本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、粉体(より具体的には、トナーコア、トナー母粒子、外添剤、又はトナー等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から平均的な粒子を相当数選び取って、それら平均的な粒子の各々について測定した値の個数平均である。
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−750」)を用いて測定した値である。また、ガラス転移点(Tg)は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて「JIS(日本工業規格)K7121−2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された2回目昇温時の吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)において、比熱の変化点(ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点)の温度(オンセット温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。また、軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。高化式フローテスターで測定されたS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)において、「(ベースラインストローク値+最大ストローク値)/2」となる温度が、Tm(軟化点)に相当する。また、酸価及び水酸基価の各々の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に従って測定した値である。また、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
帯電性は、何ら規定していなければ、摩擦帯電における帯電性を意味する。摩擦帯電における正帯電性の強さ(又は負帯電性の強さ)は、周知の帯電列などで確認できる。
本願明細書中では、未処理のシリカ粒子も、シリカ基体(未処理のシリカ粒子)に表面処理を施して得たシリカ粒子(表面処理されたシリカ粒子)も、「シリカ粒子」と記載する。また、表面処理により正帯電性が付与されたシリカ粒子を、正帯電性シリカ粒子と記載する場合がある。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。また、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを包括的に「(メタ)アクリロニトリル」と総称する場合がある。また、各化学式中の繰返し単位の添え字「n」は、各々独立して、その繰返し単位の繰返し数(モル数)を示している。何ら規定していなければ、n(繰返し数)は任意である。
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態のトナーは、複数のトナー粒子(それぞれ後述する構成を有する粒子)を含む粉体である。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(例えば、ボールミル)を用いてトナーとキャリアとを混合して2成分現像剤を調製してもよい。高画質の画像を形成するためには、キャリアとしてフェライトキャリアを使用することが好ましい。また、長期にわたって高画質の画像を形成するためには、キャリアコアと、キャリアコアを被覆する樹脂層とを備える磁性キャリア粒子を使用することが好ましい。キャリア粒子に磁性を付与するためには、磁性材料(例えば、フェライト)でキャリアコアを形成してもよいし、磁性粒子を分散させた樹脂でキャリアコアを形成してもよい。また、キャリアコアを被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。なお、2成分現像剤に含まれる正帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により正に帯電する。
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、結着樹脂を含有するコア(以下、トナーコアと記載する)と、トナーコアの表面を覆うシェル層(カプセル層)とを備える。トナーコアは、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)を含有してもよい。シェル層は、実質的に樹脂から構成される。例えば、低温で溶融するトナーコアを、耐熱性に優れるシェル層で覆うことで、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図ることが可能になる。シェル層を構成する樹脂中に添加剤が分散していてもよい。シェル層の表面(又は、シェル層で覆われていないトナーコアの表面領域)に外添剤が付着していてもよい。また、トナーコアの表面に複数のシェル層が積層されてもよい。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。以下、外添剤が付着する前のトナー粒子を、トナー母粒子と記載する。また、シェル層を形成するための材料を、シェル材料と記載する。
本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明する。
まず、電子写真装置の像形成部(帯電装置及び露光装置)が、画像データに基づいて感光体に静電潜像を形成する。続けて、電子写真装置の現像装置(詳しくは、トナーを含む現像剤がセットされた現像装置)が、トナーを感光体に供給して、感光体に形成された静電潜像を現像する。トナーは、感光体に供給される前に、現像装置内のキャリア又はブレードとの摩擦により帯電する。例えば、正帯電性トナーは正に帯電する。現像工程では、感光体の近傍に配置された現像スリーブ(例えば、現像装置内の現像ローラーの表層部)上のトナー(詳しくは、帯電したトナー)が感光体に供給され、供給されたトナーが感光体の静電潜像に付着することで、感光体上にトナー像が形成される。消費されたトナーは、補給用トナーを収容するトナーコンテナから現像装置へ補給される。
続く転写工程では、電子写真装置の転写装置が、感光体上のトナー像を中間転写体(例えば、転写ベルト)に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、電子写真装置の定着装置(定着方式:加熱ローラー及び加圧ローラーによるニップ定着)がトナーを加熱及び加圧して、記録媒体にトナーを定着させる。その結果、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。転写工程の後、感光体上に残ったトナーは、クリーニング部材(例えば、クリーニングブレード)により除去される。なお、転写方式は、感光体上のトナー像を、中間転写体を介さず、記録媒体に直接転写する直接転写方式であってもよい。また、定着方式は、ベルト定着方式であってもよい。
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(以下、基本構成と記載する)を有する静電潜像現像用トナーである。
(トナーの基本構成)
静電潜像現像用トナーが、トナーコアとシェル層とを備えるトナー粒子を複数含む。シェル層は、少なくとも前述の式(1)で表される化合物を含む2種以上のビニル化合物の共重合体を含有する。トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量は、0.10μmol/g以上100μmol/g以下である。なお、未開環のオキサゾリン基の量の測定方法は、後述する実施例で示す方法又はその代替方法である。
ビニル化合物は、ビニル基(CH2=CH−)、又はビニル基中の水素が置換された基を有する化合物(より具体的には、エチレン、プロピレン、ブタジエン、塩化ビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、又はスチレン等)である。ビニル化合物は、上記ビニル基等に含まれる炭素二重結合「C=C」により付加重合して、高分子(樹脂)になり得る。
前述の式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と記載する)は、付加重合により下記式(1−1)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
式(1−1)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1−1)と記載する)は、未開環のオキサゾリン基を有する。未開環のオキサゾリン基は、環状構造を有し、強い正帯電性を示す。未開環のオキサゾリン基は、カルボキシル基、芳香族性スルファニル基、及び芳香族性ヒドロキシル基と反応し易い。例えば、繰返し単位(1−1)が樹脂R0の表面に存在するカルボキシル基と反応すると、下記式(1−2)に示すようにオキサゾリン基が開環し、アミドエステル結合が形成される。以下、式(1−2)で表される繰返し単位を、繰返し単位(1−2)と記載する。
前述の基本構成を有するトナーでは、シェル層が、少なくとも前述の式(1)で表される化合物を含む2種以上のビニル化合物の共重合体(以下、特定共重合体と記載する)を含有する。特定共重合体は、前述の式(1)で表される1種以上のビニル化合物と、1種以上の他のビニル化合物との共重合体である。このため、シェル層を構成する樹脂(詳しくは、特定共重合体)中に繰返し単位(1−1)が存在する。繰返し単位(1−1)のオキサゾリン基は、例えば、トナーコアを構成する結着樹脂の表面に存在する官能基と反応することで開環し、架橋構造を形成し得る。例えば、トナーコアの結着樹脂がポリエステル樹脂である場合には、繰返し単位(1−1)のオキサゾリン基が、ポリエステル樹脂(式(1−2)中に示す樹脂R0)のカルボキシル基と反応して、繰返し単位(1−2)が生成すると考えられる。シェル層のオキサゾリン基がトナーコアの結着樹脂と反応して架橋構造を形成すると、シェル層の正帯電性は弱くなるが、架橋構造によりトナーの耐熱性は向上する傾向がある。
発明者は、上記知見に基づき、シェル層を構成する樹脂(詳しくは、特定共重合体)のオキサゾリン基の開環割合を制御することで、耐熱保存性及び正帯電性に優れるトナーを得ることに成功した。具体的には、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量が0.10μmol/g以上100μmol/g以下である場合、そのトナーは、耐熱保存性、電荷減衰特性、及び帯電立上り特性に優れる(後述する表1及び表2参照)。特定共重合体中に未開環のオキサゾリン基(未反応のオキサゾリン基)を、ある程度残すことで、トナーの帯電立上り特性を向上させることができる。また、特定共重合体のオキサゾリン基をある程度、架橋反応させることで、トナーの耐熱性を向上させることができる。また、オキサゾリン基の開環反応を制御して、特定共重合体中に未開環のオキサゾリン基を残し過ぎないことで、優れた電荷減衰特性を有するトナーが得られる。未開環のオキサゾリン基は高い吸水性を有するため、特定共重合体中に未開環のオキサゾリン基を残し過ぎると、トナーの帯電安定性が悪くなる。
上記基本構成によれば、トナーコアが、負帯電性を有する樹脂(より具体的には、ポリエステル樹脂又はスチレン−アクリル酸系樹脂等)を含有する場合でも、トナーの電荷減衰特性を向上させることが可能になる。なお、正帯電性電荷制御剤としてアミン化合物を使用することで、トナー粒子の正帯電性を向上させることも考えられる。しかし、アミン化合物は水中で正のゼータ電位を有するため、水中で負のゼータ電位を有する樹脂(例えば、ポリエステル樹脂)と一緒に使用した場合、トナー粒子の形成が困難になる。
以下、好適なシェル材料について説明する。
前述の式(1)中、R1は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。R1が置換基を有するアルキル基を表す場合の置換基の例としては、フェニル基が挙げられる。R1としては、水素原子、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基が特に好ましい。
特定共重合体には、化合物(1)以外のビニル化合物(以下、他のビニル化合物と記載する)に由来する繰返し単位も含まれる。他のビニル化合物としては、スチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーからなる群より選択される1種以上のビニル化合物が好ましい。スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、アルキルスチレン(より具体的には、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、又は4−tert−ブチルスチレン等)、ヒドロキシスチレン(より具体的には、p−ヒドロキシスチレン、又はm−ヒドロキシスチレン等)、又はハロゲン化スチレン(より具体的には、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレン等)が挙げられる。また、アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリロニトリル、又は(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
例えば、他のビニル化合物が、アルキル基に置換基を有してもよいアクリル酸アルキルエステルである場合、そのアクリル酸アルキルエステルは、付加重合により、例えば下記式(2)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
式(2)中、R2は、置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。アルキル基としては、炭素数1以上8以下のアルキル基が好ましい。R2が置換基を有するアルキル基を表す場合、アルキル基の置換基としては、ヒドロキシル基が好ましい。R2としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はヒドロキシブチル基が好ましい。
例えば、他のビニル化合物が、置換基を有してもよいメタクリル酸アルキルエステルである場合、置換基を有してもよいメタクリル酸アルキルエステルは、付加重合により、例えば下記式(3)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
式(3)中、R3は、置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。アルキル基としては、炭素数1以上8以下のアルキル基が好ましい。R3が置換基を有するアルキル基を表す場合、アルキル基の置換基としては、ヒドロキシル基が好ましい。R3としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はヒドロキシブチル基が好ましい。
例えば、他のビニル化合物がスチレン系モノマーである場合、スチレン系モノマーは、付加重合により、例えば下記式(4)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
式(4)中、R41〜R47は、各々独立して、水素原子、又は任意の置換基を表す。R41〜R45としては、各々独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、置換基を有してもよいアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基が好ましく、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、又はヒドロキシル基が特に好ましい。R46及びR47としては、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましい。
トナーの耐熱保存性を向上させるためには、トナー母粒子の表面に付着した外添剤が、ガラス転移点100℃以上の架橋樹脂粒子を複数含むことが好ましい。トナーの耐熱保存性と低温定着性との両立を図るためには、架橋樹脂粒子のガラス転移点が150℃以下であることが好ましい。架橋樹脂粒子のガラス転移点が高過ぎると、トナーの低温定着性を阻害する傾向がある。
耐熱保存性と低温定着性と流動性との全てに優れるトナーを得るためには、トナー母粒子の表面に付着した外添剤が、複数の架橋樹脂粒子と、複数の無機粒子とを含み、複数の架橋樹脂粒子及び複数の無機粒子が、トナー母粒子側から、複数の架橋樹脂粒子、複数の無機粒子の順の積重構造を有することが好ましい。
以下、図1及び図2を参照して、前述の基本構成を有するトナーに含まれるトナー粒子の構成の一例について説明する。図1は、前述の基本構成を有するトナーのトナー母粒子の断面構造の一例を示す図である。図2は、上記積重構造(下:架橋樹脂粒子、上:無機粒子)を有するトナー粒子の断面構造の一例を示す図である。
図1に示されるトナー母粒子10は、トナーコア11と、トナーコア11の表面を部分的に覆うシェル層12とを備える。トナーコア11は、例えば、後述する粉砕コアである。トナー母粒子10に外添剤を付着させることで、外添剤を備えるトナー粒子が得られる。例えば、トナー母粒子10の粉体と外添剤(詳しくは、複数の外添剤粒子を含む粉体)とを一緒に攪拌することで、トナー母粒子10の表面に外添剤粒子を付着させることができる。
図2に示す例では、トナー母粒子10の表面に付着した外添剤が、複数の架橋樹脂粒子12aと、複数の無機粒子12bとを含む。複数の架橋樹脂粒子12a及び複数の無機粒子12bは、トナー母粒子10側から、複数の架橋樹脂粒子12a、複数の無機粒子12bの順で積み重なっている。すなわち、架橋樹脂粒子12aは無機粒子12bよりもトナー母粒子10側に位置する。架橋樹脂粒子12aは、トナー母粒子10の表面に付着している。無機粒子12bは、架橋樹脂粒子12aの表面に付着している。ただし、トナー母粒子10の表面領域のうち架橋樹脂粒子12aが存在しない領域においては、トナー母粒子10の表面に無機粒子12bが付着することがある。架橋樹脂粒子12aの一部(底部)は、トナー母粒子10の表層部に埋め込まれていてもよい。架橋樹脂粒子12a上に位置する無機粒子12bは主にファンデルワールス力により架橋樹脂粒子12aに付着すると考えられる。
トナーコアが乾式法により作製されることで、前述の基本構成に規定されるシェル層と、前述の積重構造(下:架橋樹脂粒子、上:無機粒子)との各々にとって、相性の良いトナーコアが得られる傾向がある。特に相性の良いトナーコアは、粉砕法で得られた粉砕コアである。粉砕法は、複数種の材料(樹脂等)を溶融混練して混練物を得る工程と、得られた混練物を粉砕する工程とを経て、粉体(例えば、トナーコア)を得る方法である。なお、本発明の属する技術分野において、トナーコアが、粉砕コア(粉砕トナーとも呼ばれる)と重合コア(重合トナーとも呼ばれる)とに大別されることは周知である。粉砕コアと重合コアとは、粒子形状及び粒子表面の状態などから簡単に判別できる。
トナー母粒子の表面に前述の積重構造(下:架橋樹脂粒子、上:無機粒子)を形成して、耐熱保存性と低温定着性と流動性との全てに優れるトナーを得るためには、トナー母粒子の表面に付着した外添剤が、個数平均1次粒子径70nm以上95nm以下の複数の架橋樹脂粒子(積重構造の下)と、個数平均1次粒子径5nm以上40nm以下の複数のシリカ粒子(積重構造の上)とを含むことが好ましい。耐熱保存性と低温定着性と流動性との全てに優れるトナーを得るためには、架橋樹脂粒子の量がトナー母粒子100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下であり、シリカ粒子の量がトナー母粒子100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下であることが特に好ましい。
トナーを用いて高画質の画像を形成するためには、トナーの体積中位径(D50)が3μm以上10μm未満であることが好ましい。
トナー粒子が外添剤を備えないか、又はトナー粒子の外添剤が無機粒子のみである場合、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、シェル層が、トナーコアの表面全域のうち70%以上95%以下の面積を覆っていることが好ましい。トナー粒子の外添剤がガラス転移点100℃以上の架橋樹脂粒子を含む場合、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、シェル層が、トナーコアの表面全域のうち70%以上80%以下の面積を覆っていることが好ましい。
次に、トナーコア(結着樹脂及び内添剤)、シェル層、及び外添剤について、順に説明する。トナーの用途に応じて必要のない成分を割愛してもよい。
[トナーコア]
(結着樹脂)
トナーコアでは、一般的に、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、水酸基価、酸価、Tg、又はTm等)を調整することができる。結着樹脂がエステル基、ヒドロキシル基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基又はアミド基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。トナーコアとシェル層との結合性(反応性)を高めるためには、結着樹脂の水酸基価及び酸価の少なくとも一方が10mgKOH/g以上であることが好ましい。
トナーコアの結着樹脂としては、熱可塑性樹脂(より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂又はポリエステル樹脂等)が好ましく、ポリエステル樹脂が特に好ましい。
例えば、スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体である。また、ポリエステル樹脂は、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。
ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、ジオール又はビスフェノール等)又は3価以上のアルコールを好適に使用できる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を好適に使用できる。
脂肪族ジオールの好適な例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、α,ω−アルカンジオール(より具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、又は1,12−ドデカンジオール等)、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
ビスフェノールの好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
2価カルボン酸の好適な例としては、芳香族ジカルボン酸(より具体的には、フタル酸、テレフタル酸、又はイソフタル酸等)、α,ω−アルカンジカルボン酸(より具体的には、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又は1,10−デカンジカルボン酸等)、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸等)、又はアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸等)が挙げられる。
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアが、結着樹脂として、炭素数2以上4以下の1種以上の脂肪族ジオール(例えば、プロパンジオール)と、1種以上の芳香族2価カルボン酸(例えば、テレフタル酸)との縮重合物(ポリエステル樹脂)を含有することが特に好ましい。
トナーコアの結着樹脂としてポリエステル樹脂を使用する場合、トナーコアの強度及びトナーの定着性を向上させるためには、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上2000以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は9以上21以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂のMnとMwの測定には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いることができる。
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアのガラス転移点(Tg)が20℃以上55℃以下であることが好ましい。また、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアの軟化点(Tm)が70℃以上105℃以下であることが好ましい。
(着色剤)
トナーコアは、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。着色剤の量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
トナーコアは、黒色着色剤を含有してもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有してもよい。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
(離型剤)
トナーコアは、離型剤を含有してもよい。離型剤は、例えば、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーコアのアニオン性を強めるためには、アニオン性を有するワックスを用いてトナーコアを作製することが好ましい。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素ワックス;酸化ポリエチレンワックス又はそのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物性ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物性ワックス;オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムのような鉱物ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスを好適に使用できる。1種類の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。
結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含有してもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立上り特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立上り特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤(より具体的には、有機金属錯体又はキレート化合物等)を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤(より具体的には、ピリジン、ニグロシン、又は4級アンモニウム塩等)を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
(磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含有してもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、又はこれら金属の1種以上を含む合金等)、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、又は二酸化クロム等)、又は強磁性化処理が施された材料(より具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)を好適に使用できる。1種類の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。また、磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、磁性粉を表面処理することが好ましい。
[シェル層]
前述の基本構成を有するトナーでは、シェル層が、特定共重合体(少なくとも前述の式(1)で表される化合物を含む2種以上のビニル化合物の共重合体)を含有する。シェル層を構成する樹脂(特定共重合体)を合成するためのモノマー(ビニル化合物)の好適な例は、前述したとおりである(式(1)〜式(4)等を参照)。例えば、株式会社日本触媒製の「エポクロス(登録商標)WS−300」は、R1=水素原子の化合物(1)とメタクリル酸メチルとの共重合体(水溶性架橋剤)を含む。シェル層は、化合物(1)のオキサゾリン基により架橋された樹脂を含有することが好ましい。オキサゾリン基は、前述のように樹脂中に架橋構造(ひいては、3次元網目構造)を形成し易い。詳しくは、オキサゾリン基は、カルボキシル基と反応してアミドエステル結合を形成し易い。
[外添剤]
トナー母粒子の表面に外添剤(詳しくは、複数の外添剤粒子を含む粉体)を付着させてもよい。外添剤は、内添剤とは異なり、トナー母粒子の内部には存在せず、トナー母粒子の表面(トナー粒子の表層部)のみに選択的に存在する。例えば、トナー母粒子(詳しくは、複数のトナー母粒子を含む粉体)と外添剤(詳しくは、複数の外添剤粒子を含む粉体)とを一緒に攪拌することで、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を付着させることができる。トナー母粒子と外添剤粒子とは、互いに化学反応せず、化学的ではなく物理的に結合する。トナー母粒子と外添剤粒子との結合の強さは、攪拌条件(より具体的には、攪拌時間、及び攪拌の回転速度等)、外添剤粒子の粒子径、外添剤粒子の形状、及び外添剤粒子の表面状態などによって調整できる。
トナー母粒子の表面に複数の架橋樹脂粒子(外添剤粒子)を付着させてもよい。トナー粒子からの架橋樹脂粒子の脱離を抑制するためには、架橋樹脂粒子がトナー母粒子の表面に強く結合していることが好ましい。埋め込みによる機械的結合で、トナー母粒子の表面に架橋樹脂粒子を固定してもよい。例えば、粒子径の大きい架橋樹脂粒子などについては、トナー母粒子と外添剤とを強く攪拌することで、架橋樹脂粒子の一部(底部)をトナー母粒子の表層部に埋め込み、トナー母粒子の表面に架橋樹脂粒子を固定することができる。ただし、架橋樹脂粒子の粒子径が大き過ぎると、トナー母粒子の表面に架橋樹脂粒子を固定することが難しくなる。感光体等に対するトナーの付着(又は、トナーの凝集)を抑制するためには、深さ方向の長さ割合で架橋樹脂粒子の80%以上がトナー母粒子の表面から突出していることが好ましい。架橋樹脂粒子の深さ方向の全長(球形の場合は、直径)の80%以上が突出していることで、トナー粒子と他の部材(感光体等)との間(又は、トナー粒子同士の間)で架橋樹脂粒子がスペーサーとして機能し易くなる。架橋樹脂粒子の突出量は、顕微鏡によって確認できる。
外添剤粒子によってトナーの流動性を向上させるためには、外添剤粒子がトナー母粒子の表面に弱く結合していること(例えば、粒子径の小さい球状の外添剤粒子が回転可能な状態でトナー母粒子の表面に付着していること)が好ましい。トナー母粒子の表面を外添剤粒子が回転しながら移動できることで、トナーの流動性が向上すると考えられる。トナーの流動性を向上させるための外添剤粒子は、主にファンデルワールス力又は静電気力によってトナー母粒子の表面に付着していることが好ましい。
架橋樹脂粒子(外添剤粒子)は、架橋アクリル酸系樹脂を含有することが好ましい。架橋アクリル酸系樹脂は、帯電性に優れ、メラミン樹脂等と比べて、均一な形状及び寸法を有する微粒子を作製し易い。また、架橋アクリル酸系樹脂は、良好な耐久性及び帯電安定性を有する。
架橋アクリル酸系樹脂は、1種以上のアクリル酸系モノマーと架橋剤との重合物である。架橋アクリル酸系樹脂を合成するためには、例えば以下に示すような、アクリル酸系モノマー及び架橋剤を好適に使用できる。
アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが挙げられる。
架橋剤としては、2個以上の不飽和結合を有する化合物が好ましく、不飽和結合を有する官能基を2個以上有する単環化合物(より具体的には、ジビニルベンゼン等)、又は、それぞれ不飽和結合を有する官能基を有する2以上の1価カルボン酸と1つの多価アルコールとの縮合物(より具体的には、エチレングリコールジメタクリレート、又はブタンジオールジメタクリレート等)が特に好ましい。不飽和結合を有する官能基の例としては、ビニル基(CH2=CH−)、又はビニル基中の水素が置換された官能基が挙げられる。
架橋樹脂粒子(外添剤粒子)の表面に、カチオン界面活性剤(例えば、アルキルベンジルアンモニウム塩)を存在させることで、架橋樹脂粒子の正帯電性を強めることができる。
無機粒子(外添剤粒子)としては、シリカ粒子、又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)の粒子を好適に使用できる。1種類の外添剤を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤を併用してもよい。
外添剤粒子は、表面処理されていてもよい。例えば、外添剤粒子としてシリカ粒子を使用する場合、表面処理剤によりシリカ粒子の表面に疎水性及び/又は正帯電性が付与されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、カップリング剤(より具体的には、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又はアルミネートカップリング剤等)、シラザン化合物(例えば、鎖状シラザン化合物又は環状シラザン化合物)、又はシリコーンオイル(より具体的には、ジメチルシリコーンオイル等)を好適に使用できる。表面処理剤としては、シランカップリング剤又はシラザン化合物が特に好ましい。シランカップリング剤の好適な例としては、シラン化合物(より具体的には、メチルトリメトキシシラン又はアミノシラン等)が挙げられる。シラザン化合物の好適な例としては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)が挙げられる。シリカ基体(未処理のシリカ粒子)の表面が表面処理剤で処理されると、シリカ基体の表面に存在する多数の水酸基(−OH)が部分的に又は全体的に、表面処理剤に由来する官能基に置換される。その結果、表面処理剤に由来する官能基(詳しくは、水酸基よりも疎水性及び/又は正帯電性の強い官能基)を表面に有するシリカ粒子が得られる。
[トナーの製造方法]
以下、前述の基本構成を有するトナーを製造する方法の一例について説明する。まず、トナーコアを準備する。続けて、液に、トナーコアと、シェル材料(例えば、オキサゾリン基含有水溶性高分子)とを入れる。続けて、液中でシェル材料を反応させて、トナーコアの表面に、実質的に樹脂から構成されるシェル層を形成する。前述の基本構成を有するトナーを得るためには、塩基性物質(より具体的には、アンモニア、又は水酸化ナトリウム等)及び/又は開環剤(より具体的には、酢酸等)を含む液中でトナーコアの表面にシェル層を形成することが好ましい。塩基性物質及び開環剤の各々の量を変えることで、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量を調整できる。液中における塩基性物質の量が多いほど未開環のオキサゾリン基の量が増える傾向がある。塩基性物質がカルボン酸を中和(トラップ)することで、オキサゾリン基の開環反応(カルボニル基への求核付加反応)が抑制されると考えられる。他方、開環剤はオキサゾリン基の開環反応を促進するため、液中における開環剤の量が多いほど未開環のオキサゾリン基の量が減る傾向がある。
均質なシェル層を形成するためには、シェル材料を含む液を攪拌するなどして、シェル材料を液に溶解又は分散させることが好ましい。また、シェル層形成時におけるトナーコア成分(特に、結着樹脂及び離型剤)の溶解又は溶出を抑制するためには、水性媒体中でシェル層を形成することが好ましい。水性媒体は、水を主成分とする媒体(より具体的には、純水、又は水と極性媒体との混合液等)である。水性媒体は溶媒として機能してもよい。水性媒体中に溶質が溶けていてもよい。水性媒体は分散媒として機能してもよい。水性媒体中に分散質が分散していてもよい。水性媒体中の極性媒体としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール又はエタノール等)を使用できる。水性媒体の沸点は約100℃である。
以下、より具体的な例に基づいて、トナーの製造方法についてさらに説明する。
(トナーコアの準備)
好適なトナーコアを容易に得るためには、凝集法又は粉砕法によりトナーコアを製造することが好ましく、粉砕法によりトナーコアを製造することがより好ましい。
以下、粉砕法の一例について説明する。まず、結着樹脂と、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)とを混合する。続けて、得られた混合物を溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕し、得られた粉砕物を分級する。その結果、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
以下、凝集法の一例について説明する。まず、結着樹脂、離型剤、及び着色剤の各々の微粒子を水性媒体中で凝集させて、結着樹脂、離型剤、及び着色剤を含む凝集粒子を得る。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。その結果、トナーコアの分散液が得られる。その後、トナーコアの分散液から、不要な物質(界面活性剤等)を除去することで、トナーコアが得られる。
(シェル層の形成)
続けて、水性媒体(例えば、イオン交換水)に、トナーコアと、シェル材料(例えば、オキサゾリン基含有高分子水溶液)とを添加する。
シェル材料(例えば、水性媒体中で溶解したオキサゾリン基含有高分子)は、液中でトナーコアの表面に付着する。トナーコアの表面に均一にシェル材料を付着させるためには、シェル材料を含む液中にトナーコアを高度に分散させることが好ましい。液中にトナーコアを高度に分散させるために、液中に界面活性剤を含ませてもよいし、強力な攪拌装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスディスパーミックス」)を用いて液を攪拌してもよい。
続けて、水性媒体に、塩基性物質(例えば、アンモニア水溶液)をさらに添加する。塩基性物質の添加量を制御することで、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量を調整できる。また、開環剤(例えば、酢酸)をさらに添加してもよい。開環剤の添加量を制御することで、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量を調整できる。
続けて、上記シェル材料等を含む液を攪拌しながら液の温度を所定の速度(例えば、0.1℃/分以上3℃/分以下から選ばれる速度)で所定の保持温度(例えば、50℃以上85℃以下から選ばれる温度)まで上昇させる。さらに、液を攪拌しながら液の温度を上記保持温度に所定の時間(例えば、30分間以上4時間以下から選ばれる時間)保つ。液の温度を高温に保っている間(又は、昇温中)に、トナーコアとシェル材料との間で反応(シェル層の固定化)が進行すると考えられる。例えば、シェル材料のオキサゾリン基が、トナーコアを構成する結着樹脂の表面に存在する官能基と反応することで開環し、架橋構造を形成すると考えられる。シェル材料がトナーコアと結合することで、シェル層が形成される。液中でトナーコアの表面にシェル層が形成されることで、トナー母粒子の分散液が得られる。
上記シェル層の形成後、例えば水酸化ナトリウムを用いてトナー母粒子の分散液を中和する。続けて、トナー母粒子の分散液を、例えば常温(約25℃)まで冷却する。続けて、例えばブフナー漏斗を用いて、トナー母粒子の分散液をろ過する。これにより、トナー母粒子が液から分離(固液分離)され、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られる。
続けて、トナー母粒子を洗浄する。続けて、洗浄されたトナー母粒子を乾燥する。その後、必要に応じて、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いてトナー母粒子と外添剤とを混合して、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。なお、乾燥工程でスプレードライヤーを用いる場合には、外添剤(例えば、シリカ粒子)の分散液をトナー母粒子に噴霧することで、乾燥工程と外添工程とを同時に行うことができる。こうして、トナー粒子を多数含むトナーが製造される。
トナー母粒子の表面に前述の積重構造(下:架橋樹脂粒子、上:無機粒子)を形成する場合には、例えばFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いてトナー母粒子(粉体)と架橋樹脂粒子(粉体)とを混合することで、トナー母粒子の表面に複数の架橋樹脂粒子を付着させることができる。以下、表面に架橋樹脂粒子が付着したトナー母粒子を、第1外添後トナー母粒子と記載する。続けて、例えばFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて第1外添後トナー母粒子(粉体)と無機粒子(粉体)とを混合することで、トナー母粒子の表面に前述の積重構造(下:架橋樹脂粒子、上:無機粒子)を形成することができる。
FMミキサーは、温度調節用ジャケット付きの混合槽を備え、混合槽内に、デフレクタと、温度センサーと、上羽根と、下羽根とをさらに備える。FMミキサーを用いて、混合槽内に投入された材料(より具体的には、粉体又はスラリー等)を混合する場合、下羽根の回転により、混合槽内の材料が旋回しながら上下方向に流動する。これにより、混合槽内に材料の対流が生じる。上羽根は、高速回転して、材料に剪断力を与える。FMミキサーは、材料に剪断力を与えることで、強力な混合力で材料を混合することを可能にしている。
なお、上記トナーの製造方法の内容及び順序はそれぞれ、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更することができる。例えば、シェル材料及びトナーコアは、まとめて同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、シェル材料を、一度に液に添加してもよいし、複数回に分けて液に添加してもよい。また、液中で材料(例えば、シェル材料)を反応させる場合、液に材料を添加した後、所定の時間、液中で材料を反応させてもよいし、長時間かけて液に材料を添加して、液に材料を添加しながら液中で材料を反応させてもよい。また、外添工程の後で、トナーを篩別してもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。例えば、市販品をそのまま材料として用いることができる場合には、市販品を用いることで、その材料を調製する工程を割愛できる。また、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させない(外添工程を割愛する)場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。樹脂を合成する場合、樹脂を合成するための材料としては、モノマーを使用してもよいし、プレポリマーを使用してもよい。また、所定の化合物を得るために、原料として、その化合物の塩、エステル、無水物、又は水和物を使用してもよい。各種材料は、固体状態で使用してもよいし、液体状態で使用してもよい。例えば、固体状態の材料の粉末を使用してもよいし、材料の溶液(溶剤に溶かした液体状態の材料)を使用してもよいし、材料の分散液(液中で溶けずに分散している材料)を使用してもよい。効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。同時に製造されたトナー粒子は、互いに略同一の構成を有すると考えられる。
以下、実施例又は比較例に係るトナー(それぞれ静電潜像現像用トナー)の製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。
評価1
評価1では、表1に示すトナーTA−1〜TA−8(それぞれ静電潜像現像用トナー)を評価した。
[トナーの製造方法]
(トナーコアの作製)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、精留塔、及び攪拌装置を備えた容量5Lの反応容器を油浴にセットし、その容器内に、プロパンジオール1200gと、テレフタル酸1700gと、エステル化触媒(2−エチルヘキサン酸錫(II))3gとを入れた。続けて、油浴を用いて容器内の温度を230℃に昇温させて、窒素雰囲気かつ温度230℃の条件で、容器内容物を15時間反応(詳しくは、縮合反応)させた。続けて、容器内を減圧し、減圧雰囲気(圧力8.0kPa)かつ温度230℃の条件で、反応生成物(ポリエステル樹脂)のTmが所定の温度(90℃)になるまで、容器内容物を反応させた。その結果、Tm90℃のポリエステル樹脂が得られた。
結着樹脂(上記のようにして得たポリエステル樹脂)80質量部と、離型剤(融点73℃のエステルワックス:日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−3」)9質量部と、カーボンブラック(三菱化学株式会社製「MA100」)9質量部とを、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−20B」)を用いて回転速度2000rpmの条件で4分間混合した。
続けて、得られた混合物を、二軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、軸回転速度150rpm、設定温度範囲(シリンダー温度)100℃、処理速度100g/分の条件で溶融混練した。続けて、得られた溶融混練物を冷却した。続けて、冷却された溶融混練物を、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて、設定粒子径2mmの条件で粗粉砕した。さらに、得られた粗粉砕物を、粉砕機(フロイント・ターボ株式会社製「ターボミル RS型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、体積中位径(D50)6.7μm、Tm90℃、Tg49℃のトナーコアが得られた。
次に、シェル層形成工程について説明する。なお、トナーTA−6の製造では、下記シェル層形成工程を行わなかった。トナーTA−6では、トナーコアがトナー母粒子に相当する。
(シェル層形成工程)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内にイオン交換水300gを入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、表1に示される量のオキサゾリン基含有高分子水溶液(株式会社日本触媒製「エポクロスWS−300」、固形分濃度:10質量%、Tg:90℃)をフラスコ内に加えた後、フラスコ内容物を十分攪拌した。なお、表1中の量は、後で添加されるトナーコアの量(300g)に対するオキサゾリン基含有樹脂の割合(単位:質量%)を示している。例えば、トナーTA−1の製造では、オキサゾリン基含有高分子水溶液(エポクロスWS−300)を30g添加した。この添加量(30g)は、「トナーコアの量(300g)×表1中の量(0.01)/固形分濃度(0.1)=30g」のように求められる。
続けて、フラスコ内に、前述の手順で作製したトナーコア300gを添加し、回転速度200rpmでフラスコ内容物を1時間攪拌した。その後、フラスコ内にイオン交換水300gを添加した。
続けて、濃度1質量%アンモニア水溶液と、濃度99質量%の酢酸とを、それぞれ表1に示される量だけフラスコ内に添加した。例えば、トナーTA−1の製造では、アンモニア水溶液6mLをフラスコ内に添加し、酢酸は添加しなかった。また、トナーTA−5の製造では、アンモニア水溶液6mL及び酢酸2mLをフラスコ内に添加した。
続けて、回転速度150rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、フラスコ内の温度を0.5℃/分の速度で60℃まで昇温させた。続けて、回転速度100rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、その温度(60℃)に1時間保った。
続けて、フラスコ内に濃度1質量%アンモニア水溶液を加えて、フラスコ内容物のpHを7に調整した。続けて、フラスコ内容物をその温度が常温(約25℃)になるまで冷却して、トナー母粒子を含む分散液を得た。
(洗浄工程)
上記のようにして得られたトナー母粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)して、ウェットケーキ状のトナー母粒子を得た。その後、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを5回繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。
(乾燥工程)
続けて、得られたトナー母粒子を、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させた。これにより、トナー母粒子のスラリーが得られた。続けて、連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)を用いて、熱風温度45℃かつブロアー風量2m3/分の条件で、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。その結果、トナー母粒子の粉体が得られた。
(外添工程)
続けて、得られたトナー母粒子を外添処理した。詳しくは、トナー母粒子100質量部と、正帯電性シリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」、内容:表面処理により正帯電性が付与された乾式シリカ粒子、個数平均1次粒子径:20nm)1質量部とを、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて5分間混合することにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子)を付着させた。続けて、得られた粉体を、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。その結果、多数のトナー粒子を含むトナー(トナーTA−1〜TA−8)が得られた。
上記のようにして得られたトナーTA−1〜TA−8の各々に関して、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量を測定した。詳しくは、検量線(標準物質に基づく検量線)を用いて下記条件でGC/MS法による定量分析を行った。その測定結果は、表1に示すとおりであった。例えば、トナーTA−1に関しては、未開環のオキサゾリン基の量がトナー1gに対して0.16μmolであった。
<GC/MS法>
測定装置としては、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS−QP2010 Ultra」)及びマルチショット・パイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社製「FRONTIER LAB Multi−functional Pyrolyzer(登録商標)PY−3030D」)を用いた。カラムとしては、GCカラム(アジレント・テクノロジー社製「Agilent(登録商標)J&W ウルトライナートキャピラリGCカラム DB−5ms」、相:シロキサンポリマーにアリレンを入れてポリマーの主鎖を強化したアリレン相、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm、長さ:30m)を用いた。
(ガスクロマトグラフ)
・キャリアガス:ヘリウム(He)ガス
・キャリア流量:1mL/分
・気化室温度:210℃
・熱分解温度:加熱炉「600℃」、インターフェイス部「320℃」
・昇温条件:40℃で3分間保持した後、40℃から速度10℃/分で320℃まで昇温し、320℃で15分間保持した。
(質量分析)
・イオン化法:EI(Electron Impact)法
・イオン源温度:200℃
・インターフェイス部の温度:320℃
・検出モード:スキャン(測定範囲:45m/z〜500m/z)
[評価方法]
各試料(トナーTA−1〜TA−8)の評価方法は、以下の通りである。
(耐熱保存性)
試料(トナー)2gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて、その容器を、58℃に設定された恒温器内に3時間静置した。その後、恒温器から取り出して、容器内に評価用トナーを得た。
続けて、得られた評価用トナーを質量既知の100メッシュ(目開き150μm)の篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に上記篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。そして、篩別後に、トナーを含む篩の質量を測定することで、篩上に残留したトナー(篩を通過しなかったトナー)の質量を求めた。篩別前のトナーの質量と、篩別後のトナーの質量(篩別後に篩上に残留したトナーの質量)とから、次の式に基づいて凝集率(単位:質量%)を求めた。
凝集率=100×篩別後のトナーの質量/篩別前のトナーの質量
凝集率が10質量%未満であれば○(良い)と評価し、凝集率が10質量%以上であれば×(良くない)と評価した。
(電荷減衰特性)
試料(トナー)の電荷減衰定数αは、静電気拡散率測定装置(株式会社ナノシーズ製「NS−D100」)を用いて、JIS(日本工業規格)C 61340−2−1−2006に準拠した方法で測定した。以下、トナーの電荷減衰定数の測定方法について詳述する。
測定セルに試料(トナー)を入れた。測定セルは、内径10mm、深さ1mmの凹部が形成された金属製のセルであった。スライドガラスを用いて試料を上から押し込み、セルの凹部に試料を充填した。セルの表面においてスライドガラスを往復移動させることによって、セルから溢れた試料を除去した。試料の充填量は0.04g以上0.06g以下であった。
続けて、試料(トナー)が充填された測定セルを、温度32℃かつ湿度80%RHの環境下で12時間静置した。続けて、温度32℃かつ湿度80%RHの環境下において、接地させた測定セルを静電気拡散率測定装置内に置き、コロナ放電によって試料にイオンを供給して、試料を帯電させた。プローブギャップは1mmであり、帯電時間は0.5秒間であった。そして、コロナ放電終了後0.7秒経過した後から、サンプリング周波数1Hzの条件で、試料の表面電位を連続的に測定した。測定された表面電位と、式「V=V0exp(−α√t)」とに基づいて、電荷減衰定数(電荷減衰速度)αを算出した。式中、Vは表面電位[V]、V0は初期表面電位[V]、tは減衰時間[秒]をそれぞれ示す。
電荷減衰定数が、0.030未満であれば○(良い)と評価し、0.030以上であれば×(良くない)と評価した。
(評価用現像剤の調製)
温度25℃かつ湿度50%RHの環境下で、現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa7551ci」用キャリア)100質量部と、試料(トナー)8質量部とを、混合機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「ターブラー(登録商標)ミキサー」)を用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を得た。
(帯電立上り特性)
上記評価用現像剤を調製した直後に、Q/mメーター(トレック社製「MODEL 210HS−1」)を用いて、次に示す条件で評価用現像剤中のトナーの帯電量を測定した。
<現像剤中のトナーの帯電量の測定方法>
Q/mメーターの測定セルに測定対象(現像剤:トナー及びキャリア)0.10gを投入し、投入された現像剤のうちトナーのみを篩(金網)を介して10秒間吸引した。そして、式「吸引されたトナーの総電気量(単位:μC)/吸引されたトナーの質量(単位:g)」に基づいて、現像剤中のトナーの帯電量(単位:μC/g)を算出した。
上記のようにして測定された帯電量が、20μC/g以上であれば○(良い)と評価し、20μC/g未満であれば×(良くない)と評価した。
(低温定着性)
評価機としては、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着装置(ニップ幅8mm)を有するカラープリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」を改造して定着温度を変更可能にした評価機)を用いた。前述の手順で調製した評価用現像剤を評価機の現像装置に投入し、試料(補給用トナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。
上記評価機を用いて、温度25℃かつ湿度50%RHの環境下、坪量90g/m2の紙(A4サイズの普通紙)に、線速200mm/秒、トナー載り量1.0mg/cm2の条件で、大きさ25mm×25mmのソリッド画像(詳しくは、未定着のトナー像)を形成した。続けて、画像が形成された紙を評価機の定着装置に通した。
定着温度100℃以上200℃以下の範囲で最低定着温度を測定した。詳しくは、定着装置の定着温度を100℃から1℃ずつ上昇させて、ソリッド画像(トナー像)を紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。トナーを定着させることができたか否かは、折擦り試験で確認した。詳しくは、定着装置に通した評価用紙を、画像を形成した面が内側となるように折り曲げ、布帛で被覆した1kgの分銅を用いて、折り目上の画像を5往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が形成された部分)を観察した。そして、折り曲げ部のトナーの剥がれの長さ(剥がれ長)を測定した。剥がれ長が1mm以下となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。最低定着温度が、130℃未満であれば○(良い)と評価し、130℃以上であれば×(良くない)と評価した。
[評価結果]
トナーTA−1〜TA−8の各々についての評価結果(耐熱保存性:凝集率、帯電立上り特性:帯電立上り定数、電荷減衰特性:電荷減衰定数、低温定着性:最低定着温度)を、表2に示す。
トナーTA−1〜TA−5(実施例1〜5に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、トナーTA−1〜TA−5ではそれぞれ、シェル層が、少なくとも前述の式(1)で表される化合物を含む2種以上のビニル化合物の共重合体(詳しくは、R1=水素原子の化合物(1)とメタクリル酸メチルとの共重合体)を含有していた。また、表1に示されるように、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量は、0.10μmol/g以上100μmol/g以下であった。表2に示されるように、トナーTA−1〜TA−5はそれぞれ、耐熱保存性、帯電立上り特性、電荷減衰特性、及び低温定着性に優れていた。
トナー粒子のSEM撮影像を画像解析したところ、トナーTA−1〜TA−5のいずれにおいても、シェル層が、トナーコアの表面全域のうち70%以上80%以下の面積を覆っていた。
なお、トナーTA−1の製造方法において、シェル層形成工程で、オキサゾリン基含有高分子水溶液(エポクロスWS−300)に加えて、さらにスチレン系モノマー(例えば、スチレン)を添加した場合、シェル層が、R1=水素原子の化合物(1)とメタクリル酸メチルとスチレン系モノマーとの共重合体を含有することになる。こうした製造方法でも、トナーTA−1と略同等の特性を有するトナーを製造することができる。
評価2
評価2では、表3に示すトナーTB−1〜TB−14(それぞれ静電潜像現像用トナー)を評価した。
[外添剤:樹脂粒子の準備]
(架橋樹脂粒子Aの作製)
攪拌装置、窒素導入管、温度計、及びコンデンサー(熱交換器)を備えた容量3Lのフラスコ内に、イオン交換水1000gと、カチオン界面活性剤(日本乳化剤株式会社製「テクスノール(登録商標)R5」、成分:アルキルベンジルアンモニウム塩)4gとを入れて、30分間の窒素置換を行った。アルキルベンジルアンモニウム塩は、乳化剤として機能すると考えられる。
続けて、フラスコ内に過硫酸カリウム2gを入れて、フラスコ内容物を攪拌しながら過硫酸カリウムを溶解させた。続けて、窒素雰囲気で、フラスコ内容物を攪拌しながらフラスコ内容物の温度を80℃に上昇させた。そして、フラスコ内容物の温度が80℃に到達した時点で、フラスコ内にメタクリル酸メチル250gと1,4−ブタンジオールジメタクリレート4gとの混合物の滴下を開始し、フラスコ内容物を回転速度300rpmで攪拌しながら2時間かけて上記混合物の全量を滴下した。滴下終了後、フラスコ内容物の温度を80℃に保って、フラスコ内容物をさらに8時間攪拌した。続けて、フラスコ内容物を常温(約25℃)まで冷却して、架橋樹脂粒子のエマルションを得た。続けて、得られたエマルションを乾燥して、架橋樹脂粒子A(粉体)を得た。得られた架橋樹脂粒子Aに関して、個数平均粒子径は84nmであり、ガラス転移点(Tg)は114℃であった。架橋樹脂粒子の表面にはカチオン界面活性剤(アルキルベンジルアンモニウム塩)が付着していた。
(架橋樹脂粒子Bの作製)
架橋樹脂粒子Bの作製方法は、1,4−ブタンジオールジメタクリレート4gに代えて、エチレングリコールジメタクリレート5gを使用した以外は、架橋樹脂粒子Aの作製方法と同じであった。得られた架橋樹脂粒子Bに関して、個数平均粒子径は90nmであり、ガラス転移点(Tg)は130℃であった。架橋樹脂粒子の表面にはカチオン界面活性剤(アルキルベンジルアンモニウム塩)が付着していた。
(架橋樹脂粒子Cの作製)
架橋樹脂粒子Cの作製方法は、エチレングリコールジメタクリレートの添加量を5gから1gに変更した以外は、架橋樹脂粒子Bの作製方法と同じであった。得られた架橋樹脂粒子Cに関して、個数平均粒子径は81nmであり、ガラス転移点(Tg)は91℃であった。架橋樹脂粒子の表面にはカチオン界面活性剤(アルキルベンジルアンモニウム塩)が付着していた。
[トナーTB−1〜TB−14の製造方法]
トナーTB−1、TB−6、及びTB−11の製造方法はそれぞれ、トナー母粒子(粉体)作製後の外添工程を下記内容に変更した以外は、トナーTA−1の製造方法と同じであった。
トナーTB−2及びTB−7の製造方法はそれぞれ、トナー母粒子(粉体)作製後の外添工程を下記内容に変更した以外は、トナーTA−2の製造方法と同じであった。
トナーTB−3及びTB−8の製造方法はそれぞれ、トナー母粒子(粉体)作製後の外添工程を下記内容に変更した以外は、トナーTA−3の製造方法と同じであった。
トナーTB−4及びTB−9の製造方法はそれぞれ、トナー母粒子(粉体)作製後の外添工程を下記内容に変更した以外は、トナーTA−4の製造方法と同じであった。
トナーTB−5及びTB−10の製造方法はそれぞれ、トナー母粒子(粉体)作製後の外添工程を下記内容に変更した以外は、トナーTA−5の製造方法と同じであった。
トナーTB−12の製造方法は、トナー母粒子(粉体)作製後の外添工程を下記内容に変更した以外は、トナーTA−6の製造方法と同じであった。
トナーTB−13の製造方法は、トナー母粒子(粉体)作製後の外添工程を下記内容に変更した以外は、トナーTA−8の製造方法と同じであった。
トナーTB−14の製造方法は、トナー母粒子(粉体)作製後の外添工程を下記内容に変更した以外は、トナーTA−7の製造方法と同じであった。
(外添工程)
トナー母粒子100質量部と、表3中の「樹脂粒子(外添)」に示す架橋樹脂粒子(各トナーに定められた、架橋樹脂粒子A〜Cのいずれか)1.25質量部とを、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて1分間混合した。これにより、第1外添後トナー母粒子(表面に架橋樹脂粒子が付着したトナー母粒子)が得られた。続けて、第1外添後トナー母粒子101.25質量部(=100質量部+1.25質量部)と、正帯電性シリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL REA90」、内容:表面処理により正帯電性が付与された乾式シリカ粒子、個数平均1次粒子径:20nm)1質量部と、導電性酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC−100」、基体:TiO2粒子、被覆層:SbドープSnO2膜、個数平均1次粒子径:約0.35μm)0.5質量部とを、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて5分間混合することにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子及び酸化チタン粒子)を付着させた。続けて、得られた粉体を、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。その結果、多数のトナー粒子を含むトナー(トナーTB−1〜TB−14)が得られた。
上記のようにして得られたトナーTB−1〜TB−14の各々に関して、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量(測定方法:評価1と同じ)は、表3に示すとおりであった。例えば、トナーTB−1に関しては、未開環のオキサゾリン基の量がトナー1gに対して0.16μmolであった。
[評価方法]
各試料(トナーTB−1〜TB−14)の評価方法は、以下の通りである。
(耐熱保存性)
耐熱保存性の評価方法は、恒温器の設定温度を58℃から60℃に変更した以外は、評価1と同じであった。測定された凝集率が、25質量%以下であれば○(良い)と評価し、25質量%超であれば×(良くない)と評価した。
(低温定着性)
低温定着性の評価方法は、評価1と同じであった。測定された最低定着温度が、130℃未満であれば○(良い)と評価し、130℃以上であれば×(良くない)と評価した。
(帯電立上り特性)
帯電立上り特性の評価方法は、評価1と同じであった。測定された帯電量が、20μC/g以上であれば○(良い)と評価し、20μC/g未満であれば×(良くない)と評価した。
(電荷減衰特性)
電荷減衰特性の評価方法は、評価1と同じであった。測定された電荷減衰定数が、0.030未満であれば○(良い)と評価し、0.030以上であれば×(良くない)と評価した。
(帯電変化量)
温度25℃かつ湿度50%RHの環境下で、現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa7551ci」用キャリア)100質量部と、試料(トナー)8質量部とを、混合機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「ターブラーミキサー」)を用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を得た。
評価機としては、複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa7551ci」)を用いた。上記のように調製した評価用現像剤を評価機の現像装置に投入し、試料(補給用トナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。
温度25℃かつ湿度50%RHの環境下、上記評価機を用いて、印字率8%のサンプル画像を記録媒体(印刷用紙)に1万枚連続で印刷する第1耐刷試験を行った。第1耐刷試験後、評価機から現像装置を取り出し、さらに現像装置から2成分現像剤を取り出して、2成分現像剤に含まれるトナーの帯電量(以下、帯電量Q10000と記載する)を測定した。帯電量Q10000の測定後、取り出した現像装置を評価機に再度取り付けて、その評価機を用いて、温度25℃かつ湿度50%RHの環境下で、印字率8%のサンプル画像を記録媒体(印刷用紙)に9万枚連続で印刷する第2耐刷試験を行った。第2耐刷試験後、評価機から現像装置を取り出し、さらに現像装置から2成分現像剤を取り出して、2成分現像剤に含まれるトナーの帯電量(以下、帯電量Q100000と記載する)を測定した。そして、下記式で表されるような帯電変化量、すなわち帯電量Q10000と帯電量Q100000との差(絶対値)を算出した。
帯電変化量=|帯電量Q10000−帯電量Q100000|
測定された帯電変化量が、5μC/g未満であれば○(良い)と評価し、5μC/g以上であれば×(良くない)と評価した。
[評価結果]
トナーTB−1〜TB−14の各々を評価した結果を、表4に示す。表4には、耐熱保存性(凝集率)、低温定着性(最低定着温度)、帯電立上り特性(帯電立上り定数)、帯電安定性(電荷減衰定数及び帯電変化量)の各々の評価結果が示されている。
トナーTB−1〜TB−11(実施例6〜16に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、トナーTB−1〜TB−11ではそれぞれ、シェル層が、少なくとも前述の式(1)で表される化合物を含む2種以上のビニル化合物の共重合体(詳しくは、R1=水素原子の化合物(1)とメタクリル酸メチルとの共重合体)を含有していた。また、表3に示されるように、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量は、0.10μmol/g以上100μmol/g以下であった。また、表3に示されるように、トナー母粒子の表面に付着した外添剤が、ガラス転移点100℃以上150℃以下の複数の架橋樹脂粒子と、複数の無機粒子(詳しくは、シリカ粒子)とを含んでいた。複数の架橋樹脂粒子及び複数の無機粒子は、トナー母粒子側から、複数の架橋樹脂粒子、複数の無機粒子の順の積重構造(下:架橋樹脂粒子、上:シリカ粒子)を有していた。表4に示されるように、トナーTB−1〜TB−11はそれぞれ、耐熱保存性、低温定着性、帯電立上り特性、及び帯電安定性(電荷減衰定数及び帯電変化量)に優れていた。
トナー粒子のSEM撮影像を画像解析したところ、トナーTB−1〜TB−11のいずれにおいても、シェル層が、トナーコアの表面全域のうち70%以上80%以下の面積を覆っていた。