以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である電力増幅器1の構成を示す回路図である。なお、図1では電力増幅器1の構成の理解を容易にするため、同電力増幅器1の負荷であるスピーカSPが併せて図示されている。
図1に示すように、電力増幅器1はD級増幅部100と断線検知回路300を有する。このD級増幅部100は、オペアンプ(またはコンパレータ)110と、出力段120と、フィルタ130と、帰還抵抗140とを有する。
オペアンプ110は、D級増幅部100の入力信号に対する入力部をなす回路である。このオペアンプ110の非反転入力端には、入力端子111を介してオーディオ信号AINが入力される。オペアンプ110の反転入力端は抵抗150を介して接地されている。
出力段120は、スイッチング素子として、正電源+Bと出力段120の出力端子123との間に介挿されたトランジスタ121と、負電源−Bと出力段120の出力端子123との間に介挿されたトランジスタ122を有する。好ましい態様において、このトランジスタ121および122は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor;金属―酸化膜−半導体構造の電界効果トランジスタ)である。出力段120は、オペアンプ110の出力信号に応じて、トランジスタ121をON、トランジスタ122をOFFとして正電源+Bを出力端子123に接続し、あるいはトランジスタ121をOFF、トランジスタ122をONとして負電源−Bを出力端子123に接続する。従って、出力段120の出力信号の波形は矩形波となる。
フィルタ130は、出力段120の出力信号から、オーディオ帯域以上の高域成分を除去し、残ったオーディオ帯域の周波数成分をスピーカSPに供給するローパスフィルタである。このフィルタ130は、インダクタ131およびキャパシタ132を有する。ここで、インダクタ131は、出力段120の出力端子123とスピーカSPの一端との間に介挿されている。また、キャパシタ132は、一端がインダクタ131およびスピーカSP間のノード133に接続され、他端は接地されている。すなわち、キャパシタ132は、負荷であるスピーカSPに並列接続されている。
帰還抵抗140は、インダクタ131およびスピーカSPの間のノード133と、オペアンプ110の反転入力端との間に介挿されている。この帰還抵抗140は、スピーカSPに対する出力電圧をD級増幅部100の入力部たるオペアンプ110に帰還させ、D級増幅部100を自励発振させる自励発振用帰還ループを構成している。D級増幅部100は、所定の自励発振周波数で発振しつつ、入力オーディオ信号AINに基づいてパルス幅変調されたPWMパルス列信号を出力段120から出力する。フィルタ130は、このPWMパルス列信号から自励発振周波数以上の高域成分を除去してスピーカSPに供給する役割を果たす。以上がD級増幅部100の構成である。
本実施形態による電力増幅器1において、D級増幅部100には、負荷電流帰還回路200が接続されている。負荷電流帰還回路200は、D級増幅部100の負荷であるスピーカSPに流れる負荷電流を入力部たるオペアンプ110に負帰還させる回路である。この負荷電流帰還回路200は、電流検出抵抗210と、増幅部220と、結合部230とを有する。
電流検出抵抗210は、スピーカSPにおけるノード133と反対側の端子と接地線との間に介挿されている。増幅部220は、オペアンプ221と、抵抗222および223とにより構成されている。オペアンプ221の反転入力端は、抵抗222を介して接地されるとともに、抵抗223を介してオペアンプ221の出力端に接続されている。そして、オペアンプ221の非反転入力端には電流検出抵抗210の両端間電圧が与えられる。従って、増幅部220は、抵抗222の抵抗値をRa、抵抗223の抵抗値をRbとした場合、電流検出抵抗210の両端間電圧を(Ra+Rb)/Raのゲインで増幅して出力する。本実施形態では、このように電流検出抵抗210の両端間電圧が増幅部220により十分な大きさの電圧に増幅されるので、電流検出抵抗210の抵抗値を小さくすることができる。結合部230は、増幅部220の出力端とオペアンプ110の反転入力端との間に直列に介挿された抵抗231およびキャパシタ232からなる。この結合部230は、負荷電流帰還回路200を介して行われる負帰還の帰還量の周波数特性を調整する役割を果たす。より具体的には、結合部230は高域周波数帯域における位相回りを制限して、自励発振周波数が低下するのを防止する。
ここで、D級増幅部100の自励発振周波数は、負荷電流帰還回路200および上記自励発振用帰還ループの2つの帰還回路を介して行われる負帰還の帰還量の周波数特性により決定される。このため、スピーカSPの断線により、負荷電流帰還回路200を介して行われる負帰還が遮断されると、D級増幅部100の自励発振周波数が変化する。本実施形態において、D級増幅部100の自励発振周波数は、スピーカSPが断線していない場合には、例えば384kHzと設定され、スピーカSPの断線により負荷電流帰還回路200を介した負帰還が遮断された場合には、例えば645kHz(スピーカSPが断線していない状況における自励発振周波数の1.5倍の周波数)となるように負荷電流帰還回路200の位相が設定される。そこで、本実施形態における断線検知回路300は、D級増幅部100の自励発振周波数が所定の基準周波数(すなわち、スピーカSPが断線していない場合における自励発振周波数)から変化したか否かを検出することにより、スピーカSPに断線が発生したか否かを検知する。そのため、断線検知回路300は、D級増幅部100の自励発振周波数が基準周波数から変化したか否かを検出する周波数判定回路を有する。なお、周波数判定回路の具体的は構成例については後述する。また、本実施形態では、スピーカSPの断線(D級増幅部100とスピーカSP(負荷)との間の断線)とは、D級増幅部100からスピーカSPまでの線路(ケーブル)の断線とスピーカSP内部(例えば、ボイスコイル)の断線の両方を意味するものとする。
以上が本実地形態による電力増幅器1の構成である。
次に本実施形態の動作について説明する。D級増幅部100において、出力段120の出力信号は、フィルタ130および帰還抵抗140を介すことにより、位相回転が付与されて、入力部たるオペアンプ110に帰還される。これによりD級増幅部100は、自励発振する。このD級増幅部100の自励発振周波数は上述した通りであり、入力オーディオ信号AINの周波数帯域に比べて十分に高い周波数に設定される。
ここで、出力段120の出力信号は矩形波となるが、フィルタ130ではキャパシタ132によりこの矩形波の1階積分が行われるので、ノード133の信号波形は三角波となる。オペアンプ110では、帰還抵抗140を介して帰還されるノード133の三角波と、入力オーディオ信号AINとの比較が行われる。この結果、入力オーディオ信号AINによってパルス幅変調されたPWMパルス列信号がオペアンプ110から出力され、このPWMパルス列信号が出力段120を介してフィルタ130に出力される。このPWMパルス列信号は、フィルタ130を介すことにより高域成分が除去され、スピーカSPに供給される。
具体的には、入力オーディオ信号AINの電圧値が0Vである場合、出力段120からデューティ比が50%のPWMパルス列信号が出力され、スピーカSPに与えられる電圧は0Vとなる。また、入力オーディオ信号AINの電圧値が0Vから正方向に変化すると、出力段120から出力されるPWMパルス列信号のデューティ比は50%から最大100%まで変化し、スピーカSPに与えられる電圧は0Vから最大+Bまで変化する。一方、入力オーディオ信号AINの電圧値が0Vから負方向に変化すると、出力段120から出力されるPWMパルス列信号のデューティ比は50%から最小0%まで変化し、スピーカSPに与えられる電圧は0Vから最小−Bまで変化する。このようにして入力オーディオ信号AINに近似した波形の信号がスピーカSPに与えられる。
以上説明したD級増幅部100による増幅動作が行われる間、負荷電流帰還回路200は、スピーカSPに流れる負荷電流をD級増幅部100の入力部たるオペアンプ110に負帰還させる。この結果、次のような効果が得られる。
スピーカSPのインピーダンスはスピーカSPの駆動周波数に依存して変化する。ここで、スピーカSPの駆動周波数の変化によりスピーカSPのインピーダンスが増加し、スピーカSPに流れる負荷電流が減少すると、負荷電流帰還回路200を介したD級増幅部100の入力部への帰還信号が減少し、D級増幅部100の出力信号が増加する。この結果、D級増幅部100からスピーカSPに与えられる実効的な電圧が増加し、スピーカSPに流れる負荷電流を増加させる。一方、スピーカSPの駆動周波数の変化によりスピーカSPのインピーダンスが減少し、スピーカSPに流れる負荷電流が増加すると、負荷電流帰還回路200を介したD級増幅部100の入力部への帰還信号が増加し、D級増幅部100の出力信号が減少する。この結果、D級増幅部100からスピーカSPに与えられる実効的な電圧が減少し、スピーカSPに流れる負荷電流を減少させる。このような負帰還制御が行われる結果、スピーカSPに流れる負荷電流は、スピーカSPの駆動周波数によらず一定になる。
このように本実施形態では、スピーカSPに流れる負荷電流をD級増幅部100の入力部に負帰還させることにより、D級増幅部100の出力インピーダンスを実効的に増加させ、D級増幅部100からスピーカSPに流す負荷電流を一定に保つことができる。従って、スピーカSPのインピーダンスが増加する周波数f0(例えば、80〜100Hz)の近傍の周波数帯域において、十分な負荷電流をスピーカSPに流し、大音量での放音を実現することができる。また、本実施形態では、スピーカSPの駆動周波数によらず、スピーカSPに流す負荷電流を一定に保つ制御が行われるので、周波数f0の近傍の周波数帯域以外の周波数帯域において、スピーカSPに過度な大電流が流れるのを防止し、スピーカSPの破損を防止することができる。
以上が本実施形態による電力増幅器1の通常の動作である。
この電力増幅器1において、スピーカSPの断線が発生すると、D級増幅部100の自励発振周波数が基準周波数384kHzからその1.5倍の645kHzに変化する。断線検知回路300は、オペアンプ110の出力信号に基づいて、この自励発振周波数の基準周波数からの変化を検知し、スピーカSPの断線が発生した旨を示す警報信号を出力する。
以上が本実施形態による電力増幅器1の断線検知時の基本的な動作である。
次に断線検知回路300に用いられる周波数判定回路の例である周波数判定回路310、320および330が断線検知時に行う動作の詳細について順に説明する。
<周波数判定回路310>
図2は周波数判定回路310の構成を示す回路図である。周波数判定回路310は、位相比較器311と、チャージポンプ312と、コンパレータ313と、誤動作防止用キャパシタ314とを有する。位相比較器311の一端には、オペアンプ110が出力するPWMパルス列信号が入力される。また、位相比較器311の他端には、図示しない基準クロック信号発生手段から基準クロック信号が入力される。この基準クロック信号は、その周波数が、前述したスピーカSPが断線していない場合と同一の自励発振周波数に設定され、所定の基準周波数として384kHzに設定されている。位相比較器311は、上記PWMパルス列信号と基準クロック信号との位相差を検出し、位相差に応じたパルス幅の位相差信号をチャージポンプ312に出力する。
チャージポンプ312は、上記位相差信号を積分し、積分値を示すアナログ信号をコンパレータ313に出力する。
コンパレータ313には、図示しない閾値信号発生手段から所定の電圧値の閾値信号が入力される。コンパレータ313は、チャージポンプ312の出力信号と閾値信号とを比較し、チャージポンプ312の出力信号が閾値信号よりも小さい場合はSP断線判定フラグをLowレベルとし、チャージポンプ312の出力信号が閾値信号よりも大きい場合はSP断線判定フラグをHighレベルとする。
誤動作防止用キャパシタ314は、コンパレータ313の誤動作を防止するために設けられたキャパシタである。誤動作防止用キャパシタ314の一端はコンパレータ313の出力端に接続され、他端は接地されている。
以上の構成において、スピーカSPが断線していない場合には、D級増幅部100のオペアンプ110から周波数判定回路310の位相比較器311に周波数が384kHzのPWMパルス列信号が出力される。ここで、スピーカSPが断線していない場合には、位相比較器311に出力されるPWMパルス列信号の周波数は基準クロック信号の周波数に等しく、両者の位相差は少ない。このため、位相比較器311から出力される位相差信号のパルス幅は狭くなる。この結果、チャージポンプ312の出力信号のレベルは、コンパレータ313に与えられる閾値信号の電圧値よりも小さくなる。このため、コンパレータ313は、SP断線判定フラグをLowレベルとして、スピーカSPに断線が発生していないことを報知する。
一方、スピーカSPが断線すると、D級増幅部100の自励発振周波数が384kHzから645kHzに変化する。このため、オペアンプ110から出力されるPWMパルス列信号の周波数は384kHzから645kHzへと変化し、位相比較器311には周波数が645kHzのPWMパルス列信号が入力される。この場合、位相比較器311に入力されるPWMパルス列信号と基準クロック信号との位相差が時間変化し、パルス幅の大きな位相差信号がチャージポンプ312に出力されるようになる。この結果、チャージポンプ312の出力信号のレベルがコンパレータ313に与えられる閾値信号の電圧値よりも大きくなり、コンパレータ313は、SP断線判定フラグをHighレベルとして、スピーカSPの断線が発生したことを報知する。以上が、周波数判定回路310の動作の詳細である。
<周波数判定回路320>
図3は周波数判定回路320の構成を示す回路図である。周波数判定回路320は、D−フリップフロップ322_1〜322_3からなるシフトレジスタ321により構成される。
D−フリップフロップ322_1のデータ入力端子Dは、高電位電源線に接続されている。また、D−フリップフロップ322_1〜322_3の各クロック端子Cにはオペアンプ110が出力するPWMパルス列信号が入力され、同D−フリップフロップ322_1〜322_3のリセット端子Rには周波数が96kHz(スピーカSPが断線していない場合のD級増幅部100の自励発振周波数(PWMパルス列信号)の1/4倍の周波数)のリセットパルスが与えられる。そして、シフトレジスタの最終段であるD−フリップフロップ322_3の出力端子QからスピーカSPの断線の有無を示すSP断線判定フラグが出力されるようになっている。
図4(a)および(b)は周波数判定回路320の各部の信号波形を例示するタイムチャートである。より詳細には、図4(a)は、スピーカSPが断線していない場合の各部の信号波形を示しており、図4(b)はスピーカSPが断線している場合の各部の信号波形を示している。
スピーカSPが断線していない場合には、図4(a)に示すように、D−フリップフロップ322_1〜322_3の各クロック端子Cにオペアンプ110から、スピーカSPが断線していない場合のD級増幅部100の自励発振周波数である周波数が384kHzのPWMパルス列信号が入力される。ここで、リセットパルスの信号レベルがHighレベルである間は、D−フリップフロップ322_1〜322_3はリセットされている。このため、リセットパルスの信号レベルがHighレベルの間は、PWMパルス列信号の立ち上がりに関係なくSP断線判定フラグの信号レベルはLowレベルとなる。また、リセットパルスの信号レベルがLowレベルの間は、PWMパルスが2回に亙って立ち上がる。従って、リセットパルスの信号レベルがHighレベルからLowレベルに切り換わった後、PWMパルスの2回の立ち上がりにより、D−フリップフロップ322_1のデータ入力端子Dに与えられたHighレベルの信号がD−フリップフロップ322_3のデータ入力端子Dまでシフトされる。しかし、リセットパルスの信号レベルがLowレベルである間に、3回目のPWMパルスの立ち上がりが発生することはないので、SP断線判定フラグの信号レベルはLowレベルを維持する。このようにスピーカSPが断線しておらず、基準周波数と同じ384kHzのPWMパルス列信号が発生する状況では、SP断線判定フラグはLowレベルを維持する。
一方、スピーカSPが断線すると、図4(b)に示すように周波数判定回路320には、スピーカSPが断線した場合のD級増幅部100の自励発振周波数である周波数が645kHzのPWMパルス列信号が入力される。この場合、図4(b)に例示するように、リセットパルスの信号レベルがLowレベルの間に、PWMパルスが4回に亙って立ち上がる。従って、リセットパルスの信号レベルがHighレベルからLowレベルに切り換わった後、PWMパルスの3回の立ち上がりがあると、D−フリップフロップ322_1のデータ入力端子Dに与えられたHighレベルの信号がD−フリップフロップ322_3の出力端子Qから出力され、SP断線判定フラグがLowレベルからHighレベルに変化する。そして、SP断線判定フラグは、リセットパルスがLowレベルである間、Highレベルを維持する。リセットパルスの信号レベルがLowレベルからHighレベルに切り換わると、SP断線判定フラグはHighレベルからLowレベルに変化する。このようにスピーカSPが断線し、基準周波数から変化した645kHzのPWMパルス列信号が発生する状況では、SP断線判定フラグがパルス状に変化する。従って、このSP断線判定フラグの挙動に基づいてスピーカSPの断線の有無を判断することができる。
<周波数判定回路330>
図5は周波数判定回路330の構成を示す回路図である。周波数判定回路330は、カウンタ331と、反転回路334_1〜334_3と、排他的論理和回路335と、論理積回路336とを有する。カウンタ331は、D−フリップフロップ332_1および332_2と排他的論理和回路333とを有する。
D−フリップフロップ332_1および332_2の各クロック端子Cにはオペアンプ110が出力するPWMパルス列信号が反転回路334_2により反転されて与えられる。また、D−フリップフロップ332_1および332_2のリセット端子Rには周波数が96kHz(スピーカSPが断線していない場合のD級増幅部100の自励発振周波数(PWMパルス列信号)の1/4倍の周波数)のリセットパルスが反転回路334_1により反転されて与えられる。D−フリップフロップ332_1のデータ入力端子Dには、同D−フリップフロップ332_1の負論理出力信号(出力端子Qの出力信号を反転した信号)が与えられる。排他的論理和回路333は、D−フリップフロップ332_1の出力端子Qから出力される正論理出力信号Q1と、D−フリップフロップ332_2の出力端子Qから出力される正論理出力信号Q2の排他的論理和を演算し、演算結果である信号をD−フリップフロップ332_2のデータ入力端子Dに出力する。以上がカウンタ331の構成である。
排他的論理和回路335は、D−フリップフロップ332_1の出力信号Q1およびD−フリップフロップ332_2の出力信号Q2の排他的論理和を演算し、演算結果である出力信号aを出力する。反転回路334_3は、この出力信号aを反転させ、出力信号bとして論理積回路336に出力する。論理積回路336には、図示しない判定フラグ発生手段から判定フラグが入力される。ここで、判定フラグはPWMパルス列信号に同期した周波数192kHz(スピーカSPが断線していない場合のD級増幅部100の自励発振周波数(PWMパルス列信号)の1/2倍の周波数)のパルス信号である。論理積回路336は、出力信号bと判定フラグの論理積をSP断線判定フラグとして出力する。
図6は、スピーカSPが断線していない場合における周波数判定回路330の各部の信号波形を例示するタイムチャートである。図7はスピーカSPが断線している場合における周波数判定回路330の各部の信号波形を例示するタイムチャートである。
スピーカSPが断線していない場合には、図6に示すように、D−フリップフロップ332_1および332_2の各クロック端子Cにオペアンプ110から周波数が384kHzのPWMパルス列信号が入力される。ここで、リセットパルスの信号レベルがHighレベルである間は、D−フリップフロップ332_1および332_2はリセットされている。このため、リセットパルスがHighレベルの間は、PWMパルス列信号の立ち上がりに関係なく、D−フリップフロップ332_1および332_2から出力される出力信号Q1およびQ2の信号レベルはLowレベルとなる。この結果、出力信号Q1およびQ2の排他的論理和である出力信号aの信号レベルはLowレベルとなり、出力信号aを反転させた出力信号bの信号レベルはHighレベルとなる。ここで、リセットパルスの信号レベルがHighレベルの間、判定フラグは1回立ち上がる。従って、図6に示すようにリセットパルスの信号レベルがHighレベルの間、判定フラグが1回立ち上がると、これに同期してSP断線判定フラグが1回立ち上がる。
リセットパルスの信号レベルがLowレベルの間は、PWMパルスの2回の立ち上がりにより、出力信号Q1およびQ2は、(Q1,Q2)=(1,0)→(0,1)と変化する。この結果、リセットパルスの信号レベルがLowレベルの間は、出力信号Q1およびQ2の排他的論理和である出力信号aの信号レベルはHighレベルとなり、出力信号aを反転させた出力信号bの信号レベルはLowレベルとなる。従って、図6に示すように、判定フラグの立ち上がりに関係なく、リセットパルスの信号レベルがLowレベルの間、SP断線判定フラグはLowレベルを維持する。このようにスピーカSPが断線しておらず、基準周波数と同じ384kHzのPWMパルス列信号が発生する状況では、SP断線判定フラグは、リセットパルスがHighレベルである間だけ、判定フラグに同期して立ち上がる。
一方、スピーカSPが断線すると、図7に示すように、D−フリップフロップ332_1および332_2の各クロック端子Cにオペアンプ110から周波数が645kHzのPWMパルス列信号が入力される。リセットパルスの信号レベルがHighレベルである間は、上述したように、SP断線判定フラグは判定フラグに同期して立ち上がる。一方、リセットパルスの信号レベルがLowレベルの間は、図7に示すように、PWMパルスが3回に亙って立ち上がる。従って、リセットパルスの信号レベルがHighレベルからLowレベルに切り換わった後、PWMパルスの3回の立ち上がりにより、出力信号Q1及びQ2は、(Q1,Q2)=(1,0)→(0,1)→(1,1)と変化する。この結果、出力信号Q1およびQ2の排他的論理和である出力信号aは、a=1→1→0と変化し、出力信号aを反転させた出力信号bはb=0→0→1と変化する。ここで、出力信号bの信号レベルがHighレベルに切り換わった後、判定フラグが1回立ち上がる。従って、図7に示すように、リセットパルスの信号レベルがLowレベルの間、判定フラグの立ち上がりに同期してSP断線判定フラグが1回立ち上がる。従って、スピーカSPに断線が発生した場合、判定フラグが立ち上がる度にSP断線判定フラグが立ち上がる。このようにスピーカSPが断線し、基準周波数から変化した645kHzのPWMパルス列信号が発生する状況では、SP断線判定フラグは、判定フラグが立ち上がる度に立ち上がる。従って、このSP断線判定フラグの挙動に基づいてスピーカSPの断線の有無を判断することができる。
<第2実施形態>
図8は、この発明の第2実施形態である電力増幅器1Aの構成を示す回路図である。なお、図8において、上記第1実施形態の各部と対応する部分には共通の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態による電力増幅器1Aは、D級増幅部100と断線検知回路400とを有する。
電力増幅器1Aにおいて、D級増幅部100の構成及び動作は上記第1実施形態と同様であるため、その詳細な説明は省略する。この電力増幅器1Aにおいて、スピーカSPの劣化或いは断線に伴いスピーカSPのインピーダンスが変化すると、D級増幅部100の利得が変化する。そこで、本実施形態における断線検知回路400は、D級増幅部100の利得、すなわち、D級増幅部100に与えられる入力信号とD級増幅部の出力信号との比率を算出し、当該比率を所定の閾値と比較することにより、スピーカSPの断線が発生したか否かを検知する。
断線検知回路400は、例えばオーディオ信号AINに対して音響処理を施すDSP(Digital Signal Processor)に設けられた機能である。なお、断線検知回路400を音響処理用のDSPに付加的に設けるのではなく、別途用意したIC等に設けてもよい。図8に示すように、オーディオ信号AINは、DSPで音響処理が施された後、D級増幅部100に出力される。断線検知回路400は、このD級増幅部100に与えられるオーディオ信号を取得する。以下、このD級増幅部100から断線検知回路400に与えられるオーディオ信号をオーディオ信号V1と表記する。また、断線検知回路400は、D級増幅部100からスピーカSPに出力されるオーディオ信号を取得する。図8に示すように、このD級増幅部100の出力信号は、抵抗510および抵抗520により分圧され、DSPで処理可能な電圧まで降圧された後、断線検知回路400に出力される。以下、このD級増幅部100から断線検知回路400に与えられる出力信号をオーディオ信号V2と表記する。
図9は、断線検知回路400の機能構成を示すブロック図である。図9に示すように、断線検知回路400は、A/D変換部410_1および410_2と、演算部411と、記憶部412と、判定部413とを有する。A/D変換部410_1は、オーディオ信号V1を取得すると、当該信号を一定のサンプリングレートでA/D変換し、当該信号のサンプルS1を演算部411に与える。A/D変換部410_2は、オーディオ信号V2を取得すると、当該信号を一定のサンプリングレートでA/D変換し、当該信号のサンプルS2を演算部411に与える。演算部411は、A/D変換部410_1および410_2からサンプルS1およびS2を取得すると、各々を記憶部412に時系列に格納する。この結果、記憶部412には、サンプルS1とサンプルS2とが時系列に格納される。演算部411は、記憶部412に格納されているサンプルS1およびS2を読み出すと、各サンプルについて、所定の時間単位における複数のサンプル値から平均値(或いは代表値)を算出する。そして、演算部411は、ある時刻におけるサンプルV1の平均値(或いは代表値)P1と、当該時刻の直近に現れるサンプルV2の平均値(或いは代表値)P2との比(すなわち、D級増幅部100の利得)であるP2/P1比を算出する。演算部411は、P2/P1比を算出すると、算出結果を判定部413に与える。判定部413は、演算部411から当該算出結果を受け取ると、P2/P1比が予め定められた所定範囲(すなわち、閾値)から外れているか否かを判定する。P2/P1比が所定範囲内にある場合、判定部413はSP断線判定フラグをLowレベルとする。一方、P2/P1比が所定範囲外にある場合、判定部413はSP断線判定フラグをHighレベルとして、スピーカSPに断線が発生したことを報知する。
次に、断線検知回路400の動作の詳細について説明する。
スピーカSPが断線していない場合には、オーディオ信号V1およびV2は、各々の振幅の比率を一定に維持しつつ断線検知回路400に出力される。オーディオ信号V1およびV2は、それぞれA/D変換部410_1および410_2でA/D変換され、演算部411に与えられた後、記憶部412に格納される。ここで、オーディオ信号V1の平均値(或いは代表値)P1とオーディオ信号V2の平均値(或いは代表値)P2は一定の比率を維持するため、演算部411が算出するP2/P1比は、スピーカSPが断線していない場合には、一定値を維持する。このP2/P1比は、スピーカSPが断線していない場合には、判定部413が実行する判定における所定範囲を超えることはないため、判定部413はSP断線判定フラグをLowレベルに維持し、スピーカSPに断線が発生していないことを報知する。
一方、スピーカSPの劣化或いは断線によりスピーカSPのインピーダンスが増加すると、D級増幅部100は利得を増加させるため、スピーカSPへの負荷電流が増加する。このため、断線検知回路400に出力されるオーディオ信号V2の平均値(或いは代表値)P2はオーディオ信号V1の平均値(或いは代表値)P1に比較して増大する。この結果、演算部411が算出するP2/P1比は増大し、判定部413が実行する判定における所定範囲を超えることになる。このため、判定部413は、SP断線判定フラグをHighレベルとして、スピーカSPに断線が発生したことを報知する。
本実施形態では、スピーカSPのインピーダンスの変動に伴い生じるD級増幅部100の利得の変化を断線検知回路400で検出することによりスピーカSPの断線の有無を検知する。ところで、スピーカのインピーダンスの変化は、スピーカの断線に先立って、スピーカの劣化により生じることが一般的である。従って、D級増幅部100の利得の変化を断線検知回路400で検出することにより、スピーカの断線を検知するだけではなく、スピーカの劣化も検出することができる。これにより、スピーカの劣化を事前に検出して、断線する可能性のあるスピーカを交換する等の措置をとることにより、スピーカの断線を未然に防ぐことができる。
また、本実施形態によると、デジタル音響処理を実行する音響機器であれば、断線検知回路400を設けるためのICを別途用意する必要はなく、音響処理用のDSPに断線検知回路400を付加的に設けることができる。このため、断線検知回路の設置に伴う回路規模の増大を防止することができるだけでなく、断線対策に要するコストも低減させることができる。
また、抵抗510および520の定数を適宜変更し、オーディオ信号V2を増加させることにより、スピーカSPの劣化に伴い生じる僅かなインピーダンスの変化を検出することができる。なお、オーディオ信号V2を増加させると、スピーカSPから放音される音の音質が劣化する可能性がある。しかし、この場合、音質の劣化がさほど気にならないギターの演奏や遊技機等で用いるスピーカ等の断線対策として断線検知回路400を用いればよい。
<他の実施形態>
以上、この発明の各種の実施形態について説明したが、この発明には他にも実施形態が考えられる。
(1)上記第1実施形態では、D級増幅部100の帰還回路を負帰還で構成したが、正帰還で構成してもよい。このような構成であっても、スピーカSPが断線するとD級増幅部100の自励発振周波数が変化することに変わりはないため、自励発振周波数の基準周波数からの変化を検出することにより、スピーカSPの断線を検知することができる。
(2)上記第1実施形態では、周波数判定回路としてシフトレジスタ或いはカウンタを用いた。しかし、PWMパルス列信号の立ち上がりのエッジ数又は立下りのエッジ数に基づき、D級増幅部100の自励発振周波数の基準周波数の変化を検出することができれば、他の回路を用いて周波数判定回路を構成してもよい。
(3)上記第1実施形態において、コンパレータ313に出力される閾値信号の電圧値を適宜調整してもよい。例えば、閾値をより厳しく設定することにより、自励発振周波数の僅かな変化を検出することができる。
(4)上記第1実施形態において、周波数判定回路として用いたシフトレジスタ或いはカウンタの処理能力を適宜変更してもよい。これにより、断線判定回路300による周波数判定の条件を種々変更することができる。
(5)上記第2実施形態では、D級増幅部100を自励型の発振回路で構成したが、他励型の発振回路で構成してもよい。この場合も、自励型で構成した場合と同様の効果が得られる。
(6)上記第2実施形態では、電力増幅器1に搭載されたDSPに断線検知回路400を設ける例について説明したが、断線検知回路400を搭載した断線検知装置を電力増幅器1に外付けしてもよい。すなわち、自励発振をするD級増幅部を有する電力増幅器の出力信号を取得する第1の信号取得部と、当該電力増幅器への入力信号を取得する第2の信号取得部と、当該第1の信号取得部が取得した出力信号と当該第2の信号取得部が取得した入力信号とを比較し、その比較結果を出力する比較部と、当該比較部から取得した比較結果を所定の閾値と比較し、当該D級増幅部の負荷の状態を判定する判定部とを具備する断線検知装置を電力増幅器に外付けするのである。この場合、DSPを搭載していない電力増幅器1であっても、当該断線検知装置により、スピーカSPの断線の有無を判定することが可能となる。