以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の転写材は、基本的に、基材上にインク受容層および接着層が順次設けられており、さらに、基材と接するインク受容層の面に、凹凸状の3次元微細構造による画像(以下、「3次元画像」ともいう)を有する。基材の表面に、予め、凹凸状の3次元画像(3次元微細構造による画像)を形成し、この基材の表面上にインク受容層を設けることにより、インク受容層側に、基材側の3次元画像を転写して形成することができる。
接着層を形成する接着剤は、インク受容層の表面の一部が外部に露出するように、インク受容層の表面に離散的に設けることができる。本明細書においては、このような接着層の構成を「海島構造」あるいは「海島状の接着層」と記述する場合がある。また、離散的に設けられた接着剤の一つの集まりを「接着部」あるいは「島部」と記述し、インク受容層の表面が露出した部分を「(インク受容層の)露出部」と記述し、接着層において接着剤がない部分を「海部」あるいは「バイパス部」と記述する場合がある。したがって、海部(バイパス部)の下部がインク受容層の露出部となる。
[1]接着層
[1−1]接着層の構造(海島構造)
本実施形態の転写材1は、図1に示すように、基材50の表面に、空隙によってインクを吸収する空隙吸収型のインク受容層53が配され、そのインク受容層53の表面に、接着剤1002の接着層1012が配されている。接着剤1002は、インクをほぼ吸収しない、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅いものである。一方、空隙吸収型のインク受容層53は、インク吸収性が良好であってインク吸収速度が速い。接着層1012は、インク受容層53の表面に接着剤1002を離散的に設けることにより、接着剤1002が集まった接着部としての島部1000と、接着剤1002のないバイパス部としての海部1014と、を含む。海部1014に対応するインク受容層53の表面は、外部に露出する露出部1001を形成する。
接着剤の中心付近に着弾したインク滴は、着弾直後には、その一部がインク受容層の露出部に直接接触できない場合がある。その場合でも、インク滴が、マイクロ秒〜ミリ秒のオーダーで、着弾衝撃によって変形しながら接着剤の表面を伝わって瞬時に拡がり、そのインク滴の一部がインク受容層の露出部に垂れ込む。これにより、そのインク滴の残りの部分もインク受容層に速やかに吸収され始める。インクは、接着剤にはほぼ吸収されず、インク吸収速度の速い空隙吸収型のインク受容層の露出部に引きずり込まれるように、主体的に素早く吸収される。そのため、インクは、接着剤の表面もしくは内部には残留しにくく、良好な接着性、およびインク吸収性を得ることができる。
[1−2]インク受容層の露出部の面積
インク受容層の表面に接着剤が存在せずに、インク受容層が露出している部分の面積は、エリアファクターがほぼ100%になるように、インク受容層の全表面に対する比率(面積比率)を調整すればよい。例えば、インク受容層内にほぼ等方的にインクが浸透する場合、インクジェット方式により安定に吐出可能な水系インクのにじみ率は約2倍となり、インク滴の直径は、着弾して浸透すると約2倍に広がることが知られている。ほぼ等方的に浸透したインクは、インク受容層内において水平方向に約25%程度広がるため、インク受容層の露出部の面積比率が50%以上であれば、エリアファクターをほぼ100%として、白抜けのない高濃度の画像を記録することができる。したがって、インク受容層の露出部の面積比率は50%以上が好ましい。
[1−3]接着剤の形状
接着部の形状は、それを構成する接着剤の形状によって決まるため、接着剤の形状として、インクの色材が接着部の下部のインク受容層に回り込めるような形状を選べばよい。インク吸収性を良好とするためには、空隙吸収型のインク受容層の表層と接する部分の面積を最小し、転写材を記録面側から見たときの接着剤の面積を最大とすることが好ましい。そのためには、粒子形状を主体とする接着剤、あるいは多面体形状を主体とする接着剤等を用いることができる。このような接着剤を用いることにより、空隙吸収型のインク受容層の露出部の面積を最大にしつつ、インク吸収性を可能な限り良好とし、さら接着性を担保することができる。接着剤としては、特別な配向処理などを必要とせずに、生産性を向上させることができる粒子形状のものが好ましい。
[1−4]接着層の面積比率
インクの吸収性を良好とするためには、想定されるインク滴の直径の変化範囲を考慮し、インクが必ず接着層から十分にはみ出てインク受容層の露出部に垂れ込むように、接着層を形成する島状の接着部の水平方向の大きさを制御すればよい。着弾したインクを必ず接着部からはみ出させるためには、インク滴が着弾したときのインクの径(着弾径)よりも、接着剤および接着部の水平方向の径が小さくなるように制御することが重要である。想定されるインクの着弾径よりも接着部の大きさを小さくし、かつ、その接着部を十分に離散的に島状に配置して、インク受容層の全表面積に対して、記録面側から直接臨める接着層の面積の比率(面積比率)を50%以下にすればよい。
粒子状の接着剤を円柱状に複数集約させて接着部が形成されることを想定すれば、接着部の面積比率を50%以下とすることにより、その接着部の大きさは、インクが着弾したときの着弾径よりも小さくなる。インクの粘度および表面張力の影響もあるものの、着弾したインクの一部を必ず接着部からはみ出させて、インク受容層の露出部に垂れ込むませることができる。インク受容層の露出部にインクの一部が接すれば、インクの吸収速度の速い空隙吸収型のインク受容層の露出部に対して、インクが引き込まれるように主体的に吸収される。したがって、インク吸収性を良好とし、かつ接着剤の表面および接着剤の内部にインクを残留しにくくすることができ、接着性が向上するため好ましい。
[1−5]接着層の厚み
着弾したインクを引き込むようにインク受容層の露出部に吸収させる上においては、着弾したインクの一部が接着部からはみ出してインク受容層の露出部に垂れ込むときに、そのインクが千切れないように、接着層の厚みを制御することが好ましい。すなわち、インクの粘度および表面張力を考慮して、接着層上のインクと、インク受容層の露出部に接したインクと、が千切れないように接着層の厚みを制御することが好ましい。
また、下記の条件において単色画像を記録(単色記録)する場合を想定する。その条件として、安定的に吐出可能な水系のインク滴が着弾して円柱状に広がるとし、面積比率が50%以下になるように接着剤を十分に離散的に配置したとした。さらに、その条件として、インク受容層の空隙によるインクの吸収だけを考慮して、空隙吸収型のインク受容層の吸収率を80%、インク滴の体積を2plあるいは4plとした。このような条件において、単色画像を記録(単色記録)した場合、接着部の厚みはインク受容層の厚みよりも小さくすればよい。
単色記録の場合には、想定されるインク滴の大きさに応じて、接着部の厚みをインク受容層の厚みよりも小さく設定することにより、接着部の厚みを、着弾したインク滴の厚みよりも小さくすることができる。これにより、接着部上のインクと、インク受容層の露出部に接したインクと、が千切れないようにして、インク吸収性を良好にすることができる。さらに、接着部の表面および内部にインクが残留しにくくなるため、接着性を向上させることもできる。また、多色画像の記録(カラー記録)の場合には、空隙吸収型のインク受容層のインク吸収率を80%とし、2色あるいは3色相当のインクの受容を想定した場合、接着剤の厚みは、インク受容層の厚みの約2分の1もしくは約3分の1程度よりも小さくすればよい。
また、インクの色材が顔料の場合には、接着部の高さをインク受容層の厚みの100分の6よりもやや高くすることにより、単色の色材の全てをインク受容層の露出部にて受容することができる。この結果、接着部の高さよりも色材が高く突き出ることがなく、インク受容層の表層に残留する色材が接着性の阻害要因とはならずに、良好な接着性を実現することができる。好ましくは、インク受容層の厚みの100分の7よりも接着部の高さを高くしておけば良い。カラー記録において、2色あるいは3色分相当のインクを想定した場合には、インク受容層の厚みをより厚くする必要があると共に、インク受容層の表面に残留する固形分も増えるため、それとほぼ同じ割合で接着剤の厚みもより厚くする必要がある。
また、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤によって、インク受容層の表層に残留した色材を覆い、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成することにより、より高い接着性を得ることができる。例えば、顔料濃度が10%の顔料インクを用いる場合に、接着部の厚みをインク受容層の厚みの10分の1よりもさらに大きくすることにより、高い接着性を実現することができる。顔料インクなどのように、インク中の色材などの固形分がインク受容層の表層に残留しやすいインクを用いた場合には、接着部の厚みをインク受容層の厚みの100分の7から2分の1程度の範囲に設定すればよい。
より好ましくは、接着層の高さは、インク受容層の厚みの10分の1から3分の1の範囲に設定することにより、十分な接着性が得られる。すなわち、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型のインク受容層の空隙率が80%、カラー画像の記録を考慮した場合、インク受容層の厚みは8〜16μm程度、接着部の厚みは0.5μmから8μm程度が好ましい。さらに、インク滴の体積の環境によるばらつき、およびインク受容層の空隙率の製造上のばらつきなどを考慮すると、接着部の厚みは、より好ましくは1μmから5μmにすればよい。インクの顔料濃度が5%程度の場合、接着層の厚みは、インク受容層の厚みIの100分の3から2分の1程度の範囲が好ましい。すなわち、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型のインク受容層の空隙率が80%、およびカラー記録を考慮した場合、インク受容層の厚みは8〜16μm程度、接着部の厚みは0.3μmから8μm程度が好ましい。インク滴の体積の環境によるばらつき、およびインク受容層の空隙率の製造上のばらつきなどを考慮すると、接着部の厚みは、より好ましくは0.5μmから5μmにすればよい。
[1−6]接着剤の粒子径
接着剤の平均粒子径は特に限定されないが、下記2つの条件を満たすように設定することが好ましい。
第1の条件は、前述したように、接着層の上に着弾したインクを千切ることなく、インク受容層の露出部に引き込んで吸収させるという条件であり、このような条件を満たすように接着剤の平均粒子径を設定する。具体的には、接着層の厚みは接着剤の平均粒子径と量によって決まるため、接着部の厚みがインク受容層の厚みよりも小さくなるように、接着剤の平均粒子径を設定することが好ましい。さらに、カラー記録の場合には、接着部の厚みがインク受容層の3分の1よりも薄くなるように、接着剤の平均粒子径を設定すればよい。接着剤が複数層の接着部を構成する場合には、さらに接着剤の平均粒子径を小さくすればよい。第2の条件は、接着剤がインク受容層の空隙に入り込まずに、接着剤が空隙を埋めてしまうことによるインク吸収性の低下を生じさせないという条件であり、このような条件を満たすように接着剤の平均粒子径を設定する。すなわち、インク受容層の空隙径よりも小さくならないように、接着剤の平均粒子径を設定することが好ましい。これら2つの条件を満たすように、接着剤の平均粒子径は、インク受容層の空隙径よりも大きく、かつインク受容層の厚みの半分以下として、画像の記録性と接着性を両立させることが好ましい。
インクの色材が顔料の場合には、固液分離してインク受容層の残った色材を、接着時に接着剤によって覆うことができるように、接着剤の平均粒子径と量を調整すればよい。例えば、インクジェット記録において安定して吐出可能な水系インクの顔料濃度が10%以内の程度であること、および多少の顔料がインク受容層に浸透することを考慮して、接着剤の平均粒子径をインク受容層の厚みの10分の1程度よりも大きくすればよい。顔料濃度が10%より大きい場合には、接着剤の平均粒子径をインク受容層の厚みの10分の1よりもさらに大きくしてもよく、使用するインクの顔料濃度に応じて、適宜、接着剤の平均粒子径と量を調整すればよい。
すなわち、単色の顔料インクを想定した場合、接着剤の平均粒子径は、インク受容層の空隙径よりも大きく、また、インク受容層の厚みの10分の1よりも大きくして、インク受容層の厚み以下とすることが好ましい。これにより、画像記録性と接着性とを両立させることができる。また、カラー記録の場合、接着剤の平均粒子径は、インク受容層の空隙径よりも大きく、また、インク受容層の厚みの10分の1よりも大きくして、インク受容層の厚みの3分の1よりも小さくすればよい。顔料が樹脂分散顔料であって、分散樹脂の溶融温度が接着温度より低い場合には、分散樹脂が接着に寄与するため、接着剤によって顔料を完全に覆わなくても良好に接着することが可能であり、接着剤の厚みは上記の厚みよりも薄くしてもよい。要は、色材によって接着が阻害されることなく、転写材と画像支持体とを良好に接着させることができればよい。そのために、インク受容層の空隙率、使用するインクの色材の種類、色材の濃度、および記録画像(単色画像または多色画像)などの要因に応じて、適宜、接着層の厚みとインク受容層の厚みを調整すればよい。
具体的に、接着剤の平均粒子径としては、10nmよりも大きく、5μmよりも小さいことが好ましい。接着剤の平均粒子径を10nmよりも大きくすることにより、接着剤の粒子径がインク受容層の空隙径より十分大きくなるため、接着剤がインク受容層の空隙の中に入り込みにくくなる。これにより、インク吸収性の低下を防止して、インク吸収性を良好とすることができる。また、接着剤の平均粒子径を5μmよりも小さくすることにより、接着部の厚みをインク受容層の厚みよりも小さくして、接着層の上に着弾したインクを千切ることなくインク受容層の露出部に引き込んで吸収させることができる。この結果、接着層の表面および内部にインクを残りにくくして、接着性を向上させることができる。
一方、接着剤の平均粒子径が10nm以下であると、その平均粒子径がインク受容層の空隙径よりも小さくなる場合がある。この場合には、接着剤がインク受容層の空隙の中に入り込み、空隙を埋めてインク吸収性を低下させるおそれがある。ただし、接着剤の粒子が凝集しやすい粒子であった場合には、平均粒子径が10nm以下でも、粒子が凝集して大きな2次粒子を形成するため、インク受容層の空隙を埋めることはない。したがって、このような場合には平均粒子径が10nmよりも小さくてもよい。要は、接着剤の性質に応じて、インク受容層の空隙を埋めないように、適宜、接着剤の平均粒子径を調整すればよい。
[1−7]接着剤の量(体積)
接着剤の量は用途に応じて調整すればよい。例えば、強い接着力を必要とする場合、接着剤の量は、画像支持体とインク受容層の接着面の凹凸を吸収するできる量であることが好ましい。さらに好ましくは、接着時に接着剤が溶融してほぼインク受容層の全面を覆って、その全面を画像支持体に接着できるように、接着剤の量および溶融後の接着面積を調整する。一方、弱い接着力でよい場合には、インク受容層の露出部の面積を大きくして、インクによる画像の記録特性を向上させることができる。
[1−8]インク受容層の露出部の密度
インク受容層の露出部の間隔は、エリアファクターがほぼ100%となるように調整すればよい。画像の形成に必要なエリアファクターを維持するためには、インク受容層の露出部の密度は、インク滴の直径の2乗の2倍の面積に、1つ以上の海部が存在する密度であればよい。つまり、想定されるインクジェット記録の1画素に、インク吸収速度の速いインク受容層の露出部が1つ以上存在すればよい。これにより、インクは島状の接着部の上に残らず、インク受容層に速やかに吸収されて接着不良を引き起こさない。また、1画素に1つ以上の海部が存在することにより、着弾したインクは、所定の画素から大きく外れずにインク受容層に吸収されるため、画像の記録特性も良好となる。
インク受容層は、エリアファクター100%を満足させるインクの全てを吸収できるように構成される。例えば、前述したように、使用が想定されるインクとインク受容層において、インク受容層の吸収率を80%とし、単色記録時に、2plあるいは4plのインク滴を1滴着弾させた場合を想定する。単色記録を想定して、エリアファクター100%を実現するインクを受容できるインク受容層の厚みの√2分の1の6倍を一辺とする正方形の中に、少なくとも1つの海部が存在すればよい。カラー記録を想定した場合、エリアファクター100%以上を実現するためには、インク受容層の厚みの√2分の1の2倍を一辺とする正方形の中に、少なくとも1つの海部があればよい。このことは、単色記録およびカラー記録において、1画素を複数のインク滴によって記録する場合にもほぼ同様である。
[1−9]その他の構成
接着剤は一種でも複数種使用してもよいが、少なくともインク受容層と接する接着剤は、粒子形状をほぼ保持していることが重要である。インク受容層と接する接着剤が粒子形状をほぼ保持していることにより、インクの色材が接着剤の下部に回り込みやすくなり、インクジェット方式などによる画像の記録特性が向上する。
例えば、粒径の異なる接着剤を複数使用してもよい。接着性を良好にするために、接着剤を複数の熱可塑性樹脂粒子で構成することもできる。複数の材質の接着剤を用いることができる。
また、接着層は単層でも複層でもよい。例えば、接着層において、インク受容層側の層はインク受容層に接着しやすい構成とし、一方、画像支持体側の層は画像支持体に接着しやすい構成として、それぞれの層に機能を分離してもよい。接着層が複数層の場合、最表層の接着剤は、粒子状でなくて、完全に膜化して平滑化されていてもよい。しかし、インク受容層に接する接着層の接着剤は、粒子形状を保持していることが重要である。少なくともインク受容層と接する接着剤の粒子形状を保持することにより、画像の記録時に、接着剤の下部のインク受容層に対してもインクが回り込みやすくなり、画像の記録特性が向上する。
[2]3次元画像(3次元微細構造による画像)
本実施形態の転写材は、図1のように、基材50と接するインク受容層53の面に、凹凸状の3次元画像(3次元微細構造による画像)1300を有する。
3次元画像は、インク受容層に、凹凸によって表現される画像の全てを含む。例えば、3次元画像1300としては、図10(a)のように、凹凸部1306と平坦部1307とによって表現される画像も含まれ、また図10(b)のように、図10(a)中の凹凸部1306と平坦部1307とが入れ替わっている画像も含まれる。このように、3次元画像には、凹凸部1306の他に、平坦部1307も含まれる場合がある。図10(a)の上側部分は、3次元画像1300の平面図であり、その下側部分は、上側部分のa−a線に沿う転写材の断面図である。同様に、図10(b)の上側部分は、3次元画像1300の平面図であり、その下側部分は、上側部分のb−b線に沿う転写材の断面図である。
3次元画像は、異なる複数の凹凸部によって形成することも可能である。例えば、図11(a)のように断面形状が部分的に異なる凹凸部、図11(b)および図12(a)のように同図中左右方向の幅が異なる凹凸部、および図12(b)のように同図中上下方向の高さが異なる凹凸部などによっても3次元画像を形成することができる。
このような3次元画像は、基材とインク受容層との光学的屈折率によって視認され、転写材および記録物の偽造防止が可能となる。さらに、本実施形態の転写材は、基材と反対側のインク受容層の表面に、画像(第1の画像)をインクジェット方式などによって記録することができ、また画像支持体に対して接着可能である。したがって、このような転写材が転写された記録物においては、インク受容層が第1の画像の保護層として機能し、その第1の画像の耐候性を向上させることができる。また、このような記録物の表面に3次元画像の凹凸部を位置させて、その記録物の表面に他の画像(第2の画像)を顔料インクを用いて記録することにより、3次元画像の凹凸が顔料粒子を保護して耐擦過性を向上させることができる。
3次元画像は、例えば、インク受容層の表面に切削等によって直接設け、その後、記録材の搬送性を確保するために、表面が平坦な基材を貼り付けてもよい。このような場合には、インク受容層に、その厚みに応じた高さの3次元画像を形成することができる。凹凸の程度を大きくするように3次元画像の高さを大きくすることにより、3次元画像の視認性をより向上させることができる。
また、基材に凸凹状の3次元画像を形成し、その上にインク受容層を塗布積層することにより、基材上の3次元画像をインク受容層の表面に転写して、基材とインク受容層との境界面に凹凸状の3次元画像を設けてもよい。基材の表面に形成される3次元画像は、インク受容層の表面に反転して転写される。そのため、インク受容層側の3次元画像を基準とした場合、基材側の3次元画像は、インク受容層側の3次元画像を反転させた3次元画像(反転の3次元微細構造による画像)となる。このように、3次元画像をインク受容層に転写する場合は、インク受容層に3次元画像を直接形成する場合に比して、切削によるゴミ等の不純物を巻き込むことなく、インク受容層の塗工液の塗布のみによって容易に3次元画像を形成することができる。この結果、転写材の生産性および性能の安定性が向上する。要は、基材と接するインク受容層の面に3次元画像が形成できればよい。図4の例においては、基材50の表面に、形成装置1308を用いて3次元画像1300を設けた後、ダイコーター655Aを用いてインク受容層53を塗工してから、ダイコーター655Bを用いて接着層1012を塗工する。
3次元画像は、その表面と、それに接する対向面と、の境界を形成する2つの層の光学的屈折率の差によって、視認される。したがって、3次元画像を視認可能とするためには、境界を形成する2つの層を、光学的屈折率が異なる部材によって構成する必要がある。
例えば、図1のように、基材50に設けられた凸凹状の3次元画像1300を空隙吸収型のインク受容層53によって覆った場合には、基材50とインク受容層53とが3次元画像の境界を形成する2層となる。これらの基材とインク受容層との光学的屈折率の差によって、3次元画像が視認可能となる。本発明の転写材は、画像支持体に転写する前の状態、および画像支持体に転写した後の状態のいずれにおいても、3次元画像の視認可能である。そのため、インクジェット方式などによって画像を記録する前に、3次元画像を視認することにより、用途に応じた適切な転写材を判別して、不適切な転写材の誤使用を回避することができる。
3次元画像の視認性を向上させるために、3次元画像の境界を形成する2つの層の屈折率は十分に異なることが好ましい。基材が剥離されない転写材、または基材の一部が剥離される転写材においては、インク受容層と基材との光学的屈折率は十分に異なることが好ましい。また、基材が剥離される転写材においては、3次元画像の境界を形成する2層がインク受容層と空気層となるため、インク受容層と空気の光学的屈折率は十分に異なるこ
とが好ましい。
より具体的に、人が肉眼によって3次元画像を視認する場合、3次元画像の境界を形成するインク受容層と他の層との光学的屈折率の差は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上である。インク受容層の光学的屈折率は、このような条件を満たすように制御することができる。このような範囲に屈折率の差を設定することにより、基材を剥離した場合、および基材を剥離しない場合のいずれにおいても、3次元画像の視認性が向上する。光学的屈折率の差が0.1より小さい場合には、3次元画像が肉眼では極めて視認しにくくなる。好ましい屈折率の差の範囲は、画像の視認方法等に応じて適宜選択すればよい。
本実施形態の転写材に画像(第1の画像)を記録した後、その転写材を画像支持体に転写してから、基材を剥離することにより、または基材の少なくとも一部を剥離することにより、記録物を得ることができる。凹凸状の3次元画像は、インク受容層に直接設けてもよく、基材上に設けた凹凸状の3次元画像をインク受容層に転写してもよい。基材が剥離される転写材を用いた場合には、基材上の凸凹状の3次元画像が反転してインク受容層に転写されて、インク受容層が凹凸状の3次元画像を有する記録物となる。すなわち、基材の3次元画像の凸部は、記録物のインク受容層の3次元画像の凹部となり、基材の3次元画像の凹部は、記録物のインク受容層の3次元画像の凸部となる。記録物のインク受容層に転写された凹凸状の3次元画像は、空気とインク受容層との光学的屈折率の差によって、視認可能となる。基材とインク受容層の材質にもよるものの、基材側の3次元画像は、その凸凹形状および寸法が維持されるようにインク受容層側に転写される。
このような記録物において、凹凸状の3次元画像を有するインク受容層の表面には、さらにインクジェット方式などにより、画像(第2の画像)を追記することができる。その場合、インク受容層の3次元画像は、第2の画像の耐擦過性を向上させることになる。一般に、顔料インクは固液分離しやすく、インク受容層の表面に顔料粒子が残り易いため、顔料インクによる記録画像の耐擦過性は低い。一方、3次元画像を有するインク受容層上に、顔料インクによって第2の画像を追記した場合には、顔料粒子が3次元画像の凹部内に収納されて、擦過時に凸部によって保護される。そのため、擦過物が顔料粒子に接触しにくく、第2の画像の耐擦過性を向上させることができる。したがって、第2の画像を記録する顔料インクとして、色材自体の耐候性の高い顔料インクを好適に用いることができる。
第2の画像の耐擦過性を向上させるためには、インク受容層の3次元画像における凹部の体積を、第2の画像を記録するインクの色材の体積以上とすることが重要である。このように3次元画像における凹部の体積を設定することにより、その凹部内に、顔料インクの顔料の大部分が収納されて、耐擦過性が向上する。仮に、3次元画像における凹部の体積がインクの色材の体積よりも小さい場合には、顔料インクの顔料が3次元画像における凸部からはみ出して、耐擦過性が低下するおそれがある。インク受容層の3次元画像における凹部の体積は、基材の3次元画像における凸部の体積に等しい。したがって、インクの打ち込み量および色材量に応じて、基材の3次元画像の凸部の体積を調整することにより、記録物の耐擦過性を向上させることができる。
また、このような記録物において、3次元画像を有するインク受容層の表面に対しては、熱転写等の接触記録法によって画像(第2の画像)を高精度に記録(追記)することが難しい。例えば、熱転写法によって追記しようとした場合には、インク受容層の凹凸部によって記録ヘッドがインク受容層の全面に接触できず、画像を正確に記録することが難しい。そのため、3次元画像を有するインク受容層の表面に対しては、インクジェット方式のような非接触方式以外の方法によって、画像を追記することは困難である。つまり、本発明の転写材は、第2の画像を追記する場合の記録方式を制限することになる。この結果、3次元画像を有するインク受容層に第2の画像が記録された記録物に関しては、その偽造および複製が困難となり、記録物のセキュリティー性を高度なレベルにまで向上させる
ができる。
また、このような記録物において、インク受容層が3次元画像を有することにより、インク受容層の表面のべた付を防止することができる。また、3次元画像によって、基材の質感をインク受容層に転写させることも可能である。例えば、紙目状および木目状などの像を3次元画像として基材に形成し、この基材を覆うインク受容層に3次元画像を転写することにより、インク受容層の表面に紙目調および木目調の質感を与えることができる。基材の表面そのものをインク受容層の表面に転写させることにより、基材の質感をインク受容層に表現することもできる。
さらに、所望の質感を持つ部材を記録物の表面に型押しすることにより、その部材の質感を記録物の表面に転写させることも可能である。例えば、加熱した型を記録物のインク受容層に直接押し付けて、その型の質感をインク受容層に与えることができる。また、基材に、インク受容層と接する層であって、紫外線あるいは熱等によって硬化する樹脂から成る保護層と、転写材の搬送性を良好とするための搬送層と、を設け、搬送層を剥離した後に、所望の質感を持つ部材を保護層の表面に型押ししてもよい。
3次元画像は、種々の基材に対して形成可能である。基材は、剥離されないものあってもよく、剥離可能なものであってもよい。また、基材は一部が剥離可能なものであってもよく、あるいは、搬送層と、搬送以外の機能を持つ機能層と、を積層した多層構造であってもよい。記録物における3次元画像を保護するために、機能層を保護層としてもよい。また、3次元画像の意匠性および視認性をさらに向上させるために、光透過性が調整された金属薄膜などからなる半光透過性/半光反射性の光透過調整層と、接着性を高めるためのアンカー層と、を含む複数の層を機能層としてもよい。その他、公知の基材の中から目的に応じたものを選択して、3次元画像を形成することができる。
凹凸状の3次元画像は、様々な機能を発現させるために、基材とインク受容層との境界面に設けられる。すなわち、転写後に基材が剥離される転写材、基材が剥離されない転写材、基材の一部が剥離される転写材のいずれの場合にも、少なくとも、インク受容層と接する基材の表面に凹凸状の3次元画像が設けられる。例えば、基材が剥離されない転写材、基材が剥離される転写材の場合は、図1のように、3次元画像1300は、インク受容層53と接する基材50の表面に設ければよい。また、図9(a),(b)のように、基材50の搬送層1309の両面にヒートシール層1200が設けられ、かつ搬送層1309が剥離されない転写材1の場合、3次元画像1300は、インク受容層53と接するヒートシール層1200の表面に設ければよい。また、図8(a),(b)のように、基材50が搬送層1309と保護層(機能層)52から成り、かつ搬送層1309のみが剥離される転写材1の場合、3次元画像1300は、インク受容層53と接する保護層52の表面に設ければよい。また、基材が搬送層、光透過調整層、およびアンカー層から成り、搬送層のみが剥離される転写材の場合、3次元画像は、インク受容層と接する保護層の表面に設ければよい。要は、基材上にインク受容層を積層したときに、そのインク受容層上に3次元画像の凹凸部が形成されるように、基材に3次元画像を設ければよい。
[2−1]3次元画像の凹凸形状
3次元画像の凹凸形状は、用途に応じて選択すればよい。例えば、図13および図14のように、インク受容層53の3次元画像1300は、その凸部が三角錐、四角錐、円錐、円柱、立方体など多面体形状および半球状であってもよい。また、その凹部が三角錐、四角錐、円錐、円柱、立方体など多面体形状および半球状であってもよい。3次元画像は、このような凹凸部が1種類含むものであってもよく、それらを複数種組み合わせたものであってもよい。
顔料インクによって、3次元画像を有するインク受容層に画像を記録した場合、その画像の耐擦過性を向上させるために、3次元画像の凹部は、顔料の全てを収容できる大きさとすることが好ましい。また、その凹部に顔料粒子を収納しやすくするために、3次元画像の凸部が傾斜を持つことが好ましい。このように、インクの吸収速度の速いインク受容層の3次元画像の凸部に傾斜を持たせることにより、その凸部に付与されたインクを凹部に素早く流れ込ませて、その凹部にインクの大部分を収納することができる。この結果、図15のように、3次元画像1300の凹凸部に位置するインク1008の顔料粒子1310は、外部の擦過物1305と接触しにくくなり、画像の耐擦過性が向上する。また、このようにある程度の傾斜を有する凹凸部により、インク受容層53のべた付きを抑えることもできる。一方、図16のように、3次元画像1300の凸部が傾斜を持たず、その上面が平面であった場合には、その凸部の上面に顔料粒子1310が残りやすくなり、耐擦過性が低下するおそれがある。インク受容層の材料および擦過の条件によっては、擦過によってインク受容層自体が削られやすい場合がある。このような場合には、インク受容層の強度および擦過の条件などを考慮して、3次元画像の凹凸部の形状を設定すればよく、例えば、その凸部に傾斜を持たせた形状、もしくは、その凸部の上面を平面とする形状を選択することができる。
[2−2]3次元画像の凸部の幅
ここでは、3次元画像の凸部の幅は、図1のように、基材50側の3次元画像における凸部(基材側の凸部)1312の一方の基点から他方の基点までの長さ(幅)1301(1)である。この凸部1312は、図13および図14のように、インク受容層53側の3次元画像における凹部(インク受容層側の凹部)の幅に対応する。このような凸部の幅は特に限定されず、3次元画像によって表現される画像に応じて選択すればよく、その画像が視認しやすくなるように設定する。例えば、肉眼によって視認可能な凸部の幅はおよそ10μm程度であるため、その幅を10μm以上とすることにより、3次元画像の視認性を向上させることができる。
さらに、顔料インクによって記録した画像の耐擦過性を向上させるためには、画像を形成する顔料粒子に対して、外部の擦過物が触れにくくなるように、3次元画像の凹凸の幅を設定することが好ましい。すなわち、インク受容層側の凹部内に顔料粒子が入り込むことができるように、基材側の凸部の幅は、顔料粒子の平均粒子径よりも大きくすることが好ましい。インクジェット記録方式において吐出可能な顔料インクの平均粒子径は100nm程度以上であるため、凸部の幅を500nm以上とすることにより、インク受容層側の凹部内に顔料粒子を収納して、耐擦過性を向上させることができる。より好ましくは、凸部の幅を10μm以上とすることにより、インク受容層側の凹部内に顔料粒子を十分に収納して、耐擦過性をより向上させることができる。
凸部の幅が500nmよりも小さい場合には、顔料粒子がインク受容層側の凹部内に入り込みにくくなり、インク受容層の表面に顔料粒子が残って、耐擦過性が低下するおそれがある。一方、凸部の幅が大き過ぎる場合には、顔料粒子がインク受容層側の凹部内において保護されたとしても、その凹部内に擦過物が入り込んで顔料粒子と接触し、その顔料粒子が削り取られやすくなる。したがって、顔料インクによる記録画像の耐擦過性を向上させるためには、図15のように、擦過物1305が顔料粒子と接触しにくくなるように、凸部の幅を設定することが必要となる。
本発明者らの検討の結果、一般的なプラスチックなどの材料によって形成されていて、比較的硬くて変形しにくい平坦な擦過物を想定した場合、凸部の幅は100μm以下が好ましい。また、指など比較的柔軟な表面の擦過物を想定した場合、その擦過物の表面が変形して凹部内に進入しやすくなるため、凸部の幅は50μm以下が好ましい。
このように、基材側の凸部の幅は、好ましくは500nm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上50μm以下とすることにより、顔料インクによる記録画像の耐擦過性を向上させることができる。また、凸部の幅を10μm以上とすることにより、3次元画像の視認性を向上させることができる。好ましい凸部の幅は、3次元画像の視認方法、色材の種類、顔料粒子の平均粒子径や粘度、擦過物の材質、形状、表面粗さおよび柔軟性などによって異なるため、それらを考慮して、適宜設定すればよい。凸部の幅は、顕微鏡を用いて確認することができる。
[2−3]3次元画像の凹部の幅
ここで、基材側の3次元画像の凹部の幅は、図1のように、凹部1313の一方の基点から他方の基点までの長さ(幅)1301(2)である。この凹部1313は、図13および図14のように、インク受容層53側の3次元画像における凸部の幅に対応する。このような凹部の幅は特に限定されず、3次元画像によって表現される画像に応じて選択すればよく、その画像が視認しやすくなるように設定する。凹部の幅は、好ましくは500nm以上100μm以下である。
例えば、肉眼によって視認可能な凹部の幅はおよそ10μm程度であるため、さらに好ましくは、その幅を10μm以上50μm以下とすることにより、3次元画像の視認性を向上させることができる。
このような基材側の凹部の幅は、インク受容層側の凸部が擦過時に破壊されないように設定することが好ましい。基材が剥離される転写材を用いた場合には、基材上の凹凸状の3次元画像が反転してインク受容層に転写されるため、転写材における基材側の凹部は、インク受容層側の凸部となる。基材側の凹部の幅が小さい場合には、インク受容層側の凸部の幅が小さくなり、その凸部の強度が低下する。そのため、インク受容層の表面に記録された画像の擦過時に、その凸部が折れて顔料粒子を保護することができなくなり、耐擦過性が低下するおそれがある。インク受容層側の凸部の幅が大き過ぎると、その凸部上に顔料粒子が残りやすくなって、耐擦過性が低下するおそれがある。また、インク受容層側の凹部の幅は、その内部に顔料粒子が入りやすい大きさに設定することが好ましい。
また、インク受容層側の凹部の幅は、例えば、インクジェット記録方式において想定される記録画素の一辺の長さよりも小さくする。これにより、着弾したインクの少なくとも一部は、必ずインク受容層側の凹部内に収納されて、耐擦過性が向上する。要は、基材側の凹部の幅は、記録物の用途および要求される耐擦過性に応じて設定すればよい。インク受容層側の凸部の強度を高めるためには、その凸部を山状に傾斜させるように、基材側の凹部に谷状の傾斜を持たせることが好ましい。
[2−4]3次元画像の凹凸部の高さ
3次元画像の凹凸部の高さ(凹部の最深部から凸部の頂点までの高さ)は、図1のように、その凹部の最深部から凸部の頂点までの長さ1302である(図13および図14参照)。凹凸部の高さ1302は特に限定されず、3次元画像によって表現される画像に応じて選択すればよく、その画像が視認しやすくなるように設定する。
3次元画像の凹凸部の高さは、インク受容層側の凹部内に顔料インクが完全に納まるように、顔料インクの平均粒子径よりも大きくすることが好ましい。これにより、顔料インクが3次元画像の凹凸部からはみ出すことなく収納され、インク受容層側の凸部により顔料粒子を保護して、耐擦過性を向上させることができる。具体的には、インクジェット記録方式において吐出可能な顔料インクの平均粒径を100nm程度と想定した場合、凹凸部の高さは、好ましくは500nm以上、より好ましくは1μm以上である。3次元画像の凹凸部の高さが500nmより小さくて、顔料粒子の平均粒子径よりも小さい場合には、顔料粒子が凹凸部からはみ出して、擦過性が低下するおそれがある場合がある。
[2−5]インク受容層の厚みと、3次元画像の凹凸部の高さと、の関係
図1のように、インク受容層53の厚み1303は、3次元画像1300の凹凸部の高さ1302よりも大きくすることが好ましい。これにより、インク受容層53の表面が平坦となり、接着層1012の接着剤1002は、3次元画像1300の凹凸部の影響を受けることなく、インク受容層53の表面に離散的に設けることができる。したがって、そのインク受容層53に画像(第1の画像)を記録する場合には、インク吸収速度の速いインク受容層の露出部の表面にインクが吸収されるため、画像の滲みなどが生じにくい。
仮に、図17のように、3次元画像の凹凸部の高さ1302がインク受容層53の厚さ1303よりも大きい場合には、インク受容層53の表面に、3次元画像1300の凹凸形状が現れる。このようなインク受容層53の表面に、接着剤1002を離散的に設けた場合には、3次元画像1300の凹部に多くの接着剤1002が分布することになる。そのため、接着層1012の厚さのバラツキが大きくなり、3次元画像1300の凹部に対応する接着層1012の部分が厚くなる。接着剤はインクの吸収速度が遅いため、それが厚く存在する部分に着弾したインクは、インク受容層まで到達しにくくなる。したがって、3次元画像1300の凸部と凹部に対応する部分において、インクの吸収性にムラが生じ、画像が滲みやすくなる等、記録特性の低下を招くおそれがある。
また、3次元画像の凹凸部の高さは、転写材の記録特性を向上させるように設定することが好ましい。3次元画像の高さが大き過ぎた場合、インク受容層に厚みが異なる部分が生じて、それらの部分の厚みの差が大きくなる。このようなインク受容層に画像を記録した場合に、インク受容層の厚みが厚い部分と薄い部分との間におけるインクの吸収容量に、大きな差が生じる。インク受容層の薄い部分ではインクの吸収容量が小さくなり、この薄い部分で吸収しきれなかったインクは、インク受容層の厚い部分に流れて吸収される。そのため、インク受容層の薄い部分で画像の滲みが生じ、またインク受容層の厚い部分と薄い部分との間において画像に濃度ムラが生じて、記録特性が低下するおそれがある。具体的に、インク受容層の厚さを15μmと想定した場合、3次元画像の凹凸部の高さは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下程度である。このような範囲に凹凸部の高さを設定することにより、インク受容層における吸収容量のバラつきを抑えて、記録特性を向上させることができる。要は、転写材の記録特性が維持できるように、インク受容層の厚み等に応じて、3次元画像の凹凸部の高さを制御すればよい。
また、3次元画像の凹凸部の高さは、転写材の搬送性、耐カール性能、および記録物のカール性能を損なわないように選択することが好ましい。一般的なPETフィルムの基材を想定した場合、凹凸部の高さは基材の厚みの約半分以下、より好ましくは、基材の厚みの3分の1以下である。具体的に、基材の厚さを19μmとした場合、凹凸部の高さは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下程度である。凹凸部の高さを基材の厚みの半分以下とすることにより、基材の強度を維持して、基材の本来の役割である搬送性および耐カール性を損なうことなく、基材に3次元画像を付与することができる。
3次元画像の凹凸部の高さが基材の厚みの半分より大きい場合には、その凹凸部によって、基材のコシおよび強度が低下して、転写材の搬送性および耐カール性などが損なわれるそれがある。また、3次元画像凹部が深過ぎる場合には、インク受容層の塗工時に欠陥が生じるおそれがある。ただし、凹凸部の高さが基材の半分以上であっても、基材の厚みを大きくすること、および、基材の材質を硬いものに変更することにより、搬送性を確保できる場合がある。要は、転写材の搬送性が維持できるように、凹凸部の高さを調整すればよい。
このように3次元画像の凹凸部の高さは、インク受容層の厚み以下が好ましく、基材の厚さを19μmと想定した場合、好ましくは500nm以上10μm以下、より好ましくは1μm以上5μm以下である。このように凹凸部の高さを設定することにより、画像の記録時に、インクの部分的なにじみによる画像乱れの発生を抑えて、転写材の搬送性を良好にし、かつ顔料インクによる記録画像の耐擦過性を向上させることができる。3次元画像の凹凸部の高さは、3次元画像の視認方法、色材の種類、インクの顔料粒子の平均粒子径や粘度、および擦過物の材質、形状、表面粗さや柔軟性などに応じて、適宜設定することができる。3次元画像の凹凸部の高さは、例えば、ISO 25178に記載の方法により、凹凸部の算術平均高さSaを測定することによって求めることができる。
[2−6]その他の構成
外部に露出する3次元画像を有するインク受容層と、それに接する空気層と、の光学的屈折率の差が、インク受容層と基材との光学的屈折率の差よりも大きい場合には、3次元画像の視認性がさらに向上する。また、3次元画像の意匠性および視認性のさらなる向上させるために、図19のように、基材50における凸凹状の3次元画像1300上に、半光透過性および/または半光反射性の光透過調整層1315を設けてもよい。この場合には、搬送層1309を含む基材50の光透過調整層1315上に、アンカー層1316を介して、インク受容層53と接着層1012を設ければよい。ただし、このような転写材を画像支持体に転写した後に、基材50の3次元画像1300に対応するインク受容層53の凹凸状の表面に画像を追記する場合には、インク受容層53の表面の空隙が光透過調整層1315およびアンカー層1316などによって塞がれないようにする。そのため、各々の層の膜強度、膜厚、および接着強度をバランス良く調整するとともに、転写時における加熱加圧の条件を微細に調整する。
3次元画像には、セキュリティー性および意匠性の向上を目的として、公知の各種レンズ効果およびホログラム効果等を利用することができる。これらの効果を利用することのより、インク受容層をホログラム層とすることもできる。ホログラムとしては、例えば、平面型ホログラムまたは体積型ホログラムのいずれであってもよく、平面型ホログラムとしては、量産性およびコストの面からレリーフホログラムが好ましい。
ホログラムとしては、その他、フレネルホログラム、フラウンホーファーホログラム、レンズレスフーリエ変換ホログラム、イメージホログラム等のレーザー再生ホログラム、および、レインボーホログラム等の白色光再生ホログラムを用いることができる。さらに、それらの原理を利用したカラーホログラム、コンピュータホログラム、ホログラムディスプレイ、マルチプレックスホログラム、ホログラフィックステレオグラム、およびホログラフィック回折格子等を用いることができる。
[3]基材
[3−1]基材の機能
基材50は、図1のように、インク受容層53と接着層1012との支持体となるシート体である。この基材50は、接着(転写)前の転写材1に対する画像の記録時、および転写材1と記録材1との接着時に、転写材1のカールを抑制して、転写材1の搬送性を良好にするための搬送層として機能する。インク受容層53と接する基材50の面に、凸凹状の3次元画像1300を設けてもよい。その基材の3次元画像を空隙吸収型のインク受容層によって覆うことにより、3次元画像の視認性を向上させて、ホログラム層としての機能させることができる。その3次元画像の視認性をさらに向上させるために、ホログラム層に金属製の薄膜を形成してから、インク受容層を設けてもよい。また、転写材を画像支持体に接着(転写)した後に、基材を剥離する場合には、基材上の3次元画像が反転してインク受容層に転写されるため、基材は、インク受容層に対しての3次元画像の版盤として機能する。基材の剥離により露出されたインク受容層の3次元画像の表面に、さらに、インクジェット方式などにより画像(第2の画像)を追加(追記)することもできる。
基材は、他の機能も有していてもよい。例えば、転写材に画像を記録してから、その転写材を接着(転写)処理して記録物を製造した後、(1)基材の搬送層を剥離しないで記録物上に残すことにより、基材は、記録部における記録画像の保護層として機能する。また、転写材の接着処理後に、(2)搬送層を含む基材の全てを剥離することにより、基材は、セパレーターとして機能する。また、(3)基材が保護層あるいは予備記録層等の機能層を含む場合に、転写材の接着処理後に、搬送層のみを剥離する(基材の一部を剥離)することにより、基材は、搬送層(基材の一部)がセパレーターとして機能し、他の部分が記録画像の保護層あるいはセキュリティー層として機能する。このように、基材の搬送層は剥離してもよく、剥離しなくてもよく、転写材および記録物の用途に応じて、「基材の搬送層を剥離しない場合」と「基材の搬送層を剥離する場合」とを選択することができる。以下においては、「基材の搬送層を剥離する場合」を「基材の全てあるいは一部を剥離」と記述する場合がある。
基材の搬送層が剥離される場合、搬送層は、剥離機能を良好にするために離型層を含んでいてもよい。離型層は、離型剤を含有する組成物からなる層であり、搬送層に設けられる。離型層を備えることによって、搬送層を容易に剥離することができる。基板に離型層を設け、さらに基材を3次元画像の版番として機能させる場合には、離型層が凹凸状の3次元画像の凹部を埋めないように、離型層を薄く形成する。このように離型層の厚みを制御することにより、基材の3次元画像をインク受容層に転写させることができる。離型層が厚過ぎた場合には、基材の3次元画像が離型層によって埋められて平坦となり、その3次元画像が視認されづらくなると共に、3次元画像がインク受容層に転写されなくなるおそれがある。離型層の厚みは、基材の3次元画像がインク受容層に形成されるように、転写材の接着条件等を考慮して設定すればよい。
[3−2]基材の搬送層が剥離されない場合
基材の搬送層が剥離されない転写材を用いて製造される、記録物について説明する。以下の[3−2]から[3−3−5]における基材は、その面に凸凹状の3次元画像が設けられ、その3次元画像をインク受容層に転写させる3次元画像の版番として機能する。
[3−2−1]基材が剥離されない転写材を用いて製造される記録物
基材の搬送層が剥離されない転写材は、図4(a)のように、凸凹状の3次元画像が設けられた基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。図1の転写材1と同様に、インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着剤1002のない露出部1001と、が形成される。図4(a)の転写材1は、インク受容層53と透明な基材50との光学的屈折率の差によって、その間に位置する3次元画像が視認可能である。用途に応じた転写材を選定して使用できるように、転写材1に画像が記録される前に、3次元画像から転写材を判別することにより、ホログラム像の誤用などの不都合を回避することができる。
記録物を製造する際には、まず図4(b)のように、記録ヘッド600により転写材1の記録面にインクを付与して、第1の画像72を記録する。このとき、前述したように、インクの一部が、接着部1000の相互間の空間を通過してインク受容層53の露出部1001に接することにより、インクは、接着部1000内を通ることなく、インク受容層53に引き込まれるように吸収される。次に、図4(c)のように、離散的に配された接着剤1002によって、インク受容層53を画像支持体55に接着(転写)させることにより、図4(d)のような記録物を得る。
この記録物は、画像支持体55上に、接着層1012、インク受容層53、および3次元画像が設けられた基材50が順次積層された構造となる。基材上に設けた3次元画像の凸凹部は、光学的屈折率が異なるインク受容層によって覆われることにより、その視認性が向上する。基材とインク受容層が記録画像の保護層として機能し、これにより、記録画像の耐候性を向上させることができる。画像支持体に通気性がなく、インク受容層を覆っている基材の水分透過性が低い場合には、画像記録時のインクの残留水分、および記録物の保存時の吸湿により、記録画像の色材が再拡散して画像にじみを生じるおそれがある。そのため、特に、染料インクを用いて接着層側からインクジェット方式により画像を記録する場合には、インク受容層を覆う基材は、ある程度の水分透過性を有する材料によって構成することが好ましい。
基材50または画像支持体55の少なくとも一方が透明である場合、記録画像72は、透明な基材50側あるいは画像支持体55側から視認可能である。基材の搬送層が剥離されない転写材は、建材および壁紙等に用いられる記録物を製造するために好ましく使用できる。また、透明な基材側から画像を視認する場合には、その画像として反転画像を記録し、一方、画像支持体側から画像を視認する場合には、その画像として正像画像を記録する。同様に、透明な基材側から3次元画像を視認する場合には、基材上に3次元画像の反転画像を形成し、一方、画像支持体側から3次元画像を視認する場合には、基材上に3次元画像の正像画像を形成する。3次元画像は、基材の表面の凹凸部と、基材とインク受容層との光学的屈折率の差と、によって視認される。したがって、転写後に基材が剥離されない場合、3次元画像の視認性を向上させるためには、基材の光学的屈折率とインク受容層の光学的屈折率との差を十分に大きくさせることが重要である。
[3−2−2]基材の搬送層が剥離されない自己溶融型の転写材を用いて製造される記録物
基材の搬送層が剥離されない自己溶融型の転写材は、図2(a)のように構成される。すなわち、凸凹状の3次元画像が設けられた基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の自己溶融型の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。図1の転写材1と同様に、インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着剤1002のない露出部1001と、が形成される。
記録物を製造する際には、図2(a)のように、転写材1の記録面にインク1003を付与して画像を記録した後、図2(b)のように、離散的に配された接着剤1002を自己溶融させて、隣接する接着剤1002同士を接着させる。このように、画像記録後のインク受容層53の表面に、接着剤1002の皮膜を形成することにより、記録物が製造される。このような自己溶融型の転写材は、サインディスプレイ用プレート、およびポスターなどの用途の記録物の製造に、好ましく使用することができる。
このように、インク受容層の表面に離散的に設けられた自己溶融型の接着剤は、画像の記録後に加熱処理されることにより自己溶融して、隣接する接着剤同士が接着する。これにより、インク受容層の表面が接着剤の皮膜によって被覆される。接着剤は、強固な皮膜を形成して、画像の保護膜として機能する。特に、インクが顔料インクの場合には、図2(a)のように色材の顔料がインク受容層の露出部の表面に残りやすく、それがインク受容層内に浸透しにくい場合がある。この場合、インク受容層と、その表面上の顔料インクと、の接着性が弱いため、顔料インクは、擦過等によりインク受容層の表面から剥がれ落ちやすい。しかし、図2(b)のように、自己溶融型の接着剤を用いて熱処理することにより、溶融した接着剤は、インク受容層の露出部の表面に残留する顔料インクの色材を被覆して、顔料インクの保護膜として機能する。
透明な基材側から画像を視認する場合には、その画像として反転画像を記録し、一方、画像支持体側から画像を視認する場合には、その画像として正像画像を記録する。同様に、透明な基材側から3次元画像を視認する場合には、基材上に3次元画像の反転画像を形成し、一方、画像支持体側から3次元画像を視認する場合には、基材上に3次元画像の正像画像を形成する。転写後に基材が剥離されない自己溶融型の転写材の場合、3次元画像の視認性を向上させるためには、基材の光学的屈折率とインク受容層の光学的屈折率との差を十分に大きくさせることが重要である。
[3−2−3]基材の両面にヒートシール層を備えた転写材を用いて製造される記録物
図3(a)は、剥離されない基材50の両面に、ヒートシール層1200(1)、1200(2)を備えた転写材の断面図である。不図示の凸凹状の3次元画像が設けられた基材50には、インク受容層53側の面とは反対側の面(図3(a)中の下面)に、接着性に優れたヒートシール層1200(1)が備えられている。基材50とインク受容層53との間のヒートシール層1200(2)は、必ずしも備える必要はない。このヒートシール層1200(2)を設ける場合には、図9(a),(b)のように、ヒートシール層1200(2)上に3次元画像を設けることが好ましい。
転写材は、このような3次元画像が設けられた基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の自己溶融型の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。図1の転写材1と同様に、インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着剤1002のない露出部1001と、が形成される。このような転写材の記録面にインクを付与して画像を記録することにより、記録物が製造される。
このような記録物に対しては、例えば、転写材を折り返すことにより、インク受容層53の表面に離散的に配された接着剤を介して、他の層、あるいは他の転写材および記録物などの部材を接着することができる。例えば、図3(b)のように、インク受容層53にヒートシール層1200(1)が接着可能、あるいは図3(c)にように、インク受容層53に他のインク受容層53が接着可能である。もしくは、図3(d)のように、ヒートシール層1200(1)に他のヒートシール層1200(1)が接着可能である。
このような転写材および記録物は、箱体などを包装する包装材などの用途において好ましく使用することができる。包装材として使用する場合、基材は、記録画像の保護層としての機能に加え、包装体によって包装される箱体の保護層としても機能する。基材50とインク受容層53との間に、ヒートシール層1200(2)を備えてもよい。その場合には、図9(a)のように、基材50の搬送層1309に厚く設けたヒートシール層1200(2)の上に、凹凸状の3次元画像を設けることが好ましい。図9(b)のように、搬送層1309の3次元画像の上に設けたヒートシール層1200(2)によって、3次元画像の凹部が埋められた場合には、3次元画像の機能が損なわれるおそれがある。したがって、3次元画像の上にヒートシール層1200(2)を設ける場合には、3次元画像の凹部を埋めないように、ヒートシール層1200(2)を薄く形成すればよい。要は、基材の3次元画像の凹凸形状がインク受容層にも形成されるように、接着条件等を考慮して、ヒートシール層1200(2)の厚さを設定すればよい。
ヒートシール層1200(2)側から画像を視認する場合には、基材上に3次元画像の反転画像を形成し、一方、インク受容層側から画像を視認する場合には、基材上に3次元画像の正転画像を形成する。基材の両面にヒートシール層を備えた転写材の場合は、基材の表面に設けられたヒートシール層とインク受容層との光学的屈折率の差によって、3次元画像が視認される。
[3−3]基材の搬送層を剥離する場合
搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材と、この転写材を用いて作成した記録物と、について説明する。
[3−3−1]画像が記録されたインク受容層を画像支持体上に積層した記録物
搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材は、図4(a)のように、凸凹状の3次元画像が設けられた基材50上に空隙吸収型のインク受容層53を設け、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002を離散的に設けることにより構成される。インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着剤のない露出部1001と、が形成される。
記録物を作成する際には、まず、図4(b)のように、インクジェット記録ヘッド600から吐出されるインクによって、転写材の記録面に反転画像72を記録することができる。その際、インクの一部が、接着部1000の相互間の空間を通過してインク受容層53の露出部1001に接することにより、インクは、インク受容層53に引き込まれるように吸収される。次に、図4(c)のように、離散的に配された接着剤1002によって、転写材1を画像支持体55に接着(転写)させる。その後、図4(e)のように、搬送層(本例の場合は、基材50の全部)を剥離することにより、図4(f)のような記録物を得る。このとき、基材50に設けられた3次元画像は、インク受容層53に転写される。外部に露出する3次元画像を有するインク受容層と、それに接する空気層と、の光学的屈折率の差を、インク受容層と基材との光学的屈折率の差よりも大きくすることにより、3次元画像の視認性がさらに向上する。このように、搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材は、IDカード、社員証、マイナンバー、パスポート等の公的文書の通知等の記録物の用途において好ましく使用することができる。
このようにして作製した記録物は、図4(f)のように最表層がインク受容層53となるため、この記録物の表面に画像(第2の画像)を記録(追記)することができる。前述したように、空隙吸収型のインク受容層は、転写後において空隙が維持されている。したがって、図4(b)のように記録材に、セキュリティー性の高い文字情報等を含む反転画像(第1の画像)72を記録して、図4(f)のような記録物を作成した後、必要に応じて、その記録物の表面に正像画像(第2の画像)72を追記することができる。第2の画像の追記は、図4(g)のように記録ヘッド600を用いたインクジェット記録、あるいは加筆や捺印等により行うことができる。
基材の3次元画像が転写されたインク受容層の表面に、第2の画像を追記した場合、インク受容層の凹部内に位置するインクの色材は擦れ難くなり、第2の画像の耐擦過性が向上する。このように第2の画像の耐擦過性が向上するため、色材自体の耐候性が高い顔料インクを用いて、第2の画像を記録することが好ましい。前述したように、インク受容層に転写された3次元画像の意匠性および視認性のさらなる向上させるためには、図19のように、基材50の3次元画像1300に、半光透過性および/または半光反射性の光透過調整層1315と、アンカー層1316と、を設けてもよい。
[3−3−2]多層記録物(マルチレイヤー)
記録物として、画像支持体上にインク受容層を多層形成した多層記録物を作製することもできる。
すなわち、図5(a)のように図1と同様の転写体を用意し、図5(b)のように、この転写材に記録ヘッド600から吐出されるインクによって反転画像72を記録する。次に、このように反転画像72が記録された転写材を、その転写材に離散的に配された接着剤1002よって、前述した図4(h)の記録物に接着(転写)させる(図5(b),(c))。その接着性を高めるためには、前者の転写材における接着層1002の厚さは、後者の記録物におけるインク受容層の3次元画像の凹凸部を吸収できるように、その凹凸部の厚み以上とすることが好ましい。
接着層1002には接着剤が離散的に設けられているため、その接着剤が存在する接着部1000においては、前者の転写材のインク受容層と、後者の記録物のインク受容層と、が接着剤を介して接着される。一方、接着剤が存在しない露出部1001においては、前者の転写材のインク受容層と、後者の記録物のインク受容層と、が直接積層される。光学的屈折率が同じのインク受容層同士が重なった場合、3次元画像は視認できなくなるため、後者の記録物側の3次元画像(図5(c)中の下層側の3次元画像)は、グレーアウトされたような状態となる。さらに接着剤の量を減らすことにより、下層側の3次元画像をほぼ見えない状態とすることもできる。下層側の3次元画像をほぼ見えない状態とするように、新たな3次元画像(図5(c)中の上層側の3次元画像)を有する転写材を転写することにより、3次元画像の追記も可能である。
一方、転写時に接着剤が溶融して一様な層を形成するように、接着剤の量を増やすことにより、接着層とインク受容層の光学的屈折率の差によって、下層側の3次元画像の視認性を維持することもできる。転写時の圧力によって、3次元画像の凹凸部が潰れないように構成することにより、全ての層の3次元画像を視認可能とすることもできる。用途に応じて接着剤の量を調整することにより、下層側の3次元画像の視認性を調整することができる。前述したように、図4(h)の記録物は、第1の画像が記録された転写材が画像支持体に転写され、さらに、その転写材の表面のインク受容層に、必要に応じて第2の画像が追記されている。
このように転写材を記録物に転写させた後、図5(d)のように、搬送層(本例の場合は、基材50の全部)を剥離することにより、画像支持体55上に、インク受容層53が多層に形成された多層記録物を作製することができる。この記録物の表面側のインク受容層53には、基材50に設けられた3次元画像が転写される。このように外部に露出する3次元画像を有するインク受容層53と、それに接する空気層と、の光学的屈折率の差を、インク受容層53と基材50との光学的屈折率の差よりも大きくすることにより、3次元画像の視認性がさらに向上する。このような転写材の転写を繰り返すことにより、画像支持体上にインク受容層を何度でも形成することができる。すなわち、画像支持体上にインク受容層を多層に形成することができる。
基材上に空隙吸収型のインク受容層のみが設けられ、そのインク受容層の表面には接着層が設けられていない転写材を用いた場合には、その転写材と、その転写材と同様のものが画像支持体上に転写された記録物と、を積層することは難しい。つまり、前者の転写材のインク受容層と、後者の記録物のインク受容層と、を積層して、多層構造とすることは難しい。一般的なインク受容層は、無機微粒子を9割程度含み、さらに、その無機微粒子を結着するためのバインダーとして機能する水溶性樹脂を1割程度含む。このように、水溶性樹脂の量を無機微粒子よりも大幅に少なくすることにより、インク受容層に多くの空隙を形成して、十分なインク吸収性を確保している。このような空隙吸収型のインク受容層の表面には、それ自体に接着性のない無機粒子によって、無数の凹凸部が形成される。このように、転写材側のインク受容層と、記録物側のインク受容層と、のそれぞれには無数の凹凸部が形成される。これらのインク受容層同士を接着させるためには、それらを密着させて加熱圧着する際に、それぞれのインク受容層のバインダーである樹脂成分同士が、共にTg(溶解温度)を超えて溶融・流動した状態で接着する必要がある。
しかしながら、このような記録物側および転写材側のインク受容層においては、溶融流動する水溶性樹脂の量が少ないため、それらのインク受容層の表面の凹凸部により生ずる接着面間の空間を、水溶性樹脂成分によって十分に充たすことは難しい。そのため、良好な接着性が得られなくなるおそれがある。水溶性樹脂の量を増やして接着性を向上させた場合には、無機微粒子の間の空隙が埋まりやすくなり、インク受容層のインクの吸収性が低下して、良好な画像の記録特性を得ることが難しくなる。
さらに、基材上に空隙吸収型のインク受容層のみが設けられ、そのインク受容層の表面には接着層が設けられていない転写材を用いて、多層の記録物を製造した場合には、下層側の3次元画像の視認性が低下する。すなわち、屈折率が同じインク受容層同士が積層されるため、下層側の3次元画像の視認性が低下する。本発明の転写材は、前述のように、接着剤の量を調整することにより、下層側の3次元画像の視認性を調整することができる。すなわち、下層側の3次元画像をグレーアウトされた状態、ほぼ視認不可能な状態、あるいは、視認性を維持した状態とすることが可能である。
本実施形態の転写材を用いることにより、離散的に設けられた接着剤が加熱圧着により容易に溶解して、記録物側および転写材側のインク受容層の間に生ずる空間を埋めることができる。この結果、上述したように、空隙吸収型のインク受容層同士を接着させて、画像支持体上に、インク受容層を多層に形成した多層記録物を作製することができる。
このようにインク受容層が多層に形成され記録物は、その表面がインク受容層となるため、図5(e),(f)のように、記録ヘッド600などを用いて第2の画像(正像)72を追記することができる。この場合、記録物の表面のインク受容層が凹凸状の3次元画像を有するため、加筆、捺印、あるいは熱転写などの接触方式の記録方法では、第2の画像を適確に記録することが難しい場合があり、非接触方式のインクジェット記録方法を用いることが好ましい。なお、接触方式によって第2の画像を良好に追記したい場合には、後述するように基材の一部が剥離される転写材を用いることが有効である。すなわち、基材の一部を剥離して、残った基材の他の部としての機能層の表面を平坦とすることにより、接触方式によっても第2の画像を良好に追記することができる。
[3−3−3]一部が剥離される転写材を用いた記録物
基材の搬送層(基材の一部)のみが剥離される転写材を用いて製造される記録物として、クレジットカード等の各種セキュリティーカード、およびパスポート等においては、より高い耐久性およびセキュリティー性が要求される。このような記録物の場合においては、基材に、保護層、予め画像が記録された記録層、および機能層(光透過調整層およびアンカー層など)の単層あるいは複層を設けてもよい。この場合、3次元画像は、保護層、予め画像が記録された記録層、および機能層の表面に構成することが好ましい。例えば、図9(a),(b)のように、機能層としてヒートシール層1200(1),(2)を設けてもよい。図9(b)のように、基材50に機能層(ヒートシール層1200(2))を厚く設けて、その表面を平坦にすることにより、転写材の転写後に、熱転写等の接触方式によっても第2の画像を追記することができる。
図6(a)の転写材における基材50は、3次元画像を有する搬送層1309と、3次元画像を有する機能層(保護層、ホログラム層、記録層など)52と、含む。機能層52の上に空隙吸収型のインク受容層53を設けられ、そのインク受容層53の表面に、接着層1012の接着剤1002が離散的に設けられている。図1の転写材1と同様に、インク受容層53の表面には、接着層1012の接着部1000が位置する部分と、接着剤1002のない露出部1001と、が形成される。機能層52は、例えば、保護層、または予め画像が記録された記録層などであり、インク受容層53と接する機能層52の面に3次元画像が形成されている。その3次元画像は、機能層52とインク受容層53との光学的屈折率の差によって視認される。
記録物の作製に際しては、まず、図6(b)のように、インクジェット記録ヘッド600から吐出されるインクによって、転写材の記録面に反転画像72を記録する。このとき、前述したように、インクの一部が、接着部1000の相互間の空間を通過してインク受容層53の露出部1001に接することにより、インクは、接着部1000内を通ることなく、インク受容層53に引き込まれるように吸収される。次に、図6(c)のように、接着剤1002によって、インク受容層53を画像支持体55に接着(転写)させてから、図6(d)のように、基材50の一部(搬送層)のみを剥離する。これにより、図6(e)のように、機能層(保護層または記録層などの)52が積層された記録物が作製される。このような記録物は、その最表層が保護層、ホログラム層、あるいは記録層などの機能層52であるため、高い耐久性およびセキュリティー性を得ることができる。
[3−3−3−1]保護層
転写材の基材は、画像の記録面の耐候性、耐摩擦性、および耐薬品性などの耐久性の向上、および3次元画像の保護のために、機能層としての保護層を含むことができる。保護層は、JIS K7375に準拠して測定される、全光線透過率が50%以上、好ましくは90%以上のシートに相当する。したがって、保護層には、無色透明の保護層の他、半透明の保護層、および着色された透明の保護層なども含まれる。
保護層の種類は特に限定されない。保護層としては、耐候性、耐摩擦性、および耐薬品性などの耐久性に優れ、インク受容層との相溶性が高い材質からなるシートおよびフィルムが好ましい。
[3−3−3−2]記録層
記録物のセキュリティー性を向上させるために、基材は、画像が記録された剥離されない記録層を含んでもよい。基材上に補助的な画像(プレプリント)を施すことにより、機能性の高い画像を予め基材に付与して、記録物のセキュリティー性をさらに向上させることができる。
[3−3−3−3]光透過調整層およびアンカー層
3次元画像の意匠性および視認性のさらに向上させるために、基材の凸凹状の3次元画像に、半光透過性および/または半光反射性の光透過調整層が含まれていてもよい。例えば、図19のように、基材50の搬送層1309における光透過調整層1315上に、光透過調整層1315およびアンカー層1316を設けることができる。アンカー層1316の上に、空隙吸収型のインク受容層53、および接着層を設け、必要に応じて、接着層を海島状に設けてもよい。このような転写材の接着(転写)後に、インク受容層の凹凸状の表面に画像を追記する場合には、前述したように、インク受容層の表面の空隙が光透過調整層およびアンカー層などによって塞がれないようにする。そのために、各々の層の膜強度、膜厚、および接着強度をバランス良く調整するとともに、転写時における加熱加圧の条件を微細に調整する。また、光透過調整層およびアンカー層によって基材の搬送層における3次元画像の凹凸部を埋められて、それらの光透過調整層およびアンカー層の表面が平坦にならないように、それらの光透過調整層およびアンカー層の厚みを設定する。要は、インク受容層にも凹凸部が形成されるように、光透過調整層およびアンカー層を設ければよい。
[4]材料
[4−1]空隙吸収型のインク受容層
インク受容層は、インクジェット記録方式などによって付与されるインクを受容する層である。本実施形態におけるインク受容層は空隙吸収型である。
さらに、空隙吸収型のインク受容層は、3次元画像の境界において隣接する層との光学的屈折率の差によって、その3次元画像の視認性を向上させることができる。隣接する層は、基材を剥離する前における搬送層、機能層、ヒートシール層などの基材の層であり、また基材を剥離した後における空気の層であり、また多層記録物の下層側の3次元画像を想定した場合には接着層である。記録物の3次元画像の視認性を向上させるためには、インク受容層の空隙を維持することが重要である。
一方、インク受容層として膨潤吸収型を用いた場合には、膨潤吸収型のインク受容層がインクを吸収することによりその部分のインク受容層が膨らむおそれがある。このような場合には、接着層の表面に凹凸部が生じて、接着性が低下するおそれがある。また、膨潤吸収型のインク受容層は、それを薄くしてもインクの吸収容量を大きくすることができるものの、分子間にインクを吸収して膨潤するために、インクの吸収速度が遅い。そのため、インクの一部がインク受容層に接したとしても、そのインクの一部が、それに連なるインクの他の部分をインク受容層内に引き込む力は弱い。接着層の表面にインクが残留して、接着不良を生じるおそれがある。
また、膨潤吸収型のインク受容層は吸収速度が遅いため、インク受容層にインクが吸収される速度より、インク受容層53の表面にインクが拡がる速度の方が速くなる。そのため、インクがインク受容層の表面に拡がり、結果として、画像中心がずれて、画像の乱れが生じやすくなる。
このような観点から、空隙吸収型のインク受容層を用いることが好ましい。また、3次元画像の境界において、インク受容層と隣接する層としては樹脂を主体とするものが多い。このような層と、同じく樹脂を主体とする膨潤吸収型のインク受容層と、を積層した場合には、それらの光学屈折率の差が小さくなり、3次元画像の視認性が低下するおそれがある。また、膨潤吸収型のインク受容層に3次元画像を形成して、3次元画像が位置するインク受容層の面に画像を記録した場合には、インクを吸収したインク受容層の部分が膨潤して、3次元画像の視認性が著しく低下するおそれがある。このように、3次元画像の視認性の観点からも空隙吸収型のインク受容層を用いることが好ましい。
空隙吸収型のインク受容層は、インクを吸収する空隙を有していればよい。例えば、珪藻土、スポンジ、マイクロファイバー、吸水性ポリマー、樹脂粒子と水溶性樹脂で構成されたもの、無機微粒子と水溶性樹脂から構成されたもの等が挙げられる。このような材料により構成されるインク受容層がインクを吸収する速度は、接着剤がインクを吸収する速度よりも速い。これにより、インク受容層の露出部にインクの一部が接触したときに、接着層の表面もしくは内部に存在するインクをインク受容層に速やかに引き込むことができる。インク受容層は、3次元画像の視認性を向上させるように、3次元画像の境界において隣接する層との光学的屈折率の差が大きくなるように設定する。
空隙吸収型のインク受容層は、無機微粒子と水溶性樹脂とを含有させて、インクを受容する微細な空隙構造とすることが好ましい。無機微粒子と水溶性樹脂とより構成される空隙吸収型のインク受容層は、水溶性樹脂により結合された無機微粒子間に、インクを吸収するための空隙を形成することにより、その空隙に多量のインクを吸収することができる。また、水溶性樹脂によって結着された無機微粒子間の空隙を、インク受容層内の全域にほぼ均一に配置することにより、インクをほぼ等方的に浸透させることができる。
また、無機微粒子と水溶性樹脂より構成される空隙吸収型のインク受容層は、インク受容層に吸収された多量のインクによって転写材の接着(転写)が阻害されないように、インク受容層の構造が制御しやすい。転写材の接着(転写)時に、インク受容層の空隙構造が壊れた場合には、インクの液体成分がインク受容層の表面に染み出して膜化したり、インクの液体成分が突沸して、インク受容層と画像支持体との間の接着面に空気層などを生じたりするおそれがある。このような場合には、転写材の接着が阻害される。しかし、無機微粒子と水溶性樹脂とより構成される空隙吸収型のインク受容層は、転写時にインク受容層の空隙構造がほぼ崩れないように、その空隙構造を制御しやすい。
水溶性樹脂のバインダーによって無機微粒子を結合させることにより空隙が設けられたインク受容層は、無機微粒子が非常に硬い材質であるため、圧力および熱によっても空隙構造が壊れにくく、転写材の接着後も空隙構造をほぼ保持することができる。また、このようなインク受容層は、接着剤およびバインダーが溶融しても、吸収したインクをその内部に保持することができ、また蒸気が発生してもその内部に封じ込めることができるため、接着性が良好となる。加熱圧着時の熱によっても空隙構造を維持することにより、インクの液体成分が個々の空隙内で突沸して蒸気を発生したとしても、インク受容層と画像支持体との間の接着面に空気層などが形成されないように、蒸気を各々の空隙内に封じ込めることができる。これにより、接着性を良好とすることができる。また、加熱圧着時の圧力によっても空隙構造がほぼ維持されることにより、インクの液体成分である水などの主要溶媒および不揮発性溶剤を表面に染み出させることなく、接着性を良好とすることができる。また、無機微粒子と水溶性樹脂より構成される空隙吸収型のインク受容層は、特別な配向処理をしなくても作製できるため、生産性も良好である。
また、3次元画像の視認性の観点からも、一般的な樹脂との光学的屈折率の差が大きい無機微粒子を主体とする、空隙吸収型のインク受容層が好ましい。もちろん、その視認性を向上させることができれば、樹脂を主体とする空隙吸収型インク受容層を用いてもよく、3次元画像の境界において隣接する層との光学的屈折率が大きい材質を用いることが重要である。また、樹脂を主体とする空隙吸収型のインク受容層は、空隙に含まれる空気によって、隣接する層との光学的屈折率の差を発生させることもできる。しかし、転写温度が空隙形成用の樹脂のガラス転移温度以上になった場合には、樹脂が溶融して均一な樹脂の層となり、3次元画像の境界となる2層の光学的屈折率に差が生じなくなって、3次元画像の視認性が低下するおそれがある。したがって、転写温度を樹脂のガラス転移温度以下に制御することが好ましい。要は、3次元画像の視認性を向上させるように、3次元画像の境界において、インク受容層と、それに隣接する層と、の光学的屈折率の差が十分大きくなるようにすればよい。
本発明者らの検討によれば、無機微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型のインク受容層の空隙容量は、約0.1cm3/g〜3.0cm3/g程度であった。細孔容積が0.1cm3/g未満の場合には、十分なインク吸収性能が得られず、インクが溢れ出て、インク受容層に未吸収のインクが残存するおそれがある。また、細孔容積が3.0cm3/gを超える場合には、インク受容層の強度が弱くなって、インク受容層内にクラックや粉落ちが生じ易くなり、また多層記録時に、インク受容層の凹凸状の3次元画像が潰れやすくなるおそれがある。要は、着弾したインクの一部が、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層の表面に接触した後、インクの他の部分をインク受容層に引き込むように吸収したときに、その吸収したインクをインク受容層の内部に保持するだけの空隙容量があればよい。その空隙容量は、加熱圧着による転写によっても、転写前の状態がほぼ維持されればよい。
無機微粒子および水溶性樹脂で構成される空隙吸収型のインク受容層が、上記の空隙容量を有する場合、インク受容層の空隙率は60%〜90%程度であった。インク受容層の空隙率が60%以下の場合には、十分なインク吸収性能が得られず、インクが溢れ出て、インク受容層に未吸収のインクが残存するおそれがある。また、空隙率が90%を超える場合には、インク受容層の強度が弱くなって、インク受容層内にクラックや粉落ちが生じ易くなり、また多層記録時に、インク受容層の凹凸状の33次元画像が潰れやすくなるおそれがある。要は、着弾したインクの一部が、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層の表面に接触した後、インクの他の部分をインク受容層に引き込むように吸収したときに、その吸収したインクをインク受容層の内部に保持するだけの空隙率があればよい。その空隙率は、加熱圧着による転写によっても、転写前の状態がほぼ維持されればよい。
また、本発明者らの検討によれば、無機微粒子および水溶性樹脂によって構成される空隙吸収型のインク受容層の細孔直径の平均(平均細孔直径)は、10nm〜60nmの程度であった。平均細孔直径が10nm未満の場合には、十分なインク吸収性能が得られず、インクが溢れ出て、インク受容層に未吸収のインクが残存するおそれがある。平均細孔直径が60nm以上の場合には、画像の発色性および解像性が不十分となり、またインク受容層の強度が弱くなって、インク受容層内にクラックや粉落ちが生じ易くなるおそれがある。要は、着弾したインクの一部が、接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過してインク受容層の表面に接触した後、インクの他の部分をインク受容層に引き込むように吸収したときに、その吸収したインクをインク受容層の内部に保持するだけの平均細孔直径があればよい。その平均細孔直径は、加熱圧着による転写によっても、転写前の状態がほぼ維持されればよい。
また、接着剤がインク受容層の空隙に入り込んで、その空隙を埋めた場合には、インクの吸収性が低下する。そのため、接着剤の平均粒子径がインク受容層の空隙径よりも小さくならないように、接着剤の平均粒子径およびインク受容層の平均細孔直径を設定することが好ましい。また、無機微粒子と水溶樹脂とによって形成される細孔の径は、無機微粒子の粒子径が大きくなる程、大きくなる。無機微粒子の粒子径を大きくする場合には、インク受容層の強度を確保するために、無機微粒子を固定化する水溶性樹脂のバインダー量も多くすればよい。すなわち、インクがインク受容層に引き込まれるように吸収されて、その吸収されたインクがインク受容層の内部に保持されるように、無機微粒子の粒子径に応じてバインダーの量を調整して、細孔の平均直径を設定すればよい。
また、インクの色材が顔料である場合に、その色材の平均粒子径を空隙吸収型のインク受容層の平均細孔直径よりも大きくすると、その色材成分がインク受容層の露出部の表面に残りやすくなる。さらに、インク中の水成分および溶媒成分がインク受容層の内部に浸透するため、顔料の色材成分と、水分や溶媒成分と、が固液分離して、インク受容層の表面に色材が残りやすくなる。このような場合には、顔料インクの濃度に応じて接着剤の厚みを調整すればよい。すなわち、顔料の色材をインク受容層の露出部に全て収納して、インク受容層の表面に残留する色材が接着性の阻害要因とならないようにすればよい。
例えば、色材である顔料がインク受容層の表面で固液分離して、その全てがインク受容の表面に残る場合を想定し、インクジェット方式により安定して吐出可能な水系インクにおける顔料などの固形分の重量濃度として、インクの顔料濃度を5%程度とする。このような場合には、接着層の厚みをインク受容層の厚みの100分の3から2分の1程度の範囲とすれば、接着剤の高さよりも色材が高く突き出ることがなく、インク受容層の表面に残留する色材が接着性の阻害要因とならず、良好な接着性が実現できる。また、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤により、インク受容層の表面に残留した色材を覆って、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成するできるため、さらに高い接着性を得ることができる。例えば、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型のインク受容層の空隙率が80%、記録画像がカラー画像である場合には、インク受容層の厚みは8〜16μm程度、接着部の厚みは0.3μmから8μm程度が好ましい。インク滴の体積の環境によるばらつき、およびインク受容層の空隙率の製造上のばらつきなどを考慮すると、接着部の厚みは、0.5μmから5μmがより好ましい。
一方、インク受容層の空隙径を想定される顔料色材の平均粒子径よりも大きくすることにより、顔料などの固形成分の一部もインク受容層の内部に浸透することが可能となり、接着層の厚みを小さくすることができる。但し、インク受容層の空隙径が顔料の平均粒子系よりも格段に大きく、かつインク受容層の空隙がインクの液体成分によってある程度満たされている場合には、記録物の保存条件によっては、画像滲み(色材マイグレーション)を誘発するおそれがある。すなわち、残留したインクの液体成分と共に、色材である顔料成分も、徐々にインク受容層内に浸透拡散するおそれがある。したがって、インク受容層の空隙径は、色材である顔料の平均粒子径よりもやや大きい程度、または顔料の二次粒子若しくは複合粒子よりもやや大きい程度とすることにより、インク受容層内における顔料の浸透性を制御することができる。この結果、画像の記録特性に優れ、かつ保存性に優れた転写材を提供することができる。
上述の色材マイグレーションは、色材がインク中に溶解されていて、固形分がない染料インクの場合には、特に注意が必要となる。例えば、インク受容層の空隙内に一旦吸収されたインクの一部が若干でも乾燥したときに、空隙間のインクの連結を分断して、空隙内に残留するインクが各々孤立しやすいように、空隙の連結部をより狭くする。
無機微粒子と水溶性樹脂とで構成される空隙吸収型のインク受容層の空隙に、染料インクが吸収された直後、インク受容層の空隙の全ては、インクによっては置き換えられず、一部は空気が存在したままとなる。インクの一部が若干でも蒸発すると、空隙の連結部の部分に残存した空気の一部が移動して、空気層ができる。空隙内に連なって浸透したインクは、空気層により分断され、空隙内のインクは各々孤立した状態となる。空気層により分離されたて孤立したインクは、空気層が抵抗となり、移動しにくくなる。これらの作用によって、染料インクを用いた場合においても、画像滲み(色材マイグレーション)を抑制することができる。
具体的には、空隙間のインクの連結を分断したときに空隙内に残留するインクが、各々孤立しやすいように、インク受容層の空隙の連結部をより狭くすることが好ましい。無機微粒子1501と水溶性樹脂とによって構成される空隙吸収型のインク受容層においては、無機微粒子が球状、平板状、あるいはスピンドル構造である場合が多い。そのため、インク受容層の形成時に無機微粒子が不規則に配向し、インク受容層の空隙の連結部を狭くしやすい。この結果、空隙間のインクの連結を分断したときに、空隙内に残留するインクが孤立しやすくなる。
本発明において、空隙容量、空隙率、および空隙の細孔直径は、BET法により算出できる。「BET法」とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、細孔容積は、窒素脱着等温線からBJH法によって計算された細孔半径0.7〜100nmの細孔容積である。また、平均細孔直径とは、窒素脱着等温線からBJH法によって求められた累積細孔容積分布曲線において、細孔半径0.7〜100nmの累積細孔容積の1/2の累積細孔容積を有する直径である。空隙率は、細孔容積の全細孔容積に対する割合である。吸着気体としては、通常、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表す方法としては、BET式(Brunauer、Emmett、Tellerの式)が知られており、比表面積決定に広く用いられている。
無機微粒子の代わりに、加熱圧着時に溶融変形しにくいように溶融温度Tgが転写温度よりも高い樹脂粒子を用いて、この樹脂粒子をバインダー樹脂により結合して、空隙が形成された空隙吸収型のインク受容層を形成してもよい。ただし、この場合は、3次元画像の視認性を向上させるように、3次元画像の境界において隣接する層と光学的屈折率の差が大きい材質を用いることが重要である。また、樹脂を主体とする空隙吸収型のインク受容層は、空隙に含まれる空気によって、隣接する層との光学的屈折率の差を発生させることもできる。しかし、転写温度が樹脂のガラス転移温度以上になる場合には、樹脂が溶融して均一な樹脂の層となり、3次元画像の境界となる2層の光学的屈折率に差が生ぜずに、3次元画像の視認性が低下するおそれがある。したがって、転写温度は、空隙形成用の樹脂のガラス転移温度以下に制御することが好ましい。要は、3次元画像の視認性を向上させるように、3次元画像の境界において隣接するインク受容層と他の層との光学的屈折率の差が、十分大きくなるようにすればよい。
溶融温度Tgが転写温度よりも高い樹脂粒子は、転写時の熱によっても粒子構造が維持されるため、転写時の熱によって、樹脂粒子が溶融して空隙が潰れることがない。また、転写温度よりも溶融温度が高い樹脂粒子は、高Tgを有するものであり、このような高Tgの樹脂粒子は、一般に、樹脂粒子を構成する分子構造が剛直であるものが多く、比較的硬い粒子である。そのため、圧力によって空隙が潰れることがない。このように、圧力による空隙の潰れ、および加熱による空隙の溶解がないため、インクの液体成分である水などの主要溶媒、および不揮発性溶剤が表面に染み出すことがなく、接着性を良好とすることができる。
本発明においては、インク受容層の3次元画像が設けられる面は、3次元画像の凹凸の高さより平滑であることが好ましい。例えば、ISO 25178に記載の方法で求められる算術平均高さ(Sai)が0.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3μm以下である。Saiの値を0.5μm以下とし、さらに、3次元画像の凹凸の高さ(Sa)より低くすることで、3次元画像の視認性が向上できる。
以下、空隙吸収型のインク受容層の一例として、水溶性樹脂と、少なくとも無機微粒子と、を含有したインク受容層の構成材料について詳細に説明する。
[4−1−1]無機微粒子
無機微粒子は、無機材料からなる微粒子である。無機微粒子は、インク受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。
無機微粒子を構成する無機材料の種類は、特に制限されない。ただし、インク吸収能が高く、発色性に優れ、高品位の画像が形成可能な無機材料であることが好ましい。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ケイソウ土、アルミナ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物、リトポン(硫酸バリウムと硫化亜鉛の混合物)、ゼオライト等を挙げることができる。
これらの無機材料からなる無機微粒子の中でも、アルミナ及びアルミナ水和物からなる群より選択される少なくとも1種の物質からなるアルミナ微粒子が好ましい。アルミナ水和物としては、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物等を挙げることができる。アルミナ、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物は、インク受容層の透明性、画像の記録濃度、および3次元画像の視認性を向上させることができる点において好ましい。アルミナ水和物は、光学的屈折率が1.77であって、想定される3次元画像の境界において隣接する層の屈折率(搬送層(PET=1.58)、保護層(アクリル=1.49、ウレタン=1.49)、ヒートシール層(ポリオレフィン=1.53))との差が十分に大きいため、3次元画像の視認性を向上させることができる。
ベーマイト構造のアルミナ水和物は、長鎖のアルミニウムアルコキシドに対して、酸を添加して加水分解・解膠を行うことによって得ることができる(特開昭56−120508号公報参照)。解膠には、有機酸または無機酸のいずれを用いてもよい。ただし、硝酸を用いることが好ましい。硝酸を用いることにより、加水分解の反応効率を向上させて、形状が制御されたアルミナ水和物、および、その分散性が良好な分散液を得ることができる。
また、無機微粒子の形状としては、球状あるいは平板状であって、平均アスペクト比が1以上10以下のものが好ましい。なお、この「平均アスペクト比」は、特公平5−16015号公報に記載されている方法で求めることができる。すなわち、平均アスペクト比は、粒子の「厚さ」に対する「直径」の比で示される。ここで「直径」とは、顕微鏡または電子顕微鏡によって無機微粒子を観察したときの粒子の投影面積と等しい面積、を有する円の直径を表す。平均アスペクト比が1未満の無機疑粒子を使用した場合、インク受容層の構成材料によっては、インク受容層の細孔分布範囲が狭くなり、無機微粒子が繊毛状となる。そのため、無機微粒子が規則的に配向しやすく、インク受容層の細孔径がインク吸収性を阻害する程度にまで小さくなる場合がある。また、平均アスペクト比が10を超える無機微粒子を使用した場合、無機微粒子の粒子径を揃えて製造するのが困難になる。
本発明においては、無機微粒子を平板状として、平均アスペクト比を1以上10以下とすることにより、インク受容層の形成時に無機微粒子が不規則的に配向やすくなり、またインク受容層の細孔径がインク吸収性を阻害する程度にまでは小さくならない。すなわち、インク受容層の空隙の連結部はより狭い形状となりやすくなり、空隙間のインクの連結を分断して、空隙内に残留するインクを各々孤立しやすくすることができ、マイグレーションに対して有効となる。
無機微粒子は、その平均粒子径を精密に制御することが好ましい。転写される3次元画像の凹凸の最小幅および最小高さは無機微粒子の粒径によって設定される場合があるため、所望の3次元画像の凹凸の幅に応じて無機微粒子の粒径を制御すればよい。無機微粒子の平均粒子径を小さくすることにより、光散乱を抑制して、インク受容層の透明性を向上させることができる。例えば、保護層付の接着転写可能な転写材を用いて、保護層側から画像を視認する場合には、通常、基材層の一部である保護層には十分な透明性が必要となると共に、インク受容層自体にもある程度の透明性が必要となる。そのため、インク受容層に、平均粒子径が小さい無機微粒子を用いることが有効である。また、無機微粒子の平均粒子径を小さくした場合には、インク受容層の空隙径が小さくなってインクの吸収容量が低下するため、インク受容層の厚みを充分に大きくする必要がある。
一方、インク受容層における無機微粒子の平均粒子径を大きくした場合には、インク受容層の空隙径を大きくすることができる。そのため、顔料インクを用いた場合には、顔料などの固形成分の一部をインク受容層の内部に浸透させることが可能となる。また、インク受容層は、無機微粒子による光散乱によって透明性が低下するため、記録情報の隠蔽性が求められる場合には、無機微粒子の粒子径を大きくすることが有効となる。一方、無機微粒子の粒子径を大きくした場合には、インク受容層の強度が低下する。このような場合、インク受容層の強度を確保するためには、無機微粒子を固定化する水溶性樹脂のバインダー量を多くすればよい。このように、無機微粒子の平均粒子径は、インク受容層の吸収性とインク受容層の透明性を考慮して、転写材および記録物の使用用途に応じて最適に選択すればよい。このような無機微粒子の平均粒子径は、120nm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは120nm〜1μm、さらに好ましくは140nm〜200nmである。
なお、本明細書にいう平均粒子径および多分散指数は、動的光散乱法によって測定された値を、「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 第1章 光散乱」(共立出版 高分子学会編)、またはJ.Chem.Phys.,70(B),15 Apl.,3965(1979)に記載のキュムラント法によって解析することにより求めることができる。本実施形態において定義される平均粒子径および多分散指数は、例えば、レーザ粒径解析装置PARIII(大塚電子製)等を用いて容易に測定することができる。
無機微粒子は、1種を単独で用いたり、または2種以上を混合して用いることができる。「2種以上」とは、材質自体が異なるものの他、平均粒子径、多分散指数等の特性が異なるものも含まれる。
[4−1−2]水溶性樹脂
水溶性樹脂は、25℃において、水と十分に混和する樹脂、あるいは水に対する溶解度が1(g/100g)以上の樹脂である。また、空隙吸収型のインク受容層の場合、水溶性樹脂は、無機微粒子を結着するバインダーとして機能する。また、転写材と画像支持体との接着の際、水溶性樹脂は、接着時にガラス転移温度以上に溶解することにより画像支持体に接着する。
水溶性樹脂としては、例えば、澱粉、ゼラチン、カゼイン及びこれらの変性物;
メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;
ポリビニルアルコール(完全けん化、部分ケン化、低けん化等)又はこれらの変性物(カチオン変性物、アニオン変性物、シラノール変性物等);
尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸又はその共重合体樹脂、アクリルアミド系樹脂、無水マレイン酸系共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂;等を挙げることができる。
水溶性樹脂の中でも、ポリビニルアルコール、特に、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより得られる、けん化ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールは、画像支持体との接着の際、接着時に溶融することにより画像支持体に接着することができる。特に、ポリビニルアルコールを構成する酢酸ビニル基は、接着に寄与すると考えられ、転写時の熱によって水溶性樹脂および画像支持体が溶融すると、両者の親和性が高まり、水溶性樹脂が画像支持体に強固に接着される。ポリビニルアルコールは、画像支持体としてPVCやPET−Gを使用した場合に、画像支持体とインク受容層との密着性(転写性能)を向上させることができ、特に好ましく用いられる。
インク受容層は、けん化度70〜100mol%のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。けん化度とは、ポリビニルアルコールの酢酸基と水酸基の合計モル数に対する水酸基のモル数の百分率を意味する。
けん化度を、好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは86mol%以上とすることにより、インク受容層に適度な硬さを付与することができる。特に、搬送層が剥離可能であって、かつ保護層などの機能層が剥離されない基材、を用いた転写材においては、剥離工程においてインク受容層の箔切れ性が向上し、端部のバリの発生を抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールとを含む塗工液の粘度を低下させることができる。したがって、保護層に対して塗工液が塗工し易くなり、転写材の生産性を向上させることができる。一方、けん化度を、好ましくは100mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下とすることにより、インク受容層に適度な柔軟性を付与することができる。これにより、特に、搬送層が剥離可能であって、かつ保護層などの機能層が剥離されない基材、を用いた転写材においては、保護層とインク受容層との接着強度を向上させて、接着強度の不足による保護層からのインク受容層の剥離を抑制することができる。また、インク受容層に適度な親水性を付与することができ、インクの吸収性が良好となる。したがって、インク受容層に高品位の画像を記録することが可能となる。
けん化度の範囲を満たす、けん化ポリビニルアルコールとしては、完全けん化ポリビニルアルコール(けん化度98〜99mol%)、部分けん化ポリビニルアルコール(けん化度87〜89mol%)、低けん化ポリビニルアルコール(けん化度78〜82mol%)等を挙げることができる。それらの中でも、部分けん化ポリビニルアルコールが好ましい。
インク受容層は、平均重合度が2,000〜5,000のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。
平均重合度を、好ましくは2,000以上、さらに好ましくは3,000以上とすることにより、インク受容層に適度な柔軟性を付与することができる。したがって、剥離工程においてインク受容層の箔切れ性を向上させて、端部のバリの発生を抑制することができる。一方、平均重合度を、好ましくは5,000以下、さらに好ましくは4,500以下とすることにより、インク受容層に適度な硬さを付与することができる。これにより、保護層とインク受容層との接着強度を向上させて、接着強度の不足による保護層からのインク受容層の剥離を抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールとを含む塗工液の粘度を低下させることができる。したがって、保護層に対して塗工液が塗工し易くなり、転写材の生産性を向上させることができる。また、インク受容層の細孔が埋まることを防止して細孔の開口状態を良好に保つことができ、インクの吸収性が良好となる。したがって、インク受容層に高品位の画像を記録することが可能となる。
平均重合度の値は、JIS−K−6726に記載の方法に準拠して算出された値である。
水溶性樹脂は、1種を単独で用いることができ、または2種以上を混合して用いることができる。「2種以上」とは、けん化度、平均重合度等の特性が異なるものも含まれる。
水溶性樹脂の量は、無機微粒子の100質量部に対して、3.3〜20質量部とすることが好ましい。水溶性樹脂の量を、好ましくは3.3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上とすることにより、空隙が圧力や熱によっても崩れることがない、適度な強度を有する空隙型インク受容層を形成することができる。一方、水溶性樹脂の量を、好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下とすることにより、インク受容層内の空隙のバインダー量を最適な量にすることができる。そのため、インクの吸収性を良好とし、水溶性樹脂によって結着された無機微粒子間の空隙をインク受容層内の全域にほぼ均一に配置して、インクをほぼ等方的に浸透させることができる。なお、水溶性樹脂の量を3.3質量部以下にした場合には、無機微粒子を結着するためのバインダー量が少ないために、インク受容層の強度が低下して、インク受容層のひび割れおよび粉落ちが発生するおそれがあるため、好ましくない。一方、水溶性樹脂の量を20質量部以上とした場合には、水溶性樹脂の量が多くなるため、水溶性樹脂がインク受容層の空隙を埋めて、インクの吸収性が損なわれるため好ましくない。
[4−2]接着剤の材質
接着層の接着剤は、インクをほぼ吸収しない接着剤、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅い接着剤であることが好ましい。接着剤はインクの吸収には直接的に関与しないため、その接着剤の材質は、インクとは関係なく、画像支持体との接着性を重視して選定することができる。したがって、本実施形態の転写材は、様々な画像支持体と接着することが可能となる。具体的に、使用者は、転写材が接着される特定の画像支持体の材質に応じて、その画像支持体に対する接着性に優れた接着剤を公知の接着剤の中から選択して用いることができる。例えば、接着剤として、PET、PVC、PET−G、アクリル、ポリカーボネート、POM、ABS、PE、PPなどの、プラスチック、紙、ガラス、木材、金属等の特定の画像支持体との接着性に優れたものを選択して用いることができる。
接着剤は、1種もしくは複数種選択してもよい。図1の接着剤1002のように、特定の画像支持体への接着性に優れた接着剤1002(1)と、インク受容層への接着性に優れた接着剤1002(2)と、を選択してもよい。これにより、接着剤は、画像支持体およびインク受容層のどちらに対しても良好に接着することができる。
特定の画像支持体への接着性に優れた接着剤としては、外的刺激によって特定の画像支
持体への接着性が発現するような、刺激活性型の接着剤を用いてもよい。刺激活性型の接着剤としては特に限定されず、公知の刺激活性型の接着剤を用いることができる。例えば、熱、圧力、水、光、反応剤等を外的刺激とする刺激活性型接着剤が挙げられる。
例えば、刺激活性型接着剤として、熱を外的刺激とし、接着剤のガラス転移温度以上に加熱することによって樹脂が溶融して、画像支持体との接着性が発現する熱可塑性樹脂を主成分とする、感熱型接着剤を用いてもよい。または、刺激活性型接着剤として、圧力を外的刺激とし、常温で短時間、わずかな圧力を加えるだけで画像支持体に接着可能な感圧型接着剤、すなわち粘着剤を用いてもよい。または、刺激活性型接着剤として、水を外的刺激とし、乾燥状態の接着剤に水を塗布して湿潤状態にすることより接着性を発現させる水活性型接着剤、すなわち再湿性接着剤を用いてもよい。ただし、水活性型接着剤を用いる場合には、接着時に接着面に水が付着するため、インクの色材としては耐水性のものが好ましく、例えば、耐水染料でもよく、より好ましくは顔料である。
また、転写材を特定の画像支持体に接着せずに用いる場合は、インクジェット記録された記録面を保護することを目的として、自己溶融接着型の接着剤を用いてもよい。自己溶融接着型の接着剤とは、インク受容層上に設けられた接着剤が溶融して、隣接する接着剤同士が接着する接着剤である。自己溶融型接着剤を用いることにより、インク受容層上に設けられた接着剤が溶融して、隣接する接着剤同士がインクジェット記録された記録面を覆いながら接着する。これにより、インクジェット記録された記録面が自己溶融接着型の接着剤で保護されて、記録物の耐擦過性が向上する。
接着剤の色および透明性は、転写材および記録物の使用目的に応じて決めればよい。接着剤は透明であってもよく、半透明または不透明であってもよく、あるいは着色されていてもよい。例えば、記録内容を基材側と接着層側の両面から視認可能とする場合には、接着剤は透明であってもよい。また、記録内容を基材側から視認可能とする場合には、接着剤は透明であってもよい。また、記録内容を接着層側から視認を可能とする場合には、接着剤は透明であってもよく、あるいは背景色を出すために接着剤は着色してあってもよい。また、後述するように、記録情報を隠蔽するために接着剤を白色としてもよく、その場合には、接着剤の粒子系を可視光波長よりも大きくすればよい。
[4−3]基材の材質
基材の材質は、特に限定されない。転写材および記録物の用途に応じて選択することができる。3次元画像が形成可能な材質が好ましい。ただし、高速記録を想定した場合、ロールの熱を短時間で転写材内に伝導して、接着層を加熱溶融させる必要があるため、基材の伝熱ロスを減らすことが重要である。本発明者らの検討によれば、インク受容層は、その膜厚は大きいものの、熱伝導率の高い無機微粒子を含んでいるために、熱を伝えやすい。一方、基材は、インク受容層に比べて10〜20倍程度熱が伝わりにくく、転写材の伝熱ロスの大半を占める。したがって、伝熱ロスを減らして、高速記録に対応するためには、基材として、搬送性が良好であって、かつ、熱伝導率の高い材質を用いることが好ましい。逆に、低速記録を想定した場合、基材として、強度および寸法安定性が高く、安価な材料を選択してもよい。このように、所望の記録条件に応じて、好ましい材料を選択すればよい。
例えば、基材を構成する樹脂フィルムとして、
ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂;
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;
ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体等のポリフッ化エチレン系樹脂;
ナイロン6、ナイロン6,6等の脂肪族ポリアミド樹脂;
ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体樹脂;
三酢酸セルロース、セロハン等のセルロース系樹脂;
ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;
ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド等の、その他の合成樹脂;
等が挙げられる。
例えば、ポリアミド系樹脂が挙げられ、市販品としては東レ株式会社製のミクロトロン等が挙げられる。樹脂フィルムは、1種を単独で用いること、または2種以上を複合あるいは積層して用いることができる。その他、ガラス、金属板、木材なども挙げることができる。また、樹脂の中に、シリカまたはアルミナ、グラファイト等のフィラーを添加し、熱伝導性を高めたものを用いてもよい。フィラーとしては、上記以外にも公知のものを用いることができる。高速記録を想定した場合、ポリアミド系樹脂は、熱伝導率が高く、強度および寸法安定性などに優れるため、好ましく用いることができる。例えば、市販品として、東レ株式会社製のミクロトロン等を好ましく用いることができる。低速記録を想定した場合、安価であって、かつ強度および寸法安定性に優れたポリエチレンテレフタレート等を好ましく用いることができる。
露光によって3次元画像の凸凹部を形成する場合、基材に感光性材料を用いてもよい。感光性材料の材質としては、従来公知のホログラム形成用の感光性材料と同様のものを用いることができる。例えば、銀塩、重クロム酸ゼラチン、サーモプラスチックス、ジアゾ系感光材料フォトレジスト、強誘電体、フォトクロミックス材料、カルコゲンガラス等が使用できる。
基材が、離型剤を含有する組成物からなる離型層を含む場合、離型剤の種類は特に限定されない。好ましくは、離型性に優れ、ヒートローラの熱およびインクジェット記録ヘッド(特に、吐出エネルギー発生素子として電気熱変換素子(ヒータ)を用いたサーマル式のインクジェット記録ヘッド)が発生する熱によって容易に溶融しない材料である。例えば、シリコーンワックスなどのワックス類に代表されるシリコーンワックス、シリコーン樹脂などのシリコーン系材料;フッ素樹脂などのフッ素系材料;は、離型性に優れる点において好ましい。
[4−3−1]搬送層が剥離されない基材の材質
基材の搬送層が剥離されない転写材が、建材、ポスター、壁紙、サインディスプレイ用プレートなどの作製に使用される場合には、上述した基材の中でもPET、アクリル、ポリカーボネート、POM等が好ましく用いられる。接着層側からのインクジェット記録画像に対しては、基材とインク受容層が保護層となり、インクジェット画像の耐候性を向上させることが可能となる。通気性の無い画像支持体に転写材を接着転写する場合に、保護層としてインク受容層表面を覆っている基材の水分透過性が乏しいと、インクジェット記録の際のインクの残留水分、および記録物の保存時の吸湿により、色材が再拡散して画像にじみを生ずるおそれがある。そのため、特に染料インクを用いて接着層側からインクジェット記録を行なう場合、インク受容層の表面を覆う基材は、ある程度の水分透過性を有する材料によって構成することが好ましい。
また、転写材を包装材として用いる場合、上述した基材の中でも、ポリプロピレン系樹脂からなる樹脂フィルムを用いることが好ましい。
また、転写材を包装材として使用する場合、基材は、インク受容層の形成面とは逆の面にヒートシール層を備えてもよい。ヒートシール層を構成するヒートシール性樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂の少なくともいずれかを用いることが好ましい。
ヒートシール層の厚さは特に限定されない。但し、ヒートシール層の厚さは、0.5μm以上かつ40μm以下であることが好ましい。ヒートシール層の厚さを0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上とすることにより、加熱圧着させる際の熱伝導を良好として、インク受容層とヒートシール層との接着性をさらに向上させることができる。
[4−3−2]搬送層が剥離される基材の材質
基材の搬送層が剥離される転写材は、IDカード、社員証、クレジットカード等の各種セキュリティーカード分野、マイナンバーおよびパスポート等の公的文書通知の分野、包埋カセット等の薬理/病理分野において用いることができる。このような用途において、基材の材料としてはPETが好ましい。また、剥離可能な基材は、保護層やホログラム層を含んでいてもよい。
[4−3−3]保護層の材質
以下、保護層の構成材料について説明する。保護層は、1種あるいは複数の樹脂を用いて形成してもよく、異なるガラス転移温度を有する2種類の樹脂(樹脂E1、樹脂E2)を含有し、樹脂E2が粒子状態、樹脂E1が膜状態であることが好ましい。
樹脂E1の材質としては、アクリル系樹脂は、比較的低温での造膜が可能であって、塗膜の透明性が高く、かつインク受容層の水溶性樹脂として含有されるけん化ポリビニルアルコールとの親和性が高くて、密着性を向上させることができるため、特に好ましく使用される。
樹脂E2の材質としては、樹脂好ましくはウレタン系樹脂を用いることにより、適度なやわらかさを付与し、かつ、べたつきを抑えることができる。さらに、膜の脆さ、および薬品への溶解性を改善して、アルコールなどの薬品に浸漬しても割れおよびはがれ等が起きにくくなり、耐薬品性を向上させることができる。
保護層は、インクジェット記録物を水に長時間浸漬したときの、保護層のひび割れを防止するために、水膨潤性樹脂を含有して、水分を系外に排出する機構を備えてもよい。水膨潤性樹脂としては、水により膨潤して、水に溶解するタイプの水溶性樹脂、および水に不溶なタイプの吸水性樹脂が含まれる。
水溶性樹脂の種類は、特に限定されない。例えば、前述したインク受容層の水溶性樹脂と同じものを用いることができる。それらの中でも、ポリビニルアルコールとして、完全けん化、部分ケン化、低けん化等、あるいは、これらの変性物(カチオン変性物、アニオン変性物、シラノール変性物等)を特に好ましく用いることができる。特に、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより得られる、けん化ポリビニルアルコールが好ましい。
ポリビニルアルコールは、けん化度が75〜100mol%のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。けん化度を好ましくは86mol%以上、より好ましくは98mol%以上とすることにより、ポリビニルアルコールが吸水により膨潤する量を最適化し、透明保護層の表面から水分を蒸発させて、ひび割れの発生をより抑制することができる。さらに、水分の吸収速度を抑えて、液体汚れからの記録情報の汚染を防止することもできる。
保護層は、平均重合度が1,500〜5,000のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。平均重合度を好ましくは1,500以上、さらに好ましくは2,000以上とすることにより、ポリビニルアルコールが吸水により膨潤する量を最適化し、保護層の表面から水分を蒸発させて、ひび割れの発生をより抑制することができる。さらに、水分の吸収速度を抑えて、液体汚れからの記録情報の汚染を防止することもできる。一方、平均重合度を好ましくは5,000以下、さらに好ましくは4,500以下とすることにより、保護層を過度に硬くすることがなく、保護層に応力がかかったときにもひび割れを起こりにくくすることができる。平均重合度の値は、JIS−K−6726に記載の方法に準拠して算出された値である。
[4−3−4]光透過調整層の材質
次に、光透過調整層の材質について説明する。3次元画像の視認性を向上させるための光透過調整層の材質としては、インク受容層よりもさらに屈折率が高い材質が好ましく、第1の画像の視認性を考慮すれば、透明な材質であることが好ましい。例として、ZnS、TiO2、Al2O3、Sb2S3、SiO、SnO2、ITOなどがある。好ましくは、金属の酸化物、窒化物、まあは硫化物であり、具体的には、Be、Mg、Ca、Cr、Mn、Cu、Ag、Al、Sn、In、Te、Ti、Fe、Co、Zn、Ge、Pb、Cd、Bi、Se、Ga、Rb、Sb、Pb、Ni、Sr、Ba、La、Ce、Auなどの酸化物、窒化物、硫化物、または、それらを2種以上混合したものなどが例示できる。また、アルミニウムなどの一般的な光反射性の金属薄膜も、厚みが20nm以下になると透明性が出るため、使用できる。
[4−3−4]アンカー層の材質
次に、アンカー層の材質について説明する。アンカー層の材質は、インク受容層と光透過調整層とを良好に接着する材質であればよく、公知の接着剤の材質を使用することができる。アンカー層の材質としては、[4−2]に記載の材質と同様のものを用いることができ、インク受容層と光透過調整層の材質に応じて好ましい材質を選択すればよい。
[4−3−5]基材の厚み
基材の厚みは、搬送性および材料強度を考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。基材は、3次元画像が形成可能であって、良好な搬送性が維持できればよく、基材の厚みは5〜300μmであることが好ましい。
基材の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは15μm以上とすることにより、基材に3次元画像を形成しても、転写材に画像を記録する場合、およびインクジェット記録後に転写材を画像支持体に接着する場合に、転写材の搬送性を向上させることができる。転写材をカットシートおよびプレート状にして用いる場合、基材は、強度および固さが優れている方がよく、厚い方が好ましい。この場合、基材の厚みは30μm以上とすることが好ましい。一方、基材の厚みを300μ以下、より好ましくは100μ以下、さらに好ましくは50μm以下とすることにより、インクジェット記録後に転写材を画像支持体に加熱して接着する際に、熱伝達性を良好とすることができる。
[4−4]画像支持体の材質
画像支持体の材質は、特に制限されない。画像支持体としては、例えば、樹脂を構成材料とする画像支持体(樹脂ベース支持体)、または紙を構成材料とする画像支持体(紙ベース支持体)等を挙げることができる。さらに、本発明の転写材は、ガラスや金属などの種々の画像支持体にインクジェット画像を転写することができる。樹脂ベース支持体を構成する樹脂は、画像支持体の用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限されず、基材と同様の材質のものを用いることもできる。
[5]転写材の製造方法
インク受容層に3次元画像(3次元微細構造による画像)を形成する方法としては、大きく分けて2種類の方法が挙げられる。1つの方法は、インク受容層に3次元画像を直接形成する方法である。他の1つの方法は、基材に3次元画像を形成し、その上にインク受容層を設けることにより、基材側の3次元画像をインク受容層側に転写させる方法である。
後者の方法においては、例えば、凸凹状の3次元画像を設けられた基材上に、無機微粒子および水溶性樹脂を含有する塗工液を塗工して、基材上にインク受容層を形成する。これにより、基材側の3次元画像をインク受容層に転写して、インク受容層に凹凸状の3次元画像を形成する。さらに、必要に応じて、このインク受容層の上に、接着剤を含有する塗工液を塗工することによって、転写材を製造することができる。
以下の記載においては、既に説明した事項については割愛し、製造方法固有の事項のみについて説明する。まずは、基材に3次元画像を形成する製造方法について説明する。
[5−1]基材の製造方法
基材は、用途に応じて、基材の搬送層が剥離されない構成、または基材の搬送層が剥離される構成などとすることができ、公知の方法によって製造可能である。
[5−1−1]基材への3次元画像の形成
3次元画像は、用途に応じて、公知の凹凸形成方法を用いて形成することができる。例えば、フィルム用の樹脂を溶融した状態で押し出し、それを溶融状態のままエンボスロールに巻き付けながらフィルム加工することにより、3次元画像を有する基材を製造することができる。また、凹凸部が形成されたローラと、基材と、を合わせて加圧することにより、基材に凸凹部を形成する方法、あるいは、レーザーまたはサンドブラストなどによって基材の表面を削ることにより凸凹部を形成する方法を採用することもできる。また、基材の表面に感光材等の材料を設け、それをバターン露光することによって凸凹部を形成することもできる。また、基材にUV硬化性樹脂を塗工し、それが未硬化の状態のときに、凹凸部が形成されたローラに基材を巻き付け、その巻き付け状態のままUV照射を行って未硬化の樹脂を硬化させてから、基材をローラから引き剥がすことによって、基材に凸凹部を形成することもできる。また、UV硬化インクを用いるインクジェット装置などを用いて、UV硬化インク中の樹脂を基材(フィルム)上に厚盛することにより、凸凹部を形成することもできる。上記の方法の他、基材に凹凸部が形成できる公知の方法であれば、全て使用することができる。
3次元画像1300は、図8(b)のように基材50の搬送層1309に形成してもよく、または図8(a)のように基材50の機能層52に形成してもよい。3次元画像は、機能層の表面に構成されることが好ましい。すなわち、図8(a)のように、搬送層1309の上に機能層52を厚く設けて、その機能層52に凹凸状の3次元画像1300を設けることが好ましい。図8(b)のように、搬送層1309に凹凸状の3次元画像1300を設け、さらに、その上に薄く機能層52を設ける場合には、機能層52によって、3次元画像1300の溝が埋められて、3次元画像1300の機能が損なわれるおそれがある。このような場合には、凹凸状の3次元画像の溝が埋められないように、機能層を薄く形成すればよい。要は、基材の3次元画像の凹凸形状がインク受容層にも形成されればよく、接着条件等を考慮して、基材の構成を適宜設定すればよい。図8(a)のように、搬送層の上に機能層を厚く設けて、機能層の表面を平坦にすることにより、転写後の記録物の表面が平坦となり、熱転写等の接触方式の記録方法によっても画像を追記することができる。
[5−1−2]保護層の形成方法
基材が保護層を含み、接着処理後に基材の搬送層のみが剥離される場合(基材の一部が離される場合)の、保護層の形成方法について説明する。
保護層は、保護層用の塗工液を調整し、これを基材の表面に塗布して乾燥(加熱)させることにより、形成することができる。3次元画像は、保護層の形成後に、[5−1−1]に記載した方法と同様の方法によって形成することができる。このような方法においては、保護層を厚く形成することが容易であり、その保護性能を向上させることができる。一方、保護層に3次元画像を形成する別の方法として、[5−1−1]に記載した3次元画像を有する基材を用いて、その表面に保護層用の塗工液を塗布することにより、3次元画像を保護層に形成してもよい。但し、この場合には、基材における凹凸状の3次元画像の溝が埋められないように、保護層を薄くする必要がある。基材における凹凸状の3次元画像の溝が保護層によって埋められた場合、つまり3次元画像の凹凸部が保護層によって被覆された場合には、基材と保護層の屈折率がほぼ同じになって、3次元画像が現れなくなるおそれがある。要は、基材の3次元画像の凹凸形状がインク受容層にも形成されるように、インク受容層が形成される保護層の表面に、凹凸部が形成されればよい。
保護層用の塗工液の媒体としては、水性媒体を用いることが好ましい。水性媒体としては、水;水と水溶性有機溶剤との混合溶媒;等を挙げることができる。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類等を挙げることができる。
保護層用の塗工液には、本発明の効果を妨げない限り、各種添加剤を含有させることができる。
[5−1−2−1]塗工
保護層は、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スプレーコーティング法、エアーナイフコーティング法、スロットダイコーティング法等によって、樹脂を含む塗工液を塗工して乾燥させることにより、形成することができる。
保護層用の塗工液の塗工量は、固形分換算で1〜40g/m2とすることが好ましく、さらに好ましくは2〜30g/m2、さらにより好ましくは4〜20g/m2である。塗工量を好ましくは1g/m2以上、さらに好ましくは2g/m2以上、さらにより好ましくは4g/m2以上とすることにより、保護層の耐水性および耐擦過性を確保することができる。一方、塗工量を好ましくは40g/m2以下、さらに好ましくは30g/m2以下、さらにより好ましくは20g/m2以下とすることにより、保護層の透明性を向上させることができる。さらに、加熱圧着の際の熱伝導を良好として、保護層とインク受容層との密着性(転写性能)を向上させることもできる。
[5−1−2−2]光透過調整層の形成方法
光透過調整層は、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD(化学気相成長)法などの真空薄膜法などにより、搬送層上に設けることができる。特に、CVD法は、搬送層への熱的ダメージが少ないため好ましい。光透過調整層は、その他の公知の薄膜形成法を用いても形成できる。光透過調整層を薄くすることにより、その熱的ダメージを小さくすることができる。搬送層における凹凸状の3次元画像の溝が埋められて、光透過調整層の表面が平坦にならないように、光透過調整層の厚みを制御することが重要である。要は、インク受容層にも凹凸部が形成されるように、光透過調整層およびアンカー層を設ければよい。
[5−1−2−3]アンカー層の形成方法
アンカー層は、搬送層上に設けた光透過調整層の上に、接着剤の塗工液を塗布することによって形成することができる。保護層と同様の従来公知の方法によって、アンカー層の塗工液を塗工することにより、光透過調整層上にアンカー層を形成することができる。
[5−1−2−4]その他
基材は、予め表面改質が行われたものを用いてもよい。基材の表面を粗面化する表面改質を行うことにより、基材の濡れ性を向上させて、保護層との密着性を向上させることができる。表面改質の方法は、特に制限されない。例えば、保護層の表面に、予めコロナ放電処理またはプラズマ放電処理を行う方法;基材の表面にIPAまたはアセトン等の有機溶剤を塗工する方法;等を挙げることができる。これらの表面処理は、基材と保護層との結着性を高めて、それらの強度を向上させ、基材からの保護層の剥離を防止することができる。また、基材の搬送層が剥離される場合には、搬送層の剥離機能を良好にするために、基材の搬送層上に離型層を形成することもできる。離型層は、基材に前述した離型剤を含有する組成物を、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スプレーコーティング法、エアーナイフコーティング法、スロットダイコーティング法等により塗工して、乾燥させることにより、形成することができる。
[5−2]インク受容層の形成
[5−2−1]インクジェット塗工液
インク受容層は、少なくとも無機微粒子、水溶性樹脂を適当な媒体と混合して塗工液を調製し、それを、3次元画像を有する基材の表面に塗布して乾燥させることによって、形成することができる。
その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、インク定着剤、ドット調整剤、着色剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、pH調整剤などを挙げることができる。
塗工液中の無機微粒子の濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。但し、塗工液の全質量に対して、10質量%以上かつ30質量%以下とすることが好ましい。
[5−2−2]インクジェット塗工液の塗工
インク受容層は、前述した3次元画像を有する基材の表面に、塗工液を塗工することにより形成できる。その塗工後は、必要に応じて塗工液を乾燥させる。
塗工方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ブレードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、スロットダイコーティング法、バーコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法などを挙げることができる。
塗工液の塗工量は、固形分換算で10g/m2以上かつ40g/m2以下とすることが好ましい。塗工量を10g/m2以上、好ましくは15g/m2以上とすることにより、インク中の水分の吸収性に優れたインク受容層を形成することができる。これにより、記録された画像中のインクの流れ、および画像の滲みを抑制することができる。一方、塗工量を40g/m2以下、より好ましくは20g/m2以下とすることにより、塗工層を乾燥させる際に、転写材にカールが発生し難くなる。
[5−3]接着層の形成
[5−3−1]接着剤の塗工液
本発明の転写材においては、3次元画像を有する基材上に積層された空隙吸収型のインク受容層の表面に、調製した接着剤の塗工液を塗布して、インク受容層の表面に接着層の接着剤を離散的に設けてもよい。これにより、インク受容層の表面に、外部に直接露出する露出部が残こるように構成することができる。
塗工液中の接着剤の濃度は、塗工液の塗工性などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定されない。塗工液の全質量に対して、2質量%以上かつ40質量%以下とすることが好ましい。
[5−3−2]接着剤の塗工
転写材は、例えば、基材上に形成されたインク受容層の表面に、接着剤の塗工液を塗工することにより構成する。その塗工後は、必要に応じて塗工液を乾燥させる。
塗工方法としては、空隙吸収型のインク受容層の表面に、接着層の接着剤を離散的に設ける必要があるため、グラビアコーティング法で行うことが好ましい。その場合、グラビアロールの溝の線数は、好ましく200線、より好ましくは300線、さらに好ましくは600線とする。その線数が多くなるほど、インクジェット記録による画像の1画素内に、1つ以上の空隙吸収型のインク受容層の露出部を容易に形成することができる。
[5−3−3]形成時の乾燥
基材上に形成されたインク受容層の表面に、接着剤の塗工液を塗工する場合、その接着剤は、それが溶融するガラス転移温度以下で乾燥することが好ましい。ガラス転移温度以上で乾燥した場合には、接着剤が溶融、流動して接着剤同士が接着し、インク受容層の露出部を含むインク受容層の表面全体を被覆して、インクの吸収性を低下させるおそれがある。接着剤に複数種の粒子を含ませて、ある1つの粒子に、粒子状で残存する接着粒子のバインダーとしての機能、およびインク受容層の水溶性樹脂との接着性を向上させる機能を持たせてもよい。このような場合には、バインダーとして機能する接着剤のガラス転移度以上、かつ粒子状で残存する接着粒子のガラス転移温度以下で乾燥することが好ましい。このように、接着剤の性質に応じて乾燥温度を適宜選択することにより、インクジェットの記録特性と接着性とを両立させることができる。
接着剤の塗工液は、乾燥の過程において塗工液中の水分が蒸発するため、塗工成膜時には濃度が高くなる。そのため、乾燥前においては、接着剤の塗工液を構成する接着剤粒子がほぼ単粒子として分散されており、乾燥の過程において塗工液の濃度が高くなると、接着剤粒子の分散が破壊されやすくなる。そのため、接着剤粒子同士の衝突・合一により、複数の粒子が凝集することになる。接着剤の塗工液は、このように複数の粒子が凝集した状態で成膜されることにより、インク受容層の表面に、接着層の接着剤を離散的に設けることができる。したがって、接着剤を単粒子で離散的に設ける場合には、乾燥前の塗工液の濃度を低くすればよく、一方、接着剤を複数の粒子が凝集した状態で離散的に設ける場合には、乾燥前の塗工液の濃度を高くすればよい。このように、乾燥前の接着剤の塗工液の濃度を適宜調整することにより、成膜時における接着層の接着剤の離散状態を調整することができる。接着層における接着剤の離散状態は、転写材および記録物の用途に応じて制御することができる。
次に、インク受容層に、3次元画像を直接形成する転写材の製造方法について説明する。例えば、インク受容層に凹凸状の3次元画像を直接設け後、そのインク受容層を基材に貼り合わせることによって、転写材を製造することができる。以下の記載においては、既に説明した事項については割愛し、固有の事項のみについて説明する。
例えば、図20のように、仮の支持体1319に支持されたインク受容層53に、3次元画像形成装置1308を用いて、凹凸状の3次元画像1300を直接設ける。その後、そのインク受容層53を基材50に貼り合わせてから、支持体1319を剥離することによって転写材を製造する。インク受容層に3次元画像を直接設ける方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、レーザー彫り込み法または版転写法などを用いて、インク受容層に直接、3次元画像を形成することができる。
次に、3次元画像が形成されたインク受容層を搬送用の基材に貼り合せる方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、基材に接着剤を薄く塗布して、インク受容層と貼り合わせてもよい。記録物の表面から画像を記録することを考慮して、基材上の接着剤は、インク受容層と部分的に接するように設けることが重要である。接着剤がインク受容層の全面に接して、そのインク受容層を転写した記録物の表面に画像を記録した場合には、インク吸収性が低下するおそれがある。また、基材とインク受容層とを加熱圧着する際には、インク受容層上の3次元画像を維持できるように、接着温度および接着圧力を調整する。要は、インク受容層に形成された3次元画像を維持しつつ、基材とインク受容層とが接着できればよい。
[6]記録物の製造方法
[6−1]インクジェット方式による画像記録
本発明の転写材に、画像を記録する方法について説明する。
転写材は、前述したように、基材上に積層された空隙吸収型のインク受容層の表面に、接着層の接着剤を離散的に設けることにより、インク受容層の表面に、外部直接露出する露出部が残こるように構成することができる。このような転写材の記録面に対しては、インクジェット記録方式により画像を記録することができる。
インクジェット記録方式とは、記録ヘッドに形成された複数のノズルから、転写材のインクジェット記録面に対してインク(インク滴)を吐出して画像を記録する方式である。インクジェット記録方式の種類は特に限定されず、例えば、サーマルインクジェット方式またはピエゾ方式のどちらも使用できる。サーマルインクジェット記録方式は、高解像度で高品位な画像を高速記録できるため好ましい。
インクジェット記録方式は、インクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)により実施することができる。インクジェットプリンタは、画像記録時に、記録ヘッドと、インク受容層付きの画像支持体と、が接触しないため、極めて安定した画像を記録することができる。インクジェットプリンタの種類は特に限定されず、その記録方式は、シリアルスキャン方式およびフルライン方式などであってもよい。シリアルスキャン方式においては、記録ヘッドから吐出するインク滴を小さくして、高品位な画像を容易に記録することができる。また、このようなシリアルスキャン方式のプリンタとしては、公知の小型のインクジェットプリンタ、あるいは大判プリンタを使用することができる。また、記録ヘッドの数回の走査に分けて画像を記録するシリアルスキャン方式において、同一の記録領域に対して、複数回の走査によって所定の時間差をもってインクを複数回着弾(分割重複走査)させてもよい。この場合にも、インクの蒸発速度に比べてインク受容層のインクの吸収速度が十分に速いため、接着剤上にインクは残留しにくい。
一方、フルライン方式のプリンタは、高解像度で高品位な画像を高速に記録することができる。なお、転写材に画像を記録する際には、画像を視認する方向に応じて、反転画像あるいは正像画像を記録すればよく、その画像は使用用途に応じて選択することができる。
[6−2]使用するインク
本発明に用いられるインクとしては、染料インクまたは顔料インクのどちらも使用できる。記録画像の画像品位、および記録画像の耐久性を考慮すると、顔料インクが好ましく用いられる。
[6−2−1]染料インク
染料インクは、空隙吸収型のインク受容層の内部にまで染料色材成分、インク中の水成分、および溶媒成分が浸透して定着する。本発明において、染料インクは、その一部がインク吸収速度の速いインク受容層の露出部に接すると、インク受容層に引き込まれるようにして吸収される。インク受容層の露出部から吸収された染料インクは、適切に設計制御されたインク受容層の浸透異方性に応じて、インク受容層の内部に浸透して所望のインクドットを形成する。インク受容層内では、浸透異方性に応じてインクが浸透して拡がるため、接着部の下部に亘ってインクドットを形成することができる。したがって、画像形成に必要なエリアファクターを維持して、高解像度の画像を記録することができる。しかしながら、染料色材、インク中の水分および溶媒がインク受容層の内部に浸透することから、記録物の保存条件によっては、残留したインクの液体成分と染料色材が共にインク受容層内を浸透拡散して、画像滲み(色材マイグレーション)を誘発するおそれもある。また、染料インクは耐光性が弱く、長い間、太陽光等に暴露されると染料が分解して、記録画像が退色するおそれがある。
このような色材マイグレーションは、色材がインク中に溶解されていて固形分がない染料インクの場合には、特に注意が必要となる。例えば、インク受容層の空隙内に一旦吸収されたインクの一部が若干でも乾燥したときに、空隙間のインクの連結を分断して、空隙内に残留するインクが各々孤立しやすいように、空隙の連結部をより狭くする。より具体的には、前述したように、空隙の連結部の部分に残存した空気の一部を移動させて、空気層を形成する。空隙内に連なって浸透したインクは、空気層により分断され、空隙内のインクは各々孤立した状態となる。空気層により分離されて孤立したインクは、空気層が抵抗となり、移動しにくくなる。これらの作用によって、染料インクを用いた場合においても、画像滲み(色材マイグレーション)を抑制することができる。
また、基材が剥離されない転写材を、通気性の無い画像支持体に接着転写する場合、保護層としてインク受容層の表面を覆っている基材が水分透過性に乏しいと、インクジェット記録の際のインクの残留水分および保存時の吸湿により、色材が再拡散して画像にじみが生じるおそれがある。そのため、特に、染料インクを用いて接着層側からインクジェット記録を行なう場合には、インク受容層の表面を覆う基材を、ある程度の水分透過性を有する材料によって構成すればよい。
[6−2−2]顔料インク
一方、顔料インクにおいては、インクの顔料色材の平均粒子径と、インク受容層の平均細孔直径と、に応じてインクの吸収状態が異なる。例えば、インクの顔料色材の平均粒子径が空隙吸収型のインク受容層の平均細孔直径よりも大きい場合には、顔料色材成分がインク受容層の表面に残り、インク中の水成分および溶媒成分がインク受容層の内部に浸透して、顔料色材成分と、水分および溶媒成分と、が固液分離する。この場合には、インク受容層の表層に残留する色材が接着性の阻害要因とならないように、インク受容層の表面に残った色材をインク受容層の露出部が全て収納して、その色材が接着層よりも高く突き出ないように接着層の厚さを適切に調整すればよい。さらに好ましくは、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤によって、インク受容層の表面に残留した色材を覆って、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成することにより、さらに高い接着性を得ることができる。
また、顔料インクを用いて接着層側からインクジェット記録を行う場合には、顔料が空隙吸収型のインク受容層の表面で固液分離して、インク受容層の表面に残るおそれがある。しかし、画像支持体への接着転写時に、海島状に設けた接着剤によって顔料が接着固定されるため、色材の再拡散による画像のにじみが生じ難くい。また、画像支持体への接着転写後に、基材そのものを剥離する場合には、基材上の凸凹状の3次元画像を反転させてインク受容層に転写し、その基材の除去により露出したインク受容層の凹凸状の表面に、画像を追記することができる。顔料インクによって画像を追記した場合でも、インク受容層の表面の凹部に残った色材が擦れ難くなるように、インク受容層の凹凸形状などを調整することにより、画像の耐擦過性を向上させることできる。このように、基材上の3次元画像が転写されたインク受容層の表面に画像を追記する場合には、耐擦過性の課題を緩和することができるため、色材自体の耐候性が高い顔料インクを用いることが好ましい。顔料インクによって画像を追記する場合には、表面の耐擦過性が向上するように、3次元画像の凹凸形状、幅、および高さを制御すればよい。
例えば、色材である顔料がインク受容層の表面で固液分離して、その全てがインク受容層の表面に残る場合を想定し、インクジェット方式により安定して吐出可能な水系インクにおける顔料などの固形分の重量濃度として、インクの顔料濃度を5%程度とする。このような場合には、接着層の厚みをインク受容層の厚みの100分の3から2分の1程度の範囲とすれば、接着剤の高さよりも色材が高く突き出ることがなく、インク受容層の表面に残留する色材が接着性の阻害要因とならず、良好な接着性が実現できる。また、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤により、インク受容層の表面に残留した色材を覆って、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜を形成するできるため、さらに高い接着性を得ることができる。例えば、インク滴の体積が2〜4pl、空隙吸収型のインク受容層の空隙率が80%、記録画像がカラー画像である場合には、インク受容層の厚みは8〜16μm程度、接着部の厚みは0.3μmから8μm程度が好ましい。インク滴の体積の環境によるばらつき、およびインク受容層の空隙率の製造上のばらつきなどを考慮すると、接着部の厚みは、0.5μmから5μmがより好ましい。
一方、想定される顔料の平均粒子径よりも、インク受容層の空隙径を大きくすることにより、顔料などの固形成分の一部もインク受容層の内部に浸透することが可能となり、接着層の厚みを小さくすることができる。但し、インク受容層の空隙径が顔料の平均粒子系よりも格段に大きく、かつインク受容層の空隙がインクの液体成分によってある程度満たされている場合には、記録物の保存条件によっては、画像滲み(色材マイグレーション)を誘発するおそれがある。すなわち、残留したインクの液体成分と共に、色材である顔料成分も徐々にインク受容層内に浸透拡散するおそれがある。したがって、インク受容層の空隙径は、色材である顔料の平均粒子径よりもやや大きい程度、または顔料の二次粒子若しくは複合粒子よりもやや大きい程度にとすることにより、インク受容層内における顔料の浸透性を制御することができる。この結果、画像の記録特性に優れ、かつ保存性に優れた転写材を提供することができる。
また、顔料インクにおいては、適切に設計制御されたインク受容層の浸透異方性に応じて、インク受容層の内部に、インクの水成分や溶媒成分のみが浸透する。そのため、接着部の下部のインク受容層には、発色に寄与する顔料色材が浸透しにくいため、顔料インクは、染料インクに比べて、高解像度の画像の形成能力が劣る。しかし、接着部の下部の領域にまでインク受容層の露出部を拡げたり、接着性とエリアファクターとを考慮して接着剤の構造を調整したり、インク受容層の空隙を大きくして、色材をインク受容層に浸透しやすくすることにより、実質上、問題のない高解像度の画像の記録が可能になる。すなわち、インクと接する接着部の部分の面積を小さくすることにより、インクジェット記録後に、接着部の下部のインク受容層にまでインクが回り込み、エリアファクターが大きくなって画像濃度が向上する。
また、顔料インクの粒子径が大きい場合、あるいは小さい場合のいずれにおいても、着色剤としての顔料の粒子径は、インク受容層の空隙径とほぼ同じオーダーの大きさであって、インク受容層の表面は親水性が高い。そのため、固液分離してインク受容層に残留した顔料の層は、顔料インク中の水成分および溶媒成分を透過させやすい。したがって、カラー記録において顔料が接着剤を先に覆ったとしても、顔料インクの水成分および溶媒成分は、接着剤粒子よって形成される接着剤の空隙径に比べて十分に小さいために、接着剤に対してよりもインク受容層に対して速く吸収される。
また、顔料インクは、インク受容層の表面において、色材成分と、水成分あるいは溶媒成分と、が固液分離しやすくて、水成分あるいは溶媒成分がインク受容層の内部に浸透することから、インク受容層の表面は乾燥しやすい状態になる。このため、接着時には、インク受容層の表面が水分量の少ない状態となり、その結果、水分の蒸発に起因する接着不良を抑制して、接着性を向上させることができる。
顔料インク中の顔料成分としては、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、およびスルホン基のうちの少なくとも1種の官能基またはその塩を結合された自己分散顔料、あるいは顔料粒子の周りを樹脂で被覆した樹脂分散型の顔料を用いることができる。本実施形態の転写材においては、接着部の厚みを適切に調整することにより、固液分離してインク受容層の表面に残った顔料色材をインク受容層の露出部にて全て収納することができる。これにより、色材が接着剤よりも高く突き出ないようにして、インク受容層の表層に残留する色材が接着性の阻害要因とならないようにすることができる。このように、接着部の厚みを調整することにより、加熱転写時に溶融した十分な量の接着剤によって、インク受容層の表面に残留した色材を覆い、色材と画像支持体との間に、溶融した接着剤による接着膜が形成できる。このような接着部は、顔料粒子自体が接着性を持たない、自己分散顔料を用いる場合に好適である。
また、樹脂分散型の顔料は、インク媒体と分離した後の顔料粒子同士の結着力を高めて、インク受容層の表面に顔料膜を形成することができる。この場合、顔料膜の表面上の水分は少量となる。これは、顔料膜が、インク受容層中の下層の水分をほぼ遮断し、さらに下層からの水分補給もほぼ遮断するからである。そのため、樹脂分散型の顔料成分は、インク受容層の表面を乾燥しやすい状態とするため好ましい。また、転写時の熱によって、樹脂分散型の顔料の分散樹脂、インク受容層の水溶性樹脂、および接着剤が溶融すると、両者の親和性が高まり、樹脂分散顔料はインク受容層にも強固に接着される。さらに、転写時の熱によって、樹脂分散型の顔料の分散樹脂、接着剤および画像支持体の構成材料が溶融すると、両者の相溶性が高まり、樹脂分散顔料は画像支持体にも強固に接着される。したがって、樹脂分散顔料を用いることにより、接着層の厚みが薄くて、インク受容層の表面に残った色材をインク受容層の露出部にて全て収納することができず、色材の一部が接着層よりも高く突き出た場合にも、分散樹脂が溶解することにより、画像支持体に良好に接着することができる。
顔料粒子の周りを被覆する樹脂としては、酸価が100〜160mgKOH/gである(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。その樹脂の酸価を100mgKOH/g以上とすると、サーマル方式でインクを吐出するインクジェット記録方式において、インクの吐出安定性を向上させることができる。一方、その樹脂の酸価を160mgKOH/g以下とすると、顔料粒子に対して相対的に疎水性を有するようになり、インクの定着性および耐滲み性が良好となる。したがって、インクの高速定着および高速記録に適する。
ここで酸価とは、1gの樹脂を中和するために必要となるKOHの量(mg)であり、その親水性を示す指標となり得るものである。また、この場合の酸価は、樹脂分散剤を構成する各モノマーの組成比から計算により求めることもできる。具体的な顔料分散体の酸価の測定方法としては、電位差滴定により酸価を求める、Titrino(Metrohm製)等を使用することができる。
本発明においては、インクジェット記録用のインクの表面張力および粘度が適切に制御されることによって、インク受容層の表面の露出部に接したインクの一部がインク吸収速度の速いインク受容層に吸収され始めると、それに連なる他の部分のインクも途切れることなくインク受容層に引き込まれてゆく。このようなインクの粘度ηは、1.5〜10.0mPa・sであることが好ましく、さらに好ましくは、1.6〜5.0mPa・s、特に好ましくは1.7〜3.5mPa・sである。一方、インクの表面張力γは、25〜45mN/mであることが好ましい。
すなわち、インクの表面張力および粘度は、転写材の記録面に着弾したインクの一部が、接着層の接着部からはみ出してインク受容層の露出部に垂れ込む場合に、接着層の表面においてインクが千切れないように、調整すればよい。さらに、インクの表面張力および粘度は、インクの一部が接着層における接着部の相互間の空間をバイパス的に通過して、吸収速度の速いインク受容層の表面の露出部に接した後、そのインクがインク受容層に引き込まれて吸収されるように、調整すればよい。インクの粘度を上記の範囲に調整することにより、インクの吐出時におけるインクの流動性が向上し、ノズルへのインク供給性、ひいてはインクの吐出安定性が向上する。また、インクの表面張力を上記の範囲に調整することにより、インクを吐出時に、インク吐出口のメニスカスを維持することができる。
インクの粘度は、JIS Z 8803に準拠し、温度25℃の条件下、E型粘度計(例えば、東機産業製「RE−80L粘度計」等)を用いて測定した値を意味するものとする。インクの粘度は、界面活性剤の種類および量の他、水溶性有機溶媒の種類および量等により調整することができる。
インクの表面張力は、温度25℃の条件下において自動表面張力計(例えば、協和界面科学製「CBVP−Z型」等)を使用し、白金プレートを用いたプレート法により測定した値を意味するものとする。インクの表面張力は、界面活性剤の添加量、水溶性有機溶剤の種類、および含有量等により調整することができる。
本実施形態において、インク中の色材濃度は特に規定されない。但し、その色材濃度は、好ましくは0.5%以上10%以下、より好ましくは1%以上かつ5%以下である。このような範囲に色材濃度を調整することにより、画像の視認性と接着性とを両立させることができる。特に、顔料インクの場合には、インク受容層の表面に残った色材顔料をインク受容層の露出部にて収納するために、色材濃度を厳密に制御する必要がある。すなわち、接着剤よりも色材を高く突き出させず、かつ画像の視認性を向上させることができる範囲において、顔料濃度をできる限り高くすることが好ましい。インク濃度を上述した範囲に調整することにより、インクの粘度を最適に調整して、インクの吐出時におけるインクの流動性を向上させて、記録ヘッドのノズルへのインク供給性、ひいてはインクの吐出安定性を向上させることができる。
[6−3]転写方法
基材が剥離されない転写材を用いる場合、本発明の記録物を作製する際には、まず、その転写材のインクジェット記録面に、例えば、画像を視認する方向に応じて正像画像あるいは反転画像を記録する。次に、画像記録後、離散的に配された接着剤を介して転写材を画像支持体に転写、あるいは離散的に配された自己溶融接着剤を自己溶融させることによって、記録物を得る。
また、搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材を用いる場合、本発明の記録物を作製する際には、その転写材の記録面に、例えば反転画像を記録する。次に、離散的に配された接着剤を介して、転写材を画像支持体に転写してから、基材の全てを剥離することにより、画像支持体にインク受容層を積層した記録物を得る。
さらに、基材が透明保護層、ホログラム層、および記録層などの機能層を備えている場合は、まず、それらの機能層を含む転写材の記録面に、例えば反転画像を記録する。次に、離散的に配された接着剤を介して、転写材を画像支持体に転写してから、搬送層、保護層、ホログラム層、記録刷層などの機能層を含む基材から搬送層のみ(基材の一部)を剥離する。これにより、機能層が一体化されかつ画像が記録されたインク受容層を、画像支持体上に積層した記録物を得ることができる。
本発明においては、転写工程において、インク受容層が水分を十分に含んだ状態でも良好に転写することができる。空隙吸収型のインク受容層は、前述したように、インクを多量に吸収でき、かつ転写時にインク受容層の空隙構造が壊れにくく、転写後も空隙構造を保持することが可能である。そのため、転写時に接着剤およびバインダーが溶融しても、吸収したインクをインク受容層の内部に保持し、また、蒸気が発生してもそれを内部に封じ込めるため、水分を十分に含んだ状態でも良好に転写することができる。また、インク受容層上に離散的に配された接着剤の接着層において、その接着剤は、インクをほぼ吸収しない、もしくはインクを吸収したとしても吸収速度が遅いため、接着層の表面および接着層の内部にはインクが残りにくい。このため、接着層に転写を阻害するインクが残留しにくく、転写材を画像支持体に良好に転写することができる。
本発明において用いられる転写方法は、接着剤の特性に応じて選択することができる。例えば、接着剤に刺激応答性の材料を使用した場合に、接着剤が水活性型であれば、転写材に画像を形成した後、水塗布装置を用いる水塗布工程によって水を塗布することにより、接着剤が離散的に配された接着層に、接着性を発現させることができる。また、接着剤が紫外線活性型であれば、転写材に画像を形成した後、紫外線照射装置を用いる紫外線照射工程によって紫外線を照射することにより、接着剤が離散的に配された接着層に、接着性を発現させることができる。接着剤が粘着型であれば、接着剤が離散的に配された接着層は、それ自体が接着性を発現している状態にあるため、圧着工程によって圧着することにより、接着層に接着性を発現させることができる。
接着剤が熱活性型および自己溶融型であれば、転写材に画像を形成した後、加熱装置を用いる加熱工程によって加熱することにより、接着剤が離散的に配された接着層に、接着性を発現させることができる。加熱装置としては、加熱ファン、加熱ベルト、熱転写ヘッド等を用いる装置が挙げられるが、これに限られるものではない。
上記の転写工程において、接着剤が複数の材料により構成されている場合には、複数の装置を組み合わせによる複数の工程を含んでもよい。
本発明においては、接着剤として、熱または圧力によって接着性を発現する熱可塑性の粒子を用いることが特に好ましいため、上記の転写方法の中でも、加熱と圧着とを併用した加熱圧着工程により転写する方法が好ましい。このような転写のための構成としては、ヒートローラと加圧ローラとを併用した構成が挙げられる。
本発明においては、転写材のインク受容層に画像を形成した後、そのインク受容層を画像支持体と重ね合わせてから、それらを、加熱したヒートローラと加圧ローラとの間を通して搬送して、接着剤が離散的に配された接着層を介して転写材と画像支持体とを接着させることにより、記録物を得ることができる。あるいは、転写材のインク受容層面に画像を記録した後、その転写材を加熱したヒートローラと加圧ロールとの間を通して、離散的に配された自己溶融接着剤の接着層を自己溶融させることにより、記録物を得ることができる。この場合、ヒートローラによる加熱は基材側から行うことが好ましい。基材側から加熱を行うことにより、インク受容層の水溶性樹脂を、それが接着性を発現するガラス転移温度以上にすることが容易となり、また接着剤が離散的に配された接着層を、接着性を発現する温度以上にすることが容易となる。
また本発明において、加熱圧着によって、インク受容層に画像が記録された転写材を画像支持体に転写する場合、加熱圧着後にもインク受容層の空隙構造が維持されるように、加熱圧着時の熱や圧力を制御することが重要である。空隙構造を維持することにより、加熱圧着時の熱および圧力によって、インクの液体成分が個々の空隙内で突沸して蒸気が発生したとしても、各々の空隙内に蒸気を封じ込めることができ、この結果、接着面に空気層などが形成されず、接着性を良好とすることができる。また、転写時に空隙構造が維持することにより、圧力による空隙の潰れ、および加熱による空隙の溶解を抑制し、インクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出すことを防止して、接着性を良好とすることができる。また凹凸状のインク受容層が表面となる記録物に画像を多層に記録する場合は、インク受容層に形成された3次元画像の凹凸部が維持されるように、加熱圧着時の熱および圧力を制御することも重要である。3次元画像の凹凸部を維持することにより、凹凸状のインク受容層が表面となる記録物に画像を多層に記録とした場合でも、下層の3次元画像の視認性が維持される。
加熱圧着の温度は、離散的に配された接着剤の熱可塑性樹脂が接着性を発現するガラス転移温度以上になるように制御することが好ましい。このように加熱圧着の温度を制御することにより、離散的に配された接着剤を介して、画像支持体に転写材を転写させることができる。より好ましくは、加熱圧着の温度を、転写材のインク受容層を形成する水溶性樹脂が溶解するガラス転移温度以上に制御することにより、インク受容層の水溶性樹脂と、接着剤と、が互いに溶融して接着し、接着性が向上する。さらに好ましくは、加熱圧着の温度を、保護層を構成する樹脂粒子E2が溶融する温度以上に制御することにより、箔切れ性を良好にすることができる。
また、加熱圧着の温度は、画像支持体と転写材とを加熱圧着させる際に、インク受容層の空隙構造を必要以上に潰すことなく、接着後も空隙構造を維持するように制御することも重要である。すなわち、加熱によって、空隙が溶解してインクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出ないように、空隙を構成する成分の溶解温度以下の温度で転写させることが好ましい。また、インクの水や溶媒成分が個々の空隙内で突沸や蒸気しないように、特に水の沸点以下の温度で転写させることが好ましい。
加熱圧着の圧力は、0.5kg/cm以上かつ7.0kg/cm以下とすることが好ましい。加熱圧着の圧力を0.5kg/cm以上とすることにより、転写材の画像を記録しインク受容層面を画像支持体に密着させて、画像支持体と転写材とを圧着させることができる。すなわち、空隙吸収型のインク受容層の微細な凹凸により画像支持体との間に生じる空間を、離散的に配された接着剤が溶融した熱可塑性樹脂によって十分に満たすことができる。一方、加熱圧着の圧力を7.0kg/cm以下とすることにより、画像支持体と転写材とを加熱圧着させる際に、インク受容層の空隙構造を必要以上に潰すことなく空隙を維持し、インクの液体成分である不揮発性溶剤が表面に染み出すことを防止して、接着性を良好とすることができる。しかも、凹凸状のインク受容層が表面となる記録物に画像を多層記録した場合でも、3次元画像の凹凸部が潰れることなく、下層の3次元画像の視認性が維持される。さらに、3次元画像の凹凸部により生じる空間を、離散的に配された接着剤が溶融した熱可塑性樹脂によって十分に満たして、接着性を良好にすることができる。
また、画像支持体55側に接する加圧ローラ22としては、シリコーンローラを使用することが好ましい。シリコーンローラは、離型機能を有しているため、ヒートローラ21と加圧ローラ22との間に画像支持体55が存在しないとき、つまり接着剤が離散的に配された接着層を有するインク受容層の表面が加圧ローラ22に接するときに、インク受容層の表面が転写し難くなる。したがって、離散的に配された接着剤を介してインク受容層の表面が加圧ローラ22に接着することが、防止できる。
本発明において、搬送層を含む基材の全てが剥離される転写材を用いる場合には、離散的に配された接着剤を介して、反転画像を記録することができる。その後、画像が記録された転写材を画像支持体に転写(接着)した後、剥離工程により、基材の全てを剥離する。これにより、画像が記録されたインク受容層が接着剤を介して画像支持体に積層された記録物を得ることができる。また、基材が保護層、ホログラム層、記録層などの機能層をさらに備えている場合には、転写材と画像支持体とを接着した後の剥離工程において、基材の搬送層(基材の一部)のみを剥離することにより、それらの機能層と一体化され、かつ画像が記録されたインク受容層が、接着剤を介して画像支持体に積層された記録物を得ることできる。
[6−4]剥離方法
本発明においては、画像が記録された転写材を画像支持体に転写(接着)した後、必要に応じて、基材の一部あるいは全てを剥離する剥離工程を設けてもよい。基材の全てを剥離することにより、画像が記録されたインク受容層が接着剤を介して画像支持体に積層された、記録物を得ることができる。この記録物は3次元画像が設けられたインク受容層が露出しているため、追記可能である。また、基材が保護層、ホログラム層、記録層などの機能層をさらに備えている場合には、基材の搬送層(基材の一部)のみを剥離することにより、それらの機能層と一体化され、かつ画像が記録されたインク受容層が、接着剤を介して画像支持体に積層された、記録物を得ることできる。
基材が熱時剥離タイプの場合には、加熱圧着後、温度が下がらないうちに、直ちに基材を剥離することが好ましい。このような熱時剥離タイプの場合は、分離爪を備えた剥離機構、または剥離ロールを用いて、基材を剥離することが好ましい。このような剥離方法は、転写材をロール・ツー・ロール(roll to roll)によって供給する場合、つまりロール状の転写材を繰り出して供給し、その転写材から剥離した基材をロール状に巻き取る場合に、生産性を高めることができて有効である。
基材が冷時剥離タイプの場合は、温度が下がっても基材を剥離することができる。そのため、ロールまたはピール機構による剥離だけでなく、手動による剥離も可能になり、特に、基材がカットシート状に加工されている場合に好適である。
基材を剥離する際の剥離角度θは0〜165°であり、さらに好ましくは90°〜165°である。このように剥離角度θを設定することにより、箔切れ性を良好にすることができる。
加熱圧着および剥離工程においては、公知の2本ロールタイプ、あるいは4本ロールタイプのラミネート機を使用してもよい。4本ロールタイプは、2本ロールタイプに比べて加熱圧着時の熱が伝わりやすく、剥離工程を容易に行うことができるため好ましい。
[7]記録物の製造装置
画像支持体への接着転写後に、転写材の搬送層としての基材が剥離されるインクジェット転写材を用いて、記録物を製造する製造装置について説明する。
本発明の転写材に画像を記録する装置としては、顔料インクを用いて記録するものであれば、公知の小型のインクジェットプリンタ、あるいは大判プリンタを使用することができる。また、転写材を画像支持体に転写して、基材を剥離する装置としては、ダイニック社製のD−10や、フジテックス社製のLPD3223 CLIVIA等の公知のラミネータが使用できる。ラミネータとしては、一対のヒートローラ21,加圧ローラ22を備えており、それらのローラ間を画像支持体と転写材が通過する際に、転写材の顔料浸透層が画像支持体に加熱圧着されるであればよい。
また、製造装置は、転写材を記録部へ送り出す供給部と、インクジェット記録方式などにより画像を記録する記録部と、加熱圧着部と、基材を剥離する剥離部と、顔料画像が転写された記録物を排出して集積する排出部と、が全て一体型的に構成されたものも使用できる。このような、一体型の装置は、例えば、特許05944947号公報に記載されているものも使用できる。
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、下記の実施例によっていかなる制限を受けるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
[アルミナ水和物分散液の調製]
ベーマイト構造(擬ベーマイト構造)を有するアルミナ水和物A(商品名「Disperal HP14」、サソール製)20部を純水79.4部中に添加し、さらに酢酸0.4部を添加して解膠処理を行うことにより、20%のアルミナ水和物分散液を得た。アルミナ水和物分散液におけるアルミナ水和物微粒子の平均粒子径は140nmであった。
[ポリビニルアルコール水溶液1の調製]
これとは別に、ポリビニルアルコール(商品名「PVA235」、クラレ製)をイオン交換水に溶解し、固形分含量が8%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。なお、ポリビニルアルコールは、平均重合度が3,500、けん化度が87〜89mol%であった。
[ポリビニルアルコール水溶液2の合成]
ポリビニルアルコール(商品名「PVA123」、クラレ製)をイオン交換水に溶解して、固形分含量が8%のポリビニルアルコール水溶液2を調製した。ポリビニルアルコールは、平均重合度が2300、けん化度が98〜99mol%であった。
[保護層形成用塗工液の合成]
アクリル樹脂水溶液(BASF社製ジョンクリル352D、Tg56℃、固形分濃度45%)を9部と、ウレタン樹脂水溶液(第一工業製薬社製スーパーフレックス130、Tg103℃、固形分濃度35%)を1部と、ポリビニルアルコール水溶液2を0.5部と、加えて5分攪拌混合し、保護層形成用の塗工液を得た。
[インク受容層形成用の塗工液1の調製]
アルミナ水和物分散液100部に、ポリビニルアルコール水溶液1を27.8部加え、さらにカチオン性樹脂としてポリアリルアミン3.0部を加え、スタティックミキサーにより混合し、インク受容層形成用塗工液1を得た。ポリアリルアミンとしては、重量平均重合度平均重合度が1,600のポリアリルアミン(商品名「PAA−01」、日東紡製)を用いた。
[インク受容層形成用の塗工液2の調製]
高松油脂株式会社製NS−625XCに、カチオン性樹脂としてポリアリルアミン3.0部を加え、スタティックミキサーにより混合し、膨潤型のインク受容層形成用塗工液2を得た。ポリアリルアミンとしては、平均重合度が1,600のポリアリルアミン(商品名「PAA−01」、日東紡製)を用いた。
[接着剤水溶液の調製]
DIC株式会社製ボンディック1940NE(平均粒子径0.62μm)5部に、イオン交換水10部を加えて、接着剤水溶液を得た。
[基材1の調整]
図18に示す3次元画像の形成装置1308を用いて、PET基材(商品名「テトロンG2」 厚さ19μm 帝人デュポンフィルム株式会社製)の表面に凹凸加工を行って、3次元画像を有する基材1を調整した。3次元画像は、基材全体に渡って形成されている。3次元画像の凹凸の幅は30μm、3次元画像の凹凸の高さは3μmであった。3次元画像の凹凸の幅は、基材1の断面をSEMにより観察して測定した。また、3次元画像の凹凸の高さは、ISO 25178に記載の方法で測定した。
[基材2の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の高さを10μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材2を調整した。
[基材3の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の高さを0.5μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材3を調整した。
[基材4の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の高さを13.0μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材4を調整した。
[基材5の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の高さを0.4μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材5を調整した。
[基材6の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の幅を100.0μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材6を調整した。
[基材7の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の幅を0.5μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材7を調整した。
[基材8の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の幅を150μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材8を調整した。
[基材9の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の幅を0.4μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材9を調整した。
[基材10の調整]
基材1の3次元画像の凹凸の高さを10.0μmとし、かつ、その3次元画像の凹凸の幅を30.0μmとした以外は、基材1と同様にして、3次元画像を有する基材10を調
整した。
[基材11の調整]
PET基材(商品名「テトロンG2)帝人デュポンフィルム株式会社製」)の表面(厚さ19μm)に、保護層形成用の塗工液を塗工した後、それを乾燥させることにより、PET基材上に保護層を形成した。その塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は5g/m2とした。乾燥温度は90℃とした。次に、図18に示す3次元画像の形成装置1308を用いて、PET基材上の透明保護増の表面に凹凸加工を行うことによって、3次元画像を有する基材11を調整した。その3次元画像の凹凸の幅は30μm、その3次元画像の凹凸の高さは3μmであった。3次元画像の凹凸の幅は、基材11の断面をSEMにより観察して測定した。また、3次元画像の凹凸の高さは、ISO 25178に記載の方法で測定した。
[転写材1の製造]
基材1の表面にインク受容層形成用の塗工液1を塗工した後、それを乾燥させることにより、基材とインク受容層とを含む、転写材の構成素材としての積層シート1を製造した。その塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は15g/m2とした。乾燥温度は60℃とした。インク受容層の厚さは15μmであった。
積層シート1におけるインク受容層の表面に、接着剤の水溶液を塗工して乾燥させることにより、インク受容層の表面に、接着剤が離散的に配された接着層を形成し、インク受容層の表面に、外部に直接露出する部分が残こるように転写材1を製造した。塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。乾燥温度は60℃とした。グラビアロールの溝の線数は200線とした。転写材1は、インク受容層を外側、基材を内側にしてロール状に巻くことにより、ロール状の転写材とした。島状に形成される接着層の厚さは1.24μmであった。
転写材1の断面SEMによって観察し、接着剤の粒子がインク受容層と接している部分の直径を測定した。その際、インク受容層と接している接着剤の粒子100個の直径の平均値を算出し、その平均値から、接着材の粒子1個がインク受容層と接している部分の面積を算出した。次に、記録面からのSEMの投影図により、インク受容層と接する接着剤の粒子の数を算出して、接着剤がインク受容層と接する部分Bの全面積を求めた。測定範囲の面積から、部分Bの全面積を減算することにより、接着剤が無いインク受容層の表面積、つまりインク受容層の露出部の面積(露出部面積)を算出した。また、記録面側からのSEMの投影図に基づいて、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)を確認した。その結果、接着剤がインク受容層と接する接触面積は、接着部面積よりも小さく、露出部面積は、インク受容層の全面積の75%であった。
[転写材2の製造]
転写材1の基材1を基材2とした以外は、転写材1と同様にして転写材2を得た。
[転写材3の製造]
転写材1の基材1を基材3とした以外は、転写材1と同様にして転写材3を得た。
[転写材4の製造]
転写材1の基材1を基材4とした以外は、転写材1と同様にして転写材4を得た。
[転写材5の製造]
転写材1の基材1を基材5とした以外は、転写材1と同様にして転写材5を得た。
[転写材6の製造]
転写材1の基材1を基材6とした以外は、転写材1と同様にして転写材6を得た。
[転写材7の製造]
転写材1の基材1を基材7とした以外は、転写材1と同様にして転写材7を得た。
[転写材8の製造]
転写材1の基材1を基材8とした以外は、転写材1と同様にして転写材8を得た。
[転写材9の製造]
転写材1の基材1を基材9とした以外は、転写材1と同様にして転写材9を得た。
[転写材10の製造]
転写材1の基材1を基材10とした以外は、転写材1と同様にして転写材10を得た。
[転写材11の製造]
基材における保護層の表面に、インク受容層形成用の塗工液1を塗工した後、それを乾燥することにより、基材、保護層、およびインク受容層を含む、転写材の構成素材としての積層シート2を製造した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は15g/m2とした。乾燥温度は100℃とした。インク受容層の厚さは15μmであった。次に、積層シート2におけるインク受容層の表面に、接着剤の水溶液を塗工して乾燥させることにより、インク受容層の表面に、接着剤が離散的に配された接着層を形成し、インク受容層の表面に、外部に直接露出する部分が残こるように転写材11を製造した。塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。乾燥温度は60℃とした。グラビアロールの溝の線数は200線とした。転写材11は、インク受容層を外側、基材を内側にしてロール状に巻くことにより、ロール状の転写材とした。島状に形成される接着層の厚さは1.24μmであった。
[転写材12の製造]
PET基材(商品名「テトロンG2)帝人デュポンフィルム株式会社製」)の表面(厚さ19μm)にインク受容層形成用の塗工液1を塗工した後、それを乾燥させることにより、基材とインク受容層とを含む、転写材の構成素材としての積層シート3を製造した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は15g/m2とした。乾燥温度は60℃とした。インク受容層の厚さは15μmであった。
積層シート3におけるインク受容層の表面に、接着剤の水溶液を塗工して乾燥させることにより、インク受容層の表面に、接着剤が離散的に配された接着層を形成し、インク受容層の表面に、外部に直接露出する部分が残こるように転写材12を製造した。塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。乾燥温度は60℃とした。グラビアロールの溝の線数は200線とした。転写材12は、インク受容層を外側、基材を内側にしてロール状に巻くことにより、ロール状の転写材とした。島状に形成される接着層の厚さは1.24μmであった。
転写材1と同様に、転写材12の断面をSEMによって観察して、インク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、を確認した。その結果、接着剤がインク受容層と接する接触面積は、接着部面積よりも小さく、露出部面積は、インク受容層の全面積の75%であった。
[転写材13の製造]
基材1の表面にインク受容層形成用の塗工液2を塗工した後、それを乾燥させることにより、基材とインク受容層とを含む、転写材の構成素材としての積層シート4を製造した。塗工にはダイコーターを用い、塗工速度は5m/分、乾燥後の塗工量は15g/m2とした。乾燥温度は60℃とした。インク受容層の厚さは15μmであった。
積層シート4におけるインク受容層の表面に、接着剤の水溶液を塗工して乾燥させることにより、インク受容層の表面に、接着剤が離散的に配された接着層を形成し、インク受容層の表面に、外部に直接露出する部分が残こるように転写材13を製造した。塗工液の塗工にはグラビアコーターを用い、塗工速度は5m/分とした。乾燥温度は60℃とした。グラビアロールの溝の線数は200線とした。転写材13は、インク受容層を外側、基材を内側にしてロール状に巻くことにより、ロール状の転写材とした。島状に形成される接着層の厚さは1.24μmであった。
転写材1と同様に、転写材13の断面をSEMによって観察して、インク受容層の露出部の面積(露出部面積)と、記録面側から直接臨める接着部の面積(接着部面積)と、を確認した。その結果、接着剤がインク受容層と接する接触面積は、接着部面積よりも小さく、露出部面積は、インク受容層の全面積の75%であった。
(実施例1)
転写材1に、上述した第1の製造装置を用いて、樹脂分散顔料インクによって画像(第1の画像)を記録した。その後、その転写材1を画像支持体に加熱圧着させてから、PET基材を剥離することにより、インク受容層の表面に3次元画像を有する記録物を得た。次に、その3次元画像を有するインク受容層の表面に、樹脂分散顔料インクによって画像(第2の画像)を記録して、実施例1の記録物1を得た。樹脂分散顔料インクの調製法については、後述する。
第1および第2の画像を記録する製造装置における記録部としては、シリアルヘッドを搭載した顔料インクジェットプリンタ(商品名「PIXUS PRO−1」、キヤノン株式会社製)を用いた。このプリンタに、樹脂分散顔料インクを搭載して、普通紙モード(吐出量4pl、解像度1200dpi、単色記録)によって、記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。画像支持体としては、PET製のカード(商品名「ペットカード」、合同技研株式会社製)を用いた。加熱圧着の条件は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。
[顔料インクの調製]
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の合成>
撹拌装置と、滴下装置と、温度センサと、上部に窒素導入装置を有する還流装置と、を取り付けた反応容器に、メチルエチルケトン1,000部を仕込み、そのメチルエチルケトンを撹拌しながら、反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置より、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル63部、メタクリル酸141部、スチレン417部、メタクリル酸ベンジル188部、メタクリル酸グリシジル25部、重合度調整剤(商品名「ブレンマーTGL」、日本油脂社製)33部、及びペルオキシ−2−エチルヘキサン酸−t−ブチル 67部を混合して得た混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で10時間反応を継続させて、酸価110mgKOH/g、ガラス転移点(Tg)89℃、重量平均分子量8,000の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液(樹脂分:45.4%)を得た。
<水性顔料分散体の調製1>
冷却機能を備えた混合槽に、フタロシアニン系ブルー顔料1,000部、上記の合成により得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液、25%水酸化カリウム水溶液、および水を仕込み、それらを撹拌および混合して混合液を得た。(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)は、フタロシアニン系ブルー顔料に対して、不揮発分で40%の比率となる量を用いた。また、25%水酸化カリウム水溶液としては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)が100%中和される量を用いた。さらに、水は、得られる混合液の不揮発分を27%とする量を用いた。得られた混合液は、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置に通し、循環方式により4時間分散させた。分散液の温度は40℃以下に保持した。
混合槽から分散液を抜き取った後、水10,000部で混合槽と分散装置との流路を洗浄し、洗浄液と分散液とを混合して希釈分散液を得た。得られた希釈分散液を蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して、濃縮分散液を得た。室温まで放冷した濃縮分散液を撹拌しながら2%塩酸を滴下して、pH4.5に調整した後、ヌッチェ式濾過装置にて固形分を濾過して水洗した。得られた固形分(ケーキ)を容器に入れ、水を加えた後、分散撹拌機を使用して再分散させ、25%水酸化カリウム水溶液によってpH9.5に調整した。その後、遠心分離器を使用し、6000Gで30分間かけて粗大粒子を除去した後、不揮発分を調整して水性シアン顔料分散体(顔料分:14% 酸価110)を得た。
フタロシアニン系ブルー顔料を、カーボンブラック系ブラック顔料、キナクリドン系マゼンタ顔料またはジアゾ系イエロー顔料に変更したことを除いては、水性シアン顔料分散体と同様にして、水性ブラック顔料分散体、水性マゼンタ顔料分散体、または水性イエロー顔料分散体を得た。
<インクの調製>
下表1に示す組成(合計:100部)となるように、水性顔料分散体および各成分を容器に投入し、プロペラ撹拌機を使用して30分以上撹拌した。その後、孔径0.2μmのフィルター(日本ポール社製)で濾過して、顔料インクを調製した。なお、表1中の「AE−100」は、アセチレングリコール10モルエチレンオキサイド付加物(商品名「アセチレノールE100」、川研ファインケミカル製)を示す。
(実施例2)
樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例2の記録物2を得た。
実施例1および2の転写材および記録物は、空隙吸収型インク受容層が3次元画像を有しているため、高いセキュリティー性を得ることができる。また、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径および細孔径が最適であるため、顔料インクを用いた実施例1においては、第1の画像を形成時に、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しない。そのため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。また第2の画像の形成時には、顔料インクの顔料色材が3次元画像の凹部に定着するため、耐擦過性も良好となる。一方、染料インクを用いた実施例2においては、第1の画像の形成時に、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。第2の画像は、耐擦過性が良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性がやや劣る。
(実施例3)
実施例1の転写材1を転写材2とした以外は、実施例1と同様にして実施例3の記録物3を得た。
(実施例4)
実施例2の転写材1を転写材2とした以外は、実施例2と同様にして実施例4の記録物4を得た。
実施例3および4の転写材および記録物は、転写材1に比べて、3次元画像が厚いものの、それが良好に視認できるため、高いセキュリティー性を得ることができる。また、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径および細孔径が最適であるため、顔料インクを用いた実施例3においては、第1の画像の形成時に、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しない。そのため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。また第2の画像の形成時には、顔料インクの顔料色材が3次元画像の凹部分に定着するため、耐擦過性も良好となる。一方、染料インクを用いた実施例4においては、第1の画像の形成時に、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。第2の画像は、耐擦過性が良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性がやや劣る。
(実施例5)
実施例1の転写材1を転写材3とした以外は、実施例1と同様にして実施例5の記録物5を得た。
(実施例6)
実施例2の転写材1を転写材3とした以外は、実施例2と同様にして実施例6の記録物6を得た。
実施例5および6の転写材および記録物は、転写材1に比べて、3次元画像が薄いものの、それが良好に視認できるため、高いセキュリティー性を得ることができる。また、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径および細孔径は最適であるため、顔料インクを用いた実施例5においては、第1の画像の形成時に、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しない。そのため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。また第2の画像の形成時には、顔料インクの顔料色材が3次元画像の凹部に定着するため、耐擦過性も良好になる。一方、染料インクを用いた実施例6においては、第1の画像の形成時に、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。第2の画像は、耐擦過性が良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性がやや劣る。
(実施例7)
実施例1の転写材1を転写材4とした以外は、実施例1と同様にして実施例7の記録物7を得た。
(実施例8)
実施例2の転写材1を転写材4とした以外は、実施例2と同様にして実施例8の記録物8を得た。
実施例7および8の転写材および記録物は、転写材1に比べて、3次元画像の高さが大きく、それが良好に視認できるため、高いセキュリティー性を得ることができる。しかし、3次元画像の高さが大きいため、インク受容層に厚い部分と薄い部分とが存在し、それらの部分におけるインクの吸収容量の差が大きい。インク受容層の薄い部分ではインク吸収容量が小さくなり、薄い部分に吸収しきれなかったインクが厚い部分の方に流れて吸収されるため、薄い部分において画像の滲みが生じるおそれがある。さらに、インク受容層の厚い部分と薄い部分とにおいて画像に濃度ムラが生じて、記録特性がやや劣るおそれがある。第2の画像の形成時には、顔料インクの顔料色材が3次元画像の凹部に定着するた
め、耐擦過性は良好となる。
一方、染料インクを用いた実施例8においても、第1の画像の形成時に、インク受容層の厚い部分と薄い部分においてインクの吸収容量が異なる。そのため、薄い部分ではインク吸収容量が小さくなり、薄い部分に吸収しきれなかったインクが厚い部分の方に流れて吸収され、薄い部分において画像の滲みが生じるおそれがある。さらに、インク受容層の厚い部分と薄い部分とにおいて画像に濃度ムラが生じて、記録特性がやや劣るおそれがある。また、第2の画像は、耐擦過性は良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(実施例9)
実施例1の転写材1を転写材5とした以外は、実施例1と同様にして実施例9の記録物9を得た。
(実施例10)
実施例2の転写材1を転写材5とした以外は、実施例2と同様にして実施例10の記録物10を得た。
実施例9および10の転写材および記録物は、転写材1に比べて、3次元画像が薄いため、その視認性が低く、セキュリティー性能がやや劣る。顔料インクを用いた実施例9においては、第1の画像の形成時には、顔料インクの色材が内部に浸透しない。そのため、エリアファクターは100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。しかし、3次元画像が薄いため、第2の画像の形成時に、3次元画像の凹部に定着する顔料インクの顔料色材の量が少なく、3次元画像の凸部にも顔料インクが定着する。そのため、耐擦過性がやや劣る。一方、染料インクを用いた実施例10においては、第1の画像の形成時には、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。第2の画像は、耐擦過性は良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(実施例11)
実施例1の転写材1を転写材6とした以外は、実施例1と同様にして実施例11の記録物11を得た。
(実施例12)
実施例2の転写材1を転写材6とした以外は、実施例2と同様にして実施例12の記録物12を得た。
実施例11および12の転写材および記録物は、転写材1に比べて、3次元画像の幅が広いものの、それを良好に視認することができるため、高いセキュリティー性を得ることができる。また、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径および細孔径が最適である。そのため、顔料インクを用いた実施例11においては、第1の画像の形成時に、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性がわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性も良好である。また第2の画像を形成時には、顔料インクは3次元画像により、顔料色材が3次元画像の凹み部分に定着するため、耐擦過性も良好になる。一方、染料インクを用いた実施例12においては、第1の画像の形成時には、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。第2の画像は、耐擦過性は良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(実施例13)
実施例1の転写材1を転写材7とした以外は、実施例1と同様にして実施例13の記録物13を得た。
(実施例14)
実施例2の転写材1を転写材7とした以外は、実施例2と同様にして実施例14の記録物14を得た。
実施例13および14の転写材および記録物は、転写材1に比べて、3次元画像の幅が狭いものの、それを良好に視認できるため、高いセキュリティー性を得ることができる。また、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径および細孔径は最適であるため、顔料インクを用いた実施例13においては、第1の画像の形成時に、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しない。そのため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。また、第2の画像の形成時には、顔料インクの顔料色材が3次元画像の凹部に定着するため、耐擦過性も良好になる。一方、染料インクを用いた実施例14においては、第1の画像の形成時に、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。第2の画像は、耐擦過性は良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(実施例15)
実施例1の転写材1を転写材8とした以外は、実施例1と同様にして実施例15の記録物15を得た。
(実施例16)
実施例2の転写材1を転写材8とした以外は、実施例2と同様にして実施例16の記録物16を得た。
実施例15および16の転写材および記録物は、転写材1に比べて、3次元画像の幅が広く、その視認性が優れているため、高いセキュリティー性を得ることができる。しかし、顔料インクを用いた実施例15においては、3次元画像の幅が大きいため、第2の画像の記録面を指または繊維等で擦過した場合に、3次元画像の凹部まで指または繊維等が入り込むおそれがあるため、耐擦過性はやや劣る。なお、第1の画像の形成時には、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。一方、染料インクを用いた実施例16においては、第1の画像の形成時に、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。第2の画像は、耐擦過性は良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(実施例17)
実施例1の転写材1を転写材9とした以外は、実施例1と同様にして実施例17の記録物17を得た。
(実施例18)
実施例2の転写材1を転写材9とした以外は、実施例2と同様にして実施例18の記録物18を得た。
実施例17および18の転写材および記録物は、転写材1に比べて、3次元画像の幅が狭いため、視認性が低く、セキュリティー性能はやや劣る。また、顔料インクを用いた実施例17においては、3次元画像の幅が狭いため、第2の画像の形成時に、3次元画像の凹部に顔料色材を収納することが困難であり、3次元画像の凸部にも顔料インクが定着するため、耐擦過性がやや劣る。なお、第1の画像の形成時には、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。一方、染料インクを用いた実施例18においては、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、第1の画像の形成時にエリアファクターが100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。また、第2の画像は、耐擦過性は良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(実施例19)
実施例1の転写材1を転写材10とした以外は、実施例1と同様にして実施例19の記録物19を得た。
(実施例20)
実施例2の転写材1を転写材10とした以外は、実施例2と同様にして実施例20の記録物20を得た。
実施例19および20における転写材は、図17のように、3次元画像1300よりもインク受容層53の方が薄いため、3次元画像1300の凹部には、接着層1012の接着剤1002が多く存在する。接着剤の多く存在する3次元画像の凹部はインクの吸収速度が遅く、第1の画像の形成時には、その凹部にインクが滞留しやすくなるため、記録特性はやや劣る。また、第2の画像の形成時には、顔料インクの顔料色材が3次元画像の凹部に定着するため、耐擦過性は良好になる。一方、染料インクを用いた実施例20において、第2の画像は、耐擦過性は良好であるものの、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(実施例21)
実施例1の転写材1を転写材11とした以外は、実施例1と同様にして実施例21の記録物21を得た。
記録物21は、上述した製造装置を用いて、樹脂分散顔料インクによって第1の画像を記録した。その後、その転写材11を画像支持体に加熱圧着させてから、PET基材のみを剥離することにより、インク受容層の表面が3次元画像を有し、かつインク受容層の表面が保護層によって被覆された記録物21を得た。この記録物21は、その最表面が保護層となるため、第2の画像は記録しなかった。第1の画像を記録する製造装置の記録部としては、シリアルヘッドを搭載した顔料インクジェットプリンタ(商品名「PIXUS PRO−1」、キヤノン株式会社製)を用いた。このプリンタに樹脂分散顔料インクを搭載し、普通紙モード(吐出量4pl、解像度1200dpi、単色記録)によって、記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。画像支持体としては、PET製のカード(商品名「ペットカード」、合同技研株式会社製)を用いた。加熱圧着の条件は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。
(実施例22)
実施例21の樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。それ以外は、実施例21と同様にして実施例22の記録物22を得た。
実施例21および22における転写材は、基材の一部が剥離されるように構成されている。転写材の加熱圧着後に、搬送層であるPET基材が剥離されて、保護層がインク受容層の記録面に積層される。転写材および記録物は、空隙吸収型のインク受容層が3次元画像を有しているため、高いセキュリティーを得ることができる。また、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径および細孔径は最適である。そのため、顔料インクを用いた実施例21においては、第1の画像の形成時に、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しないため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。また、記録物21の最表面層が保護層となるため、記録物21の耐擦過性も特に良好になる。
一方、染料インクを用いた実施例22においては、第1の画像の形成時に、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。また、記録物の22の最表面層が保護層となるため、記録物22の耐擦過性も特に良好になる。しかしながら、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(実施例23)
実施例23においては、上述した第1の製造装置を用いて、転写材1の記録面に、樹脂分散顔料インクにより第1の画像を記録した。その後、その転写材1を画像支持体に加熱圧着させ、PET基材を剥離しないことにより、インク受容層の表面が3次元画像を有し、かつインク受容層表面がPET基材によって被覆された記録物23を得た。この記録物23は最表面がPET基材となるため、第2の画像は記録しなかった。第1の画像を記録する製造装置の記録部としては、シリアルヘッドを搭載した顔料インクジェットプリンタ(商品名「PIXUS PRO−1」、キヤノン株式会社製)を用いた。このプリンタに、樹脂分散顔料インクを搭載し、普通紙モード(吐出量4pl、解像度1200dpi、単色記録)によって、記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。画像支持体としては、PET製のカード(商品名「ペットカード」、合同技研株式会社製)を用いた。加熱圧着の条件は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secとした。
(実施例24)
実施例23の樹脂分散顔料インクの代わりに、染料インクとして「商品名 BC−341XL キヤノン製」を用いて、解像度1200dpi、インク吐出量4plの条件下において、マゼンタインクによって記録デューティー100%の100%ベタ画像を記録した。それ以外は、実施例23と同様にして実施例24の記録物24を得た。
実施例23および24においては、転写材の加熱圧着後に、搬送層であるPET基材は剥離しない。そのため、記録物のインク受容層にはPET基材が積層されている。転写材および記録物は、空隙吸収型のインク受容層が3次元画像を有しているため、高いセキュリティー性を得ることができる。また、インク受容層を形成する無機微粒子の平均粒子径および細孔径が最適であるため、顔料インクを用いた実施例23においては、第1の画像の形成時に、顔料色材がインク受容層の内部に浸透しない。そのため、エリアファクターが100%になりにくく、画像の記録特性はわずかに劣るものの、実使用上は問題がなく、画像の保存性は良好である。また、記録物23の最表面層が基材層となるため、その記録物23の耐擦過性も特に良好になる。
一方、染料インクを用いた実施例24においては、第1の画像の形成時に、染料インクがインク受容層の内部にほぼ等方的に拡がって浸透するため、エリアファクターは100%になりやすく、画像の記録特性は良好である。また、記録物24の最表面層が保護層となるため、その記録物24の耐擦過性も特に良好になる。しかしながら、耐水性、耐マイグレーション性、および画像の保存性はやや劣る。
(比較例1)
実施例1の転写材1を転写材12とした以外は、実施例1と同様にして比較例1の記録物25を得た。
(比較例2)
実施例2の転写材1を転写材12とした以外は、実施例1と同様にして比較例2の記録物26を得た。
比較例1および2においては、転写材の基材が平滑であるため、空隙吸収型のインク受容層は、平滑であって3次元画像を有していない。顔料インクを用いる比較例1においては、第2の画像の形成時に、顔料色材がインク受容層の表面に残るため、耐擦過性が低下した。
(比較例3)
実施例1の転写材1を転写材13とした以外は、実施例1と同様にして比較例3の記録物27を得た。
(比較例4)
実施例2の転写材1を転写材13とした以外は、実施例1と同様にして比較例4の記録物28を得た。
比較例3および4においては、転写材の接着性が低く、転写材を画像支持体に転写することができなかった。そのため、記録物が作成できず、画像の保存性が評価できなかった。
<評価>
(視認性)
上述した実施例および比較例の転写材を用いて、3次元画像(3次元微細構造による画像)の視認性を評価した。視認性は、3次元画像を目視により視認して評価した。これらの評価結果は下表2から5に示す。
○:3次元画像の90%以上が視認可能。
△:3次元画像の50%以上90%未満が視認可能
×:3次元画像の50%未満が視認可能。
(画像特性)
上述した実施例および比較例の転写材を用いて、画像の記録特性(画像特性)を評価した。画像特性は、インク吸収性と白抜け度合い(画像濃度)を総合して評価した。インク吸収性と白抜け度合い(画像濃度)の評価結果は、表2から5に示す。
(インク吸収性)
上述した実施例および比較例の転写材に対して、インク吸収性を評価した。具体的には、転写材に画像を記録してから1秒後に、画像の記録面に紙を重ねた。そして、転写材に吸収されていない未吸収のインクが、紙へ移る様子を目視により確認し、以下の基準に基づいてインク吸収性を評価した。
◎:紙へのインク移りが5%未満である。
○:紙へのインク移りが5%以上10%未満である。
△:紙へのインク移りが10%以上20%未満である。
×:紙へのインク移りが20%以上である。
(白抜け度合い(画像濃度))
上述した実施例および比較例の転写材を用いて、画像の白抜け度合いを評価した。具体的には、転写材の記録面にベタ画像を記録した後、その記録面とは反対側面から、ベタ画像の記録部を顕微鏡により観察し、以下の基準に基づいて白抜け度合いを評価した。
◎:エリアファクター95%以上である。
○:エリアファクター70%以上95%未満である。
△:エリアファクター50%以上70%未満である。
×:エリアファクターが50%未満である。
(接着特性)
上述した実施例および比較例の転写材の接着性を評価した。接着性は、転写材を画像支持体に加熱圧着してから、以下の基準に基づいて評価した。実施例31および32については、転写材の表面側のインク受容層と、その裏面側のヒートシール層と、の接着性を以下の基準に基づいて評価した。また、実施例33および比較例5については、インクジェット記録された記録面の表面状態を顕微鏡により観察し、以下の基準に基づいて評価した。これらの評価結果は表2から5に示す。
○:画像支持体に良好に転写(接着)する。あるいは、記録面の表面が接着剤によって完全に被覆される。
△:画像支持体に一部に転写(接着)しない部分がある。あるいは、記録面の表面に、接着剤によって完全に被覆されない部分がある。
×:画像支持体に全く転写(接着)しない。記録面の表面が接着剤によって被覆されない。
(画像の擦過性)
画像の擦過性に関しては、第2の画像が記録後の記録物に対して、学振試験機により試験を行った。記録物の記録面を、500gの荷重を掛けたシルホン紙によって50回擦過した。記録物の表面の画像の光学濃度を、光学反射濃度計(商品名「RD−918」、グレタマクベス製)を用いて測定し、下記式(2)より残存OD率を算出して評価した。これらの評価結果は表2から5に示す。
残存OD率=(試験後のOD/試験前のOD)×100% ・・・ (2)
○:残OD率が80%以上。
△:残OD率が50%以上80%未満。
×:残OD率が50%未満。