに対応して、上下方向に沿って複数行配置されるとともに、第2方向Xに沿って1列配置されている。
このように、第2シアプレート25及び小梁31の小ウェブ32は、高力ボルト41で接合されている。しかし、小梁31の小フランジ34と大梁21及び第2シアプレート25とは、直接接合されていない。
複数本のスタッド52は、小フランジ33の上面に固定されている。複数本のスタッド52は、第2方向Xに互いに間隔を空けて配置されている。複数本の縦鉄筋53は、第2方向Xに沿って延びるとともに第1方向Yに互いに間隔を空けて配置されている。複数本の縦鉄筋53のうち、同一の水平面内に配置されているものをまとめて第1層の縦鉄筋53、第2層の縦鉄筋53等と数えるとする。複数本の縦鉄筋53は、1層を構成してもよいし、上下方向に互いに間隔を空けて複数層を構成していてもよい。複数本のスタッド52及び複数本の縦鉄筋53は、コンクリート54内に配置されている。
床スラブ51は、小梁31の小フランジ33に接合されている。床スラブ51は、小梁31に作用する曲げモーメントを大梁21及び小梁31Aに伝達する。
なお、コンクリート54内には、第1方向Yに沿って延びる複数本の横鉄筋が配置されていてもよい。複数本の横鉄筋は、第2方向Xに互いに間隔を空けて配置される。
コンクリート54は、第1方向Y及び第2方向Xに沿ってそれぞれ延びる板状に形成されている。
〔2.1.回転剛性と合成梁の端の回転角との関係〕
小梁31は、長さがl(mm)であるとする。合成梁61は、正曲げ剛性がEIs(Nmm2)、負曲げ剛性がEIh(Nmm2)であるとする。合成梁61で一般的な荷重条件を想定し、下記の(i)から(iii)の3つのケースを対象にする。
(i)合成梁61が等分布荷重w(N/mm)を受ける場合
(ii)合成梁61が、小梁31のスパンを3分割する2点に集中荷重P(N)を受ける場合
(iii)合成梁61が、小梁31の中央1点に集中荷重P(N)を受ける場合
以下では、(i)から(iii)の各ケースにおいて、合成梁61の第2方向Xの端の回転剛性K(Nmm/rad)と合成梁61の端の回転角θa(rad)との関係を定式化する。ただし、回転角θaは、時計回りを正とする。
図4(a)に示すように合成梁61をモデル化する。座標xは、合成梁61(小梁31)に沿って規定される。合成梁61が全長にわたり下向きに等分布荷重w(N/mm)を受けるとする。
なお、以下で説明する回転剛性、曲げモーメント、曲げ耐力等は、特に指定が無い場合には第1方向Yに沿う軸線周りの値である。
合成梁61の端の(合成梁61の端に発生する)曲げモーメントの絶対値Ma(Nmm)は、(11)式で表される。
例えば、座標xがl1以上l2以下のときに、曲率φは(13)式で表され、座標xが0以上l1以下、及びl2以上l以下のときに、曲率φは(14)式で表される。座標xがl1及びl2のときには、(13)式及び(14)式のどちらを用いてもよい。
ここで、さらにx=l/2における変形の適合条件であるθ(l/2)=0の式を用いると、(11)式及び(19)式から、回転剛性Kと合成梁61の端の回転角θaとの関係が(26)式で表される。
図5(a)に示すように合成梁61をモデル化する。合成梁61は、合成梁61の長さlを3分割する、座標xが(l/3)、(2l/3)の2点に下向きに集中荷重Pを受けるとする。この場合、合成梁61の端の曲げモーメントの絶対値Maは、前述の(11)式で表される。
合成梁61の方向xの曲げモーメントM(Nmm)は、小梁31の下方の小フランジ34に引張力が作用するときの曲げモーメントを正とすると、力の釣り合い条件から(31)式から(33)式で表される。
曲率φは、前述の正曲げ剛性EIs及び負曲げ剛性EIhを用いて、合成梁61が正曲げ、負曲げの領域、及びモーメントが不連続な領域に分けて(34)式から(38)式で表される。
ここで、さらにx=l/2における変形の適合条件であるθ(l/2)=0の式を用いると、(11)式及び(45)式から、回転剛性Kと合成梁61の端の回転角θaとの関係が(48)式で表される。
図6(a)に示すように合成梁61をモデル化する。合成梁61は、合成梁61の長さlの中央である、座標xが(l/2)の1点に下向きに集中荷重Pを受けるとする。この場合、合成梁61の端の曲げモーメントの絶対値Maは、前述の(11)式で表される。
合成梁61の方向xの曲げモーメントM(Nmm)は、小梁31の下方の小フランジ34に引張力が作用するときの曲げモーメントを正とすると、力の釣り合い条件から(56)式及び(57)式で表される。
曲率φは、前述の正曲げ剛性EIs及び負曲げ剛性EIhを用いて、合成梁61が正曲げ、負曲げの領域、及びモーメントが不連続な領域に分けて(58)式から(61)式で表される。
ここで、さらにx=l/2における変形の適合条件であるθ(l/2)=0の式を用いると、(11)式及び(66)式から、回転剛性Kと合成梁61の端の回転角θaとの関係が(69)式で表される。
本実施形態の梁接合構造2に対して、合成梁61の回転剛性については、合成梁61の端の回転剛性K以外は同一であり、合成梁61の端に発生する曲げモーメントの絶対値と合成梁61の中央に発生する曲げモーメントとの絶対値が一致する梁接合構造を第1基準構造とする。
ここで、「梁接合構造2に対して、合成梁61の回転剛性については、合成梁61の端の回転剛性K以外は同一」であるとは、梁接合構造2によって支持された合成梁61と第1基準構造によって支持された合成梁は互いに曲げ剛性及び材軸方向の長さが同じであり、合成梁の端の接合部の回転剛性だけが相互に異なることを意味する。具体的には、前記合成梁の端の位置において、例えば、伝達部材として床スラブ51の内部に設けられた縦鉄筋53の本数等が異なる、高力ボルト41の数や当該高力ボルト41が挿入される貫通孔の配置が異なる、第2シアプレート25の板厚を異なる等の状態の差異を意味する。
本実施形態の場合、梁接合構造2と第1基準構造とは、合成梁61の端の回転剛性を異ならせるために、合成梁61の端の位置において、床スラブ51が有する例えば縦鉄筋53の本数等を異ならせている。
第1基準構造において、小梁31及び床スラブ51は合成梁61を構成する。
なお、第1基準構造において、合成梁61の端の曲げモーメントの絶対値Maと合成梁61の中央の(合成梁61の中央に発生する)曲げモーメントの絶対値M0とが同等になるときの合成梁61の端の回転剛性Kが、回転剛性上限値Ku,limであるとしてもよい。ここで言う同等とは、例えば(M0−Ma)/Maの値が±5%以内であることが好ましく、±2%以内であることがより好ましい。
曲線L1は小梁31の端の曲げモーメントの絶対値Maを示し、曲線L2は合成梁61の中央の曲げモーメントの絶対値M0を示す。曲線L1と曲線L2との交点の回転剛性Kが、回転剛性上限値Ku,lim(Nmm/rad)である。第1基準構造では、合成梁61の端の回転剛性Kが回転剛性上限値Ku,limに等しく、この結果、合成梁61の端の曲げモーメントの絶対値と合成梁61の中央の曲げモーメントの絶対値とが等しくなる。
一般的に、コンクリートでは圧縮耐力よりも引張耐力の方が小さいため、小梁31の上方に床スラブ51が設けられた合成梁61は、正曲げ耐力よりも負曲げ耐力の方が小さくなる。このため、正曲げが発生する合成梁61の中央よりも負曲げが発生する合成梁61の端の方が損傷しやすくなる。
本実施形態の梁接合構造2の合成梁61の端の回転剛性Kは、第1基準構造の合成梁61の端の回転剛性Kである回転剛性上限値Ku,limと同一であってもよいし、回転剛性上限値Ku,limよりも小さくてもよい。
前述の(26)式に下記の(76)式及び(77)式を代入すると、(78)式が得られる。
この場合、(76)式が成り立つ。(26)式において、EIs=EIh=EIとおき、等分布荷重wについて解くと、(80)式が得られる。
(48)式を集中荷重Pについて解くと、(86)式が得られる。
(Ma≦M0)を満たすには、(88)式の条件が必要である。
ただし、合成梁61の正曲げ剛性EIsと負曲げ剛性EIhとが等しい場合には、(89)式に代えて、以下の手順により求めた後述する(91)式を用いる。
この場合、(76)式が成り立つ。(49)式を集中荷重Pについて解くと、(91)式が得られる。
(76)式、(87)式、及び(91)式を、(Ma≦M0)の式に代入する。この不等式の等号が成立するときに(K=Ku,lim)であるので、(92)式が得られる。
まず、合成梁61の正曲げ剛性EIsと負曲げ剛性EIhとが等しい場合には、(70)式を集中荷重Pについて解くと、(96)式が得られる。
また、(76)式が成り立ち、x=l/2における合成梁61の中央の曲げモーメントの絶対値M0は、(97)式となる。
合成梁61の正曲げ剛性EIsと負曲げ剛性EIhとが等しくない場合には、一般的に、負曲げを受ける合成梁61の端の曲げ剛性は、正曲げを受ける合成梁61の中央の曲げ剛性よりも小さい。このため、曲げ剛性が一様な梁よりも梁の端の曲げモーメントが小さくなり、曲げ剛性が一様な梁と同様に、あらゆる回転剛性Kに対して、(Ma≦M0)の不等式が成立する。
正曲げを受ける合成梁61の曲げ耐力(正曲げ耐力)はsMu(Nmm)、負曲げを受ける合成梁61の曲げ耐力(負曲げ耐力)はhMu(Nmm)である。
本実施形態の梁接合構造2に対して、合成梁61の回転剛性については、合成梁61の端の回転剛性K以外は同一であり、曲げ耐力に対する設計用曲げモーメントの比が、合成梁61の端と中央とで一致する梁接合構造を第2基準構造とする。言い換えれば、本実施形態の梁接合構造2に対して、合成梁61の端における負曲げ耐力に対する合成梁61の端に発生する曲げモーメントの絶対値の比率(以下、端曲げ応力度比と呼ぶ)と、合成梁61の中央における正曲げ耐力に対する合成梁61の中央に発生する曲げモーメントの絶対値の比率(以下、中央曲げ応力度比と呼ぶ)と、が一致する梁接合構造を第2基準構造とする。
ここで、「梁接合構造2に対して、合成梁61の回転剛性については、合成梁61の端の回転剛性以外は同一」であるとは、2.2.において説明した意味である。
第2基準構造において、小梁31及び床スラブ51は合成梁61を構成する。
第2基準構造の合成梁61の端の回転剛性を、回転剛性下限値Kl,lim(Nmm/rad)と規定する。
なお、第2基準構造において、端曲げ応力度比と中央曲げ応力度比とが同等になるときの合成梁61の端の回転剛性Kが、回転剛性下限値Kl,limであるとしてもよい。
曲線L3と曲線L4との交点の回転剛性Kが、回転剛性下限値Kl,limである。
曲げ応力度比は、例えば、曲げモーメントに対して損傷(破壊)に至るまでの余裕度をあらわす。曲げ応力度比の値が1になると、合成梁61が損傷する。
本実施形態の梁接合構造2において、合成梁61の端の回転剛性Kを回転剛性下限値Kl,lim以上の範囲R2とすることで、合成梁61の端部における大梁21との接合部に一定以上の回転剛性を付与することで、合成梁61の中央のたわみを抑制することができる。
本実施形態の梁接合構造2の合成梁61の端の回転剛性Kは、第2基準構造の合成梁61の端の回転剛性Kである回転剛性下限値Kl,limと同一であってもよいし、回転剛性下限値Kl,limよりも大きくてもよい。
端の回転剛性Kが範囲R3内である梁接合構造2は、合成梁61の端部の接合の仕方が、剛接合とピン接合との間の、いわゆる半剛接合の回転剛性になる。
端曲げ応力度比が中央曲げ応力度比以上となる条件は(101)式で表わせる。
負曲げ耐力hMuと正曲げ耐力sMuとが等しくない場合には、回転剛性下限値Kl,limは以下のようになる。
(101)式に(76)式、(78)式を順に代入すると、(102)式が得られる。
前述の(101)式に(76)式、(32)式、及び(48)式を順に代入し、(101)式の等号が成立するときの回転剛性Kが回転剛性下限値Kl,limだとすると、(111)式が得られる。
前述の(101)式に(76)式、(69)式、及び(78)式を順に代入し、(101)式の等号が成立するときの回転剛性Kが回転剛性下限値Kl,limだとすると、(116)式が得られる。
これまで、(i)から(iii)の3つのケースを説明してきたが、(i)の合成梁が等分布荷重を受ける場合が多いことと、(i)の場合は、(ii)の場合及び(iii)の場合を含むこと、により、本発明の合成梁の荷重条件は(i)のケースを満たせばよいと考えられる。
ここで、合成梁61の端の回転剛性Kを算出する梁接合構造2の回転剛性算出方法(以下、回転剛性算出方法とも略称する)の手順の一例について説明する。
図9に示すように、合成梁61を湾曲させたときの中立軸をC1とする。小梁31に床スラブ51が設けられていることで、中立軸C1は小梁31の上下方向の中央よりも上方に位置する。
第2シアプレート25及び小梁31の小ウェブ32を、上下方向にプレート貫通孔25aの軸を境界として、プレート貫通孔25aの数Nに1を加えた数の領域に分ける(領域分割工程)。この例では、第2シアプレート25に5つのプレート貫通孔25aが形成されているため、第2シアプレート25及び小ウェブ32を上下方向に6つの領域に分ける。例えば、第2シアプレート25及び小ウェブ32を、1から(N+1)までの値をとる自然数iに対して、下方(上下方向の一方)から順にi番目の領域を第i領域Siとして分ける。なお、第1領域S1から第(N+1)領域S(N+1)までの(N+1)の領域を区別しないで呼ぶときは、領域Sと総称する。
なお、複数の第i領域Siに付ける自然数iの順番はこれに限られず、上方から順につけてもよいし、上下方向の中央から外側に順につけてもよい。
ここで、図10に示すように、第i領域Siの有効厚さは、ti(mm)である。具体的には、第1領域S1の有効厚さは、t1(mm)である。第i領域Siの上下方向の有効長さはhi(mm)、第i領域Siにおける高力ボルト41の摩擦が有効な第2方向Xの長さはbi(mm)である。
図9に示すように、上下方向における中立軸C1と第i領域Siの中心との距離は、xs,i(mm)である。
高力ボルト41の頭部43の外径及びワッシャ44の外径のうち小さい方の値は、db(mm)、小梁31の小ウェブ32の厚さはtw(mm)である。小フランジ33、34の厚さはtf(mm)、第2シアプレート25の厚さはts(mm)である。図2に示すように、複数のプレート貫通孔25aのうち最も上方のプレート貫通孔25aの中心軸から小フランジ33の上面までの距離は、ev,web(mm)である。第2シアプレート25及び小ウェブ32のせん断弾性係数は、G(N/mm2)である。
nr層の縦鉄筋53のうち、下方からh層目の縦鉄筋53を、第h縦鉄筋(第h鉄筋)53hと呼ぶ。自然数hは、1からnrまでの値をとる。なお、複数層の第h縦鉄筋53hに付ける自然数hの順番はこれに限られない。nr層の第h縦鉄筋53hを区別しないで呼ぶときは、縦鉄筋53と総称する。
上下方向における中立軸C1と第h縦鉄筋53hの軸線C2hとの距離は、xr,h(mm)である。
第i領域Siの上下方向の有効長さhiは、上下方向の端の領域である第1領域S1及び第6領域S6に対して(ev,web−tf/2)の式による値である。この値を採用したのは、フランジの引張力はフランジの板厚の中心に作用しているためである。有効長さhiは、第2領域S2から第5領域S5に対しては、複数のプレート貫通孔25aの上下方向のピッチpv(mm)(図2参照)である。
有効厚さtiは、第2領域S2から第5領域S5に対しては、(tw+ts)の式による値である。この理由は、第2領域S2から第5領域S5では、第2シアプレート25及び小梁31の小ウェブ32が各領域の全体にわたり存在しているためである。
せん断力Qiは、(121)式で表わせる。
よって、第i領域Siの軸剛性ks,iは(122)式で表わせる。
第i領域Siについて、(δs,i=xs,iθj)の式が成り立つ。第h縦鉄筋53hの第2方向Xの変位(伸びの長さ)を、δr,h(mm)とする。第h縦鉄筋53hについて、(δr,h=xr,hθj)の式が成り立つ。
変位δs,i及び変位δr,hの式から、大梁21と合成梁61の端との接合部の曲げモーメントMj(Nmm)は、(123)式で表わせる。
したがって、合成梁61の端の回転剛性Kを、(124)式により算出する(回転剛性算出工程)。
入力部は、キーボード等である。処理部は、処理装置と、記憶装置と、記憶装置の記憶領域に予め記憶された算出プログラムとが協働することで、所定の処理を実行する。処理装置は、CPU(Central Processing Unit)等である。記憶装置は、HDD(Hard Disk Drive)等である。
出力部はプリンタ等であり、処理部における処理結果を外部に出力する。
領域分割工程では、処理部は算出プログラムに基づいて、第2シアプレート25及び小ウェブ32を、上下方向に、プレート貫通孔25aの軸を境界として、プレート貫通孔25aの数Nに1を加えた数の領域に分ける。
回転剛性算出工程では、処理部は算出プログラムに基づいて、合成梁61の端部の回転剛性Kを(124)式から算出する。
算出プログラムが算出装置で実行されることで、算出装置は、領域分割工程を行う領域分割部、回転剛性算出工程を行う回転剛性算出部としてそれぞれ機能する。
算出した回転剛性Kを、実験結果と比較することを試みた。しかし、床スラブ51を備える梁接合構造2の実験結果が見つからなかった。このため、梁接合構造2の構成に対して床スラブ51を備えない梁接合構造4(図12参照)の実験結果が載っている前述の非特許文献1の実験結果と、算出した回転剛性Kとを比較した。
非特許文献1の表2に数値として記載されている回転剛性K(初期回転剛性実験値)を、表2のKtest(文献値)の欄に示す。Ktestの値は、13383(kNm/rad)等である。
そこで、非特許文献1の図3で線形関係が成立している範囲の回転角θ(rad)、及び曲げモーメントMj(kNm)を読み取った。(Mj/θ)の式から、初期の回転剛性Ktestを算出した。
図から読み取ったこれらの回転角θ、曲げモーメントMj、及び回転剛性Ktestの値を、表2に示す。例えば、回転角θを0.002(rad)、曲げモーメントMjを31.1(kNm)と読み取ったときに、回転剛性Ktestは(31.1/0.002)の式から15543(kNm/rad)と算出される。
回転剛性Ktestは、非特許文献1の表2に数値として記載されている値よりも本明細書の表2に図から読み取った値として示した値の方が大きい。
7つの実験結果のいずれにおいても、(Kcalc/Ktest)の値は、0.91以上1.21以下の範囲に入る。本回転剛性算出方法及び算出プログラムにより回転剛性Kを精度良く算出できることが分かった。
回転剛性上限値Ku,limは、(79)式を満たす。これにより、合成梁61の正曲げ剛性及び負曲げ剛性を考慮して合成梁61の端部の損傷を定量的に評価し、一般的に合成梁61の中央よりも耐力の小さい合成梁61の端部が損傷するのを抑制することができる。また、回転剛性Kが大きい程、小梁31の小フランジ34が圧縮となる負曲げ領域が長くなり、横座屈しやすくなるが、回転剛性Kに上限を設けることで、横座屈を防止することができる。回転剛性Kが回転剛性下限値Kl,lim以上であると中央曲げ応力度比が端曲げ応力度比よりも小さくなるため、合成梁61の端の断面積よりも合成梁61の中央の断面積が小さくても曲げモーメントに耐えられる。したがって、合成梁61の端の曲げ耐力及び中央における曲げ耐力のいずれも、無駄なく有効に使うことができる。
回転剛性下限値Kl,limは、(105)式を満たす。これにより、曲げモーメントの余裕度を定量的に評価し、合成梁61の端部が損傷するのを抑制することができる。
第i領域Siの軸剛性ks,iを、(122)式により算出する。第i領域Siの軸剛性ks,iを、せん断変形する第2シアプレート25及び小ウェブ32でモデル化するとともに有効長さbi、hi、及び有効厚さti等を考慮して、合成梁61の端の回転剛性Kをより精度良く算出することができる。
例えば、小梁31は床スラブ51と接合されておらず、鉄骨のみで構成されていてもよい。すなわち、図12に示すように、1組の第2シアプレート25と小ウェブ32が高力ボルト41によって接合されていてもよい。この場合、合成梁の回転剛性Kは、(124)式において鉄筋の剛性の寄与を表す右辺の第2項をゼロとすればよい(回転剛性算出工程)。
(i)間隔phが3dbの値よりも大きい(ph>3db)場合には、bi=3dbk
(ii)間隔phが3dbの値以下(ph≦3db)場合には、bi=3db+(k−1)ph
支持部材が大梁21であり、梁が小梁31であるとした。しかし、支持部材が柱であり、梁が大梁(梁)であるとしてもよい。
すなわち、合成梁61に対する回転剛性、曲げ剛性、曲げ耐力等に代えて、小梁31に対する回転剛性、曲げ剛性、曲げ耐力等をそれぞれ適用してもよい。
21 大梁(支持部材)
25 第2シアプレート(シアプレート)
25a プレート貫通孔
31 小梁(梁)
32 小ウェブ(ウェブ)
32a ウェブ貫通孔
33 小フランジ(フランジ)
41 高力ボルト(ボルト)
51 床スラブ(伝達部材)
61 合成梁
C1 中立軸
C2 軸線
Ku,lim 回転剛性上限値
Kl,lim 回転剛性下限値
X 第2方向(材軸方向)
Claims (9)
- シアプレートが設けられた支持部材と;
ウェブとフランジとを有し、前記シアプレートから延びるように配置された梁と;
前記梁の前記ウェブの端部と前記シアプレートとを摩擦接合するボルトと;
前記梁の前記フランジに設けられ、前記梁に作用する曲げモーメントを前記支持部材に伝達する伝達部材と;
を備える梁接合構造において、
前記梁の材軸方向の端に発生する曲げモーメントの絶対値と前記梁の前記材軸方向の中央に発生する曲げモーメントの絶対値とが同等になる梁接合構造を第1基準構造としたときに、
前記梁接合構造の前記梁の端の回転剛性は、前記第1基準構造の前記梁の端の回転剛性である回転剛性上限値以下であり、
前記梁の長さをl(mm)、前記梁の正曲げ剛性をEI s (Nmm 2 )、及び、前記梁の負曲げ剛性をEI h (Nmm 2 )としたときに、前記回転剛性上限値K u,lim (Nmm/rad)は(1)式を満たす
梁接合構造。
- 前記梁接合構造に対して、前記梁の端における負曲げ耐力に対する発生する曲げモーメントの絶対値の比率と、前記梁の中央における正曲げ耐力に対する発生する曲げモーメントの絶対値の比率と、が同等になる梁接合構造を第2基準構造としたときに、
前記梁接合構造の前記梁の端の回転剛性は、前記第2基準構造の前記梁の端の回転剛性である回転剛性下限値以上である
請求項1に記載の梁接合構造。 - シアプレートが設けられた支持部材と;
ウェブとフランジとを有し、前記シアプレートから延びるように配置された梁と;
前記梁の前記ウェブの端部と前記シアプレートとを摩擦接合するボルトと;
前記梁の前記フランジに設けられ、前記梁に作用する曲げモーメントを前記支持部材に伝達する伝達部材と;
を備える梁接合構造において、
前記梁及び前記伝達部材を備える合成梁について、
前記合成梁の材軸方向の端に発生する曲げモーメントの絶対値と前記合成梁の前記材軸方向の中央に発生する曲げモーメントの絶対値とが同等になる梁接合構造を第1基準構造としたときに、
前記梁接合構造の前記合成梁の端の回転剛性は、前記第1基準構造の前記合成梁の端の回転剛性である回転剛性上限値以下であり、
前記梁の長さをl(mm)、前記合成梁の正曲げ剛性をEI s (Nmm 2 )、及び、前記合成梁の負曲げ剛性をEI h (Nmm 2 )としたときに、前記回転剛性上限値K u,lim (Nmm/rad)は(3)式を満たす
梁接合構造。
- 前記梁接合構造に対して、前記合成梁の端における負曲げ耐力に対する発生する曲げモーメントの絶対値の比率と、前記合成梁の中央における正曲げ耐力に対する発生する曲げモーメントの絶対値の比率と、が同等になる梁接合構造を第2基準構造としたときに、
前記梁接合構造の前記合成梁の端の回転剛性は、前記第2基準構造の前記合成梁の端の回転剛性である回転剛性下限値以上である
請求項4に記載の梁接合構造。 - 前記伝達部材はコンクリートを有する
請求項1から6のいずれか一項に記載の梁接合構造。 - 請求項1から7のいずれか一項に記載の梁接合構造の前記梁の端における回転剛性を算出する梁接合構造の回転剛性算出方法であって、
前記伝達部材は、
コンクリートと;
前記コンクリート内に配置され、前記材軸方向に延びるとともに前記ウェブの幅方向に並べて配置されたnr層の鉄筋と;
を有し、
前記ボルトは、前記シアプレートに形成されたプレート貫通孔、及び前記梁の前記ウェブに形成されたウェブ貫通孔にそれぞれ挿入され、
前記シアプレート及び前記ウェブを、前記プレート貫通孔の軸を境界として、前記幅方向に前記プレート貫通孔の数Nに1を加えた数の領域に分け;
1から(N+1)までの値をとる自然数iに対して、前記幅方向における前記梁の中立軸と前記幅方向の一方からi番目の前記領域である第i領域の中心との距離をxs,i(mm)、前記第i領域の軸剛性をks,i(N/mm)とし;
1からnrまでの値をとる自然数hに対して、前記幅方向における前記中立軸と前記幅方向の一方からh層目の前記鉄筋である第h鉄筋の軸線との距離をxr,h(mm)、前記第h鉄筋の軸剛性をkr,h(N/mm)としたときに、前記梁の端の回転剛性K(Nmm/rad)を(5)式により算出する;
梁接合構造の回転剛性算出方法。
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