まず、本発明に係るサイドクラッチ・サイドブレーキ式操向制御システム1(1Aまたは1B)の適用対象とされる車両について説明する。本発明の適用対象となる車両は、例えば収穫機であり、泥軟地や荒地を走行することを想定して、クローラ式走行装置や、ホイル(タイヤ)式走行装置等、左右一対の走行装置を備えている。該車両には、これら左右の走行装置を駆動するための駆動源(内燃機関等)、及び、この駆動源の出力を左右の走行装置に分配するためのトランスミッション2が搭載されている。本発明に係るサイドクラッチ・サイドブレーキ式操向制御システム1(1Aまたは1B)は、このトランスミッション2に適用されるものである。
このトランスミッション2の構成について、図1乃至図7より説明する。トランスミッション2は、ミッションケース20を有し、該ミッションケース20にて、互いに同一軸心上に配した左右一対の車軸4L・4R(総称して「車軸4」とする)を支持している。車軸4は、前述の、クローラ式走行装置やホイル(タイヤ)式走行装置等の、左右一対の走行装置それぞれの駆動軸として適用される。以下に述べるトランスミッション2における各構成部材や部分の位置や方向は、この車軸4の延伸方向がトランスミッション2の左右方向であることを前提とする。
図3等に示すように、トランスミッション2のミッションケース20内には、車軸4に対し平行な左右延伸状のサイドクラッチ軸21が、その左右各端部にて軸受21aを介して、ミッションケース20に回転自在に軸支されている。サイドクラッチ軸21の左右中央部には、分配ギア22が固設されている。ミッションケース20内にて、分配ギア22から左右一対の車軸4L・4Rへと動力を分配するための一対の駆動列3L・3R(総称して「駆動列3」とする)が設けられている。左右各駆動列3L・3Rを構成すべく、ミッションケース20内にて、互いに同一軸心上に配置される左右延伸状の左右一対の中間軸24L・24R(総称して「中間軸24」とする)が、サイドクラッチ軸21及び左右一対の車軸4L・4Rに対し平行に設けられている。各中間軸24は、左右一対の軸受24aを介してミッションケース20に回転自在に軸支されている。
なお、本実施例のトランスミッション2は、図4及び図7に示すように、ミッションケース20の上部にて左右延伸状の入力軸28を軸支し、その一端をミッションケース20の外方に突出し、該入力軸28の突出端にプーリ28aを固設している。プーリ28aは、図外のエンジン等の原動機の出力を入力軸28に伝達するためのベルト式伝動装置の従動プーリとなっている。また、ミッションケース20の上部内に、入力軸28の回転動力にて駆動される図外の変速装置(例えば油圧式無段変速装置)が設けられていて、その出力が、伝動ギア列29を介して、分配ギア22に伝達されるものとしている。
図1、図2、図3、図6等に示すように、分配ギア22の左側におけるサイドクラッチ21の左部には左シフタ5Lが、分配ギア22の右側におけるサイドクラッチ軸21の右部には右シフタ5Rが、それぞれ、左右軸心方向摺動自在かつ相対回転自在に装着されている(左右シフタ5L・5Rを総称して「シフタ5」とする)。以下、各シフタ5について、分配ギア22側を内側、分配ギア22に対し反対側を外側とする。左シフタ5Lの右端部には左サイドギア23Lが形成されており、右シフタ5Lの左端部には右サイドギア23Rが形成されている(左右サイドギア23L・23Rを総称して「サイドギア23」とする)。すなわち、各シフタ5の内側端部にサイドギア23が形成されている。
分配ギア22の左右各端部にはクラッチ爪6aが形成され、左右各シフタ5L・5Rにおけるサイドギア23L・23Rの内側端部にはクラッチ爪6bが形成されている。こうして、分配ギア22の左端部のクラッチ爪6aと左サイドクラッチ23Lのクラッチ爪6bとで、噛み合い式の左サイドクラッチ6Lが形成され、分配ギア22の右端部のクラッチ爪6aと右サイドクラッチ23Rのクラッチ爪6bとで、噛み合い式の右サイドクラッチ6Rが構成されている(左右サイドクラッチ6L・6Rを総称して「サイドクラッチ6」とする)。
サイドクラッチ軸21の左右端部に、左右一対のバネ5aが巻装され、各バネ5aにて、各シフタ5が分配ギア22寄りに付勢されている。すなわち、各バネ5aが各サイドクラッチ6を「入」方向に付勢している。各シフタ5の外側端部は筒状になっていて、各バネ5a周りに配設される。左シフタ5Lの筒状の外(左)側端部とミッションケース20の左側部との間にて、左サイドブレーキ7Lが構成され、右シフタ5Rの筒状の外(右)側端部とミッションケース20の右側部との間にて、右サイドブレーキ7Rが構成されている(左右サイドブレーキ7L・7Rを総称して「サイドブレーキ7」とする)。各サイドブレーキ7は、摩擦板7a・7b及び押圧板7cよりなる。摩擦板7aは、各シフタ5の筒状の外側端部に相対回転不能に係合されており、摩擦板7bは、ミッションケース20の左右各側部に相対回転不能に係合されている。押圧板7cは、各シフタ5に固定されている。
各シフタ5が内側方の最大摺動位置にあって各サイドクラッチ6が係合している状態において、押圧板7cは摩擦板7a・7bから離れ、摩擦板7a・7b同士も離れている。この状態が、サイドブレーキ7の非作動状態(非制動状態)である。シフタ5がサイドクラッチ軸21に沿ってバネ5aに抗して左右外側方に摺動する(サイドクラッチ6は切れた状態となる)につれ、該シフタ5と一体に移動する押圧板7cが摩擦板7a・7bに接近し、やがて、押圧板7cにより摩擦板7a・7b同士が圧接する。この状態が、サイドブレーキ7の作動状態(制動状態)である。摩擦板7a・7b同士が圧接し始めてからシフタ5が外側方に摺動するにつれ、摩擦板7a・7b間の摩擦圧が増大し、シフタ5(すなわち、分配ギア22から離れた状態でのサイドギア23)に付加されるサイドブレーキ7の制動力が増大する。
図1乃至図4、図6、図7に示すように、ミッションケース20には、前後方向に延設された左右一対の回動軸30L・30R(総称して「回動軸30」とする)が内外貫通状に枢支されている。ミッションケース20の外側における各回動軸30の外端には、後述の左右一対の操向用電子制御アクチュエータSAL・SAR(総称して「操向用電子制御アクチュエータSA」とする)が設けられている。一方、ミッションケース20の内側における各回動軸30の内端よりクランプ30aが延設され、各シフタ5を挟持している。回動軸30の軸心回りの回動により、クランプ30aが該回動軸30の軸心を中心に回動し、これにより、シフタ5がサイドクラッチ軸21に沿って左右方向に摺動する。なお、操向用電子制御アクチュエータSAの動きに応じてシフタ5をサイドクラッチ軸21に沿って摺動できるものであれば、操向用電子制御アクチュエータSAとシフタ5との連係構造は、このような回動軸30・クランプ30aの構造に限らず、どのようなものでもよい。
左中間軸24Lの右端には左大径ギア25Lが固設されており、該左大径ギア25Lは、左シフタ5Lの摺動にかかわらず、常時、左サイドギア23Lと噛合している。また、左中間軸24Lに固設された左小径ギア26Lと、左車軸4Lに固設された左大径ギア27Lとが噛合している。こうして、分配ギア22、左サイドギア23L、左大径ギア25L、左小径ギア26L、左大径ギア27Lにより、分配ギア21から左車軸4Lへと動力を伝達する左駆動列3Lが構成されている。一方、右中間軸24Rの左端には右大径ギア25Rが固設されており、該右大径ギア25Rは、右シフタ5Rの摺動にかかわらず、常時、右サイドギア23Rと噛合している。また、右中間軸24Rに固設された右小径ギア26Rと、右車軸4Rに固設された右大径ギア27Rとが噛合している。こうして、分配ギア22、右サイドギア23R、右大径ギア25R、右小径ギア26R、右大径ギア27Rにより、分配ギア21から右車軸4Rへと動力を伝達する右駆動列3Rが構成されている。なお、以下、左右大径ギア25L・25R、左右小径ギア26L・26R、左右大径ギア27L・27Rをそれぞれ総称して「大径ギア25」「小径ギア26」「大径ギア27」とする。
ここで、図1は車両の直進状態(左右車軸4L・4Rが同一速度で回転する状態)を示すものであり、左右両シフタ5L・5Rは、それぞれのバネ5aの付勢力に基づく各内側方の最大摺動位置にあり、左右両サイドクラッチ6L・6Rが接合し、かつ、左右両サイドブレーキ7L・7Rが切れていて、左右両サイドギア23L・23Rが分配ギア22と一体状に回転自在な状態となっている。したがって、各駆動列3、すなわち、各サイドギア23に噛合する大径ギア25、小径ギア26、大径ギア27を介して、左右車軸4L・4Rには、原則的には均等に、分配ギア22の回転力が伝達される。
車両の旋回時におけるトランスミッション2(操向制御システム1)の状態について、図2に示す左旋回時の状態を例に挙げて説明する。なお、ここでは、後述の補助クラッチ8は切れているものとする。図1にて示す直進状態から、車両を左旋回させる場合は、右サイドクラッチ6Rを接合した位置に右シフタ5Rを保持したまま、左シフタ5Lを外側方、すなわち左側に摺動する。これにより、図2に示すように、左サイドクラッチ23Lのクラッチ爪6bが分配ギア22の左側のクラッチ爪6aより外れる。すなわち、左サイドクラッチ6Lが切れる。さらに、左シフタ5Lに固設された押圧板7cが左サイドブレーキ7Lの摩擦板7a・7bを圧接し、左シフタ5Lの左側方摺動につれて摩擦板7a・7b間の摩擦圧を増し、左シフタ5Lに付加する制動力を増す。左シフタ5Lに付加された左サイドブレーキ7Lの制動力は、左サイドクラッチ6Lを切って分配ギア22から離間した状態である左サイドギア23Lから、左駆動列3Lとしての左大径ギア25L・左小径ギア26L・左大径ギア27Lを介して、左車軸4Lに伝達され、右車軸4Rの回転速度よりも小さくなることで、車両は左旋回することとなる。やがて、左側に摺動する左シフタ5Lがその最大摺動位置に達すると、左サイドブレーキ7Lの摩擦板7a・7bは完全に圧着し、左シフタ5Lが制動され、左駆動列3Lを介して、左サイドギア23Lに付加された制動力が左車軸4Lに伝達されることとなり、旋回内側の左車軸4Lを完全に制動しての左ブレーキターンが実現する。なお、右旋回時においては、左サイドクラッチ6Lを接合した位置に左シフタ5Lを保持したまま、右シフタ5Rを外側方、すなわち右側に摺動することで、右サイドクラッチ6Rを切り、さらに右サイドブレーキ7Rをかけるものであり、その状態の詳細については、上述の左旋回時の説明を参照するものとし、図示も省略する。
図1や図3等に示すように、左中間軸24Lの右端の左大径ギア25Lと、右中間軸24Rの左端の右大径ギア25Rとの間には、接合力を可変とする補助クラッチ8が介設されている。本実施例では、補助クラッチ8を、左大径ギア25Lに相対回転不能に係合された摩擦板8aと、右大径ギア25Rに相対回転不能に係合された摩擦板8bとよりなる、摩擦板式クラッチとしており、摩擦板8a・8b同士の押圧度の調整により、接合力を可変としている。なお、補助クラッチ8は、接合力が可変のものであれば、どのような構造でもよい。この補助クラッチ8を接合する(入れる)ことにより、左右の大径ギア25L・25R間、すなわち、左右の駆動列3L・3R間にて、動力(トルク)の伝達がなされる。そして、補助クラッチ8の接合力の調整により、左右の駆動列3L・3R間で伝達されるトルク量が調整されることとなる。なお、後に詳述するように、補助クラッチ8は、さらに、左右の駆動列3L・3R間での制動力の伝達手段としても機能するものである。
補助クラッチ8には、図3及び図4等に示すように、中間軸24の軸心方向(左右方向)に摺動可能な押圧部材8cが設けられており、この押圧部材8cを左右一側(以後、「クラッチ接合側」とする)に摺動することで、摩擦板8a・8bを圧接し(補助クラッチ8を入れ)、また、その圧接度(すなわち、補助クラッチ8の接合力)を高めるものであり、左右他側(以後、「クラッチ離間側」とする)に摺動することで、摩擦板8a・8bの圧接力を低減し、さらには摩擦板8a・8bを離間させる(補助クラッチ8を切る)ものとしている。
図1乃至図4等に示すように、ミッションケース20内には、補助クラッチ用シフタ9が設けられている。補助クラッチ用シフタ9は、フォーク軸9a及びフォーク9bを有する。左右延伸状のフォーク軸9aは、ミッションケース20内にて、左右軸心方向に摺動自在に支持されている。フォーク9bの一端はフォーク軸9aに固着されている。詳しくは、図4に示すように、フォーク9bの該一端はボス状になっており、固定ピン9cを介してフォーク軸9aに締止されている。該フォーク9bの他端は、前述の補助クラッチ8の押圧部材8cに係合している。こうして、フォーク軸9aの前記クラッチ接合側への摺動により、摩擦板8a・8b同士の押圧力、すなわち、補助クラッチ8の接合力が増大し、フォーク軸9aの前記クラッチ離間側への摺動により、摩擦板8a・8b同士の押圧力を低減し、さらには補助クラッチ8を離間する(切れる)ものとしている。このフォーク軸9aは、バネ9eにて該クラッチ離間側に付勢されている。
図3、図4等に示すように、ミッションケース20には、前後方向に延設された回動軸40が内外貫通状に枢支されている。ミッションケース20の外側における回動軸40の外端には、後述の補助クラッチ用電子制御アクチュエータAA(電動アクチュエータ41)が設けられている。一方、ミッションケース20の内側における回動軸40の内端部には半割状のカム面40aが形成されている。フォーク9bの前記一端をフォーク軸9aに締止している固定ピン9cの外端部は、カム面40aを受けるカム受け面9dとして形成されている。図1に示すようにカム面40aがカム受け面9dと平行になっていて、カム面40aとカム受け面9dと密着した状態のときは、フォーク軸9aは、前記クラッチ離間側の最大摺動位置に配置されており、前述の如く補助クラッチ8は切れている。そして、例えば図2や図3に示すように、回動軸40をその軸心回りに回動してカム面40aをカム受け面9dに対し斜めにすることで、フォーク軸9aが前記クラッチ接合側に摺動し、その摺動量に応じた接合力で、フォーク9bを介して補助クラッチ8を接合する。
したがって、図2に示すように、本実施例において旋回内側である左サイドクラッチ6Lを切った状態にしても、右大径ギア25Rから左大径ギア25Lへと、すなわち、右駆動列3Rから左駆動列3Lへと、補助クラッチ8を介して、設定された接合力に応じたトルクが伝達され、旋回内側となる左車軸4Lに、若干の駆動力が付与される。これにより、旋回中に予想外の走行抵抗を受けて旋回内側の左車軸4Lが停止するということなく、想定していたとおりの左右車軸4L・4Rの差動状態での旋回を得ることができる。
次に、トランスミッション2に適用された状態における本発明に係るサイドクラッチ・サイドブレーキ式操向制御システム1について説明する。本願では、図1及び図4に示す操向制御システム1A、並びに、図6及び図7に示す操向制御システム1Bを、操向制御システム1の実施例としており、まず、両操向制御システム1A・1Bに共通の操向制御システム1の構造について説明する。
操向制御システム1は、トランスミッション2における左右サイドクラッチ6L・6R及び左右サイドブレーキ7L・7Rを制御すべく、前記操向用電子制御アクチュエータSAL・SARを用いて左右シフタ5L・5Rを制御し、かつ、トランスミッション2における補助クラッチ8を制御すべく、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAを用いてシフタ9を制御するものである。操向制御システム1は、コントローラ10を有しており、前述の操向用電子制御アクチュエータSAL・SAR及び補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAは、コントローラ10からの指令信号に基づいて制御される電子制御出力手段である。
ここで、各操向用電子制御アクチュエータSAについては、該当するシフタ5を内側方の最大摺動位置にしてサイドクラッチ6を接合させるようセットされた状態を、操向用電子制御アクチュエータSAの非作動状態とし、内側方の最大摺動位置から少しでも外側方にシフタ5を摺動させるようセットされた状態を操向用電子制御アクチュエータSAの作動状態とする。一方、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAについては、シフタ9をクラッチ離間側の最大摺動位置にして補助クラッチ8を離間させるようセットされた状態を、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの非作動状態とし、クラッチ離間側の最大摺動位置から少しでもクラッチ接合側にシフタ9を摺動させるようセットされた状態を補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの作動状態とする。
また、車両には、旋回制御用及び補助クラッチ制御用の操作具として、操向レバー11、補助クラッチ自動制御スイッチ12(以下、単に「スイッチ12」とする)、補助クラッチ接合力設定ダイヤル13(以下、単に「ダイヤル13」とする)が設けられており、操向制御システム1は、操向レバー11の操作位置を検出すべく該操向レバー11の基部に設けたポテンショメータ11a、スイッチ12、ダイヤル13を、コントローラ10に対する入力手段として備えている。すなわち、ポテンショメータ11a、スイッチ12、ダイヤル13のそれぞれに設けられた検出手段にて、それぞれの操作具の操作位置が検出され、それら操作位置を示す検出信号11s、12s、13sがコントローラ10に入力されるものとしている。さらに、左右車軸4L・4Rには、それぞれの回転数を検出するための回転数センサ14L・14Rが設けられており、各回転数センサ14L・14Rの検出信号14Ls、14Rsがコントローラ10に入力されるものとしている。コントローラ10においては、入力される検出信号11s、12s、13s、14Ls、14Rsに対応して、操向用電子制御アクチュエータSAL・SAR及び補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAに対する指令内容を決定し、その決定に基づく指令信号を発するものである。
操向レバー11は、その傾倒角度Tを0とする直進位置から左右各側に最大角度Tmaxまで傾動可能な構成となっている。操向レバー11を直進位置から左側に傾動してその傾倒角度Tを増大させるにつれ、ポテンショメータ11aがその傾倒角度及び方向に応じた値の信号11sを出力し、該信号11sがコントローラ10に入力される。コントローラ10は、この信号11sに対応するように、左操向用電子制御アクチュエータSALを制御し、左シフタ5Lを左方(外側方)へと摺動する。一方、操向レバー11を直進位置から右側に傾動させると、その傾倒角度Tを増大させるにつれ、その傾倒角度及び方向に応じた値の信号11sの入力に基づき、コントローラ10は、右操向用電子制御アクチュエータSARを制御して右シフタ5Rを右方(外側方)へと摺動する。
該直進位置から左右各側での操向レバー11の傾倒角度TがT1に達するまでは旋回内側のサイドクラッチ6は接合したまま、すなわち、両サイドクラッチ6L・6Rが接合したままで、直進状態が保持される。傾倒角度TがT1に達すると、旋回内側のサイドクラッチ6が切れる。傾倒角度TをT1からT2まで増大させる間は、旋回内側のサイドクラッチ6が切れているが、旋回内側のサイドブレーキ7はまだ作動しない状態であり、旋回内側の車軸4は慣性力で回転可能な状態である。
傾倒角度TがT2に達すると、旋回内側のサイドブレーキ7の摩擦板7a・7bが圧接し始める。すなわち、旋回内側のサイドブレーキ7が効き始める。傾倒角度TがT2から最大角度Tmaxに向けて増大するにつれて、旋回内側のサイドブレーキ7の摩擦板7a・7bの圧接度が増し、すなわち、その制動力が増大する。傾倒角度Tが最大角度Tmaxに達した時点では、旋回内側のサイドブレーキ7の摩擦板7a・7bは完全に圧接しており、旋回内側の車軸4は確実に制動される。
スイッチ12は、補助クラッチ8の自動制御を行うか否か(手動制御とするか否か)を決定するための切換操作手段であり、当該自動制御を行うものとする「ON」位置と、当該自動制御を行わない(手動にて補助クラッチ8の接合力Fを設定する)ものとする「OFF」位置との、2位置に切り換えられる。
ダイヤル13は、補助クラッチ8の接合力を手動で設定するものとした場合、すなわち、スイッチ12を「OFF」位置にセットした場合における、当該接合力の設定用手段である。ダイヤル13は、補助クラッチ8の接合力Fを0とする(すなわち補助クラッチ8を切る)「0」位置から接合力Fを最大値Fmaxとする「Fmax」位置まで回動可能であり、その回動位置に応じて、補助クラッチ8の接合力Fが設定される。ダイヤル13の位置が「Fmax」位置に近いほど、大きな接合力Fが設定される。なお、「0」位置から「Fmax」位置までの間にいくつかの設定位置を決めておき、ダイヤル13を、これらの設定位置のいずれかにセットすることで、接合力Fを段階的に設定するものとしてもよいし、あるいは、接合力Fを無段階に変更可能とし、「0」位置から「Fmax」位置まで無段階に回動可能なダイヤル13の任意の回動位置に対応して接合力Fを設定するものとしてもよい。
なお、前記スイッチ12及び前記ダイヤル13の設置箇所としては、例えば、車両において、操向レバー11の前方に設けられたダッシュボードにおける、車両の速度やエンジン回転数を表示する計器パネル上に設置することが考えられる。さらにこのような計器パネルに、図14に示すような、補助クラッチ8の接合力Fの実際値(現在値)を示す補助クラッチ接合力メータ17を設置することが考えられる。これにて、特に前記スイッチ12を前記「ON」位置にして補助クラッチ8を自動制御する場合に、オペレータは、自動制御にて刻々変化する補助クラッチ8の接合力Fの現在値を、補助クラッチ接合力メータ17にて視認することができる。なお、本実施例では、補助クラッチ接合力メータ17として、液晶表示装置を用いているが、どのような構造の表示手段でもよい。また、本実施例では、最大接合力Fmaxを「100%」の接合力Fとすることを前提として、接合力Fの実際値が最大接合力Fmaxの何%であるかを棒グラフで表すものとしているが、オペレータが現在の補助クラッチ8の接合力Fを認識できる表示方法であれば、どのような表示方法であってもよい。
また、左右シフタ5L・5Rの位置決め用操作手段、補助クラッチ8の接合力の自動制御/手動制御の切換用操作手段、手動制御設定時における補助クラッチ8の接合力の設定用操作手段としては、以上に述べた操向レバー11、スイッチ12、ダイヤル13のような形態に限らず、それぞれに求められる機能を確保できる構造のものであればよい。
例えば、図15、図16に示すように、手動制御設定時における補助クラッチ8の接合力の設定用操作手段としてのダイヤル13Aを、操向レバー11の握り部11bの上端部に前置することも考えられる。本実施例において、ダイヤル13Aは、操向レバー11の握り部11bに固定されている固定部13aと、該固定部13aに環設されて、該操向レバー11の軸心を中心にR方向に回動自在の回動部13bとよりなり、回動部13bには、オペレータが手の親指のスナップで回動操作できるようにツマミ部13cが形成されている。固定部13aには、補助クラッチ8の接合力Fの度数(本実施例では0、1、2、3、4)を表す目盛りが印字されており、オペレータはツマミ部13cを介して回動部13bをR方向に回動し、該回動部13bに印字された指標を固定部の目盛りのいずれかに合わせて、補助クラッチ8の接合力Fの度数を任意に設定するものである。
次に、図1、図4及び図5により、操向制御システム1Aにおける操向用電子制御アクチュエータSAL・SAR及び補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの構造及びこれらのアクチュエータの制御回路構造について説明する。操向制御システム1Aは、操向用アクチュエータSAL・SARとして、一対の油圧シリンダ34L・34R(総称して「油圧シリンダ34」とする)を備えており、これらが図4に示す如くミッションケース20の外側に装着されている。各油圧シリンダ34は、ピストン34aを備える単動式シリンダであり、該ピストン34aより延出されるピストンロッドを各回動軸30に連係している。また、各油圧シリンダ34のシリンダボトム側には供給ポート34aが設けられ、各油圧シリンダ34の途中部にはドレンポート34cが設けられている。
各油圧シリンダ34のピストン34aは、供給ポート34bより供給される油が増大するにつれて、該油にて、ピストンロッドを伸長する方向に押動される。これにより、該当のシフタ5を外側方へと摺動する方向、すなわち、サイドクラッチ6を切る方向に、回動軸30が回動する。すなわち、左シフタ5L用の操向用電子制御アクチュエータSALとしての油圧シリンダ34Lの場合は、そのピストンロッドを伸長させることで左回動軸30Lを右回りに回動させて左シフタ5Lを左方に摺動する構造となっており、右シフタ5R用の操向用アクチュエータSARとしての油圧シリンダ34Rの場合は、そのピストンロッドを伸長させることで右回動軸30Lを左回りに回動させて右シフタ5Rを右方に摺動する構造となっている。また、各油圧シリンダ34のピストンロッドは収縮方向、すなわち、シフタ5を内側方(サイドブレーキ7を切りサイドクラッチ6を入れる方向)に摺動させる方向に付勢されている。
したがって、操向制御システム1Aにおいては、油圧シリンダ34が油圧ポンプ31からの油の供給を受けておらず、前記付勢力に基づいて油圧シリンダ34のピストンロッドが最大限に収縮した状態が、前記の操向用電子制御アクチュエータSAの非作動状態に該当し、該油圧シリンダ34に油圧ポンプ31の吐出油が供給されてそのピストンロッドが最大収縮位置から少しでも伸長した状態が、前記の操向用電子制御アクチュエータSAの作動状態に該当する。
操向制御システム1Aにおける操向用電子制御アクチュエータSAL・SARは、両油圧シリンダ34L・34Rの制御用油圧回路を備えている。該油圧回路は、両油圧シリンダ34L・34Rへの油を供給するための油圧ポンプ31と、前記コントローラ10により制御され該油圧ポンプ31からの油の供給方向を切り替えるための電磁式方向制御弁32と、両油圧シリンダ34L・34Rのドレンポート34c・34cに接続される電磁式可変リリーフ弁33とにより構成されている。
方向制御弁32は、両方向に作動可能に一対のソレノイドを備え、「L」位置、「N」位置、「R」位置の3位置に切換可能となっている。方向制御弁32は、コントローラ10からの指令信号32Lsにて一方のソレノイドが励磁されることで「L」位置にセットされ、油圧ポンプ31に接続されるポンプポートを左シフタ5L用の油圧シリンダ34Lへと連通し、一方、タンクポートを右シフタ5R用の油圧シリンダ34Rへと連通するものであり、これにより、操向用電子制御アクチュエータSARを非作動状態としたまま、操向用電子制御アクチュエータSALを作動状態とする。また、方向制御弁32は、コントローラ10からの指令信号32Rsにて他方のソレノイドが励磁されることで「R」位置にセットされ、ポンプポートを右シフタ5R用の油圧シリンダ34Rへと連通し、タンクポートを左シフタ5L用の油圧シリンダ34Lへと連通するものであり、これにより、操向用電子制御アクチュエータSALを非作動状態としたまま、操向用電子制御アクチュエータSARを作動状態とする。方向制御弁32は「N」位置に付勢されており、コントローラ10が指令信号32Ls・32Rsのいずれも発することなく、両ソレノイドが解磁されているときは、方向制御弁32は「N」位置にセットされ、油圧ポンプ31及び両油圧シリンダ34L・34Rの全てをそのタンクポートに接続するものであり、これにより、両操向用電子制御アクチュエータSAL・SARを非作動状態とし、両サイドクラッチ6L・6Rを接合する。
操向レバー11を直進位置から傾倒してその傾倒角度TがT1を超えると、傾倒した方向に応じて、方向制御弁32が「N」位置から「R」位置または「L」位置へと切り替わる。操向レバー11の傾倒方向が右側であれば方向制御弁32は「R」位置に切り替わり、操向レバー11の傾倒方向が左側であれば方向制御弁32は「L」位置に切り替わる。これにより、旋回内側の操向用電子制御アクチュエータSAにおける制御シリンダ34に供給ポート34bを介して油が供給され、それにつれ、ピストンロッドの伸長方向にピストン34aが摺動し、ピストン34aよりシリンダボトム側の油室の体積が増大し、やがて、該油室がドレンポート34cに連通する位置にピストン34aが到達する。この位置でのピストン34aからのピストンロッドの伸長に応じて、シフタ5は、サイドクラッチ6を切る位置にまで摺動されている。これ以後、供給ポート34bからの油の供給に応じて、ピストン34aが当該位置からさらに摺動するか否か、すなわち、サイドブレーキ7をかけるか否か、また、ピストン34aを摺動するものとした場合のその摺動量、すなわち、サイドブレーキ7の制動力は、操向レバー11の操作に応じての可変リリーフ弁33のリリーフ圧の設定に基づいて決定されるものである。
可変リリーフ弁33はそのリリーフ値を規定するリリーフバネのバネ受けに、コントローラ10からの指令信号33cに応じてそのリリーフ圧を調整可能とした比例ソレノイドを備える。可変リリーフ弁33のソレノイドに付加される指令信号33sは、例えば電流値である。その電流は操向レバー11の傾倒角度TがT2に達するまではコントローラ10からは出力されない(電流値が0である)。即ち、サイドクラッチ6を切るもサイドブレーキ7が効くには至らない。
操向レバー11の傾倒角度TがT2を超えると、Tmaxに至るまで傾倒角度Tが増すにつれ、指令信号33sとしての電流値が徐々に増大し、可変リリーフ弁33の比例ソレノイドの伸長量が増加して、前記リリーフバネに抗して前記バネ受けを移動させることにより、可変リリーフ弁33のリリーフ圧を増大させる。この可変リリーフ弁33にて設定されたリリーフ圧に応じて、前記ドレンポート34aには、油圧シリンダ34内の油をドレンする圧力が生じ、前述の如く方向制御弁32の設定により作動状態とされた油圧シリンダ34のピストンロッドの伸長量、すなわち、旋回内側のシフタ5の外側方への摺動量が設定され、その摺動量に応じて、サイドブレーキ7の制動力(摩擦板7a・7bの圧接度)が決定される。
このように、操向制御システム1Aにおいては、操向用電子制御アクチュエータSAL・SARとして、油圧シリンダ34L・34Rを用いているが、その作動・非作動の決定や油圧シリンダ34のピストンロッド伸長量が、前述の入力手段である操向レバー11、スイッチ12、ダイヤル13、回転数センサ14L・14Rからの入力信号に基づいて、コントローラ10にて制御されるものとなっている。
なお、本実施例の操向制御システム1Aにおいては、油圧シリンダ34L・34Rへの作動油供給用油圧回路を構成する油圧ポンプ31、方向制御弁32、可変リリーフ弁33がそれぞれ単一であり、両操向用電子制御アクチュエータSAL・SARに共用されるものとなっており、これにより部品点数を低減できるものとなっている。あるいは、例えば、共通の方向制御弁32に代えて、油圧シリンダ34L・34Rそれぞれに専用の電磁式開閉弁を設け、コントローラ10にて、これら二つの開閉弁の開閉制御を行うことで、油圧シリンダ34L・34Rのピストンロッドの伸縮制御を行うことも考えられる。バルブの点数は増えるものの、市販される単純な構造の電磁式開閉弁を用いることとなり、結果としてコスト低下となることも考えられる。このように、油圧シリンダ34L・34Rを制御するための様々な油圧回路構造が考えられる。
操向制御システム1Aは、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAとして、図4及び図5に示す如くミッションケース20の外側に装着される電動モータ付きアクチュエータ(電動アクチュエータ)41を備えている。電動アクチュエータ41は、その駆動源として正逆回転可能な電動モータ42を有しており、該電動モータ42の出力軸はウォーム44となっている。電動モータ42にはギアケース44が連設されており、ギアケース43にて、前述の回動軸40の外端部を軸支するとともに、該ウォーム44に対し直角方向でかつ該回動軸40に対し平行に延設したカウンタ軸45を支持している。カウンタ軸45には、ウォームホイル46及びピニオン47が固設されており、ウォームホイル46はウォーム44と噛合している。回動軸40の外端部にはセクタギア48が固設されていて、ピニオン47と噛合している。
コントローラ10は、前述の入力手段である操向レバー11、スイッチ12、ダイヤル13、回転数センサ14L・14Rからの入力信号11s、12s、13s、14Ls・14Rsに基づいて、電動モータ42の回動方向及び回動量を決定し、必要に応じて電動モータ42に指令信号42sを発する。電動モータ42の回動は、ウォーム44、ウォームホイル46、カウンタ軸45、ピニオン46、セクタギア48を介して回動軸40に伝達され、回動軸40の回動に基づく前述の如きカム面40aの傾倒角度に応じて補助クラッチ8制御用のシフタ9の摺動位置が決定される。
指令信号42sは、例えば電動モータ42を目的の回動位置まで回動させるよう設定された電圧であり、この電圧は、シフタ9のバネ9eの付勢力に抗してシフタ9のフォーク軸9a及びフォーク9bを目的の摺動位置まで摺動させるだけのトルクを回動軸40に付与するものである。この電圧が0になれば、バネ9eの付勢力により、シフタ9のフォーク軸9aは、前記のクラッチ離間側の最大摺動位置に配される。このように、補助クラッチ用アクチュエータAAとして適用された電動モータ付きアクチュエータ41については、シフタ9のフォーク軸9aがクラッチ離間側の最大摺動位置に配されるように電動モータ42を非駆動状態とした状態が、前述の補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの非作動状態に該当するものであり、クラッチ離間側の最大摺動位置から少しでもシフタ9のフォーク軸9aをクラッチ接合側に摺動した状態となるよう電動モータ42を駆動した状態が、前述の補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの作動状態に該当する。
操向制御システム1のもう一つの実施例である操向制御システム1Bは、図6及び図7に示すように、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAとして、操向制御システム1Aと同様に電動モータ付きアクチュエータ(電動アクチュエータ)41を用いる一方、この電動アクチュエータ41を、操向用電子制御アクチュエータSAL・SARとしても用いるものである。なお、操向用電子制御アクチュエータSALとしての電動アクチュエータ41を電動アクチュエータ41Lとし、操向用アクチュエータSARとしての電動アクチュエータ41を電動アクチュエータ41Rとしている。電動アクチュエータ41Lでは、左回動軸30Lの外端部にそのセクタギア48を固設しており、電動アクチュエータ41Rでは、右回動軸30Rの外端部にそのセクタギア48を固設している。すなわち、図5に示す電動アクチュエータ41は、セクタギア48をシフタ9用の回動軸40に固設すれば補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAとして適用されるものであり、セクタギア48をシフタ5用の回動軸30に固設すれば操向用電子制御アクチュエータSAとして適用されるものである。
コントローラ10は、前述の入力手段である操向レバー11基部のポテンショメータ11a、スイッチ12、ダイヤル13、回転数センサ14L・14Rからの入力信号11s、12s、13s、14Ls・14Rsに基づいて、操向用アクチュエータSAL・SARとしての電動アクチュエータ41L・41Rの電動モータ42の回動方向及び回動量を決定し、必要に応じてそれぞれの電動モータ42に指令信号42Ls・42Rsを発する。電動アクチュエータ41L・41Rそれぞれの電動モータ42の回動は、ウォーム44、ウォームホイル46、カウンタ軸45、ピニオン46、セクタギア48を介して回動軸30に伝達され、回動軸30の回動に基づくシフタ5の摺動位置が決定される。
指令信号42Ls・42Rsは、例えばそれぞれの電動モータ42を目的の回動位置まで回動させるよう設定された電圧であり、この電圧は、シフタ5L・5Rそれぞれのバネ5aの付勢力に抗して当該シフタ5を目的の摺動位置まで摺動させるだけのトルクを回動軸30に付与するものである。この電圧が0になれば、バネ5aの付勢力により、シフタ5は、前記の内側方の最大摺動位置に配される。このように、操向用電子制御アクチュエータSAとして適用された電動アクチュエータ41については、シフタ5がその内側方の最大摺動位置に配されるように電動モータ42を非駆動状態とした状態が、前述の操向用電子制御アクチュエータSAの非作動状態に該当するものであり、該内側方の最大摺動位置から少しでもシフタ5を外側方に摺動した状態となるよう電動モータ42を駆動した状態が、前述の操向用電子制御アクチュエータSAの作動状態に該当する。
このように、操向制御システム1Bは、操向用電子制御アクチュエータSAL・SAR及び補助クラッチ用アクチュエータAAの全てを電動アクチュエータ41とすることにより、操向制御システム1Aに比べ、操向用電子制御アクチュエータSAL・SARを制御するための油圧回路を構成する油圧ポンプ31、方向制御弁32、可変リリーフ弁33を不要とする点で、コンパクト化に有利である。
以上の如き構成の油圧制御システム1(1A・1B)におけるコントローラ10にて実施される制御フローチャートが図8にて示されており、これについて説明する。まず、コントローラ10は、スイッチ12からの入力信号12sを読み取り、補助クラッチ8の制御が自動モードに設定されているかどうか(スイッチ12が「ON」位置に設定されているかどうか)を判断する(ステップS01)。自動モードに設定されていない(スイッチ12が「OFF」位置に設定されている)場合(ステップS01でNO)は、ダイヤル13からの入力信号13sを読み取り、補助クラッチ14の接合力Fがダイヤル13のセット位置に対応する設定値Fsとなるように、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAを制御する。設定値Fsは、例えば、ダイヤル13を前記「0」位置にセットした場合は、0であり、この場合、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAを非作動状態にし、シフタ9のフォーク軸9aをクラッチ離間側の最大摺動位置に配して、補助クラッチ8を切ることとなる(図1に示すダイヤル13及びシフタ9を参照)。ダイヤル13を前記「Fmax」位置にセットした場合の設定値Fsは、接合力Fの最大値Fmaxに該当する。この場合、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAを作動状態にし、シフタ9のフォーク軸9aをクラッチ接合側の最大摺動位置に配して、補助クラッチ9の接合力Fを最大にする(図10に示すシフタ9を参照)。
補助クラッチ8の制御が自動モードに設定されている(スイッチ12が「ON」位置に設定されている)場合(ステップS01でYES)は、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAを作動状態にし、補助クラッチ8の接合力Fを、自動モード用に設定された所定値Fv(0より大きな値)にする(ステップS03)。次に、操向レバー11の傾倒角度Tを検出すべく、ポテンショメータ11aの入力信号11sを読み取る。傾倒角度Tが0、すなわち、操向レバー11が直進位置にあるとき(ステップS04でYES)は、両操向用電子制御アクチュエータSAL・SARを非作動状態とする(ステップS05)。これにより、左右両シフタ5L・5Rがそれぞれの内側方の最大摺動位置(左シフタ5Lは摺動右端位置、右シフタ5Rは摺動左端位置)に配され、両サイドクラッチ6L・6Rが接合される。
なお、このように、操向レバー11の傾倒角度Tの検出に基づき車両を直進させるか旋回させるか判断する前の段階で、自動モード設定であれば補助クラッチ8の接合力Fを所定値Fvにすることで、直進走行中において、一方の車軸4がスリップ状態になりそうな状況であっても、補助クラッチ8を介して、他方の車軸4に対して付与される駆動力の一部が該一方の車軸4に伝達され、このようなスリップ状態にならないか、あるいはスリップ状態になっても容易に脱することができる。このように、補助クラッチ8は、後述の如く、車両旋回中において旋回角度を補正する機能を有することに加えて、直進走行中においても、その走破性を高める機能を有するのである。
操向レバー11を直進位置から回動する(ステップS04でNO)と、旋回外側の操向用電子制御アクチュエータSAは非作動状態のままで、旋回内側の操向用電子制御アクチュエータSAを作動させる(ステップS07、S13)。操向レバー11の傾倒角度Tに応じて、操向用電子制御アクチュエータSAの作動量(油圧シリンダ34であればピストンロッドの伸長量、電動モータ付きアクチュエータ41であれば、電動モータ42にかける電圧量)が決定され、その作動量に対応する摺動位置に旋回内側のシフタ5が配置される。その傾倒角度Tが最大値Tmax未満である場合(ステップS06でYES)、旋回内側の車軸4の回転速度、あるいは、旋回外側の車軸4に対する旋回内側の車軸4の回転速度比について、操向レバー11の傾倒角度Tに対応する目的値Stと、回転数センサ14L・14Rからの入力信号14Ls・14Rsより算出される実測値Saとが比較され、実測値Saと目的値Stとの間に差がある場合には、補助クラッチ8の接合力Fの調整により、左右駆動列3L・3R間で伝達されるトルク量を調整して、その差を低減もしくは解消するという制御が行われる。
すなわち、車両の旋回中において、実測値Saと目的値Stとの間に差がない(差が許容範囲内である場合を含む)場合(ステップS08でYES)、車両は、目標の旋回半径で旋回していることになるので、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの現作動状態は保持され、補助クラッチ8の接合力Fが現在値のままで保持される(ステップS09)。
旋回中の実測値Saが目的値Stより大きい場合(ステップS10でYES)、旋回内側の車軸4の回転速度(回転速度比)が高すぎて目標の旋回半径より大きな旋回半径で旋回してしまうことになるので、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの作動量を低下させ、すなわち、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAとしてのアクチュエータ41の電動モータ42にかける指令信号42sとしての電圧を低下して、シフタ9のフォーク軸9aをクラッチ離間側に摺動し、補助クラッチ8の接合力Fを低減して(ステップS11)、旋回外側の駆動列3から旋回内側の駆動列3への伝達トルクを低減する。これにより旋回内側の車軸4の回転速度(回転速度比)を低減し、旋回半径を小さくして目標の旋回半径に近づける。
一方、実測値Saが目的値Stより大きい場合(ステップS10でNO)、旋回内側の車軸4の回転速度(回転速度比)が低すぎて目標の旋回半径より大きな旋回半径で旋回してしまうことになるので、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの作動量を増加させ、すなわち、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAとしてのアクチュエータ41の電動モータ42にかける指令信号42sとしての電圧を増加して、シフタ9のフォーク軸9aをクラッチ接合側に摺動し、補助クラッチ8の接合力Fを増加して(ステップS12)、旋回外側の駆動列3から旋回内側の駆動列3への伝達トルクを増大する。これにより旋回内側の車軸4の回転速度(回転速度比)を増大し、旋回半径を大きくして目標の旋回半径に近づける。
このような補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの作動量の調整に基づく補助クラッチ8の接合力Fの調整により、実測値Saと目的値Stとの差がなくなる(差が許容範囲内になる)と、前述のとおり、その補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの作動状態が保持され、そのときの補助クラッチ8の接合力Fが保持される。
操向レバー11の傾倒角度Tが最大値Tmaxである場合(ステップS06でNO)、旋回内側の操向用電子制御アクチュエータSAの作動量を最大にして、旋回内側のサイドブレーキ7が完全にかかった状態にする(旋回内側の駆動列3及び車軸4にかかる制動力を最大にする)。同時に、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAを非作動状態にし、補助クラッチ8を切ることで、旋回内側の車軸4にかかる旋回内側のサイドブレーキ7の制動力が、旋回外側の駆動列3及び車軸4に伝わるのを防ぐと共に補助クラッチ8の耐久性を向上させる。こうして、車両は、旋回内側の車軸4を停止した状態で、ブレーキターンすることとなる。
次に、図9乃至図11により、サイドクラッチ・サイドブレーキ式操向制御システム1を用いての駐車ブレーキ操作について説明する。従来、サイドクラッチ・サイドブレーキ式操向制御システムを適用した車両では、左右両サイドブレーキを同時にかけるか、あるいは、左右サイドブレーキとは別に、両車軸に制動力を付与するように構成された駐車ブレーキを車両に設けるという方法が適用されていた。しかし、同時に左右両サイドブレーキをかける方法では、左右両サイドブレーキがかかる直前に、左右両サイドクラッチが同時に切れる(両方の車軸が非駆動状態になる)という状態が現出し、制動開始の遅れによる車両の姿勢のブレ等の要因となっていた。例えば、傾斜地で駐車ブレーキをかけるときに、一瞬、左右両方の車軸が非駆動状態かつ非制動状態となって、車両が傾くというような事態を生じるおそれがあった。一方、別途に駐車ブレーキを設けることはコスト面やトランスミッションのコンパクト化という面で不利であった。
本実施例のサイドクラッチ・サイドブレーキ式操向制御システム1は、可変式の補助クラッチ8を備えており、さらに、その接合力Fを可変とし、接合力Fを最大値Fmaxにすることで、両駆動列3L・3R及び両車軸4L・4Rが完全にデフロックされた状態になり、左右駆動列3L・3Rのうち一方が制動されると、その制動力が補助クラッチ8を介して他方に及び、両車軸4L・4Rが同時に制動される状態とすることができる。このことを利用し、本実施例のサイドクラッチ・サイドブレーキ式操向制御システム1は、左右サイドブレーキ7L・7Rのうちいずれか一方を完全な作動(制動)状態にセットするとともに補助クラッチ8を実質的に完全な(最大接合力100%または略100%の)作動(接合)状態にすることで、駐車ブレーキとして機能するように構成されている。
すなわち、トランスミッション2を搭載した車両には、駐車ブレーキ操作具として、図9に示す如き駐車ブレーキペダル15が備えられ、その踏込み操作の有無により、駐車ブレーキスイッチ15aのON・OFFが切り換えられるものとなっている。そして、操向制御システム1におけるコントローラ10に、駐車ブレーキスイッチ15aのON・OFFを示す信号15sが入力される。
駐車ブレーキペダル15の踏込みにより駐車ブレーキスイッチ15aがONされると、トランスミッション2内におけるサイドクラッチ・サイドブレーキ式操向制御システム1は、図10に示すような状態となる。すなわち、左右のシフタ5L・5Rのうち、一方のシフタ5(本実施例では右シフタ5R)を内側方への最大摺動位置(右シフタ5Rの摺動左端位置)に保持してその該当のサイドクラッチ6(本実施例では右サイドクラッチ6R)を入れ、該当のサイドブレーキ7(本実施例では右サイドブレーキ7R)をかけたままで、他方(本実施例では左シフタ5L)が外側方への最大摺動位置(左シフタ5Lの摺動左端位置)に配置され、その該当のサイドクラッチ6(本実施例では左サイドクラッチ6L)を切り、該当のサイドブレーキ7(本実施例では左サイドブレーキ7L)をかけてその制動力を最大にする。これと同時に、シフタ9をクラッチ接合側の最大摺動位置に配置し、補助クラッチ8の接合力Fを最大値Fmaxとする。これにより、サイドブレーキ7がかかって制動された駆動列3(本実施例では左駆動列3L)より、補助クラッチ8を介して、該サイドブレーキ7の制動力がもう一方の駆動列3(本実施例では右駆動列3R)に伝達され、左右両車軸4L・4Rが制動される。
このように操向制御システム1が駐車ブレーキとして機能するように、図11に示すようなルーチンが、図8に示す如き車両旋回用のコントローラ10の制御フローに組み込まれている。すなわち、駐車ブレーキスイッチ15aがONしていることが検出される(ステップS21、ON)と、コントローラ10は、一対の操向用電子制御アクチュエータSAL・SARのうち、一方(図10の実施例では操向用電子制御アクチュエータSAR)については非作動状態に保持して前述の如くそのシフタ5を内側方の最大摺動位置に保持し、もう一方(図10の実施例では操向用電子制御アクチュエータSAL)についてはフル作動状態にしてそのシフタ5を外側方の最大摺動位置に配置する。そして、補助クラッチ8の接合力Fが最大値Fmaxとなるように補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAを作動する(ステップS22)。こうして、図10に示すように、操向制御システム1が駐車ブレーキとして機能する状態を現出する。駐車ブレーキペダル15が踏み込まれている(駐車ブレーキスイッチ15aがONとなっている)限り、この状態が保持される。駐車ブレーキ15が踏み込まれていない(駐車ブレーキスイッチ15aがOFFの)状態になると、図8の制御フローにおけるスイッチ12のON・OFFの検出ステップ(ステップS01)に移行する。
以上のように、片側のサイドブレーキ7を効かせるとともに補助クラッチ8を接合することで、操向制御システム1を駐車ブレーキとして機能させるものとすることで、まず、別途の駐車ブレーキを、その機械的な操作リンク機構も含めて設ける必要がないので、コスト抑制につながる。また、前述の如く駐車ブレーキ操作に呼応して左右のサイドブレーキを同時にかけるものとした場合に比べると、本実施例では、制動側のサイドクラッチ6(左サイドクラッチ6L)が、その側のサイドブレーキ7(左サイドブレーキ7L)の作動開始前に切れるときも、もう一方のサイドクラッチ6(右サイドクラッチ6R)は入れたままの状態となっているので、駐車ブレーキ作動中に両サイドクラッチ6L・6Rがともに切れた状態になるということがなく、車軸4L・4Rの両方が同時に非駆動状態になることはない。
次に、図12及び図13に示す実施例について説明する。本実施例に係る操向制御システム1は、車両の前後方向の傾斜状態の検出に基づく補助クラッチ8の接合力の補正制御を行うものである。まず、その目的について説明する。図8に示す操向制御システム1におけるコントローラ10による制御フローにおいては、前述したように、車両の直進・旋回制御のための操向レバー11の傾倒角度Tの読み取り前に、補助クラッチ8の接合力Fを、スイッチ12がON(自動モードON)であれば所定値Fvとする行程(ステップS03)があるが、この所定値Fvは、平坦地での走行(直進・旋回)のみを考慮して決定されたものである。傾斜地で旋回する場合、特に傾斜地を横断する場合は、傾斜地の低い側に位置する車軸4に車両の自重がかかり、特にサイドクラッチ6の切れた旋回内側の車軸4については、その旋回軌跡が想定していたものよりも傾斜地の低い側へとずれる可能性が高くなる。すなわち、前上がりの傾斜地で旋回すると、旋回内側の車軸4は、低位置側となる後方にずれがちになり、一方、前下がりの傾斜地で旋回すると、旋回内側の車軸4は、低位置側となる前方にずれがちになる。この自重によるずれは、旋回内側の車軸4の進行方向への走破性を高めることで解消されると考えられ、走破性を高めるには、補助クラッチ8を介しての旋回外側の駆動列3から旋回内側の駆動列3へのトルクを増加することが考えられる。そこで、本実施例に係る操向制御システム1では、補助クラッチ8の接合力Fの設定を自動モードにしているときに、車両が傾斜状態になると、補助クラッチ8の接合力を補正すべく、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAの制御を行うものとしている。
すなわち、本実施例では、図12に示すように、操向制御システム1のコントローラ10への入力手段として、車両の前後方向の傾斜角度(ピッチ角)Pを検出する傾斜センサ16が車両に設けられており、コントローラ10には、傾斜センサ16より傾斜角度Pの検出信号16sが入力されるものとしている。そして、図13に示すように、自動モードON(ステップS01でYES)に基づき補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAが作動されて補助クラッチ8の接合力Fが所定値Fvにセットされた状態(ステップS03)において、コントローラ10は、入力された検出信号16sを読み取り、車両の傾斜角度Pが0である(0に近い、接合力Fの補正を不要とする許容範囲内の値である場合を含む)か否か、すなわち、車両が水平状態である(傾斜状態であっても、水平状態に近い、接合力Fの補正を不要とする許容範囲内での傾斜状態にある場合を含む)か否かを判断する(ステップS31)。
車両が水平状態である(傾斜角度Pが0である)と判断すれば(ステップS31でYES)、接合力Fが所定値Fvとなるよう設定された補助クラッチ8の接合状態を保持したままで、車両の直進または旋回制御のための操向レバー11の傾倒角度Tの読み取り行程(ステップS04)に移行する。車両が水平状態でない(傾斜角度Pが0でない)と判断すれば(ステップS31でNO)、コントローラ10は、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAとしてのアクチュエータ41の電動モータ42への印加電圧を高めるよう指令信号42sを発し、シフタ9を摺動して、補助クラッチ8の接合力Fを、その傾斜角度Pに対応する値にまで増大する(ステップS32)。傾斜角度Pに対応する値とは、傾斜角度Pでの傾斜地で旋回する場合に前述のような旋回内側の車軸4の低位置側へのずれを生じさせないようにするための接合力Fの値をいう。こうして、当初に所定値Fvとしていた補助クラッチ8の接合力Fを傾斜角度Pに対応した値にまで増大させると、車両の直進または旋回制御のための操向レバー11の傾倒角度Tの読み取り行程(ステップS04)に移行する。
前記自動モードでの車両の走行中は、傾斜センサ16からの検出信号16sのコントローラ10への入力を続け、コントローラ10は、傾斜角度Pの変化に対応して、補助クラッチ8の接合力Fを調整すべく、補助クラッチ用電子制御アクチュエータAAを制御し続ける。一方、スイッチ12がOFFされている場合(ステップS01でOFF)は、車両の傾斜状態の変化に関係なく、補助クラッチ8の接合力Fは、ダイヤル13での設定値Fsに固定されている(ステップS02)。