(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態による鞍乗型車両におけるエンジン、過給機、油供給機構、戻り油タンク、および戻り油経路等を示している。本発明の第1の実施形態による鞍乗型車両は自動二輪車、自動三輪車または四輪バギー等である。図1に示すように、本発明の第1の実施形態による鞍乗型車両は、エンジン11、過給機21、油供給機構23、戻り油タンク27、第1の戻り油経路28および第2の戻り油経路29を備えている。
エンジン11は、クランクケース12と、クランクケース12の底部に設けられた貯油部13と、クランクケース12内に設けられたクランクシャフト14と、クランクケース12上に設けられたシリンダ15とを備えている。貯油部13内には潤滑油OL1が貯留されている。図1中のS1は、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面を示している。また、クランクシャフト14は、その軸線A1が、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高い位置となるように配置されている。なお、エンジン11の冷却方式、シリンダの個数、シリンダの配置方式等は限定されない。
過給機21は、エンジン11からの排気を利用して駆動され、燃料燃焼用の空気を圧縮する装置である。過給機21は、シリンダ15の側方または前方であって、かつクランクシャフト14の軸線A1よりも高い位置に配置されている。過給機21は、エンジン11からの排気を利用して回転するタービンホイールと、空気を圧縮するコンプレッサホイールと、これらのホイールに共通の回転シャフトとを備えている。また、過給機21内において、当該回転シャフトは軸受を介して回転自在に支持されている。また、過給機21は、軸受に潤滑油を供給して軸受の潤滑および冷却を行い、当該潤滑油を過給機21からその外部へ排出する構造を備えている。
油供給機構23は、貯油部13に貯留された潤滑油OL1を過給機21に供給する機構である。本実施形態において、油供給機構23は、潤滑油OL1を過給機21に供給する機構と、潤滑油OL1をクランクシャフト14、シリンダ15の内部およびカムシャフト17等に供給する機構とを兼ね備えている。油供給機構23は、例えば、貯油部13に貯留された潤滑油OL1を汲み上げるオイルポンプ24と、オイルポンプ24により汲み上げられた潤滑油OL1を過給機21、クランクシャフト14、シリンダ15の内部およびカムシャフト17等へ供給する油供給経路25とを備えている。油供給機構23により潤滑油OL1を過給機21へ供給する方法は、油供給機構23により潤滑油OL1を過給機21まで圧送する方法でもよいし、油供給機構23によりエンジン11内の上部に潤滑油OL1を汲み上げ、その潤滑油OL1を自由落下させて過給機21内へ流し込む方法でもよい。また、クランクシャフト14、シリンダ15の内部およびカムシャフト17等に供給した潤滑油OL1は、エンジン11内において自由落下し、貯油部13に戻る。
戻り油タンク27は、過給機21から排出された潤滑油OL1を貯留するタンクである。戻り油タンク27は、その頂部27Aが貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高い位置となるように配置されている。なお、戻り油タンク27の底部の位置は、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも低い位置であることが望ましいが、当該潤滑油OL1の油面S1よりも高い位置であってもよい。
第1の戻り油経路28は、過給機21から排出された潤滑油OL1を戻り油タンク27へ運ぶための経路である。第1の戻り油経路28は、その流入側端部28Aが過給機21の下部に接続されている。また、第1の戻り油経路28の流出側端部28Bは、戻り油タンク27において、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高く、かつ過給機21よりも低い部分に接続されている。
また、第2の戻り油経路29は、戻り油タンク27に貯留された潤滑油OL1を貯油部13へ戻す経路である。第1の戻り油経路28および第2の戻り油経路29はそれぞれ、例えばホースまたはパイプ等の配管により形成されている。なお、例えば、クランクケース12等に孔を形成し、この孔を利用して第1の戻り油経路28または第2の戻り油経路29を形成することもできる。
ここで、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の量は変動するので、潤滑油OL1の油面S1の高さも変動する。しかしながら、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1の高さ位置(レベル)については所定の基準油面位置が設定されている。貯油部13に貯留された潤滑油OL1が減って油面S1の高さ位置が基準油面位置よりも低くなった場合には、例えば、鞍乗型車両の整備を行う際に潤滑油OL1が補充され、油面S1の高さ位置が基準油面位置となるように調整される。上述したように、クランクシャフト14の軸線、戻り油タンク27の頂部27A、および第1の戻り油経路28の流出側端部28Bのそれぞれの高さ位置は、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1の高さ位置に基づいて相対的に定められているが、これらの高さ位置を定める際の油面S1の高さ位置としては上記基準油面位置が用いられている。
このような構成を有する本発明の第1の実施形態による鞍乗型車両において、貯油部13に貯留された潤滑油OL1は、油供給機構23により過給機21に供給される。そして、過給機21に供給された潤滑油OL1により、過給機21の軸受等の潤滑および冷却が行われる。
続いて、過給機21の軸受等の潤滑および冷却を行った潤滑油OL1は、過給機21から第1の戻り油経路28を通って戻り油タンク27内へ自由落下する。すなわち、過給機21の高さ位置は、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高く、さらにクランクシャフト14の軸線A1の高さよりも高い。また、戻り油タンク27の頂部27Aの高さ位置は、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高い。また、第1の戻り油経路28の流入側端部28Aは過給機21の下部に接続され、第1の戻り油経路28の流出側端部28Bは、戻り油タンク27において、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高くかつ過給機21よりも低い部分に接続されている。このような過給機21、戻り油タンク27および第1の戻り油経路28の配置から、過給機21に供給された潤滑油OL1は、自由落下により過給機21から排出され、第1の戻り油経路28を通って、戻り油タンク27内へ流入する。
続いて、過給機21から戻り油タンク27内へ流入した潤滑油OL1は、戻り油タンク27内へ貯留される。すなわち、本実施形態においては、戻り油タンク27の底部の位置が、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面の高さよりも低いので、過給機21から排出された潤滑油OL1が戻り油タンク27内に貯まる。この場合、戻り油タンク27に貯留された潤滑油OL1の油面の高さ位置は、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1の高さ位置と等しくなる。そして、戻り油タンク27に貯留された潤滑油OL1が増加したとき、または貯油部13に貯留された潤滑油OL1が減少したとき、戻り油タンク27に貯留された潤滑油OL1は、第2の戻り油経路29を通って貯油部13へ移動する。
このように、本発明の第1の実施形態の鞍乗型車両によれば、過給機21を、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高い位置に配置し、過給機21に供給された潤滑油OL1を、第1の戻り油経路28、戻り油タンク27および第2の戻り油経路29を介して貯油部13へ戻す構成としたから、過給機21へ供給した潤滑油OL1を過給機21から自由落下により確実に排出させることができる。
また、過給機21へ供給された潤滑油OL1を過給機21から自由落下により確実に排出させることができるので、過給機21へ供給された潤滑油OL1を過給機21から貯油部13へ強制的に戻す構成が不要になる。具体的には、過給機21と貯油部13との間で潤滑油OL1を強制的に循環させるための、吐出圧力の大きい大型のオイルポンプ24を用いる必要がなくなる。また、オイルポンプ24の他に、過給機21から貯油部13へ潤滑油OL1を圧送するための専用のポンプが追加する必要がなくなる。これにより、オイルポンプ24の大型化を防止し、またはポンプの個数の増加を防止することができる。したがって、鞍乗型車両を軽量化することができ、または、鞍乗型車両の製造コストの上昇を抑えることができる。
また、本発明の第1の実施形態の鞍乗型車両においては、戻り油タンク27の頂部27Aの高さ位置が貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高く、かつ、第1の戻り油経路28の流出側端部28Bが、戻り油タンク27において、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高い部分に接続されている。このような構成により、戻り油タンク27内の上部(すなわち、戻り油タンク27内において貯油部13に貯留された潤滑油OL1に油面S1よりも高い部分)には、潤滑油OL1が滞留することのない空間が形成され、第1の戻り油経路28の流出側端部28Bはその空間に接続されている。したがって、鞍乗型車両の急加減速により貯油部13または戻り油タンク27に貯留された潤滑油OL1に慣性力が作用しても、潤滑油OL1が過給機21へ逆流することを抑制することができる。すなわち、急加減速時の慣性力により、貯油部13に貯留された潤滑油OL1が第2の戻り油経路29を逆流して戻り油タンク27内へ移動し、戻り油タンク27内の潤滑油OL1の油面が上昇することはあり得る。しかしながら、第1の戻り油経路28の流出側端部28Bは、戻り油タンク27内の上部に形成された空間に接続されており、戻り油タンク27内の潤滑油OL1の油面から十分に離れているので、戻り油タンク27内の潤滑油OL1が第1の戻り油経路28の流出側端部28Bに届くことを抑制することができ、それゆえ、潤滑油OL1が第1の戻り油経路28を逆流して過給機21内に入ることを抑制することができる。
また、本発明の第1の実施形態の鞍乗型車両によれば、過給機21から排出された潤滑油OL1が第1の戻り油経路28を通って戻り油タンク27内の上部に形成された空間に落下するので、鞍乗型車両の急加減速時の慣性力によって過給機21から貯油部13への潤滑油OL1の順方向の流れが悪くなり、このために潤滑油OL1が過給機21内に滞留することを抑制することができる。すなわち、鞍乗型車両の急加減速時の慣性力によって、戻り油タンク27と貯油部13とを接続する第2の戻り油経路29における潤滑油OL1の順方向の流れが悪くなることはあり得る。しかしながら、この現象によって、過給機21から戻り油タンク27内の上部の空間への潤滑油の落下が妨げられることはほぼない。したがって、鞍乗型車両の急加減速により過給機21内に潤滑油OL1が滞留することを抑制することができる。
また、本発明の第1の実施形態の鞍乗型車両によれば、戻り油タンク27の上部に空間が形成され、この空間が過給機21と貯油部13との間に介在しているので、ジャックナイフやウイリー等により鞍乗型車両が大きく前または後ろに傾いても、潤滑油OL1が過給機21へ逆流することを抑制でき、かつ潤滑油OL1が過給機21内に滞留することを抑制することができる。
また、本発明の第1の実施形態によれば、過給機21から排出される潤滑油OL1を、戻り油タンク27を介して貯油部13に戻す構造とした。それゆえ、後述する本発明の第2の実施形態による構造、すなわち、過給機21からの戻り油経路31をクランクケース12の上部に直接接続する構造(図2参照)を実現することが鞍乗型車両の構造上困難な場合でも、潤滑油OL1を過給機21から自由落下により確実に排出させる構成を実現することができる。
(第2の実施形態)
図2は本発明の第2の実施形態による鞍乗型車両におけるエンジン、過給機、油供給機構、および戻り油経路等を示している。なお、図2において、図1に示す本発明の第1の実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図2に示すように、本発明の第2の実施形態による鞍乗型車両は、エンジン11、過給機21、油供給機構23および第3の戻り油経路31を備えている。第3の戻り油経路31は、過給機21から排出された潤滑油OL1をクランクケース12内へ流入させるための経路である。第3の戻り油経路31は、その流入側端部31Aが過給機21の下部に接続されている。また、第3の戻り油経路31の流出側端部31Bは、クランクケース12において貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高く、かつ過給機21よりも低い部分に接続されている。第3の戻り油経路31は、例えばホースまたはパイプ等の配管により形成されている。なお、例えば、クランクケース12等に孔を形成し、この孔を利用して第3の戻り油経路31を形成することもできる。
このような構成を有する本発明の第2の実施形態による鞍乗型車両において、油供給機構23により貯油部13から過給機21へ供給された潤滑油は、過給機21内の軸受等を潤滑し、冷却した後、過給機21から第3の戻り油経路31を通ってクランクケース12内へ自由落下する。すなわち、過給機21の高さ位置は、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高く、さらにクランクシャフト14の軸線A1の高さよりも高い。また、第3の戻り油経路31の流入側端部31Aは過給機21の下部に接続され、第3の戻り油経路31の流出側端部31Bは、クランクケース12において、貯油部13に貯留された潤滑油OL1の油面S1よりも高くかつ過給機21よりも低い部分に接続されている。このような過給機21および第3の戻り油経路31の配置から、過給機21に供給された潤滑油OL1は、自由落下により過給機21から排出され、第3の戻り油経路31を通って、クランクケース12内へ流入する。続いて、過給機21からクランクケース12内へ流入した潤滑油OL1は、クランクケース12の底部に設けられた貯油部13へ自由落下する。
本発明の第2の実施形態の鞍乗型車両によっても、過給機21へ供給した潤滑油OL1を過給機21から自由落下により確実に排出させることができる。したがって、潤滑油OL1の過給機21への逆流、および過給機21内における潤滑油OL1の滞留を抑制することができる。
図3は本発明の第1の実施例による鞍乗型車両を示している。図4は当該鞍乗型車両におけるエンジンおよびその周辺の部品および装置を示している。図5は当該鞍乗型車両におけるエンジンおよびその周辺の部品および装置を図4中の矢示V−V方向から見た状態を示している。図6は当該鞍乗型車両におけるエンジンおよび戻り油タンクを図4中の矢示VI−VI方向から見た状態を示している。図7は過給機の内部を示している。なお、以下の第1の実施例および第2の実施例において、前、後、左、右、上および下の方向は、鞍乗型車両の運転シートに座した運転者を基準とする。
図3に示すように、本発明の第1の実施例による鞍乗型車両41は、例えば自動二輪車である。鞍乗型車両41は車体フレーム42を備え、車体フレーム42は、ヘッドパイプ43、メインフレーム44、ダウンチューブ45およびピボットフレーム46等を備えている。鞍乗型車両41の前部において、ヘッドパイプ43内にはステアリングシャフト(図示せず)が回転可能に軸支され、ステアリングシャフトにはブラケットを介してフロントフォーク47が支持され、フロントフォーク47には前輪48が回転可能に支持されている。また、ステアリングシャフトにはブラケットを介してハンドル49が支持されている。また、鞍乗型車両41の後部において、ピボットフレーム46にはスイングアーム50が上下方向に揺動可能に支持され、スイングアーム50には後輪51が回転可能に支持されている。また、鞍乗型車両41はエンジン55を備えている。エンジン55は、鞍乗型車両41の前後方向中間部において、メインフレーム44、ダウンチューブ45およびピボットフレーム46に囲まれた空間内に配置され、メインフレーム44、ダウンチューブ45およびピボットフレーム46等に設けられたエンジンマウントに支持されている。
図4に示すように、エンジン55は、例えば、水冷式であり、クランクシャフトが進行方向に直交するように配置された横置きのV型2気筒エンジンである。エンジン55は、クランクケース56と、クランクケース56の底部に設けられたオイルパン57と、クランクケース56上に設けられた一対のシリンダ58、61と、それぞれのシリンダ58、61上に設けられたシリンダヘッド59、62と、それぞれのシリンダヘッド59、62の上部を覆うシリンダヘッドカバー60、63とを備えている。一方のシリンダ58はエンジン55の前部に配置され、前傾している。他方のシリンダ61はエンジン55の後部に配置され、後傾している。なお、オイルパン57は貯油部の具体例である。
図5に示すように、クランクケース56内にはクランクシャフト65が設けられている。各シリンダ58、61内にはピストン66等が設けられている。また、各シリンダヘッド59、62内には、図示を省略しているが、吸気バルブ、排気バルブおよびカムシャフト等が設けられている。また、オイルパン57には潤滑油OL2が貯留されている。また、オイルパン57の底部には、例えば鞍乗型車両41の整備において潤滑油OL2の交換をする際にオイルパン57に貯留された潤滑油OL2を排出させるドレインボルト67が設けられている。また、クランクシャフト65の軸線A2は、オイルパン57に貯留された潤滑油OL2の油面S2よりも高い位置にある。
また、図4に示すように、クランクケース56の前方には、エンジン55を冷却する冷却水を、走行風等を利用して冷却するラジエータ69が設けられている。また、図3に示すように、エンジン55の下部上方には燃料タンク70が設けられ、燃料タンク70の上方には運転シート71が設けられている。さらに、エンジン55の後部下方であって、鞍乗型車両41の左側には、停止中の鞍乗型車両41を支えるサイドスタンド72が設けられている。
また、鞍乗型車両41の吸気系において、前側のシリンダ58の左方にはエアクリーナ(図示せず)が設けられている。また、図4に示すように、前側のシリンダ58の右方には過給機88が設けられている。エアクリーナと過給機88のコンプレッサ部95の吸気流入口97(図7参照)との間はインレット配管75により接続されている。インレット配管75は、前側のシリンダ58の前方であって、インタークーラ76とラジエータ69との間を左右方向に伸長している。また、前側のシリンダヘッド59の前方にはインタークーラ76が設けられている。また、過給機88のコンプレッサ部95の吸気流出口とインタークーラ76との間はコンプレッサアウト配管77により接続されている。また、エンジン55の上方にはサージタンク78が設けられている。また、インタークーラ76とサージタンク78との間はインタークーラアウト配管79により接続されている。さらに、インタークーラアウト配管79の途中にはスロットルボディ80が設けられ、スロットルボディ80内にはスロットルバルブ81が設けられている。また、サージタンク78は吸気管82を介して各シリンダ58、61の吸気ポートに接続されている。
エアクリーナは外部から空気を取り込み、取り込んだ空気を浄化する。エアクリーナにより浄化された空気は、エアクリーナから流出し、インレット配管75を通って過給機88のコンプレッサ部95へ流入する。過給機88のコンプレッサ部95は、エアクリーナにより浄化された空気を圧縮する。圧縮された空気は、コンプレッサ部95から流出し、コンプレッサアウト配管77を通ってインタークーラ76へ流入する。インタークーラ76は、コンプレッサ部95により圧縮されて温度が上昇した空気を、走行風を利用して冷却する。インタークーラ76により冷却された圧縮空気は、インタークーラ76から流出し、インタークーラアウト配管79を通ってサージタンク78へ流入する。サージタンク78へ流入する圧縮空気の量は、スロットルボディ80内に設けられたスロットルバルブ81により調整される。サージタンク78は、圧縮空気を一時的に貯え、圧縮空気を整流する。当該圧縮空気は、サージタンク78から吸気管82を通って各シリンダ58、61の吸気ポートへ流入する。
また、鞍乗型車両41の排気系において、一対のシリンダ58、61の排気ポートには一対の排気管83、84がそれぞれ接続されている。前側のシリンダ58の排気ポートに接続された排気管83は、前側のシリンダ58の右方を後方へ伸長している。また、後ろ側のシリンダ61の排気ポートに接続された排気管84は、後ろ側のシリンダ61の右方を前方へ伸長している。また、これら一対の排気管83、84の流出側端部は互いに結合して1本の管部となり、過給機88のタービン部89の排気流入口に接続されている。また、タービン部89の排気流出口92(図7参照)には、排気送出配管85の流入側端部が接続されている。排気送出配管85は、図3に示すように、一対のシリンダ58、61の右方を後方へ伸長し、排気送出配管85の流出側端部は、後輪51の上方に配置されたマフラ86に接続されている。
それぞれのシリンダ58、61の排気ポートから排出された排気は、排気管83、84を通って過給機88のタービン部89に流入する。この排気により過給機88のタービン部89が駆動され、これによりコンプレッサ部95が動作し、空気の圧縮が行われる。そして、過給機88から排出された排気は、排気送出配管85を通ってマフラ86から外部へ排出される。
また、図5に示すように、鞍乗型車両41は、オイルパン57に貯留された潤滑油OL2を、過給機88、クランクシャフト65、シリンダ58、61内およびカムシャフト等に供給する油供給機構111を備えている。油供給機構111は、オイルポンプ112および油供給経路113を備えている。オイルポンプ112は、オイルパン57に貯留された潤滑油OL2を汲み上げるポンプであり、クランクケース56内に配置されている。油供給経路113は、オイルポンプ112により汲み上げられた潤滑油OL2を過給機88、クランクシャフト65、シリンダ58、61内およびカムシャフト等に供給するための経路である。油供給経路113は、例えば、クランクケース56の壁部の内部、クランクシャフト65の内部、シリンダ58、61の壁部の内部、シリンダヘッド59、62の壁部の内部、およびカムシャフトの内部等に形成されている。さらに、油供給機構111は送油配管114を備えている。送油配管114は、オイルポンプ112により汲み上げられた潤滑油OL2を過給機88に供給するための配管であり、油供給経路113を構成する枝経路の一つである。送油配管114の流入側端部は、例えば前側のシリンダ58の左部に接続され、前側のシリンダ58の壁部の内部に形成された油供給経路113の本経路または他の枝経路に接続されている。また、送油配管114の流出側端部は、過給機88の潤滑油流入口105(図7参照)に接続されている。
オイルパン57に貯留された潤滑油OL2は、オイルポンプ112により汲み上げられ、送油配管114を含む油供給経路113を介して、過給機88、クランクシャフト65、シリンダ58、61内およびカムシャフト等に強制的に送られる。そして、過給機88、クランクシャフト65、シリンダ58、61内およびカムシャフト等に供給された潤滑油は、過給機88の軸受108、クランクシャフト65、ピストン66およびカムシャフト等を潤滑し、かつ冷却した後、自由落下してオイルパン57へ戻る。
また、鞍乗型車両41は、例えば図7に示すような構造を有する過給機88を備えている。図7において、過給機88は、エンジン55からの排気を利用して駆動され、燃料燃焼用の空気を圧縮する装置であり、タービン部89、コンプレッサ部95および軸受収容部101を備えている。タービン部89は、タービンハウジング90、およびタービンハウジング90内に配置されたタービンホイール94を備えている。コンプレッサ部95は、コンプレッサハウジング96、およびコンプレッサハウジング96内に配置されたコンプレッサホイール100を備えている。軸受収容部101は、軸受ハウジング102、および軸受ハウジング102内に配置された軸受108を備えている。また、過給機88は、タービンホイール94およびコンプレッサホイール100を連結する共通の回転シャフト109を備えており、回転シャフト109は、軸受108を介して軸受ハウジング102内に回転自在に支持されている。
コンプレッサハウジング96の中心部には吸気流入口97が形成されている。また、コンプレッサハウジング96の周部には、周方向に伸長する吸気流路98が形成されている。また、図示しないが、コンプレッサハウジング96の外周側の一部には吸気流出口が形成されている。また、吸気流入口97にはインレット配管75が接続され、吸気流出口にはコンプレッサアウト配管77が接続されている。エアクリーナからインレット配管75を通って供給された空気は、吸気流入口97から吸気流路98に流入し、コンプレッサホイールの回転に伴って吸気流路98内を流通し、圧縮される。このようにして圧縮された空気は、吸気流出口から排出され、コンプレッサアウト配管77を通ってインタークーラ76へ向かう。
また、タービンハウジング90の外周側の一部には、図示しないが、排気流入口が形成されている。また、タービンハウジング90の周部には、周方向に伸長する排気流路91が形成されている。また、タービンハウジング90の中心部には排気流出口92が形成されている。また、排気流入口には排気管83、84が結合した管部が接続され、排気流出口92には排気送出配管85が接続されている。シリンダ58、61の排気ポートから排出された排気は、排気流入口から排気流路91に流入する。この排気のエネルギーによりタービンホイール94が回転し、これに伴い、回転シャフト109が回転し、これに伴い、コンプレッサホイール100が回転する。そして、排気流路91を流通した排気は、排気流出口92から排出され、排気送出配管85を通ってマフラ86へ向かう。
また、軸受ハウジング102の中心部には、回転シャフト109および軸受108を収容する収容室103が形成されている。また、軸受ハウジング102の周部には潤滑油流路104が形成されている。そして、潤滑油流路104の流入側端部は、軸受ハウジング102の外周側の一部に形成された潤滑油流入口105と連通し、潤滑油流路104の流出側端部は収容室103と連通している。また、軸受ハウジング102の周部の一部には潤滑油収集部106が形成されている。そして、潤滑油収集部106の流入側は収容室103と連通し、潤滑油収集部106の流出側は、軸受ハウジング102の外周側の一部に形成された潤滑油流出口107と連通している。
過給機88は、図3に示すように、前側のシリンダ58の右方に配置されている。すなわち、過給機88は、サイドスタンド72が設けられている側の反対側に配置されている。また、過給機88は、図4に示すように、クランクシャフト65の軸線A2よりも高い位置に配置されている。また、過給機88は、コンプレッサ部95が前側となり、タービン部89が後ろ側となり、回転シャフト109が前後方向に伸長するように配置されている。また、過給機88は、図7に示すように、潤滑油流入口105が上向きに開口し、潤滑油流出口107が下向きに開口するように配置されている。また、潤滑油流入口105には送油配管114が接続され、潤滑油流出口107には第1の戻り油配管117が接続されている。
また、図4に示すように、鞍乗型車両41は、過給機88から排出された潤滑油OL2をオイルパン57へ戻す構成として、戻り油タンク116、第1の戻り油配管117および第2の戻り油配管118を備えている。
戻り油タンク116は、過給機88から排出された潤滑油OL2を一時的に貯留するタンクである。戻り油タンク116は例えば樹脂材料等により箱状に形成されている。戻り油タンク116は、鞍乗型車両41の右側、すなわち、過給機88が設けられた側に配置されている。また、戻り油タンク116は、過給機88と同様に、サイドスタンド72が設けられた側の反対側に配置されている。また、本実施例において、戻り油タンク116は、クランクケース56の前部の右方に配置され、過給機88のほぼ真下に位置している。また、図6に示すように、戻り油タンク116は、クランクケース56の右側に取り付けられたサイドカバー120(例えばクラッチカバー)の前部に形成された凹部120Aの内側に配置されている。
また、図5に示すように、戻り油タンク116は、その頂部116Aが、オイルパン57に貯留された潤滑油OL2の油面S2よりも高い位置となるように配置されている。本実施例において、戻り油タンク116の頂部116Aは過給機88に接近している。また、戻り油タンク116の底部116Bは、オイルパン57に貯留された潤滑油OL2の油面S2よりも低い位置にある。また、戻り油タンク116の容積は、過給機88から排出された潤滑油OL2が貯留された状態で、戻り油タンク116の上部に空間が常に形成されるように設定されている。また、戻り油タンク116の頂部116Aの中央部には、過給機88から排出された潤滑油OL2が流入するタンク入口が形成され、戻り油タンク116の底部の中央部には、戻り油タンク116に貯留された潤滑油OL2が流出するタンク出口が形成されている。
図5において、第1の戻り油配管117は、過給機88から排出された潤滑油OL2を戻り油タンク116へ運ぶ配管である。第1の戻り油配管117は例えばパイプまたはホースにより形成されている。第1の戻り油配管117の流入側端部117Aは、過給機の下部に形成された潤滑油流出口107に接続されている。また、第1の戻り油配管117の流出側端部117Bは、戻り油タンク116の頂部116Aに形成されたタンク入口に接続されている。第1の戻り油配管117は上下方向に直線状に伸長している。なお、第1の戻り油配管117は第1の戻り油経路の具体例である。
一方、第2の戻り油配管118は、戻り油タンク116に貯留された潤滑油OL2をオイルパン57へ戻す配管である。第2の戻り油配管118は例えばパイプまたはホースにより形成されている。第2の戻り油配管118の流入側端部118Aは、戻り油タンク116の底部に形成されたタンク出口に接続されている。また、第2の戻り油配管118の流出側端部118Bは、オイルパン57の底部に設けられたドレインボルト67に接続されている。なお、第2の戻り油配管118は第2の戻り油経路の具体例である。
過給機88の軸受108等を潤滑および冷却した後の潤滑油OL2は、過給機88の潤滑油流出口107から排出され、第1の戻り油配管117を通り、戻り油タンク116に流入し、戻り油タンク116内へ貯留される。過給機88に供給されてから、戻り油タンク116に貯留されるまでの間の潤滑油OL2の移動は自由落下である。
また、戻り油タンク116とオイルパン57とは第2の戻り油配管118を介してつながっているので、戻り油タンク116に貯留された潤滑油OL2の油面の高さ位置と、オイルパン57に貯留された潤滑油OL2の油面S2の高さ位置とは互いに等しくなる。そして、戻り油タンク116に貯留された潤滑油OL2が増加したとき、またはオイルパン57に貯留された潤滑油OL2が減少したとき、戻り油タンク116に貯留された潤滑油OL2は、第2の戻り油配管118を通ってオイルパン57内へ移動する。
以上のように、本発明の第1の実施例の鞍乗型車両41によれば、過給機88をオイルパン57に貯留された潤滑油OL2の油面S2よりも高い位置に配置し、過給機88に供給された潤滑油OL2を、第1の戻り油配管117、戻り油タンク116および第2の戻り油配管118を介してオイルパン57へ戻す構成としたから、上述した本発明の第1の実施形態の鞍乗型車両41と同様に、過給機88へ供給した潤滑油OL2を過給機88から自由落下により確実に排出させることができる。また、過給機88へ供給された潤滑油OL2を過給機88からオイルパン57へ強制的に戻す構成が不要となるので、例えば、オイルポンプ112の大型化を防止することができ、かつスカベンジングポンプ等の他のポンプの追加を不要とすることができる。したがって、鞍乗型車両41を軽量化および低コスト化を図ることができる。また、過給機88から排出された潤滑油OL2を、戻り油タンク116の上部に形成された空間に落下させる構成としたから、鞍乗型車両41の急加減速時、または、ジャックナイフやウイリーにより鞍乗型車両41が前または後ろに大きく傾いたときに、オイルパン57または戻り油タンク116に貯留された潤滑油OL2が過給機88へ逆流することを抑制することができる。また、鞍乗型車両41が急加減速し、または鞍乗型車両41が前または後ろに大きく傾いても、戻り油タンク116の上部に形成された空間は保持されるので、過給機88から排出された潤滑油OL2を常に当該空間に落下させることができる。したがって、鞍乗型車両41が急加減速し、または鞍乗型車両41が前または後ろに大きく傾くことにより、過給機88内に潤滑油OL2が滞留することを防止することができる。
さらに、本発明の第1の実施例の鞍乗型車両41では、第2の戻り油配管118の流出側端部118Bが、オイルパン57の底部に設けられたドレインボルト67に接続されている。これにより、第2の戻り油配管118とオイルパン57との接続を、ドレインボルト67の構造を変更するだけで実現することができる。したがって、過給機88から排出された潤滑油OL2をオイルパン57へ戻す構成を容易かつ安価に実現することができる。例えば、他の種類の鞍乗型車両と、本発明の第2の実施例による鞍乗型車両との間でクランクケースの共通化を図ることができ、製造コストを下げることができる。
なお、第2の戻り油配管118の流出側端部118Bをオイルパン57の一部に接続してもよい。この場合でも、クランクケースの構造を変更することなく、過給機88から排出された潤滑油OL2をオイルパン57へ戻す構成を実現することができる。したがって、他の種類の鞍乗型車両との間でクランクケースの共通化を図ることができる。
また、図6に示すように、戻り油タンク116がクランクケース56のサイドカバー120に形成された凹部120Aの内側に配置されているので、戻り油タンク116が鞍乗型車両41の右方へ出っ張ることを抑制することができる。したがって、鞍乗型車両41の幅を小さくすることができる。
また、過給機88および戻り油タンク116が、鞍乗型車両41において、サイドスタンド72が設けられている側の反対側に配置されているので、サイドスタンド72を立てて鞍乗型車両41を停止させている間に、潤滑油OL2が過給機88から排出され難くなることを防止することができる。すなわち、サイドスタンド72を立てて鞍乗型車両41を停止させている間、鞍乗型車両41は左側に傾くので、鞍乗型車両41の右側に配置された戻り油タンク116に貯留された潤滑油OL2の油面が下がる。この結果、戻り油タンク116内の上部の空間が確実に保持される。それゆえ、潤滑油OL2を過給機88から戻り油タンク116の当該空間に確実に落下させることができる。
また、図4に示すように、戻り油タンク116は過給機88のほぼ真下に位置しているので、第1の戻り油配管117を直線状に伸長させることができ、かつ短くすることができる。したがって、潤滑油OL2を過給機88から戻り油タンク116へ円滑に流入させることができる。
図8は、本発明の第2の実施例による鞍乗型車両におけるエンジンおよびその周辺の部品および装置を示している。なお、図8において、図4等に示す本発明の第1の実施例と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
本発明の第2の実施例による鞍乗型車両は、本発明の第1の実施例による鞍乗型車両41と比較して、過給機88から排出された潤滑油OL2をオイルパン57へ戻す構成が異なる。すなわち、図8に示すように、本発明の第2の実施例による鞍乗型車両は、過給機88から排出された潤滑油OL2をクランクケース56内へ流入させる戻り油配管123を備えている。戻り油配管123は第3の戻り油経路の具体例である。戻り油配管123の流入側端部123Aは、過給機88の下部に形成された潤滑油流出口107(図7参照)に接続されている。また、戻り油配管123の流出側端部123Bは、クランクケース56において、オイルパン57に貯留された潤滑油OL2の油面S2よりも高くかつ過給機88よりも低い部分に接続されている。
また、戻り油配管123の流出側端部123Bは、クランクケース56の右部に取り付けられたサイドカバー124(例えばクラッチカバー)に接続されている。具体的には、サイドカバー124には、クランクケース56の内部と連通した孔125が形成され、戻り油配管123の流出側端部は孔125に接続されている。
さらに、戻り油配管123の流出側端部123Bは、クランクケース56内に設けられたクラッチ機構126の上方に位置している。すなわち、戻り油配管123は、過給機88の下部から後方へ伸長し、戻り油配管123の流出側端部123Bは、クラッチ機構126の上方の部分に配置された孔125に接続されている。過給機88から排出された潤滑油OL2は、自由落下により、戻り油配管123内を移動し、クラッチ機構126の上方へ到達した後、クラッチ機構126へ自由落下する。
このような構成を有する本発明の第2の実施例による鞍乗型車両は、本発明の第2の実施形態による鞍乗型車両とほぼ同様の作用効果を奏する。これに加え、本発明の第2の実施例による鞍乗型車両によれば、過給機88から排出された潤滑油OL2をクラッチ機構126へ落下させる構成としたから、過給機88から排出された潤滑油OL2をクラッチ機構126へ供給し、クラッチ機構126を潤滑することができる。
また、戻り油配管123の流出側端部123Bを、クランクケース56のサイドカバー124に接続する構成としたことにより、戻り油配管123を介して潤滑油OL2をクランクケース56内に流入させる構成を、クランクケース56自体の構造を変更することなく実現することができる。これにより、例えば、他の種類の鞍乗型車両と、本発明の第2の実施例による鞍乗型車両との間でクランクケースの共通化を図ることができ、製造コストを下げることができる。
なお、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う鞍乗型車両もまた本発明の技術思想に含まれる。