JP6650852B2 - ドコサヘキサエン酸を含有する睡眠の質改善剤 - Google Patents

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Description

本発明は、ドコサヘキサエン酸を含有する睡眠の質改善剤に関する。
睡眠は、脳波パターンによりレム睡眠とノンレム睡眠の2種類に分類される。典型的なレム睡眠期には急速眼球運動が見られ、脳波は低振幅の速波が主となり、抗重力筋の筋活動が消失する。ノンレム睡眠期には基本的に筋活動は保たれるが、睡眠が深まるにつれ、その活動は次第に低下する。ノンレム睡眠期は、脳波の所見から4つの段階(Stage1〜4)に分けられる。とりわけStage3および4は徐波睡眠段階ともよばれる深い眠りである。ノンレム睡眠期の脳波としては、アルファ波(8〜13Hz)の減少、およびデルタ波(0.5〜4.5Hz)の増加が認められ、これらの変化によりノンレム睡眠を判定することができる。また、Stage3および4の睡眠中は、脳波全体(0.5〜20Hz)に対するデルタ波(0.5〜4.5Hz)の占有率が一定以上であること示すが、占有率が高いほど1分間あたりのデルタパワー値(デルタ波の出力)が高く、睡眠が深いことが知られている。したがって、深睡眠とはデルタパワー値が高いノンレム睡眠とも定義することができる。
眠りにつくと、まずノンレム睡眠があらわれ、次に浅い眠りのレム睡眠へと移行する。通常成人では、レム睡眠およびノンレム睡眠を約90分周期で一晩に3〜5回、一定のリズムで繰り返したのち、睡眠の深さが浅くなり覚醒すると、快適な睡眠であると感じる。一方、深いノンレム睡眠が得られていなかったり、中途覚醒が起こったりした場合などは、ヒトは不満足な睡眠であると感じる傾向がある。良質な睡眠には十分なノンレム睡眠時間と深いノンレム睡眠、特に睡眠初期(第1周期)の十分に深いノンレム睡眠の確保が重要である。
近年、高齢化や社会の24時間化に伴う様々な睡眠障害が社会的問題となっている。日本人の5人に1人は睡眠に関して何らかの問題を抱えているとされ、特に高齢者においては、3人に1人が睡眠について悩みを抱えているとされる。加齢による睡眠の変化に着目すると、ノンレム睡眠時間が大きく減少し、睡眠の質が低下していることが報告されている。
これらの睡眠の悩みに対して睡眠薬がしばしば用いられる。睡眠薬としては、ベンゾジアゼピン系の薬剤が一般に用いられており、超短時間型から、短時間型、中間型、長時間型まで様々な半減期の薬剤が開発されている。しかしながら、これらの睡眠薬による治療法は対処療法的なものであり、医薬品による睡眠誘導では自然で快適な睡眠を容易に得ることができない場合がある。
そこで、天然由来成分による睡眠の改善が検討されてきた。
コエンザイムQ10(特許文献1)やテアニン(特許文献2)のような天然由来成分を含んだ種々の睡眠改善剤が提案されている。しかしながら、これらの特許文献には睡眠の質を良化するための提案はなされていない。
睡眠の質の改善に関しては、唯一、清酒酵母(特許文献3、4)の摂取による睡眠の質の改善が提案されている。
なお、清酒酵母中の有効成分はメチルチオアデノシン及びその塩であり、また、清酒酵母であるサッカロミセス・セレビシエイ(Saccharomyces cerevisiae)をはじめとする酵母は多価不飽和脂肪酸を合成できないことが知られており、酵母の膜脂質の組成分析でもDHAは確認されていない(非特許文献1)。
一方、魚油に関しては、魚卵油(特許文献5)やドコサヘキサエン酸(DHA)(特許文献6)を有効成分として用いる睡眠の改善方法が提案されている。なお、特許文献5に記載される魚卵油のDHA含有量は、全体の脂肪酸組成の10〜30質量%であり、リン脂質中のDHA含有量は15〜30質量%である。
特開2005−325086号公報 特開2005−289948号公報 WO2014/163152 A1 特開2015−214518号公報 特開2010−053054号公報 特開2008−174512号公報
J. Brew. Soc. Japan. Vol.91, No.4, 284-289(1996)
特許文献5には、魚卵から抽出したDHAを含む魚卵油を1日あたり0.1〜10gを2ヶ月以上経口で摂取することを特徴とする睡眠の改善方法が開示されている。特許文献5には、経口摂取期間が2ヶ月に足りない場合、体質の改善が十分ではなく、睡眠について入眠や中途覚醒における改善効果は十分に発揮できない場合があると記載されている。
特許文献5における魚卵油の睡眠改善効果は、被験者へのアンケート結果に基づいて評価されている。しかしながら、被験者によるアンケート結果に基づく薬理効果の証明は、被験者による漠然とした感想や感覚に基づく主観的評価によるものであり、科学的な実験データ等により客観的に確認されたものではない。したがって、特許文献5には、魚卵油のどの成分が、どのような睡眠障害を起こす原因に対して、どのような作用、あるいはメカニズムによって睡眠の改善効果を発揮しているのかについてなんら開示も示唆もされていない。
特許文献6には、DHAを有効成分として含有することを特徴とする起床時疲労感改善用組成物が開示されている。特許文献6における起床時疲労改善効果は、被験者の赤血球中の脂肪酸組成にけるDHAの割合と被験者へのアンケート結果に基づいて評価されている。しかしながら、被験者によるアンケート結果に基づく薬理効果の証明は、被験者による漠然とした感想や感覚に基づく主観的評価によるものであり、科学的な実験データ等により客観的に確認されたものではない。したがって、特許文献6には、DHAが、どのような睡眠障害を起こす原因に対して、どのような作用、あるいはメカニズムによって睡眠の改善効果を発揮しているのかについてなんら開示も示唆もされていない。更に、DHAの投与量や投与期間をどのように設定することで、効果があるとされている被験者の赤血球中の脂肪酸組成にけるDHAの割合が得られるかについての開示は特許文献6にはない。
本発明の目的は、デルタパワー値の増強により深睡眠(ノンレム睡眠)を誘導及び/または促進し、睡眠の質を改善することができる、DHAを有効成分として含有する睡眠の質改善剤を提供することにある。
本発明にかかる睡眠の質改善剤は、デルタパワー値の増強による深睡眠(ノンレム睡眠)誘導及び/または促進のための睡眠の質改善剤であって、有効成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)を含有することを特徴とする。
本発明にかかる睡眠の質改善剤の製造におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の使用方法は、睡眠の質改善剤の製造において、DHAをデルタパワー値の増強による深睡眠(ノンレム睡眠)誘導及び/または促進のための有効成分として使用することを特徴とする。
本発明にかかる飲料または食品の製造のためのDHAの使用方法は、デルタパワー値の増強による深睡眠(ノンレム睡眠)の誘導及び/または促進のための有効成分を含む飲料または食品の製造のためのDHAの使用方法であって、前記有効成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)を含む睡眠の質改善剤を使用することを特徴とする。
本発明にかかる食品組成物は、デルタパワー値の増強による深睡眠(ノンレム睡眠)の誘導及び/または促進のための有効成分を含む食品組成物であって、前記有効成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)を含む睡眠の質改善剤を使用することを特徴とする。
本発明によれば、DHAのデルタパワー値の増強作用による深睡眠(ノンレム睡眠)の誘導及び/または促進効果を有する睡眠の質改善剤を提供することができる。
第1睡眠周期のデルタパワー値(1分あたり)の変化量を示す図である。 トータルパワー(TP)と因子I(起床時眠気)の得点との相関を示す図である。 トータルパワー(TP)と因子IV(疲労回復)の得点との相関を示す図である。
本発明者らは、天然成分としてのドコサヘキサエン酸(DHA)の睡眠改善効果に着目し、睡眠に関する被験者のアンケート結果に併せて、被験者の睡眠時の脳波を測定することで、DHAがデルタパワー値を増大することにより深い睡眠を誘導及び/または促進し、睡眠の質を改善することを新たに見出した。すなわち、本発明者らの新たな知見により、深い眠りにつけないという睡眠障害の原因を、デルタパワー値を増大させて深い睡眠を誘導及び/または促進するというDHAの作用によるメカニズムを利用して取り除き、睡眠の質を改善可能であることが明らかとなった。このように、DHAによる睡眠の質の改善効果におけるDHAの作用及びメカニズムが明らかとなったことによって、DHAの投与量及び投与期間の好ましい規格を提供することができ、有効な睡眠の質改善剤の製剤化が容易となる。
本発明にかかる睡眠の質改善剤は、デルタパワー値を増大させて深い睡眠を誘導及び/または促進するための有効成分としてDHAを含む。
従って、DHAは睡眠の質改善剤の製造のための有効成分として利用することができる。
更に、DHAを含む睡眠の質改善剤は、飲料または食品の製造のための睡眠の質改善のための有効成分を飲料または食品へ添加するための成分として使用することができる。DHAは更に、DHAと他の食用として利用し得る成分を組み合わせて配合した、睡眠の質改善のための食品組成物の有効成分として利用することができる。
本発明によれば、少なくとも睡眠第1周期における睡眠の質を改善する効果を有する睡眠の質改善剤を提供することができる。
また、本発明によれば、デルタパワー値を増大させて深い睡眠を誘導及び/または促進する作用に加えて、ノンレム睡眠の促進、深睡眠の促進、睡眠第1周期のデルタパワー値の増加、入眠あるいは睡眠維持改善、起床時の疲労感改善よりなる群から選ばれる少なくとも1つの作用によって睡眠の質が改善される睡眠の質改善剤を提供することができる。
本発明に用いる「DHA」は、主に魚に含まれる高度不飽和脂肪酸で、マグロ、サバ、サンマ、ブリなどの魚肉に多く含まれる。DHAは、通常、食用に供される魚類から採取、精製することにより得ることができる。睡眠の質改善剤へのDHAの配合には、DHA含有精製魚油を用いることもできる。市販のDHA含有精製魚油としては、例えばマルハニチロ社製のDHA22(商品名:DHA含有量22質量%含有精製まぐろ油)、DHA22K(商品名:DHA含有量22質量%含有精製まぐろ油、かつお油)、DHA27W(商品名:DHA含有量27質量%含有精製まぐろ油・かつお油)、DHA46A(商品名:DHA含有量46質量%含有精製まぐろ油)、DHA-RS(商品名:DHA含有量70質量%含有精製まぐろ油・かつお油)などが挙げられる。
公知の方法によって食用の魚類などから得られたDHA含有製品及び精製DHA、並びに市販のDHA含有魚油などから選択した少なくとも1種を、睡眠の質改善剤へのDHA配合用の成分として利用することができる。
本発明にかかる睡眠の質改善剤は、DHAあるいはDHAを含む製品を単独で用いて、あるいは、DHAあるいはDHAを含む製品に、担体、賦形剤及び希釈剤の少なくとも1種を組み合わせて製剤化することにより提供することができる。
本発明にかかる睡眠の質改善剤は、そのままの形態を最終製品として、睡眠の質の改善が必要な対象者に供給することができる。あるいは、本発明にかかる睡眠の質改善剤は、飲食品用の添加剤、医薬品用のリズム添加剤、医薬部外品の添加剤として用いることができる。これにより、飲食品または医薬品に、深睡眠(ノンレム睡眠)促進効果を付与することができる。
本発明にかかる睡眠の質改善剤は、飲食品関連製品、例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品(サプリメント)、特定保健用食品、機能性表示食品、医療用食品、病者用食品、乳児用食品、介護用食品、高齢者用食品等に配合して用い得る。
本発明にかかる睡眠の質改善剤の投与形態は特に限定されない。例えば、経口投与(例えば、口腔内投与、舌下投与など)、非経口投与(静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、経鼻投与、経肺投与など)などが挙げられる。これらの中でも侵襲性の少ない投与形態が好ましく、経口投与であることがより好ましい。また、本発明にかかる睡眠の質改善剤を飲食品の形態で用いる場合には、経口投与用として利用される。
本発明にかかる睡眠の質改善剤の剤形は、飲食品、医薬品および医薬部外品のいずれとするかによって適宜決定することができ、特に限定されない。経口投与される際の剤形の例としては、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、粒状(錠剤)、カプセル状(カプセル剤)、粉末状(顆粒、細粒)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状が挙げられる。これらのうち、粒状、カプセル状、粉末状、ソフトカプセル状、固形状が好ましく、粒状(錠剤)がより好ましい。
本発明にかかる深睡眠(ノンレム睡眠)促進を特徴とする睡眠の質改善剤の投与時期は特に限定されない。
本発明にかかる睡眠の質改善剤を各種飲食品として利用する場合における、飲食品の形態としては、例えば、飲料(清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、粉末飲料、果実飲料、乳飲料、ゼリー飲料など)、菓子類(クッキー、ケーキ、ガム、キャンディー、タブレット、グミ、饅頭、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム、シャーベットなど)、水産加工品(魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、はんぺんなど)、畜産加工品(ハンバーグ、ハム、ソーセージ、ウィンナー、チーズ、バター、ヨーグルト、生クリーム、チーズ、マーガリン、発酵乳など)、スープ(粉末状スープ、液状スープなど)、主食類(ご飯類、麺(乾麺、生麺)、パン、シリアルなど)、調味料(マヨネーズ、ショートニング、ドレッシング、ソース、たれ、しょうゆなど)が挙げられる。
本発明にかかる睡眠の質改善剤は、DHA以外に内服に適した1種または2種以上の成分と組み合わせて、内服用の組成物とし得る。本発明にかかる内服用組成物によれば、デルタパワー値増大による深睡眠を促進する効果を有する成分としてのDHAの有効量を、経口投与により簡易かつ確実に摂取することができる。内服用組成物とする場合、内服に適した形態であれば特にその形態に制限はない。薬理学的に許容される内服可能な担体、賦形剤及び希釈剤の少なくとも1種とDHAまたはDHAを含む製品を用いて内服用に製剤化した内服用組成物を得ることができる。
本発明にかかる睡眠の質改善剤におけるDHAの配合割合は、製剤の形態、投与形態等に応じて、目的とするデルタパワー値の増大作用が得られるように設定することができる。経口投与、すなわち内服用としてのDHAの睡眠の質改善剤への配合割合は、1日用量あたり0.85g〜3g、好ましくは2.1gであり、1週間以上、好ましくは2週間以上経口で摂取できるように設定されることが好ましい。すなわち、本発明にかかる睡眠の質改善剤は、1日用量あたり0.85g〜3g、好ましくは2.1gで、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも2週間にわたって毎日服用可能なように、経口用に区分けされて調製されることが好ましい。
なお、特許文献5の実施例における実験データでは、2か月以上の摂取が必要とされる1日当たりのDHAとしての投与量は0.25gとされており、本発明における上記の好ましいDHAの投与量及び投与期間において本願発明の効果を得ることができる点についてなんら示唆していない。
一方、特許文献6では、起床時疲労感改善用組成物に含まれるDHAの量について、内服における1日用量あたり10〜2000mg、好ましくは100〜1000mgと記載されている。しかしながら、本発明において目的とする睡眠の質改善のための投与期間についての記載や示唆はない。
本発明にかかる睡眠の質改善剤の形態に関して、例えば、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、粉末状(顆粒、細粒)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状等の形態の場合は、上記の投与量と投与期間の継続が可能なように、分包した製剤として提供することができる。また、粒状(錠剤)、カプセル状(カプセル剤)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)の形態の場合は、上記の投与量と投与期間の継続が可能なように、これらを区分けして包装した製剤として提供することができる。
また、本発明にかかる睡眠の質改善剤を飲食品の形態で睡眠改善を必要とする対象者へ適用する場合には、飲食品を、上記の投与量での投与期間の維持が可能なように、区分けされた形態で提供する。
本発明において、DHAによる深睡眠(ノンレム睡眠)の促進作用は、第1睡眠周期のデルタパワー値を増大させる作用である。デルタパワー値は携帯型脳波測定器(スリープウェル(株)社製「Sleep Scope」)を用いて測定することができる。
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
(睡眠の質の評価方法)
脳波測定による睡眠第1周期のデルタパワー値、心拍測定による自律神経活動評価、OSA睡眠調査票(MA版)による起床時の眠気および疲労感の調査にて睡眠の質を評価した。
(実施例1)ヒトにおける脳波及びアンケート評価
二重盲検プラセボ対照クロスオーバー比較試験を行った。被験者19名を2群に分け(A群:DHA含有カプセル→プラセボカプセル、B群:プラセボカプセル→DHA含有カプセル)、DHA含有カプセル、またはプラセボカプセルの何れか1種類を朝・昼・晩の1日3回、食後に1回5粒ずつ、各観察期で2週間摂取させた。各観察期の間には2週間のウォッシュアウト期間をはさんだ。被験者は全て男性であり、年齢は42.3±5.9歳であった。
DHA含有カプセルとして、マルハニチロ製DHAカプセル「まぐろとかつおからDHA70」(商品名)(1カプセル当たり、250mgの内容物中140mgのDHAを含む)を用いた。プラセボカプセルとして、「まぐろとかつおからDHA70」に用いている精製魚油の代わりにオリーブ油を250mg充填したカプセルを用いた。
DHA含有カプセル中のDHAの含有量は140mg/粒であり、1日あたり摂取されるDHA量は2,100mg/日であった。
各観察期において、摂取開始3日前および摂取終了3日前に各被験者の脳波を測定した。脳波の測定は携帯型脳波測定器(スリープウェル(株)社製「Sleep Scope」)を用い、被験者の睡眠中における脳波を測定した。脳波の解析はスリープウェル(株)に依頼して解析した。睡眠の深さは睡眠中の脳波のデルタパワー値によって知ることができ、デルタパワー値が大きいほど睡眠の深さは深い。一般に、就寝直後にノンレム睡眠が出現し、その後レム睡眠が出現する。本実験では、就寝直後に出現したノンレム睡眠中のデルタパワー値を睡眠第1周期のデルタパワー値とした。脳波を解析し、睡眠第1周期の1分あたりのデルタパワー値の摂取前からの変化量(単位:μV2/分)を求めた。結果を図1に示す。摂取2週間後において、DHA摂取群はプラセボ摂取群と比較して高いデルタパワー値の変化量を示した。
摂取期間前後で、OSA睡眠調査票(MA版)を用いて起床時の眠気および疲労感の調査を行った。OSA睡眠調査票(MA版)は、起床時眠気、入眠と睡眠維持、夢み、疲労回復、睡眠時間の5因子からなり、各因子の信頼性、妥当性ともに検証されている。いずれの項目においてもスコアが高い方が改善方向である。
摂取前からの変化量を表1に示す。第2因子である「入眠と睡眠維持」や第4因子の「疲労回復」では、DHA摂取群はプラセボ摂取群と比較して高いスコアの改善が認められた。客観的な指標(デルタパワー値)だけでなく、体感を伴った効果を示した。
Figure 0006650852
(実施例2)ヒトにおける心拍(交感神経/副交感神経活動)及びアンケート評価
被験者5名(男性4名、女性1名、年齢37.8±10.6歳)に対し、DHA含有カプセルを朝・昼・晩の1日3回、食後に1回5粒ずつ、2週間摂取させ、摂取前後で睡眠の質を比較する睡眠評価を実施した。DHA含有カプセルはマルハニチロ製「まぐろとかつおからDHA70」を用いた。カプセル中のDHAの含有量は140mg/粒であり、1日あたり摂取されるDHA量は2,100mg/日であった。
摂取前1週間及び摂取2週目より1週間、各被験者の心拍を測定した。心拍の測定は心拍計(WINフロンティア(株)社製「My Beat」)を用い、1週間昼夜通して測定した(入浴時のみ未装着)。心拍データの解析はR-R間隔(R波の発生時刻と、ひとつ前のR波の発生時刻の時間差が心拍間隔であり、R波とR波の間隔を計測することから、R-R間隔と呼ぶ。安静時に心臓がゆっくり拍動している時は、間隔が長くなり、反対に、心臓が速く拍動するときは、この間隔が短くなる。)より、LF(交感神経活動、低周波数成分[0.04Hz〜0.15Hz]の値)およびHF(副交感神経活動、高周波数成分[0.15Hz〜0.4Hz]の値)を算出して行った。
結果を表2に示す。被験者5人中2人が「睡眠時」の副交感神経割合(リラックス割合)が摂取前よりも摂取後で増加した(摂取後の「全体睡眠平均」における「LF/HF」が摂取前よりも低下した人)。また、被験者5人中4人が「日中」と「睡眠時」の比較(日・睡変化率:変化後である睡眠時の自律神経バランスから変化前の日中の自律神経バランスを差し引き、日中の自律神経バランスで割った値。日中の交感神経上昇や睡眠時の副交感神経上昇によって変化率は上がる。)で、摂取前よりも摂取後において、日・睡変化率が上昇(日中の交感神経上昇や睡眠時の副交感神経上昇)した。つまり、日中と睡眠時で緊張とリラックスのメリハリがはっきりしたと言える。年齢別の閾値と比較した場合、日・睡変化率の上昇した被験者は、摂取前の日・睡変化率が閾値より低い人も高い人も含まれており、初期値に関わらずDHAを摂取することで副交感神経割合が増加した。さらに、被験者5人中4人がトータルパワー(TP:交感神経活動値+副交感神経活動値。疲労や加齢によって低下する。)の増加が見られた。これらの結果から、DHAは自律神経に作用し、睡眠時の副交感神経活動を活性化することで睡眠の質を改善したと考えられた。
また、主観(OSA睡眠調査票MA版)との相関性を確認したところ、TPと睡眠調査票の得点の相関は、TPが高い方が睡眠調査票の得点が高い(睡眠感が良好)になる傾向がみられた。特に、TPと因子I(起床時眠気)の得点(図2)、TPと因子IV(疲労回復)の得点(図3)の相関係数が高い傾向がみられた。
Figure 0006650852
以上の各実施例の結果は、DHAが睡眠初期のノンレム睡眠を促進させ、深い睡眠や自然な睡眠を誘発し、睡眠の質を改善することができることを示している。

Claims (12)

  1. デルタパワー値の増強による深睡眠誘導及び/または促進のための睡眠の質改善剤であって、睡眠の質改善のための有効成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)を含有し、
    前記有効成分としてのDHAを含む内服用組成物の形態をとり、
    1日用量あたり0.85g〜3gで、少なくとも2週間にわたって毎日DHAを服用可能なように、経口用に区分けされて調製されている
    ことを特徴とする睡眠の質改善剤。
  2. 1日用量あたり2.1gのDHAを摂取可能に調製されている請求項1に記載の睡眠の質改善剤。
  3. 2週間にわたって毎日DHAを服用可能なように、経口用に区分けされて調製されている 請求項1または2に記載の睡眠の質改善剤。
  4. 前記DHAを含む内服用組成物が、DHA含有精製魚油であり、少なくとも睡眠第1周期における睡眠の質を改善する効果を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の睡眠の質改善剤。
  5. 睡眠の質改善が、ノンレム睡眠の促進、深睡眠の促進、睡眠第1周期のデルタパワー値の増加、入眠あるいは睡眠維持改善、起床時の疲労感改善よりなる群から選ばれる少なくとも1つの作用を含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の睡眠の質改善剤。
  6. デルタパワー値の増強による深睡眠の誘導及び/または促進のための有効成分を含む睡眠の質改善剤の製造のためのDHAの使用方法であって、前記有効成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)を使用し、
    前記睡眠の質改善剤が、前記有効成分としてのDHAを含む内服用組成物の形態をとり、
    1日用量あたり0.85g〜3gで、少なくとも2週間にわたって毎日DHAを服用可能なように、経口用に区分けされて調製されている
    ことを特徴とする、前記睡眠の質改善剤の製造のためのDHAの使用方法。
  7. 前記睡眠の質改善剤が1日用量あたり2.1gのDHAを摂取可能に調製されている、請求項6に記載の使用方法。
  8. デルタパワー値の増強による深睡眠の誘導及び/または促進のための有効成分を含む飲料または食品の製造のためのDHAの使用方法であって、前記有効成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)を含む睡眠の質改善剤を使用し、
    前記飲料または前記食品が、1日あたり0.85g〜3gで、少なくとも2週間にわたって毎日DHAを摂取可能なように、区分けされて調製されている
    ことを特徴とする、前記飲料または食品の製造のためのDHAの使用方法。
  9. 前記飲料または前記食品が、1日あたり2.1gのDHAを摂取可能に調製されている請求項8に記載のDHAの使用方法。
  10. 前記飲料または前記食品が、2週間にわたって毎日DHAを摂取可能なように、区分けされて調製されている請求項8または9に記載のDHAの使用方法。
  11. 前記睡眠の質改善剤が、DHA含有精製魚油であり、少なくとも睡眠第1周期における睡眠の質を改善する効果を有する、請求項6乃至10のいずれか1項に記載のDHAの使用方法。
  12. 前記睡眠の質改善が、ノンレム睡眠の促進、深睡眠の促進、睡眠第1周期のデルタパワー値の増加、入眠あるいは睡眠維持改善、起床時の疲労感改善よりなる群から選ばれる少なくとも1つの作用を含む、請求項6乃至11のいずれか1項に記載のDHAの使用方法。
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