JP6595241B2 - 熱可塑性樹脂組成物及びその成形体 - Google Patents
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Description
耐傷付き性としては、ひっかき傷等の他に、布拭きによる傷に対する耐性を有していることが求められている。特に、水拭きをした後でも傷がつかないことが求められている。
例えば、特許文献1には、ポリカーボネートを含む熱可塑性樹脂に、ポリアルキレングリコールを特定量含有させることにより、爪による耐傷性の向上を図るという技術が開示されている。
また、特許文献2には、ポリカーボネートにオレフィン系ワックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を特定量含有させることにより、摩擦係数を低下させる技術が開示されている。
さらに、特許文献3には、ポリカーボネートにアルキルケテンダイマーを特定量含有させるもの、特許文献4には、ポリカーボネートを含む熱可塑性樹脂に特定の可塑度のポリジオルガノシロキサンを含有させるものが開示されており、これらにより摩擦係数を低下させ、耐傷性を高める技術が開示されている。
例えば、特許文献5には、イソソルバイドが主原料のバイオポリカーボネート系樹脂とすることにより、鉛筆硬度をHとする技術が開示されている。
また、特許文献6には、ポリカーボネートに芳香族(メタ)アクリレート単位及びメチルメタクリレート単位からなる低分子量樹脂を配合することにより、透明性を維持しながら鉛筆硬度をHB〜Hとする技術が開示されている。
一方、材料の表面硬度を高めて耐傷性を改良した特許文献5、6に開示されている技術においては、ポリカーボネートの耐衝撃性を低下させてしまうという問題を有している。
上述のように、従来においては、耐傷付き性、耐衝撃性、耐熱性、及び高品位な外観のすべての特性を満足する材料は得られていない。
すなわち、本発明は以下の通りである。
ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、から選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂(A)
と、
添加剤(B)と、
を、含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記添加剤(B)を0.2〜3.0質量部、含有し、
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステルを含み、当該ポリエステルのジオール成分と
して、少なくとも脂環族ジオールを含み、
前記添加剤(B)が、Rn−(OX) m −OHである、熱可塑性樹脂組成物。
(Rnは炭素数10〜55の脂肪族炭化水素、Xは炭素数2〜6のアルキレン基、mは2〜150であり、Xが複数であるときは、各々が同一であっても異なっていてもよい。)
〔2〕
前記添加剤(B)の構造中(OX)が、エチレンオキサイドである、前記〔1〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、
前記添加剤(B)を0.2〜1.5質量部、含有する、
前記〔1〕又は〔2〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕
前記熱可塑性樹脂(A)が、非晶性ポリエステルを含み、当該非晶性ポリエステルが、少なくとも芳香族ジカルボン酸と脂環族ジオールとを含むポリエステル樹脂である、前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔5〕
前記脂環族ジオールとして、
2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールを含む、前記〔1〕乃至〔4〕のいずれか一に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔6〕
前記熱可塑性樹脂(A)が、少なくとも芳香族ポリカーボネートを含む、前記〔1〕乃
至〔5〕のいずれか一に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔7〕
前記熱可塑性樹脂(A)中の芳香族ポリカーボネートが80質量%以上である、前記〔
1〕乃至〔6〕のいずれか一に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔8〕
着色剤、耐候剤及び熱安定剤からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、
前記〔1〕乃至〔7〕のいずれか一に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔9〕
前記〔1〕乃至〔8〕のいずれか一に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む成形体。
〔10〕
前記成形体が無塗装である、前記〔9〕に記載の成形体。
〔11〕
前記成形体が自動車用材料である、前記〔9〕又は〔10〕に記載の成形体。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、
ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、から選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂(A)と、
添加剤(B)と、
を、含み、
前記添加剤(B)は、分子鎖中に、−Rn−(OX)m−の構造を有している。
ここで、Rnは炭素数10〜55の脂肪族炭化水素、Xは炭素数2〜6のアルキレン基、mは1以上であり、Xが複数であるときは、各々が同一であっても異なっていてもよい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ポリエステル、及び/又は、芳香族ポリカーボネートからなる熱可塑性樹脂(A)(以下、(A)成分と記載する場合がある。)を含有している。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、(A)成分を含むことにより、高品位な外観と高い耐衝撃性とを有し、さらに耐熱性にも優れた成形体を得ることができる。
前記芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ホモポリカーボネート、芳香族コポリカーボネートのいずれも使用することができる。
前記芳香族ポリカーボネートは、2官能フェノール系化合物に苛性アルカリ及び溶剤の存在下でホスゲンを吹き込むホスゲン法や、2官能フェノール系化合物と炭酸ジエチルとを触媒の存在下でエステル交換させるエステル交換法、二酸化炭素とアルコールとから炭酸ジエチルを得て、炭酸ジエチルと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させて芳香族炭酸エステルを得る方法等、種々の方法により製造することができる。
特に、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕を用いることが好ましい。
前記2官能フェノール系化合物としては、一種のみを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
また、上記で製造された芳香族ポリカーボネートを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
前記非晶性ポリエステルは、ジオール成分と、当該ジオール成分と対になるジカルボン酸成分を含有する。
当該ジカルボン酸成分としては、例えば、脂環式ジカルボン酸及び/又は脂環式ジカルボン酸残基、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸残基、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸残基が挙げられる。
特に、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸残基と、脂肪族ジカルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸残基から選ばれる1種以上であることが好ましい。より好ましくは、芳香族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸残基である。
これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、前記(A)成分中のポリエステルは、耐衝撃性と透明性、耐熱性の観点から、ジオール成分として脂環族ジオールを含むポリエステル樹脂であることが好ましく、さらには、耐熱性の観点から、少なくとも芳香族ジカルボン酸と脂環族ジオールとを含むポリエステル樹脂であることが好ましい。
前記ポリエステルに含まれる脂環式ジオール成分としては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数2〜12のアルキレングリコール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、2,2,4,4−テトラメチルシクロブタンジオール(TMCD)等の脂環族ジオールが挙げられる。
特に、耐熱性の観点から、前記(A)成分中の脂環族ジオールとして、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールを含むことが好ましい。
本実施形態における耐熱性を得るためには、特に、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)と2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(TMCD)とを併用することが好ましい。
ジオール成分の構成割合としては、ジオール成分の総モル%を100モル%としたとき、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(TMCD)残基を好ましくは10〜70モル%、より好ましくは15〜65モル%、さらに好ましくは20〜50モル%、さらにより好ましくは30〜45モル%、及び、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)残基を好ましくは30〜90モル%、より好ましくは35〜85モル%、さらに好ましくは50〜80モル%、さらにより好ましくは55〜70モル%、含む。
また、前記(TMCD)残基、前記(CHDM)残基の含有量は、NMRにより測定することができる。
2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール以外の改質用ジオールとしては、2〜16個の炭素原子を含むジオールが挙げられる。当該改質用ジオールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、p−キシレングリコール又はそれらの混合物が挙げられる。これらの中で好ましい改質用ジオールは、耐衝撃性と高品位な外観とを得る観点から、エチレングリコールである。
前記脂肪族カルボン酸及び/又は脂肪族ジカルボン酸残基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、及びドデカン二酸が挙げられる。
前記芳香族ジカルボン酸成分としては、直鎖、パラ配向、対称性を有する構造のいずれであってもよく、炭素数20以下のものが好ましいものとして挙げられるが、これらに限定するものではない。
(A)成分の重量平均分子量を10,000以上とすることで、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において耐衝撃性と押出安定性とを得ることができ、(A)成分の重量平均分子量を200,000以下とすることで、成形加工性が良好となる。
(A)成分の重量平均分子量は、クロロホルムを溶媒として、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(GPC)により、単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線から換算し、算出することができる。
ガラス転移温度は、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
(A)成分における芳香族ポリカーボネートとポリエステルの質量割合を前記範囲とすることにより、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物及び成形体において耐熱性と高品位な外観とを得ることができる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、添加剤(B)(以下、(B)成分と記載する場合がある。)を含有している。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に含有されている(B)添加剤は、分子鎖中に−Rn−(OX)m−で示される構造単位を含有している。
当該構造単位中、Rnは炭素数10〜55の脂肪族炭化水素、Xは炭素数2〜6のアルキレン基、mは1以上である。なお、Xが複数であるときは、各々が同一であっても異なっていてもよい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物において、(B)成分を含むことにより、耐傷付き性と耐衝撃性と、耐熱性とに優れた成形体を得ることができる。
(B)成分が、Rn−(OX)m−OHの構造を有する化合物であることにより、透明性を維持しながら優れた耐傷性が得られる。
Rnは炭素数10〜55の脂肪族炭化水素、Xは炭素数2〜6のアルキレン基、mは1以上である。なお、Xが複数であるときは、各々が同一であっても異なっていてもよい。
また、上記構造中の繰り返し単位数nは、n=1〜50であることが好ましく、より好ましくはn=5〜40、さらに好ましくはn=10〜30、さらにより好ましくはn=15〜30である。
上記繰り返し単位数とすることで、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物及び成形体において耐傷性と高品位な外観を維持することができる。
(OX)がエチレンオキサイドであることにより、高品位な外観が得られる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、その他、本発明の効果が得られる範囲に限り、従来一般的に知られているワックスを含んでもよい。当該ワックスとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、炭化水素系ワックス、エステル系ワックス、シリコーン系ワックス等が挙げられる。これらは部分的に変性されているものであってもよい。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上記(A)成分、及び(B)成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の樹脂を、任意の方法により配合することができる。
その他の樹脂としては、例えば、後述する特定のゴム成分(C)が好適なものとして挙げられる。
特定のゴム成分(C)とは、グラフト共重合体(a)からなる分散相と、連続相(b)とを含み、前記グラフト共重合体(a)が、ゴム質重合体からなる幹ポリマーと、当該幹ポリマーにグラフト重合したグラフト鎖とを有し、前記グラフト鎖が、シアン化ビニル系単量体単位と、そのシアン化ビニル系単量体と共重合可能な1種以上の単量体単位と、を有し、前記グラフト共重合体(a)の酸化分解を経て得られる前記グラフト鎖由来の成分における前記シアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布が、2つ以上のピークを有し、前記2つ以上のピークのうち1つ以上が、前記シアン化ビニル単量体単位の含有率が0質量%以上10質量%未満の範囲内にピークトップを有する第1のピークであり、前記第1のピークとは異なるピークの1つ以上が、前記シアン化ビニル単量体単位の含有率が10質量%以上55質量%未満の範囲内にピークトップを有する第2のピークであり、前記第1のピーク及び第2のピークにおける、それぞれのピーク全体の積分値から求められる加重平均値を代表値としたとき、前記第1のピークが示す前記含有率の代表値と、前記第2のピークが示す前記含有率の代表値との差が10質量%以上であるゴム成分を指す。
前記2つ以上のピークが上記の範囲を満たすことによって、透過率が高く、漆黒性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体及びアクリロニトリル−ブタジエン共重合体が、耐衝撃性の観点から好ましく、ポリブタジエンがより好ましい。ゴム質重合体は、均一な組成であってもよく、異なる組成の重合体を含むものでもよく、また、連続的に組成が変化しているものでもよい。
芳香族ビニル系単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレンが挙げられる。
シアン化ビニル系単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。
これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
酸化分解の方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、オゾン分解、オスミウム酸分解などを用いることができる。具体的には、高分子論文集(井手文雄ら、vol.32、No.7、PP.439−444(July.1975))に記載の方法を用いることができる。この文献において、単離された枝ポリマーが、本実施形態において、グラフト鎖由来の成分に相当する。
まず、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物をクロロホルムに溶解し、クロロホルム可溶分とクロロホルム不溶分とに分離する。このクロロホルム不溶分(例えば0.5g)に四酸化オスミウム(例えば0.0046g)、t−ブチルアルコール(例えば10.7g)、有機過酸化物(例えば、「パーブチルH−69」(日油株式会社商品名)9.2g)を加えて、例えば30分間、還流させた後、溶媒除去により濃縮して、クロロホルムに溶解させる。これにメタノールを添加することで沈殿物が得られるので、その沈殿物を分離・乾燥する。これを(例えば0.03g)秤量して、(例えば10mLの)テトラヒドロフランに溶解させ、測定試料とする。
上記とは別に、窒素分析によって、シアン化ビニル系単量体単位の含有率が既知である標準試料(ポリマー)を用いて、シアン化ビニル系単量体単位の含有率とHPLCにおけるリテンションタイムとの関係の検量線を作成しておく。
上記測定試料を、HPLCで測定してクロマトグラムを得た後、そのクロマトグラムにおけるリテンションタイムから、上記検量線を用いて、シアン化ビニル系(VCN)単位含有率の分布を求める。
条件は下記のとおりである。
測定装置:高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)
サンプル濃度:サンプル30mg/THF10mL
カラム:シリカ系シアノプロピル処理品(島津製作所製、商品名「Shim−Pak CLC−CN」)
展開溶剤:テトラヒドロフラン/n−ヘキサン(2液グラジエント測定)
検出器:紫外線(254nm)
なおグラフト率は、グラフト共重合体(a)中のゴム質重合体の質量を(a1)、グラフト共重合したグラフト成分の質量を(a2)としたとき、(a2)/(a1)×100〔%〕で定義される。
特に、上記特定のゴム成分(C)以外のゴム成分を添加する場合には、上記特定のゴム成分(C)以外のゴム成分の含有量は、5質量%未満であることが好ましく、より好ましくは1質量%未満である。上記特定のゴム成分(C)以外のゴム成分の含有量を5質量%未満とすることで、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の成形体において高品位な外観を得ることができる。
上記特定のゴム成分(C)以外のゴム成分としては、前記グラフト共重合体(a)の酸化分解を経て得られる前記グラフト鎖由来の成分における前記シアン化ビニル系単量体単位の含有率の分布が1つのみのピークを有するゴム成分が挙げられる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物における、上述した(A)熱可塑性樹脂、(B)添加剤の含有量について、以下に説明する。
先ず、前記(A)成分を100質量部としたとき、前記(B)成分の含有量は、0.1質量部を超え、5.0質量部未満であることが好ましく、より好ましくは、0.2〜3.0質量部、さらに好ましくは0.2〜1.5質量部、さらにより好ましくは0.25〜1.0質量部、よりさらに好ましくは、0.3〜1.0質量部である。
前記(A)成分と前記(B)成分の含有量を前記範囲にすることにより、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物及び成形体において、耐傷付き性と高品位な外観とを得ることができる。
(B)成分の含有量は、1H−NMRにより、あらかじめ配合量が明らかなサンプルを数点測定しておき、(A)成分に対する(B)成分のピーク比から検量線を作成することで、測定することができる。
具体的には、試料約75mgをクロロホルムd1 0.75mLに溶解したサンプルを測定する等の方法が挙げられる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を構成している、各モノマー残基成分の含有量について以下に説明する。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、当該熱可塑性樹脂組成物の一態様として、当該熱可塑性樹脂組成物の成形体を、テトラヒドロフラン、トリフルオロ酢酸、1,2−ジクロロエタン、シクロヘキサノン及びクロロベンゼンから選ばれる、少なくとも一種の溶媒に溶解したとき、可溶分中に、ジフェニルカーボネート(DPC)残基が0〜100質量%、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール(TMCD)残基が0〜28質量%、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)残基が0〜32質量%、テレフタル酸(TPA)残基が0〜50質量%、含まれていることが好ましい。
前記可溶分中の各種の残基は、1H−NMRにより測定することができる。
前記可溶分中の各種の残基の含有量が、上記範囲であることにより、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物及び成形体は、透明性、高品位な外観、耐衝撃性、及び耐熱性の特性バランスが優れたものとなる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、上述した成分(A)成分及び(B)成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて種々のその他の添加剤を、任意の方法により配合することができる。
その他の添加剤としては、例えば、可塑剤、滑剤、着色剤、光輝剤、帯電防止剤、各種過酸化物、酸化防止剤、耐候剤、光安定剤、熱安定剤等が挙げられる。
中でも、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、着色剤、耐候剤及び熱安定剤からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
これらの添加剤の含有量は、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物に対して、それぞれ10質量%を超えない範囲であることが好ましい。より好ましくはそれぞれ5質量%以下である。
高品位な外観を得るためには、着色剤として染料を使用することが好ましく、数種の染料を併用することが好ましい。例えば、有機染料を併用することが好ましく、赤、青、紫、黄、緑から選ばれる一種以上を併用することが好ましい。
特に、ピアノブラック(漆黒)を得るためには、三種以上の有機染料を併用することが好ましい。
光輝剤としては、近年好ましく用いられているメタリックやパール状の外観を持つ、種々の無機物を用いることができる。
紫外線吸収剤としては、芳香族ポリカーボネートの吸収波長である、290nmに吸収ピークを持つ紫外線吸収剤を用いることが好ましい。
紫外線吸収剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾフェノンやベンゾトリアゾール、トリアジン、マロン酸エステル、シュウ酸アニリド等の構造を持つ紫外線吸収剤が挙げられる。特に、トリアジン構造及びマロン酸エステル構造を有する紫外線吸収剤が好ましい。
熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤やリン系加工熱安定剤、硫黄系熱安定剤が挙げられる。特に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系加工熱安定剤とを併用することが好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。特に、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
リン系加工熱安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等が挙げられる。特に、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトが好ましい。
次に、本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を、以下に例を挙げて説明する。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、例えば、
(1):(A)及び(B)成分を一括して二軸押出機に供給し溶融混練する方法、
(2):上流側供給口と下流側供給口とを備えた二軸押出機を用い、上流側供給口より(A)成分の一部を供給し溶融混練した後、下流側供給口より残りの(A)成分と(B)成分とを供給し溶融混練する方法、
(3):上流側供給口と下流側供給口とを備えた二軸押出機を用い、上流側供給口より(A)成分の一部と(B)成分とを供給し溶融混練した後、下流側供給口より残りの(A)成分を供給し溶融混練する方法、
(4):(A)成分が複数成分からなる場合、まず(A)成分全てを二軸押出機に供給し溶融混練した後、改めてその溶融混練物と(B)成分とを二軸押出機に供給し、2度、溶融混練する方法、
等が挙げられる。
また、押出機のバレル設定温度は260℃〜320℃であることが好ましい。この温度範囲とすることで、本発明の効果を確実に得ることができる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分を配合することによって、高い耐傷付性と耐熱性と耐衝撃性と、高品位な外観との相反する特性を併せ持つことができる。
本実施形態の成形体は、上述した熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得られる。
成形体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、射出成形、シート成形、真空成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形、インフレーション成形、Tダイ成形、プレス成形、押出成形、発泡成形、流延法による成形等、公知の方法を適用できる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の特徴は、塗装することなく成形のみで、高品位な外観を持つ成形体を作製することができるところにある。
特に、射出成形においては、特に外観の良い成形体が得られる。
射出成形体は、例えば、射出成形機を用いて、シリンダー温度=260℃〜320℃、金型温度=60℃〜90℃とし、一般的な射出成形法を実施することにより得られる。
射出成形体を製造する際には、金型が加熱/冷却を繰り返すヒートアンドクール成形が好ましく、高外観の射出成形体をより容易に得ることができる。これは、特に薄肉成形体やウェルド部を有する成形体、メタリックなどのフィラー類を含んだ加飾成形体を製造する場合に好ましく使用される。その際の金型温度は、加熱時は90℃〜180℃、冷却時は80℃〜50℃が好ましい。
射出速度はより速い方が好ましく、射出圧力は高すぎない方が好ましい。
射出速度が速い方が、成形体表面の状態を均一にすることにより成形時の外観不良を起こしにくく、射出圧力を調整することによってより金型への転写性が向上し、より高い高品位な成形体を得ることができる。
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の成形体は、無塗装で、成形のみで高い耐熱性と耐衝撃性と、高品位な外観と耐傷付き性を併せ持ち、意匠性と耐衝撃性とが求められる各種筐体材料や、自動車内装材料、各種自動車内装部品等に好適に使用できる。
((A)熱可塑性樹脂)
(A−1)芳香族ポリカーボネート
商品名「カリバー351―10(MVR;10g/10min)」住化スタイロン製、を用いた。MVRはISO1133に準拠して測定した。
下記表1中「PC」と表記した。
(A−2)非晶性ポリエステル
商品名「Tritan TX2000(インヘレント粘度;0.64dL/g、Tg;131℃、ジオール成分;TMCD残基36モル%、CHDM残基64モル%、ジカルボン酸成分;炭素数20以下の芳香族ジカルボン酸残基100モル%)」、EASTMAN社製を用いた。
下記表1中、「Tritan」と表記した。
(B−1)商品名「ユニトックス750」、BAKER HUGHES社製
C2H5−(CH2CH2)n−(OX)m−OH
n=23、m=17
(B−2)商品名「ユニトックス480」、BAKER HUGHES社製
C2H5−(CH2CH2)n−(OX)m−OH
n=15、m=41
(B−3)商品名「ユニトックス490」、BAKER HUGHES社製
C2H5−(CH2CH2)n−(OX)m−OH
n=14、m=94
(B−4)商品名「PEG4000S」日本油脂株式会社製
ポリエチレングリコール、分子量
(B−5)商品名「サンワックス E−250P」三洋化成工業社製
低分子量ポリエチレン部分酸化物
(B−6)商品名「NUC−3810」、日本ユニカー社製
エチレン酢酸ビニルコポリマー
(B−7)商品名「シャリーヌR−170S」、日信化学工業社製
シリコーン−アクリル共重合体
各物性の評価方法は以下のとおりとした。
((1)IZOD衝撃強度の測定)
後述する実施例1〜8、比較例1〜4の熱可塑性樹脂組成物を用い、射出成形機により、シリンダー温度=280℃、金型温度=80℃の条件で、ASTM規格に準じて厚み3.2mmの試験片を成形した。
得られた試験片にノッチを付与して、ASTM D256に準じてIZOD衝撃強度を測定した。
10点の測定値の加算平均値を算出し、IZOD衝撃強度の値とした。
後述する実施例1〜8、比較例1〜4の熱可塑性樹脂組成物を用い、射出成形機により、シリンダー温度=280℃、金型温度=80℃の条件で、ISO294に準じて、厚み4mmの多目的試験片A型(長さ150mm、狭い部分の幅10.0mm)を成形した。
得られた試験片を80×10×4mmの形状に加工し、ISO75に準じて荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。
3点の測定値の加算平均値を算出し、DTULの値とした。
後述する実施例1〜8、比較例1〜4の熱可塑性樹脂組成物を用い、射出成形機により、シリンダー温度=280℃、金型温度=80℃の条件で、5cm×9cm、厚み2.5mmの平板を射出成形した。
この平板を用いて、ASTM D1003に準じて、全光線透過率を評価した。
3点の測定値の加算平均値を算出し、全光線透過率の値とした。
高品位な外観の指標として、漆黒を評価した。
後述する実施例1〜8、比較例1〜4の熱可塑性樹脂組成物に各色(赤・黄・青・緑)染料を合計0.5質量%練り込んだ後、射出成形機を用いて、シリンダー温度=280℃、金型温度=80℃にて5cm×9cm、厚み2.5mmの平板を射出成形した。
染料は、赤染料「C.I.;Solvent Red 179」、黄染料「C.I.;DisperseYellow 160」、青染料「C.I.;Solvent Blue 97」、緑染料「C.I.;Solvent Green 3」の四種を用いた。
得られた平板を多光源分光測色計「CM−2002」(コニカミノルタ(株)製)用いて、SCE(正反射光を除く)、D65光源/10°視野の条件で、L*a*b*表色系にて、L*を測定した。
2点の測定値の加算平均値を算出し、L*値とした。
後述する実施例1〜8、比較例1〜4において、漆黒の測定に用いた5cm×9cm、厚み2.5mmの平板を用い、Pin on Disc摩耗試験機により、1mm間隔で15回片道のみの引っ掻き試験を行った。荷重は5kg、ストロークは50mm、スピードは10mm/sec、相手材はSUS304球(直径5mm)を用いた。
多光源分光測色計「CM−2002」(コニカミノルタ(株)製)用いて、試験前後で前記平板の明度L*を測定し、その変化量ΔL*を確認した。ΔL*は下記式となる。
ΔL*=L*(耐傷後)−L*(耐傷前)
3点の測定値の加算平均値を算出し、0.5以下であれば○、0.5を超えた場合×として判定し、耐傷性の評価とした。
後述する実施例1〜8、比較例1〜4において、漆黒の測定に用いた5cm×9cm、厚み2.5mmの平板表面を綿布により水拭き洗浄した後、以下条件で、摩擦堅牢試験機により往復摺動試験を行った。荷重は200g、ストロークは60mm、スピードは60mm/sec、往復回数は、500往復、相手材はカナキン3号布を用いた。
多光源分光測色計「CM−2002」(コニカミノルタ(株)製)用いて、試験前後で前記平板の明度L*を測定し、その変化量ΔL*を確認した。ΔL*は下記式により算出した。
ΔL*=L*(耐傷後)−L*(耐傷前)
3点の測定値の加算平均値を算出し、0.5以下であれば○、0.5を超えた場合×として判定し、耐傷性の評価とした。
後述する実施例1〜8、比較例1〜4において、260トンの射出成形機により、シリンダー温度=280℃、金型温度=80℃の条件で、10cm×50cm、厚み2mmの平板状成形体を、成形機シリンダー内で10分間滞留させた後、3ショット連続で射出成形した。
3回同様の成形を行い、いずれも2ショット目にシルバーの発生が見られなければ○、成形品全面にシルバーの発生が見られた場合は×、成形品の一部にシルバーの発生が見られた場合を△として判定し、成形品外観の評価とした。
2軸押出機(東芝機械製「TEM−58SS」)を用いて以下のとおりに熱可塑性樹脂
組成物のペレットを製造した。
供給口は、上流側に1ヶ所とし、充分に乾燥して水分除去を行った(A−1)と(B−
1)を供給した。その際の押出機のシリンダー温度は、全段280℃に設定した。
また、この時の混練物の吐出量は200kg/時間、スクリュー回転数は250rpm
であった。この時の原材料の種類、配合割合を表1に示す。
得られたペレットを用いて上述の各評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
(B)成分の供給量を変えた以外は、参考例1と同様にしてペレットを得た。
この時の原材料の種類、配合割合を表1に示す。
得られたペレットを用いて上述の各評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
(A)成分として、(A−1)と(A−2)成分を供給した。
その他の条件は参考例1と同様にしてペレットを得た。この時の原材料の種類、配合割合を表1に示す。
得られたペレットを用いて上述の各評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
(A)成分として、(A−2)成分を供給し、表1に示した配合量で(B−1)を供給
した。
その他の条件は参考例1と同様にしてペレットを得た。この時の原材料の種類、配合割合を表1に示す。
得られたペレットを用いて上述の各評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
(B)成分として、(B−2)と(B−3)成分を用いた以外は、参考例1と同様にしてペレットを得た。この時の原材料の種類、配合割合を表1に示す。
得られたペレットを用いて上述の各評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
(B)成分として、(B−4)〜(B−7)成分を用いた以外は、実施例4と同様にしてペレットを得た。この時の原材料の種類、配合割合を表1に示す。
得られたペレットを用いて上述の各評価を行った。
評価結果を下記表1に示す。
例えば、意匠性と耐衝撃性との求められる各種筐体材料や自動車内外装部品等として産業上利用可能性を有する。
Claims (11)
- ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、から選ばれる1種以上の熱可塑性樹脂(A)
と、
添加剤(B)と、
を、含み、
前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、前記添加剤(B)を0.2〜3.0質量部、含有し、
前記熱可塑性樹脂(A)が、ポリエステルを含み、当該ポリエステルのジオール成分と
して、少なくとも脂環族ジオールを含み、
前記添加剤(B)が、Rn−(OX) m −OHである、熱可塑性樹脂組成物。
(Rnは炭素数10〜55の脂肪族炭化水素、Xは炭素数2〜6のアルキレン基、mは2〜150であり、Xが複数であるときは、各々が同一であっても異なっていてもよい。) - 前記添加剤(B)の構造中(OX)が、エチレンオキサイドである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 前記熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、
前記添加剤(B)を0.2〜1.5質量部、含有する、
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。 - 前記熱可塑性樹脂(A)が、非晶性ポリエステルを含み、当該非晶性ポリエステルが、
少なくとも芳香族ジカルボン酸と脂環族ジオールとを含むポリエステル樹脂である、請求
項1乃至3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。 - 前記脂環族ジオールとして、
2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールを含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。 - 前記熱可塑性樹脂(A)が、少なくとも芳香族ポリカーボネートを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 前記熱可塑性樹脂(A)中の芳香族ポリカーボネートが80質量%以上である、請求項
1乃至6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。 - 着色剤、耐候剤及び熱安定剤からなる群より選択される少なくとも1種をさらに含む、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。 - 請求項1乃至8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む成形体。
- 前記成形体が無塗装である、請求項9に記載の成形体。
- 前記成形体が自動車用材料である、請求項9又は10に記載の成形体。
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