特許文献1には、グリーンシートの両面を加熱するに際して、キャリアシート側よりもペースト側に高温の熱風を供給することが開示されている。これは、グリーンシート・ペースト境界面で、ペースト中の溶剤がバインダを溶解することを、ペーストの瞬間乾燥により防止しようとするものである。
しかし、特許文献1の場合、溶解を防止するためにグリーンシートの各面に供給する熱風の温度差を10℃以上に設定する必要があり、制御上の困難が存在する。また、熱風の温度が樹脂バインダのガラス転移温度以上になると樹脂バインダが変質するので、熱風の温度を樹脂バインダのガラス転移温度以下に設定する必要があるなど、時間−温度制御が難しくなる。しかも、上記のような複雑な乾燥方法及び乾燥装置を採用するには、既存の製造設備を大幅に変更しなければならないため、多大な設備投資を必要とし、電子部品の製造コストが大幅にアップする要因になる。
特許文献2においては、グリーンシート中の有機バインダを溶解しない溶剤成分として、脂肪族炭化水素系溶剤及び芳香族炭化水素系溶剤を使用することが提案されている。特に、特許文献2の導体用ペーストには、グリーンシートと内部電極層との接合を強化し、内部電極端面におけるグリーンシートからの剥離を防止するために室温で固形状の脂肪酸を含有している。
しかし、高温で脂肪酸が溶けているときには印刷性能は良好であるが、温度が下がると脂肪酸が固形化し、この脂肪酸が印刷用刷版の目詰まりを生起する。その結果、印刷塗膜に欠損部を生じたり、印刷塗膜の膜厚にばらつきが生じたり、印刷塗膜の表面に凹凸が激しく生じたりするなど、良好な印刷品が得られないことになる。このような欠陥印刷塗膜を有するグリーンシートの多層積層体を焼成したときには、電極切れと呼ばれる断線や絶縁不良が生じ、適正な導通が得られず、積層セラミック電子部品の電気特性の不良が生じる。しかも、複数の溶剤を使用することは材料のコストアップ要因になる。
特許文献3においては、有機バインダの不溶性溶剤として、L−カルビルアセテート、ジヒドロカルビルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、イソボルニルアセテート、D−リモネン−10−イルアセテート、メンチルアセテート、ミルテニルアセテート、2−オクチルアセテート、3−オクチルアセテート、ペリリルアセテート、ターピニルアセテート及び4−(1'−アセトキシ−1'−メチルエチル)シクロヘキサノールアセテートからなる1種以上の有機酢酸塩が提案されている。
上記の有機酢酸塩は、グリーンシート中の有機バインダを溶解しない性質が強いので、シートアタック現象を低減させる作用がある。しかし、本発明者等は、有機酢酸塩には、
粘性が時間と共に増加する性質のものがあるという弱点を見出した。即ち、製造時に良好な粘性を有しているペーストを作成しても、粘度が数日で増加するため、印刷用刷版が導体用ペーストによって目詰まりを生じてしまい、印刷塗膜に欠陥品が発生する。その結果、完成品たる積層型電子部品の不良品ができるため、粘性増加性のある有機酢酸塩は導体用ペーストの溶剤としては不適であると本発明者等は考えるに至った。
特開2007−5461公報(特許文献4)には、ジヒドロターピネオールに炭素数が3以上の側鎖が縮合されたジヒドロターピネオール誘導体を有機溶剤として含むペーストが開示されている。
特許文献4に開示されたペーストはジヒドロターピネオール誘導体を含有するため、グリーンシートに対する溶解性は低いものの揮発しやすいという性質を有している。
ところで、積層型電子部品の搭載素子における内部導体は一般に素子種別に応じて異なっている。コンデンサ素子とインダクター素子で比べると、前者には薄膜の内部導体が多く使用され、後者には厚膜の内部導体が多く使用されている。例えば、コンデンサ素子のように、内部導体を1μm程度の薄膜で印刷形成する場合には印刷工程における導体用ペーストの揮発性の影響は少ない。しかしながら、インダクター素子の導体をより厚い、20μm程度の厚膜で印刷形成する場合に、特許文献4に開示された導体用ペーストを用いて20μm程度の厚膜をスクリーン印刷技術によって形成すると、該導体用ペーストはその揮発性により印刷過程で固化しやすいため、スクリーンマスクに残滓が付着したり、該残滓がグリーンシートや導体パターン上に落下したりして不良品を生ずるという問題があった。
本発明の目的は、上記課題に鑑み、良質の積層インダクター素子用導体を形成することのできる導体用ペーストを提供することである。また、本発明の目的は、この導体用ペーストを用いて製造されるセラミック電子部品及び電子部品の製造方法を提供することである。
本発明に係る第1の形態は、積層インダクター素子の導体を形成するために用いる導体用ペーストであって、導体用成分及び有機溶剤を少なくとも含み、前記有機溶剤は、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールモノイソブチラート又は2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートとプロピオン酸との有機プロピオン酸塩を主成分とする導体用ペーストである。
本発明に係る第2の形態は、前記有機プロピオン酸塩と異なる有機プロピオン酸塩を混合した混合物を前記有機溶剤にした導体用ペーストである。
本発明に係る第3の形態は粘性付与剤として樹脂を添加した導体用ペーストである。
本発明に係る第4の形態は前記樹脂以外の添加剤を配合した導体用ペーストである。
本発明に係る第5の形態は、第1〜第4の形態のいずれかに係る導体用ペーストをグリーンシートに所定パターンに塗着して未焼成シートを形成する未焼成シート形成工程と、前記未焼成シートを焼成して焼結体を形成する焼結体形成工程と、を少なくとも含み、前記焼結体で構成された導体を有した積層インダクター電子部品を製造する、電子部品の製造方法である。
本発明に係る第6の形態は、前記未焼成シートを複数積層して積層中間体を形成する中
間体形成工程を有し、前記焼結体形成工程において前記積層中間体を焼成して前記焼結体を形成する、電子部品の製造方法である。
本発明に係る第7の形態は、第1〜第4の形態のいずれかに係る導体用ペーストに由来する導体パターンと、前記導体パターンを形成した、グリーンシート由来のセラミック基体とにより少なくとも構成されるセラミック電子部品である。
本発明に係る第8の形態は、前記セラミック基体は薄層のセラミック基板であり、少なくとも前記導体パターンを形成した前記セラミック基板を一層として複数層積層して構成されるセラミック電子部品である。
本発明者等は、従来用いられている導体用ペースト中のターピネオールとグリーンシート中のブチラール樹脂やアクリル樹脂の組合せで起こるシートアタック現象及びその対策を種々研究してきた。有機酢酸塩を主成分とする有機溶剤を含む導体用ペーストは、ブチラール樹脂やアクリル樹脂に対する溶解性が低いので、シートアタック現象が減少することが分っている。しかし、有機酢酸塩を主成分とする有機溶剤は、粘性の経時変化が問題となる。そこで、本発明者等は、有機酢酸塩と同じカルボキシル基を有する有機プロピオン酸塩に着目し、種々研究を重ねてきた。その結果、有機プロピオン酸塩はシートアタック現象が極減でき、同時に粘性の経時変化も抑制できるといった知見を得るに至った。また、本発明者等は、例えば、特許文献4に開示されたジヒドロターピネオール誘導体の場合のように、有機プロピオン酸塩により生ずる揮発性の不具合を解消すべく更なる鋭意検討を行って本発明を完成させたものである。
第1の形態において、導体用成分と、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールモノイソブチラート又は2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートと、プロピオン酸との有機プロピオン酸塩を主成分とする有機溶剤とを混合することによって、積層インダクター素子の導体形成に好適な導体用ペーストが構成される。導体用成分は、焼成後にインダクター素子用の金属導体を提供する成分であり、金属粉体だけではなく広範囲な材料を使用することができる。この導体としては、粒径がμmサイズの金属粒子、nmサイズの金属超微粒子又は分子状の金属化合物のように、分子から金属集団まで広範囲に選択できる。この金属は、貴金属、卑金属でもよく、分子状の金属化合物には有機金属錯体等有機金属化合物でも良い。勿論、これらの2種以上の混合物であっても良い。
2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールモノイソブチラートは、分子式C12H24O3により表わされる化学物質の化学名であり、以下、慣用名のテキサノールと称する。テキサノールの沸点は255℃〜260℃である。
2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートは、テキサノールより炭素数が多い分子式C16H30O4により表わされる化学物質の化学名である。この化学物質は沸点が280℃であり、テキサノールと異なり、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等の樹脂を溶かさない性質を有する。以下の説明においては、本発明に係るテキサノールまたは分子式C16H30O4の化学物質を総称して、テキサノール等物質と称する場合もある。
本発明に係る導体用ペーストは積層インダクター素子の導体形成材料として良質のペースト特性(1)、(2)を有する。
(1) シートアタック現象の低減性
前記有機溶剤に含まれる有機プロピオン酸塩は、プロピオン酸と有機溶媒とを合成して
生成される化合物、つまりプロピオン酸の有機塩である。有機プロピオン酸塩と、例えば特許文献3に示される有機酢酸塩との属性を比較した場合、プロピオン酸(C2H5COOH)は酢酸(CH3COOH)と同じくカルボキシル基(−COOH)を有するが、酢酸に比べプロピオン酸は炭素数が多い。そのため、有機プロピオン酸塩は有機酢酸塩より炭素数が多い有機酸塩として得られる。従って、有機プロピオン酸塩は有機酢酸塩に比べ、粘性が大きく、有機バインダに対する溶解性が小さくなるため有機バインダに対するシートアタック現象を極減することができる。
(2) ペースト安定性
特許文献4には、有機プロピオン酸塩の一種であるジヒドロターピネオール誘導体としてジヒドロターピネオール、ターピネオール、ジヒドロターピネオールおよびジヒドロターピニルアセテートが開示されている。これらの有機プロピオン酸塩と、本形態に係る有機プロピオン酸塩とをペーストの揮発性(蒸発性)の観点から比較した結果、特許文献4の有機プロピオン酸塩の沸点は比較的低いため、前述したように、ジヒドロターピネオール誘導体によるペーストの揮発性の不具合を生ずるという知見を得た。
本形態に係る有機プロピオン酸塩はテキサノール又は分子式C16H30O4の化学物質により合成されたものであり、それぞれの沸点は255℃〜260℃、280℃と比較的高い。したがって、本形態に係る有機プロピオン酸塩を含む導体用ペーストを印刷して焼成する過程において粘性の経時変化が少ないため、積層インダクター素子に必要な厚膜導体を良好に形成することができる。
上記特性(1)、(2)に示したように、本形態に係る導体用ペーストに含有する有機プロピオン酸塩はグリーンシート中のブチラール樹脂やアクリル樹脂等に対するシートアタック現象を極減させ、粘性の長期間安定性も実現することができる。したがって、本形態に係る導体用ペーストにより積層インダクター素子の導体を形成した積層インダクター電子部品を製造することによって、該電子部品の更なる小型化・高性能化を図ることができ、電子機器の発展に貢献し得る。特に、粘性の長期間安定性により導体用ペーストの長期使用にも耐えるため、銀等の貴金属を使用した場合には貴金属地金の相場変動に影響を受けることなく電子機器のコストダウンや価格安定化にも寄与する。
第2の形態によれば、前記有機プロピオン酸塩と異なる有機プロピオン酸塩を混合した混合物を前記有機溶剤にしたので、シートアタックを抑制しつつ、有機溶剤に含まれる炭素数の広範囲な組合せに基づいて適切に調整された粘性を備え、積層インダクター素子の導体形成に好適な導体用ペーストを提供することができる。
該混合の態様としては、混合物において有機プロピオン酸塩の炭素数を増やす増加態様と低減させる低減態様がある。有機プロピオン酸塩の炭素数を増やすと、乾燥性が低下してペーストの粘性は増加し、樹脂に対する溶解性が低下する。逆に炭素数が減らすと、粘性は減少し、樹脂に対する溶解性が増加する。種々の混合態様を利用して炭素数の大小の有機プロピオン酸塩を組み合わせることによって、種々のペースト特性に応じて、ブチラール樹脂やアクリル樹脂に対するシートアタックが極減し、適切な粘性を有し、更に樹脂への適度な溶解性を有する溶剤を調整することができる。
種々の混合態様による炭素数の調整に使用可能な有機プロピオン酸塩には、例えば、有機溶媒として、テルピネオール、ゲラニオール、シトラール、シトネラール、シトロネロール、1−8−シネオール、ベンジル、リナロール又はリモネン等を由来にして生成される有機塩を使用することができる。即ち、これらの有機塩の名称(別名)等はそれぞれ、プロピオン酸テルピネオール(ターピニルプロピオネート)(C13H22O2)、プロピオン酸ゲラニオール(ゲラニルプロピオネート)(C13H22O2)、プロピオン酸シトラール(シトラールプロピオネート)(C13H20O2)、プロピオン酸シトネラール(シトネ
ラールプロピオネート)、プロピオン酸シトロネロール(シトロネリルプロピオネート)(C13H24O2)、プロピオン酸1−8−シネオール(1−8−シネオールプロピオネート)(C13H22O2)、プロピオン酸ベンジル(ベンジルプロピオネート)(C10H12O2)、プロピオン酸リナロール(リナリルプロピオネート)(C13H22O2)、プロピオン酸リモネン(C13H20O)である。
特には、本発明においてはテキサノールにより合成された有機プロピオン酸塩と、分子式C16H30O4の化学物質により合成された有機プロピオン酸塩とを混合した混合物を有機溶剤に使用した導体用ペーストを提供することができる。これらの有機プロピオン酸塩の混合物により、シートアタック現象の低減性とペースト安定性に優れた良質の導体用ペーストを実現することができる。
第3の形態によれば、粘性付与剤として樹脂が添加される導体用ペーストを提供することができる。この樹脂は導体用ペーストに適度な粘性を付与するものであり、例えばエチルセルロース、ニトロセルロース、ブチラール、アクリル、アクリルコパイバルサム、ダンマー等が用いられる。有機プロピオン酸塩とこのような粘性付与剤を混合することによって、溶液性ペーストから粘稠性ペーストまで広範囲な粘度幅を有する積層インダクター素子導体用ペーストを市場に提供することができる。
第4の形態によれば、樹脂以外の添加剤が配合される積層インダクター素子導体用ペーストを提供することができる。グリーンシートの薄層化に伴い、導体用ペーストによって形成される導体膜も更なる薄層化が要求されるに至った。その結果、導体成分として使用される金属粉末に、粒径がサブミクロンサイズの金属超微粒子を使用することが要求されるようになった。この場合、金属超微粒子どうしがペースト中で結合して、2次粒子化する現象を生ずる不具合が発生することがある。これを防止するためには分散剤を添加するのが好ましい。また、必要に応じてペーストの空気中での酸化を防止するために酸化防止剤を配合したり、ペースト自体が有機性であるため引火性を有することから、これを難燃化するために難燃剤を配合したりして、種々の目的に応じた添加剤を配合するようにしてもよい。
第5の形態に係る製法によれば、第1〜第4の形態のいずれかに係る導体用ペーストをグリーンシートに所定パターンに塗着して未焼成シートを形成する未焼成シート形成工程と、前記未焼成シートを焼成して焼結体を形成する焼結体形成工程と、を少なくとも含み、前記焼結体で構成された導体を有した積層インダクター電子部品を製造することができる。
本発明に係る導体用ペーストは第1〜第4の形態に示したように、シートアタック現象が極減し、導体用ペーストの溶剤粘度の経時変化が少ないという特性を有するので、ペースト作製後から使用するまでに時間が経過しても該導体用ペーストの耐久性によって新品同様に使用可能である。例えば、グリーンシートに作製後時間が経過した導体用ペーストを使って印刷しても、ペースト品質が一定に保持されているので厚さが均一の導体パターンが得られる。したがって、該電子部品製法に本発明に係る導体用ペーストを使用することによって、高性能の積層インダクター電子部品を製造することができる。また、該導体用ペーストの印刷性が良好で、不良品発生が少ないため、作業員のストレス低下につながるという副次的効果を奏する。更に、本発明に係る有機プロピオン酸塩は粘性の経時安定性を有して、導体用ペーストの長期間使用が可能になるため、ペースト不良在庫の低減になって電子機器製品のコストダウンに寄与する。本形態に係る製法は単一種の素子で構成された電子部品の製造に限定されず、メタルパワーインダクター素子や積層インダクター素子を複数素子含んだり、あるいは積層インダクター素子以外の回路素子をも含む複合型電子部品の製造にも適用可能である。
第6の形態に係る製法によれば、前記未焼成シートを複数積層して積層中間体を形成する中間体形成工程を有し、前記焼結体形成工程において前記積層中間体を焼成して前記焼結体を形成して、良質の積層型電子部品を製造することができる。上記特性を有した導体用ペーストを使用することによって、シートアタック現象が解消されるため、グリーンシートの更なる薄層化が促進され、そのうえペーストの薄膜化も進む。例えば、グリーンシートの厚みが1μmから100nmにできる場合には、積層数が2倍から10倍前後の積層型電子部品を得ることができる。したがって、電子機器の高性能化・小型化に伴う、積層型電子部品の小型化・高密度化・高機能化の要求に対して、シートアタック現象が極減したグリーンシートを薄層化し多数枚積層することで対応可能になって電子機器の大量生産に貢献することができる。
第7の形態によれば、第1〜第4形態のいずれかに係る導体用ペーストに由来する導体パターンと、前記導体パターンを形成した、グリーンシート由来のセラミック基体とにより少なくとも構成されるセラミック電子部品を提供することができる。
本形態に係るセラミック電子部品は例えば、メタルパワーインダクター素子や積層インダクター素子を1素子または複数素子含んだ積層インダクターセラミック電子部品、あるいは積層インダクター素子以外の回路素子をも含む複合型積層インダクターセラミック電子部品である。
本形態に係る導体パターンは、第1〜第4の形態に係る導体用ペーストを用いているので、その特長を全て有している。即ち、導体形成過程において、グリーンシートの有機バインダに含まれるブチラール樹脂やアクリル樹脂とのシートアタック現象が極減する。しかも、導体用ペーストの溶剤粘度の経時変化が少ないため、グリーンシートに作製後時間の経過した導体用ペーストを印刷しても、導体パターンの厚さ及びペースト組成・密度が均一に保持され、安定した電気特性を備えたセラミック電子部品を実現することができる。
第8の形態によれば、前記セラミック基体は薄層のセラミック基板であり、少なくとも前記導体パターンを形成した前記セラミック基板を一層として複数層積層して構成される電子部品を提供することができる。
本形態において、前述のように導体用ペーストの粘度経時安定性によって、グリーンシートに印刷した導体パターンの厚さを均一化でき、電気特性の安定化を図ることができる。しかも、シートアタック現象が極減するので、積層型セラミック電子部品の一層の薄層化・多層化を促進し得る。即ち、本形態は、積層型セラミック電子部品の小型化・高密度化・高機能化の要求に対し、グリーンシートを薄層化し、導体用ペーストを薄層化し品質を安定化し、これらを多数積層することにより解決し得るセラミック電子部品を提供することができる。そのうえ、該セラミック電子部品を使用する電子機器の更なる発展に貢献するものである。
ポリビニルブチラールを有機バインダとしたグリーンシートを用いて、本発明に係る導体用ペーストの各種性能試験を実施した。以下にその内容を詳述する。なお、各性能試験結果における沸点の評価は総括的に考察して後述する。
〔グリーンシートの作製〕
磁性粉末をバインダー(ポリビニルブチラール)及び溶剤と共に配合して混錬することによってスラリー状の磁性体ペーストを作成した。磁性粉末の一例としてNi−Cu−Zn系フェライト粉末を用いた。該磁性体ペーストをドクターブレード法によりPETフィルム上で厚さ10μmで塗布し、80℃で10分間乾燥させてグリーンシートを作製した。
〔導体用ペーストの作製〕
実施例には、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールモノイソブチラート(別名テキサノール)とプロピオン酸とを合成して生成した有機プロピオン酸塩を主成分とする有機溶剤と、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートとプロピオン酸とを合成して生成した有機プロピオン酸塩を主成分とする有機溶剤とを使用した。
比較例には、比較グループの一つとして、3,7,11−トリメチル−1,6,10ドデカトリエン−3−オールプロピオネート、ドデシルプロピオネート、リナリルプロピオネート、ターピニルプロピオネート、フェニルプロピオネート及びイソブチルプロピオネートを主成分とする有機溶剤を使用した。この比較グループの主成分は実施例と同様の有機プロピオン酸塩である。別の有機酢酸塩等の比較グループとしては、ジヒドロカルビルアセテート、イソボルニルアセテート、ゲラニルアセテート、ジヒドロカルベオール及びゲラニオールを主成分とする有機溶剤を使用した。
本発明に係る有機プロピオン酸塩の生成としてテキサノールを仕込み原材料にして以下に説明する。テキサノールを加熱しておき、それにプロピオン酸を投入した。テキサノールの仕込み原料分(108重量部)に対し、プロピオン酸は74重量部混入される。テキサノールとプロピオン酸は145℃付近で反応する。反応後、蒸留処理が行われ、100重量部の水を使って水洗処理が行われる。水洗した溶液を脱水して、更にアスピレータによる減圧蒸留を行うことによって、テキサノールとプロピオン酸の反応合成による微黄色透明の有機プロピオン酸塩を得ることができる。以上の反応合成過程を経て有機プロピオン酸塩は仕込み原料分と同量に製造し得る。2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートを仕込み原材料に用いる場合にも、上記テキサノールによる反応合成と同様にして本発明に係る有機プロピオン酸塩を生成することができる。
各有機溶剤:100重量部に対し、エチルセルロース(樹脂):20重量部となるように、有機溶剤にエチルセルロースを徐々に添加し、攪拌機にて1時間攪拌し、有機ビヒクルを作製した。作製した有機ビヒクル:50重量部に対し、導体用金属として、平均粒径5.0μmのAg粉末:100重量部となるように、有機ビヒクル中にAg導電性粉末を混入させ、三本ロールミルで混練、分散し、積層インダクター素子の導体用ペーストを作製した。
各導体用ペーストを使用し、グリーンシート上にスクリーン印刷して印刷パターンを形成した。このグリーンシートを100℃で1時間乾燥後、PETフィルムから剥離した。前記グリーンシートを、1辺が40mmの正方形に裁断し、有機溶剤毎に100個のグリーンシート片を作製した。
〔性能試験1〕
前記各100個のグリーンシート片のうち、周辺部のグリーンシート片は損傷等の虞が
あるので中心部の40個を選択し、60個は実験対象から除外した。そのうち、各20個のグリーンシート片のPETフィルム側を、目視及び金属顕微鏡で観察し、シートアタックの有無を○、△、×で判定した。各20個を通じて、○は穴、亀裂、くぼみ又は薄くなった箇所が認められないもの、△はくぼみ又は薄くなった箇所が認められたもの、×は穴又は亀裂が認められたものを表す。
表1は性能試験1による判定結果を示す。表1の判定結果から、実施例のテキサノール等物質による有機プロピオン酸塩はシートアタック現象を減少させることが分った。有機酢酸塩のうちジヒドロカルビルアセテート、イソボルニルアセテートは、有機プロピオン酸塩や有機酢酸塩と異なるゲラニオールより、ポリビニルブチラールに対し、シートアタック現象を減少させることが分った。そして、有機プロピオン酸塩のうちイソブチルプロピオネートでは、くぼんだ箇所が認められるものの、一般に有機プロピオン酸塩は、有機酢酸塩に比べて、シートアタック現象を一層減少させることが分った。性能試験1によれば、実施例と、イソブチルプロピオネートを除く比較例とから、有機プロピオン酸塩の含有炭素数が9以上の場合、シートアタック現象を極減させるという良好な性質を有することが確認された。
〔性能試験2〕
前記各40個のグリーンシート片のうち新しい20個を、大気雰囲気中で900℃、通常の機械加圧下で2時間焼成し、セラミック焼結体を得た。この焼結体を、目視及び金属顕微鏡で観察し、○、△、×でシートアタックの有無及び導体膜厚の均一性を判定した。PETフィルム側から観察したときの評価基準は、性能試験1と同じである。ペースト側から観察したときの評価基準は、各20個を通じての導体膜の均一性に関するものであり、その均一性を○、△、×で判定した。
表2は性能試験2による判定結果を示す。表2の判定結果から、比較例の中では、有機酢酸塩であるジヒドロカルビルアセテートは、シートアタックを減少させる特性を有するものの(表1参照)、導体膜厚の均一性では有機プロピオン酸塩に劣ることが分った。そして、実施例等の有機プロピオン酸塩は、シートアタックに対して再現性があり、形成された導体膜厚も一定であることが確認された。性能試験2によれば、有機プロピオン酸塩の中では、イソブチルプロピオネートはシートアタックに対する評価が劣るものの、含有炭素数9以上の有機プロピオン酸塩は、シートアタックの発生を極減させることが確認された。
〔性能試験3〕
次に、ポリビニルブチラールを直径20mm、長さ50mmの棒状に成形し、有機溶剤毎に10本の試験片を作製した。溶剤200ml毎に1本ずつ試験片を浸漬し、24時間後のポリビニルブチラールの溶解性を目視で判断し、○、△、×で溶解特性を評価した。各10本を通じて、○は溶解しなかったもの、×は表面に亀裂が認められたもの、△はその中間を表す。
表3は性能試験3による判定結果を示す。表3の判定結果から、比較例の中では、有機酢酸塩であるジヒドロカルビルアセテートに対しポリビニルブチラールは低い溶解性を示すことが分った。性能試験3によれば、実施例等の有機プロピオン酸塩に対し、ポリビニルブチラールは低い溶解性を示すとともに、特に炭素数が9以上の有機プロピオン酸塩に対して、ポリビニルブチラールは更に低い溶解性を示すことが確認された。
〔性能試験4〕
性能試験1〜3の結果から、有機プロピオン酸塩は、ポリビニルブチラールに対するシートアタック現象を極減させることを確認できたので、実施例を含む有機プロピオン酸塩に絞って、導体用ペースト未塗着のグリーンシートを用いた検証実験を引き続き行った。
表3からわかるように、炭素数の少ない有機プロピオン酸塩は、沸点が低下し、ポリビニルブチラールに対する溶解性が増加するので、安全性及び性能から有機溶剤として不適である。つまり、安全性を加味した場合、有機プロピオン酸塩においては、有機溶剤として使用するうえで少なくとも含有炭素数の下限値が9であることが好ましい。このため、イソブチルプロピオネートは、シートアタック等での評価が他の有機プロピオン酸塩より劣るうえ、その沸点が67℃であり、使用した有機溶剤中最も低く、引火しやすく取り扱いに難点があることから有機溶剤に適さないことが明白であるので、性能試験4の検証対象から除外した。
性能試験4においては、グリーンシートに導体用ペーストを所定パターンでスクリーン印刷し、そのペースト面の印刷状況を目視で観察した。その後、このグリーンシートを100℃で1時間乾燥し、PETフィルムから剥離して、1辺が40mmの正方形に裁断し
、有機溶剤毎に20個のグリーンシート片を新たに作製した。このグリーンシート片を、大気雰囲気中で900℃、通常の機械加圧下で2時間焼成し、セラミック焼結体を製作した。
このセラミック焼結体20個を実体顕微鏡で観察し、複雑パターンの仕上特性、セラミック基板への電極膜密着性、導体パターンの平滑性より総合的な印刷特性を判断して検証を行った。複雑パターンの仕上特性は、複雑パターンの境界輪郭の明瞭性から評価される。セラミック基板への電極膜密着性は、導体用ペーストがグリーンシートに確実に密着している度合いで評価される。導体パターンの平滑性は電極パターンのムラから評価される。有機溶剤毎の各20個のセラミック焼結体に対する評価結果は、明瞭度、密着度、ムラの発生度に応じて○、△、×により行った。
表4は性能試験4による判定結果を示す。複雑パターンの仕上特性評価は、含有炭素数18の3,7,11−トリメチル−1,6,10ドデカトリエン−3−オールプロピオネートだけが評価△で、実施例を含む他の有機プロピオン酸塩は評価○であった。セラミック基板への電極膜密着性評価は、3,7,11−トリメチル−1,6,10ドデカトリエン−3−オールプロピオネートが評価×、含有炭素数15のドデシルプロピオネートが評価△、実施例を含む他の有機プロピオン酸塩は評価○であった。導体パターンの平滑性評価は、3,7,11−トリメチル−1,6,10ドデカトリエン−3−オールプロピオネートだけが評価×で、実施例を含む他の有機プロピオン酸塩は評価○であった。性能試験4からは、有機プロピオン酸塩であっても、含有炭素数が多くなると粘性が増して印刷特性を低下させる傾向にあり、良好な印刷特性を得るには有機プロピオン酸塩の含有炭素数の上限値は少なくとも3,7,11−トリメチル−1,6,10ドデカトリエン−3−オールプロピオネートの含有炭素数18よりも小さいことが好ましいことが確認された。
〔性能試験5〕
性能試験4で使用した有機溶剤を、冷暗所で10日間保存した後、前述の性能試験4を繰り返して、経時変化を検証した。
表5は性能試験5による判定結果を示す。表5に示すように、10日間保存後のフェニルプロピオネートでは、複雑パターンの仕上特性及び導体パターンの平滑性に劣化が僅かに認められるものの、表4に示した実施例を含む有機プロピオン酸塩には経時変化は認められず、粘度経時安定性があることが確認された。
〔性能試験6〕
有機プロピオン酸塩は、性能試験1〜5により、炭素数9〜16の範囲でシートアタック等に対して良好な導体用ペースト特性を有することが確認された。これらの有機プロピオン酸塩には沸点の差異があるので、沸点の違いによる特性の影響を検証した。なお、これらの有機プロピオン酸塩のうち、フェニルプロピオネートは沸点が低いため、上述の揮発性の問題を生ずるので、試験対象から除いた。性能試験7においては、有機プロピオン酸塩の熱重量変化をTGA試験により計測した。TG計測対象として、沸点が約230℃である有機プロピオン酸塩のうち炭素数13のターピニルプロピオネートと、沸点の高い炭素数16の2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートとに対して熱重量変化を比較した。
図1はTGA試験により計測した各TG計測対象の計測結果を示す。同図の横軸は時間(分)、右縦軸は温度(℃)、左縦軸はTGAの相対重量変化率(%)を示す。実線のグラフは100℃までの加熱温度変化を示す。破線のグラフTAは2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートを用いた導体用ペーストの相対重量変化率の変化を示す。一点鎖線のグラフTBはターピニルプロピオネートを用いた導体用ペーストの相対重量変化率の変化を示す。
TAとTBを比較すると明らかなように、ターピニルプロピオネートを用いた導体用ペーストは2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートを用いた導体用ペーストよりも100℃における重量変化が大きいことがわかる。従って、両者を比較すると、沸点の低い有機プロピオン酸塩は、インダクター素子の導体用ペーストの有
機溶剤に使用した場合、揮発性が大きく、印刷過程で固化しやすくなって、スクリーンマスクに残滓が付着したり、該残滓がグリーンシートや導体パターン上に落下したりして不良品を生ずる要因になり、好ましくないという検証結果が得られた。
以上の性能試験1〜6の結果を踏まえ、さらに性能試験7の結果から、コンデンサ素子用の場合と比較して、内部導体を10μm程度の厚膜で印刷形成するインダクター素子の場合、揮発性が大きいと上記のような不良品の発生という影響が出るので、最終的には、インダクター素子の導体用ペーストの有機溶剤には、少なくとも沸点が230℃を超える有機プロピオン酸塩、つまり、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラート又は2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラート(テキサノール)が好適であるという結論を得るに至った。
図2の(2A)は、本実施形態に係る導体用ペーストを用いて積層インダクター電子部品を製造する積層インダクター電子部品の製造方法(以下、積層インダクター製法という。)により製造された積層インダクター電子部品1を示す。
積層インダクター電子部品1は直方体形状のインダクターチップ本体2を有し、インダクターチップ本体2の両端には表面実装用電極3、4が形成されている。インダクターチップ本体2は導体用ペーストにより形成した導体コイル層を複数積層した積層インダクターを構成している。
図3は積層インダクター製法の製造工程を示す。
工程S1はグリーンシートの作製工程である。グリーンシートは上記の性能試験用のグリーンシートと同様に、磁性粉末、有機バインダ及び溶剤を使用して作製される。グリーンシートは磁性粉末を含む磁性体スラリーを所定の成形方法によって成形した後、乾燥することによって得られる。成形方法には、ドクターブレード法、ロールコーター法、ダイコータ法等を用いることができる。一定速度でベースフィルムを送り出して、フィルム上に磁性体スラリーを一定量塗布した後、乾燥させ、シートが巻き取られる。グリーンシートの厚さは、乾燥後において、例えば、10〜30μmである。
磁性体スラリーの有機バインダ材には種々の高分子樹脂を使用でき、代表的なものであるPVB等のポリビニルアセタール樹脂、ビニルアルコール、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、エチルセルロース、ポリウレタン等を使用することができる。
磁性粉末には、Ni−Cu−Zn系フエライト粉末、Ni−Cu−Zn−Mg系フェライト粉末、Ni−Cu系フェライト粉末等を使用することができる。磁性体ペーストの溶剤には特性に応じて種々の溶剤を使用することができる。該溶剤には、例えば、分散剤や可塑剤を含むことができる。分散剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族類が使用可能である。可塑剤としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート、ベンジルブチルフタレート、アジピン酸ジオクチル、トリエチレングリコールビスエチルヘキサノアート等が使用可能である。
工程S2は積層インダクターに必要なグリーンシートへのビアホールの穴あけ工程である。ビアホールの穴あけは、セラミックグリーンシートにレーザ光を照射する穴形成法によって行われる。該穴あけには金型によるパンチング穴あけ加工法を使用してもよい。ビアホールの大きさは例えば、数10μmである。
工程S3は工程S2でビアホールを形成したグリーンシートに導体パターンを形成する工程である。
導体パターンの形成には本発明に係る導体用ペーストが使用される。即ち、導体用ペーストは、導体用成分、有機溶剤及び各種添加材料を含む。有機溶剤は、上記の性能試験用と同様にテキサノールとプロピオン酸との有機プロピオン酸塩を主成分としている。図3の積層インダクター製法における有機溶剤例としては上記の性能試験と同様のテキサノール含有物を使用している。導体用成分には上記の性能試験で用いたAg粒子の他に、Cu、Au、Ni、Al等の導電性粒子やAg/Pdの合金粒子等を使用することができる。各種添加材料のうち、粘性付与剤としてのエチルセルロースの他、ニトロセルロース、ブチラール、アクリル、アクリルコパイバルサム、ダンマー等を使用することができる。本実施形態に係る積層インダクター製法に用いる有機溶剤には、テキサノール含有物に代えて2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラート含有物を使用することができる。
導体パターンはインダクター素子のコイル導体膜(内部導体)としてスクリーン印刷により数10μmの幅で形成される。コイル導体膜はコ字形ないしスパイラル型に形成される。中間層のセラミックグリーンシートにおける導体パターンの形成と同時に、ビアホール内の導体層用の膜形成も行われる。中間層を上下に挟むためのセラミックグリーンシートに設けるコイル導体膜の一端はチップ区画の端に到達している。
工程S4において、導体パターンが形成されたグリーンシートを積層して作製された生の積層体は熱プレスにより圧着される。熱プレス条件は80℃で1000Kg/cm2である。ついで、工程S5において、圧着した積層体をチップサイズにカッター刃で切断して分離し、積層体チップが作成される。さらに、工程S6において、積層体チップを900℃の高温下で2時間焼成して、焼結体チップが形成される。焼成過程の途中では約400℃で所定時間保持されて有機バインダの放散除去が行われる。最後に、工程S7において、焼結体チップの両端に表面実装用電極が形成されて、積層インダクター電子部品1が得られる。表面実装用電極はAg、Ag/Pd等の導電性電極ペーストを塗布、焼き付けたり、乾式メッキしたりして形成することができる。
上記工程S3は本発明に係る積層インダクター製法における、導体用ペーストをグリーンシートに所定パターンに塗着して未焼成シートを形成する未焼成シート形成工程である。上記工程S4は本発明に係る積層インダクター製法における、該未焼成シートを複数積層して積層中間体(生の積層体)を形成する中間体形成工程である。上記工程S6は未焼成シートを含む積層中間体を焼成して焼結体チップを形成する焼結体形成工程である。
図2の(2B)はインダクターチップ本体2の積層構造を示す。インダクターチップ本体2には、複数の層体5、6、9、12、…、15、17が積層されている。各層体には工程S1〜S6を経てセラミックグリーンシート上に導体パターンが形成されている。層体5、6、9、12、…、15、17のうち、表裏側の層体5、17を除く中間に位置する層体6、9、12、…、15にはコイル状に延びるコイル導体膜7、10、13、…、16が形成されている。コイル導体膜7、10、13、…、16は工程S3で印刷された、本発明に係る導体用ペースト層で構成されている。
中間に位置する層体においてはコイル導体膜10、14等は層体内に形成されている。コイル導体膜10、14等の端部にはビアホール導体8、11、14等が形成されている。層体間において、各コイル導体膜の端部がビアホール導体8、11、14等を介して導通可能に接続されている。中間に位置する層体を上下に挟む層体においてはコイル導体膜7、16はその端部が層体の端縁にまで届くように形成されている。
インダクターチップ本体2は、複数の層体5、6、9、12、…、15、17を積層した焼結体構造を有し、各々コイル状に延びる複数のコイル導体膜7、10、13、…、16をビアホール導体8、11、14等を介して接続することによって、全体として複数ターンのコイル導体が形成されている。層体数はインダクター仕様に応じて設定可能である。
積層インダクター電子部品1に用いた導体用ペーストは、上記各種の性能試験の結果が示すように、シートアタック現象を解消でき、しかもペースト安定性に優れているので、積層インダクターセラミック電子部品の製造工程におけるグリーンシートの更なる薄層化を実現でき、そのうえインダクター素子用導体の薄膜化を進めることができる。例えば、グリーンシートの厚みが1μmから100nmにできる場合には、積層数が2倍から10倍前後の積層型インダクター電子部品を得ることができる。したがって、電子機器の高性能化・小型化に伴う、積層型インダクター電子部品の小型化・高密度化・高機能化の要求に対して、シートアタック現象が極減したグリーンシートを薄層化し多数枚積層することで対応可能になって電子機器の大量生産に貢献することができる。
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。