本発明の最大の特徴は、液材及び粉材を練和して硬化させる粉液型歯科用硬化性材料において、ラジカル重合性単量体(b)を含有する液材に一般式(1)で示されるラジカル重合性単量体(a)を配合した点である。
ここで、一般式(1)中、Xは2価の基を表し、Ar1およびAr2は、各々、2価〜4価から選択されるいずれかの価数を持つ芳香族基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、L1およびL2は、各々、主鎖の原子数が2〜60の範囲内であり、かつ、2価〜4価から選択されるいずれかの価数を持つ炭化水素基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、R1およびR2は、各々、水素またはメチル基を表す。また、m1、m2、n1およびn2は、各々、1〜3の範囲から選択される整数である。
なお、一般式(1)に示されるラジカル重合性単量体(a)は、2種類以上の異性体を含む異性体混合物であってもよい。
本実施形態の一般式(1)に示されるラジカル重合性単量体(a)は、硬化物の機械的強度に優れると共に、室温環境下においても低粘度であるため取扱い性に優れる。このような効果が得られる理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推定している。まず、硬化物の機械的強度に優れる理由は、分子の中心部分に、剛直性の高い芳香族基を含む構造(Ar1−X−Ar2)を有するためであると考えられる。
また、室温環境下においても低粘度を示す理由としては、まず、分子中心部の構造として、ビフェニル構造などのように、芳香族基Ar1と芳香族基Ar2とがσ結合を介して直接結合した構造(Ar1−Ar2)ではなく、芳香族基Ar1と芳香族基Ar2とを2価の基Xを介して結合させた構造(Ar1−X−Ar2)を採用したことが挙げられる。構造(Ar1−Ar2)は分子構造の対称性が高いため結晶化し易いものの、このような構造に2価の基Xをさらに導入した構造(Ar1−X−Ar2)では、分子構造の柔軟性が増大して対称性が低下するため、結果的に結晶性を低下させて低粘度化するものと考えられる。これに加えて、本実施形態の重合性単量体(a)では、芳香族基Ar1、Ar2に接続されたエステル結合が粘度の低下に大幅に寄与しているものと考えられる。
これにより、得られる粉液型歯科用硬化性材料は、以下詳述するように、粉液混和初期のペーストの緩やかな粘度上昇を確保し、高い適合精度及び機械的強度の両立が可能になる。
次に、一般式(1)で示されるラジカル重合性単量体(a)について、より詳細に説明する。まず、一般式(1)中、Ar1およびAr2は、各々、2価〜4価から選択されるいずれかの価数を持つ芳香族基を表し、各々同一であっても異なっていてもよい。
芳香族基Ar1、Ar2の具体例としては、下記構造式Ar−a1〜Ar−a3に示す2価〜4価のベンゼン、下記構造式Ar−a4〜Ar−a6に示す2価〜4価のナフタレン、あるいは、下記構造式Ar−a7〜Ar−a9に示す2価〜4価のアントセランが挙げられる。なお、これら構造式中、結合手は、芳香族基Ar1、Ar2を構成するベンゼン環の任意の炭素(但し、ベンゼン環とベンゼン環との縮合部を形成する炭素を除く)に設けることができる。たとえば、構造式Ar−a1(2価のベンゼン)であれば、2本の結合手は、オルト位、メタ位、あるいは、パラ位のいずれかに設けることができる。
なお、芳香族基Ar1の価数は、m1の数に応じて決定され、m1+1で表される。同様に、芳香族基Ar2の価数は、m2の数に応じて決定され、m2+1で表される。
また、芳香族基Ar1、Ar2は、各々、置換基を有していてもよく、この場合、芳香族基Ar1、Ar2を構成するベンゼン環の水素を他の置換基に置き換えることができる。芳香族基Ar1、Ar2の置換基としてはその末端に一般式(1)の左辺に示される反応性基(すなわち、アクリル基またはメタクリル基)を含まないものであれば特に限定されず、置換基を構成する原子の総数(原子数)が1〜60の範囲内のものを適宜選択できる。具体的には、炭素数1〜20の1価の炭化水素基や、−COOR3、−OR3、ハロゲン基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基などを挙げることができる。なお、R3は、炭素数1〜20の1価の炭化水素基と同様である。また、炭素数1〜20の1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基等の直鎖状または分岐状の炭化水素基、シクロヘキシル基等の脂環炭化水素基、フェニル基、1価のフランなどの複素環基などを挙げることができる。
Xは2価の基を表し、具体的には、下記構造式X−1〜X−13に例示されるような芳香族基Ar1と芳香族基Ar2とを架橋する主鎖の原子数が1〜3の2価の基である。
なお、2価の基Xの主鎖の原子数は1または2がより好ましく、1が最も好ましい。また、2価の基Xは、芳香族基Ar1(あるいはAr2)とこれに接続されたエステル結合とからなるベンゾエート構造(電子吸引基)に対して電子を供与できる電子供与性基であることが好ましい。このような電子供与性の2価の基Xとしては、−O−、−CH2−、−CH(R5)−あるいは−S−が挙げられ、これらの中でも−O−あるいは−CH2−がより好ましく、−O−が特に好ましい。ここで、R5は、炭素数1〜6のアルキル基である。電子供与性の2価の基Xでは、下記共鳴構造式に例示するような共鳴構造を取り得るため、分子中央部の極性が比較的高くなる。このため、極性の高い親水性材料との親和性をより向上させることができ、結果的に、親水性材料との相溶性を向上させたり、親水性の表面に対する親和性・接着性を向上させることが容易になる。なお、下記共鳴構造式は、2価の基Xが−O−であり、芳香族基Ar1、Ar2がフェニレン基(但し、2本の結合手はパラ位に設けられる)である場合における本実施形態の重合性単量体の分子中央部について示したものである。
L1およびL2は、各々、主鎖の原子数が2〜60の範囲内であり、かつ、2価〜4価から選択されるいずれかの価数を持つ炭化水素基を表し、各々同一であっても異なっていてもよい。なお、主鎖の原子数は2〜12の範囲内が好ましく、2〜10の範囲内がより好ましく、2〜6の範囲内がさらに好ましく、2〜3の範囲内が特に好ましい。特に主鎖の原子数を2〜3の範囲内とした場合には、硬化物の曲げ強度をより高めることが容易になる。
なお、主鎖を構成する原子は、基本的には炭素原子から構成され、全ての原子が炭素原子であってもよいが、主鎖を構成する炭素原子の一部をヘテロ原子に置き換えることもできる。このヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子を挙げることができる。なお、主鎖がヘテロ原子として酸素原子を含む場合、主鎖中には、エーテル結合またはエステル結合を導入することができる。主鎖に導入できるヘテロ原子の数は、主鎖の原子数の約半分以下とすることが好ましく、主鎖の原子数が2の場合、主鎖に導入できるヘテロ原子の数は1つである。
また、主鎖を構成する原子のうち、少なくともいずれか1つの原子(通常は炭素原子)には、置換基が結合していてもよい。このような置換基としては、メチル基等の炭素数1〜3のアルキル基、水酸基、水酸基を有する1価の炭化水素基、ハロゲン、−COOR4、−OR4などを挙げることができる。なお、R4は、炭素数1〜3のアルキル基と同様である。また、水酸基を有する1価の炭化水素基は、その炭素数が1〜3の範囲が好ましく、1〜2の範囲がより好ましい。水酸基を有する1価の炭化水素基の具体例としては、−CH2OH、−CH2CH2OH、−CH(CH3)OHなどが挙げられる。
なお、親水性材料との相溶性を向上させたり、親水性の表面に対する親和性を向上させたい場合には、L1およびL2の少なくともいずれかが水酸基を含む、言い換えれば、L1およびL2の少なくともいずれかにおいて、その置換基は水酸基および/または水酸基を有する1価の炭化水素基であることが好ましい。なお、L1およびL2の各々に含まれる水酸基の数は、少なくとも1つ以上であればよいが、通常は、1つであることが好ましい。また、水酸基は、L1およびL2の各々に1つ含まれることがより好ましく、この場合において、m1、m2=1であれば分子内には2つの水酸基が含まれることになる。
なお、一般的に、分子内に複数の水酸基を有する化合物は、分子間水素結合を形成し、結果として粘度が上昇し易い。それゆえ、本実施形態のラジカル重合性単量体(a)が分子内に水酸基を有する場合も、粘度が上昇し易い傾向がある。しかし、芳香族基Ar1、Ar2に直接結合するエステル結合の近傍に水酸基が存在する場合は、比較的粘度の上昇が抑えられるため、より好ましい。ここで、“エステル結合の近傍に水酸基が存在する場合”とは、具体的には、L1およびL2のいずれかまたは双方が水酸基を有する場合において、水酸基を有するL1またはL2の主鎖の原子数が2〜10の範囲を意味し、主鎖の原子数は特に好ましくは2〜3の範囲である。なお、上述した効果が得られる理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推測している。
芳香族基Ar1、Ar2に直接結合するエステル結合の近傍に水酸基が存在する場合、下記にされる構造式に示すように2価の基L1、L2に存在する水酸基の水素が芳香族基Ar1、Ar2に直接結合するエステル結合のカルボニル基の酸素との間に分子内水素結合を形成し易いと予想される。なお、下記に例示される構造式は、一般式(1)中において、Ar1、Ar2=フェニレン基、X=−O−、L1、L2=−CH2CH(OH)CH2−、R1、R2=メチル基、m1、m2、n1およびn2=1とした例である。
すなわち、分子内水素結合が形成された場合、分子間水素結合の形成が抑制されることになる。このため、本実施形態のラジカル重合性単量体において、分子内に水酸基が含まれない場合を基準とすると、分子内に水酸基を含む場合には、粘度は増大するものの、従来の分子内に水酸基を有するラジカル重合性単量体(Bis−GMAなど)と同程度の粘度まで、粘度が著しく増大することは抑制される。
これに加えて、分子間水素結合が形成されない状態を基準とした場合と比べて、分子内水素結合が形成された場合では、芳香族基Ar1、Ar2を構成するベンゼン環とこれに直接結合するエステル結合とからなるベンゾエート構造に歪みが生じて、分子中心部分の分子構造の対称性が低下する。それゆえ、分子の結晶性が低下して、粘度の著しい増大がさらに抑制されると考えられる。なお、分子内水素結合の形成は、分子間の結合を弱めるため、硬化物の機械的強度の低下を招くおそれもある。しかし、本実施形態のラジカル重合性単量体が、芳香族基Ar1、Ar2に直接結合するエステル結合の近傍に水酸基を有する場合、水酸基は、より正確には、分子間水素結合よりも分子内水素結合に寄与する度合いが相対的により高くなっていると考えられ、分子間の緩やかな水素結合ネットワークの形成にも寄与していると考えられる。さらに、L1およびL2の双方が水酸基を有する場合などのように、分子内に複数の水酸基が含まれる場合には、分子間で密度の高い水素結合ネットワークを形成し易くなる。この場合、分子内に水酸基を有さない本実施形態のラジカル重合性単量体と比べて、硬化物の機械的強度をより高くできると考えられる。
L1、L2の具体例としては、n1、n2=1の場合(L1、L2が2価の炭化水素基の場合)において、下記構造式L−b1〜L−b14を挙げることができる。なお、これらの構造式中に示す2つの結合手のうち、*の付された結合手は、分子中心部のベンゾエート構造を構成するエステル結合の酸素原子に結合する結合手を意味する。ここで、下記構造式L−b1〜L−b14中、aは1〜11の範囲から選択される整数を表し、bは1〜19の範囲から選択される整数を表し、cは0〜11の範囲から選択される整数を表し、dは0〜5の範囲から選択される整数を表し、eは2〜5の範囲から選択される整数を表し、fは1〜6の範囲から選択される整数を表す。なお、a〜fの値は、構造式L−b1〜L−b14において、主鎖の原子数が12以下となる範囲で選択されることが好ましい。
一方、n1、n2=2の場合(L1、L2が3価の炭化水素基の場合)は、構造式L−b1〜L−b14において、主鎖を構成する炭素原子のうち、*の付された結合手を持つ炭素原子から最も離れた位置の炭素原子が2本の結合手を有する。また、n1、n2=3の場合(L1、L2が4価の炭化水素基の場合)は、構造式L−b1〜L−b2、L−b6〜L−b8、L−b10〜L−b14において、主鎖を構成する炭素原子のうち、*の付された結合手を持つ炭素原子から最も離れた位置の炭素原子が3本の結合手を有する。
なお、一般式(1)で示されるラジカル重合性単量体は、下記一般式(2)で示されるラジカル重合性単量体であることが特に好ましい。なお、一般式(2)は、一般式(1)において、m1、m2、n1、n2=1、Ar1、Ar2=−C6H4−(構造式Ar−a1)とした場合の構造を示すものである。
また、本実施形態のラジカル重合性単量体(a)は、下記一般式(3)に示されるラジカル重合性単量体であることが好ましい。ここで、一般式(3)中、Xは、一般式(1)に示すものと同様であり、Ar1およびAr2は、価数が2価のみを取りえることを除いて一般式(1)中に示すものと同様であり、L3およびL4は、各々、主鎖の原子数が1〜8の範囲内の2価の炭化水素基を表し、各々同一であっても異なっていてもよく、R3およびR4は、各々、水素またはメチル基を表す。また、jは0、1または2であり、kは0、1または2であり、j+k=2である。なお、一般式(3)は、一般式(1)において、m1、m2、n1、n2=1、L1=−L3−CH(OH)CH2−または−CH(CH2OH)−L4−、L2=−L3−CH(OH)CH2−または−CH(CH2OH)−L4−、R1はR3またはR4に対応し、R2はR3またはR4に対応する、とした場合の構造(2官能型構造)を示すものである。また、一般式(3)中、左右両側の括弧内に示す基は、中央に示す基;−Ar1−X−Ar2−の2つの結合手のいずれに対しても結合可能である。すなわち、jおよびkの値に応じて、一般式(3)中の左側の括弧内に示す基が、中央に示す基の両側に結合する場合もあれば、一般式(3)中の右側の括弧内に示す基が、中央に示す基の両側に結合する場合もある。
なお、L3およびL4において、主鎖を構成する原子は、基本的には炭素原子から構成され、全ての原子が炭素原子であってもよいが、主鎖を構成する炭素原子の一部をヘテロ原子に置き換えることもできる。このヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子を挙げることができる。なお、主鎖がヘテロ原子として酸素原子を含む場合、主鎖中には、エーテル結合またはエステル結合を導入することができる。主鎖に導入できるヘテロ原子の数は1つまたは2つが好ましい。但し、主鎖の原子数が2の場合、主鎖に導入できるヘテロ原子の数は1つである。
また、L3およびL4において主鎖の原子数は、1〜8であればよいが、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましく、1が最も好ましい。L3およびL4の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基などのような主鎖の炭素数1〜8のアルキレン基や、当該アルキレン基の主鎖の一部または全部をエーテル結合あるいはエステル結合(但し、アルキレン基の主鎖の原子数が2以上の場合に限る)に置換した基などが挙げられる。
一般式(3)に示す値j、kの組み合わせ(j、k)としては、(2、0)、(1、1)および(0、2)が挙げられるが、これらの中でもラジカル重合性単量体分子の分解の抑制が期待できる観点から(1、1)および(0、2)がより好ましい。
また、本実施形態のラジカル重合性単量体(a)は、一般式(3)に示す値j、kの組み合わせ(j、k)が、(2、0)、(1、1)および(0、2)からなる群より選択されるいずれか2種類以上の構造異性体を含むものであることが好ましい。ラジカル重合性単量体(a)が、一般式(3)に示す(j,k)の組み合わせについて、2種類以上の構造異性体を含むものである場合、硬化物の機械的強度と、保存安定性とをバランスよく向上させることが容易となる。この場合、全てのラジカル重合性単量体分子における値kの平均値が0.05以上2.0未満の範囲(言い換えれば値jの平均値が0を超え1.95以下の範囲)であることが好ましい。さらに、値kの平均値の下限は0.1以上であることが好ましく、値kの平均値の上限は、1.7以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましく、0.4以下であることが特に好ましい。なお、硬化物の機械的強度と、保存安定性とをバランスよく向上させるためには、値k=2(構造異性体を含まない状態)も、値kの平均値が0.05以上2.0未満の範囲とした場合と同様に好適である。但し、値k=2(構造異性体を含まない状態)よりも、2種類以上の構造異性体を含む状態の方が、一定の保存期間を経ない初期状態での機械的強度をより高くすることができる。この点では、値kの平均値が0.05未満とならない範囲で、値kの平均値は小さい方がより有利である。
本実施形態のラジカル重合性単量体(a)は、公知の出発原料および公知の合成反応法を適宜組み合わせて合成することができ、その製造方法は特に限定されるものではない。たとえば、一般式(3)に示すラジカル重合性単量体(a)を製造する場合、下記一般式(4)に示す化合物と、下記一般式(5)に示す化合物とを反応させる反応工程を少なくとも含む製造方法を利用してもよい。この場合、下記一般式(6)〜(8)に示す化合物からなる群より選択される2種類以上の構造異性体を含むラジカル重合性単量体を製造することができる。
ここで、一般式(4)〜(8)中、X、Ar1およびAr2、は一般式(3)中に示すものと同様であり、L5は主鎖の原子数が1〜7の2価の炭化水素基を表す。また、pは0または1である。ここで、値kの平均値、言い換えれば、一般式(6)〜(8)に示される構造異性体の存在比率は、合成条件を適宜選択することにより容易に調整することができる。また、必要に応じて合成後に精製処理を行うことで、値kの平均値(一般式(6)〜(8)に示される構造異性体の存在比率)を所望の値により近づくように調整してもよい。
一般式(4)〜(8)に示すL5において、主鎖を構成する原子は、基本的には炭素原子から構成され、全ての原子が炭素原子であってもよいが、主鎖を構成する炭素原子の一部をヘテロ原子に置き換えることもできる。このヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子を挙げることができる。なお、主鎖がヘテロ原子として酸素原子を含む場合、主鎖中には、エーテル結合またはエステル結合を導入することができる。主鎖に導入できるヘテロ原子の数は1つまたは2つが好ましい。但し、主鎖の原子数が2の場合、主鎖に導入できるヘテロ原子の数は1つである。
また、L5において主鎖の原子数は、1〜7であればよいが、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。L3およびL4の具体例としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基などのような主鎖の炭素数1〜7のアルキレン基や、当該アルキレン基の主鎖の一部または全部をエーテル結合あるいはエステル結合(但し、アルキレン基の主鎖の原子数が2以上の場合に限る)に置換した基などが挙げられる。
一般式(6)において、各々のL5は同一であってもよく、異なっていてもよい。これは、一般式(7)および(8)においても同様である。なお、各々のL5を互いに異なるものとする場合には、合成に用いる一般式(5)に示す化合物として、L5が互いに異なる2種類以上の化合物を用いることができる。また、pは0であることが好ましい。
なお、必要であれば、上述した製造方法により2種類以上の構造異性体を含むラジカル重合性単量体を得た後、構造異性体を実質的に含まないラジカル重合性単量体(たとえば、一般式(6)に示すラジカル重合性単量体)のみを単離精製してもよい。しかしながら、単離精製して得られるラジカル重合性単量体は、単離精製処理前の2種類以上の構造異性体を含むラジカル重合性単量体と比べると、硬化物の機械的強度と、保存安定性との両立という点で劣る傾向にある。これに加えて、ラジカル重合性単量体の製造に際して、さらに単離精製処理が必要となるため、コスト面でも不利になり易い。よって、これらの観点からは、単離精製処理は省略することが好ましい。
上記ラジカル重合性単量体(a)の配合量は、i)液材100質量部に対して3〜30質量部であることが好ましく、5〜25質量部であることが特に好ましい。3質量部未満である場合、機械的強度向上の効果が得られない。30質量部を超える場合、粉液混和時の粘度上昇が早くなり高い適合精度を得ることが出来ない。
本発明の粉液型歯科用硬化性材料におけるi)液材のラジカル重合性単量体(b)としてはラジカル重合性単量体(a)以外のラジカル重合性基を有する公知のものが特に限定されずに使用できる。ビニル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有するものであっても良いが、重合性の良さなどから、(メタ)アクリレート系単量体が好適に用いられる。こうしたラジカル重合性単量体は、1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
i)液材のラジカル重合性単量体(b)の具体的な例を示せば、単官能のものであれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシブチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
二官能のものとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウンデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ドデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘプタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エイコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘネイコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ドコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ステアリルジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン等が挙げられる。三官能としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。四官能としてはペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらi)液材のラジカル重合性単量体(b)の配合量は、i)液材100質量部に対して50質量部以上であることが好ましく、粘度上昇の観点から70質量部以上であることが特に好ましい。
本発明の粉液型歯科用硬化性材料は、粉液型歯科用常温重合レジンとして使用可能である。
本発明における粉液型歯科用常温重合レジンは、液材のラジカル重合性単量体(b)が、低分子量アルキル(メタ)アクリレートであり、分子量が150未満であることが好ましい。前記低分子量アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート等が好適に使用でき、メチル(メタ)アクリレートを使用することが特に好ましい。
本発明の粉液型歯科用硬化性材料は、粉液型義歯床用裏装材として使用可能である。
本発明における粉液型義歯床用裏装材は、液材のラジカル重合性単量体(b)が、高分子量アルキル(メタ)アクリレートであり、分子量が150以上、より好適には180以上であることが好ましい。前記高分子量アルキル(メタ)アクリレートとしては、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシブチルメタクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウンデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ドデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘプタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エイコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘネイコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ドコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサコサエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ステアリルジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
<ii)粉材>
本発明の粉液型歯科用硬化性材料においてii)粉材は、上記i)液材の全ラジカル重合性単量体に膨潤または可溶性の非架橋有機樹脂粒子を主成分とする。液材と粉材を混合した際に、斯様な非架橋有機樹脂粒子の少なくとも一部が、液材に溶解し、且つ溶解残滓の粒子は膨潤することにより混合物は増粘し、上記ラジカル重合性単量体の重合性が促進される。併せて、この成分の溶解残滓の粒子は、歯科用硬化性材料の硬化体の靭性を高める作用も有する。
ここで、ラジカル重合性単量体に溶解性を有する非架橋有機樹脂粒子とは、23℃のラジカル重合性単量体100重量部に当該非架橋有機樹脂粒子200質量部を混合して攪拌した際に、上記ラジカル重合性単量体に該非架橋有機樹脂を10質量部以上溶解させることができるものを言う。
このようなi)液材のラジカル重合性単量体に可溶性の非架橋有機樹脂粒子としては、係る性状を有する公知の合成樹脂または天然樹脂を何ら制限なく使用できる。屈折率が歯科用フィラーとして有用な1.4〜1.7の範囲にあるものが好適に使用できる。粒子を構成する非架橋有機樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体等のポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリスチレン類等を例示できる。このうち、硬化体が高靭性である観点から、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体等の、低級(アルキル鎖の炭素数が4以下)アルキル(メタ)アクリレート系単量体の重合体であるポリ低級アルキル(メタ)アクリレートが特に好ましく、これらは単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。なお、低級アルキル(メタ)アクリレートとは、アルキル鎖の炭素数が4以下のアルキル(メタ)アクリレートを意味する。
これら非架橋有機樹脂の平均粒径は、特に制限されないが、ラジカル重合性単量体へのなじみの良さを考慮すると200μm以下であることが好ましく、1〜100μmであるのが特に好ましい。尚、非架橋有機樹脂の形状は特に限定されず、球状、異形状若しくは不定形でもよい。
また、好適な非架橋有機樹脂の重量平均分子量は得られる硬化体の機械的強度やラジカル重合性単量体成分への溶解性や膨潤性等を勘案すると、3〜200万の範囲であることが好ましく、5〜100万の範囲であることがより好ましい。
本発明においてi)液材とii)粉材の練和時における、上記非架橋有機樹脂粒子の使用量は、ラジカル重合性単量体の重合性の促進効果や得られる硬化体の靭性の良好さを勘案すると、i)液材100質量部に対して、好適には50〜350質量部であり、より好適には80〜300質量部、最も好ましくは100〜250質量部である。(ii)粉材をi)液材と混合した際に、非架橋有機樹脂粒子が上記使用量になるように、該両部材の混合比を勘案しつつ、ii)粉材中の上記非架橋有機樹脂粒子の配合量を調整すれば良い。
本発明の粉液型歯科用硬化性材料には、前記i)液材およびii)粉材の少なくとも一方には、通常、硬化反応を進ませる為に必要なラジカル重合開始剤が配合される。i)液材およびii)粉材のいずれに分包するかは、保存安定性を考慮し決定すればよい。複数成分が組み合わされて重合開始能が発揮される形態のラジカル重合開始剤を使用する場合は、保存安定性等を考慮し、各成分をi)液材とii)粉材とに分けて含有させることもできる。また、該ラジカル重合開始剤は、i)液材及びii)粉材とは別に分包することもできる。
本発明の粉液型歯科用硬化性材料において、ラジカル重合開始剤としては、従来公知の重合開始剤であれば特に限定されず、粉液型歯科用硬化性材料において使用されている公知の熱重合開始剤、常温重合開始剤及び光重合開始剤が特に制限されず使用できる。しかしながら、本発明の粉液型歯科用硬化性材料を口腔内で重合硬化させて使用する場合には、加熱することが困難であるため、ラジカル重合開始剤としては常温重合開始剤及び/又は光重合開始剤を使用するのが好適である。
以下、各ラジカル重合開始剤について説明する。
ラジカル重合開始剤が熱重合開始剤である場合について説明する。熱重合開始剤としては、加熱によってラジカルを発生するものであれば何ら制限なく使用され、有機過酸化物、アゾ化合物等が好適に用いられる。有機過酸化物、アゾ化合物としては公知のものが何ら制限なく使用される。好適に使用できる有機過酸化物を具体的に例示するとベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。また、好適に使用できるアゾ化合物を具体的に例示すると2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
本発明で使用可能な常温重合開始剤としては、有機過酸化物/アミン化合物、又は有機過酸化物/アミン化合物/スルフィン酸塩からなるレドックス型の重合開始剤;酸と反応して重合を開始する有機金属型の重合開始剤;及びピリミジントリオン誘導体/有機金属化合物/ハロゲン化合物からなる重合開始剤等が好適に使用される。このような重合開始剤の具体例としては、例えば特開2002−161013号公報や、特願2012−52581号公報、に例示されているものを使用できる。
例えば上記レドックス型の常温重合開始剤である有機過酸化物/アミン化合物において、有機過酸化物としては前記で説明した化合物が用いられる。また、アミン化合物としては、アミンがアリール基に結合した第二級又は第三級アミンなどが硬化の加速性の点で好ましく用いられる。例えば、N,N'−ジメチルアニリン、N,N'−ジメチル−p−トルイジン、N,N'−ジエチル−p−トルイジン、N−メチル−N'−β−ヒドロキシエチルアニリン、p−トリルジエタノールアミン等が好ましい例として挙げることができる。これらのアミンは、塩酸、酢酸、リン酸、有機酸などと塩を形成していてもよい。
これらの組み合わせのうち好適なものを具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド/N,N'−ジメチル−p−トルイジン、ベンゾイルパーオキサイド/N,N'−ジエチル−p−トルイジン、ベンゾイルパーオキサイド/p−トリルジエタノールアミンの組み合わせ等が挙げられる。
上記常温重合開始剤を用いて硬化させる方法は特に限定されないが、一般にはベンゾイルパーオキサイドを配合したユニットとアミンを配合したユニットを使用時に適切な比率で混和して、常温で重合して使用するのが好適である。
また、有機金属型の常温重合開始剤がピリミジントリオン誘導体/有機金属化合物/ハロゲン化合物である場合、該組み合わせに用いる各化合物については公知の化合物が特に制限されず用いられる。ピリミジントリオン誘導体の具体例としては、5−メチルピリミジントリオン、5−エチルピリミジントリオン、5−プロピルピリミジントリオン、5−ブチルピリミジントリオン、5−イソブチルピリミジントリオン、1,5−ジメチルピリミジントリオン、1,5−ジエチルピリミジントリオン、1−メチル−5−エチルピリミジントリオン、1−エチル−5−メチルピリミジントリオン、1−メチル−5−ブチルピリミジントリオン、1−エチル−5−ブチルピリミジントリオン、1−メチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1−エチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1−メチル−5−シクロヘキシルピリミジントリオン、1−エチル−5−シクロヘキシルピリミジントリオン、1−ベンジル−5−フェニルピリミジントリオン、1,3,5−トリメチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−エチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−ブチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1,3,5−トリエチルピリミジントリオン、1,3−ジエチル−5−メチルピリミジントリオン、1,3−ジエチル−5−ブチルピリミジントリオン、1,3−ジエチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1.3−ジメチル−5−フェニルピリミジントリオン、1.3−ジエチル−5−フェニルピリミジントリオン、1−エチル−3−メチル−5−ブチルピリミジントリオン、1−エチル−3−メチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1−メチル−3−プロピル−5−エチルピリミジントリオン、1−エチル−3−プロピル−5−メチルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−メチルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン、5−ブチル−1−シクロヘキシルピリミジントリオン、5−sec−ブチル−1−シクロヘキシルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−ヘキシルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−オクチルピリミジントリオン、1,5−ジシクロヘキシルピリミジントリオンおよび/又はこれらの塩等が挙げられる。
これらの中でも、重合性単量体への溶解性およびラジカル重合の活性の点から、窒素原子に結合した水素をアルキル基(好適には炭素数1〜4のもの)又はシクロアルキル基(好適には炭素数3〜6のもの)で置換したピリミジントリオン誘導体が好適に使用できる。最も好適には、窒素原子に結合した水素をシクロアルキル基で置換した、1−シクロヘキシル−5−メチルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン、5−ブチル−1−シクロヘキシルピリミジントリオン、5−sec−ブチル−1−シクロヘキシルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−ヘキシルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−オクチルピリミジントリオン、1,5−ジシクロヘキシルピリミジントリオンおよび/又はこれらの塩が使用できる。
これらピリミジントリオン誘導体は単独又は2種以上を混合して使用してもよい。
上記の有機金属化合物としては、前記したようにピリミジントリオンの誘導体および有機ハロゲン化合物との組合せにおいて重合開始能を有する公知のものが制限なく使用できる。このような有機金属化合物の具体例としては、アセチルアセトン銅、4−シクロヘキシル酪酸銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトンマンガン、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン、アセチルアセトンコバルト、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトンリチウム、酢酸リチウム、アセチルアセトン亜鉛、ナフテン酸亜鉛、アセチルアセトンニッケル、酢酸ニッケル、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンクロム、アセチルアセトン鉄、ナフテン酸ナトリウム、レアアースオクトエート等が使用できる。これらの中でも、重合活性の観点から、第二銅又は第二鉄イオン形成化合物が好ましく、アセチルアセトン銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトン鉄が特に好ましい。
これら有機金属化合物は単独又は2種以上を混合して使用することができる。
上記のハロゲン化合物としては、溶液中でハロゲン化物イオンを形成させる化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できる。このような有機ハロゲン化合物の具体例としては、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ジイソブチルアミンハイドロクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、トリエチルアミンハイドロクロライド、トリメチルアミンハイドロクロライド、ジメチルアミンハイドロクロライド、ジエチルアミンハイドロクロライド、メチルアミンハイドロクロライド、エチルアミンハイドロクロライド、イソブチルアミンハイドロクロライド、トリエタノールアミンハイドロクロライド、β−フェニルエチルアミンハイドロクロライド、アセチルコリンクロライド、2−クロロトリメチルアミンハイドロクロライド、(2−クロロエチル)トリエチルアンモニウムクロライド、テトラ−デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド等が挙げられ、重合活性の高さの観点から、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライドを使用することが特に好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
一方、光重合開始剤としては、光増感剤のみからなるもの;光増感剤/光重合促進剤からなるもの;色素/光酸発生剤/スルフィン酸塩;色素/光酸発生剤/アリールボレート塩からなるもの等が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤を必要に応じ各々単独で、あるいは複数を組み合わせて添加することが可能である。
また、本発明の粉液型歯科用硬化性材料をデュアルキュア型にする場合には、上記常温重合開始剤とカンファーキノン等のα−ジケトン類及びジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等のアミンの組み合わせからなる、又はビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド誘導体からなる光重合開始剤の併用が、操作性、及び機械的強度の観点から好適である。
前述した重合開始剤の配合量は、i)液材のラジカル重合性単量体が重合するのに十分な量であれば特に限定されないが、硬化体の強度等の諸物性の観点から、i)液材に含まれる全ラジカル重合性単量体100質量部に対して、1〜20質量部の範囲であるのが好ましく、3〜10質量部であることがより好ましい。
本発明の粉液型歯科用硬化性材料には、前記成分の他にも必要に応じて、流動性を改良したり、得られる硬化体の諸物性及び操作性をコントロールするために無機フィラー;エタノール、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のアルコール又は可塑剤;ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤;4−メトキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾール等の紫外線吸収剤、α−メチルスチレンダイマー等の重合調整剤;色素、顔料、香料等を、粉材または液材に添加することができる。
以上の各成分が配合されてなる粉材と液材の製造方法については、特に制限無く、公知の製造方法に準じて製造すれば良いが、具体的には、各々所定量の配合成分を計り取り、均一の性状になるまで混合すればよい。混合に用いることのできる混練器に関しても特に制限無く、公知のものを使用できるが、具体的には、揺動ミキサー等を挙げることができる。また、製造した粉材、液材は各々容器に保存しておけばよい。
こうした粉液型歯科用硬化性材料の使用方法の例は、使用直前に、ラバーカップ等に所望の量のi)液材及びii)粉材を量り取り、練和棒或いはヘラ等を用いて均一なペーストになるまで練和して使用すると良い。
i)液材とii)粉材の混合比は、特に制限されるものではなく、各部材に含まれる前記成分の含有量と、前記説明した液材と粉材の混合時の夫々の成分の所望される使用量とを勘案して適宜決定すれば良いが、一般には、粉材(g)/液材(ml)=0.3/1〜4/1が好ましく、粉材(g)/液材(ml)=1/1〜3/1の割合で混合するのが特に好ましい。
本発明における粉液型歯科用硬化性材料は、例えば、常温重合レジン、義歯床用裏装材、義歯床用レジン、接着材、仮封材等に使用される。これらは、粉材と液材を混和しペーストとした後、材料に応じた重合(加熱重合・化学重合・光重合等)が施される。
本発明における粉液型歯科用常温重合レジンとは、粉材と液材に化学重合開始剤を含む材料であり、暫間インレー、クラウン等の作製、義歯床の修理等、多目的に用いられる材料である。
本発明における粉液型義歯床用裏装材は、粉材と液材に化学および/または光重合開始剤を含む材料であり、義歯自体の修理や補修、義歯の粘膜への適合を改善するための裏装用途に用いられる材料である。
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例及び比較例で使用した化合物の略称は次の通りである。
実施例に用いた液材中の一般式(1)に示すラジカル重合性単量体(a)は、表1に示す通りであり、これらの構造式をそれぞれ示した。これらは以下の製造例1〜7に記載の方法で得た。
なお、4−DPEGMAは下記化合物(a)、(b)、(c)の混合物として得られ、その比率はモル比で65:30:5である。また、上記構造式と共に示す値g、hは化合物(a)、(b)、(c)の混合物の平均値である。なお、上記構造式および以下に示す構造式と共に示す値g、hは平均値を意味するが、個々の分子においてはg、hの値は0、1または2の整数値を取り得るものである。また、値gおよびhの平均値が0または2である場合を除き、値g,hの平均値が示される構造式は、整数値(g、h)の組み合わせが異なる2種類または3種類の構造異性体の混合物を意味する。さらに、一般式(3)において、Ar1=Ar2=フェニレン基である場合、値gは、一般式(3)中に示す値jに対応する値であり、値hは、一般式(3)中に示す値kに対応する値である。
(製造例1)
<酸クロライド物(A)の合成>
4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸25.3g(0.096mol)、ジメチルホルムアミド0.85g(0.012mol)およびトルエン80mlの第一の混合液を作製した。攪拌状態の第一の混合液に対して、塩化チオニル58.4g(0.46mol)およびトルエン20mlからなる第二の混合液を室温下で徐々に滴下した。滴下終了後に得られた液体を95℃に昇温し、3h還流した。そして加温・還流後に得られた黄色透明液体を放冷することで、下記に示す分子構造を有する4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド(以下、「酸クロライド物(A)」と称す場合がある)のトルエン溶液を得た。さらに、このトルエン溶液をロータリーエバポレーターにかけ、40℃でトルエン、塩化チオニルおよび塩化水素を除去し、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライドの固体26.9g(0.091mol、収率95%)を得た。
<4−DPEHEの合成>
酸クロライド物(A)15.3g(0.052mol)に塩化メチレン120mlを加えることで、酸クロライド物(A)を含む分散液を得た。2−ヒドロキシエチルメタクリレート16.9g(0.13mol)、トリエチルアミン7.7g(0.13mol)、4−ジメチルアミノピリジン0.16g(0.0013mol)、BHT0.002gおよび塩化メチレン10mlを混合した混合液を滴下ロートを利用して上記の酸クロライド物(A)の分散液に−78℃で徐々に滴下し、さらに5時間攪拌した。滴下・撹拌後に得られた液体に水を加え、ロータリーエバポレーターを用いて、溶媒を除去した。溶媒除去後に得られた残さを100mlのトルエンに溶解し、0.5規定塩酸溶液で洗浄、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ別した。得られたろ液をロータリーエバポレーターで濃縮後、濃縮液をさらに真空乾燥して、4−DPEHE(収量19.0g、収率76%、HPLC純度97%)を得た。なお、得られた4−DPEHEの1H NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
1H NMR δ1.93(s,6H),4.58(t,4H),4.63(t,4H),5.59(s,2H),6.14(s,2H),7.06(d,4H),7.96(d,4H)。
(製造例2)
<2−DPEHEの合成>
4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸25.3gの代わりに2,2’−ジフェニルエーテルジカルボン酸25.3g(0.096mol)を用いた以外は酸クロライド物(A)を合成する場合と同様の方法で、2,2’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド27.8g(0.094mol、収率98%)を得た。
酸クロライド物(A)15.3g(0.052mol)の代わりに2,2’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド15.3g(0.052mol)を用いた以外は4−DPEHEを合成する場合と同様の方法で、2−DPEHE(19.5g、収率78%、HPLC純度97%)を得た。なお、得られた2−DPEHEの1H NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
1H NMR δ1.93(s,6H),4.54(t,4H),4.62(t,4H),5.58(s,2H),6.16(s,2H),7.06(d,4H),7.45(d,2H),7.96(d,2H)。
(製造例3)
<4−DPEHHの合成>
−プロセス1−
メタクリル酸8.6g(0.1mol)、1,6−ヘキサンジオール23.6g(0.2mol)、p−トルエンスルホン酸0.86g(0.005mol)、および、重合禁止剤としてBHT0.1gをガラス容器に入れ、85℃に加熱、攪拌した。次に、この加熱撹拌状態の反応系中を減圧状態にし、反応系中から水分を除去しながら5時間攪拌を続けた。その後、得られた液体を冷却し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて精製、濃縮後、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート19.7g(収率53%)16.0g(収率43%)を得た。
−プロセス2−
次に、別のガラス容器に酸クロライド物(A)3.0g(0.01mol)、塩化メチレン70ml、ジ−tertブチルメチルフェノール0.001gを入れた溶液を攪拌しながら、この溶液に対して、上記の6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート4.1g(0.022mol)、トリエチルアミン2.0g(0.02mol)、4−ジメチルアミノピリジン0.025g(0.0002mol)を10ml塩化メチレンに溶解させた溶液を1時間かけて、ゆっくり滴下した。滴下終了後に得られた溶液を、室温で1時間撹拌した後に、水を加え、ロータリーエバポレーターを用いて、溶媒を除去した。溶媒除去後に得られた残さを100mlのトルエンに溶解し、0.5規定塩酸溶液で洗浄、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ別した。得られたろ液を再びロータリーエバポレーターで濃縮後、濃縮液をさらに真空乾燥して、4−DPEHH(収量4.6g、収率78%、HPLC純度98%)を得た。なお、得られた4−DPEHHの1H NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
1H NMR δ1.29(m,8H),1.57(t,4H),1.77(t,4H),1.93(s,6H),4.16(t,4H),4.22(t,4H),5.58(s,2H),6.14(s,2H),7.04(d,4H),7.96(d,4H)。
(製造例4)
<4−DPEUEの合成>
エチレングリコール50.0g(0.8mol)、トリエチルアミン40.5g(0.4mol)、N,N−ジメチルアミノピリジン0.49g(4mol)を100ml塩化メチレンに溶解して得られた溶液を撹拌しながら、0℃に冷却した。次に、この溶液に対して、酸クロライド物(A)44.8g(0.2mol)を塩化メチレン(200ml)に溶解した溶液を2時間かけてゆっくり滴下した。滴下後に得られた溶液をさらに1時間撹拌した後に、水を加え、ロータリーエバポレーターを用いて、溶媒を除去した。溶媒除去後に得られた残さを100mlのトルエンに溶解し、0.5規定塩酸溶液で洗浄、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ別した。得られたろ液を再びロータリーエバポレーターで濃縮後、濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシカルボニル)ジフェニルエーテル41.6g(収率60%)を得た。
得られた4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシカルボニル)ジフェニルエーテル34.6g(0.1mol)およびジブチルチンジラウレート3.2g(5mmol)を100mlの無水ジメチルホルムアミドに溶解して得られた溶液に、2−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート39.8g(0.2mol)をさらに加え、室温で3時間撹拌した。撹拌後の溶液に、塩化メチレン100mlを加えて、分液ロートを用いて蒸留水で3回洗浄し、塩化メチレン層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥後、硫酸マグネシウムをろ別し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮物をさらに真空乾燥して、4−DPEUE(収量70.3g、収率95%、HPLC純度96%)を得た。なお、得られた4−DPEUEの1H NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
1H NMR δ1.93(s,6H),3.10(m,4H),3.66(m,8H),4.33(t,4H),4.54(m,8H),5.58(s,2H),6.14(s,2H),7.06(d,4H),7.96(d,4H),8.02(s,2H)。
(製造例5)
<4−DPEGMAの合成>
12.8gのメタクリル酸グリシジル(0.09モル)に4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸12.9g(0.05モル)、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド0.02g(0.00009モル)、BHT0.02g(0.00009モル)、ジメチルホルムアミド20gを加えた混合液を、100℃で4時間反応させた。反応により得られた液体に酢酸エチル40mlを加えて、均一な溶液にした。次に、この溶液を分液ロートに移し、10wt%炭酸カリウム水溶液40mlで3回洗浄し、さらに蒸留水で3回洗浄した後、酢酸エチル層を回収した。その後、回収した酢酸エチル層に硫酸マグネシウムを加えて、酢酸エチル層中に含まれる水分を除去した。続いて、酢酸エチル層から硫酸マグネシウムをろ別し、ろ液をロータリーエバポレーターで濃縮して濃縮物を得た。この濃縮物を更に真空乾燥して、4−DPEGMA(収量22.8g、収率84%、HPLC純度95%)を得た。なお、得られた4−DPEGMAの1H NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
1H NMR δ1.93(s,6H),3.90(d,0.8H),4.30〜4.70(m,9.2H),5.59(s,2H),6.16(s,2H),7.07(d,4H),8.07(d,4H)。
(製造例6)
<4−DPSHEの合成>
t−ブタノール200mlおよび水50mlに対して、特開2005−154379号公報に記載の合成方法により合成した4,4−ジホルミルジフェニルスルフィド48.4g(0.2mol)を溶解させた後、リン酸水素ナトリウム水溶液50mlおよび2−メチル−2−ブテン140g(2mol)加え、さらに亜塩素酸ナトリウム36g(0.4mol)を加えることで反応溶液を準備した。次に、この反応溶液を5時間撹拌後、1規定塩酸溶液を用いて、反応溶液を酸性にすることで、固体を析出させた。続いて固体が析出した反応溶液を、吸引ろ過後、水を用いて、析出した固体を洗浄した。洗浄後に得られた固体(化合物)を真空乾燥することにより、4,4’−ジカルボキシジフェニルスルフィド(収量45.5g,収率83%)を得た。
次に、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸25.3g(0.096mol)の代わりに4,4’−ジカルボキシジフェニルスルフィド26.4g(0.096mol)を用いた以外は、酸クロライド物(A)の合成方法と同様の方法で、4,4’−ジフェニルスルフィドジカルボン酸クロライド28.4g(0.091mol)を合成した。
次いで、酸クロライド物(A)15.3gの代わりに4,4’−ジフェニルスルフィドジカルボン酸クロライド16.1g(0.052mol)を用いた以外は4−DPEHEの合成方法と同様の方法で、4−DPSHE(収量18.9g、収率73%、HPLC純度91%)を得た。なお、得られた4−DPSHEの1H NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
1H NMR δ1.93(s,6H),4.52(t,4H),4.63(t,4H),5.58(s,2H),6.11(s,2H),7.30(d,4H),7.81(d,4H)。
(製造例7)
<4−DPAHEの合成>
4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸25.3gの代わりに英国特許GB753384に記載の合成方法により合成された2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン27.2g(0.096mol)を用いた以外は、酸クロライド(A)の合成方法と同様の方法で2,2−ビス(4−クロロカルボニルフェニル)プロパン29.6g(収率96%)を得た。
次いで、酸クロライド物(A)15.3gの代わりに2,2’−ビス(4−クロロカルボニルフェニル)プロパン16.7g(0.052mol)を用いた以外は4−DPEHEの合成方法と同様の方法で、4−DPAHE(収量19.3g、収率73%、HPLC純度92%)を得た。なお、得られた、4−DPAHEの1H NMRスペクトルのデータは、次の通りであった。
1H NMR δ1.64(s,6H),1.93(s,6H),4.53−4.64(m,8H),5.59(s,2H),6.12(s,2H),7.22(d,4H),7.90(d,4H)。
<ラジカル重合性単量体(b)>
MMA:メチルメタクリレート
AAEM:アセトアセトキシエチルメタクリレート
HPR:2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート
3G:トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
14G:テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
HD:1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート
ND:1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート,
Bis−GMA:ビスフェノールAジグリシジルジ(メタ)アクリレート
<非架橋有機樹脂>
PEMA:球状ポリメタクリル酸エチル粒子
平均粒子径35μm、重量平均分子量50万
P(MMA−EMA):球状メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体
平均粒子径70μm、重量平均分子量100万、MMA−EMA共重合比=50/50
<ラジカル重合開始剤>
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
CQ:カンファーキノン
<芳香族3級アミン>
DMPT:N,N'−ジメチル−p−トルイジン
PEAT:N,N'−ジエチル−p−トルイジン
DEPT:p−トリルジエタノールアミン
DMBE:ジメチル安息香酸エチル
<重合禁止剤>
BHT:ブチルヒドロキシトルエン
また、以下の実施例及び比較例において、各種の測定は以下の方法により実施した。
・適合精度の測定
所定量の粉材(g)と液材(ml)を20秒間スパチュラ(トクヤマデンタル製 スパチュラNo.001)を用いてラバーカップ(トクヤマデンタル製ラバーカップNo.3)内で練和し、シリコーンコア(Φ10mm、深さ8mm)にレジンを填入した。これを支台模型(底面Φ8mm、上面Φ7mm、高さ5mm)の金型に圧接した。 混和2分30秒後に金型から撤去し、5分間静置後、金型に再装着した時の浮き上がり量を測定し、適合精度の評価を行った。なお、光重合の場合、上記金型撤去後に光照射器(TOKUSO POWER LITE、株式会社トクヤマ社製)にて2分間光照射し硬化させ、同様の評価を行った。
評価結果 ◎ : 150μm未満
○ : 150μm以上〜250μm未満
△ : 250μm以上〜350μm未満
× : 350μm以上
・硬化体の曲げ強さの測定
硬化体の曲げ強さ測定は、以下の方法で行った。まず、粉材(g)と液材(ml)を所定の割合で混合し、20秒間練和した。常温重合の場合、40mm×40mm×2mmのモールドに流し込み、37℃で24時間硬化させた。光重合の場合、上記モールド内に充填した後、孔の開口部をポリプロピレンフィルムで覆い、次に、ポリプロピレンフィルム上から、光照射器(TOKUSO POWER LITE、株式会社トクヤマ社製)にて2分間光照射し硬化させ、37℃で一晩保存した。上記両硬化体とも、37℃で24時間静置後、耐水研磨紙#600、#1500の順に研磨し、ダイヤモンドカッターで幅4mmに切断した。このようにして得られた硬化体を支点間距離20mmとし、オートグラフ「AG−1」(島津製作所社製)にて曲げ破壊試験を行った。クロスヘッドスピードは1mm/minである。なお、測定は23℃の恒温室で行った。
実施例1
粉液型歯科用硬化性材料である粉液型歯科用常温重合レジンを調製するため、一般式(1)のラジカル重合性単量体(a)としてM1を10g、ラジカル重合性単量体(b)としてメチルメタクリレート90g、アミン化合物としてp−トリルジエタノールアミン2gを計り取り、3時間攪拌混合し、液材を得た。非架橋有機樹脂として球状メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体100g、ラジカル重合開始剤として過酸化ベンゾイル2gを計り取り、揺動ミキサーを用いて3時間混合し、粉材を得た。上記液材1.0gおよび粉材2.0gを練和しペーストとした後、上述の評価を行った結果、適合精度の評価は○:210μm、曲げ強さは80.4MPaであった。
実施例2
表2に示した組成の異なる粉液型歯科用常温重合レジンを調製し、実施例1の方法に準じ評価を行った。試験結果を表4に示した。
比較例1〜3
表3に示した組成の異なる粉液型歯科用常温重合レジンを調製し、実施例1の方法に準じ評価を行った。試験結果を表4に示した。
実施例3
粉液型歯科用硬化性材料である粉液型義歯床用裏装材を調製するため、ラジカル重合性単量体(b)としてアセトアセトキシエチルメタクリレート90g、一般式(1)のラジカル重合性単量体(a)としてM1を10g、アミン化合物としてp−トリルジエタノールアミン2gを計り取り、3時間攪拌混合し、液材を得た。非架橋有機樹脂として球状ポリメタクリル酸エチル粒子100g、ラジカル重合開始剤として過酸化ベンゾイル2gを計り取り、揺動ミキサーを用いて3時間混合し、粉材を得た。上記液材1.0gおよび粉材2.0gを練和しペーストとした後、上述の評価を行った結果、適合精度の評価は◎:140μm、曲げ強さは60.7MPaであった。
実施例4〜22
表5に示した組成の異なる粉液型義歯床用裏装材を調製し、実施例3の方法に準じ評価を行った。試験結果を表7に示した。
比較例4〜6
表6に示した組成の異なる義歯床用裏装材を調製し、実施例3の方法に準じ評価を行った。試験結果を表8に示した。
実施例1〜実施例22は、本発明の要件を満足するように配合された粉液型歯科用硬化性材料であり、いずれの場合においても、適合精度及び曲げ強さは、良好な結果が得られている。
これに対して比較例1及び比較例2は、本発明のラジカル重合性単量体(a)を配合しなかった粉液型歯科用常温重合レジンの態様の場合であるが、適合精度および曲げ強さが低下している。
比較例3は、本発明のラジカル重合性単量体(a)以外の高分子量のラジカル重合性単量体を配合した粉液型歯科用常温重合レジンの態様の場合であるが、適合精度が低下している。
比較例4及び比較例5は、本発明のラジカル重合性単量体(a)を配合しなかった粉液型義歯床用裏装材の態様の場合であるが、適合精度および曲げ強さが低下している。
比較例6は、本発明のラジカル重合性単量体(a)以外の高分子量のラジカル重合性単量体を配合した粉液型義歯床用裏装材の態様の場合であるが、適合精度が低下している。