以下、図面を参照して本発明の正極活物質、それを用いた正極、及びその正極を備えたリチウムイオン二次電池の実施形態について説明する。
(正極及びリチウムイオン二次電池)
まず、リチウムイオン二次電池用の正極及びそれを備えたリチウムイオン二次電池の一実施形態について説明する。図1は、本発明のリチウムイオン二次電池用の正極及びそれを備えたリチウムイオン二次電池の一実施形態を示す模式部分断面図である。
本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、例えば、円筒形の形状を有し、非水電解液を収容する有底円筒状の電池缶101と、電池缶101内に収容される捲回電極群110と、電池缶101の上部開口を封止する円板状の電池蓋102と、を備えている。電池缶101と電池蓋102は、例えば、アルミニウム等の金属材料により作製され、絶縁性を有する樹脂材料からなるシール材106を介して電池蓋102が電池缶101にかしめ等によって固定されることで、電池缶101が電池蓋102によって封止されるとともに互いに電気的に絶縁されている。なお、リチウムイオン二次電池100の形状は、円筒形に限られず、角形、ボタン形、ラミネートシート形等、他の任意の形状を採用することができる。
捲回電極群110は、長尺帯状のセパレータ113を介して対向させた長尺帯状の正極111と負極112とを捲回中心軸周りに捲回することによって作製されている。捲回電極群110は、正極集電体111aが正極リード片103を介して電池蓋102と電気的に接続され、負極集電体112aが負極リード片104を介して電池缶101の底部と電気的に接続されている。捲回電極群110と電池蓋102の間及び捲回電極群110と電池缶101の底部との間には、短絡を防止する絶縁板105が配置されている。正極リード片103及び負極リード片104は、それぞれ正極集電体111a及び負極集電体112aと同様の材料によって作製された電流引出用の部材であり、それぞれ正極集電体111a及び負極集電体112aにスポット溶接又は超音波圧接等によって接合されている。
本実施形態の正極111は、正極集電体111aと、正極集電体111aの表面に形成された正極合剤層111bと、を備えている。正極集電体111aとしては、例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等を用いることができる。金属箔は、例えば、8μm以上かつ20μm以下程度の厚さにすることができる。正極合剤層111bは、後述する実施形態に係る正極活物質を含んでいる。また、正極合剤層111bは、導電材、結着剤等を含んでいてもよい。
負極112は、負極集電体112aと、負極集電体112aの表面に形成された負極合剤層112bとを備えている。負極集電体112aとしては、銅又は銅合金、ニッケル又はニッケル合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等を用いることができる。金属箔は、例えば、5μm以上かつ20μm以下程度の厚さにすることができる。負極合剤層112bは、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられている負極活物質を含んでいる。また、負極合剤層112bは、導電材、結着剤等を含んでいてもよい。
負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属材料、金属酸化物材料等の一種以上を用いることができる。炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛類や、コークス、ピッチ等の炭化物類や、非晶質炭素や、炭素繊維等を用いることができる。また、金属材料としては、リチウム、シリコン、スズ、アルミニウム、インジウム、ガリウム、マグネシウムやこれらの合金、金属酸化物材料としては、スズ、ケイ、リチウム、チタン素等を含む金属酸化物を用いることができる。
セパレータ113としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂等の微孔性フィルムや不織布等を用いることができる。
正極111及び負極112は、例えば、合剤調製工程、合剤塗工工程、及び成形工程を経て製造することができる。合剤調製工程では、例えば、プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、自転・公転ミキサ等の撹拌手段を用いて、正極活物質又は負極活物質を、例えば、導電材、結着剤を含む溶液とともに撹拌及び均質化して合剤スラリーを調製する。
導電材としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられている導電材を用いることができる。具体的には、例えば、黒鉛粉末、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等の炭素粒子や炭素繊維等を導電材として用いることができる。導電材は、例えば、合剤全体の質量に対して3質量%以上かつ10質量%以下程度となる量を用いることができる。
結着剤としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられている結着剤を用いることができる。具体的には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリロニトリル、変性ポリアクリロニトリル等を結着剤として用いることができる。結着剤は、例えば、合剤全体の質量に対して2質量%以上かつ10質量%以下程度となる量を用いることができる。
溶液の溶媒としては、結着剤の種類に応じて、N−メチルピロリドン、水、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等から選択することができる。
合剤塗工工程では、まず、合剤調製工程で調製した正極活物質を含む合剤スラリーと負極活物質を含む合剤スラリーを、例えば、バーコーター、ドクターブレード、ロール転写機等の塗工手段によって、それぞれ正極集電体111aと負極集電体112aの表面に塗布する。次に、合剤スラリーを塗布した正極集電体111aと負極集電体112aとをそれぞれ熱処理することで、合剤スラリーに含まれる溶液の溶媒を揮発又は蒸発させて除去し、正極集電体111aと負極集電体112aの表面に、それぞれ正極合剤層111bと負極合剤層112bを形成する。
成形工程では、まず、正極集電体111aの表面に形成された正極合剤層111bと、負極集電体112aの表面に形成された負極合剤層112bとを、例えば、ロールプレス等の加圧手段を用いて、それぞれ加圧成形する。これにより、正極合剤層111bを、例えば、15μm以上かつ300μm以下程度の厚さにして、負極合剤層112bを、例えば、10μm以上かつ150μm以下程度の厚さにすることができる。その後、正極集電体111a及び正極合剤層111bと、負極集電体112a及び負極合剤層112bとを、それぞれ長尺帯状に裁断することによって、正極111と負極112を製造することができる。
以上のように製造された正極111及び負極112は、セパレータ113を介して対向した状態で捲回中心軸周りに捲回されて捲回電極群110とされる。捲回電極群110は、負極集電体112aが負極リード片104を介して電池缶101の底部に接続され、正極集電体111aが正極リード片103を介して電池蓋102に接続され、絶縁板105等によって電池缶101及び電池蓋102と短絡が防止されて電池缶101に収容される。その後、電池缶101に非水電解液を注入し、シール材106を介して電池蓋102を電池缶101に固定し、電池缶101を密封することで、リチウムイオン二次電池100を製造することができる。
電池缶101に注入される非水電解液としては、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3等のリチウム塩を非水溶媒に溶解させた溶液を用いることができる。非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、0.7M以上1.5M以下とすることが好ましい。
非水溶媒としては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルアセテート、ジメトキシエタン等を用いることができる。また、非水電解液には、電解液の酸化分解及び還元分解の抑制、金属元素の析出防止、イオン伝導性の向上、難燃性の向上等を目的として、各種の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、電解液の分解を抑制する1,3−プロパンサルトン、1,4−ブタンサルトン等や、電解液の保存性を向上させる不溶性ポリアジピン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等や、難燃性を向上させるフッ素置換アルキルホウ素等を用いることができる。
以上の構成を有するリチウムイオン二次電池100は、電池蓋102を正極外部端子、電池缶101の底部を負極外部端子として、外部から供給された電力を捲回電極群110に蓄積するとともに、捲回電極群110に蓄積した電力を外部の装置等に供給することができる。このように、本実施形態のリチウムイオン二次電池100は、例えば、携帯電子機器や家庭用電気機器等の小型電源、無停電電源や電力平準化装置等の定置用電源、船舶、鉄道、ハイブリット自動車、電気自動車等の駆動電源として使用することができる。
(正極活物質)
以下、前述のリチウムイオン二次電池100が備える正極111の正極合剤層111bに含まれる本実施形態の正極活物質について詳細に説明する。図2及び図3は、それぞれ本発明の一実施形態に係る正極活物質1A,1Bを構成する粒子を示す模式的な断面図である。
本実施形態の正極活物質1A,1Bは、下記の組成式(1)によって表される。
Li1+aNibMcO2+α …(1)
ただし、式(1)中、Mは、Mn、Co、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、Nb、Fe、Sn、V、Zn、W、Na、Bからなる群より選択される少なくともMnを含む1種以上の元素であり、a、b、c、及び、αは、−0.1≦a≦0.3、b+c=1、b/(b+c)>0.7、及び、−0.1≦α≦0.1、を満たす数である。
前記組成式(1)で表わされる正極活物質1A,1Bは、電極反応に伴ってリチウムイオンの挿入及び脱離をすることができる層状酸化物であって、主としてα−NaFeO2型の層状の結晶構造を有し、X線回折法による回折ピークは、空間群R3−m(「−」は「3」の上付きバーである)に帰属され得るパターンを示すリチウム金属複合酸化物である。
前記組成式(1)中のLiの過不足量を示すaは、−0.1≦a≦0.3を満たす数であり、Liの組成比は0.9以上かつ1.3以下とされる。すなわち、正極活物質1A,1Bは、Liがα−NaFeO2型の結晶構造における3aサイトのみに配置される酸化物に限られず、リチウムが化学量論比より過剰である、所謂、層状固溶体酸化物(Li(LipM1−p)O2(0<p<1)、Li2MO3−LiMO2等と表される。)であってもよい。正極活物質1A,1Bにおけるリチウムの組成比をこのような範囲とすることによって、高い放電容量を確保することができる。
前記組成式(1)中のNiの比率を示すbと、Li及びNi以外の遷移金属元素であるMの比率を示すcは、b+c=1、b/(b+c)>0.7を満たす。すなわち、前記組成式(1)中のLi以外の遷移金属元素中のNiの比率は、7割を超えている。これにより、前記組成式(1)で表される正極活物質1A,1Bの高容量化が可能になる。
また、前記組成式(1)中のMは、Mn、Co、Mg、Al、Ti、Zr、Mo、Nb、Fe、Sn、V、Zn、W、Na、Bからなる群より選択される少なくともMnを含む1種以上の元素である。例えば、Mは、Mnのみであってもよく、Mnとそれ以外の金属元素を含んでもよい。MがMnを含むことで、正極活物質1A,1Bの層状構造を安定させることができる。
前記組成式(1)中のMがCoを含む場合には、正極活物質1A,1Bの層状構造を安定させるだけでなく、レート特性の改善、充放電に伴う価数変化による充放電容量の増加等が可能になる。ただし、Coは、供給が不安定で価格が高いため、MにおけるCoの比率は0.05以上かつ0.3以下の範囲であることが好ましい。Mは、MnとCoの2種類の元素を含むことが特に好ましい。
前記組成式(1)中のMがMg、Al、Ti、Zr、Mo、Nb、Fe、Sn、V、Zn、W、Na、B等の金属元素を含む場合には、正極活物質1A,1Bの層状構造を安定させることができる。また、例えば、前記式(1)中のLi以外の金属元素中のNiの比率が7割を超えかつ層状構造を有するNiリッチ層状化合物の層状構造を安定化する観点から、Mは、Mg、Al、Tiを含むことが好ましい。
前記組成式(1)中のMがAlを含む場合には、Li以外の金属元素中のAlの比率、すなわち前記組成式(1)中のb+c=1としたときのAlの比率は、0.04未満であることが好ましい。前記組成式(1)で表される正極活物質1A,1Bにおいて、Li以外の金属元素中のAlが0.04以上になると、リチウムイオン二次電池の1C放電容量及び容量維持率が低下するからである。
また、前記組成式(1)中のMがMgを含む場合には、Li以外の金属元素中のMgの比率、すなわち前記式(1)中のb+c=1としたときのMgの比率は、0.02未満であることが好ましい。Li以外の金属元素中のMgの比率が0.02以上になると、リチウムイオン二次電池の1C放電容量及び容量維持率が低下するからである。
前記組成式(1)中のαは、酸素の過不足量を示す数値であり、−0.1≦α≦0.1を満たす。すなわち、前記組成式(1)中の酸素の比率は、1.9以上かつ2.1以下である。酸素量は、分析条件、組成条件等によって量論組成から多少ずれることが知られている。したがって、前記組成式(1)で表される正極活物質1A,1Bは、層状構造を維持可能な範囲で酸素量が前後することがある。なお、正極活物質1A,1Bの層状構造を維持可能である場合には、酸素量は、5%程度の範囲内であれば前後してもよい。また、前記組成式(1)で表される正極活物質1A,1Bは、結晶構造上にサイト間の置換や欠損を有していてもよい。
なお、本実施形態に係る正極活物質1A,1Bの粒子の結晶構造は、X線回折法(X-ray diffraction; XRD)等で確認することができる。また、本実施形態に係る正極活物質1A,1Bの粒子の平均組成は、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma; ICP)、原子吸光分析(Atomic Absorption Spectrometry; AAS)等で確認することができる。また、本実施形態に係る正極活物質1A,1Bの粒子における元素分布は、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time of flight - secondary ion mass spectrometer; TOF-SIMS)、オージェ電子分光(Auger Electron Spectroscopy; AES)、X線光電子分光(X-ray Photoelectron Spectroscopy; XPS)、透過電子顕微鏡−電子エネルギー損失分光(Transmission Electron Microscopy - Electron Energy Loss Spectroscopy; TEM-EELS)等で確認することができる。
本実施形態に係る正極活物質1A,1Bを構成する個々の粒子である一次粒子の平均粒径は、0.1μm以上かつ2μm以下であることが好ましい。一次粒子の平均粒径を2μm以下とすることによって、リチウムイオン二次電池の正極における正極活物質1A,1Bの充填性が向上し、良好なエネルギー密度を達成することができる。また、正極活物質1A,1Bを構成する粒子は、一次粒子を乾式造粒又は湿式造粒によって造粒することで、複数の一次粒子を結合させた二次粒子であってもよい。造粒手段としては、例えば、スプレードライヤや転動流動層装置等の造粒機を用いることができる。二次粒子の平均粒径は、3μm以上かつ50μm以下であることが好ましい。
本実施形態の正極活物質1A,1Bを構成する粒子の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)等による粒子の観察に基づいて測定することができる。粒子の観察により、例えば、粒子径が中央値に近い順に10個の一次粒子又は二次粒子を抽出し、これらの粒子径の加重平均を算出して平均粒径とすることができる。なお、粒子径は、電子顕微鏡像における粒子の長径と短径の平均値として求めることができる。
正極活物質1Bの粒子は、表層部12とコア部11Bとを有している。前記組成式(1)中のMがAlを含む場合、表層部12のAlの質量モル濃度は、コア部11BのAlの質量モル濃度よりも高いことが好ましい。これにより、少量の元素置換で表面近傍の構造の変化を抑制することができる。また、前記組成式(1)中のMがMgを含む場合、表層部12のMgの質量モル濃度は、前記コア部11BのMgの質量モル濃度よりも高いことが好ましい。これにより、少量の元素置換で表面近傍の構造の変化を抑制することができる。
また、正極活物質1A,1Bの粒子は、個々の粒子が分離した一次粒子である場合と、複数の粒子が結合した二次粒子である場合がある。それぞれの場合に、一次粒子又は二次粒子は、表層部12とコア部11Bとを有していることが好ましい。この場合、表層部12のLiとMnのモル比率Li/Mnは、コア部11BのLiとMnのモル比率Li/Mnよりも低いことが好ましい。これにより、表面近傍の構造の変化を抑制することができる。
図4は、本実施形態の正極活物質1A,1Bを含む正極111を備えたリチウムイオン二次電池100に対して、正極活物質1A,1Bの重量を基準として44Ah/kgの電流で充電する際の、正極111のリチウム金属に対する電圧をV、リチウムイオン二次電池100の充電容量をQとし、横軸をV、縦軸をdQ/dVとするグラフである。
図4中、曲線L1からL3は、本実施形態の正極活物質1A,1Bを用いた本実施形態のリチウムイオン二次電池100を示す曲線であり、曲線L0は、従来の正極活物質を用いた従来のリチウムイオン二次電池を示す曲線である。
図4中、曲線L1からL3で示される本実施形態の正極活物質1A,1Bは、図4に示すグラフにおけるdQ/dVのピーク値が、190Ah・(kg・V)−1以上かつ300Ah・(kg・V)−1以下であることを特徴としている。以下に、その作用を本実施形態の正極活物質1A,1Bを例として説明する。
図1に示すリチウムイオン二次電池100を、例えば、電気自動車や民生用電気機器に採用する場合、高容量が得られること、および、充放電回数が増加しても放電容量の低下が小さいこと、すなわち放電のサイクル容量維持率の低下を抑制することが要求される。
LiM1O2で表される層状化合物からなる従来の正極活物質を用いた従来のリチウムイオン二次電池は、特にLi金属基準で4.3Vの高電位まで充電する際に、正極活物質の粒子の表面近傍から開始する構造変化が生じ、サイクル充放電の容量維持率が低下する。この原因として、少なくとも充放電に伴う正極活物質の結晶構造の不安定化が挙げられる。LiM1O2で表される層状化合物のM1中のNiの比率が高くなるほど、リチウムイオン二次電池の充放電容量が増加し、挿入脱離するLiの割合が増加する。しかし、M1中のNiの比率が0.7を超えるNiリッチ層状化合物は、充放電に伴う格子体積の変化が大きくなり、従来の層状構造を保ち難くなる。
Niリッチ層状化合物からなる正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、Ni比率が0.7以下の層状化合物からなる正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池と比較して、Li金属を基準する電位で4.1Vから4.3Vまでの範囲の充電曲線のdQ/dVにおいて、顕著な反応ピークが現れる。このピークは、充電容量の増加と共に、正極活物質に不可逆な相変化が生じていることを示唆している。更に、このピークの強度は、正極活物質の相変化量と関連があり、ピークが高いほど相変化がより進んでいると考えられる。その結果、リチウムイオン二次電池のサイクル充放電の容量維持率が大幅に低下する。
特に、図4中の曲線L0のように、正極活物質の重量を基準として、リチウムイオン二次電池を44Ah/kgの電流で充電する際の正極のリチウム金属に対する電圧をV、リチウムイオン二次電池の充電容量をQとし、横軸をV、縦軸をdQ/dVとするグラフにおける充電曲線のdQ/dVのピーク値が、300Ah・(kg・V)−1を超えると、リチウムイオン二次電池の容量の低下とサイクル充放電の容量維持率の低下が顕著になる。また、dQ/dVのピーク値が190Ah・(kg・V)−1未満になると、リチウムイオン二次電池の容量の低下が顕著になる。
また、Niリッチ層状化合物からなる正極活物質の粒子の表面近傍は、Liの挿入脱離が容易な領域であるため、結晶構造は最も不安定と考えられる。したがって、Niリッチ層状化合物からなる正極活物質のサイクル特性の改善には、正極活物質の粒子の構造、特に表面近傍の構造の変化を抑制する必要がある。
上記のdQ/dVのピーク値は、例えば、正極活物質1A,1Bに対する元素置換や表面被覆によって実現することができる。
図2は、元素置換を行った正極活物質1Aの粒子の模式断面図であり、図3は、表面被覆を行った正極活物質1Bの粒子の模式断面図である。
元素置換とは、前記式(1)中のLi以外の金属元素中のNiの比率が7割を超え、かつ層状構造を有するNiリッチ層状化合物である本実施形態の正極活物質1Aにおいて、一部の元素が置換元素で置換されていることをいう。元素置換では、正極活物質1Aの一部の元素を不活性元素で置換することによる容量低下を抑制するため、充放電に寄与しない元素を置換することが好ましい。例えば、正極活物質1A中のMnの一部を、置換元素で置換することができる。置換元素としては、例えば、Al、Mg等の金属元素を用いることができる。なお、正極活物質1Aの粒子11A中の置換元素の濃度は、表面と中心で異なっていてもよい。
図4中、黒三角印を結ぶ点線で示される曲線L1は、前記式(1)中のMに含まれるMnをAlによって元素置換した正極活物質1Aを用いたリチウムイオン二次電池100を示している。また、図4中、黒四角印の点を結ぶ一点鎖線で示される曲線L2は、前記式(1)中のMに含まれるMnをMgによって元素置換した正極活物質1Aを用いたリチウムイオン二次電池100を示している。
表面被覆とは、前記Niリッチ層状化合物をコア部11Bとし、コア部11Bを表層部12によって被覆することをいう。充放電に伴うコア部11Bの体積変化を抑制する観点から、表層部12には、充放電に伴う格子体積変化率がコア部11Bを構成する前記Niリッチ層状化合物より低い化合物を用いることが好ましい。表層部12によってコア部11Bが被覆された粒子からなる正極活物質1Bの容量低下を抑制するため、充放電活性を有するLi含有複合化合物を可能な限り用いることが好ましい。表層部12としては、例えば、Li2MnO3やLi1.2Ni0.2Mn0.6O2を用いることができる。なお、表面被覆と元素置換の双方を行ってもよい。表層部をLi過剰組成とすることにより、高電位でサイクル劣化をより抑制することができる。
表面被覆を行う場合、コア部11Bの全体が表層部12によって覆われていてもよいが、コア部11Bの一部が表層部12から露出していてもよい。すなわち、表層部12は、必ずしもコア部11Bの全体を覆う必要はない。リチウムイオン二次電池100のサイクル劣化を抑制する観点から、正極活物質1Bの粒子において、コア部11Bの表面の表層部12によって覆われている割合である形成率は、70%以上であることが好ましい。また、リチウムイオン二次電池100のサイクル劣化を抑制する観点から、正極活物質1Bを構成する粒子のうち、コア部11Bの少なくとも一部が表層部12によって覆われている粒子の割合である形成粒子率は、50%であることが好ましい。
また、表層部12の平均厚さは、20nm以上かつ200nm以下であることが好ましい。表層部12の平均厚さが20nm未満であると、リチウムイオン二次電池のサイクル劣化を抑制する効果が低下する虞がある。また、表層部12の平均厚さが200nmよりも厚いと、高容量化に寄与するコア部11Bの割合が低下し、リチウムイオン二次電池100の容量が低下する虞がある。
図4中、白丸印の点を結ぶ破線で示される曲線L3は、前記組成式(1)で表されるコア部11Bが、組成式Li2MnO3で表される表層部12によって表面被覆された粒子からなる正極活物質1Bを用いたリチウムイオン二次電池100を示している。また、黒丸印を結ぶ実線で表される曲線L0は、元素置換及び表面被覆を行っていない正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池100を示している。
次に、本実施形態の正極活物質1A,1Bの製造方法について説明する。本実施形態の正極活物質1A,1Bは、一般的な正極活物質の製造方法に準じて製造することができ、例えば、固相法、共沈法、ゾルゲル法、水熱法等によって製造することができる。
固相法によって本実施形態の正極活物質1A,1Bを製造する場合、まず、原料のLi含有化合物、Ni含有化合物、Mn含有化合物、及び、前記式(1)中のMに含まれるMn以外の元素を含有するM含有化合物等を所定の元素組成となる比率で秤量し、粉砕及び混合して原料粉末を調製する原料粉末調製工程を実施することができる。原料粉末の調製には、乾式粉砕及び湿式粉砕のいずれの方式も用いることができる。粉砕手段としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星型ボールミル、アトライター、ジェットミル等の粉砕機を利用することができる。
原料粉末調製工程で用いるLi含有化合物としては、例えば、酢酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム等を用いることができ、特に、炭酸リチウム、水酸化リチウムを用いることが好ましい。Ni含有化合物及びMn含有化合物としては、例えば、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩等を用いることができ、特に、酸化物、水酸化物、炭酸塩を用いることが好ましい。また、前記式(1)中のMに含まれるMn以外の元素を含有するM含有化合物としては、例えば、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができ、特に、炭酸塩、酸化物、水酸化物を用いることが好ましい。
前述の図2に示す正極活物質1Aの粒子のように、製造する正極活物質1Aの元素置換を行う場合には、原料粉末調製工程において、置換元素を含む化合物を原料粉末に混合する。例えば、正極活物質1A中のMnを、Al、Mg等の置換元素によって置換するには、原料粉末調製工程において、原料のLi含有化合物、Ni含有化合物、Mn含有化合物、及び、前記式(1)中のMに含まれるMn以外の元素を含有するM含有化合物とともに、Alの酸化物、Mgの酸化物等を混合することができる。
次に、原料粉末調製工程で調製された原料粉末を焼成して正極活物質1A又はコア部11Bの前駆体粒子を得る焼成工程を実施することができる。焼成工程では、原料粉末を仮焼成することによって原料化合物を熱分解させ、仮焼成を経た原料粉末を本焼成することで焼結させることが好ましい。本焼成の前に、仮焼成を経た原料粉末を適宜解砕及び分級してもよい。
仮焼成における加熱温度は、例えば、400℃以上かつ700℃以下程度、本焼成における加熱温度は、例えば、700℃以上かつ900℃以下程度、好ましくは720℃以上かつ820℃以下とすることができる。このような温度範囲であれば、正極活物質1Aの粒子又はコア部11Bの前駆体粒子の分解や成分の揮発を避けつつ、結晶性を向上させることができる。
また、仮焼成における焼成時間は、2時間以上かつ24時間以下、好ましくは4時間以上かつ16時間以下であり、本焼成における焼成時間は、2時間以上かつ24時間以下、好ましくは4時間以上かつ16時間以下とする。焼成工程は、複数回を繰り返し行ってもよい。
焼成工程における雰囲気は、不活性ガス雰囲気及び酸化ガス雰囲気のいずれとしてもよいが、酸素、空気等の酸化ガス雰囲気とすることが好ましい。酸化ガス雰囲気で焼成を行うことによって、原料化合物の不完全な熱分解による不純物の混入を避けることができ、また、結晶性を向上させることができる。なお、焼成された正極活物質1Aの粒子又はコア部11Bの前駆体粒子は、除冷や空冷してもよく、液体窒素等を用いて急冷してもよい。
前述の図3に示す正極活物質1Bの粒子のように、製造する正極活物質1Bの表面被覆を行う場合には、焼成工程を経たコア部11Bの前駆体粒子と、表層部12の前駆体粒子とを混合して、コア部11Bが表層部12によって被覆された粒子からなる正極活物質1Bを得る被覆工程を実施することができる。表層部12の前駆体粒子の組成は、例えば、Li2MnO3やLi1.2Ni0.2Mn0.6O2とすることができる。
被覆工程では、コア部11Bの前駆体粒子と、表層部12の前駆体粒子とを混合した後に、熱処理を行うことが好ましい。熱処理を行うことで、正極活物質1Bの粒子の表面近傍に固溶相が形成される。被覆工程における熱処理の加熱温度は、焼成工程における本焼成の加熱温度以下であればよい。このような温度範囲であれば、正極活物質1Bの粒子の分解や成分の揮発を避けつつ、表面近傍で被覆粒子を固溶させることができる。また、被覆工程の熱処理時間は、10分以上かつ12時間以下、好ましくは30分以上かつ6時間以下である。被覆工程の熱処理は、複数回を繰り返し行ってもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、高容量かつサイクル充放電による容量維持率に優れたリチウムイオン二次電池用の正極活物質1A,1B、その正極活物質1A,1Bを用いた正極111、及びその正極111を備えたリチウムイオン二次電池100を提供することができる。
(実施例及び比較例)
以下、本発明の正極活物質、正極及びリチウムイオン二次電池の実施例と、その比較例について説明する。
(元素置換)
表1に、元素置換を行った実施例1及び実施例2の正極活物質と、元素置換を行っていない比較例1の正極活物質と、元素置換を行った比較例2及び比較例3の正極活物質の原料中の組成のモル濃度比と正極活物質の組成比を示す。
元素置換を行っていない比較例1の正極活物質は、以下の手順で作製した。まず、原料の炭酸リチウム、水酸化ニッケル、炭酸コバルト、及び炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.03:0.80:0.10:0.10となるように秤量し、これらを湿式粉砕及び混合して原料粉末を調製した。次に、得られた原料粉末を、乾燥させた後、高純度アルミナ容器に投入し、酸素気流下において650℃で12時間の仮焼成を行った。次に、得られた仮焼成体を空冷し、解砕した後、再び高純度アルミナ容器に投入して、酸素気流下において770℃で8時間の本焼成を行った。そして、得られた焼成体を空冷し、解砕及び分級し、比較例1の正極活物質を得た。
得られた比較例1の正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mnは、1.00:0.80:0.10:0.10であった。次に、正極活物質の結晶構造を分析した。X線回折装置(リガク製 RINTIII)を用い、CuKα線を用いて正極活物質の結晶構造を測定した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。よって、比較例1の正極活物質の元素組成は、Li1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2.0であると推定した。
また、元素置換を行った実施例1及び実施例2、並びに比較例2及び比較例3の正極活物質は、以下の手順で作製した。まず、原料の炭酸リチウム、水酸化ニッケル、炭酸コバルト、及び炭酸マンガンに加えて、置換元素であるAl又はMgの酸化物を、表1に示す原料中のモル濃度比となるように秤量し、これらを湿式粉砕及び混合して原料粉末を調製した。その後、比較例1と同様に、得られた原料粉末を乾燥させて仮焼成した後、本焼成を行って、得られた焼成体を空冷、解砕及び分級して、実施例1及び実施例2、並びに比較例2及び比較例3の正極活物質を得た。
得られた実施例1及び実施例2、並びに比較例2及び比較例3の正極活物質の粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Co:Mn:Al:Mgの組成比は、表1に示す通りであった。次に、比較例1と同様に、正極活物質の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。よって、実施例1及び実施例2、並びに比較例2及び比較例3の正極活物質の正極活物質の元素組成は、Li:Ni:Co:Mn:Al:Mgが表1に示す組成比であると推定した。
(表面被覆)
表2に、表面被覆を行った実施例3から実施例7、並びに比較例4及び比較例5の正極活物質のコア部の組成比、正極活物質の粒子100g中のコア部の重量、表層部の組成比、及び正極活物質の粒子100g中の表層部の重量を示す。なお、表2では、表面被覆を行っていない前述の比較例1の正極活物質を、コア部のみの正極活物質として示している。
表面被覆を行った実施例3から実施例7、並びに比較例4及び比較例5の正極活物質は、以下の手順で作製した。まず、比較例1の正極活物質と同様に、原料の炭酸リチウム、水酸化ニッケル、炭酸コバルト、及び炭酸マンガンを、Li:Ni:Co:Mnが、モル濃度比で、1.03:0.80:0.10:0.10となるように秤量し、これらを湿式粉砕及び混合して原料粉末を調製した。次に、比較例1と同様に、得られた原料粉末を乾燥させて仮焼成した後、本焼成を行い、得られた焼成体を空冷、解砕及び分級して、コア部の前駆体粒子を作製した。
次に、実施例3から実施例6及び比較例4の正極活物質を構成する粒子の表層部の前駆体粒子と、実施例7及び比較例5の正極活物質を構成する粒子の表層部の前駆体粒子の2種類の表層部の前駆体粒子を作製した。
実施例3から実施例6及び比較例4の正極活物質を構成する粒子の表層部の前駆体粒子を作製する際には、まず、原料の炭酸リチウム、炭酸マンガンを、Li:Mnがモル濃度比で2.02:1.0となるように秤量し、これらを湿式粉砕及び混合して原料粉末を調製した。得られた原料粉末を、乾燥させた後、高純度アルミナ容器に投入し、大気中において700℃で12時間の仮焼成を行った。そして、得られた仮焼成体を空冷し、解砕して表層部の前駆体粒子を得た。得られた表層部の前駆体粒子の元素分析を行ったところ、Li:Mnは、2.00:1.0であった。次に、比較例1と同様に、表層部の前駆体粒子の結晶構造を分析した結果、C2/mに帰属する単斜晶構造のピークが確認できた。よって、表層部の前駆体粒子の元素組成は、Li2MnO3であると推定した。
実施例7及び比較例5の正極活物質を構成する粒子の表層部の前駆体粒子を作製する際には、まず、原料の炭酸リチウム、炭酸ニッケル、炭酸マンガンを、Li:Ni:Mnがモル濃度比で1.21:0.2:0.6となるように秤量し、これらを湿式粉砕及び混合して原料粉末を調製した。得られた原料粉末を、乾燥させた後、高純度アルミナ容器に投入し、大気中において700℃で12時間の熱処理を行った。そして、得られた仮焼成体を空冷し、解砕して表層部の前駆体粒子を得た。得られた表層部の前駆体粒子の元素分析を行ったところ、Li:Ni:Mnは、1.2:0.2:0.6であった。次に、比較例1と同様に、表層部の前駆体粒子の結晶構造を分析した結果、R3−mに帰属する層状構造のピークが確認できた。よって、表層部の前駆体粒子の元素組成は、Li1.2Ni0.2Mn0.6O2.0であると推定した。
次に、実施例3から実施例7、並びに比較例4及び比較例5の正極活物質を作製するために、コア部の前駆体粒子と表層部の前駆体粒子を、それぞれ表2に示す重量比で秤量し、これらを湿式混合した後、混合物を乾燥させて、コア部の前駆体粒子の表面に表層部の前駆体粒子を付着させた。続いて、これらを高純度アルミナ容器に投入し、酸素気流下において770℃で1時間の熱処理を行って、コア部と表層部を有する粒子からなる実施例3から実施例7、並びに比較例4及び比較例5の正極活物質を得た。
次に、実施例1から実施例7、並びに比較例1から比較例5の正極活物質を用いて、それぞれ、実施例1から実施例7、並びに比較例1から比較例5のリチウムイオン二次電池を、以下の手順で試作した。
まず、各実施例及び各比較例の正極活物質と導電剤とバインダとを均一に混合して正極スラリーを作製した。次に、正極スラリーを厚さ20μmのアルミ集電体箔上に塗布し、120℃で乾燥し、プレスにて電極密度が2.60g/cm3になるように圧縮成形して電極板を得た。その後、電極板を直径15mmの円盤状に打ち抜き、各実施例及び各比較例の正極を作製した。負極は、金属リチウムを用いて作製し、作製した各実施例、各比較例の正極及び負極と、非水電解液によって、各実施例及び各比較例のリチウムイオン二次電池を試作した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比1:2で混合した溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度となるように溶解させたものを用いた。
次に、作製した実施例1から実施例7、並びに比較例1から比較例5のリチウムイオン二次電池について、充放電試験を行い、放電容量特性及び充放電サイクル特性を評価した。なお、充放電試験は、25℃の環境温度下で行った。
放電容量特性については、正極活物質の重量を基準として1C=220Ah/kgとし、以下の手順で求めた。充放電の条件は、充電については、0.2C相当の電流で上限電圧4.6Vまで定電流低電圧充電とし、放電については、充電後に30分間休止した後、0.2C相当の定電流で下限電圧3.3Vまでの放電とした。この初期充放電を計3サイクル繰り返した。この0.2Cでの3サイクル目の充電曲線からdQ/dV値を算出した。リチウム金属基準の電圧で4.1Vから4.3Vまでの範囲のdQ/dVピーク値(以下dQ/dV4.1〜4.3Vと略す)を、以下の表3及び表4に示す。
表3は、正極活物質の元素置換を行った実施例1及び実施例2、並びに比較例2及び比較例3と、正極活物質の元素置換を行っていない比較例1リチウムイオン二次電池の結果を示している。また、表4は、正極活物質の粒子の表面被覆を行った実施例3から実施例7、並びに比較例4及び比較例5と、正極活物質の粒子の表面被覆を行っていない比較例1のリチウムイオン二次電池の結果を示している。
実施例1から実施例7、並びに比較例1から比較例5のリチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性については、以下の手順で求めた。初期充放電を実施後、1C相当の電流で上限電圧4.6Vまで定電流定電圧充電し、10分間の休止の後、1.0C相当の定電流で下限電圧3.3Vまで放電した。この充放電サイクルを計90サイクル繰り返した。この90サイクル充放電の90サイクル目の放電容量と1回目の放電容量の比率をサイクル容量維持率として算出して、充放電サイクル特性を評価した。各実施例及び各比較例の二次電池のサイクル特性評価の1サイクル目の1C放電容量と90サイクル充放電の容量維持率は、表3および表4に示す結果となった。
表1に示すように、実施例1の正極活物質は、Li以外の金属元素全体を1として、Mnの一部を0.02のAlで元素置換している。また、実施例2の正極活物質は、Li以外の金属元素全体を1として、Mnの一部を0.01のAlで元素置換している。表3に示すように、実施例1及び実施例2のリチウムイオン二次電池では、dQ/dV4.1〜4.3Vの値を、300Ah・(kg・V)−1以下に抑制することで、正極活物質の層状構造が維持され、1C放電容量を174.3Ah/kg以上の高容量にしつつ、容量維持率を68.8%以上として良好なサイクル特性を得ることができた。
これに対し、元素置換を行っていない比較例1の正極活物質を用いた比較例1のリチウムイオン二次電池では、dQ/dV4.1〜4.3Vの値が300Ah・(kg・V)−1を超えたため、正極活物質の相変化が進行して容量維持率が低下したと考えられる。
また、表1に示すように、比較例2及び比較例3の正極活物質は、元素置換を行っているが、前記組成式(1)中のLi以外の金属元素全体の比率b+c=1として、Mnの一部を、それぞれ0.1のAl、0.08のMgで置換している。すなわち、比較例2及び比較例3の正極活物質では、前記組成式(1)中のLi以外の金属元素全体の比率b+c=1として、置換元素であるAl又はMgの比率は、Alの比率が0.04以上、Mgの比率が0.02以上と、高い比率になっている。この場合、表3に示すように、比較例2及び比較例3のリチウムイオン二次電池では、dQ/dV4.1〜4.3Vの値が大幅に減少して190Ah・(kg・V)−1未満になることで、1C放電容量が大幅に低下し、サイクル容量維持率も大幅に低下した。
表2に示すように、実施例3から実施例7までの正極活物質は、表面被覆によって粒子がコア部と表層部を有し、コア部は、組成がLi1.0Ni0.8Co0.1Mn0.1O2で表されるNiリッチ層状化合物であり、表層部の組成は、Li2MnO3又はLi1.2Ni0.2Mn0.6O2.0で表される。正極活物質100gあたりのコア部の重量は、85gから97.5gの範囲であり、正極活物質100gあたりの表層部の重量は、2.5gから15gの範囲である。
表4に示すように、実施例3から実施例7までの正極活物質を用いた実施例3から実施例7のリチウムイオン二次電池では、dQ/dV4.1〜4.3Vの値を、300Ah・(kg・V)−1以下に抑制することで、正極活物質の層状構造が維持され、1C放電容量を170.1Ah/kg以上の高容量にしつつ、容量維持率を63.2%以上として良好なサイクル特性を得ることができた。
これに対し、表面被覆を行っていない比較例1の正極活物質を用いた比較例1のリチウムイオン二次電池では、dQ/dV4.1〜4.3Vの値が300Ah・(kg・V)−1を超えたため、正極活物質の相変化が進行して容量維持率が低下したと考えられる。
また、表2に示すように、比較例4及び比較例5の正極活物質は、表面被覆を行うことで粒子がコア部と表層部を有しているが、表層部の重量比が過大である。そのため、表4に示すように、比較例4及び比較例5の正極活物質を用いた比較例4及び比較例5のリチウムイオン二次電池では、サイクル容量維持率は比較的良好な結果が得られたが、dQ/dV4.1〜4.3Vの値が大幅に減少して190Ah・(kg・V)−1未満になることで、1C放電容量が大幅に低下した。
以上、図面を用いて本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。