アリールボレート化合物、酸性化合物、過酸化物、及び遷移金属化合物を組み合せた化学重合触媒において、重合活性種のラジカルが生成する機構は次の作用によるものである。すなわち、まず、アリールボレート化合物が酸性化合物の作用により分解しアリールボラン化合物を形成し、次いで、このアリールボラン化合物が雰囲気中に存在する酸素により酸化されて重合活性種のラジカルを生成する機構である。しかして、このラジカル生成機構にさらに過酸化物が加わると、上記アリールボラン化合物は該過酸化物によっても活発に酸化されるため、ラジカルの生成は、より活性化される。さらに、遷移金属化合物も加わると、該遷移金属化合物は前記過酸化物の還元反応を促進する作用を有するため、ラジカルの生成は一層に活発になる。
この化学重合触媒が使用される環境に水が多く含まれていると、上記活発な重合活性が低下する原因は次の機構によると考えられる。すなわち、まず、過酸化物が有機過酸化物である場合には、該有機過酸化物は通常、水への溶解性が低いため、均質に活性を発現させることができなくなり、十分に機能しなくなる。これに対して、過酸化物として無機過酸化物を用いる場合には、これらは通常、水への溶解性が高いため、この重合活性の低下原因は解消できる。ところが、この場合には、前記遷移金属化合物による過酸化物の還元反応促進作用が、たとえ前記特許文献3で過酸化物が有機過酸化物の場合には最適とされているバナジウム化合物を用いたとしても、大きく低下する。その結果、過酸化物として無機過酸化物を用いても、やはり十分な重合活性を得ることが困難になると推定される。
以上の状況にあって、本発明では、この化学重合触媒において、過酸化物として無機過酸化物を使用し、これに遷移金属化合物として2価の銅化合物を組み合せる。無機過酸化物は水への溶解性が高く均質に活性が発現し易いことは前述のとおりであるが、該無機過酸化物に対して遷移金属化合物として2価の銅化合物を組み合せると、還元反応の促進作用も大きく向上する。この2価の銅化合物における還元反応の優れた促進作用は、無機過酸化物に対して特有のものであり、過酸化物が有機過酸化物であった場合にはこのような向上効果は認められない。また、前記バナジウム化合物を初めとして、この触媒系で使用可能とされる遷移金属化合物は、鉄、コバルト等も知られているが、これらを無機過酸化物と組み合せても該銅化合物のような優れた向上効果は認められない。かくして、前記無機過酸化物の水への溶解性の高さと、上記無機過酸化物に対する2価の銅化合物の高い還元反応促進作用が相乗的に作用し合った結果、本発明の化学重合触媒では、水が多く含まれる環境で使用されても、高い重合活性が得られるものになると推定される。
本発明の化学重合触媒で使用するアリールボレート化合物は、公知のものが特に限定されずに使用可能である。後述する理由から、通常は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する化合物が使用され、一般には、下記一般式(1)
(但し、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基であり、これら基は置換基を有していてもよく;R4及びR5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、または置換基を有してもよいフェニル基であり;L+は金属陽イオン、4級アンモニウムイオン、4級ピリジニウムイオン、4級キノリニウムイオン、またはホスホニウムイオンである。)で示されるボレート化合物が使用できる。
歯科臨床では、化学重合触媒系の硬化反応を利用する材料は、触媒系を別々に分けて包装されている製品を使用直前に混合、あるいは練和して使用するのが一般的であるが、ホウ素−アリール結合をまったく有しないボレート化合物は保存安定性が極めて悪く、空気中の酸素と容易に反応して分解するため別々に包装された状態でもボレート化合物が簡単に劣化してしまったり、混合や練和時に硬化反応が進行してしまい操作余裕時間が短くなるため事実上使用困難になるという問題を生じるため、前記したとおり通常は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する化合物が使用される。
上記式(1)で示されるアリールボレート化合物を具体的に例示すると、1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物として、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、トリアルキル[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
また、1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物として、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p−クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−フルオロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
さらに、1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物として、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリス(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリス(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
また、1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物として、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
これらの中でも、保存安定性を考慮すると、1分子中に3個または4個のアリール基を有するボレート化合物を用いることが好ましく、さらには取り扱いの容易さや入手のし易さから4個のアリール基を有するボレート化合物が最も好ましい。これらアリールボレート化合物は1種または2種以上を混合して用いることも可能である。
本発明の歯科用化学重合触媒で用いる酸性化合物は、一般的にブレンステッド酸として知られている無機酸、有機酸が何等制限なく用いられる。好適には、pKaが5以下である化合物が使用される。代表的な無機酸を例示すれば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。また、代表的な有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、安息香酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸およびトリメリット酸等のカルボン酸類、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類、メチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のリン酸類等が挙げられる。さらに、酸性化合物としては、それ自身が重合可能な基を含有する酸性基含有重合性単量体を使用してもよく、この場合には、酸性化合物自身が重合性単量体でもあり、重合硬化によって、酸性成分の溶出等の心配がないため好ましい。
かかる、酸性基含有重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ重合性単量体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで酸性基とは、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)2}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、スルホ基(−SO3H)、或いは酸無水物骨格{−C(=O)−O−C(=O)−}を有する有機基等の水溶液中で酸性を示す基を意味する。また、重合性付不飽和基とは、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基等のラジカル重合能を有する不飽和基を意味する。
酸性基含有重合性単量体としては、下記一般式(2)または(3)で示される化合物が好適に使用できる。
{式中、R6およびR6'はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、WおよびW'はそれぞれ独立にオキシカルボニル基(−COO−)、イミノカルボニル基(−CONH−)、またはフェニレン基(−C6H4−)を表し、R7およびR7'は結合手、またはエーテル結合及び/またはエステル結合を有していてもよい2〜6価の炭素数1〜30の有機残基を表し、W,W'がオキシカルボニル基またはイミノカルボニル基の場合にはR7は結合手にならず、XおよびX'は1価または2価の酸性基を表し、mおよびm'はそれぞれ独立に1〜4の整数を表し、m+nはR7の価数を表し、m'+n'はR7'の価数を表す。}
上記一般式(2)および(3)中、X、X'は前記定義に従う酸性基であれば、その構造は特に限定されることはないが、好ましい具体例は次の通りである。
前記一般式(2)および(3)中、R7の構造は特に制限されることはなく、結合手、または公知のエーテル結合及び/またはエステル結合を有していてもよい2〜6価の炭素数1〜30の有機残基が採用され得るが、具体的に例示すると次の通りである。尚、R7が結合手の場合とは基Wと基Xが直接結合した状態をいい、Wがオキシカルボニル基またはイミノカルボニル基の場合には、R7は結合手とはならない。
(式中、m1、m2、およびm3はそれぞれ独立に0〜10の整数であり、かつm1+m2+m3は1以上である。)
一般式(2)および(3)で表される酸性基含有重合性単量体の好ましい具体例を挙げると次の通りである。
(式中、R6は水素原子またはメチル基であり、l、m、およびnはそれぞれ独立に0〜2の整数である。尚、式中、最下段の化合物は、l、m、およびnがそれぞれ異なる化合物として得られることが多く、該混合物におけるl、m、およびnの和は平均3.5である。)
(但し、R6は水素原子またはメチル基である。)
その他、ビニルホスホン酸類やアクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸類も酸性基含有重合性単量体に含まれる。
これらの酸性基含有重合性単量体は単独または二種以上を混合して用いることができる。
上記に具体的に例示した酸性基含有重合性単量体の中でも、取り扱い易さや入手の容易さから、酸性基としてホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)2}、カルボキシル基{−C(=O)OH}を有するものを使用するのが特に好適である。さらに、重合活性或いは、得られる硬化体の強度の観点から、ホスフィニコ基又はホスホノ基を有するものを使用するのが最も好適である。
本発明の歯科用化学重合触媒における酸性化合物の使用量は特に限定されないが、重合活性および硬化性の観点からアリールボレート化合物1モルに対して0.1〜100モル、特に0.5〜50モルであるのが好適である。
本発明の歯科用化学重合触媒で用いる無機過酸化物としては公知の化合物が制限なく使用できるが、水溶性が高い化合物が好ましく、20℃の水100mlに対して、少なくとも4g、より好ましくは少なくとも10g、更に好ましくは20g以上の溶解性を有するものが効果に特に優れる。その代表例として過炭酸塩、ペルオキソ二硫酸化合物、過リン酸塩、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウムなどが上げられる。中でも、水分を多く含む環境下での重合活性の高さの観点から、ペルオキソ二硫酸化合物が好ましい。具体的には、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのペルオキソ二硫酸化合物などが挙げられ、特に、水溶性が高いことからペルオキソ二硫酸ナトリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウムが好ましく、入手の容易性も考慮するとペルオキソ二硫酸ナトリウムが最適である。これら無機過酸化物は、単独でまたは2種以上を混合して用いてもかまわない。
本発明の歯科用化学重合触媒における無機過酸化物の使用量は特に限定されないが、重合活性の観点からアリールボレート化合物1モルに対して0.1〜10モル、特に0.5〜5モルであるのが好適である。
本発明の歯科用化学重合触媒は、前記アリールボレート化合物、酸性化合物及び無機過酸化物に加えて、遷移金属化合物として特に、2価の銅化合物を含有する。前記したように2価の銅化合物は、遷移金属化合物の中でも、無機過酸化物に対する重合活性の向上効果が特に高いため使用される。
これら2価の銅化合物としては公知の化合物が制限なく使用できるが、具体的に例示すると、塩化銅(II)、硫酸銅(II)、等の無機の銅塩;クエン酸銅(II)、酢酸銅(II)、ステアリン酸銅(II)、ナフテン酸銅(II)、サリチル酸銅(II)等の有機の銅塩;アセチルアセトナート銅(II)、エチレンジアミン4酢酸銅(II)等の有機の銅錯体などが挙げられる。中でも、重合活性の高さから、アセチルアセトナート銅(II)が好適である。これら2価の銅化合物は、単独でまたは2種以上を混合して用いてもかまわない。
本発明の歯科用化学重合触媒における2価の銅化合物の使用量は特に限定されないが、重合活性の観点からアリールボレート1モルに対して0.001〜1モル、特に0.05〜0.1モルであるのが好適である。
本発明の歯科用化学重合触媒は、硬化体を着色させたり変色させたりすることがなく、また取り扱い易く、水分を多く含む過酷な環境化においても重合活性が高いので、各種重合性単量体を含む歯科用接着性組成物用の重合触媒として好適に使用できる。ここで、重合性単量体としては、歯科分野で従来の化学重合触媒と組み合せて使用可能な公知の重合性単量体が制限なく使用できるが、硬化速度の点から(メタ)アクリレート系単量体を用いるのが好適である。
好適に使用される(メタ)アクリレート系重合性単量体の具体例を示せば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系単量体は単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
本発明の歯科用接着性組成物においては、前記(メタ)アクリレート系単量体以外にも、硬化性組成物の粘度調節、あるいはその他の物性の調節にために、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の他の重合性単量体を混合して重合することも可能である。ただし、全重合性単量体に対する前記(メタ)アクリレート系単量体の配合割合は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上であるのが好適である。50質量%未満であると、歯科臨床で必要な硬化速度が得られにくい傾向にある。
本発明で使用できる他の重合性単量体を例示すると、スチレン、p−クロロスチレン、p−ヒドロキシスチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン等のスチレンあるいはα−メチルスチレン誘導体;フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)シクロヘキサン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、4,4'−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)ジフェニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルオキシラン、エチレングリコール−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)等のエポキシ化合物;3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ナフトキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン等のオキセタン化合物;ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールエタントリビニルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等のビニルエーテル化合物等を挙げることができる。なお、上記の他の重合性単量体のうち、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及びビニルエーテル化合物は、本発明の歯科用化学重合触媒の1成分である酸性化合物によって重合を開始することのできるカチオン重合性単量体である。また、上記他の重合性単量体は単独で用いても、2種類以上を混合して使用してもよい。
本発明の化学重合触媒の、上記重合性単量体に対する配合量は、重合性単量体が硬化するのに十分な量であれば特に限定されないが、一般的には全重合性単量体100質量部に対して本発明の化学重合触媒を0.01〜20質量部、特に0.1〜10質量部配合するのが好適である。
これら重合性単量体と化学重合触媒とを含んでなる歯科用硬化性組成物には、他の化学重合触媒(熱重合触媒)や、紫外線若しくは可視光線を用いる光重合触媒を添加してもよい(以下、他の化学重合触媒や光重合触媒を総称して単に「他の重合触媒」ともいう)。光重合触媒と併用した場合には化学硬化および光硬化の両方が可能ないわゆるデュアルキュア型の硬化性組成物とすることができる。
併用される他の重合触媒には何等制限はないが、好適に使用される熱重合触媒としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
また、好適に使用される光重合触媒としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4'−ジメトキシベンジル、4,4'−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル;2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体;ベンゾフェノン、p−p'−ジメチルアミノベンゾフェノン、p、p'−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体が挙げられる。さらに、本発明の必須成分であるアリールボレート化合物に色素と光酸発生剤とを組み合わせた、即ち、アリールボレート/色素/光酸発生剤からなる系も好適である。
上記したような他の重合触媒はそれぞれ単独で用いられるだけでなく、必要に応じて複数の種類を組み合わせて用いることもできる。これら他の重合触媒の使用量は本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、本発明の歯科用化学重合触媒100質量部に対して1〜1000質量部、特に10〜500質量部であるのが好適である。
本発明の化学重合触媒を適用した歯科用硬化性組成物には、その用途に応じて要求される物性を付与する目的で各種充填材、有機溶媒、水、増粘剤、紫外線吸収剤、重合調製剤、染料、帯電防止剤、顔料および香料等を添加することができる。例えば、歯科用直接修復用接着材や歯科用間接修復用接着材等の歯科用接着材として使用する場合には、無機フィラー、有機フィラー、又は有機無機複合フィラー等の充填材を配合するのが好適である。なお、歯科用直接修復用接着材とは、コンポジットレジンと歯質との接着に代表される直接修復法において使用される接着材(ボンディング材)を意味し、他方、歯科用間接修復用接着材とは、クラウンと歯質との接着に代表される間接修復法において使用される接着性レジンセメントやレジン強化型アイオノマーセメント等の接着材を意味する。
本発明の化学重合触媒は、公知の歯科用硬化性組成物の何れに適用しても良く、具体的には、歯科用接着材、コンポジットレジン、歯科用常温重合レジン、歯科用前処理材等に好適に配合できる。前述のとおり本発明の化学重合触媒は、水分を多く含む環境下で使用しても優れた重合活性を示すという特徴を有することから、口腔内で使用されるもの、特に歯面に直接接するように塗布され、相当量の唾液に曝された状態で硬化されたものになり易い用途の歯科用硬化性組成物に適用するのが好ましい。この意味で、歯科用接着材や歯科用前処理材がより好ましく、歯科用接着剤が特に好ましい。
歯科用接着材として使用する場合、その具体的組成は、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体100質量部、アリールボレート化合物0.01〜10質量部、無機過酸化物0.01〜15質量部及び、2価の銅化合物0.01〜5質量部であるのが一般的である。更に、上記成分のうち、酸性基含有重合性単量体(酸性化合物)、無機過酸化物、及び2価の銅化合物の配合量は、前記本発明の歯科用化学重合触媒の説明で示した各成分のモル比を満足するように使用することが特に好ましい。
さらに、前記した水分を多く含む環境下でも高い重合活性が示される特徴をより顕著に発揮させる観点から、その組成自体に水を含有する歯科用硬化性組成物に適用するのが一層に好ましい。歯科用前処理材は通常、水が含有されるため、この観点からも本発明の化学重合触媒を配合するのに適している。さらに、歯科用直接修復用接着材の中にも、歯質への浸透性を高めて該歯科用前処理材の機能を兼ね備えさせるため、水を含有させたものがあり、これらは、本発明の化学重合触媒を配合するのに最適である。
このように歯科用硬化性組成物が水を含有している場合、その含有量は、全重合性単量体100質量部に対して1〜50質量部であるのが好適である。斯様に水を含有する歯科用硬化性組成物であって、前記本発明の化学重合触媒を配合するのに最も適している歯科用直接修復用接着材であれば、その水の含有量は、全重合性単量体100質量部に対して5〜30質量部であるのが特に好ましい。なお、こうした水を含有する歯科用直接修復用接着材は、特開平10―245525号公報等に示されるような、酸性化合物が、酸性基含有重合性単量体であって、さらに、多価金属イオン溶出性フィラーを含むものが好ましく、その好適組成を具体的に示せば、酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体100質量部、アリールボレート化合物0.01〜10質量部、無機過酸化物0.01〜15質量部、2価の銅化合物0.01〜5質量部、並びに多価金属イオン溶出性フィラー1〜20質量部、及び又は水2〜30質量部になる。
本発明の化学重合触媒を適用した歯科用硬化性組成物は、最終的には全成分を混合して使用されるが、保存中における劣化を防止するため、必要に応じて安定な2包に分けて包装することもできる。具体的には、アリールボレート化合物は酸性条件下で分解するため、酸性化合物と、別個に分けて包装されているのが好ましい。すなわち、重合性単量体の一部、無機過酸化物、および酸性化合物からなる包装(甲)と、重合性単量体の一部(酸性化合物が、酸性基含有重合性単量体の場合、この包装には含有させない)、アリールボレート化合物、および2価の銅化合物からなる包装(乙)の組み合わせ等が一般的である。歯科用硬化性組成物が、前記水を含有する歯科用直接修復用接着材の好適組成の場合(酸性化合物が、酸性基含有重合性単量体であって、さらに、多価金属イオン溶出性フィラーを含む)、酸性基含有重合性単量体以外の重合性単量体の一部、無機過酸化物、アリールボレート化合物、水、および多可金属イオン溶出性フィラーは包装(甲)に含有(水溶性有機溶媒を含む場合は該成分は甲に含有させる)させ、酸性基含有重合性単量体、酸性基含有重合性単量体以外の重合性単量体の一部、および2価の銅化合物は包装(乙)に含有させるのが望ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何等制限されるものではない。
尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、硬化時間の測定法を(2)に、各種硬化体物性の測定法を(3)〜(4)に、歯科用直接修復用接着材の接着強度測定方法を(5)に示す。
(1)略称及び構造[酸性基含有重合性単量体]
・PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
・MAC−10;11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカンボン酸
[酸性基含有重合性単量体以外の重合性単量体]
・Bis−GMA;2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
・3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
・HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[アリールボレート化合物]
・PhBNa;テトラフェニルホウ素ナトリウム
・PhBTEOA;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
[無機過酸化物]
・P1;ペルオキソ二硫酸ナトリウム(20℃の水100mlに対する溶解度:57g)
・P2;ペルオキソ二硫酸アンモニウム(20℃の水100mlに対する溶解度:58g)
・P3;ペルオキソ二硫酸カリウム (20℃の水100mlに対する溶解度:5g)
P4;過塩素酸アンモニウム(20℃の水100mlに対する溶解度:50g以上)
P5;過炭酸ナトリウム(20℃の水100mlに対する溶解度:15.2g)
[有機過酸化物]
・BPO;ベンゾイルパーオキサイド
・パーブチルH;t−ブチルハイドロパーオキサイド
・パークミルH;クメンハイドロパーオキサイド
[2価の銅化合物]
・ACu;アセチルアセトナート銅(II)
・CuCl2;塩化銅(II)
・KCu;クエン酸銅(II)
[その他金属化合物]
・VOAA;酸化バナジウム(V)アセチルアセトナート
・FEAA;鉄(II)アセチルアセトナート
・COAA;コバルト(II)アセチルアセトナート
[充填材]
・FASG;フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、トクヤマデンタル社製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山社製)を用いて平均粒径0.5μmまで粉砕し、その後粉末1gに対して、20gの5.0N塩酸でフィラー表面を15分間処理して得た、多価金属イオン溶出性フィラー。(平均粒径:0.5μm、24時間溶出イオン量:27meq/g−フィラー)
・0.3Si−Ti;球状シリカ−チタニア(或いはその凝集体)、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物:1次粒子の平均粒径0.3μm。
[その他化合物]
・TCT;2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン
・DMPT;ジメチルアミノ−p−トルイジン
・CDAC;3,3'−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン
(2)硬化時間の測定
硬化時間の測定は、サーミスタ温度計による発熱法によって行った。すなわち、重合性単量体に本発明の化学重合触媒を所定量添加し、均一になるまで(20秒)混合して得た硬化性組成物10gを、2cm×2cm×1cmの中心に6mmφの孔の空いたテフロン(登録商標)製モールドに流し込んだ後、サーミスタ温度計を差し込み、混合開始から最高温度を記録するまでの時間を硬化時間とした。尚、測定は23℃の恒温室で行った。
(3)硬化体の硬さおよび表面のべとつきの評価
上記と同様に硬化性組成物を調製し、同じ型のモールドに流し込み23℃、15分間空気中で硬化させた。硬化体の硬さおよび表面のべとつきをそれぞれ5段階で評価した。即ち、硬化体が十分な硬さを有し、表面のべとつきのないものを◎、硬化体は十分な硬さを有しているものの、表面には若干のべとつきがあるものを○、硬化体はゼリー状であり、表面に未重合単量体が残っているものを△、硬化体は部分的にゼリー状になった状態でしかないものを×、まったく硬化しなかったものを××とした。
(4)硬化体の初期着色および耐変色性試験
硬化体の耐変色性試験は、以下の方法で行った。まず、各成分を所定の比率で混合し、20秒間練和した。次いで10mm×10mm×2mmのモールドに流し込み、37℃で24時間硬化させた。得られた硬化体の初期着色を下に示す3段階で目視評価した。
スコア1 無色透明、スコア2 黄色、スコア3 褐色。
さらに得られた硬化体を80℃水中に120日間保存し、保存後の硬化体の変色度合いを以下に示す評価基準に従って評価した。
スコア1 変化なし、スコア2 白濁するのみ、スコア3 わずかに黄色く変色、スコア4 黄色く変色、スコア5 褐色に変色。
(5)直接修復用歯科用接着材(ボンディング材)の接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛下顎前歯を抜去し、注水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質または象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥したもの(乾燥歯面)と、該乾燥処理を施さないで歯面が水分で曇った状態となるようにしたもの(Wet歯面)2種類を作製し、それぞれの平面に直径3mmの孔のあいた両面テープを固定し、接着面積を規定した。次いで、8mmφの孔の開いた厚さ1mmのワックスを両面テープと同心円上になるように貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に使用直前に調製したボンディング材を塗布し、20秒間放置した。
光硬化型コンポジットレジンを用いる場合には、この模擬窩洞内に光硬化型コンポジットレジン、パルフィークエステライトシグマ[(株)トクヤマデンタル社製]を填入し、ポリプロピレン製シートで覆った上から、パワーライト[(株)トクヤマデンタル社製]を用いて30秒間光照射してコンポジットレジンを重合硬化させ試験片を作製した。
化学硬化型コンポジットレジンを用いる場合には、同様に化学重合型コンポジットレジン、エステライトコアクイック[(株)トクヤマデンタル社製]を填入、硬化させ試験片を作成した。
上記の方法で作成した試験片を24時間37℃水中に浸漬した後、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で引っ張り試験を行った。1試験当たり、8本の接着試験片を測定し、その平均値を接着強度とした。
実施例1
実施例1では、アリールボレート化合物としてPhBTEOHを3質量部、無機過酸化物としてP1を6質量部、2価の銅化合物としてACuを0.2質量部、および酸性化合物としてPMを5質量部の夫々を触媒の構成成分とした。この触媒組成は、アリールボレート化合物1モルに対して、酸性化合物であるPMが2.9モル、無機過酸化物であるP1が3.9モル、2価の銅化合物であるACuが0.12モルの割合で配合されたものであった。
上記触媒の各成分を、MMA/HEMA(50質量%/50質量%)溶液100質量部に対して夫々配合した後、均一になるまで混合(20秒)することにより水非含有硬化性組成物を製造した。得られた水非含有硬化性組成物について、硬化時間の測定、硬化体の硬さおよび表面のべとつきの評価、硬化体の初期着色および耐変色性試験を実施した。
さらに、上記触媒の各成分を、MMA/HEMA/水(40質量%/40質量%/20質量%)溶液100質量部に対して夫々配合し均一になるまで混合(20秒)することにより水含有硬化性組成物を製造した。得られた水含有硬化性組成物について、硬化時間の測定、硬化体の硬さおよび表面のべとつきの評価、硬化体の初期着色および耐変色性試験を実施した。
以上の結果を表2に示した。
実施例2〜16,比較例1〜12
使用する触媒の組成を表1および表3に示した組成に変更する以外は、実施例1と同様な方法を用いて水非含有硬化性組成物および水含有硬化性組成物を製造し、各物性を測定した。結果を表2および表4に夫々示した。
実施例1〜16は、本発明の請求項1に記載される要件のすべてを満足するように配合された化学重合触媒を用いたものであるが、水非含有硬化性組成物中で使用した場合の硬化時間はいずれの場合においても2分15秒以下で短かった。また、硬化性および表面のべとつきも良好な評価結果であり、さらに、硬化体の初期着色もなく、保存後の変色も無いか若しくは僅かなものであった。また、水含有硬化性組成物中で使用された場合においても、硬化時間は短く維持された。また、硬化性および表面のべとつきも良好な結果が維持された。さらに、硬化体の初期着色が無く、保存後の変色も無いか若しくは僅かなものになる性状も維持された。
これに対して、比較例1〜4は、それぞれ本発明の化学重合触媒の必須成分中の1成分を添加しない場合であり、比較例1および2においては全く硬化しなかった。比較例3においては、長時間かけても部分的にゲル状になる以上には硬化は進まなかった。また、比較例4においては、最終的には硬化したものの、硬化時間が4分以上に延び、更に水を含む組成物中ではその硬化時間が大幅に遅延した。
比較例5〜7は本発明の化学重合触媒の必須成分である2価の銅化合物の代わりにバナジウム、鉄、コバルトなどの遷移金属化合物を使用した場合であるが、いずれの場合においても、2価の銅化合物を使用したほどの活性向上効果は得られなかった。また、水含有硬化性組成物中で使用した場合の重合活性は2価の銅化合物と比べて活性の低下が大きかった。
比較例8は本発明の化学重合触媒の必須成分である無機過酸化物の代わりに有機過酸化物を使用した場合であるが、水非含有硬化性組成物中での活性は無機過酸化物を使用した場合と同程度であるが、水含有硬化性組成物中で使用した場合には、その活性が維持されず、大きく低下した。
比較例9〜11は、特許文献3に提案されている有機過酸化物と遷移金属化合物を組み合わせた系であるが、水非含有硬化性組成物中で使用された場合には高い活性が示されるが、水含有硬化性組成物中で使用された場合には、その活性が維持されず、大きく低下した。
比較例12は従来のBPO/DMPT系の化学重合触媒を用いた場合を示したが、硬化活性は実施例と比較して大きく低下した。また、硬化体の初期着色もあり、さらに保存後に大きく変色した。
実施例17
25質量部のPM、15質量部のBis−GMA、10質量部の3G、および0.2質量部のACuからなる第一液組成Aと、30質量部のHEMA、20質量部の3G、6質量部のP1、3質量部のPhBTEOA、6質量部のFASG、および5質量部の水からなる第二液組成aを別個に調製し、使用直前に第一液と第二液を全量混合し、ボンディング材とした。このボンディング材は、アリールボレート化合物1モルに対して、酸性化合物であるPMが14.7モル、無機過酸化物であるP1が3.9モル、2価の銅化合物であるACuが0.12モルの割合で配合されたものであった。
得られたボンディング材を用い、光硬化型コンポジットレジンを用いる場合の方法で接着強度を測定した。結果は、表7に示したように、乾燥歯面に対して、エナメル質に20.8(3.3)MPa、象牙質に21.2(3.1)MPa、Wet歯面に対して、エナメル質に20.9(1.6)MPa、象牙質に20.4(2.0)MPa[但し、( )は標準偏差]の接着強度が得られた。
実施例18〜21
表5に示した各液組成の第一液および表6に示した各液組成の第二液を表7に示したボンディング材組成になるようにボンディング材を調製した以外は、実施例17と同様にして光硬化型コンポジットレジンに対する接着試験を行った。
結果を表7に示した。
実施例22〜23
表5に示した各液組成の第一液および表6に示した各液組成の第二液を表7に示したボンディング材組成になるようにボンディング材を調製し、化学硬化型コンポジットレジンを用いる場合の方法で接着強度を測定した以外は、実施例17と同様に実施した。
結果を表8に示した。
実施例17〜21は、コンポジットレジンに光硬化型のものを用いた例であるが、いずれも、歯面の乾燥状態に左右される事なく、エナメル質および象牙質に対して高い接着強度を示した。このことから本発明のボンディング材をコンポジットレジンと歯質の接着材として用いた場合、前処理および光照射をしなくても、更には歯面の乾燥状態に左右されることなく安定した接着強度が得られることがわかった。
また、多価金属イオン溶出性フィラー及び/又は水を添加した場合(実施例17、実施例19、および実施例20)は、いずれも添加していない場合(実施例18)よりも接着強度が向上した。
また、実施例21は、光重合触媒として色素および光酸発生剤を添加してデュアルキュア型とした組成を示したが、コンポジットレジン硬化時の光照射により、接着強度が一層に向上した。
実施例22および実施例23は、コンポジットレジンに化学硬化型のものを用いた例であるが、いずれもエナメル質および象牙質に対して高い接着強度を示した。このことから本発明のボンディング材を化学硬化型コンポジットレジン用の接着材として用いた場合も、前処理および光照射をしなくても、更には歯面の乾燥状態に左右されることなく安定した接着強度が得られることがわかった。