以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、本明細書に示す各図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。各図面において図示される各構成部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
また、以下では、一例として、溶融金属が溶鋼である場合について説明する。ただし、本発明はかかる例に限定されず、本発明は、他の金属に対する連続鋳造に対して適用されてもよい。
(1.本発明に想到した背景と本発明の基本原理)
本発明の好適な一実施形態について説明するに先立ち、本発明者らが本発明に想到した背景と、本発明の基本原理について説明する。
(1−1.介在物の浮上条件についての考察)
上述したように、連続鋳造中に溶鋼内で介在物が浮上して湯面に到達することができれば、当該介在物は除去され、高品質な鋳片を得ることが可能になる。そこで、本発明者らは、まず、溶鋼内で介在物が浮上して湯面に到達し得る条件(以下、単に浮上条件ともいう)について考察した。
(1−1−1.下降流速の大きさについての検討)
溶鋼内を浮上する介在物の浮上速度は、下記数式(3)に示すストークスの式によって算出することができる。ここで、Uは介在物の流動抵抗と浮力が平衡状態となった場合の浮上速度(すなわち、介在物が浮上する際の終端速度)、gは重力加速度、ρlは溶鋼の密度、ρは介在物の密度、dは介在物の直径(粒径)、μは溶鋼の粘性係数である。なお、具体的には、重力加速度gは略9.8(m/s2)、溶鋼の粘性係数μは略5.0×10−3(Pa・s)である。また、下記数式(3)では、浮上速度Uを、浮上する方向を正として定義している。
溶鋼内に生じている下降流によって下方に流された介在物は、ある程度の深さ位置において自身の浮力によって上昇を開始する。そして、この浮上する際の終端速度、すなわち上記数式(3)から求められる介在物の浮上速度Uの大きさが、下降流速の大きさよりも大きければ、介在物は溶鋼内を浮上して湯面に到達し得ることとなる。換言すれば、高品質な鋳片を得るためには、溶鋼内で生じる下降流速の大きさが、上記数式(3)から求められる介在物の浮上速度Uの大きさよりも小さくなるように、連続鋳造を行えばよい。
具体的には、上記数式(3)から介在物の浮上速度Uを算出する際には、重力加速度g、溶鋼の粘性係数μ、介在物の密度ρ及び溶鋼の密度ρlとしては、文献値や実験等によって得られた値を用いればよい。例えば、重力加速度g及び溶鋼の粘性係数μとしては、上述した定数を用いることができる。また、例えば、介在物の密度ρとしては、除去の対象としている介在物についての文献値を用いることができる。また、例えば、溶鋼の密度ρlとしては、連続鋳造中の溶鋼の温度を加味した文献値を用いることができる。
また、介在物の直径dとしては、鋳片の品質を著しく悪化させ得る最小の値を用いればよい。上記数式(3)から、介在物の直径dが大きくなるほど浮上速度Uも大きくなるため、鋳片の品質に影響し得る最小の直径を有する介在物の浮上速度の大きさよりも下降流速の大きさを小さくすれば、より大きな直径を有する介在物も浮上し得るからである。
一例として、溶鋼の温度が1550℃であり、対象としている介在物がアルミナであるとする。この場合、介在物の密度ρは約3990(kg/m3)であり、溶鋼の密度ρlは約7000(kg/m3)とみなすことができる。これらの値を上記数式(3)に代入し、介在物の直径dと介在物の浮上速度Uとの関係を求めた。その結果を図1に示す。図1は、介在物の直径dと介在物の浮上速度Uとの関係の一例を示すグラフ図である。図1では、横軸に介在物の直径dを取り、縦軸に介在物の浮上速度Uを取り、両者の関係をプロットしている。
ここで、各種の実験や実際の操業における実績データ等により、一般的に、鋳片の品質を著しく悪化させ得る介在物の直径は約0.6(mm)以上であることが知られている。d=0.6(mm)である介在物の浮上速度Uは、上記数式(3)から、U=11.8(cm/s)と求めることができる。従って、例えば、溶鋼内における下降流速の大きさが11.8(cm/s)よりも小さくなるような条件で連続鋳造を行うことにより、高品質な鋳片を得ることが可能になる。
なお、上述した介在物の密度ρ、溶鋼の密度ρl、及び介在物の直径dの具体的な数値はあくまで一例である。本発明を適用する際には、これらの値としては、実際の操業条件に則した値が用いられればよい。
(1−1−2.下降流速の評価位置についての検討)
以上説明したように、上記数式(3)を用いることにより、高品質な鋳片を得るための溶鋼内の下降流速の大きさについての条件を規定することができる。一方、溶鋼内における下降流速の大きさは、水平面内及び深さ方向において分布を有していると考えられるため、どの位置での下降流速を評価の対象とするかが問題となる。下降流速の評価位置を決定するためには、連続鋳造中における溶鋼内での下降流の挙動を把握する必要がある。そこで、本発明者らは、次に、連続鋳造中における溶鋼の流動状態について考察した。
ここで、連続鋳造においては、鋳型とその下流2〜3メートルの範囲を垂直な形状とし、その後、鋳片を曲げて、最終的には水平に鋳片を引き抜く、いわゆる垂直曲げ型の連続鋳造機が多く用いられている。後述するように、垂直曲げ型の連続鋳造機では、不純物除去作用と高い生産性とを両立させることが可能となるからである。従って、本発明者らは、垂直曲げ型の連続鋳造機を用いた連続鋳造を対象として、連続鋳造中における溶鋼の流動状態についての考察を行った。
まず、図2及び図3を参照して、垂直曲げ型の連続鋳造機の概略構成、及び垂直曲げ型の連続鋳造機を用いた連続鋳造の概要について説明する。図2は、垂直曲げ型の連続鋳造機の概略構成を示す側断面図である。簡単のため、図2では、垂直曲げ型の連続鋳造機10のうち、鋳型110と、鋳型110の下方に設けられる複数対の支持ロール140のみを図示している。
鋳型110に対して浸漬ノズル(図示せず。)を介して溶鋼150が供給される。鋳型110によって冷却された溶鋼150は凝固し、鋳片160として鋳型110の下端から引き抜かれる。支持ロール140は、鋳片160の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳型110の下端から引き抜かれた鋳片160を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。つまり、支持ロール140によって鋳片160の搬送経路(パスライン)が形成される。
このパスラインは、図2に示すように、鋳型110の直下では鉛直方向に延伸し、次いで鉛直方向から水平方向に向かって曲線状に湾曲して、最終的には水平方向に延伸する。当該パスラインが鉛直方向に(すなわち、垂直に)延伸している部分を垂直部、湾曲している部分を湾曲部、水平方向に延伸している部分を水平部とも呼称する。当該パスラインの形状が、連続鋳造機10が、垂直曲げ型の連続鋳造機10と呼称される所以である。なお、以下の説明では、鋳型110内の湯面から垂直部の下端(終端)までの長さを垂直部長さDVとも呼称する。
図3は、連続鋳造機10における鋳型110の、幅方向と平行な方向での断面を模式的に示す図である。図3に示すように、浸漬ノズル120は、鋳型110の幅方向における略中央に、その先端から所定の長さの領域が溶鋼150内に浸漬するように配置される。浸漬ノズル120の先端近傍の側壁には、溶鋼150の吐出孔121が1対設けられる。当該1対の吐出孔121は、浸漬ノズル120の中心軸まわりに互いに180度ずれた位置にそれぞれ設けられており、鋳型110の短辺面とそれぞれ対向している。
吐出孔121から溶鋼150が鋳型110内に供給される。このとき、鋳型110の上部からはパウダ151が溶鋼150の湯面上に供給される。溶鋼150によって溶解したパウダは、溶鋼150と鋳型110の内壁との間の潤滑、浮上してきた介在物の吸着、及び溶鋼150の保温等の機能を果たす。
鋳型110内の溶鋼150は、鋳型110により冷却され、その外殻から徐々に凝固する。溶鋼150が鋳型110の下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部160bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル160aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル160aと未凝固部160bを含む鋳片160が鋳型110の下端から引き抜かれることにより、連続鋳造が行われる。
以上、垂直曲げ型の連続鋳造機の概略構成、及び垂直曲げ型の連続鋳造機を用いた連続鋳造の概要について説明した。
ここで、上記のように、溶鋼150内の介在物は、ある程度の深さ位置において自身の浮力によって上昇を開始する。そして、この浮上する際の終端速度の大きさが下降流速の大きさよりも大きければ、介在物は湯面に到達し、鋳片160から除去され得る。しかしながら、垂直曲げ型の連続鋳造機10においては、介在物が浮上を開始した位置が既に湾曲部に到達していた場合には、浮上した介在物が鋳片160の上側長辺面に集積してしまうため、当該介在物は除去され得ないこととなる。つまり、垂直曲げ型の連続鋳造機10において介在物を除去するためには、当該介在物が垂直部に位置している間に、当該介在物の浮上速度の大きさが下降流速の大きさよりも大きくなっている必要がある。つまり、高品質な鋳片を得るための溶鋼内の下降流速の大きさを評価する位置としては、垂直部終端位置が適切であると考えられる。なお、垂直部終端位置は、例えば設備図面に従って定義され得る。例えば、垂直部終端位置は、設備図面における垂直部と湾曲部との境界位置として定義される。
なお、垂直部長さDVが長いほど、湾曲部において介在物が捕捉される可能性が低くなるため、介在物の除去能力は高くなる。従って、不純物除去能力が最も優れているのは、完全に垂直な連続鋳造機(すなわち、パスラインが垂直部のみによって構成される連続鋳造機)である。しかしながら、完全に垂直な連続鋳造機では、鋳片が垂直方向に引き抜かれることとなるため、生産性が悪化する。そのため、垂直部を設けることによる不純物除去作用と、高い生産性とを両立させる観点から、好適に垂直曲げ型の連続鋳造機10が多く用いられているのである。
本発明者らは、垂直部における溶鋼150の流れについて考察するために、連続鋳造機10の垂直部を模した計算モデルに対して流体解析シミュレーションを行った。当該流体解析シミュレーションにおける条件(以下、条件1ともいう)は、以下の通りである。
(条件1)
鋳型幅:2200(mm)
鋳型厚み:300(mm)
鋳造速度:1.2(m/min)
吐出孔の形状:鋳片の厚み方向の幅が65(mm)、深さ方向の高さが80(mm)で、下向き25度を向いた形状
ノズル浸漬深さ(浸漬ノズル120の浸漬深さ):吐出孔121の上端の湯面からの深さが210(mm)
連続鋳造機の垂直部長さDV:2.5(m)
また、一般的に、連続鋳造機10には電磁撹拌装置(図2では図示せず)が設けられることが多い。電磁撹拌装置は、溶鋼150内の気泡等が凝固シェル160aの界面に捕捉され欠陥となって現れることを防ぐために、鋳型110内の溶鋼150を電磁力により撹拌するものである。そこで、当該流体解析シミュレーションでは、当該電磁撹拌装置も考慮した。具体的には、当該流体解析シミュレーションでは、鋳型110内の溶鋼150に、水平面内において鋳型110の長辺面に沿った流れを生じさせるように電磁撹拌装置が設置されているものとした。なお、電磁撹拌装置の設置位置は、後述する図8と同様、その鉄芯コアの中心位置が、浸漬ノズル120の吐出孔121と略同一の高さになる位置である。条件1では、620(A)、3.5(Hz)の交流電流を通電して当該電磁撹拌装置を駆動させた場合における溶鋼150の流れを解析した。
図4は、条件1における流体解析シミュレーションによって得られた、鋳型110の厚み方向における中心断面での溶鋼流速の分布を示す図である。図4では、流速分布をベクトルによって表示している。図4を参照すると、垂直部終端位置において、鋳型短辺面両側の凝固シェル界面近傍及び幅方向の中心の3系統の下降流が形成されていることが確認できる。
このような3系統の下降流が形成される経緯は、以下のように説明できる。すなわち、浸漬ノズル120の吐出孔121から噴出された溶鋼150の吐出流は、鋳型110の短辺面に衝突し、上昇流と下降流が形成される。当該下降流に従って鋳型110の下方に向かって流れた溶鋼150のうちの一部は、鋳型110の短辺による冷却により温度が低下し、そのまま熱対流により短辺の凝固シェル160aに沿って下降していく。一方、比較的高温な溶鋼150を多く含む部分は、熱対流により鋳型110内を幅方向の中央に向かって上昇していく。この鋳型110内を幅方向の中央に向かって上昇する流れは、幅方向の中央近傍で対面側の短辺からの同様の流れと衝突し、上下流が形成される。このようにして、連続鋳造時には、鋳型110の両方の短辺近傍、及び幅方向の中心の、3系統の下降流が形成される。なお、図3では、以上説明した溶鋼150の流動を、概略的に矢印で示している。
更に、本発明者らは、上記流体解析シミュレーションの結果に基づいて、下降流の流速を定量的に評価した。図5は、条件1における流体解析シミュレーションによって得られた、鋳型110の短辺面の凝固シェル界面における下降流速の深さ方向の分布を示す図である。図6は、条件1における流体解析シミュレーションによって得られた、垂直部終端位置(湯面からの深さ2.5(m)の位置)での水平断面における下降流速の分布を示す等高線図である。なお、図5及び図6では、深さ方向への流速を正としている。従って、図6において、値が負である領域(「<0.0」を付している領域)は、上昇流が生じている領域を意味している。
図5を参照すると、鋳型110の短辺面の凝固シェル界面に沿った下降流は、湯面からの深さが0.7(m)から1.5(m)の範囲において、20〜30(cm/s)という比較的大きな流速を有するが、湯面からの深さが1.5(m)よりも深い領域では、6〜8(cm/s)という比較的小さな流速を有する。
一方、図6を参照すると、垂直部終端位置での水平断面では、鋳型110の短辺面の凝固シェル界面から少し内側に入った位置に、下降流速が最大となる領域が存在していることが分かる。当該領域における下降流速は、10〜15(cm/s)である。
ここで、図6に示す結果は、条件1に対応する鋳造条件で連続鋳造を行った場合には、垂直部終端位置において、最大で15(cm/s)程度の流速を有する下降流が存在していることを示している。図1に示すグラフ図を参照すれば、あくまで溶鋼の温度が1550℃であり対象としている介在物がアルミナであると仮定した場合ではあるが、15(cm/s)の流速を有する下降流が存在する場合には、直径0.7(mm)程度の介在物も鋳片に残留する可能性があることとなる。つまり、図6に示す結果から、条件1に対応する鋳造条件で連続鋳造を行った場合には、上記(1−1−1.下降流速の大きさについての検討)で説明した下降流速の大きさについての条件を満たしていないため、鋳片の品質は著しく悪化することが予想される。
本発明者らは、この予想が正しいことを確認するために、条件1と同様の鋳造条件で実際に連続鋳造を行い、その結果得られた鋳片の品質を超音波探傷検査によって調査した。その結果、欠陥発生率は40%であり、鋳片の品質が非常に悪いことが確認できた。なお、超音波探傷検査において検出される欠陥は、サイズが0.5(mm)以上の介在物が鋼板製品の断面内に存在する比率である。
(1−2.検討内容のまとめと本発明の基本原理)
以上、本発明者らが浮上条件について検討した結果について説明した。以上説明したように、本発明者らは、垂直部終端位置における水平断面内での下降流速の大きさによって、介在物の浮上条件を規定し得ることを見い出した。
ただし、下降流速の大きさを評価する高さ方向の位置は、必ずしも垂直部終端位置でなくてもよく、垂直部終端位置から上方及び/又は下方の所定の範囲(以下、垂直部終端位置近傍ともいう)であってもよい。例えば、図4に示すように、下降流速の大きさは、下降流が垂直部終端位置に達する前に、当該垂直部終端位置での流速の大きさに近い値になっていることがある。従って、垂直部終端位置から上方の所定の範囲において下降流速の大きさを評価したとしても、介在物の浮上条件を規定することができる。また、パスラインの湾曲部の曲率半径は、例えば10(m)前後であることが多いため、垂直部終端位置よりも下方において下降流速の大きさが介在物の浮上速度Uの大きさよりも小さくなった場合であっても、浮上した介在物が鋳片160の上側長辺面に集積することなく湯面まで到達できる可能性がある。つまり、垂直部終端位置から下方の所定の範囲において下降流速の大きさを評価したとしても、介在物の浮上条件を規定することができる。
まとめると、垂直曲げ型の連続鋳造機10を用いた連続鋳造における浮上条件は、「垂直部終端位置又は垂直部終端位置近傍における水平断面内において溶鋼150内で生じている下降流速の大きさが、上記数式(3)から求められる介在物の浮上速度Uの大きさよりも小さいこと」であると規定することができる。換言すれば、当該浮上条件を満たすように連続鋳造を行えば、高品質な鋳片160を得ることが可能となる。本発明の基本原理は、当該浮上条件を満たすように連続鋳造を行うことである。
なお、「垂直部終端位置近傍」の具体的な範囲については、連続鋳造機10の構成(特に垂直部長さDV)や、鋳造条件(鋳型110の幅、鋳型110の厚み、鋳造速度、浸漬ノズル120の吐出孔121の形状、ノズル浸漬深さ、及び電磁撹拌装置の駆動電流等)等に基づいて、適宜決定すればよい。例えば、本発明者らによる検討の結果、一般的な構成を有する連続鋳造機、及び一般的な操業条件を想定した場合には、垂直部終端位置の上方500(mm)よりも下方、より好ましくは垂直部終端位置の上方300(mm)よりも下方において下降流速の大きさを評価することにより、垂直部終端位置において下降流速の大きさを評価した場合とほぼ同様に、鋳片160の品質を良好に判定することができた。また、同様に、例えば、垂直部終端位置の下方500(mm)よりも上方、より好ましくは垂直部終端位置の下方300(mm)よりも上方において下降流速の大きさを評価することにより、垂直部終端位置において下降流速の大きさを評価した場合とほぼ同様に、鋳片160の品質を良好に判定することができた。つまり、「垂直部終端位置近傍」の具体的な範囲は、例えば、垂直部終端位置の上方500(mm)よりも下方かつ垂直部終端位置の下方500(mm)よりも上方の範囲であり、より好ましくは、垂直部終端位置の上方300(mm)よりも下方かつ垂直部終端位置の下方300(mm)よりも上方の範囲である。
(2.本実施形態に係る連続鋳造方法)
本発明者らは、以上説明した基本原理に則した連続鋳造方法について鋭意検討した結果、以下に示す本発明の好適な一実施形態に係る連続鋳造方法に想到した。以下、本発明者らが想到した、一実施形態に係る連続鋳造方法について詳しく説明する。なお、以下の実施形態及び実施例では、一例として、浮上条件について検討する際に「垂直部終端位置」での下降流速に注目した場合について説明する。ただし、上述したように、本発明における浮上条件では、必ずしも「垂直部終端位置」のみにおいて下降流速を評価しなくてもよく、「垂直部終端位置近傍」において下降流速を評価してもよい。
(2−1.連続鋳造機の構成)
まず、本実施形態に係る連続鋳造方法に用いられる連続鋳造機の構成について説明する。本実施形態では、例えば図2に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機が用いられる。当該連続鋳造機としては、一般的な構成を有する各種の垂直曲げ型の連続鋳造機を用いることができる。
また、本実施形態では、電磁撹拌装置が設けられた連続鋳造機を好適に用いる。図7は、電磁撹拌装置が設けられた鋳型の構成を概略的に示す図である。図7では、鋳型を上方から見た様子を示しており、浸漬ノズルの位置を概略的に併せて図示している。
図7に示すように、鋳型110は、鋳片の幅及び厚さに応じた四角筒状を有する。浸漬ノズル120は、図3を参照して上述したように、1対の溶鋼150の吐出孔がそれぞれ鋳型110の短辺面と対向するように、鋳型110の幅方向の略中央に配置される。鋳型110の長辺面の外側に、それぞれ、例えばステンレスからなるバックアッププレート135を介して、電磁撹拌装置130が設けられる。電磁撹拌装置130は、電磁鋼板からなる鉄芯コアに銅線を巻き付けることにより構成される電磁コイル(図示せず)が鋳型110の長辺面の幅方向(すなわち、鋳型110の幅方向)に沿って複数並べられて構成される。
これらの電磁コイルには、図示しない電源が接続される。当該電源によって、隣り合う電磁コイルに印加される電流の位相が適宜ずれるように、これらの電磁コイルに対して電流が印加されることにより、鋳型110内の溶鋼150に磁界が印加される。なお、電源の駆動は、図示しない制御装置によって適宜制御され得る。当該制御装置により、各電磁コイルに印加する電流量や、各電磁コイルに電流を印加するタイミング等が適宜制御され、溶鋼150に印加される磁界の強さが制御され得る。
電磁撹拌装置130によって溶鋼150に対して磁界が印加されることにより、ローレンツ力の作用により、溶鋼150内に流れが発生する。図7では、溶鋼150に作用するローレンツ力(電磁力)を、太線矢印で概略的に図示している。
図示するように、電磁撹拌装置130は、鋳型110の幅方向に沿った方向の電磁力が作用するように、溶鋼150に対して磁界を印加する。また、この際、電磁撹拌装置130は、一の長辺面に沿った電磁力の方向が、対向する他の長辺面に沿った電磁力の方向と逆向きになるように、溶鋼150に対して磁界を印加する。これにより、鋳型110内の溶鋼150には、水平面内での旋回流が形成されることとなる。このように旋回流を発生させて、凝固シェル成長界面の溶鋼150を流動させることにより、溶鋼150中の不活性ガスの気泡が凝固シェルに捕捉されてピンホール性欠陥が発生することを抑制することができる。
なお、電磁撹拌装置130は、鋳型110の幅方向に沿った流動を溶鋼150に生じさせるものであればよく、その具体的な構成は限定されない。電磁撹拌装置130としては、各種の公知の構成のものを用いることができる。
(2−2.下降流速の制御方法)
次に、本実施形態における下降流速の制御方法について説明する。図4を参照して上述したように、鋳型110内の下降流は、浸漬ノズル120の吐出孔121から噴出されて鋳型110の短辺面に衝突する溶鋼流に起因して生じている。従って、下降流速を制御するためには、この浸漬ノズル120の吐出孔121から鋳型110の短辺面に向かう溶鋼流速を制御すればよい。
本実施形態では、鋳型厚み、鋳造速度、浸漬ノズルの浸漬深さ(ノズル浸漬深さ)、及び電磁撹拌装置の駆動電流の少なくともいずれかを調整することにより、この鋳型短辺面に向かう溶鋼流速を制御する。鋳型厚みについては、当該鋳型厚みが大きければ、浸漬ノズル120の吐出孔121から噴出された溶鋼150が、鋳型110の厚み方向により拡散しやすくなるため、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速をより小さくすることができる。一方、鋳型厚みが小さければ、浸漬ノズル120の吐出孔121から噴出された溶鋼150が、鋳型110の厚み方向により拡散し難くなるため、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速をより大きくすることができる。
鋳造速度については、当該鋳造速度を調整することにより、浸漬ノズル120の吐出孔121から噴出される単位時間当たりの溶鋼量を制御することができるため、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速を制御することができる。具体的には、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速をより小さくしたければ鋳造速度を低下させればよく、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速をより大きくしたければ鋳造速度を増加させればよい。
ただし、鋳型厚みは、製品の規格に応じて決定され得るパラメータであるため、実際には任意に変更することは難しい。また、鋳造速度の変化は生産効率に直結する。従って、好ましくは、他の制御因子であるノズル浸漬深さ及び/又は電磁撹拌装置の駆動電流によって鋳型短辺面に向かう溶鋼流速が制御されることが好ましい。
ノズル浸漬深さ又は電磁撹拌装置の駆動電流によって鋳型短辺面に向かう溶鋼流速が制御され得ることは、以下のように説明される。図8は、浸漬ノズル120の吐出孔121と電磁撹拌装置130との位置関係の一例を示す図である。図8では、図3と同様に、鋳型110の幅方向と平行な方向での断面を模式的に示すとともに、電磁撹拌装置130の位置を想像線で模擬的に示している。図9は、浸漬ノズル120の吐出孔121と電磁撹拌装置130とが図8に示す位置関係にある場合における、鉄芯コア中心位置での溶鋼150の流れを模擬的に示す図である。図9では、鋳型110とともに、溶鋼150の流れを模擬的に矢印で図示している。当該矢印の太さは流速の大きさを概略的に示している。
図8に示すように、浸漬ノズル120の吐出孔121と、電磁撹拌装置130の鉄芯コアの中心位置と、が略同一の高さに位置しているとする。なお、この状態は、上述した条件1におけるノズル浸漬深さに対応している。この場合における鉄芯コアの中心位置における溶鋼150の流動について考察すると、図9(a)に示すように、浸漬ノズル120の吐出孔121からの吐出流は、鋳型110の幅方向中央から短辺面に向かう方向の流れを有している。一方、図9(b)に示すように、電磁撹拌装置130によって生じる溶鋼流は、図7にも示したように、2つの長辺面において互いに逆向きの、鋳型110の幅方向に沿った流れを有している。溶鋼150内にはこれらの流れが合成された流れが生じるため、図9(c)に示すように、最終的に、浸漬ノズル120の吐出孔121からの吐出流が電磁撹拌装置130によって加速されたものが、鋳型短辺面に向かう溶鋼流となって生じることとなる。
従って、ノズル浸漬深さを調整し、吐出孔121と電磁撹拌装置130の鉄芯コアとの高さ方向における位置関係を変更することにより、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速を制御することができる。具体的には、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速をより小さくしたければ、浸漬ノズル120の吐出孔121の高さ方向における位置を電磁撹拌装置130の鉄芯コアからよりずらせばよい。また、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速をより大きくしたければ、浸漬ノズル120の吐出孔121の高さ方向における位置を電磁撹拌装置130の鉄芯コアにより近付ければよい。
また、電磁撹拌装置130の駆動電流を調整し、電磁撹拌装置130によって生じる溶鋼流の大きさを制御することにより、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速を制御することができる。具体的には、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速をより小さくしたければ、電磁撹拌装置130の駆動電流をより小さくすればよい。また、鋳型短辺面に向かう溶鋼流速をより大きくしたければ、電磁撹拌装置130の駆動電流をより大きくすればよい。
ここで、上記浮上条件を満たすための、鋳型厚み、鋳造速度、ノズル浸漬深さ、及び/又は電磁撹拌装置の駆動電流の調整量は、例えば流体解析シミュレーションによって設定すればよい。ここでは、上記浮上条件を満たす条件の一例として、上述した条件1とは異なる、下記条件2の下で流体解析シミュレーションを行った結果について説明する。条件2の詳細は以下の通りである。
(条件2)
鋳型の幅:2200(mm)
鋳型の厚み:300(mm)
鋳造速度:1.2(m/min)
吐出孔の形状:鋳片の厚み方向の幅が65(mm)、深さ方向の高さが80(mm)で、下向き25度を向いた形状
ノズル浸漬深さ:吐出孔121の上端の湯面からの深さが310(mm)
連続鋳造機の垂直部長さDV:2.5(m)
電磁撹拌装置の駆動電流:400(A)、3.5(Hz)の交流電流
条件2は、条件1に対して、ノズル浸漬深さをより深くして吐出孔121の高さを電磁撹拌装置の鉄芯コアの中心位置からずらすとともに、電磁撹拌装置の駆動電流をより小さくしたものに対応する。つまり、条件2では、条件1よりも、下降流速を小さくすることを意図している。
流体解析シミュレーションの結果を図10及び図11に示す。図10は、条件2における流体解析シミュレーションによって得られた、鋳型110の短辺面の凝固シェル界面における下降流速の深さ方向の分布を示す図である。図11は、条件2における流体解析シミュレーションによって得られた、垂直部終端位置(湯面からの深さ2.5(m)の位置)での水平断面における下降流速の分布を示す等高線図である。図5及び図6と同様に、図10及び図11では、深さ方向への流速を正としている。図11において、値が負である領域(「<0.0」を付している領域)は、上昇流が生じている領域を意味している。
図10に示す結果と、図5に示す条件1における結果とを比較すると、湯面からの深さが比較的浅い領域における流動状態が変化していることが分かる。具体的には、条件2の場合には、ノズル浸漬深さをより深くしたことにより、湯面からの深さが0.6(m)程度の位置で下降流速がゼロ、すなわち吐出孔121からの吐出流が鋳型短辺面に衝突していることが分かる。しかしながら、湯面からの深さが1.5(m)よりも深い領域では、条件1の場合と同様、下降流速は6〜8(cm/s)である。つまり、条件1、2とも、凝固シェル界面近傍のみに注目すれば、この界面近傍の領域における介在物の浮上状況は同様であると考えられる。
しかしながら、図11に示す結果と、図6に示す条件1における結果とを比較すると、条件2の場合には、垂直部終端位置において、下降流速が10(cm/s)よりも大きい領域が存在していないことが分かる。この結果は、図1に示す介在物の直径と浮上速度との関係と照らし合わせれば、条件2においては、直径約0.55(mm)以上の介在物が湾曲部よりも下に下降しないことを示している。つまり、直径約0.55(mm)以上の介在物を対象とした場合には、条件2は、上記浮上条件を満たしている。上述したように、鋳片の品質を著しく悪化させ得る介在物の直径は約0.6(mm)以上であると言われているため、条件2では、条件1に比べて鋳片品質が向上し得ることが予想される。
本発明者らは、この予想が正しいことを確認するために、条件1の場合と同様に、条件2と同様の鋳造条件で実際に連続鋳造を行い、その結果得られた鋳片の品質を超音波探傷検査によって調査した。その結果、欠陥発生率は約5%であり、条件1に比べて鋳片品質が非常に向上していることが確認できた。
(2−3.従来技術との比較)
ここで、従来技術である上記特許文献1〜3に記載の技術と、本実施形態に係る連続鋳造方法との比較を行う。
特許文献1に記載の技術では、上記数式(1)に示す下降流F値を用いて鋳片内の介在物量を評価している。ここで、上述したように、本発明者らは、条件2において条件1よりも介在物量が低下し、鋳片品質が向上することを確認した。しかしながら、条件1と条件2との違いは、ノズル浸漬深さ及び電磁撹拌装置の駆動電流であり、これらの因子は上記数式(1)には含まれていない。従って、特許文献1に記載の技術では、条件1と条件2との違いを評価することができない。実際に、本発明者らが、条件1、2について、特許文献1に記載の方法によって下降流F値を算出した結果、当該下降流F値は、いずれも約31.3であった。つまり、条件2では、下降流F値が特許文献1に示す条件(下降流F値<1.0)を満たしていないにもかかわらず、高品質な鋳片を得ることができている。このように、特許文献1に記載の下降流F値による評価では、鋳片品質を正確に評価できているとは言い難い。
これに対して、本実施形態に係る連続鋳造方法は、垂直部終端位置での下降流速の大きさに基づいて、介在物の浮上速度の大きさとの関係から鋳片内の介在物量を評価する。下降流速の大きさと介在物の浮上速度の大きさとのより直接的な大小関係によって鋳片内の介在物量を評価するため、より確実にその評価を行うことができる。
また、特許文献2に記載の技術は、電磁ブレーキ装置による印加制動磁界の強さBを上記数式(2)を満たすように制御することにより、鋳片内の介在物量を低減するものである。しかしながら、特許文献2に記載の技術は、電磁ブレーキ装置を有する連続鋳造機にしか適用することができないため、汎用性が低いという問題がある。
これに対して、本実施形態に係る連続鋳造方法は、垂直曲げ型の連続鋳造機であれば各種の連続鋳造機に適用可能であるため、適用範囲がより広いと言える。
また、特許文献3に記載の技術は、デンドライト傾斜角によって下降流速を評価し、鋳片内の介在物量を低減するものである。ここで、デンドライト傾斜角によって評価可能な下降流速は、図5及び図10に示すような、凝固シェル界面における流速である。一方、図5及び図6を参照して説明したように、鋳型110の短辺面の凝固シェル界面での流速は、必ずしも垂直部終端位置での水平断面内における最大流速ではない。従って、特許文献3に記載の技術において、条件1に対応する鋳造条件で連続鋳造を行った場合には、デンドライト傾斜角から推定される下降流速は介在物量を低減するための条件を満たし得るが、水平断面内での下降流速は介在物量を低減するための条件を満たしていない、という事態が生じ得る。つまり、特許文献3に記載の方法では、凝固シェル界面における下降流速にしか注目していないため、介在物の浮上及び除去に影響し得る下降流速を正当に評価できていない恐れがある。
これに対して、本実施形態に係る連続鋳造方法では、介在物の浮上条件として、垂直部終端位置での水平断面内における最大流速に注目している。従って、より確実に、高品質な鋳片を得るための鋳造条件を設定することが可能になる。
このように、本実施形態によれば、従来の連続鋳造方法に比べて、より確実に鋳片品質を確保することが可能になる。また、各種の連続鋳造機に、より汎用的に適用することが可能となる。
以上説明した本実施形態に係る連続鋳造方法を、鉄鋼プラントにおける実際の連続鋳造機に適用し、本発明の効果を確認するための実験を行った。当該実験では、電磁撹拌装置が設けられた垂直曲げ型の連続鋳造機を用いて、鋳型厚み、鋳造速度、ノズル浸漬深さ、電磁撹拌装置の駆動電流(EMS電流)が互いに異なる複数の条件において実際に連続鋳造を行い、得られた鋳片の欠陥率を評価した。欠陥率は、超音波探傷試験による評価結果である。なお、電磁撹拌装置の鉄芯コアの中心位置は、湯面から160mmの深さである。また、鋳型幅は2200(mm)で同一にした。また、これらの因子以外に鋳片品質に影響を及ぼす因子について調査するために、浸漬ノズルの吐出孔角度も変更した。
結果を下記表1に示す。表1では、各条件における上記の各因子の値を示すとともに、欠陥率、及び当該欠陥率から導かれる鋳片品質の合否判定の結果を示している。合否判定については、欠陥率が10%以下であった条件を合格とみなして「○」を、欠陥率が10%よりも大きかった条件を不合格とみなして「×」を付している。なお、表中の条件1、2は、上述した条件1、2に対応している。
また、表1では、併せて、各条件における、シミュレーションによって求めた、電磁撹拌装置によって溶鋼に生じる撹拌力(EMS撹拌力)、及び垂直部終端位置における最大下降流速の値を示している。なお、垂直部長さDVは2.5(m)である。また、EMS撹拌力については、代表値として、鋳型内の長辺面から6(mm)の位置において、鋳型の幅方向全域及び湯面から電磁撹拌装置の鉄芯コアが存在する深さまでの範囲内における電磁力を平均化した値を示している。
表1に示す結果から、垂直部終端位置における最大下降流速が10(cm/s)よりも小さくなる場合には、欠陥率を10%以下に抑えられることが確認できる。換言すれば、表1に示す結果から、垂直部終端位置において10(cm/s)以上の下降流速を発生させないことが、鋳片の内質を確保するために有効であることが分かる。ここで、図1に示す介在物の直径と浮上速度との関係と照らし合わせれば、最大下降流速が10(cm/s)よりも小さければ、直径約0.55(mm)以上の介在物が湾曲部よりも下に下降しないこととなるため、最大下降流速が10(cm/s)よりも小さくなる条件とは、すなわち、本発明における浮上条件を満たし得る条件であると言える。つまり、当該結果は、本発明における浮上条件を満たすように連続鋳造を行うことにより、実際に鋳片品質が確保され得ることを示している。
個別の因子について詳細に考察すると、ノズル浸漬深さについては、当該ノズル浸漬深さが210(mm)の場合には、欠陥率が10%以下となることがなかった。一方、ノズル浸漬深さが260(mm)以上の場合には、他の因子に応じて欠陥率が10%以下となった。従って、少なくとも本実験を行った条件においては、ノズル浸漬深さは260(mm)よりも深くする必要がある。ただし、この結果は、電磁撹拌装置の鉄芯コアの中心位置が湯面から160mmの深さである場合における結果である。浸漬ノズルの吐出し孔の高さと電磁撹拌装置の鉄芯コアの高さとの間に差があれば、下降流速が低下し、欠陥率も低下すると考えられるため、ノズル浸漬深さの最適値は、電磁撹拌装置の設置位置も考慮して決定する必要がある。
EMS電流については、当該EMS電流が620(A)(EMS撹拌力:5081N/m3に対応)以上の場合には、ノズル浸漬深さを深くしても、欠陥率が10%以下となることがなかった。一方、EMS電流が530(A)(EMS撹拌力:3715N/m3に対応)以下の場合には、他の因子に応じて欠陥率が10%以下となった。従って、少なくとも本実験を行った条件においては、EMS電流は530(A)以下にする必要がある。
吐出孔角度については、当該吐出孔角度を変更した影響は小さかった(条件34、35の結果を参照)。従って、少なくとも本実験を行った条件においては、鋳片品質向上のために吐出孔角度を調整する意義は小さいと考えられる。
鋳型厚みと鋳造速度については、鋳型厚みが300(mm)である場合には、鋳造速度が1.3(m/min)以下でないと、欠陥率が10%以下にならなかった(条件36、37の結果を参照)。また、鋳型厚みが240(mm)である場合には、鋳造速度が1.4(m/min)以下でないと、欠陥率が10%以下にならなかった(条件38の結果を参照)。
以上の各因子についての考察から、本実験を行った条件においては、鋳片品質への影響度が大きい因子は、鋳型厚み、鋳造速度、ノズル浸漬深さ及びEMS撹拌力であると考えられる。これらの因子(鋳型厚みT(mm)、鋳造速度Vc(m/min)、ノズル浸漬深さD(mm)、EMS撹拌力F(N/m3))について、欠陥率が10%以下となる範囲を近似式により規定すると、下記数式(4)となる。
つまり、上記数式(4)を満たすように連続鋳造を行うことにより、高品質な鋳片を製造することができる。
ただし、本実施例において挙げた各因子の最適値や上記数式(4)に示す条件式は、あくまで、本実施例に係る実験を行った条件を前提としたものである。従って、垂直部終端位置における下降流速に影響し得る他の因子(例えば、垂直部高さDV、鋳型幅、及び/又は電磁撹拌装置の鉄芯コアの高さ(電磁撹拌装置の高さ方向の設置位置)等)が変更されれば、各因子の最適値や上記数式(4)に示す条件式は変化し得る。鋳造条件についての具体的な最適条件は、このような垂直部終端位置における下降流速に影響し得る各因子を総合的に考慮して決定されるべきである。
(3.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。