本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、粉体(より具体的には、トナーコア、トナー母粒子、外添剤、又はトナー等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から平均的な粒子を相当数選び取って、それら平均的な粒子の各々について測定した値の個数平均である。
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−750」)を用いて測定した値である。
ガラス転移点(Tg)は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて「JIS(日本工業規格)K7121−2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された2回目昇温時の吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)において、比熱の変化点(ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点)の温度(オンセット温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。また、軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。高化式フローテスターで測定されたS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)において、「(ベースラインストローク値+最大ストローク値)/2」となる温度が、Tm(軟化点)に相当する。また、数平均分子量(Mn)の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
材料の「主成分」は、何ら規定していなければ、質量基準で、その材料に最も多く含まれる成分を意味する。また、帯電性は、何ら規定していなければ、摩擦帯電における帯電性を意味する。摩擦帯電における正帯電性の強さ(又は負帯電性の強さ)は、周知の帯電列などで確認できる。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。また、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを包括的に「(メタ)アクリロニトリル」と総称する場合がある。
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態のトナーは、複数のトナー粒子(それぞれ後述する構成を有する粒子)を含む粉体である。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(例えば、ボールミル)を用いてトナーとキャリアとを混合して2成分現像剤を調製してもよい。高画質の画像を形成するためには、キャリアとしてフェライトキャリア(フェライト粒子の粉体)を使用することが好ましい。また、長期にわたって高画質の画像を形成するためには、キャリアコアと、キャリアコアを被覆する樹脂層とを備える磁性キャリア粒子を使用することが好ましい。キャリア粒子に磁性を付与するためには、磁性材料(例えば、フェライトのような強磁性物質)でキャリアコアを形成してもよいし、磁性粒子を分散させた樹脂でキャリアコアを形成してもよい。また、キャリアコアを被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。樹脂層を構成する樹脂の例としては、フッ素樹脂(より具体的には、PFA又はFEP等)、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びフェノール樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が挙げられる。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。キャリア粒子の粒子径は、20μm以上120μm以下であることが好ましい。なお、2成分現像剤に含まれる正帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により正に帯電する。
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、結着樹脂及び離型剤を含有するコア(以下、トナーコアと記載する)と、トナーコアの表面を覆うシェル層(カプセル層)とを備える。トナーコアは、離型剤以外の内添剤(例えば、着色剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)を含有してもよい。シェル層は、多層構造を有する。例えば、低温で溶融するトナーコアを、耐熱性に優れる多層構造シェル層で覆うことで、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図ることが可能になる。多層構造シェル層の表面(又は、多層構造シェル層で覆われていないトナーコアの表面領域)に外添剤が付着していてもよい。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。以下、外添剤が付着する前のトナー粒子を、トナー母粒子と記載する。また、シェル層を形成するための材料を、シェル材料と記載する。
トナーコアは、例えば粉砕法又は凝集法により作製できる。これらの方法は、トナーコアの結着樹脂中に内添剤を良好に分散させ易い。なお、トナーコアが粉砕コア(粉砕トナーとも呼ばれる)と重合コア(ケミカルトナーとも呼ばれる)とに大別されることは、本発明の属する技術分野において周知である。粉砕法で得られたトナーコアは粉砕コアに属し、凝集法で得られたトナーコアは重合コアに属する。
本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明する。
まず、電子写真装置の像形成部(帯電装置及び露光装置)が、画像データに基づいて感光体に静電潜像を形成する。続けて、電子写真装置の現像装置(詳しくは、トナーを含む現像剤がセットされた現像装置)が、トナーを感光体に供給して、感光体に形成された静電潜像を現像する。トナーは、感光体に供給される前に、現像装置内のキャリア、現像スリーブ、又はブレードとの摩擦により帯電する。例えば、正帯電性トナーは正に帯電する。現像工程では、感光体の近傍に配置された現像スリーブ(例えば、現像装置内の現像ローラーの表層部)上のトナー(詳しくは、帯電したトナー)が感光体に供給され、供給されたトナーが感光体の静電潜像に付着することで、感光体上にトナー像が形成される。消費されたトナーは、補給用トナーを収容するトナーコンテナから現像装置へ補給される。
続く転写工程では、電子写真装置の転写装置が、感光体上のトナー像を中間転写体(例えば、転写ベルト)に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、電子写真装置の定着装置(定着方式:加熱ローラー及び加圧ローラーによるニップ定着)がトナーを加熱及び加圧して、記録媒体にトナーを定着させる。その結果、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。転写工程の後、感光体上に残ったトナーは、クリーニング部材(例えば、クリーニングブレード)により除去される。なお、転写方式は、感光体上のトナー像を、中間転写体を介さず、記録媒体に直接転写する直接転写方式であってもよい。また、定着方式は、ベルト定着方式であってもよい。
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(以下、基本構成と記載する)を有する静電潜像現像用トナーである。
(トナーの基本構成)
静電潜像現像用トナーが、結着樹脂及び離型剤を含有するトナーコアと、トナーコアの表面を部分的に覆う多層構造シェル層とを備えるトナー粒子を、複数含む。多層構造シェル層は、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含む第1ポリマーを含有する第1シェル層と、カルボキシル基を有する繰返し単位を含む第2ポリマーを含有する第2シェル層と、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含む第3ポリマーを含有する第3シェル層とを備える。第1シェル層、第2シェル層、及び第3シェル層は、トナーコア側から、第1シェル層、第2シェル層、第3シェル層の順の積層構造を有する。第2シェル層は、トナーコアの表面領域のうち第1シェル層で覆われていない領域に接触している。以下、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含むポリマーを含有するシェル層を「オキサゾリン基含有シェル層」と、カルボキシル基を有する繰返し単位を含むポリマーを含有するシェル層を「カルボキシル基含有シェル層」と、それぞれ記載する場合がある。
本願発明者は、オキサゾリン基含有シェル層を備えるコア−シェル型トナー粒子について研究を重ね、上記基本構成によって、次に示すような課題を解決した。
オキサゾリン基含有シェル層は、トナーコアの結着樹脂とは強く結合し易いが、トナーコアの離型剤とは結合しにくい。このため、トナーコアの表面領域のうち離型剤が存在する領域は、第1シェル層で覆われにくい。トナーコアの表面領域のうち第1シェル層で覆われていない領域に離型剤が露出していることで、トナーの離型性が向上する。しかし、トナー粒子から離型剤が脱離し易くなる。なお、トナーコアの表面にオキサゾリン基含有シェル層を非常に厚く形成して、トナーコアの表面全域をオキサゾリン基含有シェル層で完全に覆うことによって、トナー粒子からの離型剤の脱離を抑制することも考えられる。しかしこのような方法では、十分なトナーの耐熱保存性を確保することが難しくなる。
上記基本構成を有するトナーでは、トナー粒子が多層構造シェル層を備える。多層構造シェル層は、第1シェル層、第2シェル層、及び第3シェル層を備える。第2シェル層中のカルボキシル基は、オキサゾリン基と化学的に結合し易い。このため、第2シェル層は、第1シェル層と第3シェル層との間に介在し、第1シェル層と第3シェル層とを互いに結びつける働きをする。上記基本構成を有するトナーでは、多層構造シェル層(詳しくは、3層以上のシェル層)によって、十分なトナーの耐熱保存性を確保し易くなる。また、第2シェル層は、トナーコアの表面領域のうち第1シェル層で覆われていない領域に接触することで、トナー粒子からの離型剤の脱離を抑制する働きをする。
十分なトナーの離型性を確保しつつトナー粒子からの離型剤の脱離を抑制するためには、トナーコアの表面領域のうち離型剤が多層構造シェル層に覆われず露出している領域の割合(以下、離型剤露出率と記載する場合がある)が、トナー粒子の断面から測定される周長割合で1%以上10%未満であることが好ましい。
優れた帯電性を有するトナーを得るためには、多層構造シェル層の最外層が、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含むポリマーを含有することが好ましい。オキサゾリン基は、未開環状態で強い正帯電性を示す傾向がある。トナーコアが、比較的強い負帯電性を有する樹脂(より具体的には、ポリエステル樹脂又はスチレン−アクリル酸系樹脂等)を含有する場合でも、多層構造シェル層の最外層に位置するオキサゾリン基含有シェル層によってトナーの電荷減衰を十分に抑制し易くなる。また、トナーの過剰な帯電を抑制するために、シェル層中の適量のオキサゾリン基を開環させて、シェル層の正帯電性を適度に弱めることも可能である。なお、上記基本構成を有するトナーにおいて、多層構造シェル層の最内層は、第1シェル層である。
優れた帯電性を有するトナーを得るためには、多層構造シェル層の最外層がオキサゾリン基含有シェル層であり、かつ、トナー1gに含まれるオキサゾリン基の量が0.50μmol以上1.50μmol以下であることが特に好ましい。「オキサゾリン基の量」は、未開環のまま存在するオキサゾリン基と開環したオキサゾリン基との両方の総量に相当する。なお、オキサゾリン基の量の測定方法は、後述する実施例で示す方法又はその代替方法である。
多層構造シェル層は、トナーコア側から、オキサゾリン基含有シェル層とカルボキシル基含有シェル層とが交互に積層され、最内層及び最外層がそれぞれオキサゾリン基含有シェル層である多層構造を有することが好ましい。多層構造シェル層の層数(オキサゾリン基含有シェル層の数とカルボキシル基含有シェル層の数との合計)は、奇数であることが好ましく、3層、5層、7層、9層、11層、13層、又は15層であることが特に好ましい。トナーの生産性及び定着性の観点からは、多層構造シェル層の厚さが50nm以上300nm以下であることが好ましい。
トナーコアの結着樹脂と第1シェル層との結合を強めるためには、上記基本構成において、トナーコアが、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含有することが好ましい。第1シェル層中のオキサゾリン基は、ポリエステル樹脂のカルボキシル基と化学的に結合し易い。トナーコアとして粉砕コアを使用した場合であっても、トナーコアがポリエステル樹脂を含有することで、トナーコアの表面に均一な第1シェル層を形成し易くなる。トナーコアの結着樹脂と第1シェル層との結合を強めることで、トナー粒子からのシェル層の脱離を抑制できる。
上記基本構成を有するトナーにおいて、第3シェル層上に、オキサゾリン基含有シェル層(下層)とカルボキシル基含有シェル層(上層)との組(積層シェル層)を、さらに追加してもよい。例えば、多層構造シェル層が、カルボキシル基を有する繰返し単位を含む第4ポリマーを含有する第4シェル層と、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含む第5ポリマーを含有する第5シェル層とをさらに備え、第1シェル層、第2シェル層、第3シェル層、第4シェル層、及び第5シェル層が、トナーコア側から、第1シェル層、第2シェル層、第3シェル層、第4シェル層、第5シェル層の順の積層構造を有してもよい。トナーの生産性の観点からは、第1シェル層と第3シェル層と第5シェル層とが、互いに同じ材料で構成され、かつ、第2シェル層と第4シェル層とが、互いに同じ材料で構成されることが好ましい。多層構造シェル層の最外層は、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含むポリマーを含有することが好ましい。
上記基本構成を有するトナーを製造するためには、下記製造方法が特に好ましい。
(好適なトナーの製造方法)
静電潜像現像用トナーの製造方法は、第1シェル層形成工程と、第2シェル層形成工程と、第3シェル層形成工程とを含む。
第1シェル層形成工程では、結着樹脂及び離型剤を含有するトナーコアと、オキサゾリン基含有高分子とを含む水性媒体を加熱して、トナーコアの表面を部分的に覆い、かつ、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含む第1ポリマーを含有する第1シェル層を形成する。
第2シェル層形成工程では、第1シェル層形成工程の後、水性媒体にカルボキシル基含有高分子を入れて、水性媒体中で、カルボキシル基含有高分子を、第1シェル層の表面と、トナーコアの表面領域のうち第1シェル層で覆われていない領域とに接触させた状態で、水性媒体を加熱してカルボキシル基含有高分子を重合させることにより、第1シェル層上に、カルボキシル基を有する繰返し単位を含む第2ポリマーを含有する第2シェル層を形成する。
第3シェル層形成工程では、第2シェル層形成工程の後、水性媒体にオキサゾリン基含有高分子を入れて、水性媒体を加熱することにより、第2シェル層上に、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含む第3ポリマーを含有する第3シェル層を形成する。
以下、上記第1シェル層、上記第2シェル層、上記第3シェル層を形成するための材料を、それぞれ第1シェル材料、第2シェル材料、第3シェル材料と記載する場合がある。
シェル層形成時におけるトナーコア成分(特に、結着樹脂及び離型剤)の溶解又は溶出を抑制するためには、水性媒体中でシェル層を形成することが好ましい。なお、水性媒体は、水を主成分とする媒体(より具体的には、純水、又は水と極性媒体との混合液等)である。水性媒体は溶媒として機能してもよい。水性媒体中に溶質が溶けていてもよい。水性媒体は分散媒として機能してもよい。水性媒体中に分散質が分散していてもよい。水性媒体中の極性媒体としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール又はエタノール等)を使用できる。水性媒体の沸点は約100℃である。
第2シェル材料(カルボキシル基含有高分子)は、ゲル状態で第1シェル層の表面に付着させることが好ましい。比較的高い粘度を有する第2シェル材料が第1シェル層の表面に付着することで、第2シェル層が、第1シェル層の上面から第1シェル層の側面に沿ってトナーコアに向かい、トナーコアの表面領域のうち第1シェル層で覆われていない領域に接触し易くなる。
以下、図1〜図6を参照して、前述の基本構成を有するトナーに含まれるトナー粒子の一例について説明する。
図1に示されるトナー粒子10は、トナー母粒子10aと、外添剤(複数の外添剤粒子13)とを備える。トナー母粒子10aは、トナーコア11と、トナーコア11の表面を部分的に覆う多層構造シェル層12とを備える。トナーコア11は、結着樹脂及び離型剤を含有する。図1において、面F1はトナーコア11の表面を示し、面F2は多層構造シェル層12の表面を示している。複数の外添剤粒子13(例えば、シリカ粒子)はそれぞれ、トナー母粒子10aの表面(面F1又はF2)に付着している。
図2は、図1に示すトナー母粒子10aの表面の一部(特に、多層構造シェル層12)を拡大して示す断面図である。説明の便宜上、図2では、トナー粒子10のうち外添剤を割愛して、トナー母粒子10aのみを示している。
図2に示す例では、多層構造シェル層12が、第1シェル層12aと、第2シェル層12bと、第3シェル層12cと、第4シェル層12dと、第5シェル層12eとを備える。第1シェル層12aと第3シェル層12cと第5シェル層12eとはそれぞれオキサゾリン基含有シェル層であり、第2シェル層12bと第4シェル層12dとはそれぞれカルボキシル基含有シェル層である。第1シェル層12aと第2シェル層12bと第3シェル層12cと第4シェル層12dと第5シェル層12eとは、トナーコア11側から、第1シェル層12a、第2シェル層12b、第3シェル層12c、第4シェル層12d、第5シェル層12eの順の積層構造を有する。多層構造シェル層12は5層構造のシェル層であり、多層構造シェル層12の最内層は第1シェル層12aであり、多層構造シェル層12の最外層は第5シェル層12eである。以下、多層構造シェル層のうち、特定シェル層よりも下層側に位置するシェル層を、特定シェル層の下層シェル層と記載する場合がある。例えば、多層構造シェル層12において、第4シェル層12dの下層シェル層は、第1シェル層12a、第2シェル層12b、及び第3シェル層12cを意味する。
トナーコア11中には、複数の離型剤ドメイン11aが分散している。トナーコア11の表面には、離型剤ドメイン11aが第1シェル層12aに覆われずに露出している領域(以下、第1離型剤露出領域と記載する場合がある)が存在する。第2シェル層12bは、第1シェル層12aに沿ってトナーコア11まで延びて、トナーコア11の表面領域のうち第1離型剤露出領域(第1シェル層12aに対して離型剤が露出した領域)に接している。第2シェル層12bが離型剤ドメイン11aのエッジ部を押さえることで、トナー粒子10からの離型剤ドメイン11aの脱離が抑制される。
また、トナーコア11の表面には、離型剤ドメイン11aが第4シェル層12dの下層シェル層(第1シェル層12a、第2シェル層12b、及び第3シェル層12c)に覆われずに露出している領域(以下、第2離型剤露出領域と記載する場合がある)が存在する。第2離型剤露出領域は第1離型剤露出領域よりも狭い。第4シェル層12dは、第4シェル層12dの下層シェル層(第1シェル層12a、第2シェル層12b、及び第3シェル層12c)に沿ってトナーコア11まで延びて、トナーコア11の表面領域のうち第2離型剤露出領域(第1シェル層12a、第2シェル層12b、及び第3シェル層12cに対して離型剤が露出した領域)に接している。第4シェル層12dが、第2シェル層12bと共に、離型剤ドメイン11aのエッジ部を押さえることで、トナー粒子10からの離型剤ドメイン11aの脱離が抑制される。
図2において、離型剤露出領域R2は、トナーコア11の表面領域のうち離型剤が多層構造シェル層12に覆われず露出している領域(以下、第3離型剤露出領域と記載する場合がある)に相当する。第2シェル層12b及び第4シェル層12dはそれぞれ、トナーコア11の表面領域のうち離型剤が存在する領域に接している。このため、第2シェル層12b及び第4シェル層12dは、離型剤露出率(トナーコア11の表面領域のうち第3離型剤露出領域の割合)を小さくするように作用する。
図3(a)は、多層構造シェル層12を形成する前の状態のトナーコア11の表面(面F1)の一部を拡大して示す平面図である。図3(b)は、図3(a)に示すトナーコア11の断面図である。
図3(a)及び図3(b)に示すように、トナーコア11の表面に複数の離型剤ドメイン11aが露出することで、トナーコア11の表面(面F1)には、離型剤ドメイン11aが露出している領域(離型剤露出領域R0)が複数、存在する。例えば、粉砕コアは、結着樹脂及び離型剤を含む材料を溶融混練し、得られた溶融混練物を粉砕することで、得られる。得られた粉砕コアの表面には、離型剤が露出する。なお、離型剤露出領域R0の形状(平面形状)は、必ずしも図3(a)に示すような円形になるとは限らない。離型剤露出領域R0の形状(平面形状)が、楕円形になることもあれば、多角形に近い形状になることもある。
図4(a)は、図3(a)に示すトナーコア11の表面に第1シェル層12aが形成された粒子(以下、第1層被覆粒子と記載する場合がある)を示す平面図である。図4(b)は、図4(a)に示す第1層被覆粒子の断面図である。
例えば、結着樹脂及び離型剤を含有するトナーコア11と、第1シェル材料(詳しくは、オキサゾリン基含有高分子)とを含む水性媒体を攪拌しながら加熱することで、トナーコア11の表面を部分的に覆う第1シェル層12aを形成できる。第1シェル層12aは、オキサゾリン基含有シェル層である。オキサゾリン基含有シェル層は、トナーコア11の結着樹脂とは強く結合し易いが、トナーコア11の離型剤とは結合しにくい。このため、第1層被覆粒子の表面においては、図4(a)及び図4(b)に示すように、トナーコア11の表面領域のうち離型剤ドメイン11aの存在する領域が、第1シェル層12aに対して選択的に露出し易い。図4(a)及び図4(b)の各々において、離型剤露出領域R1は、第1離型剤露出領域(トナーコア11の表面において、離型剤ドメイン11aが第1シェル層12aに覆われずに露出している領域)に相当する。
トナーコア11の表面領域のうち、離型剤が存在する領域には第1シェル層12aが形成されず、かつ、他の領域には第1シェル層12aが確実に形成される場合には、離型剤露出領域R1は、離型剤露出領域R0(図3(a)及び図3(b))と一致する。しかし、実際の製造では、トナーコア11の表面領域のうち離型剤ドメイン11aの存在する領域が第1シェル層12aに対して選択的に露出することで、離型剤露出領域R1は離型剤露出領域R0に近い形態を有するものの、必ずしも離型剤露出領域R1と離型剤露出領域R0とが一致するとは限らない。
例えば、第1層被覆粒子(図4(a)及び図4(b)参照)を含む水性媒体に第2シェル材料(詳しくは、カルボキシル基含有高分子)を入れて、水性媒体中で、第1シェル層12aの表面と、トナーコア11の表面領域のうち第1シェル層12aで覆われていない領域とに、第2シェル材料を接触させた状態で、水性媒体を加熱して第2シェル材料を重合させることにより、第1シェル層12a上に第2シェル層12bを形成できる。第2シェル層12bは、カルボキシル基含有シェル層であり、トナーコア11及び第1シェル層12aとの接着性が高い。第2シェル層12bは、第1シェル層12aの上面及び側面に沿ってトナーコア11に向かい、トナーコア11の表面領域のうち第1離型剤露出領域(第1シェル層12aに対して離型剤が露出した領域)に接触すると考えられる。以下、第1層被覆粒子の表面に第2シェル層が形成された粒子を、第2層被覆粒子と記載する場合がある。
第2シェル層12bを形成した後、第2層被覆粒子の表面に、第3シェル層12c、第4シェル層12d、及び第5シェル層12eをさらに形成することで、図2に示すような多層構造シェル層12を、トナーコア11の表面に形成できる。第3シェル層12c及び第5シェル層12eは、第1シェル層12aと同様に形成できる。また、第4シェル層12dは第2シェル層12bと同様に形成できる。
図5は、図2の一部を拡大して示す断面図である。図6は、多層構造シェル層12中のカルボキシル基含有シェル層のエッジの位置を示す図である。図5及び図6の各々において、エッジE1は、第1離型剤露出領域のエッジ(輪郭)を示し、エッジE2は、第2離型剤露出領域のエッジ(輪郭)を示し、エッジE3は、第3離型剤露出領域のエッジ(輪郭)を示している。
図5及び図6に示す例では、第1離型剤露出領域(図4(a)に示す離型剤露出領域R1)が、図3(a)に示す離型剤露出領域R0と一致する。エッジE1は、第1シェル層12a(オキサゾリン基含有シェル層)のエッジと一致する。エッジE2は、第2シェル層12b(カルボキシル基含有シェル層)のエッジと一致する。エッジE3は、第4シェル層12d(カルボキシル基含有シェル層)のエッジと一致する。エッジE1で囲まれる領域は、第1離型剤露出領域(離型剤露出領域R1)に相当する。エッジE2で囲まれる領域は、第2離型剤露出領域に相当する。エッジE3で囲まれる領域は、第3離型剤露出領域(離型剤露出領域R2)に相当する。
トナーコアの表面に良質の多層構造シェル層を形成するためには、前述の基本構成で規定される多層構造シェル層において、第1シェル層に含有される第1ポリマーと、第3シェル層に含有される第3ポリマーとが、各々独立して、少なくとも下記式(1)で表される化合物を含む2種以上のビニル化合物の共重合体であることが好ましい。ビニル化合物は、炭素二重結合「C=C」により付加重合(「C=C」→「−C−C−」)して、高分子(樹脂)になり得る。なお、ビニル化合物は、ビニル基(CH2=CH−)、又はビニル基中の水素が置換された基を有する化合物である。ビニル化合物の例としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、塩化ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、又はスチレンが挙げられる。
式(1)中、R1は、水素原子、又は置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。R1が置換基を有するアルキル基を表す場合の置換基の例としては、フェニル基が挙げられる。R1としては、水素原子、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基が特に好ましい。例えば、2−ビニル−2−オキサゾリンでは、式(1)中のR1が水素原子を表す。
オキサゾリン基含有シェル層を形成するための材料としては、例えばオキサゾリン基含有高分子水溶液(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)WSシリーズ」)を使用できる。「エポクロスWS−300」及び「エポクロスWS−700」はそれぞれ、2−ビニル−2−オキサゾリンと1種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体(樹脂原料)の重合物を含む。
前述の式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と記載する)は、付加重合により下記式(1−1)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
式(1−1)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1−1)と記載する)は、未開環のオキサゾリン基を有する。未開環のオキサゾリン基は、環状構造を有し、強い正帯電性を示す。未開環のオキサゾリン基は、樹脂の官能基(より具体的には、カルボキシル基、芳香族性スルファニル基、又は芳香族性ヒドロキシル基等)と反応し易い。例えば、繰返し単位(1−1)が樹脂R0の表面に存在するカルボキシル基と反応すると、下記式(1−2)に示すようにオキサゾリン基が開環し、アミドエステル結合が形成される。以下、式(1−2)で表される繰返し単位を、繰返し単位(1−2)と記載する。
多層構造シェル層中のオキサゾリン基含有シェル層が、少なくとも前述の式(1)で表される化合物を含む2種以上のビニル化合物の共重合体(以下、特定共重合体と記載する)を含有する場合、特定共重合体中には繰返し単位(1−1)が存在する。繰返し単位(1−1)のオキサゾリン基は、例えば、トナーコアを構成する結着樹脂の表面に存在する官能基と反応することで開環し、化学的結合を形成し得る。例えば、トナーコアの結着樹脂がポリエステル樹脂である場合には、繰返し単位(1−1)のオキサゾリン基が、ポリエステル樹脂(式(1−2)中に示す樹脂R0)のカルボキシル基と反応して、繰返し単位(1−2)が生成すると考えられる。
画像形成に適したトナーを得るためには、トナーコアのガラス転移点(Tg)が30℃以上55℃以下であることが好ましい。また、画像形成に適したトナーを得るためには、トナーコアの軟化点(Tm)が70℃以上105℃以下であることが好ましい。
画像形成に適したトナーを得るためには、トナーコアの体積中位径(D50)が4μm以上9μm以下であることが好ましい。
次に、トナーコア(結着樹脂及び内添剤)、シェル層、及び外添剤について、順に説明する。トナーの用途に応じて必要のない成分を割愛してもよい。
[トナーコア]
(結着樹脂)
トナーコアでは、一般的に、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、水酸基価、酸価、Tg、又はTm等)を調整することができる。結着樹脂がエステル基、ヒドロキシル基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。
トナーコアの結着樹脂としては、熱可塑性樹脂(より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂又はポリエステル樹脂等)が好ましく、ポリエステル樹脂が特に好ましい。
例えば、スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体である。また、ポリエステル樹脂は、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。
ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、脂肪族ジオール又はビスフェノール等)又は3価以上のアルコールを好適に使用できる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を好適に使用できる。また、ポリエステル樹脂は、他のモノマー(多価アルコール及び多価カルボン酸のいずれでもないモノマー)に由来する繰返し単位を含んでいてもよい。
脂肪族ジオールの好適な例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、α,ω−アルカンジオール(より具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、又は1,12−ドデカンジオール等)、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
ビスフェノールの好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
2価カルボン酸の好適な例としては、芳香族ジカルボン酸(より具体的には、フタル酸、テレフタル酸、又はイソフタル酸等)、α,ω−アルカンジカルボン酸(より具体的には、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又は1,10−デカンジカルボン酸等)、不飽和ジカルボン酸(より具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、又はグルタコン酸等)、又はシクロアルカンジカルボン酸(より具体的には、シクロヘキサンジカルボン酸等)が挙げられる。
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
結着樹脂としては、非結晶性ポリエステル樹脂が特に好ましい。また、トナーコアは、結晶性ポリエステル樹脂を含有してもよい。トナーコアに結晶性ポリエステル樹脂を含有させることで、トナーコアにシャープメルト性を付与できる。トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアに含まれる結晶性ポリエステル樹脂の量は、トナーコア中のポリエステル樹脂の総量(結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂との合計量)に対して、5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
非結晶性ポリエステル樹脂の第1の好適な例としては、アルコール成分として、ビスフェノール(例えば、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物及び/又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物)を含み、酸成分として、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸)を含む非結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
非結晶性ポリエステル樹脂の第2の好適な例としては、アルコール成分として、ビスフェノール(例えば、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物及び/又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物)を含み、酸成分として、不飽和ジカルボン酸(例えば、フマル酸)を含む非結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
結晶性ポリエステル樹脂の好適な例としては、1種以上の炭素数2以上6以下のα,ω−アルカンジオール(例えば、2種類のα,ω−アルカンジオール:炭素数4の1,4−ブタンジオール及び炭素数6の1,6−ヘキサンジオール)と、1種以上の炭素数(2つのカルボキシル基の炭素を含む)4以上10以下のα,ω−アルカンジカルボン酸(例えば、炭素数4のコハク酸)と、1種以上のスチレン系モノマー(例えば、スチレン)と、1種以上のアクリル酸系モノマー(例えば、アクリル酸)とを含む単量体(樹脂原料)の重合物が挙げられる。
トナーコアが適度なシャープメルト性を有するためには、トナーコア中に、結晶性指数0.90以上1.20以下の結晶性ポリエステル樹脂を含有させることが好ましい。樹脂の結晶性指数は、樹脂の融点(Mp)に対する樹脂の軟化点(Tm)の比率(=Tm/Mp)に相当する。非結晶性樹脂については、明確なMpを測定できないことが多い。結晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数は、結晶性ポリエステル樹脂を合成するための材料の種類又は使用量(配合比)を変更することで、調整できる。トナーコアは、結晶性ポリエステル樹脂を1種類だけ含有してもよいし、2種以上の結晶性ポリエステル樹脂を含有してもよい。
質量基準で最も多くトナーコアに含有される結着樹脂が非結晶性ポリエステル樹脂である場合において、十分なトナーの強度及び定着性を確保するためには、その非結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上2000以下であることが好ましい。
(着色剤)
トナーコアは、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。画像形成に適したトナーを得るためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
トナーコアは、黒色着色剤を含有してもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有してもよい。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
(離型剤)
トナーコアは、離型剤を含有する。離型剤は、例えば、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
離型剤としてはワックスが好ましい。ワックスの例としては、エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フッ素樹脂ワックス(例えば、テフロン(登録商標)含有ワックス)、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、又はモンタンワックスが挙げられる。1種類の離型剤を単独で使用してもよく、2種以上の離型剤を組み合わせて使用してもよい。
トナーコアの結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、トナーコア中での結着樹脂と離型剤との相溶性を向上させるためには、離型剤が、エステルワックス(例えば、カルナウバワックス)、又はポリエチレンワックスであることが好ましい。トナーコアの結着樹脂がスチレン系樹脂又はその共重合体である場合、トナーコア中での結着樹脂と離型剤との相溶性を向上させるためには、離型剤が、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスであることが好ましい。結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
トナーの定着性及び耐オフセット性を向上させるためには、エステルワックスが好ましい。エステルワックスとしては、天然エステルワックス(例えば、カルナウバワックス、又はライスワックス)、又は合成エステルワックスが挙げられる。トナーの電荷減衰を抑制しつつ十分なトナーの耐熱保存性及び低温定着性を確保するためには、トナーコアが、2種以上の離型剤を含有することが好ましく、合成エステルワックス及び天然エステルワックス(例えば、カルナバワックス)の両方を含有することが特に好ましい。離型剤として合成エステルワックスを使用することで、離型剤の融点を所望の範囲に調整し易くなる。合成エステルワックスは、例えば、酸触媒の存在下でアルコールとカルボン酸(又は、カルボン酸ハライド)とを反応させることで、合成できる。合成エステルワックスの原料は、例えば、天然油脂から調製される長鎖脂肪酸のような、天然物に由来する物質であってもよいし、市販されている合成品であってもよい。
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含有してもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立上り特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立上り特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤(より具体的には、有機金属錯体又はキレート化合物等)を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤(より具体的には、ピリジン、ニグロシン、又は4級アンモニウム塩等)を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
(磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含有してもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、又はこれら金属の1種以上を含む合金等)、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、又は二酸化クロム等)、又は強磁性化処理が施された材料(より具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)を好適に使用できる。1種類の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。また、磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、磁性粉を表面処理することが好ましい。
[多層構造シェル層]
多層構造シェル層中のオキサゾリン基含有シェル層(より具体的には、第1シェル層又は第3シェル層等)は、前述の式(1)で表される1種以上のビニル化合物と、1種以上の他のビニル化合物(前述の式(1)で表される化合物以外のビニル化合物)との共重合体を含有することが好ましい。
他のビニル化合物としては、スチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーからなる群より選択される1種以上のビニル化合物が好ましい。スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、アルキルスチレン(より具体的には、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、又は4−tert−ブチルスチレン等)、ヒドロキシスチレン(より具体的には、p−ヒドロキシスチレン、又はm−ヒドロキシスチレン等)、又はハロゲン化スチレン(より具体的には、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレン等)が挙げられる。また、アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリロニトリル、又は(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
例えば、他のビニル化合物が、アルキル基に置換基を有してもよいアクリル酸アルキルエステルである場合、そのアクリル酸アルキルエステルは、付加重合により、例えば下記式(2)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
式(2)中、R2は、置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。アルキル基としては、炭素数1以上8以下のアルキル基が好ましい。R2が置換基を有するアルキル基を表す場合、アルキル基の置換基としては、ヒドロキシル基が好ましい。R2としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はヒドロキシブチル基が好ましい。
例えば、他のビニル化合物が、置換基を有してもよいメタクリル酸アルキルエステルである場合、置換基を有してもよいメタクリル酸アルキルエステルは、付加重合により、例えば下記式(3)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
式(3)中、R3は、置換基を有してもよいアルキル基(直鎖、分岐、及び環状のいずれでもよい)を表す。アルキル基としては、炭素数1以上8以下のアルキル基が好ましい。R3が置換基を有するアルキル基を表す場合、アルキル基の置換基としては、ヒドロキシル基が好ましい。R3としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はヒドロキシブチル基が好ましい。
例えば、他のビニル化合物がスチレン系モノマーである場合、スチレン系モノマーは、付加重合により、例えば下記式(4)で表される繰返し単位になって共重合体を構成する。
式(4)中、R41〜R47は、各々独立して、水素原子、又は任意の置換基を表す。R41〜R45としては、各々独立して、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、置換基を有してもよいアルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基が好ましく、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、又はヒドロキシル基が特に好ましい。R46及びR47としては、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましい。
[外添剤]
トナー母粒子の表面に外添剤(詳しくは、複数の外添剤粒子を含む粉体)を付着させてもよい。外添剤は、内添剤とは異なり、トナー母粒子の内部には存在せず、トナー母粒子の表面(トナー粒子の表層部)のみに選択的に存在する。例えば、トナー母粒子(詳しくは、複数のトナー母粒子を含む粉体)と外添剤(詳しくは、複数の外添剤粒子を含む粉体)とを一緒に攪拌することで、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を付着させることができる。トナー母粒子と外添剤粒子とは、互いに化学反応せず、化学的ではなく物理的に結合する。トナー母粒子と外添剤粒子との結合の強さは、攪拌条件(より具体的には、攪拌時間、及び攪拌の回転速度等)、外添剤粒子の粒子径、外添剤粒子の形状、及び外添剤粒子の表面状態などによって調整できる。トナー粒子からの外添剤粒子の脱離を抑制するためには、外添剤粒子がトナー母粒子の表面に強く結合していることが好ましい。埋め込みによる機械的結合で、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を固定してもよい。例えば、粒子径の大きい外添剤粒子などについては、トナー母粒子と外添剤とを強く攪拌することで、外添剤粒子の一部(底部)をトナー母粒子の表層部に埋め込み、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を固定することができる。ただし、外添剤粒子の粒子径が大き過ぎると、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を固定することが難しくなる。トナーの流動性を向上させるための外添剤粒子は、主にファンデルワールス力又は静電気力によってトナー母粒子の表面に付着していることが好ましい。
無機粒子(外添剤粒子)としては、シリカ粒子、又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)の粒子を好適に使用できる。1種類の外添剤を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤を併用してもよい。
外添剤粒子は、表面処理されていてもよい。例えば、外添剤粒子としてシリカ粒子を使用する場合、表面処理剤によりシリカ粒子の表面に疎水性及び/又は正帯電性が付与されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、カップリング剤(より具体的には、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又はアルミネートカップリング剤等)、シラザン化合物(例えば、鎖状シラザン化合物又は環状シラザン化合物)、又はシリコーンオイル(より具体的には、ジメチルシリコーンオイル等)を好適に使用できる。表面処理剤としては、シランカップリング剤又はシラザン化合物が特に好ましい。シランカップリング剤の好適な例としては、シラン化合物(より具体的には、メチルトリメトキシシラン又はアミノシラン等)が挙げられる。シラザン化合物の好適な例としては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)が挙げられる。シリカ基体(未処理のシリカ粒子)の表面が表面処理剤で処理されると、シリカ基体の表面に存在する多数の水酸基(−OH)が部分的に又は全体的に、表面処理剤に由来する官能基に置換される。その結果、表面処理剤に由来する官能基(詳しくは、水酸基よりも疎水性及び/又は正帯電性の強い官能基)を表面に有するシリカ粒子が得られる。
[トナーの製造方法]
以下、前述の「好適なトナーの製造方法」の好適な条件について説明する。
(トナーコアの準備)
良質のトナーコアを容易に得るためには、凝集法又は粉砕法によりトナーコアを製造することが好ましい。
以下、粉砕法の一例について説明する。まず、結着樹脂と、離型剤と、任意の内添剤(例えば、着色剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)とを混合する。続けて、得られた混合物を溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕し、得られた粉砕物を分級する。その結果、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
以下、凝集法の一例について説明する。まず、結着樹脂、離型剤、及び着色剤の各々の微粒子を水性媒体中で凝集させて、結着樹脂、離型剤、及び着色剤を含む凝集粒子を得る。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。その結果、トナーコアの分散液が得られる。その後、トナーコアの分散液から、不要な物質(界面活性剤等)を除去することで、トナーコアが得られる。
(多層構造シェル層の形成:オキサゾリン基含有シェル層の形成)
オキサゾリン基含有シェル層は、所定の対象粒子(より具体的には、トナーコア又は第2層被覆粒子等)に形成される。水性媒体(例えば、イオン交換水)のpHを調整した後、水性媒体に対象粒子(例えば、結着樹脂及び離型剤を含有するトナーコア)とシェル材料(例えば、オキサゾリン基含有水溶性高分子)とを入れる。続けて、対象粒子及びシェル材料を含む水性媒体を攪拌しながら、水性媒体の温度を所定の速度(例えば、0.1℃/分以上3℃/分以下から選ばれる速度)で所定の保持温度(例えば、45℃以上80℃以下から選ばれる温度)まで上昇させる。さらに、水性媒体を攪拌しながら水性媒体の温度を上記保持温度に所定の時間(例えば、30分間以上4時間以下から選ばれる時間)保つ。水性媒体の温度を高温に保っている間(又は、昇温中)に、対象粒子とシェル材料との間で反応(シェル層の固定化)が進行すると考えられる。例えば、シェル材料のオキサゾリン基が、対象粒子を構成する結着樹脂の表面に存在する官能基と反応することで開環し、対象粒子とオキサゾリン基含有シェル層とが化学的に結合すると考えられる。オキサゾリン基含有シェル層は、樹脂とは強く結合し易いが、離型剤とは結合しにくい。このため、対象粒子がトナーコアである場合には、トナーコアの表面を部分的に覆うオキサゾリン基含有シェル層が形成され易い。トナーコアの表面領域のうち離型剤が存在する領域は、第1シェル層に対して選択的に露出し易い。
均質なオキサゾリン基含有シェル層を形成するためには、シェル材料を含む液を攪拌するなどして、シェル材料を液に溶解又は分散させることが好ましい。トナーの帯電性を調整するためには、塩基性物質(より具体的には、アンモニア、又は水酸化ナトリウム等)及び/又は開環剤(より具体的には、酢酸等)を含む液中で対象粒子の表面にオキサゾリン基含有シェル層を形成することが好ましい。塩基性物質及び開環剤の各々の量を変えることで、トナー中に含まれる未開環のオキサゾリン基の量を調整できる。液中における塩基性物質の量が多いほど未開環のオキサゾリン基の量が増える傾向がある。塩基性物質がカルボン酸を中和(トラップ)することで、オキサゾリン基の開環反応(カルボニル基への求核付加反応)が抑制されると考えられる。他方、開環剤はオキサゾリン基の開環反応を促進するため、液中における開環剤の量が多いほど未開環のオキサゾリン基の量が減る傾向がある。
オキサゾリン基含有シェル層の形成後、水性媒体を冷却する。続けて、固液分離(例えば、ろ過)により、オキサゾリン基含有シェル層が形成された対象粒子を得る。その後、対象粒子を洗浄し、洗浄された対象粒子を乾燥してもよい。
(多層構造シェル層の形成:カルボキシル基含有シェル層の形成)
カルボキシル基含有シェル層は、所定の対象粒子(より具体的には、第1層被覆粒子等)に形成される。対象粒子を含む水性媒体のpHを調整した後、水性媒体にシェル材料(例えば、カルボキシル基含有水溶性高分子)を入れる。続けて、対象粒子及びシェル材料を含む水性媒体を所定の時間(例えば、30分間以上2時間以下から選ばれる時間)攪拌して、対象粒子の表面にシェル材料を接触させる。続けて、水性媒体の温度を所定の速度(例えば、0.1℃/分以上3℃/分以下から選ばれる速度)で所定の保持温度(例えば、45℃以上80℃以下から選ばれる温度)まで上昇させる。さらに、水性媒体を攪拌しながら水性媒体の温度を上記保持温度に所定の時間(例えば、30分間以上4時間以下から選ばれる時間)保つ。水性媒体の温度を高温に保っている間(又は、昇温中)に、対象粒子の表面に付着したカルボキシル基含有高分子の重合反応が進行し、対象粒子の表面にカルボキシル基含有シェル層が形成される。対象粒子とカルボキシル基含有シェル層とは、化学的に結合すると考えられる。
カルボキシル基含有シェル層の形成後、水性媒体を冷却する。続けて、固液分離(例えば、ろ過)により、カルボキシル基含有シェル層が形成された対象粒子を得る。その後、対象粒子を洗浄し、洗浄された対象粒子を乾燥してもよい。
トナーコアの表面に、オキサゾリン基含有シェル層とカルボキシル基含有シェル層とを交互に形成することで、トナーコアの表面を部分的に覆う多層構造シェル層を備えるトナー母粒子が得られる。多層構造シェル層の層数(オキサゾリン基含有シェル層の数とカルボキシル基含有シェル層の数との合計)は、奇数であることが好ましい。次に示す外添工程により、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。
(外添工程)
混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いてトナー母粒子と外添剤(例えば、シリカ粒子の粉体)とを混合して、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。なお、乾燥工程でスプレードライヤーを用いる場合には、外添剤(例えば、シリカ粒子の粉体)の分散液をトナー母粒子に噴霧することで、乾燥工程と外添工程とを同時に行うことができる。
なお、上記トナーの製造方法の内容及び順序はそれぞれ、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更することができる。例えば、液中で材料(例えば、シェル材料)を反応させる場合、液に材料を添加した後、所定の時間、液中で材料を反応させてもよいし、長時間かけて液に材料を添加して、液に材料を添加しながら液中で材料を反応させてもよい。また、材料(例えば、シェル材料)は、一度に液に添加されてもよいし、複数回に分けて液に添加されてもよい。粉体を得た後に、分級及び/又は篩別を行ってもよい。例えば、外添工程の後で、トナーを篩別してもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。例えば、市販品をそのまま材料として用いることができる場合には、市販品を用いることで、その材料を調製する工程を割愛できる。また、液のpHを調整しなくても、シェル層を形成するための反応が良好に進行する場合には、pH調整工程を割愛してもよい。また、外添剤が不要であれば、外添工程を割愛してもよい。トナー母粒子の表面に外添剤を付着させない(外添工程を割愛する)場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。樹脂を合成するための材料としては、必要に応じて、モノマーに代えてプレポリマーを使用してもよい。また、所定の化合物を得るために、原料として、その化合物の塩、エステル、水和物、又は無水物を使用してもよい。効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。同時に製造されたトナー粒子は、互いに略同一の構成を有すると考えられる。
本発明の実施例について説明する。表1に、実施例又は比較例に係るトナーTA−1〜TA−4及びTB(それぞれ静電潜像現像用トナー)を示す。
以下、トナーTA−1〜TA−4及びTBの製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。
[材料の準備]
(非結晶性ポリエステル樹脂APES−1の合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物370gと、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物3059gと、テレフタル酸1194gと、フマル酸286gと、2−エチルヘキサン酸錫(II)10gと、没食子酸2gとを入れた。続けて、窒素雰囲気かつ温度230℃の条件で、反応率が90質量%以上になるまで、フラスコ内容物を反応させた。反応率は、式「反応率=100×実際の反応生成水量/理論生成水量」に従って計算した。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)かつ温度230℃の条件で、反応生成物(樹脂)のTmが所定の温度(89℃)になるまで、フラスコ内容物を反応させた。その結果、Tm89℃、Tg50℃の非結晶性ポリエステル樹脂APES−1が得られた。
(非結晶性ポリエステル樹脂APES−2の合成)
非結晶性ポリエステル樹脂APES−2の合成方法は、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物370g、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物3059g、テレフタル酸1194g、及びフマル酸286gに代えて、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物1286g、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物2218g、及びテレフタル酸1603gを使用した以外は、非結晶性ポリエステル樹脂APES−1の合成方法と同じであった。得られた非結晶性ポリエステル樹脂APES−2に関しては、Tmが111℃、Tgが69℃であった。
(非結晶性ポリエステル樹脂APES−3の合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物4907gと、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物1942gと、フマル酸757gと、ドデシルコハク酸無水物2078gと、2−エチルヘキサン酸錫(II)30gと、没食子酸2gとを入れた。続けて、窒素雰囲気かつ温度230℃の条件で、前述の式で表される反応率が90質量%以上になるまで、フラスコ内容物を反応させた。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)かつ温度230℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた。続けて、無水トリメリット酸548gをフラスコ内に加えて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)かつ温度220℃の条件で、反応生成物(樹脂)のTmが所定の温度(127℃)になるまで、フラスコ内容物を反応させた。その結果、Tm127℃、Tg51℃の非結晶性ポリエステル樹脂APES−3が得られた。
(結晶性ポリエステル樹脂CPESの合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、1,6−ヘキサンジオール2643g、1,4−ブタンジオール864g、及びコハク酸2945gを入れた。続けて、フラスコ内容物を温度160℃に加熱して、添加した材料を溶解させた。続けて、滴下漏斗を用いて、スチレン等の混合液(スチレン1831gとアクリル酸161gとジクミルパーオキサイド110gとの混合液)を1時間かけてフラスコ内に滴下した。続けて、フラスコ内容物を攪拌しながら温度170℃で1時間反応させて、フラスコ内のスチレン及びアクリル酸を重合させた。その後、フラスコ内を減圧雰囲気(圧力8.3kPa)に1時間保って、フラスコ内の未反応のスチレン及びアクリル酸を除去した。続けて、2−エチルヘキサン酸錫(II)40gと、没食子酸3gとを、フラスコ内に加えた。続けて、フラスコ内容物を昇温させて、温度210℃で8時間反応させた。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)かつ温度210℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた。その結果、Tm92℃、Mp96℃、結晶性指数0.95の結晶性ポリエステル樹脂CPESが得られた。
[トナーの製造方法]
(トナーコアの作製)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−20B」)を用いて、第1結着樹脂(前述の手順で合成した結晶性ポリエステル樹脂CPES)100gと、第2結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂APES−1)300gと、第3結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂APES−2)100gと、第4結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂APES−3)600gと、着色剤(山陽色素株式会社製「カラーテックス(登録商標)ブルーB1021」、成分:フタロシアニンブルー)144gと、第1離型剤(株式会社加藤洋行製「カルナウバワックス1号」、成分:カルナバワックス)12gと、第2離型剤(日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−3」、成分:合成エステルワックス)48gとを、回転速度2400rpmで混合した。
続けて、得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、材料供給速度5kg/時、軸回転速度160rpm、設定温度(シリンダー温度)100℃の条件で溶融混練した。その後、得られた混練物を冷却した。続けて、冷却された混練物を、粉砕機(旧東亜機械製作所製「ロートプレックス16/8型」)を用いて粗粉砕した。続けて、得られた粗粉砕物を、ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製「超音波ジェットミルI型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、Tm90℃、Tg49℃、体積中位径(D50)6.7μmのトナーコアが得られた。
(第1シェル層形成工程)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内にイオン交換水300mLを入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、オキサゾリン基含有高分子水溶液(株式会社日本触媒製「エポクロスWS−300」、固形分濃度:10質量%)30gをフラスコ内に加えた後、フラスコ内容物を十分攪拌した。オキサゾリン基含有高分子水溶液(エポクロスWS−300)は、オキサゾリン基含有高分子として、メタクリル酸メチルと2−ビニル−2−オキサゾリンとの共重合体を含んでいた。
続けて、フラスコ内にトナーコア300gを添加し、回転速度200rpmでフラスコ内容物を1時間攪拌した。その後、フラスコ内にイオン交換水300mLを添加した。
続けて、濃度1質量%アンモニア水溶液6mLをフラスコ内に添加した。続けて、回転速度150rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、フラスコ内の温度を0.5℃/分の速度で60℃まで昇温させた。続けて、回転速度100rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、その温度(60℃)に1時間保った。液の温度を高温に保っている間に、トナーコアの表面に第1シェル層が形成された。第1シェル層は、2種以上のビニル化合物(詳しくは、メタクリル酸メチル及び2−ビニル−2−オキサゾリン)の共重合体を含有するオキサゾリン基含有シェル層であった。
続けて、フラスコ内に濃度1質量%アンモニア水溶液を加えて、フラスコ内容物のpHを7に調整した。続けて、フラスコ内容物をその温度が常温(約25℃)になるまで冷却して、第1層被覆粒子(トナーコアの表面が第1シェル層で覆われた粒子)を含む分散液を得た。
(洗浄工程)
上記のようにして得られた第1層被覆粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)して、ウェットケーキ状の第1層被覆粒子を得た。その後、得られたウェットケーキ状の第1層被覆粒子をイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを5回繰り返して、第1層被覆粒子を洗浄した。
次に、第2〜第9シェル層形成工程について説明する。なお、トナーTBの製造では、下記第2〜第9シェル層形成工程を行わなかった。また、トナーTA−4の製造では、下記第6〜第9シェル層形成工程を行わなかった。トナーTBでは、第1層被覆粒子がトナー母粒子に相当する。また、トナーTA−4では、第5層被覆粒子がトナー母粒子に相当する。
(第2シェル層形成工程)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内にイオン交換水300mLを入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、表1に示す種類及び量のカルボキシル基含有高分子(各トナーに定められた、カルボキシル基含有高分子C−1〜C−3のいずれか)をフラスコ内に加えた後、フラスコ内容物を十分攪拌した。例えば、トナーTA−1及びTA−4の各々の製造では、3.0gのカルボキシル基含有高分子C−1を添加した。また、トナーTA−2の製造では、10gのカルボキシル基含有高分子C−2を添加した。トナーTA−3の製造では、1.5gのカルボキシル基含有高分子C−3を添加した。
カルボキシル基含有高分子C−1は、ゲル状態のポリアクリル酸水溶液(東亞合成株式会社製「アロン(登録商標)A−10SL」、固形分濃度:40質量%、温度25℃の粘度:40〜150mPa・s)であった。
カルボキシル基含有高分子C−2は、カルボン酸系共重合体エマルション(東亞合成株式会社製「アロン(登録商標)A−7075」、固形分濃度:20質量%、温度25℃の粘度:5〜45mPa・s)であった。
カルボキシル基含有高分子C−3は、ポリアクリル酸の粉末(東亞合成株式会社製「ジュリマー(登録商標)AC−10LHP」、温度25℃の濃度10質量%水溶液の粘度:500〜1000mPa・s)であった。
続けて、フラスコ内に第1層被覆粒子300gを添加し、回転速度200rpmでフラスコ内容物を1時間攪拌した。これにより、第1層被覆粒子の表面にゲル状の第2シェル材料が付着した。その後、フラスコ内にイオン交換水300mLを添加した。
続けて、回転速度100rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、フラスコ内の温度を1.0℃/分の速度で60℃まで昇温させた。続けて、回転速度100rpmでフラスコ内容物を攪拌しながら、その温度(60℃)に2時間保った。液の温度を高温に保っている間に、第1層被覆粒子の表面に第2シェル層が形成された。第2シェル層は、アクリル酸系ポリマーを含有するカルボキシル基含有シェル層であった。
続けて、フラスコ内容物をその温度が常温(約25℃)になるまで冷却して、第2層被覆粒子(第1層被覆粒子の表面に第2シェル層が形成された粒子)を含む分散液を得た。その後、前述の第1シェル層形成後の「洗浄工程」と同様にして、第2層被覆粒子を洗浄した。
(第3シェル層形成工程)
前述の「第1シェル層形成工程」と同様にして、第2層被覆粒子の表面に第3シェル層を形成した。その結果、第3層被覆粒子(第2層被覆粒子の表面に第3シェル層が形成された粒子)を含む分散液を得た。第3シェル層は、2種以上のビニル化合物(詳しくは、メタクリル酸メチル及び2−ビニル−2−オキサゾリン)の共重合体を含有するオキサゾリン基含有シェル層であった。その後、前述の第1シェル層形成後の「洗浄工程」と同様にして、第3層被覆粒子を洗浄した。
(第4シェル層形成工程)
前述の「第2シェル層形成工程」と同様にして、第3層被覆粒子の表面に第4シェル層を形成した。その結果、第4層被覆粒子(第3層被覆粒子の表面に第4シェル層が形成された粒子)を含む分散液を得た。第4シェル層は、アクリル酸系ポリマーを含有するカルボキシル基含有シェル層であった。その後、前述の第1シェル層形成後の「洗浄工程」と同様にして、第4層被覆粒子を洗浄した。
(第5シェル層形成工程)
前述の「第1シェル層形成工程」と同様にして、第4層被覆粒子の表面に第5シェル層を形成した。その結果、第5層被覆粒子(第4層被覆粒子の表面に第5シェル層が形成された粒子)を含む分散液を得た。第5シェル層は、2種以上のビニル化合物(詳しくは、メタクリル酸メチル及び2−ビニル−2−オキサゾリン)の共重合体を含有するオキサゾリン基含有シェル層であった。その後、前述の第1シェル層形成後の「洗浄工程」と同様にして、第5層被覆粒子を洗浄した。
(第6シェル層形成工程)
前述の「第2シェル層形成工程」と同様にして、第5層被覆粒子の表面に第6シェル層を形成した。その結果、第6層被覆粒子(第5層被覆粒子の表面に第6シェル層が形成された粒子)を含む分散液を得た。第6シェル層は、アクリル酸系ポリマーを含有するカルボキシル基含有シェル層であった。その後、前述の第1シェル層形成後の「洗浄工程」と同様にして、第6層被覆粒子を洗浄した。
(第7シェル層形成工程)
前述の「第1シェル層形成工程」と同様にして、第6層被覆粒子の表面に第7シェル層を形成した。その結果、第7層被覆粒子(第6層被覆粒子の表面に第7シェル層が形成された粒子)を含む分散液を得た。第7シェル層は、2種以上のビニル化合物(詳しくは、メタクリル酸メチル及び2−ビニル−2−オキサゾリン)の共重合体を含有するオキサゾリン基含有シェル層であった。その後、前述の第1シェル層形成後の「洗浄工程」と同様にして、第7層被覆粒子を洗浄した。
(第8シェル層形成工程)
前述の「第2シェル層形成工程」と同様にして、第7層被覆粒子の表面に第8シェル層を形成した。その結果、第8層被覆粒子(第7層被覆粒子の表面に第8シェル層が形成された粒子)を含む分散液を得た。第8シェル層は、アクリル酸系ポリマーを含有するカルボキシル基含有シェル層であった。その後、前述の第1シェル層形成後の「洗浄工程」と同様にして、第8層被覆粒子を洗浄した。
(第9シェル層形成工程)
前述の「第1シェル層形成工程」と同様にして、第8層被覆粒子の表面に第9シェル層を形成した。その結果、多層構造シェル層(詳しくは、9層構造のシェル層)を備えるトナー母粒子(第8層被覆粒子の表面に第9シェル層が形成された粒子)を含む分散液を得た。第9シェル層は、2種以上のビニル化合物(詳しくは、メタクリル酸メチル及び2−ビニル−2−オキサゾリン)の共重合体を含有するオキサゾリン基含有シェル層であった。その後、前述の第1シェル層形成後の「洗浄工程」と同様にして、トナー母粒子を洗浄した。
トナーTA−1〜TA−3ではそれぞれ、トナー母粒子が9層構造のシェル層(トナーコア側から、第1シェル層、第2シェル層、第3シェル層、第4シェル層、第5シェル層、第6シェル層、第7シェル層、第8シェル層、及び第9シェル層)を備えていた。第1シェル層と第3シェル層と第5シェル層と第7シェル層と第9シェル層とは、互いに同じ材料(メタクリル酸メチルと2−ビニル−2−オキサゾリンとの共重合体)で構成され、かつ、互いに同じ厚さを有していた。また、第2シェル層と第4シェル層と第6シェル層と第8シェル層とも、互いに同じ材料(各トナーに定められた、表1に示すカルボキシル基含有高分子C−1〜C−3のいずれか)で構成され、かつ、互いに同じ厚さ(各トナーに定められた、表1に示すカルボキシル基含有高分子の添加量に対応する厚さ)を有していた。
トナーTA−4では、トナー母粒子が5層構造のシェル層(トナーコア側から、第1シェル層、第2シェル層、第3シェル層、第4シェル層、及び第5シェル層)を備えていた。
トナーTBでは、トナー母粒子が単層のシェル層(第1シェル層のみ)を備えていた。
(乾燥工程)
続けて、得られたトナー母粒子を、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させた。これにより、トナー母粒子のスラリーが得られた。続けて、連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)を用いて、熱風温度45℃かつブロアー風量2m3/分の条件で、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。その結果、乾燥したトナー母粒子の粉体が得られた。
(外添工程)
続けて、得られたトナー母粒子を外添処理した。詳しくは、トナー母粒子100質量部と、疎水性フュームドシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)R972」、疎水化剤:ジメチルジクロロシラン(DDS)、個数平均1次粒子径:約16nm)1.50質量部と、導電性酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC−100」、基体:TiO2粒子、被覆層:SbドープSnO2膜、個数平均1次粒子径:約0.35μm)1.00質量部と、架橋樹脂粒子(樹脂:架橋スチレン−アクリル酸系樹脂、個数平均1次粒子径:約0.08μm)1.25質量部とを、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて10分間混合することにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子、酸化チタン粒子、及び架橋樹脂粒子)を付着させた。続けて、得られた粉体を、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。その結果、多数のトナー粒子を含むトナー(トナーTA−1〜TA−4及びTB)が得られた。
上記のようにして得られたトナーTA−1〜TA−4及びTBの各々に関して、トナー粒子の断面における離型剤露出率と、トナー中に含まれるオキサゾリン基の量とを測定した。その測定結果は、表1に示すとおりであった。なお、表1に示す「オキサゾリン基の量」は、未開環のまま存在するオキサゾリン基と開環したオキサゾリン基との両方の総量に相当する。例えば、トナーTA−1に関しては、トナー粒子の断面における離型剤露出率が7%であり、オキサゾリン基の量がトナー1gに対して0.97μmolであった。
[オキサゾリン基の量の測定方法]
検量線(標準物質に基づく検量線)を用いて下記条件でGC/MS法による定量分析を行った。
<GC/MS法>
測定装置としては、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS−QP2010 Ultra」)及びマルチショット・パイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社製「FRONTIER LAB Multi−functional Pyrolyzer(登録商標)PY−3030D」)を用いた。カラムとしては、GCカラム(アジレント・テクノロジー社製「Agilent(登録商標)J&W ウルトライナートキャピラリGCカラム DB−5ms」、相:シロキサンポリマーにアリレンを入れてポリマーの主鎖を強化したアリレン相、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm、長さ:30m)を用いた。
(ガスクロマトグラフ)
・キャリアガス:ヘリウム(He)ガス
・キャリア流量:1mL/分
・気化室温度:210℃
・熱分解温度:加熱炉「600℃」、インターフェイス部「320℃」
・昇温条件:40℃で3分間保持した後、40℃から速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持した。
(質量分析)
・イオン化法:EI(Electron Impact)法
・イオン源温度:200℃
・インターフェイス部の温度:320℃
・検出モード:スキャン(測定範囲:45m/z〜500m/z)
[トナー粒子の断面における離型剤露出率の測定方法]
試料(トナー)を可視光硬化性樹脂(東亞合成株式会社製「アロニックス(登録商標)D−800」)で包埋して、硬化物を得た。その後、超薄切片作製用ナイフ(住友電気工業株式会社製「スミナイフ(登録商標)」:刃幅2mm、刃先角度45°のダイヤモンドナイフ)及びウルトラミクロトーム(ライカマイクロシステムズ株式会社製「EM UC6」)を用いて、切削速度0.3mm/秒で硬化物を切削することで、150nmの薄片を作製した。得られた薄片を、銅メッシュ上で四酸化ルテニウム水溶液の蒸気中に10分間暴露して、Ru染色した。続けて、染色された薄片試料の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて撮影した。
上記のようにして得たTEM撮影像(トナー粒子の断面撮影像)を、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて解析することにより、離型剤露出率を測定した。TEM撮影像(トナー粒子の断面撮影像)において、トナーコアの表面領域(外縁を示す輪郭線)のうち、シェル層に覆われずに離型剤が露出している領域の割合(離型剤露出率)を計測した。詳しくは、式「離型剤露出率=100×(シェル層に覆われずにトナーコアの表面に離型剤が露出している領域の長さの合計)/(トナーコアの周長)」に基づいて、トナー粒子の断面における離型剤露出率を求めた。「シェル層に覆われずにトナーコアの表面に離型剤が露出している領域」には、外添剤がトナーコアの表面に直接付着している領域が含まれる。試料(トナー)に含まれる10個のトナー粒子についてそれぞれ、離型剤露出率を測定した。そして、得られた10個の測定値の算術平均を、試料(トナー)の評価値(離型剤露出率)とした。
[評価方法]
各試料(トナーTA−1〜TA−4及びTB)の評価方法は、以下の通りである。
(耐熱保存性)
試料(トナー)2gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて、その容器を、58℃に設定された恒温器内に3時間静置した。その後、恒温器から取り出して、容器内に評価用トナーを得た。
続けて、得られた評価用トナーを質量既知の100メッシュ(目開き150μm)の篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に上記篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。そして、篩別後に、トナーを含む篩の質量を測定することで、篩上に残留したトナー(篩を通過しなかったトナー)の質量を求めた。篩別前のトナーの質量と、篩別後のトナーの質量(篩別後に篩上に残留したトナーの質量)とから、次の式に基づいて凝集率(単位:質量%)を求めた。
凝集率=100×篩別後のトナーの質量/篩別前のトナーの質量
凝集率が10質量%未満であれば○(良い)と評価し、凝集率が10質量%以上であれば×(良くない)と評価した。
(評価用現像剤の調製)
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa5550ci」用キャリア)100質量部と、試料(トナー)5質量部とを、混合機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「ターブラー(登録商標)ミキサー」)を用いて30分間混合して、評価用現像剤(2成分現像剤)を得た。
(低温定着性)
評価機としては、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着装置(ニップ幅8mm)を有するプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」を改造して定着温度を変更可能にした評価機)を用いた。前述の手順で調製した評価用現像剤を評価機の現像装置に投入し、試料(補給用トナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。
上記評価機を用いて、温度25℃かつ湿度50%RHの環境下、坪量90g/m2の紙(A4サイズの普通紙)に、線速200mm/秒、トナー載り量1.0mg/cm2の条件で、大きさ25mm×25mmのソリッド画像(詳しくは、未定着のトナー像)を形成した。続けて、画像が形成された紙を評価機の定着装置に通した。
定着温度100℃以上200℃以下の範囲で最低定着温度を測定した。詳しくは、定着装置の定着温度を100℃から2℃ずつ上昇させて、ソリッド画像(トナー像)を紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。トナーを定着させることができたか否かは、折擦り試験で確認した。詳しくは、定着装置に通した評価用紙を、画像を形成した面が内側となるように折り曲げ、布帛で被覆した1kgの分銅を用いて、折り目上の画像を5往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が形成された部分)を観察した。そして、折り曲げ部のトナーの剥がれの長さ(剥がれ長)を測定した。剥がれ長が1mm以下となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。最低定着温度が、145℃以下であれば○(良い)と評価し、145℃超であれば×(良くない)と評価した。
(感光体ドラム汚染)
評価機としては、複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「TASKalfa5550ci」)を用いた。前述の手順で調製した評価用現像剤を評価機の現像装置に投入し、試料(補給用トナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。
温度32℃かつ湿度80%RHの環境下、上記評価機を用いて、トナーコンテナからトナーを補給しながら、印字率5%の連続印刷を3000枚の紙(A4サイズの印刷用紙)に対して行った。連続印刷中、印刷開始から1000枚までは200枚ごとに、それ以降は1000枚ごとに、ソリッド画像を出力し、評価機の感光体ドラムの表面を目視で観察した。そして、以下の基準で感光体ドラム汚染を評価した。
○(良い):3000枚の連続印刷を通して、感光体ドラムの表面にトナーによる着色が観察されなかった。
×(良くない):3000枚の連続印刷中のいずれかのタイミングで、感光体ドラムの表面にトナーによる着色が観察された。
[評価結果]
トナーTA−1〜TA−4及びTBの各々についての評価結果(耐熱保存性:凝集率、低温定着性:最低定着温度、感光体ドラム汚染:汚染の有無)を、表2に示す。「感光体ドラム汚染」の評価結果に関する表2中の「1000枚」は、1000枚印刷した時点で感光体ドラムの表面にトナーによる着色が観察されたことを示している。
トナーTA−1〜TA−4(実施例1〜4に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、トナーTA−1〜TA−4ではそれぞれ、結着樹脂及び離型剤を含有するトナーコアと、トナーコアの表面を部分的に覆う多層構造シェル層とを備えるトナー粒子を、複数含んでいた。多層構造シェル層は、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含む第1ポリマーを含有する第1シェル層と、カルボキシル基を有する繰返し単位を含む第2ポリマーを含有する第2シェル層と、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含む第3ポリマーを含有する第3シェル層とを備えていた。これら第1シェル層、第2シェル層、及び第3シェル層は、トナーコア側から、第1シェル層、第2シェル層、第3シェル層の順の積層構造を有していた。第2シェル層は、トナーコアの表面領域のうち第1シェル層で覆われていない領域に接触していた。
トナーTA−1〜TA−4ではそれぞれ、多層構造シェル層が、カルボキシル基を有する繰返し単位を含む第4ポリマーを含有する第4シェル層と、オキサゾリン基を有する繰返し単位を含む第5ポリマーを含有する第5シェル層とをさらに備え、第1シェル層、第2シェル層、第3シェル層、第4シェル層、及び第5シェル層が、トナーコア側から、第1シェル層、第2シェル層、第3シェル層、第4シェル層、第5シェル層の順の積層構造を有していた。トナーTA−1〜TA−3ではそれぞれ、多層構造シェル層が、第6シェル層、第7シェル層、第8シェル層、及び第9シェル層をさらに備えていた。トナーコアの表面領域のうち離型剤が存在する領域は、第1シェル層に対して選択的に露出していた。第2シェル層は、第1シェル層に沿ってトナーコアまで延びて、トナーコアの表面領域のうち、第1シェル層に対して離型剤が露出した領域に接していた。また、第4シェル層、第6シェル層、及び第8シェル層も、下層シェル層に沿ってトナーコアまで延びて、トナーコアの表面領域のうち、下層シェル層に対して離型剤が露出した領域に接していた。トナーTA−4では、多層構造シェル層が、図2に示す構造と概ね同じ構造を有していた。
表2に示されるように、トナーTA−1〜TA−4ではそれぞれ、十分なトナーの耐熱保存性を確保しつつ、トナー粒子からの離型剤の脱離を抑制することができた。