JP6562235B1 - 蒸留酒の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】自己発熱等による腐敗や傷みの無いさつま芋を用い、多くの糖分を抽出して蜜が多量に出る状態となったさつま芋を十分に冷却する蒸留酒の製造方法を提供する。【解決手段】さつま芋1の蔓を切除せずに、複数のさつま芋1が蔓に繋がった状態で収穫する収穫工程と、複数のさつま芋1が蔓に繋がった状態を維持して運搬する運搬工程と、さつま芋1が密集しない状態で蔓を利用してさつま芋1を吊るして、さつま芋1に対して送風する吊るし工程と、さつま芋1を蒸して糖度を上昇させて蜜を生成する蒸し工程と、蒸されて蜜でコーティングされたさつま芋1の集合体を送風冷却筒21の周囲に配置し、送風冷却筒21の下方から送られる風が送風冷却筒21の側方からさつま芋1の集合体に対して供給されて、さつま芋1の集合体を冷却する冷却工程とを有する、蒸留酒の製造方法である。【選択図】図14

Description

本発明は、焼酎等の蒸留酒の製造方法に関する。
さつま芋を原材料とした焼酎の製造は、古来より広く行われている。一般的な芋焼酎の製造を行う際には、さつま芋を収穫した後、糖度を上げる熟成工程を経ずに使用されている。しかし、さつま芋を原材料とする場合、さつま芋に含まれる糖分が重要な要素であり、収穫時のさつま芋よりも糖度を上昇させたさつま芋を原材料として用いることができれば、焼酎の製造には有利である。
さつま芋を原材料として焼酎を製造することに関する技術の一例が、特許文献1に記載されている。
特開2010−81899号公報
さつま芋を吊るして糖度を上げたさつま芋を食用とすることは、鹿児島県垂水地域において知られている。しかし、このようにして糖度を上昇させたさつま芋を、焼酎等の蒸留酒の原材料とするためには、いくつかの技術的課題が存在する。
その一つは、さつま芋の自己発熱によって温度が上昇することにより、腐敗による傷みを招いたり、収穫時の作業や収穫後の運搬時において、さつま芋に衝撃や圧力がかかることによる傷みを招いたりすることである。さらに、結露やカビの発生も傷みの原因となる。このような傷みが生じたさつま芋を原材料として焼酎を製造すると、独特の腐敗臭を発生して、焼酎本来の風味を損なうこととなる。また、腐敗による傷みが生じている場合には、さつま芋を適宜切断して内部の腐敗の有無を選別し、腐敗の無い部分を選択する工程が必要となり、製造工程が煩雑となる。そのため、腐敗が生じない状態での糖度の上昇手段が求められている。
次に、さつま芋を原材料として焼酎の仕込みを行うためには、蒸し工程と、その後の冷却工程が必要であるが、蒸し工程においては、できるだけ多くの糖分を抽出できるようにすることが重要である。蒸しの条件によっては、さつま芋から蜜の状態で糖分を抽出することはできず、デンプンが流れ出る程度となってしまい、さつま芋が有する糖分を十分に生かした焼酎の製造を行うことはできない。
次に、蒸し工程によって糖度が上昇して蜜が多量に出る状態となったさつま芋は、羊羹のような柔らかく密着した状態となっており、さつま芋の原型を留めない形状となっているため、通常行われているような、送風によって冷却する手法では、個々のさつま芋の表面に風が行き渡らず、十分な冷却効果を得ることができない。そのため、このような状態となったさつま芋の集合体に対して、十分な冷却を行えないと、酵母が熱によって死滅し、モロミが腐敗することとなり、良好な味わいを持つ焼酎を製造することはできない。
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、自己発熱等による腐敗や、衝撃や圧力がかかることによる傷みの無いさつま芋を用い、蒸し工程において多くの糖分を抽出し、蒸し工程後に蜜が多量に出る状態となったさつま芋を十分に冷却して、酵母が熱によって死滅することを防止することを可能として、蜜の味わいを有する蒸留酒の製造方法を提供することを目的とする。
以上の課題を解決するために、本発明の蒸留酒の製造方法は、さつま芋の蔓を切除せずに、複数のさつま芋が蔓に繋がった状態で収穫する収穫工程と、複数のさつま芋が蔓に繋がった状態を維持して運搬する運搬工程と、さつま芋が密集しない状態で蔓を利用してさつま芋を吊るして、さつま芋に対して送風する吊るし工程と、さつま芋を蒸して糖度を上昇させて蜜を生成する蒸し工程と、蒸されて蜜でコーティングされたさつま芋の集合体を送風冷却筒の周囲に配置し、送風冷却筒の下方から送られる風が送風冷却筒の側方からさつま芋の集合体に対して供給されて、さつま芋の集合体を冷却する冷却工程とを有する。
収穫工程においては、さつま芋の蔓を切除せずに、複数のさつま芋が蔓に繋がった状態で収穫し、運搬工程においては、複数のさつま芋が蔓に繋がった状態を維持して運搬するため、収穫時に蔓を切除してさつま芋を積み上げて運搬する場合と比較して、個々のさつま芋が密集する状態が生じない。そのため、積み込み時や運搬時にさつま芋が密集して、打撲による傷みや集積されることによって生じる重みによる圧力によって傷みが発生することを防止できる。このような傷みを生じないことにより、さつま芋の腐敗を防いで適正な熟成を促進することができる。
また、吊るし工程においては、さつま芋が密集しない状態で蔓を利用してさつま芋を吊るして、さつま芋に対して送風するため、さつま芋の自己発熱によって温度が上昇して、腐敗が進行することを防止できる。また、送風によって空気中の水分を飛ばすことができるため、結露を防止することができるとともに、さつま芋を吊るしている庫内の空気の対流を促して、カビの発生を防止することができる。結露やカビの発生はいずれも腐敗の原因となるため、送風によって腐敗を防止しつつ、吊るしによる熟成によって、さつま芋の糖度を収穫時よりも高めることができる。また、さつま芋の腐敗を防止できるため、さつま芋を適宜切断して内部の腐敗の有無を選別する工程が不要となり、製造工程を簡略化できる。
また、蒸し工程において、さつま芋を蒸して糖度を上昇させて蜜を生成することにより、吊るし工程終了時よりも、さつま芋の糖度を各段に上昇させて、多量の蜜を生産することができ、風味を増すことができる。
また、冷却工程においては、蒸されて蜜でコーティングされたさつま芋の集合体を送風冷却筒の周囲に配置し、送風冷却筒の下方から送られる風が送風冷却筒の側方からさつま芋の集合体に対して供給されて、さつま芋の集合体を冷却するため、多量の蜜が生産されて個別のさつま芋の原型を留めていない、羊羹のような柔らかく密着した状態となったさつま芋の集合体に対しても、効果的に冷却効果を得ることができる。そのため、酵母が熱によって死滅することなく、モロミが腐敗することもなく、良好な味わいを持つ蒸留酒を製造することができる。
本発明の蒸留酒の製造方法においては、前記送風冷却筒は、らせん状に巻かれた管によって形成され、上下方向に周期的に空隙を有しており、この空隙からさつま芋の集合体に対して風が供給されることとすることができる。
送風冷却筒をらせん状に巻かれた管によって形成し、上下方向に周期的に空隙を有する構造とすることにより、送風冷却筒の下方から送られる風が、上下方向に周期的に設けられた空隙から、さつま芋の集合体に対して供給されるため、簡単な構成によって効果的に冷却を行うことができる。
本発明の蒸留酒の製造方法においては、前記空隙の大きさは、前記送風冷却筒の周囲にさつま芋の集合体を配置したときに、さつま芋の集合体が前記送風冷却筒の内部に入り込まない大きさに設定されていることとすることができる。
蒸し工程後のさつま芋の集合体は、多量の蜜が生産されて個別のさつま芋の原型を留めていない、羊羹のような柔らかく密着した状態となっており、この一部が送風冷却筒の内部に入り込むと、送風を十分に行うことができなくなり、冷却作用に支障をきたすこととなる。そのため、空隙の大きさを、さつま芋の集合体が送風冷却筒の内部に入り込まない大きさに設定することにより、送風冷却機能を確保している。空隙の具体的な大きさは、さつま芋の集合体の柔らかさの状態に応じて、適宜定めることができる。
本発明の蒸留酒の製造方法においては、前記送風冷却筒は、蒸し工程と冷却工程でさつま芋の集合体が収容される収容器に対して着脱可能な構造であることとすることができる。
送風冷却筒の設置数や設置位置は、冷却対象となるさつま芋の集合体の状況に応じて適宜変更されるものであるため、蒸し工程と冷却工程でさつま芋の集合体が収容される収容器に対して着脱可能な構造とすることにより、設計の自由度が高まり、冷却効果を高めることができる。
本発明の蒸留酒の製造方法においては、前記蒸し工程における蒸気の供給量は、さつま芋の中心部の温度が70℃以上85℃以下に維持されるように、初期段階では多くし、その後低下させることとすることができる。
蒸気量を終始強くして蒸すと、さつま芋の肉質は硬めになり、蜜の生成量は少なくなるのに対して、さつま芋の中心部の温度が70℃以上85℃以下に維持されるように、初期段階では使用蒸気量を多くし、その後使用蒸気量を低下させることにより、さつま芋の肉質が柔らかくなり、蜜の生産量を高めることができる。
本発明によると、自己発熱等による腐敗や、衝撃や圧力がかかることによる傷みの無いさつま芋を用い、蒸し工程において多くの糖分を抽出し、蒸し工程後に蜜が多量に出る状態となったさつま芋を十分に冷却して、酵母が熱によって死滅することを防止することを可能として、蜜の味わいを有する蒸留酒の製造方法を実現することができる。
本発明の収穫工程を示す図である。 本発明の運搬工程を示す図である。 従来よく行われているさつま芋の収穫工程を示す図である。 従来よく行われているさつま芋の運搬工程を示す図である。 吊るし工程の作業の状況を示す図である。 吊るし作業を送風なしで行う作業状況を示す図である。 吊るし工程を行わずに、さつま芋の熟成を行う様子を示す図である。 蒸し工程と冷却工程でさつま芋が収容される収容器と、収容器に着脱可能に設置される送風冷却筒を示す図である。 収容器に送風冷却筒が設置された状況を示す図である。 送風冷却筒が設置された収容器内にさつま芋を投入している状況を示す図である。 さつま芋の投入作業の途中段階を示す図である。 さつま芋の投入作業の終了段階を示す図である。 蒸し工程を示す図である。 冷却工程を示す図である。 送風冷却筒を用いずに、単に収容器の下方から空気を供給する場合を示す図である。 従来の冷却方法を示す図である。 製造プロセスの全体を示す図である。 本発明の製造方法による焼酎の化学分析結果を示す図である。 本発明の製造方法による焼酎の化学分析結果を示す図である。 本発明の製造方法による焼酎の化学分析結果を示す図である。
以下に、本発明の蒸留酒の製造方法を、その実施形態に基づいて説明する。
本発明の蒸留酒の製造方法は、さつま芋の蔓を切除せずに、複数のさつま芋が蔓に繋がった状態で収穫する収穫工程と、複数のさつま芋が蔓に繋がった状態を維持して運搬する運搬工程と、さつま芋が密集しない状態で蔓を利用してさつま芋を吊るして、さつま芋に対して送風する吊るし工程と、さつま芋を蒸して糖度を上昇させて蜜を生成する蒸し工程と、蒸されて蜜でコーティングされたさつま芋の集合体を送風冷却筒の周囲に配置し、送風冷却筒の下方から送られる風が送風冷却筒の側方からさつま芋の集合体に対して供給されて、さつま芋の集合体を冷却する冷却工程とを有する。それぞれの工程について、以下に順次説明する。
最初に、収穫工程と運搬工程について説明する。
図1、図2に、本発明の収穫工程と運搬工程を示す。
図1(a)に示すように、さつま芋1は、その蔓2が切除されずに、複数のさつま芋1が蔓2に繋がった状態で株ごと収穫される。従って、複数のさつま芋1が蔓2に繋がった状態で、青果用収穫機3のコンベア4上を動いて、図1(b)に示すように、プラスチックボックス5の中に丁寧に並べられる。プラスチックボックス5は、20kg用のものを使用する。
図2(a)は、プラスチックボックス5内に、複数のさつま芋1が蔓2に繋がった状態で積み込まれた状態を示している。蔓2は、後述するように、本発明における吊るし工程において必須なものであるが、この蔓2が存在することによって、蔓2に繋がった状態のさつま芋1は所定の形状を維持するようになり、これらを整列して積み上げた状態であっても、個々のさつま芋1が密集する状態が生じない。
また、図2(b)は、積み込まれたさつま芋1がトラック6によって運搬される様子を示しているが、この際にも、個々のさつま芋1が密集する状態が生じないだけでなく、蔓2が存在することによってクッションの役割を発揮し、整列して積み上げられたさつま芋1の運搬時の衝撃を緩和することができる。
このように、積み込み時や運搬時にさつま芋1が密集して、打撲による傷みや集積されることによって生じる重みによる圧力によって傷みが発生することを防止できる。このような傷みを生じないことは、さつま芋1の腐敗を防いで適正な熟成を促進するうえで重要な要素となる。傷が多いと、後述する熟成は進まずにすぐに腐敗へと移行し、熟成期間の2週間目頃の腐敗の分岐点をクリアできない。
上述した本発明の収穫工程と運搬工程と対比するために、従来よく行われているさつま芋の収穫工程と運搬工程を、図3、図4に基づいて説明する。
図3(a)に示すように、さつま芋1は、デンプン用収穫機7によってスピード重視で収穫され、図3(b)に示すように、その蔓2が切除されて、個々のさつま芋1は、無造作に袋8に投入される。蔓2は、コンベア4の繋ぎ目で、コンベア4の下部へ引っ張られて千切られていく仕組みになっており、その際の荒い機械作業により、さつま芋1に広範囲で傷が付く。また、袋8に投入される際も、コンベア4を通過したさつま芋1が高い位置から落下して収納される。この投入の際に、さつま芋1には広範囲に亘って傷がついたり、打撲の跡が残ったりする。
また、図4(a)に示すように、さつま芋1は密集した状態で袋8に収容されるため、その重みによる圧力によって損傷を受けやすい。袋8は通常500kg用のものが用いられており、袋8に収納された500kgのサツマイモは、その自身の重みで袋8の下部にいくほど圧力が掛かった状態に晒される。その後、図4(b)、図4(c)に示すように、さつま芋1が収容された袋8は、クレーン9によって吊り上げられて、トラック6により運搬されるが、この際の衝撃は全てさつま芋1に届き、さつま芋1が密集した状態で積層されているため、打撲や擦り傷が生じて互いに傷を与えやすい状態となる。また、蔓2が付いていないため、さつま芋1同士が密着し、クッションとなるものが存在しないため、衝撃を受けやすい状況が作られている。
次に、吊るし工程について説明する。
図5に、吊るし工程の作業の状況を示す。
吊るし工程は、日中と夜間の温度差による腐敗を防止するために、収穫、運搬を行った日のうちに実施を開始する。さつま芋1が密集しない状態で、切除されずに残っている蔓2を利用して、さつま芋1を吊るし、送風機10を用いてさつま芋1に対して送風する。送風を行うことにより、さつま芋1の外部に結露が生じることを防止できるとともに、カビの発生を防止できる。さらに、さつま芋1が密集しない状態となっていることと、風が行き渡ることによって、さつま芋1の自己発熱による腐敗を防止することができる。さつま芋1に対して様々な方向から風が当たるようにするために、送風機10を複数設置して、異なる方向から風を当てるようにすることが好ましい。送風機10として、扇風機、サーキュレーター、換気扇、エアクリーナー、エアコン等を用いることができる。吊るし工程は、1〜2か月間実施する。
図6は、これと対比するために、吊るし作業を送風なしで行う作業状況を示している。さつま芋1に対して送風を行わないことによって、部分拡大図に示すように、さつま芋1の外部に結露11が生じている。
図7は、本発明と対比するために、吊るし工程を行わずに、さつま芋の熟成を行う様子を示している。図7(a)は、ケース12にさつま芋1が密集して入れられた状態を示しており、図7(b)は、これらのケース12を積層した状態を示している。トンネル等の場所を利用して、温度を13℃前後、湿度を80%以上に設定し、20kg用のプラスチックボックスに入れて、無風で3週間〜1か月間ほど熟成させる。このようにしてさつま芋1を所定時間放置しておくと、さつま芋1の外部に結露が生じる。
また、図7(c)に示すように、さつま芋1の自己発熱によって温度が高くなる内部に、腐敗による傷み13が生じる。自己発熱によるさつま芋1自身の温度により、デンプン糖化反応に必要なさつま芋1自身の酵素はすべて変性し、糖化を行うことが全くできなくなり、これにより腐敗が始まる。このように、腐敗による傷み13が生じている場合には、さつま芋1を適宜切断して内部の腐敗の有無を選別し、腐敗の無い部分を選別する工程が必要となり、製造工程が煩雑となる。この選別で撥ねられたさつま芋1は廃棄するしかなく、原料費のロスとなる。また、この方法では、蜜を生産することができず、酒質の再現性が極めて低くなる。この方法で2か月間熟成させて、熟成の成功率は50%ほどに留まり、残り50%は廃棄するという状況であった。
吊るし工程における送風の効果を確認するために、送風を行わない場合と、送風を行った場合との比較を行った。
1tのベニハルカを吊るして送風無しで熟成を試みたところ、2週間で90%のさつま芋にカビが繁殖した。さつま芋が密集していない箇所には腐敗が少ないものの、密集している箇所には腐敗が多く発生し、腐敗による強烈な芳香性の香りが充満していた。
これに対し、これと同じ時期に、2.7tのベニハルカを2か月間吊るして送風を行ったところ、全体の99.5%について腐敗せずに熟成することができ、蒸し工程を経ることによって、蜜を400〜500リットル生成することができた。このように、送風を行うことによって、安定的に熟成期間を伸ばすことができ、それにより蜜を大量に生成することができることが明らかとなった。
このように、本発明における吊るし工程によると、自己発熱や結露やカビの発生によって、さつま芋1に傷みが生じることを防止して、さつま芋1の糖度を、収穫時よりも高めることができる。さつま芋1の収穫時の糖度は、生芋の状態で9度であるのに対して、吊るし工程を経ることによって、糖度は13度〜16度程まで上昇した。
次に、蒸し工程と冷却工程について説明する。
図8から図14に、蒸し工程と冷却工程の作業状況を示す。
図8は、蒸し工程と冷却工程でさつま芋1が収容される収容器20と、収容器20に着脱可能に設置される送風冷却筒21を示している。図8における破線の矢印は、送風冷却筒21が設置される位置を示している。
図9は、収容器20に送風冷却筒21が設置された状況を示している。
送風冷却筒21は、らせん状に巻かれた管22によって形成され、上下方向に周期的に空隙23を有しており、冷却工程において、この空隙23からさつま芋1の集合体に対して風が供給される構造となっている。図9においては、収容器20に送風冷却筒21を4つ設置したものを示しているが、送風冷却筒21の設置数と設置位置は、状況に応じて適宜変更できる。冷却工程の詳細については、後に詳述する。
図10は、送風冷却筒21が設置された収容器20内に、さつま芋1を投入している状況を示している。さつま芋1は、送風冷却筒21には投入せず、送風冷却筒21外の領域に投入する。
図11は、さつま芋1の投入作業の途中段階を示し、図12は、さつま芋1の投入作業の終了段階を示している。図12に示すように、さつま芋1は、送風冷却筒21の外周側に接するように、密集して収容器20内に収容されている。
図13は、図12に示す状態のさつま芋1に対して、蒸気供給管24から蒸気を供給して実施される蒸し工程を示している。蒸し工程では、収容器20の上方に設置された蒸気供給管24から、図13において黒い矢印で示すように、蒸気がさつま芋1に与えられる。蒸気の供給は、さつま芋1の中心部の温度が70℃以上85℃以下に維持されるように、初期段階では使用蒸気量を多くし、その後使用蒸気量を低下させる。初期段階の蒸し時間は25分〜30分程度とし、使用蒸気量を低下させてからの蒸し時間は、3時間〜4時間程度としている。
蒸気量を終始強くして蒸すと、さつま芋1の肉質は硬めになり、蜜の生成量は少なくなるのに対して、さつま芋1の中心部の温度が70℃以上85℃以下に維持されるように、初期段階では使用蒸気量を多くし、その後使用蒸気量を低下させることにより、さつま芋1の肉質が柔らかくなり、蜜の生産量を高めることができる。この条件で、1.7tのさつま芋1を、吊るし工程を経て蒸し上げると、300〜500リットルの蜜を生産することができた。
従来よく行われている、高温で短時間のうちに蒸し上げる方法によると、さつま芋1の中心温度が100℃で終始蒸されることになり、さつま芋1の細胞壁内の組織液が蒸発しやすくなり、さつま芋1が硬化し、蜜を十分に生産することができない。吊るし工程を経た1.7tのさつま芋1を中心温度が100℃付近となるように、1時間30分程度蒸した場合には、生産された蜜の量は30〜50リットルであった。また、吊るし工程を経ずに、1.7tのさつま芋1を中心温度が100℃付近となるように、1時間30分程度蒸した場合には、さつま芋1はパサパサな状態で、蜜は生産されなかった。その一方、さつま芋1の中心温度が終始65℃以下となるように蒸し上げると、さつま芋1の内部まで熱が伝わらず、生煮えになり、蜜は生産されず、焼酎に欠点となるエグミが出てしまう。
以上の理由から、さつま芋1の中心温度が65℃となる温度帯を速やかに通過させ、中心温度が70℃〜85℃となる温度帯を保ってじっくり蒸すことが、蜜を最も多く生成するために最適な方法である。
蒸し工程の実施によって、さつま芋1の蜜の糖度は30〜40度まで上昇した。一般的に、プリンスメロンやみかんの糖度が14度であることを考慮すると、相当量の糖度であることがわかる。
図14は、蒸し工程後の冷却工程を示している。図14(a)はその全体図であり、図14(b)は、図14(a)において矢印で示した部分を拡大した図である。
冷却工程では、収容器20の下方に設置された送風管25から、送風冷却筒21に対して乾燥した空気が供給される。送風冷却筒21では、下側から上側に向かって空気が送られるとともに、その側方からさつま芋1に対して空気が流出する。
蒸し工程後のさつま芋1は、糖度の上昇により多量の蜜が生産されて、個別のさつま芋1の原型を留めていない、羊羹のような柔らかく密着した状態となっている。そのため、図15に示すように、送風冷却筒21を用いずに、単に収容器20の下方から空気を供給しても、収容器20の下側に蓄積したさつま芋1にブロックされて、収容器20内で空気の通り道を確保することができず、個別のさつま芋1の表面に空気を送って冷却することができない。
そのため、図14に示すように、冷却工程においては、蒸されて蜜でコーティングされた状態、すなわち表面が蜜で覆われたさつま芋1の集合体を送風冷却筒21の周囲に配置し、送風冷却筒21の下方から送られる風が白い矢印で示すように、送風冷却筒21の側方からさつま芋1の集合体に対して供給されて、さつま芋1の集合体を冷却する手法を採っている。これにより、効果的に冷却効果を得ることができるため、酵母が熱によって死滅することなく、モロミが腐敗することもなく、良好な味わいを持つ蒸留酒を製造することができる。
送風冷却筒21をらせん状に巻かれた管22によって形成し、上下方向に周期的に空隙23を有する構造とすることにより、送風冷却筒21の下方から送られる風が、上下方向に周期的に設けられた空隙23から、さつま芋1の集合体に対して供給されるため、簡単な構成によって効果的に冷却を行うことができる。
また、空隙23の大きさは、送風冷却筒21の周囲にさつま芋1の集合体を配置したときに、さつま芋1の集合体が送風冷却筒21の内部に入り込まない大きさに設定されている。
蒸し工程後のさつま芋1の集合体は、多量の蜜が生産されて個別のさつま芋1の原型を留めていない、羊羹のような柔らかく密着した状態となっており、この一部が送風冷却筒21の内部に入り込むと、送風を十分に行うことができなくなり、冷却作用に支障をきたすこととなる。そのため、空隙23の大きさを、さつま芋1の集合体が送風冷却筒21の内部に入り込まない大きさに設定することにより、送風冷却機能を確保することができる。空隙23の具体的な大きさは、さつま芋1の集合体の柔らかさの状態に応じて、適宜定めることができる。なお、送風冷却筒21の構造は上述したものに限定されず、下側から上側に向かって空気が送られるとともに、その側方からさつま芋1に対して空気が流出する構造のものであれば、他の形状であってもよい。また、送風冷却筒21の径は、状況に応じて適宜定めることができる。
以上の説明と対比するために、図16に、従来の冷却方法を示す。
従来の製造方法では、本発明によるものと比較して、さつま芋1の糖度を上昇させることができないため、パサパサで甘みをあまり感じず、形が崩れておらず、蜜でコーティングされた状態となっていない。そのため、さつま芋1の個体は独立して存在しており、単に収容器20の下方から空気を供給する手法であっても、空気はさつま芋1の間の隙間を通って、さつま芋1の表面に空気を送って冷却することが可能である。
以上のことから、本発明における冷却工程は、糖度を上げて蜜を大量に生産した後、蜜にコーティングされて塊となった状態のさつま芋1の集合体を冷却する際に生じる固有の問題点を解決するものであり、この点において、従来の製造方法とは顕著に異なるものである。さつま芋1は、30℃以下の温度で仕込まないと、酵母が熱で死滅し、モロミが腐敗してしまう。自然放冷では翌朝まで置いても冷却できないのに対して、本発明の冷却工程によると、1時間〜2時間で、所望の温度まで冷却することができ、作業性が大いに向上する。このことから、本発明における冷却工程は、蜜が大量に生産された状態のさつま芋1の冷却方法として、極めて有効である。
以上の説明において、さつま芋の品種としてベニハルカを用い、図17に示すように、蒸し後に冷却したものを投入して、モロミを用いて仕込みを行い、蒸留して、芋焼酎の製造を行った。ベニハルカの収穫時の糖度は9%であるのに対して、焼酎用として最も多く使用されるコガネセンガン、甘みが強くて有名な安納芋、食用で一般的に使われる紅アヅマの収穫時の糖度はいずれも9%であり、収穫時の糖度が同等であることから、ベニハルカ以外の品種を用いても、同様に焼酎を製造することができる。また、焼酎に限らず、その他の蒸留酒も、同様の方法によって製造することが可能である。
上記の方法で製造された焼酎の化学的分析を、鹿児島大学農学部焼酎・発酵学教育研究センターで行い、本発明の製造方法によるつるし芋仕込み焼酎(本発明)を、吊るし工程を行わず熟成させていない自社製造によるベニハルカ仕込み芋焼酎(比較例)と、大手メーカーの代表的な一般市販芋焼酎(従来例)と対比して、酒質の比較を行った。図18、図19、図20に、本発明の製造方法による焼酎の化学分析結果を、比較例、従来例と対比して示している。図18、図19、図20のいずれにおいても、黒色で示すものが本発明のデータであり、白色で示すものが比較例のデータであり、ドットで示すものが従来例のデータである。
図18は、芋焼酎のみに特有の甘い香味成分である、ダマセノンの含有量を示しており、本発明であるつるし芋仕込みの芋焼酎で49ppb、比較例であるベニハルカ仕込み芋焼酎で6ppb、従来例である一般市販酒で7ppb検出された。従って、本発明の製造方法によると、比較例であるベニハルカ仕込み芋焼酎に対して8倍、従来例である一般市販酒に対して7倍の検出量であった。
図19は、芋焼酎のみに特有のバラ様の香味成分である、ローズオキサイドの含有量を示しており、本発明であるつるし芋仕込みの芋焼酎で1.3ppb、比較例であるベニハルカ仕込み芋焼酎で0.1ppb、従来例である一般市販酒で1.1ppb検出された。従って、本発明の製造方法によると、比較例であるベニハルカ仕込み芋焼酎に対して13倍、従来例である一般市販酒に対して1.2倍の検出量であった。
図20は、果実様の香味成分である、脂肪酸エチルエステルの含有量を示しており、本発明であるつるし芋仕込みの芋焼酎で166ppm、比較例であるベニハルカ仕込み芋焼酎で48ppm、従来例である一般市販酒で12ppm検出された。従って、本発明の製造方法によると、比較例であるベニハルカ仕込み芋焼酎に対して3.5倍、従来例である一般市販酒に対して14倍の検出量であった。
以上の分析結果から、さつま芋の腐敗による強い芳香性の香味ではなく、さつま芋の糖蜜熟成による酒質貢献が明らかとなった。また、実際に利き酒を行っても、大きな酒質差を感じることができた。
以上説明したように、本発明では、仕込み段階でさつま芋の蜜が溢れ出てきて、その蜜様の甘い味わいが焼酎に移行し、独特の甘みのある芋焼酎となる。蜜が酒質に与える影響は大きいため、熟成段階でさつま芋の腐敗を起こさずに、糖化を促進する熟成過程により生成される蜜量を最大限にすることが極めて重要である。
本発明は、自己発熱等による腐敗や、衝撃や圧力がかかることによる傷みの無いさつま芋を用い、蒸し工程において多くの糖分を抽出し、蒸し工程後に蜜が多量に出る状態となったさつま芋を十分に冷却して、酵母が熱によって死滅することを防止できるため、蜜の味わいを有する蒸留酒の製造方法として、広く利用することができる。
1 さつま芋
2 蔓
3 青果用収穫機
4 コンベア
5 プラスチックボックス
6 トラック
7 デンプン用収穫機
8 袋
9 クレーン
10 送風機
11 結露
12 ケース
13 傷み
20 収容器
21 送風冷却筒
22 らせん状に巻かれた管
23 空隙
24 蒸気供給管
25 送風管

Claims (4)

  1. さつま芋の蔓を切除せずに、複数のさつま芋が蔓に繋がった状態で収穫する収穫工程と、複数のさつま芋が蔓に繋がった状態を維持して運搬する運搬工程と、さつま芋が密集しない状態で蔓を利用してさつま芋を吊るして、さつま芋に対して送風する吊るし工程と、さつま芋を蒸して糖度を上昇させて蜜を生成する蒸し工程と、蒸されて蜜でコーティングされたさつま芋の集合体を送風冷却筒の周囲に配置し、送風冷却筒の下方から送られる風が送風冷却筒の側方からさつま芋の集合体に対して供給されて、さつま芋の集合体を冷却する冷却工程とを有する蒸留酒の製造方法であって、
    前記蒸し工程における蒸気の供給量は、さつま芋の中心部の温度が70℃以上85℃以下に維持されるように、初期段階では多くし、その後低下させることを特徴とする蒸留酒の製造方法。
  2. 前記送風冷却筒は、らせん状に巻かれた管によって形成され、上下方向に周期的に空隙を有しており、この空隙からさつま芋の集合体に対して風が供給されることを特徴とする請求項1記載の蒸留酒の製造方法。
  3. 前記空隙の大きさは、前記送風冷却筒の周囲にさつま芋の集合体を配置したときに、さつま芋の集合体が前記送風冷却筒の内部に入り込まない大きさに設定されていることを特徴とする請求項2記載の蒸留酒の製造方法。
  4. 前記送風冷却筒は、蒸し工程と冷却工程でさつま芋の集合体が収容される収容器に対して着脱可能な構造であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蒸留酒の製造方法。
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