JP6619919B2 - 耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板及びその製造方法 - Google Patents

耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板及びその製造方法 Download PDF

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本発明は、自動車ボディシート、ボディパネルのような各種自動車、船舶、航空機等の部材、部品、或いは、建築材料、構造材料、各種機械器具、家電製品やその部品等に好適に用いられ、耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板及びその製造方法に関する。
例えば自動車のボディシートには、従来は冷延鋼板を使用することが多かった。しかしながら、最近では地球温暖化の抑制やエネルギーコストの低減等のために、自動車を軽量化して燃費を向上させる要望が高まっている。このため、従来の冷延鋼板に代えてこれとほぼ同等の強度であるにも拘わらず、比重が冷延鋼板の約1/3のアルミニウム合金板を自動車のボディシートに使用する傾向が増大しつつある。また、近年では自動車以外の、例えば電子・電気機器等のパネルやシャーシのなどの成形加工部品についても、高い熱伝導性や比強度といった特性を有するアルミニウム合金板を用いることが多くなりつつある。
一般に自動車ボディシート用のアルミニウム合金材としては、Al−Mg系合金の他に、Al−Mg−Si系合金やAl−Mg−Si−Cu系合金が主に使用されている。Al−Mg−Si系合金とAl−Mg−Si−Cu系合金は時効性を有する合金であり、塗装焼付けの加熱工程を利用して塗装焼付前後で強度が向上する。つまり、塗装焼付前においては比較的強度が低く成形性が優れている一方、塗装焼付後の強度が高くなる利点を有するため、近年になって自動車材への適用が進んでいる。
また、自動車ボディシート用のアルミニウム合金材としては、特に表面品質と成形性に優れていることが必要である。表面品質に関しては、Al−Mg−Si系合金やAl−Mg−Si−Cu系合金では、Al−Mg系合金において問題となるリューダースマークが発生し難いという長所を有している。しかしながらその一方で、プレス成形後の板表面に筋状の凹凸が形成されるリジングマークが発生することがしばしば問題となる。成形性に関しては、一般にアウターパネルとインナーパネルとを一体化させる際に、ヘム曲げ加工を施すことから、成形性のうちでも特にヘム曲げ性に優れていることが強く要求されている。
ここで、リジングマークとは、板に成形加工を施した際に、素材の板の製造工程における圧延方向と平行な方向に筋状に現れる微細な凹凸模様である。リジングマークはプレス成形条件が厳しくなった場合に特に発生し易く、近年の自動車ボディの形状複雑化や薄肉化の要求の高まりと共に、リジングマークの発生しない材料が強く要求されている。なお、本明細書において、成形加工時にリジングマークが発生し難い性質を「耐リジング性」というものとする。
リジングマークの発生は、材料の再結晶挙動に深く関係していることから、リジングマークの発生を抑制するためには、板製造過程での金属組織制御が不可欠とされている。このようなことから、耐リジング性を向上させるための従来の技術としては、例えば特許文献1〜5に記載されるように、板材の熱間圧延工程中における再結晶状態を制御する観点、結晶方位を制御する観点、製品板の結晶粒径を制御する観点からの提案がなされている。また、ヘム曲げ性向上については、例えば特許文献6、7に記載されるように、結晶方位の観点からの提案がなされている。
特許第2823797号公報 特許第3590685号公報 特開2009−263781号公報 特開2010−242215号公報 特許第5113318号公報 特許第4939091号公報 特開2014−234542号公報
最近では、意匠性などの点から材質、特に表面外観品質の一層の向上が求められている。特に、前述のような成形性、ならびに、塗装焼付け工程での強度向上性に優れたAl−Mg−Si系合金板やAl−Mg−Si−Cu系合金板には、より優れた耐リジング性を備えることが強く要求されている。しかしながら、前述のような従来技術では、その要求性能を十分に満足させることは困難であった。
特許文献1、2に記載されているアルミニウム合金板の製造方法では、熱間圧延の開始温度を350〜450℃の範囲としているため、熱間圧延中の粗大な結晶粒の形成はある程度抑制されるものの、その抑制効果が不十分であった。特に、板厚の中央付近に粗大結晶粒が形成されてしまい、その結果、必ずしも十分な耐リジング性が得られないことが本発明者等の実験により判明している。
また、特許文献3、4に記載されているアルミニウム合金板の製造方法では、リジングマークの原因となる結晶方位の近い結晶粒が圧延方向に群成した組織を解消するため、アルミニウム合金板の特定の結晶方位を制御している。この方法は、耐リジング性の向上に一定の効果はあるものの、最近高まっている耐リジング性向上の更なる要求に対しては、その効果が不十分である。
特許文献5、6では、自動車ボディシート材として重要な特性であるヘム曲げ性をCube方位の発達によって大きく向上させることが提案されている。しかしながら、結晶方位の制御によるリジングマークの改善とヘム曲げ性の向上は互いに相反する組織制御を必要とするものであり、その実現のためには、非常に複雑かつ高コストの製造工程を用いる必要がある。
特許文献7では、結晶粒径を制御することで耐リジング性を向上させることが提案されている。しかしながら、この方法では十分な曲げ性を得ることが困難であり、また非常に複雑な製造工程を必要とする問題が残った。
また、最近では自動車ボディシート材については、従来よりも高性能でありながら低コストで製造する技術の開発も強く要求されている。低コスト化の方策として製造工程の一部省略が挙げられるが、この方策では、自動車ボディシート材に要求される耐リジング性、ヘム曲げ性及びベークハード性といった諸性能の低下を引き起こすため採用には至っていない。
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、厳しい成形条件においてもリジングマークの発生を確実に抑制でき、ヘム曲げ性に優れるアルミニウム合金板の提供と、このような優れた性能を有する成形加工用のアルミニウム合金板を量産規模で確実かつ安定して低コストで生産可能な製造方法の提供を目的とするものである。
本発明者等はリジングマークの発生原因について鋭意検討を重ねた結果、リジングマークの起源となる熱間圧延や冷間圧延工程において、圧延方向に引き伸ばされた結晶粒が形成するバンド状組織(筋状組織)を再結晶させて分解する際にその再結晶粒径を粗大化させることにより、この分解力を増大させてリジングマークの特性である圧延方向における強い直線性を大きく低減させ、その結果、リジングマークの発生を抑制できることを見出した。
本発明者等が更に検討を重ねた結果、熱間圧延中に形成されるバンド状組織を微細にすることで、この再結晶粒径粗大化によるバンド状組織分解効果を大きくできることが判明した。そして、バンド状組織を微細にするためには、熱間圧延温度を低くすることが有効であり、再結晶粒径粗大化によるバンド状組織分解を組み合わせることにより、過酷な成形条件においてもリジングマークを防止できることを見出した。
更に、熱間圧延温度を低くし、中間焼鈍を省略し、十分な冷間圧延率を採用することで、熱間圧延及び冷間圧延中に圧延集合組織を発達させ、この圧延集合組織が溶体化処理時にCube方位の発達に寄与し、その結果、製品板のCube方位密度を向上させることにより曲げ性を大きく向上させることができる。しかしながら、上述のように、一般的にはCube方位はリジングマーク発生の原因とされる方位であり、リジングマークの改善と曲げ性の改善を両立することは困難であった。
上述の結晶粒径粗大化によるリジングマーク改善と、Cube方位の発達による曲げ性改善とを両立させるために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、溶体化処理直前に再結晶温度以下で熱処理を行うことによって、リジングマーク改善と曲げ性改善とを両立できることを見出した。すなわち、再結晶温度以下でのひずみ抜き焼鈍により、熱間圧延及び冷間圧延中に形成した圧延集合組織を減少させることなく、圧延板中のひずみエネルギーを低くすることが可能となり、続く溶体化処理時において結晶粒径が粗大化すると共に、Cube方位が発達する。更にこの製造方法では、ひずみ抜き焼鈍工程を必要とするものの、中間焼鈍工程を省略できるため製造コストの低減も可能となる。
このように、本発明者等は、種々の実験と検討を重ねた結果、Al−Mg−Si系合金やAl−Mg−Si−Cu系合金の製造方法として、熱間圧延温度の制御、中間焼鈍の省略、十分な冷間圧延率の採用、再結晶が生起しない温度でのひずみ抜き焼鈍の実施、ならびに、ひずみ抜き焼鈍直後の溶体化処理によって、最終板の結晶粒径と結晶方位を制御し、これにより耐リジング性及びヘム曲げ性を確実かつ顕著に向上させることを見出した。
具体的には、本発明は請求項1において、Mg及びSiを含有するアルミニウム合金からなり厚さtを有するアルミニウム合金板であって、板厚(t/2)を中心として厚さ方向に沿った±(t/8)の範囲のL−LT面における結晶粒径が45〜100μmであり、板全体においてL−ST面の結晶粒径が80μm以下であり、板表面における結晶方位のCube方位面積率が10%以上であり、前記アルミニウム合金が、Mg:0.20〜1.50mass%、Si:0.30〜2.00mass%を含有し、Mn:0.03〜0.60mass%、Cr:0.01〜0.40mass%、Zr:0.01〜0.40mass%、Fe:0.03〜1.00mass%、Ti:0.005〜0.300mass%及びZn:0.03〜2.50mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、Cu:1.50mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板とした。
また、本発明は請求項では、請求項1に記載のアルミニウム合金板の製造方法において、前記アルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と、鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、中間焼鈍を施さずに熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板のひずみ抜き焼鈍工程と、焼鈍した圧延板を溶体化処理する溶体化処理工程とを備え、前記熱間圧延工程において、熱間圧延開始温度を300〜450℃とし、熱間圧延終了温度を200〜350℃として、前記冷間圧延工程において、圧下率を60.0%以上として最終板厚の冷間圧延板とし、前記ひずみ抜き焼鈍工程において、冷間圧延板を到達温度200〜350℃で加熱処理することを特徴とする耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板の製造方法とした。
更に、本発明は請求項では請求項において、前記鋳造工程と熱間圧延工程の間に、鋳塊を均質化処理する均質化処理工程を更に備えるものとした。
本発明によれば、厳しい成形条件においてもリジングマークの発生を確実に抑制でき、かつ、ヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板を提供することができる。また、本発明の耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板の製造方法は、従来の製造方法に比べてコスト低減が可能である。
以下、本発明に係る耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板について詳細に説明する。
1.アルミニウム合金の成分組成
本発明に係るアルミニウム合金板の成分組成は、Al−Mg−Si系合金又はAl−Mg−Si−Cu系合金からなるものであれば良く、その具体的な成分組成は特に限定されるものではないが、通常は、Mg:0.20〜1.50mass%(以下、単に「%」と記す)、Si:0.30〜2.00%を含有し、Mn:0.03〜0.60%、Cr:0.01〜0.40%、Zr:0.01〜0.40%、Fe:0.03〜1.00%、Ti:0.05〜0.30%及びZn:0.03〜2.50%から選択される1種又は2種以上を含有し、Cu:1.50%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなるものが好適に用いられる。
次に、上記各元素の限定理由について説明する。
Mg:
Mgは、本発明で対象とするAl−Mg−Si系合金又はAl−Mg−Si−Cu系合金の基本となる合金元素であって、Siと共に強度向上に寄与する。Mg含有量は、0.20〜1.50%とするのが好ましい。Mg含有量が0.20%未満では、塗装焼付時における析出硬化によって強度向上に寄与するG.P.ゾーンの生成量が少なくなるため、十分な強度向上の効果が得られない。一方、Mg含有量が1.50%を超えると、粗大なMg−Si系の金属間化合物が生成され、プレス成形性、主に曲げ加工性が低下する。特に最終板の曲げ加工性をより良好にするためには、Mg含有量は0.30〜0.90%とするのがより好ましい。
Si:
Siも、本発明で対象とするAl−Mg−Si系合金又はAl−Mg−Si−Cu系合金の基本となる合金元素であって、Mgと共に強度向上に寄与する。また、Siは、鋳造時に金属Si粒子の晶出物として生成される。この金属Si粒子の周囲が、冷間圧延時に付与される加工によって変形されて溶体化処理時に再結晶核の生成サイトとなるため、再結晶組織の微細化にも寄与する。Si含有量は、0.30〜2.00%とするのが好ましい。Si含有量が0.30%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が2.00%を超えると、粗大なSi粒子や粗大なMg−Si系金属間化合物が生成して、プレス成形性、特に曲げ加工性の低下を招く。また、プレス成形性と曲げ加工性とのより良好なバランスを得るためには、Si含有量は0.50〜1.30%とするのがより好ましい。
Mn、Cr、Zr、Fe、Zn:
これらの元素は、強度向上、結晶粒微細化、時効性(焼付硬化性)の向上及び/又は表面処理性の向上に有効であり、これらいずれかの1種又は2種以上を含有するのが好ましい。これらのうちMn、Cr、Zrは、上記の強度向上と結晶粒組織の微細化及び安定化に効果を発揮する。Mn含有量が0.03%未満、Crの含有量が0.01%未満、Zrの含有量が0.01%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、Mnの含有量が0.60%を超え、Cr、Zrの含有量がそれぞれ0.40%を超えると、上記効果が飽和するだけでなく多数の金属間化合物が生成され、成形性、特にヘム曲げ性が低下する虞がある。従って、Mn含有量を0.03〜0.60%とし、Cr、Zrの含有量をそれぞれ0.01〜0.40%とするのが好ましい。また、Mn含有量を0.03〜0.40%とし、Cr、Zrの含有量をそれぞれ0.01〜0.30%とするのがより好ましい。
また、Feも、強度向上と結晶粒微細化に有効な元素である。Fe含有量が0.03%未満では上記効果が十分に得られない。一方、Fe含有量が1.00%を超えると、多数の金属間化合物が生成されて、プレス成形性と曲げ加工性が低下する虞がある。従って、Fe含有量は0.03〜1.00%とするのが好ましい。なお、特に曲げ加工性の低下を最小限に抑制するためには、Fe含有量を0.03〜0.50%とするのがより好ましい。更に、Znは時効性の向上を通じて強度向上に寄与すると共に、表面処理性の向上に有効な元素である。Zn含有量が0.03%未満では上記効果が十分に得られない。一方、Zn含有量が2.50%を超えると成形性が低下する。従って、Zn含有量は、0.03〜2.50とするのが好ましい。また、Zn含有量は、0.03〜1.50%とするのがより好ましい。
Ti:
Tiは、鋳塊組織の微細化の効果を発揮する。Ti含有量は、0.005〜0.300%とするのが好ましい。Ti含有量が0.005%未満では、上記効果が十分に得られない。一方、Ti含有量が0.300%を超えると、Ti添加の効果が飽和するだけでなく粗大な晶出物が生じる虞がある。なお、Ti含有量は、0.005〜0.200%とするのがより好ましい。また、Tiと同時に500ppm以下のBを添加することによって、鋳塊組織の微細化と安定化の効果が一層顕著となる。
Cu:
Cuは、強度向上と成形性向上のために添加してもよい。Cu含有量が1.50%を超えると、耐食性(耐粒界腐食性、耐糸錆性)が低下することから、Cu含有量は1.50%以下に規制するのが好ましい。また、より耐食性の改善を図りたい場合はCu含有量を1.00%以下に規制するのが好ましく、特に耐食性を重視する場合は、Cu含有量は0.05%以下に規制することが好ましい。
以上の各元素の他には不可避的不純物としてB、Ga、V等を各々0.05%未満、合計で0.15%未満であれば、本発明材料に影響を与えないので含有していても良い。
なお、上記Mn、Cr、Zr、Fe、Zn、Tiの含有量は、それぞれ積極的に添加する場合の範囲として示したものである。従って、これらいずれの元素においても、上記各含有量の下限値未満の量を不純物として含有する場合を排除するものではない。特に、通常のアルミニウム地金を用いる場合は、通常、0.03%未満のFeが不可避的不純物として含有される。
2.アルミニウム合金板の結晶粒径制御と結晶方位制御
本発明に係るアルミニウム合金板において、耐リジング性とヘム曲げ性を確実かつ安定して向上させるためには、合金の成分組成を前述のように調整するのに加えて、最終板であるアルミニウム合金板の結晶粒径と結晶方位を制御することが極めて重要である。
2−1.具体的な結晶粒径
リジングマーク発生に特に強い影響を与えるバンド状組織は、アルミニウム合金板の板厚方向の中央付近の領域に存在し、この領域の結晶粒径を適切なサイズまで大きく再結晶させることでバンド状組織の分解を促し、リジングマークの発生を防止する。ここで、板厚方向の中央付近の領域(以下、「中央付近領域」)とは、アルミニウム合金板の厚さをtとして、板厚(t/2)を中心として厚さ方向に沿った±(t/8)の範囲の領域をいうものとする。
本発明者等の行った実験によれば、製造工程中で形成したバンド状組織を分解するためには、中央付近領域のL−LT面における結晶粒径d1を45μm以上、好ましくは50μm以上、更に好ましくは60μm以上とする。結晶粒径d1が45μm未満の場合には、リジングマーク発生の原因であるバンド状組織を十分に分解することができず、リジングマークが発生してしまう。また、結晶粒径d1が100μmを超えてしまうと伸びや成形性が大きく低下してしまうため、結晶粒径d1は100μm以下、好ましくは80μm以下とする。
また、従来の知見では最終材の結晶粒径を大きくさせることは、表面性状や成形性を悪化させることに繋がると考えられており、例えば、肌荒れやオレンジピールと呼ばれるような表面性状に関わる問題を引き起こす場合がある。これらの抑制には結晶粒径を微細化させることが有効であることが公知である。このため、本発明においても、肌荒れやオレンジピールが発生しない程度に板全体の結晶粒径を制御する必要がある。そのためには、板厚全体のL−ST面における結晶粒径d2を80μm以下、好ましくは60μm以下とする。本発明で採用する合金組成や製造方法においては、10μm程度となる。
また、ヘム曲げ性の向上のためには、特にヘム曲げ性に影響の強い板表層の結晶方位を制御することが重要である。このためには、板表面における結晶方位のCube方位面積率Cを10%以上、好ましくは15%以上とする。本発明で採用する合金組成や製造方法においては、60%程度が上限値となる。
以上のように、耐リジング性向上のために、再結晶時の中央付近領域のL−LT面における結晶粒径d1を適切なサイズまで大きくさせることでバンド状組織を分解しつつ、板厚全体のL−ST面における結晶粒径d2を制御することで肌荒れ等を防止し、更に、板表面における結晶方位のCube方位面積率Cを制御することで、ヘム曲げ性を向上させることができ、耐リジング性及び耐肌荒れ等の表面性状、ならびに、ヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板を得ることが可能となる。
また、リジングマーク発生に強く影響する中央付近領域のバンド状組織は、熱間圧延時から形成され、中央付近領域の全板厚tに対する割合、すなわち、板厚(t/2)を中心として厚さ方向に沿った±(t/8)の範囲にわたる領域は、圧延が進んで板厚が減少しても、全体厚さに対するその割合を保っている。従って、上記結晶粒径の制御によりリジングマークを防止できる板厚は特に制限されるものではなく、製品に要求される所定の板厚の最終圧延板に対して適用できるが、一般に0.5〜5.0mmのものが用いられる。
2−2.結晶粒径及び結晶方位の具体的な測定方法
次に、結晶粒径及び結晶方位の具体的な測定方法について説明する。
まず、d1については、アルミニウム合金板の中央付近領域内の任意のL−LT面まで苛性エッチングで減厚した後に、機械研磨、バフ研磨、電解研磨を行なって測定面とする。次に、d2については、アルミニウム合金板の任意のL−ST面に対し、機械研磨、バフ研磨、電解研磨を行なって測定面とする。更に、Cについては、アルミニウム合金板表面に対し機械研磨、バフ研磨、電解研磨を行なって測定面とする。
具体的には、上記各測定面を走査電子顕微鏡に付属の後方散乱電子回折測定装置(SEM−EBSD)によって測定することで、集合組織の方位データを取得する。次に、得られた方位データから、EBSD解析ソフト(TSL社製の「OIM Analysis」)を使用して結晶粒径(d1、d2)を得る。ここで、ミスオリエンテーション5°以上の結晶境界線を結晶粒界とみなし、円相当として算出した直径を結晶粒径とする。また、同様に得られた方位データから、EBSD解析ソフトを使用して結晶方位面積率Cを測定する。Cube方位面積率Cは(001)<100>方位から15°以内の結晶方位をCube方位として計算する。各測定面における測定領域は、L−LT面の場合は1000μm×1000μm以上の面積、L−ST面の場合は1000μm×1000(または全板厚)μm以上の面積とし、測定ステップ間隔は結晶粒径の1/10程度として3箇所以上測定して、その算術平均値をもってD1、d1及びCを決定する。
3.アルミニウム合金板の製造方法
本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法では、最終板の成形加工用アルミニウム合金板の組織として、前述のような組織を得るために、その製造過程中の熱間圧延、冷間圧延、ひずみ抜き焼鈍及び溶体化処理を特定の条件で実施する必要がある。
3−1.各製造工程を実施する必要性
まず、本発明に係る製造方法における各製造工程を実施する必要性について説明する。上述の本発明で規定するd1、d2及びCを得るためには、様々な製造方法が考えられる。しかしながら、低コスト化の観点からすると、現在自動車ボディシート材の製造方法として一般的に用いられている工程、すなわち、鋳造、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、溶体化処理の順序による工程と同等の工程数で実施する必要がある。
本発明で規定する上記d1、d2及びCを得るためには、溶体化処理時の結晶粒径を従来の工程におけるものよりも粗大化させる必要がある。この方法としては「溶体化処理直前の冷間圧延板に導入されたひずみエネルギーを低減する」ことが最適である。熱間圧延や冷間圧延で導入された転位は、溶体化処理時に再結晶核の核生成サイトとなるため、転位が多数導入された状態、すなわち、ひずみエネルギーが大きいほど、生成される再結晶核が増加して再結晶粒が微細になる。これとは逆に、導入されたひずみエネルギーが少ないほど、生成される再結晶核が少なくなるため、結晶粒径は粗大になる。また、上記Cを得るためには、圧延中に圧延集合組織を十分に発達させる必要がある。この方法としては、製造工程中の再結晶回数を減らし、十分な圧下率を得ることが必要である。
従って、本発明で規定する上記d1、d2及びCを両立するためには、再結晶をさせずに圧下率を高くすることで十分に圧延集合組織を発達させ、かつ、溶体化処理直前に導入されたひずみエネルギーを低減させることが必要となる。
ここで、溶体化処理直前の冷間圧延板に導入されたひずみエネルギーを低減するためには、熱間圧延率や冷間圧延率を低減することが最も容易であるが、このときの冷間圧延率は十分に低くする必要がある。そして、その場合には、曲げ性向上に有効なCube方位が十分に発達しないことが知られている。これは、溶体化処理時のCube方位の発達においては、圧延中に形成される圧延集合組織が重要な役目を担っているためであり、圧延中に圧延集合組織を十分に発達させないとCube方位は発達しない。
このようなひずみエネルギーについての相反事象を両立するために、本発明者らは、溶体化処理直前に焼鈍を行うことでひずみエネルギーを低下させるひずみ抜き焼鈍工程を設けることを見出した。このひずみ抜き焼鈍は、再結晶温度以下の温度で加熱処理することとする。したがって、高い冷間圧延率により発達した圧延集合組織を保ったまま、ひずみエネルギーのみを低下させることが可能となり、その直後の溶体化処理時において結晶粒径の適度な粗大化、ならびに、高いCube方位密度を得ることを可能とするものである。
従って、ひずみ抜き焼鈍を実施する前の冷間圧延工程では、圧下率を60%以上、好ましくは70%以上とする。圧下率が60%未満では、Cube方位の発達に必要な圧延集合が十分に発達せず、溶体化処理工程において所望のCube方位面積率を得ることができない。更に、熱間圧延工程後において中間焼鈍工程を行なわずに冷間圧延工程を行うことで、更に圧延集合組織を発達させつつ、製造コストを削減することができる。
3−2.各製造工程
次に、本発明で規定する上記d1、d2及びCを有するアルミニウム合金板を得るための代表的、かつ最適な製造方法について説明する。このような製造方法は、溶製したアルミニウム合金溶湯を鋳造し、任意的に均質化処理を施し、次いで、熱間圧延、冷間圧延、ひずみ抜き焼鈍、溶体化処理をこの順序で行う。
3−2−1.鋳造工程
前述の成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶製し、連続鋳造法(CC鋳造法)や半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の鋳造法を適宜選択して鋳造する。
3−2−2.均質化処理工程
鋳造工程で得られる鋳塊に対して、必要に応じて均質化処理を行なってもよい。均質化処理条件は特に限定されるものではないが、480〜590℃の温度で0.5〜24時間の加熱処理を施すのが好ましい。
3−2−3.熱間圧延工程
均質化処理を行った後の鋳塊、或いは、行なわない場合には鋳造後の鋳塊に、従来の一般的な方法に従って熱間圧延を施せばよい。熱間圧延開始までの過程においては、必要に応じて以下のいずれかの処理方法を適用することができる。すなわち、均質化処理を行なった場合には、均質化処理後の冷却過程で常温又は常温近くまで冷却した後、改めて熱間圧延の開始温度まで加熱して保持し、この温度で熱間圧延を開始する方法、又は、均質化処理後の冷却過程で熱間圧延の開始温度まで加熱又は冷却して保持し、この温度で熱間圧延を開始する方法、或いは、均質化処理を行なわない場合には、鋳造工程後に常温又は常温近くまで冷却した後、改めて熱間圧延の開始温度まで加熱して保持し、この温度で熱間圧延を開始する方法である。
熱間圧延では、熱間圧延開始温度を300〜450℃とし、熱間圧延終了温度を200〜350℃とする。なお、熱間圧延開始温度は好ましくは300〜420℃であり、熱間圧延終了温度は好ましくは200〜320℃である。開始温度が300℃未満では圧延が困難または著しく生産性を落とすこととなり、450℃を超えると熱延中に再結晶が繰り返され、圧延集合組織が発達しなくなる結果、溶体化処理時にCube方位が発達しなくなる。終了温度が200℃未満では圧延が困難となり、350℃を超えると再結晶してしまいCube方位が発達しなくなる。
3−2−4.冷間圧延工程
熱間圧延工程に続いて、圧延板に冷間圧延を施して最終板厚(製品板厚)の冷間圧延板とする。冷間圧延工程での圧下率は60.0%以上とし、好ましくは75.0%以上とする。圧下率が60.0%未満の場合は、圧延中に形成される圧延集合組織が十分に発達せず、溶体化処理時に形成するCube方位密度が不十分となる。圧下率が90%を超えると冷間圧延自体が困難となるため、圧下率の上限値は90%とする。ここで、熱間圧延に続いて冷間圧延と中間焼鈍とを実施することも可能である。しかしながら、その場合には製造工程が増加するために高コスト化することに加え、中間焼鈍時に、熱間圧延中及び冷間圧延中に形成された圧延集合組織が再結晶により低下してしまう。その結果、溶体化処理時に十分なCube方位密度を得ることが更に困難となるため、本発明においては中間焼鈍を実施しないものとする。
3−2−5.ひずみ抜き焼鈍
上記の冷間圧延板に対して、ひずみ抜き焼鈍を行う。ひずみ抜き焼鈍の方法としては、バッチ式炉と連続焼鈍炉が挙げられる。ひずみ抜き焼鈍時のひずみエネルギーの低下量は焼鈍の加熱処理温度と時間に依存するため、適切なひずみエネルギー量となるように条件を設定しなければならない。
ひずみ抜き焼鈍の加熱処理温度は用いる焼鈍方法に依存するが、200〜350℃とし、好ましくは230〜350℃である。ひずみ抜き焼鈍の目的は、未再結晶状態のままひずみエネルギーを低減することである。ひずみ抜き焼鈍時に再結晶してしまうと、ひずみエネルギーが高い状態で再結晶することになるため、結晶粒径が微細になり目的とする粗大な結晶粒径が得られない。
焼鈍にバッチ式炉を用いる場合には、後述する連続焼鈍炉を用いる場合よりも処理温度域が低温側にずれており、かつ長時間でひずみ抜き焼鈍を実施する。焼鈍の加熱処理温度は200〜300℃とし、好ましくは230〜300℃である。また、保持時間は5分〜20時間とするのが好ましく、1時間〜10時間とするのがより好ましい。加熱処理温度が200℃未満の場合には、保持時間に長時間を要するため生産性が低下する。一方、加熱処理温度が300℃を超える場合には冷間圧延板が再結晶してしまい、次工程の溶体化処理時において規定の結晶粒径やCube方位密度が得られない。保持時間が5分未満の場合には、保持時間を安定して管理することが困難となる。一方、保持時間が20時間を超えると生産性が低下する。
焼鈍に連続焼鈍炉(CAL)を用いる場合には、バッチ式炉を用いる場合よりも処理温度域が高温側にずれており、かつ短時間でひずみ抜き焼鈍を実施する。加熱処理の到達温度は250〜350℃とし、好ましくは270〜350℃である。保持時間0秒〜5分とするのが好ましく、0秒〜1分とするのがより好ましい。到達温度が250℃未満の場合には、短時間での熱処理では十分にひずみエネルギーを低下させることができない。一方、到達温度が350℃を超える場合には、短時間の熱処理で再結晶してしまう虞がある。保持時間が1分を超えると、生産性の低下を招く場合がある。なお、保持時間が0秒とは、到達温度に達した後に直ちに冷却することを意味する。
このようなひずみ抜き焼鈍工程により、ひずみエネルギーを低下させた冷間圧延板に対して溶体化処理を施すことで、リジングマークや肌荒れを改善するのに十分な、適度に粗大化した結晶粒径(d1、d2)を得ることができ、更に高Cube方位密度を得ることができる。
3−2−6.溶体化処理工程
ひずみ抜き焼鈍に続いては、圧延板に溶体化処理を施す。溶体化処理における材料到達温度は480〜590℃以下で行う。材料到達温度が480℃未満では、再結晶しない場合がある。一方、材料到達温度が590℃を超えると、板が溶融してしまい安定した製造が困難となる場合がある。保持時間は特に限定されるものではないが、生産性の観点から0秒〜5分とするのが好ましく、0秒〜1分とするのがより好ましい。溶体化処理後の冷却については、保持温度から150℃以下の温度域までの冷却速度を100℃/分以上とするのが好ましく、これにより十分な成形性と焼付硬化性を得ることができる。なお、この冷却速度は300℃/分以上とするのがより好ましい。また、冷却速度の上限値は冷却装置や冷却方法に依存するが、本発明では生産性と操作性の観点から10000℃/分とする。
3−2−7.その他の工程
本発明においては、良好な焼付け硬化性を得るために、溶体化処理後直ちに予備時効処理を行うのが好ましい。但し、この予備時効処理は、結晶粒径に対しては本質的な影響は与えるものではなく、従って本発明においては予備時効処理を行なわなくてもよい。
以下に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の効果を説明するためのものであり、実施例記載のプロセス及び条件が本発明の技術的範囲を制限するものではない。
表1の合金符号A〜Nに示す各成分組成のアルミニウム合金を常法に従って溶解し、DC鋳造法によりスラブに鋳造した。なお、本発明の主要課題である耐リジング性とヘム曲げ性については、上記の結晶粒径d1、d2及びCが課題解決手段となるために、本実施例においては製造工程の条件を特定範囲に規定することにより上記解決手段を制御している。更に、肌荒れ性についても、d1、d2によって抑制されるものであるため、これについても評価した。一方、上記主要な課題の他に機械的特性としての強度は、本発明の課題として挙げていないが、自動車用ボディシート等において本来的に要求される特性であるため、これについても評価した。
Figure 0006619919
得られた各スラブに対して530℃で8時間の条件で均質化処理を施した後、室温付近まで放冷した。次いで、表2に示す熱間圧延開始温度まで加熱後にこの温度で2時間保持する予備加熱を行った。更に、予備加熱後に熱間圧延を表2に示す開始温度と終了温度で実施した。熱間圧延後の板厚を表2に示す。
Figure 0006619919
次に、熱間圧延板に対して冷間圧延を施し、最終板厚1.0mmの冷間圧延板を得た。なお、冷間圧延率を表2に示す。
次に、冷間圧延板に対して表2に示す条件でひずみ抜き焼鈍を実施した後に、表2に示す条件で溶体化処理を実施した。溶体化処理は、連続焼鈍炉を用いた。その後、室温付近まで600〜1000℃/分の冷却速度で冷却後、直ちに80℃で5時間の予備時効処理を施した。この予備時効処理は機械的性質に影響するが、結晶粒径や結晶方位への影響はない。なお、焼鈍後の組織についても、表2に示した。
以上のようにして得られた最終板厚1mmの各板材試料について、前述した方法で結晶粒径(d1、d2)及び結晶方位(C)を測定した。結果を、表3に示す。
Figure 0006619919
更に、各板材試料について、従来から行われている簡便な評価手法を用いて耐リジング性の評価を行った。具体的には、圧延方向に対して90°をなす方向に沿ってJIS5号試験片を採取した。この試験片に5%及び15%のストレッチをそれぞれ行い、表面に圧延方向に沿って生じた筋模様(筋状凹凸模様)をリジングマークとして、その発生の有無を目視で判定した。5%ストレッチは通常のプレス成形を想定したひずみ量であり、15%ストレッチは特に成形の厳しい成形を想定したひずみ量である。○印は筋模様なし、×印は筋模様が強い状態を示す。また、同様にして肌荒れの有無も判定した。○印は肌荒れ発生なし、×印は表面性状として問題となる程度の肌荒れが発生したことを示す。結果を表3に示す。
更にまた、各板材試料について、溶体化処理を行った日から90日後において、圧延方向に対して90°方向のJIS5号試験片を採取し、JISH7701に基づくヘミング試験を実施した。予歪は8%、プリヘミング時のポンチ先端半径は0.5mm、本ヘミング時の中板の厚さは1.0mmとした。ヘミング試験後は外周部表面の観察を行い、JISH7701に記載される0〜2点を合格(○)とし、3〜4点を不合格(×)とした。
最後に、機械的特性として強度の評価も行なった。前述のようにして得られた各板材試料について、溶体化処理を行った日から7日後において、圧延方向と平行な方向にJIS5号試験片を切り出し、引張試験により0.2%耐力(ASYS)と伸び(ASEL)を評価した。また、試験片を2%ストレッチ後に、塗装焼付け処理相当の加熱処理としてオイルバス中での170℃×20分の加熱処理を施した後の0.2%耐力値(BHYS)も測定した。成形性や強度の判断基準として、自動車ボディシート材として要求される基準を基づいて、ASYSが90MPa以上、ASELが25%以上、BHYSが160MPa以上を合格として○とし、それ以外は不合格として×とした。結果を表3に示す。
表3の製造プロセス番号1〜3、5、7、10、11、13、15の例は、いずれも合金の成分組成がこの発明で規定する範囲内であって、溶体化後の結晶粒径d1、d2及びCube方位面積率Cが本発明で規定する範囲内にある。これらの例では、5%及び15%のストレッチではリジングが発生せず、また肌荒れも発生せず、いずれも問題にならないことが確認され、また、自動車材として要求される機械的性質として、ASYA、ASEL及びBHYSも性能を十分に満たすものとなった。更に、焼鈍後の組織が、未再結晶となった。
これに対して、表3の製造プロセス番号4、14では、冷間圧延率が低いために、Cube方位面積率が本発明で規定する範囲外となり、ヘム曲げ性が自動車材として要求される特性を満足しなかった。一方、結晶粒径d1、d2は本発明で規定する範囲内であり、過酷なプレス成形を模擬した15%ストレッチでもリジングは発生せず、また肌荒れも発生しなかった。
製造プロセス番号6、9では、ひずみ抜き焼鈍の温度が低いため、十分にひずみエネルギーが低下しなかった結果、その後の溶体化処理時に結晶粒径d1が本発明で規定する範囲外となった。熱間圧延の開始温度は本発明で規定する範囲内のため、5%ストレッチではリジングが発生しなかったものの、過酷なプレス成形を模擬した15%ストレッチではリジングが発生した。
製造プロセス番号8、12では、ひずみ抜き焼鈍の温度が高いため、ひずみ抜き焼鈍後の組織が再結晶組織となり、結晶粒径d1が本発明で規定する範囲外となった。熱間圧延の開始温度は本発明で規定する範囲内のため、5%ストレッチではリジングが発生しなかったものの、過酷なプレス成形を模擬した15%ストレッチではリジングが発生した。
製造プロセス番号16、17では、ひずみ抜き焼鈍における加熱保持を長時間実施したため、ひずみエネルギーが過剰に低下してしまった結果、その後の溶体化処理時に粗大に再結晶し過ぎてしまい、本発明で規定する結晶粒径d1、d2の範囲外となった。d1は十分に粗大なため、15%ストレッチでもリジングは発生しなかったが、肌荒れが強く発生した。また、製造プロセス番号16では、ASELが不合格であった。
製造プロセス番号18は、熱間圧延の開始温度が550℃と高く、また、ひずみ抜き焼鈍を実施しなかったため、リジングが強く発生し、またCube方位面積率が低く、ヘム曲げ性も劣った。
製造プロセス番号19では、ひずみ抜き焼鈍を実施しなかったため、結晶粒径d1が本発明で規定する範囲外となり、過酷なプレス成形を模擬した15%ストレッチではリジングが発生した。
製造プロセス番号20では、熱間圧延の開始温度が550℃と高いため、通常はリジングが強く発生し易いが、ひずみ抜き焼鈍により、溶体化処理後の結晶粒径を本発明で規定する範囲内としたため、15%ストレッチでもリジングは発生しなかった。しかし、熱間圧延の開始温度が高いために、熱間圧延中の圧延集合組織の発達が少なく、Cube方位面積率が低くなった結果、ヘム曲げ性が劣った。
製造プロセス番号21では、熱間圧延の終了温度が高いため、熱間圧延終了時に再結晶する結果、溶体化処理後のCube方位面積率が低くなり、ヘム曲げ性が劣った。
表3の製造プロセス番号22〜29の例は、いずれも合金の成分組成が本発明で規定する範囲を外れた組成となっている。製造条件は本発明範囲を満たしており、結晶粒径(d1、d2)及びCube方位面積率(C)を満たした。その結果、耐リジングマーク性とヘム曲げ性は合格であった。しかしながら、ASYA,ASEL、BHYSの少なくともいずれかが×となり、機械的特性は満足のいくものではなかった。
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
本発明に係るアルミニウム合金板は、厳しい成形条件においてもリジングマークの発生を確実に抑制でき、成形性についてはヘム曲げ性に優れる。また、本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法は、量産規模で確実かつ安定して低コストでの生産を可能とする。

Claims (3)

  1. Mg及びSiを含有するアルミニウム合金からなり厚さtを有するアルミニウム合金板であって、板厚(t/2)を中心として厚さ方向に沿った±(t/8)の範囲のL−LT面における結晶粒径が45〜100μmであり、板全体においてL−ST面の結晶粒径が80μm以下であり、板表面における結晶方位のCube方位面積率が10%以上であり、前記アルミニウム合金が、Mg:0.20〜1.50mass%、Si:0.30〜2.00mass%を含有し、Mn:0.03〜0.60mass%、Cr:0.01〜0.40mass%、Zr:0.01〜0.40mass%、Fe:0.03〜1.00mass%、Ti:0.005〜0.300mass%及びZn:0.03〜2.50mass%から選択される1種又は2種以上を更に含有し、Cu:1.50mass%以下に規制され、残部Al及び不可避的不純物からなることを特徴とする耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板。
  2. 請求項1に記載のアルミニウム合金板の製造方法において、前記アルミニウム合金を鋳造する鋳造工程と、鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、中間焼鈍を施さずに熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板のひずみ抜き焼鈍工程と、焼鈍した圧延板を溶体化処理する溶体化処理工程とを備え、前記熱間圧延工程において、熱間圧延開始温度を300〜450℃とし、熱間圧延終了温度を200〜350℃とし、前記冷間圧延工程において、圧下率を60.0%以上として最終板厚の冷間圧延板とし、前記ひずみ抜き焼鈍工程において、冷間圧延板を到達温度200〜350℃で加熱処理することを特徴とする耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
  3. 前記鋳造工程と熱間圧延工程の間に、鋳塊を均質化処理する均質化処理工程を更に備える請求項に記載の耐リジング性及びヘム曲げ性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
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