本件発明者らは、特許文献1に例示されるように、内側ガラス板の第4面にのみセラミックによる遮蔽層を形成すると、合わせガラスの成形の際に、次のような問題点が生じることを見出した。以下、図1〜図4を用いて、本件発明者らが見出した当該問題点について説明する。
図1は、成形前のガラス板900の状態を模式的に例示する。図2は、加熱成形中のガラス板900の状態を模式的に例示する。図3は、徐冷中のガラス板900の状態を模式的に例示する。また、図4は、成形後のガラス板900を利用した合わせガラス9を模式的に例示する。
まず、図1に例示されるように、遮蔽層901を構成するため、ウインドシールドを湾曲に成形する前に、平板状のガラス板900における、成形により凹となる面の周縁部に、黒色等の濃色のセラミックが積層される。積層されたセラミックは、自重曲げ加工法、プレス加工法等でガラス板900を曲げ成形する際に、ガラス板900と共に加熱され、遮蔽層901を構成する。
ここで、遮蔽層901を構成するセラミックは、一般的には、ガラス板900よりも高い熱吸収率を有する。そのため、曲げ成形するためにガラス板900を加熱している間、セラミックがガラス板900よりも高温になり、セラミックを積層した領域は、設計値以上の温度まで加熱される。
その結果、セラミックを積層した領域のガラスの粘性は小さくなる。これにより、図2に例示されるように、セラミックを積層した領域(遮蔽層901を形成した領域)は、設計上の形状902よりも大きく曲がってしまう。これは、ガラス板900をいわゆる自重曲げ加工で成形する際に顕著に生じる。
次に、加熱による曲げ成形が完了した後、ガラス板900は徐冷される。この徐冷工程の際、遮蔽層901を構成するセラミックの膨張係数とガラス板900の膨張係数とが相違する場合には、遮蔽層901とガラス板900との間で収縮量が異なってしまう。例えば、遮蔽層901を構成するセラミックがガラス板900よりも高い熱膨張率を有する場合には、当該徐冷の過程において、ガラスの転移点及びセラミックの軟化点から常温までの冷却の間に、セラミックは、ガラス板900よりも大きく収縮する。
これにより、ガラス板900は、セラミックの積層された領域では、セラミックが収縮することにより、セラミックから圧縮の応力を受ける。同時に、このセラミックの収縮により、ガラス板900は、セラミックの積層領域の周縁、特に、境界部の表面で、引張の応力を受ける。この圧縮応力及び引張応力により、図3に例示されるように、ガラス板900における遮蔽層901の近傍領域9001は、矢印Sの方向に持ち上げられる。
以上のように、曲げ成形の際の加熱により大きく湾曲し、かつ、徐冷の際に近傍領域9001が矢印Sの方向の持ち上げられると、ガラス板900における遮蔽層901周辺の領域は、図4に例示されるように、S字状に変形する。このガラス板900と遮蔽層を設けていないガラス板とを用いて合わせガラスを形成すると、このS字状の変形が生じた部分で、両ガラス板の平行が担保できず、大きな透視歪が生じてしまう。すなわち、S字状の変形が生じた部分を通して見た景色が大きく歪んでしまう。
具体的には、図4に例示されるように、上記ガラス板900を内側ガラス板とし、遮蔽層を設けていないガラス板903を外側ガラス板として、両ガラス板(900、903)を樹脂製の中間膜(不図示)で接合して、合わせガラス9を構成したとする。この場合、ガラス板900のS字状の変形が生じた部分、特に、遮蔽層901の境界付近で、両ガラス板(900、903)の平行が担保できず、ガラス板900とガラス板903との形状の違いに起因して、凸状の変形部904が生じてしまう。
そして、この凸状の変形部904には、両ガラス板(900、903)により挟持され、圧迫されている中間膜が、隙間を埋めようと集まってくる。そのため、変形部904では、中間膜の厚みが大きくなってしまい、これによって、この変形部904は、凸レンズのように作用するようになってしまう。そうすると、変形部904を通して見た景色は、この凸レンズの作用によって、大きく歪んでしまう。本件発明者らは、このような理由により、内側ガラス板の第4面にのみセラミックによる遮蔽層を形成すると、遮蔽層付近で大きな透視歪が発生するという問題点が生じることを見出した。
本発明は、一側面では、このような実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減する技術を提供することである。
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
すなわち、本発明の一側面に係る合わせガラスは、第1面及び第2面を有し、第1面が凸となり、第2面が凹となるように湾曲した外側ガラス板と、第3面及び第4面を有し、第3面が凸となり、第4面が凹となるように湾曲した内側ガラス板と、前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板の間に配置され、前記外側ガラス板の第2面及び前記内側ガラス板の第3面を互いに接合する中間膜と、前記外側ガラス板の第2面の周縁部に沿って積層される第1遮蔽層であって、前記外側ガラス板と異なる熱膨張率及び前記外側ガラス板よりも高い熱吸収率を有するセラミックにより構成される第1遮蔽層と、前記第1遮蔽層の積層する位置に対応して、前記内側ガラス板の第4面の周縁部に沿って積層される第2遮蔽層であって、前記内側ガラス板と異なる熱膨張率及び前記内側ガラス板よりも高い熱吸収率を有するセラミックにより構成される第2遮蔽層と、を備え、前記外側ガラス板の前記第1遮蔽層の周縁部付近には、前記第2面側に凸となる外板変形部が形成され、前記内側ガラス板の前記第2遮蔽層の周縁部付近には、前記第4面側に凸となる内板変形部が形成されている。
当該構成に係る合わせガラスでは、外側ガラス板及び内側ガラス板の両方にそれぞれ遮蔽層が形成される。具体的には、第1遮蔽層は、外側ガラス板の凹となる第2面の周縁部に沿って積層される。第2遮蔽層は、内側ガラス板の凹となる第4面の周縁部に沿って積層される。
また、第1遮蔽層は、外側ガラス板と異なる熱膨張率と外側ガラス板よりも高い熱吸収率とを有するセラミックにより構成される。同様に、第2遮蔽層は、内側ガラス板と異なる熱膨張率と内側ガラス板よりも高い熱吸収率を有するセラミックにより構成される。そのため、各ガラス板において、各遮蔽層の周縁部付近には、当該各遮蔽層に起因して上記のような変形部(外板変形部と内板変形部)が形成される。
ここで、第1遮蔽層と第2遮蔽層とは互いに対応する位置に設けられるため、外板変形部及び内板変形部の生じる位置は重なり合う。そのため、両変形部の生じる領域で、両ガラス板が平行又はそれに近い状態になり、これによって、両ガラス板の間の距離はほぼ一定に保つことができ、両ガラス板の間で挟持される中間膜の厚みが大きく変化するのを抑えることができる。
したがって、当該構成によれば、各遮蔽層付近において、中間膜の厚みの変化に起因して、レンズ作用を発揮する領域が発生するのを抑止することができるため、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減することができる。なお、透視歪とは、ガラスを通して見た景色が歪む現象のことである。
図20を用いて、透視歪について詳細に説明する。図20は、合わせガラス1000に生じる透視歪を模式的に例示する断面図である。図20に例示される合わせガラス1000は、外側ガラス板1001と内側ガラス板1002とを備え、両ガラス板(1001、1002)の間には、中間膜1003が配置されている。外側ガラス板1001と中間膜1003、及び内側ガラス板1002と中間膜1003とは密着し、屈折率の差が殆どないため、これらの界面では、光の屈折は生じにくく、概ね直進する。また、外側ガラス板1001単体、または内側ガラス板1002単体では、通常、表面と裏面との不規則な凹凸が対応しているため、像の歪みは抑制される。しかしながら、外側ガラス板1001と内側ガラス板1002とは異なるガラス板であるため、各ガラス板(1001、1002)の面に生じる凹凸は、必ずしも一致するとは限らず、その位置がずれるのが自然である。そのため、図20に示されるように、基本的には、外側ガラス板1001の車外側の面の凹凸と、内側ガラス板1002の車内側の面の凹凸とはずれている。これによって、外側ガラス板1001の車外側の面から入射した光は、屈折して外側ガラス板1001、中間膜1003、及び内側ガラス板1002の内部を直進し、内側ガラス板1002の車内側の面でさらに屈折する。したがって、入射光と出射光とは、平行にはならず、異なる角度となる。これに起因して、合わせガラス1000を介して入射する光により生成される像に歪みが生じる。このときに生じる像の歪みが透視歪である。
また、上記構成に係る合わせガラスの別の形態として、ステレオカメラの複数の撮影装置それぞれが前記合わせガラスを通して撮影可能なように、当該複数の撮影装置それぞれにそれぞれ対応する複数の撮影窓を備えてもよい。当該構成によれば、上記の理由により、撮影窓の周縁部で生じる透視歪を低減することができる。そのため、ステレオカメラによる撮影に適した撮影窓を有する合わせガラスを提供することができる。
図21及び図22を用いて、ステレオカメラを利用する場面では、少しでも透視歪を低減することが望まれることについて説明する。図21は、ステレオカメラの撮影状況を模式的に例示する。図22は、合わせガラスのレンズ作用と視差の誤差との関係を模式的に例示する。
図21に例示されるように、ステレオカメラの2つのカメラの間隔(基線長)H、ステレオカメラから対象物までの距離L、及び対象物について生じる視差θの関係は、θが微小角であることを考慮すると、次の数1の関係式で示される。
数1の関係式を微分すると数2になる。
数1及び数2の関係式により、視差に生じる誤差(Δθ)と対象物までの距離に生じる誤差(ΔL)との関係は、次の数3の関係式により示される。
ここで、カメラの間隔Hを160mmとし、対象物までの距離Lを10mとして、視差に誤差が生じたことで、対象物までの距離Lの測定値に1%(100mm)の誤差が生じたとする。すなわち、ΔL=100mmであるとする。この場合、数3の関係式にそれぞれの値を代入することで、視差に生じた誤差Δθは−0.16mradであることが分かる。つまり、距離10mにある対象物についての測定値の誤差を1%で抑えようとすると、視差の誤差の絶対値を0.16mrad以内に抑えなければならないことが分かる。
また、図22に示されるとおり、合わせガラスの撮影窓に幅Wの凸レンズ部分1100が存在するとする。凸レンズ部分1100の焦点距離をfとすると、この凸レンズ部分1100のレンズ作用による光線の歪みはレンズ部分の端で最大値Kとなり、焦点距離fと最大値Kとの関係式は、次の数4で示される。
ここで、上記のとおり、距離10mにある対象物についての測定値の誤差を1%以内にする場合には、許容される視差の誤差の絶対値は0.16mrad以内である。この場合に、例えば、凸レンズ部分1100の幅Wを20mm(典型値)としたときには、次の数5のとおり、K=0.16mradを代入して凸レンズ部分1100の焦点距離fは62.5m以上となるレンズ作用が許容される。凹レンズでも符号が異なるだけで同様な計算結果となることから、換言するとレンズ部分のレンズパワーの絶対値が16mdpt(ミリディオプター)以下ならば許容される、ということができる。なお、レンズパワーは焦点距離fの逆数である。
一方、凸レンズ部分1100のレンズ作用が10mdptに低減できたとすると、歪みの最大値Kは0.10mradに抑えることができ、これによって、距離10mにある対象物についての測定値の誤差を62.5mmに抑えることができる。
以上のとおり、ステレオカメラを利用する場合には、対象物の測定値の誤差を抑えるためには、撮影窓に生じる透視歪を少しでも低減することが重要になる。したがって、本発明により、撮影窓の周縁部で生じる透視歪を低減することができれば、ステレオカメラによる撮影に適した撮影窓を有する合わせガラスを提供することができる。
また、上記構成に係る合わせガラスの別の形態として、前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板は、自重曲げ加工製であってよい。自重曲げ加工法では、曲げ成形を自重によって行うため、上記加熱時に各遮蔽層が高温になることに起因する変形が起こりやすい。そのため、自重曲げ加工法では、各遮蔽層付近で各変形部が生じやすくなり、これによって、大きな透視歪が発生しやすくなる。これに対して、当該構成によれば、上記の理由により、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減することができる。そのため、当該構成によれば、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減した自重曲げ加工製の合わせガラスを提供することができる。すなわち、本発明により遮蔽層近傍で生じる透視歪を低減することは、自重曲げ加工法で合わせガラスを成形する場面で、非常に有益な効果を発揮する。
なお、自重曲げ加工法で、合わせガラスを曲げ加工した場合には、当該合わせガラスの周縁部のほぼ全周にわたって、例えば、15MN/m2以上等、所定値以上の圧縮残留応力が発生し得る。この圧縮残留応力は、周縁部の加熱温度が高い場合、及び曲げ加工時の冷却速度を速めた場合に大きくなりやすい。また、このように、周縁部の加熱温度が高い場合、及び曲げ加工時の冷却速度を速めた場合には、上記のとおり、遮蔽層付近で変形部が生じやすくなる。したがって、所定値以上の圧縮残留応力が生じる場面では、遮蔽層付近で変形部が生じやすくなる。そのため、このような場面で、本発明により遮蔽層近傍で生じる透視歪を低減することは、非常に有益な効果を発揮する。
また、上記構成に係る合わせガラスの別の形態として、上記合わせガラスは、取付角度が、水平方向に対して30度以下である車両用のウインドシールドとして利用されてよい。当該構成では、合わせガラスの取付角度が、水平方向に対して30度以下であるため、ガラス板に形成される遮蔽層は、運転者の視野に入りやすく構成される。そのため、各遮蔽層付近で大きな透視歪が発生していると、当該透視歪により運転者の視野が恒常的に妨げられてしまう可能性がある。これに対して、当該構成によれば、上記の理由により、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減することができる。したがって、水平方向に対する取付角度が30度以下であるとの条件により、運転者の視野に各遮蔽層が入っても、運転者は、各遮蔽層周縁付近まで、車外の景色をスムーズに確認することができる。すなわち、本発明により遮蔽層付近で生じる透視歪を低減することは、水平方向に対する取付角度が30度以下であるとの合わせガラスの取付条件に対して、非常に有益な効果を発揮する。
また、本発明の一側面に係る合わせガラスは、第1面及び第2面を有し、第1面が凸となり、第2面が凹となるように湾曲した外側ガラス板と、第3面及び第4面を有し、第3面が凸となり、第4面が凹となるように湾曲した内側ガラス板と、前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板の間に配置され、前記外側ガラス板の第2面及び前記内側ガラス板の第3面を互いに接合する中間膜と、前記外側ガラス板の第2面の周縁部に沿って積層される遮蔽層であって、前記外側ガラス板と異なる熱膨張率及び前記外側ガラス板よりも高い熱吸収率を有するセラミックにより構成される遮蔽層と、を備え、前記外側ガラス板の前記遮蔽層の周縁部付近には、前記第2面側に凸となる外板変形部が形成されている。
当該構成に係る合わせガラスでは、内側ガラス板ではなく、外側ガラス板の第2面に遮蔽層が形成される。この遮蔽層は、外側ガラス板と異なる熱膨張率と外側ガラス板よりも高い熱吸収率とを有するセラミックにより構成される。そのため、外側ガラス板の遮蔽層の周縁部付近には、当該遮蔽層に起因して上記のような外板変形部が形成される。これによって、後述する図11で例示されるように、当該外板変形部付近では、中間膜の厚みが小さくなり、凹レンズの作用を発揮する領域が生じ得る。
一方で、外側ガラス板及び内側ガラス板はそれぞれ湾曲している。そのため、当該構成に係る合わせガラスでは、視野方向の厚みが一定とは限らず、当該外側ガラス板及び内側ガラス板の湾曲に基づいて透視歪が生じ得る。ただし、外側ガラス板及び内側ガラス板はそれぞれ、第1面及び第3面がそれぞれ凸となるように湾曲している。そのため、両ガラス板の湾曲に起因する歪みと上記凹レンズの作用を発揮する領域による歪みとは打ち消し合う関係であることを本件発明者らは見出した。
したがって、当該構成によれば、外側ガラス板に生じる外板変形部に起因する透視歪は両ガラス板の湾曲に起因する透視歪と打ち消し合うため、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減することができる。
また、上記構成に係る合わせガラスの別の形態として、前記外側ガラス板における前記遮蔽層による外板変形部に対応する前記内側ガラス板の領域の曲率半径は、500〜20000mmである。好ましくは、1000〜10000mmで、更に好ましくは1000〜6000mmであってよい。当該構成によれば、内側ガラス板の曲率半径が500〜20000mmであることにより生じ得る大きな透視歪を、外側ガラス板の外板変形部付近の領域が発揮する凹レンズの作用で抑制することができる。したがって、当該構成によれば、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減することができる。
また、上記構成に係る合わせガラスの別の形態として、前記遮蔽層には、ステレオカメラの複数の撮影装置それぞれが前記合わせガラスを通して撮影可能なように、当該複数の撮影装置それぞれにそれぞれ対応する複数の撮影窓を備えてよい。当該構成によれば、ステレオカメラによる撮影に適した撮影窓を有する合わせガラスを提供することができる。
また、上記構成に係る合わせガラスの別の形態として、前記外側ガラス板及び前記内側ガラス板は、自重曲げ加工製であってよい。当該構成によれば、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減した自重曲げ加工製の合わせガラスを提供することができる。
また、上記構成に係る合わせガラスの別の形態として、上記合わせガラスは、取付角度が、水平方向に対して30度以下である車両用のウインドシールドとして利用されてよい。当該構成によれば、上記と同様に、水平方向に対する取付角度が30度以下であるとの条件により、運転者の視野に各遮蔽層が入っても、運転者は、各遮蔽層近傍まで、車外の景色をスムーズに確認することができる。
本発明によれば、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減する技術を提供することができる。
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
§1 構成例
最初に、図5及び図6を用いて、本実施形態に係る合わせガラス1を説明する。図5は、本実施形態に係る合わせガラス1を模式的に例示する正面図である。また、図6は、本実施形態に係る合わせガラス1を模式的に例示する断面図である。
なお、図5及び図6では、説明の便宜のため、x軸、y軸及びz軸を用いて各方向を例示している。ここでは、z軸方向が地面に対して垂直な方向に相当し、z軸の正の向きが鉛直上向きに相当する。また、xy平面は地面に対して水平な面に相当し、x軸方向及びy軸方向はそれぞれ地面に対して水平な方向に相当する。以下では、z軸正の方向及び負の方向をそれぞれ「上」及び「下」と称し、x軸正の方向及び負の方向をそれぞれ「右」及び「左」と称し、y軸正の方向及び負の方向をそれぞれ「前」及び「後」と称することとする。後述する図10も各方向を同様に称する。
本実施形態に係る合わせガラス1は、車両用のウインドシールドとして利用され、垂直から傾けて自動車に取り付けられる。具体的には、図5及び図6に例示されるように、本実施形態に係る合わせガラス1は、車外側に配置される外側ガラス板2と、車内側に配置される内側ガラス板3と、を備えている。
図6に例示されるように、外側ガラス板2は、車外側の第1面21及び車内側の第2面22を有し、第1面21が凸となり、第2面22が凹となるように面直方向(図中のy軸方向)に湾曲している。同様に、内側ガラス板3は、車外側の第3面31及び車内側の第4面32を有し、第3面31が凸となり、第4面32が凹となるように面直方向(図中のy軸方向)に湾曲している。
外側ガラス板2及び内側ガラス板3の間には樹脂製の中間膜4が配置されており、この中間膜4は、外側ガラス板2の第2面22と内側ガラス板3の第3面31とを互いに接合している。また、外側ガラス板2の第2面22の周縁部23に沿って、車外からの視野を遮蔽する第1遮蔽層24が設けられており、これに対応して、内側ガラス板3の第4面32の周縁部33に沿って、車外からの視野を遮蔽する第2遮蔽層34が設けられている。
更に、この合わせガラス1を取り付ける自動車の車内には、ブラケット(不図示)等を介してステレオカメラ5が、両遮蔽層(23、33)に遮蔽されるように取り付けられる。このステレオカメラ5は、視差の生じた2枚の画像を同時に取得可能なように、互いに離間した2つの撮影装置(51、52)を有している。
そして、各遮蔽層(23、33)には、車内に配置された各撮影装置(51、52)が、合わせガラス1を通して車外の状況を撮影可能なように、各撮影装置(51、52)に対応する2つの撮影窓((243、244)、(343、344))が形成されている。これにより、本実施形態に係る合わせガラス1は、ステレオカメラ5を備える自動車用のウインドシールドとして利用可能に構成されている。以下、各構成要素について説明する。
<外側ガラス板及び内側ガラス板>
まず、外側ガラス板2及び内側ガラス板3について説明する。外側ガラス板2及び内側ガラス板3それぞれには、公知のガラス板を用いることができる。例えば、外側ガラス板2及び内側ガラス板3はそれぞれ、熱線吸収ガラス、クリアガラス、グリーンガラス、UVグリーンガラス等であってよい。
ただし、外側ガラス板2及び内側ガラス板3はそれぞれ、自動車の使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現するように構成される。例えば、外側ガラス板2によって所望の日射吸収率を確保し、内側ガラス板3によって可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することもできる。以下に、外側ガラス板2及び内側ガラス板3を構成可能なガラスの組成の一例として、クリアガラスの組成の一例と、熱線吸収ガラス組成の一例を示す。
(クリアガラス)
SiO2:70〜73質量%
Al2O3:0.6〜2.4質量%
CaO:7〜12質量%
MgO:1.0〜4.5質量%
R2O:13〜15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe2O3に換算した全酸化鉄(T−Fe2O3):0.08〜0.14質量%
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe2O3に換算した全酸化鉄(T−Fe2O3)の比率を0.4〜1.3質量%とし、CeO2の比率を0〜2質量%とし、TiO2の比率を0〜0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl2O3)をT−Fe2O3、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
本実施形態に係る合わせガラス1の厚みは特に限定されないが、軽量化の観点からは、外側ガラス板2及び内側ガラス板3の厚みの合計を、2.4〜4.6mmとすることが好ましく、2.6〜3.8mmとすることがさらに好ましく、2.7〜3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、外側ガラス板2及び内側ガラス板3の合計の厚みを小さくすればよい。外側ガラス板2及び内側ガラス板3それぞれの厚みは特に限定されないが、例えば、以下のように、外側ガラス板2及び内側ガラス板3それぞれの厚みを決定することができる。
すなわち、外側ガラス板2は、主として、小石等の飛来物等の衝撃に対する耐久性及び耐衝撃性が求められる。他方、外側ガラス板2の厚みを大きくするほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板2の厚みは、1.8〜2.3mmとすることが好ましく、1.9〜2.1mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、実施の形態に応じて適宜決定することができる。
また、内側ガラス板3の厚みは、外側ガラス板2の厚みと同等にすることができるが、例えば、合わせガラスの軽量化のために、外側ガラス板2よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、内側ガラス板3の厚みは、0.6〜2.0mmであることが好ましく、0.8〜1.6mmであることがさらに好ましく、1.0〜1.4mmであることが特に好ましい。更には、内側ガラス板3の厚みは、0.8〜1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板3についても、何れの厚みを採用するかは、実施の形態に応じて適宜決定することができる。
また、図5及び図6に例示されるように、本実施形態では、外側ガラス板2及び内側ガラス板3はそれぞれ、略台形に形成されており、面直方向(図中のy軸方向)に互いに同程度に湾曲している。各ガラス板(2、3)の寸法は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、各ガラス板(2、3)の上辺部の長さの最大値は1300mmに設定されてよい。各ガラス板(2、3)の下辺部の長さの最大値は1600mmに設定されてよい。各ガラス板(2、3)の上辺部から下辺部までの長さ(高さ)の最大値は1400mmに設定されてもよい。また、各ガラス板(2、3)の曲率半径は、500〜20000mmに設定されてよい。なお、ステレオカメラ5による対象物までの距離の測定の誤差を抑える観点から、各ガラス板(2、3)の後述する各撮影窓(243、244、343、344)の部分の曲率半径は、1500mm以上に設定されるのが好ましい。
<中間膜>
次に、外側ガラス板2及び内側ガラス板3を接合する中間膜4について説明する。中間膜4は、実施の形態に応じて種々の構成が可能であり、例えば、軟質のコア層を、これよりも硬質の一対のアウター層で挟持した3層構造で構成することができる。このように中間膜4を軟質の層及び硬質の層の複数層で構成することによって、合わせガラス1の耐破損性能及び遮音性能を高めることができる。
また、中間膜4の材料は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、中間膜4を上記のように硬さの異なる複数の層で構成する場合、硬質のアウター層には、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)を用いることができる。このポリビニルブチラール樹脂(PVB)は、外側ガラス板2及び内側ガラス板3それぞれとの接着性及び耐貫通性に優れるため、アウター層の材料として好ましい。また、軟質のコア層には、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、又はアウター層に利用するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質のポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。
なお、一般的に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、(a)〜(d)の少なくともいずれかの条件を適切に調整することにより、アウター層に用いる硬質のポリビニルアセタール樹脂とコア層に用いる軟質のポリビニルアセタール樹脂とを作製してもよい。
更に、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化によって、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−へプチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。
また、中間膜4の総厚は、実施の形態に応じて適宜設定可能であり、例えば、0.3〜6.0mmとすることができ、0.5〜4.0mmであることが好ましく、0.6〜2.0mmであることが更に好ましい。例えば、コア層とコア層を挟持する一対のアウター層との3層構造で中間膜4を構成する場合、コア層の厚みは、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層の厚みは、コア層の厚みよりも大きいことが好ましく、具体的には、0.1〜2.0mmであることが好ましく、0.1〜1.0mmであることがさらに好ましい。
このような中間膜4の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、中間膜4は、上記のような複数の層で形成する以外に、1層で形成することもできる。
<第1遮蔽層及び第2遮蔽層>
次に、各ガラス板(2、3)に設けられる各遮蔽層(24、34)について説明する。図5及び図6に例示されるように、第1遮蔽層24は、外側ガラス板2の第2面22の周縁部23に沿って積層されており、第2遮蔽層34は、内側ガラス板3の第4面32の周縁部33に沿って積層されている。
詳細には、第1遮蔽層24は、外側ガラス板2の周縁部23に沿う周縁領域241と、外側ガラス板2の上辺部から下方に矩形状に突出した突出領域242と、に分けることができる。周縁領域241は、外側ガラス板2の周縁部からの光の入射を遮蔽する。突出領域242は、車内に配置されるステレオカメラ5を車外から見えないようにする。一方、外側ガラス板2における、第1遮蔽層24より面方向内側の領域は、第1遮蔽層24が形成されない非遮蔽領域25である。
同様に、第2遮蔽層34は、内側ガラス板3の周縁部33に沿う周縁領域341と、内側ガラス板3の上辺部から下方に矩形状に突出した突出領域342と、に分けることができる。内側ガラス板3における、第2遮蔽層34より面方向内側の領域は、第2遮蔽層34が形成されない非遮蔽領域35である。
本実施形態では、この第2遮蔽層34は、第1遮蔽層24の積層する位置に対応して設けられる。すなわち、合わせガラス1を観察する視野方向(図中のy軸方向)において、第2遮蔽層34は、第1遮蔽層24に重なるように配置される。本実施形態では、図6に例示されるように、視野方向において、第2遮蔽層34の面方向内側の周縁部が第1遮蔽層24の面方向内側の周縁部に一致するように、第2遮蔽層34は配置される。そのため、視野方向において、第2遮蔽層34の周縁領域341の位置は第1遮蔽層24の周縁領域241の位置に一致し、第2遮蔽層34の突出領域342の位置は第1遮蔽層24の突出領域242の位置に一致する。
ここで、本実施形態では、第1遮蔽層24と第2遮蔽層34との対応関係を次のように定義する。すなわち、図6に例示されるように、外側ガラス板2の第1遮蔽層24の終点245を起点として垂直方向に線L(垂線)を引く。また、内側ガラス板3の第2遮蔽層34の終点345を起点として、線Lに平行な線M(平行線)をひく。この線Lと線Mとの間隔Nの絶対値が5mm以内であることを、第1遮蔽層24の位置と第2遮蔽層34の位置とが対応していると定義する。なお、後述する透視歪の低減の観点からは、この線Lと線Mとの間隔Nの絶対値が3mm以内に抑えられるのが好ましい。
更に、第1遮蔽層24の突出領域242には、車内に配置されるステレオカメラ5の各撮影装置(51、52)の位置に対応して、互いに左右に離間して配置された2つの略台形状の撮影窓(243、244)が設けられている。同様に、第2遮蔽層34の突出領域342には、各撮影装置(51、52)の位置に対応して、互いに左右に離間して配置された2つの略台形状の撮影窓(343、344)が設けられている。各撮影窓(243、244、343、344)の寸法等は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、両撮影窓(243、244)の間の間隔、及び両撮影窓(343、344)の間の間隔はそれぞれ、100mm〜300mmの範囲で設定される。
すなわち、視野方向において、第1遮蔽層24の各撮影窓(243、244)の位置は、第2遮蔽層34の各撮影窓(343、344)の位置に一致する。各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)は、各遮蔽層(24、34)を構成するセラミック等の材料の積層されていない領域である。そのため、各撮影装置(51、52)は、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)を介して、車外の状況を撮影することができる。
例えば、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)は、JIS R 3211で定められるように、可視光の透過率が70%以上になるように構成される。なお、この透過率は、JIS R 3212(3.11 可視光透過率試験)で定められているように、JIS Z 8722に規定された分光測定法によって測定することができる。
また、視野方向において、内側ガラス板3の非遮蔽領域35の位置は、外側ガラス板2の非遮蔽領域25の位置に一致する。運転者及び助手席に座る同行者は、両非遮蔽領域(25、35)を介して、車外の交通状況を確認する。そのため、外側ガラス板2の非遮蔽領域25及び内側ガラス板3の非遮蔽領域35は、少なくとも車外の交通状況を目視可能な程度に可視光の透過率を有するように構成される。
ただし、第2遮蔽層34の配置は、このような例に限られなくてもよく、第1遮蔽層24及び第2遮蔽層34は、視野方向において、周縁部の位置が一致しない領域を含んでもよい。各遮蔽層(24、34)の幅は、実施の形態に応じて適宜、設定されてもよい。例えば、各突出領域(242、342)で、各遮蔽層(24、34)の幅は、150mm〜500mmに設定されてよい。また、側辺部で、各遮蔽層(24、34)の幅は、15mm〜70mmに設定されてよい。更に、上辺部(各突出領域(242、342)を除く)及び下辺部で、各遮蔽層(24、34)の幅は、20mm〜100mmに設定されてよい。
また、本実施形態では、第1遮蔽層24は、外側ガラス板2と異なる熱膨張率と、外側ガラス板2よりも高い熱吸収率を有する、例えば、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色のセラミックにより構成される。同様に、第2遮蔽層34は、内側ガラス板3と異なる熱膨張率と、内側ガラス板3よりも高い熱吸収率を有する、例えば、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色のセラミックにより構成される。例えば、各ガラス板(2、3)の熱膨張率が90×10-7/K (300℃)であるのに対して、各遮熱層(24、34)を構成するセラミックの熱膨張率は120×10-7/K (300℃)であってよい。また、1000nm〜2500nmの波長の範囲の光(赤外線)に対する各ガラス板(2、3)の反射率が上述のグリーンガラスの場合、4〜6%であるのに対して、各遮熱層(24、34)を構成するセラミックの当該光に対する反射率が15%以下、更には10%以下、時には、5%以下であってよい。
なお、第1遮蔽層24を構成するセラミックの組成と第2遮蔽層34を構成するセラミックの組成とは相違してもよい。各遮蔽層(24、34)には、種々の組成のセラミックを利用することができる。例えば、以下の組成のセラミックを各遮蔽層(24、34)に利用することができる。
*1,アサヒ化成工業株式会社製:Black 6350(Pigment Green 17)
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
ここで、第1遮蔽層24の線Lと第2遮蔽層34の線Mとの間隔Nの絶対値を5mm以内にするためには、次の(a)〜(c)のような方策が有効である。
(a)比較的に収縮率の小さいセラミックを各遮蔽層(24、34)に用いる。
(b)各遮蔽層(24、34)の端部をドット、スリット形状等にする。
(c)各遮蔽層(24、34)の厚みを20μm以下にすることで、収縮による各ガラス板(2、3)への応力を小さくする。
以上の(a)〜(c)によって、合わせガラス1を成形した後に、第1遮蔽層24の線Lと第2遮蔽層34の線Mとの間隔Nが大きくならないようにすることができる。したがって、本実施形態では、以上の(a)〜(c)を適宜組み合わせることで、第1遮蔽層24の線Lと第2遮蔽層34の線Mとの間隔Nの絶対値を5mm以内に抑える。
<ステレオカメラ>
次に、ステレオカメラ5について説明する。ステレオカメラ5の各撮影装置(51、52)は、車外の状況を撮影可能なように、レンズ系、イメージセンサ等によって適宜構成される。図5に例示されるように、ステレオカメラ5の各撮影装置(51、52)は互いに左右方向に離間して配置されている。そのため、各撮影装置(51、52)によれば、視差の生じた複数の画像を取得することができる。
そして、各撮影装置(51、52)により得られた、視差の生じた複数の画像は、図6に例示されるように、画像処理装置6に送られる。画像処理装置6は、ステレオカメラ5により取得された複数の画像に基づいて、例えば、被写体と自車との間の距離(以下、「被写体距離」とも記載)、被写体の移動速度、被写体の種別等を解析する。
被写体距離は、公知の解析方法によって、得られた複数の画像内で生じている視差に基づいて推定することができる。また、被写体の移動速度は、被写体距離の時間変化と自車の速度とに基づいて推定することができる。また、被写体の種類は、パターン認識等の公知の画像解析方法によって推定することができる。
画像処理装置6は、そのような画像解析を行い、その結果をユーザ(運転者)に提示可能なように、記憶部、制御部、入出力部等を有するコンピュータとして構成される。このような画像処理装置6は、提供されるサービス専用に設計された装置の他、PC(Personal Computer)、タブレット端末等の汎用の装置であってもよい。
§2 製造方法
次に、図7を用いて、本実施形態に係る合わせガラス1の製造方法を説明する。図7は、本実施形態に係る合わせガラス1の成形工程を模式的に例示する。なお、以下で説明する合わせガラス1の製造方法は一例に過ぎず、各ステップは可能な限り変更されてもよい。また、以下で説明する製造工程について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。
まず、図7に例示される成形装置で合わせガラス1を成形する前に、準備工程として、平板状の外側ガラス板2及び内側ガラス板3を用意する。外側ガラス板2の第2面22には、スクリーン印刷等によって、第1遮蔽層24を構成するセラミックが印刷される。このとき、2つの撮影窓(243、244)を形成するため、突出領域242において、セラミックを印刷しない領域が2箇所設けられる。同様に、内側ガラス板3の第4面32には、スクリーン印刷等によって、第2遮蔽層34を構成するセラミックが印刷される。2つの撮影窓(343、344)を形成するため、突出領域342において、セラミックを印刷しない領域が2箇所設けられる。
次に、用意した外側ガラス板2及び内側ガラス板3に中間膜4を挟み込むことで平板状の合わせガラス10を形成し、リング状(枠状)の成形型800に、形成した合わせガラス10を載置する。この成形型800は搬送台801上に配置されており、成形型800に合わせガラス10を載置した状態で、搬送台801は、加熱炉802及び徐冷炉803内を順に通過する。
このとき、成形型800はリング状であるため、合わせガラス10は周縁部のみが支持された状態で加熱炉802を通過する。そして、加熱炉802内で軟化点温度付近まで加熱されると、平板状の合わせガラス10は自重によって周縁部よりも内側が下方に湾曲し、曲面状に成形される。これによって、上記のような、面直方向に湾曲した合わせガラス1を製造することができる。
なお、製造された合わせガラス1は、車両用のウインドシールドとして、自動車の前方の窓部に所定の角度で取り付けられる。このとき、合わせガラス1の取付角度は、水平方向に対して30度以下であってよい。そして、合わせガラス1を自動車に取り付けた後には、ブラケット(不図示)等を介して、ステレオカメラ5の各撮影装置(51、52)が車内に取り付けられる。
<特徴>
次に、図8A及び図8Bを用いて、以上の方法で製造した合わせガラス1の特徴を説明する。図8Aは、上記図4で例示される合わせガラス9と同様に、内側ガラス板702の第4面7021にのみ遮蔽層703を設けた合わせガラス9の遮蔽層703付近の形状を模式的に例示する。また、図8Bは、本実施形態に係る合わせガラス1の各遮蔽層(24、34)付近の形状を模式的に例示する。
後述する図12Aで示すように、ガラス板における遮蔽層付近の領域は、曲げ成形の際の加熱により大きく曲がり、かつ、徐冷の際に遮蔽層から圧縮応力及び引張応力を受けることで、S字状に変形する。図8Aで例示されるように、合わせガラス70の内側ガラス板702の第4面7021にのみ遮蔽層703を設けた場合には、当該遮蔽層703付近において、当該内側ガラス板702にのみ車内側に向けて凸状に変形した変形部704が形成される。
そのため、合わせガラス70では、変形部704の領域において、外側ガラス板701と内側ガラス板702との平行が担保できず、外側ガラス板701と内側ガラス板702との幅が他の領域に比べて広くなってしまう。そして、この変形部704付近の領域に、外側ガラス板701と内側ガラス板702とで挟持され圧迫された中間膜(不図示)が、隙間を埋めようと集まってきて、これによって、この領域は、凸レンズのように作用するようになってしまう。よって、内側ガラス板702の第4面7021にのみ遮蔽層703を設けた場合には、遮蔽層703付近の領域で、大きな透視歪が発生してしまう(後述する図18参照)。
これに対して、本実施形態に係る合わせガラス1では、外側ガラス板2の第2面22に第1遮蔽層24が設けられ、内側ガラス板3の第4面32に第2遮蔽層34が設けられる。そのため、図8Bに例示されるように、各ガラス板(2、3)において、各遮蔽層(24、34)の周縁部付近に、各遮蔽層(24、34)による変形部(26、36)が形成される。
具体的には、外側ガラス板2の第1遮蔽層24の周縁部付近には、第2面22側に凸となる外板変形部26が形成される。内側ガラス板3の第2遮蔽層34の周縁部付近には、第4面32側に凸となる内板変形部36が形成される。各変形部(26、36)は、例えば、0.01〜0.1mm程度の変形を有する。なお、「周縁部付近」とは、各遮蔽層(24、34)に影響して変形部が生じる範囲であり、一例としては、各遮蔽層(24、34)の周縁部から各遮蔽層(24、34)の幅の分だけ面内方向の位置までの範囲である。
ここで、第1遮蔽層24と第2遮蔽層34とは互いに対応して配置される。そのため、図8Bに例示されるように、第1遮蔽層24付近に形成される外側ガラス板2の外板変形部26と、第2遮蔽層34付近に形成される内側ガラス板3の内板変形部36とは、互いに重なり合うように配置される。したがって、各ガラス板(2、3)で、各遮蔽層(24、34)に起因する各変形部(26、36)が形成されても、両ガラス板(2、3)の平行は保つことができ、両ガラス板(2、3)間の幅をほぼ一定に保つことができる。
したがって、本実施形態に係る合わせガラス1では、両ガラス板(2、3)の間で挟持される中間膜4の厚みが大きく変化するのを抑えることができ、上記のような凸レンズのように作用する領域が生じるのを防止することができる。これによって、本実施形態によれば、各遮蔽層(24、34)付近で大きな透視歪が発生するのを抑止することができる。
すなわち、本実施形態では、遮蔽層による変形部を両ガラス板で位置合わせして同じ方向に発生させることで、遮蔽層付近で生じる透視歪を低減している。そのため、両遮蔽層(24、34)は、両変形部(26、36)が視野方向に重なり、上記合わせガラス70の場合に比べて、この各変形部(26、36)が形成される付近の領域で透視歪が低減される程度に互いに対応して配置されていればよい。例えば、両変形部(26、36)に起因するレンズ作用のレンズパワーが300mdpt、好ましくは200mdpt、更に好ましくは100mdpt以下になるように、両変形部(26、36)が位置合わせされるように、各遮蔽層(24、34)を設けるのが好ましい。本実施形態では、線Lと線Mとの間隔Nの絶対値が5mm以内になるように、第1遮蔽層24と第2遮蔽層34とを対応させているため、両変形部(26、36)の部分における合わせガラス1のレンズパワーを抑えることができる。
ここで、図9を用いて、各変形部(26、36)のレンズパワーを詳細に検討する。図9は、各変形部(26、36)の状態を模式的に例示する。図9に例示される状態で、各変形部(26、36)の高さQ1を0.05mmとし、幅Q2を10mmとすると、三平方の定理から、曲率半径Rは1000mmとなる。レンズパワーPと各面の曲率半径(Ra、Rb)との関係は、以下の数6で示すことができるため、曲率半径Rが1000mmの各変形部(26、36)は、一定のレンズパワー(片方の面を平らとすると、520mdpt)を有する。
なお、raはガラスの屈折率(およそ、1.52)であり、rbは空気の屈折率(およそ、1.00)である。
これに対して、本実施形態に係る合わせガラス1では、各変形部(26、36)を位置合わせすることで、各面の曲率半径(Ra、Rb)がほぼ一致するようにしている。そのため、本実施形態では、各変形部(26、36)付近の合わせガラス1のレンズパワーを抑えることができ、これによって、透視歪を低減することができる。
なお、従来でも、合わせガラスの第2面と第4面とにそれぞれ遮蔽層を設けるケースはあり得る。しかしながら、以下の2つの理由から、第2面の遮蔽層と第4面の遮蔽層とは対応して設けられず、図6及び図8Bで示した線Lと線Mとが10mm以上離れていた。
(1)2面の遮蔽層と4面の遮蔽層とを完全に一致させることは困難であるため、いずれか一方の遮蔽層が他方の遮蔽層よりも大きくなるように構成される。
(2)曲げ加工によって2面の曲率と4面の曲率とが相違してしまうため、曲げ加工前(平板時)に2面の端部と4面の端部とを一致させていても、曲げ加工後に2面と4面とがずれてしまう
したがって、従来の合わせガラスでは、第2面と第4面とにそれぞれ遮蔽層を設けても、各変形部の位置は大きくずれてしまい、透視歪を低減することができなかった。これに対して、本実施形態では、上記(a)〜(c)を適宜組み合わせることで、第1遮蔽層24と第2遮蔽層34とを対応させているため、各遮蔽層(24、34)付近の透視歪を低減することができる。
また、本実施形態では、第1遮蔽層24に2つの撮影窓(243、244)が設けられ、第2遮蔽層34に2つの撮影窓(343、344)が設けられる。各撮影窓(243、244、343、344)はセラミックの積層していない領域であり、各撮影窓(243、244、343、344)の周縁付近では、上記と同様に、変形部が生じうる。そのため、内側ガラス板の第4面にのみ遮蔽層を設けた場合には、内側ガラス板における撮影窓の領域に、ステレオカメラによる撮影に悪影響を及ぼす透視歪を発生させる変形部が形成される可能性がある。これに対して、本実施形態では、外側ガラス板2の第2面22に第1遮蔽層24を形成し、内側ガラス板3の第4面32に第2遮蔽層34を形成することで、各遮蔽層(24、34)付近の透視歪を低減している。そのため、本実施形態によれば、ステレオカメラ5による撮影に適した撮影窓(243、244、343、344)を有する合わせガラス1を提供することができる。
また、本実施形態では、両ガラス板(2、3)は、自重曲げ加工製である。上記のとおり、自重曲げ加工法では、曲げ成形を自重によって行うため、上記加熱時に各遮蔽層(24、34)が高温になることに起因する変形が起こりやすい。そのため、自重曲げ加工法では、各遮蔽層(24、34)付近で各変形部(26、36)が生じやすくなり、これによって、大きな透視歪が発生しやすくなる。これに対して、本実施形態によれば、上記の理由により、各遮蔽層(24、34)付近の透視歪を低減することができる。そのため、本実施形態によれば、自重曲げ加工という透視歪の発生しやすい成形条件であっても、各遮蔽層(24、34)で大きな透視歪が発生するのを防止することができる。
なお、自重曲げ加工法で、合わせガラス1を曲げ加工した場合には、合わせガラス1の周縁部のほぼ全周にわたって、例えば、15MN/m2以上等、所定値以上の圧縮残留応力が発生し得る。この圧縮残留応力は、加熱炉802内での周縁部の加熱温度が高い場合、及び徐冷炉803での冷却速度を速めた場合に大きくなりやすい。また、このように、加熱炉802内での周縁部の加熱温度が高い場合、及び徐冷炉803での冷却速度を速めた場合には、各遮蔽層(24、34)付近で各変形部(26、36)が生じやすくなる。したがって、所定値以上の圧縮残留応力が生じる場面では、各遮蔽層(24、34)付近で各変形部(26、36)が生じやすくなる。そのため、このような場面で、本実施形態のように各遮蔽層(24、34)近傍で生じる透視歪を低減することは、非常に有益な効果を発揮する。
また、本実施形態では、合わせガラス1の取付角度が水平方向に対して30度以下であってもよいため、各ガラス板(2、3)の各遮蔽層(24、34)は、運転者の視野に入りやすく構成される。そのため、各遮蔽層(24、34)付近で大きな透視歪が発生していると、当該透視歪により運転者の視野が恒常的に妨げられてしまう可能性がある。これに対して、本実施形態によれば、上記の理由により、各遮蔽層(24、34)付近の透視歪を低減することができる。したがって、水平方向に対する取付角度が30度以下であるとの合わせガラス1の取付条件により、運転者の視野に各遮蔽層が入っても、運転者は、各遮蔽層近傍まで、車外の景色をスムーズに確認することができる。
なお、各ガラス板(2、3)の曲率半径が大きくなる、すなわち、各ガラス板(2、3)が平板に近付くほど、合わせガラス1に生じる曲げ歪(ガラスが曲がっているために見える像の歪み)が少なくなる。そのような曲げ歪の少ない領域に各変形部(26、36)が形成されると、各変形部(26、36)による透視歪が目立ってしまう。この観点から、各ガラス板(2、3)の曲率半径は、20000mm以下であるのが好ましく、10000mm以下であるのがより好ましく、6000mm以下であるのが好ましい。他方、各ガラス板(2、3)の曲率半径が小さくなると、上記数6の関係式に示されるとおり、レンズパワーが大きくなってしまい、これによって、透視歪が大きくなってしまう。この観点から、各ガラス板(2、3)の曲率半径は、500mm以上であるのが好ましく、1000mm以上であるのがより好ましい。
§3 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、上記合わせガラス1の各構成要素に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記合わせガラス1の各構成要素の形状及び大きさも、実施の形態に応じて適宜決定されてもよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、適宜説明を省略した。
<3.1>
例えば、上記実施形態では、外側ガラス板2の第2面22及び内側ガラス板3の第4面32の両方にそれぞれ遮蔽層(24、34)を設けている。しかしながら、内側ガラス板3の第4面32に形成した第2遮蔽層34を省略し、外側ガラス板2の第2面22にのみ遮蔽層(24)を形成してもよい。以下、図10及び図11を用いて、本変形例について説明する。なお、説明の便宜のため、「第1遮蔽層24」を「遮蔽層24」とも記載する。
図10は、本変形例に係る合わせガラス1Aを模式的に例示する断面図である。図11は、本変形例に係る合わせガラス1Aの遮蔽層24付近の形状を模式的に例示する。本変形例に係る合わせガラス1Aは、内側ガラス板3の第2遮蔽層34が省略された点を除き、上記実施形態に係る合わせガラス1と同様の構成を有する。
このように、上記セラミックによって、外側ガラス板2の第2面22のみに遮蔽層24が形成される場合、図11に例示されるように、外側ガラス板2の遮蔽層24の周縁部付近に、上記実施形態と同様に、第2面22側に凸となる外板変形部26が形成される。これによって、当該外板変形部26付近では、両ガラス板(2、3)間の幅が狭くなり、すなわち、中間膜4の厚みが小さくなり、凹レンズの作用を発揮する領域が生じ得る。
一方で、両ガラス板(2、3)は湾曲しており、合わせガラス1Aは、垂直方向から傾けて自動車に取り付けられる。そのため、合わせガラス1Aを観察する視野方向では、合わせガラス1Aの厚みは一定とは限らず、両ガラス板(2、3)自体の湾曲に基づいて透視歪が生じうる。
本変形例では、両ガラス板(2、3)は車外側に凸となるように湾曲しているのに対して、外板変形部26付近の領域は、車外側に凹となるように変形している。すなわち、両ガラス板(2、3)の湾曲に基づく光の屈折方向と、外板変形部26付近の領域に基づく光の屈折方向とは反対方向である。
そのため、後述する図17に例示されるように、両ガラス板(2、3)自体の湾曲に起因する歪みと、外板変形部26付近の領域に起因する歪みとは、互いに打ち消し合う関係であることを本件発明者らは見出した。したがって、本変形例によれば、当該歪みの打ち消し合いに基づいて、遮蔽層24付近で生じる透視歪を低減することができる。
なお、上記実施形態では、遮蔽層(第1遮蔽層24及び第2遮蔽層34)が第2面22及び第4面32の2つの面に設けられるのに対して、本変形例では、遮蔽層(遮蔽層24)は第2面22の1つの面にのみ設けられる。そのため、本変形例に係る遮蔽層24は、車外からの視野を適切に遮蔽するように、上記実施形態に係る各遮蔽層(24、34)よりも厚みが大きく構成されてよい。
また、本変形例では、両ガラス板(2、3)自体の湾曲による歪みを、外板変形部26付近の領域による歪みで打ち消すことで、遮蔽層24付近で生じる透視歪を低減している。そのため、両ガラス板(2、3)自体の湾曲によってより歪みが生じやすい場面で、本変形例は有益な効果を発揮し得る。例えば、外側ガラス板2における遮蔽層24による外板変形部26に対応する内側ガラス板3の領域の曲率半径が500〜20000mmであるような場面で、本変形例が利用されてもよい。当該変形例によれば、両ガラス板(2、3)自体が大きな透視歪を発生させ得る場面でも、遮蔽層24付近で生じる透視歪を低減することができる。なお、外板変形部26に対応する内側ガラス板3の領域の曲率半径は、1000〜10000mmの範囲で設定されるのが好ましく、1000〜6000mmの範囲で設定されるのがより好ましい。例えば、外板変形部26が上記図9で想定した状態である場合、外板変形部26の曲率半径Rは、1000mm(1m)である。この場合に、内側ガラス板3の領域の曲率半径が上記のような範囲を超えた、例えば、500mmの場合、上記数6の関係式から、全体におけるレンズ作用のレンズパワーが1560mdptとなる。一方、内側ガラス板3の当該領域の曲率半径が3000mm(3m)とすると、上記数6の関係式から、これら全体におけるレンズ作用のレンズパワーは、約700mdptに抑えられることが分かる。そのため、外板変形部26に対応する内側ガラス板3の領域の曲率半径が上記のような範囲に設定される場合、各ガラス板(2、3)自体の湾曲を外板変形部26の湾曲で打ち消すことができ、これによって、外板変形部26付近における合わせガラス1Aの透視歪を低減することができる。
<3.2>
また、例えば、上記実施形態では、各遮蔽層(24、34)は一層構造である。しかしながら、各遮蔽層(24、34)は、このような例に限定されなくてもよく、多層構造であってもよい。例えば、内側ガラス板3の第4面32にセラミックを積層することで第1セラミック層を形成する。次に、第1セラミック層の上に銀を積層することで銀層を形成する。更に、この銀層の上にセラミックを積層することで第2セラミック層を形成する。これによって、3層構造の第2遮蔽層34を形成することができる。この3層構造の第2遮蔽層34は、銀層によって電磁波を遮蔽することができる。なお、この銀層には、以下の表2に示される組成の材料を利用することができる。
<3.3>
また、例えば、上記実施形態では、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)はそれぞれ、各非遮蔽領域(25、35)から離間して配置されている。すなわち、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)それぞれの周縁は、各遮蔽層(24、34)で囲まれている。しかしながら、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)それぞれの配置はこのような例に限定されなくてもよく、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)はそれぞれ、各非遮蔽領域(25、35)と連続するように形成されてもよい。
また、例えば、上記実施形態では、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)はそれぞれ、略台形状に形成されている。しかしながら、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)の形状はそれぞれ、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)はそれぞれ、矩形状、円状、楕円状等の形状に形成されてよい。なお、ステレオカメラ5が省略される場合には、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)は、省略されてよい。
<3.4>
また、例えば、上記実施形態では、合わせガラス1の外側ガラス板2及び内側ガラス板3は自重曲げ加工製である。しかしながら、外側ガラス板2及び内側ガラス板3それぞれを湾曲に成形する方法は、自重曲げ加工法に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、外側ガラス板2及び内側ガラス板3それぞれは、プレス加工法で湾曲に成形されてもよい。
<3.5>
また、中間膜4は、種々の態様を採用することができる。例えば、中間膜4の一部を黒色等の濃色に染色して、中間膜4の一領域(染色領域)を各遮蔽層(24、34)の一部として構成してもよい。ただし、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)にこの染色領域が重なる場合には、各撮影装置(51、52)による撮影をこの染色領域が阻害する可能性がある。そのため、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)と染色領域とが重なる部分については、可視光の透過率の高い素材に置き換えることで、各撮影窓(243、244)及び各撮影窓(343、344)に染色領域が重ならないように構成してもよい。
<3.6>
また、例えば、上記実施形態では、ステレオカメラ5は、2つの撮影装置(51、52)から構成されている。しかしながら、ステレオカメラ5を構成する撮影装置の数は、このような例に限定されなくてもよく、3台以上であってもよい。なお、各遮蔽層(24、34)の撮影窓の数は、ステレオカメラ5を構成する撮影装置の数に対応する。
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明はこの実施例に限定される訳ではない。
<実験1:遮蔽層付近に生じる変形部>
まず、セラミックを用いて遮蔽層付近にどのような変形部が生じるかを調べるために、以下の比較例1に係るガラス板を準備した。
(比較例1)
・両ガラス板のサイズ:(左右方向)1329.6mm、(上下方向)951.0mm
・外側ガラス板の厚み:2.0mm
・内側ガラス板の厚み:1.6mm
・両ガラス板の種類:グリーンガラス
・両ガラス板の成形条件:中央のダブリ量が26.1mm、最大のダブリ量が26.7mmとなるように、炉内温度を650℃に設定
・中間膜の厚み:0.8mm(単層構造)
・遮蔽層を設けた面:第2面及び第4面
・遮蔽層の幅:(上辺部)50mm、(各側辺部)25mm、(下辺部)130mm
・遮蔽層の厚み:10〜20μm
・線Lと線Mとの間の間隔N:10mm
・遮蔽層を構成するセラミックの組成:顔料 15%、樹脂(セルロース樹脂) 5%、有機溶媒(パインオイル) 15%、ガラスバインダ 60%
・顔料:BLACK 3250(PIGMENT BLACK 28、アサヒ化成工業株式会社製)
(実施例1)
また、上記比較例1の間隔Nが5mmとなるようにする点を除き比較例1と同じ作製条件により、実施例1に係るガラス板を準備した。
(形状の測定)
上記の作製条件に基づいて、実施例1及び比較例1に係る合わせガラスを作製した。そして、実施例1及び比較例1の作製した合わせガラスの外側ガラス板の第1面及び内側ガラス板の第3面の表面形状を下辺部中央から上方にデプスゲージ(株式会社ミツトヨ製、品番:ID-C112RB)で測定した。また、実施例1及び比較例1に対してデプスゲージによる測定結果に基づいて、外側ガラス板と内側ガラス板とを端部同士で重ね合わせて、合わせガラスの総厚を測定した。それぞれの結果を図12A、図12B及び図13に示す。なお、図13に示されるとおり、実施例1及び比較例1の合わせガラスの総厚は、外側ガラス板、中間膜、及び内側ガラス板の合計よりも小さかった。この現象は、外側ガラス板、中間膜、及び内側ガラス板を一定の圧力下で重ね合わせたことに起因し、通常の製品で一般的に生じる。
図12B及び図13に示されるとおり、比較例1に係る合わせガラスでは、遮蔽層付近において、内側ガラス板と外側ガラス板との間で形状の差が生じた。具体的には、図12Bに示されるとおり、遮蔽層付近において内側ガラス板及び外側ガラス板の両方にS字状の変形が生じたが、遮蔽層を積層した内側ガラス板には外側ガラス板よりも大きな変形が生じていた。また、各遮蔽層の終点(デプスゲージの測定値が0となる点)が約10mmずれており、第1遮蔽層と第2遮蔽層とは対応して設けられていなかった。これによって、図13に示されるとおり、外側ガラス板と内側ガラス板との間の幅が凸状に変化する部分が生じていた。この凸状に変化する部分のレンズパワーは凡そ520mdptであった。
一方、図12Aに示されるとおり、実施例1に係る合わせガラスでは、各遮蔽層の終点のずれは約5mm程度であり、第1遮蔽層と第2遮蔽層とを対応して設けた。これによって、図13に示されるとおり、外側ガラス板と内側ガラス板との間の幅が凸状に変化する部分が生じるのを抑えることができた。
なお、以上の結果において、遮蔽層を設けた部分で大きな変形が生じていることから、ガラス板を曲げ成形する際に、遮蔽層を構成するセラミックが想定よりも高温になっていることが推測された。そして、これによって、遮蔽層が大きく膨張し、比較例1では、図13に示されるような凸状の変形が遮蔽層付近に生じることが分かった。
<実験2:透視歪の比較>
次に、上記実施例1の他、第2面にのみ遮蔽層を形成した実施例2、第4面にのみ遮蔽層を形成した比較例2、遮蔽層を形成しなかった参照例を用意し、それぞれで生じる透視歪を目視により比較した。
(実施例2)
第4面の遮蔽層を省略する点を除き実施例1と同じ作製条件により、実施例2に係るガラス板を準備した。
(参考例)
第2面及び第4面の遮蔽層を省略する点を除き実施例1と同じ作製条件により、参考例に係るガラス板を準備した。
(比較例2)
比較例2に係る合わせガラスの作製条件は次のとおりである。
・両ガラス板のサイズ:(左右方向)1329.6mm、(上下方向)951.0mm
・外側ガラス板の厚み:2.0mm
・内側ガラス板の厚み:1.6mm
・両ガラス板の種類:グリーンガラス
・両ガラス板の成形条件:中央のダブリ量が26.1mm、最大のダブリ量が26.7mmとなるように、炉内温度を650℃に設定
・中間膜の厚み:0.8mm(単層構造)
・遮蔽層を設けた面:第4面
・遮蔽層の幅:(上辺部)50mm、(各側辺部)25mm、(下辺部)130mm
・遮蔽層の厚み:10〜20μm
・遮蔽層を構成するセラミックの組成:顔料 15%、樹脂(セルロース樹脂) 5%、有機溶媒(パインオイル) 15%、ガラスバインダ 60%
・顔料:BLACK 3250(PIGMENT BLACK 28、アサヒ化成工業株式会社製)
(歪率の測定)
次に、図14及び図15に示す方法によって、各実施例(1、2)及び比較例2の遮蔽層付近並びに参照例の周縁部における透視歪を観察し、歪率を測定した。すなわち、図14に示すとおり、カメラ501によって、各実施例(1、2)、比較例2及び参照例に係る合わせガラスを通して、縞模様の形成されたボード500を撮影した。カメラ501は、地面から1480mmの高さに配置した。また、各合わせガラスは、垂直方向から27度傾けて配置した。ボード500と各合わせガラスとの間の距離D1は8845mmに設定し、カメラ501と各合わせガラスとの間の距離D2は3160mmに設定した。ボード500の縞模様は、ピッチ幅が100mm(白線幅及び黒線幅それぞれ50mm)、各線の角度が45度であった。
図16〜図19は、各実施例(1、2)、比較例2及び参照例それぞれの撮影により得られた写真を示す。具体的には、図16は、実施例1に係る合わせガラス100の撮影により得られた写真を示す。図17は、実施例2に係る合わせガラス200の撮影により得られた写真を示す。図18は、比較例2に係る合わせガラス300の撮影により得られた写真を示す。図19は、参照例に係る合わせガラス400の撮影により得られた写真を示す。
そして、各写真を利用し、図15に示すとおり、下辺見切りの中央(符号102、202、302、402の領域)で、A〜Cの長さを測定し、以下の数7に示す計算に基づき、歪率を計算した。なお、Aは、縞模様の付け根の部分から本来の縞模様までの長さを示す。Bは、本来の縞模様(図の点線)を実際の縞模様の外縁に接するように並行移動したシフト量(図の点線と図の一点鎖線との間の距離)を示す。Cは、付け根からBを測定する高さまでの長さを示す。この歪率は、小さな値ほど、透視歪が少ない傾向を示す。
以上の計算の結果、実施例1の歪率は、16%であった。実施例2の歪率は、12%であった。比較例2の歪率は、29%であった。参照例の歪率は、10%未満であった。なお、歪率と官能評価との関係は、以下の表3に示すとおりである。
ここで、「専門家」とは、視点を上下に動かす等、透視歪の発見方法を理解している人であり、「素人」とは、そのような透視歪の発見方法を知らない人である。
したがって、各実施例(1、2)(例えば、符号101、102、201、202の領域)では、比較例2(例えば、符号301、302の領域)と比べて、遮蔽層付近の歪率を10%以上改善することができ、これによって、素人でもわかる程度の透視歪の低減を図ることができた。すなわち、本発明によれば、遮蔽層付近に生じる透視歪を飛躍的に低減できることが分かった。