しかしながら、橋台は、地盤側に構築される関係上、圧縮荷重に対しては、受働土圧によって十分な耐荷力を期待することができる反面、引張荷重に対しては、主働土圧と併せた荷重を橋台自体で支持する必要があるため、橋台を大規模化しない限り、十分な耐荷力を期待することが難しい。
そのため、従来においては、橋梁上部工と橋台との間に減衰性能が高い摩擦ダンパーを設置することができず、あるいは非特許文献1に記載されているように片押し型制震デバイスを使用せざるを得ず、いずれにしろ十分な耐震性能を付与することができないという問題を生じていた。
また、ブレースは、引張荷重に対しては、その断面に見あたった耐荷力を期待することができる反面、圧縮荷重に対しては、座屈を考慮して断面を大きくする必要があるため、従来においては、断面が過大となって不経済になるのを回避する観点から、減衰性能が高い摩擦ダンパーをブレースに設置することができず、結果として十分な耐震性能を付与することができないという問題を生じていた。
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、橋桁等の上部工と橋台との間に設置する場合や、ブレースとラーメン架構との間に設置する場合において、橋台を大型化したりブレースを大断面化せずとも、高い耐震性能を付与することが可能な摩擦ダンパーを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る摩擦ダンパーは請求項1に記載したように、互いに相対移動する摺動側部位及び摩擦側部位のうち、該摺動側部位に取り付けられる摺動材と、前記相対移動によって前記摺動材の摺動面上を摺動するように前記摩擦側部位の近傍に配置される摩擦材と、前記摩擦側部位、前記摩擦材、前記摺動材及び前記摺動側部位を貫通するように荷重伝達ロッドを配置するとともに前記摩擦側部位及び前記摺動側部位で前記摺動材及び前記摩擦材が挟み付けられるように前記荷重伝達ロッドに弾性部材を連結してなる押圧機構とを備えた摩擦ダンパーにおいて、
対向配置された一対の調整部材で構成されるとともに該一対の調整部材の一方がその非対向側で前記摩擦側部位に取り付けられ他方の非対向側に前記摩擦材が取り付けられてなる離間距離調整機構を備え、該離間距離調整機構は、前記一対の調整部材の対向方向に直交する相対変位に対し、所定の範囲内においては前記一対の調整部材の離間距離を変化させることで前記弾性部材の復元力が変化するようになっているとともに、前記範囲外においては前記離間距離の変化を拘束することで前記弾性部材の復元力を維持するようになっているものである。
また、本発明に係る摩擦ダンパーは、前記摺動材を前記摺動側部位の両面に取り付けられた2つの摺動材とし、前記摩擦材を前記2つの摺動材の摺動面上をそれぞれ摺動するように配置された2つの摩擦材とし、前記離間距離調整機構を前記摺動側部位のうち、少なくともいずれか一方の側に配置したものである。
また、本発明に係る摩擦ダンパーは、前記離間距離調整機構を、前記相対変位のうち、前記摺動側部位及び前記摩擦側部位の相対移動が互いに接近する方向である場合の相対変位を正方向の相対変位として該相対変位に対し前記一対の調整部材の離間距離を大きくすることで前記弾性部材の復元力が増加するように構成するとともに、前記相対移動が互いに離間する方向である場合の相対変位を負方向の相対変位として該負方向の相対変位に対し前記一対の調整部材の離間距離を小さくすることで前記弾性部材の復元力が減少するように構成したものである。
また、本発明に係る摩擦ダンパーは、前記負方向の相対変位に対して前記弾性部材の復元力が実質的にゼロとなるように前記離間距離調整機構を構成したものである。
また、本発明に係る摩擦ダンパーは、前記離間距離調整機構を、前記相対変位のうち、前記摺動側部位及び前記摩擦側部位の相対移動が互いに接近する方向である場合の相対変位を正方向の相対変位として該相対変位に対し前記一対の調整部材の離間距離を小さくすることで前記弾性部材の復元力が減少するように構成するとともに、前記相対移動が互いに離間する方向である場合の相対変位を負方向の相対変位として該負方向の相対変位に対し前記一対の調整部材の離間距離を大きくすることで前記弾性部材の復元力が増加するように構成したものである。
また、本発明に係る摩擦ダンパーは、前記正方向の相対変位に対して前記弾性部材の復元力が実質的にゼロとなるように前記離間距離調整機構を構成したものである。
また、本発明に係る摩擦ダンパーは、前記一対の調整部材を、それらの対向面が前記相対変位の方向に対し傾斜角度θで傾斜させることで一方の対向面が他方の対向面を滑動するように構成するとともに、一方の調整部材が他方の調整部材に係止されるように該他方の調整部材に係止部を設けて構成したものである。
また、本発明に係る摩擦ダンパーは、前記傾斜角度θを、
tanθ<(μ1−μ0)/(1+μ0μ1)
μ1;前記摩擦材が前記摺動面を摺動する際の摩擦係数
μ0;前記対向面が互いに滑動する際の摩擦係数
を満たすθとしたものである。
また、本発明に係る摩擦ダンパーは、前記一対の調整部材を、平行が保持されつつ離間距離が増減するように両端をピンとしたリンク部材を介して互いに連結されてなる2枚の板体で構成するとともに、該2枚の板体のうちの一方が最大離間位置で他方に係止されるように該他方の板体に係止部を設けたものである。
本発明に係る摩擦ダンパーにおいては、従来と同様、摺動側部位に取り付けられた摺動材と、該摺動側部位に対して相対移動する摩擦側部位の側に設けられ上述した摺動材の摺動面上を摺動する摩擦材と、これらを貫通するように配置された荷重伝達ロッド及び該荷重伝達ロッドに連結された弾性部材からなる押圧機構とを備えるが、本発明ではさらに、対向配置された一対の調整部材で構成されるとともに該一対の調整部材の一方がその非対向側で摩擦側部位に取り付けられ他方の非対向側に摩擦材が取り付けられてなる離間距離調整機構を備え、該離間距離調整機構は、一対の調整部材の対向方向に直交する相対変位に対し、所定の範囲内においては、一対の調整部材の離間距離を変化させることで上述した弾性部材の復元力が変化するようになっているとともに、範囲外においては、離間距離の変化を拘束することで上述した弾性部材の復元力を維持するようになっている。
このようにすると、摺動側部位と摩擦側部位とが相対移動したとき、一対の調整部材に入力される相対変位が所定範囲内の場合には、上述した弾性部材の復元力の変化に伴い、摺動面に対する摩擦材の法線方向荷重も変化し、所定範囲を超えようとする相対変位の場合には、離間距離の変化が拘束されるため、摺動面に対する摩擦材の法線方向荷重も一定となる。
すなわち、本発明に係る摩擦ダンパーによれば、摺動側部位と摩擦側部位との相対移動の方向に応じて摩擦力を変化させることが可能となり、制振デバイスとして建築構造物や土木構造物に適用したとき、摺動側部位と摩擦側部位との相対移動の方向に応じて減衰力を自在に設定することが可能となり、かくして多様な制振制御あるいは制振設計を行うことができる。
摺動側部位及び摩擦側部位は、互いに相対移動する部位であってその相対移動から摩擦力を発生させて減衰力を生じさせることができるのであれば、どのような部位でもかまわないが、橋梁の上部工と橋脚あるいは橋台や、ラーメン架構とブレースが典型的な適用対象となる。
摺動材及び摩擦材は、摺動材の摺動面上を摩擦材がスムーズに摺動するのであれば、それらを単一組で構成してもかまわないが、その場合、弾性部材の復元力又はその反力を、相対移動が許容される形で摺動側部位に作用させねばならないため、単一組構成ではなく、摩擦側部位を摺動側部位の両側に延設されるように構成するとともに、摺動側部位を中心として摺動材及び摩擦材を対称配置する構成が一般的である。
具体的には、摺動材を、摺動側部位の両面に取り付けられた2つの摺動材とし、摩擦材を、2つの摺動材の摺動面上をそれぞれ摺動するように配置された2つの摩擦材とする構成を採用することができる。
ここで、離間距離調整機構は、必ずしも摺動側部位の両側に配置する必要はなく、摺動側部位のうち、いずれか一方の側だけに配置し、他方の側については従来と同様に構成してもかまわないが、発生荷重のバランスあるいは対称配置による安定性を考慮すれば、摺動側部位の両側に配置するのが望ましい。
離間距離調整機構において、一対の調整部材に生じる対向直交方向の相対変位をそれらの離間距離の変化に変換することができる具体的構成は、直線運動をそれに直交する方向の別の直線運動に変換する公知の機構を適宜採用することが可能である。
ここで、上述の離間距離調整機構を、相対変位のうち、摺動側部位及び摩擦側部位の相対移動が互いに接近する方向である場合の相対変位を正方向の相対変位として該相対変位に対し一対の調整部材の離間距離を大きくすることで弾性部材の復元力が増加するように構成するとともに、相対移動が互いに離間する方向である場合の相対変位を負方向の相対変位として該負方向の相対変位に対し一対の調整部材の離間距離を小さくすることで弾性部材の復元力が減少するように構成したならば、例えば橋梁の上部工と橋台との間に設置する摩擦ダンパーに適用した場合、大きな摩擦力が圧縮荷重として橋台に作用しても、橋台背後に拡がる地盤の受働土圧がこれを確実に支持するとともに、引張荷重として橋台に作用する際には摩擦力が小さくなるため、橋台背後に拡がる地盤から橋台に作用する主働土圧と合わせても、橋台底面からの地盤反力で確実に支持することが可能となり、全体としては、橋台の大型化を必要とすることなく、十分な減衰性能を発揮させることが可能となる。
ここで、負方向の相対変位に対し、弾性部材の復元力が実質的にゼロとなるように離間距離調整機構を構成したならば、摩擦ダンパーによる引張荷重が橋台には作用しなくなるため、上述した作用効果がさらに顕著に発揮される。
一方、上述の離間距離調整機構を、正方向の相対変位に対しては一対の調整部材の離間距離を小さくすることで弾性部材の復元力が減少するように構成するとともに、負方向の相対変位に対しては一対の調整部材の離間距離を大きくすることで弾性部材の復元力が増加するように構成したならば、例えばラーメン架構の柱梁接合部とブレース端部との間に設置する摩擦ダンパーに適用した場合、大きな摩擦力が引張荷重としてブレースに作用しても、該ブレースの引張耐力がこれを確実に支持するとともに、圧縮荷重としてブレースに作用する際には摩擦力が小さくなるため、座屈荷重が緩和され、全体としては、ブレースの大断面化を必要とすることなく、十分な減衰性能を発揮させることが可能となる。
ここで、正方向の相対変位に対し、弾性部材の復元力が実質的にゼロとなるように離間距離調整機構を構成したならば、摩擦ダンパーによる圧縮荷重がブレースには作用しなくなるため、上述した作用効果がさらに顕著に発揮される。
離間距離調整機構は上述したように、一対の調整部材の離間距離を正方向の相対変位で大きくすることで弾性部材の復元力が増加するようにかつ負方向の相対変位で小さくすることで弾性部材の復元力が減少するように構成され、あるいは一対の調整部材の離間距離を正方向の相対変位で小さくすることで弾性部材の復元力が減少するようにかつ正方向の相対変位で大きくすることで弾性部材の復元力が増加するように構成されることにより、橋梁においては、橋台の大型化を必要とすることなく、十分な減衰性能を発揮させることが可能となり、ラーメンブレース構造においては、ブレースの大断面化を必要とすることなく、十分な減衰性能を発揮させることが可能となるが、一対の調整部材を具体的にどのように構成するかは任意である。
例えば、一対の調整部材は、それらの対向面を相対変位の方向に対し傾斜角度θで傾斜させることで一方の対向面が他方の対向面を滑動するように構成するとともに、一方の調整部材が他方の調整部材に係止されるように該他方の調整部材に係止部を設けた構成とすることができる。
ここで、傾斜角度θを、
tanθ<(μ1−μ0)/(1+μ0μ1)
μ1;摩擦材が摺動面を摺動する際の摩擦係数
μ0;対向面が互いに滑動する際の摩擦係数
を満たすθとしたならば、一対の調整部材が互いの対向面で滑動することなく、摩擦材が摺動面を摺動する事態を未然に回避することが可能となる。
また、一対の調整部材は、平行が保持されつつ離間距離が増減するように両端をピンとしたリンク部材を介して互いに連結されてなる2枚の板体で構成するとともに、該2枚の板体のうちの一方が最大離間位置で他方に係止されるように該他方の板体に係止部を設けた構成とすることができる。
以下、本発明に係る摩擦ダンパーの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る摩擦ダンパーを示した組立斜視図である。同図に示すように、本実施形態に係る摩擦ダンパー1は、橋梁の上部構造(以下、単に上部工)と橋台(いずれも図示せず)との間に設置されるものであって、上部工側から延設される摺動側部位としての連結材2aと、橋台側から延設され摺動側部位に対して橋軸方向に沿って相対移動する摩擦側部位としての連結材2bとの間に介装してあり、H形鋼で構成された連結材2aの上フランジ3の上下面でかつウェブ4を中心とした左右位置に、計4つとなるよう、ステンレス板で構成された摺動材5をそれぞれ取り付けてある。なお、連結材2aの下フランジは、図面の便宜上、省略してある。
摺動材5は、上フランジ3に設けられた長孔状のスリット9とほぼ同形のスリット8をその長手方向に沿って形成してあるとともに、それらの開口がほぼ一致するように上フランジ3に取り付けてあり、スリット8,9は、後述する荷重伝達ロッドとしての高力ボルト10を挿通できるようになっている。
一方、連結材2bは、連結材2aと同様にH形鋼で構成してあるとともに、その上フランジ3の上下面でかつウェブ4を中心とした左右位置に、計4つとなるよう、ブラケット15をそれぞれ取り付けてある。なお、連結材2bの下フランジは、連結材2aと同様に省略してある。
ブラケット15は、短冊状の平板15aとその基端側に固着された高さ調整ブロック15bとで構成してあるとともに、該高さ調整ブロックが固着された側で連結材2bの上フランジ3の上下左右面にそれぞれボルト接合してあり、連結材2bとともに橋台側に荷重伝達を行う摩擦側部位として機能する。
また、本実施形態に係る摩擦ダンパー1は、摩擦側部位であるブラケット15の先端、すなわち平板15aの先端と摺動材5との間に、計4つとなるように上フランジ3の上下左右側で離間距離調整機構20をそれぞれ備える。
離間距離調整機構20は、一対の調整部材21a,21bを対向配置して構成してあり、該調整部材のうち、調整部材21aは、その非対向側にてブラケット15の平板15aの先端に取り付けてあるとともに、調整部材21bの非対向側には、摺動材5の摺動面上を摺動するように摩擦材6を取り付けてある。ブラケット15を構成する高さ調整ブロック15bは、摩擦材6が摺動材5の摺動面上を摺動するようにその高さを適宜設定しておく。
摩擦材6は、例えばステンレス基板にフェノール樹脂を積層して構成することができる。
本実施形態に係る摩擦ダンパー1は、連結材2aの上フランジ3、その両面に取り付けられた摺動材5,5、該摺動材の摺動面を摺動する摩擦材6,6及び該摩擦材が調整部材21bに取り付けられてなるブラケット15,15を共通に貫通するように高力ボルト10を配置するとともに、ブラケット15及び連結材2aの上フランジ3で摩擦材6及び摺動材5が挟み付けられるように高力ボルト10に弾性部材としての皿バネ12を連結してなる押圧機構を備える。
調整部材21a,21bは図2に示すように、それらの対向面31a,31bが該調整部材の相対変位の方向、同図では左右方向に対し傾斜角度θで傾斜するように構成してあるとともに、上述の相対変位に応答して対向面31bが対向面31aを滑動するように構成してあり、離間距離調整機構20は、摺動側部位及び摩擦側部位の相対移動が互いに接近する方向である場合の相対変位を正方向の相対変位、離間する方向の相対変位を負方向の相対変位としたとき、正方向の相対変位に対し、調整部材21a,21bの離間距離を大きくすることで皿バネ12の復元力が増加するようになっているとともに、負方向の相対変位に対し、調整部材21a,21bの離間距離を小さくすることで皿バネ12の復元力が減少するようになっている。
対向面31a,31bは例えば、一方にステンレス板を、他方に「テフロン(登録商標)」の商品名でデュポン株式会社から販売されている摩擦低減材が被覆されたステンレス板をそれぞれ取り付けて構成することができる。
調整部材21aには、調整部材21bの先端側縁部と反対側縁部がそれぞれ当接することで該調整部材を係止可能な係止部32を先端側縁部と反対側縁部にそれぞれ突設してあり、離間距離調整機構20は、調整部材21bの滑動を、係止部32,32の内法寸法を限度とした範囲に制限するとともにそれによって調整部材21a,21bの離間距離の変化を拘束することにより、皿バネ12の復元力が維持されるようになっている。
調整部材21bには、高力ボルト10が挿通されるボルト挿通孔33をスリット状に形成してあり、上述した相対変位の範囲内で調整部材21bが往復動できるようになっている。
なお、高力ボルト10は、台座11が嵌め込まれた状態でブラケット15を構成する平板15aの先端近傍に形成されたボルト挿通孔7に挿通されるとともに、調整部材21aに形成されたボルト挿通孔34、調整部材21bに形成された長孔状のボルト挿通孔33、スリット8,9に順次挿通され、さらに反対側に対称配置された調整部材21bのボルト挿通孔33、調整部材21aのボルト挿通孔34、平板15aのボルト挿通孔7に順次挿通された上、先端に皿バネ12及び台座13を嵌め込んでその上からナット14を螺合して締め付けられるようになっており、皿バネ12とともに、摺動側部位と摩擦側部位との相対移動が拘束されることなく、各摩擦材6を、対応する摺動材5にそれぞれ押圧するための押圧機構として機能する。
本実施形態に係る摩擦ダンパー1においては、摺動側部位としての連結材2aと摩擦側部位としてのブラケット15との間に相対移動が生じたとき、その相対移動は、離間距離調整機構20を構成する調整部材21a,21bにそれらの相対変位として入力するが、該相対変位が、調整部材21aの係止部32によって調整部材21bの滑動が制限されない範囲内のときには、該相対変位によって調整部材21a,21bの離間距離、ひいてはブラケット15と摩擦材6との高さが変化し、その高さ変化に追従する形で皿バネ12の復元力が変化するとともに、それに伴って摺動材5の摺動面に対する摩擦材6の法線方向荷重も変化する。
連結材2aとブラケット15とが互いに近づく方向に相対移動している、図2であれば連結材2aが左方向に相対移動しているものとして説明すると、調整部材21aに対し調整部材21bが左方向に滑動するため,調整部材21a,21bの離間距離は徐々に大きくなり、それに伴ってブラケット15と摩擦材6との高さが大きくなるとともに、その高さ変化に追従する形で皿バネ12の復元力が増加し、摺動材5の摺動面に対する摩擦材6の法線方向荷重も増加する。
この間、すなわち調整部材21a,21bが相互に滑動している間は、摩擦材6が、摺動材5の摺動面を摺動しないように構成しておく。
具体的には、対向面31a,31bにおける上述の傾斜角度θを、
tanθ<(μ1−μ0)/(1+μ0μ1) (1)
μ1;摩擦材6が摺動材5の摺動面を摺動する際の摩擦係数
μ0;対向面31a,31bが互いに滑動する際の摩擦係数
を満たすθとすればよい。
すなわち、調整部材21bが上フランジ3から受ける力は、皿バネ12からの復元力をNとすると、図3(a)に示すようにμ1Nとなり、傾斜角度θに沿った分力、言い換えると、調整部材21bを調整部材21aに対して滑動させようとする力は、
μ1Ncosθ (2)
となる。
一方、調整部材21bが調整部材21aから受ける力、言い換えると調整部材21aに対する調整部材21bの滑動に抵抗しようとする力は、摩擦抵抗による寄与分と傾斜角度θに沿った力による復元力Nによる寄与分とからなり、摩擦抵抗による前者の寄与分は図3(b)、(c)に示すように、
μ0(Ncosθ+μ1Nsinθ) (3)
となり、傾斜角度θに沿った力による復元力Nによる寄与分は同図(b)に示すように、
Nsinθ (4)
となるので、調整部材21a,21bが滑動する前に摩擦材6が摺動材5の摺動面を摺動しないようにするためには、
(2)>(3)+(4) (4)
の条件を満たすことが必要となり、よって、
μ1Ncosθ>μ0(Ncosθ+μ1Nsinθ)+Nsinθ
これを整理すると、
sinθ/cosθ<(μ1−μ0)/(μ0μ1+1)
となって、(1)式を誘導することができる。
次に、連結材2aとブラケット15との間の相対移動が上述の滑動範囲を超えて、図2であれば連結材2aが左方向にさらに相対移動したとき、調整部材21a,21bは、図2で言えば左端に設けられた係止部32による係止作用によって相対変位が拘束されるため、調整部材21a,21bの離間距離は変化後の状態、上述の例では最大離間距離が維持されるとともに、皿バネ12の復元力は、上述の例だと最大となった状態で一定に維持される。
そして、摩擦材6は、摺動材5の摺動面を摺動して摩擦力を発生させるが、皿バネ12の復元力が最大になっているため、摺動面に対する摩擦材6の法線方向荷重、ひいては摩擦ダンパー1の減衰力も最大となる。
次に、交番荷重である地震動に応答する形で連結材2aとブラケット15との間の相対移動の方向が反転し、図2であれば連結材2aが右方向に相対移動を開始したとき、上述したように調整部材21a,21bの滑動が開始する前に摩擦材6と摺動材5との摺動が行われないように構成してあるので、調整部材21aに対し調整部材21bが右方向に滑動し、調整部材21a,21bの離間距離が徐々に小さくなるとともに、それに伴ってブラケット15と摩擦材6との高さが小さくなり、その高さ変化に追従する形で皿バネ12の復元力が減少するとともに、摺動材5の摺動面に対する摩擦材6の法線方向荷重も減少する。
次に、連結材2aとブラケット15との間の相対移動が上述の滑動範囲を超えて、図2であれば連結材2aが右方向にさらに相対移動したとき、調整部材21a,21bは、図2で言えば右端に設けられた係止部32による係止作用によって相対変位が拘束されるため、調整部材21a,21bの離間距離は変化後の状態、上述の例では最小離間距離が維持されるとともに、皿バネ12の復元力は、上述の例だと最小となった状態で一定に維持される。
そして、摩擦材6は、摺動材5の摺動面を摺動して摩擦力を発生させるが、皿バネ12の復元力が最小になっているため、摺動面に対する摩擦材6の法線方向荷重、ひいては摩擦ダンパー1の減衰力も最小となる。
上述した作用をさらに具体的に説明すると、図4(a)に示すように、橋梁41が地震力を受けてその上部工である橋桁42と橋台43との間に橋軸方向に沿った相対移動を生じたとき、その相対移動は、橋桁42から延設された摺動側部位としての連結材2aと橋台43から延設された摩擦側部位としてのブラケット15との間に伝達するが、相対移動が同図(a)に示すように橋桁42から橋台43に向かう方向であった場合、調整部材21a,21bに入力される相対変位は、調整部材21aの係止部32によって調整部材21bの滑動が制限されない範囲内のときには、摩擦材6と摺動材5との間で摩擦力が生じない状態で調整部材21bが左方向に滑動し、同図(b)に示すように係止部32による係止作用によって相対変位が拘束された後は、摩擦材6は同図(c)のように、皿バネ12の復元力が最大になった状態で摺動材5の摺動面を摺動する。
このとき、摩擦力は、最大の状態で橋台43に作用するが、圧縮荷重として橋台43に作用するため、地盤からの反力である受働土圧によって確実に支持され、橋台43やその背後に拡がる地盤の健全性を何ら懸念することなく、摩擦ダンパー1に最大の減衰力を発揮させることができる。
一方、相対移動が図5(a)に示すように橋台43が橋桁42から離間する方向であった場合、調整部材21a,21bに入力される相対変位は、調整部材21aの係止部32によって調整部材21bの滑動が制限されない範囲内のときには、摩擦材6と摺動材5との間で摩擦力が生じない状態で調整部材21bが右方向に滑動し、同図(b)に示すように係止部32による係止作用によって相対変位が拘束された後は、摩擦材6は同図(c)のように、皿バネ12の復元力が最小になった状態で摺動材5の摺動面を摺動する。
このとき、摩擦力は、引張荷重として橋台43に作用するが、最小の状態で橋台43に作用するため、地盤からの主働土圧が加わったとしても、橋台43及びその底面からの地盤反力によって確実に支持される。
以上説明したように、本実施形態に係る摩擦ダンパー1によれば、摺動側部位である連結材2aと摩擦側部位であるブラケット15との相対移動の方向に応じて摩擦力を変化させることが可能となり、制振デバイスとして建築構造物や土木構造物に適用したとき、連結材2aとブラケット15との相対移動の方向に応じて減衰力を自在に設定することが可能となり、かくして多様な制振制御あるいは制振設計を行うことができる。
また、本実施形態に係る摩擦ダンパー1によれば、離間距離調整機構20を、相対変位のうち、正方向の相対変位に対しては、調整部材21a,21bの離間距離を大きくすることで皿バネ12の復元力が増加するように構成するとともに、負方向の相対変位に対しては、調整部材21a,21bの離間距離を小さくすることで皿バネ12の復元力が減少するように構成したので、橋梁41の橋桁42と橋台43との間に設置する摩擦ダンパーに適用した場合、大きな摩擦力が圧縮荷重として橋台43に作用しても、該橋台の背後に拡がる地盤の受働土圧がこれを確実に支持するとともに、引張荷重として橋台43に作用する際には摩擦力が小さくなるため、橋台43背後に拡がる地盤から該橋台に作用する主働土圧と合わせても、橋台43底面からの地盤反力で確実に支持することが可能となり、全体としては、橋台43の大型化を必要とすることなく、十分な減衰性能を発揮させることが可能となる。
また、本実施形態に係る摩擦ダンパー1によれば、調整部材21a,21bを、それらの対向面31a,31bが相対変位の方向に対し、傾斜角度θで傾斜させることで該対向面が互いに滑動するように構成するとともに、調整部材21bが調整部材21aに係止されるように該調整部材に係止部32を設け、さらに傾斜角度θを、(1)式を満たすθとしたので、調整部材21a,21bが互いの対向面31a,31bで滑動する前に、摩擦材6が摺動材5の摺動面を摺動する事態を防止することができる。
本実施形態では特に言及しなかったが、負方向の相対変位に対して皿バネ12の復元力が実質的にゼロとなるように離間距離調整機構20を構成したならば、摩擦ダンパー1による引張荷重が橋台43には作用しなくなるため、上述した作用効果がさらに顕著に発揮される。
また、本実施形態では、フランジ3の両側に離間距離調整機構20をそれぞれ配置するようにしたが、これに代えて、いずれか一方のみ、例えば皿バネ12が配置された側だけに配置し、反対側については、離間距離調整機構20を省略するとともに摩擦材6をブラケット15を構成する平板15aの先端に直接取り付けるようにしてもよい。
また、本実施形態では、本発明の一対の調整部材を、調整部材21a,21bで構成したが、これに代えて、図6(a)に示すように調整部材51a,51bで構成してもよい。
調整部材51a,51bは、互いに対向配置され、調整部材51aの対向側に設けられた鋸状の対向面52aと調整部材51bの対向側に設けられた同じく鋸状の対向面52bとが、相対変位の方向に対して傾斜角度θ′に沿って互いに滑動することで互いの離間距離を変化させることができるように構成してあるとともに、調整部材51aの底面が係止されるように調整部材51bの先端側縁部には係止部53を、該調整部材の端面が係止されるように調整部材51bの反対側縁部には係止部54をそれぞれ設けてある。
また、調整部材51aは、その非対向側をブラケット15を構成する平板15aに固着してあるとともに、調整部材51bの非対向側には摩擦材6を取り付けてある。
かかる構成においても、連結材2aとブラケット15とが互いに近づく方向に相対移動したとき、図6(b)に示すように上述した滑動によって調整部材51a,51bの離間距離が大きくなるとともに、それに伴って皿バネ12の復元力が増加し、連結材2aとブラケット15とが互いに離間する方向に相対移動したとき、図6(c)に示すように上述した滑動によって調整部材51a,51bの離間距離が小さくなるとともに、それに伴って皿バネ12の復元力が減少する。
傾斜角度θ′は、傾斜角度θと同様、(1)式を満たすように適宜設定する。
以下、本変形例においても上述した実施形態と同様の作用効果を奏するが、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態及び上述の変形例では、相対変位の方向に対し傾斜角度θ、あるいは傾斜角度θ′で傾斜させることで一方の対向面が他方の対向面を滑動するように構成したが、本発明の調整部材は、正方向の相対変位に対して離間距離が大きくなり、負方向の相対変位に対して離間距離が小さくなれば足りるのであって、上述した構成に限定されるものではなく、例えば図7に示した調整部材61a,61bを採用することができる。
調整部材61a,61bは、互いに対向配置され、両端ピンのリンク材62で相互に連結することで、平行が保持されつつ、互いの離間距離を変化させることができるようになっているとともに、調整部材61bの頂部が調整部材61aの底面で、調整部材61bの先端側縁部が調整部材61aに突設された係止部64でそれぞれ係止されるようになっている。
また、調整部材61aは、その非対向側をブラケット15を構成する平板15aに固着してあるとともに、調整部材61bの非対向側には摩擦材6を取り付けてある。
かかる構成においても、連結材2aとブラケット15とが互いに近づく方向に相対移動したとき、リンク材62によるリンク機構によって図7(b)に示すように調整部材61a,61bの離間距離が大きくなるとともに、それに伴って皿バネ12の復元力が増加し、連結材2aとブラケット15とが互いに離間する方向に相対移動したとき、図7(c)に示すように上述したリンク機構によって調整部材61a,61bの離間距離が小さくなるとともに、それに伴って皿バネ12の復元力が減少する。
以下、本変形例においても上述した実施形態と同様の作用効果を奏するが、ここではその説明を省略する。
また、本実施形態では、正方向の相対変位に対しては調整部材21a,21bの離間距離を大きくすることで皿バネ12の復元力が増加するように、負方向の相対変位に対しては調整部材21a,21bの離間距離を小さくすることで皿バネ12の復元力が減少するようにそれぞれ構成してなる離間距離調整機構20を採用した。
しかし、本発明の離間距離調整機構は、かかる構成に限定されるものではなく、例えば上述の構成とは逆の構成を採用することが可能である。
すなわち、図8に示した摩擦ダンパー1′は、正方向の相対変位に対しては調整部材21a,21bの離間距離を小さくすることで皿バネ12の復元力が減少するように、負方向の相対変位に対しては調整部材21a,21bの離間距離を大きくすることで皿バネ12の復元力が増加するようにそれぞれ構成してある。なお、他の構成については、本実施形態の摩擦ダンパー1とほぼ同様であるので、ここではその説明を省略する。
かかる変形例においては、摺動側部位としての連結材2aと摩擦側部位としてのブラケット15とが互いに近づく方向に相対移動したとき、調整部材21aに対する調整部材21bの滑動によって調整部材21a,21bの離間距離、ひいてはブラケット15と摩擦材6との高さが徐々に小さくなって、その高さ変化に追従する形で皿バネ12の復元力が減少し、調整部材21a,21bの相対変位が拘束された後は、皿バネ12の復元力は最小の状態で維持されるため、かかる状態での摩擦ダンパー1′の減衰力は最小となる。
一方、交番荷重である地震動に応答する形で連結材2aとブラケット15との間の相対移動の方向が反転したとき、調整部材21aに対する調整部材21bの反対方向への滑動によって調整部材21a,21bの離間距離、ひいてはブラケット15と摩擦材6との高さが徐々に大きくなって、その高さ変化に追従する形で皿バネ12の復元力が増加し、調整部材21a,21bの相対変位が拘束された後は、皿バネ12の復元力は最大の状態で維持されるため、かかる状態での摩擦ダンパー1′の減衰力は最大となる。
上述した作用をさらに具体的に説明すると、図9(a)に示すように、ラーメン架構92及びその構面内に配置されたブレース91が地震力を受けてラーメン架構92の柱梁接合部93とブレース91の端部との間に該ブレースの橋軸方向に沿った相対移動を生じたとき、その相対移動は、ブレース91から延設された摺動側部位としての連結材2aと柱梁接合部93から延設された摩擦側部位としての連結部2b及びそれにボルト接合されたブラケット15との間に伝達するが、相対移動が同図(a)に示すようにブレース91が柱梁接合部93から離間する方向であった場合、上述したように皿バネ12の復元力が増加し、調整部材21a,21bの相対変位が拘束された後は、皿バネ12の復元力は最大の状態に維持される。
ここで、最大状態の摩擦力は、引張荷重としてブレース91に作用するため、該ブレースの引張耐力で確実に支持される。
一方、相対移動が図9(b)に示すようにブレース91が柱梁接合部93に接近する方向であった場合、上述したように皿バネ12の復元力が減少し、調整部材21a,21bの相対変位が拘束された後は、皿バネ12の復元力は最小の状態に維持される。
ここで、摩擦力は、圧縮荷重としてブレース91に作用するが、該摩擦力は最小状態であるため、座屈荷重は大幅に緩和される。
したがって、全体としては、ブレースの大断面化を必要とすることなく、十分な減衰性能を発揮させることが可能となる。なお、正方向の相対変位に対して皿バネ12の復元力が実質的にゼロとなるように離間距離調整機構20を構成したならば、摩擦ダンパー1′による圧縮荷重がブレース91には作用しなくなるため、上述した作用効果はさらに顕著となる。
また、本発明の離間距離調整機構は、そもそも調整部材の離間距離を相対変位の方向に応じて単調に増加させ、あるいは単調に減少させなければならないものでもなく、相対変位に対し、所定の範囲内においては一対の調整部材の離間距離を変化させることで弾性部材の復元力が変化するように構成し、範囲外においては離間距離の変化を拘束することで弾性部材の復元力を維持するように構成すれば足りるものであり、例えば相対変位がゼロ付近において調整部材の離間距離を最も大きくし、相対変位の絶対値が大きくなるにつれて、調整部材の離間距離を小さくする構成を採用することが可能である。
かかる構成によれば、相対速度が最も大きいタイミングで摩擦力が大きくなるため、減衰力をより効率よく発生させることができる。
また、本実施形態では、本発明の押圧機構を、荷重伝達ロッドとしての高力ボルト10と該高力ボルトに連結された弾性部材としての皿バネ12とで構成するとともに、該高力ボルトが共通に挿通される形で連結材2aと各平板15aとの間に離間距離調整機構20をそれぞれ配置したが、上述の押圧機構と離間距離調整機構20,20との組み合わせは一組に限定されるものではなく、図10に示すように、複数組からなる押圧機構及び離間距離調整機構20,20を摺動方向に沿ってブラケット15に設置するようにしてもかまわない。
また、本実施形態では、調整部材21aの先端側縁部と反対側縁部にそれぞれ係止部32を突設することで、調整部材21bがその先端側縁部と反対側縁部でそれぞれ係止されるように構成したが、本発明の係止部は、一方の調整部材が他方の調整部材に係止されるようになっていれば足りるものであり、上述の構成に代えて、図11に示す変形例を採用することができる。
すなわち、同図に示した調整部材101a,101bは、調整部材21a,21bと同様、それらの対向面31a,31bが該調整部材の相対変位の方向に対し傾斜角度θで傾斜するように構成してあるとともに、上述の相対変位に応答して対向面31bが対向面31aを滑動するように構成してあるが、本変形例では、ボルト挿通孔34を挟むようにしてかつ上述した相対変位の方向に延びるように長溝102,102を対向面31aに設けてあるとともに、対向面31bには、ボルト挿通孔33を挟むようにして丸穴104,104を設けてあり、該各丸穴に嵌め込んだピン103,103の先端を長溝102,102に挿入することで、ピン103,103及び長溝102,102が係止部として作用し、調整部材101aに対する調整部材101bの滑動を、長溝102の溝長さを限度とした範囲に制限するとともに、それによって調整部材101a,101bの離間距離の変化を拘束して、皿バネ12の復元力が維持されるようになっている。
なお、その他の構成や作用効果については上述した実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。