本発明のグルタルイミド樹脂の製造方法は、アクリル系樹脂とイミド化剤とを反応させてグルタルイミド樹脂を製造する方法であって、アクリル系樹脂にイミド化剤を加える第1イミド化剤供給工程と、前記第1イミド化剤供給工程の後に、脱揮を行う第1ベント工程と、前記第1ベント工程の後に、イミド化剤を加える第2イミド化剤供給工程と、前記第2イミド化剤供給工程の後に、脱揮を行う第2ベント工程とを有するものである。
イミド化剤と反応させるアクリル系樹脂(以下、「原料アクリル系樹脂」と称する場合がある)は、α,β−不飽和カルボニル化合物を単独または共重合することにより得られるものであればよい。すなわちα,β−不飽和カルボニル化合物は(メタ)アクリル酸およびそのエステルなどの(メタ)アクリル酸化合物が好ましいものの、(メタ)アクリル酸化合物以外の化合物であってもよく、こうした(メタ)アクリル酸以外の化合物では、β位炭素に水素原子以外の置換基が結合していてもよく、α位炭素に水素原子やメチル基以外の置換基が結合していてもよい。なお、β位炭素に結合していてもよい水素原子以外の置換基としては、例えば、炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。α位炭素に結合していてもよい水素原子とメチル基以外の置換基としては、例えば、炭素数2〜8のアルキル基が挙げられる。α,β−不飽和カルボニル化合物のカルボニル基は、例えば、カルボン酸やその塩、エステル、酸無水物、酸塩化物等として存在していればよい。
原料アクリル系樹脂は、α,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(以下、「α,β−不飽和カルボン酸エステル単位」と称する場合がある)を有していることが好ましく、例えば、下記式(2)で表される繰り返し単位を有していることが好ましい。なお、下記式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。
式(2)のα,β−不飽和カルボン酸エステル単位において、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。なかでも、R4およびR5としては、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、これにより、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性を高めやすくなり、またグルタルイミド樹脂をフィルム化して光学フィルムを製造した際に、複屈折の小さい光学フィルムを得やすくなる。原料アクリル系樹脂の製造容易性の点からは、R4およびR5は、水素原子またはメチル基であることが好ましく、R4が水素原子で、R5が水素原子またはメチル基であることが好ましい。
式(2)で表される繰り返し単位において、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。炭素数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ベンジル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビナフチル基、アントリル基等が挙げられる。これらのなかでも、R6としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基またはn−ブチル基がさらにより好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましく、これによりイミド化反応を進めやすくなる。
原料アクリル系樹脂は、式(2)のα,β−不飽和カルボン酸エステル単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
式(2)で表される繰り返し単位を有するアクリル系樹脂は、例えば、下記式(4)で表されるα,β−不飽和カルボン酸エステルを重合させることによって得ることができる。なお、この場合、式(4)のα,β−不飽和カルボン酸エステル以外の他のモノマーが含まれていてもよく、当該他のモノマーとして例えば、R6が水素原子である以外は下記式(4)と同じである化合物(以下、「α,β−不飽和カルボン酸」と称する場合がある)、好ましくは(メタ)アクリル酸が挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸エステルとα,β−不飽和カルボン酸とを共重合する場合は、α,β−不飽和カルボン酸エステルとα,β−不飽和カルボン酸の合計100質量%に対してα,β−不飽和カルボン酸を45質量%以下、好ましくは40質量%以下の含有率で含有させることができる。
式(4)において、R4、R5およびR6は上記と同じ意味を表す。式(4)で表されるα,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、R4が水素原子であり、R5が水素原子またはメチル基である(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
R6がアルキル基であるときの(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。R6がシクロアルキル基のときの(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。R6がアリール基のときの(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、o−トリル(メタ)アクリレート、m−トリル(メタ)アクリレート、p−トリル(メタ)アクリレート、2,3−キシリル(メタ)アクリレート、2,4−キシリル(メタ)アクリレート、2,5−キシリル(メタ)アクリレート、2,6−キシリル(メタ)アクリレート、3,4−キシリル(メタ)アクリレート、3,5−キシリル(メタ)アクリレート、1−ナフチル(メタ)アクリレート、2−ナフチル(メタ)アクリレート、ビナフチル(メタ)アクリレート、アントリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
式(4)で表されるモノマーを重合させる方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられる。式(4)で表されるモノマーを重合させることにより、式(2)で表される繰り返し単位を有するアクリル系樹脂を得ることができる。
重合の際に用いる重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)・二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;過酸化水素、過酢酸、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物等を用いればよい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、例えば、モノマー100質量部に対して0.01〜1質量部とすることが好ましい。
原料アクリル系樹脂は、α,β−不飽和カルボン酸エステル単位に加え、α,β−不飽和カルボン酸に由来するカルボン酸を含む繰り返し単位(以下、「α,β−不飽和カルボン酸単位」と称する場合がある)を有していることが好ましい。原料アクリル系樹脂が、エステル基を含む繰り返し単位とカルボン酸を含む繰り返し単位を有していれば、イミド化反応が進行しやすくなる。
原料アクリル系樹脂は、無水グルタル酸構造を含む繰り返し単位を有していることも好ましい。具体的には、下記式(3)で表される繰り返し単位を有していることが好ましい。原料アクリル系樹脂が、無水グルタル酸単位を有していれば、イミド化剤との反応性を高めることができる。
式(3)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。なかでも、R1およびR2としては、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、これにより、得られるグルタルイミド樹脂の耐熱性を高めやすくなり、またグルタルイミド樹脂をフィルム化して光学フィルムを製造した際に、複屈折の小さい光学フィルムを得やすくなる。原料アクリル系樹脂の製造容易性の点からは、R1およびR2は、水素原子またはメチル基であることが好ましく、R1が水素原子またはメチル基で、R2が水素原子であることが好ましい。
原料アクリル系樹脂をイミド化剤と反応させてイミド化する場合、イミド化剤の種類によっては、求核性が低く、原料アクリル系樹脂の有するカルボキシル基やその誘導体との反応性が低下する場合がある。しかし、原料アクリル系樹脂が無水グルタル酸構造(すなわち酸無水物構造)を有していれば、求核性が低いイミド化剤であっても、カルボキシル基やその誘導体とのとの反応を進めやすくなる。つまり、イミド化率の高いグルタルイミド樹脂を得るためには、無水グルタル酸構造を有するアクリル系樹脂を用いることが好ましい。この方法は、特に、求核性が小さい、アニリン等のアリールアミンを用いたときに特に有効である。
無水グルタル酸構造を有するアクリル系樹脂は、アクリル系樹脂を環化反応させることにより得ることができる。このとき、無水グルタル酸化反応に供するアクリル系樹脂としては、式(2)のα,β−不飽和カルボン酸エステル単位を有するものであることが好ましく、式(2)のα,β−不飽和カルボン酸エステル単位とα,β−不飽和カルボン酸単位を有するものであることがより好ましい。隣接するα,β−不飽和カルボン酸単位2つから脱水することによって、または隣接するα,β−不飽和カルボン酸単位とα,β−不飽和カルボン酸エステル単位から脱アルコールすることによって、環化が進行し、無水グルタル酸構造が形成される。
無水グルタル酸構造への環化反応は、アクリル系樹脂を減圧下で加熱し、環化縮合させることが好ましい。このような条件で反応を行う方法として、後述するようなベントを備えた押出機等を用いる方法が有効である。
無水グルタル酸構造への環化反応は、環化反応を促進する点から、減圧下で行うことが好ましく、当該反応における圧力(絶対圧)は、例えば80kPa以下とすることが好ましく、60kPa以下がより好ましく、40kPa以下がさらに好ましい。当該圧力の下限は特に限定されないが、減圧状態を実現するための設備が過剰仕様とならず、設備費を低く抑える点から、1kPa以上が好ましい。
無水グルタル酸構造への環化反応における反応温度(樹脂温度)は、環化反応を促進する点から、240℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましい。一方、アクリル系樹脂の分解や着色等を抑制する点から、当該温度は350℃以下が好ましく、330℃以下がより好ましい。
無水グルタル酸構造への環化反応に当たっては、触媒を用いてもよい。当該環化反応を促進させる触媒としては、酸、塩基およびそれらの塩からなる群より選ばれた少なくとも1種を用いることができる。酸、塩基およびそれらの塩の種類は、特に限定されない。
酸としては、例えば、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、リン酸、亜リン酸、フェニルホスホン酸、リン酸メチル等が挙げられる。塩基としては、例えば、金属水酸化物、アミン類、イミン類、アルカリ金属誘導体、アルコキシド類、水酸化アンモニウム塩等が挙げられる。酸および塩基の塩としては、例えば、酢酸金属塩、ステアリン酸金属塩、炭酸金属塩等が挙げられる。これらの触媒のなかでは、少量で優れた反応促進効果を示すことから、アルカリ金属を有する化合物が好ましい。アルカリ金属を有する化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムフェノキシド等のアルカリ金属アルコキシド化合物、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム等の有機カルボン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。これらのアルカリ金属を有する化合物のなかでは、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、酢酸リチウムおよび酢酸ナトリウムが好ましく、ナトリウムメトキシドおよび酢酸リチウムがより好ましい。
触媒の量は特に限定されないが、アクリル系樹脂に着色などの悪影響を及ぼさず、アクリル系樹脂の透明性が低下しない範囲内で使用することが好ましい。触媒の量は、例えば、無水グルタル酸化反応(無水グルタル酸構造への環化反応)に供するアクリル系樹脂100質量部に対して、0.01〜1質量部程度であることが好ましい。
式(2)のα,β−不飽和カルボン酸エステル単位を有するアクリル系樹脂を無水グルタル酸構造を経由してイミド化する場合、生成した無水グルタル酸樹脂(無水グルタル酸構造を有するアクリル系樹脂)を単離した後、得られた無水グルタル酸樹脂をイミド化させることにより、グルタルイミド構造を効率よく生成させることができる。
原料アクリル系樹脂と反応させるイミド化剤としては、アミンまたはアンモニアを用いることが好ましく、アミンとしては1級アミンを用いることが好ましい。イミド化剤として用いるアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン等の炭素数1〜18のアルキルアミン;シクロヘキシルアミン等の炭素数3〜12のシクロアルキルアミン;アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリンなどの炭素数6〜10のアリールアミン等が挙げられる。これらのイミド化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。イミド化剤としては、耐熱性に優れ、複屈折が小さいグルタルイミド樹脂を得る点から、シクロアルキルアミンまたはアリールアミンを用いることが好ましく、アリールアミンがより好ましい。
イミド化剤の量は、グルタルイミド樹脂に含まれるグルタルイミド構造の所望量によって適宜調整すればよく、一概には決定できない。換言すれば、イミド化剤の量を調整することによって、グルタルイミド樹脂に含まれるグルタルイミド構造の含有率を調整することができる。イミド化剤の量は、例えば、原料アクリル系樹脂100質量部に対して、5〜100質量部の範囲で調整すればよく、10〜70質量部がより好ましい。
アクリル系樹脂のイミド化反応は、溶融状態のアクリル系樹脂にイミド化剤を加えることにより行うことが好ましい。イミド化反応を行う反応器は、バッチ式反応器でも連続式反応器でもよいが、密閉状態を保持できるとともに、反応器内の揮発成分等を減圧で放出するためのベントが設けられていることが好ましい。
バッチ式反応器としては、撹拌手段を備えた圧力容器等が好ましく用いられ、例えば、横型二軸反応装置(住友重機械工業社製、商品名:バイボラック)、竪型同心二軸撹拌槽(住友重機械工業社製、商品名:スーパーブレンド)等の高粘度に対応することができる反応器を用いることが好ましい。
連続式反応器としては、押出機等を用いることができる。押出機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等が挙げられる。これらの押出機のなかでは、アクリル系樹脂とイミド化剤とを効率よく混合することができることから、二軸押出機が好ましい。二軸押出機としては、例えば、非噛合い型同方向回転式二軸押出機、噛合い型同方向回転式二軸押出機、非噛合い型異方向回転式二軸押出機、噛合い型異方向回転式二軸押出機等が挙げられる。これらの押出機は、それぞれ単独で用いてもよく、2機以上を直列に接続してもよい。二軸押出機のなかでは、噛合い型同方向回転式二軸押出機は、高速回転が可能であり、アクリル系樹脂とイミド化剤とを効率よく混合することができるため好ましい。
アクリル系樹脂のイミド化は、イミド化剤を加えるイミド化剤供給工程と、当該イミド化剤供給工程の後に脱揮を行うベント工程により行うことができる。具体的には、反応器内にイミド化剤を加えるイミド化剤供給工程と、当該イミド化剤供給工程の後に、反応器内を脱揮するベント工程とにより行うことができる。
イミド化剤供給工程では、反応器内にイミド化剤を加えることにより、アクリル系樹脂とイミド化剤とが反応し、アミド化反応あるいはさらにイミド化反応が起こる。当該反応では、反応器内を密閉状態に保って、イミド化剤が反応器内に留まるようにすることが好ましく、これによりイミド化剤の反応率を高めやすくなる。なお反応器として押出機を用いる場合は、反応器内の密閉状態は、イミド化剤供給工程からベント工程の間の所定範囲(すなわち反応ゾーン)で密閉状態が保持されればよい。
ベント工程では、アクリル系樹脂とイミド化剤との反応により生成したアルコールや水等を、反応器内からガスとして除去(脱揮)する。ベント工程により、イミド化反応を完結させ、グルタルイミド構造を有するアクリル系樹脂を得ることができる。ベント工程により、アクリル系樹脂のカルボキシル基(またはその誘導体)とイミド化剤との反応において、イミド生成側に反応平衡を移行させ、イミド化率を高めることができる。例えば、アクリル系樹脂とイミド化剤との反応で、イミド化剤供給工程ではアミドまでしか反応が進まなかった部分も、ベント工程によりイミド化まで反応が促進されると考えられる。なお、ベント工程では、反応器内を脱揮することにより、未反応のイミド化剤も反応器内から除去され得る。
イミド化剤供給工程とベント工程とを行うことによりアクリル系樹脂をイミド化する場合、イミド化剤の反応する割合を高めて、得られるグルタルイミド樹脂のイミド化率を高めるためには、アクリル系樹脂とイミド化剤との反応時間、すなわち反応器内にイミド化剤を供給してから脱揮を行うまでの時間を長くとる方法が考えられる。しかし、反応時間の長時間化は、グルタルイミド樹脂の製造効率の観点から好ましくない。そこで本発明者らが、グルタルイミド樹脂のイミド化率を効率よく高める方法について検討したところ、イミド化剤供給工程とベント工程とを繰り返し2回以上行うことが有効であることが明らかになった。すなわち、アクリル系樹脂にイミド化剤を加える第1イミド化剤供給工程と、脱揮を行う第1ベント工程と、イミド化剤を加える第2イミド化剤供給工程と、脱揮を行う第2ベント工程とをこの順で有する製造方法により、グルタルイミドを製造することが好ましい。具体的には、反応器内に配されたアクリル系樹脂にイミド化剤を加える第1イミド化剤供給工程と、反応器内を脱揮する第1ベント工程と、反応器内にイミド化剤を加える第2イミド化剤供給工程と、反応器内を脱揮する第2ベント工程とをこの順で有する製造方法により、グルタルイミドを製造することが好ましい。もちろん、第2ベント工程の後に、さらにイミド化剤供給工程とベント工程を1回または複数回繰り返し行ってもよい。
第1イミド化剤供給工程では、反応器内に配されたアクリル系樹脂にアミン等のイミド化剤を加える。詳細には、第1イミド化剤供給工程では、アクリル系樹脂にイミド化剤を加えて反応(アミド化反応やイミド化反応)を行う。
第1イミド化剤供給工程では、アクリル系樹脂の溶融状態を保持し、かつ反応を効率よく進行させるために、反応温度(樹脂温度)を180℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましい。また、過剰な熱履歴によるアクリル系樹脂の分解を抑制し、グルタルイミド樹脂の収率を確保する点から、反応温度(樹脂温度)は380℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。
第1イミド化剤供給工程の時間、すなわちイミド化剤を加えてアクリル系樹脂との反応を行う時間(反応器内の脱揮を行うまでの時間)は、アクリル系樹脂とイミド化剤との反応を十分に行う点から、10秒間以上が好ましく、30秒間以上がより好ましい。当該反応時間の上限は、イミド化剤の反応率を見ながら適宜設定すればよく、一義的に定められるものではないが、グルタルイミド樹脂の製造効率を勘案すれば、例えば60分以下が好ましく、30分以下がより好ましく、15分以下がさらに好ましい。
第1イミド化剤供給工程において、反応器内の圧力(絶対圧)は、大気圧以上とすることが好ましく、1MPa以上がより好ましい。このような圧力とすることで、アクリル系樹脂へのイミド化剤の溶解性を高めて、イミド化剤による反応を進めやすくなる。一方、反応器内の圧力の上限は、反応器の耐圧性を考慮して、50MPa以下とすることが好ましく、30MPa以下がより好ましい。
第1イミド化剤供給工程に引き続き、反応器内を脱揮する第1ベント工程を行う。第1ベント工程では、第1イミド化剤供給工程でイミド化剤との反応で生成したアルコールや水等、あるいは未反応のイミド化剤を、ガスとして反応器内から除去する。第1ベント工程では、反応器の密閉状態を解除して反応器内を脱揮すればよいが、反応器内を大気圧以下に減圧して積極的に反応器内を脱揮することが好ましく、これによりイミド化率を高めやすくなる。反応器内を脱揮するために、反応器にはベントが備えられていることが好ましく、当該ベントには真空ポンプ等の減圧手段が連通して設けられていることが好ましい。
第1ベント工程での反応器内の減圧は、例えば、反応器内の圧力(絶対圧)を、80kPa以下にすることが好ましく、60kPa以下がより好ましく、40kPa以下がさらに好ましい。一方、反応器内の圧力の下限は、減圧状態を実現するための設備が過剰仕様とならず、設備費を低く抑える点から、1kPa以上が好ましい。
第1ベント工程に引き続き、反応器内にイミド化剤を加える第2イミド化剤供給工程を行う。詳細には、第2イミド化剤供給工程では、反応器内にイミド化剤を加えて反応(アミド化反応やイミド化反応)を行う。第1ベント工程により得られたイミド化されたアクリル系樹脂に、さらにイミド化剤を加えることにより、イミド化されずに残ったカルボキシル基やその誘導体(例えば、エステルや酸無水物)が、新たに加えられたイミド化剤と反応し、さらにイミド化率を高めることができる。第2イミド化剤供給工程の処理条件等については、上記の第1イミド化剤供給工程に関する説明と同様である。第2イミド化剤供給工程は、第1イミド化剤供給工程と同じ条件で行ってもよいし、異なる条件で行ってもよい。第3以降のイミド化剤供給工程を行う場合も同様である。
第2イミド化剤供給工程で加えるイミド化剤の量は、第1イミド化剤供給工程で加えるイミド化剤の量と同じでもよく、異なっていてもよい。例えば、第2イミド化剤供給工程で加えるイミド化剤の量は、第1イミド化剤供給工程で加えるイミド化剤の量の0.3〜3モル倍(好ましくは0.5〜2モル倍)の範囲で調整すればよい。第3以降のイミド化剤供給工程を行う場合は、その直前のイミド化剤供給工程で加えるイミド化剤の量に対して、前記範囲でイミド化剤の量を調整すればよい。
第2イミド化剤供給工程に引き続き、反応器内を脱揮する第2ベント工程を行う。第2ベント工程は第1ベント工程と同じ目的で行う。第2ベント工程の処理条件等については、上記の第1ベント工程に関する説明と同様である。第2ベント工程は、第1ベント工程と同じ条件で行ってもよいし、異なる条件で行ってもよい。第3以降のベント工程を行う場合も同様である。
本発明の製造方法によれば、トータルで加えるイミド化剤の量が同じであっても、イミド化剤を一括で加えるよりも、イミド化剤を第1イミド化剤供給工程と第2イミド化剤供給工程で分割して加える方が、得られるグルタルイミド樹脂のイミド化率を高めることができる。さらに、グルタルイミド樹脂の単位時間当たりの製造量を増やしたり、グルタルイミド樹脂の製造時間を短縮したりして、グルタルイミド樹脂の生産性も高めることもできる。つまり本発明によれば、アクリル系樹脂のイミド化反応を効率的に行うことができる。このような効果が得られる原因は定かではないが、イミド化剤供給工程とベント工程を1回ずつ行うだけでは、イミド化剤との反応がアミド化で止まってしまいイミド化まで進む割合が少なくなるところ、ベント工程により反応性の高いグルタル酸無水物が生成するため、引き続きイミド化剤供給工程をさらに行うことで、イミド化まで反応が進む割合が高くなることが推測される。
本発明の上記効果は、イミド化剤としてアリールアミンを用いる場合に特に有効である。アリールアミンは求核性が低く、イミド化反応における反応性が例えばアルキルアミンと比較して低くなるところ、本発明の製造方法によれば、イミド化剤としてアリールアミンを用いた場合でも、イミド化反応を効率的に行うことができ、イミド化率の高いグルタルイミド樹脂を容易に得ることができる。
アクリル系樹脂のイミド化反応を押出機を用いて行う場合は、押出機は、アクリル系樹脂の移送方向に対して上流側から下流側に向かって、樹脂供給部と、第1イミド化剤供給部と、押出機内を脱揮する第1ベント部と、第2イミド化剤供給部と、押出機内を脱揮する第2ベント部とをこの順で有していればよい。アクリル系樹脂を、樹脂供給部から押出機内に供給して、第1イミド化剤供給部と第1ベント部と第2イミド化剤供給部と第2ベント部を順に通過させることにより、グルタルイミド樹脂を得ることができる。
樹脂供給部は、原料アクリル系樹脂が押出機内に供給される部分である。原料アクリル系樹脂は、押出機の押出方向に供給されてもよく、押出機の押出方向に対して垂直または斜め方向から供給されてもよい。例えば、原料アクリル系樹脂の製造とこれにより得られた原料アクリル系樹脂のイミド化反応を1つの押出機で行うような場合は、前者の方法により原料アクリル系樹脂が押出機内に供給され得る。
第1イミド化剤供給部と第2イミド化剤供給部は、イミド化剤が反応器内に供給される部分である。第1イミド化剤供給部と第2イミド化剤供給部には、イミド化剤供給手段(例えば、液添ポンプ)が連通して設けられる。第1イミド化剤供給部と第2イミド化剤供給部からイミド化剤が供給されることにより、アクリル系樹脂とイミド化剤との反応が起こり、第1イミド化剤供給工程と第2イミド化剤供給工程がそれぞれ行われる。
第1ベント部と第2ベント部は、押出機内が脱揮される部分である。第1ベント部と第2ベント部にはそれぞれベントが設けられる。ベントは、単なる開放口であってもよく、減圧手段が連通して設けられてもよい。第1ベント部と第2ベント部で脱揮されることにより、第1ベント工程と第2ベント工程がそれぞれ行われる。
押出機には、第3イミド化剤供給部や第3ベント部がさらに設けられていてもよい。この場合、第2ベント部よりも下流側に、第3イミド化剤供給部と第3ベント部が下流側に向かってこの順で設けられることとなる。第4以降のイミド化剤供給部やベント部が設けられる場合も同様である。なお、押出機の下流側には、押出機からグルタルイミド樹脂を吐出するダイス部が設けられていることが好ましい。
アクリル系樹脂をイミド化剤でイミド化した際には、カルボキシル基または酸無水物基が副生することがある。また、イミド化させる際の条件によっては、アクリル系樹脂にカルボキシル基または酸無水物基が多く残存することがある。例えば、グルタルイミド樹脂にカルボキシル基または酸無水物基が多く残存している場合、グルタルイミド樹脂の粘度が上昇して、フィルム化などを行う際の成形加工性が低下するおそれがある。また、湿熱条件下では、酸無水物基の加水分解が進行し、樹脂およびフィルムの耐久性が低下するおそれがある。
上記のような懸念を解消するために、本発明のグルタルイミド樹脂の製造方法は、第2ベント工程の後に、エステル化剤を加えてエステル化反応を行う工程を有していてもよい。当該工程により、イミド化されたアクリル系樹脂に含まれているカルボキシル基および酸無水物基をエステルに変換することができる。反応器として押出機を用いる場合は、上記に説明した押出機の第2ベント部よりも下流側に、エステル化剤を供給するエステル化剤供給部をさらに設け、アクリル系樹脂を、樹脂供給部から押出機内に供給して、第2ベント部の後にエステル化剤供給部を通過させることにより、グルタルイミド樹脂を得ることができる。イミド化されたアクリル系樹脂に含まれているカルボキシル基および酸無水物基をエステルに変換する方法については、例えば、米国特許第4727117号明細書に記載のエステルに変換させる方法等を参考にすることができる。
エステル化剤としては、例えば、炭酸ジメチル、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−tert−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらのエステル化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのエステル化剤の中でも、コストを低減し、グルタルイミド樹脂に着色などの悪影響が出ないようにする点から、炭酸ジメチルが好ましい。エステル化剤の量は特に限定されないが、通常、原料アクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0〜32質量部、より好ましくは0〜16質量部である。
エステル化剤は、触媒と併用してもよい。触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族3級アミン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン等の塩基触媒等が挙げられる。これらの触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの触媒の中でも、コストを低減し、グルタルイミド樹脂に着色などの悪影響が出ないようにする点から、ジアザビシクロウンデセンが好ましい。触媒の量は、特に限定されないが、通常、原料アクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは0〜10質量部、より好ましくは0〜5質量部、さらに好ましくは0〜2質量部である。
上記のようにアクリル系樹脂とイミド化剤とを反応させることにより、グルタルイミド樹脂を得ることができる。本発明の製造方法により得られるグルタルイミド樹脂は、イミド化率が高められ、耐熱性と透明性に優れたものとなる。
本発明の製造方法により得られるグルタルイミド樹脂は、下記式(1)で表される繰り返し単位(以下、「グルタルイミド単位」と称する場合がある)を有していることが好ましい。
式(1)において、R1とR2は上記と同じ意味を表し、またR1とR2として好適な置換基も上記に説明した通りである。
式(1)において、R3は、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表す。なかでも、R3は、耐熱性を高める点から、素数3〜12のシクロアルキル基または炭素数6〜10のアリール基が好ましい。炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ベンジル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、2,6−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビナフチル基、アントリル基等が挙げられる。R3としては、炭素数3〜12のシクロアルキル基(より好ましくは炭素数3〜6のシクロアルキル基)または炭素数6〜10のアリール基が好ましく、シクロヘキシル基、フェニル基またはトリル基がさらに好ましく、シクロヘキシル基またはフェニル基が特に好ましい。
式(1)のグルタルイミド単位では、グルタルイミド樹脂の耐熱性を高める点から、R1およびR2が、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましく、また、R3がシクロヘキシル基またはフェニル基であることが好ましく、フェニル基がより好ましい。なお、グルタルイミド樹脂は、式(1)のグルタルイミド単位を2種類以上含んでいてもよい。
本発明の製造方法により得られるグルタルイミド樹脂は、上記式(1)のグルタルイミド単位に加え、上記式(2)のα,β−不飽和カルボン酸エステル単位も有していることが好ましい。グルタルイミド樹脂がグルタルイミド単位とα,β−不飽和カルボン酸エステル単位を有していれば、グルタルイミド樹脂の耐熱性を高めやすくなり、またグルタルイミド樹脂をフィルム化して光学フィルムを製造した際に、複屈折の小さい光学フィルムを得やすくなる。すなわち、このグルタルイミド樹脂は、グルタルイミド単位に基づき弱い正の複屈折を示し、α,β−不飽和カルボン酸エステル単位に基づき弱い負の複屈折を示し、両者の複屈折が互いに打ち消しあうので、全体として低複屈折を示すものとなる。グルタルイミド樹脂は、α,β−不飽和カルボン酸エステル単位を2種類以上含んでいてもよい。
グルタルイミド樹脂は、式(1)のグルタルイミド単位の含有率が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、また85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましい。式(1)のグルタルイミド単位の含有率が5質量%以上であれば、耐熱性および透明性が向上し、複屈折を小さくすることが容易になる。グルタルイミド単位の含有率が85質量%以下であれば、フィルム等への成形性が向上し、機械的強度を高めやすくなり、また複屈折を小さくすることが容易になる。
グルタルイミド樹脂は、式(2)のα,β−不飽和カルボン酸エステル単位の含有率が15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、また95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。α,β−不飽和カルボン酸エステル単位の含有率が15質量%以上であれば、フィルム等への成形性が向上し、機械的強度を高めやすくなり、また複屈折を小さくすることが容易になる。α,β−不飽和カルボン酸エステル単位の含有率が95質量%以下であれば、耐熱性および透明性が向上し、複屈折を小さくすることが容易になる。
グルタルイミド樹脂には、式(1)のグルタルイミド単位と式(2)のα,β−不飽和カルボン酸エステル単位以外の繰り返し単位が含まれていてもよい。なお、グルタルイミド樹脂は、グルタルイミド単位とα,β−不飽和カルボン酸エステル単位を主成分として含むことが好ましく、従ってグルタルイミド樹脂中、グルタルイミド単位とα,β−不飽和エステル単位とを合わせた含有率が50質量%以上となることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。グルタルイミド樹脂は、例えば、繰り返し単位としてスチレン単位を有していてもよいが、スチレン単位はあまり多く含まれないことが好ましい。従って、グルタルイミド樹脂中のスチレン単位の含有率は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
本発明の製造方法により得られるグルタルイミド樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上であることが好ましく、130℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましく、150℃以上が特に好ましい。このようなガラス転移温度を有していれば、グルタルイミド樹脂を、耐熱性が求められる用途、例えば画像表示装置等の用途への適用が可能となる。なお、グルタルイミド樹脂のガラス転移温度の上限については、フィルム等への成形加工性を向上させる点から、250℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましく、200℃以下が特に好ましい。グルタルイミド樹脂のガラス転移温度は、実施例に記載の方法に基づき求める。
グルタルイミド樹脂の重量平均分子量は、フィルム等へ加工した際の機械的強度を高める観点から、10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、また、フィルム等へ成形する際の加工性を向上させる観点から、500,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましい。グルタルイミド樹脂の重量平均分子量は、実施例に記載の方法に基づき求める。
グルタルイミド樹脂の酸価は、フィルム等へ成形する際の加工性を向上させる観点から、1.4mmol/g以下であることが好ましく、0.8mmol/g以下がより好ましく、0.5mmol/g以下がさらに好ましく、0.3mmol/g以下が特に好ましい。グルタルイミド樹脂の酸価は、実施例に記載の方法に基づき求める。
グルタルイミド樹脂の応力光学係数(Cr)の絶対値は、当該樹脂を延伸させて得られる延伸フィルムの屈折率の異方性を抑制し、複屈折を小さくする観点から、0.3×10-9Pa-1以下が好ましく、0.2×10-9Pa-1以下がより好ましく、0.1×10-9Pa-1以下がさらに好ましい。グルタルイミド樹脂の応力光学係数(Cr)は、実施例に記載の方法に基づき求める。
グルタルイミド樹脂は、他の熱可塑性樹脂と共に用いてもよく、例えば、ポリマーブレンドやポリマーアロイにしてもよい。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ビニル重合体;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースアシレート;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムあるいはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂、ASA樹脂等のゴム質重合体;等が挙げられる。
グルタルイミド樹脂は、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;耐光安定化剤、耐候安定化剤、熱安定化剤等の安定化剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃化剤;アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機充填材、無機充填材等の充填材;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤等が挙げられる。
本発明の製造方法により得られたグルタルイミド樹脂は、例えば、光学フィルム等の原料として好適に使用することができる。光学フィルムは、グルタルイミド樹脂を用い、例えば、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出成形法、キャスト成形法、プレス成形法等によって製造することができる。光学フィルムを溶融押出法によって製造する場合、例えば、単軸押出機、二軸押出機等を用いることができる。
光学フィルムは、機械的強度を高めたり、所定の位相差を達成する観点から、一軸延伸または二軸延伸されていることが好ましく、二軸延伸されていることがより好ましい。本発明の光学フィルムを二軸延伸させる方法としては、例えば、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法等が挙げられる。
光学フィルムを延伸させる際の延伸温度は、破断させずに光学フィルムを延伸させるとともに、十分に分子配向させる観点から、グルタルイミド樹脂のガラス転移温度よりも20℃低い温度から当該ガラス転移温度よりも50℃高い温度までの温度範囲であることが好ましく、より好ましくはグルタルイミド樹脂のガラス転移温度よりも10℃低い温度から当該ガラス転移温度よりも30℃高い温度までの温度範囲である。
光学フィルムの延伸倍率は、縦方向および当該縦方向に直交する横方向のいずれの方向においても、機械的強度を高めたり、位相差を調整する観点から、それぞれ、1.5〜3倍程度であることが好ましく、1.5〜2.5倍程度であることがより好ましい。
延伸された光学フィルムの寸法変化率は、例えばITOフィルム等の二次加工が施されたフィルムの耐久性を向上させる観点から、1.0%以下であることが好ましく、0.7%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.2%以下が特に好ましい。
光学フィルムの厚さは、その用途によって異なるので一概には定めることはできない。例えば、光学フィルムを、液晶表示装置、有機EL表示装置などの画像表示装置に用いられる保護フィルム、反射防止フィルム、偏光フィルム等の用途に用いる場合には、当該光学フィルムの厚さは、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、また250μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましい。また、例えば、光学フィルムをITOフィルム、銀ナノワイヤーフィルム、メタルメッシュフィルム等に用いられる透明導電性フィルム等の用途に用いる場合には、当該光学フィルムの厚さは、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましく、また400μm以下が好ましく、350μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。光学フィルムの厚さは、例えば、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定する。
光学フィルムの面内位相差Reは、光学フィルムの屈折率の異方性を抑制し、複屈折を小さくする観点から、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましく、3nm以下が特に好ましい。また、光学フィルムの厚さ方向位相差Rthの絶対値は、面内位相差Reと同様に、光学フィルムの屈折率の異方性を抑制し、複屈折を小さくする観点から、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましく、3nm以下が特に好ましい。例えば、上記に説明した応力光学係数(Cr)の絶対値を0.3×10-9Pa-1以下に制御することにより、二軸延伸後における光学フィルムの厚さ方向位相差Rthの絶対値を20nm以下とすることができる。
光学フィルムの面内位相差Reおよび厚さ方向位相差Rthは、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子社製、品番:RETS−100)を用い、波長590nmの光で、入射角40°の条件で測定することにより求める。光学フィルムの面内位相差Reは、式:Re=(nx−ny)×d(式中、nxは波長590nmの光に対する遅相軸方向(光学フィルムの面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率、nyは進相軸方向(光学フィルムの面内におけるnxと垂直な方向)の屈折率、dは光学フィルムの厚さ(nm)を表す)に基づいて求められる。また、厚さ方向位相差Rthは、式:Rth={(nx+ny)/2−nz}×d(式中、nxは波長590nmの光に対する遅相軸方向の屈折率、nyは進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す)に基づいて求められる。
光学フィルムの光弾性係数の絶対値は、光漏れ、特に高温高湿度の環境下における光漏れを抑制する観点から、10×10-12Pa-1以下が好ましく、6×10-12Pa-1以下がより好ましい。光学フィルムの光弾性係数は次の方法に従い求める。すなわち、光学フィルムの延伸方向を長辺として20mm×50mmに切り出してサンプルを作製し、このサンプルをエリプソメーター(日本分光社製、品番:M−150)の光弾性計測ユニットに装着し、延伸方向と平行に5〜25Nの応力荷重を印加しながら複屈折を3点で計測し、波長590nmの光を用い、応力に対する複屈折の傾きを光弾性係数として求める。
光学フィルムの60〜100℃の温度範囲における線膨張係数は、高温環境下における寸法変化を抑制する観点から、80×10-6K-1以下が好ましく、70×10-6K-1以下がより好ましい。光学フィルムの60〜100℃における線膨張係数は、熱機械測定装置(島津製作所社製、品番:TMA−60)を用い、測定荷重5g、昇温速度5℃/minで、60℃から100℃に昇温する際の傾きとして求める。なお、測定用のサンプルは、光学フィルムを延伸方向を長辺として5mm×20mmの大きさに切り出し、これを60℃で15時間の前処理を行った後、室温まで冷却することにより調製する。
光学フィルムの吸水率は、例えばITOフィルムへの成形加工性を向上させる観点から、3.0%以下であることが好ましく、2.5%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましい。光学フィルムの吸水率は次の方法により求める。すなわち、手動式加熱プレス機(井元製作所社製、IMC−180C型)を用い、250℃の温度で20MPaの圧力にて樹脂ペレットを2分間溶融プレス成形し、厚さが200μmの未延伸フィルムを作製し、得られた未延伸フィルムを80℃で24時間乾燥させた後、その質量Xを測定する。次に、前記で得られた未延伸フィルムを85℃、相対湿度85%の恒温槽内で保管することによって吸水させ、250時間経過後に恒温槽から取り出し、吸水後の未延伸フィルムの質量Yを測定する。測定した質量X,Yの値から、式:{(Y−X)/X}×100に基づき、吸水率を求める。
光学フィルムには、必要に応じて、少なくとも一方の表面にコーティング層が形成されていてもよい。コーティング層としては、例えば、帯電防止層、粘着剤層、接着剤層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層、防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層等が挙げられる。
光学フィルムは、例えば、光ディスクの保護フィルム、液晶表示装置等の画像表示装置の偏光板に用いられる偏光子保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、拡散板、導光体、プリズムシート等の用途に用いることが期待されるものである。従って、光学フィルムは、例えば、液晶表示装置等の画像表示装置、静電容量式タッチパネル等の用途に好適に使用することが期待される。
光学フィルムの表面に透明導電層が形成された光学フィルムは、透明導電性フィルムとして用いることができる。透明導電層としては、例えば、インジウム−スズ系酸化物(ITO)層等の赤外線を反射する性質を有する無機化合物層、銀、銅、ニッケル、タングステン等の金属からなる金属メッシュ層などが挙げられる。
光学フィルムの表面には光学調整層が形成されていてもよい。光学調整層は、入射される光線の透過率または反射率を適宜調整するための層である。光学調整層は、例えば、特開2006−201450号公報などに記載されているように、屈折率が相対的に低い低屈折率層と屈折率が相対的に高い高屈折率層とを交互に積層させることによって形成させることができる。
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
(1) 分析方法
(1−1) 無水グルタル酸化率
グルタルイミド樹脂の無水グルタル酸化率は、1803cm-1付近のカルボン酸無水物基に由来する吸収と、1720cm-1付近のエステルカルボニル基に由来する吸収と、1680cm-1付近のイミドカルボニル基に由来する吸収との強度比から求める。ここで、無水グルタル酸化率とは、全カルボニル基中のカルボン酸無水物基の占める割合を意味する。
(1−2) イミド化率
グルタルイミド樹脂のイミド化率は、1803cm-1付近のカルボン酸無水物基に由来する吸収と、1720cm-1付近のエステルカルボニル基に由来する吸収と、1680cm-1付近のイミドカルボニル基に由来する吸収との強度比から求める。ここで、イミド化率は、全カルボニル基中のイミドカルボニル基が占める割合を意味する。
(1−3) 式(2)で表される繰り返し単位の含有率
アクリル系樹脂やグルタルイミド樹脂において、式(2)で表される繰り返し単位の含有率は、NMR測定装置(Varian社製、商品名:Unity Plus400)を用いて1H−NMRスペクトルを測定することによって求める。具体的には、重アセトンにアクリル系樹脂(質量:a)と、内標として1,1,2,2−テトラクロロエタン(分子量:167.85、質量:b)を溶解させ、内標(5.9ppm、2プロトン分)とエステルカルボニル基に隣接したR6のプロトンに由来するピークの面積比、すなわちエステルカルボニル基に隣接したR6のプロトンに由来するピーク面積Aと内標プロトンに由来するピーク面積Bとの比(ピーク面積A/ピーク面積B)から、式(2)で表される繰り返し単位の含有率を算出する。
例えば、式(2)で表される繰り返し単位のR4が水素原子であり、R5がメチル基であり、R6がメチル基である場合(繰り返し単位の分子量は100.12)、式(2)で表される繰り返し単位の含有率(質量%)は、式:[(ピーク面積A/ピーク面積B)×(2/3)×(b/167.85)×(1/100.12)]×(100/a)から算出することができる。
(1−4) 重量平均分子量
アクリル系樹脂やグルタルイミド樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件で求める。
−システム:東ソー社製、商品名:GPCシステムHLC−8220
−展開溶媒:テトラヒドロフラン(和光純薬工業社、特級)
−溶媒流量:0.6mL/min
−標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、商品名:PS−オリゴマーキット)
−測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー社製、商品名:TSK−GEL super HZM−M 6.0×150を2本直列接続、東ソー社製、商品名:TSK−GEL super HZ−Lを1本使用)
−リファレンス側カラムの構成:リファレンスカラム(東ソー社製、商品名:TSK−GEL SuperH−RC 6.0×150、2本直列接続)
−カラム温度:40℃
(1−5) ガラス転移温度
アクリル系樹脂やグルタルイミド樹脂のガラス転移温度は、JIS K 7121の規定に準拠して求める。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、商品名:Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、また参照としてα−アルミナを用い、窒素ガス雰囲気中でアクリル系樹脂約10mgを室温から200℃まで昇温速度20℃/minで昇温し、得られたDSC曲線から始点法によって求めたときの温度をガラス転移温度とする。
(1−6) 酸価
グルタルイミド樹脂の酸価は、次の方法により求める。塩化メチレン24.94gにサンプル(樹脂)0.15gを溶解させ、メタノール14.85gを添加し、3時間撹拌する。その後、この溶液に1質量%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加し、撹拌しながら、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温で1時間撹拌を継続し、このときの0.1N水酸化ナトリウム水溶液の使用量をA(mL)とする。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量B(mL)を測定する。次に、塩化メチレン24.94gとメタノール14.85gの混合液に1質量%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加し、撹拌しながら、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温で1時間撹拌を継続し、このときの0.1N水酸化ナトリウム水溶液の使用量をC(mL)とする。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量D(mL)を測定する。樹脂中に残存するカルボキシル基の割合E(mmol/g)を次式により求める:E=0.1×{(A−B)−(C−D)}/0.15。
(1−7) 応力光学係数(Cr)
グルタルイミド樹脂の応力光学係数(Cr)は、次の方法により求める。まず、未延伸フィルムを60mm×20mmの長方形に切り出し、1N/mm2以下の応力となるように重りを選択し、未延伸フィルムの下端に取り付ける。この未延伸フィルムを、グルタルイミド樹脂のガラス転移温度よりも3℃高い温度で定温乾燥機(アズワン社製、品番:DOV−450A)にチャック間距離40mmでセットし、当該温度で約30分間保持して延伸を行った後、加熱を停止し、グルタルイミド樹脂のガラス転移温度よりも40℃低い温度となるまで約1℃/minの冷却速度で冷却する。その後、得られた延伸フィルムを定温乾燥機から取り出し、延伸後のフィルムの長さと厚さ、および重りの質量を測定し、延伸後のフィルムの面内位相差Reを測定する。さらに、応力が1N/mm2以下となるように4種類の質量の重りを用いて前記と同様にして延伸後のフィルムの長さと厚さ、および重りの質量を測定し、延伸後のフィルムの面内位相差Reを測定する。
以上の結果に基づき、高分子学会編「透明プラスチックの最前線(ポリマーフロンティア21シリーズ)」、(株)エヌ・ティー・エス、2006年10月、37−44頁に記載の測定方法に基づいて応力光学係数(Cr)を算出する。具体的には、Δn(nx−ny)をy軸に、σをx軸にプロットし、最小二乗法で得られた直線の傾きを求め、その傾きの値を応力光学係数(Cr)とする。なお、nxはフィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率を表し、nyはフィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内においてnxと垂直な方向)の屈折率を表し、σは延伸に対する応力(N/m2)を表す。
(2) グルタルイミド樹脂の製造
(2−1) 実施例1
撹拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル79.4質量部、メタクリル酸20.6質量部、重合溶媒としてトルエン90.0質量部とメタノール22.5質量部の混合溶媒、および酸化防止剤(ADEKA社製、商品名:アデカスタブ2112)0.05質量部を仕込み、反応容器内に窒素ガスを通じながら73℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まった時点で、重合開始剤としてジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業社製、商品名:V−601)0.25質量部を反応容器内に添加するとともに、トルエン7.3質量部とメタノール1.8質量部の混合溶媒に上記ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.35質量部を溶解した溶液を2時間かけて反応容器内に滴下しながら、約71〜76℃の還流下で溶液重合を行った、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)の滴下終了後、さらに4時間かけて熟成を行った。得られた重合体溶液に含まれるアクリル系樹脂におけるメタクリル酸に由来の繰り返し単位の含有率は、20.6質量%であった。また、アクリル系樹脂の重量平均分子量は、11万であった。
次に、得られた重合溶液に、5.0質量部のメタノールに、環化縮合反応の触媒(環化触媒)であるナトリウムメトキシド0.05質量部を溶解した溶液を、20分間かけて、約65〜70℃の反応容器内に滴下し、均一な重合溶液とした。このようにして得られた重合溶液を、バレル温度300℃、回転数238rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個、フォアベント数2個のベントタイプスクリュー二軸押出機(口径:15mm、L/D:45)内に、樹脂量換算で576g/hの処理速度で導入し、この押出機内で脱揮を行い、軸内滞留時間2.8分程度で押出すことにより、無水グルタル酸構造を有するアクリル系樹脂の透明なペレットPを得た。なお減圧度は、真空状態が0hPaである。ペレットPのアクリル系樹脂の重量平均分子量は10万であり、ガラス転移温度は130℃であった。
次に、得られたペレットPを、バレル温度320℃、回転数300rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)のベントタイプスクリュー二軸押出機(口径:15mm、L/D:45)内に、ホッパー(樹脂供給部)より導入した。押出機には、ホッパーから押出方向(下流側)に向かって、第1液添ポンプ(第1イミド化剤供給部)と第1ベントと第2液添ポンプ(第2イミド化剤供給部)と第2ベントが、この順で設けられていた。ペレットPは、樹脂量換算で876g/hの処理速度でホッパーより導入され、ホッパーの後よりアニリンを第1液添ポンプにて210g/hの投入速度で注入し、軸内滞留時間1.5分で押出し、第1ベントで脱揮を行い、さらにその後、アニリンを第2液添ポンプにて210g/hの投入速度で注入後、軸内滞留時間1.5分で押出し、第2ベントで脱揮を行い、合計の軸内滞留時間3.0分で押出すことにより、グルタルイミド樹脂の透明なペレットを得た。得られたグルタルイミド樹脂は、式(1)おいて、R1がメチル基、R2が水素原子、R3がフェニル基である繰り返し単位と、式(2)において、R4が水素原子、R5がメチル基、R6がメチル基である繰り返し単位を有しており、重量平均分子量が9.3万、ガラス転移温度が179℃であった。グルタルイミド樹脂のイミド化率は52.0%、式(2)で表される繰り返し単位の含有率は27.4質量%、応力光学係数(Cr)は0.19×10-9Pa-1、酸価は1.28mmol/gであった。
(2−2) 実施例2
実施例1において、ペレットPを樹脂量換算で1074g/hの処理速度でホッパーより導入し、アニリンを第1液添ポンプにて258g/hの投入速度で注入し、軸内滞留時間1.1分で押出し、第1ベントで脱揮を行い、さらにその後、アニリンを第2液添ポンプにて258g/hの投入速度で注入後、軸内滞留時間1.1分で押出し、第2ベントで脱揮を行い、合計の軸内滞留時間2.2分で押出した以外は、実施例1と同様にしてグルタルイミド樹脂の透明なペレットを得た。得られたグルタルイミド樹脂は、式(1)おいて、R1がメチル基、R2が水素原子、R3がフェニル基である繰り返し単位と、式(2)において、R4が水素原子、R5がメチル基、R6がメチル基である繰り返し単位を有しており、重量平均分子量が9.4万、ガラス転移温度が176℃であった。グルタルイミド樹脂のイミド化率は51.0%、式(2)で表される繰り返し単位の含有率は27.3質量%、応力光学係数(Cr)は0.18×10-9Pa-1、酸価は1.30mmol/gであった。
(2−3) 比較例1
実施例1で得られたペレットPを、バレル温度320℃、回転数300rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)のベントタイプスクリュー二軸押出機(口径:15mm、L/D:45)内に、ホッパー(樹脂供給部)より導入した。押出機には、ホッパーから押出方向(下流側)に向かって、液添ポンプ(イミド化剤供給部)とベントがそれぞれ1つずつこの順で設けられていた。ペレットPは、樹脂量換算で876g/hの処理速度でホッパーより導入され、ホッパーの後よりアニリンを液添ポンプにて420g/hの投入速度で注入し、軸内滞留時間3.0分で押出し、ベントで脱揮することにより、グルタルイミド樹脂の透明なペレットを得た。得られたグルタルイミド樹脂は、式(1)おいて、R1がメチル基、R2が水素原子、R3がフェニル基である繰り返し単位と、式(2)において、R4が水素原子、R5がメチル基、R6がメチル基である繰り返し単位を有しており、重量平均分子量が9.5万、ガラス転移温度が165℃であった。グルタルイミド樹脂のイミド化率は43.9%、式(2)で表される繰り返し単位の含有率は35.4質量%、応力光学係数(Cr)は0.14×10-9Pa-1、酸価は1.36mmol/gであった。
(2−4) 比較例2
比較例1において、ペレットPを樹脂量換算で1074g/hの処理速度でホッパーより導入し、アニリンを液添ポンプにて516g/hの投入速度で注入し、軸内滞留時間2.2分で押出し、ベントで脱揮した以外は、比較例1と同様にしてグルタルイミド樹脂の透明なペレットを得た。得られたグルタルイミド樹脂は、式(1)おいて、R1がメチル基、R2が水素原子、R3がフェニル基である繰り返し単位と、式(2)において、R4が水素原子、R5がメチル基、R6がメチル基である繰り返し単位を有しており、重量平均分子量が9.7万、ガラス転移温度が158℃であった。グルタルイミド樹脂のイミド化率は40.9%、式(2)で表される繰り返し単位の含有率は44.2質量%、応力光学係数(Cr)は0.05×10-9Pa-1、酸価は1.38mmol/gであった。
(2−5) 結果
実施例1,2と比較例1,2の結果を表1にまとめる。表1の結果から分かるように、イミド化剤を第1イミド化剤添加工程と第2イミド化剤添加工程で分けて添加することにより、同じ処理量であっても、得られるグルタルイミド樹脂のイミド化率が向上し、またガラス転移温度も高くなる結果となった。さらに、実施例2と比較例1との比較からも分かるように、イミド化剤を分割して添加することにより、処理量を高めても、イミド化率やガラス転移温度の高いグルタルイミド樹脂を得られることが分かった。