JP6529837B2 - 造血幹細胞の分化促進剤 - Google Patents

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Description

本発明は、黄連の抽出物、又は、黄連と他の生薬の混合物の抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の分化促進剤に関する。
血液は血球細胞や血漿から構成されており、酸素運搬、老廃物の除去、免疫機能などの生体の恒常性維持に重要な働きを有している。ところが、高齢者では、加齢によって血液中の血球細胞の減少や機能低下が起こるため、感染症に対する免疫力が低下し、貧血、好中球低下症、血小板低下症など様々な造血系疾患に罹患しやすく、QOLの低下を招くことが報告されている(非特許文献1−4等)。このような血球細胞の減少や機能低下は、それらをつくる造血幹細胞の老化が原因の一つとして考えられている(非特許文献5)。
造血幹細胞は骨髄においてわずかに存在し、すべての血球細胞に分化する多分化能と自己複製能を有する細胞で、個体の一生にわたり血球細胞を供給し続ける。よって、造血幹細胞を移植することで、血球細胞が全くない状態から、全血球細胞を再構築することが可能である。そのため、血液疾患や免疫不全症等の治療手段として、自己又は同種の造血幹細胞の移植が行われている。しかしながら、造血幹細胞は加齢とともに増殖能、分化能が低下することが報告されており(非特許文献6)、造血幹細胞を移植しても血球系の再構築ができないという事態もある。
従って、加齢に伴う血球系の再構築の不全がもたらすQOLの低下の防止や改善のためには、造血幹細胞の機能回復が重要であると考えられる。これまで、造血幹細胞の分化促進に関与する因子としては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)やトロンボポエチン(TPO)などの因子が知られているが(非特許文献7、8)、いずれも十分な効果があるとはいえず、また、生体内での制御や日常的に継続して使用が困難であるといったような種々の問題があり、これらに代わる新たな因子の解明が望まれている。
黄連は、キンポウゲ科植物の多年草で、黄連エキスは、その根茎から得られ、ベルベリン、パルマチンなどのアルカロイドを含み、主に健胃・整腸用の漢方薬に配合されている。黄連は、これまで単独で又は他の生薬と組み合わせて、抗炎症作用(特許文献1)、保湿作用(特許文献2)、発癌抑制作用(特許文献3)、神経細胞死抑制作用(特許文献4)、抗酸化作用(特許文献5)など様々な作用があることが知られており、医薬品や化粧品に広く利用されている。しかしながら、造血幹細胞の分化促進効果についてはこれまで何ら知られていない。
特開2012−121863号公報 特開2004−115483号公報 特開平8−337535号公報 特開平7−330623号公報 特開2013−79242号公報
Disordered hematopoiesis and myelodysplasia in the elderly. J. Am. Geriatr Soc. 2003 Mar;51(3 Suppl):S22-6 Immunosenescence: emerging challenges for an ageing population. Immunology. 2007 Apr;120(4):435-46. Epub 2007 Feb 15. Aging of the Innate Immune System: An Update.Curr Immunol. Rev. 2011 Feb 1;7(1):104-115. Unexplained anemia in the elderly. Semin Hematol. 2008 Oct;45(4):250-4. doi: 10.1053/j.seminhematol.2008.06.003. The ageing haematopoietic stem cell compartment. Nat. Rev. Immunol. 2013 May;13(5):376-89. doi: 10.1038/nri3433. Epub 2013 Apr 15. Age-associated characteristics of murine hematopoietic stem cells. J. Exp. Med. 2000 Nov 6;192(9):1273-80. The molecular control of cell division, differentiation commitment and maturation in haemopoietic cells. Nature. 1989 May 4;339(6219):27-30. The effect of thrombopoietin on the proliferation and differentiation of murine hematopoietic stem cells. Blood. 1996 Jun 15;87(12):4998-5005.
本発明の目的は、上記実情に鑑み、造血幹細胞の分化を促進する新規な因子を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、黄連の抽出物又は黄連と他の生薬の混合物の抽出物が、優れた造血幹細胞の分化促進作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)黄連の抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の分化促進剤。
(2)黄連と、黄柏、黄ごん及び山梔子から選ばれる1種又は2種以上との混合物の抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の分化促進剤。
(3)(1)又は(2)に記載の造血幹細胞の分化促進剤の存在下で造血幹細胞を培養することを特徴とする、造血幹細胞の分化促進方法。
(4)(1)又は(2)に記載の造血幹細胞の分化促進剤の存在下で造血幹細胞を培養する工程を含む、血液細胞の製造方法。
本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、造血幹細胞の分化を促進して血液細胞を誘導することができるでので、造血幹細胞の機能低下又は不全に起因する血液及び造血器の疾患を治療、改善、及び予防することができる。また本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、作用が緩和な生薬抽出物を有効成分とすることから、日常的に使用しても副作用がなく安全性が高い。よって、医薬品や健康食品などの飲食品に安心して使用できる。
以下に、本発明について詳細に述べる。
本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、黄連の抽出物を有効成分として含有する。本発明において用いる黄連は、キンポウゲ科に属し、オウレン(基原学名: Coptis japonica Makino)又はその同属植物であり、北海道西南部から本州、四国に分布する。本発明においては、その根茎を乾燥したもの[生薬名:黄連(オウレン)]が好ましく用いられる。
本発明の造血幹細胞の分化促進剤はまた、上記の黄連と、黄柏、黄ごん及び山梔子から選ばれる1種又は2種以上との混合物の抽出物を有効成分として含有してもよい。黄連と組み合わせて用いる黄柏、黄ごん及び山梔子は、いずれか1種でもよいが、2種以上が好ましく、3種がより好ましい。黄連と、黄柏、黄ごん、及び山梔子の3種の混合物とを用いる場合、その配合量は、黄連0.3〜4重量部、黄柏0.3〜6重量部、黄ごん0.5〜8重量部、山梔子0.5〜6重量部が好ましい。
本発明において用いる黄柏は、ミカン科に属し、キハダ(基原学名:Phellodendron amurense Ruprecht)又はその同属植物であり、アムール川、中国北部、日本列島に広く分布する落葉高木である。本発明においては、その周皮を除いた樹皮を乾燥したもの[生薬名:黄柏(オウバク)]が好ましく用いられる。
本発明において用いる黄ごんは、シソ科に属し、コガネバナ(基原学名:Scutellaria baicalensis Georgi)又はその同属植物であり、中国北部からシベリア、日本では群馬県や奈良県で栽培される多年生草本である。本発明においては、黄ごんの根を乾燥したもの(生薬名:黄ごん(オウゴン)]が好ましく用いられる。
本発明において用いる山梔子は、アカネ科に属し、クチナシ(基原学名:Gardenia jasminoides Ellis)又はその同属植物であり、東アジアに広く分布し、日本では四国、九州などに自生する。本発明においては、その果実[生薬名:山梔子(サンシシ)]が好ましく用いられる。
本発明で使用する抽出物は、例えば、上記の各生薬の基原植物体の一部(例えば、樹皮、根、果実等)又は基原植物体の全体(例えば、全草等)を抽出溶媒と共に浸漬又は加熱した後、濾過し、必要ならば濃縮することによって得ることができる。抽出には、基原植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。抽出溶媒としては、例えば、水、低級1価アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等)、炭化水素(ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)、アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。好ましくは、水又は水溶性溶媒(水と任意の割合で混合可能な溶媒。例えば、エタノール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等)のうち1種又は2種以上の溶媒を用いるのがよい。抽出物はそのまま用いてもよいし、溶媒の一部又は全部を留去して用いてもよい。
抽出溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば生薬(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、対象植物及び使用する溶媒の種類によるが、例えば、10〜100℃、好ましくは30〜90℃で、30分〜24時間、好ましくは1〜10時間を例示することができる。また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
本発明において「造血幹細胞」とは、骨髄球系前駆細胞を経て骨髄球系細胞(赤血球、血小板、顆粒球(好酸球、好塩基球、好中球)、単球等)、ならびにリンパ球系前駆細胞を経てリンパ球系細胞(B細胞、T細胞、NK細胞等)への分化が可能な細胞をいう。造血幹細胞は、CD34抗原が陽性で、かつ、CD38抗原が陰性である(CD34+CD38−)ことにより特徴づけられる。
本発明において、「造血幹細胞の分化」とは、造血幹細胞から造血前駆細胞(骨髄球系前駆細胞、リンパ球系前駆細胞)に、また、造血前駆細胞から成熟血液細胞に分裂増殖することをいう。
本発明において「造血幹細胞の分化促進」とは、本発明の薬剤を投与又は摂取する前と比較して、造血幹細胞の分化が活性化することをいう。造血幹細胞の分化が活性化したか否かのin vitroでの判定は、当業者が通常行う方法によって行うことが可能であり、例えば、本発明の造血幹細胞の分化促進剤の非存在下で培養した幹細胞と比較して、本発明の造血幹細胞の分化促進剤の存在下で培養した該幹細胞において血液細胞マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで有意に高いか否かで評価することができる。血液細胞マーカー遺伝子としては、例えば、赤血球マーカーとしてBmaj、Ter119、顆粒球マーカーとしてGr−1、Fcgr3、単球・マクロファージ系細胞マーカーとしてCD11b/CD18(Mac−1)、F4/80、B細胞マーカーとしてCD45R(Ptprc)、T細胞マーカーとしてLy1、CD2などが挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、生体内に投与する場合のみならず、移植用に生体外で血液細胞を製造する方法にも利用できる。ここで、「血液細胞」とは、造血幹細胞から、造血前駆細胞(多能性造血前駆細胞、単能性造血前駆細胞を含む)を経て、最終的に機能する血液細胞に至る段階のすべての細胞(造血幹細胞を除く)をいう。具体的には、造血幹細胞から分化誘導された骨髄球系前駆細胞、リンパ球系前駆細胞、赤芽球、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球、好中球、好酸球、好塩基球、赤血球、巨核球、血小板、前駆B細胞、前駆T細胞、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、単芽球、単球、マクロファージ、樹状細胞などが挙げられる。また、本発明の血液細胞の製造方法により得られる血液細胞は、得られたままの状態で、又は遠心分離、分離フィルター等の分離手段により目的とする血液細胞を分離し、患者に輸注可能な製剤に調製してもよい。
さらに、本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、造血幹細胞の分化を促進するための細胞培養用添加剤、研究用試薬としても使用することができる。
本発明の造血幹細胞の分化促進剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに医薬品や飲食品などの組成物に配合することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
本発明の造血幹細胞の分化促進剤を医薬品として提供する場合は、黄連の抽出物、又は、黄連と、黄柏、黄ごん及び山梔子から選ばれる1種又は2種以上との混合物の抽出物(以下、「生薬抽出物」という)に、医薬上許容され、かつ剤型に応じて適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加して、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
本発明の医薬品は、経口又は非経口的に投与することができるが、好ましくは経口投与である。本発明の医薬品を経口投与する場合は、錠剤(糖衣錠を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、丸剤、内用水剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などに製剤化するか、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の医薬品を非経口投与する場合は、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、坐剤などに製剤化し、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
また、製剤化に当たっては、本発明の造血幹細胞の分化促進剤の有効成分である生薬抽出物以外の1種以上の有効成分を併用してもよい。併用に適した有効成分としては、例えば、塩化鉄、硫酸鉄、及びリン酸鉄等の鉄の無機酸塩、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、乳酸鉄等の鉄の有機酸塩、ヘム鉄及びフェリチン等の鉄とタンパク質の結合物、ならびに酸化鉄等を挙げることができる。鉄化合物は、医薬品又は食品に用いることができるものが好ましく、例えば、クエン酸鉄、クエン酸第1鉄ナトリウム、グルコン酸第1鉄、乳酸鉄、フマル酸第1鉄、ピロリン酸第1鉄、ピロリン酸第2鉄、及び硫酸第1鉄などが挙げられる。鉄化合物は市販品を用いればよく、1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
上記製剤中の生薬抽出物の含有量は特に限定されないが、製剤全重量に対して、固形分換算して、0.001〜30.0重量%が好ましく、0.01〜10重量%がより好ましい。0.001重量%未満では効果が低く、また30重量%を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、有効成分である生薬抽出物が造血幹細胞の分化促進作用を有するので、造血幹細胞の機能低下又は不全に起因する血液及び造血器の疾患又は病態を治療、改善、及び予防するための医薬品として有効である。造血幹細胞の機能低下又は不全は、例えば、造血幹細胞の分化が十分でないために、幼若な血球が造られるものの、質的異常のために十分に成熟できないまま骨髄内で壊れてしまう「無効造血」や、造られた血球細胞の形状が異常になる「異形成」をもたらす。よって、造血幹細胞の機能低下又は不全に起因する血液及び造血器の疾患又は病態としては、例えば、再生不良性貧血(汎血球減少症)、骨髄異形成症候群(MDS)、サラセミア、鉄芽球性貧血、鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血、溶血性貧血、赤芽球癆、先天性貧血(例えば鎌状赤血球血症)、発作性夜間色素尿症、二次性貧血(感染症、悪性腫瘍、慢性疾患、腎疾患、肝疾患、内分泌性疾患等に伴う貧血)、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患(真性多血症・本態性血小板血症・骨髄線維症など)、突発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、血小板無力症、自己免疫性溶血性貧血のほか、一般的な貧血状態(動悸、息切れ、眩暈、立ち眩み、異嗜症、易疲労感、倦怠感、食欲不振、悪心、頭痛、顔面蒼白、肌のクスミやクマ、耳鳴り、肩こり、口角炎等)などが挙げられる。また、「造血幹細胞の機能低下又は不全」は、上記の疾患によるものだけではなく、抗癌剤や免疫抑制剤の投与、癌の放射線治療によるものを含む。
本発明の医薬品は、上記疾患又は病態発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。
本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の治療、改善、及び予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、生薬抽出物として0.1〜1000mg、好ましくは1〜500mg、より好ましくは5〜300mgである。
また、本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、特に高齢者、妊産婦、月経や出血傾向を伴う疾病(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃腸のポリープや癌、痔など)時における貧血や貧血に伴う諸症状の改善及び予防のために長期にわたって服用が必要となる場合に、日常的に継続して摂取できる点で上記の健康食品等に好適に用いることができる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
さらに、本発明の飲食品をヒト以外の哺乳動物を対象として使用する場合には、ペットフード、飼料を含む意味で用いることができる。
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
本発明の飲食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程において生薬抽出物を添加する工程を含めることによって製造することができる。また健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じればよく、例えば、タブレット状のサプリメントでは、生薬抽出物に、賦形剤等の添加物を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。カプセル状のサプリメントでは、生薬抽出物を含有する液状、懸濁状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状の食品組成物をカプセルに充填するか、又はカプセル基剤で被包成形して製造することができる。また、必要に応じてその他の材料(例えば、鉄、カリウム等のミネラル類、ビタミンC、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンB12等のビタミン類、葉酸、食物繊維等)を添加することもできる。
本発明の飲食品における生薬抽出物の配合量は、造血幹細胞の分化促進作用が発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
本発明の飲食品の摂取量は、前述の疾患又は病態の予防や改善を目的として摂取する場合、摂取させる対象の状態、摂取形態、摂食量等により異なるが、生薬抽出物として、成人1日につき、0.1〜1000mg、好ましくは1〜500mg、より好ましくは5〜300mgである。前記の量は1回で摂取させてもよいが、数回(2〜4回)に分けて摂取してもよい。本発明の飲食品は、摂取量の目安とするため1回に摂取するべき量の飲食品が、1個の袋やビン等の容器に包装又は充填されていることが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(製造例1)黄連の抽出物の製造
黄連250gに、10倍量の精製水を加え、撹拌しながら95〜100℃に昇温させ、昇温後、60分間抽出した。抽出終了後、抽出液を固液分離し、分離液を減圧濃縮した後、凍結乾燥により黄連乾燥粉末24gを得た。
(製造例2)黄連、黄ごん、黄柏、及び山梔子の混合物の抽出物の製造
原料生薬1.0kg(黄連240g、黄柏170g、黄ごん350g及び山梔子240g)を秤量・調合し、10倍量の精製水を加え、撹拌しながら95〜100℃に昇温させ、昇温後、60分間抽出した。抽出終了後、抽出液を固液分離し、分離液を減圧濃縮した後、凍結乾燥により生薬混合物乾燥粉末110gを得た。
[実施例2]造血幹細胞分化促進効果の測定
実施例1で製造した抽出物(製造例1及び2)の造血幹細胞に対する分化促進効果の評価実験を次のとおり行った。
既報(Self-renewal and differentiation of a basic fibroblast growth factor-dependent multipotent hematopoietic cell line derived from embryonic stem cells.Dev Growth Differ. 1999 Feb;41(1):51-8.)の培養方法を参考に、未分化状態で培養したA-6細胞(マウス造血幹細胞)(理化学研究所)に製造例1及び2の抽出物を濃度を振って
(78μg/mL、156μg/mL、312μg/mL)添加し、4日間培養した。なお、A-6細胞は、12well plateに1x106個ずつ播種した。培地には、DMEM/F12培地を基礎培地とし、ウシ胎児血清(20%;Sigma社製)、G-CSF(10ng/mL;Pepro Tech社製)、IL-3(10ng/mL; Pepro Tech社製)、IL-6(100ng/mL;Pepro Tech社製)、SCF(100ng/mL;Pepro Tech社製)、EPO(25U/mL;Pepro Tech社製)、Insulin(10ng/mL;SIGMA社製)、Transferrin(10ng/mL;SIGMA社製)、 2-メルカプトエタノール(100μM;Gibco社製) となるように調製した培地を用いた。培養4日後に細胞を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって細胞からRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems社製)により、リアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40サイクル)を実施し、Ptprc(B細胞マーカー:The decline in B lymphopoiesis in aged mice reflects loss of very early B-lineage precursors. J Immunol. 2003 Sep 1;171(5):2326-30.)、Fcgr3(顆粒球マーカー:Differential surface expression of cell adhesion molecules during granulocyte maturation. J Leukoc Biol. 1993 Jul;54(1):47-55.)、F4/80(単球、マクロファージマーカー:Molecular cloning of F4/80, a murine macrophage-restricted cell surface glycoprotein with homology to the G-protein-linked transmembrane 7 hormone receptor family. J Biol Chem. 1996 Jan 5;271(1):486-9.)、CD34(未分化マーカー: Bone-marrow haematopoietic-stem-cell niches. Nat Rev Immunol. 2006 Feb;6(2):93-106.)の遺伝子発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
各遺伝子の増幅に用いたプライマーセットを以下に示す。
[Ptprc (B細胞マーカー)遺伝子用プライマーセット]
フォワードプライマー:5'-ACCTGCTCGCACCACTGAA-3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'-CCTGGATGATATGTGGTCTCTGAAG-3'(配列番号2)
[Fcgr3 (顆粒球マーカー)遺伝子用プライマーセット]
フォワードプライマー:5'-ATTCTGCTGCTGTTTGCTTTTG-3'(配列番号3)
リバースプライマー:5'-CACCACAGCCTTCGGAAGAG-3'(配列番号4)
[F4/80 (単球、マクロファージマーカー)遺伝子用プライマーセット]
フォワードプライマー:5'-GGCTGCCTCCCTGACTTTC-3'(配列番号5)
リバースプライマー:5'-GGATCCTTTTGCAGTTGAAGTTTC-3'(配列番号6)
[CD34(未分化マーカー)遺伝子用プライマーセット]
フォワードプライマー:5'-CTTCTGCTCCGAGTGCCATT-3'(配列番号7)
リバースプライマー:5'-ATACCCTGGGCCAACCTCAC-3'(配列番号8)
[内部標準グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)遺伝子用のプライマーセット]
フォワードプライマー:5'-CCGTGTTCCTACCCCCAAT-3'(配列番号9)
リバースプライマー:5'-TGCCTGCTTCACCACCTTCT-3'(配列番号10)
細胞分化促進効果は、抽出物未添加培地で培養4日後のA-6細胞における各分化マーカーの発現量を内部標準であるGapdh mRNAの発現量に対する割合として算出した各分化マーカーの遺伝子相対発現量(分化マーカー遺伝子発現量/Gapdh遺伝子発現量)の値を100%とし、これに対し、抽出物添加培地で培養4日後のA-6細胞における各分化マーカーの遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。なお、陰性対照として分化抑制因子であるbFGF(10ng/mL、Pepro Tech社製)を用いた。これらの試験結果を以下の表1に示す。
Figure 0006529837
表1に示すように、製造例1及び2の抽出物に、顕著な造血幹細胞の分化促進効果が認められた。なお、本実験例で用いた細胞以外にも、市販のヒト造血幹細胞についても同様な試験を行ったところ、顕著な造血幹細胞の細胞分化促進効果が認められた。
[実施例3]製品の処方例
製造例1、2で製造した生薬抽出物を配合した製品の処方例を以下に示す。
(処方例1)錠剤
処方 配合量(重量%)
1.生薬抽出物(製造例1) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 25.0
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
4.微結晶セルロース 40.0
5.ポリビニルピロリドン 7.0
6.タルク 3.0
成分1〜5を混合し、次いで10%の水を結合剤として加えて、押出し造粒後乾燥する。成形した顆粒に成分6を加えて混合し打錠し、錠剤(1錠300mg)を得る。
(処方例2)散剤
処方 配合量(重量%)
1.生薬抽出物(製造例2) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 55.0
3.微結晶セルロース 40.0
成分1〜3を混合し、気密包材に充填して散剤(1包1000mg)を得る。
(処方例3)顆粒剤
処方 配合量(重量%)
1.生薬抽出物(製造例1) 1.0
2.乳糖 50.0
3.セルロース 49.0
成分1〜3に70%(v/v)エタノールを適量加えて練和して押出し造粒し、乾燥して顆粒剤(1包1000mg)を得る。
(処方例4)ソフトカプセル剤
処方 配合量(重量%)
1.生薬抽出物(製造例2) 5.0
2.中鎖脂肪酸トリグリセリド 80.0
3.カルナウバロウ 15.0
成分1〜3を混和した後、ソフトゼラチンカプセルに封入し、ソフトカプセル剤(1カプセル400mg)を得る。
(処方例5)ハードカプセル剤
処方 配合量(重量%)
1.生薬抽出物(製造例1) 5.0
2.微結晶セルロース 60.0
3.トウモロコシデンプン 15.0
4.乳糖 18.0
5.ポリビニルピロリドン 2.0
成分1〜5を混合して顆粒化した後、2号硬カプセルに充填し、ハードカプセル剤(1カプセル250mg)を得る。
(処方例6)飲料(ドリンク剤)
処方 配合量(重量%)
1.生薬抽出物(製造例2) 0.1
2.クエン酸第1鉄 0.1
3.ショ糖 6.0
4.クエン酸 0.7
5.ビタミンC 0.05
6.香料 適量
7.精製水で全量を100とする
成分7に成分1〜6を加え、撹拌溶解して濾過し、加熱殺菌して50mLガラス瓶に充填する。
(処方例7)キャンデー
処方 配合量(重量%)
1.生薬抽出物(製造例1) 1.0
2.マルチトール 70.0
3.デンプン糖化物 29.0
成分1〜3を120〜170℃で加熱溶解し、金型にて固化させ、キャンデー(一粒3g)を得る。
本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、造血幹細胞を効率的に血液細胞に分化誘導させることができる。よって、本発明の造血幹細胞の分化促進剤は、造血幹細胞の機能低下や不全に起因する血液及び造血器の疾患又は病態の治療、改善、及び予防するための医薬品などの製造分野において利用できる。

Claims (3)

  1. 黄連と、黄柏、黄ごん及び山梔子との混合物の抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の分化促進剤。
  2. 請求項に記載の造血幹細胞の分化促進剤の存在下で造血幹細胞を培地中で培養することを特徴とする、造血幹細胞の分化促進方法。
  3. 請求項に記載の造血幹細胞の分化促進剤の存在下で造血幹細胞を培地中で培養する工程を含む、血液細胞の製造方法。
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