(第1の実施形態)
以下、車両の運転支援装置を具体化した第1の実施形態を図1〜図7に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両の運転支援装置である制御装置50を備える車両が図示されている。図1に示すように、車両は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRが駆動輪として機能する四輪駆動車である。
こうした車両は、運転者によるアクセルペダル11の操作量に応じた駆動力を出力するエンジン12を備えている。エンジン12から出力された駆動力は、トランスミッション13を通じてトランスファ14に伝達される。そして、トランスファ14によって前輪側に分配された駆動力が、前輪用デファレンシャル15を通じて前輪FL,FRに伝達され、トランスファ14よって後輪側に分配された駆動力が、後輪用デファレンシャル16を通じて後輪RL,RRに伝達される。なお、本明細書では、運転者がアクセルペダル11を操作することを、「アクセル操作」ということもある。
上記のトランスミッション13は、マニュアルトランスミッションである。このトランスミッション13には、クラッチ17を通じてエンジン12からの駆動力が伝達される。こうしたトランスミッション13では、運転者によるシフトレバー18の操作に応じて変速比が選択される。なお、クラッチ17は、クラッチペダル19の操作に応じて作動する。すなわち、クラッチペダル19の操作量が多くなるほどクラッチ17による動力伝達効率が低下され、エンジン12からの駆動力がトランスミッション13に伝達されにくくなる。
車両の制動装置20は、運転者によるブレーキペダル21の操作力に応じた液圧を発生する液圧発生装置22と、各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力を個別に調整することのできるブレーキアクチュエータ23とを有している。なお、本明細書では、運転者がブレーキペダル21を操作することを、「ブレーキ操作」ということもある。
また、車両には、各車輪FL,FR,RL,RRに個別対応するブレーキ機構25a,25b,25c,25dが設けられている。ブレーキ機構25a〜25dは、そのシリンダ内で発生している液圧に応じた制動力を車輪FL,FR,RL,RRに付与する。すなわち、運転者がブレーキ操作を行っている場合、液圧発生装置22で発生している液圧に応じた量のブレーキ液がブレーキ機構25a〜25dのシリンダ内に供給されることにより、シリンダ内の液圧が増大される。また、ブレーキアクチュエータ23が作動している場合、同ブレーキアクチュエータ23によってブレーキ機構25a〜25dのシリンダ内の液圧が調整される。
また、車両には、手動操作部30が設けられている。この手動操作部30は、後述する車両降坂制御の実施を運転者が要求する際に操作されるスイッチ(以下、「DACスイッチ」ともいう。)32を有している。このDACスイッチ32は、運転者による操作によってオン・オフに切り替えられるスイッチである。そして、DACスイッチ32がオンである場合、車両降坂制御の開始条件が成立すると、車両降坂制御が実施される。
また、車両には、車両の状態を運転者に報知するための報知装置35が設けられている。例えば、報知装置35は、車両降坂制御が実施されている場合、同制御が実施中である旨を運転者に報知する。なお、報知装置35としては、点灯ランプ、スピーカやナビゲーション装置の表示画面などを挙げることができる。
こうした車両には、ブレーキスイッチSW1、アクセル開度センサSE1、シフトポジションセンサSE2、クラッチセンサSE3、車輪速度センサSE4,SE5,SE6,SE7、及び前後方向加速度センサSE8が設けられている。ブレーキスイッチSW1は、ブレーキペダル21が操作されているか否かを検出する。アクセル開度センサSE1は、アクセルペダル11の操作量であるアクセル操作量に相当するアクセル開度ACを検出する。シフトポジションセンサSE2は、シフトレバー18がニュートラル位置に位置するときにニュートラル信号SNを出力する。
クラッチセンサSE3は、クラッチペダル19の操作によって作動されるクラッチ17の状態に応じた信号であるクラッチ信号CLを出力する。例えば、クラッチ17が半係合状態になる時点のクラッチペダル19の操作量を判定操作量とした場合、クラッチセンサSE3は、運転者によるクラッチペダル19の操作量が判定操作量以上であるときにはクラッチ17による動力伝達が不能である旨のクラッチ信号CLを出力する。一方、クラッチセンサSE3は、クラッチペダル19の操作量が判定操作量未満であるときにはクラッチ17による動力伝達が可能である旨のクラッチ信号CLを出力する。
車輪速度センサSE4〜SE7は、車輪FL,FR,RL,RR毎に設けられており、対応する車輪の車輪速度VWを検出する。前後方向加速度センサSE8は、車両の前後方向の加速度である前後加速度Gxを検出する。そして、これらの検出系によって検出された情報は、制御装置50に入力される。
制御装置50は、エンジン12を制御するエンジンECU51、トランスミッション13を制御する変速機ECU52、及びブレーキアクチュエータ23を制御するブレーキECU53を備えている。これら各ECU51〜53は、各種の情報や指令を相互に送受信可能となっている。
次に、図2を参照し、車両の制動装置20の構成について説明する。
図2に示すように、制動装置20の液圧発生装置22は、マスタシリンダ61と、運転者によるブレーキペダル21の操作力であるブレーキ操作力を助勢するブースタ装置62と、ブレーキ液が貯留される大気圧リザーバ63とを備えている。そして、運転者がブレーキ操作を行うと、ブースタ装置62によって助勢されたブレーキ操作力に応じた液圧がマスタシリンダ61内に発生するようになっている。
制動装置20のブレーキアクチュエータ23には、2系統の液圧回路711,712が設けられている。第1の液圧回路711には、左前輪用のブレーキ機構25aと右後輪用のブレーキ機構25dとが接続されるとともに、第2の液圧回路712には、右前輪用のブレーキ機構25bと左後輪用のブレーキ機構25cとが接続されている。そして、液圧発生装置22から第1及び第2の液圧回路711,712にブレーキ液が流入されると、ブレーキ機構25a〜25dのシリンダ内にブレーキ液が流入し、同シリンダ内の液圧が増大される。その結果、車輪FL,FR,RL,RRには、ブレーキ機構25a〜25dのシリンダ内の液圧に応じた制動力が付与される。
液圧発生装置22のマスタシリンダ61とブレーキ機構25a〜25dとを接続する経路には、リニア電磁弁である差圧調整弁721,722が設けられている。また、第1の液圧回路711において差圧調整弁721よりもブレーキ機構25a,25d側には、左前輪用の経路73a及び右後輪用の経路73dが設けられるとともに、第2の液圧回路712において差圧調整弁722よりもブレーキ機構25b,25c側には、右前輪用の経路73b及び左後輪用の経路73cが設けられている。そして、こうした経路73a〜73dには、ブレーキ機構25a〜25dのシリンダ内の液圧の増大を規制する際に動作する常開型の電磁弁である増圧弁74a,74b,74c,74dと、液圧を減少させる際に動作する常閉型の電磁弁である減圧弁75a,75b,75c,75dとが設けられている。
また、第1及び第2の液圧回路711,712には、ブレーキ機構25a〜25dのシリンダから減圧弁75a〜75dを通じて流出したブレーキ液を一時貯留するためのリザーバ761,762と、ポンプ用モータ77の回転に基づき動作する供給ポンプ781,782とが接続されている。リザーバ761,762は、吸入用流路791,792を通じて供給ポンプ781,782に接続されるとともに、マスタ側流路801,802を通じて差圧調整弁721,722よりもマスタシリンダ61側の通路に接続されている。また、供給ポンプ781,782は、供給用流路811,812を通じて差圧調整弁721,722と増圧弁74a〜74dの間の接続部位821,822に接続されている。
そして、供給ポンプ781,782は、ポンプ用モータ77が駆動する場合に、リザーバ761,762及びマスタシリンダ61内から吸入用流路791,792及びマスタ側流路801,802を通じてブレーキ液を汲み取り、該ブレーキ液を供給用流路811,812内に吐出する。すなわち、差圧調整弁721,722と供給ポンプ781,782とが動作することによって、マスタシリンダ61とブレーキ機構25a〜25dのシリンダとの間に差圧が発生し、同差圧に応じた制動力が車両に付与されるようになっている。
ただし、供給ポンプ781,782が動作している状況下で、差圧調整弁721,722が全開である場合、供給ポンプ781,782からブレーキ液が吐出されていても、吐出されたブレーキ液は、ブレーキ機構25a〜25dのシリンダ内に供給されず、マスタシリンダ61側に戻される。すなわち、ブレーキ機構25a〜25dのシリンダの液圧が増大されず、車両に付与する制動力が増大されない。
車両の運転支援装置の一例である制御装置50を構成するブレーキECU53は、降坂路での走行を支援するための制御として、DACなどの車両降坂制御を実施するようになっている。DACは「Downhill Assist Control」の略記である。この点で、本実施形態では、車両降坂制御が「運転支援制御」の一例であり、ブレーキECU53により、「制動制御部」の一例が構成されている。
車両降坂制御は、ブレーキアクチュエータ23を作動させることにより、極低速(例えば、5km/h)に設定された目標速度VS_Tを車両の車体速度VSが超えないように車両に付与する制動力を調整する制御である。すなわち、車両降坂制御の開始条件が成立すると、目標制動力が、その時点の車体速度VS及び目標速度VS_Tに基づいて決定され、車両に付与する制動力が目標制動力に近づくように、ブレーキアクチュエータ23が制御される。具体的には、車両降坂制御の実施中にあっては、供給ポンプ781,782が一定速度で動作し続け、差圧調整弁721,722の開度が、目標制動力に応じた開度にされる。そして、こうした車両降坂制御が実施されることにより、車両の車体速度VSが大きくなりすぎることが抑制されるため、運転者はステアリングホイールの操作に集中することが可能となる。
こうした車両降坂制御の開始条件は、DACスイッチ32がオンであること、及び、車両の車体速度VSが開始速度VSTh以上であることの双方を含んでいる。
なお、上記の車両降坂制御は、降坂路の走行時に限らず、実施することができる。例えば、凍結している路面などのように摩擦係数の低い路面を車両が走行する際でも車両降坂制御を実施することにより、運転者による車両操作を適切に支援することができる。
ところで、降坂路を走行している車両には、エンジンブレーキが作用している。そのため、ブレーキ機構25a〜25dのシリンダ内の液圧を増大させることにより車両に付与する制動力を増大させなくても、降坂路を走行している車両をほぼ一定速度で走行させることが可能な場合がある。こうした場合であっても、車体速度VSが開始速度VSTh以上になって開始条件が成立すると、車両降坂制御が開始され、制動装置20が作動し始める。
ちなみに、目標速度VS_Tは、開始速度VSThと等しい値、又は開始速度VSThよりも大きい値に決定されている。そのため、車体速度VSが開始速度VSTh近傍の速度でほぼ一定である場合、目標制動力BP_Tがほぼ「0(零)」にされる。この場合、制動装置20では、供給ポンプ781,782が動作されるものの、差圧調整弁721,722がほぼ全開となり、制動装置20が作動されても車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力がほとんど増大されないこととなる。こうした制動装置20の作動が不要と判断することができる。
そこで、本実施形態では、こうした制動装置20の不要な作動を抑制するために、開始速度VSThを所定値で固定しないようにした。すなわち、運転者によるアクセル操作が解消されたときには、開始速度VSThを、アクセル操作が解消された時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きい値に決定するようにした。これにより、アクセル操作が解消された以降で、車体速度VSが開始速度VSTh近傍で保持される場合、すなわち車両がほとんど加速しない場合、車両降坂制御の開始条件が成立しにくくなる。
また、運転者によるブレーキ操作が解消されたときには、開始速度VSThを、ブレーキ操作が解消された時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きい値に決定するようにした。これにより、ブレーキ操作が解消された以降で、車体速度VSが開始速度VSTh近傍で保持される場合、すなわち車両がほとんど加速しない場合、車両降坂制御の開始条件が成立しにくくなる。
また、車両降坂制御の実施が終了されたときには、開始速度VSThを、車両降坂制御の実施が終了された時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きい値に決定するようにした。これにより、車両降坂制御の実施が終了された以降で、車体速度VSが開始速度VSTh近傍で保持される場合、すなわち車両がほとんど加速しない場合、車両降坂制御の開始条件が成立しにくくなる。
次に、図3のフローチャートを参照し、開始速度VSThを決定するためにブレーキECU53が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、DACスイッチ32がオンであるときに実行される。
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、ブレーキECU53は、アクセル操作がオンからオフになった直後であるか否か、すなわちアクセル操作が解消された直後であるか否かを判定する(ステップS11)。例えば、ブレーキECU53は、アクセル開度センサSE1によって検出されたアクセル開度ACが、アクセルオン・オフの判断基準である開度閾値未満であるときに、アクセル操作がオフであると判断することができる。そして、アクセル操作が解消された直後、すなわちアクセル開度ACが開度閾値以上である状態からアクセル開度ACが開度閾値未満である状態に移行した直後である場合(ステップS11:YES)、ブレーキECU53は、基準速度VSAに現時点の車体速度VSを代入する(ステップS12)。その後、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS18に移行する。なお、車体速度VSは、各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWのうち少なくとも1つの車輪速度(例えば、最も大きい車輪速度)に基づいて算出される。
一方、アクセル操作がオンからオフになった直後ではない場合(ステップS11:NO)、ブレーキECU53は、ブレーキ操作がオンからオフになった直後であるか否か、すなわちブレーキ操作が解消された直後であるか否かを判定する(ステップS13)。例えば、ブレーキECU53は、ブレーキスイッチSW1がオフであるときにはブレーキ操作が行われていないと判断することができる。そして、ブレーキ操作が解消された直後、すなわちブレーキスイッチSW1がオンからオフに移行した直後である場合(ステップS13:YES)、ブレーキECU53は、基準速度VSAに現時点の車体速度VSを代入する(ステップS14)。その後、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS18に移行する。
一方、ブレーキ操作がオンからオフになった直後ではない場合(ステップS13:NO)、ブレーキECU53は、車両降坂制御の実施が終了した直後であるか否かを判定する(ステップS15)。車両降坂制御の実施が終了した直後である場合(ステップS15:YES)、ブレーキECU53は、基準速度VSAに現時点の車体速度VSを代入する(ステップS16)。その後、ブレーキECU53は、その処理を後述するステップS18に移行する。
一方、車両降坂制御の実施が終了した直後ではない場合(ステップS15:NO)、ブレーキECU53は、開始速度VSThを、現時点の車両の走行状態から求まる規定開始速度VS1とする(ステップS17)。その後、ブレーキECU53は、本処理ルーチンを終了する。
なお、規定開始速度VS1は、前回の制御サイクルで決定された開始速度VSThと、現時点の車体速度VSと規定値ΔVSとの和とのうち、小さい方の値に決定される。そのため、アクセル操作が解消された以降、ブレーキ操作が解消された以降、車両降坂制御が終了された以降などで車体速度VSが大きくなるときには、規定開始速度VS1は、アクセル操作の解消直後、ブレーキ操作の解消直後、車両降坂制御の終了直後に決定された開始速度VSThで保持される。その一方で、アクセル操作が解消された以降、ブレーキ操作が解消された以降、車両降坂制御が終了された以降などで車体速度VSが小さくなるときには、規定開始速度VS1は、アクセル操作の解消直後、ブレーキ操作の解消直後、車両降坂制御の終了直後に決定された開始速度VSThから小さくなる。
ステップS18において、ブレーキECU53は、上記ステップS12、又は、ステップS14、又は、ステップS16で決定した基準速度VSAと予め設定された規定値ΔVSとの和を、仮開始速度VSThAとする。この規定値ΔVSは、車両が加速しているか否かを判断できる程度の値(例えば、1km/h)に設定されている。
続いて、ブレーキECU53は、算出した仮開始速度VSThAが上記規定開始速度VS1以上であるか否かを判定する(ステップS19)。そして、仮開始速度VSThAが規定開始速度VS1未満である場合(ステップS19:NO)、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS17に移行する。一方、仮開始速度VSThAが規定開始速度VS1以上である場合(ステップS19:YES)、ブレーキECU53は、開始速度VSThを仮開始速度VSThAとし(ステップS20)、その後、本処理ルーチンを終了する。
次に、図4のフローチャートを参照し、車両降坂制御を実施するためにブレーキECU53が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、本処理ルーチンは、DACスイッチ32がオンであるときに実行される。
図4に示すように、ブレーキECU53は、車両の車体速度VSが開始速度VSTh以上になるなどして車両降坂制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(ステップS31)。開始条件が未だ成立していない場合(ステップS31:NO)、ブレーキECU53は、ステップS31の判定処理を繰り返し実行する。一方、開始条件が成立した場合(ステップS31:YES)、ブレーキECU53は、車両降坂制御を開始する。
すなわち、ブレーキECU53は、目標制動力BP_Tを、目標速度VS_T及び車体速度VSなどに基づいて決定する(ステップS32)。続いて、ブレーキECU53は、算出した目標制動力BP_Tが「0(零)」よりも大きいか否かを判定する(ステップS33)。目標制動力BP_Tが「0(零)」よりも大きい場合(ステップS33:YES)、ブレーキECU53は、決定した目標制動力BP_Tに基づいてブレーキアクチュエータ23の作動を制御する(ステップS34)。そして、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS32に移行する。すなわち、車両降坂制御の実施中にあっては、このようにステップS32,S33,S34の各処理が繰り返して実行される。
一方、ステップS33において、目標制動力BP_Tが「0(零)」である場合(NO)、ブレーキECU53は、車両降坂制御の終了条件が成立したか否かを判定する(ステップS35)。例えば、終了条件は、目標制動力BP_Tが「0(零)」である状態が終了判定時間以上継続したことを含んでいる。
そして、終了条件が未だ成立していない場合(ステップS35:NO)、ブレーキECU53は、その処理を前述したステップS34に移行する。一方、終了条件が既に成立している場合(ステップS35:YES)、ブレーキECU53は、ブレーキアクチュエータ23の作動を停止させ、車両降坂制御を終了させる(ステップS36)。その後、ブレーキECU53は、本処理ルーチンを終了する。
次に、図5のタイミングチャートを参照し、車両走行中に運転者によるアクセル操作が解消された場合の作用について説明する。
図5(a),(b),(c)に示すように、車両停止中の第1のタイミングt11で運転者がアクセル操作を開始すると、車両の車体速度VSが「0(零)」から徐々に大きくなる。なお、運転者によるアクセル操作が解消される第2のタイミングt12までは、車両降坂制御の開始速度VSThは規定開始速度VS1に決定されている。そして、第1のタイミングt11から第2のタイミングt12までの期間では、車両の車体速度VSが規定開始速度VS1未満であるなどして開始条件が成立しない(ステップS31:NO)。
その後、車両の車体速度が規定開始速度VS1近傍となる第2のタイミングt12で、アクセル操作がオフにされる(ステップS11:YES)。すると、第2のタイミングt12における車両の車体速度VSである基準速度VSAと規定値ΔVSとの和が、仮開始速度VSThAとされる(ステップS18)。この際、仮開始速度VSThAが規定開始速度VS1以上である場合(ステップS19:YES)、開始速度VSThが仮開始速度VSThAに決定される(ステップS20)。そして、このように開始速度VSThが規定開始速度VS1よりも大きい値に決定されると、第2のタイミングt12で車両降坂制御が開始されることはない。
図5に示す例では、アクセル操作が解消された第2のタイミングt12以降では、車両の車体速度VSが徐々に大きくなっている。そして、第3のタイミングt13で、車体速度VSが開始速度VSTh(=VSA+ΔVS)に達するなどして車両降坂制御の開始条件が成立すると(ステップS31:YES)、車両降坂制御が開始される。したがって、第3のタイミングt13以降では、車体速度VSが目標速度VS_Tを超えないように、車両に付与する制動力が調整される。
その一方で、アクセル操作が解消された第2のタイミングt12以降で、車体速度VSがほぼ一定速度で保持されている場合、車体速度VSが開始速度VSTh(=VSA+ΔVS)以上にならないため、車両降坂制御が開始されない。
次に、図6のタイミングチャートを参照し、車両走行中に運転者によるブレーキ操作が解消された場合の作用について説明する。
図6(a),(b),(c)に示すように、車両走行中の第1のタイミングt21で運転者がブレーキ操作を開始すると、車両に付与する制動力が大きくなるため、車両の車体速度VSが徐々に小さくなる。
その後、第2のタイミングt22でブレーキ操作がオフにされると(ステップS13:YES)、第2のタイミングt22における車両の車体速度VSである基準速度VSAと規定値ΔVSとの和が、仮開始速度VSThAとされる(ステップS18)。この際、仮開始速度VSThAが規定開始速度VS1以上である場合(ステップS19:YES)、開始速度VSThが仮開始速度VSThAに決定される(ステップS20)。
図6に示す例では、ブレーキ操作が解消された第2のタイミングt22以降では、車両に付与する制動力の減少によって、車両の車体速度VSが徐々に大きくなる。そのため、第3のタイミングt23で、車体速度VSが開始速度VSTh(=VSA+ΔVS)に達するなどして車両降坂制御の開始条件が成立すると(ステップS31:YES)、車両降坂制御が開始される。したがって、第3のタイミングt23以降では、車体速度VSが目標速度VS_Tを超えないように、車両に付与する制動力が調整される。
その一方で、ブレーキ操作が解消された第2のタイミングt22以降で、車体速度VSがほぼ一定速度で保持されている場合、車体速度VSが開始速度VSTh(=VSA+ΔVS)以上にならないため、車両降坂制御が開始されない。
次に、図7のタイミングチャートを参照し、車両走行中に車両降坂制御が解消される場合の作用について説明する。
図7(a),(b)に示すように、車両降坂制御の終了条件が第1のタイミングt31で成立すると(ステップS15:YES)、ブレーキアクチュエータ23の作動が停止され、車両降坂制御が終了される。そして、この第1のタイミングt31以降では、同第1のタイミングt31における車両の車体速度VSである基準速度VSAと規定値ΔVSとの和が、開始速度VSThに決定される(ステップS20)。その結果、第1のタイミングt31以降では、車両がほとんど加速せず、車両の車体速度VSが開始速度VSTh(=VSA+ΔVS)以上にならないときには、開始条件が成立しないため(ステップS31:NO)、車両降坂制御が開始されない。
ただし、第1のタイミングt31以降でも、車両が加速し、車両の車体速度VSが開始速度VSTh(=VSA+ΔVS)以上になり、開始条件が成立すると(ステップS31:YES)、車両降坂制御が再び開始される。
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)運転者によるアクセル操作の解消後にあっては、開始速度VSThが、アクセル操作が解消された時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きい値に決定される。これにより、ブレーキアクチュエータ23の作動によって車両に付与する制動力を増大させなくても、アクセル操作の解消後の車体速度VSを基準速度VSA近傍で保持することができる場合にあっては、車両降坂制御の開始条件が成立しにくくなる。すなわち、車両に付与する制動力を増大させなくてもよいにも拘わらず、ブレーキアクチュエータ23が作動される事象が生じにくくなる。したがって、車両降坂制御の不要な実施を抑制することにより、ブレーキアクチュエータ23の不要な作動を抑制することができる。
(2)また、ブレーキ操作の解消後にあっては、開始速度VSThが、ブレーキ操作が解消された時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きい値に決定される。これにより、ブレーキアクチュエータ23の作動によって車両に付与する制動力を増大させなくても、ブレーキ操作の解消後の車体速度VSを基準速度VSA近傍で保持することができる場合にあっては、車両降坂制御の開始条件が成立しにくくなる。すなわち、車両に付与する制動力を増大させなくてもよいにも拘わらず、ブレーキアクチュエータ23が作動される事象が生じにくくなる。したがって、車両降坂制御の不要な実施を抑制することにより、ブレーキアクチュエータ23の不要な作動を抑制することができる。
(3)また、車両降坂制御の実施終了後にあっては、開始速度VSThが、車両降坂制御の終了時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きい値に決定される。これにより、ブレーキアクチュエータ23の作動によって車両に付与する制動力を増大させなくても、車両降坂制御の実施終了後の車体速度VSを基準速度VSA近傍で保持することができる場合にあっては、車両降坂制御の開始条件が成立しにくくなる。すなわち、車両に付与する制動力を増大させなくてもよいにも拘わらず、ブレーキアクチュエータ23が作動される事象が生じにくくなる。したがって、車両降坂制御の不要な実施を抑制することにより、ブレーキアクチュエータ23の不要な作動を抑制することができる。
(4)具体的には、車両が加速しているか否かの判断基準として規定値ΔVSを設け、基準速度VSAにこの規定値ΔVSを加算した値を、開始速度VSThとした。そのため、アクセル操作の解消後、ブレーキ操作の解消後、及び車両降坂制御の実施終了後であっても、車体速度VSがこうした開始速度VSTh(=VSA+ΔVS)以上になるときには、車両降坂制御を開始させることができる。
(5)本実施形態では、車両降坂制御の不要な実施が抑制されるため、ブレーキアクチュエータ23の不要な作動が抑制される。その結果、車両降坂制御などの制動制御が必要な場合には、ブレーキアクチュエータ23を適切に作動させることができ、ひいては車両の走行を適切に支援することができる。
(第2の実施形態)
次に、車両の運転支援装置を具体化した第2の実施形態を図8に従って説明する。なお、第2の実施形態では、規定値ΔVSを可変とした点が第1の実施形態と異なっている。したがって、以下の説明においては、第1の実施形態と相違する部分について主に説明するものとし、第1の実施形態と同一の部材構成には同一符号を付して重複説明を省略するものとする。
車両の走行する降坂路の状態によっては、車両が加速しやすい場合がある。例えば、車両が降坂路を走行するに際し、降坂路が急勾配であるほど車両が加速しやすい。言い換えると、降坂路が緩勾配であるほど車両が加速しにくい。そして、ブレーキアクチュエータ23の不要な作動を抑制する観点からすると、車両が加速しにくい降坂路を車両が走行する場合には、車両が加速しやすい降坂路を車両が走行する場合よりも、車両降坂制御の開始条件を成立させにくくすることが好ましい。
そこで、本実施形態では、図8に示すマップを用い、規定値ΔVSが決定される。
すなわち、図8に示すマップは、降坂路の勾配θと規定値ΔVSとの関係を示すマップである。図8に示すように、規定値ΔVSは、降坂路の勾配θが小さいほど大きくされる。
なお、降坂路の勾配θの算出方法としては、例えば、前後方向加速度センサSE8によって検出された前後加速度Gxと、車両の車体速度VSを時間微分した値である車両の加速度との差分を降坂路の勾配θとする方法を挙げることができる。
そして、ブレーキECU53は、アクセル操作の解消時、ブレーキ操作の解消時、及び車両降坂制御の実施終了時には、基準速度VSAと上記マップを用いて決定した規定値ΔVSとの和を開始速度VSThとする。そのため、例えば、アクセル操作の解消時における車体速度VSが等しくても、車両の走行する降坂路が緩勾配であるときには、降坂路が急勾配であるときよりも、開始速度VSThが大きい値に決定される。
以上、上記構成によれば、上記第1の実施形態における効果(1)〜(5)と同等の効果に加え、以下に示す効果をさらに得ることができる。
(6)本実施形態によれば、車両の走行する降坂路の勾配θが小さく、車両が加速しにくいほど、開始速度VSThが大きくされ、車両降坂制御が開始されにくくなる。そして、このように運転支援制御の不要な実施の抑制効果を高めることにより、ブレーキアクチュエータ23の不要な作動の抑制効果をさらに高めることができる。
(7)その一方で、車両の走行する降坂路の勾配θが大きく、車両が加速しやすいほど、開始速度VSThが小さくされ、車両降坂制御が開始されやすくなる。すなわち、車両が加速しやすいと推測されるときには、車両降坂制御を早期に開始させることができ、すなわち車体速度VSが大きくなりすぎる前に車両降坂制御を開始させることができる。そのため、車両降坂制御の開始時における目標制動力BP_Tの急激な増大が抑制され、結果として、車両降坂制御の開始に伴う車両の急減速が生じにくくなる。したがって、車両降坂制御の実施に伴うドライバビリティの低下を抑制することができる。
なお、上記各実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・オフロードを車両が走行する場合にあっては、車輪速度センサSE4〜SE7からの検出信号にノイズが重畳しやすい。そのため、こうした車輪速度センサSE4〜SE7によって検出された車輪速度VWに基づいて車体速度VSを算出すると、この車体速度VSにノイズが重畳していることがある。そして、ノイズが重畳しているために車体速度VSが一時的に大きくなり、同車体速度VSが開始速度VSTh以上になった場合には、実際には車両降坂制御の実施が不要であるにも拘わらず、開始条件が成立して車両降坂制御が開始されることがある。
そこで、車両降坂制御の開始条件に、車体速度VSが開始速度VSTh以上である状態が規定時間TTh以上継続していることを含ませるようにしてもよい。この場合、例えば、図9に示すように、第1のタイミングt41で、ノイズの重畳している車体速度VSが開始速度VSTh以上になっても、第1のタイミングt41から規定時間TThが経過した後の第2のタイミングt42よりも以前に、車体速度VSが開始速度VSTh未満になるときには、開始条件が成立しない。この構成によれば、ノイズが車体速度VSに重畳したために車体速度VSが一時的に開始速度VSTh以上になった場合には、車両降坂制御の開始条件が成立しにくい。したがって、ブレーキアクチュエータ23の不要な作動を抑制する効果をさらに高めることができる。
一方、図9に示すように、車体速度VSが徐々に大きくなり、第3のタイミングt43で車体速度VSが開始速度VSTh以上になり、こうした状態が規定時間TTh以上継続される場合、第3のタイミングt43から規定時間TThが経過した後の第4のタイミングt44で開始条件が成立する。そのため、この第4のタイミングt44から車両降坂制御を開始させることができる。
・車両の走行する降坂路の勾配θが同等であっても、路面の摩擦係数(すなわち、路面μ)が異なると、車両の加速しやすさが変わる。そこで、路面の摩擦係数が大きく、車両が加速しにくい場合ほど、規定値ΔVSを大きくするようにしてもよい。そして、このように規定値ΔVSを路面の摩擦係数に応じて可変とする場合、規定値ΔVSを、降坂路の勾配θに応じて可変としなくてもよい。
・車両降坂制御の実施中にアクセル操作が行われた場合、目標速度VS_Tは、アクセル操作が操作されない場合よりも大きくされる。そして、このようにアクセル操作が行われている最中で車両降坂制御が終了されたときには、開始速度VSThを、車両降坂制御の実施が終了された時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きくするようにしてもよい。
・車両降坂制御の実施中にブレーキ操作が行われた場合、目標速度VS_Tは、ブレーキ操作が操作されない場合よりも小さくされる。そして、このようにブレーキ操作が行われている最中で車両降坂制御が終了されたときには、開始速度VSThを、車両降坂制御の実施が終了された時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きくするようにしてもよい。また、その後、車両降坂制御が開始される前にブレーキ操作が解消されたときには、開始速度VSThを、ブレーキ操作が解消された時点の車体速度である基準速度VSAよりも大きくするようにしてもよい。
・アクセル操作の解消後、ブレーキ操作の解消後、及び車両降坂制御の実施終了後において、開始速度VSThを基準速度VSAよりも大きくする場合、「1」よりも大きいゲイン値(例えば、1.2)を基準速度VSAに乗算し、その積を開始速度VSThとするようにしてもよい。
・規定値ΔVSを、アクセル操作の解消後であっても、ブレーキ操作の解消後であっても、車両降坂制御の実施終了後であっても等しい値としてもよいが、アクセル操作の解消後、ブレーキ操作の解消後、及び車両降坂制御の実施終了後の各々で規定値ΔVSの大きさを異ならせるようにしてもよい。
・上記各実施形態では、車両の加速傾向を、車体速度VSの変化から推定するようにしているが、これに限らず、車両の加速度を検出又は算出し、この加速度から車両の加速しているか否かを判断するようにしてもよい。
・車両に設けられる制動装置は、ハイドロリック式のブースタを備えた装置であってもよい。
・車両に設けられるトランスミッション13は、マニュアルトランスミッションではなく、オートマティックトランスミッションであってもよい。