以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[非磁性ガーネット単結晶基板]
本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板の一構成例について以下に説明する。
本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板は、磁性ガーネット単結晶膜を液相エピタキシャル成長法(LPE法)により形成する際に用いられる、円板形状を有する非磁性ガーネット単結晶基板に関し、側面の表面粗さRaの平均値を1.0μm以上とすることができる。
既述のように、育成する磁性ガーネット単結晶膜に対応した格子定数を有し、転位密度や、残留する歪量が所定の範囲内にある非磁性ガーネット単結晶基板を用いた場合でも、育成した磁性ガーネット単結晶膜にピットが多く発生する場合があった。
非磁性ガーネット単結晶基板の格子定数と、育成する磁性ガーネット単結晶膜の格子定数とが大きく異なる場合は、格子の不整合(格子ミスマッチ)が生じ、その結果、ピットが発生し易くなる。また、非磁性ガーネット単結晶基板が、内部の歪み等により原子配列の乱れをもつ場合も、これが磁性ガーネット単結晶膜に引き継がれてピットの原因となる。
しかしながら、ピットが発生する要因は、非磁性ガーネット単結晶基板の結晶性ばかりではない。磁性ガーネット単結晶膜のエピタキシャル膜を育成(成膜)するにあたって、成膜に用いる原料融液に不純物が一定量以上含まれる場合もピットの原因となる。さらに、原料融液中の不純物だけではなく、非磁性ガーネット単結晶基板の表面に不純物が付着している場合においても、成膜時にこれらの不純物が原料融液に混入し、核となって磁性ガーネット膜にピットを発生させることになる。
ただし通常、磁性ガーネット単結晶膜のエピタキシャル膜を育成(成膜)するために高純度の非磁性ガーネット単結晶基板を使用し、加えて十分な洗浄によって非磁性ガーネット単結晶基板の表面からピットの核となりうる不純物を極力除去する努力がなされている。また、非磁性ガーネット単結晶基板の表面積の多くを占める主表面については鏡面研磨がなされており不純物が付着しにくい。このため、非磁性ガーネット単結晶基板からの不純物の混入については従来検討がなされていなかった。
これに対して、本発明の発明者らは、基板側面に強固に付着した不純物、特に主表面研磨工程で用いるコロイダルシリカを主成分とする研磨スラリー、すなわちコロイダルシリカに起因した残留シリコン不純物に着目した。そして、本発明の発明者らは、非磁性ガーネット単結晶基板の側面における表面粗さの測定、該基板側面の付着物観察、該基板上への磁性ガーネット単結晶膜の成膜、および得られた膜の評価を繰り返し実施した。
その結果、非磁性ガーネット単結晶基板の基板側面に付着しているシリコン不純物の量と、非磁性ガーネット単結晶基板の基板側面の表面粗さと、該基板を用いて成膜される磁性ガーネット単結晶膜のピットに起因する不良率とに一定の関係があることを見出した。そして、非磁性ガーネット単結晶基板の基板側面の表面粗さは、育成する磁性ガーネット単結晶膜のピットの発生を抑制し、磁性ガーネット単結晶膜の不良率を低減するために重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板について詳細に説明する。
ここでまず、図1を用いて、本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板の構造について説明する。図1(A)は、本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板10の斜視図を模式的に示したものである。本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板10は、図1(A)に示すように、円板形状を有している。そして、上面(表面)である第1の主表面11と下面である第2の主表面(裏面)12とを有している。また、非磁性ガーネット単結晶基板10は、第1の主表面11と、第2の主表面12との間に、側端面13を有している。
ここで、側端面13の形状について説明するため、図1(A)において、第1の主表面11、及び第2の主表面12と垂直で、かつ側端面13を通る面14における断面図、すなわち外周端部の断面図を図1(B)に示す。なお、図1(B)において、図1(A)と同じ面には同じ番号を付している。
図1(B)に示すように、側端面13は、第1の主表面11、及び第2の主表面12と略垂直な側面131を有している。また、側端面13は、第1の主表面11または第2の主表面12と、側面131との間に形成された面取り部132、133を有している。
なお、図1(B)においては、面取り部132、133の断面形状が直線形状の場合を示したが、係る形態に限定されるものではなく、円弧形状等の曲線形状であってもよい。
図1(A)、図1(B)に示した非磁性ガーネット単結晶基板は、例えば以下の手順により製造することができる。
まず、引上げ法等により形成されたブールを、円柱形状のインゴットに加工した後、ワイヤーソー等によりスライスすることで円板形状とすることができる(スライス工程)。
引上げ法等により育成するブールの組成は特に限定されるものではなく、非磁性ガーネット単結晶基板とした場合の主表面となる面について、育成する磁性ガーネット単結晶膜の格子定数に対応した格子定数を有する組成であることが好ましい。例えば、育成するブールは、組成式(Ca,Gd)3(Mg,Zr,Ga)5O12で表される、(Ca、Mg、Zr)置換型ガドリニウム・ガリウムガーネット(SGGG)単結晶のブールとすることができる。
育成したブール、またはブールを円柱形状に加工したインゴットはスライスを行う前にアニール処理に供し、ブール、またはインゴット内部の「熱歪」を除去しておくことが好ましい。アニール工程での熱処理温度は特に限定されないが、例えば1400℃以上1700℃以下で熱処理することが好ましい。
また、ワイヤーソーによってインゴットをスライスする面方位は特に限定されるものではなく、育成する磁性ガーネット単結晶膜の結晶方位に応じて選択することができる。例えば、{111}面を主表面とする円板形状になるようにスライスすることができる。
スライス直後は側端面部分は主表面部分と略垂直な1つの面で形成されていることから、面取り部132、133の形成、及び側端面表面を研磨するため、砥石を用いて側端面の研削加工を行う、いわゆるべベル加工を実施できる(べベル加工工程)。
このように、べベル加工を実施するのは、非磁性ガーネット単結晶基板を所望の直径に成形することに加えて、その後の工程おける該基板の欠けやワレを防止するために基板の面取りを行うことを目的としている。
ところで、後述するように、非磁性ガーネット単結晶基板の第1の主表面11、及び第2の主表面12をポリッシュ加工によって鏡面に仕上げる主表面研磨工程が実施できるが、この際研磨スラリーとして、コロイダルシリカが用いられる。コロイダルシリカを用いた主表面研磨の後、非磁性ガーネット単結晶基板の洗浄が行われるが、本発明の発明者らの検討によれば、わずかながら非磁性ガーネット単結晶基板にコロイダルシリカが残留することがある。
ただし、非磁性ガーネット単結晶基板の第1の主表面11、及び第2の主表面12については、主表面研磨工程で表面粗さRaが非常に小さくなるように、すなわち鏡面となるように研磨されているため、コロイダルシリカの残留は見られない。
これに対して、非磁性ガーネット単結晶基板の側面131部分については、第1の主表面11、第2の主表面12よりも表面粗さRaが大きいことが多く、その表面粗さRaによってはコロイダルシリカが付着し、残留し易くなっている。そして、係る側面131部分に付着したコロイダルシリカがコロイダルシリカの凝集体を形成し、一度乾燥してしまうと、付着したコロイダルシリカの凝集体を洗浄により除去することは容易ではない。
ところが、LPE法により非磁性ガーネット単結晶基板上に磁性ガーネット単結晶膜を成膜する際、側面に付着したコロイダルシリカが脱落すると、コロイダルシリカは磁性ガーネット単結晶膜を育成する際に用いる原料融液よりも比重が軽いため、原料融液表面に浮遊する。そして、非磁性ガーネット単結晶基板の表面に再付着し、それを核としてピットが形成されていることを本発明の発明者らは見出した。
そこで、本発明の発明者らは更なる検討を行った。そして、非磁性ガーネット単結晶基板の側面131の表面粗さRaの平均値を1.0μm以上の比較的ラフな面とすることで、該基板側面に微細な凹凸が形成されず、むしろ比較的大きな凹凸を形成することができる。このため、主表面研磨工程で用いたコロイダルシリカや、その凝集体が非磁性ガーネット単結晶基板の側面の凹凸の細部に入り込んで除去し難くなることを防ぐことができ、洗浄等の簡単な操作により容易に除去できることを見出した。
その結果、側面の表面粗さRaの平均値が1.0μm以上の非磁性ガーネット単結晶基板を用いて、磁性ガーネット単結晶膜を育成した場合、ピットの原因となる核の発生が低減されて、育成した磁性ガーネット単結晶膜について、ピットの形成が抑えられる。
このため、べベル加工工程においては、側面131について、表面粗さRaの平均値が1.0μm以上となるように研磨を行うことが好ましく、1.5μm以上となるように研磨を行うことがより好ましい。
なお、側面131の表面粗さRaの平均値とは、側面131のうち、任意の2以上の点で表面粗さRaを測定した場合の、測定値の平均値を意味している。平均値を算出するための測定点の数は多い方が好ましく、例えば2点以上であることが好ましく、3点以上であることがより好ましい。ただし、生産性等の観点から、6点以下であることが好ましく、5点以下であることが好ましい。
非磁性ガーネット単結晶基板の側面131の表面粗さRaの平均値を算出する際、上述の様に側面の複数の箇所で表面粗さRaを測定することとなるが、測定点の配置は特に限定されるものではない。
ただし、非磁性ガーネット単結晶基板の側面について、測定点が偏らないように、測定点間の距離は等しいことが好ましい。既述のように、非磁性ガーネット単結晶基板は円板形状を有することができることから、一の測定点と、非磁性ガーネット単結晶基板の中心と、係る一の測定点と隣接する測定点とで形成する角度が、360度を測定点の数で除した値であることが好ましい。
なお、面取り部132、133については、その表面積が非常に小さいため、コロイダルシリカの付着はほとんど生じない。このため、その表面粗さRaは特に限定されるものではない。
ただし、べベル加工工程は、円柱形状の砥石の側面の周面に沿って形成され、形成する側端面に対応した断面形状を有する溝内に、非磁性ガーネット単結晶基板の側端面を含む外周端部を挿入し、砥石及び非磁性ガーネット単結晶基板を回転させることで実施できる。この際、係る砥石により、非磁性ガーネット単結晶基板の外周端部について、面取りと、側端面表面全体、すなわち側面131、及び面取り部132、133の表面の研磨とを行うことになる。
このため、側面131、及び面取り部132、133は同じ砥石により表面を研磨されており、面取り部132、133についても表面粗さRaの平均値は側面131の表面粗さRaの平均値と同様にすることができる。
具体的には例えば面取り部132、133の表面粗さRaの平均値は、1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましい。さらには、側面131、及び面取り部132、133を含む側端面13の表面粗さRaの平均値は1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましい。
なお、表面粗さRaは、JIS B 0601(2013)に算術平均粗さとして規定されており、例えば触針法等により評価することができる。
べベル加工工程終了後、第1の主表面、及び第2の主表面を研磨することにより、第1の主表面、及び第2の主表面を所望の表面粗さを有する面、例えば鏡面とすることができる(主表面研磨工程)。
なお、第1の主表面、及び第2の主表面の表面粗さRaは特に限定されるものではなく、LPE法により磁性ガーネット単結晶膜を育成する際に要求される表面粗さRaとなるように選択することができる。第1の主表面、及び第2の主表面の表面粗さRaは例えば0.3nm以下であることが好ましく、0.2nm以下であることがより好ましい。
主表面研磨工程終了後、非磁性ガーネット単結晶基板に付着した、例えば主表面研磨工程で用いたコロイダルシリカ等の研磨砥粒や、研磨くず等を除去するため、非磁性ガーネット単結晶基板の洗浄を実施することができる(洗浄工程)。
洗浄工程の具体的な方法は特に限定されるものではないが、液体を用いて、非磁性ガーネット単結晶基板の表面を洗浄することが好ましい。この際に用いる液体としては、純水や市水などの水の他、洗浄効果を上げるために洗浄剤を用いることもできる。
非磁性ガーネット単結晶基板を洗浄する際に用いる洗浄剤を含む水溶液としては、アルカリ性の水溶液や、酸性の水溶液、またはこれらの混合溶液を用いることができる。アルカリ性の水溶液としては、例えばNaOH水溶液やKOH水溶液、アンモニア水等を主成分とする水溶液が挙げられる。また、酸性の水溶液としては、塩酸、硫酸、リン酸、フッ酸、フッ化アンモニウム、過酸化水素水等の水溶液が挙げられる。
ただし、フッ酸、塩酸、硫酸、リン酸やフッ化アンモニウム等は非磁性ガーネット単結晶基板を溶解する作用がある。このため、非磁性ガーネット単結晶基板表面や側面に付着したコロイダルシリカを主成分とする研磨スラリーを除去する作用もあるが、該基板の表面をエッチングして鏡面で無くなる恐れもあり、コストのみならずその管理も要する。従って、扱いの容易な水または低濃度のアルカリ性の水溶液を用いて簡便に洗浄を行うことが望ましい。
また、洗浄の際には併せて超音波洗浄機やブラシなどの物理的作用を用いることが好ましい。
なお、非磁性ガーネット単結晶基板の製造方法においては、上述の工程に限定されるものではなく、必要に応じて任意の工程を付加することもできる。
例えばべベル加工工程の後、主表面の鏡面研磨工程(主表面研磨工程)を実施する前に、熱処理工程を実施することもできる。
非磁性ガーネット単結晶基板の表面にLPE法により磁性ガーネット単結晶膜を育成する場合や、育成後の後処理工程等において、非磁性ガーネット単結晶基板内に温度勾配を生じる場合がある。そして、非磁性ガーネット単結晶基板内に生じた温度勾配が大きい場合、非磁性ガーネット単結晶基板の側端面に形成された微細な疵を起点として該基板に割れを生じる恐れがある。
このように非磁性ガーネット単結晶基板内に温度勾配が生じた場合でも、該基板への割れの発生を抑制するため、側端面表面について熱処理を行い、微細な疵の低減を図ることが好ましい。熱処理の温度については特に限定されるものではないが、非磁性ガーネット単結晶基板の形状が変化することを抑制するため、熱処理温度は非磁性ガーネット単結晶の融点未満であることが好ましい。
ただし、例えば側端面表面が一部融解や、軟化し、微細な疵を低減できる程度に熱処理を行うことが好ましい。
また、熱処理工程後、主表面研磨工程を行った際に、非磁性ガーネット単結晶基板の側面からコロイダルシリカを容易に除去できるように、熱処理後の非磁性ガーネット単結晶基板の側面の表面粗さRaの平均値についても1.0μm以上であることが好ましい。このため、熱処理後の非磁性ガーネット単結晶基板の側面の表面粗さRaの平均値が1.0μm以上となるように、熱処理条件を選択することが好ましい。また、熱処理工程を行う場合には、熱処理による非磁性ガーネット単結晶基板の側面の表面粗さRaの平均値の変化を考慮し、べベル加工工程を行うことが好ましい。
ここまで説明したように、既述のべベル加工工程により、側面131を表面粗さRaの平均値が1.0μm以上となるように研磨している。また、熱処理工程を実施した場合であっても側面の表面粗さRaの平均値は1.0μm以上としている。このため、本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板の側面131の表面粗さRaの平均値は1.0μm以上とすることができる。特に本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板の側面131の表面粗さRaの平均値は1.5μm以上であることがより好ましい。
なお、既述のように面取り部132、133の表面粗さRaの平均値も、1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましい。さらには、側面131、及び面取り部132、133を含む側端面13の表面粗さRaの平均値は1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましい。
本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板は、側面131の表面粗さRaの平均値を1.0μm以上とすることにより、基板側面に微細な凹凸が形成されず、むしろ比較的大きな凹凸を形成することとなる。このため、主表面研磨工程の後、基板を洗浄する際に、主表面研磨工程で用いたコロイダルシリカや、その凝集体が非磁性ガーネット単結晶基板の側面の凹凸の細部に入り込んで除去し難くなることを防ぐことができ、洗浄により容易に除去できるようになる。
従って、本実施形態の非磁性ガーネット単結晶基板は、側面131に付着したコロイダルシリカを低減することができ、該基板を用いて、該基板上に育成される磁性ガーネット単結晶膜について、ピットの発生を抑制できる。
[磁性ガーネット単結晶膜]
次に本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜の一構成例について以下に説明する。
本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜は、既述の非磁性ガーネット単結晶基板上に形成された磁性ガーネット単結晶膜とすることができる。
本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜は、既述の非磁性ガーネット単結晶基板を用いて、例えばLPE法により形成することができ、該非磁性ガーネット単結晶基板の一方の主表面上に形成することができる。従って、本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜は、非磁性ガーネット単結晶基板と、本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜との積層体として得ることができる。
本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜は、既述の非磁性ガーネット単結晶基板上に形成されることで、ピットの発生を抑制し、ピットに起因する不良の少ない磁性ガーネット単結晶膜とすることができる。
本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜の特性については、特に限定されるものではない。ただし、例えば、得られた磁性ガーネット単結晶膜を縦7mm×横7mmの複数の試験体に分割した場合に、該複数の試験体中の、核部分の直径が100μm以上のピットが5個よりも多く含む試験体の割合である不良率が5%以下であることが好ましい。
得られた磁性ガーネット単結晶膜は用途に応じたサイズにダイシングして、さらに各種用途のための加工工程に供される。このため、ここでダイシングにより所定のサイズの複数の試験体に分割した場合に、複数の試験体中の不良と評価された試験体の割合が十分に低い場合、ピットに起因する不良率を十分に低減できているといえる。
なお、不良と評価された試験体とは上述の様に、試験体内に含まれる核部分の直径が100μm以上のピットが5個より多い試験体を意味する。
本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜の組成については特に限定されるものではないが、例えば一般式(Yb、Tb、Bi)3Fe5O12で表されるビスマス置換型磁性ガーネット単結晶膜であることが好ましい。
これは、一般式(Yb、Tb、Bi)3Fe5O12で表されるビスマス置換型磁性ガーネット単結晶膜の場合、挿入損失を低くすることができ、ファラデー回転子の材料として好適に用いることができるからである。
本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜の製造方法は特に限定されるものではなく、非磁性ガーネット単結晶基板を下地基板として用い、LPE法により成膜することができる。
例えば以下の手順により、本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜を製造することができる。
まず育成する磁性ガーネット単結晶膜の組成に対応した原料粉末を秤量し、坩堝に投入する(原料準備工程)。この際用いる坩堝の材料は特に限定されるものではなく、磁性ガーネット単結晶膜を育成するため、原料融液を形成する際の温度に対して耐熱性を有し、同時に原料融液との反応性が低い材料を好ましく用いることができる。例えば白金製やイリジウム製の坩堝を好ましく用いることができる。
また、原料粉末の組成についても特に限定されるものではなく、育成する磁性ガーネット単結晶膜の組成にあわせて任意に選択することができる。
例えば、一般式(Yb、Tb、Bi)3Fe5O12で示される磁性ガーネット単結晶膜を育成する場合、原料粉末は、育成する磁性ガーネット単結晶膜の組成にあわせて、Yb2O3、Tb2O3、Bi2O3、Fe2O3を含むことができる。また、その他にフラックス成分として、PbO、B2O3等を含むこともできる。
次いで、原料粉末を入れた坩堝を炉内に設置し、加熱することで原料融液を形成することができる(原料融液形成工程)。
原料粉末を加熱し、原料融液を形成する際の雰囲気は特に限定されるものではなく、例えば窒素雰囲気とすることができる。また、加熱温度は特に限定されるものではないが、原料粉末を溶融できるように、原料粉末の融点以上にまで加熱することが好ましい。
原料融液形成後、下地基板を回転させながら、下地基板を原料融液に浸漬することで、下地基板の一方の面上に磁性ガーネット単結晶膜を成膜することができる(磁性ガーネット単結晶膜成膜工程)。なお、下地基板を回転させるのは、原料融液を撹拌し、組成を均一にするためであるため、原料融液に下地基板を浸漬してから、下地基板を回転させてもよい。
下地基板としては既述の非磁性ガーネット単結晶基板を用いることができる。この際、用いる非磁性ガーネット単結晶基板の組成は特に限定されるものではないが、育成する磁性ガーネット単結晶膜の格子定数に対応した格子定数を有する非磁性ガーネット単結晶基板を用いることが好ましい。
下地基板の回転数や、磁性ガーネット単結晶膜の成膜時間については特に限定されるものではなく、要求される磁性ガーネット単結晶膜の厚さ等に応じて任意に選択することができる。
なお、原料融液に下地基板を浸漬する前に、原料融液の温度を磁性ガーネット単結晶膜を育成するのに適した温度、具体的には例えば原料融液が過飽和状態となる温度まで、原料融液を冷却しておくことが好ましい。
また、原料融液に下地基板を浸漬した後は、原料融液の温度を徐々に低下させ、下地基板上に磁性ガーネット単結晶膜を育成できる。この際の降温速度は特に限定されるものではないが、例えば0.1℃以上3℃以下であることが好ましく、0.2℃以上1℃以下であることが好ましい。
磁性ガーネット単結晶膜について、所望の膜厚となるように育成した後は、原料融液から下地基板、及び育成した磁性ガーネット単結晶膜を切り離し、室温、または室温近傍まで冷却することができる(冷却工程)。
冷却後は炉内から得られた非磁性ガーネット単結晶基板、及び磁性ガーネット単結晶膜を取り出し、各種用途のために加工等を行うことができる。
以上に説明した本実施形態の磁性ガーネット単結晶膜によれば、既述の非磁性ガーネット単結晶基板を下地基板として用いているため、ピットの少ない高品質な磁性ガーネット単結晶膜とすることができる。
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(非磁性ガーネット単結晶基板の作製)
非磁性ガーネット単結晶のブールとして、組成式(Ca,Gd)3(Mg,Zr,Ga)5O12で表される(Ca、Mg、Zr)置換型ガドリニウム・ガリウムガーネット(SGGG)単結晶のブールをチョクラルスキー法によって育成した。
具体的には、以下の条件、手順により実施した。原料として、純度99.99%以上のGd2O3、Ga2O3、ZrO2、MgO、および、CaCO3を用い、単結晶育成炉内に設置した坩堝に投入した。そして、原料を融解して原料融液を形成した。
原料融液形成後、原料融液表面に種結晶を接触させるシーディングを実施し、その後、種結晶を回転させながら徐々に引き上げることで、(Ca、Mg、Zr)置換型ガドリニウム・ガリウムガーネット(SGGG)単結晶を育成した。なお、単結晶の育成は、「ファセット成長」に伴う歪の発生を抑制するため、結晶の回転数を制御する界面反転操作を行いながら実施した。
単結晶の育成終了後は、原料融液から育成した単結晶を切り離す液切りをした後、室温近傍まで冷却し、単結晶育成炉内から、育成した単結晶を取出した(単結晶育成工程)。
得られた非磁性ガーネット単結晶のブールについては、アニール後、結晶の上下部を切断・除去した後、端面部及び側面部を研削し、円柱形状の非磁性ガーネット単結晶のインゴットとした(アニール工程)。
次いで、ワイヤーソーを用いて、{111}面を主表面とする円板形状の基板にスライスした(スライス工程)。
そして、円柱形状を有し、側面の周面に沿って、形成する側端面の形状に対応した断面形状を有する溝が形成された#320砥石の溝に、得られた円板形状の基板の外周端部を挿入し、砥石及び基板を回転させて、基板の側端面の研削加工を行った(べベル加工工程)。なお、この際、砥石の側面の周面に沿って形成された溝部の底部と、非磁性ガーネット単結晶基板の側端面とが対向するようにして、非磁性ガーネット単結晶基板の溝に、非磁性ガーネット単結晶基板の側端面を含む外周端部を挿入している。
べベル加工工程により、外周端部の断面形状が図1(B)に示した断面形状となるように、面取り部132、133を形成した。また、この際、側面131、及び面取り部132、133の表面の研磨もあわせて行っている。
べベル加工工程終了後、得られた非磁性ガーネット単結晶基板の側面の表面粗さRaを触針式の表面粗さ計により、円周上90度毎に計4か所で測定し、平均値を算出したところ、得られた非磁性ガーネット単結晶基板の側面の表面粗さRaの平均値は、1.1μmであった。
次に、該基板の第1の主表面11、及び第2の主表面12の両面を両面研磨装置を用いて鏡面研磨した(主表面研磨工程)。なお、この際、研磨スラリーとしてコロイダルシリカを用いた。また、主表面研磨工程後、第1の主表面、及び第2の主表面の表面粗さRaは0.2nmであった。
鏡面研磨工程後、40℃の純水にて20分間、超音波洗浄を行った(洗浄工程)。
以上の工程により、直径3インチ(76.2mm)、厚さ500μmの非磁性ガーネット単結晶基板(SGGG単結晶基板)を得た。
(磁性ガーネット単結晶膜の育成)
本実施例で得られた非磁性ガーネット単結晶基板(以下、「SGGG単結晶基板」と記載する)を用いて、以下の手順で、LPE法により磁性ガーネット単結晶膜であるビスマス置換型RIG単結晶膜を育成した。
まず、白金製の坩堝に、酸化鉛2300g、酸化硼素140g、酸化ビスマス3100g、酸化鉄460g、酸化テルビウム56.6g、および、酸化イッテルビウム4.4gを投入し、原料が投入された坩堝を縦型管状炉内に設置した(原料準備工程)。
そして、縦型管状炉内を窒素雰囲気下、950℃まで加熱し、十分に撹拌しかつ均一に混合した。これにより、一般式(Yb、Tb、Bi)3Fe5O12で表されるYbTbBiFe系磁性ガーネット膜のエピタキシャル膜を育成(成膜)するための原料融液を得た(原料融液形成工程)。
この原料融液にSGGG単結晶基板が完全に浸漬するように配置し、同時にSGGG単結晶基板を回転させた。そして、この状態にて原料融液の温度を1時間当たり0.6℃の割合で降下させ、20時間エピタキシャル成長を行った。その結果、厚さ530μmの一般式(Yb、Tb、Bi)3Fe5O12で表されるYbTbBiFe系磁性ガーネット単結晶膜を育成した(磁性ガーネット単結晶膜成膜工程)。
磁性ガーネット単結晶膜成膜工程終了後は、原料融液から、下地基板である非磁性ガーネット単結晶基板、及び育成した磁性ガーネット単結晶膜を切り離し、室温近傍まで冷却した。
得られたYbTbBiFe系磁性ガーネット単結晶膜を一つの試験体が、縦7mm×横7mmとなるようにダイシングして複数の試験体を形成し、各試験体について実体顕微鏡(40〜50倍)を用いてピットの観察を行った。
なお、ピットにおける核部分の直径が100μm以上であるピットの個数が5個以内のチップを良品とした。作製した複数の試験体中の不良と判断された試験体、すなわち良品と判断されなかった試験体の割合を不良率として算出した。
結果を表1に示す。また、表1に示した表面粗さの平均値と、不良率との関係のグラフを図2に示す。
[比較例1]
べベル加工工程において、#800砥石を用いた点以外は、実施例1と同様にして非磁性ガーネット単結晶基板を作製した。
なお、スライス工程に供した非磁性ガーネット単結晶インゴットとしては、実施例1でアニール工程まで行ったものと同じ非磁性ガーネット単結晶のインゴットを用いている。このため、非磁性ガーネット単結晶基板の格子定数や、非磁性ガーネット単結晶基板内の転位密度及び残留歪量は実施例1の場合と同様になっている。
べベル加工工程後、該基板側面の表面粗さRaを円周上90度毎に計4か所測定し、平均値を算出したところ、表面粗さRaの平均値は0.38μmであった。
また、得られた非磁性ガーネット単結晶基板を用いて、実施例1の場合と同様にして磁性ガーネット単結晶膜を育成した。
育成した磁性ガーネット単結晶膜について、実施例1の場合と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。また、表1に示した表面粗さの平均値と、不良率との関係のグラフを図2に示す。
[参考例2、実施例3〜7、比較例2〜6]
べベル加工工程において用いた砥石の番手が異なる点以外は、実施例1と同様にして非磁性ガーネット単結晶基板を作製した。
なお、スライス工程に供した非磁性ガーネット単結晶インゴットとしては、実施例1でアニール工程まで行ったものと同じ非磁性ガーネット単結晶のインゴットを用いている。このため、非磁性ガーネット単結晶基板の格子定数や、非磁性ガーネット単結晶基板内の転位密度及び残留歪量は実施例1の場合と同様になっている。
得られた非磁性ガーネット単結晶基板について、実施例1と同様にして、基板側面の表面粗さRaを測定し、平均値を算出した。
また、得られた非磁性ガーネット単結晶基板を用いて、実施例1の場合と同様にして磁性ガーネット単結晶膜を育成した。
育成した磁性ガーネット単結晶膜について、実施例1の場合と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。また、表1に示した表面粗さの平均値と、不良率との関係のグラフを図2に示す。
表1に示した結果をグラフ化した図2によると、非磁性ガーネット単結晶基板の側面の表面粗さRaの平均値と、該非磁性ガーネット単結晶基板上に形成した磁性ガーネット単結晶膜の不良率とは相関があることが分かる。そして、非磁性ガーネット単結晶基板の側面の表面粗さRaの平均値が1.0μm以上になると、1.0μm未満の場合と比較して、不良率が大幅に低下しており、5%以下になることが確認できた。