本開示に係る断熱構造体は、−40℃以下の低温に曝される環境で使用され、少なくとも真空断熱材および他の部材を含む。真空断熱材は、外被材と、外被材の内部に、減圧密閉状態で封入された芯材とを備えている。外被材の表面のうち、真空断熱材の外面となる表面を外表面としたとき、外表面に、表面の固有の濡れ性よりも大きな濡れ性を呈する表面状態が付与された、濡れ表面領域が含まれる。真空断熱材は、弾性材料を介して、濡れ表面領域において、他の部材または他の真空断熱材に隣接するように構成されている。
このような構成によれば、断熱構造体を構成する真空断熱材の外表面に、濡れ表面領域が形成され、真空断熱材と他の部材とは、濡れ表面領域に弾性材料を介した状態で隣接する、または、真空断熱材同士が、濡れ表面領域同士の間に弾性材料を介した状態で隣接する。断熱構造体が、−40℃以下の低温に曝される環境下で使用される場合、常温との温度差が大きいため、大きな熱応力が発生するおそれがあるが、弾性材料の存在により熱応力の影響を緩和することができる。
しかも、弾性材料が密接する真空断熱材の外面は濡れ表面領域となっているので、弾性材料と真空断熱材との間で良好な密着性を確保することができる。その結果、真空断熱材を用いた断熱構造体において、産業用製品に適用可能となるように、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
また、本開示の断熱構造体において、濡れ表面領域は、外表面に対する表面処理または樹脂コートによって構成されていてもよい。
このような構成によれば、さらに、外被材の表面を表面処理したり樹脂コートしたりすることによって、外被材の表面に固有の濡れ性よりも大きな濡れ性を呈する、濡れ表面領域を好適に実現することができる。
また、本開示の断熱構造体において、濡れ表面領域は、外表面のうち、真空断熱材の少なくとも背面となる領域に付与されてもよい。そして、真空断熱材は、背面において、弾性材料としての接着剤が部分的に塗布されることにより、他の部材に貼り合わせられる構成であってもよい。
このような構成によれば、さらに、弾性材料が接着剤であり、この接着剤が真空断熱材の背面に、部分的に塗布されている。そのため、塗布された接着剤は、真空断熱材の背面に良好に保持されることが可能であるとともに、接着剤が背面に全面に塗布されていない場合、大きな熱応力に由来する収縮の影響を良好に緩和することができる。
また、本開示の断熱構造体において、接着剤は、常温で粘着性を有する第一接着剤と、低温で第一接着剤よりも高い粘着性を有する第二接着剤とを含んでもよい。そして、第一接着剤および第二接着剤は、背面に、それぞれ互いに異なる部分に塗られている構成であってもよい。
このような構成によれば、さらに、弾性材料として、第一接着剤および第二接着剤を併用しているため、常温およびその付近の温度範囲では、第一接着剤の粘着性により良好な接着状態を実現することができる。また、低温およびその付近の温度範囲では、第二接着剤の粘着性により良好な接着状態を実現することができる。よって、二種類の接着剤が、それぞれ異なる温度範囲で良好な接着性を発揮できるので、幅広い温度範囲で、真空断熱材の良好な貼合せ状態を安定的に実現することができる。
また、本開示の断熱構造体において、第一接着剤および第二接着剤は、背面に、交互に塗布されている構成であってもよい。
このような構成によれば、さらに、第一接着剤および第二接着剤を交互に塗布することにより、真空断熱材の背面において、幅広い温度範囲で良好な貼合せ状態を安定的に実現することができる。
また、本開示の断熱構造体において、第一接着剤および第二接着剤は、背面において、第一接着剤の塗布領域が、第二接着剤の塗布領域よりも広くなるように塗布されている構成であってもよい。
このような構成によれば、さらに、第一接着剤の塗布領域が第二接着剤の塗布領域よりも広いため、真空断熱材の背面において、幅広い温度範囲で良好な貼合せ状態を安定的に実現することができる。
また、本開示の断熱構造体において、第一接着剤がホットメルト接着剤であり、第二接着剤が反応型接着剤である構成であってもよい。
このような構成によれば、さらに、ホットメルト接着剤および反応型接着剤を併用することにより、真空断熱材の背面において、幅広い温度範囲で良好な貼合せ状態を、より安定的に実現することができる。
また、本開示の断熱構造体において、接着剤の剥離強度が、25mm幅で13N以上である構成であってもよい。
このような構成によれば、さらに、接着剤の剥離強度の下限値が上記の値であれば、真空断熱材を、他の部材の表面に対して、より一層良好に貼り合わせることができる。
また、本開示の断熱構造体において、真空断熱材は、複数の真空断熱材を含み、濡れ表面領域は、外表面のうち、真空断熱材の少なくとも外側の側面となる領域に付与されてもよい。そして、複数の真空断熱材のうち、隣接配置された真空断熱材同士の間に形成される隙間の少なくとも外側に、弾性材料としての充填材料が充填されている構成であってもよい。
このような構成によれば、さらに、複数の真空断熱材の側面同士の突合せ部に充填材料が介在しており、充填材料が密接する真空断熱材の側面が濡れ表面領域となっている。そのため、充填材料が真空断熱材の側面に良好に密着することにより、真空断熱材で構成される断熱層の高い密閉性を良好に実現できる。また、大きな熱応力に由来する収縮の影響を、充填材料により良好に緩和することができる。
また、本開示の断熱構造体において、充填材料は、熱硬化性樹脂エラストマー材料で構成されてもよい。
このように、充填材料がシリコーンゴムまたは軟質ウレタン等のエラストマー材料で構成されていれば、さらに、大きな熱応力に由来する収縮の影響を、より一層良好に緩和することができる。
また、本開示の断熱構造体において、表面処理が、コロナ処理、オゾン処理、またはプラズマ処理であり、樹脂コートが、ウレタンコートまたはシリコンコートであってもよい。
このような構成によれば、さらに、外被材の表面のうち、少なくとも外表面となる領域に対して、濡れ表面領域を良好に形成することができる。
また、本開示には、上述した構成の断熱構造体を備えた断熱容器も含まれる。
上述したいずれの構成においても、前述した真空断熱材を備えているため、断熱構造体または断熱容器において、産業用製品に適用可能となるように、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
以下、本開示の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、全ての図面を通じて、同一または相当する要素には、同一の参照符号を付して、その重複する説明は省略される。
(第1の実施の形態)
[真空断熱材]
まず、本開示に係る断熱構造体に適用される真空断熱材の代表的な一例について、図1を参照して具体的に説明する。
図1に示されるように、本実施の形態に係る真空断熱材10は、外被材(外包材)11と、この外被材11の内部に減圧密閉状態(略真空状態)で封入される芯材12と、芯材12とともに外被材11の内部に封入される吸着剤13と、を備えている。
外被材11は、ガスバリア性を有する袋状の部材であり、本実施の形態では、例えば、図1に示されるように、2枚の積層シートを対向させて、その周囲を封止することで、袋状となっている。周囲の封止された箇所である封止部14は、内部に芯材12が存在せず、積層シート同士が接触している状態であり、真空断熱材10の本体から外周に向かって延伸するヒレ状に形成されている。
積層シートの具体的な構成は、特に限定されないが、例えば、表面保護層、ガスバリア層、および熱溶着層の三層が、この順で積層された構成を挙げることができる。
表面保護層は、真空断熱材10の外面を保護するための樹脂層である。表面保護層は、例えば、ナイロンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、またはポリプロピレンフィルム等の、公知の樹脂フィルムが用いられるが、特にこれらに限定されない。表面保護層は、1種類のフィルムのみで構成されてもよいし、複数のフィルムが積層されて構成されてもよい。
ガスバリア層は、真空断熱材10の内部に、外気が侵入することを防ぐための層であり、ガスバリア性を有する、公知のフィルムを好適に用いることができる。ガスバリア性を有するフィルムとしては、例えば、アルミニウム箔、銅箔、もしくはステンレス箔等の金属箔、基材となる樹脂フィルムに対して金属もしくは金属酸化物が蒸着された蒸着フィルム、または、この蒸着フィルムの表面に、さらに公知のコーティング処理が施されたフィルム等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。蒸着フィルムに用いられる基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、または、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム等が挙げられ、金属または金属酸化物としては、アルミニウム、銅、アルミナ、またはシリカ等を挙げることができるが、特にこれらに限定されない。
熱溶着層は、積層シート同士を対向させて貼り合わせるための層であるとともに、ガスバリア層の表面を保護する層としても機能する。すなわち、ガスバリア層の一方の面(外面)は、表面保護層で保護されるが、他方の面(内面)は、熱溶着層により保護される。真空断熱材10の内部には、芯材12および吸着剤13が封入されるので、これら内部の物体によるガスバリア層への影響が、熱溶着層により防止または抑制される。熱溶着層としては、例えば、低密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂からなるフィルムを挙げることができるが、特にこれに限定されない。
なお、積層シートは、表面保護層、ガスバリア層、および熱溶着層以外の層を備えてもよい。また、ガスバリア層および熱溶着層は、表面保護層と同様に、1種類のフィルムのみで構成されてもよいし、複数のフィルムが積層されて構成されてもよい。つまり、外被材11として用いられる積層シートは、一対の面(内面および外面)のうち、一方の面が熱溶着層であること、および、多層構造体の中にガスバリア層を備えていること(または、多層構造体のうちいずれかの層がガスバリア性を有していること)、という条件を満たしていれば、その具体的な構成は特に限定されない。
また、外被材11としては、ガスバリア性を発揮できるものであれば、積層シート以外の、公知の構成を採用することができる。
芯材12は、断熱性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、繊維材料、または発泡材料等の公知の材料を挙げることができる。例えば、本実施の形態では、芯材12として、無機繊維が用いられている。無機繊維は、無機系材料からなる繊維であればよく、具体的には、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、スラグウール繊維、またはロックウール繊維等を挙げることができる。また、芯材12は、板状に成形して用いてもよいため、これら無機繊維以外に、公知のバインダ材、および粉体の少なくともいずれか等を含んでもよい。これらの材料は、芯材12の強度、均一性、および剛性等の物性の向上に寄与する。
芯材12の具体的な形状等は、特に限定されないが、代表的には、ガラス繊維等の無機繊維を、ボード状に成形したものを挙げることができる。具体的には、例えば、ガラス繊維を平板状に積層し、この積層体を治具内に載置して加圧プレス等により加圧状態で加熱し、所定範囲の密度および厚さとなるように成形することにより芯材12が得られる。ガラス繊維の加圧条件、および加熱条件等は特に限定されず、真空断熱材10の製造分野での公知の条件を好適に用いることができる。
吸着剤13は、外被材11の内部に芯材12が減圧密封された後に、芯材12の微細な空隙等から放出される残留ガス(水蒸気も含む)、および、封止部14等からわずかに侵入する外気(水蒸気も含む)を吸着除去する。吸着剤13の具体的な種類は特に限定されず、ゼオライト、酸化カルシウム、およびシリカゲル等を含む公知の材料から選択される材料を好適に用いることができる。なお、真空断熱材10は、少なくとも外被材11および芯材12を備えていればよく、前述した外被材11、芯材12および吸着剤13以外の部材を備えていてもよい。
真空断熱材10の具体的な製造方法は特に限定されず、公知の製造方法を好適に用いることができる。本実施の形態では、まず、二枚の外被材11を重ね合わせて、開口部を形成するように周縁部を熱溶着することにより、外被材11の袋体を得る。その後、開口部から、芯材12および吸着剤13を、外被材11の袋体の内部に挿入し、例えば、減圧チャンバ等の減圧設備内で減圧する。これにより、開口部から外被材11の袋体の内部が十分に減圧されて、略真空状態となる。その後、他の周縁部と同様に、開口部も熱溶着により密閉封止することにより、真空断熱材10が得られる。
なお、熱溶着、および減圧等の諸条件については、特に限定されず、公知の種々の条件を、好適に採用することができる。また、外被材11の袋体は、二枚の外被材11の周囲を熱溶着する構成に限定されない。例えば、一枚の外被材11を半分に折り曲げて、両方の側縁部を熱溶着することにより、開口部を有する外被材11の袋体を得ることができる。または、外被材11を筒型に成形して、一方の開口部を封止することによっても、開口部を有する外被材11の袋体を得ることができる。
[断熱構造体:他の部材への貼合せ]
次に、本開示に係る断熱構造体の代表的な一例について、図2、図3A、図3B、図4Aおよび図4Bを参照して具体的に説明する。
図2から図4Bに示されるように、本開示に係る断熱構造体20は、少なくとも真空断熱材10および他の部材30を含み、−40℃以下の低温に曝される環境で使用される。このような低温環境で使用される断熱構造体20としては、例えば、後述する、第2の実施の形態または第3の実施の形態に例示される、液化天然ガス(LNG)を輸送するLNGタンカーを挙げることができる。
LNGは、通常−162℃程度の低温流体であり、これを内部に保持するLNGタンクは、内部への熱の進入を抑制するために断熱構造体を備えている。LNGタンカーがLNGを輸送する期間としては、例えば四週間程度が挙げられるが、この間、断熱構造体の外面は、概ね−130℃程度の温度となる。また、LNGを輸送した後のLNGタンカーは、LNGタンク内からLNGを排出して空にするわけではなく、LNGを一部残して温度変化を抑制する。したがって、LNGタンカーの就航中において、断熱構造体の外面の温度は−130℃程度の低温となる。
一方、LNGタンカーは、数年に一度、メンテナンスドックでメンテナンスを受ける。このとき、LNGタンクは、常温を超える高温に曝されることがあり、例えば、断熱構造体の外面は、+80℃程度になる可能性がある。したがって、LNGタンクの断熱構造体は、−130℃〜+80℃の温度差(Δ210℃の温度差)で使用されることを想定する必要がある。
断熱構造体に、Δ210℃という大きな温度差が生じると、この温度差に応じた、大きな熱応力が発生する。また、LNGタンカー等の船舶は、例えば数十年という長期の使用が想定され得る。そのため、断熱構造体に対しては、大きな熱応力に対応可能であり、かつ、このような熱応力が生じても、長期に亘って高い信頼性を実現することが求められる。
そこで、本開示に係る断熱構造体20では、真空断熱材10の外面となる外被材11の表面の少なくとも一部に対して、大きな濡れ性を付与するとともに、弾性材料を介して、濡れ性が付与された表面に、他の部材30または他の真空断熱材10を隣接させている。これにより、大きな熱応力を弾性材料により緩和することができる。また、弾性材料が密接する真空断熱材10の外面は濡れ性が大きいので、弾性材料と真空断熱材10との間で良好な密着性を確保することができる。その結果、真空断熱材10を用いた断熱構造体20において、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
ここでいう、大きな濡れ性とは、「外被材11の表面固有の濡れ性よりも大きな濡れ性」を指す。また、このような大きな濡れ性を呈する表面状態が付与された外被材11の表面領域を「濡れ表面領域」と称する。濡れ表面領域は、外被材11の表面のうち真空断熱材10の外面となる表面、すなわち「外表面」に形成されていればよい。
例えば、図2に示される断熱構造体20では、真空断熱材10は、その封止部14が、一方の外面に沿うように折り曲げられた状態で、弾性材料である接着剤15により、他の部材30に貼り付けられている。言い換えれば、真空断熱材10と他の部材30との間に、弾性材料である接着剤15が介在している。
ここで、真空断熱材10における他の部材30に対向する外面を「背面10b」とし、他の部材30に対向しない外面(背面10bの反対側の外面)を「正面10a」とし、正面10aおよび背面10b以外の周囲の外面を「側面10c」とする。そうすると、図2に示される構成では、濡れ表面領域は、少なくとも背面10bとなる外被材11の外表面に形成されればよい。
なお、濡れ表面領域は、背面10b以外の、各外面(正面10aおよび側面10cの少なくともいずれか)となる外表面にも形成されていてもよい。また、濡れ表面領域は、背面10b(必要に応じて他の外面)となる外表面全体に亘って形成されてもよいし、部分的に形成されてもよい。
後述するように、弾性材料としての接着剤15は、背面10bに対して部分的に塗布されればよいので、濡れ表面領域も背面10bとなる外表面に部分的に付与(形成)することができる。また、背面10b側に折り曲げられた封止部14の外面が、他の部材30の外面と対向する場合には、封止部14の外面となる外被材11の外表面にも濡れ表面領域を形成することができる。
濡れ表面領域は、上述の通り、外被材11の表面固有の濡れ性よりも大きな濡れ性を有する表面状態を示す領域であればよく、このような表面状態を実現する方法は特に限定されない。代表的には、外被材11の外表面に対する、表面処理または樹脂コートを挙げることができる。具体的な表面処理としては、例えば、コロナ処理、オゾン処理、またはプラズマ処理を挙げることができるが、特にこれらに限定されない。また、具体的な樹脂コートとしては、ウレタンコートまたはシリコンコートを挙げることができるが、特にこれらに限定されない。表面処理または樹脂コートの具体的な種類は、外被材11として用いられるシート材(積層シート等)の種類、構成、および材質等に応じて適宜選択することができる。
濡れ表面領域の評価方法、すなわち、外被材11の表面固有の濡れ性よりも大きな濡れ性が付与されたことを評価する方法については、特に限定されないが、本実施の形態では、JIS K6768に規定される、濡れ試薬による判定方法またはダインペン法で評価する。
図2に示された断熱構造体20では、真空断熱材10は、背面10bに、弾性材料としての接着剤15が部分的に塗布されることにより、他の部材30の外面に貼り合わせられている。背面10bとなる外表面には、濡れ表面領域が形成されているので、塗布された接着剤15を、真空断熱材10の背面10bに良好に保持することが可能となる。また、接着剤15が背面10b全面に塗布されていないため、大きな熱応力に由来する収縮の影響を良好に緩和することができる。
弾性材料としての接着剤15の具体的な種類は、特に限定されず、真空断熱材10の種類もしくは構成、外被材11の種類もしくは構成、または、断熱構造体20の使用条件もしくは用途等の諸条件に応じて、適宜選択することができる。
本実施の形態では、接着剤15としては、図3Aおよび図3Bに示されるように、第一接着剤151および第二接着剤152が併用されている。これら第一接着剤151および第二接着剤152は、背面10bに部分的に塗り分けられている(異なる部分に塗布されている)。
第一接着剤151は、常温で粘着性(または接着性)を有するものであればよく、特に限定されない。また、第一接着剤151は、初期接着性(タック性)を発揮できるものであると好ましい。これにより、断熱構造体20を構築する際に、他の部材30に対して、位置決め部材等を用いることなく、真空断熱材10を所望の位置に貼り合わせることができる。
代表的な第一接着剤151としては、ホットメルト接着剤を挙げることができる。ホットメルト接着剤は、常温では、固形または半固形であり、高温では液体となる材料を主成分として構成される。ホットメルト接着剤は、基本的に、溶剤等を含まない。加熱溶融させて液化させた上で塗布し、冷却することにより固化して、接着作用を発揮する。したがって、常温およびその周辺温度領域で、良好な接着性を発揮することができる。
具体的なホットメルト接着剤は、特に限定されないが、代表的には、エチレン酢酸ビニル(EVA)系接着剤、ポリアミド(PA)系接着剤、ポリプロピレン(PP)系接着剤、またはゴム系接着剤等を挙げることができる。また、これら各接着剤は、適宜組み合わせて所定比率で配合して用いることもできる。
第二接着剤152は、−40℃以下の低温で、第一接着剤151よりも高い粘着性(もしくは接着性)を有するものであればよく、代表的には反応型接着剤を挙げることができる。反応型接着剤は、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。具体的な反応型接着剤は特に限定されず、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、またはナイロン系接着剤等を挙げることができる。
反応型接着剤は、高温(常温よりも高い)の温度範囲では弾性率が低いが、低温(常温よりも低い)の温度範囲では、弾性率が高くなる傾向にある。粘着性を発揮する材料は、高い凝集力および弾性を有しているため、反応型接着剤は、−40℃以下の低温でも良好な粘着性を発揮することが可能となる。なお、ホットメルト接着剤は、常温およびその付近で良好な粘着性を発揮できるが、−40℃以下の低温では十分な粘着性を発揮できない。
本実施の形態では、上述の通り、弾性材料として、第一接着剤151および第二接着剤152を併用している。これにより、常温およびその付近の温度範囲では、第一接着剤151の粘着性(または接着性)により、良好な貼合せ状態を実現することができる。また、−40℃以下の低温およびその付近の温度範囲では、第二接着剤152の粘着性(または接着性)により、良好な貼合せ状態を実現することができる。
また、上述の通り、第二接着剤152としては、例えば反応型接着剤が好適に用いられるが、反応型接着剤では、その接着強度は、時間経過とともに徐々に上昇していく。そのため、断熱構造体20を構築する際に、常温で真空断熱材10を他の部材30に貼り付けた初期状態では、接着強度が低い状態となる。ここで、第一接着剤151が、常温で粘着性(または接着性)を有していれば、第二接着剤152の接着強度が低い初期段階であっても、第一接着剤151の接着強度により、良好な貼り付けが可能となる。
さらに、上述の通り、第一接着剤151としては、例えばホットメルト接着剤が好適に用いられるが、ホットメルト接着剤は、常温付近では高い接着強度を実現できるものの、高温の温度範囲では、常温付近の温度範囲で十分な接着強度を発揮できない場合がある。
例えば、市販のホットメルト接着剤では、一般的な常温範囲(20℃±15℃)を含む、−20℃〜+40℃の温度範囲において良好な剥離強度が測定されるが、+50℃〜+60℃を超える高温となると、剥離強度が低下してしまう。一方、反応型接着剤では、初期状態では接着強度が低いものの、十分な時間が経過すれば、+50℃〜+60℃を超えても良好な剥離強度が測定される。したがって、第一接着剤151および第二接着剤152を併用することで、幅広い温度範囲において、良好な接着強度を実現することができる。
本実施の形態において、接着剤15の接着強度の評価方法は特に限定されないが、上述の通り、剥離強度により評価すればよい。具体的には、例えば、JIS Z0237またはJIS K6854−2に規定される、180°剥離試験で評価することができる。本実施の形態では、180°剥離試験時の剥離速度は、JISに規定される条件から変えてもよく、例えば、300mm/分の剥離速度を採用してもよい。
本開示において、接着剤15の剥離強度は特に限定されないが、基本的には、25mm幅で13N以上であればよい。接着剤15の剥離強度の下限値が上記の値であれば、真空断熱材10を他の部材30の外面に対して、良好に貼り合わせることができる。
真空断熱材10の背面10bに対する接着剤15の塗布方法は、特に限定されないが、接着剤15として、第一接着剤151および第二接着剤152を併用する場合、例えば、図3Aまたは図3Bに示されるように、第一接着剤151および第二接着剤152を、背面10bに、ある方向において、交互に塗布する構成を挙げることができる。
これにより、幅広い温度範囲において、真空断熱材10と他の部材30との貼合せ状態を安定的に実現することができる。なお、図3Aでは、第一接着剤151および第二接着剤152がそれぞれ直線状に交互に塗布されているが、説明の便宜上、第一接着剤151が太線で図示され、第二接着剤152が白抜きの太線で図示されている。
また、図3Bに示された塗布方法では、第一接着剤151の塗布領域が、第二接着剤152の塗布領域よりも広くなっている。図3Bに示された例では、第一接着剤151は、コイル状の描画として塗布されており、第二接着剤152は、図3Aと同様に、直線状に塗布されている(図3Bにおいても、図3Aと同様に、第二接着剤152は白抜きの太線で図示されている)。このように、第一接着剤151の塗布領域が第二接着剤152の塗布領域よりも広ければ、幅広い温度範囲において、真空断熱材10の背面10bにおいて、良好な貼合せ状態を安定的に実現することができる。
[断熱構造体:真空断熱材同士の隣接配置]
ここで、断熱構造体20に真空断熱材10が複数含まれる場合には、図2にも模式的に図示されているが、真空断熱材10同士が並列して、他の部材30の外面に貼り合わせられる場合がある。図2に示された例では、一枚の真空断熱材10が実線で示され、この真空断熱材10に隣接して配置される、二枚の真空断熱材10については、破線で端部のみが図示されている。
図4Aおよび図4Bには、複数の真空断熱材10を隣接配置したときに、それぞれの真空断熱材10の端面(側面10c)同士が突き合わされた状態が示されている。真空断熱材10同士のつなぎ目、すなわち対向する側面10c同士の間には隙間が形成される。この隙間の大部分には、例えば充填断熱材18が充填され、隙間の外側には、弾性材料として、シリコーンゴム製の充填材料16(図4A参照)または軟質ウレタン製の充填材料17(図4B参照)が充填されている。
よって、図4Aまたは図4Bに示された、つなぎ目構成では、濡れ表面領域は、外被材11の外表面のうち、真空断熱材10の少なくとも外側(正面10a側)の側面10cとなる領域、図4A,図4Bでは、点線の楕円で囲まれた外側面10dとなる領域に形成されればよい。
なお、図4A,図4Bでは、説明の便宜上、他の部材30が破線で図示され、接着剤15に関しては図示されていない。なお、濡れ表面領域は、外側面10dだけでなく、側面10c全体に付与されていてもよい。
このように、複数の真空断熱材10の側面10c同士の突合せ部に、充填材料16,17が介在しており、少なくとも外側面10dに、濡れ表面領域が形成されていれば、充填材料16,17が真空断熱材10の側面10cに良好に密着することができる。その結果、真空断熱材10で構成される断熱層の密閉性を、良好に実現できる。また、大きな熱応力に由来する収縮が生じても、複数の真空断熱材10同士のつなぎ目(隣接部位、接続部位)に介在する充填材料16,17により、良好に緩和することができる。
充填材料16,17は、真空断熱材10同士の隙間に充填可能なように、線状の部材として構成されていればよい。充填材料16の具体的な構成は特に限定されず、前述した接着剤15と同様に、弾性材料により構成されていればよい。本実施の形態では、上述の通り、シリコーンゴム製の線状材(充填材料16)、または、軟質ウレタン製の線状材(充填材料17)が例示されるが、充填材料16,17は、シリコーンゴムまたは軟質ウレタンのような、熱可塑性樹脂エラストマー材料で構成されていればよい。このような熱可塑性エラストマー材料を用いれば、真空断熱材10同士のつなぎ目(隣接部位,接続部位)において、大きな熱応力に由来する収縮の影響を、より一層良好に緩和することができる。
なお、図2、図4Aおよび図4Bに例示される、他の部材30の具体的な種類は特に限定されないが、代表的には、真空断熱材10以外の他の断熱材を挙げることができる。他の断熱材としては、例えば、スチレンフォーム(発泡スチロール)、ポリウレタンフォーム、もしくは、フェノールフォーム等の発泡樹脂系の断熱材、または、断熱枠に充填したグラスウール、もしくはパーライト等の無機系の断熱材を挙げることができる。もちろんこれら以外の公知の断熱材料で構成されてもよい。また、他の断熱材は、断熱パネルとして構成されていてもよい。
このように、本実施の形態によれば、断熱構造体20を構成する真空断熱材10の外表面には、濡れ表面領域が形成され、真空断熱材10と他の部材30とは、濡れ表面領域に、弾性材料を介した状態で隣接しており、真空断熱材10同士も、濡れ表面領域同士の間に弾性材料を介した状態で隣接している。
断熱構造体20が、−40℃以下の低温に曝される環境下で使用される場合、常温との温度差が大きいため、大きな熱応力が発生するおそれがあるが、弾性材料の存在により、熱応力の影響を緩和することができる。しかも、弾性材料が密接する真空断熱材10の外面は、濡れ表面領域となっているので、弾性材料と真空断熱材10との間で良好な密着性を確保することができる。その結果、真空断熱材10を用いた断熱構造体20において、産業用製品に適用可能となるように、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
(第2の実施の形態)
上述した第1の実施の形態では、本開示に係る断熱構造体20の代表的な構成を例示したが、本実施の形態では、本開示に係る断熱構造体20を用いた断熱構造体、および、断熱容器の具体例として、図5Aに示された、LNG輸送タンカー100Aに設けられる、LNG用の球形タンク101を挙げて説明する。
図5Aに示されるように、本実施の形態におけるLNG輸送タンカー100Aは、球形独立タンク方式のタンカーであって、複数の球形タンク101(図5Aでは合計五つ)を備えている。複数の球形タンク101は、船体102の長手方向に沿って一列に配列している。
個々の球形タンク101は、図5Bに示されるように、容器本体104を備え、この容器本体104の内部は、LNGを貯留(または保持)する内部空間(流体保持空間)となっている。また、球形タンク101の大部分は、船体102により外部支持され、その上方はカバー103により覆われている。
容器本体104は、図5Bに示されるように、容器筐体106と、この容器筐体106の外側面を断熱する断熱構造体105とを備えている。容器筐体106は、LNGのような、常温を下回る温度で保存される低温物質を保持できるように構成され、ステンレス鋼材、またはアルミニウム合金等の金属製である。LNGの温度は、通常−162℃であるので、具体的な容器筐体106としては、厚さ50mm程度のアルミニウム合金製のものが挙げられる。また、容器筐体106は、厚さ5mm程度のステンレス鋼製であってもよい。
断熱構造体105は、前述した断熱構造体20を備えた構成であればよい。断熱構造体105の代表的な構成例としては、容器筐体106の外側に複数の断熱層が配置された多層構造体を挙げることができる。これら複数の断熱層のうち、少なくとも一層に、前述した真空断熱材10が用いられ、この真空断熱材10が他の部材30である他の断熱材に貼り合わせられていればよい。
本実施の形態では、他の断熱材に真空断熱材10が貼り合わせられた断熱構造体20が「断熱パネル」として構成されているが、断熱構造体20の構成はこれに限定されない。断熱層が、方形状の断熱パネルで構成されていれば、容器筐体106の外側に、数千枚単位で方形状の断熱パネルが配置されて固定される。
容器本体104は、支持体107によって船体102に固定されている。支持体107は、一般的にはスカートと称され、サーマルブレーキ構造体を有している。サーマルブレーキ構造体は、例えばアルミニウム合金と低温用鋼材との中間に、熱伝導率の低いステンレス鋼が挿入された構造体であり、これにより、侵入熱の低減を図ることができる。
このように、本実施の形態では、断熱容器として球形タンク101を備え、球形タンク101は断熱構造体105を有する。この断熱構造体105として、第1の実施の形態で説明された断熱構造体20が採用されている。よって、断熱容器が、LNGのような、−40℃以下の低温物質を保持することで、低温環境に曝され、かつ、メンテナンス時に高温環境に曝されても、大きな温度差による熱応力に十分に対応できる。さらに、断熱構造体20における真空断熱材10の密着性を十分に確保することができる。よって、LNGを保持するという産業用の用途であっても、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
(第3の実施の形態)
上述した第2の実施の形態では、本開示に係る断熱構造体20が適用された断熱容器の代表的な一例として、図5A,図5Bに示されたLNG輸送タンカー100Aが備える球形タンク101を例示したが、本開示はこれに限定されない。
本実施の形態では、断熱構造体20が適用された断熱容器として、図6A,図6Bに示されるように、メンブレン方式のLNG輸送タンカー100Bが備えるLNG用の船内タンク110を例示して説明する。
図6Aに示されるように、本実施の形態におけるLNG輸送タンカー100Bは、メンブレン方式のタンカーであって、複数の船内タンク110(図6Aでは合計四つ)を備えている。複数の船内タンク110は、船体111の長手方向に沿って、一列に配列している。個々の船内タンク110は、図6Bに示されるように、内部が、LNGを貯留(保持)する内部空間(物質保持空間)となっている。また、船内タンク110の大部分は、船体111により外部支持され、その上方は、デッキ112により密閉されている。
船内タンク110の内面には、図6Bに示されるように、一次メンブレン113、一次断熱箱114、二次メンブレン115、および二次断熱箱116が、内側から外側に向かってこの順で積層されている。これにより、船内タンク110の内面には、二重の「断熱槽構造体」(または防熱構造体)が形成されることになる。ここでいう「断熱槽構造体」は、断熱材(防熱材)の層(断熱層)および金属製のメンブレンから構成される構造体を指す。一次メンブレン113および一次断熱箱114により、内側の「断熱槽構造体」(一次防熱構造体)が構成され、二次メンブレン115および二次断熱箱116により、外側の「断熱槽構造体」(二次防熱構造体)が構成される。
断熱層は、船内タンク110の外部から内部空間に熱が侵入することを防止(または抑制)するものであり、本実施の形態では、一次断熱箱114および二次断熱箱116が用いられている。言い換えれば、本実施の形態では、一次断熱箱114および二次断熱箱116が断熱構造体として機能する。一次断熱箱114および二次断熱箱116は、断熱箱の内部に、断熱材を収容して構成されるものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。本実施の形態では、例えば、一次断熱箱114および二次断熱箱116は、断熱材を収容した複数の断熱箱が一体化した構成(一体化断熱箱)として構成されることができる。
一次断熱箱114および二次断熱箱116それぞれの中には、例えば粉末断熱材が収容されている。この粉末断熱材としては、例えば、無機系の発泡材料であるパーライトが挙げられるが、粉末断熱材の種類はパーライトに限定されない。例えば、スチレンフォーム(発泡スチロール)、ポリウレタンフォーム、またはフェノールフォーム等の発泡樹脂材料からなる断熱材であってもよいし、発泡材料ではなく、グラスウール等の無機繊維であってもよいし、これら以外の公知の断熱材であってもよい。メンブレン方式のLNG輸送タンカー100Bでは、一般に、粉末断熱材として、パーライト等の発泡体が用いられる。
また、二次断熱箱116の底面には、図6Bには図示されないが、第1の実施の形態で説明された真空断熱材10が設けられている。真空断熱材10は、粉末断熱材よりも熱伝導率λが低い断熱材(断熱性能に優れる断熱材)である。そのため、断熱層として、外側に位置する二次断熱箱116の外側に真空断熱材10を設けることによって、外部からの熱移動を、抑制または防止できるともに、内部の冷熱(冷気)が外部に漏出することも、抑制または防止することができる。
二次断熱箱116内に収容されている粉末断熱材は、粉末状のままではなく、パネル状に成形された断熱パネルとすることができる。この構成によれば、粉末断熱材の断熱パネルの外面に対して、真空断熱材10を貼り付けることができる。よって、二次断熱箱116に、第1の実施の形態で説明された断熱構造体20を適用することができる。したがって、本実施の形態では、断熱構造体を構成する一次断熱箱114および二次断熱箱116のうち、二次断熱箱116に対して断熱構造体20が適用されている。
メンブレンは、内部空間でLNGが漏出しないように保持するための「槽」として機能するものであり、断熱材の上に被覆されて用いられる。本実施の形態では、一次断熱箱114の上(内側)に被覆される一次メンブレン113と、二次断熱箱116の上(内側)に被覆される二次メンブレン115とが用いられる。
一次メンブレン113は断熱容器の内槽を構成し、二次メンブレン115は断熱容器の中間槽を構成し、船体111は断熱容器の外槽を構成する。一次メンブレン113および二次メンブレン115の具体的な構成は特に限定されないが、代表的には、ステンレス鋼またはインバー(36%のニッケルを含有するニッケル鋼)等の金属膜が挙げられる。
なお、一次メンブレン113および二次メンブレン115は、いずれもLNGを漏出させなくする部材であるが、船内タンク110としての構造体を維持するような強度は有していない。船内タンク110の構造体は、船体111(およびデッキ112)で支持される。言い換えれば、船内タンク110からのLNGの漏出は、一次メンブレン113および二次メンブレン115により防止され、LNGの荷重は、一次断熱箱114および二次断熱箱116を介して、船体111により支持される。したがって、船内タンク110を断熱容器として見た場合、船体111は、外槽であるとともに「容器筐体」となっている。
このように、本実施の形態では、断熱容器として船内タンク110を備え、船内タンク110は、一次断熱箱114および二次断熱箱116で構成される断熱構造体を有している。これらの断熱構造体のうち、二次断熱箱116に対して、第1の実施の形態で説明された断熱構造体20が適用されている。
よって、断熱容器が、LNGのような−40℃以下の低温物質を保持することで、低温環境に曝され、かつ、メンテナンス時に高温環境に曝されても、大きな温度差による熱応力に十分に対応できるとともに、断熱構造体20における真空断熱材10の密着性を十分に確保することができる。よって、LNGを保持するという産業用の用途であっても、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
(第4の実施の形態)
第2の実施の形態または第3の実施の形態に係る断熱容器は、LNG輸送タンカー100Aに設けられた球形タンク101、または、LNG輸送タンカー100Bに設けられた船内タンク110であったが、本開示はこれらに限定されず、例えば、陸上に設置されるLNGタンクであってもよい。本実施の形態では、このようなLNGタンクについて、図7および図8を参照して説明する。
図7には、地上式LNGタンク120が図示されている。この地上式LNGタンク120は、タンク本体として、第2の実施の形態の球形タンク101と同様に、球形の容器本体124を備えており、この容器本体124は、支持構造体部121によって、地面50上に支持されている。
支持構造体部121は、地面50の上に、鉛直方向に設けられた複数の支柱122と、支柱122同士の間に設けられるブレース123とにより構成されているが、特にこれらに限定されない。
容器本体124は、低温物質を保持する容器筐体126と、この容器筐体126の外側に設けられた断熱構造体125とを備えている。容器筐体126および断熱構造体125の具体的な構成は、第2の実施の形態または第3の実施の形態で説明された通りであり、特に断熱構造体125には、第1の実施の形態で説明された断熱構造体20が適用されている。
図8には、地下式LNGタンク130が図示されている。この地下式LNGタンク130は、地面50に埋設されたコンクリート構造体131の内部に、円筒形の容器本体134が設けられている。この容器本体134は、低温物質を保持する容器筐体136と、この容器筐体136の外側に設けられた断熱構造体135とを備えている。コンクリート構造体131は、例えば、プレストレスコンクリートで構成され、その大部分が地面50の下方となるように、地中に設置される。コンクリート構造体131は、地下式LNGタンク130のタンク本体の構造体を支持する支持体であるとともに、タンク本体の万が一の破損に備えて、LNGの漏出を防止するバリアとしても機能する。
また、容器本体134の上部開口には、容器本体134とは別体の屋根部132が設けられている。
一例として、屋根部132の上面は凸状の湾曲面であり、下面は平坦面である。屋根部132の外側には、容器本体134と同様に、断熱構造体135が設けられており、その内部には、繊維状断熱材133が設けられている。この繊維状断熱材133としては、例えば、真空断熱材10の芯材12として用いられる無機繊維を挙げることができる。
容器筐体136および断熱構造体135の具体的な構成は、第2の実施の形態または第3の実施の形態で説明された通りであり、断熱構造体135には、第1の実施の形態で説明された断熱構造体20が適用されている。
このように、本実施の形態では、断熱容器が地上式LNGタンク120または地下式LNGタンク130であり、これら地上式LNGタンク120および地下式LNGタンク130は、それぞれ断熱構造体125,135を備え、これら断熱構造体125,135について、第1の実施の形態で説明された断熱構造体20が適用されている。
よって、断熱容器が、LNGのような、−40℃以下の低温物質からの低温に曝され、かつ、メンテナンス時に高温環境に曝されても、大きな温度差による熱応力に十分に対応できる。さらに、断熱構造体20における真空断熱材10の密着性を十分に確保することができる。よって、LNGを保持するという産業用の用途であっても、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
(第5の実施の形態)
第2の実施の形態〜第4の実施の形態のいずれにおいても、断熱容器内で保持される低温物質はLNGであったが、本開示はこれに限定されず、断熱構造体20が、−40℃以下の低温に曝される環境で使用されるものであればよい。
例えば、断熱容器は、LNGよりも低温の物質を保持するものであってもよい。本実施の形態では、このような、より低温の物質として、水素ガスを例示する。水素ガスを液化して保持する水素タンクの一例について、図9を参照して具体的に説明する。
図9に示されるように、本実施の形態に係る水素タンク140は、コンテナ型であって、基本的に、第2の実施の形態で説明された球形タンク101、または、第4の実施の形態で説明された地上式LNGタンク120と同様の構成を有している。
水素タンク140は、枠状の支持体141内に、タンク本体である容器本体144が設けられている。この容器本体144は、低温物質を保持する容器筐体146と、この容器筐体146の外側に設けられた断熱構造体145とを備えている。
容器筐体146および断熱構造体145の具体的な構成は、第2の実施の形態〜第4の実施の形態で説明した通りであり、断熱構造体145に対しては、第1の実施の形態で説明された断熱構造体20が適用されている。
一般に、液化水素(液体水素)は、−253℃という極低温の液体であるとともに、LNGに比べて、その蒸発し易さが約10倍である。よって、液化水素について、LNGと同等の蒸発損失レベルを得るためには、断熱材の断熱性能(熱伝導率の小ささ)を、さらに向上させる必要がある。
本実施の形態では、第2の実施の形態〜第4の実施の形態で説明された構成と同様に、幅広い温度範囲にも対応可能な断熱構造体20を備えた断熱構造体145を用いている。よって、水素タンク140について、より一層の高断熱化を図ることができるとともに、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
また、水素タンク140がコンテナ型であれば、風雨にさらされる場所に置かれたり、風雨がさらされる環境で輸送されたりすることが想定される。また、輸送手段としては、トラックまたは鉄道等の陸上交通手段に限らず、船舶等の海上交通手段も想定される。よって、水素タンク140は、雨水だけでなく、海水に曝露され得る環境下で用いられる。
このように、本実施の形態では、断熱容器が水素タンク140であり、この水素タンク140は断熱構造体145を備え、この断熱構造体145に、第1の実施の形態で説明された断熱構造体20が適用されている。
よって、断熱容器が、液化水素のような、−100℃以下の低温物質からの低温に曝され、かつ、メンテナンス時に高温環境に曝されても、大きな温度差による熱応力に十分に対応できる。そして、断熱構造体20における真空断熱材10の密着性を十分に確保することができる。よって、液化水素を保持するという産業用の用途であっても、断熱性能の信頼性を、より一層好適化することができる。
なお、本開示において、断熱容器内で保持される低温物質は、LNGまたは液化水素に限定されず、常温を下回る温度で保存される物質(好ましくは、常温よりも100℃以上低い温度で流動性を有する流体)であればよい。
流体を例に挙げると、LNGおよび水素ガス以外の流体としては、液化石油ガス(LPG)、その他の炭化水素ガス、またはこれらを含む可燃性ガスを挙げることができる。また、ケミカルタンカー等で搬送される各種化合物であって、常温を下回る温度で保存される化合物であってもよい。さらに、本開示において適用可能な断熱容器は、医療または工業用に用いられる低温保存容器等であってもよい。
なお、本開示において、常温とは、20℃±5℃の範囲内(15℃〜25℃の範囲内)であればよい。
なお、本開示の第2の実施の形態から第5の実施の形態においては、いずれも−40℃以下の低温物質を保持する断熱容器を例示して、本開示に係る断熱構造体20を説明したが、本開示は、低温物質を保持する断熱容器のみに適用されるものではなく、−40℃以下の低温に曝される環境で使用される断熱構造体に対して広く好適に適用することができる。
また、本開示は、各実施の形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態および複数の変形例それぞれに開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。