JP6547843B2 - イオン分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は、大気圧で用いられるイオン化室と、該イオン化室とキャピラリを介して連通し、該イオン化室において生成されたイオンを真空下で分析する分析室を備えた、質量分析装置等のイオン分析装置に関する。
量分析装置において用いられるイオン源は、大気圧下で試料をイオン化するイオン源(大気圧イオン源)と、真空下で試料をイオン化するイオン源の2つに大別される。大気圧イオン源は、イオン化室を真空排気する手間が不要であり取り扱いが容易であることから広く用いられている。
図1に、大気圧イオン源501を有する質量分析装置の概略構成を示す。この質量分析装置は、大気圧であるイオン化室50と、該イオン化室50とキャピラリ502を介して連通し真空に維持される分析室51を有している。分析室51は、ロータリーポンプで低真空に維持される第1中間真空室52と、ターボ分子ポンプで高真空に維持される第2中間真空室53及び質量分析室54とを備え、後段側に向かって段階的に真空度が高められた多段差動排気系の構成を有している(例えば特許文献1)。
特開2015-198014号公報 特開2015-49077号公報 特許第4816426号
質量分析装置の起動時には、分析室51は大気開放されている。そのため、この状態から質量分析が可能な状態に移行するためには、分析室51内が所期の真空度に達するまで真空ポンプにより該分析室51内を排気する必要がある。所期の真空度に達した分析室51の真空度を維持する動作時よりも、大気圧状態の分析室51内を排気する動作時の方が真空ポンプへの負荷が大きい。そして、排気動作の時間が長くなるほど真空ポンプの寿命が短くなり交換や修繕に係るコストが増加する。
ここでは質量分析装置を具体的な例に挙げて説明したが、質量分析装置と同様に、大気圧イオン源を有するイオン化室と、キャピラリを介して該イオン化室と連通し、該イオン化室において生成されたイオンを真空下で分析する分析室を備えたイオン移動度分析装置等のイオン分析装置においても同様に、負荷が大きい排気動作の時間が長くなるほど真空ポンプの寿命が短くなり交換や修繕に係るコストが増加する。
本発明が解決しようとする課題は、大気圧で用いられるイオン化室と、該イオン化室とキャピラリを介して連通し、該イオン化室において生成されたイオンを真空下で分析する分析室を備えたイオン分析装置において、前記分析室を排気するために用いられる真空ポンプの負荷を軽減することである。
上記課題を解決するために成された本発明に係るイオン分析装置は、
a) 大気圧に維持されるイオン化室と、
b) 前記イオン化室において生成したイオンを分析する分析室と、
c) 前記分析室の内部を排気する真空ポンプと、
d) 前記イオン化室と前記分析室を連通するキャピラリと、
e) 前記キャピラリのコンダクタンスを変更するコンダクタンス変更手段と、
f) 前記分析室の真空度が予め決められた真空度よりも低いときに、前記キャピラリのコンダクタンスを小さくするように前記コンダクタンス変更手段を動作させる制御部と
を備えることを特徴とする。
本発明に係るイオン分析装置は、キャピラリのコンダクタンスを変更するコンダクタンス変更手段と、分析室の真空度が予め決められた真空度よりも低いときにコンダクタンス変更手段を動作させる制御部を備えている。従って、例えばイオン分析装置の起動時に該コンダクタンス変更手段によりキャピラリのコンダクタンスを小さく(抵抗を大きく)してイオン化室から分析室に流れ込む空気量を減少し、真空ポンプの排気動作の時間を短縮して負荷を軽減することができる。
前記コンダクタンス変更手段は、以下の考え方に基づいて具現化することができる。
キャピラリの内径をD(m)、長さをL(m)とし、その入口端と出口端の圧力差をP(Pa)とすると、該キャピラリのコンダクタンス(粘性係数ηの気体の流れやすさ)C(m3/s)は以下のKnudsenの近似式で表される。
Figure 0006547843
上式(1)から、気体の粘性係数ηを大きくすればコンダクタンスCが小さくなることが分かる。空気の場合、20℃から300℃に加熱することにより粘性係数ηを1.6倍に増大してコンダクタンスを約40%小さくすることができる。
そこで、前記コンダクタンス変更手段には、例えば前記キャピラリを加熱する加熱機構を用いることができる。これにより、キャピラリ内を流通する空気を加熱してコンダクタンスを小さくすることができる。
一方、分析室内が所期の真空度に達し、イオンの分析を行う際には、キャピラリの加熱を停止しコンダクタンスを大きくして試料の導入効率を高めることができる。
また、前記イオン分析装置が、液体試料をイオン化する大気圧イオン源(ESIプローブやAPCIプローブなど)を備えている場合には、該大気圧イオン源が一般に有する、液体試料由来の帯電液滴から溶媒分子を脱離させるための加熱ガスをイオン化室内に供給する加熱ガス供給機構をコンダクタンス変更手段として用いることもできる。通常は、目的試料をイオン化する際にのみ、帯電液滴に加熱ガスを吹き付けるが、本発明に係るイオン分析装置の一態様では、これを起動時に使用する。例えば、400℃の加熱ガスをイオン化室内に供給するとイオン化室内で多少冷却(例えば300℃まで冷却)されるものの、常温のガスよりも粘性の大きいガスをイオン化室からキャピラリに流入させコンダクタンスを小さくすることができる。このように、既存の構成要素を活用してコンダクタンスを変更することができる。
本発明に係るイオン分析装置を用いることにより、該イオン分析装置の分析室内を排気する真空ポンプの負荷を軽減することができる。
質量分析装置の要部構成図。 本発明に係る質量分析装置の一実施例のインターフェース部の要部構成図。 本発明に係る質量分析装置の別の実施例のインターフェース部の要部構成図。 キャピラリの温度と第1中間真空室の真空度の相関を示すグラフ。
本発明に係るイオン分析装置の一実施例である質量分析装置について、以下、図面を参照して説明する。図1を参照して説明した従来の質量分析装置と同様の構成である、分析室11の後段部については図示を省略し、本実施例の特徴的な部分であるインターフェース部(イオン化室10と分析室11の前段部)の拡大図を図2に示すとともに、その動作を説明する。
本実施例の質量分析装置は、略大気圧であるイオン化室10と、真空ポンプにより真空排気された分析室11を有している。分析室11は、イオン化室10に近い方から順に、第1中間真空室12、第2中間真空室13、及び質量分析室(図示なし)で構成されており、この順に段階的に真空度が高められた多段差動排気系の構成を有している。
第1中間真空室12はロータリーポンプ(RP)15により排気され低真空に維持される。イオン化室10には、液体試料をイオン化する大気圧イオン源であるESI(エレクトロスプレーイオン化)プローブ101と、加熱ガス送給管103が設けられている。イオン化室10と第1中間真空室12は小径のキャピラリ102で連通している。ESIプローブ101に導入された液体試料は、電荷を付与されるとともにネブライザガスによって霧化され微細な帯電液滴となってイオン化室10に噴霧される。イオン化室10に噴霧された帯電液滴は、大気圧であるイオン化室10と低真空である第1中間真空室12の圧力差によって第1中間真空室12に引き込まれる。加熱ガス送給管103は加熱ガス源104から送給される加熱ガスをイオン化室10内に供給するものであり、これによってESIプローブ101からキャピラリ102の入口に向かう帯電液滴から溶媒分子が脱離する。
第1中間真空室12と第2中間真空室13との間は頂部に小孔を有するスキマー22で隔てられている。第1中間真空室12と第2中間真空室13にはそれぞれ、イオンを収束させつつ後段へ輸送するためのイオンガイド121、131が設置されている。第2中間真空室13及び質量分析室(図示なし)はターボ分子ポンプ(TMP)16により高真空に維持される。
上記各部の動作は、制御部20により制御される。以下、制御部20による制御のうち、本実施例において特徴的な起動時の制御について説明する。
質量分析装置の起動時には、イオン化室10及び分析室11は大気開放されている。従って、質量分析が可能な状態にするために、まず分析室11内が排気される。分析室11の排気は、第1中間真空室12に接続されたロータリーポンプ15により分析室11内を低真空まで排気し、続いて第2中間真空室13及び質量分析室をターボ分子ポンプ16により高真空まで排気することにより行われる。
本実施例の質量分析装置の制御部20は、ロータリーポンプ15の起動と並行して、加熱ガス源104から約400℃に加熱した不活性ガス(例えば窒素ガス)を送給し、加熱ガス送給管103からイオン化室10内に供給する。イオン化室10内に供給された加熱ガスは、イオン化室10内で多少冷却される(例えば300℃まで冷却される)ものの、常温のガスよりも粘性の大きいガスがイオン化室10からキャピラリ102に流れ込むことでコンダクタンスが小さくなる。なお、ロータリーポンプ15の起動とキャピラリ102の加熱開始が厳密に同時である必要はなく、多少の時間差があってもよい。
分析室11の排気を開始すると、大気圧であるイオン化室10との間に圧力差が生じ、キャピラリ102を通じてイオン化室10から第1中間真空室12に空気が流れ込む。キャピラリ102のコンダクタンスは、以下の式(1)で表される。
Figure 0006547843
本実施例の質量分析装置では、ロータリーポンプ15の起動と並行してキャピラリ102を加熱しているため、該キャピラリ102近傍の空気や該キャピラリ102を通過する空気も加熱される。例えば、空気が20℃から300℃に加熱されると粘性係数ηは1.6倍に増加する。上式(1)より、コンダクタンスは約0.63倍に減少し、キャピラリ102を通じてイオン化室10から第1中間真空室12に流れ込む空気の量が減少することが分かる。本実施例の質量分析装置では、このように第1中間真空室12に流れ込む空気の量が減少し、分析室11を排気する時間が短縮されるため、ロータリーポンプ15にかかる負荷が軽減される。
また、ロータリーポンプ15により分析室11が所定の真空度に達した後、第2中間真空室13及び質量分析室がターボ分子ポンプ16により排気されるが、この間もイオン化室10から第1中間真空室12を経由して第2中間真空室13に流れ込む空気の量が減少するため、ターボ分子ポンプ16により第2中間真空室13及び質量分析室を所定の真空度(高真空)まで排気する時間が短縮され、ターボ分子ポンプ16の負荷も軽減される。
このように、本実施例の質量分析装置では、分析室11の排気に係るロータリーポンプ15とターボ分子ポンプ16の負荷が軽減されるため、これらを長寿命化することができ、これによりランニングコストを低減することができる。また、本実施例の質量分析装置では、従来、液体試料をイオン化する際に用いられていた(即ち実試料の分析時にのみ用いられていた)加熱ガス送給管103及び加熱ガス源104を有する加熱ガス供給機構を、質量分析装置の起動時にコンダクタンス変更手段として使用するため、新たに特別な構成要素を追加することなく安価に構成することができる。
上記実施例では、液体試料を大気圧でイオン化するESIプローブ101を備えた質量分析装置を例に挙げたが、APCIプローブを備えた質量分析装置でも上記同様に構成することができる。また、上記実施例では、ESIプローブ101と加熱ガス供給機構が別体で構成されたものを例に挙げたが、加熱ガス送給管がESIプローブ101の外周に配置され一体的に構成されたものであってもよい(例えば特許文献2)。
ところで、イオン源の種類によっては加熱ガス送給管103を有しない場合もある。こうした場合には、キャピラリ102を加熱する加熱機構を設けることにより上記同様の効果を得ることができる。もちろん、加熱ガス送給管103を有する構成の質量分析装置に上記加熱機構を導入してもよい。
加熱機構は、例えば、図3に示すように、キャピラリ102の外周に巻回したヒータ106と、該ヒータ106に電流を供給する電源105により構成することができる。あるいは特許文献3に記載の構成を用いてキャピラリを加熱することもできる。これらの構成では、温度センサを用いてキャピラリ102の温度を測定可能に構成することが好ましい。
上記実施例の構成により得られる効果を検証するために、キャピラリ102の温度と第1中間真空室12の真空度の相関を測定した結果を図4に示す。図4は、キャピラリ102の温度が20℃の場合の圧力を100(%)としたときの、各温度における第1中間真空室12の相対圧力をグラフ化したものである。図4からキャピラリ102の温度が高くなるほど第1真空室の圧力が低くなる(真空度が高くなる)ことが分かる。
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例では質量分析装置について説明したが、大気圧のイオン化室と真空の分析室を連通させて用いるイオン移動度分析装置等の分析装置でも上記同様の構成を用いることができる。
また、上記実施例では、質量分析装置の起動時にキャピラリ102を加熱する例(加熱ガスの流入によりキャピラリ102の温度を上昇させる例、及びキャピラリ102を直接加熱する例)を説明したが、実試料の分析中にロータリーポンプ15あるいはターボ分子ポンプ16に不具合が生じて排気能力が低下した場合(即ち分析室11内の真空度が所定の真空度よりも低くなった場合)にキャピラリ102を加熱してイオン化室10から分析室11に流れ込む空気の量を減少させるようにしてもよい。これにより、分析室11の真空度が急速に悪化するのを防止し、実行中の分析が完了するまである程度の真空度を維持することができる。
また、上記実施例では、キャピラリ102を加熱し空気の粘性係数ηを小さくすることによってキャピラリ102のコンダクタンスを小さくしたが、他の方法によりキャピラリ102のコンダクタンスを小さくすることもできる。具体的には、例えば伸縮可能に構成したキャピラリを使用して、分析室11内の真空度が所定の真空度よりも低い場合(例えば質量分析装置の起動時)にキャピラリ102の長さLを長くしてコンダクタンスを小さくすることができる。あるいは、内径を変更可能に構成したキャピラリ102を使用し、分析室11内の真空度が所定の真空度よりも低い場合にキャピラリ102の内径を小さくしてコンダクタンスを小さくすることもできる。
10…イオン化室
101…ESIプローブ
102…キャピラリ
103…加熱ガス送給管
104…加熱ガス源
105…電源
106…ヒータ
107…温度センサ
11…分析室
12…第1中間真空室
121…イオインガイド
13…第2中間真空室
131…イオンガイド
15…ロータリーポンプ
16…ターボ分子ポンプ
20…制御部

Claims (4)

  1. a) 大気圧に維持されるイオン化室と、
    b) 前記イオン化室において生成したイオンを分析する分析室と、
    c) 前記分析室の内部を排気する真空ポンプと、
    d) 前記イオン化室と前記分析室を連通するキャピラリと、
    e) 前記キャピラリのコンダクタンスを変更するコンダクタンス変更手段と、
    f) 前記分析室の真空度が予め決められた真空度よりも低いときに、前記キャピラリのコンダクタンスを小さくするように前記コンダクタンス変更手段を動作させる制御部
    を備えることを特徴とするイオン分析装置。
  2. 前記制御部が、前記分析室を大気圧から所定の真空度まで排気する間、前記キャピラリのコンダクタンスを小さくするように前記コンダクタンス変更手段を動作させることを備えることを特徴とする請求項1に記載のイオン分析装置。
  3. 前記コンダクタンス変更手段が、前記キャピラリを加熱する加熱機構を有することを特徴とする請求項1に記載のイオン分析装置。
  4. 前記コンダクタンス変更手段が、イオン化室内に加熱ガスを供給する加熱ガス供給機構を有することを特徴とする請求項1に記載のイオン分析装置。
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