JP6529808B2 - バックル装置及びバックル装置を備えたシートベルト装置 - Google Patents

バックル装置及びバックル装置を備えたシートベルト装置 Download PDF

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Description

本発明は、バックル装置及びバックル装置を備えたシートベルト装置に関する。
車両のシートに設置され、走行中の車両が衝突などにより急停止する等の緊急時に、乗員をシートに拘束して飛び出しを防止するためのシートベルト装置において、緊急時に乗員に加わる荷重を軽減するため、シートベルト巻取装置(リトラクタ)の中にエネルギー吸収手段が組み込まれたシートベルト装置が知られている。
従来の、シートベルト装置は、例えばトーションバーの捻じれを利用してウエビング巻取りドラムから抵抗力を与えながらウエビングを送り出して、所定のウエビングの荷重(張力)で乗員を拘束する。ただ、この場合、乗員の前方への移動と共に、ウエビングを介して乗員に作用する荷重(乗員Mに作用する慣性力をシートベルトが受けることによる反力)が一定以上となる場合があり、これが乗員の肋骨や腰椎に傷害を発生させる原因となるため、このような荷重上昇を抑制することが求められている。
そこで、従来から、乗員の前方への移動に伴ってウエビングを介して乗員に作用する荷重を軽減するための手段を備えたシートベルト装置が提案されている(特許文献1(特許第3919653号公報)参照)。
図12は、この従来のシートベルト装置を示す図である。
このシートベルト装置は、いわゆる3点式シートベルト装置であって、帯状のシートベルト(ウエビング)131と、シートベルト131に取り付けられたタング132と、シートフレーム123に固定されたバックル装置を備えている。
シートベルト131は、シートに着座した乗員Mの左右一方側上部から他方側下部へ胸の前で斜めに架け渡される肩ベルト131Aと、左右一方側から他方側へ腰の上で架け渡される腰ベルト131Bと、肩ベルト131A及び腰ベルト131Bに連結され、ベルト装着時にバックル141に挿入係止されるタング132を有している。
一方、車体に固定されたシートフレーム123には、タング132が係止されたバックル141の車両上下方向への移動を規制し、前後方向への移動のみを許容するガイド145が設けられている。ガイド145には、バックル141に車両前方向への所定以上の外力が加わったときに、バックル141の前方向への移動の際に、塑性変形部の変形によって、その移動を、抵抗力を伴いながら許容するエネルギー吸収機構150が設けられている。
このバックル装置では、シートベルト131の肩ベルト131Aと腰ベルト131Bとが連結されるバックル141に作用する荷重が所定値以上になると、バックル141が抵抗力を伴いながらガイド145に案内されて、ほぼ同じ高さを維持したまま車両の前方に移動する。これによって、バックル141の前方への移動の際に乗員Mの移動エネルギーが吸収されるので、乗員Mに作用する荷重(乗員Mに作用する慣性力をシートベルト131が受けることによる反力)が軽減される。また後述のように、バックル141を固定した場合に比べてバックル141の前方への移動により、肩ベルト131Aの上方と下方とがなす角度が小さくなることを抑制し、シートベルト131を介して乗員Mに作用する荷重の上昇を抑制することができる。
ところで、車両のシートは一般に車両前方に向かって上方に傾斜している。そのため、従来のバックル装置では、シート上で車両前方に移動するとき乗員Mは必然的に上方へも移動する。つまり、乗員Mの移動方向は、水平方向のみに移動するバックル141とは異なるため、バックル141がガイド145に案内されて前方へ移動すればするほど、バックル141が乗員Mに対して相対的に下方へ移動することになり、その結果、腰ベルト131Bが下方に引っ張られ、それにより乗員Mがシート座面に押し付けられることになる。そのため、前方移動するにつれて乗員Mがシート座面に押し付けられる力が大きくなり、乗員Mが前方移動する際の抵抗が大きくなるために、この従来のバックル装置では、安定した抵抗力で乗員Mの移動エネルギーを吸収しつつ乗員Mをスムーズに前方へ移動させることが難しく、乗員Mの移動エネルギーを吸収し難いと共に、バックル141の前方への移動により、肩ベルト131Aの上方と下方がなす角度が小さくなることを抑制して、シートベルト131を介して乗員Mに作用する荷重の上昇を抑制する効果を発揮し難いという問題がある。
特許第3919653号公報
本発明は、従来のバックル装置における前記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、緊急時において、シートベルトを装着した乗員をスムーズに前方へ移動させ、乗員の移動エネルギーを安定した抵抗力で吸収できるようにすることである。
本発明は、一端部が車体に取り付けられるシートベルトの腰ベルトの他端部と、一端部が車体に取り付けられるシートベルトの肩ベルトの他端部が連結されるバックルと、車体又は車両のシートに取り付けられると共に、緊急時に、腰ベルト及び肩ベルトを取り付けたバックルを車両前方へ案内するバックル案内部材と、緊急時に、乗員の慣性力により所定値以上の荷重が前記シートベルトに加わった際に、抵抗力を伴いつつ、前記バックルを車両前方へと移動させることで乗員の移動エネルギーを吸収するエネルギー吸収機構と、を備えたバックル装置であって、前記エネルギー吸収機構は、塑性変形もしくは弾性変形することにより抵抗力を生じるエネルギー吸収部材を有し、前記バックル案内部材は、シートの座面の傾斜に対応した前方を高く後方を低くした傾斜姿勢において前記バックルを案内するバックル装置である。
また、本発明は、一端部が車体に取り付けられるシートベルトの腰ベルトの他端部と、一端部が車体に取り付けられるシートベルトの肩ベルトの他端部が連結されるバックルと、車体又は車両のシートに取り付けられると共に、緊急時に、腰ベルト及び肩ベルトを取り付けたバックルを車両前方へ案内するバックル案内部材と、緊急時に、乗員の慣性力により所定値以上の荷重が前記シートベルトに加わった際に、抵抗力を伴いつつ、前記バックルを車両前方へと移動させることで乗員の移動エネルギーを吸収するエネルギー吸収機構と、を備えたバックル装置であって、前記バックル案内部材を、通常時の姿勢から緊急時における前方を高く後方を低くした傾斜姿勢に変化させる駆動機構を有し、前記バックル案内部材は、シートの座面の傾斜に対応した前方を高く後方を低くした傾斜姿勢において前記バックルを案内するバックル装置である。
本発明によれば、緊急時において、シートベルトを装着した乗員をスムーズに前方へ移動させ、乗員の移動エネルギーを安定した抵抗力で吸収することができる。
本発明の第1の実施形態に係るシートベルト装置の通常時における状態を概略的に示す図である。 図1に示すシートベルト装置の緊急時における状態を概略的に示す図である。 本発明の第1の実施形態に係るシートベルト装置の通常時における状態を概略的に示す図である。 本バックル装置を示す斜視図である。 図4に示すバックル装置の分解図である。 バックル装置の動作を説明するため、その要部を拡大して示した図であり、図6A〜6Cは、通常時、緊急時におけるレール支持部材の姿勢変化を示す図である。 緊急時にシートベルト装置のシートベルトを装着した乗員の状態、及びその状態で肩ベルトから乗員に作用する荷重の成分を示した図である。 本発明の第2の実施形態に係るシートベルト装置の通常時における状態を概略的に示す図である。 本発明の第2の実施形態に係るシートベルト装置の緊急時における状態を概略的に示す図である。 バックルがシートの側面に直接取り付けられているバックル装置を備えたシートベルト装置(バックル案内部材を備えていない場合)を示す図である。 図11Aは、本実施形態に係るバックル装置を用い、緊急時において肩ベルトに作用する最大荷重を算出するための一例を示すデータであり、図11Bに示した力のベクトル図の基礎データをまとめた表である。 従来のシートベルト装置を示す図である。
図1、図3は、本発明の第1の実施形態に係るシートベルト装置1の通常時における状態を概略的に示す図である。なお、以下の説明で方向を指すときは、車両の前後方向を基準に前方、後方、車両の上下方向を基準に上方、下方という。
本シートベルト装置1の基本構造は、図12に示した従来のものと同様である。即ち、帯状のシートベルト(ウエビング)10と、シートベルト10に取り付けられたタング3と、シートS側面に固定されたバックル装置2を備えている。
シートベルト10は、肩ベルト10Aと腰ベルト10Bからなり、肩ベルト10Aは、その一端部は車体に取り付けるリトラクタ12に取り付けられ、他端部はタング3に連結される。腰ベルト10Bは、一端部は車体に取り付けるラップアンカ18に取り付けられ、他端部には肩ベルト10Aと同じタング3に連結される。ここでは、肩ベルト10Aと腰ベルト10Bとは、連続したウエビングにより形成されており、ウエビングがタング3に形成された挿通孔3Aに、ウエビングの長手方向に移動可能に挿通されることで、それぞれタング3に連結されている。
シートベルト10の装着時においては、乗員Mがシートベルト10に挿通されたタング3を引っ張ることで、シートベルト10がリトラクタ12から引き出されて、乗員Mがタング3をバックル16に挿入して係止することで、車体の上部(例えば車体のピラー)に回動可能に取り付けたスルーアンカ14の挿通孔14Aを通して、肩ベルト10Aが乗員Mの上半身前側を横切り、タング3に連結されると共に、シートベルト10の腰ベルト10Bが、ラップアンカ18から乗員Mの腰から腹部を横切ってタング3に連結される。タング3はバックル16に着脱可能に挿入係止される。
バックル16は、そのタング挿入側と反対側端部が車両のシートSの側面に取り付けたバックル案内部材20のガイドレール21に摺動可能に装着されている。
なお、バックル案内部材20の取付位置は必ずしもシート側面に限定されず、バックル16が案内可能である限り、車体の適宜の位置に取り付けてもよい。
ここで、従来のバックル装置では、通常時(乗員Mがシートベルト装着状態における通常時)、緊急時ともガイドレールは水平な姿勢に固定されているが、本実施形態のシートベルト装置1のバックル装置2は、従来のバックル装置と異なり、図1に示すように、通常時にはガイドレール21は水平に配置されるが、緊急時においては、図2に示すように、その後端部が下降して、シートSの前方への傾斜に対応させて傾斜した姿勢に変更される。
次に、本実施形態のバックル装置2について、図4、5を参照して詳細に説明する。
図4は、バックル装置2を示す斜視図であり、図5は、図4に示すバックル装置2の分解図である。
バックル装置2は、図4に示すように、バックル案内部材20と、バックル16の移動時に各ベルト10A、10Bから作用する乗員Mの移動エネルギーを吸収するエネルギー吸収機構30と、ガイドレール21の後端部を支持するガイドレール支持機構40と、緊急時にガイドレール21の後端部を押し下げるガイドレール駆動機構50と、押し下げたガイドレール21をロックするガイドレール21のロック機構60とを有している。
バックル案内部材20は、図5に示すように、後方側から前方側に向かって、ここではチャンネル状のガイドレール21とガイドレール21のチャンネルの底面から連続して延在する板状部分22とから成っている。板状部分22の前端部には取付孔20Aが設けられており、この取付孔20Aに挿入した取付ピン23をシートS側面に固定することで、バックル案内部材20は、シートS側面(図1)に対して回動可能に取り付けられる。なお、バックル案内部材20は、バックル16を案内する機能を有するものであれば、チャンネル状のものに限らず、レール状など他の任意の構造のものを用いることができる。
エネルギー吸収機構30は、パイプ(管)状のエネルギー吸収部材31と、エネルギー吸収部材31の内部に挿入される同様にパイプ状の圧入部材32から成っている。圧入部材32は、エネルギー吸収部材31の内部に収容される。
圧入部材32の前端部には、例えば径大部(エネルギー吸収部材31の内径よりも僅かに径大に構成されている)32Aが装着または一体に形成されている。その径大部32Aをエネルギー吸収部材31に挿入しておき、緊急時にエネルギー吸収部材31内で移動させることで、例えば、エネルギー吸収部材31を塑性変形させて乗員Mの移動エネルギーを吸収することができる。
なお、エネルギー吸収部材31の内径を、径大部32Aを容易に挿入可能な内径部と、径大部32Aよりも僅かに小径の内径部と、その間をつなぎ、内径が徐々に小さくなる移行部として形成しておくことができる。これにより径大部32Aをエネルギー吸収部材31に容易に挿入することができる。或いは、圧入部材32の外面形状をテーパー状にして、径大部32Aの径をエネルギー吸収部材31の内径よりも小径からそれよりも大径に変化させるようにしてもよい。この場合、エネルギー吸収部材31に径大部32Aを容易に挿入可能な内径部は設けても或いは設けなくともよい。
エネルギー吸収部材31の前端部は、互いに直交する平板部からなるL字状の取付ブラケット33に設けた貫通孔33Aに挿入される。エネルギー吸収部材31は、取付ブラケット33の他方の平板部に設けた貫通孔33Bとバックル案内部材20の取付孔20Aに取付ピン23を挿通することで、ガイドレール21と一体にシートSの側面に取り付け可能である。
圧入部材32の後端部は、バックル取付部材34の前端部に設けられ前後方向に貫通する保持孔(図示せず)に挿入されて保持される。バックル取付部材34の保持孔が設けられた部分の後方には、保持孔と直交する貫通孔34Aが設けられている。この貫通孔34Aと、バックル16の図示下端に設けた貫通孔16Aと、ガイドレール21内を摺動するランナ(ここでは矩形のランナ)35の貫通孔35Aには、円筒状の取付ボルト36が挿通される。これにより、圧入部材32の後端部を保持したバックル取付部材34と、ランナ35と、バックル16とが一体に連結され、緊急時には、これらが一体となってガイドレール21に沿って移動する。なおここでは、移動量は最大100mm程度に設定されている。
エネルギー吸収機構30は、圧入部材32がエネルギー吸収部材31内で移動する際のエネルギー吸収部材31の塑性変形もしくは弾性変形による抵抗力により乗員Mの移動エネルギーを吸収する。その際、バックル16に連結された圧入部材32の移動により、エネルギー吸収機構30は、各ベルト10A、10Bからバックル16に作用する乗員Mの移動エネルギーを吸収する。なお、圧入部材32の径大部32Aを可撓性を持ったリング状のものにして内部の空気の圧縮圧力と摺動摩擦抵抗による抵抗力でエネルギーを吸収してもよい。その際、エネルギー吸収部材31に圧縮圧力を調整する空気孔を設けてもよい。
ガイドレール支持機構40は、レール支持部材41と、レール支持部材41の貫通孔41Aに挿通した取付ピン42を案内する板状の支持案内部材43とから成っている。
レール支持部材41は、ガイドレール21のチャンネル状溝の後端部から挿入される挿入部41Bと、挿入部41Bに一体に形成されガイドレール21の外側に配置される本体部41Cとから成る。挿入部41Bの貫通孔41Aとガイドレール21のチャンネル状溝の底壁の貫通孔20Bは、支持案内部材43の弧状に湾曲した長溝(スリット)44を通して挿通される取付ピン42により一体に連結される。
支持案内部材43は、図示しない固定部材によりシートS側面に固定されている。支持案内部材43にはピン62の取付孔43Aが設けられており、後述するロック機構60のロック部材61を貫通させたピン62をこの取付孔43Aに挿入する。これにより、ロック部材61を支持案内部材43に回動可能に取り付ける。また、支持案内部材43には、ロック部材61がピン62の回りで上向きモーメントを受けて上方に回動する際に、その回動の規制部となる突起(ストッパ)45が設けられている。
なお、レール支持部材41をガイドレール21の前端部に配置して、後述するガイドレール駆動機構50により、後端部をシートSの側面に回動可能に連結したガイドレール21の前端部を持ち上げる構造にしてもよい。また、通常時にガイドレール21が水平であることは必須ではなく、取付性や、他の部品との位置関係を考慮して多少傾斜した姿勢で配置し、緊急時にガイドレール駆動機構50により所望の傾斜姿勢に姿勢を変更してもよい。
ガイドレール駆動機構50は、ピストンロッド51を備えたシリンダ52と、シリンダ52にガスを供給するガスジェネレータ53から成っている。ガイドレール駆動機構50は、エアバッグ装置やプリテンショナと同様に、車両の急停止(緊急状態発生)と同時に、急激な慣性力を検知して作動する図示しないコントローラユニットの出力信号で作動する。
シリンダ52はレール支持部材41上に配置され、そのピストンロッド51の下面はレール支持部材41に当接している。したがって、緊急時にガスジェネレータ53が作動すると、発生するガスの圧力によりピストンロッド51が下降し、ピストンロッド51の下降にしたがってレール支持部材41が下降する。即ち、ガイドレール駆動機構50は、バックル案内部材20を、通常時における水平な姿勢(通常姿勢又は初期姿勢)から緊急時における前方を高く、後方を低くした傾斜姿勢に変更させる。同時に、ガイドレール駆動機構50により、バックル案内部材20の後端部は、肩ベルト10A及び腰ベルト10Bを装着した乗員Mから離れる方向に下降する。
ガイドレール21のロック機構60は、ピン62により支持案内部材43に回動可能に取り付けられたロック部材61と、ロック部材61を貫通させたピン62による回動中心よりも下方で、支持案内部材43の側面におけるロック部材61よりも後方に取り付けたばね受け64との間に配置され、ロック部材61にピン62の回りで上向きのモーメントを作用させる付勢手段(ここではコイルスプリング63)を有する。
通常時において、レール支持部材41は、レール支持部材41もしくは取付ピン42と、支持案内部材43との間に設けられて、緊急時にガイドレール駆動機構50が作動した際に破断される図示しない部材により、ガイドレール21を水平な姿勢に維持する。
一方、緊急時には、後述するように、ピストンロッド51に押されてレール支持部材41と共に取付ピン42が下降し、下降する取付ピン42に押されてロック部材61が回動し、取付ピン42がロック部材61を通過して、レール支持部材41が所定位置に下降する。なおここでは、レール支持部材41の下降量は30mm程度である。レール支持部材41が所定位置に下降した後は、ロック部材61がレール支持部材41(取付ピン42)の上昇を阻止して、ガイドレール21を所定の傾斜姿勢にロックする。なおここでは、ガイドレール21の傾斜角度は10°程度である。
図6は、バックル装置2の動作を説明するため、その要部を拡大して示した図であり、図6A〜6Cは、通常時、緊急時におけるレール支持部材41の姿勢変化を示す図である。
即ち、通常時においては、図6Aに示すように、ガイドレール21は、上述のように、水平な通常姿勢に維持されている。また、ロック部材61は、回動規制部(突起)45によりピン62の回りでそれ以上、上方に回動しないように規制されている。
次に、緊急時においてガスジェネレータ53(図5)が作動すると、ガスジェネレータ53で発生したガスがシリンダ52中に導入され、図6Bに示すように、シリンダ52のピストンロッド51を下方に押し出す。レール支持部材41は下降するピストンロッド51に押されて下降する。これにより、レール支持部材41と一体に連結された取付ピン42が、ロック部材61のテーパー面61Aをコイルスプリング63の付勢力に抗して押下し、ロック部材61をピン62の回りで反時計方向に回動させる。その間下降する取付ピン42は支持案内部材43に設けた弧状の長溝44で案内される。
図6Cは、ピストンロッド51が下限位置まで延出し、それに伴ってレール支持部材41も下限位置まで下降した状態、つまりガイドレール21がシートSの側面に係止した取付ピン23の回りで時計方向に回動し、シートSの座面に対応させて前方を上方に向けて傾斜した姿勢に変化した状態を示している。
この状態では、取付ピン42はロック部材61を完全に通り抜けてその下側に移動する。一方、取付ピン42の押下力から解放されたロック部材61は、コイルスプリング63の復元力により、時計方向に回動して回動規制部(突起)45に当接してそれ以上、上方に回動しないように規制された元の状態に戻る。したがって、ガイドレール21は、取付ピン23の回りで反時計方向に回動する方向の力を受けても、取付ピン42がロック部材61の下面に当接しそれ以上の回動が抑制される。つまり、レール支持部材41、したがってガイドレール21はシートSの座面に対応した傾斜姿勢に保持される。
なお、説明が前後するが、ピストンロッド51の下降位置は、その下限において、上述のように、ガイドレール21の姿勢がシートSの座面に対応した傾斜姿勢になるよう予め設定されている。
図7は、緊急時に本シートベルト装置1のシートベルト10を装着した乗員Mの状態、即ち腰ベルト10Bにより腰の回りが保持され、上半身が慣性力により肩ベルト10Aに保持されつつ前方に傾斜した状態、及びその状態で肩ベルト10Aから乗員Mに作用する荷重の成分を示した図である。なお、ガイドレール21は、図示のようにシートSの座面に対応した傾斜姿勢に保持されている。
車両が急停止する緊急時には、乗員Mに対し前方に押し出す方向の慣性力が作用するが、乗員Mの腰は腰ベルト10Bにより保持されているため、図示のように乗員Mは上半身が肩ベルト10Aに保持されつつ前方へ傾斜し、かつそれと共にバックル16の移動範囲内において腰が前方に移動することにより体全体も前方に移動する。
本バックル装置2では、乗員Mが受ける荷重は、肩ベルト10Aでは、乗員Mの後ろ側(上方)に向かう上荷重F1と、バックル16側(下方)に向かう下荷重F2の成分をもつ。バックル16に作用する荷重には、下荷重F2の反力に加え腰ベルト10Bからの荷重成分も加わり、それらの合力における、傾斜したガイドレール21の長手方向への分力の作用により、バックル16と一体に取り付けたバックル取付部材34のランナ35が、前上方に傾斜したガイドレール21のチャンネル状の溝中を摺動する。
次に、本発明の第2の実施形態に係るシートベルト装置について説明する。
図8は、第2の実施形態のシートベルト装置1Aの通常時における状態を概略的に示す図である。図9は、シートベルト装置1Aの緊急時における状態を概略的に示す図である。
本バックル装置2Aは、第1の実施形態のシートベルト装置1Aのバックル装置2と同様の構造であるが、図7に示すように、バックル案内部材20のガイドレール21が、通常時からシートSの前方への傾斜に対応させて前方に向かって上向きに傾斜した状態でシートSの側面に固定されている点で、第1の実施形態のバックル装置2とは相違している。
図8に示す通常の状態において、車両が急停止するなどの緊急事態が発生すると、図9に示すように乗員Mが前方へ移動し、バックル16は前方に移動する乗員Mに引っ張られて、前方に移動するに従って上方に移動するように、シートSの座面の傾斜に対応して傾斜させたガイドレール21に案内されて移動する。
そのバックル装置2Aのその他の構造は、第1の実施形態のものと同様であるので、同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
なお、図示を省略しているが、バックル装置1Aにおいても、第1の実施形態におけると同様のエネルギー吸収機構が備えられている。その取付構造などは、第1の実施形態におけるバックル装置と同様である。
以上、本発明の第1、第2の実施形態のシートベルト装置1、1A及びそのバックル装置2、2Aについて説明したが、これらのバックル装置2、2Aによれば、以下のような作用効果が得られる。
ガイドレール21は、バックル16が前方に移動するに従って上方に移動するように傾斜しているので、各ベルトからバックル16に作用する荷重の方向とガイドレール21の長手方向との成す角度を、ガイドレールが水平に取り付けられた従来のバックル装置に比べて小さくすることができ、したがって、各ベルトからバックル16に作用する荷重により、ランナ35に加わるガイドレール21の長手方向に対して垂直方向の分力の増大を抑制することができる。これにより、ランナ35がガイドレール21の溝内面に押し付けられる荷重の増加が抑制されるので、ランナ35が摺動する際の抵抗の増加が抑制され、バックル16をスムーズに移動させることができる。
また、シートに着座した乗員Mの移動方向とバックル及びバックル取付部材の移動方向を一致させるため、前方に移動しても乗員Mとバックル16との上下方向の位置関係が変化しない。そのため、乗員Mが従来のバックル装置のように、緊急時に前方に移動するに伴ってバックルが乗員Mに対して相対的に下方へ移動して、腰ベルトが下方に引っ張られて、それにより乗員Mがシートに押し付けられて抵抗が増加する要因となり、その結果乗員Mの移動が不十分となる、ということがなく、拘束された状態で限定された移動量の範囲内で、乗員Mが移動エネルギーを吸収されつつスムーズに前方へ移動できる。これらにより、後述する肩ベルト10Aの上方と下方がなす角度の低減を抑制し、シートベルト10を介して乗員Mに作用する荷重の上昇を抑制する効果を十分に得ることができる。
また、ガイドレール21に案内されることによる、バックル16の前方への移動に伴う前上方への移動により、乗員Mの前方への移動に伴い必要となる各ベルト長の増加を抑制することができる。これにより、シートベルト装置1、1Aのリトラクタ12が、緊急時に所定の肩ベルト10Aの荷重が所定以上になった際に、所定荷重の抵抗を与えつつシートベルト10を繰り出すエネルギー吸収機構を備えている場合において、必要とされるシートベルト10を繰り出す長さが低減でき、リトラクタ12の小型化を図ることが出来る。
また、前記従来のバックル装置においては、円形にした金属線材やU字状に屈曲させた金属板を塑性変形させて緊急時における乗員Mの移動エネルギーを吸収しているが、構造が複雑であり取付のための作業も煩雑である。これに対し、本実施形態では、管状部材同士を嵌合させただけの簡易な構成であるため、従来のものと比べて低コストであり動作が確実である。
第1の実施形態では、上述の作用効果に加え、緊急時にガイドレール21の後端部を通常(初期)位置から下降させバックル16を乗員Mに対して下方に移動させるため、各ベルトの乗員Mに対するゆるみを除去することができると共に、緊急時においてシートベルトによる乗員Mの拘束を早め、シートベルト装置1による乗員Mの拘束性能を高めることができる。また、通常時におけるバックル16の位置は乗員Mに近い位置に配置されるので、通常時にはタング3のバックル16への着脱操作が容易となる。つまり、通常時のバックル16の位置は、操作性を考慮した位置とすることができる。
また、第2の実施形態のバックル装置2Aは、第1の実施形態のバックル装置2に比べて、構造が簡単であり、全体としてコストの低廉化が図れるなどの効果がある。
ここで、肩ベルト10Aから乗員Mに作用する荷重(乗員Mに作用する慣性力をシートベルトが受けることによる反力)についてその計算例を示す。
図10A、図10Bは、バックル16がシートSの側面に直接取り付けられているバックル装置102を備えたシートベルト装置101を示す図であり、バックル案内部材20を備えていない。これにより、図10Aで示す通常時に対して、バックル16は緊急時に図10Bに示すように前方に移動せずに、シートSへの取り付け部分を中心に前方へ回転可能に取り付けられている。
図7、図10Bでは、肩ベルト10Aの上方の荷重をF1とし、肩ベルト10Aの下方の荷重をF2としており、荷重F1の作用する方向と、荷重F2の作用する方向とがなす角度(肩ベルト10Aの上方と、肩ベルト10Aの下方とがなす角度)をαとしている。
図10Bに示す、バックル案内部材20を用いずにバックル16を前方に移動しないように固定したバックル装置102と、図7、図9に示すバックル案内部材20を用いたバックル装置2、2Aとを比較すると、バックル16を固定した場合には緊急時における乗員Mの移動は腰の移動をほとんど伴わず、上半身が肩ベルト10Aに保持されつつ大きく前方へ傾斜することで、肩ベルト10Aの上方と下方とがなす角度αが小さくなっており、バックル16を移動させる場合の方が、上荷重F1と下荷重F2のなす角度αが大きくなることが分かる。
図11Aは、本実施形態に係るバックル装置2を用い、緊急時(車両の衝突時)において肩ベルト10Aに作用する荷重F1の最大値、荷重F2の最大値をCAE(computer aided engineering)解析により算出し、それらの合力(肩ベルト10Aから乗員Mに作用する最大荷重)F3を算出したときの一例を示すデータをまとめた表である。なお、CAE解析ソフトとしては、MADYMO(TASS International株式会社)を用いた。
即ち、図11Aは、緊急時を想定して、(i)バックル16を固定した場合と、(ii)51mm移動させる場合と、(iii)67mm移動させる場合とについて、それぞれ肩ベルト10Aから乗員Mに作用する最大荷重(合力F3)を求めた結果を示している。ここで、(ii)と(iii)とのバックル16の移動量の差は、乗員Mの移動エネルギーを吸収する際にエネルギー吸収部材31が発生させる、圧入部材32の移動に対する抵抗力(荷重)の違いによるものであり、(ii)に対して(iii)の抵抗力は低く設定されており、乗員Mの移動エネルギーを吸収する際の移動量が大きくなっている。図11Aからは、バックル16が移動しない(i)に対して、バックル16が移動する(ii)と(iii)の方が角度αが大きいことが分かり、(ii)と(iii)とを比較すると、バックル16の移動量の大きい(iii)の方が角度αが大きいことが分かる。また、肩ベルト10Aの下方の荷重F2の最大値は、バックル16の移動量が大きくなるにつれて小さくなることが分かる。
ここで、肩ベルト10Aの上方の荷重をF1とし、肩ベルト10Aの下方の荷重をF2としたとき、その合力F3は図11Bの関係で表され、次の式1で表される。
F3=(F1+F2−2F1×F2×cos(π−α))1/2・・・(式1)
但し、αは上方の荷重F1と下方の荷重F2のなす角度である。
即ち、(i)バックル16を固定した場合では、衝突を想定した所定の条件下におけるモデルでの解析値で肩ベルト10Aの上荷重F1の最大値は2.45kN(キロニュートン)、肩ベルト10Aの下荷重F2の最大値は2.85kNであった。また、このときの角度αは解析結果から66.4°であった。
したがってその合力F3の最大値は式(1)により4.44kNと計算される。
(ii)バックル16を51mm移動させる場合は、同様に肩ベルト10Aの上荷重F1の最大値は2.44kN、肩ベルト10Aの下荷重F2の最大値は2.37kN、角度αは68.0°であった。
したがって、その合力F3の最大値は3.99kNと算出される。
(iii)バックル16を67mm移動させる場合は、肩ベルト10Aの上荷重F1の最大値は2.44kN、肩ベルト10Aの下荷重F2の最大値は1.97kN、角度αは79.1°であった。
したがって、その合力F3の最大値は3.41kNと算出される。
以上から明らかなように、緊急時におけるバックル16の移動量が拡大するのに伴い、肩ベルト10Aの上方と下方がなす角度αは大きくなり、乗員Mに作用する荷重F3の最大値は低減されることが分かる。つまり、緊急時において、シートベルトを装着した乗員Mをスムーズに前方に移動させ、乗員Mの移動エネルギーを安定した抵抗力で吸収できるようにすることにより、肩ベルト10Aの上方と下方がなす角度αの低下を抑制し、シートベルトを介して乗員Mに作用する荷重の上昇を抑制できることが分かる。
1、1A・・・シートベルト装置、2、2A・・・バックル装置、3・・・タング、3A・・・挿通孔、10・・・シートベルト、10A・・・肩ベルト、10B・・・腰ベルト、12・・・リトラクタ、14・・・スルーアンカ、16・・・バックル、18・・・ラップアンカ、20・・・バックル案内部材、21・・・ガイドレール、30・・・エネルギー吸収機構、31・・・エネルギー吸収部材、32・・・圧入部材、34・・・バックル取付部材、40・・・ガイドレール支持機構、41・・・レール支持部材、50・・・ガイドレール駆動機構、51・・・ピストンロッド、52・・・シリンダ、53・・・ガスジェネレータ、60・・・ロック機構、61・・・ロック部材、S・・・シート。

Claims (5)

  1. 一端部が車体に取り付けられるシートベルトの腰ベルトの他端部と、一端部が車体に取り付けられるシートベルトの肩ベルトの他端部が連結されるバックルと、
    車体又は車両のシートに取り付けられると共に、緊急時に、腰ベルト及び肩ベルトを取り付けたバックルを車両前方へ案内するバックル案内部材と、
    緊急時に、乗員の慣性力により所定値以上の荷重が前記シートベルトに加わった際に、抵抗力を伴いつつ、前記バックルを車両前方へと移動させることで乗員の移動エネルギーを吸収するエネルギー吸収機構と、
    を備えたバックル装置であって、
    前記エネルギー吸収機構は、塑性変形もしくは弾性変形することにより抵抗力を生じるエネルギー吸収部材を有し、
    前記バックル案内部材は、シートの座面の傾斜に対応した前方を高く後方を低くした傾斜姿勢において前記バックルを案内するバックル装置。
  2. 請求項1に記載されたバックル装置において、
    前記バックル案内部材を、通常時の姿勢から緊急時における前方を高く後方を低くした傾斜姿勢に変化させる駆動機構を有するバックル装置。
  3. 一端部が車体に取り付けられるシートベルトの腰ベルトの他端部と、一端部が車体に取り付けられるシートベルトの肩ベルトの他端部が連結されるバックルと、
    車体又は車両のシートに取り付けられると共に、緊急時に、腰ベルト及び肩ベルトを取り付けたバックルを車両前方へ案内するバックル案内部材と、
    緊急時に、乗員の慣性力により所定値以上の荷重が前記シートベルトに加わった際に、抵抗力を伴いつつ、前記バックルを車両前方へと移動させることで乗員の移動エネルギーを吸収するエネルギー吸収機構と、
    を備えたバックル装置であって、
    前記バックル案内部材を、通常時の姿勢から緊急時における前方を高く後方を低くした傾斜姿勢に変化させる駆動機構を有し、
    前記バックル案内部材は、シートの座面の傾斜に対応した前方を高く後方を低くした傾斜姿勢において前記バックルを案内するバックル装置。
  4. 請求項2又は3に記載されたバックル装置において、
    前記駆動機構は、緊急時に前記バックル案内部材の後端部を通常時の姿勢に対して下降させるバックル装置
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載されたバックル装置を備えたシートベルト装置。
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