JP6268015B2 - 造血幹細胞の増殖促進剤および未分化維持剤 - Google Patents

造血幹細胞の増殖促進剤および未分化維持剤 Download PDF

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Description

本発明は、ツルレンゲの抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の増殖促進剤、および該増殖促進剤を含む医薬品または飲食品に関する。
血液は血球細胞や血漿から構成されており、酸素運搬、老廃物の除去、免疫機能などの生体の恒常性維持に重要な働きを有している。ところが、高齢者では、加齢によって血液中の血球細胞の減少や機能低下が起こるため、感染症に対する免疫力が低下し、貧血、好中球低下症、血小板低下症など様々な造血系疾患に罹患しやすく、QOLの低下を招くことが報告されている(非特許文献1−4等)。このような血球細胞の減少や機能低下は、それらをつくる造血幹細胞の老化が原因の一つとして考えられている(非特許文献5)。
造血幹細胞は骨髄においてわずかに存在し、すべての血球細胞に分化する多分化能と自己複製能を有する細胞で、個体の一生にわたり血球細胞を供給し続ける。よって、造血幹細胞を移植することで、血球細胞が全くない状態から、全血球細胞を再構築することが可能である。そのため、血液疾患や免疫不全症等の治療手段として、自己または同種の造血幹細胞の移植が行われている。しかしながら、造血幹細胞は加齢とともに分化能が低下することが報告されており(非特許文献6)、造血幹細胞を移植しても血球系の再構築ができないという事態もある。
従って、高齢者の造血能の低下がもたらすQOLの低下の防止や改善のためには、造血幹細胞を増加させ機能を回復させることが重要であると考えられる。これまで、造血幹細胞の増殖および分化に関与する因子としては、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン−3(IL-3)、インターロイキン−6(IL-6)、インターロイキン−6(IL-6)/可溶性インターロイキン6受容体複合体(IL-6/sIL-6R complex)、インターロイキン−11(IL-11)、インターロイキン−12(IL-12)、幹細胞因子(SCF)、Flk-2/Flt-3リガンド(FL)、トロンボポエチン(TPO)等の様々なサイトカインや増殖因子が知られており(非特許文献7−9等)、既に臨床上実用化されているものもある。しかしながら、これらの因子は単独では造血幹細胞の増殖能を欠くために複数を組み合わせる必要がある、未分化なまま十分に増殖させることができない、体内での制御や日常的に継続して使用が困難である、といったような種々の問題があり、これらに代わる新たな因子の解明が望まれている。
ツルレンゲ(学名:Astragalus complanatus R.Br.)は、マメ科植物の多年草で、その種子は特にシャエンシ(沙苑子)といわれ、漢方薬の成分として肝臓や腎臓の機能低下やめまいを改善したりするのに用いられている。ツルレンゲは、これまで視神経障害抑制作用(特許文献1)、ルテインの光劣化防止作用(特許文献2)、メラニン産生抑制作用(特許文献3)、エラスターゼ活性阻害作用(特許文献4)、血管新生抑制作用・血管の成熟化作用・血管の正常化作用(特許文献5)などがあることが知られている。しかしながら、造血幹細胞の増殖効果についてはこれまで何ら知られていない。
特開2009−107945 特開2009−107946 特開2010−215535 特開2010−215536 特開2013−241355
Disordered hematopoiesis and myelodysplasia in the elderly. J. Am. Geriatr Soc. 2003 Mar;51(3 Suppl):S22-6 Immunosenescence: emerging challenges for an ageing population. Immunology. 2007 Apr;120(4):435-46. Epub 2007 Feb 15. Aging of the Innate Immune System: An Update.Curr Immunol. Rev. 2011 Feb 1;7(1):104-115. Unexplained anemia in the elderly. Semin Hematol. 2008 Oct;45(4):250-4. doi: 10.1053/j.seminhematol.2008.06.003. The ageing haematopoietic stem cell compartment. Nat. Rev. Immunol. 2013 May;13(5):376-89. doi: 10.1038/nri3433. Epub 2013 Apr 15. Age-associated characteristics of murine hematopoietic stem cells. J. Exp. Med. 2000 Nov 6;192(9):1273-80. Differentiation and proliferation of hematopoietic stem cells. Blood. 1993 Jun 1;81(11):2844-53. Simultaneous activation of signals through gp130, c-kit, and interleukin-3 receptor promotes a trilineage blood cell production in the absence of terminally acting lineage-specific factors. Blood. 1997 Dec 15;90(12):4767-78. Biologic effects and potential clinical applications of Flt3 ligand Curr Opin Hematol. 1998 May;5(3):192-6.
本発明の目的は、日常的に継続使用でき、かつ安全性の高い、造血幹細胞を増殖する作用を有する新たな因子を見出し、造血幹細胞の減少または機能低下に関連する疾患または病態を治療、改善、および予防するための医薬品および飲食品を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ツルレンゲの抽出物が、優れた造血幹細胞の増殖促進作用及び未分化状態維持作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)ツルレンゲの抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の増殖促進剤。
(2)ツルレンゲの抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の末分化維持剤。
(3)(1)または(2)に記載の剤を含む医薬品。
(4)(1)または(2)に記載の剤を含む飲食品。
(5)飲食品が、健康食品、機能性食品、保健機能食品、または特別用途食品である、(4)に記載の飲食品。
(6)保健機能食品が、特定保健用食品または栄養機能食品である、(5)に記載の飲食品。
(7)(1)または(2)に記載の剤の存在下で造血幹細胞を培養することを特徴とする、未分化状態を維持した造血幹細胞集団の調製方法。
本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、造血幹細胞を未分化状態を維持させつつ増殖させることができるので、造血幹細胞の減少や機能低下に関連する血液および造血器の疾患を治療、改善、および予防することができる。また本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、作用が緩和な植物の抽出物を有効成分とするから、日常的に使用しても副作用がなく安全性が高い。よって、医薬品や健康食品などの飲食品に安心して使用できる。
以下に、本発明について詳細に述べる。
本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、ツルレンゲ(学名:Astragalus complanatus R.Br.)を有効成分として含有する。本発明に用いるツルレンゲは、マメ科植物の多年草であり、中国や内モンゴルなどの山野に自生しており、これらの地域から容易に入手することができる。
本発明において、ツルレンゲの抽出物は、花、花穂、果皮、果実、球果、蕾、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子等の植物体の一部または植物体全体(全草)、あるいはそれらの混合物の抽出物をいう。また、抽出には、これらの植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
抽出方法は、特に限定されないが、水もしくは熱水、または水と有機溶媒の混合溶媒を用い、攪拌またはカラム抽出する方法により行うことができる。有機溶媒としては、アルコール類、エーテル類、エステル類などを用いることができるが、エタノール、メタノール、アセトン等の水溶性有機溶媒が好ましく、これらの一種又は二種以上を用いてもよい。
特に好ましい抽出溶媒としては、水、または水−エタノール系の混合極性溶媒が挙げられる。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記ツルレンゲの地上部(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10〜100℃、好ましくは30〜90℃で、30分〜24時間、好ましくは1〜10時間を例示することができる。また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
本発明において「造血幹細胞」とは、多能性骨髄系幹細胞および多能性リンパ系幹細胞を含み、骨髄系細胞(赤血球、血小板、好酸球、好塩基球、好中球、単球等)およびリンパ系細胞(B細胞、T細胞、NK細胞等)への分化が可能な細胞をいう。造血幹細胞は、CD34抗原が陽性で、かつ、CD38抗原が陰性である(CD34+CD38−)ことにより特徴づけられる。また、「増殖の促進」とは、本発明の薬剤を投与または摂取する前と比較して、造血幹細胞の増殖が活性化することをいう。造血幹細胞の増殖が活性化したか否かのin vitroでの判定は、当業者が通常行う方法によって行うことが可能であり、例えば造血幹細胞の数(コロニー数)の変化、造血幹細胞の増殖速度の変化、又は造血幹細胞の増殖に関与する細胞内シグナルの変化等を検出することによって行うことができる。
ツルレンゲの抽出物はまた、造血幹細胞の増殖促進作用のみならず、未分化状態維持作用も有するので、造血幹細胞の未分化維持剤としても使用できる。よって、本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、造血幹細胞の増殖時に分化が進行せず、未分化状態を維持させつつ造血幹細胞を効率的に増殖させることができるので、生体内に投与する場合のみならず、移植用に生体外で造血幹細胞を調製する方法にも利用できる。この場合、造血幹細胞の移植は、従来の骨髄移植または臍帯血移植と同一の方法で実施できる。
さらに、本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、造血幹細胞を未分化状態を維持しつつ効率的に増殖させるための細胞培養用添加剤、研究用試薬としても使用することができる。
本発明の造血幹細胞の増殖促進剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに医薬品や飲食品などの組成物に配合することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
本発明の造血幹細胞の増殖促進剤を医薬品として提供する場合は、ツルレンゲの抽出物に、医薬上許容され、かつ剤型に応じて適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加して、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
本発明の医薬品は、経口または非経口的に投与することができるが、好ましくは経口投与である。本発明の医薬品を経口投与する場合は、錠剤(糖衣錠を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、丸剤、内用水剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などに製剤化するか、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の医薬品を非経口投与する場合は、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、坐剤などに製剤化し、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
また、製剤化に当たっては、本発明の造血幹細胞の増殖促進剤の有効成分であるツルレンゲの抽出物以外の1種以上の有効成分を併用してもよい。併用に適した有効成分としては、例えば、塩化鉄、硫酸鉄、及びリン酸鉄等の鉄の無機酸塩、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、乳酸鉄等の鉄の有機酸塩、ヘム鉄及びフェリチン等の鉄とタンパク質の結合物、ならびに酸化鉄等を挙げることができる。鉄化合物は、医薬品または食品に用いることができるものが好ましく、例えば、クエン酸鉄、クエン酸第1鉄ナトリウム、グルコン酸第1鉄、乳酸鉄、フマル酸第1鉄、ピロリン酸第1鉄、ピロリン酸第2鉄、及び硫酸第1鉄などが挙げられる。鉄化合物は市販品を用いればよく、1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
上記製剤中の抽出物の含有量は特に限定されないが、製剤全重量に対して、固形分換算して、0.001〜30.0重量%が好ましく、0.01〜10重量%がより好ましい。0.001重量%以下では効果が低く、また30重量%を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、有効成分であるツルレンゲの抽出物が造血幹細胞の増殖促進作用および未分化状態維持作用を有するので、造血幹細胞の減少または機能低下に関連する血液および造血器の疾患または病態を治療、改善、および予防するための医薬品として有効である。ここで、造血幹細胞の減少または機能低下に関連する血液および造血器の疾患または病態としては、例えば、鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血、溶血性貧血、赤芽球癆、再生不良性貧血、先天性貧血(例えば鎌状赤血球血症)、発作性夜間色素尿症、二次性貧血(感染症、悪性腫瘍、慢性疾患、腎疾患、肝疾患、内分泌性疾患等に伴う貧血)、白血病、骨髄異形性症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患(真性多血症・本態性血小板血症・骨髄線維症など)、突発性血小板減少性紫斑病、自己免疫性溶血性貧血のほか、一般的な貧血状態(動悸、息切れ、眩暈、立ち眩み、異嗜症、易疲労感、倦怠感、食欲不振、悪心、頭痛、顔面蒼白、肌のクスミやクマ、耳鳴り、肩こり、口角炎等)などが挙げられるが、これらに限定はされない。また、「造血幹細胞の減少または機能低下」は、上記の疾患によるものだけではなく、抗癌剤や免疫抑制剤の投与、癌の放射線治療によるものを含む。
本発明の医薬品は、上記疾患または病態の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。
本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の治療、改善、および予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的にまたは非経口的に投与することができる。
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、ツルレンゲの抽出物として0.1〜1000mg、好ましくは1〜500mg、より好ましくは5〜300mgである。
また、本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、または特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法または食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品および栄養機能食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、特に高齢者、妊産婦、月経や出血傾向を伴う疾病(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃腸のポリープや癌、痔など)時における貧血や貧血に伴う諸症状の改善および予防のために長期にわたって服用が必要となる場合に、日常的に継続して摂取できる点で上記の健康食品等に好適に用いることができる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
さらに、本発明の飲食品をヒト以外の哺乳動物を対象として使用する場合には、ペットフード、飼料を含む意味で用いることができる。
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)および該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
本発明の飲食品が一般的な飲食品の場合は、その飲食品の通常の製造工程においてツルレンゲの抽出物を添加する工程を含めることによって製造することができる。また健康食品の場合は、前記の医薬品の製造方法に準じればよく、例えば、タブレット状のサプリメントでは、ツルレンゲの抽出物に、賦形剤等の添加物を添加、混合し、打錠機等で圧力をかけて成形することにより製造することができる。カプセル状のサプリメントでは、ツルレンゲの抽出物を含有する液状、懸濁状、ペースト状、粉末状、又は顆粒状の食品組成物をカプセルに充填するか、またはカプセル基剤で被包成形して製造することができる。また、必要に応じてその他の材料(例えば、鉄、カリウム等のミネラル類、ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12等のビタミン類、葉酸、食物繊維等)を添加することもできる。
本発明の飲食品におけるツルレンゲの抽出物の配合量は、造血幹細胞の増殖促進作用および未分化状態の維持作用が発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
本発明の飲食品の摂取量は、前述の疾患または病態の予防や改善を目的として摂取する場合、摂取させる対象の状態、摂取形態、摂食量等により異なるが、ツルレンゲの抽出物として、成人1日につき、0.1〜1000mg、好ましくは1〜500mg、より好ましくは5〜300mgである。前記の量は1回で摂取させてもよいが、数回(2〜4回)に分けて摂取してもよい。本発明の飲食品は、摂取量の目安とするため1回に摂取するべき量の飲食品が、1個の袋やビン等の容器に包装または充填されていることが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
ツルレンゲの抽出物を以下のとおり製造した。
(製造例1)ツルレンゲの熱水抽出物の調製
ツルレンゲの地上部の乾燥物100gに精製水800mLを加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してツルレンゲの熱水抽出物を5.8g得た。
(製造例2)ツルレンゲの50%エタノール抽出物の調製
ツルレンゲの地上部の乾燥物100gに50%(v/v)エタノール水溶液400mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ツルレンゲの50%エタノール抽出物を3.7g得た。
(製造例3)ツルレンゲのエタノール抽出物の調製
ツルレンゲの地上部の乾燥物100gにエタノール1Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ツルレンゲのエタノール抽出物を4.5g得た。
[実施例2]
ツルレンゲの抽出物の効果の評価実験を次のとおり行った。
(試験例1)造血幹細胞増殖効果の評価
既報(Self-renewal and differentiation of a basic fibroblast growth factor-dependent multipotent hematopoietic cell line derived from embryonic stem cells. Dev Growth Differ. 1999 Feb;41(1):51-8.)の培養方法を参考に、未分化状態で培養したA-6細胞(マウス造血幹細胞)(理化学研究所)にツルレンゲの抽出物(製造例1〜3)を最終濃度が0.01%になるように添加し、2日間培養した。なお、A-6細胞は、96 well plateに5x104個ずつ播種した。培地には、DMEM/F12培地を基礎培地とし、ウシ胎児血清(1%;Sigma社製)、bFGF(5ng/ml;Pepro Tech社製)、Insulin(10ng/ml;SIGMA社製)、Transferrin(10ng/ml;SIGMA社製)、2-メルカプトエタノール(100μM;Gibco社製)となるように調製した培地を用いた。培養2日後に細胞を回収し、PBS(-)にて洗浄し、細胞増殖測定キット(Cell Counting Kit-8、同仁科学研究所製)を用いて細胞増殖率を定められた方法に従って測定した。
細胞増殖効果は、試料を添加せずに培養した細胞における細胞増殖率の相対値を100%とし、これに対し、試料を添加して培養した細胞における細胞増殖率の相対値を算出し評価した。結果を表1に示す。
Figure 0006268015
表1に示すように、ツルレンゲの抽出物(製造例1〜3)のすべてに、顕著な造血幹細胞の増殖促進効果が認められた。なお、本試験例で用いた細胞以外にも、市販のヒト造血幹細胞についても同様な試験を行ったところ、顕著な造血幹細胞の増殖促進効果が認められた。
(試験例2)造血幹細胞に対する未分化状態維持効果の評価
実施例1で製造したツルレンゲの抽出物(製造例1〜3)の造血幹細胞に対する未分化状態維持に及ぼす影響を、造血幹細胞の未分化マーカーであるCD34(CD34 antigen)の発現を指標に評価した。
試験例1と同様に、DMEM/F12培地を基礎培地とし、ウシ胎児血清(1%)、bFGF(5ng/ml)、 Insulin(10ng/ml)、Transferrin(10ng/ml)、2-メルカプトエタノール(100μM)となるように調製した培地を用いてA-6細胞を培養した。なお、A-6細胞は、12 well plateに1x106個ずつ播種した。その際、最終濃度が0.01%になるようにツルレンゲの抽出物(製造例1〜3)を添加した。培養4日後に、細胞を回収し、PBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって細胞からRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems社製)により、下記に示すCD34(末分化マーカー)遺伝子増幅用プライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40サイクル)を実施し、CD34遺伝子の発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
(CD34遺伝子用プライマーセット)
フォワードプライマー:5'-CTTCTGCTCCGAGTGCCATT-3'(配列番号1)
リバースプライマー:5'-ATACCCTGGGCCAACCTCAC-3'(配列番号2)
(内部標準グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)遺伝子用プライマーセット)
フォワードプライマー:5'-CCGTGTTCCTACCCCCAAT-3'(配列番号3)
リバースプライマー: 5'-TGCCTGCTTCACCACCTTCT-3'(配列番号4)
未分化状態維持効果は、培養開始時のA-6細胞におけるCD34 mRNAの発現量を内部標準であるGapdh mRNAの発現量に対する割合として算出したCD34の遺伝子相対発現量(CD34遺伝子発現量/Gapdh遺伝子発現量)の値を100%未分化状態とし、これに対し、培養4日後のA-6細胞におけるCD34の遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。なお、陽性対照としてbFGF用いた。結果を表2に示す。
Figure 0006268015
表2に示すように、ツルレンゲの抽出物(製造例1〜3)の全てに、顕著な造血幹細胞の未分化状態維持効果が認められた。なお、本試験例で用いた細胞以外にも、市販のヒト造血幹細胞についても同様な試験を行ったところ、顕著な造血幹細胞の未分化状態維持効果が認められた。
[実施例3]製品の処方例
製造例1〜3で製造したツルレンゲの抽出物を配合した製品の処方例を以下に示す。
(処方例1)錠剤
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例1) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 25.0
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
4.微結晶セルロース 40.0
5.ポリビニルピロリドン 7.0
6.タルク 3.0
成分1〜5を混合し、次いで10%の水を結合剤として加えて、押出し造粒後乾燥する。成形した顆粒に成分6を加えて混合し打錠し、錠剤(1錠300mg)を得る。
(処方例2)散剤
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例2) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 55.0
3.微結晶セルロース 40.0
成分1〜3を混合し、気密包材に充填して散剤(1包1000mg)を得る。
(処方例3)顆粒剤
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例3) 1.0
2.乳糖 50.0
3.セルロース 49.0
成分1〜3に70%(v/v)エタノールを適量加えて練和して押出し造粒し、乾燥して顆粒剤(1包1000mg)を得る。
(処方例4)ソフトカプセル剤
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例1) 5.0
2.中鎖脂肪酸トリグリセリド 80.0
3.カルナバロウ 15.0
成分1〜3を混和した後、ソフトゼラチンカプセルに封入し、ソフトカプセル剤(1カプセル400mg)を得る。
(処方例5)ハードカプセル剤
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例2) 5.0
2.微結晶セルロース 60.0
3.トウモロコシデンプン 15.0
4.乳糖 18.0
5.ポリビニルピロリドン 2.0
成分1〜5を混合して顆粒化した後、2号硬カプセルに充填し、ハードカプセル剤(1カプセル250mg)を得る。
(処方例6)飲料(ドリンク剤)
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例3) 0.1
2.クエン酸第1鉄 0.1
3.ショ糖 6.0
4.クエン酸 0.7
5.ビタミンC 0.05
6.香料 適量
7.精製水で全量を100とする
成分7に成分1〜6を加え、撹拌溶解して濾過し、加熱殺菌して50mLガラス瓶に充填する。
(処方例7)ゼリー飲料
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例3) 0.3
2.カラギーナン 1.0
3.ブドウ糖果糖液糖 20.0
4.クエン酸 0.6
5.精製水で全量を100とする
上記成分1〜5を混合した後、80℃に加温し、密封容器に充填する。加熱殺菌した後、冷却し、ゲル状のゼリー飲料(100g)を得る。
(処方例8)錠菓
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例1) 1.5
2.乾燥コーンスターチ 50.0
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.4
6.香料 0.1
成分1〜4を混合し、10%の水を結合剤として加え、流動層造粒する。成形した顆粒に成分5及び6を加えて混合し、打錠し、錠菓(1粒1.0g)を得る。
(処方例9)キャンデー
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例2) 1.0
2.マルチトール 70.0
3.デンプン糖化物 29.0
成分1〜3を120〜170℃で加熱溶解し、金型にて固化させ、キャンデー(一粒3g)を得る。
(処方例10)クッキー
処方 配合量(重量%)
1.ツルレンゲの抽出物(製造例1) 1.0
2.薄力粉 30.0
3.全卵 15.0
4.バター 15.0
5.砂糖 25.0
6.ベーキングパウダー 0.3
7.水 残量
成分1〜7を用いて、常法に従い、棒状のクッキー(50g)を製造する。
本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、造血幹細胞を未分化状態を維持させつつ効率的に増殖させることができる。よって、本発明の造血幹細胞の増殖促進剤は、造血幹細胞の減少または機能低下に関連する血液および造血器の疾患または病態の治療、改善、および予防するための医薬品、健康食品や機能性食品などの飲食品の製造分野において利用できる。

Claims (7)

  1. ツルレンゲの抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の増殖促進剤。
  2. ツルレンゲの抽出物を有効成分として含有する造血幹細胞の末分化維持剤。
  3. 請求項1または2に記載の剤を含む、造血幹細胞の増殖促進用または末分化維持用医薬品。
  4. 請求項1または2に記載の剤を含む、造血幹細胞の増殖促進用または末分化維持用飲食品。
  5. 飲食品が、健康食品、機能性食品、保健機能食品、または特別用途食品である、請求項
    4に記載の造血幹細胞の増殖促進用または末分化維持用飲食品。
  6. 保健機能食品が、特定保健用食品または栄養機能食品である、請求項5に記載の造血幹細胞の増殖促進用または末分化維持用飲食品。
  7. 請求項1または2に記載の剤の存在下で造血幹細胞を培養することを特徴とする未分化
    状態を維持した造血幹細胞集団の調製方法。
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