以下では、本発明による織機の織段防止装置の一実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示すのは、本発明による織段防止装置が適用される織機(例えば、空気噴射式織機)の一例である。織機1において、経糸ビーム2からシート状に送り出された経糸Wは、ガイドロール3及びテンションロール4に巻き掛けられて案内された後、綜絖H及び筬Rを経て織前CFに導かれる。なお、経糸Wは、対応する綜絖Hの上下動によって開口運動が与えられ、1製織サイクル中の所定の期間において開口を形成する。そして、経糸Wによって形成された開口に対し緯入れ装置(図示略)によって緯糸Yが挿入され、その緯糸Yが筬Rによって織前CFに筬打ちされることにより織布Fが製織される。また、そのように製織された織布Fは、織前CFからガイドロール5に巻き掛けられて案内された後、服巻ロール6及び2本のニップロール7、7を経由し、巻取ロール8に巻き取られる。
なお、製織された織布Fは、服巻ロール6と2本のニップロール7、7とでニップ(狭持)された状態となっており、服巻ロール6が回転駆動されると共にその服巻ロール6の回転に対し従動回転するニップロール7の回転に伴って移動される。そこで、製織中においては、服巻ロール6は、予め設定された緯糸密度と主軸MSの回転数とに基づいて回転駆動され、それにより、織布Fは、巻取ロール8側へ牽引される。また、製織中において、織布Fが前記のように服巻ロール6等によって牽引されることに伴い、織前CFにおいて織布Fに連なる経糸Wも牽引される。そこで、経糸Wを送り出す経糸ビーム2の回転駆動を制御することにより、経糸Wの張力が予め定められた目標張力に維持されるように制御される。このように、織機1においては、服巻ロール6及び経糸ビーム2が回転駆動されると共に、その駆動が制御されることにより、織前CFを順次移動させつつ製織が行われている。
また、その経糸ビーム2は、送出モータM3によって回転駆動され、服巻ロール6は、巻取モータM2によって回転駆動される。因みに、各綜絖Hは、織機1の主軸MS(もしくは専用の駆動モータ)を駆動源とする開口駆動装置22によって上下方向に駆動され、筬Rは、主軸MSを駆動源とする筬駆動装置23によって前後方向に揺動(筬打ち)駆動される。但し、主軸MSは、主軸モータM1によって回転駆動される。
図2は、前記の各モータの駆動の制御等を行う織機1における織機制御装置30を示している。この織機制御装置30は、主制御装置24と、送出モータM3の駆動を制御する送出制御装置20と、巻取モータM2の駆動を制御する巻取制御装置21とを含んでいる。また、主制御装置24は、主軸モータM1の駆動を制御する制御器28と、その制御器28に接続された記憶器26とを含んでいる。そして、送出制御装置20及び巻取制御装置21のそれぞれは、主制御装置24に含まれている制御器28及び記憶器26に対し接続されている。
また、織機1は、経糸ビーム2に巻かれた経糸Wの巻径を検出するための巻径検出装置を備えている。この巻径検出装置は、図1に示すように、経糸ビーム2の近傍において経糸ビーム2に巻かれたシート状の経糸Wの表面に対向するように設けられた距離センサ10と、その距離センサ10からの信号に基づいて前記巻径を求める巻径検出器27とで構成されている。但し、距離センサ10は、経糸ビーム2上における経糸Wまでの距離を検出するものであり、その検出した距離に応じた距離信号を巻径検出器27に出力するものである。また、巻径検出器27は、前記の織機制御装置30に含まれており、送出制御装置20及び主制御装置24における制御器28に接続されると共に、求めた前記巻径を送出制御装置20及び制御器28に対し出力するものとなっている。
また、主制御装置24における記憶器26には、織機1における入力設定装置25が接続されている。なお、その入力設定装置25は、例えば、タッチパネル式の表示画面を有するものであって、その表示画面に表示される設定画面等によって各種の設定値や条件等の製織条件を入力設定可能なものである。そして、その入力設定装置25によって入力設定された前記製織条件は、主制御装置24における記憶器26に送られ、その記憶器26において記憶される。因みに、入力設定装置25によって入力設定されて記憶器26に記憶される製織条件は、例えば、緯糸密度の設定値や、主軸MSの回転数(回転速度)の設定値、経糸Wの張力の目標の設定値を含む。
そして、製織中においては、主制御装置24における制御器28は、前記のように入力設定装置25によって入力設定されて主制御装置24における記憶器26に記憶された主軸MSの回転数の設定値に従い、主軸モータM1を駆動する。また、主軸モータM1には、主軸モータM1の回転量を検出するエンコーダENが接続されており、主軸モータM1の回転量に応じた回転量信号Sが、そのエンコーダENから制御器28に対し出力(フィードバック)されている。そして、主軸モータM1は、前記の回転数の設定値とエンコーダENからの回転量信号Sとに基づき、その駆動が制御される。それにより、主軸MSは、主軸モータM1の回転数に応じた回転数で回転駆動される。
因みに、主軸モータM1の回転数と主軸MSの回転数とは所定の比率で対応していることから、制御器28はエンコーダENからの回転量信号Sに基づき、主軸MSの回転数を認識し得るものとなっている。そこで、制御器28は、前記の回転量信号Sに基づいて主軸MSの回転数(回転速度)を求めると共に、その求めた主軸MSの回転数を巻取制御装置21及び送出制御装置20に対し送るものとなっている。
巻取制御装置21は、主制御装置24における記憶器26に記憶された緯糸密度の設定値と制御器28で求められた主軸MSの回転数とに基づいて織布Fの巻取に関する基本速度を求めると共に、その基本速度に従って巻取モータM2が駆動されるように巻取モータM2の駆動を制御している。それにより、服巻ロール6は、製織中において、設定された緯糸密度に応じた速度で織布Fを牽引するように巻取モータM2によって回転駆動される。
送出制御装置20は、主制御装置24における記憶器26に記憶された緯糸密度の設定値と主軸MSの回転数(回転速度)とに基づいて経糸Wの送出に関する基本速度を求めると共に、その基本速度を巻径検出器27によって求められた経糸ビーム2の前記巻径に基づいて補正し、その補正された基本速度に従って送出モータM3が駆動されるように送出モータM3の駆動を制御している。
但し、送出制御装置20は、前記の通り、経糸Wの張力が予め定められた目標張力に維持されるように、送出モータM3の駆動を制御する。そのための構成として、織機1は、経糸Wが巻き掛けられるテンションロール4に接続されて経糸Wの張力を検出する張力検出器9を備えている。また、主制御装置24における記憶器26には、経糸Wの張力の目標値(目標張力値)が記憶されている。そして、送出制御装置20は、記憶器26に記憶された経糸Wの目標張力値と張力検出器9によって検出された経糸Wの検出張力値とを比較し、必要に応じて前記の送出に関する基本速度をさらに補正する。それにより、経糸ビーム2は、製織運転中において、経糸Wがその張力を前記の目標張力値に維持された状態で送り出されるように、送出モータM3によって回転駆動される。
以上のような織機1において、何らかの停止原因が発生した場合や作業者によって運転停止釦(図示略)が操作されると、制御器28に対し停止信号Sbが入力され、織機1が停止される。そして、その停止原因が解消されることに伴い、或いは、運転釦(図示略)が操作されることに伴い、起動信号Saが制御器28に入力され、その制御器28への起動信号Saの入力に伴い、前述のような停止期間中における経糸Wの伸びに起因する織段(所謂、停止段)の発生を防止するために、その停止後の織機1の起動時(起動直前)において、主軸MSを停止させたままの状態で織前CFの位置が経糸送出側へ移動するように織機1を動作させる所謂キックバック動作が実行される。また、そのキックバック動作における織前CFの移動量(キックバック量)は、前記のような経糸Wの伸びに加え、起動直後における筬打ち力不足も考慮されたものとされる。
その上で、本発明は、そのキックバック動作を実行すべく織機1において行われるキックバック制御のために、前記巻径を変数として含む前記のキックバック量(織前CFの移動量)に関する移動量関連情報を予め織機に記憶させておき、キックバック制御に際しては、起動の時点における前記巻径とその移動量関連情報とに基づき、織前CFの移動に寄与する織前位置変位部材を駆動するものである。但し、その移動量関連情報は、前記巻径に関して経糸Wの満巻時から消尽時までの前記巻径の範囲を2以上の区間に分割する1以上の境界値に関する境界値情報と、分割された前記区間毎に設定されたキックバック量(織前CFの移動量)に関する区間移動量情報であって前記巻径が小さい方の前記区間ほどキックバック量(織前CFの移動量)が大きくなるように定められた区間移動量情報とを含む情報である。
なお、本実施例では、キックバック動作は、経糸ビーム2及び服巻ロール6を回転駆動することで行われるものとする。従って、本実施例では、経糸ビーム2及び服巻ロール6が、キックバック動作時においては、本発明による織段防止装置における織前位置変位部材として機能するものとなっている。
但し、前記のキックバック動作時における経糸ビーム2及び服巻ロール6の回転駆動について、本実施例では、織前CFが、その時点の前記巻径に対応する目標の位置(以下、単に「目標位置」と言う。)よりも経糸送出側へ一旦移動された後に、織布巻取側へ移動されて前記目標位置となるように、経糸ビーム2及び服巻ロール6が回転駆動されるものとする。従って、キックバック動作時においては、経糸ビーム2は、経糸Wを巻き取る方向に逆転駆動された後に経糸Wを送り出す方向に正転駆動され、服巻ロール6は、その経糸ビーム2の回転に連動するように、織布Fを織前CF側へ戻す方向に逆転駆動された後に織布Fを牽引する方向に正転駆動される。そして、その経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転及び正転駆動の結果として、織前CFが、前記目標位置まで移動する移動量(キックバック量)だけ移動した状態となるものとする。
因みに、前記のように織前CFを前記目標位置よりも経糸送出側へ大きく移動させた後に前記目標位置(織布巻取側)へ向けて織前CFを戻すようなキックバック動作は、織前CFをより確実に前記目標位置にまで移動させることを目的としたものである。
より詳しくは、逆転動作のみで織前CFを前記目標位置へ向けて移動させようとすると、織布Fとガイドロール5等との間の摩擦抵抗や経糸Wとテンションロール4、ガイドロール3、及び経糸Wが挿通される部材(筬R、綜絖H等)との間の摩擦抵抗が原因で、その逆転に伴う経糸W及び織布Fの変位分が経糸W及び織布Fの張力変化によって吸収されてしまい、その逆転量に相当する分だけ織前CFが移動しない場合がある。そこで、その前記摩擦抵抗に打ち勝って移動するように経糸W及び織布Fを経糸送出側へ向けて一旦大きく移動させ、その上で、織前CFが前記目標位置となるように、経糸W及び織布Fを戻す方向(織布巻取側)へ移動させることで、織前CFが前記目標位置に移動した状態となるようにするものである。
そして、前記のようなキックバック動作時における経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量及び正転量について、当然ながら逆転量の方が大きい値に設定されるものであり、また、その逆転量から正転量を減算した経糸ビーム2及び服巻ロール6の最終的な逆転量(最終逆転量)は、前記摩擦抵抗が存在しないと仮定したときの、前記目標位置まで織前CFを逆転のみで移動させる場合の逆転量に相当する。そして、キックバック量は、その最終逆転量に応じたものとなる。
また、その逆転量(前記のように経糸W及び織布Fを経糸送出側へ向けて大きく移動させる逆転量)について、前記摩擦抵抗は、前記巻径に関係無く略一定と見なすものとする。そこで、本実施例では、その逆転量は、前記巻径に応じた前記最終逆転量に対し、所定の逆転量を加えた回転量とされるものとする。従って、正転量については、その所定の逆転量に対応した正転量(所定の逆転量と同じ回転量の正転方向への回転量)となる。すなわち、本実施例では、正転量は、固定値として設定される。
なお、前記摩擦抵抗について、前記巻径の変化により経糸Wのガイドロール3に対する巻き掛け角度が変化することから、厳密には、前記摩擦抵抗は変化する。しかし、その前記摩擦抵抗の変化は非常に小さいものである。従って、本実施例では、その前記巻径の変化による前記摩擦抵抗の変化を無視し、前記摩擦抵抗が前記巻径に関係無く一定と見なすものとする。因みに、経糸Wのガイドロール3に対する巻き掛け角度と前記巻径との関係は、織機1におけるガイドロール3と経糸ビーム2との配置関係等により異なる。
また、前記では、逆転について、織前CFが逆転量に相当する分だけ移動しないことを考慮して大きく逆転させると述べたが、正転については、その大きい逆転に伴って経糸W及び織布Fの張力が高まった状態で行われるため、前記摩擦抵抗の影響は受け難い。従って、正転量については、逆転量に相当する分だけ移動した織前CFを前記目標位置まで戻す移動量に相当する回転であっても問題無い。
その上で、移動量関連情報は、前記のように前記巻径の前記範囲を2以上の区間に分割する境界値に関する境界値情報を含むものであり、本実施例では、前記範囲を2つの区間に分割する1つの境界値を境界値情報として含んでいるものとする。但し、その1つの境界値は、切換点P2として、前記巻径に関する設定値として設定されているものとする。さらに、移動量関連情報は、前記巻径の前記範囲に関する情報として、前記範囲の始点となる経糸Wの満巻時における前記巻径の設定値、及び前記範囲の終点となる経糸Wの消尽時における前記巻径の設定値を含んでいるものとする。なお。以下では、前記範囲の始点及び終点を、始点P1及び終点P3とし、その上で、前記の2つの区間を、始点P1から切換点P2までの区間α、及び切換点P2から終点P3までの区間βとする。
また、移動量関連情報に含まれる前記した区間移動量情報は、前記のように分割された区間α、βのそれぞれに対し設定される。そして、その各区間移動量情報は、前記のようにキックバック量(織前CFの移動量)に関する情報であって、その区間移動量情報に基づいて求められるキックバック量が前記巻径の小さい区間の方で大きくなるように、すなわち、区間αよりも区間βの方でそのキックバック量が大きくなるように定められるものであるが、本実施例では、その区間移動量情報は、前記した経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量を求めるための演算式と経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量とを含む情報として設定される。
より詳しくは、本実施例では、キックバック動作は、前記のように経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転駆動及び正転駆動を伴うものであって、且つ、その正転駆動に伴う経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量を固定値として行われるものとなっている。そこで、本実施例では、各区間移動量情報は、前記したキックバック動作時における前記巻径に基づいて経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量を求めるための演算式であって前記巻径を変数として含む演算式、及び固定値としての経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量を含む情報となっている。
なお、区間移動量情報について、その区間移動量情報に含まれる演算式は、前記の始点P1、切換点P2及び終点P3における経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量の設定値に基づいて求められるものとする。従って、本実施例では、前記各点P1、P2、P3における経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量の設定値も区間移動量情報に含まれている。その上で、その演算式は、本実施例では、各区間における始点と終点との間(P1−P2、P2−P3)を直線補間する式(直線補間式)であって、前記最終逆転量を求める式となっている。その演算式について、より詳しくは、次の通りである。
区間αに対応する前記直線補間式は、始点P1及び切換点P2として設定される前記巻径と、その各点P1、P2に対し設定される経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量の設定値から求められる各点P1、P2での前記最終逆転量とから求められる係数(a)に対し、その区間の始点P1からの前記巻径の減少量(ΔD1)を変数として乗算し、それに始点P1における前記最終逆転量(K1)を加算する式(a×ΔD1+K1)となっている。同様に、区間βに対応する前記直線補間式は、切換点P2及び終点P3として設定される前記巻径と、その各点P2、P3に対し設定される経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量の設定値から求められる各点P2、P3での前記最終逆転量とから求められる係数(b)に対し、その区間の始点P2からの前記巻径の減少量(ΔD2)を変数として乗算し、それに始点P2における前記最終逆転量(K2)を加算する式(b×ΔD2+K2)となっている。
その上で、前記のように正転量については固定値であることから、前記直線補間式で求められた前記最終逆転量に固定値である正転量を加算することで逆転量が求められる。従って、区間移動量情報に含まれる演算式は、この加算のための式(加算式)も含んでいる。
因みに、前記のように、設定される各点P1、P2、P3を除く時点の前記巻径(Dx)での前記最終逆転量(Kx)は前記のような直線補間によって求められるものであるから、その前記巻径Dxが含まれる区間の始点(P1又はP2)での前記最終逆転量(K1又はK2)からの逆転量の増加量ΔK(=Kx−K1又はKx−K2)は、その前記巻径(Dx)の前記始点(P1又はP2)からの前記巻径の減少量ΔD(=D1−Dx又はD2−Dx)に比例したものとなる。言い換えれば、前記巻径の減少量ΔDに対する前記最終逆転量の増加量ΔKの割合(ΔK/ΔD)は一定となる。
また、横軸を前記巻径とすると共に縦軸を前記最終逆転量として、前記巻径と前記最終逆転量との関係をグラフで描くと、そのグラフは、図4で示すように、各区間α、βの始点(P1、P2)における前記最終逆転量と終点(P2、P3)における前記最終逆転量とを直線で結んだものとなる。すなわち、各区間α、βにおいて、前記巻径の変化(減少)に対し前記最終逆転量が一定の割合で直線的に変化(増加)するグラフとなる。そして、前記のように、キックバック量(織前CFの移動量)は、経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量に応じたものとなることから、前記巻径とキックバック量との関係についても、前記のグラフと同じ傾向を示すものとなる。すなわち、キックバック量は、各区間α、βにおいて、前記巻径の変化に伴って一定の割合で直線的に変化するものとなる。
以上で説明したような区間移動量情報に含まれる演算式は、織機制御装置30における主制御装置24の記憶器26に予め(製織開始前に)記憶されるものとする。従って、本実施例では、前述のように製織のために設定された製織条件等が記憶される記憶器26が、織段防止装置における記憶器としても兼用されている。
また、本実施例では、前記のような移動量関連情報に含まれる各設定値の入力設定が織機1における入力設定装置25を用いて行われるものとし、その入力設定が、図3に示すような入力設定装置25における入力画面40によって行われる。
その入力画面40について、より詳しくは、入力画面40は、始点P1として設定される前記巻径の設定値が入力設定される入力欄41aと、切換点P2として設定される前記巻径の設定値が入力設定される入力欄41bと、終点P3として設定される前記巻径の設定値が入力設定される入力欄41cとが、横方向に並べて設けられた(表示される)ものとなっている。なお、それぞれの前記巻径の設定値は、図示のように「cm」を単位として設定されるものとなっている。
また、入力画面40は、始点P1、切換点P2及び終点P3の各点とその各点P1、P2、P3に対し設定される経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量及び逆転量との対応関係が容易に視認できるように、経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量及び逆転量の設定値を入力設定するための入力欄が、前記各点P1、P2、P3に関する入力欄41a、41b、41cのそれぞれの下側に、縦方向に並べて設けられた(表示される)ものとなっている。但し、前述したように本実施例では、経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量は固定値であるため、図示の例では、経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量の入力欄を始点P1の下側にのみ設けており、切換点P2及び終点P3には、その始点P1の入力欄に入力設定された経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量の設定値が表示されるものとなっている。
その正転量及び逆転量の入力欄について、具体的には、始点P1の入力欄41aの下側に、経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量の設定値と、前記巻径が始点P1の時点における経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量の設定値とを入力設定するための入力欄42aが縦並びに設けられ(表示され)るものとなっている。また、切換点P2の入力欄41bの下側に、前記巻径が切換点P2の時点における経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量の設定値を入力設定するための入力欄42bが縦並びに設けられ(表示され)ると共に、入力欄42aに入力設定された経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量の設定値が表示されるものとなっている。さらに、終点P3の入力欄41cの下側に、前記巻径が終点P3の時点における経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量の設定値を入力設定するための入力欄42cが縦並びに設けられ(表示され)ると共に、入力欄42aに入力設定された経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量の設定値が表示されるものとなっている。
なお、その正転量及び逆転量の設定値は、図示のように「mm」を単位として設定されるものとなっている。すなわち、本実施例では、その正転量及び逆転量の設定値には、その回転量に相当する経糸W及び織布Fの移動量が設定されるものとなっている。より詳しくは、経糸ビーム2(服巻ロール6)の正転及び逆転に伴い、その経糸ビーム2(服巻ロール6)上において、経糸W(織布F)がその回転量に相当する分だけ移動すると見なされる。そこで、本実施例では、その移動量(回転量相当値)が、正転量及び逆転量の代替値として設定されるものとなっている。因みに、その移動量(回転量相当値)は、その回転量と経糸ビーム2における前記巻径(服巻ロール6の直径)とから求められる円弧長と一致する。
そして、その各入力欄41a〜41c、42a〜42cに対し、例えば、表示画面40に表示されるテンキー(図示略)を作業者が操作することにより、それぞれの前記各設定値が入力設定される。また、入力画面40には、実行ボタン43が設けられている。そして、前記のように各入力欄41a〜41c、42a〜42cに対し前記の各設定値が入力設定された後、実行ボタン43が操作(タッチ)されることにより、入力設定された各設定値が確定された状態となり、その各設定値が記憶器26に送られて記憶器26に記憶される。
因みに、本実施例では、前述のように経糸Wの満巻時の前記巻径(図示の例では、90cm)を始点P1として設定し、経糸ビーム2上の経糸Wがすべて消費され尽くした消尽時を終点P3として設定している。但し、前記の消尽時について、経糸ビーム2は、そのバレル(図示略)上に経糸Wが巻かれるものとなっており、また、巻径検出装置による前記巻径の検出は、そのバレルの径を含めたものとして検出される。従って、経糸Wの消尽時においても、巻径検出装置の検出値は、0ではなくバレルの径に相当するものとなるため、消尽時を終点とする場合には、入力欄41cには、バレルの径(図示の例では、20cm)が設定される。
また、切換点P2は、その切換点P2で画定される前記した各区間内の前記巻径における織機1の停止時点において、前記演算式によって求められた経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量及び逆転量によるキックバック量(織前CFの移動量)が、実際の経糸Wの前記全体の伸び量に応じた所望のキックバック量に近付くように設定する。より詳しくは、以下の通りである。
先ず前提として、織機1においては、経糸Wの経路長(より詳しくは、経糸ビーム2上における経糸Wの引き出し点から織前CFまでの経路長)は、製織の進行による前記巻径の変化に対し二次曲線的に変化する。また、織機1の停止期間中における経糸Wの前記全体伸び量は、経糸Wの単位長さあたりの伸び量が一定であるとすると、その時点における経糸Wの前記経路長に応じたものとなる。従って、停止時間が同じであると想定した場合における経糸Wの前記全体の伸び量は、前記巻径の変化に対し二次曲線的に変化するものとなる。
なお、織機の停止期間中においては、その前記全体伸び量の分だけ織前CFが変位し、キックバック動作は、その織前CFの変位を補正するために行われるものであるから、前記した所望のキックバック量は、その織機停止期間中における織前CFの変位量(前記全体伸び量)に応じたものとなる。但し、前記したように、本実施例のキックバック動作は、織機1の起動直後の筬打ち力不足をも補うように行われるものであるから、前記所望のキックバック量は、前記した前記全体伸び量に応じた経糸送出側への織前CFの移動量に対し、その筬打ち力不足を補うための経糸送出側への織前CFの移動量(以下、「補償移動量」とも言う。)を加えたものとなる。因みに、前記の筬打ち力不足は、織機1の起動時における主軸MSの回転数の立ち上がり時においてその回転数が定常運転時の回転数よりも低いことに起因するものである。従って、前記補償移動量は、前記巻径や停止時間に関わらず一定の値となる。
このように、各前記巻径の時点における前記所望のキックバック量は、前記全体伸び量に応じた織前CFの移動量に対し一定の前記補償移動量を加えたものであり、また、前記全体伸び量は、前記のように前記巻径の変化に対し二次曲線的に変化するものであるから、前記所望のキックバック量は、前記全体伸び量と同様に、前記巻径の変化に対し二次曲線的に変化するものとなる。そこで、横軸を前記巻径とし、縦軸をキックバック量としたグラフ上において前記巻径と前記所望のキックバック量との関係を描くと、図5において破線で示すようなものとなる。
また、本実施例では、前記のように移動量関連情報として、前記各点P1、P2、P3における経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量及び逆転量の設定値が設定されるものであるが、その前記各点P1、P2、P3における各設定値については、後述のように、その時点において、前記所望のキックバック量でキックバック動作が行われるような所望の前記最終逆転量を予め求め、それに基づいて設定されているものとする。従って、前記各点P1、P2、P3におけるキックバック量を図5のグラフ上において点(黒丸)で示すと、それぞれの点は前記した破線上に位置するものとなる。
なお、前記各区間における前記所望のキックバック量と実際に実行されるキックバック動作時におけるキックバック量(実際のキックバック量)との差は、切換点P2として設定される前記巻径に応じて決定される。そこで、切換点P2については、その2つのキックバック量の差が前記各区間においてより小さくなるような前記巻径が設定される。そして、その切換点P2となる前記巻径については、例えば、図5に示すような前記巻径とキックバック量との関係を示すグラフを描いてみることで、より好ましい値を求めることが可能となる。その切換点P2の求め方について、より詳しくは、以下の通りである。
先ずは、製織を実行する織機1における前記巻径と前記所望のキックバック量との関係を示すグラフを描く。そのために、その織機1における所定の間隔毎の前記巻径(始点P1及び終点P3として設定される前記巻径を含む)の時点での前記経路長を求める。因みに、その前記経路長については、その織機1における経糸ビーム2とテンションロール4(ガイドロール3)との位置関係等から求めることができる。
次いで、その各前記巻径の時点での前記経路長に基づき、各前記巻径の時点での前記経路長に応じた前記全体伸び量を求める。但し、織機1の停止に伴う前記全体伸び量は、停止時間の経過と共に変化する(大きくなる)。そこで、前記全体伸び量を求めるにあたっては、その各前記巻径の時点において織機1が停止したと仮定した上で、その停止時間が予め定めた所定の停止時間(基準の停止時間)であると想定して求めるものとする。すなわち、各前記巻径の時点において織機1が前記基準の停止時間だけ停止した場合における前記全体伸び量を求めるものとする。
但し、各前記巻径の時点における前記全体伸び量は、その時点における前記経路長から一義的に決定されるものではなく、その製織において用いられる経糸Wの種類や製織条件(経糸Wの設定張力等)に応じて異なるものとなる。すなわち、経糸Wの種類が異なると、経糸Wの設定張力が同じ場合であっても、経糸Wの単位長さあたりの伸び量が異なることに伴って前記全体伸び量が異なるものとなり、また、製織条件(特に、経糸Wの設定張力)が異なると、経糸Wの種類が同じであっても、前記全体伸び量が異なるものとなるからである。
従って、各前記巻径の時点についての前記経路長に応じた前記全体伸び量は、その前記経路長に加え、経糸Wの種類及び経糸Wの設定張力を踏まえて求められる。具体的には、例えば、そのときの製織に使用される種類の経糸Wについて予め試験等を行い、製織時における設定張力と同じ張力を前記基準の停止時間と同じ時間だけ仕掛けた際の経糸Wの伸び量を実測し、そこからその前記基準の停止時間でのその経糸Wの単位長さあたりの伸び量を求める。その上で、その単位長さあたりの伸び量を各前記巻径の時点毎の前記経路長に乗算することで、各前記巻径の時点における前記全体の伸び量を求めることができる。また、その経糸Wの物性或いは過去のデータ等から、張力及び時間との関係におけるその経糸Wの伸び率が求められている場合には、各前記巻径の時点における前記経路長に基づき、演算によって各前記巻径の時点における前記全体伸び量を求めることも可能である。
そして、そのようにして求められた各前記巻径の時点での前記全体伸び量に対し、前記補償移動量を加えることで、各前記巻径の時点における前記所望のキックバック量が求まる。その上で、前記した横軸を前記巻径とし、縦軸をキックバック量とするグラフ上において、各前記巻径に対し前記のように求められた前記所望のキックバック量をプロットし、そのプロットした点を(なめらかに)線で結ぶことにより、図5において破線で示すような、二次曲線的な変化の傾向を示す曲線DLがグラフ上に描かれる。そして、その曲線DL(図5における破線)が、始点P1から終点P3までの前記巻径の前記範囲における前記巻径と前記所望のキックバック量との関係を示すものとなる。
因みに、そのようにして描かれた前記巻径と前記所望のキックバック量との関係を示す曲線DLは、各前記巻径の時点における前記経路長(織機1の構成)、その製織に使用される経糸Wの種類、製織時における経糸Wの設定張力等によって異なるものとなる。また、その曲線DLは、前記のように始点P1から終点P3までの前記巻径の前記範囲における前記巻径と前記所望のキックバック量との関係を示すものであるから、その始点(図5に示す破線の左端)は、前記巻径の前記範囲の始点P1として設定される前記巻径の時点における前記所望のキックバック量を示し、終点(図5に示す破線の右端)は、前記巻径の前記範囲の終点P3として設定される前記巻径の時点における前記所望のキックバック量を示すものとなっている。
その上で、そのグラフにおいて、前記巻径の前記範囲における始点P1と終点P3との間の任意の前記巻径を、切換点P2として設定してみる。そして、図5に示すように、その前記巻径の位置に縦軸と平行な直線を引き、その直線と前記曲線DLとが交差する位置に点(黒丸)をプロットする。なお、仮にその前記巻径がそのまま切換点P2として設定される場合には、その交差する位置(プロットされた点)が、切換点P2における前記所望のキックバック量を示すものとなる。そして、前記曲線DLの始点とそのプロットされた点とを直線で結ぶと共に、そのプロットされた点と前記曲線DLの終点とを直線で結び、それによって描かれた折れ線SL(図5において実線で示す折れ線)を前記曲線DLと比較し、その折れ線SLと前記曲線DLとの差を確認する。
さらに、切換点P2として設定される前記巻径を変更し、前記と同様にして折れ線SLを描いてみる。そして、その変更した後の折れ線SLと前記曲線DLとの差を確認し、変更前のその差と比較して、どちらが前記曲線DLに近い形かを判断する。そして、このような切換点P2としての前記巻径の変更、及びその変更した前記巻径に基づいて描いた折れ線SLと前記曲線DLとの差の確認とを繰り返すことにより、最も適当と思われる前記巻径を切換点P2として設定する。因みに、本実施例では、切換点P2の前記巻径として40cmを設定している。
以上のようにして切換点P2として設定される前記巻径が求められると共に、その前記巻径(切換点P2)と図5に示すグラフの前記曲線DLとから、切換点P2での前記所望のキックバック量が求められる。また、始点P1及び終点P3での前記所望のキックバック量については、前述のように前記曲線DLを描く段階で求められている。そして、そのように求められた前記巻径の前記範囲の始点P1、切換点P2及び終点P3の各時点における前記所望のキックバック量に基づき、その各時点における経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量を求めることが行われる。
なお、その織機1におけるキックバック量(織前CFの移動量)と経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量との関係については、予め行われた試験、或いは過去の製織データ等から求められているものとする。そして、その予め求められている関係と前記のように求められた前記各時点の前記所望のキックバック量とから、前記各時点における前記所望のキックバック量に応じた経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量が求められる。
因みに、その経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量は、一般的には、同じ値ではなく、異なる値とされる。何故なら、経糸Wと織布Fとでは同じ張力(経糸Wの張力及び織布Fの張力)に対する経糸W及び織布Fの伸び量が異なる(経糸Wの伸び量の方が大きい)と共に経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転時(経糸W及び織布Fの移動時)に経糸Wに作用する前記摩擦抵抗と織布Fに作用する前記摩擦抵抗とでは前記経糸Wに作用する前記摩擦抵抗の方が大きいため、経糸W及び織布Fの張力を低下させることなく織前CFの位置を前記所望のキックバック量に相当する量だけ移動させるには、経糸ビーム2の前記最終逆転量と服巻ロール6の前記最終逆転量とを異なる値(具体的には、経糸ビーム2の前記最終逆転量の方が大きい値)とする必要があるためである。そして、前記のように求められる結果として、本実施例では、始点P1、切換点P2及び終点P3の前記各時点における経糸ビーム2の最終逆転量は、順に0.2mm、0.4mm、0.5mmとされ、服巻ロール6の最終逆転量は、順に0.1mm、0.3mm、0.4mmとされている。
次に、経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量が決定される。その経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量は、前述のように、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転時に経糸W及び織布Fに作用する前記摩擦抵抗に打ち勝って経糸W及び織布Fが経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量に相当する移動量だけ移動するような状態となる程度の正転量(移動量)が設定される。また、前述のように、その設定される正転量については、経糸ビーム2及び服巻ロール6のそれぞれに対し固定値であり、始点P1、切換点P2及び終点P3のそれぞれに対し同じ値が設定される。
なお、前記摩擦抵抗は、製織に使用される経糸Wの種類や製織条件(織り組織、緯糸密度、経糸Wの設定張力)等により異なる。そこで、その設定される正転量については、前記の糸の種類や製織条件等を踏まえ、予め行われた試験或いは過去のデータ等に基づいて決定される。但し、前記のように、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転時に経糸W及び織布Fに作用する前記摩擦抵抗は異なる(経糸Wに作用する前記摩擦抵抗の方が大きい)ことから、経糸ビーム2と服巻ロール6とで異なる正転量が設定される。因みに、本実施例では、以上に基づき、経糸ビーム2の正転量が1.2mmとされ、服巻ロール6の正転量が1.0mmとされている。
その上で、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量は、前述のように、経糸ビーム2及び服巻ロール6のそれぞれの前記最終逆転量に正転量を加算した値となることから、始点P1、切換点P2及び終点P3の各時点における経糸ビーム2の逆転量は、それぞれ1.4mm、1.6mm、1.7mmとなる。また、服巻ロール6の逆転量は、それぞれ1.1mm、1.3mm、1.4mmとなる。そして、以上のように求められた移動量関連情報に含まれる始点P1、切換点P2及び終点P3の前記各時点における前記巻径の設定値、並びに経糸ビーム2、服巻ロール6の正転量及び逆転量の設定値は、入力設定装置25の入力画面40において入力設定され、主制御装置24における記憶器26に記憶される。
また、前記のように始点P1、切換点P2及び終点P3の各時点における各設定値が入力設定装置25の入力画面40から入力設定されると、その入力設定された各設定値に基づき、制御器28が、各区間α、βについての前述の演算式における前記直線補間式及び前記加算式を作成し、その作成された演算式が記憶器26に記憶される。
なお、前記直線補間式は、記憶器26に記憶されている各区間α、βに応じた基礎式(前述のa×ΔD1+K1及びb×ΔD2+K2)と入力設定された前記の各設定値とに基づいて作成されるものであり、制御器28は、記憶器26から各区間α、βに応じた前記基礎式を読み出し、前記各設定値から係数a又は係数bを求めると共に、必要な設定値を代入して前記直線補間式を作成する。具体的には、本実施例の場合について、区間αにおける経糸ビーム2の前記最終逆転量RL1xを求めるための前記直線補間式は、始点P1、切換点P2における前記巻径がそれぞれ90cm、40cmであり、経糸ビーム2の前記最終逆転量がそれぞれ0.2mm(=1.4−1.2)、0.4mm(=1.6−1.2)であることから、係数aは、a=(0.4−0.2)/(90−40)=0.004となり、その前記直線補間式は、RL1x=0.004×(90−Dx)+0.2となる。
また、経糸ビーム2の逆転量を求めるための前記加算式は、前記最終逆転量に正転量を加算する式であって、設定された固定値である正転量の設定値を代入したものとして作成される。但し、そのための基礎式も前記直線補間式と同様に記憶器26に記憶されており、制御器28は、その基礎式を読み出して前記加算式を作成する。そして、経糸ビーム2の正転量が1.2mmであることから、区間αにおける経糸ビーム2の逆転量(RL1)を求めるための前記加算式は、RL1=RL1x+1.2となる。同様の求め方により、区間αにおける服巻ロール6の前記最終逆転量RT1xを求めるための前記直線補間式は、RT1x=0.004×(90−Dx)+0.1となり、区間αにおける服巻ロール6の逆転量RT1を求めるための前記加算式は、RT1=RT1x+1.0となる。
また、区間βについては、経糸ビーム2の前記最終逆転量RL2xを求めるための前記直線補間式は、係数bが0.005となることから、RL2x=0.005×(40−Dx)+0.4となり、区間βにおける経糸ビーム2の逆転量RL2を求めるための前記加算式は、RL2=RL2x+1.2となる。さらに、服巻ロール6の前記最終逆転量RT2xを求めるための前記直線補間式は、RT2x=0.005×(40−Dx)+0.3となり、区間βにおける服巻ロール6の逆転量RT2を求めるための前記加算式は、RT2=RT2x+1.0となる。そして、そのようにして制御器28において作成された演算式は、制御器28から記憶器26に送られ、記憶器26に記憶される。
以上のような本実施例における織段防止装置について、その作用は以下の通りである。
製織運転中の織機1が停止した後の再起動の時点において、主制御装置24における制御器28に織機1の起動信号(図示略)が入力されると、先ず、制御器28は、巻径検出装置における巻径検出器27によって検出された経糸ビーム2の前記巻径の検出値Dx(その再起動の時点における前記巻径)が前記巻径の前記範囲の区間α(始点P1と切換点P2との間)又は区間β(切換点P2と終点P3との間)のどちらに含まれているかによって定まる検出値Dxと切換点P2として設定された前記巻径の設定値D2との大小関係の比較を実行する。すなわち、検出値Dxが区間αに含まれる場合には検出値Dx>設定値D2となり、検出値Dxが区間βに含まれる場合には検出値Dx<設定値D2となるため、そのいずれかであるかを判断する。なお、検出値Dxが設定値D2と等しい場合(再起動の時点の前記巻径が切換点P2として設定された前記巻径と等しい場合)については、後述のようにする。
そして、検出値Dx>設定値D2と判断された場合には、制御器28は、記憶器26から区間αについての経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量を求めるための前記直線補間式と経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量を求めるための前記加算式とを読み出し、その読み出した前記直線補間式及び前記加算式と前記巻径の検出値Dxとから、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量を求める。同様に、検出値Dx<設定値D2と判断された場合には、制御器28は、記憶器26から区間βについての経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量を求めるための前記直線補間式と経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量を求めるための前記加算式とを読み出し、その読み出した前記直線補間式及び前記加算式と前記巻径の検出値Dxとから、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量を求める。
なお、前述のように経糸Wの前記全体伸び量は、織機1の停止時間によって変化するものであるのに対し、前記直線補間式で求められる経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量は前記基準の停止時間についてのものである。そのため、実際の停止時間が前記基準の時間と大きく異なる場合には、その求められた前記最終逆転量を停止時間に基づいて補正する必要がある。そこで、記憶器26には、その補正のための停止時間に応じた補正係数が記憶されているものとする。その上で、前記最終逆転量を求めるにあたっては、制御器28が、計測された停止時間に応じた前記補正係数を記憶器26から読み出し、前記のように前記直線補間式から求められた経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量に対し、その読み出した前記補正係数を乗じることで、実際の停止時間(t)に応じた経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量を求めるものとすれば良い。従って、区間移動量情報に含まれる演算式は、その前記補正係数を乗じるための演算式(補正式)も含んでいる。
因みに、前記補正係数については、停止時間と経糸Wの前記全体伸び量との関係に基づき、前記基準の停止時間における前記全体伸び量を基準として求められるものである。具体的には、各巻径の時点における停止時間と前記全体伸び量との関係は同じであるとみなし、ある任意の前記巻径での織機1の停止状態における前記全体伸び量を所定の時間間隔毎に実測する、或いは、時間と単位長さあたりの伸び量との関係が分かっている場合には、任意の前記巻径における初期の経路長(停止状態での時間経過が0の時点における経路長)に基づいて計算で求める等により、各停止時間(前記基準の停止時間を含む)での前記全体伸び量を求める。その上で、前記基準の停止時間での前記全体伸び量を1とみなしたときの各停止時間における前記全体伸び量の換算値が、前記補正係数となる。
但し、停止時間の経過に対する前記全体伸び量の変化の度合いはそれほど大きくはないため、停止時間が異なっていてもその時間差が小さい場合には、前記全体伸び量の差は小さい。そして、そのような場合には、同じキックバック量でのキックバック動作であっても織段が発生する可能性は低い。従って、前記補正係数は、予め定めた時間範囲毎にその値が設定される(同じ時間範囲に含まれる停止時間に対応する値を同じとする)ものであっても良く、本実施例では、前記基準の停止時間を基準とする時間範囲に対応させて設定されるものとする。その上で、本実施例では、その時間範囲を、前記基準の停止時間を含む時間範囲(中期の時間範囲)と、その中期の時間範囲よりも短い停止時間の範囲(初期の時間範囲)と、前記中期の時間範囲以上の停止時間の範囲(終期の時間範囲)とに分け、そのそれぞれに対し前記補正係数が設定されているものとする。
なお、実際の停止時間が前記基準の停止時間と同じである場合には、前述の前記基準の停止時間について設定された前記直線補間式で求められた前記最終逆転量が、そのまま実際の停止時間に対する前記最終逆転量となる。すなわち、その場合には、求められた前記最終逆転量に対する補正が行われないものであるから、前記基準の停止時間に応じた前記補正係数は、1.0となる。従って、前記した前記中期の時間範囲に対し設定される前記補正係数は、1.0である。そして、前記前記初期の時間範囲に対しては、その1.0よりも小さい前記補正係数が設定され、前記終期の時間範囲に対しては、その1.0よりも大きい前記補正係数が設定される。
具体的には、例えば、前記基準の停止時間を10分とし、その前後5分の範囲である5分≦停止時間<15分を前記中期の時間範囲(前記基準の停止時間と同じ前記最終逆転量でのキックバック動作が行われる範囲)に定めるとすると、記憶器26には、停止時間:5≦t<15(分)に対応させるかたちで前記補正係数として1.0が設定、記憶される。また、前記のように求められた各停止時間と前記全体伸び量との関係に基づき、停止時間が5分未満である場合に適当な前記補正係数が0.98であると定められるとすると、停止時間が5分未満である前記初期の時間範囲については、記憶器26には、停止時間:t<5(分)に対応するかたちで前記補正係数として0.98が設定、記憶される。同様に、前記終期の時間範囲について、適当な前記補正係数が1.02であると定められるとすると、停止時間が15分以上である前記終期の時間範囲については、記憶器26には、t≧15(分)に対応するかたちで前記補正係数として1.02が設定、記憶される。
また、織機1の実際の停止時間tについては、前記のように制御器28に対し停止信号Sbが入力された時点から、起動信号Saが入力されるまでの経過時間を制御器28に内蔵されたタイマー(図示略)によりカウントすることにより求められるものとすれば良い。そして、制御器28は、その求められた実際の停止時間tが前記初期の時間範囲、前記中期の時間範囲、及び前記終期の時間範囲のどの時間範囲に含まれているかを判別し、前記補正係数を決定する。
その上で、制御器28は、前記巻径の検出値Dxと前記直線補間式とから求められた経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量とその決定された前記補正係数とを前記補正式により乗じて実際の停止時間tに対応する前記最終逆転量を求め、さらに、その求められた前記最終逆転量と前記加算式とから経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量を求める。
なお、前記巻径の検出値Dxが切換点P2として設定された前記巻径の設定値D2と等しい(検出値Dx=設定値D2)場合については、そのときの経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量は、区間α及び区間βについての前記直線補間式のいずれを用いても求めることが可能であるため、前述の検出値Dxと設定値D2との比較において検出値Dx=設定値D2と判断された場合に、制御器28がそのいずれかの前記直線補間式を記憶器26から読み出すように設定されるものとしても良い。すなわち、前記の検出値Dxと設定値D2との比較を、Dx>D2であるかDx≦D2であるかという判断、又はDx≧D2であるかDx<D2であるかという判断が行われるものとしても良い。そして、その場合においても、前記と同様にして経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量及び逆転量が前記演算式によって求められる。
但し、前記巻径が設定値D2である場合における経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量は、移動量関連情報として既に設定されている。従って、求め方を統一する場合には前記のように演算式を用いて求めるものとなるが、それに代えて、検出値Dx=設定値D2と判断された場合に、記憶器26に記憶されている移動量関連情報に含まれる逆転量を記憶器26から読み出し、それを使用するものであっても良い。
同様に、経糸ビーム2が満巻状態での製織開始直後に織機が停止した場合、すなわち、再起動時点の前記巻径の検出値Dxが始点P1として設定された前記巻径の設定値D1と等しい場合、前記に基づけば、検出値Dx>設定値D2なので、区間αについての前記直線補間式を用いて前記最終逆転量が求められ、そこから経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量が求められることとなる。また、経糸ビーム2上の経糸Wが消尽される直前に織機が停止した場合、すなわち、再起動時点の前記巻径の検出値Dxが終点P3として設定された前記巻径の設定値D3と等しい場合についても同様である。しかし、この前記巻径の検出値Dx=設定値D1、及び検出値Dx=設定値D3と判断された場合についても、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量は移動量関連情報として既に設定されているため、前記のように演算式によって求めることに代えて、記憶器26から読み出して使用するものとしても良い。
そして、制御器28は、前記のようにして求められた経糸ビーム2の逆転量及び記憶器26から読み出した固定値として設定されている経糸ビーム2の正転量を送出制御装置20へ送ると共に、求められた服巻ロール6の逆転量及び記憶器26から読み出した固定値として設定されている服巻ロール6の正転量を巻取制御装置21へ送る。その上で、送出制御装置20及び巻取制御装置21は、その制御器28から送られてきた経糸ビーム2、服巻ロール6の正転量及び逆転量に基づいて送出モータM3、巻取モータM2の駆動を制御することにより前記織前位置変位部材である経糸ビーム2及び服巻ロール6が回転駆動されてキックバック動作が行われる。そして、その結果として、織前CFが前記巻径の検出値Dxに応じた経糸送出側の位置へ移動するものとなり、その状態で織機1の運転が開始される。
なお、以上で説明したように、本実施例では、前記織前位置変位部材である経糸ビーム2及び服巻ロール6は、主制御装置24における制御器28において経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量及び逆転量が求められると共に、送出制御装置20及び巻取制御装置21においてその駆動が制御されるものとなっている。従って、本実施例では、主制御装置24における制御器28、送出制御装置20及び巻取制御装置21が本発明の織段防止装置における駆動制御装置に相当する。
そして、そのような本実施例の織段防止装置によれば、経糸ビーム2及び服巻ロール6を前記織前位置変位部材とする場合において、再起動時点に行われるキックバック動作のためのそれぞれの駆動量(正転量、逆転量)がその再起動時点における前記巻径(経糸Wの前記全体伸び量)に応じたものとされるため、そのキックバック動作時におけるキックバック量が前記所望のキックバック量に近いものとなり、より有効に織段(停止段)を防止することが可能となる。
なお、本発明については、以上で説明した実施例(前記実施例)に限定されるものではなく、以下のような変形した実施形態でも実施が可能である。
(1)前記実施例では、前記巻径の前記範囲は、移動量関連情報に含まれる境界値情報に設定された1つの境界値(切換点P2)によって2つの区間に分割されるものとした。しかし、本発明では、前記巻径の前記範囲は、2つ以上の境界値により3つ以上の区間に分割されるものとしてもよい。従って、その場合には、境界値情報は、その2つ以上の境界値を含むものとなる。
因みに、そのように前記巻径の前記範囲を3つ以上の区間に分割する場合は、前記実施例のように前記巻径の前記範囲を2つの区間に分割する場合と比べ、各区間において前記実際のキックバック量と前記所望のキックバック量との差を小さくすることができる。具体的には、例えば、前記巻径の前記範囲を境界値情報に設定された3つの境界値(切換点P2a、P2b、P2c)によって4つの区間(区間α1、β1、γ1、δ1)に分割した場合においては、前記巻径とキックバック量との関係は、図6のグラフに示すようなものとなる。このとき、そのグラフ上に描かれた前記巻径と前記所望のキックバック量との関係を示す曲線DL2(破線)を見ると、前記実施例のように前記巻径の前記範囲を2つの空間に分割する場合と比べ、区間毎の曲線はより直線に近いかたちとなる。従って、そのように前記巻径の前記範囲を3つ以上の区間に分割した場合は、各区間において始点と終点との間を直線補間することによって求められる前記実際のキックバック量と、前記所望のキックバック量との差が小さくなる。
なお、以上のように境界値情報に含まれる2つ以上の境界値によって前記巻径の前記範囲が3つ以上の区間に分割される場合においては、境界値の数が多いほど各区間における前記実際のキックバック量と前記所望のキックバック量との差を小さくすることができる。しかし、境界値の数が多すぎると境界値の設定作業が煩雑となる。従って、境界値の数については、設定作業のしやすさ等を考慮して定めれば良い。また、そのようにして定めた各境界値における前記巻径については、前記実施例の考え方に基づき、各前記巻径の時点における前記実際のキックバック量と前記所望のキックバック量との差を考慮した上で適宜に設定すれば良い。
(2)前記実施例では、各前記巻径の時点(少なくとも移動量関連情報として設定される前記巻径を除く前記巻径の時点)における織前位置変位部材の前記最終逆転量が前記巻径を変数とする演算式によって求められるように、区間移動量情報がその演算式を含むものとして設定されている。言い換えると、前記実施例では、各区間においてそれぞれの区間に対し設定された区間移動量情報によって、求められるキックバック量(前記実際のキックバック量)が前記巻径の変化に伴って変化するように、各区間移動量情報が定められている。しかし、本発明は、各区間移動量情報がそのように定められているものに限らず、各区間移動量情報のうち少なくとも経糸Wの消尽時の前記巻径を含む区間に対し設定された区間移動量情報が、その織機の停止時点における前記巻径に関わらず、求められるキックバック量が一定となるように定められる場合も含む。
詳しくは、経糸Wの前記全体伸び量は、前記したように前記巻径の変化に対し二次曲線的に変化する、すなわち、前記巻径が小さくなるほど前記巻径の変化に対する前記全体伸び量の変化(増加)の割合が小さくなっている。そして、経糸Wの種類等によっては、経糸Wの消尽時を含む前記巻径の区間(最終区間)においては、キックバック量を一定としても、製織される織物の品質に対する影響が小さいため、品質上において許容できる場合がある。従って、そのような場合には、その前記最終区間については、キックバック量を一定とすることができる。また、そのようにキックバック量を一定とすることができる区間は、前記最終区間に限られるものではなく、その製織で使用される経糸Wの種類やその製織される織物に求められる品質等によっては、前記最終区間よりも前記巻径の大きい区間であっても、キックバック量を一定としても品質面において許容される場合があり、その場合には、前記最終区間より前記巻径が大きい区間についても、キックバック量を一定とすることができる。そして、そのようにキックバック量を一定とすることができる区間については、設定作業を容易化するために、その区間に対し設定される区間移動量情報を、求められるキックバック量が前記巻径の変化に関わらず一定となるように定める方が好ましい。
図7は、その一例であって、前記巻径の前記範囲の始点P1から終点P3までの間のすべての区間において、キックバック量が一定となるように、それぞれの区間に対し設定された区間移動量情報を定めた場合における、前記巻径とキックバック量との関係をグラフで示したものである。
なお、この例は、図示のように、始点P1から終点P3までの間の前記巻径の前記範囲が、境界値情報に設定された4つの境界値(切換点P2a、P2b、P2c、P2d)によって5つの区間(区間α2、β2、γ2、δ2、ε2)に分割された場合についてのものである。但し、この例では、各区間における前記巻径の前記範囲について、前記最終区間を除く各区間の前記範囲は、各区間を画定する切換点P2a、P2b、P2c、P2dのうちの前記巻径が小さい側の切換点における前記巻径を含まない範囲として設定されている。
何故なら、この例の場合、各区間においてその区間に対し設定された区間移動量情報から求められるキックバック量は、前記のように一定であり、且つ、前記巻径が小さい区間ほど大きくなる。すなわち、区間毎にその求められるキックバック量が完全に異なる。そのため、前記実施例のように求められるキックバック量が前記巻径の変化に伴って連続的に変化する場合と異なり、切換点として設定された前記巻径がその前後の区間に含まれるものとしてしまうと、その切換点として設定された前記巻径の時点では、2つの異なる値のキックバック量が求められることとなってしまう。そこで、この例においては、切換点として設定される前記巻径は、その切換点に対し前記巻径が小さい側の区間にのみ含まれ、大きい側には含まれないかたちで各区間が設定されている。
このように、本発明においては、設定される区間移動量情報によっては、区間毎に求められるキックバック量が完全に異なる場合(切換点において連続しないものとなる場合)があるが、その場合には、区間を定めるにあたり、各区間を画定するために設定される境界値(切換点)としての前記巻径は、その切換点の前後の区間のいずれか一方の区間にのみ含まれるように、移動量関連情報における各区間についての境界値情報に基づく前記巻径の前記範囲が設定されることとなる。但し、前記実施例のように、連続する2つの区間のそれぞれに対し設定された各区間移動量情報によって求められるキックバック量が切換点において連続する場合であっても、その切換点における前記巻径が、前後の区間のいずれか一方の区間にのみ含まれるものとしても良い。因みに、図7に示す例では、境界値として設定される前記巻径は、その境界値の前後の区間のうち前記巻径が小さい側の区間に含まれるものとしたが、それに代えて、前記巻径が大きい側の区間にのみ含まれるものとしても良い。
その上で、この例では、各区間でその求められるキックバック量が一定となるように各区間移動量情報が設定される、すなわち、キックバック量=一定値として各区間移動量情報が設定されるものであるが、その区間の一定値のキックバック量として区間移動量情報に設定される値は、その区間を画定する各点(始点P1、切換点P2a、P2b、P2c、P2d、及び終点P3)の前記巻径における前記所望のキックバック量の中間の値とされている。具体的には、例えば区間β2に対し設定される区間移動量情報は、区間β2を画定する切換点P2aの前記巻径における前記所望のキックバック量と切換点P2cの前記巻径における前記所望のキックバック量との中間の値が設定されたものとなっている。
図8(a)、(b)は、図7の例における各区間移動量情報の設定例を示すものである。なお、この例では、各区間移動量情報は、データベースの形式で設定されている。因みに、この例は、前記実施例と同様に、キックバック動作が、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転駆動及び正転駆動を伴うものであって、且つ、その正転駆動に伴う経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量を固定値として行われる場合についてのものである。従って、そのデータベースは、前記実施例において演算式として設定された区間移動量情報によって求められる織前位置変位部材(経糸ビーム2及び服巻ロール6)の前記最終逆転量を求めるためのものであり、その前記最終逆転量(一定値)が区間毎に設定されたものとなっている。
より詳しくは、そのデータベースは、前記巻径の前記範囲の始点P1から終点P3までの間の各区間(図7の例における区間α2、β2、γ2、δ2、ε2)に対し、その各区間に応じた前記最終逆転量が設定されたものである。但し、そのデータベースは、経糸ビーム2及び服巻ロール6のそれぞれについて設定される。そして、それらのデータベースは、例えば、図(a)、(b)に示すような、各区間に対応させるかたちで前記最終逆転量の入力欄が設けられた表形式の設定画面により設定される。
なお、図8に示す例において、(a)は、経糸ビーム2の前記最終逆転量を入力設定するための設定画面であり、(b)は、服巻ロール6の前記最終逆転量を入力設定するための設定画面である。因みに、各区間における前記巻径の前記範囲の表示(例えば、区間α2における90≧Dx>83(単位はcm)等)は、設定された境界値等に基づいて表示される。そして、それらの設定画面は、例えば、前記実施例で説明した入力設定装置25に表示され、その入力設定装置25上で、各入力欄に対し前記最終逆転量の入力(設定)が行われる。
さらに、この例では、各データベースは、前記実施例と同様に、織機1の停止時間tの経過に対する時間範囲毎に前記最終逆転量が設定されたものとなっている。具体的には、図8に示すように、各設定画面は、その時間範囲として前記実施例と同様にt<5(分)、5≦t<15(分)、t≧15(分)の3つの時間範囲の入力欄を含むものとなっており、その各入力欄に前記最終逆転量が設定されることで、各データベースは、区間毎にそれら各時間範囲に応じた前記最終逆転量が設定されたものとなる。
そして、そのように設定された各データベースは、前記実施例の演算式と同様に、記憶器に記憶される。その上で、製織中の織機1が停止した後の再起動の時点においては、例えば前記実施例の演算器28により、前記巻径の検出値Dxと織機1の実際の停止時間tとに基づき、記憶器に記憶されているデータベースからその前記巻径の検出値Dxが含まれる区間及び実際の停止時間tに応じた経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量が読み出されることによりキックバック量が求められる。
因みに、そのようにして経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量が記憶器から読み出されることによって、前記実施例で前記直線補間式を用いて求めた場合と同様に、経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量が求められた状態となる。そこで、前記実施例と同様に、その求めた前記最終逆転量と記憶器に固定値として記憶されている経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量とから、記憶器に記憶されている前記加算式を用いて経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量が求められるものとすれば良い。その上で、その求められた逆転量及び固定値として設定された正転量に従って織前位置変位部材としての経糸ビーム2及び服巻ロール6が駆動されることにより、キックバック動作が実現される。
なお、前記のように、キックバック量(織前CFの移動量)に関する情報の設定に関しては、その設定を容易化する上では、区間移動量情報は、求められるキックバック量が一定となるようなものであることが好ましく、また、前記最終区間については、そのようにキックバック量を一定とすることが可能である場合が多いと想定される。そこで、本発明においては、各区間に対し設定される区間移動量情報は、少なくとも前記最終区間に対し設定される区間移動量情報が、求められるキックバック量を一定とするように定められたものであることが好ましい。
その上で、図7、8の例では、すべての区間においてキックバック量を一定とすることが可能な場合について、その各区間に対する区間移動量情報の設定について述べている。但し、前記のように、キックバック量を一定とすることが可能かどうかは経糸Wの種類や製織される織物に求められる品質等によって異なる。従って、本発明において、前記した少なくとも最終区間に対し設定される区間移動量情報を求められるキックバック量が一定となるように定める場合の例は、図7、8の例に限らず、すべての区間のうちの一部の区間であって前記最終区間又はその前記最終区間を含む前記巻径が小さい側の連続した区間において、その区間に対し設定される区間移動量情報が、求められるキックバック量を一定とするように定められる場合も含む。そして、その場合は、その一部の区間を除く前記巻径が大きい区間については、各区間移動量情報は、前記実際例と同様に、求められるキックバック量が前記巻径の変化に伴って変化するように、演算式のかたちに定められる。
また、図7、8の例では、区間毎にその区間に対し設定された区間移動量情報によって求められるキックバック量は前記巻径に関係無く一定であると共に、前記巻径が小さい区間ほど求められるキックバック量が大きくなるように各区間移動量情報が設定されており、その結果として、求められるキックバック量は、区間毎に完全に異なる(切換点において連続しない)ものとなっている。そして、それに伴い、各区間についての境界値情報は、前記のように、境界値となる前記巻径が、その前後の区間のいずれか一方の区間にのみ含まれるように設定されるものとなっている。このように、本発明は、求められるキックバック量が区間毎に完全に異なる場合を含むと共に、その場合には、各区間を画定する境界値(切換点)がその前後の区間のいずれか一方の区間にのみ含まれるように境界値情報が設定されるものとなる。
但し、その場合において、求められるキックバック量が区間毎に完全に異なる場合については、前記のように、各区間移動量情報が、求められるキックバック量を一定とするように定められる場合に限らず、その求められるキックバック量が前記実施例のようにその区間内において前記巻径の変化に伴って変化するように定められる(演算式のかたちで設定される)場合も含む。
すなわち、前記実施例の場合では、境界値(切換点)における前記所望のキックバック量に基づいて各区間に対する区間移動量情報(演算式)が定められている。従って、その織機において製織される織物が変更されて製織条件が変更される毎に、区間移動量情報も変更されることとなる。また、図7に示す例の場合(キックバック量が一定となるように各区間移動量情報が設定される場合)、前記のように製織条件が変更されて各区間における始点と終点との前記所望のキックバック量の差が大きくなると、始点付近及び終点付近での前記所望のキックバック量と区間移動量情報から求まるキックバック量との差が大きくなり、品質上において許容できなくなる可能性が高まるため、区間移動量情報の変更が必要となる可能性が高い。
それに対し、各区間移動量情報を、前記実施例のように求められるキックバック量が前記所望のキックバック量にできるだけ近付くように(切換点において連続するように)設定するのではなく、且つ、キックバック量が一定となるように設定される場合と比べて求められるキックバック量と前記所望のキックバック量との差がその区間全体に亘って小さくなるように設定することで、製織条件の変更に対する区間移動量情報の変更の頻度を減らすことができるため、そのような設定とすることも考えられる。そして、その場合も、前記のように、境界値情報は、各区間を画定する境界値がその前後の区間のいずれか一方の区間にのみ含まれるように設定される。なお、その場合、各区間移動量情報は、前記実施例のように演算式のかたちで設定されるものとなる。
(3)キックバック動作のための織前位置変位部材としての経糸ビーム2及び服巻ロール6の回転駆動について、前記実施例では、経糸ビーム2及び服巻ロール6を逆転駆動した後に正転駆動する態様で両者を連動させて(同時に)回転駆動するものとした。しかし、本発明においては、織前位置変位部材を経糸ビーム2及び服巻ロール6とする場合におけるその回転駆動の態様は、前記実施例のものに限らず、その逆であっても良い。すなわち、経糸ビーム2及び服巻ロール6を、先ず正転駆動した後に逆転駆動する態様としても良い。
また、本発明におけるキックバック動作は、経糸ビーム2と服巻ロール6とを同時に回転駆動することによって行われるものに限らず、経糸ビーム2と服巻ロール6とが予め設定された順序で回転駆動されるものであっても良い。例えば、前記実施例の経糸ビーム2及び服巻ロール6を逆転駆動させた後に正転駆動させる態様において、経糸ビーム2が逆転駆動された後に服巻ロール6が逆転駆動され、その後に経糸ビーム2が正転駆動されて最後に服巻ロール6が正転駆動されるといった順序でキックバック動作が行われるものとしても良く、或いは、服巻ロール6が逆転駆動された後に経糸ビーム2が逆転駆動され、その後に服巻ロール6が正転駆動されて最後に経糸ビーム2が正転駆動されるといった順序でキックバック動作が行われるものとしても良い。
さらに、前記した経糸ビーム2及び服巻ロール6を正転駆動した後に逆転駆動する態様においても、同様に経糸ビーム2と服巻ロール6とが予め設定された順序で回転駆動されるものであっても良い。そして、その場合においても、経糸ビーム2及び服巻ロール6が回転駆動される順序を逆にするものとしても良い。
なお、キックバック動作における経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量について、前記実施例では、前記摩擦抵抗が前記巻径の変化に関わらず略一定であると見なした上で、その正転量が固定値として各区間移動量情報に設定されるものとした。しかし、前述の通り、前記巻径が変化すると経糸Wとガイドロール3との接触面積が変化するため、前記摩擦抵抗は、厳密には前記巻径の変化により変化するものである。そのため、経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量については、固定値に限られるものではなく、前記巻径の変化に応じて変化する前記摩擦抵抗の大きさに対応させるかたちで前記巻径の変化に応じて変化させるものとしても良い。因みに、その場合における経糸ビーム2及び服巻ロール6の正転量の求め方については、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転量の求め方と同様に演算式を用いて求めるものとすれば良い。そして、その場合は、その演算式が各区間移動量情報に設定されるものとなる。
また、前記実施例では、キックバック動作に関し、織前CFを前記摩擦抵抗に打ち勝つように移動させるために、織前CFを一旦経糸送出側へ大きく移動させるものとした。しかし、製織される織物や経糸Wの種類により前記摩擦抵抗が無視できるほど小さい場合は、キックバック動作においては、織前CFをそのように移動させる必要が無く、織前CFを直接的に前記目標位置へ移動させる、すなわち、経糸ビーム2及び服巻ロール6の逆転駆動のみを行うことにより織前CFを前記目標位置へ移動させるものとしても良い。なお、その場合は、その逆転量が前記実施例における経糸ビーム2及び服巻ロール6の前記最終逆転量に相当することとなる。すなわち、各区間移動量情報は、その逆転量のみが設定されるものとなる。
(4)前記実施例では、経糸ビーム2及び服巻ロール6を織前位置変位部材とし、その両方を回転駆動することによってキックバック動作が行われる構成となっているが、本発明の織段防止装置は、経糸ビーム2及び服巻ロール6のうちの一方のみを回転駆動することによってキックバック動作が行われる、すなわち、経糸ビーム2及び服巻ロール6のうちの一方のみが織前位置変位部材となるものであっても良い。
その上で、前記実施例では、経糸ビーム2及び服巻ロール6を織前位置変位部材とする場合において、キックバック量(織前CFの移動量)に関する情報としての区間移動量情報は、その経糸ビーム2及び服巻ロール6の駆動量(正転量、逆転量)に関する情報として設定されるかたちとなっている。
詳しくは、織前CFの移動は経糸W及び/又は織布Fを移動させることによって為されるものであるが、その経糸W及び/又は織布Fの移動量がそのままキックバック量となる訳では無いため、区間移動量情報については、織前CFを前記目標位置まで移動させるのに必要な経糸W及び/又は織布Fの移動量を求めた上で、その移動量での経糸W及び/又は織布Fの移動が為されるような設定とされるのが好ましい。その上で、前記の場合で言うと、経糸W及び織布Fの移動は経糸ビーム2及び服巻ロール6を回転駆動した結果として為されるものであって直接の駆動対象は経糸ビーム2及び服巻ロール6であり、また、織機における設定情報は駆動対象の駆動の制御に用いられるものであるから、前記実施例では、区間移動量情報の設定は、経糸W及び織布Fを移動させる織前位置変位部材である経糸ビーム2及び服巻ロール6の駆動量に関する情報(前記各点の前記最終逆転量、その前記最終逆転量から求められる演算式、固定値としての正転量等)として設定されるかたちとなっている。
一方で、設定値等を決定するにあたっては、その設定値等をキックバック量と直接的に関係する経糸W及び織布Fの移動量とした方がその決定が行い易い。そして、織機においては、経糸ビーム2及び服巻ロール6の駆動量(回転量)と経糸W及び織布Fの移動量とは所定の対応関係にあることから、前記実施例では、設定される区間移動量情報は、織前位置変位部材の駆動量に関する情報を設定するというかたちとしつつも、実際に設定される情報は、その経糸ビーム2及び服巻ロール6の制御量としての駆動量(回転量)に関する情報ではなく、その駆動量の代替値としての経糸W及び織布Fの移動量(単位「mm」)に関する情報としている。
しかし、本発明においては、経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6を織前位置変位部材とする場合において、区間移動量情報として設定される情報は、前記実施例のような経糸W及び/又は織布Fの移動量に関する情報に限らず、その経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6の制御量としての駆動量(回転量)に関する情報であっても良い。また、そのように経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6の駆動量に関する情報が区間移動量情報として設定される場合において、その設定される情報は、その経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6の回転量に関する情報として設定されるものであっても良いし、経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6を駆動する駆動手段である送出モータM3及び/又は巻取モータM2の駆動量に関する情報として設定されるものであっても良い。
また、前記実施例と同様に経糸W及び/又は織布Fの移動量に関する情報が区間移動量情報として設定される場合において、その設定される情報は、前記実施例のように単位を「mm」とした経糸W及び/又は織布Fの移動量に関するものに限らず、例えば、1製織サイクルにおける経糸W及び織布Fの移動量を1単位として、その単位で経糸W及び織布Fの移動量が設定されたものであっても良い。因みに、前記した送出モータM3及び/又は巻取モータM2の駆動量に関する情報以外の情報が区間移動量情報として設定される場合には、停止時の前記巻径から求められた経糸W及び/又は織布Fの移動量、或いは経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6の回転量に基づいて制御器が送出モータM3及び/又は巻取モータM2の駆動量を求め、それによって送出モータM3及び/又は巻取モータM2の駆動が制御されるものとすれば良い。
さらに、前記のように、織前位置変位部材の駆動量についての情報でなく、織前位置変位部材が駆動されることによって移動する物(前記実施例では、経糸W、織布F)の移動量についての情報が区間移動量情報として設定される場合において、その区間移動量情報として設定される情報は、前記目標位置まで織前CFを移動させるのに必要な経糸Wや織布Fの移動量に関する情報として設定されるものに限らず、その織前CFの移動量そのものに関する情報として設定されるものとしても良い。そして、その場合には、停止時の前記巻径から求められたその織前CFの移動量(キックバック量)に基づき、例えば、制御器がそれに応じた経糸W及び/又は織布Fの移動量、或いは経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6の駆動量を求め、それに基づいて経糸ビーム2及び服巻ロール6が駆動されるものとすれば良い。
(5)また、本発明による織段防止装置は、前記のように経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6を回転駆動してキックバック動作を行う、すなわち、経糸ビーム2及び/又は服巻ロール6を織前位置変位部材として構成されたものに限らず、例えば、経糸Wが巻き掛けられるテンションロール4やガイドロール3、或いは織布Fが巻き掛けられるガイドロール5を変位させることによってキックバック動作を行うように構成されたものであっても良い。そして、その場合は、テンションロール4やガイドロール3、ガイドロール5が織前位置変位部材となる。なお、その場合におけるテンションロール4やガイドロール3、ガイドロール5を変位させるための構成は、例えば、エアシリンダ等のアクチュエータを駆動装置として用いたものとすれば良い。そして、その場合は、その駆動装置の駆動を制御するための制御装置が本発明の織段防止装置における駆動制御装置に含まれるものとなる。
(6)前記実施例における織段防止装置では、移動量関連情報に含まれる各設定値が、織機1の入力設定装置25の入力画面40から直接的に入力設定される構成とした。しかし、移動量関連情報に含まれる各設定値は、入力画面40から直接的に入力設定されるものに限らず、例えばメモリカード等の外部記憶媒体に記憶されたその各設定値が入力設定装置25から読み込まれることにより入力設定される構成であっても良い。
さらに、前記実施例の織段防止装置では、経糸ビーム2に巻かれた経糸Wの前記巻径を求めるための巻径検出装置として、非接触式の距離センサ10を用いた構成が採用されているが、本発明の織段防止装置における巻径検出装置は、そのような構成の装置に限らず、他の公知の巻径検出装置であっても良い。例えば、巻径検出装置は、経糸ビーム2上の経糸Wの表面に対し接触すると共にその接触状態が維持されるように設けられた部材を用い、前記巻径の変化(減少)に伴うその部材の位置をセンサ等で検出することにより前記巻径を求める装置であっても良い。また、巻径検出装置は、前記のようにセンサを用いて直接的に前記巻径を求めるように構成された装置に限らず、製織中における単位期間あたりの送出モータM3の回転量又は経糸ビーム2の回転量から演算によって間接的に前記巻径を求めるように構成された装置であっても良い。
なお、本発明は、以上で説明した例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。