JP6878855B2 - 非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
近年、携帯電話やノート型コンピューターの高性能化及び急激な普及に伴って、これらに用いる二次電池に対して、小型、軽量化、高容量の要望が高まってきている。リチウム二次電池に代表される非水系電解質二次電池は、ニッケルカドミウム電池又はニッケル水素電池に比べて電池電圧が高く、高エネルギー密度であり、上記の分野で急速に普及している。また、非水系電解質二次電池は、最近の環境問題を背景に、電気自動車やハイブリッド自動車のモータ駆動用電源としても期待されている。特に、ハイブリッド自動車は、エネルギー貯蔵用の電池として高い出力密度を必要とし、これに用いられる非水系電解質二次電池は、高放電特性と高サイクル安定性が要求されている。
非水系電解質二次電池の正極活物質には、α−NaFeO構造を有するコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、スピネル型構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn)などに代表されるようなリチウム遷移金属複合酸化物の粉体が主に用いられている。特に最近では、高容量を必要とするEV用途でニッケル酸リチウムに主としてコバルトとアルミニウムを添加した組成式LitNi1−x−yCo(式中Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が注目されている。これら正極活物質の合成は、一般にリチウム化合物(LiCO、LiOH等)粉末と遷移金属化合物(MnO、NiO、Co等)粉末を混合し、乾燥、焼成して得られたリチウム遷移金属酸化物を、解砕して正極活物質とする方法が広く採用されている。
正極活物質の課題には幾つかあり、そのひとつとしてサイクル特性の改善が挙げられる。サイクル低下原因としては、充放電を繰り返すうちに正極活物質の表面は電解液との反応により一部分解され、正極活物質内の成分が溶け出して負極やセパレータ表面に付着し、充放電容量の低下を招く等、正極活物質の表面状態が電池のサイクル特性、放電特性に大きな影響を与えるといわれている。
そこで、特許文献1では、サイクル特性を改善するため、組成式LiNi(式中、Mは、Co、Alのうち少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物に、Al、Mg、Sn、Ti、Zn、及びZrのうち少なくとも一つを含む有機金属化合物を添加して、機械的に解砕し、その後、400℃以上700℃以下の温度で熱処理を行って得られる正極活物質が提案されている。このように、複合酸化物の粒子表面に機械的な解砕により、有機金属化合物を付着させた後、高温処理して得られる正極活物質は、添加物(有機金属化合物)の効果により複合酸化物の粒子表面が安定化され、サイクル特性の改善がみられることが記載されている。
特許文献2では、組成式LiNi(式中、Mは、Co、Mnのうち少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物に、B、Al、Mg、Ca、Ba、Sr、V、Ti、Cr、Fe及びCuのうち少なくとも一つを含む有機金属化合物を添加した粒子について、結晶構造を安定化させてサイクル特性を改善するために、Ni(OH)とCo(OH)を配合した後、LiOHを混合し、500℃の温度で5時間熱処理した後に、組成式LiNi(式中、Mは、Co、Alのうち少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物粒子を得て、更にMgメトキシド液中に浸漬してコーティングを施した後、400〜700℃で焼成を行うことにより、サイクル特性に改善がみられることが記載されている。
一方、サイクル以外の課題として、正極活物質を含むペースト状組成物(ペースト状組成物にはスラリー状組成物及びインク状組成物が含まれる。)が長期間保存するとゲル状になって、集電体上に均一に塗膜できなくなることが挙げられる。
非水系電解質二次電池は、通常、正極、負極およびセパレータを電池容器内に配置し、有機溶媒による非水系電解液を充たして構成されている。また、正極は、正極活物質を含むペースト状組成物を、アルミニウム箔等の集電体上に塗布し、加圧成形することにより製造され、電極材料が層状に形成された構造(以下、「正極合材層」という。)を形成する。
上記ペースト状組成物は、正極活物質に、重量比で数〜数十%程度の炭素粉等の導電剤を混ぜ、さらに、PVDF(ポリフッ化ビリニデン)、またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素系の結着材(バインダー)を混練して、製造される。このペースト状組成物を集電体箔上に厚み20〜100μmで塗布した後、ペースト状組成物が塗布された集電体箔を乾燥し、プレス(加圧成形)して、正極合材層を形成する。ここで、炭素粉等の導電剤は、集電体と正極活物質との間または活物質相互間の電気伝導度を更に高めるため、正極活物質よりも電気伝導の高い材料としてよく使用される。
ところで、上記ペースト状組成物を調製する際に使用する溶媒には、水系溶媒(例えば、水)または水溶性の有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリジノン:NMP)が採用されている(例えば、特許文献2)。そのため、溶媒の含有する水分により、正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面からリチウムイオンが溶媒中に溶出し、組成物自体が強アルカリ性を呈することがある。このようにアルカリ性を呈する組成物では、ペースト状組成物に含まれる結着剤の分解、或いは結着剤の凝集(ゲル化)や正極活物質の凝集が発生することがある。また、湿度の高い場所で作業することで、外気から水分が流入し、ペースト状組成物がゲル化しやすい状況にある。
このような結着剤などの分解や凝集は、ペースト状組成物の粘度の増加や接着力の低下を招き、さらには複合酸化物粉末の分散性が低下するため、集電体上に所望する厚みで均一な組成の正極合材層を形成することが困難となる場合がある。厚みや組成が不均一であると、充放電時における電気化学反応が悪化し、さらには電池の内部抵抗の増加の原因になるため好ましくない。
そこで、特許文献3では、上記結着剤などの分解や凝集を抑制するため、LiNi1−y(0.98≦x≦1.06、0.05≦y≦0.30、AはCo、Alのうち少なくとも1種)で与えられ、5gを純水100g中に120分間撹拌混合した後、30秒間静置して得られる上澄みのpHが、25℃において12.7以下である非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
また、特許文献4では、正極活物質表面に、金属有機化合物とミセル化した界面活性剤とが分散して付着したゲル被膜を形成するゾルゲル工程と、上記ゾルゲル工程で得られた上記ゲル被膜を焼成することにより、上記界面活性剤を分解除去し、正極活物質表面にリチウムイオンの移動可能な細孔が形成された多孔性金属酸化物被覆層を形成する焼成工程と、を有することを特徴とする多孔性金属酸化物被覆正極活物質の製造方法が提案されている。
特開2005−346956号公報 特開平11−317230号公報 特開2003−31222号公報 特開2009−200007号公報
しかし、特許文献1に記載される複合酸化物粒子は、粒子表面が安定化したことによりLi挿入/離脱が低下し、更に解砕時の粒子表面へのダメージから初期の充放電特性が低下してしまう。また特許文献2に記載される複合酸化物粒子は、コート液に浸漬したのみの被覆状態にあるため、被膜厚みは不均一であり、かつ厚い箇所はLi挿入/離脱が抑制されて充放電容量が低下する。また乾燥時に被膜同士の結着が行われ、これを分離するために解砕すれば膜は剥離する。さらに液が大気中の水分に対して不安定なために、処理中に膜を形成できずに粉末状の堆積物となり、これにより焼成後の表層はまばらでかつ緻密な層状にはなっていないため、Li溶出のための保護層として機能せずにゲル化を改善するには至らない。
一方、特許文献3に記載される正極活物質は、pHを制御することにより、耐ゲル化性が改善することが記載されているが、その具体的な製造方法に関しては言及されていない。また、特許文献4に記載される正極活物質の製造方法によれば、多孔性金属酸化物被覆層により電解液等との反応による正極活物質の劣化を効果的に抑制してサイクル特性を向上させることができることが記載されているが、正極合材層の製造に用いられるペーストにおける上記問題点に関しては検討されていない。
すなわち、LiNiO系の正極活物質で問題となっている充放電時のサイクル特性の劣化については、その従来の抑制方法として、充放電時の電解液との反応を抑制するために、正極活物質表面に全体を覆う程の厚みのある酸化物被覆膜を設けて粒子表面のバリア性を上げるか、結晶粒内または粒子表面を異種元素と反応を起こさせて構造を変えて安定化させるものであった。しかし酸化物被覆膜を形成することの弊害として、酸化物被覆膜が充放電時のLi挿入/離脱を低下させるため、初期充放電容量が悪化する現象が起こってしまう。これは酸化物被膜の均一性に着目していないために、膜厚(添加濃度)を高めることで未被覆面積を極力小さくしてサイクル特性への効果を得ようとしたために起こる現象であった。さらに結晶粒内または粒子表面で異種元素と反応を起こさせて構造を変えるには、上記同様に異種元素を多量に添加しなければ効果を発揮しないため、初期充放電容量は悪化してしまう。
一方、もうひとつの問題であるゲル化については、その従来からの抑制方法として、水との接触で起こるリチウムイオンの溶出を防ぐために、正極活物質表面全体を緻密な膜で覆い、粒子表面を保護するものであった。しかし緻密な膜を形成することの弊害としてはサイクル特性の時と同様に、緻密な膜が充放電時のLi挿入/離脱を低下させるため、初期充放電容量の悪化が起こってしまう。また粒子表面を異種元素と反応を起こさせて構造を変えても、従来の添加方法では表面の反応が局所的で有るため、緻密に表面全体を覆う層状とはならずにリチウムイオンの溶出を防ぐまでには至らない。
そこで、本発明は、前記複合酸化物粒子が本来持つ充放電特性などの初期電池性能を阻害せず、ペースト状組成物のゲル化を長期的に抑制するとともに、高いサイクル特性を有する二次電池を得ることができる非水系電解質二次電池用正極活物質及びそれらの簡便な製造方法とを提供することにある。
本発明の第2の態様では、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、表面に配置される表層部とそれ以外の中心部とを有し、組成がLi Ni 1−x−y Co 2+α (式中、M は、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、M は、Mg元素であり、1.01≦t≦1.20、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15、0<z≦0.03、0≦α≦0.1を示す。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子からなり、前記M は、前記表層部に含まれ、前記表層部は、その粒子表面から中心へ向かう方向において、前記M の濃度が低くなるような濃度勾配を有する非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、Mgを含む金属アルコキシドのモノマー/又はそのオリゴマーと有機溶媒とを含む混合液を得た後、混合液にキレート剤を添加して被覆液を得ることと、リチウムニッケル複合酸化物粒子に、被覆液を混合し又は噴霧して、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に3nm以上100nm以下の被覆層前駆体を形成することと、被覆層前駆体を形成した複合酸化物粒子を300℃以上700℃以下の酸素雰囲気中で熱処理することと、を含む。
被覆液は、Mgを含む金属アルコキシドのモノマー又はそのオリゴマーと、有機溶媒とを混合した液中にキレート剤を添加し、その後、必要に応じて水を添加して得られ、被覆液は、平均粒径D50が1nm以上20nm以下の微粒子を分散させることもできる。被覆層前駆体は、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子からなる母材の表面に非連続的に多孔質かつ島状に形成され、透過型電子顕微鏡の断面観察より測定される被覆面積が母材の表面積の80%以上95%以下であってもよい。表層部が、組成がLi Ni 1−x−y Co (式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、1.01≦t≦1.20、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15)で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子からなる母材の表面上に、Mgを含む被覆層前駆体を形成した後、熱処理により被覆層前駆体と母材の粒子界面とを反応して形成されてもよい。熱処理は、被覆層前駆体を形成した複合酸化物粒子を、[複合酸化物粒子量(g)/炉容積(L)]×酸素ガス導入量(L/分)によって求められる値が33g/分以上、1333g/分以下の範囲内で制御した雰囲気で行ってもよい。
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物の表面にMgを過剰に含む表層部を有し、従来のリチウムニッケル複合酸化物粒子が有する初期電池性能が同程度に維持され、かつ、ペースト状組成物のゲル化が抑制される。また、外気の湿度の影響を受け難いため、二次電池作製時にドライルーム等の湿気を軽減した場所で作業しなくとも、ペースト状組成物のゲル化が抑制され、二次電池作製の作業工程中のハンドリング性が改善される。また、この非水系電解質二次電池用正極活物質を用いた二次電池は、高いサイクル特性を有するために、電池寿命が長くなり実用性も向上する。
実施形態に係る正極活物質の一例を示す模式図である。 実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示す模式図である。 実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示すフローチャートである。 実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示すフローチャートである。 電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の一例を説明する。また、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。
1.非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法
図1は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質1(以下、単に「正極活物質1」ともいう。)の一例を示す模式図である。図1(A)に示すように、正極活物質1は、リチウムニッケル複合酸化物粒子2(以下、単に「複合酸化物粒子2」ともいう。)からなり、複合酸化物粒子2は、その表面を含む表層部3と、それ以外の中心部4とを有する。表層部3は、後述するように、従来公知の複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部を改質して形成され、Mg元素を含む。表層部3は、複合酸化物粒子2内への水分の侵入を遮断することができ、正極活物質1のゲル化の抑制と、放電容量の維持及びサイクル特性の改善と、を両立することを可能とする。
また、複合酸化物粒子2は、図1(B)及び図1(C)に示すように、複合酸化物粒子2の表面の少なくとも一部を被覆した被覆層5を有してもよい。被覆層5は、Mgを表層部3よりも高濃度で含む。また、被覆層5は、図1(B)に示すように、複合酸化物粒子2の表面の一部に形成されてもよい。また、図1(C)に示すように、複合酸化物粒子2の表面全体に均一に形成されてもよい。
複合酸化物粒子2は、この粒子全体の組成がLiNi1−x−yCo 2+α(式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、Mは、Mg元素であり、1.01≦t≦1.20、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15、0<z≦0.03、0≦α≦0.1を満たす。)で表される。上記組成の金属元素は、ICP発光分光分析により測定できる。また、酸素は、層状化合物を構成する元素であり、金属元素の組成によってその組成が決まるものであり、通常起こりうる酸素の欠損や過剰が生じることによる上記組成の範囲内の変動を含む。
上記複合酸化物粒子2の組成において、Liの組成比を示すtの下限は、1.01以上であり、好ましくは1.02以上である。複合酸化物粒子2中のLi量はMを除いた層状化合物(LiNi1−x−yCo 2+α)の化学量論組成より過剰に検出される。tの上限は、1.20以下であり、好ましくは1.08以下である。上記複合酸化物粒子2の組成において、Coの組成比を示すxの値は、0≦x≦0.22であり、正極活物質1を用いた二次電池における高容量化とサイクル特性改善の観点から、好ましくは0.05≦x≦0.20である。
上記複合酸化物粒子2の組成において、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、正極活物質の熱安定性の観点から、少なくともAlを含むことが好ましい。Mの組成比を示すyの値は、0≦y≦0.15であり、好ましくは0.01≦y≦0.10、より好ましくは0.02≦y≦0.06である。
上記複合酸化物粒子2の組成において、Mは、Mg元素であり、Mの組成比を示すzは0を超え0.03以下、好ましくは、0.0001≦z≦0.02である。Mは、表層部3に含まれる。
正極活物質1全体に対する、Mgの含有量は、その下限が好ましくは0.02質量%以上であり、より好ましくは0.03質量%以上である。また、Mgの含有量は、その上限が好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.7質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。Mgの含有量が上記範囲である場合、水分との接触を抑制することができるだけでなく、充放電中の電解液と粒子表面との反応が抑制されるため、容量維持率の低下、交流インピーダンス法による界面抵抗値の上昇の抑制等、電池特性への効果も発揮される。正極活物質1中に含まれるMg量が0.02質量%未満である場合、表層部3の厚み(面積)が少なくなり、表層部3が不均一に形成され、耐水性や電池特性が改善しないことがある。一方、正極活物質1中に含まれるMg量が3.0質量%を超える場合、後述するように、正極活物質1の製造過程において、被覆層前駆体7を非常に厚く形成しなければならず、作製に時間が掛かるため、生産性が低下したり、被覆層5の密着性が低下したりする等の問題が生じる。Mgの含有量は、ICP発光分光分析により測定できる。
図2(A)〜(C)は、正極活物質1の製造方法の一例を示す模式図である。図2(A)は、正極活物質の母材6となるリチウムニッケル複合酸化物粒子を示す。母材6は、組成がLiNi1−x−yCo (式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、1.01≦t≦1.20、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15)で表され、Li量が化学量論組成より過剰に含まれている。
上記母材6の組成において、Li量は、1.01≦t≦1.20であり、好ましくは1.02≦t≦1.08である。母材6中のLi量が不足した場合、例えば、上記母材の組成式中のLi量がt≦1.00である場合、母材6中のLiの一部が、後述する被覆層前駆体7との反応に奪われて、正極活物質1の電池特性が低下してしまう場合がある。これを回避するため、予め母材6中のLi量を過剰にしておき、Li化合物相を形成しても電池特性が低下しないようにする。ただし、Li量が多すぎる場合、例えば、t>1.20となる場合、熱処理の際、リチウムの溶出及び揮発が活発となり、熱処理条件の制御が困難になり得る。
上記母材6の組成において、xの値は、正極活物質1を用いた二次電池における高容量化とサイクル特性改善の観点から、好ましくは0.05≦x≦0.20である。上記母材6の組成において、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、正極活物質の熱安定性の観点から、少なくともAlを含むことが好ましい。また、yの値は、好ましくは0.01≦y≦0.10、より好ましくは0.02≦y≦0.06である。なお、上述した複合酸化物粒子2の組成おけるMと、上記母材6の組成におけるMは同一の元素を示す。
図2(B)は、Mgを含む被覆層前駆体7をその表面に有する母材6を示す。被覆層前駆体7を有する母材6を熱処理することにより、図2(C)に示すような正極活物質1が得られる。正極活物質1は、母材6中のLi成分と被覆層前駆体7に含まれる成分が300℃近傍から反応し、Li化合物相を一旦、生成した後、より高温に晒されることで表層部3が形成する過程を経ると考えられる。これにより、表層部3は、その粒子表面から中心へ向かう放射方向において、Mgの濃度が低くなるような濃度勾配を有する。また、前述したように、複合酸化物粒子2の表面に被覆層5を有してもよい。被覆層5は、被覆層前駆体7に由来し、熱処理後も複合酸化物粒子2内部に拡散せず、その表面に残った層である。被覆層5の厚みは、好ましくは0.1nm以上20nm以下である。
表層部3のMgの分布(濃度)は重要であり、正極活物質1の最表面のMgの濃度が高すぎず、複合酸化物粒子2の最表面から内部に掛けてはMgの濃度が低すぎても、上記した効果は達成できない。複合酸化物粒子2の最表面におけるMgの濃度が高すぎる場合、被覆層前駆体7の母材6の表面(粒子界面)との反応による拡散が十分行われず、得られた正極活物質1の表面のみに抵抗の高いMgを含む酸化物が存在することを示す。このため、この正極活物質を二次電池に用いた場合、界面抵抗は高く維持され、初期放電容量は改善しない。また、最表面におけるMgの濃度が高すぎる場合、熱拡散が進んでいないために表層部3におけるMgの濃度は低いことを示す。
例えば、表層部3におけるMgの分布(濃度)は、正極活物質1の製造過程の観察により確認できる。正極活物質1の製造過程において、断面TEM観察により、被覆層前駆体7(熱処理後の被覆層5)の膜厚が、熱処理後に、減少する又は被覆層前駆体7の消失する様子を観察することにより、間接的に確認できる。また、製造過程において、TEM―EDS面分析により、被覆層前駆体7(熱処理後の被覆層5)のMgの高濃度部分が、熱処理後、反応により減少する様子を観察することにより、間接的に確認できる。
なお、被覆層前駆体7の膜厚が数nmである場合、反応後の様子を断面TEM観察やTEM―EDS面分析により観察しても、感度の問題から、表層部3が形成される様子は把握することができないことがある。この場合には、TEM―EELSにより、表層部3における細部の反応を観察し、表層部3におけるMgの存在を確認することができる。なお、表層部は、Mgが、その粒子表面から中心へ向かう方向において、その濃度が低くなるような濃度勾配を有する部位をいい、表層部3の厚みは、例えば、1nm以上100nm以下とすることができる。
被覆層前駆体7は、後述するように、母材6を、Mgの元素を含んだ金属アルコキシドを含む被覆液(例えば、図3参照)又はこの金属アルコキシドを部分加水分解して生じた水酸化物からなる微粒子を含む被覆液(例えば、図4参照)を母材6の表面に噴霧する、ことにより形成される。
被覆層前駆体7の厚み(層厚)は、3nm以上100nm以下とすることが好ましく、これにより熱処理後に表層を生成することができる。被覆層前駆体7の厚みを増加しすぎると、熱処理時の熱分解量が低下し、表層部3中に有機残渣が生じてサイクル特性が向上しない場合がある。また、熱処理温度や到達温度の保持時間を増加することにもなるため、コスト面でもデメリットが大きい。
なお、本実施形態の正極活物質1は、その表面にMgからなる少なくとも1種の元素を含んだ被覆層を有する従来の正極活物質(表層部3を形成しない)とは異なり、表層部3自体が充放電時のLiイオンの挿入脱離を妨げることは無い。よって、従来の被覆層を有する正極活物質のように被覆層前駆体7を3nm以下に極薄くしておく必要は無くなる。これにより技術的に難易度の高かった被覆層の薄膜化、均一化の工程を簡素化できるメリットが生まれる。また、被覆層前駆体7の厚みを厚くできることにより、被覆層前駆体7中の欠陥となる空隙や粒子表面の未被覆部が少なくなり、得られる被覆層前駆体7は、より均一性が向上することになる。被覆層前駆体7の膜厚は、3nm以上、30nm以下が好ましく、5nm以上、30nm以下がより好ましい。被覆層前駆体7の膜厚が上記範囲である場合、熱処理によって生成する表層部3を粒子表面に均一に形成することができる。
なお、被覆層前駆体7は、均一性が高くてもよいが、複合酸化物粒子2の表面に非連続的に形成されてもよく、多孔質であってもよい。いずれの場合でも熱処理による反応で表層部3が形成できればよい。ただし被覆層前駆体7は、透過型電子顕微鏡の断面観察より測定される被覆面積が、母材6の表面全体の面積に対して80%以上であることが好ましく、80%以上95%以下であることがより好ましい。被覆面積が上記範囲であることにより、母材6表面と均等な反応が期待でき、満遍なく全面に表層部3が生成できる。
従来公知の酸化物膜をその表面に形成した正極活物質は、酸化物膜自体が導電性に乏しく、界面抵抗の増加を回避するために、酸化物膜自体を薄くしたり、酸化物膜中に導電性を付与したりする必要があった。この場合、酸化物膜の膜厚は、最適な被覆層の厚みは3nm程度、厚い場合でも10nm以下が要求される。被覆厚みを薄くかつ膜欠陥がないように被覆することは手間と時間を要するだけでなく、容量低下を避け、心材(母材)との反応を極力抑制するため、熱処理温度も280℃程度、高くても300℃以下に限定される。
本実施形態においては、製造過程で形成する被覆層前駆体7の膜厚の上限は100nm以下であり、従来に比べると大きい厚膜が許容される。これは高温熱処理による効果で被覆層前駆体7が粒子内に拡散して、最終的に形成される被覆層5の厚みが大幅に減少するためで、これにより界面抵抗の上昇は改善され、初期放電容量の低下はなくなる。本実施形態の正極活物質1では表層部3を有することにより、これまで、被覆層(産物膜)を有する正極活物質の課題であった、ゲル化を抑制する耐水性の向上、表層生成後の初期放電容量の低下、繰り返し充放電時の劣化の改善が達成される。本実施形態では、被覆層前駆体7を形成した後に高温処理することが重要で、母材6と被覆層との反応で表層部3を生成した結果、本目的である長期保存時のゲル化の抑制や、表層部3生成前後の初期放電容量が変化無く維持でき、さらに充放電の繰り返しにおいても界面抵抗の増加を抑制しつつ安定したサイクル特性が得られるようになる。
従来のリチウムニッケル複合酸化物粒子は、水に対する抵抗性が低く、表面からリチウムがリチウムイオンとして容易に溶出する。例えば、表層部3を有さないLiを過剰に含んだLi1.03Ni0.85Co0.12Al0.03粉末を0.1g、24℃の純水50mlに添加した場合、瞬時に多量のリチウムが純水に溶出し始め、得られた水溶液はアルカリ側に移行して、pHは12を大きく超える。一方、本実施形態の正極活物質1は、改質された表層部3の効果でリチウムの溶出が減少し、上記と同様の条件で純水に添加した場合の得られる水溶液中のpHは11.2以下となる。よって、正極材製造に用いられる練合後のペースト組成物は、本実施形態の正極活物質1を用いることにより、アルカリ溶出が減少し、その結果、ペースト組成物の長期保存性は向上し、ゲル化が抑制される。
正極活物質1は、例えば、正極活物質9.5g、フッ化ビニリデン(PVDF)0.5g、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)5.5gと、ゲル化を促進するための水分0.2gを加えて混練してスラリーとし、24℃で3日間静止保管してもゲル化は見られず、流動性のあるスラリーを保つことができる。ゲル化の抑制により、正極集電体に塗布する際の不均一による充放電特性にバラツキが抑制されるとともに、ペーストの流動性の悪化による塗布膜の緻密性が低下する等の問題の発生も減少する。
正極活物質1は、目的とする正極活物質に要求される特性によって選択することができる。例えば、正極活物質1の平均粒径は、高電池容量や高充填性の観点から、好ましくは3μm以上25μm以下である、より好ましくは3μm以上15μm以下である。ここで、平均粒径は、メジアン径(D50)を示し、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定する。
正極活物質1は、練合したペースト組成物の長期保存性に優れるだけで無く、表層生成後の初期放電容量の変化が±3%の範囲に制御されることができ、長期的なサイクル特性の向上が可能である。よって、例えば、実施例に示すような2032型コイン電池の正極に正極活物質1を用いた際に、180mAh/g以上、より最適な条件では190mAh/g以上の初期放電容量が安定して得られる。また、電圧範囲3.0V−4.3V、レート0.5C、カーボン負極、電解液にはLiPF/EC+DEC(3:7vol%)、またはLiClO/EC+DEC(1:1vol%)を用いて電池セルを作製し、サイクル試験を100サイクル行った後の放電容量維持率は、初期容量に対して10%以内の低下とすることができ、良好なサイクル特性を有する。
正極活物質1の製造方法について、図3〜図4を参照して説明する。ただし、以下の説明は一例であって、製造方法を限定するものではない。図3に示すように、本実施形態の正極活物質1の製造方法は、出発原料として金属Mgを有機溶媒中で環流しながら溶解を行い、Mgアルコキシドを含む混合液を得る、又は、市販のMgアルコキシドのモノマー又はそのオリゴマーを用いて有機溶媒に溶解して混合液を得た後、混合液にキレート剤を添加して被覆液を得ることと(ステップS1)、リチウムニッケル複合酸化物粒子に、被覆液を混合し又は噴霧して、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に被覆層前駆体7を形成することと(ステップS2)、被覆層前駆体7を形成した複合酸化物粒子を300℃以上700℃以下の酸素雰囲気中で熱処理することと(ステップS3)、を含む。
また、図4に示すように、被覆液は、Mgアルコキシドのモノマー又はそのオリゴマーと、有機溶媒とを含む混合液中にキレート剤を添加して、その後、水を添加すること(ステップS1’)により得ることもできる。以下、各工程の詳細について説明する。
まず、被覆層前駆体7を形成するための被覆液を作製する(ステップ1)。被覆液は、金属Mgを有機溶媒中で環流しながら溶解させてMgアルコキシドを含む混合液を作製する、又は、市販の固形状のMgアルコキシドを金属Mgの溶解時と同様の有機溶媒中で溶解して、Mgアルコキシドを含む混合液を作製し、この混合液にキレート剤を加えてキレート反応により液を安定化させた後、後述するように、希釈剤として低級アルコールを加えることにより得られる。
次にMgアルコキシドを作製する場合の方法について詳細を述べる。Mgアルコキシドは、出発原料として金属Mgを用いることにより作製することができる。例えば、リボン状または短冊状の金属Mgを、有機溶媒中に投入し、Ar等の不活性ガスを流しながら環流することで、金属Mgは有機溶媒と反応して溶解し、透明なMgアルコキシド溶液を得ることができる。金属Mgを溶解する有機溶媒としては、アルコール溶媒と、カプロン酸エステル、酢酸エステル及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種類以上と、を含むことが好ましい。
従来公知の市販のMgアルコキシドを出発原料として用いる場合には、例えば、−(ジ)エトキシド、−(ジ)メトキシド、−(ジ)プロポキシド、−(ジ)ブトキシドからなる各モノマーのMgアルコキシドを用いることができる。しかし、市販されている純度の高い試薬の多くは固形状であり、上記低級アルコールだけで完全溶解するには溶解性が不足する。それを補うために、カプロン酸エステルを多めにアルコール溶媒中に加えて溶解性を加速させ、これにより有機物を含んだMgアルコキシド液を得ることが出来る。これらのMgアルコキシド液は、処理により被覆形成された後、乾燥中に大気中の水分で加水分解を経由して、水酸化物を辿って、最終的には酸化物を形成するため、容易に酸化物を形成する水酸化物を含むものも使用出来る。具体的な市販の試薬は、例えば、マグネシウム(ジ)メトキシド、マグネシウム(ジ)エトキシド、マグネシウム(ジ)ブトキシド、マグネシウム(ジ)プロポキシドからなるモノマーを用いることができる。また、オリゴマーであっても上記有機溶媒中に溶解することができれば使用可能である。
アルコール溶媒としては、金属Mgを溶解するのであれば何でも良いが、具体的には、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−1プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール及び1−エトキシ−2−プロパノールから選択される1種類以上の低級アルコールを用いることが好ましい。炭素数が5以上の高級アルコール類や炭化水素系の溶媒に用いた場合、溶解が進まないばかりか、溶媒を揮発乾燥(乾固)させるときに有害性や異臭の問題を生じるため好ましくない。上記低級アルコールの中でも、有機金属化合物、添加剤の溶解性やコストの観点から、エタノール、2−プロパノール、及び、2−メチル−1−ブタノールのうち少なくとも一種が好ましい。さらに、低級アルコールは、脱水したものを用いることが好ましい。脱水することにより、金属Mgとの溶解時の加水分解や炭酸化が抑制される。
本実施形態に用いられる混合液においては、加水分解反応の制御が重要な要素となる。混合液の加水分解反応をより抑制するためには、用いる有機溶媒種類の最適化や、後述するキレート剤の添加が必須となる。金属Mgの溶解を促進させるため、有機溶媒は、上記アルコール溶媒以外に、溶解促進剤を含むことができる。溶解促進剤としては、カプロン酸エステル、酢酸エステル及びグリコールエーテル類から選ばれる少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。溶解促進剤としては、具体的には、2−エチルヘキサン酸や酢酸ブチル、酪酸ブチル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブの少なくとも1種類以上が挙げられる。このときの溶解促進剤の添加割合は、アルコール溶媒:溶解促進剤の質量比が1:0〜3:7であり、好ましくは、6:4〜3:7である。溶解促進剤は加熱時の分解性に乏しいため、被覆液を用いて被膜層形成後に行う熱処理(ステップS3)時に有機物が分解されず、良質な膜質を得ることが出来ない場合がある。またメチルセロソルブは有害性が高いため、使用時には排気設備に留意する必要がある。
一方、市販の試薬からなるMgアルコキシドを用いる場合にも、有機溶媒として、上記低級アルコールを用いることができるが、金属Mgの溶解時と同様に、より溶解を促進するために、上記溶解促進剤のうち、特に2−エチルヘキサン酸を多めに添加することが好ましい。このときの溶解促進剤の添加割合は、アルコール溶媒:溶解促進剤の質量比で1:0〜2:8であり、好ましくは、4:6〜2:8である。
溶解で使用する有機溶媒は、Mgアルコキシドの溶解濃度が好ましくは60質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上20質量%以下となるように配合する。Mgアルコキシドの濃度が60質量%を超える場合、溶解度が低下するために保存時に白濁物が生じることがある。Mgアルコキシドの濃度が0.1質量%未満である場合、被覆液は作製できるが、被覆処理時のアルコール使用量が増えて作業効率が悪化することになる。
次に、作製したMgアルコキシドを含む混合液にキレート剤を添加する。前記Mgアルコキシドを含む混合液は、加水分解速度が速く、外気中の湿気と接触すれば直ちに水酸化物を生成しやすい。上述したように、カプロン酸エステル、酢酸エステル、グリコールエーテル類等の有機物(溶解促進剤)をアルコール溶媒中に加えておけば、溶媒がアルコールとの置換反応により加水分解反応を抑制することができるが、これだけでは長期的に見た場合に液保存性が十分とはならない。そこで、加水分解反応速度をより抑制するため、アルコキシ基の一部を更にキレート剤で修飾(キレート化)することが重要となる。
アルコキシド金属化合物をキレート化することで加水分解反応は一層抑制され、得られる被覆液は、1〜3ヶ月の長期的な保存が容易となる。すなわち、被覆液が外気中の湿気と接しても液の加水分解反応が緩和されることで、取り扱いが飛躍的に改善される。さらに、このような制御が可能となることでMgアルコキシドの官能基の一部を部分的に加水分解したオリゴマー化することもでき、加水分解基(水酸基)を有することにより粒子表面への吸着性が一層向上する。
キレート剤としては、好ましくはアミノカルボン酸、及びその塩、並びにジケトン類から選択された少なくとも1種類を用いることができる。他のキレート剤としては、公知のアセト酢酸エチル、ニトリロトリ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、L−アスパラギン酸、エチレンジアミン四酢酸等、又はその塩でも代用可能である。これらの中でも、キレート剤としては、熱分解性に優れるという観点から、アセチルアセトンが特に好ましい。キレート剤の処理方法は、例えば、マグネシウム(ジ)エトキシド(Mg(OC)の場合、2個の官能基のうちの1個の官能基を交換する分と同モル数のアセチルアセトンを加えて修飾することで加水分解速度を遅くし、水に対する耐性が大幅に改善される。
また、キレート化の際は、全てのアルコキシ基をキレートで修飾してしまうと、低級アルコール中に溶解しなくなるばかりか、複合酸化物粒子表面に吸着または化学反応しなくなり、被覆層の形成が不十分となるため、部分的に官能基を修飾することが重要となる。そのため、上述したように2個のアルコキシ基を有するマグネシウム(ジ)エトキシドのうち、1個を修飾することで、外気に対する安定性を向上させ、かつ粒子への吸着性を維持することが可能となる。
キレート剤により、アルコキシ基を十分に修飾させるためには、例えば、2―プロパノール等の低級アルコール(または一部にエチルヘキサン酸を添加)に、アルコキシドモノマーを60質量%以下の濃度で溶解した溶液を作製した後、この溶液中にアセチルアセトン等のキレート剤を徐々に添加した後、20〜70℃で0.5〜4時間加熱することで、アルコキシドモノマーを部分的にキレート化した被覆液が得られる。このような操作により、修飾が促進され、水への安定性は増す。こうして得た液を更にアルコールで希釈して被覆液が完成する。
なお、Mgアルコキシド液はアルカリ質であるため、キレート化が一部、進みにくいことがある。こうした場合にはMgアルコキシドの環流時に、Mgアルコキシドの一部をAlアルコキシドで置換することにより、混合液の安定性を高めることもできる。その際の割合としては、Mgアルコキシド:Alアルコキシドの質量比で8〜9:1〜2が好ましい。例えば、Mgアルコキシドを溶解中に、Alイソプロポキシドを更に添加し、不活性ガス中で同時に環流することにより、Mg−Alの合成アルコキシドを得ることができる。本来、Alアルコキシドは、容易にキレート化されやすく、またAlは両性金属のためにアルカリ中でも安定して溶解しやすい特徴を有するため、MgアルコキシドとともにAlアルコキシドを合成することで、キレート化が進みやすいMg−Alアルコキシドが得られると考える。
図4に示すようにキレート剤を添加した後、さらに、水を添加して、Mgアルコキシドを部分加水分解して、被覆液を製造してもよい(ステップS1’)。Mgアルコキシドを部分加水分解することにより、被覆液中に微粒子を生成させてもよい。なお、上記ステップS1及びS1’は、どちらも水を添加し、加水分解するまでは同様の工程を経ることができるため、上記と同様の条件についての記載は省略する。
金属アルコキシドを含む被覆液は、複合酸化物粒子(母材)の表面を被覆する前に、水を滴下して部分加水分解していた方が、粒子表面にある水酸基と液中の加水分解された水酸基同士が水素結合を起こしやすく、立体的な膜形成することができる。しかし、Mgアルコキシドの場合、キレート化された後も、被覆層前駆体を形成後に乾燥されることで加水分解反応が進み微粒子が形成されるため、予め被覆液を積極的に加水分解しなくともよい。
混合液を部分的加水分解させて被覆液とする場合には、例えば、水を徐々に滴下し、最大Mgアルコキシドの質量に対して5%以上10%以下の水分を加えることができる。この時、水の滴下後に一瞬やや白濁が生じることがあるが、直ぐに透明感のある液体に戻る。更に5℃以上50℃以下で0.5時間以上25時間以下保持して安定化することで、その後、希釈するために多量の溶媒を加えて溶解度が低下した状態になっても、白濁や沈殿物の生成を回避することができる。この白濁物が透明化する現象は恐らく、有機物を含む状態で部分的加水分解しているために微細な粒子であること、微粒子は量的には多くなく、凝集を伴わないことが見かけ上、透明な液体にしていると考えられる。
ここで、液の透明性とは、液中に浮遊する目に見える粒子が確認できる度合いであり、粗粒があれば光の散乱により白濁を示し、微粒(ナノ粒子)であれば光が透過するために液は透明性を得る。ナノ粒子とは、中心粒子径が100nm以下の粒子である。なお、中心粒子径(例えばD50)は、ナノ粒子の粒度分布において、ある粒子径より大きい粒子の個数または質量が、全粒子の個数または質量の50%を占めるときの粒子径である。粒子径は、動的光散乱法/レーザードップラー法によって測定される。
得られた被覆液は、母材6粒子の表面に堆積させる前駆体微粒子を均一に堆積または吸着させる必要があるため、希釈して低濃度化しておくことが好ましい。なお、キレート化後に部分的加水分解させた被覆液は、液中のMg濃度が高いため、噴霧コート時に不均一な膜形成とならないようにアルコール溶媒で希釈して被覆液とする。母材6と混合する際の被覆液の量は、被覆液を母材6の表面全体に吸着、かつ浸透させるだけの量は最低必要であり、粒子表面に堆積させる十分な量の微粒子を含有し、かつ微粒子付着量はICP分析で、母材6及び被覆層前駆体7全体に対して、0.02質量%以上3.0質量%以下の範囲となるように希釈することが好ましい。分散液の量が多くとも乾燥時間が長くなるだけであり、得られる正極活物質の粉体特性に支障はないが、乾燥時の効率を考慮して決定すればよい。0.02質量%未満になると、被覆層中に十分な量の微粒子を形成させることができないことがある。また、3.0質量%を越えると、複合酸化物粒子の表面全体に吸着させる量を混合した際に被覆層が厚くなりすぎて乾燥時に剥離が起きることがある。
また、被覆液中に含まれるMg量は、ICP分析で0.02〜3.0質量%の範囲となるように調整される。添加量が少ないと、表層形成時に必要な被覆層を堆積することができない場合がある。
次に、図3及び4に示すように、母材6表面に被覆層前駆体7を形成する(ステップS2)。被覆方法としては、母材6表面に被覆液を均一に堆積(被覆)させる方法であればよい。例えば、転動流動装置のように噴霧することで母材粒子表面への前駆体微粒子の堆積と乾燥が同時に行われる方法がより好ましい。また、より簡便な方法として、自転と傾斜を同時に行える遊星型ロッキングミキサーを用いて母材6を回転させながら被覆液の噴霧を行い、連続して噴霧と混合を一定間繰り返した後、一旦回転を停止させて加熱乾燥で溶媒のみを揮発させて被覆処理を行ってもよい。
転動流動装置を用いて被覆する方法は、粒子を浮遊させた状態で噴霧することが可能であり、母材6表面に損傷を与えることがない。さらに、転動流動装置による被覆では、被覆層前駆体を均一かつ薄く堆積させることが可能となる。転動流動装置は、例えば、装置内底部に溜まった母材6をロータで攪拌しながら焼結由来で生じていた凝集をほぐし、装置内底部から導入する加熱空気により母材6は単独粒子状で浮遊して流動させる仕組みを有する。この流動中に2流体ノズル等にて被覆液をミスト状にして噴霧し、導入した空気により乾燥と同時に加水分解を徐々に進ませることで、母材6の表面に被覆層を均一に堆積させることができる。
一方、例えば、アトライター、ビーズミル、ボールミル、ロッドミル、ホモジナイザー等のように母材6に直接大きな機械的な力が加わる装置を用いると、粒子自体が粉砕されたり、その粒子表面に大きな歪みが生じたりするため電池特性が低下することがある。
転動流動装置を使用した場合は、混合から乾燥まで行うことができるため、装置から取り出し後、直ちに次工程の熱処理に移行することができる。
なお、従来から行われていたアルコール溶媒中に母材6を浸し、攪拌しながら金属アルコキシドと水分を滴下する湿式被覆方法では、添加した水分が母材6からリチウムイオンを溶出させる問題があった。また、金属アルコキシド中の水酸基の結合により被膜を形成するまでに長時間が必要であり、数時間の被膜形成時間とその後の乾燥時間は、電池特性の低下を発生させるのみならず、生産性の低下によるコスト的な面でも課題となっていた。また固液分離により取り出した粒子は、乾燥時に表面に残っている被覆液同士が固着して、乾燥終了後に再粉砕する必要が生じることがある。
得られた被覆層前駆体7形成後の複合酸化物微粒子は、50℃以上150℃以下で乾燥することが好ましく、より好ましくは真空中で乾燥する。上記の転動流動装置を使用する場合には、装置内で60℃以上120℃以下の熱風を導入しているため、乾燥工程を除外してもよい。一方、乾燥温度が200℃を超える場合、母材6が劣化しやすい。乾燥時間は、溶媒が蒸発して粒子間の粘着が発生しない程度になればよく、1時間以上24時間以下とすることが好ましい。乾燥時間が1時間未満である場合、乾燥が不十分な場合があり、24時間を越える場合、生産性が低下する。
次に、被覆層前駆体7を形成した母材6を、300℃以上700℃以下の酸素雰囲気中で熱処理して、被覆層前駆体7と母材6表面とで反応を起こさせる(ステップS3)。
母材6表面に形成された被覆層前駆体7は、例えば、250℃以上300℃未満の温度範囲で熱処理した場合、該粒子表面に強固に結着するとともに、層内に存在する大部分の有機物が除去され、酸化物からなる被膜(被覆層5)が形成されることで膜質が向上する。これにより、母材6表面に形成される被覆層5はより緻密かつ強固となり、耐水性は向上してゲル化抑制にも効果が上がる。一方、この段階では母材6と被覆層5には顕著な反応は生じていない。
従来の製造方法では、上記の温度域(例えば、250℃以上300℃未満)で熱処理を終了し、ゲル化効果の高い膜として評価を行っていた。そして、被覆層を形成した際の放電容量の低下を緩和するために、形成される被覆層を均一かつ3nm程度に極力薄くして充放電時のLiの挿入脱離を妨げない工夫が必要であった。このように、従来の製造方法では、被覆層を薄く形成し、かつ、膜の均一性を上げることにより、初期充電容量と耐水性とのバランスを保っていた。そして、薄膜化することで生じる膜中の欠陥(有機物分解による空隙の発生)を抑制するため、時間を掛けて希薄液で処理する等の手間を掛けていた。
本実施形態の製造方法では、従来よりも、高温域である300℃以上700℃以下、好ましくは400℃以上700℃以下で熱処理する。このため、被覆層は、粒子界面で反応を起こし、被覆層の少なくとも一部が表層部3となって放電容量の低下を回避しながらゲル化を抑制することができる。被覆層と粒子界面の反応は、主に被覆層として形成されたMgO膜と母材中のLiOまたはNiOとの反応であり、高温域での熱処理によってLi−Ni―Mg―O層が生成され、表層部3を構成していると考えられる。こうした母材との反応により表層部3が形成されることで、界面抵抗の改善が一助できる。
さらに公知の技術では、有機物が熱分解しない域での低温処理を行うことで被覆層中の有機物を残留させ、この作用により界面抵抗の悪化を抑制する方法も試されている。しかし、車載用の高出力を求める正極活物質に使用すると、残留物の一部が電解液と反応を起こし溶解することで、サイクル特性に影響を与えることがある。
従来の被覆層に含有される有機物の残留物は炭素として分析される。本実施形態の製造方法では、上記のように高温により処理するため、残留する有機物が分解されるばかりでなく、熱処理時に、酸性雰囲気下で行うため、被覆層中の炭素としての残留物は大幅に減少する。被覆層中の炭素含有量は、酸素量以外に熱処理時の条件によっても行われ、熱処理に用いる炉に投入する複合酸化物粒子の量や、熱処理温度、昇温速度を制御することで達成できる。
熱処理の条件としては、下記式(1)で求められる値が、好ましくは33(g/分)以上1333(g/分)以下、より好ましくは50(g/分)以上400(g/分)以下の範囲内とする。
[複合酸化物粒子量(g)/炉容積(L)]×酸素ガス導入量(L/分)…(1)
300℃未満の処理温度であれば、特に酸素ガス流量を抑えても効果は十分に得られるが、上述のように高温で行う場合、LiNiO系の正極活物質はLiの飛散や酸素欠損を起こすため、それを回避するために多めに酸素ガスを流すことが好ましい。そこで、上記式(1)の範囲内に熱処理条件を制御することにより、正極活物質中のLiの飛散や酸素欠損を起こすことがなくなる。なお、この数値の範囲内であれば、炉内容積、複合酸化物粒子の処理量、酸素ガス流量の比を任意に変えて同様な効果を得ることができる。
例えば、30Lの容積を持つ熱処理炉中にアルミナ容器に充填した500g以上2000g以下の複合酸化物粒子を投入し、3〜20L/分(ガス圧0.1MPa)で純度20%以上の酸素を含むガス、好ましくは純度100%の酸素ガスを導入することができる。昇温速度は、好ましくは1℃/min以上20℃/min以下、より好ましくは3℃/min以上10℃/min以下である。また、昇温後、好ましくは300℃以上700℃以下で0.5時間以上5時間以下保持することができる。それぞれ、上記好ましい範囲の熱処理条件とした場合、より高性能な正極活物質を得ることができる。
従来の製造方法では、複合酸化物粒子2表面に酸化物層を形成し、水を弾くような保護層を設けることを目的として低温による熱処理が行われていた。一方、本実施形態では、上述したように、処理温度の下限を300℃以上とし、これにより、母材6/被覆層前駆体7界面間で反応を起こして表層部3を生成することを目的としている。
また、本実施形態では、700℃以下で熱処理することにより、母材6へのダメージを極力少なく処理することができ、電池特性の低下を抑制することができる。本実施形態では、反応性の高い被覆層前駆体7を出発としているため、母材を焼成するような高温(例えば、800℃以上900℃以下)に晒す必要がない。母材がより高温側に晒される場合、母材6表面から酸素やLiが欠乏しやすくなり、表面は劣化することがある。また被覆した粒子同士が焼成反応により固着が進み、凝集体を生成することも一因となる。また、本実施形態では非晶質からなる被覆層前駆体7を出発としているため母材6との反応も容易であり、比較的低温側での処理が可能となっている。
さらに、被覆層5中に残渣する不要な有機溶媒などの成分を除去も、本実施形態のように高温(例えば、300℃以上)で熱処理することで、より低減することができる。熱処理温度が250℃以下である場合、被覆層中に不要な有機溶媒が残渣し、電池セル後に充放電するとガス発生が問題となる。熱処理温度が300℃以上である場合、大部分の有機物は熱分解することができる。この際、上記所定の酸素ガス量を導入することが重要で、有機物の分解をスムーズに行うことにより、不要な有機物残渣を低減することが出来る。同時に300℃以上の到達温度で保持時間を延長すれば効果は一層高い。
初期放電容量においても温度依存性を調査すると、熱処理温度が300℃になると被覆層から有機物が除去されるために酸化物層として形成される。そのため界面抵抗は、未被覆の正極活物質を1とした場合、酸化物層を有する正極活物質は、界面抵抗が2倍以上に増加するため、この結果、初期放電容量は低下する傾向にある。また、酸化物層は、厚ければその傾向は更に強まり、被覆層の厚さが10nm以上になると界面抵抗は2〜3倍を超える。処理温度を300℃以上とする場合、被覆層前駆体7と母材6とが反応を開始し、さらに温度を上昇させると被覆層前駆体7と母材6との構成元素は相互拡散され、粒子表面には表層部3が温度上昇とともに生成されていく。これと平行して界面抵抗は徐々に改善され、初期放電容量は回復傾向となる。この際の界面抵抗は、未被覆の正極活物質の界面抵抗に対して、2倍以下、好ましくは1.5倍を下回る。
表層部3の生成は、例えば、粒子断面からTEMによる電子像やTEM−EDSによる面分析を用いて確認することができる。例えば、Mg−Oの被覆層前駆体7をリチウムニッケル複合酸化物粒子(母材6)表面に30nmとなるようにコートして、熱処理温度を変えて観察又は面分析すると、300℃では、正極活物質1表面に表層部3は形成されるものの、未だ被膜(被覆層5)が形成されている様子が観察され、また、面分析では、大部分が高濃度のMgを主とした粒子界面から30nmからなる被覆層5として検出される。さらに、700℃に達するまでに被覆層5は減少する。さらに、700℃では、観察されていた被膜(被覆層5)は完全に消失し、面分析でも高濃度のMgは母材内部に拡散し、被覆層が大幅に減少している様子が確認できる。すなわち、300℃で熱処理した被覆付き正極活物質について充放電容量を測定すると、被覆層の影響により界面抵抗の増加や放電容量の低下が観察されるが、このような放電容量の低下は、熱処理温を500℃〜700℃に上昇させることで、形成されていた被覆層5は母材との反応により表層部3へと変化し、これにより界面抵抗は改善を示し、放電容量も未被覆並みにまで回復する。一方、800℃を越えると被覆層はさらに減少するために表層効果は薄れ、初期充放電容量だけで無く、耐ゲル化やサイクル特性への改善効果が徐々に低下する。上記の観察結果から、正極活物質(母材6)表面の30nmからなる被覆層5(被覆層前駆体7)に、これらの電池特性の低下の原因あることが推察される。また、抵抗層であった被覆層5が300℃以上の熱処理により複合酸化物粒子2内部に適度に拡散され始め、徐々に表層部3が生成することが一因といえる。
熱処理時間は、所定の温度まで昇温した後、0.2時間以上5時間以下とすることが好ましく、0.5時間以上5時間以下とすることがより好ましく、0.5時間以上2時間以下がさらに好ましい。これにより複合酸化物粒子表面への固着と不要な有機溶媒の除去を十分に行うことができる。熱処理時間が0.5時間未満であると、有機溶媒が残渣することがある。また、高温下で5時間を越えると母材6からの酸素欠損が起こりやすいため、初期放電容量が低下することがある。熱処理時の雰囲気は純酸素雰囲気が選択され、複合酸化物粒子表面が還元されないようにすることが好ましい。
なお、本実施形態の製造方法は、ほぼ全ての正極活物質に対して適応することが可能であり、原材料として用いる母材として上述のリチウムニッケル複合酸化物粒子以外にも、例えば、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物などからなる粒子を用いることができる。また、得られる正極活物質の粒度分布は、被覆前後でほぼ同等に維持される。したがって、被覆前の複合酸化物粒子の平均粒径は、最終的に得ようとする正極活物質と同等とすればよく、3μm以上25μm以下とすることが好ましく、5μm以上20μm以下とすることがより好ましい。ここで、平均粒径はメジアン径(d50)であり、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布測定装置によって測定できる。熱処理する電気炉としては特にマッフル炉、管状炉を使用することが好ましく、炉内に酸素を満たした状態で常にガス循環することで、熱処理中は有機物等の分解による酸素不足状態にはならず、母材6表層を健全な酸化状態にすることができる。
2.非水系電解質二次電池
本実施形態の非水系電解質二次電池の一例について、以下、構成要素ごとにそれぞれ詳しく説明する。非水系電解質二次電池は、一般のリチウムイオン二次電池と同様に、正極、負極、非水電解液等構成要素から構成され、上記した本発明の正極活物質を正極に用いたことを特徴とするものである。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本実施形態に係る非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
正極を形成する正極合材およびそれを構成する各材料について説明する。本発明の粉末状の正極活物質と、導電材、結着剤とを混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペースト(ペースト状組成物)を作製する。正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウム二次電池の性能を決定する重要な要素となる。
溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質の含有量を60〜95質量%、導電材の含有量を1〜20質量%、結着剤の含有量を1〜20質量%とすることが望ましい。
得られた正極合材ペースト(ペースト状組成物)を、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにしてシート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法に依ってもよい。
前記正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)やアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。また、バインダー(結着剤)としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的にはN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルスルフォキシド、ヘキサメチルフォスフォアミド、等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には電気二重層容量を増加させるために活性炭を添加することができる。
(負極)
負極には、金属リチウム、リチウム合金等、また、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体、リチウム・チタン酸化物(LiTi12)等の酸化物材料を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これら活物質および結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間にはセパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な穴を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
(電池の形状、構成)
以上説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明に係るリチウム二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させ電極体とし、この電極体に上記非水系電解液を含浸させる。正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、並びに負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続する。以上の構成のものを電池ケース(容器)に密閉して電池を完成させることができる。
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、本発明の実施例における各評価は、下記方法によって実施した。
(評価方法)
1.被覆液および正極活物質の物性
(1)被覆液(分散液)中の前駆体微粒子および正極活物質の粒径測定:
微粒子の粒径(D50)は、粒度分布計(日機装(株)製、ナノトラックWave)を用いて測定した。また、リチウムニッケル複合酸化物粉末および正極活性物質の粒径(D50)は、粒度分布計(日機装(株)製、マイクロトラックMT3300)を用いて測定した。
(2)被覆層前駆体の厚みおよび被覆面積の測定
被覆層前駆体を有する母材をクロスセクションポリッシャー(CP)で断面加工し、透過型電子顕微鏡(TEM:HITACHI社製HF−2200)による断面側から観察した画像から被覆層厚を直接求めた。被覆面積については、TEM観察の画像から画像処理により面積を算出した。なお、被覆面積の測定は、観察場所を変えて5視野で行った。
(3)被覆層の反応及び構成元素の拡散状態測定
断面加工した試料を用いてTEM―EDS(NORAN社製VANTAGE)により断面側から面または点分析を実施して被覆層の確認や複合酸化物粒子内部への拡散状態を調べた。
(4)正極活物質の組成
組成はICP分析にて求めた。
(5)正極活物質の耐水性評価
耐水性は、24℃の純水50mlに正極活物質1gを加えて撹拌し、10分経過後のpHを測定することにより評価した。
(6)ゲル化評価
ゲル化評価は、正極活物質9.5gと、バインダーとしてフッ化ビニリデン(PVDF)0.5g、溶剤としてN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)5.5g、さらに水0.2gを自公転練り込み機によりスラリー状にした後、24℃で3日間静止保管し、目視観察によるゲル化状況を確認した。
2.電池の製造および電池特性の評価
(電池の製造)
正極活物質の評価には、図5に示す2032型コイン電池BA(以下、コイン型電池BAと称す)を使用した。図5に示すように、コイン型電池BAは、ケースCAと、このケースCA内に収容された電極ELとから構成されている。ケースCAは、中空かつ一端が開口された正極缶PCと、この正極缶PELの開口部に配置される負極缶NCとを有しており、負極缶NCを正極缶PCの開口部に配置すると、負極缶NCと正極缶PCとの間に電極ELを収容する空間が形成されるように構成されている。
電極ELは、正極PE、セパレータSEおよび負極NEとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極PEが正極缶PCの内面に接触し、負極NEが負極缶NCの内面に接触するようにケースCAに収容されている。なお、ケースCAはガスケットGAを備えており、このガスケットGAによって、正極缶PCと負極缶NCとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケットGAは、正極缶PCと負極缶NCとの隙間を密封してケースCA内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
前記コイン型電池BAは、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5g、アセチレンブラック15g、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5gを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極PCを作製した。作製した正極PCを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。この正極PCと、負極NE、セパレータSEおよび電解液とを用いて、上述したコイン型電池BAを、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。なお、負極NEには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。セパレータSEには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。なお初期放電容量を測定する際の電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)(1:1vol%)の混合液(富山薬品工業株式会社製)を用い、サイクル特性を評価する際の電解液には、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)(3:7vol%)の混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。
(電池特性の評価)
製造したコイン型電池BAの性能を示す初期放電容量、正極抵抗およびサイクル特性は、以下のように評価した。
初期放電容量は、コイン型電池BAを製作してから24時間程度放置後、0.05Cにてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
また、正極抵抗(界面抵抗)は、交流インピーダンス法により評価した。すなわち、コイン型電池BAを充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定し、ナイキストプロットを得た。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値(Ω)を算出した。算出した抵抗値は被覆前(未被覆品)を1として次式で表した。
界面抵抗 = [熱処理品の界面抵抗値/未被覆品の界面抵抗値]
サイクル特性評価は、コイン型電池BAを製作してから24時間程度放置後、0.5Cにてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電し、これを1サイクルとして100回繰り返し行った。この際の評価方法として容量維持率を求めるが、1サイクル目で得られる放電容量を100%として次式で表される。
容量維持率(%)=[100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量]×100
(実施例1)
(母材の作製)
公知技術で得られた下記のリチウムニッケル複合酸化物粉末を母材として用いた。すなわち、Niを主成分とし、Co及びAlを含む酸化ニッケル粉末と水酸化リチウムを混合して焼成し、Li1.03Ni0.81Co0.15Al0.04で表されるリチウムニッケル複合酸化物粉末50kgを得た。このリチウムニッケル複合酸化物粉末の平均粒径D50は10.8μmであり、比表面積は0.31m/gであった。
(Mg−O被覆液の作製)
溶媒として脱水2−プロパノール30mlとメチルセロソルブ30ml、2−エチルヘキサン酸20ml、酪酸ブチル20mlをセパラブルフラスコ入れ、Arガスを導入して置換を行った。この溶媒中に金属Mgを2.4g加えて、環流しながら溶解を行い、溶液(A)を得た。別容器に2−プロパノール5mlにアセチルアセトン(関東化学製)2.0gを加えて攪拌し,溶液(B)を作製しておいた。溶液(A)を室温まで冷却した後、溶液(B)を投入し、攪拌混合後に溶液(C)を作製した。密栓した容器中に溶液(C)を入れ、攪拌しながら60℃で1時間加熱後、溶液(D)を作製した。
さらに室温まで冷却した溶液(D)に希釈用の2−プロパノール100mlを加えて、Mgを含む被覆液(E)を得た。
(被覆層の形成)
上記母材600gを、転動流動装置((株)パウレック製、MP−01)を用いて出口温度40℃、送風量0.3m/時で撹拌しながら30分掛けて上記被覆液全量を噴霧して、表面に被覆層前駆体を有する母材を得た。得られた被覆層前駆体の厚さを表1に示す。被覆した母材のうち150gを取り出し、容積の30Lのマッフル炉を用い、10L/分で純酸素ガスを導入しながら3℃/分で300℃まで昇温した後、0.5時間保持して表層及び被覆層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(実施例2)
実施例1で得た被覆した母材のうち150gを取り出し、実施例1と同条件にて、熱処理温度だけを400℃に変えて、表層部を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(実施例3)
実施例1で得た被覆した母材のうち150gを取り出し、実施例1と同条件にて熱処理温度だけを600℃に変えて、表層部を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(実施例4)
実施例1で得た被覆した母材のうち150gを取り出し、実施例1と同条件にて熱処理温度だけを700℃に変えて、表層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(実施例5)
(Mg−O被覆液の作製)
溶媒として脱水2−プロパノール60mlと2−エチルヘキサン酸20ml、酪酸ブチル20mlをセパラブルフラスコ入れ、Arガスを導入して置換を行った。この溶媒中に金属Mgを0.3g加えて、環流しながら溶解を行い、溶液(A)を得た。別容器に2−プロパノール5mlにアセチルアセトン(関東化学製)0.3gを加えて攪拌し,溶液(B)を作製しておいた。溶液(A)を室温まで冷却した後、溶液(B)を投入し、攪拌混合後に溶液(C)を作製した。密栓した容器中に溶液(C)を入れ、攪拌しながら60℃で1時間加熱後、溶液(D)を作製した。
さらに室温まで冷却した溶液(D)に希釈用の2−プロパノール100mlを加えて、Mgを含む被覆液(E)を得た。
(被覆層の形成)
上記母材600gを、転動流動装置((株)パウレック製、MP−01)を用いて出口温度40℃、送風量0.3m/時で撹拌しながら30分掛けて上記被覆液全量を噴霧して、表面に被覆層前駆体を有する母材を得た。得られた被覆層前駆体の厚さを表1に示す。被覆した母材のうち150gを取り出し、実施例1と同条件にて300℃で熱処理を行い、被覆層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表2、3にまとめて示す。
(実施例6)
実施例5で得た被覆した母材のうち150gを取り出し、熱処理温度だけを600℃に変えた以外は、実施例5と同条件にて、表層部を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(実施例7)
(Mg−O被覆液の作製)
溶媒として脱水2−プロパノール60mlと2−エチルヘキサン酸20ml、酪酸ブチル20mlをセパラブルフラスコ入れ、Arガスを導入して置換を行った。この溶媒中に金属Mgを0.7g加えて、環流しながら溶解を行い、溶液(A)を得た。別容器に2−プロパノール5mlにアセチルアセトン(関東化学製)0.7gを加えて攪拌し,溶液(B)を作製しておいた。溶液(A)を室温まで冷却した後、溶液(B)を投入し、攪拌混合後に溶液(C)を作製した。密栓した容器中に溶液(C)を入れ、攪拌しながら60℃で1時間加熱後、溶液(D)を作製した。
さらに室温まで冷却した溶液(D)に希釈用の2−プロパノール100mlを加えて、Mgを含む被覆液(E)を得た。
(被覆層の形成)
上記母材600gを、転動流動装置((株)パウレック製、MP−01)を用いて出口温度40℃、送風量0.3m3/時で撹拌しながら30分掛けて上記被覆液全量を噴霧して、表面に被覆層前駆体を有する母材を得た。得られた被覆層前駆体の厚さを表1に示す。被覆した母材のうち150gを取り出し、実施例1と同条件にて300℃で熱処理を行い、被覆層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表2、3にまとめて示す。
(実施例8)
実施例7で得た被覆した母材のうち150gを取り出し、同条件にて熱処理温度だけを
600℃に変えて、表層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表2、3にまとめて示す。
(実施例9)
(Mg−O被覆液の作製)
溶媒として脱水2−メチル−1−ブタノール60mlと2−エチルヘキサン酸10ml、酪酸ブチル10ml、メチルセロソルブ20mlをセパラブルフラスコ入れ、Arガスを導入して置換を行った。この溶媒中に金属Mgを2.4g加えて、環流しながら溶解を行い、溶液(A)を得た。別容器に2−プロパノール5mlにアセチルアセトン(関東化学製)2.0gを加えて攪拌し,溶液(B)を作製しておいた。溶液(A)を室温まで冷却した後、溶液(B)を投入し、攪拌混合後に溶液(C)を作製した。密栓した容器中に溶液(C)を入れ、攪拌しながら70℃で1時間加熱後、溶液(D)を作製した。
さらに室温まで冷却した溶液(D)に希釈用の2−プロパノール100mlを加えて、Mgを含む被覆液(E)を得た。
(被覆層の形成)
上記母材600gを、転動流動装置((株)パウレック製、MP−01)を用いて出口温度40℃、送風量0.3m/時で撹拌しながら30分掛けて上記被覆液全量を噴霧して、表面に被覆層前駆体を有する母材を得た。得られた被覆層前駆体の厚さを表1に示す。被覆した母材のうち150gを取り出し、実施例1と同条件にて600℃で熱処理を行い、被覆層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(比較例1)
実施例1で作製した母材30gを被覆処理せずに、正極活物質の評価を行った。結果を表1、2にまとめて示す。
(比較例2)
実施例1で作製した母材30gを被覆処理せずに、容積の30Lのマッフル炉を用い、1L/分で空気を導入しながら3℃/分で600℃まで昇温した後、0.5時間保持して正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(比較例3)
メタノール100mlに金属Mg4.0gを加えて環流して溶解した溶液を冷却後、実施例1で作製した母材96gを投入して10分間浸漬した。攪拌と同時に乾燥が行われ、液が揮発して粉末が凝集し始めたら、別容器に移して乾燥を十分に行い、表面に被覆層前駆体を有する母材を得た。得られた被覆層前駆体の厚さを表1に示す。被覆厚にはバラツキが大きく、被覆層を観察すると粉末の堆積物であり、剥離も見られた。この粉末の堆積物は、付着物であり、層状の構造が観察されないため、厚みの測定はできなかった。
被覆した母材のうち30gを取り出し、容積の30Lのマッフル炉を用い、3L/分で空気を導入しながら3℃/分で300℃まで昇温した後、12時間保持して表層及び被覆層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(比較例4)
比較例3で得た被覆した母材のうち30gを取り出し、容積の30Lのマッフル炉を用い、3L/分で空気を導入しながら3℃/分で400℃まで昇温した後、12時間保持して表層及び被覆層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
(比較例5)
比較例3で得た被覆した母材のうち30gを取り出し、容積の30Lのマッフル炉を用い、3L/分で空気を導入しながら3℃/分で700℃まで昇温した後、12時間保持して表層及び被覆層を有する正極活物質を得た。正極活物質の評価結果を表1、2にまとめて示す。
Figure 0006878855
Figure 0006878855
1……正極活物質
2……リチウムニッケル複合酸化物粒子
3……表層部
4……中心部
5……被覆層
6……母材
7……被覆層前駆体
BA……コイン型電池
CA……ケース
PC……正極
NC……負極
GA……ガスケット
EL……電極
PE……正極
NE……負極
SE……セパレータ

Claims (4)

  1. 表面に配置される表層部とそれ以外の中心部とを有し、組成がLi Ni 1−x−y Co 2+α (式中、M は、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、M は、Mg元素であり、1.01≦t≦1.20、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15、0<z≦0.03、0≦α≦0.1を示す。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物粒子からなり、前記M は、前記表層部に含まれ、前記表層部は、その粒子表面から中心へ向かう方向において、前記M の濃度が低くなるような濃度勾配を有する非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
    Mgを含む金属アルコキシドのモノマー又はそのオリゴマーと、有機溶媒と、を含む混合液を得た後、前記混合液にキレート剤を添加して被覆液を得ることと、
    リチウムニッケル複合酸化物粒子に、前記被覆液を混合し又は噴霧して、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に3nm以上100nm以下の被覆層前駆体を形成することと、
    前記被覆層前駆体を形成した複合酸化物粒子を300℃以上700℃以下の酸素雰囲気中で熱処理することと、
    を含むことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  2. 前記被覆層前駆体は、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子からなる母材の表面に非連続的に多孔質かつ島状に形成され、透過型電子顕微鏡の断面観察より測定される被覆面積が前記母材の表面積の80%以上95%以下であることを特徴とする請求項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  3. 前記表層部が、組成がLiNi1−x−yCo(式中、Mは、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、MoおよびWからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素であり、1.01≦t≦1.20、0≦x≦0.22、0≦y≦0.15)で表される前記リチウムニッケル複合酸化物粒子からなる母材の表面上に、Mgを含む前記被覆層前駆体を形成した後、熱処理により前記被覆層前駆体と前記母材の粒子界面とを反応して形成されることを特徴とする請求項又は請求項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
  4. 前記熱処理は、[複合酸化物粒子量(g)/炉容積(L)]×酸素ガス導入量(L/分)によって求められる値が33g/分以上、1333g/分以下の範囲内となるように制御した雰囲気中で行う、ことを特徴する請求項から請求項のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
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