JP6512354B2 - 低α線放出量の金属又は錫合金及びその製造方法 - Google Patents
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Description
このため、この方法は、特許文献1の方法と比べて、より簡便に低α線放出量の金属を製造することができる。この方法では、所定の濃度の硝酸鉛水溶液を所定の添加速度で30分以上かけて添加し、かつ硫酸塩水溶液をフィルタリングして硫酸鉛を除去しながら、槽内で循環させるため、金属原料が含む鉛不純物量と最終的な狙いのα線放出量に合わせて、必要な割合で210Pbを低減することが可能である。
このため、最終的に得られる上記錫、銀、銅、亜鉛又はインジウムのいずれかの金属は、210Pbに起因するα線量が、特許文献1で製造される錫のα線量より大幅に減少し、製造初期及び製造から長時間経過した後のα線放出量は勿論のこと、大気中で100℃又は200℃で6時間加熱しても、加熱後のα線放出量は初期値から大きく変化しない。また、この方法では、連続的に210Pbの濃度を低減することが可能であるため、理論上どんなに210Pbの濃度が高い金属原料を用いても、低α線放出量の上記金属を製造することが可能である。
先ず、本発明の第1の実施形態の低α線放出量の錫、銀、銅、亜鉛及びインジウムのいずれかの金属の製造方法を図1に示す工程の順に、また図3に示す製造装置に基づいて説明する。
〔金属原料〕
第1の実施形態の低α線放出量の錫、銀、銅、亜鉛及びインジウムのいずれかの金属(図1においてMで表す。)を得るための金属原料は、不純物のPb含有量やα線放出量の多寡によってその選定に束縛されない。例えばPb濃度が320質量ppm程度含まれ、Pbによるα線放出量が9cph/cm2程度である市販品の錫のような金属を金属材料として使用しても、以下に述べる製造方法と製造装置とを使用して最終的に得られる上記金属においては、大気中で100℃又は200℃で6時間加熱した後のα線放出量を0.002cph/cm2以下にすることができる。なお、上記金属原料の形状は限定されず、粉末状であっても塊状であってもよい。溶解速度を速めるには、水素イオン交換膜を用いて電解溶出する方法を採用してもよい。
図1に示す工程(a)と工程(b)では、図3に示すように、硫酸塩調製槽11に供給口11aから硫酸水溶液(H2SO4)を入れて槽11に貯えておき、そこに供給口11bから上記金属原料を添加して、撹拌機12で撹拌することにより、上記金属原料を硫酸水溶液に溶解して上記金属原料の硫酸塩(MSO4)水溶液13を調製する。具体的には、硫酸錫、硫酸銀、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸インジウムの水溶液を調製する。以下、この水溶液を硫酸塩水溶液という。この時、硫酸塩調製槽11の底部に上記金属原料中の鉛(Pb)が硫酸鉛(PbSO4)となって沈殿する。硫酸塩調製槽11の外部に設けられたポンプ14により、硫酸塩水溶液をフィルター16に通して(以下、フィルタリングという。)、また移送管路17を経由して次の第1槽21に移送する。フィルター16により硫酸塩調製槽11の底部に沈殿する硫酸鉛は硫酸塩水溶液から除去される。フィルター16としてはメンブレンフィルターが好ましい。フィルターの孔径は0.1μm〜10μmの範囲が好ましい。
〔鉛(210Pb)の低減〕
図1に示す工程(c)では、図3に示す第1槽21には、ポンプ14により移送され、硫酸鉛が除去された硫酸塩水溶液23が貯えられる。この硫酸塩水溶液が第1槽21に所定量貯えられたところで、第1槽21において、供給口21aから10cph/cm2以下の低α線放出量の鉛(Pb)を含む所定の濃度の硝酸鉛水溶液を添加して、撹拌機22で少なくとも100rpmの回転速度で硫酸塩水溶液23を撹拌する。ここでは、硫酸鉛を除去した上記金属原料の硫酸塩水溶液23を温度10℃〜50℃に調整して低α線放出量の鉛(Pb)を含む硝酸鉛水溶液を所定の速度で30分以上かけて添加する。これにより、硫酸塩水溶液中で硫酸鉛(PbSO4)が第1槽21の底部に沈殿する。この硝酸鉛水溶液は、例えば表面α線放出量が10cph/cm2、純度が99.99%のPbを硝酸水溶液に混合して調製される。上記により、上記金属原料に含まれていた高α線放出量の原因である不純物の放射性同位体の鉛(210Pb)及び安定同位体の鉛(Pb)イオンが液中で混合した後に取り除かれ、液中の放射性同位体の鉛(210Pb)の含有量が徐々に低減される。なお、上記金属原料の硫酸塩水溶液中の硫酸塩の濃度としては、100g/L以上250g/L以下とすることが好ましい。硫酸塩水溶液中の硫酸(H2SO4)濃度としては10g/L以上50g/L以下とすることが好ましい。
〔錫、銀、銅、亜鉛及びインジウムのいずれかの金属の電解採取〕
続いて、バルブ27aを閉止し、バルブ28aを開放することにより、第1槽21から別の図示しない第2槽に鉛(210Pb)イオンのα線量が低下した硫酸塩水溶液をフィルター26でフィルタリングした後に移送する。温度10℃〜50℃の硫酸塩水溶液を電解液として用い、電解液中にアノードにチタン白金板を、カソードにSUS製の板をそれぞれ配置して、第2槽で硫酸塩水溶液を電解することにより、カソードに錫、銀、銅、亜鉛及びインジウムのいずれかの金属を析出させる。カソードに析出したこの金属を採取し、必要により溶解、鋳造することにより、上記金属のインゴットを得る。インゴットの一部を圧延して板状の金属を得ることもできる。
次に、本発明の第2の実施形態の低α線放出量の錫合金の製造方法を説明する。この製造方法では、第1の実施形態で得られた低α線放出量の金属錫(Sn)と、銀、銅、亜鉛、インジウム、ビスマス、ニッケル及びゲルマニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属とを鋳造することにより錫合金を製造する。ここで金属錫と合金を形成する金属としては、錫合金をはんだとして用いた場合、そのはんだの融点と機械特性の観点から、銀、銅、亜鉛、インジウムが好ましい。本発明の目的を達成するため、金属錫と合金を形成する銀、銅、亜鉛、インジウム、ビスマス又はニッケルのα線放出量は0.002cph/cm2以下である。
金属原料としてα線放出量が10.2cph/cm2でPb濃度が15ppmの市販のSn粉末を用いて、これを硫酸錫調製槽に貯えられた、濃度130g/Lの硫酸水溶液に添加混合して、50℃で溶解して200g/Lの硫酸錫水溶液1m3を調製した。これにより金属原料の錫に含まれていたPbが硫酸鉛として沈殿した。硫酸錫水溶液をユアサメンブレンシステム社製のメンブレンフィルター(孔径:0.2μm)を通してろ過し、硫酸鉛を除去した。次いで第1槽で、硫酸鉛を除去した硫酸錫水溶液を100rpmの回転速度で撹拌しながら、この水溶液にα線放出量が5cph/cm2のPbを含む硝酸鉛水溶液(硝酸鉛濃度:20質量%)を1mg/秒・L(1000mg/秒)の速度で30分かけて添加した。なお、第1槽としては、直径1.5mの円柱形の容器を用いた。この添加と同時に硫酸錫水溶液を上記と同一のメンブレンフィルターに通して硫酸鉛を硫酸錫水溶液から除去しながら、第1槽中で全体液量に対する循環流量が1体積%の割合になるように硫酸錫水溶液を循環させた。
実施例2〜16及び比較例1〜7では、実施例1で述べた原料錫、硫酸錫水溶液の撹拌速度・循環速度、硝酸鉛水溶液のPbのα線量、硝酸鉛濃度、添加速度、添加時間を上記表1に示すように変更した。以下、実施例1と同様にして、最終製品である板状の金属錫を得た。
比較例8では、本明細書の背景技術に記載した特許文献1の実施例1に準じて、最終製品である板状の金属錫を得た。具体的には、表面α線放出量が5cph/cm2、純度:99.99%でPb濃度が240ppmの市販のSnと、表面α線放出量が10cph/cm2、純度:99.99%の市販のPbを用意し、SnとPbを窒素雰囲気中、高純度黒鉛ルツボ内で高周波誘導炉を用いて溶解し、Sn−5質量%Pb合金を製造し、この合金を高純度黒鉛ルツボに入れて加熱溶融して、Pbを蒸発除去し、冷却後、ルツボ内に残留したSnを圧延して低α線放出量のSn板を作製した。
比較例9では、本明細書の背景技術に記載した特許文献2の実施例1に準じて、板状の金属錫を得た。具体的には、原料錫としてα線放出量が9.2cph/cm2でPb濃度が240ppmの市販のSn粉末を用いた。この原料錫を硫酸で浸出し、この浸出液を電解液とした。またアノードには3NレベルのSn板を用いた。これを電解温度20℃で電流密度1A/dm2という条件で電解を行った。カソードに析出した金属錫を採取し、圧延して最終製品である板状の金属錫を得た。
実施例1〜16及び比較例1〜9で得られた25種類の最終製品である金属錫について、次に述べる方法で、金属錫中のPb濃度及びこのPbによるα線放出量を加熱前と加熱後と加熱し徐冷してから1年経過した後で測定した。この結果を、以下の表2に示す。
金属錫中のPb濃度は、板状の金属錫を試料とし、これを熱塩酸に溶解し、得られた液をICP(プラズマ発光分光分析装置、定量下限:1質量ppm)で分析し、不純物Pb量を測定した。
初めに、得られた板状の金属錫を加熱前の試料1とした。この加熱前の試料1から放出されるα線量をアルファサイエンス社製ガスフロー式α線測定装置(MODEL−1950、測定下限:0.0005cph/cm2)で96時間測定した。この装置の測定下限は0.0005cph/cm2である。この時のα線放出量を加熱前のα線放出量とした。次に、加熱前で測定した試料1を大気中、100℃で6時間加熱した後、室温まで徐冷して試料2とした。この試料2のα線放出量を試料1と同様の方法で測定した。この時のα線放出量を「加熱後(100℃)」とした。次に、α線放出量の測定が終わった試料2を大気中、200℃で6時間加熱した後、室温まで徐冷して試料3とした。この試料3のα線放出量を試料1と同様の方法で測定した。この時のα線放出量を「加熱後(200℃)」とした。更に試料3をコンタミネーションを防ぐために真空梱包して1年間保管して試料4とし、この試料4のα線放出量を試料1と同様の方法で測定した。この時のα線放出量を「1年後」とした。
金属原料として実施例1で述べた原料錫の代わりにα線放出量が0.2cph/cm2でPb濃度が15ppmの市販のCu粉末を用い、実施例1で述べた硫酸錫水溶液の代わり硫酸銅水溶液を調製した。
金属原料として実施例1で述べた原料錫の代わりにα線放出量が3cph/cm2でPb濃度が15ppmの市販のZn粉末を用い、実施例1で述べた硫酸錫水溶液の代わり硫酸亜鉛水溶液を調製した。
金属原料として実施例1で述べた原料錫の代わりにα線放出量が5cph/cm2でPb濃度が15ppmの市販のインジウム粉末を用い、実施例1で述べた硫酸錫水溶液の代わり硫酸インジウム水溶液を調製した。
実施例17〜19及び比較例10〜12で得られた金属銅、金属亜鉛及び金属インジウムについて、前述した方法で、これらの金属中のPb濃度及びこのPbによるα線放出量を、加熱前と加熱後と1年後でそれぞれ測定した。この結果を、以下の表4に示す。
実施例20〜27では、実施例1で得られた板状の金属錫を用い、比較例13〜20では、比較例1で得られた板状の金属錫を用いた。これらの金属錫と、以下の表5に示すα線放出量が0.002cph/cm2以下の銀、銅、亜鉛、インジウム、ビスマス、ニッケル、ゲルマニウムの金属原料とを切断、計量し、カーボンルツボに入れ、高周波誘導真空溶解炉を用いて、真空雰囲気下で、各金属原料の溶融温度以上の温度に加熱して、最終製品である錫合金を鋳造した。
実施例20〜27及び比較例13〜20で得られた最終製品である錫合金について、前述した方法で、これらの錫合金中のPb濃度及びこのPbによるα線放出量を、加熱前と加熱後と1年後で測定した。この結果を以下の表6に示す。
12, 22 攪拌機
13 硫酸塩水溶液
14, 24 ポンプ
16, 26 フィルター
17, 28 移送管路
21 第1槽
23 硫酸塩水溶液
27 循環管路
Claims (9)
- 錫、銀、銅、亜鉛又はインジウムのいずれかの低α線放出量の金属であって、
大気中で100℃、6時間加熱した後のα線の放出量が0.002cph/cm2以下であることを特徴とする低α線放出量の金属。 - 請求項1記載の低α線放出量の錫と、銀、銅、亜鉛、インジウム、ビスマス、ニッケル及びゲルマニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属との合金であって、
大気中で100℃、6時間加熱した後のα線の放出量が0.002cph/cm2以下であることを特徴とする低α線放出量の錫合金。 - 前記低α線放出量の錫と合金を形成する金属が、銀、銅、亜鉛及びインジウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属である請求項2記載の低α線放出量の錫合金。
- 大気中で200℃、6時間加熱した後の前記金属又は前記錫合金のα線の放出量が0.002cph/cm2以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の低α線放出量の金属又は錫合金。
- 不純物として鉛をそれぞれ含む錫、銀、銅、亜鉛又はインジウムのいずれかの金属を硫酸水溶液に溶解して前記金属の硫酸塩水溶液を調製するとともに前記硫酸塩水溶液中で硫酸鉛を沈殿させる工程(a)と、
前記工程(a)の前記硫酸塩水溶液をフィルタリングして前記硫酸鉛を前記硫酸塩水溶液から除去する工程(b)と、
第1槽で、前記工程(b)の前記硫酸鉛を除去した硫酸塩水溶液を少なくとも100rpmの回転速度で撹拌しながらα線放出量が10cph/cm2以下の鉛を含む所定の濃度の硝酸鉛水溶液を所定の速度で30分以上かけて添加して、硫酸塩水溶液中で硫酸鉛を沈殿させ、同時に前記硫酸塩水溶液をフィルタリングして前記硫酸鉛を前記硫酸塩水溶液から除去しながら、前記第1槽中で全体液量に対する循環流量が少なくとも1体積%の割合で循環させる工程(c)と、
前記工程(c)の前記硫酸塩水溶液を前記第1槽から別の第2槽に移した後、前記硫酸塩水溶液を電解液として前記金属を電解採取する工程(d)と
を含むことを特徴とする低α線放出量の金属の製造方法。 - 前記工程(c)の前記硝酸鉛水溶液中の硝酸鉛の所定の濃度が10質量%〜30質量%である請求項5記載の低α線放出量の金属の製造方法。
- 前記工程(c)の前記硝酸鉛水溶液の所定の添加速度が前記硫酸塩水溶液1リットルに対して1mg/秒〜100mg/秒である請求項5又は6記載の低α線放出量の金属の製造方法。
- 金属錫に、銀、銅、亜鉛、インジウム、ビスマス、ニッケル及びゲルマニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属を添加混合して、この混合物を鋳造することによって低α線放出量の錫合金を製造する方法であって、
前記金属錫は、請求項5ないし7のいずれか1項に記載の方法により製造された金属錫であり、
前記金属錫に添加する金属は、α線放出量が0.002cph/cm2以下であることを特徴とする低α線放出量の錫合金の製造方法。 - 金属錫に、銀、銅、亜鉛及びインジウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属を添加混合して、この混合物を鋳造することによって低α線放出量の錫合金を製造する方法であって、
前記金属錫及び前記金属錫に添加する金属は、それぞれ請求項5ないし7のいずれか1項に記載の方法により製造された金属であることを特徴とする低α線放出量の錫合金の製造方法。
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