JP7063235B2 - シートベルト装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両のシートに着座した乗員の身体をウェビングによって拘束可能なシートベルト装置に関する。
下記特許文献1には、乗員の臀部又は下肢とシート下側にヒップベルトが設けられる構成が開示されている。特許文献1に開示された構成の1つは、ヒップベルトがラップベルトの延長とされ、ラップベルトの先端側がタングによって折り返された部分がヒップベルトとされる。このような構成の場合、ヒップベルトをラップベルト側へ移動させてヒップベルトを短くしてヒップベルトによる乗員の身体の拘束力を増加させようとすると、ラップベルトが長くなる。このため、ラップベルトによる乗員の身体の拘束力が低下する可能性がある。
一方、下記特許文献1には、ヒップベルトがラップベルトから分離された構成が開示されている。この構成では、プリテンショナが作動すると、乗員の身体における骨盤は、シート後側へ傾くようにラップベルトによってシート上側から押圧される。
このため、下記特許文献1に開示された何れの構成でも、車両の前面衝突発生時に乗員の身体がシートのシートクッションとラップベルトとの間を通ってシート前側へ移動する所謂「サブマリン現象」の発生の抑制が難しい。
特開2004-130920号公報
本発明は、上記事実を考慮して、サブマリン現象の発生を効果的に抑制できるシートベルト装置を得ることが目的である。
第1の態様のシートベルト装置は、長尺帯状とされて長手方向先端部が保持部材に係止され、車両のシートに着座した乗員の身体への装着状態では、すくなくとも一部がラップウェビングとされ、前記ラップウェビングが前記乗員の腰部近傍部分をシート上側から拘束するウェビングと、前記ウェビングの長手方向中間部に設けられ、前記ウェビングの長手方向に前記ウェビングに沿って移動可能なタングと、車両のシートのシート幅方向側方に設けられ、前記タングが装着されることによって前記タングを保持し、前記タングの保持状態で前記ウェビングにおける前記タングよりも長手方向先端側が前記ラップウェビングとなるバックルと、長手方向中央側の部分が前記シートのシートクッションの内側でシート幅方向に沿って配置されると共に、前記ラップウェビングと共にシート前後方向に開口するループを形成し、長手方向に引っ張られて移動されることによって前記ループが絞られて前記ループの周長が短くされ、前記乗員の身体をシート下側から押圧する下側拘束部材と、前記車両の前面衝突時又は前面衝突の予知時に作動され、作動されることによって前記下側拘束部材を長手方向へ引っ張り前記ループを絞ると共に、前記ラップウェビングを引っ張って前記ラップウェビングをシート前下側へ移動させる引張装置と、を備えている。
第1の態様のシートベルト装置によれば、乗員の身体へのウェビングの装着状態でウェビングの一部がラップウェビングとされる。ラップウェビングの長手方向は、シートの幅方向に沿っており、乗員の身体の腰部近傍部分は、シート上側からラップウェビングによって拘束される。
また、シートクッションの内側には、シート幅方向が長手方向となるように下側拘束部材が設けられる。この下側拘束部材は、ラップウェビングと共にシート前後方向に開口するループを形成する。したがって、シートに着座した乗員の身体にウェビングが装着された状態では、乗員の身体の一部がループの内側に配置される。
車両の前面衝突時又はこのような前面衝突の予知時には引張装置が作動される。引張装置が作動されると、下側拘束部材がその長手方向に引っ張られ、上記のループの周長が短くなるようにループが絞られる。これによって、ループを構成するラップウェビングが長くなることなく乗員の身体の腰部近傍部分がラップウェビングと下側拘束部材とによってシート上下方向側から挟まれるように拘束される。
さらに、引張装置が作動されてラップウェビングが引っ張られると、ラップウェビングは、シート前下側へ移動される。このため、乗員の身体において骨盤のシート上側で乗員の身体に装着されていたラップウェビングは、引張装置の作動によって、骨盤よりもシート前側、例えば、乗員の身体における股関節から大腿部までの間の部分に装着される。
第2の態様のシートベルト装置は、第1の態様のシートベルト装置において、前記シートのシート幅方向側方に設けられ、前記シートのシート幅方向側方でシート上側へ延ばされた前記下側拘束部材がシート下側へ折り返されて前記引張装置に繋がる折返部材を備えている。
第2の態様のシートベルト装置によれば、下側拘束部材は、シートのシート幅方向側方でシート上側へ延ばされる。このようにシート上側へ延ばされた下側拘束部材は、折返部材にてシート下側へ折り返されて引張装置へ繋げられる。このため、引張装置が作動して下側拘束部材が引っ張られると、下側拘束部材の長手方向に折返部材を挟んで引張装置とは反対側では、下側拘束部材が折返部材側、すなわち、シート上側へ向けて移動される。
第3の態様のシートベルト装置は、第2の態様のシートベルト装置において、前記折返部材は、前記下側拘束部材が掛け回され、前記下側拘束部材の長手方向側への移動によって回転されるプーリとされている。
第3の態様のシートベルト装置によれば、折返部材は、プーリとされ、プーリには下側拘束部材が掛け回される。引張装置が作動されて下側拘束部材の長手方向側へ移動されると、下側拘束部材の移動に伴いプーリが回転される。
第4の態様のシートベルト装置は、第1から第3の何れかの態様に記載のシートベルト装置において、前記引張装置は、前記シートのシート幅方向両側にそれぞれ設けられ、前記下側拘束部材は、双方の前記引張装置の作動によって長手方向両側へ引っ張られる。
第4の態様のシートベルト装置によれば、引張装置は、シートのシート幅方向両側にそれぞれ設けられる。双方の引張装置が作動されると、下側拘束部材は、その長手方向両側へ引っ張られる。このため、引張装置の個々の作動による下側拘束部材の移動量が小さくても、双方の引張装置の作動によって下側拘束部材の長手方向一方の端部に対する長手方向他方の端部の相対的な移動量を大きくできる。
第5の態様のシートベルト装置は、第1から第4の何れかの態様に記載のシートベルト装置において、前記保持部材及び前記バックルの一方が直接又は間接的に連結されると共に、前記一方よりもシート後下側で前記シートのフレーム又は前記車両の車体に設定された取付部へ連結され、前記一方をシート前上側へ移動させる荷重により変形されることによって前記一方のシート前上側への移動を許容すると共に前記荷重の一部を前記変形によって吸収する荷重吸収部材を備えている。
第5の態様のシートベルト装置によれば、保持部材及びバックルの一方は、荷重吸収部材へ直接又は間接的に連結されている。荷重吸収部材は、保持部材及びバックルの一方よりもシート後下側でシートのフレーム又は車両の車体に設定された取付部へ連結され、保持部材及びバックルの一方は、荷重吸収部材を介して取付部へ連結される。
保持部材及びバックルの一方をシート前上側へ移動させようとする荷重が荷重吸収部材へ伝わり、この荷重によって荷重吸収部材が変形されると、この荷重吸収部材の変形に伴い保持部材及びバックルの一方は、シート前上側へ移動される。さらに、荷重吸収部材へ伝わった荷重の一部が荷重吸収部材の変形に供されて吸収される。このため、上記の荷重が、前面衝突時にシート前側へ慣性移動しようとする乗員の身体からウェビングに伝わった引張荷重の場合には、引張荷重の反力として乗員の身体がウェビングから受ける荷重の一部を荷重吸収部材の変形で吸収でき、荷重吸収部材の変形量に応じたストロークだけ乗員の身体は、シート前側へ移動できる。
第6の態様のシートベルト装置は、第5の態様のシートベルト装置において、長手方向がシート前後方向に対してシート上下方向へ傾いた側とされると共に、長手方向一方の端部が前記取付部へ連結された棒状部材と、前記棒状部材の長手方向に対して直交する方向に前記棒状部材よりも大きくされ、前記棒状部材の長手方向他方の端部に設けられた荷重付与部と、を備え、前記荷重吸収部材は、前記保持部材及び前記バックルの一方が直接又は間接的に連結されて前記荷重によって前記一方に伴われて移動され、前記一方に伴われての移動方向とは反対方向側で開口されると共に、開口形状が前記荷重付与部よりも小さな筒状とされ、前記棒状部材が内側に配置されると共に、前記荷重付与部が前記一方に伴われての移動方向側の外側に前記荷重吸収部材が配置される。
第6の態様のシートベルト装置によれば、棒状部材の長手方向一方の端部は、シートのフレーム又は車両の車体に設定された取付部へ連結され、更に、棒状部材は、筒状とされた荷重吸収部材の内側に配置される。棒状部材の長手方向他方の端部には、荷重付与部が配置される。荷重吸収部材には、保持部材及びバックルの一方が直接又は間接的に連結されており、保持部材及びバックルの一方が荷重を受けて移動されると、この一方に伴われて荷重吸収部材が移動される。
ここで、荷重付与部は、荷重吸収部材の開口形状よりも大きくされる。このため、上記の荷重によって荷重吸収部材が保持部材及びバックルの一方に伴われて移動されると、荷重吸収部材が荷重付与部によって変形される。この荷重吸収部材の変形によって荷重の一部が吸収される。
第7の態様のシートベルト装置は、第1から第6の何れかの態様のシートベルト装置において、前記タングは、前記ウェビングの前記タングよりも前記ウェビングの長手方向先端側への前記タングに対する相対移動を制限可能とされている。
第7の態様のシートベルト装置によれば、タングは、ウェビングのタングよりもウェビングの長手方向先端側へのタングに対する相対移動を制限できる。このため、車両の前面衝突時に乗員の身体がシート前側へ慣性移動しようとして、ラップウェビングが乗員の身体に引っ張られた際に、ウェビングがタングによってタングに対する相対移動が制限されると、ラップウェビングが長くなることを抑制できる。
以上、説明したように、第1の態様のシートベルト装置では、ループを構成するラップウェビングが長くなることなく乗員の身体の腰部近傍部分がラップウェビングと下側拘束部材とによってシート上下方向側から挟まれるように拘束される。しかも、ラップウェビングは、引張装置の作動によって、骨盤よりもシート前側の乗員の身体における股関節から大腿部までの間の部分へ移動されるため、乗員の骨盤がラップウェビングによってシート後側へ傾くように押圧されることが抑制される。これによって、乗員の身体がラップウェビングとシートクッションとの間を通ってシート前側へ移動する所謂「サブマリン現象」の発生を抑制できる。
第2の態様のシートベルト装置では、引張装置が作動されると、下側拘束部材の長手方向に折返部材を挟んで引張装置とは反対側では下側拘束部材が折返部材へ向けて上昇される。このため、下側移動部材においてシートクッションの内側に配置された部分をシート上側へ容易に上昇させることができ、ラップウェビングとでシート上下方向側から挟むように乗員の身体を拘束できる。
第3の態様のシートベルト装置では、引張装置が作動されて下側拘束部材の長手方向側へ移動されると、下側拘束部材の移動に伴い折返部材としてのプーリが回転されるため、下側拘束部材を円滑に移動させることができる。
第4の態様のシートベルト装置では、双方の引張装置の作動によって下側拘束部材の長手方向一方の端部に対する長手方向他方の端部の相対的な移動量を大きくできる。このため、引張装置の個々の作動による下側拘束部材の移動量を小さくでき、引張装置の小型化が可能になる。
第5の態様のシートベルト装置では、車両の前面衝突時にウェビングから乗員の身体へ伝わる荷重を変形によって軽減する荷重吸収部材が保持部材及びバックルの一方をシートのフレーム又は車両の車体に設定された取付部へ連結するための構成を兼ねるため、部品点数の増加を抑制できる。
第6の態様のシートベルト装置では、棒状部材の長手方向は、シート前後方向に対してシート上下方向へ傾いた側とされ、荷重吸収部材は、このような棒状部材が内側に入る筒状とされる。このため、棒状部材及び荷重吸収部材をシート幅方向にコンパクトにでき、シートのシート幅方向側方という狭いスペースへの搭載を有利にできる。
第7の態様のシートベルト装置では、ラップウェビングが乗員の身体に引っ張られた際に、ラップウェビングが長くなることを抑制できるため、車両の前面衝突時にシート前側へ慣性移動しようとする乗員の身体をラップウェビングによって効果的に拘束できる。
本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置が適用されたシートの正面図である。 本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置が適用されたシートのシート右側からの側面図で、実線は、乗員の身体へのウェビング装着状態を示し、点線は、右側プリテンショナが作動した状態を示し、一点鎖線は、乗員の身体がシート前側へ慣性移動した状態を示す。 本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置が適用されたシートのシート左側からの側面図で、実線は、乗員の身体へのウェビング装着状態を示し、点線は、左側プリテンショナが作動した状態を示し、一点鎖線は、乗員の身体がシート前側へ慣性移動した状態を示す。 右側フォースリミッタをシート右側から見た一部を断面で示す拡大側面図で、(A)は、右側フォースリミッタの作動前の状態を示し、(B)は、右側フォースリミッタが作動した状態を示す。 左側フォースリミッタをシート左側から見た一部を断面で示す拡大側面図で、(A)は、左側フォースリミッタの作動前の状態を示し、(B)は、左側フォースリミッタが作動した状態を示す。 (A)は、図4(A)、図5(A)の6A-6A線に沿って切った断面図で、(B)は、図4(A)、図5(A)の6B-6B線に沿って切った断面図で、括弧内の符号は、左側フォースリミッタの構成の場合を示している。
次に、本発明の実施の形態を図1から図5の各図に基づいて説明する。なお、各図において矢印FRは、本実施の形態に係るシートベルト装置10が適用されたシート14の前側(シート前側)を示す。また、矢印RHは、シート右側(シート幅方向右側)を示し、矢印UPは、シート上側を示す。また、本実施の形態では、シート14は、車両の車幅方向中央よりも車幅方向右側に配置されたものとして説明する。したがって、シート右側は、車両を基準に見ると車幅方向外側になり、シート左側は、車両を基準に見ると車幅方向内側になる。このため、シート14が車両の車幅方向中央よりも車幅方向左側に配置された構成でれば、上記の車幅方向外側と車幅方向内側とが反対になる。
<本実施の形態の構成>
図1から図3に示されるように、本実施の形態に係るシートベルト装置10は、ウェビング16を備えている。ウェビング16は、長尺帯状とされており、可撓性を有している。ウェビング16の長手方向基端部は、リトラクタのスプール(何れも図示省略)に係止されており、ウェビング16の長手方向基端側は、リトラクタのスプールの外周部に巻取られている。また、リトラクタは、ショルダプリテンショナ(図示省略)を備えている。ショルダプリテンショナは、車両が車両前方の障害物等に衝突した際(車両前面衝突の発生時)に作動される。ショルダプリテンショナが作動されると、リトラクタのスプールがウェビング16を巻取る巻取方向へ強制的に回転される。これによって、車両前面衝突の発生時にウェビング16がリトラクタのスプールに巻き取られる。
リトラクタは、例えば、車両のセンターピラー(図示省略)の車両下側端部近傍に配置されており、ウェビング16は、リトラクタのスプールからセンターピラーに沿って車両上側へ引出される。センターピラーの車両上側端部近傍には、スルーアンカ(図示省略)が設けられており、ウェビング16は、スルーアンカに形成されたスリット孔を通って車両下側へ折り返されている。図2に示されるように、ウェビング16の長手方向先端部は、シート14のシート右側に設けられた保持部材18に固定されている。
また、図2に示されるように、シート14のシート右側には、荷重吸収装置としての右側フォースリミッタ20Rが設けられている。右側フォースリミッタ20Rは、棒状部材としてのアンカロッド22Rを備えている。図4(A)に示されるように、アンカロッド22Rは、アンカ部24Rを備えている。アンカ部24Rにはシート幅方向に貫通した孔部26Rが形成されている。図6(A)に示されるように、孔部26Rには、段付きボルト28Rの段部30Rが貫通配置されている。孔部26Rを通った段付きボルト28Rの軸方向先端側は、シート14を構成するシートフレームのシート右後側端部に設定された右側取付部32Rを貫通しており、右側取付部32Rを挟んでアンカ部24Rとは反対側からナット31Rによって締結されている。
このようにアンカ部24Rが右側取付部32Rへ連結されることによって、アンカロッド22Rは、孔部26Rの中央近傍を中心にシート幅方向を軸方向とする軸周り方向へ回動可能とされている。また、段付きボルト28Rにおける段部30Rの外径寸法は、孔部26Rの内径寸法よりも小さくされており、段部30Rの軸方向寸法は、孔部26Rにおけるアンカ部24Rのシート幅方向寸法よりも長くされている。また、段付きボルト28Rの頭部とアンカ部24Rとの間には、ウェーブワッシャ33Rが介在しており、アンカ部24R、ひいては、右側フォースリミッタ20Rは、ウェーブワッシャ33Rを弾性変形させることによってアンカ部24Rとは反対側へ移動できる。これによって、アンカロッド22は、概ね、孔部26Rを中心としてシート幅方向へ揺動可能とされている。なお、本実施の形態では、ウェーブワッシャ33Rを用いたが、ウェーブワッシャ33Rに代えてコーンワッシャを用いてもよい。
さらに、図4(A)に示されるように、アンカロッド22Rは、ロッド部34Rを備えている。ロッド部34Rは、例えば、長手方向に対して直交する方向に切った断面形状が円形の棒状とされており、ロッド部34Rの長手方向一端(シート下側端)は、アンカ部24Rへ一体に繋がっている。
また、右側フォースリミッタ20Rは、荷重吸収部材36Rを備えている。荷重吸収部材36Rは、長手方向に貫通した円筒状とされており。荷重吸収部材36Rの長手方向一端(シート下側端)からアンカロッド22Rのロッド部34Rが挿入されている。ロッド部34Rの長手方向先端部(アンカ部24Rとは反対側の端部で、シート上側端部)は、荷重吸収部材36Rの長手方向他端(シート上側端)から突出されている。さらに、ロッド部34Rの長手方向先端には荷重付与部としてのボール部38Rが形成されている。
ボール部38Rの外径寸法は、荷重吸収部材36Rの内径寸法よりも大きい。このため、荷重吸収部材36Rの長手方向他端がボール部38Rの外周部へ当接することによって、ロッド部34Rの長手方向先端側への荷重吸収部材36Rの移動が制限される。但し、荷重吸収部材36Rがロッド部34Rの長手方向先端側へ移動しようとして荷重吸収部材36Rの長手方向他端(シート上側端)がボール部38Rの外周部へ当接した際に、荷重吸収部材36Rは、ボール部38Rから反力を受ける。この反力によって荷重吸収部材36Rの内周部が拡大されるように変形されると、荷重吸収部材36Rは、ロッド部34Rの長手方向先端側へ更に移動できる。
さらに、図6(B)に示されるように、荷重吸収部材36Rには、ステー40Rが設けられている。ステー40Rは、板状とされており、ステー40Rにおいて荷重吸収部材36Rの径方向に荷重吸収部材36Rと対向する部分は、荷重吸収部材36Rの外周部に巻かれるようにカーリングされて荷重吸収部材36Rへ溶接等によって固定されている。さらに、ステー40Rには、上述した保持部材18が連結されている。すなわち、ウェビング16の長手方向先端部は、保持部材18、ステー40R、荷重吸収部材36R、アンカロッド22Rを介して上記の右側取付部32Rへ連結されている。これによって、例えば、ウェビング16を長手方向基端側へ引っ張る引張荷重は、保持部材18から上記の右側取付部32Rへ伝わる。
図1及び図3に示されるように、ウェビング16において保持部材18と上述したスルーアンカとの間の部分にはタング42が設けられている。タング42には、スリット孔が形成されており、ウェビング16は、タング42のスリット孔を通っている。このため、ウェビング16は、タング42に対してウェビング16の長手方向に相対移動可能とされている。また、タング42の構成は、所謂「ロッキングタング」とされている。すなわち、タング42は、それ自体公知のロック部材(図示省略)を備えている。ロック部材は、例えば、タング42のうちウェビング16を挟んで対向する対向部分に対して接離移動可能にタング42に設けられている。ロック部材が、タング42の対向部分へ接近すると、ウェビング16は、ロック部材とタング42の対向部分とに挟まれて、ウェビング16の長手方向基端側から長手方向先端側へのウェビング16のタング42に対する相対移動が制限される。

このタング42に対応してシート14のシート左側には、バックル44が設けられており、タング42がバックル44に挿入されると、タング42がバックル44に保持される。シート14に着座した乗員46の身体にウェビング16が掛け回された状態で、タング42がバックル44に保持されると、乗員46の身体に対するウェビング16の装着状態(以下、この状態を「ウェビング装着状態」と称する)になる。
ウェビング装着状態で、ウェビング16において保持部材18とタング42との間は、ラップウェビング16Aとされる。ラップウェビング16Aは、乗員46の身体の腰部近傍(一例としては、乗員46の骨盤46A付近)をシート前上側から拘束する。これに対して、ウェビング装着状態で、ウェビング16において保持部材18とタング42と上述したスルーアンカとの間は、ショルダウェビング16Bとされる。ショルダウェビング16Bは、乗員46の右肩部から胸部を介して腰部のシート左側部分をシート前側から拘束する。
一方、シート14のシート左側には、荷重吸収装置としての左側フォースリミッタ20Lが設けられている。左側フォースリミッタ20Lの構成は、基本的に上述した右側フォースリミッタ20Rと同じである。このため、図1、図3、図5、図6において右側フォースリミッタ20Rと同じ構成の符号の末尾の「R」を「L」に置き換えることで左側フォースリミッタ20Lの構成の詳細な説明を省略する(図6では、括弧内の符号が左側フォースリミッタ20Lの構成の符号になる)。
但し、左側フォースリミッタ20Lの棒状部材としてのアンカロッド22Lのアンカ部24Lは、シート14を構成するシートフレームのシート左後側端部に設定された左側取付部32Lへ連結されている点で、右側フォースリミッタ20Rのアンカロッド22Rとは構成が異なる。また、左側フォースリミッタ20Lのステー40Lには、保持部材18ではなく、バックル44が連結されている点で、右側フォースリミッタ20Rのステー40Rとは構成が異なる。
このように、バックル44は、ステー40Lへ連結されることによって、荷重吸収部材36L、アンカロッド22Lを介してシート14を構成するシートフレームに設定された左側取付部32Lへ連結されている。これによって、例えば、ウェビング16を長手方向先端側へ引っ張る引張荷重は、保持部材18から上記の左側取付部32Lへ伝わる。
一方、図1から図3に示されるように、本シートベルト装置10は、下側拘束部材50を備えている。下側拘束部材50は、筒状部材52を備えている。筒状部材52は、長手方向に貫通した円筒状に形成されており、可撓性を有している。筒状部材52は、シートクッション54の内側に設けられており、例えば、概ね、ウェビング装着状態でのラップウェビング16Aのシート下側に配置される。
本実施の形態では、シートクッション54は、シート上下方向に分割されたクッション材を備えている。この上側のクッション材と下側のクッション材との間には、一対のシート(sheet)部材56が設けられている。シート部材56は、フェルトや布等によって薄肉のシート(sheet)状とされており、可撓性を有している。これらのシート部材56は、概ね、シート上下方向に重なっており、筒状部材52は、シート上側のシート部材56とシート下側のシート部材56との間に配置されている。筒状部材52の長手方向両端は、シート14のシート幅方向両端側で、上記の保持部材18及びバックル44よりもシート下側に配置されている。さらに、筒状部材52の長手方向中央側の部分は、筒状部材52の長手方向両端側の部分よりもシート下側へ撓んでいる。
筒状部材52の内側には、長尺部材60が通っている。長尺部材60は、可撓性を有する長尺の紐状又は帯状とされている。図2に示されるように、長尺部材60の長手方向一方の側は、筒状部材52のシート右側の端部から筒状部材52の外側へ延び、更に、シート14の外側へ延びている。長尺部材60の長手方向一方の側の部分に対応して、保持部材18には折返部材としての右側プーリ62Rが設けられている。右側プーリ62Rは、概ね、シート幅方向を軸方向とする軸周り方向へ回転自在に保持部材18に支持されている。長尺部材60は、シート下側から右側プーリ62Rへ掛け回されてシート下側へ折り返されている。
また、シートクッション54のシート右前側におけるシート下側には、引張装置としての右側プリテンショナ66Rが設けられている。右側プリテンショナ66Rは、シリンダ68Rを備えている。シリンダ68Rの長手方向は、概ね、シート前後方向とされている。シリンダ68Rのシート前側にはガイド部70Rが設けられている。ガイド部70Rは、シリンダ68Rよりもシート前下側の所定位置を曲率中心としてシート幅方向を軸方向とする軸周りに湾曲されている。長尺部材60における右側プーリ62Rよりも長手方向一方の側の部分は、右側プーリ62Rからシート前下側へ延び、ガイド部70Rへ掛け回されている。
長尺部材60におけるガイド部70Rよりも長手方向一方の側の部分は、ガイド部70Rからシート後側へ延び、シリンダ68Rのシート前側端からシリンダ68Rの内側へ入っている。シリンダ68Rの内側にはピストン(図示省略)が収容されており、長尺部材60の長手方向一方の端部は、ピストンに係止されている。また、シリンダ68Rには、マイクロガスジェネレータ等のガス供給装置(図示省略)が設けられている。
ガス供給装置は、車両前面衝突の発生時に作動される。ガス供給装置が作動されると、ガス供給装置からシリンダ68Rの内部へガスが供給され、このガスの圧力よってシリンダ68R内のピストンがシート後側へ移動される。このピストンのシート後側への移動によって長尺部材60の長手方向一方の端部がシート後側へ移動され、長尺部材60が長手方向一方の側へ引っ張られる。
これに対して、図3に示されるように、長尺部材60の長手方向他方の側は、筒状部材52のシート左側の端部から筒状部材52の外側へ延び、更に、シート14の外側へ延びている。長尺部材60の長手方向一方の側の部分に対応して、バックル44には折返部材としての左側プーリ62Lが設けられている。左側プーリ62Lは、概ね、シート幅方向を軸方向とする軸周り方向へ回転自在にバックル44に支持されている。長尺部材60は、シート下側から左側プーリ62Lへ掛け回されてシート下側へ折り返されている。
また、シートクッション54のシート左前側におけるシート下側には、引張装置としての左側プリテンショナ66Lが設けられている。左側プリテンショナ66Lの構成は、基本的に上述した右側プリテンショナ66Rと同じである。このため、図1、図3等において右側プリテンショナ66Rと同じ構成の符号の末尾の「R」を「L」に置き換えることで左側プリテンショナ66Lの構成の詳細な説明を省略する。
但し、左側プリテンショナ66Lのガイド部70Lには、長尺部材60における左側プーリ62Lよりも長手方向他方の側の部分が掛け回されている点で右側プリテンショナ66Rのガイド部70Rとは構成が異なる。また、左側プリテンショナ66Lのシリンダ68L内のピストンには長尺部材60の長手方向他方の端部が係止されている点で右側プリテンショナ66Rのシリンダ68R内のピストンとは構成が異なる。このため、シリンダ68L内のピストンがシート後側へ移動すると、長尺部材60の長手方向他方の端部がシート後側へ移動されて長尺部材60が長手方向他方の側へ引っ張られる。
このように、長尺部材60の筒状部材52よりもシート右側では、長尺部材60が保持部材18に設けられた右側プーリ62Rに掛け回され、長尺部材60の筒状部材52よりもシート左側では、長尺部材60がバックル44に設けられた左側プーリ62Lに掛け回されている。このため、長尺部材60の右側プーリ62Rと左側プーリ62Lとの間の部分とウェビング16のラップウェビング16Aとによって概ねシート前後方向貫通した擬似的なループ72が形成される。
<本実施の形態の作用、効果>
以上の構成の本実施の形態では、シート14に着座した乗員46の身体にウェビング16が掛け回され、この状態でタング42がバックル44に挿入されてタング42がバックル44に保持されると、ウェビング装着状態になり、乗員46の腰部近傍は、シート前上側からラップウェビング16Aによって拘束される。また、この状態では、乗員46の腰部近傍は、下側拘束部材50の長尺部材60における右側プーリ62Rと左側プーリ62Lとの間の部分と、ラップウェビング16Aとで構成される擬似的なループ72の内側を通っている(貫通配置されている)。
この状態で、車両前面衝突が発生すると、リトラクタのショルダプリテンショナが作動され、リトラクタのスプールが強制的に巻取方向へ回転される。このスプールの巻取方向への回転によってウェビング16が長手方向基端側からスプールの外周部へ巻取られる。このように、ウェビング16がスプールに巻取られることで、ウェビング16の長手方向先端部(保持部材18側の端部)と、スプールとの間のウェビング16の長さが短くなり、ウェビング16の長手方向の張力が増加する。これによって、ウェビング装着状態でのウェビング16の弛み等が除去され、乗員46の身体は、ウェビング16によって強く拘束される。
また、車両前面衝突が発生すると、シート幅方向両側のプリテンショナ66L、66Rの各々のガス供給装置が作動される。これによって、シート幅方向両側のプリテンショナ66L、66Rのシリンダ68L、68Rの内側にガスが供給されると、ガス圧によってシリンダ68L、68R内の両ピストンがシート後側へ移動される。これによって、シリンダ68L、68R内の両ピストンと共に長尺部材60の長手方向両端部の各々がシート後側へ移動される。
長尺部材60の長手方向両端部がシート後側へ移動されると、図2において点線で示されるように、長尺部材60において保持部材18の右側プーリ62Rに掛け回された部分よりも長手方向一端側(右側プーリ62Rを介して右側プリテンショナ66Rとは反対側)では、右側プーリ62Rへ向けてシート上側へ移動される。これに対して、図3において点線で示されるように、長尺部材60の長手方向両端部がシート後側へ移動されると、長尺部材60においてバックル44の左側プーリ62Lに掛け回された部分よりも長手方向他端側(左側プーリ62Lを介して左側プリテンショナ66Lとは反対側)では、左側プーリ62Lへ向けてシート上側へ移動される。このように、シートクッション54を挟んだシート幅方向両側で長尺部材60がシート上側へ移動されることで、シートクッション54内での長尺部材60の長さが短くなり、長尺部材60の長手方向中央側は、筒状部材52を伴ってシートクッション54の内部でシート上側へ上昇される。
但し、筒状部材52が長尺部材60と共に上昇する際には、筒状部材52がシートクッション54内のクッション材をシート下側から押圧して変形(弾性変形)させることになる。したがって、上昇しようとする筒状部材52には、シートクッション54のクッション材から抵抗を受ける。このため、長尺部材60において左右の両プーリ62L、62Rよりも長手方向中央側部分が両プーリ62L、62Rへ向けて移動する速度は、シート幅方向両側のプリテンショナ66L、66Rの作動による長尺部材60の長手方向両端部のシート後側への移動速度よりも遅くなる。
このようにして長尺部材60の長手方向両端部のシート後側への移動量と、長尺部材60において左右の両プーリ62L、62Rよりも長手方向中央側部分の両プーリ62L、62R側への移動量とで差が生じると、左右の両プーリ62L、62Rが長尺部材60によってシート下側へ引っ張られる。図2において点線で示されるように、右側プーリ62Rは、保持部材18に支持されており、保持部材18、ステー40R、荷重吸収部材36Rを介してアンカロッド22Rへ連結されている。このため、右側プーリ62Rが長尺部材60によってシート下側へ引っ張られると、右側プーリ62Rは、保持部材18を伴ってアンカロッド22Rのアンカ部24Rを中心にシート前下側へ回動される。このように、保持部材18がシート前下側へ回動されることによってウェビング16の長手方向先端部(ラップウェビング16Aのシート右側端部)が保持部材18と共にシート前下側へ回動される。
一方、左側プーリ62Lは、バックル44に支持されており、バックル44、ステー40L、荷重吸収部材36Lを介してアンカロッド22Lへ連結されている。このため、図3において点線で示されるように、左側プーリ62Lが長尺部材60によってシート下側へ引っ張られると、左側プーリ62Lは、バックル44を伴ってアンカロッド22Lのアンカ部24Lを中心にシート前下側へ回動される。バックル44がシート前下側へ回動されることによってバックル44に保持されたタング42がシート前下側へ回動される。
このように、タング42がシート前下側へ回動されると、タング42のスリット孔の内周部によってウェビング16が引っ張られるため、ラップウェビング16Aの張力が増加する。このようなラップウェビング16Aの張力の増加によってウェビング16のショルダウェビング16Bは、タング42のスリット孔を通ってラップウェビング16A側へ移動しようとする。ここで、このように、ウェビング16がタング42のスリット孔を通ってウェビング16の長手方向先端側(保持部材18側)へ移動しようとすると、タング42に設けられたロック部材が移動する。
タング42のロック部材が移動されると、タング42においてウェビング16を挟んでロック部材と対向する対向部分と、ロック部材とによりウェビング16挟まれる。これによって、ショルダウェビング16Bがタング42のスリット孔を通ってラップウェビング16A側へ移動することを抑制でき、ショルダウェビング16Bがタング42のスリット孔を通ってラップウェビング16A側へ移動することでラップウェビング16Aの長手方向長さが長くなることを抑制できる。
このように、長手方向長さが長くなることを抑制されたラップウェビング16Aの長手方向両端部がシート前下側へ回動されることによって、ラップウェビング16Aは、乗員46の身体における大腿部から股関節までの範囲の近傍部分へ移動される。このようにラップウェビング16Aが移動することによって、乗員46の身体における大腿部から股関節までの範囲の近傍部分は、ラップウェビング16Aによってシート前下側へ押圧される。
この状態では、保持部材18は、ラップウェビング16Aによってシート左側へ引っ張られ、バックル44は、ラップウェビング16Aによってタング42を介してシート右側へ引っ張られる。これによって、シート幅方向両側のフォースリミッタ20L、20Rは、アンカロッド22L、22Rのアンカ部24L、24Rとシート幅方向両側の取付部32L、32Rとの連結部分を概ね中心にしてシート幅方向中央側へ揺動される。
また、上記のようにプリテンショナ66L、66Rが作動されて、長尺部材60の長手方向両端部が移動されると、長尺部材60の左右のプーリ62L、62Rの間の部分とラップウェビング16Aとによって構成されるループ72がループ72の開口径方向中央側へ向けて絞られ、ループ72の周長が短くなる。これによって、長尺部材60の長手方向中央側は、筒状部材52を伴ってシートクッション54の内部でシート上側へ上昇される。これによって、シートクッション54のクッション部材が筒状部材52によってシート上側へ押圧され、乗員46の大腿部から股関節までの範囲の近傍部分が、筒状部材52によってシートクッション54を介してシート上側へ押圧される。
すなわち、乗員46の大腿部から股関節までの範囲の近傍部分は、周長が短くされて絞られたループ72(図1の二点鎖線状態を参照)によってシート上下方向両側から挟まれて拘束される。これによって、車両前面衝突時に、乗員46の身体がシート前側へ慣性移動することを抑制でき、特に、シートバック82のシート後側への傾きが大きなリクライニング状態で車両前面衝突が発生した際に、乗員46の身体がシートクッション54のシート上側面とラップウェビング16Aとの間を通ってシート前側へ慣性移動する所謂「サブマリン現象」の発生を抑制できる。
また、本実施の形態では、シート幅方向両側のプリテンショナ66L、66Rが作動されると、ループ72が絞られてループ72の周長が短くなる。すなわち、本実施の形態では、左右の両プーリ62L、62Rの間で長尺部材60の長さが短くなっても、ウェビング16のラップウェビング16Aショルダウェビング16Bが長くなることはない。このため、左右の両プーリ62L、62Rの間で長尺部材60の長さが短くされた場合のウェビング16による乗員46の身体の拘束性能の低下を抑制できる。
さらに、本実施の形態では、長尺部材60は、シート幅方向両側のプーリ62L、62Rに掛け回されており、シート幅方向両側のプリテンショナ66L、66Rが作動されると、長尺部材60におけるシート幅方向両側のプーリ62L、62Rの間の部分は、シート幅方向両側のプーリ62L、62R側へ向けて上昇される。このため、上記のループ72が絞られてループ72の周長が短くされる際にループ72における長尺部材60側の部分を上昇さることができ、乗員46の大腿部から股関節までの範囲の近傍部分をシート上下両側から挟んで拘束できる。
しかも、長尺部材60がシート幅方向両側のプーリ62L、62Rに掛け回されていることで、長尺部材60がシート幅方向両側のプーリ62L、62Rを通る際にシート幅方向両側のプーリ62L、62Rが長尺部材60の移動方向側へ回転される。これによって、長尺部材60を円滑に移動させることができ、ループ72を円滑に絞ることができる。
さらに、例えば、ウェビング装着状態でラップウェビング16Aが乗員46の腹部に装着されることがある。ここで、本実施の形態では、上記のように、シート幅方向両側のプリテンショナ66L、66Rの作動によって、ラップウェビング16Aがシート前下側へ移動される。これによって、乗員46の腹部に装着されたラップウェビング16Aを乗員46の大腿部から股関節までの範囲へ移動させることができる。車両前面衝突時に乗員46の腹部がラップウェビング16Aから押圧されることを抑制できる。
また、上記のように、シート幅方向両側のプリテンショナ66L、66Rの作動によって、ラップウェビング16Aがシート前下側へ移動され、乗員46の大腿部から股関節までの範囲の近傍部分をシート前下側へ押圧する。このため、乗員46の骨盤がラップウェビング16Aによってシート下側へ押圧され骨盤をシート後側へ傾けることを抑制できる。このように、ラップウェビング16Aから押圧で骨盤がシート後側へ傾くことを抑制できるため、乗員46の上半身が骨盤と共にシート後側へ傾くことを抑制でき、上記の「サブマリン現象」の発生を更に効果的に抑制できる。
さらに、車両前面衝突時には、乗員46の上半身がシート前側へ回動して乗員46の身体が前屈しようとする。ここで、本実施の形態では、乗員46の大腿部から股関節までの範囲の近傍部分がループ72によって拘束される。このため、乗員46の上半身の回動支点を乗員46の股関節にできる。人の上半身が前屈する場合、人体の構造的には、股関節を中心とする前屈が自然である。したがって、本実施の形態では、車両前面衝突時には、乗員46の上半身を無理なく前屈させることができる。
また、車両前面衝突時には、乗員46の身体は、シート前側へ慣性移動しようとし、ウェビング16が乗員46の身体によって引っ張られる。このように乗員46の身体からウェビング16に付与された引張力は、シート14のシート右側では保持部材18をシート前側へ移動させるように作用する。さらに、保持部材18に伝わった引張力は、右側フォースリミッタ20Rのステー40Rを介して荷重吸収部材36Lをアンカロッド22Rのロッド部34Rの長手方向先端側へ移動させるように作用する。
これに対して、乗員46の身体からウェビング16に付与された引張力は、シート14のシート左側ではタング42を介してバックル44をシート前側へ移動させるように作用する。さらに、バックル44に伝わった引張力は、左側フォースリミッタ20Lのステー40Lを介して荷重吸収部材36Lをアンカロッド22Lの荷重付与部としてのロッド部34Lの長手方向先端側へ移動させるように作用する。
ところで、図5(A)に示されるように、シート左側の荷重吸収部材36Lは、ボール部38Lによってロッド部34Lの長手方向先端側への移動が制限されている。しかしながら、ロッド部34Lの長手方向先端側へ移動しようとする荷重吸収部材36Lがボール部38Lの外周面から受ける反力が第1の所定の大きさを越えると、図5(B)に示されるように、荷重吸収部材36Lは、ボール部38Lによって内径寸法が拡大されるように塑性変形される。図4(A)、図4(B)に示されるように、シート右側の荷重吸収部材36Rに関しても同様であり、荷重吸収部材36Rがボール部38Rの外周面から受ける反力が第2の所定の大きさを越えると、荷重吸収部材36Rは、ボール部38Rによって内径寸法が拡大されるように塑性変形される。
このため、ラップウェビング16Aが乗員46の身体から受けた引張力に基づいたボール部38L、38Rから荷重吸収部材36L、36Rが受ける反力の和が、上記の第1の所定の大きさと第2の所定の大きさとの和を越えると、荷重吸収部材36L、36Rは、ボール部38L、38Rによって変形されながらロッド部34L、34Rの長手方向先端側へ移動される。この荷重吸収部材36L、36Rの移動によってバックル44及び保持部材18がシート前側へ移動され、乗員46の身体がラップウェビング16Aを伴ってシート前側へ移動される。
乗員46の身体からラップウェビング16Aに付与された引張力の一部は、ボール部38L、38Rによる荷重吸収部材36L、36Rの変形に供されて吸収され、乗員46の身体は、荷重吸収部材36L、36Rのロッド部34L、34Rの長手方向先端側への移動量分だけシート前側へ移動できる。これによって、乗員46の身体がシート前側へ慣性移動しようとしてラップウェビング16Aを引っ張った際に、乗員46の身体がラップウェビング16Aから受ける反力を軽減できる。
また、シート幅方向両側のフォースリミッタ20L、20Rの各々は、ステー40L、40R、荷重吸収部材36L、36R、アンカロッド22L、22Rによって構成される。荷重吸収部材36L、36R、アンカロッド22L、22Rは、円筒形状又は棒状とされ、車幅方向の寸法が短い。このため、シート幅方向両側のフォースリミッタ20L、20Rをシート幅方向にコンパクトにでき、シート14のシート幅方向側方という狭いスペースへの搭載を有利にできる。
さらに、本実施の形態では、シート幅方向両側のフォースリミッタ20L、20Rの各々は、保持部材18又はバックル44をシート14を構成するシートフレーム又は車両の強度部材等に設定された左側又は右側の取付部へ連結するための構成を兼ねている。このため、部品点数の増加を抑制できる。
また、本実施の形態では、筒状部材52は、シートクッション54においてシート上下方向に分割されたクッション材の間に設けられる。このため、乗員46がシート14に着座した際に、乗員46の臀部や大腿部は、筒状部材52の存在を感じにくい。このため、筒状部材52、長尺部材60等を設けることによるシート14の座り心地の悪化等を抑制できる。
さらに、本実施の形態では、右側プリテンショナ66Rが作動されることによって長尺部材60の長手方向一方の端部がシート後側へ移動され、左側プリテンショナ66Lが作動されることによって長尺部材60の長手方向他方の端部がシート後側へ移動される。このため、右側プリテンショナ66Rの作動による長尺部材60の長手方向一方の端部の移動量及び左側プリテンショナ66Lの作動による長尺部材60の長手方向他方の端部の移動量の各々が小さくても、長尺部材60の全体的な長手方向両側への移動量を大きくできる。これによって、シート幅方向両側のプリテンショナ66L、66Rの小型化が可能になる。
なお、本実施の形態では、長尺部材60においてシートクッション54の内側に配置された部分は、筒状部材52を通る構成であった。しかしながら、筒状部材52を設けない構成であってもよい。
また、本実施の形態では、長尺部材60の長手方向一方の端部は、右側プリテンショナ66Rのピストンに係止され、長尺部材60の長手方向他方の端部は、左側プリテンショナ66Rのピストンに係止された構成であった。しかしながら、例えば、長尺部材60を右側プリテンショナ66Rのピストンに係止されるシート右側部分と左側プリテンショナ66Lのピストンに係止されるシート左側部分に分割し、長尺部材60のシート右側部分を筒状部材52のシート右側の端部に連結して、長尺部材60のシート左側部分を筒状部材52のシート左側の端部に連結する構成にしてもよい。
また、本実施の形態は、右側プリテンショナ66Rの作動によって長尺部材60の長手方向一方の端部がシート後側へ移動され、左側プリテンショナ66Lの作動によって長尺部材60の長手方向他方の端部がシート後側へ移動される構成であった。しかしながら、例えば、1つのプリテンショナのシリンダ内に設けられた1つのピストンに長尺部材60の長手方向両端部を係止し、ピストンが移動することによって長尺部材60の長手方向両端部が移動する構成にしてもよい。
さらに、本実施の形態では、荷重吸収部材36L、36Rは、アンカロッド22L、22Rのロッド部34L、34Rの長手方向先端に設けられた球状のボール部38L、38Rから受ける反力によって変形される構成であった。このように荷重吸収部材36L、36Rに反力を付与する構成は、例えば、ロッド部34L、34Rの長手方向先端側へ向けて外径寸法が大きくなる円錐台形状であってもよく、荷重吸収部材36L、36Rに反力を付与して荷重吸収部材36L、36Rを変形させることができる構成であれば、その具体的な態様(形状)に限定されるものではない。
また、本実施の形態は、右側フォースリミッタ20Rと左側フォースリミッタ20Lとを備える構成であったが、右側フォースリミッタ20R及び左側フォースリミッタ20Lの一方のみを備える構成であってもよい。
さらに、本実施の形態では、左右のフォースリミッタ20L、20Rは、筒状の荷重吸収部材36L、36Rがアンカロッド22L、22Rのロッド部34L、34Rの長手方向先端側へ移動されることによって荷重吸収部材36L、36Rが変形される構成であった。しかしながら、フォースリミッタは、乗員46の身体からウェビング16が受けた引張力の一部によって荷重吸収部材が変形され、この荷重吸収部材の変形分だけ乗員46の身体がウェビング16を伴ってシート前側へ慣性移動できる構成であれば、その具体的な態様に限定されることなく、広く適用できる。
また、本実施の形態では、タング42は、ロック部材を備える構成であったが、ロック部材を備えないタング42を適用してもよい。
さらに、本実施の形態では、車両前面衝突の発生時にリトラクタのショルダプリテンショナ、右側プリテンショナ66R、左側プリテンショナ66Lが作動する構成であった。しかしながら、例えば、車両前面衝突の回避が困難な状態、すなわち、前面衝突予知時にショルダプリテンショナ、右側プリテンショナ66R、左側プリテンショナ66Lが作動する構成であってもよい。すなわち、ショルダプリテンショナ、右側プリテンショナ66R、左側プリテンショナ66Lが作動タイミングは、車両前面衝突の発生時でなくてもよい。
また、本実施の形態では、右側プーリ62R及び左側プーリ62Lの各々を折返部材とした。しかしながら、例えば、シート14のシート幅方向端部からシート幅方向外側へ突出され、長尺部材60が掛け回されるピンを突出部材としてもよい。すなわち、折返部材は、シート14のシート幅方向側方でシート上側へ延ばされた長尺部材60をシート下側へ折り返すことができる構成であれば、折返部材が長尺部材60の長手方向への移動によって回転する構成でなくてもよい。
10 シートベルト装置
14 シート
16 ウェビング
16A ラップウェビング
18 保持部材
22L、22R アンカロッド(棒状部材)
32L、32R 取付部
36L、36R 荷重吸収部材
38L、38R ボール部(荷重付与部)
42 タング
44 バックル
46 乗員
50 下側拘束部材
54 シートクッション
62L 左側プーリ(折返部材)
62R 右側プーリ(折返部材)
66L 左側プリテンショナ(引張装置)
66R 右側プリテンショナ(引張装置)
72 ループ

Claims (6)

  1. 長尺帯状とされて長手方向先端部が保持部材に係止され、車両のシートに着座した乗員の身体への装着状態では、すくなくとも一部がラップウェビングとされ、前記ラップウェビングが前記乗員の腰部近傍部分をシート上側から拘束するウェビングと、
    前記ウェビングの長手方向中間部に設けられ、前記ウェビングの長手方向に前記ウェビングに沿って移動可能なタングと、
    車両のシートのシート幅方向側方に設けられ、前記タングが装着されることによって前記タングを保持し、前記タングの保持状態で前記ウェビングにおける前記タングよりも長手方向先端側が前記ラップウェビングとなるバックルと、
    長手方向中央側の部分が前記シートのシートクッションの内側でシート幅方向に沿って配置されると共に、前記ラップウェビングと共にシート前後方向に開口するループを形成し、長手方向に引っ張られて移動されることによって前記ループが絞られて前記ループの周長が短くされ、前記乗員の身体をシート下側から押圧する下側拘束部材と、
    前記車両の前面衝突時又は前面衝突の予知時に作動され、作動されることによって前記下側拘束部材を長手方向へ引っ張り前記ループを絞ると共に、前記ラップウェビングを引っ張って前記ラップウェビングをシート前下側へ移動させる引張装置と、
    を備え
    前記引張装置は、前記シートのシート幅方向両側にそれぞれ設けられ、前記下側拘束部材は、双方の前記引張装置の作動によって長手方向両側へ引っ張られるシートベルト装置。
  2. 前記シートのシート幅方向側方に設けられ、前記シートのシート幅方向側方でシート上側へ延ばされた前記下側拘束部材がシート下側へ折り返されて前記引張装置に繋がる折返部材を備える請求項1に記載のシートベルト装置。
  3. 前記折返部材は、前記下側拘束部材が掛け回され、前記下側拘束部材の長手方向側への移動によって回転されるプーリとされた請求項2に記載のシートベルト装置。
  4. 前記保持部材及び前記バックルの一方が直接又は間接的に連結されると共に、前記一方よりもシート後下側で前記シートのフレーム又は前記車両の車体に設定された取付部へ連結され、前記一方をシート前上側へ移動させる荷重により変形されることによって前記一方のシート前上側への移動を許容すると共に前記荷重の一部を前記変形によって吸収する荷重吸収部材を備える請求項1から請求項3の何れか1項に記載のシートベルト装置。
  5. 長手方向がシート前後方向に対してシート上下方向へ傾いた側とされると共に、長手方向一方の端部が前記取付部へ連結された棒状部材と、
    前記棒状部材の長手方向に対して直交する方向に前記棒状部材よりも大きくされ、前記棒状部材の長手方向他方の端部に設けられた荷重付与部と、
    を備え、
    前記荷重吸収部材は、前記保持部材及び前記バックルの一方が直接又は間接的に連結されて前記荷重によって前記一方に伴われて移動され、前記一方に伴われての移動方向とは反対方向側で開口されると共に、開口形状が前記荷重付与部よりも小さな筒状とされ、前記棒状部材が内側に配置されると共に、前記荷重付与部が前記一方に伴われての移動方向側の外側に前記荷重吸収部材が配置される請求項に記載のシートベルト装置。
  6. 前記タングは、前記ウェビングの前記タングよりも前記ウェビングの長手方向先端側への前記タングに対する相対移動を制限可能とされている請求項1から請求項5の何れか1項に記載のシートベルト装置。
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