JP3712245B2 - 内面錫めっき銅管の製造方法 - Google Patents

内面錫めっき銅管の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築物等の給水,給場系配管或いは空調機配管等に使用される高耐食性の内面錫めっき銅管において、欠陥(ピンホール)の少ない錫皮膜を形成することができる無電解錫めっき液を使用した内面錫めっき銅管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
給水、給湯或いは空調機用の配管などとして使用される銅管内面の耐食性を向上させ、銅イオンの溶出を防止するために、当該銅管の内面に錫皮膜を形成すること(内面錫被覆処理)が一般的に行われている。銅管内面に錫被覆をする手段としては、無電解錫めっき液を管内に流通せしめるめっき処理方法が知られている。この方法は簡便かつ低コストであることに加え、液温と流通せしめる時間により目的とする錫皮膜の品質(膜厚、繊密性等)を調整することができるという利点を有している。
【0003】
ところが、従来から使用されている無電解錫めっき液を用いると、形成される錫めっき皮膜に欠陥(いわゆるピンホール)が多く形成され、これが原因となって、使用する環境あるいは水質によっては十分な耐食性が得られなくなる場合がある。このようなめっき膜のピンホールは、単純に膜厚を厚くすること(約2μm以上)により低減できるが、膜厚を厚くしようとすれば、めっき液中の+2価錫イオンの消費量が増えてしまい、薬液費がかさむようになる。また、膜厚を厚くするためにはめっき処理時間も長くする必要があるので、いずれにしてもコストアップとなる。
【0004】
ピンホール発生を防止するために、無電解錫めっき処理ではなく、電気めっき処理により内面錫被覆処理を行うことも考えられる。電気めっき処理により得られる錫めっき膜はピンホールが少なく、この問題についてだけ考えれば有効な方法であるが、電気めっき処理による場合、本発明に係る銅管内面に錫被覆を全長均一に行うためには、管内に対極を管壁に接触しないように設置する必要が生じ、特に管径の小さい銅管やコイル状の銅管に対しては処理が困難になるという問題点があり、このような状況から、無電解錫めっき処理でピンホール発生を減少させる方法の開発が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上のような課題に鑑みなされたものであり、めっき膜厚を厚くしなくてもめっき膜のピンホールが形成されにくい無電解錫めっき液を開発し、めっき膜のピンホールが少ない銅管の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、無電解錫めっき液の組成を下記のごとく設定し、このめっき液を用いてめっき膜のピンホールの形成を抑制することによって高性能の内面錫めっき銅管を低コストで製造可能としたものである。
【0007】
(I) +2価Snイオン:0.05〜0.3mol/l、チオ尿素:0.5〜2.0mol/l、硫酸:0.5〜2.0mol/l、アルキルベンゼンスルホン酸:0.05〜2.0mol/l、及び、非イオン界面活性剤:0.5〜5.0g/lを含有する無電解錫めっき液。
【0008】
(II) 上記(I)記載の無電解錫めっき液中に、更に、リン酸化合物:0.01〜1.0mol/l、及び/又は、有機カルボン酸:0.05〜1.0mol/lを含有する無電解錫めっき液。
【0009】
(III) 上記(II)記載の無電解錫めっき液中のアルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基の炭素数が1乃至6であることを特徴とする無電解錫めっき液。
【0010】
上記(I)から(III)のいずれに記載の無電解めっき液中の非イオン界面活性剤のHLBも10乃至15とする
【0011】
本発明に係る耐食性に優れた内面錫めっき銅管の製造方法によれば、上記の無電解錫めっき液を銅管内に通液せしめて当該管内表面に錫めっき膜を形成させる。
【0012】
従来の無電解錫めっき液は、銅を素材とする電子基板等の表面処理、あるいは装飾用の表面処理に利用されてきたものであり、要求される主な性能は高い析出速度(短時間で厚いめっき膜を形成させること)および皮膜にウィスカーができにくいことあるいはめっき膜の光沢に関することのみであり、ピンホールの形成に対する要求は存在しなかった。
【0013】
これに対して、本発明に関わる銅管内面を錫被覆処理するための無電解錫めっき液に要求される性能は、耐食性に優れた錫めっき膜を形成させることであり、皮膜に欠陥(ピンホール)が少ないことが不可欠である。本発明において、無電解錫めっき液に要求される性能は、従来のものとは全く異なるものであり、その利用分野としても他には例がないのである。
【0014】
本発明の対象とする被めっき処理銅管は、通常は給水給湯用配管材料として一般的に用いられるリン脱酸銅管 (JIS H3300 C1220)であるが、P以外の脱酸剤としてB、Mg、Si等が使用された脱酸銅管においても、何らその効果を妨げられることなく本発明を適用することが可能である。また、耐食性向上を目的としてSn、Al、Zn、Mn、Mg等の各種元素が微量添加された低銅合金管についても、銅含有量が96重量%以上であれば、リン脱酸銅管と同様、何らその効果を妨げられることなく本発明を適用することができる。
【0015】
以下に、めっき液の具体的な薬品種とその最適濃度範囲について説明する。なお、本発明のめっき液には、これらの薬品種の他に、めっき液調整用などとして各種の薬液を添加することもできる。
(1)+2価錫イオン
+2価錫イオン濃度については、0.05mol/l未満となるか、あるいは0.3mol/lを超えるかすると、形成されるめっき皮膜にピンホールが増加し、十分な耐食性が得られなくなる。
なお、+2価錫イオンの供給源としては、例えば、硫酸第一錫や塩化第一錫などがある。
【0016】
(2)チオ尿素
チオ尿素は、被めっき材である銅とチオ錯体を形成することで錫との置換反応を生じさせるものである。この濃度が低くなると、めっき反応が生じにくくなり、めっき膜のピンホールが増加するため、濃度の下限値は0.5mol/lが妥当である。この一方で、濃度を高めすぎてもめっき膜のピンホールが増加してしまうため、結果的にめっき液のチオ尿素の濃度は0.5〜2.0mol/lの範囲が適している。
【0017】
(3)硫酸
硫酸は、めっき液のpHを下げ、錫イオンの溶解度を上げると共に錫イオンを+2価の状態で保つはたらきがあることが一般的に知られているが、本発明者らは、この他にも、硫酸がめっき皮膜のピンホールを抑制する効果を有すること、その効果は0.5mol/l〜2.0mol/lの濃度範囲で認められることを見出した。しかしながら、濃度を高めすぎると、チオ尿素の分解反応により、めっき液から高濃度の硫化水素ガスが発生し、作業環境面での問題が生じ易いので、硫酸濃度は0.8mol/l以上1.5mol/l以下とするのがさらに好ましい。
【0018】
(4)アルキルベンゼンスルホン酸
本発明者らは、また、芳香族スルホン酸の中でも特にアルキルベンゼンスルホン酸が0.05〜2.0mol/lの濃度範囲でめっき液中に存在すると、めっき膜のピンホールを低減するのに有効であることを見出し、この効果は、アルキル基の炭素数の合計が1以上6以下のアルキルベンゼンスルホン酸と下記に示すような比較的疎水性の非イオン界面活性剤とが、めっき液中に共存する条件下で一層高められることを究明した。主な有用化合物としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸などがあり、0.2〜0.5mol/lの濃度範囲で最もピンホール低減ができる。なお、アルキルベンゼンスルホン酸について、従来の無電解錫めっき液にも芳香族スルホン酸を含むものがあるが、それらは、+2価錫イオンの安定剤(沈殿防止)として添加されており、本発明とは添加の目的が異なる。
【0019】
(5)非イオン界面活性剤
非イオン界面活性剤は、めっき膜の光沢剤として用いられるのが一般的であるが、本発明者らの研究により、非イオン界面活性剤は、上述のように、上記アルキルベンゼンスルホン酸との相互作用により、めっき膜のピンホールを形成しにくくするはたらきを有することが明らかとなった。しかも、非イオン界面活性剤の中でも、親水性部と親油性部のバランスを表すHLB値が15以下の比較的親油性の非イオン界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンンノニルフェニルエーテルあるいはその誘導体)がピンホールの形成を抑制する作用のあることが明らかとなった。但し、HLB値が10未満のものは、めっき液に添加した際に分離する(溶解しない)ため、実際に使用できる非イオン界面活性剤はHLB値が10以上のものである。
【0020】
HLB値とは、親水親油バランス(hydrophile-lypophile balance)のことをいい、界面活性剤の分子がもつ親水性と親油性の相対的な強さのバランスを数量的に表わしたものである。HLBはAtlas社のGriffin氏によって実験的に出さ れたものであり、HLBが未知のものに対してはそれが既知のものを用いれば実験的に算出することもでき、また、化学構造が既知の場合には近似値を求めることもできる。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどのように親水部分が酸化エチレンより成っているものについては、HLB=(分子中の酸化エチレンの重量%)/5で近似値を求めることができる。
【0021】
添加濃度に関しては、0.5g/l以上であれば十分な効果が認められるが、5g/lを超える濃度にしてもそれ以上の効果は期待できず、コストアップを招くだけである。この一方で、非イオン界面活性剤の添加量が増加すると、めっき液の発泡性が高くなるため、銅管内にめっき液を流通せしめた際に、管内に気泡が溜まりやすくなり、めっき膜の形成されない部分が生じるおそれがある。このことからも、非イオン界面活性剤の添加量は5g/l以下とするのがよく、好ましい範囲は、1〜2g/lである。なお、非イオン界面活性剤として用いられる主なものとしては、ノニポール(商品名;三洋化成)、エマルゲン(商品名;花王)、ノニオン(商品名;日本油脂)などが挙げられる。
【0022】
(6)有機カルボン酸
有機カルボン酸は、めっき液中の錫イオンあるいはめっき反応で溶解した銅イオンの錯化剤であり、めっき液中で両イオンを安定して存在させる働きがある。この効果は0.05mol/l以上の濃度で認められるが、逆に高濃度にし過ぎると、めっき膜にピンホールが形成されやすくなるため、濃度範囲は0.05〜1.0mol/lとする必要があり、好ましくは0.1〜0.4mol/lとする必要がある。有機カルボン酸の例としては、マロン酸、グリシン、酒石酸、クエン酸、EDTAなどがあげられ、中でも酒石酸、クエン酸、EDTAは、取り扱い性あるいは錫および銅イオンとの錯化力が強いため、これらを用いるのが好ましい。
【0023】
(7)リン酸化合物
リン酸化合物は錫イオンの酸化を防止し、液中への沈殿を抑制する働きがあり、その効果は0.01mol/l以上の濃度で認められる。ただ、その効果は濃度に単純に比例するわけではなく、しかも濃度を高めていくとめっき液中にチオ尿素の分解に伴う硫化物の沈殿を析出させやすくなってしまうことから、その濃度は1.0mol/l以下に調整する必要がある。但し、効果の持続を考慮する必要があるので、好ましい濃度範囲は0.1〜0.5mol/lである。なお、リン酸化合物としては、次亜リン酸またはその塩を用いることができる。
【0024】
【実施例】
[実施例1]
長さ80mm×幅20mm×厚さ0.5mmのリン脱酸銅板を被めっき処理材とし、脱脂、ソフトエッチングをした後、80℃に温度調整した各組成(表1)の無電解錫めっき液1l中に10分間浸潰し、膜厚1μm前後の錫めっき膜を形成させた。
【0025】
【表1】
Figure 0003712245
【0026】
上記の試料について、めっき膜の品質とその耐食性能について評価した(表2)。
【0027】
【表2】
Figure 0003712245
【0028】
評価方法を以下に示す。
▲1▼めっき膜厚
めっきした試料を3%過酸化水素水(6vol%)を含有する60℃の塩酸(15vol%)溶液中で溶解し、原子吸光光度法にて錫濃度を測定した。そして、この錫濃度測定値を錫の密度および試料の表面積値から膜厚に換算した。
【0029】
▲2▼ピンホール密度
銅の溶解速度が2g/h、錫の溶解速度が6mg/hとなるように、アンモニア水(30%)、過硫酸アンモニウム、イオン交換水をそれぞれ2:1:4.7の割合で混合した溶液中に、試料を室温で60分間浸潰し、めっき膜にピンホールが存在するところのみ下地の銅を溶解させた。水洗、乾燥した後、下地が溶解して密着力の低下した部分のめっき膜をテープ(ニットーNo.B−31)で剥離させ、めっき膜の剥離した部分(銅の露出部)の数を実体顕微鏡(×20)で数えた。
【0030】
▲3▼耐食性評価1(孔食)
耐食性は定電位電解試験により評価した。各試料を名古屋市上水中で200mV vs.SCEに定電位電解し、これを3日間続けた。そして、試料に腐食が生じた場合には×、腐食が認められない場合には○とした。
【0031】
▲4▼耐食性評価2(潰食)
名古屋市上水中にCl- 濃度が100ppmになるようNaClを添加し、さらにフタル酸水素カリウムにてpHを6〜6.5に調整した。この溶液を60℃に温度調整した状態で、流速10m/sのジェット流を試料表面に直角に30日間当て続けた。ジェット流の噴出孔の直径は1.5mmで、噴出孔と試料表面までの距離は2mmとした。そして、試料に腐食が生じた場合には×、腐食が認められない場合には○とした。
【0032】
[実施例2]
表3に示す組成を基本組成とし、このうちのアルキルベンゼンスルホン酸の薬品種と非イオン界面活性剤のHLB値を表4のように変化させためっき液を調整した。
【0033】
【表3】
<基本組成>
硫酸第一錫 ;0.lmol/l
チオ尿素 ;1.2mol/l
硫酸 ;0.9mol/l
次亜リン酸ナトリウム ;0.2mol/l
クエン酸 ;0.lmol/l
アルキルベンゼンスルホン酸 ;0.2mol/l
非イオン界面活性剤 ;1g/l
【0034】
【表4】
Figure 0003712245
*ベンゼン環の側鎖のアルキル基の炭素数合計
【0035】
これらのめっき液を外径15.88mm×肉厚0.71mm×長さ100mのコイル状のリン脱酸銅管内に70〜80℃の温度範囲で10分あるいは60分通液し、管内に膜厚0.8μm前後あるいは2.2μm前後の錫めっき膜を形成させた。
めっき処理した試料は、長さ80mmに切断、半割りして、銅の露出部をシリコーンでマスキングした後、実施例1と同じ方法で評価した。この評価結果を表5に示す。
【0036】
【表5】
Figure 0003712245
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る製法によれば、めっき膜が薄くてもピンホールが形成されにくい。従って、本発明は高耐食性内面錫めっき銅管の製造に適しており、産業上極めて有用である。

Claims (3)

  1. 以下のものを包含する無電解錫めっき液を銅管内に通液せしめて当該管内表面に錫めっき膜を形成させることを特徴とする内面錫めっき銅管の製造方法。
    +2価Snイオン:0.05〜0.3mol/l、
    チオ尿素:0.5〜2.0mol/l、
    硫酸:0.5〜2.0mol/l、
    アルキルベンゼンスルホン酸:0.05〜2.0mol/l、及び、
    HLB値が10乃至15である非イオン界面活性剤:0.5〜5.0g/l。
  2. 請求項1記載の内面錫めっき銅管の製造方法において、前記無電解錫めっき液中に、更に、リン酸化合物:0.01〜1.0mol/l、及び/又は、有機カルボン酸:0.05〜1.0mol/lを含有する無電解めっき液を用いることを特徴とする内面錫めっき銅管の製造方法。
  3. 前記無電解錫めっき液中のアルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基の炭素数が1乃至6であることを特徴とする請求項1または2記載の内面錫めっき銅管の製造方法。
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