JP6620513B2 - ステンレス鋼材の製造方法、及び、ステンレス鋼材の化成処理方法 - Google Patents

ステンレス鋼材の製造方法、及び、ステンレス鋼材の化成処理方法 Download PDF

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Description

本発明は、鋼材の製造方法、及び、鋼材の化成処理方法に関し、さらに詳しくは、ステンレス鋼材の製造方法、及び、ステンレス鋼材の化成処理方法に関する。
海洋油井やガス井の深井戸化に伴い、油井管等の鋼管には、高い耐食性が求められている。このような高い耐食性が求められる環境では、ステンレス鋼材が使用される。耐食性のさらなる向上のため、高Crのステンレス鋼材も利用されている。
ステンレス鋼材、特に、Crが20%以上含有し、Niが6%以上含有する高Crのステンレス鋼材は、難加工材料である。そのため、このようなステンレス鋼材は、次の工程で製造される。熱間加工によりステンレス鋼材を製造する。ステンレス鋼材に対して冷間加工を実施する。冷間加工はたとえばピルガ圧延である。ピルガ圧延の場合、難加工材料の圧延が可能である。しかしながら、ピルガ圧延は生産性が低く、製造コストも高くなる。したがって、最近では、冷間加工として、ピルガ圧延よりも生産性の高い冷間引抜きが利用される場合がある。
冷間引抜きでは、加工性を高めるために、冷間引き抜き前の鋼材表面の潤滑性を高める。具体的には、ステンレス鋼材の場合、化成処理により、鋼材表面に蓚酸塩被膜を形成する。そして、蓚酸塩被膜が形成されたステンレス鋼材の表面に、石けん等の潤滑剤を付着し、潤滑性を高める。以上の前処理を施したステンレス鋼材に対して、冷間引抜きを実施する。
しかしながら、ステンレス鋼材のうち、特に、上述の高Crのステンレス鋼材では、化成処理を実施しても、その表面に蓚酸塩被膜が十分に形成されない。Cr含有量が高い場合、鋼材表面に不動態被膜が形成される。この不動態被膜が蓚酸塩被膜の密着性を低下し、蓚酸塩被膜の形成を抑制していると考えられる。
高Crのステンレス鋼材において、蓚酸塩被膜を安定的に形成する技術が特開2014−43606号公報(特許文献1)及び特開平6−220651号公報(特許文献2)に提案されている。
特許文献1では、蓚酸塩処理溶液に、促進剤として亜硫酸塩を添加する。この場合、高Cr含有量が15%を超えるステンレス鋼管であっても、蓚酸塩被膜を安定して形成できる、と記載されている。しかしながら、最近では上述のとおり、Cr含有量が20%以上の高Crのステンレス鋼材においても、蓚酸塩被膜の安定した形成が求められる。
特許文献2に開示された高耐食性金属材料の潤滑方法では、はじめに、金属材料の表面に鉄鋼粒でショットブラスト処理を行う。次に、酸洗処理を行うことなく、蓚酸塩被膜を形成する。この方法の場合、酸洗処理を実施しないため、表面に不動態被膜が形成されない。さらに、ショットブラスト処理による表面の凹凸により、蓚酸塩被膜の密着性が高くなる、と記載されている。しかしながら、ショットブラストによる脱スケール処理が十分でなければ、蓚酸塩被膜の密着性が低下する。この場合、冷間加工時に蓚酸塩被膜が剥離し、潤滑性が低下する。
特開2014−43606号公報 特開平6−220651号公報
本発明の目的は、ステンレス鋼材の潤滑性を高め、生産性を高めることができるステンレス鋼材の製造方法を提供することである。
本発明によるステンレス鋼材の製造方法は、ステンレス鋼材に対してNiめっき処理を実施して、ステンレス鋼材の表面にNiめっき被膜を形成するめっき処理工程と、Niめっき被膜が形成されたステンレス鋼材に対して蓚酸化成処理を実施して、Niめっき被膜上に蓚酸塩被膜を形成する工程と、蓚酸塩被膜上に潤滑剤を付着した後、ステンレス鋼材に対して冷間引抜きを実施する工程とを備える。
本発明の蓚酸化成処理方法によれば、ステンレス鋼材の潤滑性を高め、生産性を高めることができる。
本発明者らは、ステンレス鋼材の潤滑性を高めるため、調査及び検討を行った。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
ステンレス鋼では、表面にCr酸化物を含む不動態被膜が形成される。不動態被膜は、Cr含有量が多いほど強固になる。ステンレス鋼材に対して蓚酸化成処理を実施する場合、蓚酸鉄からなる蓚酸塩被膜が形成される。しかしながら、不動態被膜が存在する場合、蓚酸鉄からなる蓚酸鉄被膜の形成が抑制される。そのため、ステンレス鋼材、特に、Cr含有量が20%以上となるステンレス鋼材では、蓚酸化成処理を実施した場合であっても、蓚酸塩被膜が安定して形成されにくい。
一方、ニッケル材に対して蓚酸化成処理を実施した場合、蓚酸ニッケルからなる蓚酸塩被膜が形成される。蓚酸ニッケルからなる蓚酸塩被膜は安定的に形成される。さらに、ニッケルはめっき被膜としてステンレス鋼材の表面上に形成できる。したがって、ステンレス鋼材の表面にNiめっき被膜を形成した後、蓚酸化成処理を実施すれば、ステンレス鋼材に蓚酸塩被膜を安定して形成できる。
以上の知見に基づいて完成した本発明によるステンレス鋼材の製造方法は、ステンレス鋼材に対してNiめっき処理を実施して、ステンレス鋼材の表面にNiめっき被膜を形成するめっき処理工程と、Niめっき被膜が形成されたステンレス鋼材に対して蓚酸化成処理を実施して、Niめっき被膜上に蓚酸塩被膜を形成する工程と、蓚酸塩被膜上に潤滑剤を付着した後、ステンレス鋼材に対して冷間引抜きを実施する工程とを備える。
上述のとおり、Niめっき被膜上には蓚酸塩被膜が安定して形成される。そのため、Niめっき被膜が形成されたステンレス鋼材には、蓚酸塩被膜が安定して形成される。そのため、ステンレス鋼材に潤滑剤が安定して付着して潤滑性が高まり、焼付き等を抑制しつつ冷間引抜きが可能となる。その結果、冷間加工としてピルガ圧延を利用する場合と比較して、生産性が高まる。
好ましくは、めっき処理工程は、電解Niめっき処理工程と、無電解Niめっき処理工程とを含む。電解Niめっき処理工程では、ステンレス鋼材に対して電解Niめっき処理を実施して、ステンレス鋼材の表面に電解Niめっき被膜を形成する。無電解Niめっき処理工程では、電解Niめっき被膜が形成されたステンレス鋼材に対して無電解Niめっき処理を実施して、電解Niめっき被膜上に無電解Niめっき被膜を形成する。
電解Niめっき被膜は、無電解Niめっき被膜よりも、不動態被膜が形成されたステンレス鋼材の表面に密着しやすい。一方、電解Niめっき処理のNiめっき被膜の形成速度は、無電解Niめっき処理よりも遅い。そこで、初めに電解Niめっき処理を行いNiめっき被膜をステンレス鋼材の表面上に安定して形成したのち、無電解Niめっき処理を行いNiめっき被膜を短時間で厚くする。この場合、Niめっき被膜の密着性を高めつつ、生産性を高めることができる。
好ましくは、電解Niめっき処理工程では0.3〜5.0μmの膜厚を有する電解Niめっき被膜を形成する。好ましくは、無電解Niめっき処理工程では3.0〜50.0μmの膜厚を有する無電解Niめっき被膜を形成する。この場合、冷間引抜き時のステンレス鋼材の潤滑性がさらに高まる。
本発明の冷間引抜きの対象となるステンレス鋼材の化学組成はたとえば、質量%で、Cr:20〜30%、Ni:6.0〜8.0%、及び、Mo:2.5〜3.5%を含有する。
本発明による製造方法では、Cr含有量が20%以上の高耐食性のステンレス鋼材に対しても、安定して蓚酸塩被膜を形成できる。
本発明による化成処理方法は、ステンレス鋼材に対してNiめっき処理を実施して、ステンレス鋼材の表面にNiめっき被膜を形成するNiめっき処理工程と、Niめっき被膜が形成されたステンレス鋼材に対して蓚酸化成処理を実施して、Niめっき被膜上に蓚酸塩被膜を形成する工程とを備える。
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、ステンレス鋼材の化学組成、及び、めっき浴等の処理剤に含まれる各成分の「%」は、「質量%」を意味する。
[ステンレス鋼材の製造方法]
本発明の製造方法の対象(素材)はステンレス鋼からなる。ステンレス鋼は、Cr含有量が10.5%以上の鋼を意味する。
本発明による製造方法は特に、高耐食性のステンレス鋼に有効である。高耐食性のステンレス鋼の化学組成はたとえば、Cr:20〜30%、Ni:6.0〜8.0、及び、Mo:2.5〜3.5%を含有する。高耐食性のステンレス鋼はたとえば、二相ステンレス鋼である。
上述の製造方法(冷間引抜き)の対象となるステンレス鋼材はたとえば、ステンレス鋼からなる鋼管、棒鋼又は線材である。
本発明の製造方法は、上述のステンレス鋼材にNiめっき被膜を形成するめっき処理工程と、Niめっき被膜上に蓚酸塩被膜を形成する化成処理工程と、化成処理工程後のステンレス鋼材に潤滑剤を付着させて冷間引抜きを実施する冷間引抜き工程とを備える。
[めっき処理工程]
めっき処理工程では、ステンレス鋼材に対して、Niめっき処理を実施して、蓚酸塩被膜の下地となるNiめっき被膜を形成する。Niめっき被膜の形成により、蓚酸ニッケルからなる蓚酸塩被膜がステンレス鋼材の表面に安定して形成できる。
好ましくは、めっき処理工程は、電解Niめっき処理工程と、電解Niめっき処理後に実施される無電解Niめっき処理工程とを含む。以下、電解Niめっき処理工程及び無電解Niめっき処理工程について詳述する。
[電解Niめっき処理工程]
初めに、ステンレス鋼材に対して電解Niめっき処理を実施して、ステンレス鋼材の表面に、電解Niめっき被膜を形成する。電解Niめっき処理では、周知のめっき浴を利用する。めっき浴はたとえば、ワット浴、スルファミン酸浴、ストライク浴等である。ストライク浴は、15質量%の塩化ニッケルと、10質量%の塩酸とを含有する。
ステンレス鋼材を陰極とし、Pt板又はNi板を陽極とする。陰極及び陽極を上述のめっき浴に浸漬して、電解Niめっき処理を実施する。好ましくは、電解Niめっき処理ではフラッシュめっきを実施する。電解Niめっき処理ではたとえば、電流密度80〜150mA/cm2であり、処理時間はたとえば、0.5〜10分である。
以上の電解Niめっき処理により、ステンレス鋼材の表面には薄膜のNiめっき被膜が形成される。
ステンレス鋼の表面に形成されている不動態被膜は、被膜の密着性を低下する。しかしながら、電解Niめっき処理では、無電解Niめっき処理と比較して、ステンレス鋼の表面におけるNiめっき被膜の密着性を高めることができる。一方、電解Niめっき処理の場合、無電解Niめっき処理と比較して、Niめっき被膜の形成速度が遅い。そのため、Niめっき被膜を厚くするのに時間がかかる。そこで、好ましくは、電解Niめっき処理としてフラッシュめっきを実施し、短時間で薄膜のNiめっき被膜をステンレス鋼材の表面上に形成する。そして、次工程の無電解Niめっき処理により、Niめっき被膜を厚くする。この場合、密着性が高く、かつ、厚みのあるNiめっき被膜を短時間で形成できる。
電解Niめっき被膜の好ましい膜厚は、0.3〜5.0μmである。電解Niめっき被膜の膜厚が0.3μm以上であれば、次工程の無電解Niめっき被膜の密着性が高まり、安定して形成される。電解Niめっき被膜の膜厚が5.0μm以下であれば、処理時間が長くなるのを抑制でき、生産性の低下を維持できる。したがって、電解Niめっき被膜の好ましい膜厚は0.3〜5.0μmである。
[無電解Niめっき処理工程]
電解Niめっき被膜を形成した後、無電解Niめっき処理を実施して、ステンレス鋼材の表面上のNiめっき被膜を厚くする。
無電解Niめっき処理は周知の方法で実施すればよい。たとえば、還元剤として次亜リン酸塩を利用する。この場合、Ni−Pめっき浴を準備する。Ni−Pめっき浴はたとえば、上村工業株式会社製の商品名ニムデンNPR−4である。
無電解Niめっき処理ではたとえば、めっき浴温度を78〜82℃、めっき浴中のNi濃度を4.3〜4.6g/L、めっき浴のpHを4.5〜4.7とし、処理時間を10分〜3時間とする。この場合、Pを含有する無電解Niめっき被膜が形成される。
無電解Niめっき被膜の好ましい膜厚は、3.0〜50.0μmである。膜厚が3.0μm以上であれば、蓚酸塩(蓚酸ニッケル)を形成するためのニッケルが十分に存在するため、蓚酸塩被膜が安定して形成される。一方、膜厚が50.0μm以下であれば、処理時間が長くなるのを抑制でき、生産性の低下を抑制できる。したがって、無電解Niめっき被膜の好ましい膜厚は、3.0〜50.0μmである。
上述の電解Niめっき被膜及び無電解Niめっき被膜の膜厚は次の方法で測定される。ステンレス鋼材の任意の5箇所の断面(Niめっき被膜が形成された表面に垂直な断面)において、電解及び無電解Niめっき被膜を含む表面近傍をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影してSEM画像を作成する。各SEM画像の視野は100μm×75μmとする。SEM画像のコントラストで、鋼管母材、電解Niめっき被膜、及び、無電解Niめっき被膜は判別可能である。各視野において、電解Niめっき被膜の膜厚の平均、及び、無電解Niめっき被膜の膜厚の平均を求め、各視野での電解Niめっき被膜の膜厚(μm)、及び無電解Niめっき被膜の膜厚(μm)とする。5視野の電解Niめっき被膜の膜厚の平均を、電解Niめっき被膜の膜厚(μm)と定義する。同様に、5視野の無電解Niめっき被膜の膜厚の平均を、無電解Niめっき被膜の膜厚(μm)と定義する。
上述の無電解Niめっき処理は、Ni−Pめっき浴を使用する。しかしながら、無電解Niめっき処理で仕様するめっき浴は、Ni−Pめっき浴に限定されない。めっき浴はたとえば、Ni−Bめっき浴であってもよいし、他の周知のめっき浴であってもよい。
上述のめっき処理工程は、一例として、電解Niめっき処理工程と、続いて実施される無電解Niめっき処理工程とを含む。しかしながら、めっき処理は電解Niめっき処理のみを実施してもよい。要するに、めっき処理によりNiめっき被膜が形成されればよい。
[蓚酸塩被膜形成工程]
Niめっき被膜を形成されたステンレス鋼材に対して、蓚酸化成処理を実施する。蓚酸化成処理は周知の方法で実施される。蓚酸化成処理の一例は次のとおりである。
主剤として蓚酸を含む溶液(化成浴)を準備する。化成浴に、Niめっき被膜が形成されたステンレス鋼材を所定時間浸漬する。以上の工程により、蓚酸塩(蓚酸ニッケル)からなる蓚酸塩被膜がNiめっき被膜上に形成される。
化成浴は、蓚酸と、被膜形成を助長するための数種類の薬剤とを含有する。薬剤はたとえば、不動態被膜を除去するエッチング剤としてのフッ化ナトリウム、蓚酸塩被膜を酸化させる酸化剤としての硝酸ナトリウム、反応促進剤としてのチオ硫酸ナトリウム等である。反応促進剤としてのチオ硫酸ナトリウムは含有されなくてもよい。
化成浴の一例は、主剤としての蓚酸:41.4〜46.3g/L、エッチング剤としてのフッ化ナトリウム:2.4〜4.9g/L、酸化剤としての硝酸ナトリウム:8.5〜9.7g/L、及び、促進剤としてのチオ硫酸ナトリウム:1.9g/Lを含有する。
蓚酸化成処理における化成浴の温度、及び、処理時間については特に限定されない。周知の処理温度及び処理時間で実施すればよい。化成浴の処理温度はたとえば、50〜100℃であり、処理時間を短縮させるための好ましい処理温度は、80〜90℃である。処理温度が80〜90℃の場合の好ましい処理時間の下限は1時間であり、より好ましくは2時間である。
以上の製造工程により、ステンレス鋼材に蓚酸塩被膜が形成される。上述のとおり、蓚酸化成処理前のステンレス鋼材の表面には、Niめっき被膜が形成されている。そのため、蓚酸化成処理において、Niめっき被膜中のNiが溶解して蓚酸と反応し、蓚酸ニッケルが形成される。したがって、本発明では、従前の蓚酸鉄からなる蓚酸塩被膜ではなく、蓚酸ニッケルからなる蓚酸塩被膜が形成される。蓚酸ニッケルは容易に形成されるため、本製造方法では、ステンレス鋼材の表面に、密着性の高い安定した蓚酸塩被膜が形成される。
蓚酸塩被膜の好ましい膜厚は0.5〜10μmである。膜厚が0.5μm以上であれば、蓚酸塩被膜の密着性がさらに高まる。一方、膜厚が10μm以下であれば、蓚酸化成処理時間が長くなるのを抑制でき、生産性の低下を抑制できる。したがって、蓚酸塩被膜の好ましい膜厚は0.5〜10μmである。蓚酸塩被膜の膜厚のさらに好ましい下限は1μmである。
[冷間引抜き工程]
蓚酸塩被膜が形成されたステンレス鋼材に対して冷間引抜きを実施する。
初めに、蓚酸塩被膜が形成されたステンレス鋼材に潤滑剤を付着させる。潤滑剤はたとえば、周知の金属石けん水溶液(ステアリン酸ナトリウムを主成分とする水溶液等)や、周知の潤滑油(Cl系やS系の極圧添加剤を含む油潤滑剤等)である。
潤滑剤の付着方法は次のとおりである。たとえば、潤滑剤を蓚酸塩被膜上に塗布して、付着させる。又は、潤滑剤を満たした処理槽内にステンレス鋼材を浸漬して、蓚酸塩被膜上に潤滑剤を付着させてもよい。他の周知の方法により、潤滑剤を付着させてもよい。
ステンレス鋼材の表面には密着性の高い蓚酸塩被膜が安定して形成されている。そのため、潤滑剤が十分に付着し、ステンレス鋼材の潤滑性が高まる。
潤滑剤が付着されたステンレス鋼材に対して、冷間引抜きを実施する。ステンレス鋼材の潤滑性は高いため、冷間引抜き時において、焼付き等の発生が抑制され、冷間引抜きが可能となる。そのため、ピルガ圧延による冷間加工と比較して、生産性を高めることができる。
高耐食性の二相ステンレス鋼管から作製したディスク(円板材)を用いて、種々の条件でディスク表面に蓚酸塩被膜を形成した。形成された蓚酸塩被膜の単位面積あたりの質量と、潤滑剤の付着量とを調査した。
[ディスクの製造]
25%のCrと、7%のNiと、3%のMoと、2%のWと、0.3%のNとを含有する高耐食性の二相ステンレス鋼管から作製したディスク(直径20mm、厚さ3mm)を複数本準備した。以下、鋼管及びディスクを合わせて供試材という。準備された複数の供試材(鋼管及びディスク)を用いて、表1に示す試験番号1〜14の製造条件で、供試材の表面に蓚酸塩被膜を形成した。
Figure 0006620513
表1を参照して、試験番号1〜9では、供試材(鋼管及びディスク)に対して、次の条件で電解Niめっき処理を実施した。めっき浴は15%の塩化ニッケルと、10%の塩酸とを含有した。電流を0.85A、電圧を5.1V、電流密度を113mA/cm2とし、時間を1分〜10分で変化させて電解Niめっき処理を実施し、種々の膜厚の電解Niめっき被膜を形成した。
電解Niめっき被膜を形成後、無電解Niめっき処理を実施した。上村工業株式会社製の商品名ニムデンNPR−4をNi−Pめっき浴として使用した。Ni濃度を4.6g/Lとし、めっき浴の温度を80℃に保持した。処理時間を15分〜2.5時間で変化させて無電解Niめっき処理を実施し、種々の膜厚の無電解Niめっき被膜を形成した。
形成された電解Niめっき被膜及び無電解Niめっき被膜の膜厚を次の方法で求めた。鋼管の任意の5箇所の横断面(鋼管の軸方向に垂直な断面)において、電解及び無電解Niめっき被膜を含む表面近傍をSEM(走査型電子顕微鏡)で撮影してSEM画像を作成した。各SEM画像の視野は上述のとおりであった。各視野において、電解Niめっき被膜の膜厚の平均、及び、無電解Niめっき被膜の膜厚の平均を求め、各視野での電解Niめっき被膜の膜厚(μm)、及び無電解Niめっき被膜の膜厚(μm)とした。5視野の電解Niめっき被膜の膜厚の平均を、対応する試験番号の電解Niめっき被膜の膜厚(μm)と定義した。同様に、5視野の無電解Niめっき被膜の膜厚の平均を、対応する試験番号の無電解Niめっき被膜の膜厚(μm)と定義した。得られた電解Niめっき被膜の膜厚(μm)、及び、無電解Niめっき被膜の膜厚(μm)を表1に示す。
無電解Niめっき被膜が形成された各試験番号の供試材(鋼管及びディスク)に対して、次の条件で蓚酸化成処理を実施した。
表1中の促進剤添加欄が「あり」の試験番号の化成浴は、蓚酸:41.4〜46.3g/L、フッ化ナトリウム:2.4〜4.9g/L、硝酸ナトリウム:8.5〜9.7g/L、及び、促進剤としてのチオ硫酸ナトリウム:1.9g/Lを含有した。一方、促進剤添加欄が「−」の試験番号の化成浴は、促進剤としてのチオ硫酸ナトリウムを含有せず、その他の構成は、上記化成浴(促進剤添加欄が「あり」の化成浴)と同じであった。いずれの試験番号においても、対応する化成浴を用いて2時間、化成処理を実施した。
試験番号10では、試験番号1〜9と比較して、電解Niめっき処理を実施したものの、無電解Niめっき処理を実施しなかった。電解Niめっき処理の条件は試験番号1〜9と同じであった。試験番号11及び12では、試験番号1〜9と比較して、電解Niめっき処理を実施せず、無電解Niめっき処理を実施した。無電解Niめっき処理の条件は、試験番号1〜9と同じであり、処理時間は1時間であった。試験番号13及び14では、電解Niめっき処理及び無電解Niめっき処理のいずれも実施しなかった。
試験番号10〜14についても、(電解又は無電解)Niめっき処理を実施した後、又は、いずれのNiめっき処理を実施することなく、試験番号1〜9と同じ条件で蓚酸化成処理を実施した。
[蓚酸Ni被膜の単位面積当たりの質量測定]
蓚酸化成処理後の各試験番号の鋼管において、蓚酸塩被膜の単位面積当たりの質量(以下、蓚酸塩被膜量という。単位はmg/cm2)を次の方法で測定した。
各試験番号の鋼管において、蓚酸化成処理前の質量を測定した。次に、蓚酸化成処理後の鋼管の質量を測定した。蓚酸塩被膜の質量を、次の式により求めた。
蓚酸塩被膜の質量=蓚酸化成処理後の鋼管質量−蓚酸化成処理前の鋼管質量
得られた蓚酸塩被膜の質量を、鋼管の表面積で除して、蓚酸塩被膜量(mg/cm2)を求めた。得られた蓚酸塩被膜量が1mg/cm2〜10mg/cm2未満の場合、蓚酸塩被膜が安定して形成されている(表1中で「○」)と判断した。蓚酸塩被膜量が10mg/cm2以上の場合、蓚酸塩被膜が十分に安定して形成されている(表1中で「◎」)と判断した。蓚酸塩被膜量が1mg/cm2未満である場合、形成された蓚酸塩被膜が不十分(表1中で「×」)と判断した。
[潤滑性評価試験]
各試験番号の化成処理後のディスクを、ステアリン酸ナトリウム浴に同じ時間浸漬した後引き上げて、ディスク表面にステアリン酸ナトリウム被膜を形成した。ステアリン酸ナトリウム被膜が形成されたディスクを用いて、回転ボールオンディスク試験を実施した。試験時の荷重を10N、試験温度を常温(25℃)、試験時間を20分、摩擦半径(摩擦部分のディスク中心からの距離)を3mm、摩擦速度(回転速度)を10mm/sとした。
試験後のディスク表面の摩擦面を目視で観察し、焼付きの有無を調査した。焼付きが観察されなかった場合、潤滑剤が十分に付着しており、潤滑性に優れると判断した(表1中で「◎」)。明瞭な焼付きは確認できないものの、蓚酸塩被膜層の損傷により鋼材の素地が見えている場合、潤滑性が良好と判断した(表1中で「○」)。焼付きが観察された場合、潤滑剤が十分に付着しておらず、潤滑性が低いと判断した(表1中で「×」)。
[試験結果]
試験結果を表1に示す。表1を参照して、試験番号1〜10では、Niめっき被膜が形成された供試材に対して蓚酸化成処理が実施された。そのため、蓚酸塩被膜量は十分であり、安定した蓚酸塩被膜が形成された。さらに、潤滑性試験の結果も良好であった。
特に、試験番号1〜7では、電解Niめっき被膜及び無電解Niめっき被膜が形成され、かつ、電解Niめっき被膜及び無電解Niめっき被膜の膜厚も適切であった。そのため、蓚酸塩被膜量は10mg/cm2以上と良好であり、潤滑性評価試験においても、焼付きが観察されなかった。
一方、試験番号11及び12では、電解Niめっき被膜が形成されなかったため、無電解Niめっき処理を実施したにも関わらず、Ni被膜が形成されなかった。そのため、蓚酸塩被膜量が不足した。その結果、潤滑剤の付着量が不足し、潤滑性評価試験において焼付きが観察された。
試験番号13及び14では、Niめっき処理を実施しなかった。そのため、蓚酸塩被膜量が不足した。そのため潤滑剤の付着量が不足し、潤滑性評価試験において焼付きが観察された。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (5)

  1. Cr含有量が20%以上のステンレス鋼管に対してNiめっき処理を実施して、前記ステンレス鋼管の表面にNiめっき被膜を形成するNiめっき処理工程と、
    前記Niめっき被膜が形成された前記ステンレス鋼管に対して蓚酸化成処理を実施して、前記Niめっき被膜上に蓚酸ニッケルからなる蓚酸塩被膜を形成する工程と、
    前記蓚酸塩被膜上に潤滑剤を付着した後、前記ステンレス鋼管に対して冷間引抜きを実施する工程とを備え
    前記Niめっき処理工程は、
    前記ステンレス鋼管に対して電解Niめっき処理を実施して、前記ステンレス鋼管の表面に電解Niめっき被膜を形成する電解Niめっき処理工程と、
    前記電解Niめっき被膜が形成された前記ステンレス鋼管に対して無電解Niめっき処理を実施して、前記電解Niめっき被膜上に無電解Niめっき被膜を形成する無電解Niめっき処理工程とを含む、ステンレス鋼管の製造方法。
  2. 請求項に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
    前記電解Niめっき処理工程では、0.3〜5.0μmの膜厚を有する前記電解Niめっき被膜を形成する、ステンレス鋼管の製造方法。
  3. 請求項又は請求項に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
    前記無電解Niめっき処理工程では、3.0〜50.0μmの膜厚を有する前記無電解Niめっき被膜を形成する、ステンレス鋼管の製造方法。
  4. 請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
    前記ステンレス鋼管の化学組成は、質量%で、Cr:20〜30%、Ni:6.0〜8.0%、及び、Mo:2.5〜3.5%を含有する、ステンレス鋼管の製造方法。
  5. Cr含有量が20%以上のステンレス鋼管に対してNiめっき処理を実施して、前記ステンレス鋼管の表面にNiめっき被膜を形成するNiめっき処理工程と、
    前記Niめっき被膜が形成された前記ステンレス鋼管に対して蓚酸ニッケルからなる蓚酸化成処理を実施して、前記Niめっき被膜上に蓚酸塩被膜を形成する工程とを備え
    前記Niめっき処理工程は、
    前記ステンレス鋼管に対して電解Niめっき処理を実施して、前記ステンレス鋼管の表面に電解Niめっき被膜を形成する電解Niめっき処理工程と、
    前記電解Niめっき被膜が形成された前記ステンレス鋼管に対して無電解Niめっき処理を実施して、前記電解Niめっき被膜上に無電解Niめっき被膜を形成する無電解Niめっき処理工程とを含む、ステンレス鋼管の化成処理方法。
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