本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、層状構造を有し、正極活物質の中心と表層とで構成元素の濃度比が異なる。具体的には、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、以下の組成式(1)
Li1+xM11−x−yM2yO2 (1)
[式中、xは−0.1≦x≦0.3であり、yは0≦y≦0.1であり、M1はNi、Co及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、M2はMg、Al、Ti、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。]
で表される構造を有する一次粒子、又はその一次粒子が凝集した二次粒子を含み、それら一次粒子又は二次粒子の中心における(M1+M2)/O濃度比(原子比)が、一次粒子又は二次粒子の表層における(M1+M2)/O濃度比(原子比)よりも高い。
組成式(1)で表される層状正極活物質は、一般に、充放電に伴ってリチウムイオンの可逆的な挿入及び脱離を繰り返すことが可能であり、かつ理論容量の大きい正極活物質であるが、一方で、Liを一定量以上引き抜いた時の充放電サイクル特性が必ずしも優れてはいないという特徴を有している。この層状正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を高電圧まで充電した場合には、充放電サイクル特性が大きく劣化するため、通常は、充電終止電圧が低く抑えられ、高い理論容量を充分には活かせない現状がある。なお、組成式(1)は、あくまで層状化合物構造であることを明確にするために、LiとM1及びM2と酸素[O]との理論的なバランスを示したものである。したがって、本発明では、層状化合物構造を維持できる範囲で、差分となるM1の値は、1−x−yの値からずれても構わない。典型的に許容できるM1の値は、1−x−yの値±0.03の範囲である。
層状正極活物質の充放電サイクル特性を低下させる要因としては、遷移金属元素と電解液の接触による電解液の分解が考えられる。層状正極活物質においては、充電時にイオン化したLiが脱離する際の電荷補償を遷移金属が担っている。そのため、Liの脱離と共に遷移金属は不安定な電荷状態となり、さらには高電圧化によって電解液の酸化分解が促進されて、電池性能の劣化をきたすと考えられる。
そこで、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、正極活物質全体の遷移金属の割合を低減することなく高い充放電容量を維持し、不安定な電荷状態となる遷移金属と電解液との接触による電解液の酸化分解の進行を抑制するために、正極活物質におけるリチウムを除く金属元素と酸素との比率を、中心と比較して表層で低下させ、充放電容量及び充放電サイクル特性を改善している。
また、前記の組成式(1)において、M1はNi、Co及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。遷移金属としてNi、Co、Mnを用いると、Liの挿入脱離の電位が3V以上と高くなり、かつ高い充放電容量を得ることができる。Niの含有量は、M1の元素の総質量100質量%に対して40質量%以上90質量%以下とすることが好ましい。Co含有量は、M1の元素の総質量100質量%に対して0質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。Mn含有量は、M1の元素の総質量100質量%に対して0質量%を超え30質量%以下とすることが好ましい。
さらに、前記の組成式(1)において、M2はMg、Al、Ti、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、これらの元素の組成比yは、0以上0.1以下の範囲とする。組成式(1)では、金属元素としてM1で表されるNi、Co及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有することによって、層状正極活物質における電気化学的活性を確保することができる。そして、Mg、Al、Ti、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも1種であるM2の元素でこれらの遷移金属サイトを置換することによって、結晶構造の安定性や層状正極活物質の電気化学特性(サイクル特性等)を向上させることができる。
上述の通り、M1の元素としては、Ni、Co及びMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であることができるが、Niを含むことが好ましく、Ni及びMnを含むことがより好ましい。具体的には、層状正極活物質は、以下の組成式(2)で表される組成を有することが好ましい。
Li1+xNi1−x−y−a−bCoaMnbM2yO2 (2)
[式中、xは−0.1≦x≦0.3であり、yは0≦y≦0.1であり、aは0≦a≦0.3であり、bは0<b≦0.3であり、M2はMg、Al、Ti、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。]
層状正極活物質をこのような組成にすることによって、良好な充放電容量を確保することが可能となる。なお、組成式(2)は、あくまで層状化合物構造であることを明確にするために、Liと、Ni、Co、Mn及びM2と酸素[O]との理論的なバランスを示したものである。したがって、本発明では、層状化合物構造を維持できる範囲で、差分となるNiの値は、1−x−y−a−bの値からずれても構わない。典型的に許容できるNiの値は、1−x−y−a−bの値±0.03の範囲である。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の組成は、厳密に化学量論比に従うものに制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で組成が不定比であってもよく、結晶構造上にサイト間の置換や欠損を有していてもよい。また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上述の通り、中心と表層とで構成元素の濃度比が異なるが、上記組成式(1)及び(2)で表される組成は、正極活物質全体が均一な組成を有するものとして平均化した組成である。したがって、組成式(1)及び(2)等により表される本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の組成は、表層及び中心におけるいずれの組成とも異なり、化学量論比には従わない場合がある。
本実施形態に係るリチウム二次電池用正極活物質は、所定の組成を有する一次粒子、又はその一次粒子が凝集した二次粒子を含み、それら一次粒子又は二次粒子の中心における(M1+M2)/O濃度比が表層における(M1+M2)/O濃度比よりも高い。すなわち、粒子の表層は、組成式(1)で表される粒子全体の平均組成よりも(M1+M2)/O濃度比が少ない組成からなる領域である。ここで、一次粒子又は二次粒子の「表層」とは、粒子の最表面から、粒子の平均粒径の10%に相当する深さに至るまでの領域をいう。したがって、表層における(M1+M2)/O濃度比とは、表層における(M1+M2)/Oの平均値を指す。また、一次粒子又は二次粒子の「中心」とは、粒子の最表面から平均粒径の15%に相当する深さ位置と、平均粒径の50%に相当する深さ位置との間の領域をいう。したがって、中心における(M1+M2)/O濃度比とは、中心における(M1+M2)/Oの平均値を指す。そして、中心における(M1+M2)/O濃度比が表層における(M1+M2)/O濃度比よりも「高い」とは、中心における(M1+M2)/Oの値が表層における(M1+M2)/Oの値に比べて高いことをいい、好ましくは0.01以上高いことをいう。特に好ましくは、表層及び中心における(M1+M2)/O濃度比の差は、0.02以上0.10以下である。また、具体的な(M1+M2)/O濃度比の値としては、正極活物質の組成によっても異なり特に限定されるものではないが、表層の(M1+M2)/O濃度比は0.43以上0.48以下であることが好ましく、中心の(M1+M2)/O濃度比は0.49以上0.51以下であることが好ましい。
図1〜3に、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質に包含され得る実施形態を示す。まず、図1に示すリチウムイオン二次電池用正極活物質100Aは、所定の組成を有する一次粒子から構成され、(M1+M2)/O濃度比が高い中心110Aと、(M1+M2)/O濃度比が低い表層120Aの部分を有している。また、図2に示すリチウムイオン二次電池用正極活物質100Bは、所定の組成を有する一次粒子が凝集した二次粒子から構成され、その二次粒子としての表面全体に(M1+M2)/O濃度比が低い表層120Bが形成され、表層120Bにより覆われている内側の部分が(M1+M2)/O濃度比が高い中心110Bとなる。さらに、図3に示すリチウムイオン二次電池用正極活物質100Cは、図2と同様に一次粒子が凝集した二次粒子から構成されており、それぞれの一次粒子に、(M1+M2)/O濃度比が高い中心110Cと、(M1+M2)/O濃度比が低い表層120Cの部分が形成されている。それにより、二次粒子としての表面全体に、(M1+M2)/O濃度比が低い表層120Cが形成された状態となる。なお、図3の例において、中心110Cの組成から(M1+M2)/O濃度比を求める場合には、二次粒子の表面以外の、内部に埋め込まれている一次粒子の表層120Cの部分は除き、中心110Cの組成のみに基づいて濃度比を求める。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、上述のように定義された「中心」領域における(M1+M2)/O濃度比の平均値が「表層」領域における(M1+M2)/O濃度比の平均値よりも高ければよく、各領域内における(M1+M2)/O濃度比の分布状態は特に限定されるものではない。例えば、(1)一次粒子又は二次粒子の最表面から中心側に向かって(M1+M2)/O濃度比が徐々に増加する濃度勾配を有していてもよいし、(2)一次粒子又は二次粒子の表層及び中心の各領域では(M1+M2)/O濃度比が一定(平均値±5%以内の変化)であり、表層と中心の間において(M1+M2)/O濃度比が不連続的にあるいは急激な濃度勾配で変化するような状態であってもよい。あるいは、(3)一次粒子又は二次粒子の表層においては(M1+M2)/O濃度比が一定であり、平均粒径の10%に相当する深さ位置から中心側へ向かって(M1+M2)/O濃度比が徐々に増加する濃度勾配を有していてもよい。その中でも、上記(2)の形態が好ましい。(M1+M2)/O濃度比が低い一次粒子又は二次粒子の表層側は、充電時に遷移金属元素と電解液の接触による電解液の分解を抑制し、これにより放電サイクル特性を向上させることができる。その一方で、(M1+M2)/O濃度比が高い一次粒子又は二次粒子の中心側は、充放電反応に関与できる遷移金属が確保されているため高い充放電容量を得ることができる。
また、一次粒子又は二次粒子の表層では、前記の組成式(1)又は(2)におけるxは、0.07以上0.25以下の範囲であることが好ましい。また、一次粒子又は二次粒子の中心では、前記の組成式(1)又は(2)におけるxは、−0.05以上0.05以下の範囲であることが好ましい。中心におけるxの値が−0.05以上0.05以下であれば、高い充放電容量を得ることができる。このとき、表層におけるxの値が0.07以上0.25以下であれば、充放電容量を確保しつつ充放電サイクル特性をより向上させることができる。
さらに、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、一次粒子又は二次粒子の中心におけるLi/O濃度比(原子比)が、表層におけるLi/O濃度比(原子比)よりも低いことが好ましい。ここで、中心のLi/O濃度比が表層よりも「低い」とは、中心におけるLi/O濃度比の値が表層におけるLi/O濃度比の値に比べて低いことをいい、好ましくは0.01以上低いことをいう。これにより、結晶構造の連続性が維持され、充放電サイクルにおける構造変化の歪が抑制されるため好ましい。また、中心及び表層の各領域におけるリチウム濃度及び酸素濃度は、各領域のリチウム及び酸素の平均原子濃度を意味する。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の平均組成は、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma ;ICP)、原子吸光分析(Atomic Absorption Spectrometry ; AAS)等を用いて確認することができる。また、正極活物質の結晶構造は、X線回折法(X-ray diffraction ;XRD)等で確認することができる。さらに、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の一次粒子又は二次粒子における元素分布は、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time of flight-secondary ion mass spectrometer;TOF−SIMS)、オージェ電子分光(Auger Electron Spectroscopy;AES)、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)、透過電子顕微鏡−電子エネルギー損失分光(Transmission Electron Microscopy-Electron Energy Loss Spectroscopy;TEM−EELS)、グロー放電発光分光分析(Glow discharge optical emission spectrometry;GD−OES)等を用いて確認することができる。
また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の一次粒子の平均粒径は、0.1μm以上2μm以下であることが好ましい。平均粒径を2μm以下とすることによって、正極における正極活物質の充填性が改善し、良好なエネルギー密度を達成することができる。また、リチウムイオン二次電池用正極活物質が、一次粒子が凝集した二次粒子から構成される場合、二次粒子の平均粒径は、5μm以上50μm以下であることが好ましい。
平均粒径は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)や、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)による観察に基づいて測定することができる。観察により、粒子径が中央値に近い順に20個の一次粒子又は二次粒子を抽出し、これらの粒子径の加重平均を算出することによって平均粒径とする。なお、粒子径は、観察された電子顕微鏡像における粒子の長径と短径の平均値として求めることができる。
以下、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法について詳しく説明する。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、主に、中心の組成を有する正極活物質コア粒子を合成する工程、コア粒子の表面に付着させる前駆体を合成する工程、コア粒子の表面に前駆体を付着させる付着工程、付着させた粒子を加熱処理する加熱工程を含む。
正極活物質コア粒子は、一般的な正極活物質の製造方法に準じて製造することができ、このような製造方法としては、例えば、固相法、共沈法、ゾルゲル法、水熱法等が挙げられる。
固相法を用いた正極活物質コア粒子の製造では、原料のLi含有化合物、M1含有化合物等を所定の元素組成となる比率で秤量し、粉砕及び混合して原料粉末を調製する。Li含有化合物としては、例えば、酢酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム等を用いることができるが、炭酸リチウム、水酸化リチウムが好ましい。また、M1含有化合物としては、例えば、M1の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができるが、炭酸塩、酸化物、水酸化物が特に好ましい。また、M2の元素を含有させる場合は、M2の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。
原料粉末を調製する際の粉砕、混合には、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれの方式も用いることができる。粉砕手段としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星型ボールミル、アトライター、ジェットミル等の粉砕機を利用することができる。
調製された原料粉末は、焼成することによって正極活物質コア粒子(一次粒子)が得られる。原料粉末の焼成は、仮焼成することによって原料化合物を熱分解させ、本焼成することによって焼結させることが好ましい。また、本焼成前に適宜解砕及び分級してもよい。仮焼成における加熱温度は、例えば、400℃以上700℃以下程度、本焼成における加熱温度は、例えば、700℃以上1100℃以下、好ましくは800℃以上1000℃以下とすることができる。このような温度範囲であれば、正極活物質コア粒子の分解や成分の揮発を避けつつ、結晶性を向上させることができる。また、仮焼成における焼成時間は、2時間以上24時間以下、好ましくは4時間以上16時間以下であり、本焼成における焼成時間は、2時間以上24時間以下、好ましくは4時間以上16時間以下とすることができる。焼成は、複数回繰り返して行ってもよい。
焼成の雰囲気は、不活性ガス雰囲気及び酸化ガス雰囲気のいずれでもよいが、酸素、空気等の酸化ガス雰囲気とすることが好ましい。酸化ガス雰囲気で焼成を行うことによって、原料化合物の不完全な熱分解による不純物の混入を避けることができ、また結晶性を向上させることができる。なお、焼成された固溶体粒子は、空冷してもよく、不活性ガス雰囲気下で徐冷してもよく、液体窒素等を用いて急冷してもよい。
また、正極活物質コア粒子は、一次粒子であり、この一次粒子を乾式造粒又は湿式造粒によって造粒することによって二次粒子化してもよい。造粒手段としては、例えば、スプレードライヤ等の造粒機を利用することができる。
正極活物質コア粒子の表面に付着させる前駆体の製造は、正極活物質コア粒子の製造と同様の手段を用いることができる。前駆体はLiが含まれていて、かつ、(M1+M2)/O濃度比がコア粒子よりも低いことが好ましい。具体的には、Li1.2Ni0.13Co0.13Mn0.54O2、Li1.2Ni0.2Mn0.6O2、Li2MnO3、Li2TiO3、Li2ZrO3、Li2MoO3、Li2NbO3等が挙げられる。後の工程において正極活物質コア粒子の表面に均一に付着させるため、前駆体の一次粒子の平均粒径は、正極活物質コア粒子の一次粒子の平均粒径と比較して約1/10程度、すなわち0.01μm以上0.2μm以下程度にしておくことが好ましい。そのため、焼成のための加熱温度は正極活物質コア粒子を製造する場合よりも低いことが好ましく、例えば、400℃以上900℃以下、好ましくは500℃以上800℃以下である。
付着工程では、正極活物質コア粒子の一次粒子に前駆体を付着させて図1に示す形態とするか、又は二次粒子化させた正極活物質コア粒子に前駆体を付着させて図2に示す形態とする。あるいは、図3に示す形態の正極活物質を作製すべく、一次粒子の正極活物質コア粒子に前駆体を付着させた後、二次粒子化してもよい。一次粒子の正極活物質コア粒子に前駆体を付着させると、全ての粒子に前駆体が付着し、遷移金属元素と電解液の接触の抑制に高い効果がある。また、二次粒子化した正極活物質コア粒子に前駆体を付着させると、正極活物質コア粒子を効率的に前駆体で覆うことが可能であり、遷移金属元素と電解液の接触を抑制することができる。正極活物質コア粒子と前駆体とは、80質量%:20質量%〜99質量%:1質量%の比率で混合することが好ましく、より好ましくは87質量%:13質量%〜97質量%:3質量%である。混合する際には乾式混合及び湿式混合のいずれの方式も用いることができる。乾式混合手段としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星型ボールミル等の混合機を利用することができ、湿式混合ではボールミル、ビーズミル、遊星型ボールミル等の混合機の他に、スプレードライヤ等の乾燥機を利用することができる。また、バインダやカップリング剤等を用いて均一に付着させてもよい。
加熱工程では、前駆体が付着した正極活物質コア粒子の一次粒子又は二次粒子を加熱処理することによって、正極活物質コア粒子の表面に前駆体を固溶させる。この固溶によって、得られる正極活物質の粒子における表層と中心に元素の濃度差が形成される。加熱処理の温度は、正極活物質コア粒子を製造する際の本焼成温度以下が好ましく、500℃以上1100℃以下、好ましくは700℃以上1000℃以下とする。また、加熱処理の時間は0.1時間以上10時間以下、好ましくは0.5時間以上5時間以下とする。加熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気又は酸化ガス雰囲気のいずれでもよい。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、主に、リチウムイオン二次電池用正極活物質、導電材及び結着剤を含んでなる正極合材層と、正極合材層が塗工された正極集電体とを備えてなる。
導電材としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられている導電材を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛粉末、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等の炭素粒子や炭素繊維等が挙げられる。導電材は、例えば、正極合材層全体の質量に対して3質量%以上10質量%以下程度となる量を用いればよい。
結着剤としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられている結着剤を用いることができる。具体的には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。結着剤は、例えば、正極合材層全体の質量に対して2質量%以上10質量%以下程度となる量を用いればよい。
正極集電体としては、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等を用いることができる。箔については、例えば、8μm以上20μm以下程度の厚さとすればよい。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極は、前記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いて、一般的な正極の製造方法に準じて製造することができる。リチウムイオン二次電池用正極の製造方法の一例は、正極合材調製工程、正極合材塗工工程、成形工程を含んでなる。
正極合材調製工程では、材料の正極活物質、導電材、結着剤を溶媒中で混合することでスラリー状の正極合材を調製する。溶媒としては、結着剤の種類に応じて、N−メチルピロリドン、水、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等から選択することができる。材料を混合する撹拌手段としては、例えば、プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、自転・公転ミキサ等が挙げられる。
正極合材塗工工程では、調製されたスラリー状の正極合材を正極集電体上に塗布した後、熱処理により溶媒を乾燥させることによって、正極合材層を形成する。正極合材を塗布する塗工手段としては、例えば、バーコーター、ドクターブレード、ロール転写機等が挙げられる。
成形工程では、乾燥させた正極合材層をロールプレス等を用いて加圧成形し、必要に応じて正極集電体と共に裁断することによって、所望の形状のリチウムイオン二次電池用正極とする。正極集電体上に形成される正極合材層の厚さは、例えば、50μm以上300μm以下程度とすればよい。
以上のようにして製造されたリチウムイオン二次電池用正極は、リチウムイオン二次電池の材料として用いられる。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、主に、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極、セパレータ、非水電解液を含んでなり、これらが円筒型、角型、ボタン型、ラミネートシート型等の形状の外装体に収容された構成とされる。
図4は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例を示す断面模式図である。図4は円筒型のリチウムイオン二次電池を例示しており、このリチウムイオン二次電池10は、正極集電体の両表面に正極合材が塗工された正極1と、負極集電体の両表面に負極合材が塗工された負極2と、正極1及び負極2の間に介装されたセパレータ3とからなる電極群を備えている。正極1及び負極2は、セパレータ3を介して捲回され、円筒型の電池缶4に収容されている。また、正極1は、正極リード片7を介して密閉蓋6と電気的に接続され、負極2は、負極リード片5を介して電池缶4と電気的に接続され、正極リード片7と負極2、負極リード片5と正極1の間には、それぞれエポキシ樹脂等を材質とする絶縁板9が配設されて電気的に絶縁されている。各リード片は、それぞれの集電体と同様の材質からなる電流引き出し用の部材であり、スポット溶接又は超音波溶接により各集電体と接合されている。また、電池缶4は、内部に非水電解液が注入された後、ゴム等のシール材8で密封され、頂部を密閉蓋6で封止される構造とされている。
負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属材料、金属酸化物材料等の一種以上を用いることができる。炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛類や、コークス、ピッチ等の炭化物類や、非晶質炭素や、炭素繊維等がある。また、金属材料としては、リチウム、シリコン、スズ、アルミニウム、インジウム、ガリウム、マグネシウムやこれらの合金、金属酸化物材料としては、スズ、ケイ素等を含む金属酸化物がある。
このリチウムイオン二次電池用負極には、必要に応じて、前記のリチウムイオン二次電池用正極において用いられる結着剤、導電材と同種の群から選択されるものを用いてもよい。結着剤は、例えば、負極合材層全体の質量に対して5質量%程度となる量を用いればよい。
負極集電体としては、銅製又はニッケル製の箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等を用いることができる。箔については、例えば、5μm以上20μm以下程度の厚さとすればよい。
リチウムイオン二次電池用負極は、リチウムイオン二次電池用正極と同様に、負極活物質と結着剤を混合した負極合材を負極集電体上に塗工し、加圧成形し、必要に応じて裁断することによって製造される。負極集電体上に形成される負極合材層の厚さは、例えば、20μm以上150μm以下程度とすればよい。
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂等の微孔性フィルムや不織布等を用いることができる。
非水溶媒としては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルアセテート、ジメトキシエタン等を用いることができる。また、非水電解液には、電解液の酸化分解及び還元分解の抑制、金属元素の析出防止、イオン伝導性の向上、難燃性の向上等を目的として、各種の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、電解液の分解を抑制する1,3−プロパンサルトン、1,4−ブタンサルトン等や、電解液の保存性を向上させる不溶性ポリアジピン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等や、難燃性を向上させるフッ素置換アルキルホウ素等がある。
以上の構成を有する本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば、携帯用電子機器や家庭用電気機器等の小型電源、電力貯蔵装置、無停電電源装置、電力平準化装置等の定置用電源や、船舶、鉄道、ハイブリット自動車、電気自動車等の駆動電源として使用することができる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.03:0.80:0.10:0.10となるように秤量し、これらを湿式粉砕及び混合して原料粉末を調製した。得られた原料粉末を、乾燥した後、高純度アルミナ容器に投入し、酸素気流下において650℃で12時間の仮焼成を行った。そして、得られた仮焼成体を空冷し、解砕した後、再び高純度アルミナ容器に投入して、酸素気流下において850℃で8時間の本焼成を行った。そして、得られた焼成体を空冷し、解砕及び分級した。
得られた正極活物質コア粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.00:0.80:0.10:0.10であった。よって、元素組成は、Li1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2であると推定される。
次に、正極活物質コア粒子の表面に付着させる前駆体を製造した。はじめに、原料の炭酸リチウム、炭酸マンガンを、Li:Mnが、モル濃度比で2.02:1.0となるように秤量し、これらを湿式粉砕及び混合して原料粉末を調製した。得られた原料粉末を、乾燥した後、高純度アルミナ容器に投入し、大気中において700℃で12時間の熱処理を行った。そして、得られた焼成体を空冷し、解砕した。
得られた前駆体の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Mnは、2.00:1.0であった。よって、元素組成は、Li2MnO3であると推定される。
次に、正極活物質コア粒子90gと前駆体の粒子10gを秤量し、これらを混合した後、この溶液を噴霧乾燥して正極活物質コア粒子の表面に前駆体の粒子を付着させた。続いて、得られた粒子を高純度アルミナ容器に投入し、酸素気流下において850℃で1時間加熱処理することによって、実施例1に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.05:0.69:0.09:0.18であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.18O2であると推定される。
次に、正極活物質の結晶構造を分析した。X線回折装置(リガク製、RINTIII)を用い、CuKα線を用いて測定した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。
また、正極活物質の平均粒径を算出した。SEM(日立ハイテクノロジーズ製、S−4300)を用い、加速電圧5kV、倍率10kで観察し、10個の粒子の粒子径を平均して算出した結果、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。
正極活物質の表層及び中心のLi/O濃度比を、GD−OES(堀場製作所製、GD−PROFILER2)を用い、ガス圧力500Pa、出力35W、パルスモードで測定した。測定結果を表1に示す。表1に示した通り、正極活物質の中心のLi/O濃度比は、表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。
次に、正極活物質の表層及び中心の元素分析を行った。製造した正極活物質の試料は、研磨機(gatan社製、600型)を用い、アルゴンイオンエッチングによって薄片化した後、元素分析に供した。表層における原子の濃度分布等の元素分析は、エネルギー損失分光法(以下、EELSと略す)(gatan社製、Enfina)を備えた電界放出型透過型電子顕微鏡(日立製作所製、HF−2000(以下、TEMと略す))を用いて、加速電圧200kVで測定して確認した。元素分布はこの他に、TEMとX線分析装置(EDS)を組み合わせたTEM−EDSや、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)、オージェ電子分光法(AES)等で確認することが可能である。
表層及び中心の元素分析を行った結果を図5に示す。(Ni+Co+Mn)/O濃度比(原子比)は正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては約0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。最表面から深さ60nmまでの領域における(Ni+Co+Mn)/O濃度比が約0.45となったのは、コア粒子に付着させた前駆体であるLi2MnO3から酸素がほぼ均一に欠乏したためと考えられる。なお、図5では、正極活物質の中心(最表面から300nmの距離)における元素分析の結果を示していないが、最表面から深さ90nmを超える領域では(Ni+Co+Mn)/O濃度比は一定になることから、中心における(Ni+Co+Mn)/O濃度比も約0.50と推定される。
次に、得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質を含有する正極を備えるリチウムイオン二次電池を製造した。なお、リチウムイオン二次電池の形状は、直径18mm×高さ650mmの円筒型の18650型電池とした。
はじめに、得られた90質量部の正極活物質と、6質量部の導電材と、4質量部の結着剤を溶媒中で混合し、プラネタリーミキサを用いて3時間撹拌し正極合材を調製した。なお、導電材としては、炭素粒子の粉末、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、溶媒としては、N−メチルピロリドンを用いた。続いて、得られた正極合材を、ロール転写機を用いて厚さ20μmのアルミニウム製の箔である正極集電体の両面に塗布した後、ロールプレスを用いて、合材層密度が2.60g/cm3となるように加圧し、裁断して、リチウムイオン二次電池用正極とした。
また、95質量部の負極活物質と、5質量部の結着剤を溶媒中で混合し、スラリーミキサを用いて30分間撹拌して負極合材を調製した。なお、負極活物質としては、黒鉛、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、溶媒としては、N−メチルピロリドンを用いた。続いて、得られた負極合材を、ロール転写機を用いて厚さ10μmの銅製の箔である負極集電体の両面に塗布した後、ロールプレスを用いて加圧し、裁断して、リチウムイオン二次電池用負極とした。
得られた正極及び負極は、それぞれリード片を超音波溶接によって接合した後、多孔性ポリエチレンフィルムを電極間に挟んで円筒状に捲回して電池缶に収容し、各リード片を電池缶及び密閉蓋にそれぞれ接続した後、電池缶と密閉蓋とをレーザ溶接により接合して封止した。その後、注液口から電池缶内部に非水電解液を注入して、実施例1に係るリチウムイオン二次電池とした。
次に、製造したリチウムイオン二次電池について、充放電試験を行い、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。なお、充放電試験は、25℃の環境温度下で行った。
放電容量特性については、以下の手順で求めた。充放電の条件は、充電については、0.2C相当の電流で上限電圧4.5Vまで定電流低電圧充電とし、放電については、充電後に30分間休止した後、0.2C相当の定電流で下限電圧3.0Vまでの放電とした。この充放電サイクルを計2サイクル繰り返した。そして、2サイクル目の0.2C放電容量を正極活物質の重量当たりの値とし、この値に基づいて放電容量特性を評価した。
充放電サイクル特性については、以下の手順で求めた。放電容量特性を評価した後、1C相当の電流で上限電圧4.5Vまで定電流低電圧充電し、10分間の休止の後、1.0C相当の定電流で下限電圧3.0Vまで放電した。この充放電サイクルを計99サイクル繰り返した後、0.2C相当の電流で上限電圧4.5Vまで定電流低電圧充電し、30分間の休止の後、0.2C相当の定電流で下限電圧3.0Vまで放電した。そして、放電容量特性に対する、100サイクル目の0.2C放電容量の分率をサイクル容量維持率として算出し、充放電サイクル特性を評価した。
その結果、実施例1に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は212Ah/kgであり、充放電サイクル特性は92%であった。
[実施例2]
実施例2に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、実施例1と同様の手順で、元素組成が、Li1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子と、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。次に、正極活物質コア粒子95gと前駆体の粒子5gを秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、実施例2に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.02:0.74:0.09:0.14であった。よって、元素組成は、Li1.02Ni0.74Co0.09Mn0.14O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例2に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例2に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例2に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は217Ah/kgであり、充放電サイクル特性は88%であった。
[実施例3]
実施例3に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、実施例1と同様の手順で、元素組成が、Li1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子と、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。次に、正極活物質コア粒子85gと前駆体の粒子15gを秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、実施例3に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.07:0.63:0.08:0.22であった。よって、元素組成は、Li1.07Ni0.63Co0.08Mn0.22O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例3に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例3に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例3に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は205Ah/kgであり、充放電サイクル特性は95%であった。
[実施例4]
実施例4に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、0.98:0.80:0.10:0.10となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で作製し、元素組成が、Li0.96Ni0.84Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。また、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。
次に、正極活物質コア粒子を作製する際の本焼成温度を800℃とした点と前駆体を正極活物質コア粒子の表面に付着させた後の加熱処理を800℃とした点を除いて、実施例1と同様の手順で、実施例4に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.01:0.72:0.09:0.18であった。よって、元素組成は、Li1.01Ni0.72Co0.09Mn0.18O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.3μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例4に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ30nmまでの領域において約0.46であり、最表面から深さ45nmを超える領域においては約0.52であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例4に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例4に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は201Ah/kgであり、充放電サイクル特性は92%であった。
[実施例5]
実施例5に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.11:0.80:0.10:0.10となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で作製し、元素組成がLi1.07Ni0.75Co0.09Mn0.09O2である正極活物質コア粒子を作製した。また、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。
次に、正極活物質コア粒子を作製する際の本焼成温度を900℃とした点と前駆体を正極活物質コア粒子の表面に付着させた後の加熱処理を900℃とした点を除いて、実施例1と同様の手順で、実施例5に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.11:0.64:0.08:0.17であった。よって、元素組成は、Li1.11Ni0.64Co0.08Mn0.17O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は1.2μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例5に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ120nmまでの領域において約0.44であり、最表面から深さ180nmを超える領域においては約0.47であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例5に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例5に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は200Ah/kgであり、充放電サイクル特性は96%であった。
[実施例6]
実施例6に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、前駆体の原料の炭酸リチウム、二酸化チタンを、Li:Tiが、モル濃度比で、2.01:1.0となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2TiO3である前駆体を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例6に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mn:Tiは、1.05:0.69:0.09:0.09:0.10であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.09Ti0.10O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例6に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn+Ti)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn+Ti)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例6に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例6に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は206Ah/kgであり、充放電サイクル特性は92%であった。
[実施例7]
実施例7に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、前駆体の原料の炭酸リチウム、二酸化ジルコニウムを、Li:Zrが、モル濃度比で、2.01:1.0となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2ZrO3である前駆体を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例7に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mn:Zrは、1.05:0.69:0.09:0.09:0.10であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.09Zr0.10O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例7に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn+Zr)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn+Zr)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例7に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例7に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は195Ah/kgであり、充放電サイクル特性は94%であった。
[実施例8]
実施例8に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、前駆体の原料の炭酸リチウム、三酸化モリブデンを、Li:Moが、モル濃度比で、2.01:1.0となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2MoO3である前駆体を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例8に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mn:Moは、1.05:0.69:0.09:0.09:0.10であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.09Mo0.10O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例8に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn+Mo)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn+Mo)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例8に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例8に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は208Ah/kgであり、充放電サイクル特性は91%であった。
[実施例9]
実施例9に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、前駆体の原料の炭酸リチウム、五酸化二ニオブを、Li:Nbが、モル濃度比で、2.01:1.0となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2NbO3である前駆体を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例9に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mn:Nbは、1.05:0.69:0.09:0.09:0.10であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.09Nb0.10O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例9に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn+Nb)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn+Nb)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例9に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例9に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は206Ah/kgであり、充放電サイクル特性は90%であった。
[実施例10]
実施例10に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、正極活物質の原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガン、酸化マグネシウムを、Li:Ni:Co:Mn:Mgが、モル濃度比で、1.03:0.80:0.10:0.08:0.02となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.00Ni0.8Co0.1Mn0.08Mg0.02O2である正極活物質コア粒子を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例10に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mn:Mgは、1.05:0.69:0.09:0.16:0.02であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.16Mg0.02O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例10に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn+Mg)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn+Mg)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例10に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例10に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は210Ah/kgであり、充放電サイクル特性は92%であった。
[実施例11]
実施例11に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、正極活物質の原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガン、酸化アルミニウムを、Li:Ni:Co:Mn:Alが、モル濃度比で、1.03:0.80:0.10:0.05:0.05となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.00Ni0.8Co0.1Mn0.05Al0.05O2である正極活物質コア粒子を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例11に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mn:Alは、1.05:0.69:0.09:0.14:0.04であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.14Al0.04O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例11に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn+Al)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn+Al)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例11に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例11に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は198Ah/kgであり、充放電サイクル特性は94%であった。
[実施例12]
実施例12に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、正極活物質の原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.03:0.70:0.20:0.10となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.00Ni0.7Co0.2Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例12に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.05:0.60:0.17:0.18であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.60Co0.17Mn0.18O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例12に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例12に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例12に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は212Ah/kgであり、充放電サイクル特性は92%であった。
[実施例13]
実施例13に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、正極活物質の原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.03:0.60:0.20:0.20となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.00Ni0.6Co0.2Mn0.2O2である正極活物質コア粒子を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例13に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.05:0.51:0.17:0.27であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.51Co0.17Mn0.27O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例13に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例13に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例13に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は203Ah/kgであり、充放電サイクル特性は93%であった。
[実施例14]
実施例14に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、正極活物質の原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.03:0.50:0.20:0.30となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.00Ni0.5Co0.2Mn0.3O2である正極活物質コア粒子を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例14に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.05:0.43:0.17:0.35であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.43Co0.17Mn0.35O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例14に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例14に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例14に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は190Ah/kgであり、充放電サイクル特性は94%であった。
[実施例15]
実施例15に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、前駆体の原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸マンガンを、Li:Ni:Mnが、モル濃度比で、1.22:0.2:0.6となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.2Ni0.2Mn0.6O2である前駆体を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例15に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.02:0.74:0.09:0.15であった。よって、元素組成は、Li1.02Ni0.74Co0.09Mn0.15O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比と表層のLi/O濃度比は表1のようになった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例15に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.47であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例15に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例15に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は206Ah/kgであり、充放電サイクル特性は86%であった。
[実施例16]
実施例16に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、前駆体の原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.22:0.13:0.13:0.54となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.2Ni0.13Co0.13Mn0.54O2である前駆体を作製した。また、実施例1と同様の手順で、元素組成が、Li1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。次に、実施例1と同様の手順で、実施例16に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.02:0.73:0.10:0.14であった。よって、元素組成は、Li1.02Ni0.73Co0.10Mn0.14O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比と表層のLi/O濃度比は表1のようになった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、一次粒子の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例16に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.47であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例16に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例16に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は210Ah/kgであり、充放電サイクル特性は85%であった。
[実施例17]
実施例17に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。はじめに、原料粉末をスプレードライヤで噴霧乾燥して二次粒子化した工程を追加した点を除き、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を作製した。また、元素組成がLi2MnO3である前駆体を作製した。次に、二次粒子化した正極活物質コア粒子95gと前駆体の粒子5gを秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、実施例17に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造した。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.05:0.69:0.09:0.18であった。よって、元素組成は、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.18O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比は表層のLi/O濃度比よりも小さくなった。得られた正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。また、二次粒子の平均粒径は20μmであった。二次粒子の表層及び中心の元素分析を行った結果、実施例17に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.45であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、二次粒子の表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn)/O濃度比が低くなっていることが確認された。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える実施例17に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、実施例17に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は215Ah/kgであり、充放電サイクル特性は87%であった。
[比較例1]
比較例1に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。なお、比較例1に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、実施例1において前駆体を付着する前の正極活物質コア粒子と同じ組成を有し、粒子の表層と中心において(M1+M2)/O濃度比に差が無い粒子からなる。
はじめに、実施例1と同様の手順で、元素組成がLi1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を製造した。得られたコア粒子を、前駆体の付着と加熱処理を行うことなく、比較例1に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質とした。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える比較例1に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、比較例1に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は215Ah/kgであり、充放電サイクル特性は75%であった。
[比較例2]
比較例2に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。なお、比較例2に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、実施例1における前駆体を付着させ加熱処理して得られた正極活物質と同じ組成を有し、粒子の表層と中心において(M1+M2)/O濃度比に差が無い粒子からなる。
はじめに、原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸コバルト、炭酸マンガンをLi:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で1.07:0.69:0.09:0.18となるように秤量した点を除いて、実施例1と同様の手順で、元素組成が、Li1.05Ni0.69Co0.09Mn0.18O2である正極活物質の粒子を製造した。得られた粒子について、前駆体の付着と加熱処理を行うことなく、比較例2に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質とした。
次に、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える比較例2に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、比較例2に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は202Ah/kgであり、充放電サイクル特性は77%であった。
[比較例3]
比較例3に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質を、以下の手順で製造した。なお、比較例3に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、実施例1における前駆体を付着する前の正極活物質コア粒子の表面を、Al2O3で被覆した粒子からなる。
はじめに、実施例1と同様の手順で、元素組成が、Li1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2である正極活物質コア粒子を製造した。次に、正極活物質コア粒子90gとAl2O3の粒子10gを秤量し、これらを湿式混合した後、この溶液を噴霧乾燥して正極活物質コア粒子の表面にAl2O3の粒子を付着させた。続いて、得られた粒子を高純度アルミナ容器に投入し、酸素気流下において850℃で1時間加熱処理することによって、比較例3に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質とした。
得られた正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mn:Alは、0.86:0.43:0.17:0.26:0.19であった。よって、元素組成は、Li0.86Ni0.43Co0.17Mn0.26Al0.19O2であると推定される。
実施例1と同様に正極活物質の中心と表層のLi/O濃度比を測定したところ、中心のLi/O濃度比と表層のLi/O濃度比は表1のようになった。得られた正極活物質の平均粒径は0.6μmであった。表層及び中心の元素分析を行った結果、比較例3に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の(Ni+Co+Mn+Al)/O濃度比は、正極活物質の最表面から深さ60nmまでの領域において約0.55であり、最表面から深さ90nmを超える領域においては0.50であり、表層は中心と比較して(Ni+Co+Mn+Al)/O濃度比が高くなっていることが確認された。
そして、実施例1と同様の手順で、得られた正極活物質を含有する正極を備える比較例3に係るリチウムイオン二次電池を製造し、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。その結果、比較例3に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性は160Ah/kgであり、充放電サイクル特性は88%であった。
表1に、以上の実施例1〜17、及び比較例1〜3に係るリチウムイオン二次電池における放電容量特性(Ah/kg)及び充放電サイクル特性(%)を、用いたリチウムイオン二次電池用正極活物質の組成及び表層と中心における(M1+M2)/O濃度比と共に示す。表1中、「−」は含有していないことを表している。
図6は、実施例及び比較例に係るリチウムイオン二次電池の放電容量特性と充放電サイクル特性の関係を示す図である。図6に示すように、実施例1〜17に係るリチウムイオン二次電池は、放電容量特性及び充放電サイクル特性がいずれも高い水準にあり、優れた特性を有している。その一方で、比較例1〜3に係るリチウムイオン二次電池は、放電容量特性及び充放電サイクル特性の少なくとも一方が、実施例に及ばず、良好な放電容量特性及び充放電サイクル特性が両立していない。
特に、(M1+M2)/O濃度比が表層と中心で差のない比較例1、2は、表1に示すように、比較的高い放電容量特性を示したものの、充放電サイクル特性は75〜77%と低かった。これに対し、比較例2と同様の組成を有する実施例1では、(M1+M2)/O濃度比を中心と比較して表層で低くすることによって、放電容量特性及び充放電サイクル特性がいずれも改善されていた。同様に、(M1+M2)/O濃度比が中心と比較して表層で低くなっている実施例2〜17についても放電容量特性及び充放電サイクル特性が改善傾向を示した。
また、(M1+M2)/O濃度比が中心と比較して表層で高くなる比較例3では、比較的高い充放電サイクル特性を示したものの、放電容量特性が低かった。比較例3は、表層に典型金属であるAlを多く配置することで、充電時に不安定な電荷状態となる遷移金属と電解液との接触による電解液の酸化分解の進行を抑制することが可能である一方、充放電に寄与するLiや遷移金属の比率が低下し、放電容量特性が低下したものと考えられる。これに対し、(M1+M2)/O濃度比が中心と比較して表層で低くなる実施例1では、放電容量特性及び充放電サイクル特性がいずれも改善されていた。よって、(M1+M2)/O濃度比を中心と比較して表層で低くすることは、正極活物質の放電容量を低下させることなく、充電時に不安定な電荷状態となる遷移金属と電解液との接触による電解液の酸化分解の進行を抑制することが可能であり、放電容量特性及び充放電サイクル特性の向上に寄与することが確認された。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。