JP3919315B2 - 表面性状に優れる成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材 - Google Patents
表面性状に優れる成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、屋根、インテリア、カーテンウオール等の建材、器物、電気部品、光学機器、自動車、鉄道車両及び航空機等の輸送機器、一般機械部品等の用途に適する、成形加工後の表面性状に優れる成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材に関する。
【0002】
【従来の技術】
6000系(Al−Mg−Si系)アルミニウム合金板材は、耐食性及び常温での成形加工性が比較的優れ、人工時効処理により高強度が得られることから、成形性あるいは軽量化、薄肉化が要求される用途に適している。Al−Mg−Si系合金板材は、通常、均質化処理後、熱間圧延し、続いて中間焼鈍した後、必要に応じて冷間圧延を施して所定厚の板材とし、これに溶体化焼入れを施し、さらにその後必要に応じてスキンパス、冷間圧延、ストレッチ等を施して製造される。
【0003】
ところが、Al−Mg−Si系合金板材に対し成形加工を行ったとき、特開平7−228956号公報又は特開平8−232052号公報に記載されているように、板表面にリジングマークと呼ばれる表面荒れが発生することが問題となっている。このリジングマークが発生すると、表面が極めて美麗であることが要求されるインテリア、カメラケース、自動車用外板パネル等の用途には外観不良として使用できず、また、リジングマークは塗装を行った場合特に目立つようになるため、成形加工後気付かれないまま塗装工程に進み、塗装後に初めて認識されることもある。つまり製品になって初めて現れることがあるという困った特性を持っている。
【0004】
成形加工時に板表面に発生するリジングマーク等による表面性状の劣化を防止するためには、製品形状を変更し成形加工をより緩い条件で行うことが必要となるが、製品形状の変更は一般に成形加工条件のきびしい部位の曲率半径を小さくすることとなり、これでは所期製品形状を実現することができない。一方、成形加工時に表面性状の劣化が発生した場合、板表面をペーパー等で研磨することにより表面性状のある程度の修正は可能ではあるが、製造工程が増えコスト増となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記特開平7−228956号公報及び特開平8−232052号公報では、いずれも熱間圧延温度を低めに設定し、同時にその他の各工程の処理条件も厳密に制御し、微細かつ結晶学的方位がランダムな結晶粒を生じさせることにより、リジングマークの発生を防止している。しかし、特開平7−228956号公報ではリジングマークが発生しなかったとされるプレス加工の変形量の開示がなく、特開平8−232052号公報ではプレス加工のシミュレーションとして高々2%の引張変形が行われたに過ぎない(つまり、高々2%の引張変形に相当する成形加工により発生するリジングマークを防止することが意図されているに過ぎない)。
【0006】
本発明は、意匠性に優れる成形加工品に対する需要の高まり、及び成形加工条件が今まで以上にきびしい方向に向かいつつある状況に鑑み、よりきびしい加工条件下でリジングマークさらにはオレンジピール等の発生による表面性状劣化が生じない、成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材は、Si:0.2〜1.8%、Mg:0.2〜1.6%を含有し、熱間圧延後、中間焼鈍なしで冷間圧延を受けたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板材であり、キューブ方位の集積度が板表層部で2〜5、かつ板厚1/4部位で7以下、好ましくは板表層部で2〜4、かつ板厚1/4部位で6以下であり、ミクロ結晶粒の粒径が45μm以下であることを特徴とする。
なお、本発明においてキューブ方位の集積度は、{111}極点図でのキューブ方位の回折強度のランダム試料の回折強度に対する比率である。また、中間焼鈍なしで冷間圧延を受けたとは、熱間圧延と冷間圧延の間の中間焼鈍及び冷間圧延途中の中間焼鈍の両方がないことを意味する。
【0008】
キューブ方位とは{100}〈100〉方位を意味し、圧延集合組織が形成された圧延板を再結晶させたときに形成される。アルミニウム合金では、キューブ方位を有する再結晶粒は板面内にランダムに配置するのではなく、圧延方向に並んで配置しやすい。これらは圧延材だけでなく押出材にも共通にみられる現象である。
本発明者らは、このようなアルミニウム合金板材を成形加工した場合、キューブ方位を有する再結晶粒が圧延方向に並んだ領域と、それが圧延方向に並んでいない他領域とは変形量及び変形する方位が異なるため、成形加工後の板表面では、キューブ方位を有する再結晶粒が圧延方向に並んだ領域が筋模様として観察されやすいこと、特にこのような領域が圧延方向に長くかつ多数存在した場合、成形加工後の板表面には圧延方向に顕著な筋模様が観察されるようになることを見いだした。これがリジングマークである。
【0009】
本発明者らはこのような知見をもとに、キューブ方位の集積度を低くすれば、成形加工時に板表面に発生するリジングマークが改善されることに想到した。すなわちキューブ方位の集積度が低くなれば、圧延方向に並ぶキューブ方位の再結晶粒の列は分断され、個々の再結晶粒の列の長さは短くなる。また、キューブ方位の再結晶粒からなる列も減る。これにより、成形加工時に発生する筋模様の長さは短く、かつ筋模様の数も減り、リジングマークの程度は低くなり、ひいては肉眼ではリジングマークを観察できなくなる。また、リジングマークの発生には、板表層部におけるキューブ方位の集積度だけでなく、板内部におけるキューブ方位の集積度が影響し、しかも、板表層部と板内部ではキューブ方位の集積度が異なることも多く(特に中間焼鈍を省略した場合などは顕著)、従って、板表層部と板内部(特に板厚1/4部位)のそれぞれにおいてキューブ方位の集積度を低くする必要があることも分かった。
【0010】
Si:0.2〜1.8%、Mg:0.2〜1.6%を含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金板材において、成形加工後の板表面においてリジングマーク発生を防止するには、キューブ方位の集積度が板表層部で5以下、かつ板厚1/4部位で7以下とすることが必要となる。キューブ方位の集積度が板表層部で5又は板厚1/4部位で7を超えると、成形加工時に板表面に顕著なリジングマークが発生する。さらに平面歪状態、等2軸引張状態等のよりきびしい成形加工条件下においても、リジングマークの発生を防止するには、キューブ方位の集積度が板表層部で4以下、かつ板厚1/4部位で6以下とすることが望ましい。
【0011】
このように、リジングマークを低減するためには、キューブ方位の集積度を低くすることが望ましい。ところが、キューブ方位の集積度が低くなると、圧延方向に曲げ加工(曲げ線が圧延方向と直角方向)を行った場合に、板表面にクラック等の割れが生じやすくなることが分かった。これは、キューブ方位の集積度が低くなると、圧延方向に並ぶキューブ方位の再結晶粒の列は分断され、個々の再結晶粒の列の長さが短くなり、特にSi:0.2〜1.8%、Mg:0.2〜1.6%を含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金板材において、キューブ方位の集積度が2未満になると分断部位が圧延方向と直角に並びやすくなり、圧延方向に曲げ加工を行ったとき、このような分断部位に変形が集中しやすく、板表面に割れが生じやすくなるためである。
【0012】
曲げ加工時の割れの生じやすさに及ぼすキューブ方位の集積度の影響は、板表層部に比べて板内部では小さいため、この点に関してはキューブ方位の集積度は板表層部のみを規定すればよい。すなわち、キューブ方位は板表層部において2以上とする。
従って、Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材において、リジングマークの発生を防止し、かつ曲げ加工時の割れを防止するには、キューブ方位の集積度を板表層部で2〜5で、かつ板厚1/4部位で7以下、望ましくはキューブ方位の集積度を板表層部で2〜4で、かつ板厚1/4部位で6以下とする。
【0013】
なお、キューブ方位について、例えば特開平5−263203号公報に、再結晶によりキューブ方位が強く形成されたアルミニウム合金板材は、異方性が強く出て深絞り性が低下することが記載されている。しかし、キューブ方位の集積度がリジングマークの発生に影響していること、しかも板表層部と板内部の双方のキューブ方位の集積度を所定値以下に規定することでリジングマークの発生を防止できること、しかし、余りキューブ方位の集積度を低下させると曲げ加工時の割れが発生しやすくなること等、本発明者らの知見を示唆する開示は全くない。
【0014】
また、オレンジピールの発生をも防止するためには板表面の結晶粒径を45μm以下とすることが望ましい。以上により、成形加工時にリジングマークや割れ、さらにはオレンジピール等が生じない板表面性状に優れる成形加工用アルミニウム合金板材を得ることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
成分組成の面でいえば、本発明は、Si:0.2〜1.8%、Mg:0.2〜1.6%を含有し、残部Alと不可避不純物からなるアルミニウム合金のほか、必要に応じて、さらに▲1▼Zn:0.005〜1.0%、Cu:0.005〜1.0%、Ti:0.001〜0.1%、▲2▼B:1〜300ppm、Be:0.1〜100ppm、▲3▼Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.15%以下、V:0.15%以下のうちから1種又は2種以上を合計で0.01〜1.5%、のいずれか又はこれらを組み合わせて含有するアルミニウム合金など、Si:0.2〜1.8%、Mg:0.2〜1.6%を含有するAl−Mg−Si系アルミニウム合金全てに適用し得る。Al−Mg−Si系合金の組成を上記のように規定した理由は下記のとおりである。
【0016】
Mg:MgはSiとともに強度を付与する元素であるが、0.2%未満では人工時効で十分な強度が得られず、一方、1.6%を越えると成形性が低下する。従って、Mg含有量は0.2〜1.6%の範囲とする。
Si:SiはMgとともに強度を付与する元素であるが、0.2%未満では人工時効で十分な強度が得られず、一方、1.8%を越えると伸びが低くなり、成形性が低下する。従って、Si含有量は0.2〜1.8%の範囲とする。なお、人工時効で高い強度を得るには、MgとSiとの含有量の割合を、Si/Mg≧0.65とすることが望ましい。
【0017】
Zn:Znは人工時効時においてMgZn2を微細かつ高密度に析出させ高い強度を実現させる。ただし、0.005%未満では十分な強度が得られず、一方1.0%を越えると耐食性が顕著に低下するため、含有量は0.005〜1.0%の範囲とする。
Cu:Cuは人工時効時にMg2Siを微細にかつ高密度に析出させ、高い強度を実現させる。ただし、0.005%未満では効果がなく、一方、1.0%を越えると耐食性及び溶接性が顕著に低下するため、含有量は0.005〜1.0%の範囲とする。
Ti:Tiは鋳塊の結晶粒を微細化し、成形性を向上させるために添加する元素であるが、0.001%未満では効果がなく、一方、0.1%を越えて添加されると粗大な晶出物を形成し、成形性を低下させる。このため、Ti含有量は0.001〜0.1%の範囲とする。
【0018】
B:BはTiと同様に鋳塊の結晶粒を微細化し、成形性を向上させるために添加する合金であるが、1ppm未満の添加では効果がなく、300ppmを越えて含有されると粗大な晶出物を形成し、成形性を低下させる。このため、B含有量は1〜300ppmの範囲とする。
Be:Beは空気中におけるアルミニウム溶湯の再酸化を防止するため、必要があれば0.1ppm以上含有させる。しかし、100ppmを越えると材料硬度が増大し成形性が低下するため、Be含有量は0.1〜100ppmの範囲とする。
【0019】
Mn、Cr、Zr、V:これらの成分は均質化熱処理時及びその後の熱間圧延時にAl20Cu2Mn3、Al12Mg2Cr、Al3Zr、Al2Mg3Zn3等の分散粒子を生成する。これらの分散粒子は再結晶後の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒を得ることができる。しかし、過剰な添加は溶解鋳造時に粗大な不溶性金属間化合物を生成しやすく、成形加工時の破壊の起点となり、成形性を低下させる原因となる。また、Zrの過剰添加はミクロ組織を針長状にしやすく、特定方向の破壊靱性及び疲労特性さらには成形性を劣化させる。このため、Mn、Cr、Zr、Vそれぞれの添加量は、1.0%、0.30%、0.15%、0.15%以下とする。
【0020】
Fe:不純物として含まれるFeは、Al7Cu2Fe、Al12(Fe,Mn)3Cu2、(Fe,Mn)Al6等の晶出物を生成する。これらの晶出物は破壊靱性及び疲労特性に対して有害であり、Fe含有量が0.5%を越えると顕著に破壊靱性、疲労特性及び成形性が低下するため、Fe含有量は0.5%以下とする。なお、晶出物としては、Fe系以外のAl2Cu2Mg、Al2Cu2、Mg2Si等の可溶のものがあり、これらは溶体化処理及び焼入れで十分にAlマトリックス中に再固溶させることが望ましい。
その他の不純物:Niは0.05%以下に制限する。
【0021】
次に、本発明に係る成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材の製造方法を例示すると、まず常法に則り溶解鋳造により鋳塊にした後、均質化熱処理し、熱間圧延後、必要に応じて中間焼鈍した後、冷間圧延し、最終的に溶体化処理及び焼入れを実施し、製品板とする。以下、例示したこの製造方法の各工程について、その好ましい条件とともにもう少し詳細に説明する。
【0022】
▲1▼熱間圧延
粗熱間圧延及び仕上げ熱間圧延を通し、圧延開始温度を均熱温度以下(例えば470〜540℃)、圧延終了温度を350〜450℃と設定し、熱間圧延の最終パス時の歪速度を9000〜20000%/秒に設定する。これにより熱延後の板材の表層部から少なくとも板厚1/4部位までの金属学的組織を微細な再結晶粒として、最終製品板においてキューブ方位を有する再結晶粒を圧延方向に並ばせる要因となる繊維状組織をなくすことができ、これで、最終製品板において、成形時にリジングマークの発生を防止することができる。また、最終製品板において、キューブ方位の再結晶粒の列が分断され、個々の結晶粒の列が短くなり、分断部位が圧延方向と直角方向に一列に並ぶほどにはキューブ方位は低減されない。これにより、圧延方向に曲げ加工を行った際に板表面(板が圧延方向に伸びるように変形した箇所)にクラックが発生するのを抑制でき、圧延方向への曲げ加工性を向上できる。つまり、最終製品板においてキューブ方位の集積度が板表層部で2〜5、かつ板厚1/4部位で7以下、望ましくはそれぞれ2〜4、6以下として、リジングマークの発生を防止し、曲げ加工性を向上させることができる。
ここで、歪速度の定義は、歪速度=最終ロールによる圧延率(%)÷最終ロールを板が通過する時間(秒)とする。
【0023】
▲2▼中間焼鈍
熱間圧延の開始部に当たるコイルの先端部位近傍と熱間圧延の終了部に当たるコイルの後端部位近傍のミクロ組織は、熱間圧延が安定して行われる定状部位(コイル長手方向の中央部位)のミクロ組織とは異なる場合が多い。製品板をコイルのどの部位から採取しても安定的にキューブ方位の集積度を、板表層部で2〜5、かつ板厚1/4部位で7以下であることを実現するには、必要に応じて中間焼鈍を行うとよい。また、中間焼鈍は、キューブ方位の再結晶粒の列を細分化し、かつ数を減少させるためにも効果があり、特にリジングマークの低減を優先させる場合には行う。
好ましい中間焼鈍条件は、加熱速度:400℃までを30℃/分〜500℃/秒、400〜500℃を10〜100℃/分、保持条件:500〜580℃×10秒〜10分、冷却速度:保持温度から50℃までを30℃/分以上である。
なお、中間焼鈍を行う場合は、熱間圧延の圧延終了温度を先に▲1▼熱間圧延において記載した温度範囲より低く設定できる(例えば150℃〜450℃)。また、熱間圧延後の最終パス時の歪速度を低く設定できる(例えば7000〜20000%/秒)。
【0024】
▲3▼冷間圧延
ミクロ結晶粒(通常の結晶粒)の粒径を45μm以下とするため、好ましくは冷間圧延率は50%以上とする。なお、上記の中間焼鈍を行った場合は、固溶度が高く冷間圧延での加工硬化度が高くなり、最終溶体化処理でのミクロ結晶粒は小さくなりやすい。従って、冷延率は30%以上で十分である。
▲4▼最終溶体化処理
好ましい最終溶体化処理条件は、400℃までの加熱速度は30℃/分以上、400〜530℃を10℃/分以上、保持条件:530〜580℃×10秒〜10分、冷却速度:保持温度から30℃までを30℃/分以上である。
【0025】
以上は、Al−Mg−Si系合金を熱間圧延後、必要に応じて中間焼鈍した後、冷間圧延し、最終的に溶体化処理及び焼入れを実施する場合を例にとって、その好ましい条件等について説明したが、本発明はこの方法又は条件に限定されることなく、種々の方法で製造されたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板材一般に等しく適用される。要するに、所定量のMg及びSiを含むAl−Mg−Si系アルミニウム合金板材において、キューブ方位の集積度が板表層部で2〜5、かつ板厚1/4部位で7以下であればよい。
【0026】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
Mg0.5%、Si1.3%、Mn0.05%、Fe0.16%、Cr0.25%、Ni0.002%、Zn0.05%、Cu0.1%、Ti0.06%、B:10ppm、Be:30ppmを含み、残部Al及び不純物からなるアルミニウム合金を溶解鋳造し、460mm厚の鋳塊とし、次に540℃×4hrの均熱処理を行った後、表1に示す種々の条件で熱間圧延し、2.0mm厚及び2.5mm厚の板とした。続いて、中間焼鈍することなく冷間圧延し、1.2mm厚の板とした。この板を550℃の溶体化温度に加熱して20秒間保持した後、水焼入れした(150℃までの冷却速度は約50℃/s)。その後、室温で3カ月間放置した後、板幅の中央部からサンプリングを行い、材料特性を評価した。その結果を表1にあわせて示す。
【0027】
【表1】
【0028】
なお、表1の各材料特性は次のようにして測定した。
(1)キューブ方位の集積度
板表面と板厚1/4部位を電解研磨(Ra<0.1μm)により平滑にした後、X線(CoKα線)を用いてSchulzの反射法により{111}極点図を測定し、得られた極点図上よりキューブ方位{100}<110>の集積度(ランダム試料の{111}での回折強度(=ランダム強度)に対する比)を評価した。なお、板厚1/4部位のキューブ方位の集積度を測定する場合は、板片面をエメリー紙(#400→#800→#1200→#1500)→OPS研磨→ダイヤモンド砥粒による研磨(6μm→1μm)で板厚の1/4まで研磨した後、電解研磨を実施した。
【0029】
(2)ミクロ結晶粒
板表面を約0.05〜0.1mmまで機械研磨した後、電解エッチングし、光学顕微鏡(偏光板使用)を用いて観察した。粒径は圧延方向でラインインターセプト法にてL−L面を測定した。1測定ライン長は500μmであり、1視野当り各5本で計5視野観察した。
(3)引張特性
JIS−Z2241に準拠し、常温大気中でJIS5号試験片を用いて、LT方向(圧延方向に対して90゜方向)に引張速度5mm/分にて行った。
(4)リジングマークの評価
製品板をw200×l180mmサイズ(w200が圧延方向に平行)に切断後、φ50.8mmの球頭ポンチを用いて、10mm高さまで張り出した。他の成形条件はロックビード状態、使用油は鋼板用潤滑油、ポンチ速度250mm/分とした。成形試験後、板表面(ポンチ接触側とは反対側の表面)の平面歪加工領域を目視観察し、リジングマークが発生した場合を×、リジングマークの判別困難な場合を○と評価した。
(5)オレンジピールの評価
引張試験において、20%引張変形した後、板表面に梨地模様が顕著に観察される場合を×、梨地模様が判別困難な場合を○と評価した。
【0030】
表1より分かるように、キューブ方位の集積度が本発明に規定する範囲内であるNo.1〜No.3、No.7〜No.8はリジングマークが発生せず、特にミクロ結晶粒径が45μm以下のNo.1〜No.3はオレンジピールの発生もない。一方、キューブ方位の集積度が本発明に規定する範囲外のNo.4〜No.6はリジングマークが発生し、成形加工後の表面性状の程度は低いことが分かる。
【0031】
(参考例)
実施例1と同じアルミニウム合金を溶解鋳造し、460mm厚の鋳塊とし、次に540℃×4hrの均熱処理を行った後、表2に示す種々の条件で熱間圧延し、2.5mm厚の板とした。続いて、表2に示す加熱速度で昇温し520℃で20秒間保持する中間焼鈍を行った後、室温まで50℃/分で冷却し、冷間圧延して1mm厚の板とした。この板を550℃の溶体化温度に加熱して20秒間保持した後、水焼入れした(150℃までの冷却速度は約50℃/s)。その後、室温で3カ月間放置した後、板幅の中央部からサンプリングを行い、材料特性を評価した。その結果を表2にあわせて示す。
なお、曲げ性の評価は次のように行った。
(6)曲げ性の評価
JIS−Z−2204の4号試験片形状に切り出した試験片(W25×l200mm、120mmが圧延方向)を用い、JIS−Z−2248に規定される方法で曲げ試験(押し曲げ法、曲げ内側の半径は板厚の半分で、180度曲げ)を行った。曲げ試験後に曲げ曲面に割れが観察される場合を×、割れが観察されない場合を○と評価した。
【0032】
【表2】
【0033】
表2より分かるように、キューブ方位の集積度が本発明に規定する範囲内であるNo.10〜No.13はリジングマーク及びオレンジピールの発生がない。一方、キューブ方位の集積度が本発明に規定する範囲より高いNo.14〜No.15はリジングマークが発生し、成形加工後の表面性状の程度が低く、板表層部の集積度が低いNo.16は曲げ性が劣ることが分かる。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、リジングマークの発生がなく、曲げ性に優れ、さらにはオレンジピールの発生もない成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材を得ることができる。
Claims (3)
- Si:0.2〜1.8%(重量%、以下同じ)、Mg:0.2〜1.6%を含有し、熱間圧延後、中間焼鈍なしで冷間圧延を受けたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板材において、キューブ方位の集積度が板表層部で2〜5、かつ板厚1/4部位で7以下であり、ミクロ結晶粒の粒径が45μm以下であることを特徴とする表面性状に優れる成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材。
ここで、キューブ方位の集積度は、{111}極点図でのキューブ方位の回折強度のランダム試料の回折強度に対する比率である。 - Si:0.2〜1.8%、Mg:0.2〜1.6%、Zn:0.005〜1.0%、Cu:0.005〜1.0%、Ti:0.001〜0.1%、B:1〜300ppm、Be:0.1〜100ppmを含有し、さらにMn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.15%以下、V:0.15%以下のうちより1種又は2種以上を合計で0.01〜1.5%含有し、残部Al及び不可避不純物からなり、熱間圧延後、中間焼鈍なしで冷間圧延を受けたAl−Mg−Si系アルミニウム合金板材において、キューブ方位の集積度が板表層部で2〜5、かつ板厚1/4部位で7以下であり、ミクロ結晶粒の粒径が45μm以下であることを特徴とする表面性状に優れる成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材。
ここで、キューブ方位の集積度は、{111}極点図でのキューブ方位の回折強度のランダム試料の回折強度に対する比率である。 - キューブ方位の集積度が板表層部で2〜4、かつ板厚1/4部位で6以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載された表面性状に優れる成形加工用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板材。
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