以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、下記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体の製造方法であって、比誘電率が30以上の非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中でビスβ−ジケトン誘導体とヒドラジン誘導体とを反応させる工程を含む、ビスピラゾール誘導体の製造方法である。
(前記一般式(1)中、A1およびA2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、または置換もしくは非置換の炭素数2〜20のヘテロアリール基であり、
Bは、炭素数1〜7の2価の連結基であり、
R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アシル基、アルコキシカルボニル基、スルホニル基、シアノ基、または置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基であり、
R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または置換基であり、
この際、A1およびR1、A1およびR3、A2およびR2、ならびにA2およびR4は、互いに結合して環を形成してもよい。)
ビスピラゾール誘導体を合成する場合、原料であるビスβ−ジケトン誘導体や反応中間体となるピラゾール環が1個のみ閉環した化合物が反応系内に多く残留すると、目的物であるビスピラゾール誘導体と比較して溶解性が低く、精製で取り除く必要がある。しかしながら、この精製は、カラム精製や再結晶、懸濁精製等を数回繰り返す必要があるため、製造工程における生産性を向上させるために、可能な限り反応率を上げる必要があった。
従来のビスピラゾール誘導体の製造方法としては、メタノールやエタノール等のプロトン性極性溶媒中でビスβ−ジケトン誘導体とヒドラジン誘導体とを反応させて製造する方法が知られている。上記のような反応率向上検討の過程において、従来用いられているメタノールやエタノール、イソプロピルアルコール等に代表されるプロトン性極性溶媒中で、ビスβ−ジケトン誘導体や反応中間物が消失する終点付近まで反応を実施すると、ビスピラゾール誘導体が析出し、反応容器内で固化して、反応溶液の流動性が著しく低下する現象が起こることを、本発明者らは知見した。そして、この現象が起こった場合には、その後の単離・精製の操作を実施することが困難になり、ビスピラゾール誘導体の収率や純度が大きく低下することが判明した。この現象は、特に工業的スケールでビスピラゾール誘導体を製造する場合に、大きな問題となる。
このような問題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を行った。その結果、比誘電率が30以上である非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で、ビスβ−ジケトン誘導体とヒドラジン誘導体を反応させてビスピラゾール誘導体を製造することにより、上記問題が解決することを見出した。
プロトン性極性溶媒中で反応を行い、ビスピラゾール誘導体を生成させると、プロトン性極性溶媒とビスピラゾール誘導体とが、水素結合を形成した状態になると考えられる。その際、ピラゾール環の窒素原子とプロトン性極性溶媒とが比較的強固な水素結合を形成するとともに、プロトン性極性溶媒自体が形成する水素結合ネットワーク内にビスピラゾール誘導体が取り込まれることで、反応溶液の流動性低下や結晶析出時の反応溶液の固化などが生じると考えられる。
これに対し、本発明の製造方法では、比誘電率が30以上である非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で、ビスβ−ジケトン誘導体とヒドラジン誘導体を反応させてビスピラゾール誘導体を製造する。比誘電率が30以上である非プロトン性極性溶媒は、ピラゾール環との水素結合が弱く、また、溶媒分子自体の水素結合性のネットワークが形成しにくくなるため、反応溶液の流動性低下や結晶析出時の反応溶液の固化などを抑制することができると考えられる。さらに、反応を、非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で行った後は、プロトン性極性溶媒、水等を添加しても、反応溶液の流動性を損なうことなく、後処理を継続することができる。これにより、得られるビスピラゾール誘導体の収率および純度をより向上させることができる。
なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は、上記メカニズムに何ら制限されるものではない。
以下、本発明の好ましい実施形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、Xを下限値、Yを上限値として含む範囲を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
<ビスピラゾール誘導体の製造方法>
本発明の製造方法により製造されるビスピラゾール誘導体は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
(前記一般式(1)中、A1およびA2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数6〜20のアリール基、または置換もしくは非置換の炭素数2〜20のヘテロアリール基であり、
Bは、炭素数1〜7の2価の連結基であり、
R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アシル基、アルコキシカルボニル基、スルホニル基、シアノ基、または置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基であり、
R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または置換基であり、
この際、A1およびR1、A1およびR3、A2およびR2、ならびにA2およびR4は、互いに結合して環を形成してもよい。)
A1およびA2で用いられるアルキル基のより具体的な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、オクタン−2−イル基、オクタン−3−イル基、3−メチル−1−イソプロピルブチル基、2−メチル−1−イソプロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等の直鎖状、分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、イソボルニル基、デカヒドロナフチル基等の環状のアルキル基;等が挙げられる。
A1およびA2で用いられるアリール基のより具体的な例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フルオレニル基、アントラセニル基、ピレニル基、アズレニル基などが挙げられる。
A1およびA2で用いられるヘテロアリール基のより具体的な例としては、2−ピロール基、2−フリル基、2−チエニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、ピラゾリノニル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、ピリジノニル基、2−ピリミジニル基等が挙げられる。
前記一般式(1)におけるA1およびA2として、多量体の生成を抑制するという観点からアルキル基またはアリール基が好ましく、アリール基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
さらに、A1およびA2は、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。ただし、本発明の効果をより効率的に得るという観点から、A1およびA2は同一の基であることが好ましい。
また、A1およびA2で用いられるアルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。その置換基は、特に制限されず、具体的には、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等);直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等);直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルケニル基(ビニル基、アリル基、2−シクロペンテン−1−イル基、2−シクロヘキセン−1−イル基等);アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(フェニル基、p−トリル基、ナフチル基等);ヘテロアリール基(2−ピロール基、2−フリル基、2−チエニル基、ピロール基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、ピラゾリノン基、ピリジル基、ピリジノン基、2−ピリミジニル基、トリアジン基、ピラゾール基、1,2,3−トリアゾール基、1,2,4−トリアゾール基、オキサゾール基、イソオキサゾール基、1,2,4−オキサジアゾール基、1,3,4−オキサジアゾール基、チアゾール基、イソチアゾール基、1,2,4−チオジアゾール基、1,3,4−チアジアゾール基等);シアノ基;ヒドロキシ基;ニトロ基;カルボキシ基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基等);アリールオキシ基(フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基等);アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基等);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等);アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基等);アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等);アルキルスルホニルアミノ基もしくはアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基等);メルカプト基;アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基等);アリールチオ基(フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基等);スルファモイル基(N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’フェニルカルバモイル)スルファモイル基等);スルホ基;アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等);カルバモイル基(カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基等)等の各置換基が挙げられる。
これらの置換基は、1〜5個置換可能であり、これらの置換基の種類も、複数個置換する場合には同一であってもよいし異なっていてもよい。なお、A1およびA2で用いられるアルキル基は、アルキル基で置換されることはない。
これら置換基の中では、ハロゲン原子、アルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルコキシカルボニル基が好ましく、溶解性の観点から、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルコキシカルボニル基がより好ましい。
前記一般式(1)において、Bは炭素数1〜7の2価の連結基を表す。炭素数1〜7の2価の連結基の例としては、直鎖状、分枝状、もしくは環状のアルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、へキシレン基、プロピレン基、シクロへキシレン基等)、アルケニレン基(例えば、ビニレン基等)、アリーレン基(例えば、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、4,3’−ビフェニレン基、3,3’−ビフェニレン基、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、2,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基等)、ヘテロアリーレン基(例えば、キノリニレン基、ピリジニレン基等)が挙げられる。Bが有し得る置換基としては、上記で説明したA1およびA2が有し得る置換基と同様の基を挙げることができる。
前記一般式(1)において、Bの炭素数が7以下であれば、後述のビスβ−ジケトン誘導体を製造する際に用いられるケトン誘導体またはカルボン酸誘導体のカルボニル基の電子密度を反応可能な程度に調整することが可能となり、ケトン誘導体とカルボン酸誘導体との反応性が向上する。また、比較的親水的な構造となるため、塩基との親和性も向上し、ビスβ−ジケトン誘導体とヒドラジン誘導体との反応における反応性が向上する。
前記一般式(1)におけるBとしては、副生成物および多量体の生成を抑制するという観点からアリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。フェニレン基などのアリーレン基は、α水素がないため、副反応を抑えることが可能となる。
前記一般式(1)におけるBがフェニレン基である場合、前記一般式(1)におけるA1およびA2は、溶解性の観点から、メタ位またはオルト位に置換基を有するアリール基であることが好ましく、メタ位に置換基を有するアリール基であることがより好ましい。
前記一般式(1)におけるR1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アシル基、アルコキシカルボニル基、スルホニル基、シアノ基、またはアルキル基である。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ピバロイルベンゾイル基等が挙げられる。アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等が挙げられる。アルキル基としては、上記A1およびA2で用いられるアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。
R1およびR2は、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。ただし、本発明の効果をより効率的に得るという観点から、R1およびR2は同一の基であることが好ましい。
前記一般式(1)におけるR1およびR2としては、溶解性向上および原料入手の容易性の観点から、水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
前記一般式(1)におけるR3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または置換基である。置換基のより具体的な例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アシル基(アセチル基、ベンゾイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基等)、カルボキシアルキル基(カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等)、カルボキシアリール基(カルボキシフェニル基等)、スルホニル基(メチルスルホニル基、フェニルスルホニル基等)、ヘテロアリール基(2−ピロール基、2−フリル基、2−チエニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、ピラゾリノニル基、2−ピリジル基、6−メチル−2−ピリジル基、3−ピリジル基、ピリジノニル基、2−ピリミジニル基)、シアノ基、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等)等が挙げられる。
R3およびR4は、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。ただし、本発明の効果をより効率的に得るという観点から、R3およびR4は同一の基であることが好ましい。
前記一般式(1)におけるR3およびR4としては、反応性の観点から、水素原子、アシル基、アルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
なお、A1およびR1、A1およびR3、A2およびR2、ならびにA2およびR4は、互いに結合して環を形成してもよい。
前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体は、本発明の効果をより得やすくなるという観点から、下記一般式(2)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体であることが好ましい。
(前記一般式(2)中、R21、R22、R23、およびR24は、それぞれ前記化学式(1)のR1、R2、R3、およびR4と同義であり、
R25およびR26は、それぞれ独立して、置換基であり、
mおよびnは、それぞれ独立して、0〜5の整数である。)
溶解性および原料入手の容易性の観点から、前記一般式(2)中のR21、R22、R23、およびR24は、水素原子であることが好ましい。また、この前記一般式(2)中のR21、R22、R23、およびR24が水素原子であるビスピラゾール誘導体を製造する際に用いる非プロトン性極性溶媒は、上記の比誘電率を満たし、且つ、比較的安価で入手が容易であることから、N,N−ジメチルホルムアミドであることが好ましい。
前記化学式(2)中のR25およびR26で用いられる置換基としては、前記化学式(1)のA1およびA2で用いられる置換基が挙げられる。これら置換基の中でも、ハロゲン原子、アルキル基、アシル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルコキシカルボニル基が好ましく、溶解性の観点から、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルコキシカルボニル基がより好ましい。
R25が複数個存在する場合、すなわちmが2〜5の場合、各置換基は同一であってもよいし異なっていてもよい。同様に、R26が複数個存在する場合、すなわちnが2〜5の場合、各置換基は同一であってもよいし異なっていてもよい。
mおよびnは、それぞれ独立して、0〜2が好ましい。
以下においては、前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体の具体例を示すが、前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体は、以下の具体例によって何ら制限されることはない。なお、前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体は、互変異性体であってもよく、水和物、溶媒和物、または塩を形成していてもよい。
[一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体の製造方法]
次に、前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、具体的には、比誘電率が30以上である非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で、ビスβ−ジケトン誘導体とヒドラジン誘導体とを反応させる工程(反応工程)を有する。さらに、反応により生成した前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体を反応溶液から単離・精製する工程(単離・精製工程)を有することが好ましい。
<反応工程>
ビスβ−ジケトン誘導体とヒドラジン誘導体とを反応させる工程は、比誘電率が30以上である非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で行う。
ビスβ−ジケトン誘導体としては、下記一般式(3)で表される化合物が好ましい。
(前記一般式(3)中、A1、A2、およびBは、それぞれ前記一般式(1)中のA1、A2、およびBと同義であり、R33およびR34は、それぞれ前記一般式(1)中のR 1 およびR 2 と同義であり、この際、A1およびR33ならびにA2およびR34は、互いに結合して環を形成してもよい。)
ビスβ−ジケトン誘導体としては、市販品を用いてもよく、合成品を用いてもよい。合成品としては、ケトン誘導体とカルボン酸誘導体とを、塩基の存在下、ドナー数が25.0〜35.0である溶媒中で反応させる工程を含む製造方法により得られたものであることが好ましい。以下では、好ましいビスβ−ジケトン誘導体である、前記一般式(3)で表されるビスβ−ジケトン誘導体の製造方法について説明する。
≪一般式(3)で表されるビスβ−ジケトン誘導体の製造方法≫
上述したように、本発明において好ましく用いられる前記一般式(3)で表されるビスβ−ジケトン誘導体は、ケトン誘導体とカルボン酸誘導体とを、塩基の存在下、ドナー数が25.0〜35.0である溶媒中で反応させる工程を含む製造方法により得られたものであることが好ましい。この製造方法においては、生成した前記一般式(3)で表される構造を有するビスβ−ジケトン誘導体を反応溶液から単離・精製する工程を、さらに有することが好ましい。以下、各工程を説明する。
〈反応工程〉
上述のように、前記一般式(3)で表される構造を有するビスβ−ジケトン誘導体の製造方法としては、ケトン誘導体とカルボン酸誘導体とを、塩基の存在下、ドナー数が25.0〜35.0である溶媒中で反応させる工程を含むことが好ましい。
例えば、本発明に係るビスβ−ジケトン誘導体の一つであるA−001は、下記のような反応式(1)に従って製造することができる。
また、例えば、ビスβ−ジケトン誘導体A−001は、下記のような反応式(2)に従っても製造することができる。
その他のビスβ−ジケトン誘導体も、上記反応式(1)または(2)と同様の方法で製造することができる。
上記反応式(1)に準じて合成を行う場合、ケトン誘導体として異なる2種を用いれば、前記一般式(3)のA1およびA2、またはR33およびR34が互いに異なるビスβ−ジケトン誘導体を得ることができる。上記反応式(2)に準じて合成を行う場合、カルボン酸誘導体として異なる2種を用いれば、前記一般式(3)のA1およびA2、またはR33およびR34が互いに異なるビスβ−ジケトン誘導体を得ることができる。
用いられるケトン誘導体としては、特に限定されないが、脂肪族ケトン、芳香族ケトンが好ましい。より具体的には、アセトフェノン、3’−メトキシアセトフェノン、4’−メトキシアセトフェノン、2’−メチルアセトフェノン、2,4−ジアセチルベンゼン、4’−メチルアセトフェノン、プロピオフェノン、3’−メトキシプロピオフェノン、2−イソプロピル−5−メチルシクロヘキサノン、3−メチル−2−ブタノン、1−(2−ピリジニル)−1−プロパノン、アセチルシクロヘキサン等が挙げられる。
また、用いられるカルボン酸誘導体としては、カルボン酸クロリドやカルボン酸エステルが好ましい。より具体的には、フタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、4−プロポキシ安息香酸メチル、フマル酸ジエチル、ヘプタン−3,5−ジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。
上記反応式(1)に準じて合成を行う場合、ケトン誘導体の使用量については特に制限はないが、カルボン酸誘導体1モル当量に対して、2.0〜4.0モル当量であることが好ましく、2.0〜2.2当量であることがより好ましい。また、上記反応式(2)に準じて合成を行う場合、カルボン酸誘導体の使用量については特に制限はないが、ケトン誘導体1モル当量に対して、2.0〜4.0モル当量であることが好ましく、2.0〜2.5当量であることがより好ましい。
副生成物抑制の観点から原材料の組み合わせとしては、芳香族ケトンとカルボン酸誘導体との組み合わせが好ましく、芳香族ケトンとカルボン酸エステルとの組み合わせがより好ましく、芳香族ケトンとカルボン酸ジエステルとの組み合わせがさらに好ましい。
カルボン酸誘導体が有する置換基であり、かつケトン誘導体と反応する際に脱離する脱離基としては、特に制限はないが、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子が好ましく、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子が好ましく、アルキルオキシ基がより好ましい。このような脱離基を選択することで反応性が向上する。
(ドナー数が25.0〜35.0である溶媒)
ビスβ−ジケトン誘導体(好ましくは前記一般式(3)で表される構造を有するビスβ−ジケトン誘導体)を製造する際に用いられる溶媒は、ドナー数が25.0〜35.0の溶媒であることが好ましい。ここでドナー数について説明する。
ドナー数(DN)とは、Gutmannが提案したドナー性の尺度、すなわち溶媒のルイス塩基としての尺度である。1,2−ジクロロエタン中のSbCl5と溶媒とが反応する際のエンタルピー(−ΔHSbCl5)をkcal・mol−1単位で求め、無名数として表わした値である。
測定値として報告されていなくても、これに準ずるドナー数を有する有機溶媒は、多数存在する。有機溶媒のドナー性はある程度推測することができる。例えばアルキル基の炭素数が増えるに従って、ドナー性は大きくなる傾向を有する。例えば、DN(HOH)=18.0、DN(CH3OH)=19.0、DN(C2H5OH)=20.0、DN(C3H7OH)=30.0となり、アルキル基の炭素数の増加とともにドナー数は大きくなる。アルキル基の炭素数が多いほうが、電子供与性I効果(Inductive Effect)は大きく、ヒドロキシ基(−OH)のHの電子密度が高くなり電子供与性が強くなっているためであると考えることができる。このように、ドナー数が未知の溶媒とドナー数が既知の溶媒とを比較することにより、ドナー性を示す原子の電子密度の増減を考慮すれば、ドナー数が未知の溶媒のドナー性の度合いを知ることができ、必ずしも文献値などの測定値は必要ない。
本工程においてはドナー数が25.0〜35.0である溶媒を用いることが好ましい。具体的には(カッコ内はドナー数を表す)、N,N−ジメチルアセトアミド(27.8)、ジメチルスルホキシド(29.8)、N,N−ジメチルホルムアミド(26.6)、N−メチルホルムアミド(27.0)、ピリジン(33.1)、N−メチル−2−ピロリジノン(27.0)、または1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(28.0)が好ましい。さらに、溶媒のドナー数は、26.0〜30.0であることがより好ましい。これら溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
ドナー数が25.0以上の溶媒であれば、塩基によるα水素の引き抜きおよび求核反応を促進し、反応中間体の濃度を低下させることが可能となり、多量体の生成を抑制することができる。また、ドナー数が35.0以下の溶媒であれば、他の副反応を抑制することができ、反応率が向上する。
ドナー数が25.0〜35.0である溶媒の使用量は、特に制限はないが、使用するカルボン酸誘導体の質量に対して、0.5〜30体積倍の量であることが好ましく、1〜25体積倍の量であることがより好ましく、2〜20体積倍の量であることがさらに好ましい。
(塩基)
ケトン誘導体とカルボン酸誘導体とを反応させる場合、反応を加速させるために塩基を用いることが好ましい。塩基としては、無機塩基(炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムアミド、水素化ナトリウム、LDA等)、有機塩基(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムブトキシド、ジイソプロピルエチルアミン、N,N′−ジメチルアミノピリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、N−メチルモルホリン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、ピリジン、リチウムジイソプロピルアミド等)が挙げられる。これら塩基は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
上記の塩基の水中の25℃におけるpKaとしては、反応性の観点から15〜38が好ましい。pKaが15以上であれば、多くのケトン誘導体のα水素のpKaよりも大きいため反応性が高くなり、pKaが38以下であれば副反応を抑制することができる。上記塩基の中でも、ナトリウムアミド、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムブトキシドがより好ましい。無機塩基は、粉体のまま添加してもよく、溶媒に分散させた状態で添加してもよい。また、有機塩基は、溶媒に溶解した状態(例えば、ナトリウムメトキシドの28質量%DMF溶液等)で添加してもよい。
水中の25℃におけるpKaの値は、電気伝導度等から測定することができる。
塩基の使用量は、反応が進行する量であれば特に制限はないが、上記反応式(1)に準じて合成を行う場合にはカルボン酸誘導体に対して1.0〜5.0倍モルが好ましく、1.5〜3.0倍モルがより好ましい。また、上記反応式(2)に準じて合成を行う場合にはケトン誘導体に対して1.0〜5.0倍モルが好ましく、1.5〜3.0倍モルがより好ましい。
反応に用いる原料(ケトン誘導体およびカルボン酸誘導体)、溶媒および塩基の添加方法、添加順は、特に制限がなく、原料、溶媒、塩基の順であっても、原料、塩基、溶媒の順であってもよい。また、ケトン誘導体およびカルボン酸誘導体を溶媒に分散または溶解させ、その後塩基を添加する方法でもよい。作業安全性の観点から原料を溶媒に分散または溶解させた後に塩基を少量ずつ添加する方法が好ましい。このような方法にすることにより、反応熱の急激な上昇を抑制することができ、反応率が向上する。
〈反応温度他〉
反応中の温度は、反応が進行する温度であれば特に制限されないが、生産性の観点から、−20〜100℃が好ましく、−15〜70℃がより好ましく、−10〜40℃がさらに好ましい。反応時間も特に制限されないが、4〜20時間であることが好ましく、6〜12時間であることがより好ましい。
反応は不活性雰囲気下で行うことが好ましく、窒素雰囲気下またはアルゴン雰囲気下で反応を行うことが好ましい。不活性雰囲気下で行う際の不活性ガスの流速に関しては、特に制限はなく、必要とされる反応設備に合わせて適宜調整してもよい。
反応の終了は、反応原料として用いたケトン誘導体、カルボン酸誘導体、または反応中間体のピークの消失を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて確認することにより、判断することができる。反応終了後、得られた前記一般式(3)で表される構造を有するビスβ−ジケトン誘導体を反応溶液から単離・精製することが好ましい。
〈単離・精製工程〉
前記一般式(3)で表される構造を有するビスβ−ジケトン誘導体の単離・精製方法としては、再結晶法、晶析法、再沈澱法、カラムクロマトグラフィー法等を用いることができる。単離方法としては、工業的生産の観点から、再結晶法、晶析法、再沈澱法が好ましい。
反応溶液の処理方法は、特に制限されないが、塩基を用いた場合は、反応溶液に酸を加えて中和する方法が好ましい。中和に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、または酢酸等が挙げられるが、好ましくは硫酸または酢酸である。中和に使用する酸の量は、反応溶液のpHが1〜9になる範囲であれば特に制限はないが、使用する塩基に対して、0.1〜3倍モルが好ましく、特に好ましくは、0.2〜1.5倍モルの範囲である。
中和後、反応溶液に適当な有機溶媒を添加し抽出した後、有機溶媒を水やアセトンで洗浄し濃縮することが好ましい。ここでいう適当な有機溶媒とは、酢酸エチル、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルの1種もしくは2種以上、または前記溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒のことであり、好ましくは酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフランである。
中和した反応溶液に水を追加して晶析を行うことができる。水の添加量としては特に制限はないが、反応に用いた溶媒の質量に対して0.5〜1体積倍の量が好ましく、0.6〜0.8体積倍の量がより好ましい。
前記一般式(3)で表される構造を有するビスβ−ジケトン誘導体の単離方法として、反応溶液を0〜10℃程度まで冷却した後、反応に用いた塩基のモル数に対して1.0〜1.2倍モル程度の酸を投入して塩基を中和し、反応溶液を酸性〜中性付近に調整し、減圧留去や上記の有機溶媒添加により濃度を調整して晶析させる方法がさらに好ましい。この方法は、単離の操作中、作業者が反応溶液または晶析液と接触する可能性が高い状況下において、作業者の安全性を向上させることができる点で、有効な方法でもある。
反応溶液から単離して得られた粗生成物は、純度を向上するために精製することが好ましい。精製方法としては、再結晶法、懸濁精製法、カラムクロマトグラフィー法が好ましく、生産性の観点から再結晶法、懸濁精製法がより好ましい。
再結晶法および懸濁精製法で用いることができる溶媒としては、特に制限はなく、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アセトン、酢酸エチル、トルエン、へプタン、N,N−ジメチルホルムアミド等の1種または2種以上が挙げられる。
以下に、前記一般式(3)で表される構造を有するビスβ−ジケトン誘導体の具体例(A−001〜A−014)を示すが、以下の具体例によって何ら制限されることはない。
(ヒドラジン誘導体)
本発明で用いられるヒドラジン誘導体としては、下記一般式(4)で表される化合物が好ましい。
前記一般式(4)において、R41は前記一般式(1)中のR3と同義である。
R41としては、水素原子、メチル基、フェニル基、シクロヘキシル基、2−ピリジル基、3−メチル−2−ピリジニル基、カルボキシエチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。ヒドラジン誘導体は水和物の形態であってもよい。ヒドラジン誘導体としては、ヒドラジン一水和物がさらに好ましい。
ヒドラジン誘導体は、単独で用いてもよいし、異なる2種を併用してもよい。異なる2種を併用した場合、前記一般式(1)のR3およびR4が互いに異なる基である、ビスピラゾール誘導体を得ることができる。
反応におけるヒドラジン誘導体の使用量については特に制限はないが、ビスβ−ジケトン誘導体1モル当量に対して、2.0モル当量以上であることが好ましく、2.0〜5モル当量であることがより好ましく、2.2〜4モル当量であることがさらに好ましい。
(非プロトン性極性溶媒)
に用いる溶媒は、比誘電率が30以上である、非プロトン性極性溶媒である。
一般的に用いられるメタノール、エタノールに代表されるプロトン性極性溶媒は、ビスピラゾール誘導体と強固な水素結合を形成するとともに、溶媒分子自体が相互に水素結合を行うことで水素結合性ネットワークを形成し、ビスピラゾール誘導体をこの中に取り込むことで、製造工程における反応溶液の流動性の低下や固化を招き、操作性(作業性)が著しく低下する。また、強固な水素結合を形成するため、乾燥工程においてプロトン性極性溶媒の除去が困難になり、生産性の低下や乾燥に要するエネルギーの浪費を招くことがあり、ビスピラゾール誘導体の純度および収率が低下に繋がる。
これに対し、本発明の製造方法においては、比誘電率が30以上である非プロトン性極性溶媒を含む溶媒中で反応を行う。これにより、溶媒分子自体の水素結合性のネットワークが形成しにくくなるため、反応溶液の流動性の低下や結晶析出時の反応溶液の固化などを抑制することができ、操作性が向上し、ビスピラゾール誘導体を高純度および高収率で得ることができる。
比誘電率が30未満の場合には、溶媒分子にビスピラゾール誘導体が取り込まれ、製造過程における反応溶液の流動性の低下や結晶析出時の反応溶液の固化を招き、操作性(作業性)が低下し、ビスピラゾール誘導体の収率や純度も低下する。
本発明で用いられる比誘電率が30以上の非プロトン性極性溶媒(カッコ内は比誘電率を表す)としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(38)、ジメチルスルホキシド(47)、N,N−ジメチルホルムアミド(37)、N−メチルホルムアミド(182)、N−メチル−2−ピロリジノン(32)、または1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(38)が挙げられる。これら比誘電率が30以上の非プロトン性極性溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。中でも、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、または1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましく、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミドがより好ましい。これらの溶媒は、種々の有機化合物の良溶媒として知られており、ビスピラゾール誘導体の溶解度が高いことから、製造設備をコンパクトにすることができ、生産性の向上に寄与することができる。
前記非プロトン性極性溶媒を使用することにより、有機溶媒と生成物であるビスピラゾール誘導体との間の水素結合性を過剰に強固にせず、また、溶媒分子自体の水素結合性ネットワークが形成されないことで、高反応率となる。さらに、反応終了後の単離・精製において、反応溶液の流動性の低下や固化を防ぐことができ、操作性が向上し、安定して作業を行うことができる。また、高濃度で反応を行った際にも、反応溶液の膨潤固化を抑制することができるため、反応系をコンパクトにして生産性を向上することができる。
前記非プロトン性極性溶媒の使用量は、原料であるビスβ−ジケトン誘導体の種類により変わるため、一概には言えないが、ビスβ−ジケトン誘導体の質量に対して、0.5〜10体積倍の量であることが好ましく、1〜5体積倍の量であることがより好ましく、1.2〜3体積倍の量であることがさらに好ましい。
本発明の製造方法においては、本発明の効果を損なわない限り、非プロトン性極性溶媒以外の他の溶媒を併用してもよい。このような他の溶媒の例としては、例えば、プロトン性の極性溶媒が挙げられ、具体的には水、メタノール、エタノール等が挙げられる。これら他の溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これら他の溶媒を使用する場合の使用量は、非プロトン性極性溶媒に対して5.0〜15.0体積%であることが好ましい。
反応に用いる原料(ビスβ−ジケトン誘導体およびヒドラジン誘導体)および溶媒の添加方法、添加順は、特に制限がないが、作業性および安全性の観点から、ビスβ−ジケトン誘導体を溶媒中に分散もしくは溶解させた後に、ヒドラジン誘導体を少量ずつ添加する方法が好ましい。このような方法とすることで、反応熱の急激な上昇を抑制することができ、反応率が向上する。
(反応温度他)
反応中の温度は、反応が進行する温度であれば特に制限されないが、生産性の観点から20〜100℃が好ましく、40〜90℃がより好ましく、50〜80℃がさらに好ましい。反応時間も特に制限されないが、1〜8時間であることが好ましく、2〜5時間であることがより好ましい。
反応は不活性雰囲気下で行うことが好ましく、窒素雰囲気下またはアルゴン雰囲気下で反応を行うことが好ましい。不活性雰囲気下で行う際の不活性ガスの流速に関しては、特に制限はなく、必要とされる反応設備に合わせて適宜調整してもよい。
反応の終了は、反応原料として用いたビスβ−ジケトン誘導体または反応中間体のピークの消失を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて確認することにより、判断することができる。反応終了後、生成した前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体を反応溶液から単離・精製することが好ましい。
〈単離・精製工程〉
前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体の単離方法としては、再結晶法、晶析法、再沈澱法、カラムクロマトグラフィー法等を用いることができる。中でも、工業的生産の観点から、再結晶法、晶析法、再沈澱法が好ましい。
反応終了後、反応溶液に適当な有機溶媒を添加し抽出した後、有機溶媒を水で洗浄し濃縮してもよい。ここでいう適当な有機溶媒とは、酢酸エチル、トルエン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルの1種もしくは2種以上、または前記溶媒とアルコール系溶媒との混合溶媒のことであり、好ましくは酢酸エチル、テトラヒドロフランである。
前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体を晶析させる方法としては、特に制限はないが、反応が終了した反応溶液を貧溶媒中に追加して晶析させる方法や、反応溶液に貧溶媒を添加して晶析させる方法が好ましい。
貧溶媒としては、アルコール系溶媒が好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール等の1種または2種以上を、ビスピラゾール誘導体の溶解度に合わせて添加することが好ましい。中でも、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。また、収率向上のため、水をさらに添加して晶析させることも好ましい。
貧溶媒および水の合計量としては、特に制限はないが、反応に用いた溶媒の質量に対して0.5〜2体積倍の量が好ましく、1.0〜1.5体積倍の量がより好ましい。また、貧溶媒と水との混合比(体積比)は、貧溶媒:水=1:0.6〜1:1.6が好ましく、1:0.8〜1:1.2がより好ましい。
前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体の単離方法として、反応溶液を60℃程度まで、加熱または冷却した後、反応溶液を貧溶媒と水との混合溶液中に徐々に投入して晶析させる方法がさらに好ましい。この方法は、単離の操作中、作業者が反応溶液または晶析液と接触する可能性が高い状況下において、作業者の安全性を向上させることができる点で、有効な方法でもある。
反応溶液から単離して得られた粗生成物は、純度を向上させるために精製することができる。精製方法としては、再結晶法、懸濁精製法、カラムクロマトグラフィー法が好ましく、生産性の観点から再結晶法、懸濁精製法がより好ましい。
再結晶法および懸濁精製法で用いることができる溶媒としては、特に制限はなく、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、アセトン、酢酸エチル、トルエン、へプタン、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
また、粗生成物を、メタノール等のアルコール系溶媒と水とを用いて洗浄することによっても精製することができる。
例えば、ビスピラゾール誘導体の1種であるP−001は、以下の反応式(3)に従って製造することができる。
その他のビスピラゾール誘導体も、上記反応式(3)と同様の方法で製造することができる。
[ビスピラゾール誘導体の用途]
前記一般式(1)で表される構造を有するビスピラゾール誘導体は、医薬品、電子材料、樹脂添加剤などに好適に用いることができる。
好ましい用途としては、電子材料または樹脂添加剤である。電子材料として用いる際は、ビスピラゾール誘導体を蒸着または塗布して使用してもよいし、樹脂に添加して使用してもよい。
樹脂添加剤として用いる際は、ビスピラゾール誘導体の添加量を適宜調整して、樹脂組成物や光学フィルム等に添加することができる。添加量としては樹脂(例えば、セルロースエステル、アクリル樹脂、カーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマー等)100質量%に対して、1〜15質量%であることが好ましく、2〜10質量%であることがより好ましい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
<製造例1:ビスβ−ジケトン誘導体A−001の合成>
ビスβ−ジケトン誘導体A−001を、下記反応式(1)に従って合成した。
窒素雰囲気下、N,N−ジメチルホルムアミド53mlに21.7gのアセトフェノンと17.5gのイソフタル酸ジメチルとを溶解して−10℃まで冷却した。ナトリウムメトキシド 12.2gを2時間かけて少しずつ添加し、添加終了後、内温を20℃として2時間攪拌した。さらに内温を35℃に昇温して8時間反応を行った。HPLCで反応の終点を確認した後、内温を10℃以下として、水49mlに氷酢酸16.2gを溶解した酢酸水溶液を反応液に少しずつ添加した。pHが7以上であることを確認した後、トルエン53mlを反応液に投入して内温を60℃まで昇温させた。
昇温後に攪拌を停止して30分間静置後、分離した水層を排出した。反応液にアセトン26mlを投入して内温60℃で1時間懸濁させた後、35℃まで冷却し析出した固体をろ過した。さらに固体を、アセトン20mlおよび温水120mlで洗浄した後、乾燥することにより、ビスβ−ジケトン誘導体A−001を21.0g得た(収率65.0%、HPLC単純面積比98.5%)。
<製造例2〜14:ビスβ−ジケトン誘導体A−002〜A−014の合成>
下記表1−1および1−2に示すようなカルボン酸誘導体とケトン誘導体との組み合わせで反応させたこと以外は、製造例1と同様にして、ビスβ−ジケトン誘導体A−002〜A−014(上記の例示化合物のA−002〜A−014参照)を合成した。
<実施例1:ビスピラゾール誘導体P−001の製造>
上記製造例A−001で合成したビスβ−ジケトン誘導体を用い、以下の反応式(3)に従い、ビスピラゾール誘導体P−001(上記の例示化合物のP−001)を合成した。
窒素雰囲気下、反応容器に上記製造例1で製造したビスβ−ジケトン誘導体A−001を100g、およびN,N−ジメチルホルムアミド140ml(ビスβ−ジケトン誘導体の質量に対して1.4体積倍)を加えて45℃まで加熱した。反応溶液にヒドラジン一水和物 33.8gを2時間かけて滴下した後、内温55〜65℃で3時間反応を行った。反応液をイソプロピルアルコール70mlおよび水90mlの混合溶媒中に添加し、結晶を析出させた。25℃まで冷却後、析出した結晶をろ過し、メタノール120mlと水150mlとの混合液で洗浄して乾燥することで、ビスピラゾール誘導体P−001を93.6g得た(収率93.8%(異性体を含む)、HPLC単純面積比99.0%)。
<実施例2〜32、比較例1〜6>
表2−1〜2−3に記載の溶媒および量、ヒドラジン誘導体、およびビスβ−ジケトン誘導体に変更し、当量を合わせたこと以外は、実施例1と同様の方法で、ビスピラゾール誘導体を合成した。
(反応溶液の流動性評価)
結晶を析出させた後の反応溶液の流動性を下記基準により評価した。◎〜○であれば、実用可能である。
◎:攪拌状態、流動性に問題は無く、容器を傾けて取り出せ、容器内に残らない
○:攪拌状態はやや劣るが、容器を傾けて取り出せる
△:攪拌は可能で、可能容器を天地逆にすれば取り出せるが、容器内の残りが多い
×:攪拌不能になり、容器を天地逆にしても取り出せない。
なお、表2中の溶媒では以下の略号を用いた;
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
DMSO:ジメチルスルホキシド
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
NMP:N−メチル−2−ピロリジノン
DMI:1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン
THF:テトラヒドロフラン
IPA:イソプロピルアルコール。
各実施例および比較例で得られたビスピラゾール誘導体の収率、純度、結晶を析出させた後の反応溶液の流動性の評価結果を下記表2−1〜2−3に示す。なお、表2中のR41の欄で示す置換基の*は、ヒドラジンのNHとの結合部位を示す。また、R3およびR4の欄で示す置換基の*は、ピラゾール環との結合部位を示す。さらに、溶媒の使用量は、ビスβ−ジケトン誘導体の質量に対する体積倍を示す。
上記表2−1〜2−3から明らかなように、実施例の製造方法では、結晶析出後の流動性に問題はなく、製造工程を進めることができ、高収率で高純度のビスピラゾール誘導体を得ることができた。
一方、非プロトン性極性溶媒であるが、比誘電率が30未満のテトラヒドロフランを用いた比較例1および2の製造方法では、反応時には流動性が確保できていたが、結晶析出の際、イソプロピルアルコールと水との混合溶媒に反応溶液を添加したところ、析出した結晶の流動性が低下して、容器からの取出しが困難になり、濾過性の低下が起こり、収率および純度の低下を招いた。
また、プロトン性極性溶媒を用いた比較例3〜6の製造方法では、通常の方法では取り出すことが困難で、容器内から掻き出す操作を実施しないと取り出すことができず、収率および純度がともに低下している。
通常の手法で取り出すことができないということは、操作面において生産性が著しく劣ることを示している。加えて、比較例では、実施例の製造方法と比較して、溶媒量で3倍程度の溶媒を使用しても流動性を確保することができず、操作面にとどまらない生産性の面においても実施例の製造方法に劣っている。
すなわち、本発明によれば、医薬品、電子材料、樹脂添加剤等に好適に用いられるビスピラゾール誘導体を高収率および高純度で得ることができ、操作性にも優れたビスピラゾール誘導体の製造方法を提供することができる。