以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る磁気センサを示す図である。図1を参照して、実施の形態1に係る磁気センサ1について説明する。
図1に示すように、磁気センサ1は、4つの磁気抵抗素子10,20,30,40を含む。磁気センサ1は、これら4つの磁気抵抗素子10,20,30,40を接続してフルブリッジ回路を構成することにより設けられている。
磁気抵抗素子10の一方側には、出力電圧Vout1を取り出すための電極部P1が設けられている。磁気抵抗素子10の他方側には、電源電圧Vddを印加するための電極部P2が設けられている。
磁気抵抗素子20の一方側には、出力電圧Vout2を取り出すための電極部P3が設けられている。磁気抵抗素子20の他方側には、電源電圧Vddを印加するための電極部P2が設けられている。
磁気抵抗素子30の一方側には、グランド電極としての電極部P4が設けられている。磁気抵抗素子30の他方側には、出力電圧Vout1を取り出すための電極部P1が設けられている。
磁気抵抗素子40の一方側には、グランド電極としての電極部P4が設けられている。磁気抵抗素子40の他方側には、出力電圧Vout2を取り出すための電極部P3が設けられている。
磁気抵抗素子10は、第1素子部11、第2素子部12、接続電極部13、複数の第1バーバーポール電極14、および複数の第2バーバーポール電極15を備える。
第1素子部11および第2素子部12は、直線状に並んでいる。第1素子部11は、磁気抵抗素子10の一方側に位置し、第2素子部12は、磁気抵抗素子10の他方側に位置する。
第1素子部11の一端側には、電極部P1が設けられている。第1素子部11の他端側には、接続電極部13が設けられている。第1素子部11は、後述する第1強磁性領域1061(図2参照)を有する。第1強磁性領域1061の磁化方向は、第1素子部11の延在方向に平行となるように固定されている。第1強磁性領域1061の磁化方向は、接続電極部13から電極部P1に向かう方向である。
第1強磁性領域1061上には、複数の第1バーバーポール電極14が設けられている。複数の第1バーバーポール電極14は、電極部P1と接続電極部13との間に配置されている。複数の第1バーバーポール電極14は、互いに離間して設けられている。複数の第1バーバーポール電極14は、互いに平行に設けられている。
複数の第1バーバーポール電極14の各々は、ブリッジ回路において内側から外側に向かうにつれて電極部P1から離れるように傾斜する。複数の第1バーバーポール電極14の各々は、第1素子部11の延在方向に対して45°の角度で傾斜する。
複数の第1バーバーポール電極14が設けられることにより、第1強磁性領域1061を流れる電流は、互いに隣り合う第1バーバーポール電極14間を最短でつなぐ方向に沿って流れる。
第2素子部12の一方端部側には、接続電極部13が設けられている。第2素子部12の他方端部側には、電極部P2が設けられている。第2素子部12は、後述する第2強磁性領域1062(図2参照)を有する。第2強磁性領域1062の磁化方向は、第1素子部11の延在方向に平行となるように固定されている。第2強磁性領域1062の磁化方向は、第1強磁性領域1061の磁化方向と同じ向きである。
第2強磁性領域1062上には、複数の第2バーバーポール電極15が設けられている。複数の第2バーバーポール電極15は、接続電極部13と電極部P2との間に配置されている。複数の第2バーバーポール電極15は、互いに離間して設けられている。複数の第2バーバーポール電極15は、互いに平行に設けられている。
複数の第2バーバーポール電極15の各々は、ブリッジ回路において内側から外側に向うにつれて電極部P1に近づくように傾斜する。複数の第1バーバーポール電極14の各々は、第2素子部12の延在方向に対して45°の角度で傾斜する。
複数の第2バーバーポール電極15が設けられることにより、第2強磁性領域1062を流れる電流は、互いに隣り合う第2バーバーポール電極15間を最短でつなぐ方向に沿って流れる。
第2強磁性領域1062を流れる電流の方向は、第1強磁性領域1061を流れる電流の方向に交差する。第2強磁性領域1062を流れる電流の方向と第1強磁性領域1061を流れる電流の方向とが成す交差角は、たとえば90度である。この交差角は、90度に限定されず、70度以上110度以下であってもよい。
磁気抵抗素子20は、第1素子部21、第2素子部22、接続電極部23、複数の第1バーバーポール電極24、および複数の第2バーバーポール電極25を備える。磁気抵抗素子20は、磁気抵抗素子10と比較した場合に、複数の第1バーバーポール電極24および複数の第2バーバーポール電極25の向きが相違する。その他の構成については、ほぼ同様である。
複数の第1バーバーポール電極24は、第1素子部21上に設けられている。複数の第1バーバーポール電極24は、磁気抵抗素子10の第2バーバーポール電極15と平行である。
複数の第2バーバーポール電極25は、第2素子部22上に設けられている。複数の第2バーバーポール電極25は、磁気抵抗素子10の第1バーバーポール電極14と平行である。
磁気抵抗素子30は、第1素子部31、第2素子部32、接続電極部33、複数の第1バーバーポール電極34、および複数の第2バーバーポール電極35を備える。磁気抵抗素子30は、磁気抵抗素子10と比較した場合に、第1素子部31および第2素子部32の位置、ならびに、複数の第1バーバーポール電極34および複数の第2バーバーポール電極35の向きが相違する。その他の構成については、ほぼ同様である。
第1素子部31は、磁気抵抗素子30の他方側に位置し、第2素子部32は、磁気抵抗素子30の一方側に位置する。
複数の第1バーバーポール電極34は、第1素子部31上に設けられている。複数の第1バーバーポール電極34は、磁気抵抗素子10の第2バーバーポール電極15と平行である。
複数の第2バーバーポール電極35は、第2素子部32上に設けられている。複数の第2バーバーポール電極35は、磁気抵抗素子10の第1バーバーポール電極14と平行である。
磁気抵抗素子40は、第1素子部41、第2素子部42、接続電極部43、複数の第1バーバーポール電極44、および複数の第2バーバーポール電極45を備える。磁気抵抗素子40は、磁気抵抗素子10と比較した場合に、第1素子部41および第2素子部42の位置、ならびに、複数の第1バーバーポール電極44および複数の第2バーバーポール電極45の向きが相違する。その他の構成については、ほぼ同様である。
第1素子部41は、磁気抵抗素子40の他方側に位置し、第2素子部42は、磁気抵抗素子40の一方側に位置する。
複数の第1バーバーポール電極44は、第1素子部41上に設けられている。複数の第1バーバーポール電極44は、磁気抵抗素子10の第1バーバーポール電極14と平行である。
複数の第2バーバーポール電極45は、第2素子部42上に設けられている。複数の第2バーバーポール電極45は、磁気抵抗素子10の第2バーバーポール電極15と平行である。
磁気抵抗素子10,30が、直列接続されることにより、第1の直列回路(ハーフブリッジ回路)が形成される。磁気抵抗素子20,40が、直列接続されることにより、第2の直列回路(ハーフブリッジ回路)が形成される。第1の直列回路(ハーフブリッジ回路)および第2の直列回路(ハーフブリッジ回路)が、並列接続されることにより、フルブリッジ回路が形成される。磁気抵抗素子10,30は、正出力性を有し、磁気抵抗素子20,40は負出力性を有する。
電極部P2と電極部P4との間に電源電圧Vccを印加すると、電極部P1および電極部P3からは、磁界強度に応じて、出力電圧Vout1,Vout2が取り出される。出力電圧Vout1,Vout2は、差動増幅器(不図示)を介して差動増幅される。
図2は、実施の形態1に係る磁気抵抗素子を示す断面図である。図2を参照して、実施の形態1に係る磁気抵抗素子10の詳細な構成について説明する。なお、磁気抵抗素子20,30,40は、磁気抵抗素子10と比較して、上述のようにバーバーポール電極の方向、接続電極部の位置が相違し、その他の構成についてはほぼ同等である。このため、磁気抵抗素子10の構成を代表して説明し、磁気抵抗素子20,30,40の詳細な構成については説明を省略する。
図2に示すように、磁気抵抗素子10は、基板100、絶縁層101、積層体102、第1電極部16、第2電極部17、接続電極部13、複数の第1バーバーポール電極14、複数の第2バーバーポール電極15、および保護層109を備える。
基板100としては、たとえば、シリコン基板が用いられる。また、基板100として、ガラス基板やプラスチック基板などの絶縁性基板が用いられてもよい。この場合には、絶縁層101を省略することができる。
絶縁層101は、基板100の主表面全体を覆うように設けられている。絶縁層101は、たとえば、シリコン酸化膜(SiO2膜)や酸化アルミ膜(Al2O3)が用いられる。絶縁層101は、これらシリコン酸化膜および酸化アルミ膜に限定されず、基板100と絶縁がとれるものであれば適宜採用することができる。絶縁層101は、たとえば、CVD法等によって形成することができる。
積層体102は、たとえば、矩形形状を有する。積層体102は、絶縁層101上に設けられている。積層体102は、下地層103、反強磁性体層104、交換結合磁界調整層105、および強磁性体層106を含む。
下地層103としては、Ta、W、Mo、Cr、Ti、Zr等の金属からなる1つの金属膜や、面心立方晶からなり反強磁性体層104の界面と平行方向に(111)面が優先配向されている金属や合金(例えば、Ni、Au、Ag,Cu,Pt、Ni−Fe、Co−Fe等)からなる1つの金属膜、及びこれらの金属膜が積層された積層膜が用いられる。下地層103は、反強磁性体層104の結晶を適切に成長させるために設けられている。なお、下地層103は、反強磁性体層104の結晶を適切に成長させることができる場合には、省略することができる。
反強磁性体層104は、下地層103上に設けられている。なお、下地層103が省略される場合には、反強磁性体層104は、絶縁層101上に設けられる。
反強磁性体層104は、Ni、Fe、Pd、Pt、およびIrのいずれか1種の元素とMnとを含む合金、PdとPtとMnとを含む合金、またはCrとPtとMnとを含む合金などのMnを含む合金からなる。これら合金は、ブロッキング温度が高いことから、高温まで交換結合磁界が消失しない。このため、磁気抵抗素子10を安定に作動させることができる。
FeとMnとを含む合金、PtとMnとを含む合金、IrとMnとを含む合金およびCrとPtとMnとを含む合金は、組成によって結晶構造が不規則合金であるため、交換結合を生じさせるための熱処理(結晶構造を規則化させるための熱処理)が不要となる。このため、反強磁性体層104として、これら合金を採用した場合には、製造工程を単純化できる。
交換結合磁界調整層105は、反強磁性体層104と強磁性体層106との間に設けられ、反強磁性体層104と強磁性体層106との間に発生する交換結合磁界の大きさを調整する。交換結合磁界調整層105は、たとえばCoもしくはCoを含む合金からなる強磁性体層である。交換結合磁界調整層105は、反強磁性体層104の上面を覆うように反強磁性体層104上に設けられている。
交換結合磁界調整層105を設けて交換結合磁界の大きさを調整することにより、線形的に応答する領域の範囲を調整することができる。これにより、入力ダイナミックレンジの設計の自由度を大きくすることができる。なお、交換結合磁界調整層105は、省略することができる。
たとえば、交換結合磁界調整層105と反強磁性体層104との間に発生する交換結合磁界の大きさは、反強磁性体層104上に直接強磁性体層106を積層した場合に反強磁性体層104と強磁性体層106との間に発生する交換結合磁界の大きさよりも大きいことが好ましい。この場合には、交換結合磁界調整層105を設けることにより、反強磁性体層104から強磁性体層106に作用する交換結合磁界の大きさを大きくすることができる。これにより、線形的に応答する領域の範囲を拡張することができる。
また、CoもしくはCoを含む合金からなる強磁性体層からなる交換結合磁界調整層105を設けることにより、製造工程における熱処理中に、反強磁性体層104に含まれるMnが強磁性体層106に拡散することを防止することができる。これにより、拡散に伴う性能劣化を抑制でき、特性が安定するとともに、信頼性を向上させることができる。
強磁性体層106は、交換結合磁界調整層105上に設けられている。なお、交換結合磁界調整層105が省略される場合には、強磁性体層106は、反強磁性体層104の上面全体を覆うように反強磁性体層104上に設けられる。
強磁性体層106は、CoとFeとを含む合金、NiとFeとを含む合金、NiとCoを含む合金、CoまたはNiを含む金属層など、異方性磁気抵抗効果が生じる材料からなる。NiとFeとを含む合金は、保磁力が小さいため、ヒステリシスを小さくすることができる。
特に、Ni80Fe20、または、Ni80Fe20に近い組成を有するNiとFeとを含む合金は、立方晶の結晶磁気異方性がほぼ0erg/cm3になる。結晶磁気異方性が0erg/cm3になる材料は、結晶磁気異方性による磁化容易軸や磁化困難軸がないため、等方的である。また、上記組成およびこれに近い組成を有するNiとFeとを含む合金では、磁歪もほぼ0になるため、結晶の歪等により磁気弾性的に誘導される磁気異方性が小さい。また、NiとFeとを含む合金等は、磁界中での熱処理により薄膜全体にわたった巨視的な磁化容易軸を簡単に誘導することができるため、薄膜全体にわたる磁化容易軸方向の設計がしやすくなる。
複数の第1バーバーポール電極14は、積層体102上に設けられている。具体的には、複数の第1バーバーポール電極14は、強磁性体層106上に設けられている。複数の第1バーバーポール電極14は、上述のように、電極部P1としての第1電極部16と接続電極部13との間に設けられている。
接続電極部13は、積層体102上に設けられている。具体的には、接続電極部13は、強磁性体層106上に設けられている。接続電極部13は、上述のように、第1電極部16と電極部P2としての第2電極部17との間に設けられている。接続電極部13は、第1電極部16と第2電極部17との間の中央よりも第2電極部17寄りに位置する。
複数の第2バーバーポール電極15は、積層体102上に設けられている。具体的には、複数の第2バーバーポール電極15は、強磁性体層106上に設けられている。第2バーバーポール電極15は、上述のように、接続電極部13と第2電極部17との間に設けられている。
複数の第1バーバーポール電極14、接続電極部13、および複数の第2バーバーポール電極15としては、Al等の電気伝導性の良好な金属が用いられる。複数の第1バーバーポール電極14、接続電極部13、および複数の第2バーバーポール電極15と強磁性体層106との密着性を高めるために、複数の第1バーバーポール電極14、接続電極部13、および複数の第2バーバーポール電極15と強磁性体層106と間に、Tiなどからなる密着層が設けられていてもよい。
積層体102は、外部からの磁界が無い場合には強磁性体層106の磁化方向が積層体102の長手方向と一致するように設けられている。このため、隣り合う2つの第1バーバーポール電極14の間を最短で流れる電流の向き、または隣り合う2つの第2バーバーポール電極15の間を最短で流れる電流の向きと、強磁性体層106の磁化方向とが交差する角度は、45°となる。
なお、強磁性体層106の磁化方向は、反強磁性体層104から作用する交換結合磁界によって積層体102の長手方向に固定されている。
このように強磁性体層106の磁化方向を設定するに際して、まず、真空蒸着法、スパッタ法等を用いて下地層103から強磁性体層106まで形成する。続いて磁界を印加しながら熱処理を行うことで、強磁性体層106と反強磁性体層104の間に交換結合磁界が得られ、強磁性体層106の磁化方向が磁界の方向に固定される。
また、磁界を印加しながら、真空蒸着法、スパッタ法等を用いて下地層103から強磁性体層106まで形成した場合、反強磁性体層104が不規則合金なら、強磁性体層106の磁化方向が、強磁性体層160等と反強磁性体層104の間の交換結合磁界によって磁界の方向に固定されるため、交換結合を生じさせるための熱処理が不要となる。なお、十分な大きさの交換結合磁界を得るために、積層体102を形成した後に、形成中に印加されていた磁界と同じ方向に磁界を印加しながら熱処理を施しても良い。
反強磁性体層104が規則合金である場合、積層体102を形成した後、続いて磁界を印加しながら熱処理を行うことで、強磁性体層106と反強磁性体層104の間に交換結合磁界が得られ、強磁性体層106の磁化方向が磁界の方向に固定される。印加磁界の向きは、形成中に印加されていた磁界と同じ方向にする方がより良い。
強磁性体層106の磁化方向と積層体102の長手方向とが一致するように、積層体102を矩形形状にパターニングする。
第1電極部16は、磁気抵抗素子10の一方側に設けられている。第1電極部16は、一方側に位置する強磁性体層106の上面の一部、および一方側に位置する積層体102の側面を覆うように設けられている。
第2電極部17は、磁気抵抗素子10の他方側に設けられている。第2電極部17は、他方側に位置する強磁性体層106の上面の一部、および他方側に位置する積層体102の側面を覆うように設けられている。
第1電極部16および第2電極部17は、Al等の電気導電性の良好な金属材料からなる。第1電極部16および第2電極部17と強磁性体層106との密着性を高めるために、第1電極部16および第2電極部17と強磁性体層106との間には、Tiなどからなる密着層が設けられていてもよい。
保護層109は、積層体102、複数の第1バーバーポール電極14、接続電極部13、複数の第2バーバーポール電極15、第1電極部16、および第2電極部17を覆うように設けられる。
保護層109には、第1電極部16の一部および第2電極部17の一部が露出するようにコンタクトホール109a,109bが設けられている。保護層109は、たとえばシリコン酸化膜(SiO2)からなり、強磁性体層106などが酸化や腐食することを防ぐために設けられている。なお、保護層109は省略することができる。
ここで、磁気抵抗素子10は、上述のように第1素子部11と第2素子部12とを備える。第1素子部11は、積層体102のうち、その一方端から接続電極部13の一端部が設けられている部分に至るまでの箇所である。すなわち、第1素子部11は、図2に示すR1の範囲に位置する部分の積層体102である。
同様に、第1素子部11に含まれる第1強磁性領域1061は、強磁性体層106のうち、その一方端から、接続電極部13の一端部が設けられている部分に対応する部分に至るまでの箇所である。すなわち、第1素子部11に含まれる第1強磁性領域1061は、図2に示すR1の範囲に位置する部分の強磁性体層106である。
第2素子部12は、積層体102のうち、接続電極部13の他端部が設けられている部分から積層体102の他方端に至るまでの部分である。すなわち、第2素子部12は、図2に示すR2の範囲に位置する部分の積層体102である。第2素子部12に含まれる第2強磁性領域1062とは、R2の範囲に位置する部分の強磁性体層106である。
同様に、第2素子部12に含まれる第2強磁性領域1062は、強磁性体層106のうち、接続電極部13の他端部が設けられている部分に対応する部分から強磁性体層106の他方端に至るまでの部分である。すなわち、第2素子部12に含まれる第2強磁性領域1062とは、R2の範囲に位置する部分の強磁性体層106である。
接続電極部13は、第1強磁性領域1061および第2強磁性領域1062に電気的に接続され、第1素子部11の他端側および第2素子部12の一方端部側を接続する。
図3は、実施の形態1に係る磁気抵抗素子の抵抗変化特性を説明する図である。図3を参照して、実施の形態1に係る磁気抵抗素子10の抵抗変化特性について説明する。なお、図3においては、横軸を磁場とし、縦軸を抵抗値とし、磁場に対する抵抗値の変化を抵抗変化特性として図示している。
一般的に、磁気抵抗素子を電流が流れる方向と、強磁性体層の磁化の向きとが交差する角度をθとすれば、磁気抵抗素子の電気抵抗Rは、R=R0+ΔRcos2θで表され、抵抗変化特性は磁界0を対称として偶関数特性を持つ。
強磁性体層の磁化の向きを固定し、抵抗変化特性を奇関数化した場合であっても、ΔRcos2θの部分を完全に直線化することが困難であり、巨視的に見た場合には、抵抗変化特性は、cos2関数状で表される。
図3に示すように、第1素子部11は、外部磁場に対する抵抗変化特性として、cos2関数状で表される第1抵抗変化特性F1を有する。
第1抵抗変化特性F1は、外部磁場が0となる第1基準点P01に対して、外部磁場の負方向側であって当該第1基準点P01から最も近い第1変曲点P11を有する。また、第1抵抗変化特性F1は、外部磁場が0となる第1基準点P01に対して、外部磁場の正方向側であって当該第1基準点P01から最も近い第2変曲点P12を有する。
たとえば、第1変曲点P11の抵抗値は、第1基準点P01の抵抗値よりも小さくなっている。第2変曲点P12の抵抗値は、第1基準点P01の抵抗値よりも大きくなっている。これにより、第1抵抗変化特性F1から求められる第1最小二乗直線L1は、正の傾きを有する。
第2素子部12においては、第2強磁性領域1062の磁化の向きは、第1素子部11における第1強磁性領域1061の磁化の向きと同じであるが、第2強磁性領域1062を流れる電流の向きは、第1強磁性領域1061を流れる電流の向きが異なる。これにより、第2素子部12は、外部磁場に対する抵抗変化特性として、第1抵抗変化特性F1に合成した場合に、第1抵抗変化特性F1から求められる第1最小二乗直線L1と第1抵抗変化特性F1との乖離量dを軽減する第2抵抗変化特性F2を有する。
たとえば、第2抵抗変化特性F2は、第1抵抗変化特性F1と逆の特性を有する。第2抵抗変化特性F2は、第1抵抗変化特性F1を図3において上下に反転させたような関数状に表される。
第2抵抗変化特性F2は、外部磁場が0となる第2基準点P02に対して、外部磁場の負方向側であって、当該第2基準点P02から最も近い第3変曲点P13を有する。また、第2抵抗変化特性F2は、外部磁場が0となる第2基準点P02に対して、外部磁場の正方向側であって当該第2基準点P02から最も近い第4変曲点P14を有する。
第3変曲点P13の抵抗値は、第2基準点P02の抵抗値よりも大きくなっている。第4変曲点P14の抵抗値は、第2基準点P02の抵抗値よりも小さくなっている。これにより、第2抵抗変化特性F2から求められる第2最小二乗直線L2は、負の傾きを有する。すなわち、第2最小二乗直線の傾きは、第1最小二乗直線L1の傾きの逆となっている。
第1素子部11の第1抵抗変化特性F1と第2素子部12の第2抵抗変化特性F2を合成した合成抵抗変化特性F3が、本実施の形態の磁気抵抗素子10の抵抗変化特性となる。
第2抵抗変化特性F2が、第1抵抗変化特性F1から求められる第1最小二乗直線L1と第1抵抗変化特性F1との乖離量dを軽減する特性を有することにより、第2抵抗変化特性F2と第1抵抗変化特性F1とを合成することで、当該合成抵抗変化特性F3から求められる最小二乗直線L3と合成抵抗変化特性F3との乖離量を、第1素子部11における上記第1最小二乗直線L1と第1抵抗変化特性F1との乖離量よりも小さくすることができる。
この結果、本実施の形態に係る磁気抵抗素子10および磁気センサ1において、出力の線形性を向上させることができる。
さらに、第1抵抗変化特性F1の第1変曲点P11における磁場の値が、第2抵抗変化特性F2の第3変曲点P13における磁場の値に一致し、第1抵抗変化特性F1の第2変曲点P12における磁場の値が、第2抵抗変化特性F2の第4変曲点における磁場の値に一致する場合には、最小二乗直線L3と合成抵抗変化特性F3との乖離量を、第1最小二乗直線L1と第1抵抗変化特性F1との乖離量よりも小さくすることができる。
なお、交換結合磁界強度、第1素子部11および第2素子部12の長さおよび幅、ならびに、第1強磁性領域1061を流れる電流の向きと第2強磁性領域1062を流れる電流の向きとの交差角を適宜調整することにより、上記のように第1変曲点P11の磁場の値と第3変曲点P13の磁場の値とを一致させ、第2変曲点P12の磁場の値と第4変曲点P14の磁場の値とを一致させることができる。第1素子部11と第2素子部12とにおいて、交換結合磁界強度を調整する場合には、第1素子部11、第2素子部12を別途独立して形成してもよいし、強磁性体層106の厚さを部分的に厚くしたり薄くしたりしてもよい。
また、上記磁気抵抗素子10を用いた磁気センサ1において、フルブリッジ回路の出力電圧変化率を大きくするためには、第2素子部12の交換結合磁界強度を第1素子部11の交換結合磁界強度で割った交換結合磁界強度比を大きくし、第2素子部12の長手方向に沿った長さを第1素子部11の長手方向に沿った長さで割った長さ比を小さくすることが好ましい。すなわち、第2素子部12の電気抵抗の値は、第1素子部11の電気抵抗の値よりも小さいことが好ましい。第2素子部12の電気抵抗の値を第1素子部11の電気抵抗の値よりも小さくすることにより、第1素子部11と第2素子部12の合成抵抗値を小さくすることでき、抵抗変化量を合成抵抗値で割った値(センサ出力値)を大きくすることができる。第2素子部12の電気抵抗の値は、第1素子部11の電気抵抗の値の1/10以下であることで、上記センサ出力値をより大きくすることができる。
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る磁気センサを示す図である。図4を参照して、実施の形態2に係る磁気センサ1Aについて説明する。
図4に示すように、実施の形態2に係る磁気センサ1Aは、実施の形態1に係る磁気センサ1と比較した場合に、磁気抵抗素子のパターンおよび磁気抵抗素子の構成が相違する。その他の構成については、ほぼ同様である。
磁気センサ1Aは、4つの磁気抵抗素子10A,20A,30A,40Aを含む。磁気センサ1は、これら4つの磁気抵抗素子10A,20A,30A,40Aを接続してフルブリッジ回路を構成することにより設けられている。
電極部P1,P2,P3,P4は、略矩形形状を描くように配置されている。電極部P1,P2,P3,P4は、略矩形形状の角部にそれぞれ位置する。
磁気抵抗素子10Aは、第1素子部11A、第2素子部12A、および接続電極部13Aを備える。第1素子部11Aの延在方向と、第2素子部12Aの延在方向とは交差する。たとえば、第1素子部11Aの延在方向と、第2素子部12Aの延在方向とは90°の角度で交差する。なお、第1素子部11Aの延在方向と第2素子部12Aの延在方向との交差角は、90°に限定されず、たとえば当該交差角が70度以上110度以下であってもよい。
第1素子部11Aの一端側には、電極部P1が設けられている。第1素子部11Aの他端側には、接続電極部13Aが設けられている。第1素子部11Aは、フルブリッジ回路の外側から内側に向かうにつれて、電極部P1から遠ざかるように傾斜する。
第1素子部11Aは、後述する第1強磁性領域1061(図5参照)を有する。第1強磁性領域1061の磁化方向は、磁石(不図示)によって、第1素子部11Aの延在方向と交差する方向に固定されている。たとえば、第1強磁性領域1061の磁化方向は、第1素子部11Aの延在方向に対して45°の角度で傾斜している。
第1素子部11Aにおいて、第1強磁性領域1061を流れる電流は、第1素子部11Aの延在方向に沿って流れる。第1強磁性領域1061を流れる電流の方向と、第1強磁性領域1061の磁化方向とは交差する。
第2素子部12Aの一方端部側には、接続電極部13Aが設けられている。第2素子部12Aの他方端部側には、電極部P2が設けられている。第2素子部12Aは、フルブリッジ回路の外側から内側に向かうにつれて、電極部P2から遠ざかるように傾斜する。
第2素子部12Aは、後述する第2強磁性領域1062(図5参照)を有する。第2強磁性領域1062の磁化方向は、磁石(不図示)によって、第2素子部12Aの延在方向と交差する方向に固定されている。たとえば、第2強磁性領域1062の磁化方向は、第2素子部12Aの延在方向に対して45°の角度で傾斜している。第2強磁性領域1062の磁化方向は、第1強磁性領域1061の磁化方向と同じ向きである。
第2素子部12Aにおいて、第2強磁性領域1062を流れる電流は、第2素子部12Aの延在方向に沿って流れる。
磁気抵抗素子20Aは、第1素子部21A、第2素子部22A、および接続電極部23Aを備える。磁気抵抗素子20Aは、磁気抵抗素子10Aと比較した場合に、第1素子部21Aおよび第2素子部22Aの延在方向が相違する。その他の構成は、ほぼ同様である。
第1素子部21Aの一端側には、電極部P3が設けられている。第1素子部21Aの他端側には、接続電極部23Aが設けられている。第1素子部21Aは、フルブリッジ回路の外側から内側に向かうにつれて、電極部P3から離れる方向に傾斜する。第1素子部21Aの延在方向は、磁気抵抗素子10の第2素子部12Aの延在方向と平行である。
第2素子部22Aの一方端部側には、接続電極部23Aが設けられている。第2素子部22Aの他方端部側には、電極部P2が設けられている。第2素子部22Aは、フルブリッジ回路の外側から内側に向かうにつれて、電極部P2から遠ざかるように傾斜する。第2素子部22Aの延在方向は、磁気抵抗素子10の第1素子部11Aの延在方向と平行である。
磁気抵抗素子30Aは、第1素子部31A、第2素子部32A、および接続電極部33Aを備える。磁気抵抗素子30Aは、磁気抵抗素子10Aと比較した場合に、第1素子部31Aおよび第2素子部32Aの延在方向が相違する。その他の構成は、ほぼ同様である。
第1素子部31Aの一端側には、接続電極部33Aが設けられている。第1素子部31Aの他端側には、電極部P1が設けられている。第1素子部31Aは、フルブリッジ回路の外側から内側に向かうにつれて、電極部P1から離れる方向に傾斜する。第1素子部31Aの延在方向は、磁気抵抗素子10の第2素子部12Aの延在方向と平行である。
第2素子部32Aの一方端部側には、電極部P4が設けられている。第2素子部32Aの他方端部側には、接続電極部33Aが設けられている。第2素子部32Aは、フルブリッジ回路の外側から内側に向かうにつれて、電極部P4から遠ざかるように傾斜する。第2素子部32Aの延在方向は、磁気抵抗素子10の第1素子部11Aの延在方向と平行である。
磁気抵抗素子40Aは、第1素子部41A、第2素子部42A、および接続電極部43Aを備える。磁気抵抗素子40Aは、磁気抵抗素子10Aと比較した場合に、第1素子部41Aおよび第2素子部42Aの配置が相違する。その他の構成は、ほぼ同様である。
第1素子部41Aの一端側には、接続電極部43Aが設けられている。第1素子部41Aの他端側には、電極部P3が設けられている。第1素子部41Aは、フルブリッジ回路の外側から内側に向かうにつれて、電極部P1から離れる方向に傾斜する。第1素子部41Aの延在方向は、磁気抵抗素子10の第1素子部11Aと平行である。
第2素子部42Aの一方端部側には、電極部P4が設けられている。第2素子部42Aの他方端部側には、接続電極部43Aが設けられている。第2素子部42Aは、フルブリッジ回路の外側から内側に向かうにつれて、電極部P4から遠ざかるように傾斜する。第2素子部42Aの延在方向は、磁気抵抗素子10の第1素子部11Aの延在方向と平行である。
磁気抵抗素子10A,30Aが、直列接続されることにより、第1の直列回路(ハーフブリッジ回路)が形成される。磁気抵抗素子20A,40Aが、直列接続されることにより、第2の直列回路(ハーフブリッジ回路)が形成される。第1の直列回路(ハーフブリッジ回路)および第2の直列回路(ハーフブリッジ回路)が、並列接続されることにより、フルブリッジ回路が形成される。磁気抵抗素子10A,30Aは、正出力性を有し、磁気抵抗素子20A,40Aは負出力性を有する。
電極部P2と電極部P4との間に電源電圧Vccを印加すると、電極部P1および電極部P3からは、磁界強度に応じて、出力電圧Vout1,Vout2が取り出される。出力電圧Vout1,Vout2は、差動増幅器(不図示)を介して差動増幅される。
図5は、実施の形態2に係る磁気抵抗素子を示す断面図である。図5を参照して、実施の形態2に係る磁気抵抗素子10Aについて説明する。
なお、磁気抵抗素子20A,30A,40Aは、磁気抵抗素子10Aと比較して、第1素子部、接続電極部、および第2素子部の配置が相違し、その他の構成についてはほぼ同等である。このため、磁気抵抗素子10Aの構成を代表して説明し、磁気抵抗素子20A,30A,40Aの詳細な構成については説明を省略する。
図5に示すように、磁気抵抗素子10Aは、実施の形態1に係る磁気抵抗素子10と比較した場合に、磁気抵抗素子のパターンおよび磁気抵抗素子の構成が相違する。磁気抵抗素子10Aは、基板100、絶縁層101、積層体102A、接続電極部13A、第1電極部16、第2電極部17、および保護層109を備える。
基板100としては、たとえば、シリコン基板が用いられる。また、基板100として、ガラス基板やプラスチック基板などの絶縁性基板が用いられてもよい。この場合には、絶縁層101を省略することができる。
絶縁層101は、基板100の主表面全体を覆うように設けられている。絶縁層101は、たとえば、シリコン酸化膜(SiO2膜)や酸化アルミ膜(Al2O3)が用いられる。絶縁層101は、これらシリコン酸化膜および酸化アルミ膜に限定されず、基板100と絶縁がとれるものであれば適宜採用することができる。絶縁層101は、たとえば、CVD法等によって形成することができる。
積層体102Aは、第1素子部11Aおよび第2素子部12Aを含む。上述の説明および図4に示すように、第1素子部11Aの延在方向と、第2素子部12Aの延在方向とは交差する。第1素子部11Aおよび第2素子部12Aは、互いに離間して設けられている。第1素子部11Aおよび第2素子部12Aは、積層体102Aの前駆体である積層膜をパターニングすることで形成される。積層膜は、後述する下地層103の前駆体となる下地膜、強磁性体層106の前駆体となる強磁性体膜、および後述するキャップ層107の前駆体となるキャップ膜を積層することで形成される。
積層体102Aは、絶縁層101上に設けられている。積層体102Aは、下地層103、強磁性体層106、およびキャップ層107を有する。
下地層103は、基板100上に設けられている。下地層103としては、たとえばTa、W、Mo、Cr等の金属からなる1つの金属膜を用いることができる。下地層103は、強磁性体層106の結晶を適切に成長させるために設けられている。なお、下地層103は、強磁性体層106の結晶を適切に成長させることができる場合には、省略することができる。
強磁性体層106は、下地層103上に設けられている。なお、下地層103が省略される場合には、強磁性体層106は、絶縁層101上に設けられる。
強磁性体層106は、CoとFeとを含む合金、NiとFeとを含む合金、NiとCoを含む合金、CoまたはNiを含む金属層など、異方性磁気抵抗効果が生じる材料からなる。NiとFeとを含む合金は、保磁力が小さいため、ヒステリシスを小さくすることができる。
なお、強磁性体層106の磁化方向は、磁石(不図示)によって固定されている。第1素子部11Aにおける強磁性体層、すなわち第1強磁性領域1061の磁化方向は、第1素子部11Aの延在方向に対して45°の角度で傾斜している。第2素子部12Aにおける強磁性体層、すなわち第2強磁性領域1062の磁化方向は、第2素子部12Aの延在方向に対して45°の角度で傾斜している。第1強磁性領域1061の磁化方向と第2強磁性領域1062の磁化方向とは同じ向きである。
キャップ層107は、強磁性体層106上に設けられている。キャップ層107としては、Ta等の金属からなる1つの金属膜を用いることができる。なお、キャップ層107は省略することができる。
接続電極部13Aは、第1強磁性領域1061および第2強磁性領域1062に電気的に接続され、第1素子部11の他端側および第2素子部12の一方端部側を接続する。接続電極部13Aは、第1素子部11Aの他端側に位置する上面の一部および第1素子部11Aの他端側の側面、ならびに、第2素子部12Aの一方端部側に位置する上面の一部および第2素子部12Aの他方端部側の側面を覆うように設けられている。接続電極部13Aは、Al等の電気導電性の良好な金属材料からなる。
第1電極部16は、磁気抵抗素子10Aの一方側に設けられている。第1電極部16は、第1素子部11Aの一端側に位置する上面および側面を覆うように設けられている。第1電極部16は、図4においては、電極部P1に相当する。
第2電極部17は、磁気抵抗素子10Aの他方側に設けられている。第2電極部17は、第2素子部12Aの他方端部側に位置する上面および側面を覆うように設けられている。第2電極部17は、図4においては、電極部P2に相当する。
このように構成される場合であっても、第1強磁性領域1061の磁化方向と第2強磁性領域1062の磁化方向とが同じ向きとなる。また、第1強磁性領域1061を流れる電流の方向と第1強磁性領域1061の磁化方向とは交差し、第2強磁性領域1062を流れる電流の方向と第2強磁性領域1062の磁化方向とは交差する。さらに、第1強磁性領域1061を流れる電流の方向と第2強磁性領域1062を流れる電流の方向とが交差する。
これにより、第2素子部12Aが有する外部磁場に対する抵抗変化特性は、第1素子部における外部磁場に対する抵抗変化特性に合成した場合に、第1素子部の抵抗変化特性から求められる最小二乗直線と第1素子部の抵抗変化特性との乖離量を軽減することとなる。
以上の結果、実施の形態2に係る磁気抵抗素子10A、およびこれを備えた磁気センサ1Aは、実施の形態1に係る磁気抵抗素子10、および磁気センサ1とほぼ同様の効果が得られる。
(検証実験)
図6は、実施の形態の効果を検証するために行なった第1実験の結果を示す図である。図6を参照して、実施の形態の効果を検証するために行なった第1実験の結果について説明する。
第1実験においては、実施の形態1に係る磁気抵抗素子10とほぼ同様の構成を有する4種類の磁気抵抗素子を準備した。4種類の磁気抵抗素子としては、第2素子部12の長さを第1素子部11の長さで割った長さ比を0.03、0.05、0.1、0.5とする磁気抵抗素子を準備した。
これら4種類の磁気抵抗素子について、第2素子部12の交換結合磁界強度を第1素子部11の交換結合磁界強度で割った交換結合磁界強度比を変化させ、磁気抵抗素子の抵抗変化特性における直線性を評価した。
直線性の評価としては、磁気抵抗素子の外部磁場に対する抵抗変化特性において、抵抗値の最大値と最小値との差を基準量とした場合に、当該抵抗変化特性から求められる最小二乗直線と所定の磁場における抵抗値との乖離量の絶対値が当該基準量に占める割合(%)を算出した。所定の磁場とは、たとえば−10[mT]や10[mT]である。
直線性を評価した結果、図6に示すように、4種類の磁気抵抗素子の各々において、下に凸となる略V字または略U字形状を有するグラフが得られた。これにより、各磁気抵抗素子にて、当該グラフが極小値を示す交換結合磁化強度比を選択することにより、磁気抵抗素子の抵抗変化特性における直線性、すなわち出力の線形性を効果的に向上できることが確認された。
図7は、実施の形態の効果を検証するために行なった第2実験の結果を示す図である。図7を参照して、実施の形態の効果を検証するために行なった第2実験の結果について説明する。
第2実験においては、実施の形態1に係る磁気抵抗素子10とほぼ同様の構成を有する3種類の磁気抵抗素子を準備した。3種類の磁気抵抗素子としては、第2素子部12の交換結合磁界強度を第1素子部11の交換結合磁界強度で割った交換結合磁界強度比を1.4、3.5、5.5とする磁気抵抗素子を準備した。
これら3種類の磁気抵抗素子について、第2素子部12の長さを第1素子部11の長さで割った長さ比を変化させ、磁気抵抗素子の抵抗変化特性における直線性を評価した。直線性の評価は、上述の第1実験と同様の方法で評価した。
直線性を評価した結果、図7に示すように、3種類の磁気抵抗素子の各々において、下に凸となる略V字形状または略U字形状を有するグラフが得られた。これにより、各磁気抵抗素子にて、当該グラフが極小値を示す長さ比を選択することにより、磁気抵抗素子の抵抗変化特性における直線性、すなわち出力の線形性を効果的に向上できることが確認された。
図8は、実施の形態の効果を検証するために行なった第3実験の結果を示す図である。図8を参照して、実施の形態の効果を検証するために行なった第3実験の結果について説明する。
第3実験においては、実施例1から3に係る磁気抵抗素子、および比較例に係る磁気抵抗素子を準備し、これらについて直線性を評価した。なお、直線性の評価としては、磁気抵抗素子の外部磁場に対する抵抗変化特性において、抵抗値の最大値と最小値との差を基準量とした場合に、当該抵抗変化特性から求められる最小二乗直線と抵抗値との乖離量の絶対値が当該基準量に占める割合(%)を磁場毎に算出した。
実施例1に係る磁気抵抗素子は、実施の形態1に係る磁気抵抗素子とほぼ同様の構成を有する。実施例1に係る磁気抵抗素子においては、第2素子部12の交換結合磁界強度を第1素子部11の交換結合磁界強度で割った交換結合磁界強度比を5.5とし、第2素子部12の長さを第1素子部11の長さで割った長さ比を0.05とした。すなわち図7において、交換結合磁界強度比を5.5とした場合に、グラフが極小値となる長さ比を選定した。
実施例2に係る磁気抵抗素子は、実施の形態1に係る磁気抵抗素子とほぼ同様の構成を有する。実施例1に係る磁気抵抗素子においては、第2素子部12の交換結合磁界強度を第1素子部11の交換結合磁界強度で割った交換結合磁界強度比を3.5とし、第2素子部12の長さを第1素子部11の長さで割った長さ比を0.1とした。すなわち図7において、交換結合磁界強度比を3.5とした場合に、グラフが極小値となる長さ比を選定した。
実施例3に係る磁気抵抗素子は、実施の形態1に係る磁気抵抗素子とほぼ同様の構成を有する。実施例3に係る磁気抵抗素子においては、第2素子部12の交換結合磁界強度を第1素子部11の交換結合磁界強度で割った交換結合磁界強度比を1.4とし、第2素子部12の長さを第1素子部11の長さで割った長さ比を0.5とした。すなわち図7において、交換結合磁界強度比を1.4とした場合に、グラフが極小値となる長さ比を選定した。
比較例に係る磁気抵抗素子は、実施の形態1に係る磁気抵抗素子から第2素子部12を除去した構成、すなわち積層体が第1素子部11のみを備える構成を有する。
実施例1における出力電圧変化率は、6.2(%)となった。また、実施例1における直線性は、比較例における直線性よりも改善されていた。
実施例2における出力電圧変化率は、5.8(%)となった。また、実施例1における直線性は、比較例および実施例1における直線性よりも改善されていた。
実施例3における出力電圧変化率は、2.4(%)となった。また、実施例1における直線性は、比較例および実施例2における直線性よりも改善されていた。
以上のように、実施例1から3と比較例とを比較して、実施の形態1に係る構成を有する磁気抵抗素子にあっては、直線性を改善でき、出力の線形性を向上させることができることが実験的にも確認されたと言える。
また、実施例1から3の結果から、第2素子部12の交換結合磁界強度を第1素子部11の交換結合磁界強度で割った交換結合磁界強度比を大きくし、第2素子部12の長さを第1素子部11の長さで割った長さ比を小さくすることにより、出力電圧変化率を大きくできることが実験的にも確認されたと言える。
図9は、実施の形態の効果を検証するために行なった第4実験例の結果を示す図である。図9を参照して、実施の形態の効果を検証するために行なった第4実験の結果について説明する。
第4実験においては、第3実験の実施例1から3に係る磁気抵抗素子において、第1強磁性領域1061を電流が流れる方向と、第2強磁性領域1062を電流が流れる方向とが交差する交差角を変化させ、磁気抵抗素子の抵抗変化特性における直線性を評価した。
具体的には、実施例1から3に係る磁気抵抗素子において、第1素子部11にて互いに隣り合う第1バーバーポール電極14間を最短でつなぐ方向と第2素子部12にて互いに隣り合う第2バーバーポール電極15間を最短でつなぐ方向とを交差する交差角を変化させ、磁気抵抗素子の抵抗変化特性における直線性を評価した。直線性の評価は、上述の第1実験と同様の方法で評価した。
図9に示すように、実施例1から3に係る磁気抵抗素子の各々において、略U字形状を有するグラフが得られた。このような結果から、第1強磁性領域1061を電流が流れる方向と、第2強磁性領域1062を電流が流れる方向とが交差する交差角70度以上110度以下であることにより、直線性を向上でき、当該交差角が85度以上95度以下となることにより、さらに直線性を向上できることが実験的にも確認されたと言える。
以上、今回発明された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。