JP6504842B2 - 滑り性に優れた黒色めっき鋼板 - Google Patents
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また、鋼板の凸部先端を円弧形状としている。コインシューターの使用初期時には、接触面積が小さく良好な滑り性が維持される。しかし、接触面積が極端に小さいと、鋼板の初期磨耗が大きく、鋼板の凸部形状の経時変化により、安定した滑りやすさを発揮できないことが懸念される。そのため、圧延ロールおよび鋼板の寿命が短くなり、コスト高になる可能性がある。
さらに、この黒色めっき鋼板の表面にエンボス加工により形成された複数の凸部を備えることにより、当該鋼板の表面に接触する物品との接触面積が縮小し、その結果、滑り性が一層向上する。
本発明に係る黒色めっき鋼板は、基材鋼板と、溶融Al、Mg含有Znめっき層(以下「めっき層」ともいう。)を有する。当該黒色めっき鋼板は、さらに、めっき層の上に無機系皮膜または有機系樹脂皮膜を有していてもよい。
本発明に係る黒色めっき鋼板は、そのめっき層中に分布しているZnの黒色酸化物を含有する。ここで、めっき層中とは、めっき層表面とめっき層内部の両方を含む。本発明に係る黒色めっき鋼板では、Zn2Mg相に由来するZnの黒色酸化物がラメラ状に分布している。Znの黒色酸化物が生成する機構は、以下のように考えられる。
また、めっき層中にAlの初晶が存在する場合は、より短時間でめっき層内部にZnの黒色酸化物が進行する。Alは、ZnおよびMgと比較してH2Oとの反応性が高い。したがって、金属Alは、高温の水蒸気と接触すると、速やかに酸化物となる。初晶Al相に含まれるAlが速やかに酸化した後は、その下側に位置するZn2Mg相に含まれるZnの酸化がめっき層の深さ方向に進行する。このように初晶Al相などのAlの単独相は、めっき層内部のZnの酸化を促進するための「パス」となる。結果として、めっき層中に初晶Al相などのAlの単独相が存在する場合は、より短時間でめっき層内部にZnの
黒色酸化物が形成される。
上記の黒色化は、めっき鋼板を密封容器中で水蒸気に接触させて、めっき層を黒色させる処理である。水蒸気処理を行う際は、雰囲気中に酸素が存在すると、めっき層を十分に黒色できない場合がある。そこで、酸素濃度を調整できる密閉系で水蒸気処理を行うことが好ましく、雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を下げて水蒸気処理を行うことが好ましい。具体的には、水蒸気処理中の酸素濃度は、13%以下であることが好ましい。雰囲気中の酸素濃度を下げる方法としては。水蒸気濃度(相対湿度)を挙げてもよいし、容器内の空気を不活性ガスで置換してもよいし、容器内に空気を真空ポンプで除去してもよい。
水蒸気処理の温度を100℃未満に下げたい場合、容器内の圧力を大気圧以上として酸素の混入を抑制するため、不活性ガスを容器内に入れてもよい。不活性ガスの種類は、黒色化反応に無関係なものであれば特に限定されない。不活性ガスの例には、Ar、N2、He、Ne、Kr、Xeなどが含まれる。これらの中では、安価に入手可能なAr、N2、Heが好ましい。また、真空ポンプなどで容器内の空気を除去してから水蒸気処理を行ってもよい。
水蒸気処理の処理時間は、水蒸気処理の条件(温度や相対湿度、圧力など)やめっき層
中のAlおよびMgの量、必要とする明度などに応じて適宜設定されうる。
形加工や溶接などを行った後のめっき鋼板のいずれに対して行ってもよい。
本発明は、この黒色化されためっき鋼板に対して、さらにその表面に凹凸パターンを付与するエンボス加工を施すことにより、滑り性を向上させたことに特徴がある。滑りやすい機能を付与するため、黒色化されためっき鋼板の表面には、複数の凸部を設けた凹凸パターンを形成することが好ましい。このような凹凸パターンを付与するエンボス加工は、圧延法、プレス加工、エッチング加工などを用いることができる。
本発明に係る黒色めっき鋼板は、その表面における凸部面積率が15〜75%であることが好ましい。凸部面積率とは、凸部が鋼板表面を占有する面積率をいうが、本明細書においては、凸部の頂上から凹部の底までの距離を凸部高さHとするとき、凸部の頂上から高さHの10%までの部分が表面全体に占める割合をいうものとした。凸部面積率が15%未満であると、凹凸パターンを圧延で形成する際に、段付きロールの大径部によって凹部を形成する割合が高い分、圧延荷重が増大して圧延ロールへの負荷が増大するため、ロール寿命が低下し、製造コストの上昇を招く。一方、凸部面積率が75%を超えると、黒色めっき鋼板と物品との接触面積が比較的大きくなるため、黒色めっき鋼板の滑り性が低下する。
本発明に係る黒色めっき鋼板の凹凸差は、0.01〜0.2mmの凹凸パターンであることが好ましい。本明細書において、当該凹凸差は、凸部高さHを鋼板表面における任意の領域面積(例えば、100mm2の範囲内)で2次元の輪郭形状を5箇所測定し、その結果を平均化した値を意味している。凹凸差が0.01mm以下であると、使用にともない磨耗によって長期間の使用が困難になる。凹凸差が0.2mm以上であると、凹凸パターンを圧延で形成する際に、圧延荷重が増大して圧延ロールへの負荷が増大するため、ロール寿命が低下し、製造コストの上昇を招く。
このように、本発明は、黒色めっき鋼板の凸部面積率を15〜75%、凹凸差を0.01〜0.2mmとすることにより、金属素材等の硬い物品と接触しても良好な滑り性を保持して長期間の使用が可能になる。
本発明に係る黒色めっき鋼板は、エンボス加工によって凹凸パターンを形成したものを用いることができる。凹凸パターンの配列は、部分的または全面的にランダムであってもよく規則的であってもよい。例えば、図1に示すような凹凸模様を形成することができる。図1のA部を拡大した3次元プロフィールを図2に示す。図1の凹凸パターン(凹凸模様)は、凸部面積率が約38%、凹凸差が0.06〜0.15mmの範囲にある例である。複数の凸部を形成したことにより、黒色めっき鋼板と物品との接触面積が縮小し、接触させた物品は、滑りやすくなる。また、鋼板表面に形成した凹凸模様は、配列方向の無秩序性が高いと、滑る方向に依存しない安定した滑りやすさが得られる点で好ましい。また、本発明では、物品との接触状態が面接触であるため、黒色めっき鋼板の凸部がほぼ均等に磨耗するので、長期間の使用にとって好ましい。
次いで、このめっき鋼板を密封容器中で、110℃、24時間水蒸気と接触させ、めっき層の表面を黒色化させた。水蒸気の雰囲気は、酸素濃度4%、相対湿度80%であった。これを平板状の黒色めっき鋼板として滑り性評価試験に供した。
その後、図7に示すような4段圧延機を用いて、黒色めっき鋼板の表面に所定の凹凸パターンを形成するエンボス加工を施して、試験体を得た。上記圧延機の段付きロール径が110mmであり、圧延荷重150kN、圧延速度0.5m/minでエンボス加工を施した。
図5に示すような摩擦磨耗試験機6を用いて、めっき鋼板の摩擦係数を測定し、めっき鋼板の滑り性を評価した。摩擦磨耗試験機6の基台の上に試験体1のめっき鋼板を置いて、その上に厚さ1.0mmのSPCC(JIS G 3141)からなる冷間圧延鋼板(以下、「SPCC」という。)を重ねる。SPCC2にはフォルダー4を介して錘3が接続しており、この錘3の一定荷重を付加しながら、SPCC2を一定速度で回転し、連続的に試験体と摩擦させる。回転中のせん断力を測定し、せん断力をτ、錘から作用する荷重をpとして、式(1)から摩擦係数μを算出した。この摩擦係数μが小さいほど、試験体1(めっき鋼板)とSPCC2との間で発生する摩擦力が小さい。すなわち、物品が試験体1(めっき鋼板)と接触して移動する状況では、当該物品を小さい摩擦力で移動させることができるから、上記の摩擦係数μが小さいほど、試験体1のめっき鋼板の滑り性が良好であると評価できる。
まず、黒色めっき鋼板の滑り性を評価するために、平板状の黒色めっき鋼板(比較例7)と、水蒸気処理を施していない平板状の従来のめっき鋼板(比較例8)を用いて評価試験を行った。その結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1〜3は、本発明例に相当する黒色めっき鋼板であって、凸部面積率が約38%の凹凸パターン(凹凸模様A)が付与されたものであり、凹凸差(mm)が0.06、0.11、0.15である3種の試験体である。各試験体の摩擦係数は、0.07〜0.10の小さい範囲にあった。本発明例と同様の黒色めっき鋼板を用いた比較例7(摩擦係数0.12)、水蒸気処理を施していない従来のめっき鋼板を用いた比較例8(摩擦係数0.24)のような平板状の鋼板と比べて、実施例1〜3の本発明例は、滑り性に優れることが明らかになった。
実施例4〜6は、本発明例に相当する黒色めっき鋼板であって、凸部面積率が約29%の凹凸パターン(凹凸模様B)が付与されたものであり、凹凸差(mm)が0.03、0.06、0.10である3種の試験体である。各試験体の摩擦係数は、0.06〜0.07の小さい範囲にあり、滑り性に優れていた。また、凹凸パターンのない平板状の鋼板である比較例7、8と比べて摩擦係数が小さく、良好な滑り性を有していた。
2 SPCC
3 錘
4 フォルダー
5 円盤
6 摩耗摩擦試験機
7 黒色めっき鋼板
8 凸部
9 凹部
10 上ワークロール(段付きロール)
11 下ワークロール(フラットロール)
12 バックアップロール
13 バックアップロール
14 ペイオフリール
15 巻取りロール
16 めっき鋼板
Claims (2)
- Al:1.0〜22.0質量%、Mg:1.3〜10.0質量%を含み、かつZn2Mg相がめっき層中に分布している溶融Al、Mg含有Znめっき層を有しており、前記めっき層中にZnの黒色酸化物が分布しており、当該めっき層の表面の明度がL * 値で60以下である表面を有する黒色めっき鋼板であって、
当該表面に複数の凸部を有しており、
前記凸部が前記表面を占有する面積率は、15〜75%であり、
0.06〜0.10の摩擦係数μを有する、
黒色めっき鋼板。
ここで、前記面積率は、前記凸部の頂上から凹部の底までの距離を凸部高さとするとき、前記凸部の頂上から前記凸部高さの10%までの部分が表面全体に占める割合である。
前記摩擦係数μは、式(1)により得られるものである。
τ=μp 式(1) (τ:せん断力、p:荷重) - 前記複数の凸部は、その凹凸差が0.01〜0.2mmである、請求項1に記載の黒色めっき鋼板。
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